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明細書 :医療用把持装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-005866 (P2020-005866A)
公開日 令和2年1月16日(2020.1.16)
発明の名称または考案の名称 医療用把持装置
国際特許分類 A61B  34/37        (2016.01)
B25J  15/00        (2006.01)
A61B  17/29        (2006.01)
FI A61B 34/37
B25J 15/00 Z
A61B 17/29
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2018-129425 (P2018-129425)
出願日 平成30年7月6日(2018.7.6)
発明者または考案者 【氏名】下野 誠通
【氏名】佐々木 光
【氏名】大西 公平
【氏名】柴尾 俊輔
【氏名】溝口 貴弘
【氏名】松永 卓也
【氏名】安彦 恵理子
【氏名】西本 真章
【氏名】青木 美夏
出願人 【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
個別代理人の代理人 【識別番号】100127384、【弁理士】、【氏名又は名称】坊野 康博
審査請求 未請求
テーマコード 3C707
4C160
Fターム 3C707AS35
3C707DS01
3C707ES03
3C707ET02
3C707KS16
3C707KX07
4C160GG08
要約 【課題】鑷子として使用可能であり、鑷子以上の機能を備えた医療用把持装置を実現すること。
【解決手段】医療用把持装置1において、操作部10は操作者の把持動作によって操作される。反力用アクチュエータ20は操作部10に操作反力を付与する。把持機構40は把持対象物を把持する。把持用アクチュエータ50は把持機構40に把持動作を行わせる。筐体1Aは、一端に把持機構40を有すると共に、当該一端と他端との間に操作部10を有し、反力用アクチュエータ20及び把持用アクチュエータ50が設置される。制御部60は、操作部10に対する操作に応じて、把持機構40の動作において把持用アクチュエータ50が出力する力及び位置を制御すると共に、把持機構40に対する把持対象物からの反作用に応じて、操作部10に操作反力を付与する動作において反力用アクチュエータ20が出力する力及び位置を制御する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
操作者の把持動作によって操作される操作部と、
前記操作部に操作反力を付与する第1のアクチュエータと、
把持対象物を把持する把持部と、
前記把持部に把持動作を行わせる第2のアクチュエータと、
一端に前記把持部を有すると共に、当該一端と他端との間に前記操作部を有し、前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータが設置された筐体部と、
前記操作部に対する操作に応じて、前記把持部の動作において前記第2のアクチュエータが出力する力及び位置を制御すると共に、前記把持部に対する前記把持対象物からの反作用に応じて、前記操作部に操作反力を付与する動作において前記第1のアクチュエータが出力する力及び位置を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする医療用把持装置。
【請求項2】
装置全体の重心の位置が前記操作部よりも前記他端側に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の医療用把持装置。
【請求項3】
前記把持部は、前記筐体部の延在方向に対し、オフセットされた位置に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用把持装置。
【請求項4】
前記第1のアクチュエータよりも前記第2のアクチュエータの方が前記他端側に設置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の医療用把持装置。
【請求項5】
前記操作部よりも前記他端側に、操作者の手を受容する凹部を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の医療用把持装置。
【請求項6】
前記操作部を非操作時に初期位置に復帰させる弾性力を発生させる弾性部材を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の医療用把持装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記弾性部材の弾性力を減算して、前記操作部に操作反力を付与する動作において前記第1のアクチュエータが出力する力を制御することを特徴とする請求項6に記載の医療用把持装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記弾性部材の弾性力に前記第1のアクチュエータによる力を加えることにより、前記操作部において、前記弾性部材の弾性定数とは異なる弾性定数の弾性部材による感触を実現することを特徴とする請求項6または7に記載の医療用把持装置。
【請求項9】
前記把持部は異なる種類の部材に交換可能であり、
前記制御部は、前記把持部が交換された場合に、取り付けられた前記把持部の構造に応じたパラメータに基づいて制御を行うことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の医療用把持装置。
【請求項10】
前記把持部は、取付軸の回りに回転可能であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の医療用把持装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、鑷子の機能を備えた医療用把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用マスタ・スレーブ遠隔手術デバイスは、低侵襲性手術において高い性能を発揮し、ダヴィンチ(登録商標)に代表される装置が既に実用化されている。
また、特許文献1及び2に開示されているように、マスタ・スレーブ構造を有する医療用の鉗子デバイスも知られている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】国際公開第2005/109139号
【特許文献2】国際公開第2015/041046号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の医療用マスタ・スレーブ遠隔手術デバイスは、装置が大型であることや、利用にトレーニングを要する等の問題がある。また、力触覚のフィードバックが無く、より繊細な作業が求められる脳神経外科手術等の分野に適用することが困難である。一方、特許文献1及び2に記載された医療用の鉗子デバイスは、鉗子の形態を有することから、使用目的が従来の鉗子の範囲に限定される可能性が高い。
これに対し、脳神経外科手術等においては、より小型で、操作者がより直接的に力触覚を感じる鑷子(ピンセット)が用いられており、従来の鑷子と同様に使用でき、従来の鑷子の機能を超える医療用のデバイスは実現されていない。
【0005】
本発明は、鑷子として使用可能であり、鑷子以上の機能を備えた医療用把持装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様の医療用把持装置は、
操作者の把持動作によって操作される操作部と、
前記操作部に操作反力を付与する第1のアクチュエータと、
把持対象物を把持する把持部と、
前記把持部に把持動作を行わせる第2のアクチュエータと、
一端に前記把持部を有すると共に、当該一端と他端との間に前記操作部を有し、前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータが設置された筐体部と、
前記操作部に対する操作に応じて、前記把持部の動作において前記第2のアクチュエータが出力する力及び位置を制御すると共に、前記把持部に対する前記把持対象物からの反作用に応じて、前記操作部に操作反力を付与する動作において前記第1のアクチュエータが出力する力及び位置を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、鑷子として使用可能であり、鑷子以上の機能を備えた医療用把持装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る医療用把持装置1の基本的構成を示す模式図である。
【図2A】医療用把持装置1のマスタ側における機構を示す模式図である。
【図2B】医療用把持装置1のマスタ側における機構(他の例)を示す模式図である。
【図3】医療用把持装置1のスレーブ側における機構を示す模式図である。
【図4】本発明において用いられるバイラテラル制御のブロック線図である。
【図5】本発明に係る医療用把持装置1の第1の装置構成例を示す模式図である。
【図6】第1の装置構成例における医療用把持装置1の側面図を示す模式図である。
【図7】第1の装置構成例における医療用把持装置1の上面図を示す模式図である。
【図8】第1の装置構成例の変形例を示す模式図である。
【図9】第1の装置構成例の変形例における医療用把持装置1の側面図を示す模式図である。
【図10】第1の装置構成例の変形例における医療用把持装置1の上面図を示す模式図である。
【図11】本発明に係る医療用把持装置1の第2の装置構成例を示す模式図である。
【図12】第2の装置構成例における医療用把持装置1の側面図を示す模式図である。
【図13】第2の装置構成例における医療用把持装置1の上面図を示す模式図である。
【図14】第2の装置構成例の変形例を示す模式図である。
【図15】第2の装置構成例の変形例における医療用把持装置1の側面図を示す模式図である。
【図16】第2の装置構成例の変形例における医療用把持装置1の上面図を示す模式図である。
【図17】実験1の実験条件を示す模式図である。
【図18A】マスタ側及びスレーブ側それぞれにおけるアクチュエータの位置の時間応答測定結果を示す図である。
【図18B】スレーブの把持用アクチュエータ50が環境から受ける反力の逆値を示す図である。
【図19】実験1における把持機構40の変位に対する反力の変化を示す図である。
【図20】実験2の実験条件を示す模式図である。
【図21A】スケーリングを行うことなくサンプルを把持した実験結果を示す図である。
【図21B】力を2倍とするスケーリングを行ってサンプルを把持した実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
[本発明の基本的概念]
本発明に係る医療用把持装置は、操作者により把持動作のための操作が行われる操作部に操作反力を付与する反力用アクチュエータと、把持対象物を把持する把持機構に把持動作を行わせる把持用アクチュエータとが一体的に筐体に備えられた構造を有している。一例として、医療用把持装置において、操作部が筐体の中央部に備えられ、把持機構が筐体の先端部に備えられる。そして、操作者が操作部に把持動作のための操作(鑷子で把持対象物を挟む動作)を行うと、操作部に対して入力された力及び位置の情報に基づいて、把持用アクチュエータが、操作部に対して入力された操作に応じた把持動作を把持機構に行わせるための力(把持力)及び位置(把持量)を出力する。また、このとき把持対象物から受ける反作用による力及び位置の情報に基づいて、反力用アクチュエータが操作部において操作反力を付与する動作を行うための力及び位置を出力する。即ち、反力用アクチュエータをマスタ、把持用アクチュエータをスレーブとするバイラテラル制御が行われる。
そのため、操作者は、医療器具の鑷子を使用する場合と同様の使用感覚で、マスタ・スレーブ装置によって構成された鑷子に類する形態の医療用把持装置を操作することができる。

【0010】
また、医療用把持装置は、バイラテラル制御によって把持動作が実現されるため、力あるいは位置のスケーリングを行ったり、把持対象物の硬さを数値化して表したりする等、医療器具の鑷子には備えられていない機能を実装することができる。
即ち、本発明によれば、鑷子として使用可能であり、鑷子以上の機能を備えた医療用把持装置を実現することができる。
以下、本発明に係る医療用把持装置の構成について説明する。

【0011】
[基本的構成]
図1は、本発明に係る医療用把持装置1の基本的構成を示す模式図である。
なお、図1においては、医療用把持装置1の上面図が模式的に示されており、筐体1Aを透過して内部構成が示されている。また、図1においては、操作者が医療用把持装置1を操作する際の手の状態を、一点鎖線で模式的に示している。
図1に示すように、医療用把持装置1は、操作部10と、反力用アクチュエータ20と、復帰用バネ30と、把持機構40と、把持用アクチュエータ50と、制御部60と、を備えており、制御部60以外の部品は筐体1A内に設置されている。ただし、制御部60を筐体1A内に設置することとしてもよい。また、図1に示す各部品の配置は一例を示すものであり、医療用把持装置1の機能を実現できるものであれば、各部品の配置を他の形態とすることができる。さらに、把持機構40を図1に示すようにストレート型とすることの他、バヨネット型とすることも可能である。なお、医療用把持装置1には、内部に備えられるバッテリ(不図示)または外部電源から電力が供給される。

【0012】
図1に示す構成では、操作部10、反力用アクチュエータ20及び復帰用バネ30からなる部分がマスタ側となり、把持機構40及び把持用アクチュエータ50からなる部分がスレーブ側となる。
操作部10は、一端において互いに回転可能に連結された1対のレバー10A,10Bを備え、レバー10A,10Bを連結する回転軸11が筐体1Aの長手方向に移動可能に設置されている。操作部10において、レバー10Aの他端は、筐体1Aの一方の側部に形成された貫通穴から突出していると共に、レバー10Bの他端は、筐体1Aの他方の側部に形成された貫通穴から突出している。また、レバー10A,10Bの内側の側壁(反力用アクチュエータ20に面する側壁)は、筐体1Aに固定された円柱状部材C1,C2に当接している。操作部10において、把持動作が行われた場合及び把持動作から復帰する場合には、回転軸11が筐体1Aの長手方向に移動すると共に、レバー10A,10Bの内側の側壁が円柱状部材C1,C2に摺接しながら、レバー10A,10Bの開閉状態が変化する。

【0013】
反力用アクチュエータ20は、ボイスコイルモータ等の小型・高出力のモータによって構成され、可動子20Aを筐体1Aの長手方向に移動可能に設置されていると共に、固定子20Bを筐体1Aに固定されている。可動子20Aの位置は、リニアエンコーダ等の位置センサ20Cによって検出される。また、反力用アクチュエータ20の可動子20Aの先端は、操作部10の回転軸11に連結されている。そのため、反力用アクチュエータ20は、筐体1Aの長手方向における回転軸11の移動を制御することができる。即ち、反力用アクチュエータ20は、レバー10A,10Bの操作に対して操作反力を付与する動作を行うことができる。

【0014】
復帰用バネ30は、一端を反力用アクチュエータ20の固定子20B(または筐体1A)に連結され、他端をレバー10A,10Bの回転軸11に連結されている。復帰用バネ30は、レバー10A,10Bの連結角度が最も大きい状態(最も開いた状態)で自然長となり、レバー10A,10Bが操作される程、伸長された状態となる。そのため、レバー10A,10Bが操作から解放されると、復帰用バネ30の弾性力により、復帰用バネ30が自然長の位置に戻り、レバー10A,10Bは最も開いた状態に復帰する。ただし、復帰用バネ30に相当するバネをスレーブ側に設置し、操作から解放されたときに把持機構40が最も開いた状態に復帰する構成とすることも可能である。
なお、復帰用バネ30の弾性力を反力用アクチュエータ20の出力により実現することも可能であり、この場合、復帰用バネ30を備えない構成とすることができる。また、バネ以外の弾性体によって、復帰用バネ30と同等の作用を実現することとしてもよい。

【0015】
把持機構40は、医療器具の鑷子の先端部分に相当する1対の把持部材40A,40Bを備えている。把持部材40A,40Bの先端は筐体1Aの一端から突出し、手術時に把持対象の組織を把持する。また、把持部材40A,40Bの他端側は、互いに近接する方向に屈曲して交差しており、交差部分において、回転軸42によって回転可能に連結されている。なお、回転軸42は、筐体1Aまたは筐体1Aと一体の部分(補強部材等)に固定されている。さらに、把持部材40A,40Bの他端は、リンク部材41A,41Bの一端と回転可能に連結されている。リンク部材41A,41Bの他端は、把持用アクチュエータ50の可動子50Aの先端において、回転可能に連結されている。

【0016】
把持用アクチュエータ50は、ボイスコイルモータ等の小型・高出力のモータによって構成され、可動子50Aを筐体1Aの長手方向に移動可能に設置されていると共に、固定子50Bを筐体1Aに固定されている。可動子50Aの位置は、リニアエンコーダ等の位置センサ50Cによって検出される。また、把持用アクチュエータ50の可動子50Aの先端は、リンク部材41A,41Bの連結部(回転軸)に連結されている。把持用アクチュエータ50が可動子50Aを移動させることで、リンク部材41A,41Bの連結角度が変化し、これにより、把持部材40A,40Bの他端同士の位置関係が変化する。把持部材40A,40Bは、筐体1Aに固定された回転軸42において回転可能に連結されていることから、把持部材40A,40Bの他端同士の位置関係が変化すると、把持部材40A,40Bの先端が開閉動作する。具体的には、把持部材40A,40Bの他端同士の距離が近づくと、把持部材40A,40Bの先端が閉じる方向に動作し、把持部材40A,40Bの他端同士の距離が遠ざかると、把持部材40A,40Bの先端が開く方向に動作する。即ち、把持用アクチュエータ50が可動子50Aを移動させることにより、把持機構40において、把持部材40A,40Bを開閉動作させることができる。

【0017】
制御部60は、マイクロコンピュータあるいはLSI(Large-Scale Integrated circuit)等の情報処理装置によって構成され、位置センサ20C,50Cによって検出された位置に基づいて、反力用アクチュエータ20と把持用アクチュエータ50との間でバイラテラル制御による力触覚伝達を行う。また、制御部60は、バイラテラル制御において取得される情報に基づいて、把持対象物の物理量(硬さ等)を取得する。
具体的には、制御部60は、位置及び力の制御を行う位置・力制御部61と、把持対象物の物理量を取得する物理量取得部62とを備えている。

【0018】
位置・力制御部61は、操作部10に対して操作者が行った把持動作のための操作に伴い、反力用アクチュエータ20の可動子20Aが移動した位置の検出値を取得する。位置・力制御部61は、検出された位置からレバー10A,10Bの位置(操作量)を算出すると共に、可動子20Aの加速度を算出し、算出した加速度から操作部10に入力された力(操作力)を算出する。そして、位置・力制御部61は、レバー10A,10Bの位置(操作量)及び力(操作力)に対応する把持量及び把持力を再現するように、把持用アクチュエータ50の出力を制御する。このとき、位置・力制御部61は、把持機構40の機械的な構造に応じたパラメータを用いて、把持部材40A,40Bにおける位置(把持量)及び力(把持力)の目標値を算出し、算出した目標値に応じた指令値(電流指令値等)を把持用アクチュエータ50に出力する。これにより、操作部10における操作と対応した把持動作が把持機構40において実現される。

【0019】
また、位置・力制御部61は、把持機構40が把持動作を行う際に、把持用アクチュエータ50の可動子50Aが移動した位置の検出値を取得する。位置・力制御部61は、検出された位置から把持部材40A,40Bの位置(把持量)を算出すると共に、可動子50Aの加速度を算出し、算出した加速度から把持部材40A,40Bに入力された力(反力)を算出する。そして、位置・力制御部61は、把持部材40A,40Bの位置(把持量)及び力(反力)に対応する反作用の状態を再現するように、反力用アクチュエータ20の出力を制御する。このとき、位置・力制御部61は、操作部10の機械的な構造に応じたパラメータを用いて、レバー10A,10Bにおける位置(操作量)及び力(反力)の目標値を算出し、算出した目標値に応じた指令値(電流指令値等)を反力用アクチュエータ20に出力する。これにより、把持機構40における反作用の状態に対応した操作量及び反力が操作部10において実現される。

【0020】
物理量取得部62は、バイラテラル制御において取得されるパラメータから、把持対象物の硬さのデータを取得する。具体的には、物理量取得部62は、把持機構40によって把持対象物を把持した際の反力の推定値から、把持対象物の硬さのデータを算出する。なお、物理量取得部62は、例えば、反力推定オブザーバ等によって構成することができる。
なお、医療用把持装置1に復帰用バネ30が設置される場合、操作部10には、復帰用バネ30の弾性力(最も開いた状態に復帰させる力)が作用する。そのため、制御部60がバイラテラル制御を行う場合、レバー10A,10Bの位置に応じて変化する復帰用バネ30の弾性力を算出し、算出した弾性力を減算して操作反力を付加するよう制御することができる。
また、復帰用バネ30が物理的に備えるバネ定数に対し、制御部60が反力用アクチュエータ20を制御することにより、より大きいバネ定数のバネ、あるいは、より小さいバネ定数のバネの感触を実現することができる。
これにより、操作者がより操作し易い状態に医療用把持装置1を調整することができ、より高い操作性を実現することが可能となる。

【0021】
このような構成の医療用把持装置1が操作される場合、操作者は、人差し指と親指でレバー10A,10Bを挟み込むように把持し、医療用把持装置1を手の甲(第1指間腔)に載置した状態で操作する。
そのため、操作部10の設置位置に対し、把持機構40が備えられた一端とは反対の他端側に医療用把持装置1の重心を設定することが好適である。
このような構成とすることで、操作者は医療用把持装置1の重量を感じ難くなり、医療用把持装置1の操作性を高めることができる。
また、筐体1Aにおいて、操作部10の底面側に操作者の手の甲(第1指間腔)を受容する凹部を形成し、操作者の手の形状に馴染み易い構成とすることとしてもよい。

【0022】
[医療用把持装置1の運動学]
次に、医療用把持装置1における運動学について説明する。
図2Aは、医療用把持装置1のマスタ側における機構を示す模式図である。
図2Aに示すように、医療用把持装置1のマスタ側では、反力用アクチュエータ20とレバー10A,10Bの連結部分に復帰用バネ30が設置されており、レバー10A,10Bが開く方向に復帰用バネ30が常に力を与える。

【0023】
なお、図2Aに示す機構と同様に操作反力を付与することができ、非操作時にレバー10A,10Bが最も開いた状態に復帰できる構成であれば、他の構成とすることも可能である。
図2Bは、医療用把持装置1のマスタ側における機構(他の例)を示す模式図である。
図2Bに示す例では、図1に示す回転軸11が筐体1Aに固定され、円柱状部材C1,C2が反力用アクチュエータ20の可動子20Aに設置されている。また、復帰用バネ30の一端は、反力用アクチュエータ20の可動子20Aに連結され、復帰用バネ30の他端は、レバー10A,10Bの回転軸11に連結されている。レバー10A,10Bの内側の側壁(反力用アクチュエータ20に面する側壁)は、反力用アクチュエータ20の可動子20Aに設置された円柱状部材C1,C2に当接している。操作部10において、把持動作が行われた場合及び把持動作から復帰する場合には、レバー10A,10Bの内側の側壁が円柱状部材C1,C2に摺接しながら、可動子20Aが筐体1Aの長手方向に移動することにより、レバー10A,10Bの開閉状態が変化する。
図2Bに示す例においても、復帰用バネ30は、レバー10A,10Bの連結角度が最も大きい状態(最も開いた状態)で自然長となり、レバー10A,10Bが操作される程、伸長された状態となる。そのため、レバー10A,10Bが操作から解放されると、復帰用バネ30の弾性力により、復帰用バネ30が自然長の位置に戻り、レバー10A,10Bは最も開いた状態に復帰する。

【0024】
また、図3は、医療用把持装置1のスレーブ側における機構を示す模式図である。
図3に示すように、医療用把持装置1のスレーブ側では、把持用アクチュエータ50に一対のスライダ・クランク機構を介して把持部材40A,40Bが接続されており、把持用アクチュエータ50(可動子50A)の直動運動を把持部材40A,40Bの回転運動に変換する。
図3に示すようにX軸及びY軸を設定し、回転軸42の位置を原点Oとする。また、図3において、リンク部材41Aの長さをL、リンク部材41Bの長さをL、リンク部材41A,41B及び可動子50Aの連結点を点P1、把持部材40Bとリンク部材41Aとの連結点を点P2、把持部材40Bの先端を点S’、点S’からX軸に下した足を点Se、線分OS’と線分OP2とのなす角をθcとする。
すると、点P1の位置x、把持部材40Bの回転角(X軸と線分OS’とのなす角)θs、線分S’と線分OP2のなす角θcの関係は以下の式で与えられる。

【0025】
【数1】
JP2020005866A_000003t.gif
把持用アクチュエータ50の速度x’と把持部材40Bの角速度θs’との関係は、式(1)の両辺を時間tで微分することにより取得できる。

【0026】
【数2】
JP2020005866A_000004t.gif
なお、θsの最大値は十分小さいため、式(4)の近似を用いることができる。

【0027】
【数3】
JP2020005866A_000005t.gif

【0028】
式(4)より、把持部材40Bの先端の変位yenvは、Y軸方向の成分のみと考えることができる。
一対のスライダ・クランク機構は同一の機構を二つ重ねたものとなるため、原点Oにおける出力トルクτ0と把持部材40A,40Bの先端部が環境から受ける反力Fenvの関係は式(5)、(6)のように表すことができる。
τ0=(1/2Jx)Fs (5)
env=τ0/OS’ (6)
なお、マスタ側と同様に、図3に示す機構と同様に把持動作を行うことができれば、スレーブ側の機構を他の構成とすることも可能である。

【0029】
[バイラテラル制御]
次に、本発明において用いられるバイラテラル制御について説明する。
図4は、本発明において用いられるバイラテラル制御のブロック線図である。
なお、図4において、Kpは位置のゲイン、Kvは速度のゲイン、Kfは力のゲイン、添え字envは環境からの入力、添え字mはマスタのパラメータ、添え字sはスレーブのパラメータ、添え字refは参照値(基準値)、添え字comは和動、添え字difは差動、ハットは推定値を表している。
図4において、外乱オブザーバ(DOB:Disturbance OBserver)は、マスタ(Master robot)及びスレーブ(Slave robot)のアクチュエータに入力される外乱を補償し、反力推定オブザーバ(RFOB:Reaction Force OBserver)は、環境から受ける反力Fenvを推定する。

【0030】
図4に示すバイラテラル制御手法における位置と力の制御目標値は、式(7)、(8)を満たす。
-x=0 (7)
+F=0 (8)
なお、式(7)、(8)において、xはマスタの位置、xはスレーブの位置、Fはマスタが出力する力、Fはスレーブが出力する力を表している。

【0031】
式(7)は、マスタとスレーブとでアクチュエータの位置が追従し合うことを意味し、式(8)は、マスタが出力する力とスレーブが出力する力とが作用・反作用の法則を満たすことを意味する。これらの式を同時に満たすことにより、本発明のバイラテラル制御は、力触覚の伝達を実現する。

【0032】
さらに、本発明のバイラテラル制御手法では、位置と力との追従を充足しながら、動作を増幅・減衰させること(位置あるいは力のスケーリング)が可能である。
このとき、制御目標値は、式(9)、(10)のように表される。
=αX (9)
=-βF (10)
ここで、αとβとして任意の実正数を設定することができる。
これにより、力触覚を増幅・減衰させ、より硬く、あるいは、柔らかく力触覚を伝達することが可能となる。

【0033】
[装置構成の具体例]
次に、本発明に係る医療用把持装置1の具体的な装置構成の例について説明する。
[第1の装置構成例]
図5は、本発明に係る医療用把持装置1の第1の装置構成例を示す模式図である。
なお、図5においては、第1の装置構成例に係る医療用把持装置1の外観構成(斜視図)が示されている。
また、図6は、第1の装置構成例における医療用把持装置1の側面図を示す模式図であり、図7は、第1の装置構成例における医療用把持装置1の上面図を示す模式図である。
なお、図7においては、筐体1Aの上面を透過して主要な内部構成を示している。

【0034】
図5~図7に示すように、第1の装置構成例では、筐体1Aの一端に把持機構40が設置され、筐体1A内において、この一端側に把持用アクチュエータ50が隣接して設置されている。また、筐体1A内において、把持用アクチュエータ50に対し、把持機構40が備えられた一端とは反対の他端側に操作部10が設置され、さらに他端側に反力用アクチュエータ20が設置されている。なお、図5~図7に示す第1の装置構成例では、ストレート型の鑷子と同様の先端形状を有する把持機構40を備えた場合の例を示している。
このような構成とした場合、マスタ側及びスレーブ側の構成を小型化できるため、医療用把持装置1の軽量化及び小型化を図ることができる。

【0035】
[第1の装置構成例の変形例]
図8は、第1の装置構成例の変形例を示す模式図である。
なお、図8においては、第1の装置構成例の変形例に係る医療用把持装置1の外観構成(斜視図)が示されている。
また、図9は、第1の装置構成例の変形例における医療用把持装置1の側面図を示す模式図であり、図10は、第1の装置構成例の変形例における医療用把持装置1の上面図を示す模式図である。
なお、図10においては、筐体1Aの上面を透過して主要な内部構成を示している。

【0036】
図8~図10に示す変形例は、バヨネット型の鑷子と同様の先端形状を有する把持機構40が備えられている点で、図5~図7に示す第1の装置構成例と異なっている。即ち、図8~図10に示す変形例では、把持部材40A,40Bが筐体1Aの上面よりも突出した位置(筐体1Aの延在方向に対してオフセットされた位置)に配置される。
このような構成とすることにより、操作者にとって、把持対象物をより視認し易い構造とすることができる。

【0037】
[第2の装置構成例]
図11は、本発明に係る医療用把持装置1の第2の装置構成例を示す模式図である。
なお、図11においては、第2の装置構成例に係る医療用把持装置1の外観構成(斜視図)が示されている。
また、図12は、第2の装置構成例における医療用把持装置1の側面図を示す模式図であり、図13は、第2の装置構成例における医療用把持装置1の上面図を示す模式図である。
なお、図12及び図13においては、筐体1Aの側面及び上面を透過して主要な内部構成を示している。

【0038】
図11~図13に示すように、第2の装置構成例では、筐体1Aの一端に把持機構40が設置され、把持機構40は、筐体1Aの上面における一端側に形成された開口部から筐体1Aの長手方向に延在している。また、筐体1A内において、この一端側に操作部10が設置されている。さらに、筐体1A内において、操作部10に対し、把持機構40が備えられた一端とは反対の他端側に反力用アクチュエータ20が設置され、さらに他端側に把持用アクチュエータ50が設置されている。図11~図13に示す第2の装置構成例では、筐体1A内において、把持機構40が上面の開口部から操作部10及び反力用アクチュエータ20の上部(医療用把持装置1における上面側)を経由して延在し、把持用アクチュエータ50に連結されている。なお、図11~図13に示す第1の装置構成例では、バヨネット型の鑷子と同様の先端形状を有する把持機構40を備えた場合の例を示している。
このような構成とした場合、操作部10を把持機構40に近い位置に設置できるため、医療用把持装置1の重心を操作者の手の甲に載置される位置に設定し易くなる。
また、図11~図13に示す第2の装置構成例では、把持部材40A,40Bが筐体1Aの上面よりも突出した位置(筐体1Aの延在方向に対してオフセットされた位置)に配置される。
このような構成とすることにより、操作者にとって、把持対象物をより視認し易い構造とすることができる。

【0039】
[第2の装置構成例の変形例]
図14は、第2の装置構成例の変形例を示す模式図である。
なお、図14においては、第2の装置構成例の変形例に係る医療用把持装置1の外観構成(斜視図)が示されている。
また、図15は、第2の装置構成例の変形例における医療用把持装置1の側面図を示す模式図であり、図16は、第2の装置構成例の変形例における医療用把持装置1の上面図を示す模式図である。
なお、図15及び図16においては、筐体1Aの側面及び上面を透過して主要な内部構成を示している。

【0040】
図14~図16に示す変形例は、把持機構40が筐体1Aの一端に形成された開口部から筐体1Aの長手方向に延在していると共に、反力用アクチュエータ20の可動子20A及び把持用アクチュエータ50の可動子50Aが筐体1Aの幅方向に移動する向きに設置されている点で、図11~図13に示す第2の装置構成例と異なっている。
また、図14~図16に示す変形例では、操作部10は、レバー10A,10Bに代えて、筐体1Aの一方の側面に押し込み操作を行う押し込み部材10Dを備えている。

【0041】
図14~図16に示す変形例において、反力用アクチュエータ20は、固定子20Bを筐体1A内の押し込み部材10Dと反対側の側面に固定され、可動子20Aの先端を押し込み部材10Dの内面(筐体1A側の面)に連結されている。即ち、押し込み部材10Dの押し込み操作により、可動子20Aは固定子20Bに進入する方向に移動する。また、復帰用バネ30は、一端を反力用アクチュエータ20の可動子20Aに連結され、他端を押し込み部材10Dが設置されている側の筐体1A内の側面に連結されている。復帰用バネ30は、押し込み部材10Dが最も突出した状態で自然長となり、押し込み部材10Dが押し込まれる程、伸長された状態となる。そのため、押し込み部材10Dが操作から解放されると、復帰用バネ30の弾性力により、押し込み部材10Dは最も突出した状態に復帰する。

【0042】
また、把持用アクチュエータ50は、可動子50Aが筐体1Aの幅方向に移動する動作(直線運動)により、把持部材40A,40Bの一方を他方に対して離間または近接させる。この場合、可動子50Aと把持部材40A,40Bとを連結するためのスライダ・クランク機構等の構成が不要となる。
このような構成とすることにより、マスタ側及びスレーブ側に設置する機構を削減することができ、医療用把持装置1の軽量化及び小型化を図ることができる。
また、図14~図16に示す変形例では、把持部材40A,40Bが筐体1Aの上面よりも突出した位置(筐体1Aの延在方向に対してオフセットされた位置)に配置される。
このような構成とすることにより、操作者にとって、把持対象物をより視認し易い構造とすることができる。

【0043】
[動作]
次に、医療用把持装置1の動作を説明する。
上述のように、医療用把持装置1が操作者によって操作される場合、操作者は、人差し指と親指でレバー10A,10Bを挟み込むように把持し、医療用把持装置1を手の甲(第1指間腔)に載置した状態で操作する。
本実施形態において、操作部10のレバー10A,10Bは、復帰用バネ30の弾性力により、初期状態(非操作時)において、最も開いた状態となっている。
そのため、医療用把持装置1の電源投入時には、把持機構40も手動によって、または、復帰用バネ30に相当するバネを設置し、このバネの弾性力によって、把持部材40A,40Bが最も開いた状態とされる。

【0044】
医療用把持装置1の電源が投入されると、反力用アクチュエータ20の位置センサ20Cが可動子20Aの位置xを検出すると共に、把持用アクチュエータ50の位置センサ50Cが可動子50Aの位置xを検出する。そして、これらの検出結果は、制御部60に出力される。
制御部60は、可動子20Aの位置xから算出される加速度にマスタ側の質量を乗算して、マスタ側で出力される力Fを算出する。同様に、制御部60は、可動子50Aの位置xから算出される加速度にスレーブ側の質量を乗算して、スレーブが出力する力Fを算出する。

【0045】
そして、制御部60は、可動子20Aの位置xと、マスタ側で出力される力Fと、可動子50Aの位置xと、スレーブが出力する力Fとに基づいて、式(7)、(8)に従ってバイラテラル制御を行う。
これにより、マスタとスレーブとでアクチュエータの位置が追従し合うと共に、マスタが出力する力とスレーブが環境から受ける反力とが作用・反作用の法則を満たすように制御が行われることとなる。

【0046】
ここで、操作者が把持部材40A,40Bの間に把持対象物を位置させ、マスタ側において、レバー10A,10Bを把持する動作を行ったとする。
すると、上述のようにバイラテラル制御が行われ、レバー10A,10Bの操作量に応じて、把持部材40A,40Bが閉じるように把持用アクチュエータ50が可動子50Aを移動させる。
そして、把持部材40A,40Bが把持対象物に接触すると、把持用アクチュエータ50に対する環境からの反力Fenvが入力される。
この反力Fenvは、反力推定オブザーバによって推定され、把持対象物の硬さを表すデータとなる。

【0047】
医療用把持装置1においては、マスタとスレーブとでアクチュエータの位置が追従し合うと共に、マスタが出力する力とスレーブが環境から受ける反力とが作用・反作用の法則を満たすように制御が行われることから、把持用アクチュエータ50に入力された反力Fenvは、反力用アクチュエータ20が出力する力としてフィードバックされる。また、把持部材40A,40Bが把持対象物に接触した結果、把持力に応じて定まる位置は、反力用アクチュエータ20が出力する位置(レバー10A,10Bの位置)としてフィードバックされる。
このとき、必要に応じて、バイラテラル制御における位置または力のスケーリングが行われ、操作者に対し、位置または力の規模が拡大あるいは縮小して伝達される。

【0048】
なお、マスタ・スレーブ間で位置及び力のフィードバック制御が行われる際に、外乱オブザーバによって外乱が補償され、安定した制御が行われる。
このような動作により、医療用把持装置1においては、反力用アクチュエータ20と把持用アクチュエータ50との間でバイラテラル制御が行われる結果、操作部10に対する把持動作のための操作と、把持機構40における把持動作との間で、力触覚の伝達が実現される。
また、反力推定オブザーバの機能により、バイラテラル制御において取得されるパラメータから、把持対象物の硬さのデータを取得することができる。

【0049】
さらに、位置または力のスケーリングを伴うバイラテラル制御が行われることにより、操作者に対し、位置または力の規模を拡大あるいは縮小して伝達することができる。
即ち、医療用把持装置1によれば、鑷子として使用可能であり、鑷子以上の機能を備えた医療用把持装置を実現することができる。

【0050】
[効果]
次に、医療用把持装置1の効果を説明する。
なお、以下の実験においては、表1に示すパラメータを用いた。

【0051】
【表1】
JP2020005866A_000006t.gif

【0052】
[実験1]
実験1として、本発明に係る医療用把持装置1が環境剛性を測定可能であることを検証する実験(引張りバネの剛性測定)を行った。
把持機構40が環境に力を与え、反力Fenvを受けるとき、反力Fenvと環境剛性kenvの関係は、式(11)で表される。
-Fenv=kenv(yenv-yenv0) (11)
ここで、環境剛性を正確に推定するため、式(11)に代えて、時間tとそれ以前の時間t-Δtのサンプルにおける位置と力の変化量により、環境剛性を動的に推定する手法が知られている。このとき、kenvは、式(12)で表される。

【0053】
【数4】
JP2020005866A_000007t.gif

【0054】
図17は、実験1の実験条件を示す模式図である。
実験1においては、バネ定数が既知の引張りバネを環境として用いた。
なお、ここで用いられる引張りバネのバネ定数k1は0.14×10[N/m]である。
図17に示すように、引張りバネをY軸に平行になるよう設置し、一端を固定すると共に、他端を鑷子の先端でつまんで引っ張った。このとき、スケーリングを行うことなく(α=1、β=1)、把持機構40が環境から受ける反力と、把持機構40の変位とを測定し、環境剛性を算出した。

【0055】
図18Aは、マスタ側及びスレーブ側それぞれにおけるアクチュエータ(ここではボイスコイルモータを用いた)の位置の時間応答測定結果を示す図である。また、図18Bは、スレーブの把持用アクチュエータ50が環境から受ける反力の逆値を示す図である。
引張りバネを把持する動作はt=0.9[s]からt=1.3[s]の間に行われている。なお、図18Bにおいては、比較を容易にするため、スレーブの把持用アクチュエータ50が環境から受ける反力の逆値を示している。

【0056】
図18A及び図18Bを参照すると、本発明に係る医療用把持装置1において、バイラテラル制御が正常に動作していることがわかる。
また、図19は、実験1における把持機構40の変位に対する反力の変化を示す図である。
把持用アクチュエータ50の位置や力の応答を把持機構40の位置や力の応答に変換するために、式(1)、(3)~(6)を用いた。

【0057】
この計算結果により、環境に用いた引張りバネのバネ定数の実験値を計算する。
図19に示すように、初期値(yenv0、Fenv0)は、(-0.00361[mm]、0.209[N])であった。
最終的に、環境に用いたバネの位置は一定となる。
よって、最終値(yenv、Fenv)は、(-0.00013[mm],0.675[N])となる。
これらの値と式(12)より、環境剛性の実験値kenv’は、0.134×10[N/m]となる。
この値は、与えられたバネ定数k1とほぼ一致し、絶対誤差率は4.29[%]となった。
これにより、モータ空間の力と位置の応答から環境剛性を正しく推定できたといえる。

【0058】
[実験2]
実験2として、第1の装置構成例における医療用把持装置1を用いて、正常な脳細胞とがん化した脳細胞のモデルを硬さにより識別する実験を行った。
具体的には、脳外科手術におけるがん細胞の摘出を想定し、外科医との協議の下、正常な脳細胞のモデルとして「絹豆腐」(“Soft tofu”)、がん化した脳細胞のモデルとして「木綿豆腐」(“Firm tofu”)を用いた。

【0059】
図20は、実験2の実験条件を示す模式図である。
図20に示すように、操作者はマスタ側のレバー10A,10Bを操作することにより、把持機構40を介して、スレーブ側に設置された豆腐を把持する。
絹豆腐2種類、木綿豆腐2種類(サンプルの奇数番号を絹豆腐、偶数番号を木綿豆腐とし、1,2,3,4の番号が付されている)の合計4種類の異なる豆腐を把持対象物として用いた。
また、スケーリングの倍率として、2通りの組み合わせ(α=1、β=1)及び(α=1、β=2)を設定し、力が等倍である場合(スケーリングなし)と、スレーブに入力された反力を2倍にしてマスタに伝達する場合(力を2倍とするスケーリング)とについて実験を行った。

【0060】
図21Aは、スケーリングを行うことなくサンプルを把持した実験結果を示す図であり、図21Bは、力を2倍とするスケーリングを行ってサンプルを把持した実験結果を示す図である。
なお、図21A及び図21Bにおいては、マスタのモータ空間(反力用アクチュエータ20)における位置に対する力の変化を示している。
図21A及び図21Bに示すように、ある区間における環境剛性はそのグラフの傾きとして視覚的に読み取ることができる。この傾きが大きい程、剛性kは大きくなり、硬い環境であることを示している。

【0061】
図21Aを参照すると、力が等倍のバイラテラル制御において、4種類の豆腐の硬さの違いがはっきりと現れていることがわかる。そして、2種類の絹豆腐のいずれよりも、2種類の木綿豆腐が硬いという結果が得られ、実験2の妥当性を確認することができる。
さらに、図21Bを参照すると、スケーリングを行ってマスタの力をスレーブの力の2倍とした場合、硬さ(傾き)の違いがより顕著に現れていることがわかる。
これらの結果より、バイラテラル制御のスケーリング手法の有用性が確認できる。

【0062】
なお、本発明は、本発明の効果を奏する範囲で変形、改良等を適宜行うことができ、上述の実施形態に限定されない。
例えば、図5~図7に示す第1の装置構成例及び図8~図10に示す第1の装置構成例の変形例において、図11~図13に示す第2の装置構成例等と同様に、小型のエンコーダを筐体1Aに内蔵する形態とすることも可能である。この場合、筐体1Aの外形を単純化することができ、医療用把持装置1の操作性を高めることができる。

【0063】
また、上述の実施形態において、医療用把持装置1の把持機構40を複数種類用意しておき、アタッチメントとして交換可能な構成とすることとしてもよい。この場合、例えば、把持部材40A,40B及びリンク部材41A,41Bをアタッチメントとしてユニット化し、これらを異なる種類のものに交換する構成とすること等が可能である。また、制御部60は、交換されたアタッチメントの構造に応じたパラメータの設定を受け付け、交換後には、新たに取り付けられた把持機構40の構成に応じた制御を行う。
これにより、医療用把持装置1の用途を拡大でき、利便性を高めることができる。

【0064】
また、上述の実施形態において、把持機構40を取付軸の回りに回転可能な構成とすることができる。即ち、筐体1Aの長手方向の軸回りに把持機構40を回転させ、操作者の把持操作と、把持機構40の把持動作とが捩れた状態で行われるものとしてもよい。この場合、把持用アクチュエータ50と把持機構40とは、軸回りに回転しても開閉動作が可能な連結形態で連結される。
これにより、把持対象物の状態に応じて、より適切な操作を行うことが可能となる。

【0065】
以上のように、本実施形態における医療用把持装置1は、操作部10と、反力用アクチュエータ20と、把持機構40と、把持用アクチュエータ50と、筐体1Aと、制御部60とを備える。
操作部10は、操作者の把持動作によって操作される。
反力用アクチュエータ20は、操作部10に操作反力を付与する。
把持機構40は、把持対象物を把持する。
把持用アクチュエータ50は、把持機構40に把持動作を行わせる。
筐体1Aは、一端に把持機構40を有すると共に、当該一端と他端との間に操作部10を有し、反力用アクチュエータ20及び把持用アクチュエータ50が設置される。
制御部60は、操作部10に対する操作に応じて、把持機構40の動作において把持用アクチュエータ50が出力する力及び位置を制御すると共に、把持機構40に対する把持対象物からの反作用に応じて、操作部10に操作反力を付与する動作において反力用アクチュエータ20が出力する力及び位置を制御する。
これにより、操作者は、医療器具の鑷子を使用する場合と同様の使用感覚で、バイラテラル制御により力触覚が伝達される鑷子に類する形態の医療用把持装置を操作することができる。
したがって、本発明によれば、鑷子として使用可能であり、鑷子以上の機能を備えた医療用把持装置を実現することができる。

【0066】
医療用把持装置1は、装置全体の重心の位置が操作部10よりも他端側(把持機構40に対して反対側)に設定されている。
これにより、操作者は医療用把持装置1の重量を感じ難くなり、医療用把持装置1の操作性を高めることができる。

【0067】
把持機構40は、筐体1Aの延在方向に対し、オフセットされた位置に配置されている。
これにより、操作者にとって、把持対象物をより視認し易い構造とすることができる。

【0068】
医療用把持装置1において、反力用アクチュエータ20よりも把持用アクチュエータ50の方が他端側に設置されている。
これにより、操作部10を把持機構40に近い位置に設置できるため、医療用把持装置1の重心を操作者の手の甲に載置される位置に設定し易くなる。

【0069】
医療用把持装置1は、操作部10よりも他端側に、操作者の手を受容する凹部を備える。
これにより、操作者の手の形状に馴染み易い構成とすることができる。

【0070】
医療用把持装置1は、操作部10を非操作時に初期位置に復帰させる弾性力を発生させる弾性部材(復帰用バネ30)を備える。
これにより、操作者が操作を行っていない場合に、操作部10を初期位置に復帰させることができるため、医療器具の鑷子と同様の操作性を実現することができる。また、操作反力の一部を弾性部材の弾性力によって担うことができる。

【0071】
制御部60は、弾性部材(復帰用バネ30)の弾性力を減算して、操作部10に操作反力を付与する動作において反力用アクチュエータ20が出力する力を制御する。
これにより、弾性部材が備えられた場合であっても、適切な操作反力を付加することが可能となる。

【0072】
制御部60は、弾性部材(復帰用バネ30)の弾性力に反力用アクチュエータ20による力を加えることにより、操作部10において、弾性部材の弾性定数とは異なる弾性定数の弾性部材による感触を実現する。
これにより、操作者がより操作し易い状態に医療用把持装置1を調整することができ、より高い操作性を実現することが可能となる。

【0073】
なお、上述の実施形態においては、位置センサ20C,50Cによって可動子20A,50Aの位置を検出するものとしたが、これに限られない。即ち、可動子20A,50Aの位置は、センサによって検出することが可能であると共に、アクチュエータの指令値等を基に推定することも可能である。

【0074】
また、上述の実施形態においてブロック線図として示した構成は、同等の機能が定義されたソフトウェアとして実現することが可能である。この場合、制御部60に備えられたプロセッサが、上述の実施形態におけるブロック線図の機能が記述されたプログラムを実行する。また、上述の実施形態においてブロック線図として示した構成は、ハードウェアの回路として実現することが可能であり、また、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせとして実現することも可能である。
即ち、上述の実施形態における処理は、ハードウェア及びソフトウェアのいずれにより実行させることも可能である。
換言すると、上述の処理を実行できる機能が医療用把持装置1に備えられていればよく、この機能を実現するためにどのような機能構成及びハードウェア構成とするかは上述の例に限定されない。
上述の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータにネットワークや記憶媒体からインストールされる。

【0075】
プログラムを記憶する記憶媒体は、装置本体とは別に配布されるリムーバブルメディア、あるいは、装置本体に予め組み込まれた記憶媒体等で構成される。リムーバブルメディアは、例えば、磁気ディスク、光ディスク、または光磁気ディスク等により構成される。光ディスクは、例えば、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory),DVD(Digital Versatile Disk),Blu-ray Disc(登録商標)等により構成される。光磁気ディスクは、MD(Mini-Disk)等により構成される。また、装置本体に予め組み込まれた記憶媒体は、例えば、プログラムが記憶されているROMやハードディスク等で構成される。
【符号の説明】
【0076】
1 医療用把持装置、1A 筐体、10 操作部、10A,10B レバー、10D 押し込み部材、11,42 回転軸、20 反力用アクチュエータ、20A,50A 可動子、20B,50B 固定子、20C,50C 位置センサ、30 復帰用バネ、40 把持機構、40A,40B 把持部材、41A,41B リンク部材、50 把持用アクチュエータ、60 制御部、61 位置・力制御部、62 物理量取得部
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10
【図11】
11
【図12】
12
【図13】
13
【図14】
14
【図15】
15
【図16】
16
【図17】
17
【図18A】
18
【図18B】
19
【図19】
20
【図20】
21
【図21A】
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【図21B】
23