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明細書 :血液脳関門インヴィトロモデルおよび血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6831119号 (P6831119)
登録日 令和3年2月1日(2021.2.1)
発行日 令和3年2月17日(2021.2.17)
発明の名称または考案の名称 血液脳関門インヴィトロモデルおよび血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法
国際特許分類 C12N   5/02        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   5/0793      (2010.01)
C12N   5/071       (2010.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
FI C12N 5/02
C12N 5/10
C12N 5/0793
C12N 5/071
C12Q 1/02
請求項の数または発明の数 7
全頁数 14
出願番号 特願2018-511944 (P2018-511944)
出願日 平成29年3月22日(2017.3.22)
国際出願番号 PCT/JP2017/011361
国際公開番号 WO2017/179375
国際公開日 平成29年10月19日(2017.10.19)
優先権出願番号 2016081995
優先日 平成28年4月15日(2016.4.15)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 令和2年1月31日(2020.1.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】竹下 幸男
【氏名】神田 隆
個別代理人の代理人 【識別番号】100137512、【弁理士】、【氏名又は名称】奥原 康司
【識別番号】100178571、【弁理士】、【氏名又は名称】関本 澄人
審査官 【審査官】平林 由利子
参考文献・文献 特開2007-166915(JP,A)
特開2001-238681(JP,A)
中川慎介他, 脳毛細血管の in vitro での再現 血液脳関門 (BBB) 構成細胞の単離と in vitro BBB モデルの再構築, 日薬理誌, 2014, Vol.143, No.3, pp.137-143
中川慎介他, 1.血液脳関門 in vitro 再構成モデル(BBB キット) と機能解明への活用, 脳循環代謝, 2013, Vol.24, No.2, pp.71-74
THOMSEN, L. B. et al., A Triple Culture Model of the Blood-Brain BarrierUsing Porcine Brain Endothelial cells, Astrocytes and Pericytes, PLOS ONE, 2015,10(8):e0134765, pp.1-16
Takeshita, Y. et al., An in vitro Blood-brain barrier model combining shearstress and endothelial cell/astrocyte co-culture, J. Neurosci. Methods, 2014,Vol.232, pp.165-172
調査した分野 C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(a)~(e)の工程を含む、血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法。
(a)条件不死化アストロサイトを多孔性メンブレンの片方の面に、条件不死化脳ペリサイトを該多孔性メンブレンの他方の面に、各々、シート状になるまで培養する工程、
(b)条件不死化脳微小血管内皮細胞を培養容器中でシート状になるまで培養する工程、
(c)工程(b)で作製した条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートを剥がす工程、
(d)工程(c)で作製した条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートを、工程(a)で培養した条件不死化脳ペリサイトのシートに層状に接触させる工程、および
(e)工程(d)で作製した、条件不死化脳微小血管内皮細胞のシート、条件不死化脳ペリサイトのシートおよび条件不死化アストロサイトのシートの3層を含む細胞培養物を共培養する工程
【請求項2】
前記工程(b)の培養容器の培養表面がラミニンコートされており、前記工程(c)において条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートをラミニン層と共に剥がし、前記工程(d)が工程(c)で作製した条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートとラミニン層を、工程(a)で培養した条件不死化脳ペリサイトのシートに層状に接触させる工程であることを特徴とする請求項1に記載の血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法。
【請求項3】
前記条件不死化脳微小血管内皮細胞、条件不死化脳ペリサイトおよび条件不死化アストロサイトが、各々、初代培養脳微小血管内皮細胞、初代培養脳ペリサイトおよび初代培養アストロサイトに温度感受性SV40 large T抗原の遺伝子を導入して作製したものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法。
【請求項4】
前記工程(b)において、条件不死化脳微小血管内皮細胞を温度応答性培養容器で培養することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法。
【請求項5】
下から条件不死化アストロサイトのシート、多孔性メンブレン、条件不死化脳ペリサイトのシートおよび条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートの順に、または、下から条件不死化微小血管内皮細胞のシート、条件不死化脳ペリサイトのシート、多孔性メンブレンおよび条件不死化アストロサイトのシートの順に積層されていることを特徴とする、血液脳関門インヴィトロモデル。
【請求項6】
下から条件不死化アストロサイトのシート、多孔性メンブレン、条件不死化脳ペリサイトのシート、ラミニン層および条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートの順に、または、下から条件不死化微小血管内皮細胞のシート、ラミニン層、条件不死化脳ペリサイトのシート、多孔性メンブレンおよび条件不死化アストロサイトのシートの順に積層されていることを特徴とする、血液脳関門インヴィトロモデル。
【請求項7】
前記条件不死化脳微小血管内皮細胞、条件不死化脳ペリサイトおよび条件不死化アストロサイトが、各々、初代培養脳微小血管内皮細胞、初代培養脳ペリサイトおよび初代培養アストロサイトに温度感受性SV40 large T抗原の遺伝子を導入して作製したものであることを特徴とする、請求項5または6に記載の血液脳関門インヴィトロモデル。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、血液脳関門(BBB;blood-brain barrier、以下「BBB」と記載する場合もある)のインヴィトロモデルおよび血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
BBBは、外部からの有害物質の流入を制限し脳の内部環境維持に重要な役割を果たす。その一方、中枢神経系への薬物伝達を困難にするため、末梢では効果的な治療薬であっても中枢神経系には十分な効果を来さないことが多い。また、アルツハイマー型認知症、脳梗塞、多発性硬化症などの多くの中枢神経疾患においてBBBの破綻が病態に関与していることが示されており、BBBの生理的、病理的機能解明が急務な状況となっている。BBBは、血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトの3種類の細胞から構成される。
【0003】
これまでに、細胞培養インサート(cell culture insert)を用いた様々なBBBインヴィトロモデルが作製されてきた。
例えば、細胞培養インサートの上面に血管内皮細胞を培養し、培養ウェルの上面にアストロサイトとペリサイト(周皮細胞)を共培養したBBBインヴィトロモデルが報告されている(特許文献1)。しかし、このモデルは、アストロサイトとペリサイトが混在した状態で培養されており、また、血管内皮細胞と、ペリサイトおよびアストロサイトが非接触状態で培養されているため、インヴィボにおける血液脳関門の構造を再現しているとは言いがたいものであった。
また、細胞培養インサートの上面に血管内皮細胞、下面にペリサイト、培養ウェルの上面にアストロサイトを培養したモデルが報告されている(特許文献2、非特許文献1)。しかし、このモデルでは、アストロサイトが培養ウェル上にあるため、血管内皮細胞層、ペリサイト層への直接的な作用を観ることはできず、アストロサイトとペリサイトの血管内皮細胞に対する直接的な相互作用を有する、BBBの解剖学的構造を再現した理想的なインヴィトロモデルとはほど遠い状況であった。
【0004】
発明者らは、アストロサイトと血管内皮細胞との直接的な接触を可能にするモデルとして、細胞培養インサートの上面に血管内皮細胞株、下面にアストロサイト細胞株を培養し、アストロサイトの足突起が細胞培養インサートの小孔を通って直接血管内皮細胞層に直接作用するBBBの解剖学的構造を反映させた培養系を確立している(非特許文献2)。
【0005】
上述のように、多くの研究者の努力により、インヴィボの構造を反映すべく、血液脳関門のモデル系は改良されてきてはいるが、さらに解決すべき大きな課題が存在している。
BBBの主な構成細胞である血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトの3種類の培養細胞株を用いて、通常の分散培養でBBBのマルチ培養モデルを作製する場合には、これら3種類の細胞株で増殖速度が異なるため、各細胞株が単層構造を形成せず、3つの細胞が3層構造をとる解剖学的構造を再現したBBBモデルの構築が、技術的に困難であった。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2001-238681
【特許文献2】特開2007-166915
【0007】

【非特許文献1】Thomsen et al., PLOS ONE, DOI:10.1371/journal.pone.0134765 August 4, 2015
【非特許文献2】Takeshitaら, J Neurosci Methods. 232, 165-172 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、BBBの解剖学的構造を再現したインヴィトロモデルの構築を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、脳由来の血管内皮細胞、ペリサイトおよびアストロサイトからなる3層構造であって、各層の細胞が相互にクロストークし得るようなBBBモデルに関し、鋭意研究を行った。アストロサイトとペリサイトとの相互作用については、これらの細胞層の間に多孔性メンブレンを挟むことで、アストロサイトの形状変化等による直接的相互作用が可能であることを見出した。他方、血管内皮細胞とペリサイトの細胞層同士については、両細胞層同士を直接接触させることにより相互作用可能になると予想し、その方法について検討をおこなった。検討の結果、血管内皮細胞の細胞シートを別途作製し、該シートをペリサイトの層に層状に接触させたところ、従来のBBBモデルよりも、物質透過性が低く、かつ、そのバリア機能(物質透過性を抑制する機能)が長期間維持されるモデルの構築に成功した。
【0010】
したがって、本発明は以下の(1)~(5)である。
(1)下記(a)~(e)の工程を含む、血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法。
(a)条件不死化アストロサイトを多孔性メンブレンの片方の面に、条件不死化脳ペリサイトを該多孔性メンブレンの他方の面に、各々、シート状になるまで培養する工程、
(b)条件不死化脳微小血管内皮細胞を培養容器中でシート状になるまで培養する工程、
(c)工程(b)で作製した条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートを剥がす工程、
(d)工程(c)で作製した条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートを、工程(a)で培養した条件不死化脳ペリサイトのシートに層状に接触させる工程、および
(e)工程(d)で作製した、条件不死化脳微小血管内皮細胞のシート、条件不死化脳ペリサイトのシートおよび条件不死化アストロサイトのシートの3層を含む細胞培養物を共培養する工程
(2)前記工程(b)の培養容器の培養表面がラミニンコートされており、前記工程(c)において条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートをラミニン層と共に剥がし、前記工程(d)が工程(c)で作製した条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートとラミニン層を、工程(a)で培養した条件不死化脳ペリサイトのシートに層状に接触させる工程であることを特徴とする上記(1)に記載の血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法。
(3)前記条件不死化脳微小血管内皮細胞、条件不死化脳ペリサイトおよび条件不死化アストロサイトが、各々、初代培養脳微小血管内皮細胞、初代培養脳ペリサイトおよび初代培養アストロサイトに温度感受性SV40 large T抗原の遺伝子を導入して作製したものであることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法。
(4)前記工程(b)において、条件不死化脳微小血管内皮細胞を温度応答性培養容器で培養することを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法。
(5)下から条件不死化アストロサイトのシート、多孔性メンブレン、条件不死化脳ペリサイトのシートおよび条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートの順に、または、下から条件不死化微小血管内皮細胞のシート、条件不死化脳ペリサイトのシート、多孔性メンブレンおよび条件不死化アストロサイトのシートの順に積層されていることを特徴とする、血液脳関門インヴィトロモデル。
(6)下から条件不死化アストロサイトのシート、多孔性メンブレン、条件不死化脳ペリサイトのシート、ラミニン層および条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートの順に、または、下から条件不死化微小血管内皮細胞のシート、ラミニン層、条件不死化脳ペリサイトのシート、多孔性メンブレンおよび条件不死化アストロサイトのシートの順に積層されていることを特徴とする、血液脳関門インヴィトロモデル。
(7)前記条件不死化脳微小血管内皮細胞、条件不死化脳ペリサイトおよび条件不死化アストロサイトが、各々、初代培養脳微小血管内皮細胞、初代培養脳ペリサイトおよび初代培養アストロサイトに温度感受性SV40 large T抗原の遺伝子を導入して作製したものであることを特徴とする、上記(5)または(6)に記載の血液脳関門インヴィトロモデル。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、血管内皮細胞、ペリサイトおよびアストロサイトの3種類の細胞層(各細胞層は単一種類の細胞で形成されている)が、直接的な相互作用が可能な状態で層構造を形成している血液脳関門のインヴィトロモデルの作製が可能となる。
【0012】
本発明によれば、既知の血液脳関門のインヴィトロモデルと比較して、物質透過性が低く、そのバリア機能が長期間持続する、新規の血液脳関門のインヴィトロモデルの構築が可能となる。
【0013】
本発明にかかる血液脳関門インヴィトロモデルは、既知のモデルと比較して、生体内におけるBBBの解剖学的構造をより正確に再現していることから、本発明のモデルを使用することで、BBBの物質の透過性等について、インヴィボの動態に近い評価を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる血液脳関門インヴィトロモデルの一例を模式的に示した図である。
【図2】ヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートの顕微鏡像を示す。
【図3】ヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートをペリサイトの細胞シートに層状に接触させる手順を示した図である。
【図4】本発明にかかる血液脳関門インヴィトロモデルの共焦点顕微鏡像。(a)は、BBBモデルの縦断面、(b)は、BBBモデルの血管内皮細胞層の横断面、(c)は、BBBモデルのペリサイト層の横断面、(d)は、BBBモデルのアストロサイト層の横断面を示す。
【図5】本発明にかかる血液脳関門インヴィトロモデルのバリア機能の評価。EC:血管内皮細胞、PCT:ペリサイト、AST:アストロサイト。
【図6】ラミニン層を含む血液脳関門インヴィトロモデルの作製手順を示した図である。
【図7】ラミニン層を含む血液脳関門インヴィトロモデルのバリア機能を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の実施形態は、下記(a)~(e)の工程を含む、血液脳関門インヴィトロモデルの作製方法である。
(a)条件不死化アストロサイトを多孔性メンブレンの片方の面に、条件不死化脳ペリサイトを該多孔性メンブレンの他方の面に、各々、シート状になるまで培養する工程、
(b)条件不死化脳微小血管内皮細胞を培養容器中でシート状になるまで培養する工程、
(c)工程(b)で作製した条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートを剥がす工程、
(d)工程(c)で作製した条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートを、工程(a)で培養した条件不死化脳ペリサイトのシートに層状に接触させる工程、および
(e)工程(d)で作製した、条件不死化脳毛細血管内皮細胞のシート、条件不死化脳ペリサイトのシートおよび条件不死化アストロサイトのシートの3層を含む細胞培養物を共培養する工程

【0016】
本発明の第1の実施形態において、「条件不死化」とは、アストロサイト、脳ペリサイト(脳由来のペリサイト)および脳微小血管内皮細胞(脳微小血管由来の血管内皮細胞)の各初代培養細胞に対し、突然変異処理あるいは外来性の遺伝子などを導入することにより、ある条件下で培養を行うと細胞増殖(不死化)が誘導され、他の条件下で培養を行うと細胞増殖が止まり成熟細胞への分化が促進される細胞の形質のことである。より具体的には、ある温度条件では、細胞増殖が誘導されて細胞が不死化され、他の温度条件では増殖が止まり、分化が促進されるような、温度条件不死化アストロサイト、温度条件不死化脳ペリサイトおよび温度条件不死化脳微小血管内皮細胞などが、本発明の実施形態において好適に使用できる「条件不死化」細胞の例である。
温度条件不死化細胞としては、限定はしないが、初代培養細胞(初代培養アストロサイト、初代培養脳ペリサイト、初代培養脳微小血管内皮細胞)に温度感受性SV 40 large T抗原の遺伝子を導入したものを例示することができる。温度感受性SV 40 large T抗原は、約33℃で培養する細胞内において、強力ながん抑制遺伝子であるp53、Rb蛋白と結合し、これらの機能を阻害する。その結果、持続的な細胞増殖を誘導する。温度条件不死化アストロサイト、温度条件不死化脳ペリサイトおよび温度条件不死化脳微小血管内皮細胞の作製方法は、各々、Harukiら, J Neurological Science 331 136-144 2013、Shimizuら, J Cell Physiol 226 255-266 2010およびSanoら, J Cell Physiol 225 519-528 2010に詳細に記載されているので参照のこと。
温度感受性SV 40 large T抗原を用いて作製した条件不死化細胞をシート状になるまで培養する工程(例えば、上記工程(a)、(b))において、培養温度は32℃~34℃、好ましくは33℃としてもよい。また、血管内皮細胞シート、ペリサイトシートおよびアストロサイトシートを共培養するときの培養温度は、35℃~38℃、好ましくは37℃としてもよい。
なお、各初代培養細胞の調製については、当業者であれば周知の方法により実施することができる。

【0017】
生体内におけるBBBをインヴィトロで再現する場合、血管内皮細胞層、ペリサイト層およびアストロサイト層の3層からなる構造を構築する必要がある。しかし、血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトの3種類の培養細胞株を用いて、通常の分散培養法でBBBのマルチ培養モデルを作製しようとすると、3つの細胞株で増殖速度が異なるため、各細胞株が単一種類の細胞層構造を形成せず、3つの細胞が3層構造をとる解剖学的構造を再現することができなかった。
そこで、発明者らは、ペリサイトとアストロサイトを多孔性メンブレンの両面にシート状になるまで培養し、また、血管内皮細胞は別途培養容器等においてシート状になるまで培養して、ペリサイトのシート(細胞層)に血管内皮細胞のシート(細胞層)を層状に接触させて、3種類の細胞層を共培養したところ、図1に模式的に示すようなBBBモデルを構築することに成功した。
各細胞の培養は、いわゆる「細胞シート(細胞同士がシート状に結合した細胞の培養物のことで、単層であっても複数層であってもよいが、好ましくは単層である)」が形成されるまで行えばよく、細胞密度がオーバーコンフルエント(コンフルエントな状態よりも細胞密度がやや高い状態)、例えば、1.0 × 106細胞cm-2~2.0 × 106細胞cm-2、好ましくは、1.5 × 106細胞cm-2程度になるまで培養するとよい。

【0018】
本発明の第1の実施形態の工程(a)において、条件不死化アストロサイトを多孔性メンブレンの片方の面に、条件不死化脳ペリサイトを該多孔性メンブレンの他方の面に、各々、培養し、各細胞からなるシート状の細胞層(細胞シート)を形成させる。
ここで多孔性メンブレンは、図1に示されるように、培養容器の底面に直接接触しないように、培養液中に浸漬した状態で使用可能なものが好ましい。このような多孔性メンブレンおよび培養容器は、市販品を入手することも可能である(例えば、Corning International社、Thermo Scientific社、Greiner Bio-One International社などが提供する細胞培養インサート(細胞培養インサートの底面が多孔性メンブレンからなる)と培養容器)。
本発明の実施形態で用いる多孔性メンブレンは、多数の孔を有している。本発明にかかる血液脳関門インヴィトロモデルは、中枢神経系に作用する物質あるいは中枢神経系に有害な影響を及ぼす物質のBBB透過性などの評価を行うために使用することができる。そのため、当該多孔性メンブレンは、種々の物質等が透過可能な程度のポアサイズの孔、例えば、直径0.4μm~8μm程度の孔を有している必要がある。孔のサイズは、本発明のBBBモデルを用いて血液脳関門の透過性等を評価する物質の大きさに依存して適宜選択することができる。本発明のBBBモデルは、従来のモデル(例えば、特許文献2などに開示されるモデル)とは異なり、ペリサイトとアストロサイトが多孔性メンブレンを介して直接相互作用することが可能である。アストロサイトとペリサイトの直接的な相互作用は、多孔性メンブレンのポアサイズが、例えば、直径0.4μm以上であれば可能である。

【0019】
本発明の第1の実施形態の工程(b)は、条件不死化脳微小血管内皮細胞を培養容器中でシート状になるまで培養する工程である。
条件不死化脳微小血管内皮細胞の細胞シートを作製するために培養する培養容器は、通常使用される培養容器であればよく、細胞がその表面上で細胞シートを形成し得るものであればいかなるものであってもよく、少なくとも、細胞が接着し得るような平坦な部分を具備し、典型的には、細胞培養皿、細胞培養ボトル(または、フラスコ)であり、市販される培養用ディッシュなどが使用可能であり、材質も特に限定されない。培養容器の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
また、培養容器は、その培養表面が温度変化等によってその物性が変化する材料(温度応答性材料)で作製されているか、あるいは、該温度応答性材料によって培養容器の培養表面が層状に被覆されている温度応答性培養容器であってもよい。このような温度応答性培養容器は、通常の培養温度下(例えば、20℃以上)では、培養表面が疎水性で細胞を安定に接着させることができ、温度を低下(例えば、20℃より低い温度)させることにより、培養表面が親水性となり特別な処理(例えば、トリプシン処理など)を行うことなく、細胞外マトリクスを保持したまま、シートの状態で細胞を容易に回収することができる。このような温度応答性培養容器は、市販されているものを取得して使用することができる。

【0020】
培養容器の培養表面上には、細胞接着性成分および/または細胞接着阻害性成分が存在していてもよい。細胞接着性成分としては、細胞培養技術において、培養表面に細胞を接着させるために通常使用される成分であればいかなるものでもよく、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、カドヘリン、ゼラチン、フィブリノゲン、フィブリン、ポリLリジン、ヒアルロン酸、多血小板血漿、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。細胞接着阻害性成分も、細胞培養技術において、培養表面への細胞の接着を阻害させるために通常使用される成分であればいかなるものでもよく、例えば、アルブミンやグロブリンなどが挙げられる。これらの成分で細胞培養容器の培養表面上を被覆する場合、各成分によって、培養表面を被覆するために使用する溶液の濃度が異なるため、予備的な実験等、当業者であれば容易に検討できる方法によって、各成分の被覆のために適当な溶液濃度を決定することができる。
とりわけ、ラミニンは、血液脳関門の構成要素の1つである基底膜の主要成分である(例えば、Takeshitaら, Clinical and Experimental Neuroimmunology 8:49-53 2017などを参照のこと)。そのため、ラミニンコートした培養容器で条件不死化脳微小血管内皮細胞の細胞シートを作製し、該細胞シートを剥離する際に(工程(C))、ラミニン層と共に剥離する(細胞シートの細胞に接着したラミニンが層状に剥がれる)ことで、ラミニン層を含む血液脳関門インヴィトロモデルを作製してもよい。ラミニンは、α, βおよびγの3つのサブユニットから構成されるヘテロ3量体構造をとるタンパク質である。αサブユニットには、α1、α2、α3、α4およびα5、βサブユニットには、β1、β2、β3およびβ4、γサブユニットには、γ1、γ2およびγ3の各アイソフォームが存在している。本実施形態で使用するラミニンの構成は、α、βおよびγのいずれのアイソフォームを組み合わせた構成であっても良いが、特に好ましくは、α4β1γ1および/またはα5β1γ1の構成である。培養器の培養表面をラミニンでコートする方法は公知技術により容易に行うことができる。例えば、所望のラミニンを適当なバーファーで希釈し、培養表面に添加(または塗布)した後、静置することで、ラミニンコートを行うことができる。
なお、各種ラミニンは市販されており(例えば、Biolamina)、市販品を購入して使用することができる。

【0021】
本発明の第1の実施形態の工程(c)において、条件不死化脳微小血管内皮細胞の細胞シートを培養容器から剥離する際、シート状の構造が破損されないような方法で行うのが好ましく、例えば、細胞シートを直接ピンセットなどによって摘み、培養表面から剥離させる、あるいは、ピペッティングにより細胞を培養表面との間を剥離する等、物理的な手法を用いてもよい。
より好ましくは、前述の温度応答性培養容器を使用して、条件不死化脳微小血管内皮細胞の細胞シートを形成させたのち、該温度応答性培養容器から細胞の剥離が容易になる温度、例えば、20℃以下にして、該細胞シートが培養容器から剥離しやすい状態にし、剥がすことができる。特にラミニン層と共に細胞シートを剥離する場合には、温度応答性培養容器を使用することで、容易に剥すことができる。
剥離しやすくなった細胞シートはピンセットなどで剥がすことも可能であるが、例えば、細胞シート上面に、吸水性支持膜(例えば、PVDF膜、ニトロセルロース膜のような、細胞に親和性を有する材質からなる基材)を被せて、細胞を膜に移し取ることによって細胞を剥離、回収することもできる。吸水性支持膜を使用する場合には、脳微小血管内皮細胞の細胞シート上に吸水性支持膜を重ねて、20℃~25℃で数分間(1~10分間程度)静置して細胞シートを吸水性支持膜に接着させたのち、ゆっくりと支持膜を持ち上げることにより、細胞シートを支持膜へ接着させた状態で、培養容器から剥がすことができる。吸水性支持膜は市販されているため、市販品を購入し、添付の説明書に従って、細胞シートを支持膜へ移し取ることができる。

【0022】
本発明の第1の実施形態の工程(d)は、工程(c)で作製した脳微小血管内皮細胞の細胞シートを工程(a)で培養した脳ペリサイトの細胞シートと層状に接触させる工程である。あるいは、工程(c)で作製した条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートとラミニン層を、工程(a)で培養した条件不死化脳ペリサイトの細胞シートに層状に接触させる工程である。この場合、ラミニン層を条件不死化脳ペリサイトの細胞シートと接触させる。
層状に接触させるとは、脳ペリサイトの細胞シートと脳微小血管内皮細胞の細胞シート同士が重なり合うように接触させることをいう。例えば、工程(c)で吸水性支持膜を用いて脳微小血管内皮細胞のシートを剥がし取った場合には、該細胞シートの面を脳ペリサイトの細胞シートの面と接触させ、しばらく静置したのち(例えば、20℃~25℃程度で1~5分間程度)、細胞シートから吸水性支持膜をゆっくりと剥がすことで、工程(d)を実施することができる。

【0023】
本発明の第1の実施形態の工程(d)で作製した、条件不死化脳微小血管内皮細胞のシート、条件不死化脳ペリサイトのシートおよび条件不死化アストロサイトのシートからなる3つの細胞層を含む細胞の培養物を共培養する工程である。
この工程において、細胞培養物は、例えば、図1に示すように、下からアストロサイトのシート、多孔性メンブレン、脳ペリサイトのシートおよび脳微小血管内皮細胞のシートの順に積層された層構造を形成している。あるいは、ラミニン層と共に脳微小血管内皮細胞シートを剥離する場合には、図6に示すように、下からアストロサイトのシート、多孔性メンブレン、脳ペリサイトのシート、ラミニン層および脳微小血管内皮細胞のシートの順に積層された層構造を形成している。本実施形態において、条件不死化細胞として、温度感受性SV 40 large T抗原を導入した細胞を用いる場合には、細胞の3層構造を形成した後、細胞の増殖を止めて分化を促すために、培養温度を35℃~38℃、好ましくは37℃程度としてもよい。

【0024】
本発明の第2の実施形態は、下から条件不死化アストロサイトのシート、多孔性メンブレン、条件不死化脳ペリサイトのシートおよび条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートの順に(図1を参照)、または、下から条件不死化微小血管内皮細胞のシート、条件不死化脳ペリサイトのシート、多孔性メンブレンおよび条件不死化アストロサイトのシート順に積層されていることを特徴とする、血液脳関門インヴィトロモデルである。あるいは、ラミニン層と共に脳微小血管内皮細胞シートを剥離する場合には、下から条件不死化アストロサイトのシート、多孔性メンブレン、条件不死化脳ペリサイトのシート、ラミニン層および条件不死化脳微小血管内皮細胞のシートの順に(図6を参照)、または、下から条件不死化微小血管内皮細胞のシート、ラミニン層、条件不死化脳ペリサイトのシート、多孔性メンブレンおよび条件不死化アストロサイトのシート順に積層されていることを特徴とする、血液脳関門インヴィトロモデルである。
本実施形態に係る血液脳関門インヴィトロモデルは、血液脳関門の薬物透過性などを評価する目的で使用することができる。例えば、多孔性メンブレンの上部の培養液に評価したい薬物を添加し、多孔性メンブレンの下部の培養液に当該薬物がどの程度検出されるかを調べることによって、該薬物の血液脳関門の透過性を評価することができる。

【0025】
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、全体として明細書に参照により組み込まれる。また、本明細書全体において、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。
以下に実施例を示し、さらに詳細に説明を行うが、本実施例は、あくまでも本発明の実施形態の1例に過ぎず、本発明の範囲は当該実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
1.実験方法
1-1.ヒト由来温度感受性不死化アストロサイト細胞シートの作製
コラーゲンコートされたTranswell細胞培養インサート(3μm孔:Corning International社製)の下面にヒト由来温度感受性アストロサイトを、10% FBSを含有するDMEM培地で33℃、5% CO2条件下でオーバーコンフルエント(150 × 104/cm2)となるまで)培養し、ヒト由来温度感受性不死化アストロサイト細胞シートを作製した。後の共焦点顕微鏡による観察のため、ヒト由来温度感受性アストロサイトはあらかじめcell tracker redTMでリビング染色したものを用いた。
上記ヒト由来温度感受性不死化アストロサイトは、文献(Haruki H et al., J. Neurological Science331(2013)136-144)に記載の方法に従って作製した。簡潔に述べると、ヒトのBBBから単離培養したアストロサイトの初代培養株に、温度感受性SV-40 large T抗原(tsA58)を含有するレトロウイルスベクターを導入して作製した。温度感受性SV-40 large T抗原は33℃の培養条件で細胞内に発現され細胞を不死化させる一方で、37℃の培養条件では温度感受性SV-40 large T抗原は代謝消失し、細胞の不死化が誘導されず成熟細胞に分化する特徴をもつ。従って、ヒト由来温度感受性不死化アストロサイト株では33℃培養下では不死化細胞として増殖し、37℃培養下では増殖せずにアストロサイトへと分化する。
【実施例】
【0027】
1-2.ヒト由来温度感受性不死化ペリサイトシートの作製
上述のアストロサイト細胞シートを作製した細胞培養インサートの上面にヒト由来温度感受性-神経内膜微小血管由来血管周細胞(ヒト由来温度感受性ペリサイト)を、10% FBSを含有するDMEM培地で33℃、5% CO2条件下でオーバーコンフルエント(150 × 104/cm2)となるまで)培養し、ヒト由来温度感受性不死化ペリサイト細胞シートを作製した。ヒト由来温度感受性不死化ペリサイトはあらかじめcell tracker blueTMでリビング染色したものを用いた。
上記ヒト由来温度感受性不死化ペリサイトは、文献(Shimizu et al., Journal of Cell physiology 226:255-266(2011))に記載の方法に従って作製した。簡潔に述べると、ヒトの血液脳関門(BBB)から単離培養したペリサイトの初代培養株に、温度感受性SV-40 large T抗原(tsA58)を含有するレトロウイルスベクターを導入して作製した。温度感受性SV-40 large T抗原は33℃の培養条件で細胞内に発現され細胞を不死化させる一方で、37℃の培養条件では温度感受性SV-40 large T抗原は代謝消失し、細胞の不死化が誘導されず成熟細胞に分化する特徴をもつ。従って、ヒト由来温度感受性不死化ペリサイト株では33℃培養下では不死化細胞として増殖し、37℃培養下では増殖せずにペリサイトへと分化する。
【実施例】
【0028】
1-3.ヒト由来温度感受性不死化BMECs(Brain microvascular Endothelial cells)細胞シートの作製
温度応答性培養皿であるUpCell(登録商標:セルシード社)をコラーゲンコートし、cell tracker greenTMでリビング染色したヒト由来温度感受性不死化脳微小血管内皮細胞(ヒト由来温度感受性不死化BMECs:TY08)を播種し、20% FBSを含有する(EGM-2 Bulletkit (Lonza)培地で33℃、5%CO2条件下でオーバーコンフルエント(150 × 104/cm2)となるまで)培養し、ヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートを作製した。作製したヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートの写真を図2に示す。
また、温度応答性培養皿をラミニンコートする場合には、次のように行った。UpCell dishにDulbecco’s PBS(DPBS)で10 μg/mlに希釈したヒト組換えラミニンα4, β1, γ1(ラミニン411;α4, β1, γ1の混合物)(Biolamina)および/またはラミニンα5, β1, γ1(ラミニン511;α5, β1, γ1の混合物)(Biolamina)を1.0μg/cm2で添加し, 4℃で一晩インキュベートし、コーティングした。その後、ラミニンコートしたUpCell deshにヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞を20% FBSを含有する(EGM-2 Bulletkit (Lonza)培地で33℃、5%CO2条件下でオーバーコンフェルト(150 × 104/cm2)となるまで 培養し、ヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートを作製した。
ヒト由来温度感受性不死化BMECsは、文献(Sano Y et al., J. Cell Physiol 225:519-528(2010))に記載の方法に従って作製した。簡潔に述べると、ヒトのBBBから単離培養した脳微小血管内皮細胞(BMECs)の初代培養株に、上記温度感受性SV-40 large T抗原(tsA58)を含有するベクターを導入して作製した。ヒト由来温度感受性不死化BMECsでは33℃培養下では不死化細胞として増殖し、37℃培養下では増殖せずに血管内皮細胞へと分化する。
なお、UpCellは温度応答性ポリマーでコートされており、20℃以下では疎水性から親水性に変化する特性を持ち、このポリマーをコートしたUpCellで細胞を培養し、温度を20℃に下げるとポリマーが親水性に変化することで培養皿から細胞が遊離し、細胞の構造と機能を保ったままシート状の培養細胞(ラミニンコートした場合には、シート状細胞およびラミニン層)を回収できる特性を有する。
【実施例】
【0029】
1-4.ヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートの転写
ヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートを作製した温度応答性培養皿を20℃に冷却し、作製したヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シート上に、吸水性支持膜のCellShifter(セルシード社製)を重ねて20~25℃で5分静置し、CellShifterとヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートを接着させた。次に、CellShifterをピンセットでゆっくりと持ち上げることでヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートを回収した。ラミニンコートした培養皿で細胞シートを作製した場合には、同様の操作により、ラミニン層ごとヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートを回収することができた。
図3に示すように回収したヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートを、上記1-2で作製したヒト由来温度感受性不死化ペリサイト細胞シート上に層状に接触するように転写した。また、ラミニン層ごと回収したヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートの場合は、ラミニン層がヒト由来温度感受性不死化ペリサイト細胞シートと層状に接触するように転写した。転写後20℃で1分静置後、250 μlの10% FBSを含有するDMEM培地をCellShifter上に滴下し、CellShifterをピンセットでつまんでヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートから剥がした。剥がしたCellShifterには、ヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞は残っていなかった。こうして得られた、ヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シートとヒト由来温度感受性不死化ペリサイト細胞シートとヒト由来温度感受性不死化アストロサイト細胞シートの3層構造からなるBBBモデルを37℃で共培養し、細胞増殖を抑えると共に血管内皮細胞とペリサイトとアストロサイトに分化成熟させた。なお、後述するBBBモデルの共焦点顕微鏡による観察、およびバリア機能の評価においては、作製したインヴィトロBBBモデルを37℃で5日間共培養後のものを用いた。
【実施例】
【0030】
2.結果
2-1.BBBモデルの共焦点顕微鏡による観察
作製したインヴィトロBBBモデルを共焦点顕微鏡(Leica SP5 laser scanning confocal microscope (Leica Wetzlar))で3D構築像を作成した。結果を図4に示す。図4中、(a)は3層の断面写真、(b)~(e)の4つの写真は、各々、血管内皮細胞層、ペリサイト層およびアストロサイト層の断面写真である。図4(a)~(e)に示すように、作製したインヴィトロBBBモデルは3層構造をとっていること、およびアストロサイトの一部がペリサイトだけでなく血管内皮細胞(BMECSs)とも直接接していることが確認された(例えば、図4(c)のペリサイト層の断面において、一部、血管内皮細胞とアストロサイトが観察され、アストロサイトとペリサイトのみならず、アストロサイトと血管内皮細胞とが接触している様子が示されている)。
以上の観察結果から、本発明にかかるBBBインヴィトロモデルが多孔性メンブレンを挟んで、BMECs(脳由来血管内皮細胞)層、ペリサイト層、アストロサイトの3層構造を保ち、アストロサイトがペリサイトおよびBMECs(脳由来血管内皮細胞)と直接相互作用するというBBBの解剖学的特性を持ったインヴィトロモデルであることが明らかとなった。
【実施例】
【0031】
2-2.バリア機能の評価
作製したBBBインヴィトロモデル(EC/PCT/AST)と、従来方法で作製されたインヴィトロBBBモデル(EC/PCT-AST:細胞培養インサートの上面にヒト由来温度感受性不死化BMECs細胞シート、下面にペリサイト細胞シート、さらにその下方10mmのウェル上にアストロサイトを培養させたモデル)を用いて、FITCを付加させた10K-デキストランをインサートの上面に投与し、60分後にウェル内へ透過したデキストランの吸光度測定(OD459)を行い、細胞透過性を比較した。
従来のBBBインヴィトロモデルの作製は、非特許文献1に記載の方法に準じて行った。簡潔に述べると、コラーゲンコートされたTranswell細胞培養インサート(3μm孔:Corning International社製)の下面にヒト由来温度感受性不死化ペリサイトを播種して培養し、その後、上面にヒト由来温度感受性不死化BMECsを播種して培養した。さらにウェル上にヒト由来温度感受性不死化アストロサイトを播種して培養することでBBBインヴィトロモデルを作製した。結果を図5に示す。
図5に示すように、本発明のBBBインヴィトロモデルが従来型のBBBインヴィトロモデルよりも有意に細胞透過性が低下していることが明らかとなった。この結果から、本発明にかかるBBBインヴィトロモデルが従来のモデルよりもバリア機能が高いことが示された。また、従来のBBBインヴィトロモデルは、温度非感受性の不死化細胞を用いているため作製後2日後には、過剰培養となってバリア機能が低下し、バリア機能の評価が難しかったが、上記作製したBBBモデルは、温度感受性不死化細胞株を使用しているため33℃から37℃への培養温度変化によって、細胞の不死化が中止され成熟細胞へと分化する特性を持つため、共培養5日経過してもバリア機能を維持していることが明らかとなった。従って、BBBに対する長時間作用の評価や慢性経過でBBBが破壊されるような疾患など、様々な条件検討を追加してバリア機能評価を行うことができることが明らかとなった。
【実施例】
【0032】
次に、ラミニン層を含むBBBインヴィトロモデルを用いて、FITCを付加させた10K-デキストランをインサートの上面に投与し、60分後にウェル内へ透過したデキストランの吸光度測定(OD459)を行い、細胞透過性を比較した。結果を図7に示す。血液脳関門に特異的なラミニン層(α4またはα5β1γ1を含む)を含むモデル、血液神経関門に特異的なラミニン層(α4β1γ1を含む)を含むモデルおよびラミニン層を含まないモデルの細胞透過性の比較を行った。
図7右の蛍光顕微鏡像は、タイトジャンクションの構成分子であるClaudin-5およびZo-1に対する抗体で血管内皮細胞層を免疫染色した結果である。血液神経関門に特異的なラミニン層を含むモデルにおけるClaudin-5およびZo-1の発現量は(図7右図中段)ラミニン層を含まないモデルにおける発現量(図7右図上段)よりも多く、血液脳関門に特異的なラミニン層を含むモデルにおける発現量(図7右図下段)は他の2つのモデルにおける発現量よりも多かった。図7左のグラフは、FITCを付加させた10K-デキストランをインサートの上面に投与し、60分後にウェル内へ透過したデキストランの吸光度測定(OD459)を測定した結果である。細胞透過性は、測定した吸光度を、ラミニンを含まないモデルの吸光度を1として相対値で表した。この結果から、本発明にかかるBBBインヴィトロモデルのバリア機能は、血液脳関門に特異的なラミニン層を含むモデルが最も優れており、次に、血液神経関門に特異的なラミニン層を含むモデル、ラミニン層を含まないモデルの順であった。
以上の結果から、本発明にかかるBBBインヴィトロモデルは、ラミニン層を加えることで、そのバリア機能が向上することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、血管内皮細胞、ペリサイトおよびアストロサイトの3種類の細胞層が、直接的な相互作用が可能な状態で層構造を形成しており、そのバリア機能が長期間持続する、新規の血液脳関門のインヴィトロモデルを提供する。従って、本発明は、中枢神経疾患の病態解明および治療などの医療分野においての利用が期待される。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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