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明細書 :酸化銅電極の製造方法、酸化銅電極、および湿式太陽電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-046999 (P2019-046999A)
公開日 平成31年3月22日(2019.3.22)
発明の名称または考案の名称 酸化銅電極の製造方法、酸化銅電極、および湿式太陽電池
国際特許分類 H01G   9/20        (2006.01)
FI H01G 9/20 111C
H01G 9/20 111A
H01G 9/20 111D
H01G 9/20 111Z
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2017-169674 (P2017-169674)
出願日 平成29年9月4日(2017.9.4)
発明者または考案者 【氏名】盛 田 元 彰
【氏名】元 田 慎 一
出願人 【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091982、【弁理士】、【氏名又は名称】永井 浩之
【識別番号】100091487、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 行孝
【識別番号】100082991、【弁理士】、【氏名又は名称】佐藤 泰和
【識別番号】100105153、【弁理士】、【氏名又は名称】朝倉 悟
【識別番号】100152205、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 昌司
審査請求 未請求
要約 【課題】光腐食を防止するとともに、優れた特性を有する酸化銅電極を提供する。
【解決手段】実施形態による酸化銅電極の製造方法は、ステンレス鋼基材11を準備する工程と、ステンレス鋼基材11の表面に銅膜を形成する工程と、銅膜が形成されたステンレス鋼基材11を加熱することにより、銅膜を酸化してp型の酸化物半導体(酸化銅膜12)を形成するとともに、ステンレス鋼基材11と銅膜との界面におけるステンレス鋼基材11を酸化してn型の酸化物半導体(酸化物11a)を形成する工程と、を備える。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
ステンレス鋼基材を準備する準備工程と、
前記ステンレス鋼基材の表面に銅膜を形成する銅膜形成工程と、
前記銅膜が形成されたステンレス鋼基材を加熱することにより、前記銅膜を酸化してp型の酸化物半導体を形成するとともに、前記ステンレス鋼基材と前記銅膜との界面における前記ステンレス鋼基材を酸化してn型の酸化物半導体を形成する熱処理工程と、
を備えることを特徴とする酸化銅電極の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程において、200℃以上、400℃以下の温度で、前記ステンレス鋼基材と前記銅膜を加熱することを特徴とする請求項1に記載の酸化銅電極の製造方法。
【請求項3】
前記準備工程において、オーステナイト系、二相系または析出硬化系のステンレス鋼からなるステンレス鋼基材を準備することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化銅電極の製造方法。
【請求項4】
前記銅膜形成工程において、前記ステンレス鋼基材の表面に銅を蒸着させることにより前記銅膜を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の酸化銅電極の製造方法。
【請求項5】
前記準備工程の後、前記銅膜形成工程の前において、前記ステンレス鋼基材を研磨し、洗浄を行う工程をさらに備えることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の酸化銅電極の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程の後に、
前記酸化された銅膜の反応面を除き、前記酸化された銅膜の表面および前記ステンレス鋼基材を被覆するように絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程をさらに備えることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の酸化銅電極の製造方法。
【請求項7】
ステンレス鋼基材と、
前記ステンレス鋼基材の表面に形成され、p型の酸化物半導体である酸化銅膜と、を備え、
前記ステンレス鋼基材と前記酸化銅膜との界面に前記ステンレス鋼基材の酸化物が形成されており、前記酸化物はn型の酸化物半導体であることを特徴とする酸化銅電極。
【請求項8】
前記ステンレス鋼基材は、オーステナイト系、二相系または析出硬化系のステンレス鋼からなることを特徴とする請求項7に記載の酸化銅電極。
【請求項9】
前記n型の酸化物半導体は、Fe系酸化物であることを特徴とする請求項7または8に記載の酸化銅電極。
【請求項10】
電解質溶液と、
請求項7~9のいずれかに記載の酸化銅電極により構成され、前記電解質溶液に浸されたカソード電極と、
前記電解質溶液に浸されたアノード電極と、
を備えることを特徴とする湿式太陽電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化銅電極の製造方法、酸化銅電極、および湿式太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解質溶液、二酸化チタン電極および白金電極を備える湿式太陽電池が知られている。この湿式太陽電池では、光が照射されると、光触媒効果により発電が行われる。白金は高価であるため、湿式太陽電池の低コスト化を図るべく、白金に代わる電極材料が研究されている。
【0003】
特許文献1には、銅イオンと硝酸イオンが共存する溶液に、少なくともその表面が電気伝導性である基板を浸漬し、カソード反応により酸化第一銅(CuO)を堆積する方法およびこの酸化銅を利用して太陽電池や整流器などの大面積半導体素子を作る方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、酸化銅電極の製造方法が記載されている。この製造方法では、銅の二価化合物とアルミニウム塩とを混合し、その混合物を熱分解してアルミニウムイオンを固溶した酸化第二銅(CuO)を得る。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開平10-183392号公報
【特許文献2】特開昭53-76321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
白金電極に代わり得る安価な電極として、酸化銅電極が検討されている。酸化銅電極は、金属基材の上に酸化銅膜が形成された電極である。
【0007】
しかしながら、従来の酸化銅電極光を照射すると、酸化銅膜が腐食する(すなわち、光腐食が生じる)という課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、光腐食を防止するとともに、優れた特性を有する酸化銅電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る酸化銅電極の製造方法は、
ステンレス鋼基材を準備する準備工程と、
前記ステンレス鋼基材の表面に銅膜を形成する銅膜形成工程と、
前記銅膜が形成されたステンレス鋼基材を加熱することにより、前記銅膜を酸化してp型の酸化物半導体を形成するとともに、前記ステンレス鋼基材と前記銅膜との界面における前記ステンレス鋼基材を酸化してn型の酸化物半導体を形成する熱処理工程と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記酸化銅電極の製造方法において、
前記熱処理工程において、200℃以上、400℃以下の温度で、前記ステンレス鋼基材と前記銅膜を加熱するようにしてもよい。
【0011】
また、前記酸化銅電極の製造方法において、
前記準備工程において、オーステナイト系、二相系または析出硬化系のステンレス鋼からなるステンレス鋼基材を準備してもよい。
【0012】
また、前記酸化銅電極の製造方法において、
前記銅膜形成工程において、前記ステンレス鋼基材の表面に銅を蒸着させることにより前記銅膜を形成してもよい。
【0013】
また、前記酸化銅電極の製造方法において、
前記準備工程の後、前記銅膜形成工程の前において、前記ステンレス鋼基材を研磨し、洗浄を行う工程をさらに備えてもよい。
【0014】
また、前記酸化銅電極の製造方法において、
前記熱処理工程の後に、
前記酸化された銅膜の反応面を除き、前記酸化された銅膜の表面および前記ステンレス鋼基材を被覆するように絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程をさらに備えてもよい。
【0015】
本発明に係る酸化銅電極は、
ステンレス鋼基材と、
前記ステンレス鋼基材の表面に形成され、p型の酸化物半導体である酸化銅膜と、を備え、
前記ステンレス鋼基材と前記酸化銅膜との界面に前記ステンレス鋼基材の酸化物が形成されており、前記酸化物はn型の酸化物半導体であることを特徴とする。
【0016】
また、前記酸化銅電極において、
前記ステンレス鋼基材は、オーステナイト系、二相系または析出硬化系のステンレス鋼からなるようにしてもよい。
【0017】
また、前記酸化銅電極において、
前記n型の酸化物半導体は、Fe系酸化物であるようにしてもよい。
【0018】
本発明に係る湿式太陽電池は、
電解質溶液と、
前記酸化銅電極により構成され、前記電解質溶液に浸されたカソード電極と、
前記電解質溶液に浸されたアノード電極と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光腐食を防止するとともに、優れた特性を有する酸化銅電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る湿式太陽電池の概略的な構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る酸化銅電極の概略的な構成を示す断面図である。
【図3】実施形態に係る酸化銅電極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】酸化銅電極の特性を評価するための実験系の概略的な構成を示す図である。
【図5】光照射前後における酸化銅電極の表面状態を示す図である。
【図6】熱処理温度が異なる複数の酸化銅電極の電極電位の時間変化を示すグラフである。
【図7】熱処理時間が異なる複数の酸化銅電極の電極電位の時間変化を示すグラフである。
【図8A】光照射前後における、ステンレス鋼基材(熱処理温度250℃)の電極電位の時間変化を示すグラフである。
【図8B】光照射前後における、ステンレス鋼基材(熱処理温度550℃)の電極電位の時間変化を示すグラフである。
【図8C】光照射前後における、ステンレス鋼基材(熱処理なし)の電極電位の時間変化を示すグラフである。
【図9】熱処理温度が異なる複数のステンレス鋼基材の電極電位の時間変化を示すグラフである。
【図10】ステンレス鋼基材(熱処理温度250℃)のXPS解析結果を示すグラフである。
【図11】ステンレス鋼基材(熱処理温度550℃)のXPS解析結果を示すグラフである。
【図12】ステンレス鋼基材の表面に形成される酸化物の半導体特性(n型、p型)を熱処理温度およびステンレス鋼の種類ごとにまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。

【0022】
<湿式太陽電池>
まず、図1を参照して、本実施形態に係る湿式太陽電池100について説明する。

【0023】
湿式太陽電池100は、図1に示すように、酸化銅電極10と、酸化チタン電極20と、容器30と、容器に入れられた電解質溶液40と、を有している。酸化銅電極10と酸化チタン電極20は、電解質溶液40に浸されている。電解質溶液40は、例えばフェロセン溶液である。

【0024】
酸化銅電極10は、湿式太陽電池100のカソード電極(陽極)である。酸化チタン電極20は、湿式太陽電池100のアノード電極(陰極)である。この酸化チタン電極20は、二酸化チタン(TiO)から構成される。なお、酸化チタン電極20は、二酸化チタン以外の材料から構成されてもよい。

【0025】
酸化銅電極10は、後述する方法によって製造された電極である。この酸化銅電極10は、光照射時の電極電位(光電位)が高いという特性を有するとともに、光腐食性が抑制され且つ酸化銅膜が剥がれにくいという高耐久性を備えている。

【0026】
酸化銅電極10は、図2に示すように、ステンレス鋼基材11と、酸化銅膜12と、リード線13と、絶縁膜14と、を有している。

【0027】
ステンレス鋼基材11は、ステンレス鋼からなる。ステンレス鋼は、オーステナイト系(Cr-Ni系)、二相系または析出硬化系のステンレス鋼である。

【0028】
ステンレス鋼基材11は、例えば板状のステンレス板である。なお、ステンレス鋼基材11は板状に限られず、他の形状(例えば棒状)であってもよい。

【0029】
酸化銅膜12は、ステンレス鋼基材11の表面に形成されている。この酸化銅膜12は、p型の酸化物半導体である。酸化銅膜12は、主として酸化第二銅(CuO)から構成されている。酸化銅膜12は、酸化第二銅を含んでいてもよい。

【0030】
図2に示すように、ステンレス鋼基材11と酸化銅膜12との界面には酸化膜11aが形成されている。この酸化物11aは、ステンレス鋼基材11の酸化物であり、詳しくは後述するが、n型半導体の特性を示す酸化物(すなわち、n型の酸化物半導体)である。

【0031】
リード線13は、ステンレス鋼基材11と半田により電気的に接続されている。このリード線13を介して酸化銅電極10の外部に電気が取り出される。

【0032】
絶縁膜14は、エポキシ樹脂等の絶縁性材料からなる。この絶縁膜14により、酸化銅膜12の反応面12s以外からの電位が絶縁される。

【0033】
絶縁膜14は、図2に示すように、酸化銅膜12の反応面12sを除き、ステンレス鋼基材11と酸化銅膜12の表面を被覆するように設けられている。ここで、酸化銅膜12の反応面とは、電解質溶液40と接することになる面をいい、図2の例では酸化銅膜12の上面である。

【0034】
図1に示すように、湿式太陽電池100に紫外線を含む光を照射すると、光触媒効果により、酸化チタン電極20で酸素が発生し、酸化銅電極10で水素が発生する。このように酸化銅電極10における還元反応と、酸化チタン電極20における酸化反応により、酸化銅電極10と酸化チタン電極20との間に電流が流れる。

【0035】
本実施形態に係る湿式太陽電池100は、カソード電極として白金電極ではなく酸化銅電極を利用するため、大幅なコストの低減を図ることができる。さらに、酸化銅電極10の光電位が高いので、高い電圧を出力することができる。

【0036】
<酸化銅電極の製造方法>
次に、酸化銅電極10の製造方法について、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。

【0037】
まず、ステンレス鋼基材11を準備する(ステップS11、準備工程)。本準備工程では、オーステナイト系(Cr-Ni系)、二相系または析出硬化系のステンレス鋼からなるステンレス鋼基材11を準備する。ここでは、ステンレス鋼基材11として、二相系ステンレス鋼(SUS329J4L)で、大きさが40mm×40mm×1mmの正方形の板状ステンレス板を準備した。

【0038】
次に、ステンレス鋼基材11を研磨し、洗浄する(ステップS12、研磨洗浄工程)。ここでは、#60の研磨紙でステンレス鋼基材11を格子状に研磨した後、ステンレス鋼基材11をアセトン溶液に浸け、超音波洗浄を行った。

【0039】
次に、ステンレス鋼基材11の表面に銅膜を形成する(ステップS13、銅膜形成工程)。例えば、ステンレス鋼基材11の表面に銅を蒸着させることにより銅膜を形成する。ここでは、真空蒸着装置(日本電子(株)製JEE-SS)を用いて、電流値40A、電圧値1.3V、真空度3×10-5mmHgの条件で30秒間、銅の蒸着を行った。これにより、厚さ約0.3μmの銅膜がステンレス鋼基材11の表面に形成された。

【0040】
なお、銅膜は、蒸着で形成する場合に限られず、他の手法(例えば、無電界めっきなどのめっき手法)を用いて形成してもよい。

【0041】
次に、銅膜が形成されたステンレス鋼基材11を加熱する(ステップS14、熱処理工程)。ここでは、熱処理工程は、マッフル炉(ヤマト科学(株)製FO610)を用いて行った。熱処理温度は、150、200、250、350、400、450、550℃の7種類とし、熱処理時間はいずれの熱処理温度についても30分間とした。

【0042】
後述のように、銅膜およびステンレス鋼基材11を加熱する温度(熱処理温度)は、200℃以上、400℃以下であることが好ましい。

【0043】
本熱処理工程により、銅膜を酸化してp型の酸化物半導体(すなわち、酸化銅膜12)を形成するとともに、ステンレス鋼基材11と銅膜との界面におけるステンレス鋼基材11を酸化してn型の酸化物半導体(すなわち、酸化物11a)を形成する。このように、本熱処理工程において、酸化銅膜12からなるp型酸化物半導体と、ステンレス鋼基材11の酸化物11aからなるn型酸化物半導体の両方が形成される。

【0044】
次に、ステンレス鋼基材11に電荷取り出し用のリード線13を電気的に接続する(ステップS15、リード線接続工程)。具体的には、リード線13をステンレス鋼基材11に半田付けする。その後、酸化銅膜12の反応面12sを除き、ステンレス鋼基材11および酸化銅膜12の表面を被覆するように絶縁膜14を形成する(ステップS16、絶縁膜形成工程)。

【0045】
上記の工程を経て酸化銅電極10が得られる。この製造方法では、熱処理工程において、ステンレス鋼基材11上の銅膜を酸化させて酸化銅膜12を形成するとともに、ステンレス鋼基材11の表面を酸化させてn型半導体特性を示す酸化物11aをステンレス鋼基材11と銅膜との界面に形成する。これにより、詳しくは実験結果を参照して後ほど説明するが、光腐食を抑制することができ、かつ光電位が高い電極が得られる。

【0046】
また、上記の説明から明らかなように、本実施形態に係る酸化銅電極の製造方法は、特別な装置や工程を必要としない。よって、本実施形態によれば、耐久性および特性に優れた酸化銅電極を安価かつ簡易に製造することができる。

【0047】
<酸化銅電極の特性評価>
上記の製造方法により作製された酸化銅電極10に対して行った特性評価について説明する。具体的には、光照射前後における酸化銅電極10の表面状態の観察と、酸化銅電極10の電極電位の測定を行った。

【0048】
まず、実験系について図4を参照して説明する。この実験系は、図4に示すように、光源210、容器220、参照電極230、ポテンショスタット240およびパソコン(PC)250により構成されている。

【0049】
光源210は、キセノンランプであり、紫外線を含む光を容器220に向けて放射する。光源210の定格は150Wであり、光の波長範囲は250~800nmである。また、光源210の光量は10.5mW/cmである。

【0050】
容器220には、電解質溶液が入れられている。ここでは、電解質溶液として、海上のブイ等の電源を想定して人工海水を用いた。容器220の側面には石英窓221が設けられている。酸化銅電極10は、酸化銅膜12が石英窓221に対向するように、容器220の側面に取り付けられている。酸化銅電極10のリード線13は、ポテンショスタット240の+端子に電気的に接続されている。

【0051】
参照電極230は、容器220内の人工海水に浸されるとともに、ポテンショスタット240の-端子に電気的に接続されている。ポテンショスタット240はパソコン250に接続されている。パソコン250は、ポテンショスタット240により測定されたデータ(電極電位等)を記録する。

【0052】
図4の実験系を用いて、酸化銅電極10の電極電位の測定を行った。熱処理温度が150℃、200℃、250℃、350℃、400℃、450℃、550℃の各サンプルについて評価した。

【0053】
電極電位の測定結果を説明する前に、光照射前後における酸化銅電極の表面状態について説明する。図5は、光照射前後における酸化銅電極の表面状態をまとめた図である。図5の上段は光源210による光照射前の酸化銅電極10表面の観察画像を熱処理温度ごとに示している。また、図5の下段は光源210による光照射後(24時間後)の酸化銅電極10表面の観察画像を熱処理温度ごとに示している。

【0054】
図5によれば、光照射後において、熱処理温度150℃の酸化銅電極10では酸化銅膜12が剥がれ、ステンレス鋼基材11が露出している。この原因として、熱処理温度が低く、銅膜が十分に酸化していないためと考えられる。また、熱処理温度450℃および550℃の酸化銅電極10では酸化銅膜12に光腐食が生じている。この原因として、後述のように酸化物11aが、酸化銅膜12と同じp型になっているためと考えられる。

【0055】
したがって、剥離に対する耐性の観点から熱処理温度は高いことが好ましく、光腐食に対する耐性の観点からは熱処理温度が高すぎないことが好ましい。本実験結果から、熱処理温度が250℃と350℃の酸化銅電極10について、酸化銅膜12の剥離および光腐食の両方に対する耐久性が確保されていると言える。

【0056】
次に、酸化銅電極の電極電位の測定結果について説明する。

【0057】
図6のグラフは、酸化銅電極10の電極電位の時間変化を示している。横軸が0の時点で光源210による光照射を開始した。図6の符号Aで示す部分から分かるように、熱処理温度が200℃、250℃、350℃および400℃の酸化銅電極は、他の熱処理温度の酸化銅電極に比べて光電位が高い。なお、熱処理温度が200℃および250℃の酸化銅電極については、時間が経過するにつれて光電位が徐々に上昇している。これは、酸化銅膜12に酸化第一銅(CuO)が比較的多く含まれており、この酸化第一銅が酸化第二銅に変化することにより光電位が上昇するものと考えられる。

【0058】
上記のように、熱処理温度が200℃以上400℃以下の場合に、酸化銅膜12の光腐食を抑制し得るとともに、光電位が高い酸化銅電極を得ることができる。なお、熱処理温度が250℃以上の場合は光腐食に加えて酸化銅膜12の剥離も抑制することができる。

【0059】
なお、実験で評価した酸化銅電極は、熱処理時間が30分間のものであるが、30分間以上熱処理したものについてほとんど特性は変わらない。図7は、熱処理温度が250℃の酸化銅電極であって、熱処理時間が異なる6つのサンプルについて、光照射時の電極電位を測定した結果である。ここでは、熱処理時間が15分間(0.25h)、30分間(0.5h)、1時間、3時間、6時間、24時間の6つのサンプルについて評価した。図7に示すように、いずれのサンプルについても10時間以上光照射を行うと、ほぼ同じレンジの光電位を示すようになる。すなわち、酸化銅電極10の長期的な性能に対して熱処理時間はあまり影響を与えない。ただし、熱処理時間が15分間のサンプルについては光照射開始から3~5時間程度経過するまで光電位が著しく低いことから、熱処理時間は30分間以上であることが好ましい。

【0060】
<ステンレス鋼基材単体の特性評価>
上記のように、酸化銅電極10は、熱処理温度が200℃以上400℃以下の場合に、酸化銅膜12の光腐食を抑制し得るとともに、高い光電位を示す。この理由を探るべく、ステンレス鋼基材11単体について電極電位の測定を行った。実験系は図4と同様であり、酸化銅電極10に代えてステンレス鋼基材11を容器220の石英窓221に取り付けた。

【0061】
図8A、図8Bおよび図8Cは、光照射前後における、ステンレス鋼基材11の電極電位の時間変化を示している。図8Aは、250℃で熱処理したステンレス鋼基材11を用いた場合であり、図8Bは550℃で熱処理したステンレス鋼基材11を用いた場合であり、図8Cは熱処理を行わないステンレス鋼基材11を用いた場合である。いずれの場合も、ステンレス鋼基材11として二相系ステンレス鋼(SUS329J4L)を用いた。

【0062】
図8Aに示すように、熱処理温度が250℃の場合、ステンレス鋼基材11の電位は光照射により低下した。一方、熱処理温度が550℃の場合、図8Bに示すように、ステンレス鋼基材11の電位は光照射により増加した。熱処理を行わないステンレス鋼基材11の場合は、図8Cに示すように、光照射により電位は変化しなかった。これらの結果から、250℃の熱処理温度により、ステンレス鋼基材11の表面にn型半導体の特性を示す酸化物が形成され、550℃の熱処理温度により、ステンレス鋼基材11の表面にp型半導体の特性を示す酸化物が形成されていると考えられる。

【0063】
図9は、熱処理温度が150℃、200℃、250℃、350℃、400℃、450℃、550℃の各サンプルについて、光照射前後の電極電位の時間変化を測定した結果である。これによれば、熱処理温度が150℃、200℃、250℃、350℃、400℃の場合は光照射により電極電位が低下しているのに対し、熱処理温度が450℃、550℃の場合は光照射により電極電位が増加している。この実験結果から、熱処理温度が150℃、200℃、250℃、350℃、400℃の場合、ステンレス鋼基材11の表面に形成される酸化物半導体はn型であり、熱処理温度が450℃、550℃の場合、ステンレス鋼基材11の表面に形成される酸化物半導体はp型であると言える。

【0064】
次に、熱処理によりステンレス鋼基材11の表面に形成される半導体酸化物の組成を分析するために、XPS解析(X線電子分光分析法)を行った。図10は熱処理温度が250℃のステンレス鋼基材のXPS解析結果を示し、図11は熱処理温度が550℃のステンレス鋼基材のXPS解析結果を示している。なお、図10および図11のグラフ中の実線で示される各曲線は、実験から得られたスペクトルデータを計算により複数の曲線(構成スペクトル)に分解したものである。ステンレス鋼としては、二相系のステンレス鋼を用いた。

【0065】
図10の実験結果から、熱処理温度が250℃のステンレス鋼基材11の表面には、n型特性を示すFe系酸化物(Fe、Fe等)がCr系酸化物(Cr、Cr(OH)等)に比べて多く形成されていることが分かる。一方、図11の実験結果から、熱処理温度が550℃のステンレス鋼基材11の表面には、p型特性を示すCr系酸化物(Cr、CrO、Cr(OH)等)がFe系酸化物(Fe、FeOOH等)に比べて多く形成されていることが分かる。

【0066】
上記の実験結果から、ステンレス鋼基材の表面には半導体特性を示す酸化物が実際に形成されており、酸化物の種類が熱処理温度によって異なることが分かった。

【0067】
図12は、ステンレス鋼基材の種類を変えた場合の実験結果を示している。図12において、α+γは二相系のステンレス鋼を示し、αはフェライト系のステンレス鋼を示し、γはオーステナイト系のステンレス鋼を示している。この実験結果によれば、二相系のステンレス鋼とオーステナイト系のステンレス鋼は熱処理に対してほぼ同じ半導体特性を示すことが分かった。一方、フェライト系のステンレス鋼については、熱処理の温度にかかわらず、半導体特性を示さなかった。これは、フェライト系の場合、ステンレス鋼の表面が酸化しにくく、酸化物半導体があまり形成されないためと考えられる。

【0068】
上記のように、ステンレス鋼基材およびその上に形成された銅膜に対する熱処理温度が200℃以上400℃以下の場合、銅膜が酸化してp型の酸化物半導体(酸化銅膜)が形成されるとともに、ステンレス鋼基材11との界面にn型の酸化物半導体(ステンレス鋼の酸化物)が形成される。このように、ステンレス鋼基材11との界面に、酸化銅膜12の異なる型の半導体酸化物が形成されることにより、光腐食を抑制し、かつ高い光電位を示す酸化銅電極を得ることができる。

【0069】
さらに、本実施形態に係る酸化銅電極の製造方法では、単一の熱処理工程により、ステンレス鋼基材11上に形成された銅膜の酸化(酸化銅膜12の形成)と、ステンレス鋼基材11表面の酸化(酸化物11aの形成)を同時に行うことができる。その結果、耐久性および特性に優れた酸化銅電極を簡易に効率良く製造することができる。

【0070】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 酸化銅電極
11 ステンレス鋼基材
11a 酸化物
12 酸化銅膜
12s 反応面
13 リード線
14 絶縁膜
20 酸化チタン電極
30 容器
40 電解質溶液
100 湿式太陽電池
210 光源
220 容器
221 石英窓
230 参照電極
240 ポテンショスタット
250 パソコン
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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