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明細書 :無線通信伝送方法および無線端末装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-110533 (P2019-110533A)
公開日 令和元年7月4日(2019.7.4)
発明の名称または考案の名称 無線通信伝送方法および無線端末装置
国際特許分類 H04W  16/28        (2009.01)
H04W  84/18        (2009.01)
H04B   7/08        (2006.01)
H04B   7/026       (2017.01)
H04B   7/0456      (2017.01)
H04B   7/06        (2006.01)
H04W  12/02        (2009.01)
FI H04W 16/28
H04W 84/18
H04B 7/08 422
H04B 7/026
H04B 7/0456 110
H04B 7/08 620
H04B 7/06 152
H04B 7/06 956
H04W 12/02
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2018-233953 (P2018-233953)
出願日 平成30年12月14日(2018.12.14)
新規性喪失の例外の表示 新規性喪失の例外適用申請有り
優先権出願番号 2017240387
優先日 平成29年12月15日(2017.12.15)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】田久 修
【氏名】野口 哲也
【氏名】高橋 新
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
審査請求 未請求
テーマコード 5K067
Fターム 5K067AA35
5K067EE02
5K067EE25
5K067KK03
要約 【課題】複数の無線端末を有した無線アドホックネットワークにおいて、従来のPLNC技術では、一つの無線端末から中継局を通して他の複数の無線端末に安全に情報を伝送する解が得られない。
【解決手段】N(>1)個の無線端末と、複数のアンテナエレメントに供給される送信信号を重み付け加算することにより任意の無線端末を選択する最小限の自由度を持つ中継アンテナを有する中継局とを含むアドホックネットワークにおける無線通信伝送方法であって、さらにN+1番目の無線端末を有し、前記N+1番目の無線端末は前記中継局に対しマルチキャスト信号又は人工雑音を送信するステップを含むことを特徴とする。ミラーリングヌルステアリング方式、MIMOスイッチング方式、いずれのアドホックネットワークにも適用することができる。
【選択図】図6
特許請求の範囲 【請求項1】
N(>1)個の無線端末を含み、複数のアンテナエレメントに供給される送信信号を重み付け加算することにより任意の無線端末を選択する最小限の自由度を持つ中継アンテナを有する中継局を含むアドホックネットワークにおいて実行される無線通信伝送方法であって、
さらにN+1番目の無線端末を有し、前記N+1番目の無線端末においては、前記中継局に対しマルチキャスト信号又は人工雑音を送信するステップを含むことを特徴とする、無線通信伝送方法。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信伝送方法であって、前記中継局において、
前記各アンテナエレメントが受信した信号を重み付け加算して送信信号として前記各アンテナエレメントに供給するステップと、
前記N+1番目の無線端末が送信する信号を受信するN個の無線端末に対してミラーリングヌルステアリングするように前記重み付けを設計するステップと、
前記中継アンテナを介して前記送信信号をマルチキャストするステップと、
を含む無線通信伝送方法。
【請求項3】
前記N個の無線端末において、ジャミングを送信するステップを含むことを特徴とする請求項2記載の無線通信伝送方法。
【請求項4】
N=2であることを特徴とする請求項2記載の無線通信伝送方法。
【請求項5】
前記中継局において、前記中継アンテナの各アンテナエレメントで受信された信号を交換し前記重み付け加算を実行するステップと、
前記任意の無線端末に対してヌルステアリングするように前記重み付けを設計するステップと、
をさらに含む請求項4記載の無線通信伝送方法。
【請求項6】
請求項1に記載の無線通信伝送方法であって、しかも、前記中継アンテナはN個のアンテナエレメントより成るMIMOアンテナであり、前記中継局はプレコーダー行列に基づいて前記無線端末を中継するアドホックネットワークにおいて実行される無線通信伝送方法であって、
前記N個の無線端末が前記中継局に情報を送信するステップと、
前記N+1番目の無線端末が前記中継局に人工雑音を送信するステップと、
前記中継局が前記N個の無線端末から送信された情報を送信元の各無線端末へ返送するように第1のプレコードを実行するステップと、
前記中継局が前記N個の無線端末から送信された情報を任意の無線端末に中継するように第2のプレコードを実施するステップと、
前記N個の無線端末の各々が、前記第1のプレコードを実施するステップにより返送された情報受信し、前記人工雑音を分離するステップと、
前記N個の無線端末の各々において実行され、前記第2のプレコードを実施するステップにより中継された情報を受信し、前ステップで分離された人工雑音を用いて、前記中継された情報から人工雑音成分を除去するステップを含む、無線通信伝送方法。
【請求項7】
前記N+1番目の無線端末において実行され、スペクトラム拡散処理により、前記中継情報の中から人工雑音成分を成長的に検出するステップを含む、請求項1に記載の無線通信伝送方法。
【請求項8】
N(>1)個の無線端末を含み、複数のアンテナエレメントに供給される送信信号を重み付け加算することにより任意の無線端末を選択する最小限の自由度を持つ中継アンテナを有する中継局を含むアドホックネットワークにおいて、N+1番目の無線端末として用いられるときに人工雑音を送信する人工雑音送信部を含むことを特徴とする、無線端末装置。
【請求項9】
スペクトラム拡散処理により、前記中継局から受信した情報の中から人工雑音成分を成長的に検出する人工雑音成分検出部を有する、請求項9に記載の無線端末装置。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は無線アドホックネットワークにおいて安全な情報共有を行うことができ、マルチアンテナシステムにおける安全な情報共有と改ざん対策が可能な、無線通信伝送方法および無線端末装置に関する。
【背景技術】
【0002】
任意の無線端末装置を中継局として利用してネットワークを確立する、いわゆる無線アドホックネットワーク技術がかねてより検討されてきている。特に物理層ネットワークコーディング(PLNC)を用いた通信伝送方法は中継器に対する秘匿性がありしかもスループット(NC利得)を高めることができるという特徴があり、近年注目されている。
【0003】
たとえば、ある無線端末と他の無線端末が中継局を経由して相互に情報を送信する場合、通常の転送動作では中継局は2回の送受信が必要となり、計4つのタイムスロットが必要となる。しかしPLNCを用いた場合、中継局は双方の無線端末から受信した情報を加算合成した信号をマルチキャストするため、タイムスロットを1つ減らすことができる(特許文献1、特許文献2)。各無線端末はこの加算合成した信号から自らが送信した情報を差し引くことで相手が送った情報を分離、解読することができる。すなわち自らが送信した情報を解読キーとして用いることで情報秘匿性を高めることができる(非特許文献1)。
【0004】
またMIMO伝送技術において、受信アンテナ数が1の場合でも送信ダイバーシチによりダイバーシチ効果が得られて受信側で送信ストリームを分離抽出できる、時空間符号(STBC)技術が既に開発されている(非特許文献2)。
【0005】
さらに、プレコーダー行列に応じてアンテナエレメント数と同数の無線端末の各々を中継するいわゆるMIMOスイッチング伝送技術が提案されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2012- 12007号公報
【特許文献2】特開2011-250014号公報
【0007】

【非特許文献1】山口他“低信頼中継局を利用した物理層ネットワークコーディングにおける物理層セキュリティ評価,”信学技報,RCS2013-39,June,2013.
【非特許文献2】S.M.Alamouti,”A simple transmit diversity technique for wireless communications”, IEEE Journal on Selected Areas in Communications, vol.16, no.8, pp.1451-1458, Oct 1998.
【非特許文献3】F.Wang,S.Liew,D.Guo,”Wireless MIMO Switching with Zero Forcing and Network Coding”,IEEE Journal on Selected Areas in Communications 30(8):1452-1463,September 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、無線アドホックネットワークにおいて、一つの無線端末が情報源で他の複数の無線端末が受信源である場合、特許文献1、2および非特許文献1、2のPLNC技術では中継局を通して各無線端末に安全に情報を伝送する解が得られないといった課題があった。また非特許文献3のMIMOスイッチング中継においては、各無線端末の情報がすべてそのまま中継局に送られるため、情報漏洩のリスクがあった。
【0009】
本開示の一態様の目的は、上記課題に鑑み、マルチキャストを用いた場合であっても、MIMOスイッチングによる中継を実施する場合においても、安全に秘密情報を伝送できる無線通信伝送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係る無線通信伝送方法は、N(>1)個の無線端末を含み、複数のアンテナエレメントに供給される送信信号を重み付け加算することにより任意の無線端末を選択する最小限の自由度を持つ中継アンテナを有する中継局を含むアドホックネットワークにおいて実行される無線通信伝送方法であって、さらにN+1番目の無線端末を有し、前記N+1番目の無線端末においては、前記中継局に対しマルチキャスト信号又は人工雑音を送信するステップを含む。
【0011】
前記中継局において、前記各アンテナエレメントが受信した信号を重み付け加算して送信信号として前記各アンテナエレメントに供給するステップと、前記N+1番目の無線端末が送信する信号を受信するN個の無線端末に対してミラーリングヌルステアリングするように前記重み付けを設計するステップと、前記中継アンテナを介して前記送信信号をマルチキャストするステップと、を含んでもよい。
【0012】
前記N個の無線端末において、ジャミングを送信するステップを含んでもよい。
【0013】
N=2であってもよい。
【0014】
前記中継局において、前記中継アンテナの各アンテナエレメントで受信された信号を交換し前記重み付け加算を実行するステップと、前記任意の無線端末に対してヌルステアリングするように前記重み付けを設計するステップと、をさらに含んでもよい。
【0015】
前記中継アンテナはN個のアンテナエレメントより成るMIMOアンテナであり、前記中継局はプレコーダー行列に基づいて前記無線端末を中継するアドホックネットワークにおいて実行される無線通信伝送方法であって、前記N個の無線端末が前記中継局に情報を送信するステップと、前記N+1番目の無線端末が前記中継局に人工雑音を送信するステップと、前記中継局が前記N個の無線端末から送信された情報を送信元の各無線端末へ返送するように第1のプレコードを実行するステップと、前記中継局が前記N個の無線端末から送信された情報を任意の無線端末に中継するように第2のプレコードを実施するステップと、前記N個の無線端末の各々が、前記第1のプレコードを実施するステップにより返送された情報受信し、前記人工雑音を分離するステップと、前記N個の無線端末の各々において実行され、前記第2のプレコードを実施するステップにより中継された情報を受信し、前ステップで分離された人工雑音を用いて、前記中継された情報から人工雑音成分を除去するステップを含んでもよい。
【0016】
前記N+1番目の無線端末において実行され、スペクトラム拡散処理により、前記中継情報の中から人工雑音成分を成長的に検出するステップを含んでもよい。
【0017】
本開示の一態様に係る無線端末装置は、N(>1)個の無線端末を含み、複数のアンテナエレメントに供給される送信信号を重み付け加算することにより任意の無線端末を選択する最小限の自由度を持つ中継アンテナを有する中継局を含むアドホックネットワークにおいて、さらにN+1番目の無線端末として用いられるときに人工雑音を送信する人工雑音送信部を含む。
【0018】
前記無線端末装置は、スペクトラム拡散処理により、前記中継局から受信した情報の中から人工雑音成分を成長的に検出する人工雑音成分検出部を有してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本開示の一態様によれば、無線伝送系の伝達関数の対称性によるミラー効果を利用して、例えば2本の中継アンテナによって2個のヌルステアリングを設けることができ、無線アドホックネットワークにおいて、高いスループットと中継局に対する高い秘匿性を確保しながら、複数の無線端末間で情報の共有が可能な無線通信伝送方法を実現することができる。さらに前記中継アンテナの各アンテナエレメントで受信された信号を交換して対称性を崩す処理が加わることにより、無線アドホックネットワークに参加しているすべての無線端末が他の端末の発信する情報を分離抽出することができる。
【0020】
また、本開示の別の態様によれば、N個の無線端末が参加するMIMOスイッチング伝送において、中継局に各無線端末からの情報を解読されることなく、プレコーダーに応じて任意の無線端末間の情報伝送を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本開示の第1の実施の形態に係る無線通信伝送方法をモデル化したシステム図
【図2】本開示の第1の実施の形態に係る無線通信伝送方法のフローチャート
【図3】本開示の第1の実施の形態に係る効果を示す概念図
【図4】本開示の第2の実施の形態に係る無線通信伝送方法をモデル化したシステム図
【図5】本開示の第2の実施の形態に係る無線通信伝送方法のフローチャート
【図6】本開示の第3の実施の形態に係る無線通信伝送方法をモデル化したシステム図
【図7】本開示の第3の実施の形態に係る無線通信伝送方法のフローチャート
【図8】本開示の実施例1のシミュレーション結果を示すグラフ
【図9】本開示の実施例2のシミュレーション結果を示すグラフ
【図10】本開示の実施例3のシミュレーション結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の第1の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。

【0023】
本実施の形態ではN=2としたときの無線通信伝送方法について主に説明する。図1に、本実施の形態に係る無線通信伝送方法をモデル化したシステム図を示す。図1において、1、2、3はそれぞれ無線端末(A)、無線端末(B)、無線端末(C)を表す。4は中継局を表す。本実施の形態において、中継局4はそれぞれw1、w2で重みづけが可能な2本のアンテナエレメント41、42よりなる中継アンテナ(ダイバーシチアンテナ)を具備した任意の無線端末であるとする。本実施の形態において、無線端末1、2、3および中継局4はアドホックネットワークシステムを構成している。

【0024】
一般的には、アンテナエレメント数が2の場合、形成されるヌルの個数は1個であるが、以下述べるようなミラーリングヌルステアリング技術を用いたモデルを想定した場合、最大2個の無線端末に対してヌルを形成する自由度を中継局に持たせることが可能である。なお、以下のモデルにおいては3個の無線端末のうち1個の無線端末が前記中継局に対しマルチキャスト信号を送信するものとする。

【0025】
以下、図1に示したシステムにおいて、無線端末2(B)の情報を無線端末1(A)と無線端末3(C)に周知させる場合を想定する。このとき、無線端末1と無線端末3は中継局4の秘匿性を確保するため、それぞれジャミング(人工雑音)と呼ばれる信号x、xを中継局4に対して同時に通知する。

【0026】
すると、中継局4のダイバーシチアンテナそれぞれのアンテナエレメント41、42が受信する信号yR1、yR2は以下の式(1)、(2)のように表せる。

【数1】
JP2019110533A_000003t.gif

ここで、hA1、hB1、hC1は、それぞれ無線端末1(A)、無線端末2(B)、無線端末3(C)からアンテナエレメント41に到達するまでの伝達関数を、hA2、hB2、hC2は、それぞれ無線端末1(A)、無線端末2(B)、無線端末3(C)からアンテナエレメント42に到達するまでの伝達関数を表す。ここまでの動作を、図2のフローチャートにおけるステップ101~104に示す。

【0027】
アンテナエレメント41、42が受信した信号yR1、yR2を受信した中継局4は、これらの信号を重み付け加算したものを送信信号として各アンテナエレメントに供給し、無線端末1、3に対してマルチキャストする(ステップ105~107)。このとき、無線端末1、3は下記の式(3)、(4)で表される信号を受信する。

【数2】
JP2019110533A_000004t.gif

【0028】
ここで、w=1、w=1とした場合、中継器4が通常のPLNCを実行したことと等価になるが、この場合、無線端末1および無線端末3は無線端末2からの信号(x)を分離することができない。なぜなら無線端末1が受信する信号yには無線端末1が自ら発したジャミングである信号xの他に無線端末3が送信した未知の信号xが含まれているからである。同様に、無線端末3が受信する信号yには無線端末1が送信した信号xが含まれているため、無線端末3も信号xを分離することができない。

【0029】
この問題については、本実施の形態では、モデルとしている無線通信伝送システムの伝達関数の対称性を利用してwおよびwの値を設計することにより解決している。すなわち、式(3)右辺の第3項(xの係数)と式(4)の右辺第1項(xの係数)とが、互いに等しいことに着目し、wおよびwの値を式(5)および(6)を満たすように設計すれば、式(3)からは信号xの項を、式(4)からは信号xの項を、それぞれ消去することができる(ステップ106)。

【数3】
JP2019110533A_000005t.gif

【0030】
上記式(3)~(5)を行列表記すると式(7)のように書ける。
【数4】
JP2019110533A_000006t.gif

ここで、
【数5】
JP2019110533A_000007t.gif
と置いた。また、y=a22であるとした。

【0031】
その結果、無線端末1は信号変数xとxとを含む信号y(図2中ではy(x、x)と表記)を受信し、これから自ら発したジャミングである信号xを差し引くことにより無線端末2からの情報である信号xを分離することができる(ステップ108、110)。同様に無線端末3も信号y(図2中ではy(x、x)と表記)から信号xを分離することができる(ステップ109、111および式(8))。
【数6】
JP2019110533A_000008t.gif

【0032】
およびwは中継局4のダイバーシチアンテナのエレメント41および42に対する重み付けであり、これらを最適化して前記のようにxもしくはxを消去することは、言い換えれば伝達関数の対称性(ミラー効果)を利用した複数地点のヌル形成(ミラーリングヌルステアリング)を各信号に対して実施したことに他ならない。このミラーリングヌルステアリングの概念を図3に示す。ダイバーシチアンテナのエレメント41および42の重み付けwおよびwを上記式(5)、(6)のように設計したことにより、信号xに対しては実線で示されたようなビームパターンが、信号xに対しては破線およびハッチングで示されたようなビームパターンが、あたかも形成されたかのように動作する。

【0033】
一般的に、2本のアンテナエレメントよりなるダイバーシチアンテナの場合、形成できるヌルは1つに限られるが、本実施の形態の場合は伝達関数の対称性を利用することで実質的に2つのヌルを形成することが可能となる。言い換えれば、x→中継局→yの伝達関数a13とx→中継局→yの伝達関数a31は常にa13=a31であるため、a13=a31=0となるw、wの解が必ず存在する。この原理をN本のアンテナエレメントよりなるダイバーシチアンテナに拡張して適用して考えた場合、2(N-1)個のヌルを形成することができる。

【0034】
以上のように、本実施の形態によれば、中継局によるマルチキャストを介して一の無線端末の情報を他の二つ無線端末に報知する無線アドホックネットワークにおいて、前記中継局がミラーリングヌルステアリングをすることにより、他方の受信側の無線端末が発するジャミングの影響を受けずに前記情報を分離することが可能となり、中継局に対する秘匿性も保持される無線通信伝送方法を実現することができる。また,第三の盗聴者に対しても,複数の信号が相互に混信しているため,復調が困難になる秘匿性を高めることができる.

【0035】
以下、本開示の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態においては、中継局4が無線端末2の信号xを無線端末1、3に報知した後、ダイバーシチアンテナ41、42に供給する信号yR1と信号yR2とを交換(スワップ)することにより前記伝達関数の対称性を崩し、重み付けをwおよびwを設計することで新たなヌルステアリングを実行する。これにより、無線端末1、2、3それぞれが他2つの無線端末の信号を解読することができる。

【0036】
図5は本発明の第2の実施の形態の無線通信伝送方法のフローチャートである。図5において、ステップ201~209は前記実施の形態(図2)における101~109と同様の処理を行うものとする。したがって、ここまでの処理により、無線端末2はミラーリングヌルステアリングの効果により信号xとxの成分のみを含む信号y(図5中ではy(x、x)と表記)を、同様に無線端末3は信号xとxの成分のみを含む信号y(図5中ではy(x、x)と表記)をそれぞれ受信し、自らの信号x、x(ジャミング)を解読キーとして無線端末2からの信号xを解読することができる。

【0037】
しかし、x、xがジャミング(人工雑音)ではなく、無線端末間で共有すべき情報信号である場合、先の実施の形態の方法では、それぞれの無線端末は他方の情報を受信することができない。また、無線端末2はx、x、xすべてを含む信号y(x、x、x)を受信するが、このままでは信号xと信号xをそれぞれ分離して情報を取り出すことはできない。

【0038】
そこで本実施の形態では、アンテナエレメント41に供給する信号yR1と信号yR2とをスワップする処理を追加する(図5ステップ211)。その結果、式(9)、(10)に示すように伝達関数の対称性は崩れ、重みw、wをどのように選んでも1つのヌルしか配置できなくなる。

【数7】
JP2019110533A_000009t.gif

【0039】
そこで、重み付けを設計しなおしw、wとして、無線端末2に対してxを除去するヌルステアリングを新たに実行する(ステップ212)。この処理についてさらに説明する。まず、無線端末2が受信する信号y’は以下の式(11)のように表せる。

【数8】
JP2019110533A_000010t.gif

【0040】
このとき、下記式(12)、(13)の条件を満たすようにwおよびwを設計すれば、式(11)右辺第3項の係数がゼロになるようにビームパターンを形成することができる(図示しない)。

【数9】
JP2019110533A_000011t.gif

【0041】
このようにして各アンテナエレメントに対して重み付けされた信号を中継局4から無線端末1、2、3にマルチキャストする(ステップ213)。その結果、無線端末2は信号x、xのみを含む信号y’を受信し(ステップ215)、自らの信号xを差し引くことで、無線端末1からの情報xを分離することができる(ステップ218)。無線端末3からの情報xについては、同様の処理を施してもよいし、ステップ210で受信した、x、x、xすべてを含む信号y(x、x、x)から、既知の信号であるx、xを差し引いて信号xを分離してもよい。

【0042】
さらにステップ213のマルチキャストにより、無線端末1、3はそれぞれx、x、xすべてを含む信号(図5中、y’(x、x、x)、y’(x、x、x)で表記)を受信する(ステップ214、216)。受信無線端末1はステップ208の受信時に、受信無線端末3はステップ209の受信時に、いずれも信号xを分離しているから、これを自らの信号を使って、それぞれ信号xC、を分離することができる(ステップ217、219)。

【0043】
以上の処理ステップにより、無線端末1、2、3はそれぞれの信号x、x、xすべてを共有することができる。この場合、中継局4に対する秘匿性は維持されていることは言うまでもない。

【0044】
なお、ダイバーシチアンテナのアンテナエレメント41、42のスワップ処理前の信号についてはフレーム単位でそれぞれの無線端末内のメモリーに保持しておいてもよい。

【0045】
以下、本開示の第3の実施の形態について説明する。図6に本実施の形態に係る無線通信伝送方法が実行されるアドホックネットワークをモデル化したシステム図を、図7に本実施の形態に係る無線通信伝送方法のフローチャートをそれぞれ示す。図7において、本実施の形態に係る無線通信伝送方法はそれぞれ情報a、b、cを送信する無線端末1、無線端末2、無線端末3と、前記無線端末数と同数の3(=N)本のアンテナエレメント(#1、#2、#3(=N))より成るMIMOアンテナを有す中継局5と、さらに第4(=N+1)番目の無線端末であって人工雑音を送信する認証局6によって構成されるアドホックネットワーク(図6)において実行される。

【0046】
一般的に、中継局5が無線端末と同数のアンテナエレメントよりなるMIMOアンテナを有していれば、上記無線端末が送信した情報a、b、cをすべて識別することができる。そこで、本実施の形態では認証局6が中継局に向けて人工雑音を送信することで上記情報を識別できなくしている。つまり、エレメント3(=N)のMIMOアンテナが直交分離できる無線端末の数は3(=N)に限られ、これ以外の(N+1番目の)無線端末から送信された信号は他の3(=N)個の無線端末から送信された情報と混信してしまう。

【0047】
以下、本実施の形態に係る無線通信伝送方法について図7のフローチャートを参照しながら説明する。なお、本実施の形態において伝達関数はすべて規格化されているものとする。また、中継アンテナのビームフォーミングのための重み付け処理についてもここでは説明を省略する。
(ステップ301~304)
まず、各無線端末(1、2、3)はそれぞれの情報(a、b、c)を中継局5に送信する(301、302、303)。このとき第4の無線端末である認証局6は人工雑音dを送信する(304)。

【0048】
(ステップ305~306)
次に、中継局5はMIMOアンテナを用い、人工雑音dがそれぞれ加算された情報a、b、cを受信する(305)。さらに中継局5は以下に示す(第1の)プレコーダー行列式に基づくプレコード処理を実行し、人工雑音dがそれぞれ加算された情報a、b、c(a+d、b+d、c+d)を送信元の無線端末1、2、3に返送する(306)。

【数10】
JP2019110533A_000012t.gif

【0049】
(ステップ307~312)
次に、各無線端末(1~3)は中継局4から返送された情報を受信し(307~309)、各無線端末は既知情報a、b、cを差し引くことで、人工雑音dを抽出する(310~312)。

【0050】
(ステップ313)
次に、中継局5は、無線端末1から無線端末2に情報aを、無線端末2から無線端末3に情報bを、無線端末3から無線端末1に情報cを、それぞれ中継すべく、(第2の)プレコーダー行列を以下のように設定する(313)。

【数11】
JP2019110533A_000013t.gif

【0051】
(ステップ314~319)
最後に、無線端末1、2、3の各々がステップ313の(第2の)プレコーダー行列に基づいて送信された情報c+d、a+d、b+dを受信し(314~316)、前記ステップ307~312により分離された人工雑音dを用いて、それぞれ受信情報から人工雑音d成分を除去し、情報c、a、bを分離する(317~319)。

【0052】
以上のように、本実施の形態によれば、無線端末および無線端末と同数のアンテナエレメントを持つMIMOアンテナを有する中継局より成るアドホックネットワークにさらに人工雑音を送信する認証局を加え、上記301~319で示されるステップを実行することにより、機密性の高い安全なMIMOスイッチング伝送を実現することができる。

【0053】
しかし、その一方で、人工雑音がいずれかの経路において改ざんされるリスクも存在する。この場合、認証局6は、中継局5からの受信情報(a+b+c+d)の中からスペクトラム拡散処理により人工雑音dを成長的に検出することにより、改ざんの有無を把握することができる。つまり「信号」dから見れば、他の情報a、b、cは「ランダムノイズ」に見え、さらに加算処理により平準化されるため、送信された人工雑音dと受信情報(a+b+c+d)との相関演算などにより「信号」dが改ざんされたかどうかを確率として検知することができる。

【0054】
なお、本実施の形態において、中継局5は交差点の信号機など公共の建造物に設置されたものであってもよいし、車載され適宜移動可能なものであってもよい。また、認証局6は例えば公的機関によって予め認証された無線端末であってもよく、固定式であっても移動式であってもよい。また、中継局5のエレメント数Nに対して、アドホックネットワークに参加する無線端末の数が少ない場合、中継局5により人工雑音dも含めて、無線端末の送信情報が解読されてしまう虞があるが、この場合は公的機関などによって認証された無線端末がダミーの情報を送信するなどして、アドホックネットワークの参加者を常にNに保つようにしてもよい。

【0055】
また、本実施の形態において、認証局6は基本的には他の無線端末と同様の構成でありつつも、本実施の形態において認証局6(N+1番目の端末)として用いられる場合に人工雑音を送信するする、人工雑音送信部を有してもよい。この人工雑音送信部はLSIやフィールドプログラムアレイ等のハードウェアで構成されてもよく、マイクロコードやソフトウェアで実装されたものでもよい。

【0056】
さらに、本実施の形態における認証局6は、スペクトラム拡散処理により、前記中継局から受信した情報の中から人工雑音成分を成長的に検出する人工雑音成分検出部を有してもよい。この人工雑音成分検出部はLSIやフィールドプログラムアレイ等のハードウェアで構成されてもよく、マイクロコードやソフトウェアで実装されたものでもよい。

【実施例】
【0057】
以下、本開示における実施例について説明する。
(実施例1)
図8はN=2の場合のミラーヌルステアリングの効果を検証したシミュレーション結果を示すグラフである。無線通信伝送路として、レイリーフェージング通信路を仮定としている。また,中継局4と無線端末1(A)、無線端末2(B)、無線端末3(C)の間の距離は互いに等しいと仮定し、伝播距離に依存した減衰係数(パスロス)も互いに等しいと想定している。図8において、横軸は図2のフローチャートで示された無線通信伝送システムにおける秘密保持容量(Secure Capacity)を、縦軸は累積分布関数(CDF)を示す。本実施例において、秘密保持容量Cは下記式(14)で定義されるとする。

【数12】
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ここで、SNRijは無線端末iから中継局4を経由し、無線端末jに達したときのend—to—endのSN比を、SNRiRは無線端末iから中継局4へのSN比を、それぞれ表している。また、右辺右肩の+(プラス)符号は、括弧の中の値が正の場合はその値をとり、それ以外の場合は0とする演算子であるとする。
【実施例】
【0058】
図8より明らかなように、ミラーヌルステアリング無しの場合C>0となる累積分布関数の値が0.8以上となるのに対し、ミラーヌルステアリング有りにするとCが3を越えたあたりでも累積分布関数は0.5以下にとどまっている。このことはミラーリングヌルステアリングにより効果的に人工雑音を除去されるため、中継局に対する秘匿性が維持されたまま伝送容量の拡大が達成できていることを意味している。
【実施例】
【0059】
(実施例2)
本実施例は第2の実施の形態に対応する。x、xが無線端末間で共有すべき情報信号である場合の中継局4における送信信号の交換処理を含む信号分離のシミュレーション結果を示す。図9は秘密保持容量すなわち中継局4に情報が洩れることなく安全に伝送できる伝送容量(Cs)に対する累積分布関数(CDF)特性を示している。図7において、シンボル□と実線で示される線は図5のフローチャートで示された無線通信伝送システム(以下、提案法)を用いた場合を、シンボル◇と破線で示される線は従来のSTBC(非特許文献2)を用いた場合を、それぞれ示す。提案法では、先述のように、無線端末1(A)、無線端末2(B)、無線端末3(C)が情報を同時に伝送し、中継局4は二段階のヌルステアリング処理(ミラーリングヌルステアリングとアンテナ間で信号を交換したヌルステアリング)を実施する。
【実施例】
【0060】
図9より、提案法は従来法と比べて秘密保持容量Csが高く、情報がより安全に伝送できることがわかる。具体的には、CDF=0.1において従来法よりも0.2bits/sec/Hz高い秘密保持容量を達成している。これは、本方法では無線局が情報を送信する順番に選択性があり、より安全に伝送できる伝送容量を達成する送信を選択的に選ぶことで、高品質化を確保していることを意味している。
【実施例】
【0061】
(実施例3)
本実施例は第3の実施の形態に対応し、中継局が受信信号の一部を改ざんした場合の改ざん検出の精度評価の例を示すものである。ここでは送信信号として直交周波数分割多重(OFDM)を用いるものとする。OFDMは副搬送波を同時に利用することで並列伝送が可能である。よって、中継局は副搬送波の一部あるいはすべてを異なる変調信号(例えば,位相変調(PSK)や直交振幅変調(QAM)など)に差し替えることで情報の一部分あるいはすべてを書き換えて、全端末に報知することができる。
【実施例】
【0062】
本実施では、端末数を2(=N)局、中継局のアンテナ数を2(=N)、情報交換のための変調方式をBPSKとするシミュレーションを行った。なお、第3(=N+1)局が発する人工雑音をガウス性白色雑音とした。中継局が改ざんする情報として、任意の変調方式としてモデル化するため、複素ガウス乱数でモデル化した。また、本実施例において、誤警報確率(改ざんしていないのに改ざんしていると判断する確率)は10%としている。
【実施例】
【0063】
本実施例におけるシミュレーション結果を図10に示す。図10において横軸は、受信信号の内、改ざんをした情報の割合を示す。縦軸は誤検出確率であり、この値が小さいほど改ざんを見逃す確率が低く、高精度であることを示している。系列上は,スペクトラム拡散技術における相関検出をした際の系列の長さを示している。図10より、系列長が256から4096へと拡大することで、低い偽装割合においても誤検出確率を低く抑えられることがわかる。これは、人工雑音の系列長が長くなることによって、改ざんがないときとあるときの相関値の差が大きくなり、検出感度が高くなったことを意味する。すなわち、疑似雑音を利用した一定精度の改ざん検出を可能にしたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、自動車における無線通信システム、例えば自動運転、路車間通信、V2X、に利用可能である。また本発明は、センサネットワーク(IoT,M2M)、災害時の代替通信(移動体無線通信)、セルラ通信(携帯電話)と併用されるネットワークとしても、導入が期待される。
【符号の説明】
【0065】
1、2、3 無線端末
4、5 中継局
6 認証局(N+1番目の端末)
41、42 アンテナエレメント

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
9