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明細書 :テラヘルツ波検出装置およびアレイセンサ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成31年3月14日(2019.3.14)
発明の名称または考案の名称 テラヘルツ波検出装置およびアレイセンサ
国際特許分類 G01J   1/02        (2006.01)
FI G01J 1/02 R
G01J 1/02 Q
G01J 1/02 C
国際予備審査の請求
全頁数 26
出願番号 特願2018-514736 (P2018-514736)
国際出願番号 PCT/JP2017/016947
国際公開番号 WO2017/188438
国際出願日 平成29年4月28日(2017.4.28)
国際公開日 平成29年11月2日(2017.11.2)
優先権出願番号 2016091298
優先日 平成28年4月28日(2016.4.28)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ
発明者または考案者 【氏名】河野 行雄
【氏名】鈴木 大地
出願人 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001807、【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G065
Fターム 2G065AA04
2G065AB02
2G065BA11
2G065BA14
2G065BA34
2G065BA38
2G065CA13
2G065DA18
要約 本発明のテラヘルツ波検出装置(10)は、基板(11)に形成された低次元電子系材料(12)と、低次元電子系材料(12)の2次元平面上に対向配置された第1電極(13)および第2電極(14)と、を備え、第1電極(13)と第2電極(14)は、異なる熱伝導率を有する金属からなる。8素子アレイセンサ(20)は、8個のテラヘルツ波検出装置(10)を整列配置してアレイ化する。
または、本発明のテラヘルツ波検出装置(10)は、カーボンナノチューブの膜(12)と、カーボンナノチューブ(12)の膜における一方側に配置される第1電極(13)と他方側に配置される第2電極(14)とを備え、第1電極(13)と第2電極(14)とは、異なる熱伝導率または同じ熱伝導率を有している。
特許請求の範囲 【請求項1】
基板に形成された低次元電子系材料と、
前記低次元電子系材料の2次元平面上に対向配置された第1電極および第2電極と、を備え、
前記第1電極と前記第2電極は、異なる熱伝導率を有する金属からなる
ことを特徴とする記載のテラヘルツ波検出装置。
【請求項2】
前記第1電極の熱伝導率と前記第2電極の熱伝導率との差が所定値以上であることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波検出装置。
【請求項3】
前記低次元電子系材料は、
前記2次元平面の2次元方向に高精度で配向されたカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波検出装置。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、単層である
ことを特徴とする請求項3に記載のテラヘルツ波検出装置。
【請求項5】
前記低次元電子系材料は、
単層または複数層のグラフェンである
ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のテラヘルツ波検出装置を複数個整列配置したアレイセンサであって、
前記低次元電子系材料の表面にTHz波を照射し、当該低次元電子中でTHz励起されたキャリアを検出するアレイセンサ。
【請求項7】
前記第1電極の熱伝導率と前記第2電極の熱伝導率との差は、前記低次元電子系材料にテラヘルツ波が照射された際に検出信号を取得できる値である
ことを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波検出装置。
【請求項8】
カーボンナノチューブの膜と、
前記カーボンナノチューブの膜における一方側に配置される第1電極と他方側に配置される第2電極とを備え、
前記第1電極と前記第2電極とは、異なる熱伝導率または同じ熱伝導率を有している
ことを特徴とする記載のテラヘルツ波検出装置。
【請求項9】
前記第1電極と前記第2電極との間のNEPが700pW/√Hz以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項5または請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のテラヘルツ波検出装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波検出装置およびアレイセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ(THz)波は、周波数が0.1~30THz(1THz=1012Hz)の領域、すなわち波長が0.01mm~3mmのサブミリ波から遠赤外線領域の電磁波を意味する。
THz波は、エレクトロニクスによる電子制御の高周波極限であり、オプティクスやフォトニクスによる光制御の低エネルギ極限でもあるため、未開拓とされてきた。そのため、他周波数帯に比べて光源や検出器という基本的な素子が未開拓の現状にある。また、THz波の波長は可視光に比べて2、3桁長いことから、イメージングの空間分解能が低いという特徴がある。
【0003】
特許文献1には、表面から一定の位置に2次元電子ガスが形成された半導体チップと、該半導体チップの表面に密着して設けられたカーボンナノチューブ、導電性のソース電極、ドレイン電極及びゲート電極とを備えるテラヘルツ光検出装置が記載されている。前記カーボンナノチューブは、半導体チップの表面に沿って延び、かつその両端部がソース電極とドレイン電極に接続され、前記ゲート電極は、カーボンナノチューブの側面から一定の間隔を隔てて位置する。さらに、前記ソース電極とドレイン電極の間に所定の電圧を印加し、その間のSD電流を検出するSD電流検出回路と、前記ソース電極とゲート電極の間に可変ゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路と、前記半導体チップに可変磁場を印加する磁場発生装置と、を備える。
【0004】
また、テラヘルツ波の周波数を検出できる検出器として、例えば、非特許文献1~4がある。周波数を選択できる検出器は、非特許文献3,4である。従来のTHz検出器は、光子1個の吸収に対して伝導電子1個の励起となるため、必然的に検出感度に限界がある。
これに対して、非特許文献4には、カーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nanotube)アレイ、グラフェン(graphene)、半導体ヘテロ界面2次元電子ガス(Two-Dimensional Electron Gas:2DEG)という低次元電子系の機能を利用した、新しいTHz波検出・分光・撮像技術が示されている。非特許文献4には、カーボンナノチューブ(CNT)量子ドットと半導体中2次元電子ガスが結合したハイブリッド構造を作製し、2次元電子中で励起されたキャリアをCNTによる高感度電荷センサで読み取る新機構が記載されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2010-060284号公報
【0006】

【非特許文献1】Xiaowei He, Naoki Fujimura, J. Meagan Lloyd, Kristopher J. Erickson, A. Alec Talin, Qi Zhang, Weilu Gao, Qijia Jiang, Yukio Kawano, Robert H. Hauge, Francois Leonard and Junichiro Kono, "Carbon Nanotube Terahertz Detector", Nano Letters 14, 3953-3958 (2014).
【非特許文献2】Kristopher Erickson, Xiaowei He, A. Alec Talin, Bernice Mills, Robert H. Hauge, Takashi Iguchi, Naoki Fujimura, Yukio Kawano, Junichiro Kono, Francois Leonard, “Figure of Merit for Carbon Nanotube Photothermoelectric Detectors”, ACS Nano 9, 11618-11627 (2015)
【非特許文献3】Yukio Kawano, “Terahertz Response of Carbon Nanotubes and Graphene”, Journal of the Physical Society of Japan 84, 121010-1-9 (2015).
【非特許文献4】河野 行雄、“低次元電子系の機能に基づくテラヘルツ波検出・分光・撮像デバイス”、応用物理学会誌「応用物理」 Vol. 84, pp. 643-647 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1~4には、カーボンナノチューブをテラヘルツ検出器やアレイセンサとして使用する場合、材料や電極の最適条件が分からないという課題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、検出感度が向上し、精確な画像が観測可能なテラヘルツ波検出装置およびアレイセンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本発明に係る第1のテラヘルツ波検出装置は、基板に形成された低次元電子系材料と、前記低次元電子系材料の2次元平面上に対向配置された第1電極および第2電極と、を備え、前記第1電極と前記第2電極は、異なる熱伝導率を有する金属からなることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るアレイセンサは、前記テラヘルツ波検出装置を複数個整列配置したアレイセンサであって、前記低次元電子系材料の表面にTHz波を照射し、当該低次元電子中でTHz励起されたキャリアを検出する。
【0011】
本発明に係る第2のテラヘルツ波検出装置は、カーボンナノチューブの膜と、前記カーボンナノチューブの膜における一方側に配置される第1電極と他方側に配置される第2電極とを備え、前記第1電極と前記第2電極とは、異なるまたは同じ熱伝導率を有している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検出感度が向上し、精確な画像が観測可能なテラヘルツ波検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の構成を示す図であり、(b)はテラヘルツ波検出装置の斜視図である。
【図2】(a)は本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の8素子アレイセンサの外観を示す図であり、(b)は8素子アレイセンサの斜視図である。
【図3】本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の電極の材料(Au、Al、Mo、Ni、Ti)の熱伝導率と感度を示す図である。
【図4】本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の電極の厚みに対する応答感度の関係を示す図である。
【図5】本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の電磁波吸収スペクトルを示す図である。
【図6】本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置のI-V特性とTHz応答の結果を示す図であり、(a)は0.14THzのTHz照射によりTHz照射した場合のI-V特性のシフト観測、(b)は14THzのTHz照射によりTHz照射した場合のI-V特性のシフト観測、(c)は30THzのTHz照射によりTHz照射した場合のI-V特性のシフト観測である。
【図7】本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の単層カーボンナノチューブフィルムのXY面における感度を示す図である。
【図8】本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の雑音等価パワーを示す図である。
【図9】比較例と本実施形態のテラヘルツ波検出装置のI-V特性とTHz応答の結果を示す図であり、(a)は第1電極13(ソース電極)および第2電極14(ドレイン電極)に同種の金属(Au-Au)を用いた比較例、(b)は第1電極13(ソース電極)に熱伝導率の高いAuを用い、第2電極14(ソース電極)に熱伝導率の低いTiを用いた例である。
【図10】本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の測定系の全体構成を示す図である。
【図11】図10の測定系の観察方法を説明する図であり、(a)は試料を下から見た図、(b)はTHz透過光の観察像を示す図である。
【図12】図10の測定系において他の試料を観察した例を説明する図であり、(a)は試料を下から見た図、(b)はTHz透過光の観察像を示す図である。
【図13】本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の測定系の全体構成を示す図であり、(a)は測定系の全体構成例、(b)はベントマスクの例、(c)は2次元画像の観察例である。
【図14】本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の23素子アレイセンサをフレキシブル基板に配置した場合の応用例を示す図であり、(a)は23素子アレイセンサ70を配置したフレキシブル基板71を手に巻き付けた例、(b)はTHz透過光の観察像を示す図である。
【図15】(a)は本実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の変形例の構成を示す図であり、(b)は変形例のテラヘルツ波検出装置の斜視図である。
【図16】本発明のテラヘルツ波検出素子の原理を示す模式図である。
【図17】第1電極と第2電極とに、熱伝導率の差が296.1W/m・KのAuとTiとの組み合わせ、熱伝導率の差が47.1W/m・KのMoとNiの組み合わせ、熱伝導率の差0の同種金属のAlの組み合わせの各場合の熱伝導率の差とTHz応答を示す図である。
【図18】バンドル径約10nmの単層カーボンナノチューブフィルムの拡大写真である。
【図19】29THzのTHz波を照射した場合の単層カーボンナノチューブフィルムの膜厚と雑音等価パワーの関係を示す図である。
【図20】THz透過光の観察像の他例1を示す図である。
【図21】THz透過光の観察像の他例2を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係るテラヘルツ波検出装置の構成を示す図であり、図1(b)は、テラヘルツ波検出装置の斜視図である。
本実施形態のテラヘルツ波検出装置は、材料や電極の最適条件を提供する。
図1(a)、(b)に示すように、テラヘルツ波検出素子10(テラヘルツ波検出装置)は、チップキャリア(Chip carrier)基板11上に、水平方向に高精度で配向された単層カーボンナノチューブフィルム(Single-walled Carbon Nanotubes :SWCNTs film)12(低次元電子系材料)と、単層カーボンナノチューブフィルム12の一方の端部に第1の熱伝導率を有する第1電極13と、単層カーボンナノチューブフィルム12の他方の端部に第2の熱伝導率を有する第2電極14と、を備える。
すなわち、テラヘルツ波検出素子10は、チップキャリア基板11に形成された単層カーボンナノチューブフィルム12と、単層カーボンナノチューブフィルム12の2次元平面上に対向配置された第1電極13および第2電極14と、を備え、第1電極13と第2電極14は、異なる熱伝導率を有する金属からなる。なお、チップキャリア基板11は、どのような材質の基板でもよい。
第1電極13と第2電極14間にバッテリ30および電流計35を接続する。図1(a)、(b)では、バッテリ30の正極を第1電極13としているので、第1電極13をソース電極、第2電極14をドレイン電極と呼ぶことがある。
第1電極13と第2電極14間の単層カーボンナノチューブフィルム12上に、赤外線領域のTHz波40が照射(IR irradiation)される。

【0015】
図2(a)は、8素子アレイセンサの外観を示す図であり、図2(b)は、8素子アレイセンサの斜視図である。
図2(a)、(b)に示すように、8素子アレイセンサ(8-elementarray detector)20は、8個のテラヘルツ波検出素子10を整列配置する。それを小型パッケージに収容して使用する場合には、真空封止することが望ましい。なお、小型パッケージは真空封止しないで構成してもよい。8素子アレイセンサ20は、1mm幅のテラヘルツ波検出素子10を0.5mm間隔で8個並べた構造である。図2(a)では、図1(a)、(b)のテラヘルツ波検出素子10の上面視した場合の縦の長さは1mm、テラヘルツ波検出素子10とテラヘルツ波検出素子10間の電極間隔は、1.5mmである。8素子アレイセンサ20をXY方向のうちいずれか一方方向に動かすことで、8×8の2次元エリアでTHz検出を行うことができる。
8素子アレイセンサ20は、テラヘルツ波検出素子10の単層カーボンナノチューブフィルム12の表面にTHz波を照射し、当該低次元電子中でTHz励起されたキャリアを検出する。

【0016】
<単層カーボンナノチューブフィルム>
カーボンナノチューブは、電気伝導性が高く、機械的強度が高く柔軟性がある。カーボンナノチューブは、DCに近い周波数から紫外光領域に至る、極めて広い周波数帯での電磁波を吸収する。特に、サブテラヘルツから紫外までの極めて広大な周波数帯域の光を吸収可能である。カーボンナノチューブがテラヘルツ検出器として使用できることは、本発明者らが以前に示したが、材料や電極の最適条件が分かっていなかった。本実施形態では、材料や電極の最適条件を提供する。まず、材料としてのカーボンナノチューブは、下記の特徴を有する。
単層カーボンナノチューブフィルム12は、長さ方向が第1電極13および第2電極14の端部に沿って高密度で単層カーボンナノチューブが配向される。検出感度をより高めるためには、より配向性の高いものが望まれる。
単層カーボンナノチューブフィルム12は、一例としてp-typeである。また、単層カーボンナノチューブフィルム12は、n-typeであってもよく、p-typeとn-typeとを組み合わせたものでもよい。
単層カーボンナノチューブフィルム12は、例えば膜厚50μmのカーボンナノチューブ薄膜である。
ここで、低次元電子系材料としては、上記単層カーボンナノチューブフィルムの他、グラフェン(後記)、半導体ヘテロ界面2次元電子ガス(Two-Dimensional Electron Gas:2DEG)がある。

【0017】
<第1電極および第2電極>
第1電極13(ソース電極)および第2電極14(ドレイン電極)は、金属からなる。本発明者らが電極に用いた金属は、Au、Al、Mo、Ni、Tiである。ただし、貴金属ではAu以外のCu、Ag、Ptなど、アルミニウム族元素ではAl以外のGa、Inなど、クロム族元素ではMo以外のCr、Wなど、鉄族元素ではNi以外のFe、Coなど、スズ族元素ではTi以外のZr、Sn、Hf、Pb、Thなど、マグネシウム族元素のBe、Mg、Znなど、さらにこれらの金属の合金が使用できると考えられる。
第1電極13(ソース電極)と第2電極14(ドレイン電極)とは、熱伝導率(熱伝導率:Thermal conductivity)が非対称の金属を用いる。熱伝導率(熱伝導度)は、熱の流れに垂直な単位面積を通って単位時間に流れる熱量を、単位長さあたりの温度差(温度勾配)で割った値である。各電極で熱伝導率に差を設けるには、各電極を異種材料で構成する。

【0018】
第1電極13の熱伝導率と第2電極14の熱伝導率との差は、大きいこと(所定差以上であること)が好ましい(後記)。図3に示す電極の材料の中では、(Au,Al)と(Mo,Ni,Ti)との組み合わせが電極の熱伝導率が大きくなる。
例えば、第1電極13(ソース電極)は、熱伝導率の高いAuを用い、第2電極14(ソース電極)は、熱伝導率の低いTiを用いることで、電極の熱伝導率の非対称電極構造を実現する。ここで、第1電極13と第2電極14とで、AuとTiとを逆に用いてもよい。
なお、一例として、第1電極13および第2電極14の単層カーボンナノチューブフィルムの長さ方向は1.5mm、第1電極13の端部と第2電極14の端部との間は20mmとしている。

【0019】
図3は、電極の材料(Au、Al、Mo、Ni、Ti)の熱伝導率(Thermal conductivity[W/m・K])と応答信号(Response[μA])(右縦軸)を示す図である。応答信号(Response[μA])は、応答電流で示される。電極の材料の熱伝導率は、図3の折れ線グラフ(左縦軸)で示され、応答信号は、棒グラフ(右縦軸)で示されている。
図3に示すように、各電極の応答電流(Response[μA])は、Au>Al>Mo>Ni>Tiの順に感度が変化する。図3に示す電極の材料の中では、Auの応答電流が最も大きく、次いでAlとなる。そして、感度はAlから略半減してMo、Ni、Tiと続く。
上記感度は、熱伝導率と関連する。すなわち、図3に示すように、熱伝導率が良いほど高感度である。電極の熱伝導率を高めることで、検出感度を向上させることができる。

【0020】
図4は、電極の厚み(Thickness[nm])に対する応答信号(応答電流)(Response[μA])の関係を示す図である。
図4に示すように、電極の厚さが厚いほど高感度である。応答信号を増すためには、電極の厚みを厚くする。

【0021】
以上のことから、熱伝導率が非対称の金属を用いる観点からは、図3に示す電極の材料の中では、(Au,Al)と(Mo,Ni,Ti)との組み合わせとなる。また、検出感度を向上させる観点からは、熱伝導率の大きいAuを選択することができる。したがって、一方の電極にAuを選択した場合、他方の電極は(Mo,Ni,Ti)から選択可能となる。この場合、各電極の熱伝導率の差を大きくするためには、他方の電極にはTiを用いるとよりよい。

【0022】
図5は、テラヘルツ波検出素子10(単層カーボンナノチューブフィルム12)の電磁波吸収スペクトルを示す図である。横軸に周波数(Frequency[THz])をとり、縦軸に電磁波吸収(Absorbance)をとる。
図5に示すように、テラヘルツ波検出素子10は、幅広い周波数帯において電磁波を吸収することができる。
上述したように、単層カーボンナノチューブフィルム12は、長さ方向が第1電極13および第2電極14の端部に沿って高密度でアレイ状に配向される。すなわち、電磁波の振動電界が単層カーボンナノチューブフィルム12(CNTアレイ)の長さ方向に対して平行な場合である。このため、単層カーボンナノチューブフィルム12は、幅広い周波数帯において電磁波を吸収することができる。

【0023】
図6は、テラヘルツ波検出装置10のI-V特性とTHz応答の結果(室温下)を示す図である。横軸にソース-ドレイン電圧[mV]をとり、縦軸にソース-ドレイン電流[μA])をとる。また、図6のI-V特性の細実線は、THz照射がない場合(Off)を、太実線は、THz照射がある場合(On)を示す。
図6(a)に示すように、0.14THzのTHz照射によりTHz照射した場合、I-V特性は線形であり、I-V特性のシフトが観測された。
図6(b)に示すように、14THzのTHz照射によりTHz照射した場合、I-V特性は線形であり、I-V特性のシフトが観測された。
図6(c)に示すように、30THzのTHz照射によりTHz照射した場合、I-V特性は線形であり、I-V特性のシフトが観測された。いずれのTHz照射によってもI-V特性の傾きに変化がない(電気抵抗は一定のまま)ことから、単純なボロメトリック効果(THz吸収による温度上昇効果)ではない。単層カーボンナノチューブフィルム12(CNTアレイ)が載る基板(チップキャリア基板11)の熱伝導率への依存性を測定したところ、熱伝導率が小さいほどTHz応答が大きくなることがわかった。この事実は、THz照射の結果として生じる熱が基板を通して逃げず、CNTに熱が蓄積されるほどTHz応答が大きくなることを意味しており、光熱電効果がTHz検出機構として予想される。

【0024】
図7は、単層カーボンナノチューブフィルム12のXY面における応答信号(応答電流)(Response[μA])を示す図である。図7に示す濃淡が濃いところが感度が高いところである。図7は、モノクロ表示のため識別されていないが、実画面では図7の左側と応答信号(Response[μA])のプラス側が信号の正(例えば赤色)、図7の右側と応答信号(Response[μA])のマイナス側が信号の負(例えば青色)で表示されており、応答信号の正負と感度が検出されている。高感度部分は、単層カーボンナノチューブフィルム12のXY面の二箇所の各電極に近いところにある。高感度部分が電極に近いところにあるため、構造的な理由から正確な情報を取り出しにくいことが分かった。本発明者らは、利用される高感度部分は、1つでよく、電極から離れていればより正確な情報を取得できるのではないかとの着想を得た。そこで、熱伝導率が非対称の金属を各電極に用いることで、非対称電極構造を実現する。例えば、一方の電極を熱伝導率の高いAu、他方の電極を熱伝導率の低いTiにすることで、上記高感度部分をいずれか一方の電極から離す。これにより、一方のみの応答を取り出すことで、正確な画像を取得できる。

【0025】
図8は、テラヘルツ波検出装置10の雑音等価パワーを示す図である。
図8に示すように、DCに近い周波数から紫外光領域に至る、極めて広い周波数帯において、雑音等価パワー10-10~10-11A/Hz1/2という優れた検出感度を得ることができた。

【0026】
図9は、比較例と本実施形態のテラヘルツ波検出装置10のI-V特性とTHz応答の結果(室温下)を示す図である。横軸にソース-ドレイン電圧[mV]をとり、縦軸にソース-ドレイン電流[μA])をとる。また、図9のI-V特性の細実線および細破線は、THz照射がない場合(Off)を、太実線および太破線は、THz照射がある場合(On)を示す。
図9(a)は、第1電極13(ソース電極)および第2電極14(ドレイン電極)に同種の金属(Au-Au)を用いた比較例である。
図9(a)に示すように、比較例では、THz照射によるI-V特性のシフトは観測されない。
図9(b)は、第1電極13(ソース電極)に熱伝導率の高いAuを用い、第2電極14(ソース電極)に熱伝導率の低いTiを用いた例である。
図9(b)に示すように、THz照射した場合、I-V特性は線形であり、I-V特性のシフトが観測された。また、(Au-Ti)を用いた場合、I-V特性のシフトは、最も大きい。

【0027】
次に、以上の最適値で試作した8素子アレイセンサ20による測定例を以下に示す。
図10は、テラヘルツ波検出装置の測定系の全体構成を示す図である。
図10に示すように、被検査対象物であるメタルマスク(Metal mask)50(試料)に、上方から赤外線領域のTHz波40を照射(IR irradiation)する。THz光源は、フェムト秒レーザ等で発生させる。メタルマスク50は、アルミホイル(THz波非透過)51に情報52(ここでは文字:X,Y,Z)を形成し、このアルミホイル51に不透明(可視光)なフィルム(THz透過)を重ねてマスクとする。
このメタルマスク50の下方に、8素子アレイセンサ20を配置し、8素子アレイセンサ20をメタルマスク50に対してXY移動(2次元移動)する。
あるいは、図10に示すように、8素子アレイセンサ20を載置し、上方から赤外線領域のTHz波70を照射しつつ、メタルマスク50を図10の矢印(→)方向に移動させる。すなわち、8素子アレイセンサ20を一方向に移動・交差させて2次元画像を観察する。

【0028】
図11は、図10の測定系の観察方法を説明する図であり、図11(a)は、試料を下から見た図、図11(b)は、THz透過光の観察像を示す図である。
図11(a)に示すように、メタルマスク50(試料)は、アルミホイル51に文字82(X,Y,Z)を形成する(例えばアルミホイルから文字部分を切り取る)。
図10に示すように、8素子アレイセンサ20を一方向に移動させて2次元画像を観察する。図11(b)、図20に示すように、メタルマスク50の文字52が高感度、高精度で観察できた。また、テラヘルツ波検出素子10は、アレイ化されているので、8素子アレイセンサ20を一方向に移動させるだけで2次元画像を取得できる。このため、高速に観察可能である。
なお、図20は、THz透過光の観察像の他例1を示す図である。

【0029】
図12は、図10の測定系において他の試料を観察した例を説明する図であり、図12(a)は、試料を下から見た図、図12(b)は、THz透過光の観察像を示す図である。
図12(a)に示すように、クリップ(軟鉄)60(試料)の一部を円形のGe板61で覆う。ここで、Ge板61のGeは、THz波に対して透過する。クリップ60のFeは、THz波に対して非透過である。上方からみると、クリップ60(試料)はGe板61で隠されてクリップ60は見えない。
図10に示すように、8素子アレイセンサ20を一方向に移動させて2次元画像を観察する。図12(b)、図21に示すように、クリップ60が高感度、高精度で観察できた。また、テラヘルツ波検出素子10は、アレイ化されているので、8素子アレイセンサ20を一方向に移動・交差させるだけで2次元画像を取得できる。このため、高速に観察可能である。
なお、図21は、THz透過光の観察像の他例2を示す図である。

【0030】
図13は、テラヘルツ波検出装置の測定系の全体構成を示す図である。
図13に示すように、23素子アレイセンサ70(23-elementarray detector)は、フレキシブル基板71に23個のテラヘルツ波検出素子10を整列配置する。フレキシブル基板71の材質は、ポリイミドフィルム等どのようなものでもよい。また、単層カーボンナノチューブフィルム12(図1(a)、(b)参照)は、高い電気伝導性と機械的強度を兼ね備えており、柔軟性のあるフレキシブル基板71に用いることができる。23素子アレイセンサ70は、1mm幅のテラヘルツ波検出素子10を0.5mm間隔で28個フレキシブル基板71上に並べたフレキシブルセンサである。23素子アレイセンサ70は、例えば指や腕など生体上の湾曲した箇所に密着させるように装着することができる。

【0031】
図13(b)に示すように、アルミホイル(THz波非透過)51に情報52(ここでは文字:X,Y,Zと図形)を形成しこのアルミホイル51に不透明(可視光)なフィルム(THz透過)53を重ねて柔軟性のあるベントマスク(Bent mask)80とする
ベントマスク80(試料)に、上方から赤外線領域のTHz波40を照射(IR irradiation)する。THz光源は、フェムト秒レーザ等で発生させる。
図13(a)に示すように、ベントマスク80(試料)に、上方から赤外線領域のTHz波70を照射しつつ、ベントマスク80を矢印(→)方向に移動させて2次元画像を観察する。
図13(c)に示すように、ベントマスク80を一方向に移動させて2次元画像を観察すると、ベントマスク80の文字・図形52が高感度、高精度で観察できた。また、テラヘルツ波検出素子10は、アレイ化されているので、23素子アレイセンサ70を一方向に移動させるだけで2次元画像を取得できる。このため、高速に観察可能である。

【0032】
図14は、23素子アレイセンサをフレキシブル基板に配置した場合の応用例を示す図である。図14(a)は、23素子アレイセンサ70を配置したフレキシブル基板71を手に巻き付けた例、図14(b)は、THz透過光の観察像を示す図である。
図14に示すように、外部光源なしで手からの放射のパッシブイメージングを観察することができた。医療応用への第一歩となることが期待される。

【0033】
以上説明したように、本実施形態に係るテラヘルツ波検出素子10は、チップキャリア基板11に形成された単層カーボンナノチューブフィルム12と、単層カーボンナノチューブフィルム12の2次元平面上に対向配置された第1電極13および第2電極14と、を備え、第1電極13と第2電極14は、異なる熱伝導率を有する金属からなる。第1電極13の熱伝導率と第2電極14の熱伝導率との差は、大きいこと(所定差以上であること)が好ましい。

【0034】
このように、熱伝導率が非対称の金属を各電極に用いることで、非対称電極構造を実現する。例えば、第1電極13(ソース電極)を熱伝導率の高いAu、第2電極14(ドレイン電極)を熱伝導率の低いTiにすることで、高感度部分をいずれか一方の電極から離す。これにより、一方のみの応答を取り出すことで、精確な画像を取得できる。

【0035】
また、8素子アレイセンサ20は、8個のテラヘルツ波検出素子10を整列配置してアレイ化する。8素子アレイセンサ20をXY方向のうちいずれか一方方向に動かすことで、8×8の2次元エリアでTHz検出を行うことができる。また、テラヘルツ波検出素子10は、アレイ化されているので、8素子アレイセンサ20を一方向に移動させるだけで2次元画像を取得でき、高感度、高精度で高速に観察可能である。
本実施形態では、電極の種類や厚みを変えて検出感度向上を確認した。多素子によるイメージング計測により、可視光では見えないものを可視化することができる。
また、サブテラヘルツ~赤外での画像計測を1つのカメラで可能である。現時点では、1~30THzで可能であるものの、原理的にはサブTHz~数百THzまで可能である。
また、折り曲げたカメラも作製可能になる。
さらに、フレキシブル特性を利用した生体センサや人体に貼り付けるなどセンシングや医療応用などにも適用可能である。

【0036】
[変形例]
図15(a)は、変形例のテラヘルツ波検出装置の構成を示す図であり、図15(b)は、変形例のテラヘルツ波検出装置の斜視図である。
本変形例は、低次元電子系材料として、単層カーボンナノチューブフィルムに代えて、グラフェンを用いた例である。
図15(a)、(b)に示すように、テラヘルツ波検出素子10A(テラヘルツ波検出装置)は、2次元系材料であるグラフェン12Aと、グラフェン12Aの2次元平面上に対向配置された第1電極13および第2電極14と、を備え、第1電極13と第2電極14は、異なる熱伝導率を有する金属からなる。
グラフェン12Aは、2層以上の複数層のグラフェンが好ましい。

【0037】
グラフェン12Aは、単層カーボンナノチューブフィルム12と同様に、テラヘルツ波検出装置10の低次元電子系材料に適している。
グラフェンは、炭素原子のsp結合によって形成されたハチの巣状の原子層1層のシート構造である。グラフェンは、高キャリア移動度、光波長無依存性(高い透明度)、高光非線形性など独自の利点を有する。グラフェンは、炭素原子のみで構成された六角形のセル構造のみならず、六角形のセルに対してある種の置換基/官能基が結合されていてもよいし、あるいは、酸化グラフェンのような前駆体もまた存在していてもよい。本変形例では、グラフェン12Aがチップキャリア基板11上に2次元配置されている。さらに、グラフェン12Aは、複数層のグラフェンではなく、単層のグラフェンでもよい。

【0038】
グラフェンは、コーン型のバンド構造でバンドギャップがなく、高いキャリア移動度、高い透明度でどの波長帯でも機能する。本実施形態のテラヘルツ波検出装置10AのTHz波の波長帯の観点からも好ましい。

【0039】
なお、グラフェン以外の低次元電子系材料としては、フォスフォレン(原子層黒リン)、遷移金属ダイカルコゲナイド(MoS、WS、WSeなど)が挙げられる。ただし、フォスフォレンや二硫化モリブデン(MoS)は、バンドギャップと高いキャリア移動度を持つ半導体の性質を有する。製作の容易性を考慮すると、実際にはグラフェン、MoS、WSとなる。

【0040】
<テラヘルツ波検出素子10の原理>
次に、テラヘルツ波検出素子(テラヘルツ波検出装置)10の原理について説明する。
テラヘルツ波検出素子10は光熱電効果を利用したものである
図16は、本発明のテラヘルツ波検出素子の原理を示す模式図である。

【0041】
材料Aと材料Bは、単層カーボンナノチューブ(CNT)と電極、または、p型CNTとn型CNTに相当する。
高温TのTHz波40が照射されたI部では接触しており、THz波40の照射箇所のI部から離れた箇所では接触していない。
材料Aと材料Bとが接する一方の端部のI部にTHz波40が照射されたとする。
すると、I部はTHz波40が吸収されて加熱され高温Tの温度となる。他方の端部のII部はI部から離れているため、低温Tの温度である。

【0042】
こうして、I部とII部とで温度差が生じ、温度勾配が発生する。
高温TのI部ではキャリアが生じる一方、低温TのII部ではキャリアの発生が殆どない。そのため、キャリアの密度バランスが崩れ、I部からII部にキャリアが流れる。そして、ある程度のキャリアがII部に移動するとI部からのキャリアの移動がなくなる。

【0043】
キャリアが移動したI部ではキャリアと反対の電荷を持ち、キャリアが移動してきたII部ではキャリアと同じ電荷を持つ。これにより、I部とII部との間に電位差(熱起電力V)が生じ、I部とII部との間に電流が流れる。
つまり、単層カーボンナノチューブフィルム12のTHz波40の吸収により(図1(a)参照)、熱(温度勾配)が発生し、電位差(熱起電力V)が生じる。
熱起電力Vは下式(1)で表される。

【0044】
【数1】
JP2017188438A1_000003t.gif
ここで、Sは材料Aのゼーベック係数であり、Sは材料Bのゼーベック係数である。

【0045】
式(1)より相対ゼーベック係数SABは、(S-S)と表されるので材料Aのゼーベック係数Sと材料Bのゼーベック係数Sとの差が大きいほど熱起電力Vは大となる。
また、式(1)より温度勾配(T-T)が大きいほど、熱起電力Vは大となる。そのため、材料Aと材料Bの熱伝導率差が大きいほど温度勾配(T-T)が大きく、熱起電力Vは大となる。

【0046】
上述の関係を、図1(a)に示すテラヘルツ波検出素子10に適用すると、THz波40が単層カーボンナノチューブフィルム12に照射された際、単層カーボンナノチューブフィルム12の照射箇所に近い電極(第1電極13と第2電極14の何れか一方)が相対的に高温となり、照射箇所に遠い電極(第1電極13と第2電極14の何れか他方)が相対的に低温となる。

【0047】
ここで、テラヘルツ波検出素子10のチップ化のため、第1電極13と第2電極14とを限りなく近付けると、第1電極13と第2電極14とが同種金属の場合には同じ熱伝導率なので、第1電極13と第2電極14との温度差が限りなく“0”に近くなる。この場合、熱起電力Vが“0”に近付き、テラヘルツ波の検出は困難となる。

【0048】
これに対して、第1電極13と第2電極14とが異種金属の場合、熱伝導率が異なる。そのため、第1電極13と第2電極14とを限りなく近付けた際、熱伝導率が異なることから、第1電極13と第2電極14との温度差は同種金属の場合よりも大となる。そのため、発生する熱起電力Vは同種金属の場合よりも大きくなる。
すなわち、第1電極13と第2電極14とが異種金属の場合の方が同種金属の場合よりもTHz波40を検出できる可能性が高い。
つまり、第1電極13と第2電極14とで、熱伝導率の差が大きいほど温度差が大きくなり、より大きな起電力Vが発生し、THz波40の検出感度が高い。

【0049】
<テラヘルツ波検出素子10の第1電極13と第2電極14の各材料とTHz応答>
そこで、第1電極13と第2電極14の熱伝導率の差異により、テラヘルツ波検出素子10の感度がどのように変化するか評価した。
表1に、第1電極13と第2電極14に使用される金属のCu、Au、Al、Mo、Ni、Tiの熱伝導率を示す。
【表1】
JP2017188438A1_000004t.gif

【0050】
表2に、金属のCu、Au、Al、Mo、Ni、Tiを第1電極13と第2電極14とに使用する組み合わせと、この場合の熱伝導率の差(W/m・K)を示す。
【表2】
JP2017188438A1_000005t.gif

【0051】
表1、表2より、これらの金属で熱伝導率の差が381.1W/m・Kと最大であるのがCuとTiとの組み合わせである。
熱伝導率の差が296.1W/m・Kと2番目に大きいのがAu-Tiの組み合わせである。例えば、第1電極13に熱伝導率318W/m・KのAuを用い、第2電極14に熱伝導率21.9W/m・KのTiを用いる。

【0052】
これらの金属で熱伝導率の差が47.1W/m・Kで最小なのがMoとNiとの組み合わせである。例えば、第1電極13に熱伝導率138W/m・KのMoを用い、第2電極14に熱伝導率90.9W/m・KのNiを用いる。
同種金属の場合、熱伝導率の差は“0”である。例えば、Alを第1電極13と第2電極14とに用いた場合である。

【0053】
図17に、第1電極13と第2電極14とに、熱伝導率の差が296.1W/m・KのAuとTiとの組み合わせ、熱伝導率の差が47.1W/m・KのMoとNiの組み合わせ、熱伝導率の差が0である同種金属のAlの組み合わせの各場合の熱伝導率の差(W/m・K)(左縦軸)とTHz応答(μA)(右縦軸)を示す。熱伝導率の差(W/m・K)(左縦軸)を折れ線グラフで示し、THz応答(μA)(右縦軸)を棒グラフで示す。

【0054】
図17の評価条件は、単層カーボンナノチューブフィルム12のバンドルサイズ(バンドル径)10nm、単層カーボンナノチューブフィルム12の膜厚100μm、第1電極13と第2電極14の各金属膜厚20nmである。なお、バンドル径とは、複数本のカーボンナノチューブが繊維状の形状を保って寄り集まったものの径である。

【0055】
図17より、熱伝導率の差が296.1W/m・K(左縦軸)のAuとTiとの組み合わせでTHz応答が約2μA(右縦軸)であった。また、熱伝導率の差が47.1W/m・K(左縦軸)のMoとNiの組み合わせでTHz応答が約1.5μA(右縦軸)であった。また、熱伝導率の差が“0”(左縦軸)の同種金属のAlを用いた場合のTHz応答が0.5μA弱(右縦軸)であった。
図17の結果から、第1電極13と第2電極14との熱伝導率の差が大きいほどTHz応答が強い、つまり高感度であることが確認された。

【0056】
発明者等の知見では、光熱起電力Vの強度は、電極金属の熱伝導率、電気伝導率、ゼーベック係数といった様々なパラメーターに依存して決まる。本実施形態の条件(100μm厚のカーボンナノチューブ膜、第1電極13と第2電極14の各金属膜厚 20nm)においては熱伝導率に支配的に依存して決まると考えられる。

【0057】
以上より、テラヘルツ波検出素子10として機能するためには、テラヘルツ波検出素子10を小型化して小さいピクセルを作製しようとした際に、第1電極13の熱伝導率と第2電極14の熱伝導率との差は、少なくとも応答信号が0にならない値とする必要がある。換言すれば、第1電極13の熱伝導率と第2電極14の熱伝導率との差は、THz波40が単層カーボンナノチューブフィルム12に照射された際に検出信号が取得できる値に設定すればよい。

【0058】
<単層カーボンナノチューブフィルム12の特性>
次に、テラヘルツ波検出素子10の単層カーボンナノチューブフィルム12(カーボンナノチューブ膜)の特性について説明する。
図18は、バンドル径約10nmの単層カーボンナノチューブフィルム12の拡大写真である。図18において、繊維状に目視できるのがバンドルである。

【0059】
図19は、29THzのTHz波40を単層カーボンナノチューブフィルム12に照射した場合の単層カーボンナノチューブフィルム12の膜厚と雑音等価パワー(NEP:Noise equivalent power )の関係を示す図である。横軸に膜厚(μm)をとり、縦軸にNEP(pW/√Hz)をとっている。図19において、黒丸がバンドル径約200nmであり、白丸がバンドル径約10nmである。前記したように、バンドル径とは複数本のカーボンナノチューブが繊維状の形状を保って寄り集まったものの径である。

【0060】
図19より、単層カーボンナノチューブフィルム12のバンドル径約200nmの方がバンドル径約10nmよりもNEPが高く高感度であることが分る。バンドル径が大きい方が、バンドル径が小さいものよりも配向性がよい。
バンドル径がより大きい単層カーボンナノチューブフィルム12(カーボンナノチューブ膜)はカーボンナノチューブの繊維の特性が残り易い。
カーボンナノチューブの繊維はゼーベック係数が大きい。そのため、バンドル径がより大きい単層カーボンナノチューブフィルム12(カーボンナノチューブ膜)は高感度になる。

【0061】
ゆえに、現実的な範囲でのできるだけ大きいバンドル径である500nm程度で配向していることが好ましい。
なお、図19に示すNEPが700pW/√Hz以下の感度があれば、テラヘルツ波検出素子10の性能が少なくとも満足できる。

【0062】
<その他の実施形態 >
1.前記実施形態では、単層カーボンナノチューブフィルム12をチップキャリア基板11に形成した場合を説明したが、チップキャリア基板11を設けることなくテラヘルツ波検出素子10を構成してもよい。

【0063】
2.前記実施形態では、低次元電子系材料として単層カーボンナノチューブフィルム12の膜を例示して説明したが、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブを、それぞれ単独で使用、または/および、併用しても構わない。また、低次元電子系材料は、単層または複数層のグラフェンを用いてもよい。

【0064】
3.前記実施形態では、第1電極13と第2電極14とが金属である場合を例示して説明したが、電極の機能を果たせれば、金属以外の材料を用いてもよい。

【0065】
本発明は上記の実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
また、上記した実施形態例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態例の構成の一部を他の実施形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態例の構成に他の実施形態例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記実施の形態では、テラヘルツ波検出装置という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、名称はテラヘルツ波検出器等であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
10,10A テラヘルツ波検出素子(テラヘルツ波検出装置)
11 チップキャリア基板
12 単層カーボンナノチューブフィルム(低次元電子系材料,カーボンナノチューブの膜)
12A グラフェン(低次元電子系材料)
13 第1電極
14 第2電極
20 8素子アレイセンサ
40 THz波
50 メタルマスク
70 23素子アレイセンサ
71 フレキシブル基板
80 ベントマスク
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20