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明細書 :モータータンパク質、人工筋肉、マイクロアクチュエータおよびこれらの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-050606 (P2020-050606A)
公開日 令和2年4月2日(2020.4.2)
発明の名称または考案の名称 モータータンパク質、人工筋肉、マイクロアクチュエータおよびこれらの製造方法
国際特許分類 C07K  19/00        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C12N  15/62        (2006.01)
B81B   3/00        (2006.01)
B25J  19/00        (2006.01)
FI C07K 19/00 ZNA
C07K 14/47
C12N 15/62 Z
B81B 3/00
B25J 19/00 A
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2018-181252 (P2018-181252)
出願日 平成30年9月27日(2018.9.27)
発明者または考案者 【氏名】平塚 祐一
出願人 【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100132883、【弁理士】、【氏名又は名称】森川 泰司
【識別番号】100173462、【弁理士】、【氏名又は名称】宮本 一浩
【識別番号】100202957、【弁理士】、【氏名又は名称】金森 毅
【識別番号】100111464、【弁理士】、【氏名又は名称】齋藤 悦子
審査請求 未請求
テーマコード 3C081
3C707
4H045
Fターム 3C081BA42
3C081BA60
3C081EA41
3C081EA43
3C707BS30
3C707HS21
3C707XG01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045CA50
4H045EA65
4H045FA74
要約 【課題】新規モータータンパク質、前記モータータンパク質を使用した人工筋肉、およびマイクロアクチュエータ、これらの製造方法等を提供する。
【解決手段】多量体タンパク質誘導体に複数のモータードメイン含有誘導体を結合したモータータンパク質である。これにレールタンパク質を添加して人工筋肉を形成することができ、微小構造物に前記人工筋肉を配設することでマイクロアクチュエータを形成することができる。モータードメイン含有誘導体と多量体タンパク質誘導体とがカルシウム存在下に結合するように調製すれば、カルシウムの添加によってモータータンパク質を製造することができる。
【選択図】図13
特許請求の範囲 【請求項1】
多量体タンパク質誘導体に複数のモータードメイン含有誘導体が結合したモータータンパク質であって、
前記モータードメイン含有誘導体は、モータードメイン含有部分と、前記多量体タンパク質誘導体に結合できる結合部位Iとの融合タンパク質Iであり、
前記多量体タンパク質誘導体は、多量体を構成する単量体由来部分と、前記結合部位Iに結合できる結合部位IIとの融合タンパク質IIが2以上結合した多量体であることを特徴とする、モータータンパク質。
【請求項2】
前記モータードメイン含有誘導体の結合部位Iは、カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位、またはカルモジュリン由来部位であり、
前記多量体タンパク質誘導体の結合部位IIは、前記結合部位Iがカルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位である場合はカルモジュリン由来部位であり、前記結合部位Iがカルモジュリン由来部位である場合はカルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位である、請求項1に記載のモータータンパク質。
【請求項3】
前記多量体タンパク質誘導体の多量体を構成する単量体由来部分は、CFP由来部分またはミオシンフィラメント由来部分である、請求項1または2に記載のモータータンパク質。
【請求項4】
前記モータードメイン含有誘導体と前記多量体タンパク質誘導体との混合液にカルシウムを添加することを特徴とする、請求項2に記載のモータータンパク質の製造方法。
【請求項5】
前記カルシウムを添加する方法が、前記混合液にケージドカルシウムを添加し、および光を照射する方法である、請求項4に記載のモータータンパク質の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のモータータンパク質と、レールタンパク質とからなる人工筋肉であって、
前記レールタンパク質は、微小管、アクチンであることを特徴とする、人工筋肉。
【請求項7】
前記モータータンパク質の前記モータードメイン含有部分は、キネシンモータードメイン含有部分であることを特徴とする、請求項6に記載の人工筋肉。
【請求項8】
請求項2に記載のモータータンパク質と、レールタンパク質とを含む人工筋肉の製造方法であって、
前記モータードメイン含有誘導体と前記多量体タンパク質誘導体と、ケージドカルシウムとの混合液に光を照射することを特徴とする、人工筋肉の製造方法。
【請求項9】
微小構造物に、請求項6または7に記載の人工筋肉を配設した、マイクロアクチュエータ。
【請求項10】
微小構造物に、レールタンパク質と請求項2に記載のモータータンパク質とを含む人工筋肉を配設したマイクロアクチュエータの製造方法であって、
前記微小構造物を、前記モータードメイン含有誘導体と前記多量体タンパク質誘導体と、ケージドカルシウムとの混合液に含浸し、前記微小構造物の人工筋肉形成部位に光を照射し、前記人工筋肉形成部位に人工筋肉を形成することを特徴とする、マイクロアクチュエータの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、モータータンパク質、人工筋肉、マイクロアクチュエータおよびこれらの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
キネシンやミオシンのように生体内に存在し、運動機能を有するタンパク質をモータータンパク質と称している。ATP(Adenosine triphosphate)の加水分解によって生成するエネルギーを利用し、微小管やアクチンなどの繊維状タンパク質の繊維長手方向に沿って運動することができる。一方、モータータンパク質と相互作用する繊維状タンパク質は、レールタンパク質と称されている。モータータンパク質とレールタンパク質との間で生じる運動エネルギーを取り出すことができれば、微小物質輸送の動力源として使用することができる。このような発想のもと、レールタンパク質の運動を制御し、モータータンパク質とレールタンパク質との間で生じる運動エネルギーを効率的に利用する微小駆動素子がある(特許文献1)。基板に線形トラック溝を形成してその底部にモータータンパク質を付着させ、その上にレールタンパク質を添加したものであり、線形トラック溝の形状を、トラック幅が所定方向に向って縮小し、その反対方向に向って拡大するように形成した点に特徴がある。線形トラック溝の形状を特定したことで、所定方向に移動するレールタンパク質の運動は許容するが、反対方向に移動するレールタンパク質の運動を阻止し、レールタンパク質を上記所定方向にのみ移動させることができる。
【0003】
レールタンパク質として機能するアクチンフィラメントには極性がある。アクチンフィラメントは、アクチンモノマー(Gアクチン)が、ATP、K、Mg2+の存在下、多数重合した繊維状の多量体であり、アクチンフィラメントが伸長する成長側はプラス端、反対側はマイナス端と称される。モータータンパク質であるミオシンフィラメントは、アクチンフィラメントのマイナス端からプラス端に向かって移動する。そこで、光応答性材料の表面に基点ユニットを形成し、この基点ユニットに、アクチンフィラメントの極性を揃えて一定方向で固定した構造物がある(特許文献2)。ミオシンフィラメントを相互作用させると、細胞骨格タンパク質による筋肉、鞭毛、細胞移動等における各種の動きを模倣するデバイスを構築できるという。
【0004】
また、微小キャリアの表面に複数のアクチンフィラメントを固定した第1ユニットと、2以上のミオシンフィラメントを有する第2ユニットとからなる組成物もある。微小キャリアに、アクチンフィラメントの極性を揃えて固定すると、第2ユニットのミオシンフィラメントと第1ユニットのアクチンフィラメントが相互作用する。複数の第1ユニットと第2ユニットとを混合すると、第1ユニット-第2ユニット-第1ユニット・・・と相互に複雑に結合したネットワークが形成される。このような第1ユニットと第2ユニットとの混合物により、人工筋肉を構成することができるという(特許文献3)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特許第3341044号公報
【特許文献2】特開2006-321719号公報
【特許文献3】特開2011-178692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1は、基板に形成した線形トラック溝にモータータンパク質を付着しその上にレールタンパク質を配置するものである。モータータンパク質とレールタンパク質との相互作用は、基板に形成された線形トラック溝内に限定され、例えば、トラック溝が円形である場合にレールタンパク質が一定方向に回転するに過ぎない。また、基板が装置の一部を形成するものであり、モータータンパク質とレールタンパク質との相互作用を動力源とするが、基板自体を装置として動かせるというものではない。
【0007】
この点、上記特許文献2も同様である。特許文献2も基板表面へアクチンフィラメントを所定方向で配向固定するものであり、アクチン-ミオシン間相互作用による運動は、基板上におけるミオシン若しくはアクチンフィラメントの二次元的な運動にとどまる。このような構造体では、タンパク質を利用した現実的なアクチュエータとして使用することはできない。
【0008】
一方、特許文献3で開示する第1ユニットは、微小キャリアの表面に複数のレールタンパク質を固定したものである。光により分子構造の変化または分子配列の変化を生じる光応答性分子を有する光応答性材料を微小キャリアとし、これに複数のアクチンフィラメントを光固定している。第1ユニットと第2ユニットとの相互作用によって人工筋肉を構成することができ、かつ人工筋肉に滑り運動による収縮や膨張などの運動を誘起させることができる。一方、マイクロアクチュエータとして使用するには、微小構造物に人工筋肉を配設する必要があるが、特許文献3は、第1ユニットと第2ユニットとによる集合体が収縮等すると記載するにとどまり、微小構造物に関する記載はない。また、このような微小構造物に人工筋肉を配設した装置も記載がない。
【0009】
特許文献3に示すように、複数のレールタンパク質が微小キャリアに固定されると、多くのモータータンパク質とレールタンパク質による大きな相互作用を得ることができる。複数のレールタンパク質を光応答性材料の微小キャリアに固定するために、実施例3では、微小キャリアとしてアクリル系アゾポリマーを使用しているが、合成樹脂を使用するため、廃棄する際の環境汚染が問題となる。これに対し、合成樹脂を使用することなく全てタンパク質または生体材料で構成すれば生分解性に優れ、また可食性などの利点が生まれるが、タンパク質からなる微小キャリアを調製することも、複数のレールタンパク質を微小キャリアに固定することも容易ではない。したがって、複数のモータードメイン領域を含み、かつ生分解性に優れ、可食可能なモータータンパク質の開発が望まれる。
【0010】
また、モータータンパク質には、ミオシンフィラメントの他にキネシンやダイニンが知られ、レールタンパク質としてアクチンフィラメントの他に微小管なども知られている。キネシンは微小管をレールタンパク質としてその表面を移動できることが知られ、キネシンと微小管とを混合すれば人工筋肉として機能しうる。しかしながら、この人工筋肉を微小構造物に配設することができなければ、マイクロアクチュエータとして使用することはできない。したがって、微小構造物の所望の位置にモータータンパク質とレールタンパク質とからなる人工筋肉を容易に配設する方法の開発が望まれる。
【0011】
上記現状に鑑み、本発明は、複数のモータードメインを含み、モータータンパク質のみからなるモータータンパク質、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、上記モータータンパク質とレールタンパク質とからなる人工筋肉およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
また本発明は、上記人工筋肉を配設したマイクロアクチュエータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、モータードメイン含有部分と結合部位Iとを含むモータードメイン含有誘導体と、複数の結合部位IIを含む多量体タンパク質誘導体とを混合し、前記結合部位Iと結合部位IIとで両者を結合させると、複数のモータードメインを有するモータータンパク質を形成することができることを見出し、本発明を完成させた。前記結合部位Iと結合部位IIとが「カルモジュリン由来部位」と「カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位」である場合には、カルシウムの添加により前記結合部位Iと結合部位IIとを結合させてモータータンパク質を製造することができる。カルシウムとしてケージドカルシウムを使用すれば、光照射によってモータータンパク質を形成することができ、レールタンパク質を添加すれば、光照射により任意の箇所に人工筋肉を形成することができる。
【0015】
すなわち、本発明は、多量体タンパク質誘導体に複数のモータードメイン含有誘導体が結合したモータータンパク質であって、
前記モータードメイン含有誘導体は、モータードメイン含有部分と、前記多量体タンパク質誘導体に結合できる結合部位Iとの融合タンパク質Iであり、
前記多量体タンパク質誘導体は、多量体を構成する単量体由来部分と、前記結合部位Iに結合できる結合部位IIとの融合タンパク質IIが2以上結合した多量体であることを特徴とする、モータータンパク質を提供するものである。
【0016】
また本発明は、前記モータードメイン含有誘導体の結合部位Iは、カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位、またはカルモジュリン由来部位であり、
前記多量体タンパク質誘導体の結合部位IIは、前記結合部位Iがカルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位である場合はカルモジュリン由来部位であり、前記結合部位Iがカルモジュリン由来部位である場合はカルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位である、前記モータータンパク質を提供するものである。
【0017】
また本発明は、前記多量体タンパク質誘導体の多量体を構成する単量体由来部分が、CFP由来部分またはミオシンフィラメント由来部分である、前記モータータンパク質を提供するものである。
【0018】
また本発明は、前記モータードメイン含有誘導体と前記多量体タンパク質誘導体との混合液にカルシウムを添加することを特徴とする、前記モータータンパク質の製造方法を提供するものである。
【0019】
また本発明は、前記カルシウムを添加する方法が、前記混合液にケージドカルシウムを添加し、および光を照射する方法である、前記モータータンパク質の製造方法を提供するものである。
【0020】
加えて、本発明は、前記モータータンパク質と、レールタンパク質とからなる人工筋肉であって、
前記レールタンパク質は、微小管、アクチンであることを特徴とする、人工筋肉を提供するものである。
【0021】
また本発明は、前記モータータンパク質の前記モータードメイン含有部分は、キネシンモータードメイン含有部分であることを特徴とする、前記人工筋肉を提供するものである。
【0022】
また本発明は、前記モータータンパク質と、レールタンパク質とを含む人工筋肉の製造方法であって、
前記モータードメイン含有誘導体と前記多量体タンパク質誘導体と、ケージドカルシウムとの混合液に光を照射することを特徴とする、人工筋肉の製造方法を提供するものである。
【0023】
更に本発明は、微小構造物に、前記人工筋肉を配設した、マイクロアクチュエータを提供するものである。
【0024】
また本発明は、微小構造物に、レールタンパク質と前記モータータンパク質とを含む人工筋肉を配設したマイクロアクチュエータの製造方法であって、
前記微小構造物を、前記モータードメイン含有誘導体と前記多量体タンパク質誘導体と、ケージドカルシウムとの混合液に含浸し、前記微小構造物の人工筋肉形成部位に光を照射し、前記人工筋肉形成部位に人工筋肉を形成することを特徴とする、マイクロアクチュエータの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、複数のモータードメインを有するモータータンパク質、このモータータンパク質とレールタンパク質とからなる人工筋肉、この人工筋肉を微小構造物に配設したマイクロアクチュエータを得ることができる。
【0026】
本発明のモータータンパク質には複数のモータードメイン部分が含まれるため、複数のレールタンパク質とモータータンパク質と相互作用による収縮力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例4で製造したモータードメイン含有誘導体と多量体タンパク質誘導体とを模式的に説明する図であり、図1(A)は実施例1で得たプラスミドを使用して調製したモータードメイン含有誘導体を、図1(B)は実施例2で得たプラスミドを使用して調製した多量体タンパク質誘導体を、図1(C)は、実施例3で得たプラスミドを使用して調製した多量体タンパク質誘導体を説明する図である。
【図2】実施例5の光照射による収縮実験の工程を説明する図である。CaM-CFPを使用すると(図2(a))、カルシウムイオンの上昇によりK465m13のカルモジュリン結合部位がCaM-CFPのカルモジュリン部分と結合して複合体を形成し(図2(b))、この複合体が微小管と複数個所で結合する(図2(c))。
【図3】実施例5の光照射による収縮実験の工程を説明する図である。CaM-LMMを使用すると(図3(a))、カルシウムイオンの上昇によりK465m13のカルモジュリン結合部位がCaM-LMMのカルモジュリン部分と結合して複合体を形成し(図3(b))、この複合体が複数の微小管と結合する(図3(c))。
【図4】実施例5の結果を示す図であり、上段は、実施例4で得たモータードメイン含有誘導体のCaM結合部位がCaM-CFPのCaM部分と結合した後に微小管と結合して収縮する経時変化を示す図である。また、下段は、CaM-CFPに代えてCaM-LMMを使用した場合の収縮の経時変化を示す図である。
【図5】実施例5の、CaM-CFPおよびCaM-LMMの収縮中の半径を時間に対してプロットした結果を示す図である。
【図6】実施例6の結果を示す図であり、微小管、実施例4で得たモータードメイン含有誘導体、CaM-CFPの各濃度を変化させた場合の収縮を比較した図である。
【図7】実施例6の結果を示す図であり、微小管、実施例4で得たモータードメイン含有誘導体、CaM-LMMの各濃度を変化させた場合の収縮を比較した図である。
【図8】図6および図7の収縮と濃度との相図を示す図である。図8(A)は、図6の結果に基づき、図8(B)は図7の結果に基づく。
【図9】実施例7の結果を示す図であり、微小管長さと収縮との関係を示す図である。
【図10】図10(a)~(f)は、ダンベル型フォトマスクを使用して人工筋肉が形成される過程を示す図である。
【図11】人工筋肉形成のために使用されるフォトマスクを示す図である。
【図12】図11のフォトマスクを使用して形成された人工筋肉を説明する図である。
【図13】人工筋肉を配設したペンチ型マイクロロボットを示す図である。
【図14】一対の扇形状の構造物であって対抗する要部が結合する微小構造物に、人工筋肉が配設されたマイクロロボットを示す図である。
【図15】図15(A)から(D)は、ペンチ型以外の人工筋肉で駆動する他のマイクロロボットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第一は、多量体タンパク質誘導体に複数のモータードメイン含有誘導体が結合したモータータンパク質であって、
前記モータードメイン含有誘導体は、モータードメイン含有部分と、前記多量体タンパク質誘導体に結合できる結合部位Iとの融合タンパク質Iであり、
前記多量体タンパク質誘導体は、多量体を構成する単量体由来部分と、前記結合部位Iに結合できる結合部位IIとの融合タンパク質IIが2以上結合した多量体であることを特徴とする、モータータンパク質である。以下、本発明を詳細に説明する。

【0029】
(1)モータータンパク質
本発明において、モータータンパク質とは、広く、ATP加水分解のエネルギーを使って細胞の運動を発生させるタンパク質を意味する。モータータンパク質は、ATP分解酵素として機能するタンパク質であり、モーター領域にはATPの加水分解に直接関与するアミノ酸残基とレールタンパク質結合部位とが存在する。本発明のモータータンパク質は、多量体タンパク質誘導体に含まれる結合部位IIと、モータードメイン含有誘導体に含まれる結合部位Iとが結合した結果、複数のモータードメイン領域を有する点に特徴がある。複数のモータードメイン部分を有するため、レールタンパク質との相互作用により、大きな駆動力を得ることができる。

【0030】
従来から、ミオシンモーターは、アクチンフィラメントの上を滑り運動して筋収縮を引き起こし、キネシンモーターやダイニンモーターは、微小管上を直進運動して細胞内物質の長距離輸送を行うことが知られている。本発明のモータータンパク質を構成するモータードメイン含有誘導体は、モータードメイン含有部分と前記結合部位Iとの融合タンパク質Iであり、モータードメイン含有誘導体に含まれるモータードメイン含有部分の種類によって、相互作用しうるレールタンパク質を選択することができる。したがって、融合タンパク質Iのモータードメイン含有部分がキネシンモータードメインに由来する場合は、多量体タンパク質誘導体を構成する単量体由来部分がミオシン由来の場合でも、レールタンパク質として微小管を選択することができ、多数のモータードメインを有するミオシンフィラメント様を維持しつつ微小管との相互作用によって収縮エネルギーを得ることができる。

【0031】
前記結合部位Iと前記結合部位IIとの組み合わせとしては、例えば抗原-抗体、酵素-基質、カルモジュリン由来部位-カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位などがある。これらは、タンパク質の立体構造に基づいて結合する組み合わせである。また、SNAPタグなどのベンジルグアニン誘導体反応性タンパク質やCLIPタグなどのベンジルシトシン誘導体反応性タンパク質を介して合成オリゴヌクレオチドを連結してもよい。ベンジルグアニン誘導体やベンジルシトシン誘導体に所定のDNAやその相補鎖とを含ませると、結合部位Iと結合部位IIとの間で、DNAの相補結合を行うことができる。これにより、本発明のモータータンパク質は、多量体タンパク質誘導体とモータードメイン含有誘導体とを混合するだけで、複数のモータードメイン部分を有するモータータンパク質を得ることができる。
結合部位Iと結合部位IIとの組み合わせとしては、カルモジュリン由来部位-カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位が好ましい。カルモジュリンは、カルシウムが結合すると構造変化を引き起こして、カルモジュリン結合性タンパク質と結合できるようになる。モータードメイン含有誘導体と多量体タンパク質誘導体との混合液にカルシウムを添加するだけで、モータータンパク質を製造することができ、これにレールタンパク質を添加することで人工筋肉を形成し、駆動エネルギーを得ることができる。一方、脱カルシウムにより結合を分離することもできる。
更に、カルシウムの添加方法としてケージドカルシウムに光照射する方法を使用すれば、光照射によりモータータンパク質や人工筋肉を形成することもできる。この場合、レーザー照射またはフォトマスクと光照射とを併用することで、所望の位置に人工筋肉を形成することもできる。

【0032】
本発明のモータータンパク質は、多量体タンパク質誘導体とモータードメイン含有誘導体とが結合してモータータンパク質として機能するため、多量体タンパク質誘導体とモータードメイン含有誘導体物との結合を切断することで、モータータンパク質としての機能を制御することができる。上記したように、結合部位Iと結合部位IIとがカルモジュリン由来部位-カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位である場合は、脱カルシウム処理などでカルシウム濃度を低減させ、多量体タンパク質誘導体とモータードメイン含有誘導体との結合を解除し、人工筋肉の駆動を停止させることができる。

【0033】
(2)モータードメイン含有誘導体
本発明で使用するモータードメイン含有誘導体は、少なくともモータードメイン含有部分と、結合部位Iとの融合タンパク質Iである。前記結合部位Iは、多量体タンパク質誘導体の結合部位IIと結合できるものであればよく、結合部位IIによって適宜選択することができる。例えば、結合部位Iと結合部位IIとの結合を、カルモジュリン由来部位-カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位との結合を利用する場合には、結合部位Iと結合部位IIとのいずれかを「カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位」とし、他方を「カルモジュリン由来部位」とする。抗原-抗体反応を利用する場合も同様であり、結合部位Iと結合部位IIとのいずれかを「抗原由来部位」とし、他方を「抗体由来部位」にする。酵素-基質反応を利用する場合も同様である。

【0034】
融合タンパク質Iは、モータードメイン含有部分のアミノ酸配列をコードするDNAと結合部位Iのアミノ酸配列をコードするDNAとを含む遺伝子を構築し、適当な宿主に導入して形質転換し、発現させて製造することができる。このようなモータードメイン含有部分としては、ATPの加水分解酵素部位およびレールタンパク質結合部位とを有すれば、従来公知のモータータンパク質のアミノ酸配列を参照して化学合成したものでもよい。一方、従来公知のモータータンパク質のモータードメイン含有領域を使用してもよい。例えば、キネシンに由来するキネシンモータードメインを含有する領域、ミオシンに由来するミオシンモータードメインを含有する領域、ダイニンに由来するダイニンモータードメインを含有する領域などを例示することができる。例えば、キネシンは遺伝子ファミリーを形成し、キネシンスーパーファミリータンパク質(kinesin superfamily proteins;以下、KIFsとも称する。)と呼ばれている。KIFsはマウスやヒトで45種類の遺伝子が同定されているが、本発明で使用するキネシンモータードメインとしては、レールタンパク質と相互作用して人工筋肉を形成し、駆動エネルギーを供給できることを条件に、KIFsに属するいずれのキネシンモータードメインであってもよい。また、少なくともキネシンモータードメインを含めばよく、キネシンモータードメイン以外の配列を含むものであってもよい。
また、ミオシンに含まれるキネシンモータードメインを使用してもよい。ミオシンは、モータードメインを含むヘビーメロミオシンと、長い重鎖のライトメロミオシンとに区分できる。したがって、例えばヘビーメロミオシンをモータードメイン含有部分として使用することができる。
なお、モータードメインを提供するキネシンモータータンパク質は、2量体その他の多量体であってもよい。例えば、上記したキネシンには2量体が存在し、ミオシンは2量体が更に結合したミオシンフィラメントを形成することが知られている。これらを構成する各多量体には、それぞれモータードメイン領域が存在する。

【0035】
図1(A)に、本発明で使用するモータードメイン含有誘導体の一例を示す。図1(A)に示すモータードメイン含有誘導体は、モータードメイン含有部分として「キネシンモータードメインを含有する領域」を、結合部位Iとして「カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位」を含む融合タンパク質Iで構成され、符号aは、キネシンモータードメイン含有部分を示し、符号bは結合部位Iを示す。図1(A)では、融合タンパク質Iが2つ結合して2量体となり、1つのモータードメイン含有誘導体を形成している。

【0036】
本発明で使用するモータードメイン含有誘導体は、融合タンパク質Iを発現するプラスミドを設計し、これを適当な宿主細胞に導入して製造することができる。例えば、モータードメイン含有部分のDNAや結合部位IのDNAは、適当なプライマーを鋳型として使用して市販の遺伝子ライブラリその他から得ることができ、または周知の遺伝子配列から人工合成して調製することができる。例えば、モータードメイン含有部分としてキネシンモータードメイン含有部分を使用する場合は、市販のcDNAライブラリから適当なプライマーを使用してキネシンモータードメイン含有領域を選択し、適宜増幅して使用することができる。また、結合部位Iとしてカルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位を使用する場合は、例えば、ミオシン軽鎖キナーゼのカルモジュリン結合部位で知られるm13領域の配列をコードする遺伝子を含むDNAを使用することができる。カルモジュリンは、カルシウム結合タンパク質であり、多くのタンパク質はカルモジュリンを利用してカルシウム検出等を行うため、カルモジュリン結合タンパク質の種類は多い。上記m13領域に限定されず、種々のカルモジュリン結合部位をコードするDNAを使用することができる。また、結合部位Iとしてカルモジュリン由来部位を使用する場合は、カルモジュリンを含むcDNAライブラリから、適当なプライマーを使用してカルモジュリンをコードするDNA断片を選択し、適宜増幅して使用することができる。これらは、公知の配列から合成してもよい。他のモータードメイン含有部分や結合部位Iを利用する場合も上記に準じてDNAを調製することができる。次いで、これらのDNAを周知の技術により結合し、融合タンパク質Iをコードする遺伝子を合成することができる。この遺伝子を、周知の方法により宿主細胞に導入し、融合タンパク質Iを発現させることができる。なお、図1(A)に示すように、融合タンパク質Iが2量体となってモータータンパク質として機能するには、宿主細胞が2量体を形成することが好ましい。本発明では、多量体を形成しうる宿主細胞として、Rosetta (DE3)、Rosetta 2(DE3)などを好適に使用することができる。Rosetta (DE3)は、大腸菌レアコドンに対応するtRNAを発現し、大腸菌レアコドンを多数有する目的タンパク質遺伝子の発現に有効である。

【0037】
(3)多量体タンパク質誘導体
本発明で使用する多量体タンパク質誘導体は、「多量体を構成する単量体由来部分」と「結合部位II」とを含む融合タンパク質IIが2以上結合した多量体である。前記結合部位IIは、モータードメイン含有誘導体に含まれる結合部位Iに結合できるタンパク質部分であり、結合部位Iが、カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位である場合はカルモジュリン由来部位を使用する。なお、融合タンパク質IIに含まれる「結合部位II」の数に制限はなく、1以上であれば複数存在するものであってもよい。結合部位IIとモータードメイン含有誘導体の結合部位Iとが結合するため、結合部位IIが多いほど、モータードメイン含有誘導体を多く含むモータータンパク質となる。「結合部位II」の数の上限に制限はないが、好ましくは3以下である。

【0038】
一方、「多量体を構成する単量体由来部分」としては、同じ単量体が結合して多量体を構成する単量体由来部分が好ましく、例えば、CFP(cyan fluorescent protein)、ミオシン、アクチン、コラーゲンなどに由来する部位がある。CFPは、蛍光タンパク質であり、同じ単量体が4分子結合した4量体である。一方、ミオシンは2量体を形成し、この2量体の尾部が平行に並び、アミノ酸残基の側鎖間の相互作用により側面同士で結合し、双極性の巨大なミオシンフィラメントを構成する。ミオシンはモータータンパク質としても機能するが、多量体タンパク質誘導体を構築するためにミオシンフィラメントを使用する場合は、モータードメインは不要である。したがって、モータードメイン領域を含まない、ライトメロミオシンの領域を使用する。

【0039】
図1(B)に、本発明で使用する多量体タンパク質誘導体の一例を示す。図1(B)に示す多量体タンパク質誘導体は、「多量体を構成する単量体由来部分」としてCFP由来部分を使用し、結合部位IIとして「カルモジュリン由来部位」を含む融合タンパク質IIで構成され、符号cは、カルモジュリン由来部位であり、符号dは4量体のCFPを構成する各単量体部分である。また、図1(C)は、多量体タンパク質誘導体の他の一例であり、「多量体を構成する単量体由来部分」としてライトメロミオシンを使用し、結合部位IIとして「カルモジュリン由来部位」を含む融合タンパク質IIを使用した融合タンパク質IIが2分子結合した2量体を示す図である。符号cは、カルモジュリン由来部位であり、符号eは2量体ミオシンのライトメロミオシン部分である。

【0040】
本発明で使用する多量体タンパク質誘導体は、融合タンパク質IIを発現するプラスミドを設計し、これを適当な宿主細胞に導入して製造することができる。例えば、「多量体を構成する単量体由来部分」としてCFP由来部分を使用する場合は、市販の、CFPを発現する蛍光タンパク質発現用プラスミド等を使用し、適当なプライマーを使用してCFPをコードする遺伝子断片を調製することができる。また、ミオシン由来部分を使用する場合は、ミオシンを含むcDNAライブラリから適当なプライマーを用いてライトメロミオシン領域を含むDNAを選択し、適宜増幅して使用することができる。また、結合部位IIとして「カルモジュリン由来部位」や「カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位」を使用する場合は、モータードメイン含有誘導体の項に記載したように、適当なcDNAライブラリを使用し、または公知の配列を参照して人工合成してDNA断片を選択し、適宜増幅して使用することができる。次いで、これらのDNAを周知の技術により結合し、融合タンパク質IIをコードする遺伝子を合成することができる。この遺伝子を、周知の方法により宿主細胞に導入し、融合タンパク質IIを発現させることができる。図1(B)、図1(C)に示すように、融合タンパク質IIは多量体を形成する必要があり、本発明では、多量体を形成しうる宿主細胞として、Rosetta (DE3)、Rosetta 2(DE3)などを使用することが好ましい。

【0041】
なお、図1(C)に示す多量体タンパク質誘導体は、宿主細胞内で更に重合し、多量体タンパク質誘導体の尾部が平行に並び、かつ側面同士で結合して双極性のミオシンフィラメントを形成する(図3(a)参照)。なお、図1(C)に示す多量体タンパク質誘導体は、イオン強度を変化させることでフィラメント形成を制御することができる。例えば、NaClやKClが50~100mM濃度の条件ではフィラメントを形成するが、0.5M以上ではフィラメントが分解しモノマーとなり、これらは可逆的に形態を変化させることができる。

【0042】
(4)モータータンパク質の製造方法
本発明のモータータンパク質は、モータードメイン含有誘導体と多量体タンパク質誘導体とを混合し、結合部位Iと結合部位IIとで結合させることで調製することができる。モータードメイン含有誘導体と多量体タンパク質誘導体と配合量は、多量体タンパク質誘導体に含まれる結合部位IIの数とモータードメイン含有誘導体に含まれる結合部位Iの数に応じて適宜選択することができる。
結合部位Iと結合部位IIとの結合が、「カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位」と「カルモジュリン由来部位」とによる場合は、カルシウムの添加によりモータードメイン含有誘導体と多量体タンパク質誘導体とを結合することができる。例えば、適当量のモータードメイン含有誘導体含有溶液と多量体タンパク質誘導体含有溶液との混合液に、カルシウムを添加してカルモジュリンにカルシウムを結合させると構造変化が引き起こされ、カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位に結合できるようになる。添加するカルシウム量は、反応に十分量であればよい。

【0043】
カルシウムの添加方法としては、カルシウム含有溶液を添加する方法の他、ケージドカルシウムを使用する方法でもよい。ケージドカルシウムとしては、カルシウム分子に光分解性保護基が結合したものの他、高親和性のカルシウムキレート剤(BAPTA、EDTA、EGTA)に光分解性保護基が結合したものを含む。代表的な光分解性保護基としては、o-ニトロベンジル基、2-(o-ニトロフェニル)エチル基(NPE)、(クマリン-4-イル)メチル基(Bhc)、7-ニトロインドリニル基などがある。保護基が結合した状態ではカルシウムイオンと高親和性であるが、保護基の解離によってキレート剤内の共有結合がはずれて親和性が低下し、カルシウムイオンを放出する。励起波長は主にUV領域であり350nm付近の励起光である。このようなケージドカルシウムとしては、カルシウム結合DMNP-EDTA(1-(4,5-Dimethoxy-2-Nitrophenyl)-1,2-Diaminoethane-N,N,N’,N’-Tetraacetic Acid)、カルシウム結合DM-nitrophen(1-[2-nitro-4,5-dimethoxyphenyl]-1,2-diaminoethane-N,N,N’,N’-tetraacetic acid)、カルシウム結合NP-EGTA(nitrophenyl-EGTA)、カルシウム結合NDBF-EGTA(nitrodibenzylfuranyl-ethylene glycol tetraacetic acid)、カルシウム結合azid-1などがある。

【0044】
ケージドカルシウムを使用する場合、予めモータードメイン含有誘導体と多量体タンパク質誘導体とにケージドカルシウムを混合した混合液を調製すれば、光(350nm)を照射するだけで混合液内にカルシウムを遊離させ、多量体タンパク質誘導体に複数のモータードメイン含有誘導体を結合させて、モータータンパク質を形成することができる。図2(a)は、モータードメイン含有誘導体と4量体タンパク質誘導体とケージドカルシウムの混合液に光を照射する場合を説明する図であり、図2(b)は、その結果、4量体タンパク質誘導体1分子にモータードメイン含有誘導体4分子が結合してモータータンパク質が形成される態様を説明する図である。なお、図2(c)は、このモータータンパク質が微小管に結合する態様を示す図である。

【0045】
また、図3(a)は、モータードメイン含有誘導体と、ライトメロミオシン由来の多量体タンパク質誘導体とケージドカルシウムとの混合液に光を照射する図であり、図3(b)は、その結果、多量体タンパク質誘導体1分子に複数のモータードメイン含有誘導体が結合してモータータンパク質が形成される態様を説明する図である。なお、図3(c)は、このモータータンパク質が微小管に結合する態様を示す図である。使用する多量体タンパク質誘導体によってモータータンパク質に含まれるモータードメイン含有誘導体の量および配置が異なり、モータードメイン含有誘導体が線状に整列して結合するモータータンパク質を使用すると、微小管の繊維状に沿ってモータータンパク質が結合する。

【0046】
(5)人工筋肉及びその製造方法
本発明では、上記モータータンパク質にレールタンパク質を混合することで人工筋肉として使用することができる。使用するレールタンパク質は、モータータンパク質を構成するモータードメイン含有誘導体のモータードメイン領域の特定によって適宜選択することができる。例えば、モータードメイン領域がキネシンやダイニンに由来する場合には、レールタンパク質として微小管が好ましい。また、モータードメイン領域がミオシン由来の場合には、レールタンパク質としてアクチンを好適に使用することができる。レールタンパク質にエネルギー源としてのATPと本発明のモータータンパク質とを添加すると、モータータンパク質がATPを加水分解しながらレールタンパク質に沿って移動し、相互作用が人工筋肉の収縮として発現される。

【0047】
本発明の人工筋肉は、上記モータータンパク質とレールタンパク質を混合して調製することができる。一方、結合部位Iと結合部位IIとが、「カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位」と「カルモジュリン由来部位」とによる場合は、レールタンパク質、モータードメイン含有誘導体、多量体タンパク質誘導体、およびケージドカルシウムとを含む混合液に光を照射することで、人工筋肉を形成することができる。予め、モータータンパク質を調製することなく人工筋肉を調製できる点に特徴がある。しかも、合成樹脂などを含まないため生分解性に優れる。このため、人工筋肉で動く疑似餌などを形成した場合には、これを捕食した動物に対する安全性が高く、環境保全にも優れる。

【0048】
光の照射方法としては、上記混合液の人工筋肉形成部位にレーザー照射を行う方法や、人工筋肉形成部位以外の箇所にフォトマスク行い、人工筋肉形成部位のみに光を照射する方法などがある。たとえば、後記する実施例に示すように、上記混合液の一部を所定形状の穴を形成したフォトマスクで被覆し、光を照射すると光を透過した所定形状の位置に人工筋肉を形成することができる。しかも、人工筋肉形成予定領域に2本の支柱を形成すると、人工筋肉が2本の支柱に絡まり固定できることも判明した。

【0049】
(6)マイクロアクチュエータおよびその製造方法
マイクロアクチュエータとは、例えば顕微鏡下での細胞ハンドリング等が可能な超小型ハンドを構成するものである。本発明の人工筋肉を微小構造物に配設すれば、マイクロアクチュエータを構築することができる。例えば、微小構造物として、樹脂その他によって形成されたペンチなどがある。ペンチの一対の握り部に人工筋肉を形成すれば、人工筋肉の収縮および弛緩によってペンチを開閉することができるマイクロアクチュエータとして使用することができる。使用するモータータンパク質が、結合部位Iと結合部位IIとが、「カルモジュリン結合性タンパク質のカルモジュリン結合部位」と「カルモジュリン由来部位」とによって結合した場合は、ペンチ型の微小構造物を、レールタンパク質、モータードメイン含有誘導体、多量体タンパク質誘導体、およびケージドカルシウムとを含む混合液に含浸し、ペンチ型の1対の握り部にレーザー照射し、またはペンチ型の1対の握り部以外をフォトマスクして光を照射することで、前記握り部に人工筋肉を配設することができる。これにより、所望の位置に人工筋肉が配設されたマイクロアクチュエータを製造することができる。

【0050】
一方、ペンチ型の微小構造物の人工筋肉配設部に予めレールタンパク質を固定し、これをモータードメイン含有誘導体、多量体タンパク質誘導体、およびケージドカルシウムとを含む混合液に含浸し、光を照射してもよい。光照射によってモータードメイン含有誘導体と多量体タンパク質誘導体とが結合してモータータンパク質を形成し、これがレールタンパク質と結合して人工筋肉を形成し、微小構造物に人工筋肉が配設されたマイクロアクチュエータを製造することができる。逆に、ペンチ型の微小構造物の人工筋肉配設部にモータードメイン含有誘導体または多量体タンパク質誘導体を結合し、これを多量体タンパク質誘導体またはモータードメイン含有誘導体、レールタンパク質、およびケージドカルシウムとを含む混合液に含浸し、光を照射してもよい。光照射によってモータードメイン含有誘導体と多量体タンパク質誘導体とが結合してモータータンパク質を形成し、これにレールタンパク質が結合して人工筋肉が形成され、微小構造物に人工筋肉が配設されたマイクロアクチュエータを製造することができる。
なお、本発明のモータータンパク質やレールタンパク質を化学的または生化学的に微小構造物に固定してもよい。

【0051】
本発明のマイクロアクチュエータは、ATPなどの化合物を供給することで駆動エネルギーを出力させ、微小構造物を駆動させることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
(実施例1:モータードメイン含有誘導体用プラスミドの調製)
cDNA Library Human Hela Cell (BioAcademia社)から、一対のプライマー(配列番号1および配列番号2)を用いてDNAポリメラーゼPrimeSTAR(TAKARA社)によるPCRを行い、conventional kinesinのN末端から465番目までをコードするDNA断片を得た。これをpET30bのマルチクローニングサイトBamH I,Xho I サイトにサブクローニングした。これをpETK465と命名した。
【実施例】
【0054】
プライマー:
配列番号1:CGGATCCGatggcggacctggccgagtgc
配列番号2:cccCTCGAGcccttctggtagatgccaaaagctcctcctgat
【実施例】
【0055】
一方、MLCK(Myosin Light Chain Kinase)のカルモジュリン結合部位で知られるm13領域の配列をコードする遺伝子を含むDNAを人工合成した(配列番号3)。このDNAをSal I,Xho Iで切断したDNA断片とし、pETK465のXho Iサイトにインサーションし、キネシンとMLCKのカルモジュリ結合部位の融合タンパク質を発現するプラスミドpETK465m13を得た。なお、この融合タンパク質(配列番号4)をK465m13と称する。
【実施例】
【0056】
(実施例2:4量体タンパク質誘導体用プラスミドの調製)
cDNA Library Human Hela Cell (BioAcademia社)から、一対のプライマー(配列番号5および配列番号6)を用いてPCRし、両末端に制限酵素サイトKpn IをもつCaM(カルモジュリン)をコードする遺伝子断片を得た。この遺伝子断片を制限酵素Kpn Iで切断し、pET30bのKpn Iサイトにインサートしてカルモジュリンを発現するプラスミドpETCaMを得た。
【実施例】
【0057】
配列番号5: gggGGTACCatggctgaccagctgactga
配列番号6: gggGGTACCctttgcagtcatcatctgtacaaa
【実施例】
【0058】
一方、プラスミドpAmCyan Vector(クローンテック社)から、一対のプライマー(配列番号7および配列番号8)を用いてPCRを行い、CFP(Cyan Fluorescent Protein)をコードする遺伝子断片を得た。この遺伝子断片を制限酵素Sal IおよびXho Iで切断し、pETCaMのマルチクローニングサイトSalI,Xho Iサイトにインサーションし、カルモジュリンとCFPの融合タンパク質を発現するプラスミドpETCaMCFPを得た。なお、この融合タンパク質をCaM-CFPと称する(配列番号9)。
【実施例】
【0059】
配列番号7: ggGTCGACacaggaggttCCATGGCTCTTTCAAACAAGTTTATCG
配列番号8:ggCTCGAGttagaaagggacaacagaggttatatgtgc
【実施例】
【0060】
(実施例3:多量体タンパク質誘導体用プラスミドの調製)
Mouse skeletal muscle cDNA library (TAKARA社)から、一対のプライマー(配列番号10および配列番号11)を用いてPCRを行いLMM(骨格筋ライトメロミオシン(;Light Mero Myosin)をコードする遺伝子断片を得た。この遺伝子断片を制限酵素Sal I Xho Iで切断し、断片を実施例2で調製したpETCaMのマルチクローニングサイトSal I/Xho Iサイトに導入し、CaMとLMMの融合タンパク質を発現するpETCaMLMMを得た。なお、この融合タンパク質(配列番号12)をCaM-LMMと称する。
【実施例】
【0061】
配列番号10: gggGTCGACagcggagccacttcagcccaaatcgagatg
配列番号11: cccCTCGAGtcactcttcgcttatgattttggtgtgaacc
【実施例】
【0062】
(実施例4:モータードメイン含有誘導体および多量体タンパク質誘導体の発現と精製)
実施例1で調製したpETK465m13、実施例2で調製したpETCaMCFP、および実施例3で調製したpETCaMLMMを使用し、それぞれ大腸菌宿主Rosetta DE3 pLysSを形質転換し、カナマイシン存在下で液体培地を用いて培養した。OD(Optical density)が約0.5になった時点でIPTGを添加(終濃度0.2mM)して20℃で約16時間培養し、タンパク質を発現させた。なお、これら発現タンパク質のN末端には、発現ベクターpET30bに由来するHisタグが付加されている。
【実施例】
【0063】
培養した細胞を遠心分離機で集菌後、超音波破壊器を使って細胞を破壊し溶菌させ遠心分離することで可溶性のタンパク質画分を得た。次いで、Hisタグタンパク質精製用樹脂HisTrap(GE社)を用いたカラムクロマトグラフィ装置AKTA Prime(GE社)を行い、それぞれの融合タンパク質を得た。なお、融合タンパク質K465m13は、さらにイオン交換樹脂HiTrapQ(GE社)を用いて精製を行った。得られた融合タンパク質の模式図を図1に示す。図1(A)はpETK465m13による融合タンパク質K465m13である。キネシンは二量体であり、融合タンパク質のaはキネシンモータードメインを含むキネシン由来部分であり、bはミオシン短鎖キナーゼのCaM結合部位由来部分である。また、図1(B)はpETCaMCFPによる融合タンパク質CaM-CFPである。CFPは4量体であり、融合タンパク質のcはCaM由来部分であり、dはCFP由来部分である。また、図1(C)はpETCaMLMMによる融合タンパク質CaM-LMMの構成単体であり、前記単体は2量体であり、cはCaM由来部分であり、eはLMM由来部分である。なお、融合タンパク質は、図3に示すように、前記単体の複数個が線状に重合した繊維状物を構成する。
【実施例】
【0064】
(実施例5:光照射による収縮実験の方法)
直径1.5mm、深さ0.3mmの円形のマイクロチャンバに、下記表1に示す緩衝液を滴下し、K456m13はCaM-CFP(4量体)1モルに対して4モルの割合で加え、微小管0.5~4μM、K465m13 0.5~4μM、およびCaM-CFP0.125~1μMを封入し、UV光(波長365nm)を照射してo-Nitrophenyl EGTA(ThermoFisher社)を光分解してCaイオンを放出させた。図2に示すように、カルシウムイオンの上昇によりK465m13のCaM結合部位がCaM-CFPのCaM部分と結合して複合体を形成し、この複合体が複数の微小管と結合した。UV照射から180秒後までの明度を蛍光顕微鏡にて観察し、微小管の収縮として評価した。結果を図4の上段に示す。なお、図4に記載する基準バーは、1mmである。
【実施例】
【0065】
また、CaM-CFPに代えてCaM-LMMを使用し、1MのCaM-LMMに対し1MのK456m13の割合で加え、微小管0.5~4μM、K465m13 0.5~4μM、およびCaM-LMM0.5~4μMを使用して上記と同様に操作した。図3に示すように、カルシウムイオンの上昇によりK465m13のCaM結合部位がCaM-LMMのCaM部分と結合して複合体を形成し、この複合体が複数の微小管と結合した。また、UV照射から180秒後までの明度を蛍光顕微鏡にて観察し、微小管の収縮として評価した。結果を図4下段に示す。
【実施例】
【0066】
CaM-CFPおよびCaM-LMMの収縮中の半径を時間に対してプロットしたものを図5に示す。微小管およびK465m13にCaM-LMMを添加した場合は、CaM-CFPを添加した場合と比較して著しく収縮速度が向上することが判明した。
【実施例】
【0067】
【表1】
JP2020050606A_000003t.gif
【実施例】
【0068】
(実施例6:光照射による収縮実験の方法)
マイクロチャンバに封入する微小管の濃度を,1.0、2.0、3.0、4.0μMに変更し、およびK465m13とCaM-CFPとを同じ濃度であって、それぞれ0.5、1.0、2.0、3.0、4.0μMに変更し、実施例5に準じて操作し、UV照射後100秒後の映像を撮影した。結果を図6に示す。
また、微小管の濃度を0.25、0.5,1.0,2.0,4.0μMに変更し、およびK465m13とCaM-LMMとを同じ濃度であって、それぞれ0.125、0.25、0.5,1.0,2.0,3.0、4.0μMに変更し、実施例5に準じて操作し、UV照射後100秒後の映像を撮影した。結果を図7に示す。更に、図6、図7の収縮と濃度との相図を図8に示す。図8(A)は、図6の結果に基づき、図8(B)は図7の結果に基づく図である。なお、○の中心に黒丸を含む記号は、収縮を、○に3個の*を含む記号は不完全な収縮を、○で示す記号は、収縮しなかったことを示す。図8に示すように、CaM-CFPとCaM-LMMとは、収縮に至適な微小管、K465m13濃度が存在することが判明した。例えば、図8(A)に示すように、CaM-CFPを使用する場合は、微小管濃度3.0μM、K465m13およびCaM-CPPが3.0μM以上で収縮反応が観察されたが、図8(B)に示すように、CaM-LMMを使用する場合は、微小管濃度2.0μM、K465m13およびCaM-LMM各0.5μMで収縮反応を観察することができた。このことは、K465m13と結合したCaM-CPPやCaM-LMMなどのモータータンパク質の形状によって微小管の収縮反応に差が生じることを意味する。K465m13と結合したCaM-LMMなど、複数のモータータンパク質が等間隔に整列する形状の場合は、より低濃度、すなわち効率的に微小管を収縮させ得ることが判明した。
【実施例】
【0069】
(実施例7:微小管長さと収縮の関係)
チューブリンの濃度を5mg/mlに固定し、DMSO濃度を7.5%、10%、15%にして45分間、37℃で重合させ、それぞれ、平均6.5、4.1、2.1μmの微小管を得た。
次いで、実施例5に準じて、モータータンパク質としてK465m13を2μM、CaM-LMMを2μM、および微小管2μMを混合してなる複合体を調製し、実施例5に準じてUV照射後の収縮半径を計測し、時間変化から収縮速度を算出した。結果を図9に示す。収縮速度は用いる微小管の長さに大きく依存した。微小管が長くなるにつれ、単位秒あたりの収縮長さが短くなる傾向が観察された。
【実施例】
【0070】
(実施例8:人工筋肉の固定)
ガラス製の基板にフォトリソグラフィ法を用いてフォトレジストSU8(マイクロケム社)による直径50μm、高さ0.2mmの支柱を1mmの間隔で2本を形成した(図10(a))。この基板に、前記表1に示す緩衝液に、K465m132μM、CaMLMM2μM、および微小管2μMを含む人工筋肉用溶液を5μL加えた。棒状部の両端に太径が形成されたいわゆるダンベル型のフォトマスクを使用し、前記太径部分に前記2本の支柱が含まれるようにフォトマスクを載置し、UV光(波長365nm)を照射した(図10(b))。UV照射により収縮した微小管複合体が2本の支柱に絡まり、支柱間を架橋し繊維の方向が揃った人工筋肉が形成された(図10(c)~(f))。
【実施例】
【0071】
(実施例9:任意形状の人工筋肉形成)
実施例8のダンベル型に代えて、図11に示す種々の形状のフォトマスクを使用する以外は実施例8と同様に操作して、種々の形状の人工筋肉を形成した。結果を図12に示す。図12は、人工筋肉形成の際の経時変化を示すものであり、左端から右端に向かってUV照射後5、30、60、90、120、150秒後の撮影画像である。
【実施例】
【0072】
(実施例10:ペンチ型マイクロロボットの製造)
ポリジメチルシロキサン(Polydimetyl siloxane;以降、PDMSとも称する)を使用して、図13に示す一対の噛み合わせ部を有する示すペンチ状の微小構造物を作成してマイクロチャンバに固定し、実施例8で使用した人工筋肉用溶液を封入した。前記微小構造物の噛み合わせ部近傍に形成した一対の凹部を含むように弧状にフォトマスクしてUV光(波長365nm)を照射し、前記凹部間に人工筋肉を形成させた。人工筋肉を収縮させると一対の噛み合わせ部が収縮し、マイクロロボットを駆動させることができた。
【実施例】
【0073】
(実施例11:他のマイクロロボットの製造)
PDMSを使用して、図14に示す端部に凹部が形成された一対の扇形状の構造物であって一対の扇形状の要部が結合する微小構造物の前記凹部に、実施例10に準じて人工筋肉を形成した。人工筋肉を収縮させると一対の噛み合わせ部が収縮し、マイクロロボットを駆動させることができた。同様にして、図15(A)、(B)、(C)、(D)に示す形状の微小構造物を形成し、これらに人工筋肉を配設した。これらは人工筋肉の収縮により微小構造物が可動するマイクロロボットである。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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