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明細書 :自己免疫疾患の治療又は予防剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-031481 (P2019-031481A)
公開日 平成31年2月28日(2019.2.28)
発明の名称または考案の名称 自己免疫疾患の治療又は予防剤
国際特許分類 A61K  47/69        (2017.01)
A61P  37/06        (2006.01)
A61K  39/385       (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  39/00        (2006.01)
A61K  31/704       (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
FI A61K 47/69
A61P 37/06
A61K 39/385
A61K 9/127
A61P 25/28
A61P 43/00 105
A61K 39/00 G
A61K 39/00 H
A61K 31/704
C07K 14/47 ZNA
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2018-139533 (P2018-139533)
出願日 平成30年7月25日(2018.7.25)
優先権出願番号 2017152876
優先日 平成29年8月8日(2017.8.8)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】奥 直人
【氏名】清水 広介
出願人 【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100087398、【弁理士】、【氏名又は名称】水野 勝文
【識別番号】100128783、【弁理士】、【氏名又は名称】井出 真
【識別番号】100128473、【弁理士】、【氏名又は名称】須澤 洋
【識別番号】100160886、【弁理士】、【氏名又は名称】久松 洋輔
【識別番号】100192603、【弁理士】、【氏名又は名称】網盛 俊
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
4C085
4C086
4H045
Fターム 4C076AA19
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC01
4C076CC06
4C076CC07
4C076DD15
4C076DD63F
4C076DD70F
4C076EE59
4C076FF68
4C085AA03
4C085BB12
4C085CC32
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA10
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA24
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA10
4C086NA13
4C086ZB05
4C086ZB08
4C086ZC75
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA22
要約 【課題】自己免疫疾患を治療又は予防することができる新規な技術を提供する。
【解決手段】 自己抗原が原因となる自己免疫疾患の治療又は予防剤であって、自己抗原に応答する免疫細胞に障害を与える薬物と、薬物が封入されている薬物担体と、薬物担体の表面に結合しているリンカー分子と、リンカー分子を介して薬物担体の表面に保持されている自己抗原とを有する薬物送達体と、を備える自己免疫疾患の治療又は予防剤。

【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
自己抗原が原因となる自己免疫疾患の治療又は予防剤であって、
前記自己抗原に応答する免疫細胞に障害を与える薬物と、
前記薬物が封入されている薬物担体と、前記薬物担体の表面に結合しているリンカー分子と、前記リンカー分子を介して前記薬物担体の表面に保持されている前記自己抗原とを有する薬物送達体と、を備える自己免疫疾患の治療又は予防剤。
【請求項2】
前記薬物担体が、リポソームである請求項1に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
【請求項3】
前記免疫細胞が、T細胞である請求項1又は2に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
【請求項4】
前記自己免疫疾患が、臓器特異的自己免疫疾患である請求項1から3のいずれか一つに記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
【請求項5】
前記臓器特異的自己免疫疾患が、多発性硬化症であり、
前記自己抗原が、配列表の配列番号2で表されるミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも一部分と同じアミノ酸配列のペプチドである請求項4に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
【請求項6】
前記自己抗原が、配列表の配列番号4で表されるアミノ酸配列のMOG35-55である請求項5に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
【請求項7】
前記臓器特異的自己免疫疾患が、多発性硬化症または実験的自己免疫性脳脊髄炎であり、
前記自己抗原が、配列表の配列番号1で表されるミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも一部分と同じアミノ酸配列のペプチドである請求項4に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
【請求項8】
前記自己抗原が、配列表の配列番号3で表されるアミノ酸配列のMOG35-55である請求項7に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患の治療又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、自身を構成する成分(自己抗原)に免疫細胞が応答し、自身の臓器や組織などを免疫細胞が損傷する疾患である。この自己免疫疾患に対して効果を示す薬物としては、免疫抑制剤やステロイドが知られている。しかしながら、これらの薬物は、自己抗原に対して応答する免疫細胞や、損傷により変異した細胞だけでなく、正常な細胞にまで作用してしまうため、副作用を生じさせることが知られている。
【0003】
薬物送達システム(DrugDeliverySystem:DDS)は、薬物を目的部位に選択的に送達するための技術の総称である。この薬物送達システムでは、薬物を目的部位に選択的に送達するために、リポソームや高分子ミセルなどの薬物担体に薬物を封入して得られる薬物送達体を使用するとともに、該薬物送達体について目的部位を標的化している(例えば、特許文献1)。目的部位の標的化は、目的部位に特異的に結合する糖鎖などの機能性分子を、薬物担体の表面に形成することにより行われる。標的化した薬物送達体は、機能性分子と目的部位との特異的な結合により、薬物を目的部位に選択的に送達することができ、薬物による副作用を抑制することができる。
【0004】
特許文献2には、E-セレクチン,L-セレクチン,およびP-セレクチンのいずれかが発現している細胞を標的とし、E-セレクチン等に結合する所定の糖鎖を用いて標的化した免疫抑制剤やステロイドを封入したリポソームを含む自己免疫疾患の治療剤が開示されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2005-170807号公報
【特許文献2】国際公開第2005/011633号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
標的化した従来の薬物送達体は、生体内に投与されると、血液やリンパ液を利用して全身に運ばれる。そして、薬物送達体が目的部位付近に運ばれると、薬物送達体表面の機能性分子が目的部位に特異的に結合し、薬物が放出される。このように、従来の薬物送達体における標的化は、薬物送達体を目的部位に向かわせる能動的な送達を行う技術である。
【0007】
しかしながら、薬物送達体を目的部位に向かわせる能動的な送達は、薬物送達体が目的部位付近に運ばれるまでは、血流やリンパ液の流れに依存する。このため、血流やリンパ液の流れによっては、薬物送達体が目的部位付近まで到達しないことが考えられる。また、血液やリンパ液を流れる薬物送達体が、血液やリンパ液が流れ込む臓器や組織などに蓄積し、薬物による副作用が引き起こされることも考えられる。
【0008】
本発明は、自己免疫疾患を治療又は予防することができる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)自己抗原が原因となる自己免疫疾患の治療又は予防剤であって、前記自己抗原に応答する免疫細胞に障害を与える薬物と、前記薬物が封入されている薬物担体と、前記薬物担体の表面に結合しているリンカー分子と、前記リンカー分子を介して前記薬物担体の表面に保持されている前記自己抗原とを有する薬物送達体と、を備える自己免疫疾患の治療又は予防剤。
(2)前記薬物担体が、リポソームである(1)に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
(3)前記免疫細胞が、T細胞である(1)又は(2)に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
(4)前記自己免疫疾患が、臓器特異的自己免疫疾患である(1)から(3)のいずれか一つに記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
(5)前記臓器特異的自己免疫疾患が、多発性硬化症であり、前記自己抗原が、配列表の配列番号2で表されるミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも一部分と同じアミノ酸配列のペプチドである(4)に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
(6)前記自己抗原が、配列表の配列番号4で表されるアミノ酸配列のMOG35-55である(5)に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
(7)前記臓器特異的自己免疫疾患が、多発性硬化症または実験的自己免疫性脳脊髄炎であり、前記自己抗原が、配列表の配列番号1で表されるミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも一部分と同じアミノ酸配列のペプチドである請求項(4)に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
(8)前記自己抗原が、配列表の配列番号3で表されるアミノ酸配列のMOG35-55である(7)に記載の自己免疫疾患の治療又は予防剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自己免疫疾患を治療又は予防することができる新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、薬物送達体の概略図である。
【図2】図2は、多発性硬化症が発症するメカニズムを説明する図である。
【図3】図3は、多発性硬化症を治療するメカニズムを説明する図である。
【図4】図4は、治療剤の製造方法の一例を説明するフローチャートである。
【図5】図5は、抗MOG抗体に対する結合性試験の結果を示す図である。
【図6】図6は、多発性硬化症の治療試験1の結果(0日から19日までの神経症状)を示す図である。
【図7】図7は、多発性硬化症の治療試験2の結果(0日から36日までの神経症状)を示す図である。
【図8】図8は、多発性硬化症の治療試験2の結果(101日後の神経症状)を示す図である。
【図9】図9は、多発性硬化症の治療試験2の結果(0日から101日までの生存率)を示す図である。
【図10】図10は、多発性硬化症の治療試験2の結果(0日から57日までの平均体重)を示す図である。
【図11】図11は、配列番号1~4のアミノ酸配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。

【0013】
本実施形態の治療剤は、自己免疫疾患の治療剤である。自己免疫疾患は、自身を構成する成分(自己抗原)に自身の免疫細胞が応答し、自身の臓器,組織,細胞などが免疫細胞によって損傷される疾患の総称である。

【0014】
まず、本実施形態の治療剤に含まれる成分について説明する。本実施形態の治療剤は、少なくとも薬物送達体を含む。薬物送達体は、自己抗原に応答する免疫細胞に障害を与える薬物と、薬物が封入されている薬物担体と、薬物担体の表面に結合しているリンカー分子と、リンカー分子に結合することによりリンカー分子を介して薬物担体の表面に保持されている自己抗原と、を備える。

【0015】
薬物担体は、薬物が封入される担体であり、例えば、リポソームなどの脂質ナノ粒子や高分子ミセルを用いることができる。

【0016】
脂質ナノ粒子は、脂質の膜で構成される1nm以上1000nm未満の粒径(直径)の粒子であり、膜の内部には、薬物を封入できる内腔が形成されている。脂質ナノ粒子の膜は、1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。膜を構成する脂質としては、例えば、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、長鎖脂肪族アルコール、長鎖脂肪酸の脂肪族アルコールエステル、ステロール類、コレステロールエステル、リン脂質、脂肪族アミン、ワックス類、セラミド、植物油、水素化(硬化)植物油、魚油、藻類油、石油由来の油、短鎖脂肪族アルコール、中鎖脂肪族アルコールまたは短鎖アルコールとの脂肪酸エステル、中鎖脂肪酸トリグリセリド、脂肪族アルコールエーテルなどが挙げられる。

【0017】
リポソームは、脂質ナノ粒子のうち、リン脂質を含む内膜及び外膜の2枚の膜(以下、「脂質二重膜」ともいう)で構成される粒子である。リポソームは、内膜の内部に形成される第1の内腔と、内膜と外膜との間に形成される第2の内腔を有しており、これら2つの内腔のいずれか又は両方に薬物を充填することができる。リポソームの粒子径は、例えば、30nm以上1000nm未満とすることができる。

【0018】
脂質二重膜に含まれる具体的なリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストリルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、1-パルミトイル2-オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)を挙げることができる。なお、これらのリン脂質は、2種類以上を組合せて用いることもできる。

【0019】
リポソームを構成する脂質二重膜は、リン脂質以外に、糖脂質、ステロール類、カチオン性脂質などの両親媒性の脂質を含んでいてもよい。なお、両親媒性の脂質とは、分子内に親水基と疎水基の両方を持つ脂質である。

【0020】
糖脂質としては、例えば、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステルなどのグリセロ脂質、ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4などのスフィンゴ糖脂質などを挙げることができる。なお、これらの糖脂質は、2種類以上を組合せて用いることもできる。

【0021】
ステロール類としては、例えば、コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、コレスタノール、ラノステロールを挙げることができる。なお、これらのステロール類は、2種類以上を組合せて用いることもできる。

【0022】
カチオン性脂質は、1、2-ジオレオイルオキシ-3-(トリメチルアンモニウム)プロパン(DOTAP)、N、N-ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、N-[1-(2、3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、2、3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミン-カルボキサミド)エチル]-N、N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)およびN-[1-(2、3-ジミリスチルオキシ)プロピル]-N、N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド(DMRIE)、ホスファチジン酸とアミノアルコールとのエステル、例えばジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)もしくはジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)とヒドロキシエチレンジアミンとのエステルなどを挙げることができる。なお、これらのカチオン性脂質は、2種類以上を組合せて用いることもできる。

【0023】
リポソームを構成する脂質二重膜において、リン脂質などの上述した脂質は、親水基と疎水基のいずれか一方が膜の内側に配置され、親水基と疎水基のいずれか他方が膜の外側に配置されるように配列されている。また、内膜と外膜において、親水基と疎水基の配置は逆となっている。つまり、内膜を形成する脂質の親水基が内膜の内側に配置される(疎水基が内膜の外側に配置されている)場合、外膜を形成する脂質の親水基は、外膜の外側に配置される(疎水基は、外膜の内側に配置される)。また、内膜を形成する脂質の親水基が内膜の外側に配置される(疎水基が内膜の内側に配置される)場合、外膜を形成する脂質の親水基は、外膜の内側に配置される(疎水基が外膜の外側に配置される)。親水基と疎水基の配置は、リポソーム製造の際に使用する溶媒や内腔に充填する薬物の性質(親水性,疎水性)を変更することなどにより調整することができる。

【0024】
高分子ミセルは、親水性ポリマーと疎水性ポリマーのブロック共重合体により形成される1枚の膜の粒子であり、膜の内部に薬物を封入できる内腔が形成されている。高分子ミセルの粒径は、例えば、10~100nmとすることができる。

【0025】
高分子ミセルの膜を形成するブロック共重合体としては、例えば、ポリエチレングリコール-ポリアスパラギン酸ブロック共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリグルタミン酸ブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリアルギニンブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリヒスチジンブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリメタクリル酸ブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリエチレンイミンブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリビニルアミンブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリアリルアミンブロック共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリアスパラギン酸ブロック共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリグルタミン酸ブロック共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリリジンブロック共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリアクリル酸ブロック共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリビニルイミダゾールブロック共重合体、ポリアクリルアミド-ポリアスパラギン酸ブロック共重合体、ポリアクリルアミド-ポリヒスチジンブロック共重合体、ポリメタクリルアミド-ポリアクリル酸、ポリメタクリルアミド-ポリビニルアミンブロック共重合体、ポリビニルピロリドン-ポリメタクリル酸ブロック共重合体、ポリビニルアルコール-ポリアスパラギン酸ブロック共重合体、ポリビニルアルコール-ポリアルギニンブロック共重合体、ポリアクリル酸エステル-ポリグルタミン酸ブロック共重合体、ポリアクリル酸エステル-ポリヒスチジンブロック共重合体、ポリメタクリル酸エステル-ポリビニルアミンブロック共重合体、ポリメタクリル酸-ポリビニルイミダゾールブロック共重合体を用いることができる。なお、これらのブロック共重合体は、2種類以上を組合せて用いることができる。

【0026】
高分子ミセルの膜を形成するブロック共重合体は、親水性ポリマーと疎水性ポリマーのいずれか一方が膜の内側に配置され、親水性ポリマーと疎水性ポリマーのいずれか他方が膜の外側に配置されるように配列されている。親水性ポリマーと疎水性ポリマーの配置は、高分子ミセル製造の際に使用する溶媒や膜の内腔に充填される薬物の性質(親水性,疎水性)を変更することなどにより調整することができる。

【0027】
薬物担体の割合は、特に限定されず当業者が適宜設定できるが、薬物等が封入されている薬物送達体100質量%に対し、80質量%以上98質量%以下とすることが、薬物を薬物担体の内部に安定して保持できる観点から好ましい。

【0028】
薬物担体の表面には、自己抗原を薬物送達体の表面に保持するためのリンカー分子が結合している。リンカー分子は、自己抗原を薬物送達体の表面に保持できる物質であればよく、薬物担体を構成する成分等に応じて当業者が適宜設定でき、特に限定されない。例えば、リンカー分子として、アミノ酸や炭素鎖やPEG脂質誘導体(ポリエチレングリコール脂質誘導体)を用いることができる。より具体的なリンカー分子としては、例えば、DSPE-PEG-NHS(Distearylphosphatidylethanolamine-polyethylenglycol-N-hydroxysuccinimide)やDSPE-PEG-maleimideを挙げることができる。なお、リンカー分子としてポリエチレングリコール誘導体を用いる場合、ポリエチレングリコールの分子量は、例えば500~6,000とすることができる。また、ポリエチレングリコール誘導体には、分子量の異なる2種以上のポリエチレングリコールを組み合わせて用いることができる。分子量の異なる2種以上のポリエチレングリコールを組み合わせて用いる場合には、一つのポリエチレングリコールの分子量は、例えば、500~2,000とすることができる。なお、これらPEG脂質誘導体は、2種類以上を組み合わせて用いることができる。

【0029】
リンカー分子の割合は特に限定されず当業者が適宜設定できるが、薬物等が封入されている薬物送達体100質量%に対し、1質量%以上15質量%以下とすることが、薬物を薬物担体の内部に安定して保持できる観点や免疫細胞に対する障害性を薬物送達体(薬物担体)に付与できる観点から好ましい。

【0030】
薬物担体の表面には、自己抗原がリンカー分子を介して保持されている。例えば、自己抗原は、リンカー分子における薬物担体に結合している端部とは反対側の端部において、リンカー分子と結合している。
薬物担体の表面に保持される自己抗原は、本実施形態の治療剤の対象である自己免疫疾患の原因となる自己抗原であればよく、治療剤を投与する個体から採取した自己抗原であってもよく、治療剤を投与する個体とは異なる別の個体から採取した自己抗原であってもよい。また、化学的に合成された自己抗原であってもよい。自己抗原として作用する物質として、例えば、タンパク質、ペプチド、糖鎖、核酸を挙げることができ、対象となる疾患に応じて適宜選択することができる。なお、本明細書において、タンパク質とは、50個以上のアミノ酸から構成されるポリペプチドであり、ペプチドとは、2個以上50個未満のアミノ酸から構成されるポリペプチドである。

【0031】
薬物担体の表面に保持される自己抗原の数は特に限定されないが、例えば、1個以上20,000個以下とすることが好ましく、2個以上10,000個以下とすることがより好ましい。自己抗原の数が2個以上である場合、抗原の数が1個である場合と比較して、薬物担体の表面に保持される自己抗原に免疫細胞がより応答しやすくなる多価効果という効果が発揮される。なお、薬物担体の表面に保持される自己抗原の数は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定することができる。

【0032】
自己抗原の割合は当業者が適宜設定でき、特に限定さないが、薬物等が封入されている薬物送達体100質量%に対し、0.006質量%以上30質量%以下とすることが免疫細胞から認識されやすくなる観点から好ましい。

【0033】
薬物担体の内腔に封入されている薬物は、自己抗原に応答する免疫細胞に障害を与える薬物である。具体的な薬物としては、例えば、ドキソルビシン,ダウノルビシン,ビンクリスチンなどの抗がん剤や、メトトレキサートなどの抗がん剤と抗リウマチ剤の両方として作用する薬剤や、タクロリムス,シクロスポリン、フィンゴリモドなどの免疫抑制剤や、ベルテポルフィンなどの光増感剤を挙げることができる。

【0034】
ここで、自己抗原に応答する免疫細胞とは、自己抗原を認識する免疫細胞だけではなく自己抗原を排除する免疫細胞を含む概念である。自己抗原に応答する具体的な免疫細胞としては、例えば、B細胞、T細胞、NK細胞,NKT細胞、マクロファージ、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基球を挙げることができる。また、免疫細胞に障害を与えるとは、免疫細胞を死滅(消滅)するだけではなく、免疫細胞の機能を発揮できない状態にしたり、免疫細胞の機能を抑制したりすることを含む概念である。

【0035】
薬物の割合は当業者が適宜設定でき特に限定されないが、薬物等が封入されている薬物送達体100質量%に対し、1質量%以上15質量%以下とすることが、薬物を薬物担体の内部に安定して保持できる観点や免疫細胞に対する障害性を薬物送達体(薬物担体)に付与できる観点から好ましい。

【0036】
薬物送達体の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、1nm以上1,000nm未満とすることができ、30nm以上200nm以下とすることが好ましい。平均粒子径が30nm以上200nm以下であることにより、EPR効果(Enhanced Permeability and Retention効果)により免疫細胞に薬物送達体が集積しやすい効果がある。なお、平均粒子径とは、体積平均粒径を示し、動的光散乱法により測定される値をいう。平均粒子径は、例えば、ゼータサイザーナノ(スペクトリス社マルバーンインストゥルメンツ製)を用いて測定することができる。

【0037】
本実施形態の治療剤は、上述した薬物送達体の他に、薬学上許容される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、湿潤剤、溶剤、希釈剤(溶媒)などの他の成分を含んでいてもよい。

【0038】
本実施形態の治療剤は、その形態(剤形)は特に限定されず、例えば、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、水剤などの経口投与用製剤、注射剤、軟膏剤、点眼剤、坐剤、貼付剤、ローション剤の形態とすることができる。好ましい治療剤の形態は、注射剤である。本実施形態の治療剤が注射剤である場合、薬物送達体が分解されずに血液中に導入されやすくなる。

【0039】
自己免疫疾患は、全身が障害される全身性自己免疫疾患と、特定の臓器だけが障害される臓器特異的自己免疫疾患の2種類に分類することができる。本実施形態の治療剤は、自己抗原が原因となる自己免疫疾患であれば、いずれに分類される自己免疫疾患に対しても治療剤として用いることができる。

【0040】
本実施形態の治療剤で治療できる自己免疫疾患としては、例えば、関節リウマチ,全身性エリテマトーデス,抗リン脂質抗体症候群,多発性筋炎,皮膚筋炎,強皮症,シェーグレン症候群,IgG4関連疾患,血管炎症候群,混合性結合組織病などの全身性自己免疫疾患や、橋本病,バセドウ病,アジソン病,自己免疫性溶血性貧血,特発性血小板減少性紫斑病,潰瘍性大腸炎,原発性胆汁性肝硬変症,膜性腎炎,重症筋無力症,多発性硬化症,リウマチ熱,尋常性天疱症,水晶体誘発性ブドウ膜炎などの臓器特異的自己免疫疾患を挙げる事ができる。

【0041】
自己免疫疾患では、免疫細胞が自己抗原を認識して自己抗原を排除しようとするため、自身の臓器や組織などが損傷される。本実施形態の治療剤では、免疫細胞が認識して排除しようとする自己抗原が薬物担体(薬物送達体)の表面に保持されており、薬物担体(薬物送達体)の内部には、その免疫細胞を障害する薬物が封入されている。このため、本実施形態の治療剤が体内に導入されると、免疫細胞は、薬物送達体の表面に保持される自己抗原を認識して排除しようとする。このとき、薬物送達体に対する免疫細胞の刺激で、薬物担体(薬物送達体)に封入される薬物が放出され、免疫細胞に障害が与えられる。このため、自己抗原に応答する免疫細胞が障害され、自己免疫疾患を治療することができる。

【0042】
上述したように、本実施形態の治療剤は、薬物送達体を免疫細胞に向かわせる能動的な送達を行う技術ではなく、薬物送達体(具体的には、その表面に保持される自己抗原)を免疫細胞に認識させ、免疫細胞を薬物送達体に向かわせる受動的な送達を行う技術である。このため、血流やリンパ液の流れによって、薬物送達体が移動しにくくなったとしても、免疫細胞が薬物送達体に向かい、薬物送達体に到達することができる。また、臓器や組織に薬物送達体が蓄積したとしても、免疫細胞が薬物送達体に向かい、薬物送達体に到達することができる。従って、薬物送達体の蓄積によって生じる副作用を抑制することができる。このように、本実施形態の治療剤は、従来の技術とは異なる新規な技術を提供することができる。

【0043】
次に、本発明の治療剤を多発性硬化症の治療剤に応用した実施形態について、図1を用いて説明する。図1は、多発性硬化症の治療剤に含まれる薬物送達体の概略図である。

【0044】
図1に示すように、多発性硬化症の治療剤に含まれる薬物送達体1は、薬物3が封入される薬物担体2と、薬物担体2の表面に結合するリンカー分子4と、リンカー分子4を介して薬物担体2の表面に保持される自己抗原5を有する。

【0045】
薬物担体2は、ステロール類及びリン脂質からなる内膜2a及び外膜2bによって構成されるリポソームである。ステロール類とリン脂質の具体的な組み合わせとしては、例えば、コレステロールとジパルミトイルホスファチジルコリン(以下、「DPPC」ともいう)を挙げることができる。内膜2a,外膜2bがコレステロールとDPPCにより構成される場合、コレステロールとDPPCのモル比(コレステロール:DPPC)は、特に限定されないが、内膜2a及び外膜2bを安定して維持できる観点から1:5~1:1とすることが好ましい。

【0046】
内膜2aにおいて、リン脂質とステロール類の親水基は、内膜2aの内側に配置され、リン脂質とステロール類の疎水基は、内膜2aの外側に配置されている。外膜2bにおいて、リン脂質とステロール類の親水基は、外膜2bの外側に配置され、リン脂質とステロール類の疎水基は、外膜2bの内側に配置されている。内膜2aの内部には、第1の内腔2cが形成されており、内膜2aと外膜2bとの間には、第2の内腔2dが形成されている。

【0047】
第1の内腔2cには、薬物3が封入されている。内腔2cは、内膜2aを構成するリン脂質とステロール類の親水基に囲まれた空間であるため、薬物2としては、ダウノルビシン,ドキソルビシンなど親水性薬物が用いられる。ここで、薬物送達体1では、第2の内腔2dに薬物は封入されていないが、例えばメトトレキサート、タクロリムス,シクロスポリンなどの疎水性薬物を薬物担体2に封入する場合、膜2a,2bを構成するリン脂質とステロール類の疎水基に囲まれた第2の内腔2dに、これらの疎水性薬物を封入することができる。

【0048】
薬物送達体1の表面には、複数のリンカー分子4が結合している。リンカー分子4としては、薬物担体2を構成するリン脂質に結合できるとともに、後述する抗原(例えばペプチド)に結合できるDSPE-PEG-NHSや、DSPE-PEG-maleimideなどの活性化PEG脂質誘導体を用いることができる。

【0049】
また、薬物送達体1の表面には、リンカー分子4を介して複数の自己抗原5が保持されている。自己抗原5は、多発性硬化症の原因となるペプチドとすることができる。多発性硬化症の原因となるペプチドとしては、例えば、配列表(又は図11)の配列番号1(マウスのアミノ酸配列)や配列表(又は図11)の配列番号2(ヒトのアミノ酸配列)に示すミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも一部分と同じアミノ酸配列のペプチドを使用することができ、例えば、21個以上50個未満のアミノ酸により構成することができる。より具体的な自己抗原5としては、例えば、配列表(又は図11)の配列番号3(マウスのアミノ酸配列)や配列表(又は図11)の配列番号4(ヒトのアミノ酸配列)に示すように、配列番号1や2に含まれる連続する21個のアミノ酸から構成されるペプチド(以下、「MOG35-55」ともいう)を使用することができる。

【0050】
次に、図2~図3を用いて、薬物送達体1を含む治療剤による多発性硬化症の治療メカニズムを説明する。

【0051】
図2は、多発性硬化症が発症するメカニズムを説明する図である。多発性硬化症は、免疫細胞が神経細胞を障害する臓器特異的自己免疫疾患である。図2に示すように、神経細胞100は、細胞体101と細胞体101から延びる軸索102と軸索102に巻き付く複数の髄鞘(ミエリン鞘)103を有しており、活動電位を発生させて他の細胞に情報を伝達する細胞である。多発性硬化症は、神経細胞100を構成するこれらの成分のうち、髄鞘103に含まれるミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質又はそのペプチド断片を自己抗原5として、T細胞50が髄鞘103を損傷することを原因の一つとして発症すると考えられている。

【0052】
図3は、薬物送達体1を含む本実施形態の治療剤により、多発性硬化症を治療するメカニズムを説明する図である。多発性硬化症の患者に対し、薬物送達体1を含む本実施形態の治療剤を投与すると、図3に示すように、T細胞50は、髄鞘103に含まれる自己抗原5に応答するように、薬物送達体1の表面に保持される自己抗原5に応答する。このとき、薬物送達体1に対するT細胞50の刺激により、薬物送達体1に封入される薬物2が放出され、T細胞50に障害を与える。この結果、T細胞50による髄鞘103の損傷が抑制され、多発性硬化症が治療される。

【0053】
なお、薬物送達体1は、自己免疫疾患の治療だけでなく、自己免疫疾患の予防に使用することもできる。自己免疫疾患が発症する前に、薬物送達体1を含む自己免疫疾患の予防剤を投与しておけば、免疫細胞が自己抗原に対して応答するようになった際に、自己抗原に応答する免疫細胞を即座に障害することができ、臓器や組織の損傷を予防できる。なお、薬物送達体1を含む自己免疫疾患の予防剤には、薬物送達体1だけでなく、上述した薬学上許容される他の成分が含まれていてもよい。また、形態(剤形)についても特に限定されず、例えば上述した形態とすることができる。

【0054】
次に、本実施形態の治療剤の製造方法について説明する。図4は、本実施形態の治療剤の製造方法を説明するフローチャートである。

【0055】
ステップS101では、薬物を内封した薬物担体を取得する。薬物を内封した薬物担体を取得する方法は、薬物担体の種類に応じて適宜設定することができる。

【0056】
薬物担体をリポソームなどの脂質ナノ粒子とする場合、例えば、Bangham法、超音波処理法、有機溶媒抽出法、凍結融解法、リモートローディング法(pH勾配法ともいう)などの従来公知の技術を用いて、薬物を内封した脂質ナノ粒子を得ることができる。Bangham法は、容器内で脂質(リン脂質など)を有機溶媒に溶解し、次いで有機溶媒を蒸発させて容器内面上に薄膜を作製した後、この薄膜に水又はリン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS」ともいう)を加えて薄膜を膨潤させるとともに薬物を加え、さらに容器を振盪することにより、薬物を内封した脂質ナノ粒子を得る方法である。超音波処理法は、Bangham法で脂質ナノ粒子を得た後、その脂質ナノ粒子にさらに超音波処理を施して、薬物を内封した脂質ナノ粒子を得る方法である。有機溶媒抽出法は、有機溶媒に溶かした脂質(リン脂質など)を、薬物を含む水溶液に注入することにより脂質ナノ粒子を得る方法である。凍結融解法は、薬物及び脂質(リン脂質など)を混合した有機溶媒を凍結乾燥して水又はPBSを加えた後、液体窒素で凍結し、これを解凍することにより、薬物を内封した脂質ナノ粒子を得る方法である。リモートローディング法は、脂質(リン脂質など)を混合した有機溶媒を蒸発させて容器内面上に薄膜を作製した後、この薄膜に硫酸アンモニウムやクエン酸緩衝液(pH3~6程度に調整)を加えて薄膜を水和させて脂質ナノ粒子を得た後、透析法や超遠心法などにより脂質ナノ粒子の外液を中性緩衝液(例えば、純水やヘペス緩衝液(pH6~8程度))に置換し、そこに薬物を加えて容器を振盪することにより、薬物を内封した脂質ナノ粒子を得る方法である。

【0057】
薬物担体を高分子ミセルとする場合には、例えば、封入法,溶媒揮散法,透析法などの従来公知の技術を用いて、薬物を内封した高分子ミセルを得ることができる。封入法は、薬物をブロック共重合体が分散した水溶液に混合して撹拌することにより、薬物を内封した高分子ミセルを得る方法である。溶媒揮散法は、薬物を含む有機溶媒とブロック共重合体が分散した水溶液とを混合し、撹拌しながら有機溶媒を揮散させることにより、薬物を内封した高分子ミセルを得る方法である。透析法は、有機溶媒に薬物及びブロック共重合体を溶解した後、得られる溶液を透析膜を用いてPBS及び/又は水に対して透析し、薬物を内封した高分子ミセルを得る方法である。

【0058】
なお、上述した方法において、有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、メタノール、エタノールなどの低級アルコール類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンなどのケトン類などを、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。

【0059】
ステップS102では、リンカー分子と自己抗原を結合する。リンカー分子と自己抗原の結合は、リンカー分子と自己抗原の種類に応じて、従来公知の方法を用いて行うことが出来る。

【0060】
自己抗原がペプチドである場合、ペプチドと結合可能な反応基を有するリンカー分子を、ペプチドとともに溶媒中で混合することにより、リンカー分子と自己抗原を結合することができる。ペプチドと結合可能な反応基としては、例えば、N-スクインシンイミドやマレイミドを用いることができる。N-スクインシンイミドを有するリンカー分子としては、例えば、DSPE-PEG-NHS([1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-n-[poly(ethyleneglycol)]-hydroxysuccinamide(PEGMW例えば、2000])を挙げることができる。なお、リンカー分子とペプチドとを混合する溶媒としては、例えば、純水やホウ酸水溶液を用いることができる。

【0061】
ステップS103では、S101で得られた薬物担体(薬物が封入される薬物担体)の表面に、S102で得られたリンカー分子(自己抗原を結合したリンカー分子)を結合し、薬物送達体を得る。薬物担体の表面にリンカー分子を結合する方法は、従来公知の技術を用いることができ、薬物担体を構成する物質やリンカー分子の種類に応じて適宜設定することができる。

【0062】
例えば、リポソーム(薬物担体)の表面に、S102で例示したペプチドが結合したリンカー分子を結合する場合、S102で生成したリンカー分子(自己抗原を結合したリンカー分子)を含む溶媒に、リポソームを混合することにより、薬物担体の表面にリンカー分子を結合できる。

【0063】
これらステップS101~ステップS103の工程により、薬物送達体を生成することができる。なお、ステップS103の工程では、薬物送達体を生成した後、必要に応じて、薬物担体の表面に結合していない状態にあるリンカー分子と薬物送達体とを分離する分離処理を行うことができる。分離処理には、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーや超遠心機を用いることができる。

【0064】
ステップS104では、S103で得られた薬物送達体と、必要に応じて含有される他の成分とを混合し、所定の剤形(形態)に加工する。

【0065】
上述したステップS101~S104の処理により、本実施形態の治療剤を得ることができる。

【0066】
なお、上述した製造方法では、薬物を内封した薬物担体を取得(ステップS101)した後、リンカー分子と自己抗原を結合(ステップS102)しているが、リンカー分子と自己抗原を結合した後に、薬物を内封した薬物担体を取得してもよい。また、上述した製造方法では、リンカー分子と自己抗原を結合(ステップS102)した後、薬物担体の表面に自己抗原を結合したリンカー分子を結合(ステップS103)しているが、これらの工程は同時に行われてもよい。ステップS102とステップS103を同時に行う場合、例えば、純水中で、ペプチドと結合可能な反応基を有するリンカー分子と、ペプチドと、薬物を内封したリポソームと、を混合すればよい。また、上述した製造方法では、リンカー分子と自己抗原を結合(ステップS102)した後、薬物担体の表面に自己抗原を結合したリンカー分子を結合(ステップS103)しているが、リンカー分子を薬物担体に結合した後に自己抗原を薬物担体に結合しても良い。
【実施例】
【0067】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
<実施例1:自己免疫疾患治療剤の製造>
容器内で、DPPC(日本精化社製)とコレステロール(日本精化社製)を、モル比(DPPC:コレステロール)が2:1となるようにクロロホルム溶液にて混合し、その後エバポレーター(東京理化器械社製)でクロロホルムを留去して、さらに1時間真空乾燥させた。容器壁面に形成された脂質薄膜に、0.25mol/lの硫酸アンモニウム溶液(pH5.5)を加え水和させた。得られた水溶液を液体窒素中で凍結し、凍結物を55℃に設定した恒温水槽を用いて融解した。凍結及び融解の操作を、3回繰り返し、リポソームを生成した。生成したリポソームを超音波処理機(ブランソン社製)にて5分間処理し、生成したリポソームを100nm孔径のフィルターを装着したエクストルーダー(トランスフェラナノサイエンス社)に7回通すことでサイズ調整を行った。さらに生成したリポソームを純水中で透析することで、リポソーム外液の置換を行い、さらに超遠心機を用いて分離して、0.3mol/lのヘペス緩衝液(pH7.4)に水和した。そこにドキソルビシン(協和発酵キリン社製)溶液をモル比((DPPC:コレステロール:ドキソルビシン=2:1:0.24)となるように加え、60℃で1時間振とう混合し、ドキソルビシンが封入されたリポソームを生成した。生成したリポソームは、453,000g,4℃に設定された超遠心機(日立社製)を用いて分離され、0.3mol/lのヘペス緩衝液(pH7.4)に水和した。
【実施例】
【0069】
マウスのMOG35-55(医学生物学研究所社製、配列を配列表の配列番号3に示す)を混合した0.3mol/lのヘペス緩衝液(pH7.4)に、DSPE-PEG-NHS(日油社製,PEGの分子量の合計:2,000)を加えて、4℃で2時間、pH7.4の状態で反応させ、その後エタノールアミンを加えることで反応を停止させ、MOG35-55が結合したDSPE-PEG(以下、「DSPE-PEG-MOG35-55」ともいう)を得た。生成したDSPE-PEG-MOG35-55溶液とドキソルビシンが封入されたリポソームを混合し、55℃で1時間反応させ、リポソームの表面にDSPE-PEG-MOG35-55を結合した。DSPE-PEG-MOG35-55を結合したリポソームは、453,000g,4℃に設定された超遠心機(日立社製)を用いて分離し、0.3mol/lのヘペス緩衝液(pH7.4)に水和して、リポソーム溶液を得た。
【実施例】
【0070】
DSPE-PEG-MOG35-55を結合したリポソーム(以下、単に「逆標的化リポソーム」ともいう)における構成成分の含有量を分光光度計、HPLCを用いて測定した。測定条件は、リポソーム溶液20μlにリン酸緩衝生理食塩水(以下PBSともいう)880μl、10%ドデシル硫酸ナトリウム溶液100μlを加え、55℃で15分間混合し、その後に分光光度計を用いて484nmの吸光度を測定することで、ドキソルビシン量を算出した。また、リポソーム溶液50μlにテトラヒドロフラン50μlを加えて混合し、HPLCを用いて280nmの吸光度を測定することで、DSPE-PEG-MOG35-55量を算出した。なお、HPLCの条件は、以下の条件とした。結果を後述する表1に示す。
<HPLC測定条件>
カラム:TSK-gel ODS-100Z 4.6mm×150mm,3μm
測定波長:280nm
移動相:メタノール/超純水(40→100%)+0.05%トリフルオロ酢酸
流量:1mL/分
カラム温度:45℃
【実施例】
【0071】
[表1]
JP2019031481A_000003t.gif
【実施例】
【0072】
DSPE-PEG-MOG35-55を結合したリポソームの平均粒子径を、ゼータサイザーナノ(スペクトリス社マルバーンインストゥルメンツ製)を用いて測定した。結果を後述する表2に示す。
【実施例】
【0073】
DSPE-PEG-MOG35-55を結合したリポソーム一つあたりにおける、MOG35-55の数量は、リポソームに結合したDSPE-PEG-MOG35-55量(含有割合)から算出した。結果を後述する表2に示す。
【実施例】
【0074】
[表2]
JP2019031481A_000004t.gif
【実施例】
【0075】
<試験例1:抗MOG抗体に対する結合性試験>
DSPE-PEG-MOG35-55を結合したリポソーム(逆標的化リポソーム)の抗MOG35-55抗体への結合性を、以下に示す条件で、BIACORE(登録商標)200(GEヘルスケア社製)を用いて測定した。測定には、実施例1のDSPE-PEG-MOG35-55を結合したリポソームを含む水溶液(以下、「実施例2」という)と、実施例1のリポソームを製造する工程においてDSPE-PEG-MOG35-55を結合する処理を施すことなく製造した、DSPE-PEG-MOG35-55を結合していないリポソーム(ドキソルビシンは封入されているリポソーム)を含む水溶液(以下、「比較例1」という)とを使用した。実施例2の水溶液と比較例1の水溶液は、リポソームに含有されるDPPCを共に0.01mol/lに調整した水溶液であり、具体的には、実施例1のリポソーム溶液又はDSPE-PEG-MOG35-55をリポソームに結合する処理を施すことなく取得したリポソーム溶液10μlに、0.01mol/lヘペス緩衝液(pH7.4)、0.15mol/l塩化ナトリウム、0.003mol/lエチレンジアミン4酢酸、0.005%(v/v)サーファクタントP20を含んだ緩衝液(HBS-EP緩衝液)990μlを加えて混合することにより取得した。BIACORE(登録商標)に、マウスコントロール抗体およびマウス抗MOG35-55抗体(MyBioSource社製)が結合したセンサーチップを装着し、取得した実施例2及び比較例1の水溶液を、センサーチップが装着されたBIRECORE(登録商標)に20μl/minで流して、結合解離曲線を測定した。結果を後述する図5に示す。
<BIACORE測定条件>
センサーチップ:CM5
移動相:HBS-EP緩衝液
サンプル流速:20μl/min
サンプル注入時間:2分
サンプル注入後の待機時間:2.5分
洗浄液:10mMグリシン緩衝液(pH2.0)
洗浄液流速:30μl/min
洗浄液注入時間:30秒
安定化時間:2分
【実施例】
【0076】
図5に示す実施例2の結果から理解できるように、DSPE-PEG-MOG35-55を結合したリポソームはコントロール抗体への結合性は示さず、抗MOG35-55抗体に高い結合性を示した。一方で、図5に示す比較例1の結果から理解できるように、DSPE-PEG-MOG35-55を結合していないリポソームは、コントロール抗体、抗MOG35-55抗体への結合性を示さなかった。これらの結果から、DSPE-PEG-MOG35-55を結合したリポソームは、抗MOG35-55抗体への結合性を保持し、薬物担体表面に自己抗原としての抗原性を保持する逆標的化リポソームであることが理解できた。
【実施例】
【0077】
<試験例2:多発性硬化症の治療試験1>
多発性硬化症のモデルを作成するため、C57BL/6Jマウス(メス,9週齢)に実験的自己免疫性脳脊髄炎(以下、「EAE」ともいう)を発症させる免疫処置を施した。具体的には、1mgのMOG35-55を含む500μlのPBSに、2.5mgの結核死菌を含む完全フロイントアジュバント(コンドレックス社製)500μlを混合してエマルジョンを調製し、これを惹起剤とした。この惹起剤をマウスの背部皮下に200μl投与した。さらに、惹起剤による処置日及びその2日後と4日後に、百日咳毒素(和光純薬工業社製)200ngを含むPBS200μlを尾静脈に投与した。
【実施例】
【0078】
実施例3として、惹起剤による処置日から10日後,12日後,14日後,16日後に、マウスの体重1kgあたり0.05mgのドキソルビシンが投与されるように、実施例1の逆標的化リポソームを混合したPBSを、免疫処置した7匹のマウスの尾静脈に投与した。
【実施例】
【0079】
実施例4として、惹起剤による処置日から10日後,12日後,14日後,16日後に、マウスの体重1kgあたり0.01mgのドキソルビシンが投与されるように、実施例1の逆標的化リポソームを混合したPBSを、免疫処置した7匹のマウスの尾静脈に投与した。
【実施例】
【0080】
比較例2として、惹起剤による処置日から10日後,12日後,14日後,16日後に、PBSを、免疫処置した7匹のマウスの尾静脈に投与した。なお、PBSは、実施例3と同量投与した。
【実施例】
【0081】
惹起剤による処置日以降、以下の基準に従い、各マウスの神経症状を評価した。結果を図6に示す。
グレード0:正常
グレード0.5:尾の異常(尾の先は床に着かない)
グレード1:尾の筋緊張低下(尾の先が常に床に着く)
グレード1.5:尾の半分以上が常に床に着く
グレード2:尾の完全下垂(尾全体が常に床に着く)
グレード2.5:歩行異常(腹部は床に着かない)
グレード3:歩行異常(腹部が常に床に着く)及び後肢の片麻痺(片後肢が完全に動か
ない)
グレード3.5:後肢の両麻痺(両後肢とも歩行に用いることはできないが動かすこと
はできる)
グレード4:後肢の完全麻痺(両後肢が完全に動かない)
グレード4.5:後肢の完全麻痺及び前肢の異常(両前肢とも動かすことはできる)
グレード5:後肢の完全麻痺及び前肢の麻痺(片前肢が完全に動かない)
グレード5.5:瀕死(後肢の完全麻痺+前肢の完全麻痺)
グレード6:死亡
【実施例】
【0082】
図6に示す比較例2の結果から理解できるように、リポソームを投与しなかったマウスは、惹起剤による処置日から18日後には、グレード4以上の神経症状を示していた。一方、図6に示す実施例3,4の結果から理解できるように、DSPE-PEG-MOG35-55を結合したリポソームを投与したマウスは、惹起剤による処置日から18日経過後も、グレード1程度の神経症状しか示さなかった。これら結果から、薬物送達体を含む本実施形態の治療剤が、EAE、すなわち多発性硬化症を治療できることが理解できた。
【実施例】
【0083】
<試験例3:多発性硬化症の治療試験2>
試験例2と同様の条件で、C57BL/6JマウスにEAEを発症させる免疫処置を施した。
【実施例】
【0084】
実施例5として、惹起剤による処置日から10日後,14日後,18日後,22日後に、マウスの体重1kgあたり0.4mgのドキソルビシンが投与されるように、実施例1の逆標的化リポソームを混合したPBSを、免疫処置した6匹のマウスの尾静脈に投与した。
【実施例】
【0085】
実施例1のリポソームを製造する工程において、DSPE-PEG-MOG35-55を結合する処理を施すことなく製造した、DSPE-PEG-MOG35-55を結合していないリポソーム(ドキソルビシンは封入されているリポソーム)を用意した。比較例3として、惹起剤による処置日から10日後,14日後,18日後,22日後に、マウスの体重1kgあたり0.4mgのドキソルビシンが投与されるように、DSPE-PEG-MOG35-55を結合していないリポソームを混合したPBSを、免疫処置した6匹のマウスの尾静脈に投与した。
【実施例】
【0086】
比較例4として、惹起剤による処置日から10日後,14日後,18日後,22日後に、マウスの体重1kgあたり0.4mgのドキソルビシンを混合したPBSを、免疫処置した7匹のマウスの尾静脈に投与した。
【実施例】
【0087】
実施例1のリポソームを製造する工程において、ドキソルビシンを使用することなく製造した、ドキソルビシンが封入されていないリポソーム(DSPE-PEG-MOG35-55は結合されているリポソーム)を用意した。比較例5として、惹起剤による処置日から10日後,14日後,18日後,22日後に、リポソームに結合するDSPE-PEG-MOG35-55が実施例5と同量投与されるように、ドキソルビシンが封入されていないリポソームを混合したPBSを、免疫処置した6匹のマウスの尾静脈に投与した。
【実施例】
【0088】
比較例6として、惹起剤による処置日から10日後,14日後,18日後,22日後に、PBSを、免疫処置した6匹のマウスの尾静脈に投与した。なお、PBSは、実施例5と同量投与した。
【実施例】
【0089】
惹起剤による処置日以降、試験例2で用いた基準に従い、各マウスの神経症状を評価して、実施例5及び比較例3~6のそれぞれについて、各マウスの神経症状のグレードを相加平均した値を算出した。惹起剤による処置日から36日間の結果を図7に、惹起剤による処置日から101日後の結果を図8に示す。
【実施例】
【0090】
また、実施例5及び比較例3~6のそれぞれについて、惹起剤による処置日から101日間、死亡したマウスの数を測定し、下記(1)式に基づき、マウスの生存率の推移を確認した。加えて、実施例5及び比較例3~6のそれぞれについて、惹起剤による処置日から57日間、各マウスの体重を測定し、マウスの平均体重の推移を確認した。図9に生存率を、図10に平均体重を示す。
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【実施例】
【0091】
図7の結果から理解できるように、比較例3~6では、最も神経症状が良い(グレードが低い)比較例5であっても、惹起剤による処置日から16日後には、グレード3程度の神経症状を示していた。特に、比較例3、4、6では、惹起剤による処置日から16日後以降も神経症状が悪化(グレードが上昇)しており、惹起剤による処置日から22日後には、グレード4程度の神経症状を示していた。一方、実施例5では、惹起剤による処置日から16日後であっても、グレード2未満の神経症状しか示さなかった。また、実施例5では、惹起剤による処置日から16日後以降は神経症状が好転(グレードが下降)しており、惹起剤による処置日から22日後以降には、グレード1程度の神経症状しか示さなかった。これら結果から、薬物送達体を含む本実施形態の治療剤が、EAE、すなわち多発性硬化症を治療できることが理解できた。
【実施例】
【0092】
また、図8の結果から理解できるように、比較例3~6のうち最も神経症状が良い(グレードが低い)比較例5であっても、惹起剤による処置日から101日後に、グレード3.5以上(平均値)の神経症状を示していた。一方、実施例5では、惹起剤による処置日から101日後であっても、グレード1未満(平均値)の神経症状しか示さなかった。特に、実施例5で用いた6匹のマウスのうち2匹のマウスは、EAEが完治していた。また、図9の結果から理解できるように、実施例5では、惹起剤による処置日から101日経過してもマウスの生存率が100%であった。この結果から、薬物送達体を含む本実施形態の治療剤が、EAE、すなわち多発性硬化症の短期的及び長期的な治療に有用であることが理解できた。
【実施例】
【0093】
また、図10の結果から理解できるように、惹起剤による処置日から57日間の間に、治療剤の投与や病状の進行による体重減少が見られなかった。これらの結果から、薬物送達体を含む本実施形態の治療剤が、EAE、すなわち多発性硬化症を治療できる安全な治療剤であることが理解できた。
【符号の説明】
【0094】
1 薬物送達体
2 薬物担体
3 薬物
4 リンカー分子
5 自己抗原
50 T細胞
100 神経細胞
101 細胞体
102 軸索
103 髄鞘
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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