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明細書 :イオウ原子を同位体標識したシステイン及びシステイン誘導体の合成法の確立

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成31年2月28日(2019.2.28)
発明の名称または考案の名称 イオウ原子を同位体標識したシステイン及びシステイン誘導体の合成法の確立
国際特許分類 C12P  13/12        (2006.01)
C12N   9/10        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12P 13/12 B
C12P 13/12 C
C12N 9/10
C12N 15/09 Z
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 22
出願番号 特願2018-514686 (P2018-514686)
国際出願番号 PCT/JP2017/016654
国際公開番号 WO2017/188355
国際出願日 平成29年4月27日(2017.4.27)
国際公開日 平成29年11月2日(2017.11.2)
優先権出願番号 2016090864
優先日 平成28年4月28日(2016.4.28)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ
発明者または考案者 【氏名】澤 智裕
【氏名】小野 勝彦
出願人 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100106208、【弁理士】、【氏名又は名称】宮前 徹
【識別番号】100120112、【弁理士】、【氏名又は名称】中西 基晴
【識別番号】100107386、【弁理士】、【氏名又は名称】泉谷 玲子
審査請求 未請求
テーマコード 4B050
4B064
Fターム 4B050CC03
4B050DD02
4B050LL10
4B064AE14
4B064AE15
4B064BJ11
4B064CC24
4B064DA20
要約 本発明は、イオウ原子を同位体標識したシステイン及びシステイン誘導体の合成方法に関する。本発明はまた、当該合成方法に使用するためのキットに関する。本発明により、イオウ原子を同位体標識したシステイン及びシステイン誘導体を簡便かつ効率よく合成することが可能になる。
特許請求の範囲 【請求項1】
イオウ原子を同位体標識したシステインの合成方法であって、システインシンターゼ(EC:2.5.1.47)の存在下で、O-アセチル-L-セリン及びイオウ原子について同位体標識された基質を反応させる工程を含み、ここで当該イオウ原子について同位体標識された基質は硫化水素ナトリウム(NaHS)、硫化ナトリウム(NaS)、又は硫化水素(HS)であり、そしてここで当該イオウ原子の同位体標識は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される、前記方法。
【請求項2】
O-アセチル-L-セリンを、以下の工程:セリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(EC:2.3.1.30)の存在下で、窒素および/または炭素原子について同位体標識されたセリンを反応させる;により得ることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
システインシンターゼが、システインシンターゼA(CysK)又はシステインシンターゼB(CysM)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
システインシンターゼAが、サルモネラ属に属する微生物由来である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
システインシンターゼが、ヒスチジンタグを含む組換えタンパク質である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
イオウ原子を同位体標識したシスチンの合成方法であって、請求項1又は2に記載の方法にしたがってイオウ原子を同位体標識したシステインを合成し、当該システインを酸化剤の存在下で酸化することによりシスチンを得る工程を含む、前記方法。
【請求項7】
酸化剤がヨウ素(I)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
システイン誘導体の合成方法であって、
(i)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したスルホシステインであり、システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-Lセリン及び亜硫酸ナトリウム(NaSO)を反応させる工程を含み、ここでイオウ原子は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される;
(ii)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したS-スルホシステインであり、システインシンターゼBの存在下で、O-アセチル-L-セリン及びチオ硫酸ナトリウム(Na)を反応させる工程を含み、ここでイオウ原子は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される;
(iii)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したシステインパースルフィドであり、システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリン及び二硫化ナトリウム(Na)を反応させる工程を含み、ここでイオウ原子は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される;
(iv)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したシステインパースルフィドであり、(a)システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリン及びイオウ原子について同位体標識された基質を反応させてイオウ原子を同位体標識したシステインを得る工程、ここで当該イオウ原子について同位体標識された基質は硫化水素ナトリウム(NaHS)、又は硫化ナトリウム(NaS)であり、そしてここで当該イオウ原子の同位体標識は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される、および(b)工程(a)で得たイオウ原子を同位体標識したシステインと、二硫化ナトリウムを反応させる工程、を含む;
または
(v)システイン誘導体が、セレノシステインであり、システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリン及びセレン化ナトリウム(NaSe)を反応させる工程を含む;
前記方法。
【請求項9】
O-アセチル-L-セリンを、セリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(EC:2.3.1.30)の存在下で、窒素および/または炭素原子について同位体標識されたセリンを反応させる;により得ることをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
システインシンターゼが、システインシンターゼA(CysK)又はシステインシンターゼB(CysM)である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
システインシンターゼAが、サルモネラ属に属する微生物由来である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
システインシンターゼが、ヒスチジンタグを含む組換えタンパク質である、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
イオウ原子を同位体標識したシステインもしくはシスチン、またはシステイン誘導体を合成するためのキットであって、
システインシンターゼ;及び
イオウ原子について同位体標識された硫化水素ナトリウム(NaHS)、硫化ナトリウム(NaS)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、及び二硫化ナトリウム(Na)からなる群より選択される少なくとも一つのイオウを含む基質、ここで当該イオウ原子の同位体標識は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される、またはセレン化ナトリウム(NaSe);
を含む、前記キット。
【請求項14】
システイン誘導体の合成方法であって、
(i)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したシスチンポリスルフィドであり、(a)請求項1または2に記載の方法にしたがってイオウ原子を同位体標識したシステインを合成する工程、(b)工程(a)で得たイオウ原子を同位体標識したシステインを酸化剤と反応させる工程、および(c)さらに硫化ナトリウム(NaS)を添加して反応させる工程、を含む;または
(ii)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したN-アセチルシステインであり、(a)請求項1または2に記載の方法にしたがってイオウ原子を同位体標識したシステインを合成する工程、および(b)工程(a)で得たイオウ原子を同位体標識したシステインをアセチル化剤と反応させる工程、を含む;
前記方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イオウ原子を同位体標識したシステイン及びシステイン誘導体の合成方法に関する。本発明はまた、当該合成方法に使用するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の質量分析技術の発展により、プロテオミクスやメタボロミクスなどの分析が盛んに行われている。質量分析による精密定量には安定同位体標識された化合物を内部標準として用いることが必要である。しかしながら、炭素原子や窒素原子の安定同位体は市販品が多種多様に存在する一方、イオウ原子の安定同位体は特注品を除きほとんど市販されていない。
【0003】
イオウ原子を同位体標識したアミノ酸の合成方法としてこれまでに知られている手法は、有機化学合成又は生合成によるものであった。有機化学合成によってイオウ原子を同位体標識したアミノ酸を合成する場合は、多段階の煩雑な工程を経る必要があり(非特許文献1)、収率についても0.01%程度といった低いものであった。生合成による手法は、大腸菌等の微生物を、同位体標識されたイオウを含む基質を唯一のイオウ源として含む培地で培養し、当該微生物が産生したシステイン又はメチオニンを回収するという手法である(非特許文献2)。生合成による手法によって得られるイオウ原子が同位体標識されたシステインの収率は10%程度であり、十分に高い収率とはいえない。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】増田 裕一、他、“アミロイドβの毒性に関わるメチオニンラジカルの硫黄33固体NMRによる研究”、[online]、平成26年5月26日、科学研究費助成事業データベース[平成28年4月28日検索],インターネット(URL: https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-24780108/24780108seika.pdf)
【非特許文献2】Albahari, S. R. and Shakun-Todorovi, M. B., Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals, Vol. 14, Issue 5, p.727-733, 1978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、質量分析による精密定量を行うにあたっては安定同位体標識された化合物が必要である。このため、効率よく、高い収量でイオウ原子を同位体標識したシステイン及びシステイン誘導体を得る手法の確立が求められていた。
【0006】
本発明は、効率よくイオウ原子を同位体標識したシステイン及びシステイン誘導体を合成する方法および当該方法に使用するキットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上に鑑み、本件の発明者らは、システインシンターゼに着目し、研究を開始した。鋭意検討の結果、システインシンターゼを用いる酵素反応により、イオウ原子を同位体標識したシステインおよびシステイン誘導体を効率よく合成できることを見出した。当該知見に基づいて、本発明は完成された。
【0008】
すなわち、一態様において、本発明は以下の通りであってよい。
【0009】
[1]イオウ原子を同位体標識したシステインの合成方法であって、システインシンターゼ(EC:2.5.1.47)の存在下で、O-アセチル-L-セリン及びイオウ原子について同位体標識された基質を反応させる工程を含み、ここで当該イオウ原子について同位体標識された基質は硫化水素ナトリウム(NaHS)、硫化ナトリウム(NaS)、又は硫化水素(HS)であり、そしてここで当該イオウ原子の同位体標識は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される、前記方法。
【0010】
[2]O-アセチル-L-セリンを、以下の工程:セリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(EC:2.3.1.30)の存在下で、窒素および/または炭素原子について同位体標識されたセリンを反応させる;により得ることをさらに含む、上記[1]に記載の方法。
【0011】
[3]システインシンターゼが、システインシンターゼA(CysK)又はシステインシンターゼB(CysM)である、上記[1]又は[2]に記載の方法。
【0012】
[4]システインシンターゼAが、サルモネラ属に属する微生物由来である、上記[3]に記載の方法。
【0013】
[5]システインシンターゼが、ヒスチジンタグを含む組換えタンパク質である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
【0014】
[6]イオウ原子を同位体標識したシスチンの合成方法であって、上記[1]又は[2]に記載の方法にしたがってイオウ原子を同位体標識したシステインを合成し、当該システインを酸化剤の存在下で酸化することによりシスチンを得る工程を含む、前記方法。
【0015】
[7]酸化剤がヨウ素(I)である、上記[6]に記載の方法。
【0016】
[8]システイン誘導体の合成方法であって、
(i)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したスルホシステインであり、システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-Lセリン及び亜硫酸ナトリウム(NaSO)を反応させる工程を含み、ここでイオウ原子は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される;
(ii)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したS-スルホシステインであり、システインシンターゼBの存在下で、O-アセチル-L-セリン及びチオ硫酸ナトリウム(Na)を反応させる工程を含み、ここでイオウ原子は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される;
(iii)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したシステインパースルフィドであり、システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリン及び二硫化ナトリウム(Na)を反応させる工程を含み、ここでイオウ原子は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される;
(iv)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したシステインパースルフィドであり、(a)システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリン及びイオウ原子について同位体標識された基質を反応させてイオウ原子を同位体標識したシステインを得る工程、ここで当該イオウ原子について同位体標識された基質は硫化水素ナトリウム(NaHS)、又は硫化ナトリウム(NaS)であり、そしてここで当該イオウ原子の同位体標識は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される、および(b)工程(a)で得たイオウ原子を同位体標識したシステインと、二硫化ナトリウムを反応させる工程、を含む;または
(v)システイン誘導体が、セレノシステインであり、システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリン及びセレン化ナトリウム(NaSe)を反応させる工程を含む;
前記方法。
【0017】
[9]O-アセチル-L-セリンを、セリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(EC:2.3.1.30)の存在下で、窒素および/または炭素原子について同位体標識されたセリンを反応させる;により得ることをさらに含む、上記[8]に記載の方法。
【0018】
[10]システインシンターゼが、システインシンターゼA(CysK)又はシステインシンターゼB(CysM)である、上記[8]又は[9]に記載の方法。
【0019】
[11]システインシンターゼAが、サルモネラ属に属する微生物由来である、上記[10]に記載の方法。
【0020】
[12]システインシンターゼが、ヒスチジンタグを含む組換えタンパク質である、上記[8]~[11]のいずれか1項に記載の方法。
【0021】
[13]イオウ原子を同位体標識したシステインもしくはシスチン、またはシステイン誘導体を合成するためのキットであって、
システインシンターゼ;及び
イオウ原子について同位体標識された硫化水素ナトリウム(NaHS)、硫化ナトリウム(NaS)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、及び二硫化ナトリウム(Na)からなる群より選択される少なくとも一つのイオウを含む基質、ここで当該イオウ原子の同位体標識は、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される、またはセレン化ナトリウム(NaSe);
を含む、前記キット。
【0022】
[14]システイン誘導体の合成方法であって、
(i)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したシスチンポリスルフィドであり、(a)上記[1]または[2]に記載の方法にしたがってイオウ原子を同位体標識したシステインを合成する工程、(b)工程(a)で得たイオウ原子を同位体標識したシステインを酸化剤と反応させる工程、および(c)さらに硫化ナトリウム(NaS)を添加して反応させる工程、を含む;または
(ii)システイン誘導体が、イオウ原子を同位体標識したN-アセチルシステインであり、(a)上記[1]または[2]に記載の方法にしたがってイオウ原子を同位体標識したシステインを合成する工程、および(b)工程(a)で得たイオウ原子を同位体標識したシステインをアセチル化剤と反応させる工程、を含む;
前記方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、イオウ原子を同位体標識したシステイン及びシステイン誘導体を少ない工程かつ高収率で合成できる点で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。

【0025】
酵素
(1)システインシンターゼ
システインシンターゼ(EC:2.5.1.47)は、生体内においてはシステインの生合成に関わる酵素であり、以下の化学反応:
【化1】
JP2017188355A1_000002t.gif
を触媒する酵素である。すなわち、この酵素はO3-アセチル-L-セリンと硫化水素等を基質として、L-システインと酢酸を生成する。システイントランスフェラーゼは、トランスフェラーゼのファミリーに属しており、硫化水素等の硫黄源に対する基質特異性の差に基づき、システインシンターゼA(CysK)及びシステインシンターゼB(CysM)の2つの型が存在する。

【0026】
本発明に用いるシステインシンターゼは、上記の反応を触媒する酵素であれば、特に限定されない。好ましくはシステインシンターゼA又はシステインシンターゼBであり、さらに好ましくはシステインシンターゼAである。システインシンターゼの由来は特に限定されないが、例えば大腸菌やサルモネラ属などのグラム陰性菌、またスタフィロコッカス属やストレプトコッカス属などのグラム陽性菌由来のものが挙げられる。好ましくは、ネズミチフス菌(Salmonella enterica serover Typhimurium)由来のシステインシンターゼAである。

【0027】
本発明に用いるシステインシンターゼは、微生物より抽出したものを用いてもよく、または遺伝子組換えにより調製したものであってもよい。遺伝子組換えにより調製したシステインシンターゼを用いる場合、ヒスチジンタグ(6~11個の連続するヒスチジン残基からなるタグ)等で修飾されたものを用いてもよい。ヒスチジンタグは、ニッケル等の金属イオンへ高い親和性を有しているため、ヒスチジンタグで修飾された組換えタンパク質をニッケル等の金属を固定化した樹脂に担持させることができる。ヒスチジンタグを含むシステインシンターゼをニッケル等の金属を固定化した樹脂に担持させることにより、反応系から酵素を容易に回収することができるため、生成物との分離が容易であり、回収した酵素を再利用することも可能となる。この点において、ヒスチジンタグを含む組換えシステインシンターゼを用いることは好都合である。

【0028】
システインシンターゼA(CysK)を用いる場合、CysKの酵素活性には補酵素であるピリドキサールリン酸(PLP)が必要であることが知られている。CysKを組換え大腸菌から生成した場合、PLPはCysKに結合した状態で精製される。したがって、本発明において、組換えシステインシンターゼAを用いる場合は、必ずしも酵素反応の際にPLPを反応系に加える必要はない。

【0029】
(2)セリン-O-アセチルトランスフェラーゼ
セリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(EC:2.3.1.30)は、L-セリンとアセチルCoAを基質としてO-アセチル-L-セリンとCoAを生成する反応を触媒する酵素であり、以下の化学反応:
【化2】
JP2017188355A1_000003t.gif
を触媒する酵素である。

【0030】
本発明に用いるセリン-O-アセチルトランスフェラーゼは、上記の反応を触媒する酵素であれば特に限定されないが、例えば大腸菌やサルモネラ属などのグラム陰性菌、またスタフィロコッカス属やストレプトコッカス属などのグラム陽性菌由来のものが挙げられる。セリン-O-アセチルトランスフェラーゼは、微生物より抽出したものを用いてもよく、また遺伝子組換えにより調製したものであってもよい。遺伝子組換えにより調製したセリン-O-アセチルトランスフェラーゼを用いる場合、上記(1)システインシンターゼについて述べた理由から、ヒスチジンタグ(6~11個の連続するヒスチジン残基からなるタグ)等で修飾されたものを用いてもよい。

【0031】
同位体標識
同位体とは、同一の原子番号を持つものの中性子数が異なる核種の関係をいう。本明細書において「同位体標識された」とは、ある化合物の特定の核種について、天然存在比が最も高い同位体以外の同位体に置換された状態を意味する。また、「同位体標識」は、ある化合物の特定の核種について、置換された天然存在比が最も高い同位体以外の同位体を意味する。同位体標識は、安定同位体であってもよく、放射性同位体であってもよい。ここで、放射性同位体は、崩壊により放射線を出す放射能を有するものであり、安定同位体は崩壊を起こさず安定な同位体である。

【0032】
本発明においてイオウ原子について用いる同位体標識は、イオウの同位体である限り特に限定されないが、好ましくは、安定同位体32S、安定同位体34S、放射性同位体33S及び放射性同位体35Sからなる群より選択される。より好ましくは、本発明においてイオウ原子について用いる同位体標識は安定同位体34Sである。

【0033】
本発明においてセレン原子について用いる同位体標識は、セレンの同位体である限り特に限定されないが、好ましくは、安定同位体78Se、安定同位体77Se及び安定同位体76Seからなる群より選択される。より好ましくはセレン原子について用いる同位体標識は安定同位体78Seである。

【0034】
システイン及びシステイン誘導体
システインは、天然アミノ酸の一種であり、特に明記しない限り、L-システインである。

【0035】
本明細書においてイオウ原子を同位体標識したシステイン、とは、システインのメルカプト基(-SH)のイオウ原子が同位体標識されたシステインを意味する。

【0036】
本明細書においてシステイン誘導体には、以下のものが含まれる:
(i)シスチン(Cys-S-S-Cys)であって、当該分子内のイオウ原子の少なくとも1つが同位体標識されている化合物;
(ii)スルホシステイン(Cys-SOH)、またはS-スルホシステイン(Cys-SSOH)であって、当該分子内のイオウ原子が同位体標識されている化合物;
(iii)システインパースルフィド(Cys-SSH)であって、当該分子内のイオウ原子の少なくとも1つが同位体標識されている化合物;
(iv)セレノシステイン(Cys-SeH)、ここでセレン原子は同位体標識されていなくてもよく、または同位体標識されていてもよい;
(v)シスチンポリスルフィド(Cys-S-S(1-3)-S-Cys)であって、当該分子内のイオウ原子の少なくとも1つが同位体標識されている化合物;
(vi)N-アセチルシステインであって、当該分子内のイオウ原子が同位体標識されている化合物。

【0037】
システインの合成方法
一態様において、システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリン及びイオウ原子について同位体標識された基質を反応させる工程を含む、イオウ原子を同位体標識したシステインの合成方法、を提供する。

【0038】
イオウ原子について同位体標識された基質は、硫化水素ナトリウム(NaHS)、硫化ナトリウム(NaS)、又は硫化ナトリウムにより派生されるものであってもよい硫化水素(HS)である。イオウ原子の同位体標識の種類いついては、先に「同位体標識」の項目において記載したとおりである。

【0039】
反応条件は、システインシンターゼの酵素活性が保持される条件であれば特に限定されない。例えば、25~37℃、pH7~8等が挙げられる。

【0040】
シスチンの合成方法
一態様において、以下の工程:
(i)システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリン及びイオウ原子について同位体標識された基質を反応させる;
(ii)工程(i)で得られたイオウ原子を同位体標識したシステインを酸化剤により酸化させることによりシスチンを得る;
を含む、イオウ原子を同位体標識したシスチンの合成方法を提供する。

【0041】
シスチンは、3,3’-ジチオビス(2-アミノプロピオン酸)であり、2分子のシステインにおけるメルカプト基(-SH)がジスルフィド結合を形成することにより連結された構造を有する。本明細書において、シスチンを便宜上、Cys-S-S-Cysと表記することがある。

【0042】
上記工程(i)は、上記「システインの合成方法」の項目において説明したとおりに行うことができる。

【0043】
上記工程(ii)に用いる酸化剤は、メルカプト基を酸化することによりジスルフィド結合の形成を促進することができる試薬であれば特に限定されないが、例えばヨウ素(I)、重金属、過酸化水素(H)等を好適に使用できる。好ましい態様において、酸化剤はヨウ素である。

【0044】
上記工程(ii)の反応条件は、ジスルフィド結合の形成に適した条件であれば、特に限定されないが、例えば、25℃~37℃、pH7~8などの条件が挙げられる。

【0045】
スルホシステインの合成方法
一態様において、システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリンおよびイオウ原子について同位体標識された亜硫酸ナトリウム(NaSO)を反応させる工程を含む、イオウ原子を同位体標識したスルホシステインの合成方法、を提供する。イオウ原子の同位体標識の種類については、先に「同位体標識」の項目において記載したとおりである。

【0046】
スルホシステインの構造は次式:HN-CH(CH-SOH)-COOH、で表すことができる。本明細書において、スルホシステインを便宜上、Cys-SOHと表記することがある。

【0047】
反応条件は、システインシンターゼの酵素活性が保持される条件であれば特に限定されない。例えば、25~37℃、pH7~8等が挙げられる。

【0048】
S-スルホシステインの合成方法
一態様において、システインシンターゼBの存在下で、O-アセチル-L-セリンおよびイオウ原子について同位体標識されたチオ硫酸ナトリウム(Na)を反応させる工程を含む、イオウ原子を同位体標識したS-スルホシステインの合成方法、を提供する。イオウ原子の同位体標識の種類については、先に「同位体標識」の項目において記載したとおりである。

【0049】
S-スルホシステインの構造は次式:HN-CH(CH-SSOH)-COOH、で表すことができる。本明細書において、S-スルホシステインを便宜上、Cys-SSOHと表記することがある。

【0050】
反応条件は、システインシンターゼBの酵素活性が保持される条件であれば特に限定されない。例えば、25~37℃、pH7~8等が挙げられる。

【0051】
システインパースルフィドの合成方法
一態様において、システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリンおよびイオウ原子について同位体標識された二硫化ナトリウム(Na)を反応させる工程を含む、イオウ原子を同位体標識したシステインパースルフィドの合成方法、を提供する。イオウ原子の同位体標識の種類については、先に「同位体標識」の項目において記載したとおりである。

【0052】
システインパースルフィドの構造は次式:HN-CH(CH-SSH)-COOH、で表すことができる。本明細書において、システインパースルフィドを便宜上、Cys-SSHと表記することがある。

【0053】
反応条件は、システインシンターゼの酵素活性が保持される条件であれば特に限定されない。例えば、30~42℃、pH7~8等が挙げられる。

【0054】
別の態様において、上記「システインの合成方法」の項目に記載した方法により得たイオウ原子を同位体標識したシステインと、二硫化ナトリウムを反応させる工程を含む、イオウ原子を同位体標識したシステインパースルフィドの合成方法を提供する。この場合は特に、システインのβ炭素に結合しているイオウ原子は同位体標識されているが、末端のSH基は天然存在比が最も高い同位体であってもよい。イオウ原子を同位体標識したシステインと、二硫化ナトリウムを反応させる条件は、パースルフィドが形成される条件であれば特に限定されない。例えば、30~42℃が挙げられる。

【0055】
セレノシステインの合成方法
一態様において、システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリンおよびセレン化ナトリウム(NaSe)を反応させる工程を含む、セレノシステインの合成方法、を提供する。セレン化ナトリウムは、同位体標識されていてもよく、同位体標識されていなくてもよい。セレン化ナトリウムが同位体標識されている場合、セレン原子が同位体標識されたセレノシステインが得られる。セレン原子の同位体標識の種類については、先に「同位体標識」の項目において記載したとおりである。

【0056】
セレノシステインの構造は次式:HN-CH(CH-SeH)-COOH、で表すことができる。すなわち、セレノシステインは、システインのイオウ原子がセレンに置換された構造を有する。本明細書において、セレノシステインを便宜上、Cys-SeHと表記することがある。

【0057】
反応条件は、システインシンターゼの酵素活性が保持される条件であれば特に限定されない。例えば、25~37℃、pH7~8等が挙げられる。

【0058】
シスチンポリスルフィドの合成方法
一態様において、
(i)システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリンおよびイオウ原子について同位体標識された基質を反応させる;
(ii)工程(i)で得たイオウ原子を同位体標識したシステインを酸化剤亜硝酸ナトリウム(NaNO)と反応させる;
(iii)さらに硫化ナトリウム(NaS)を添加して反応させることにより、シスチンポリスルフィドを得る;を含む、イオウ原子を同位体標識したシスチンポリスルフィドの合成方法を提供する。

【0059】
シスチンポリスルフィドの構造は次式:HN-CH(COOH)-CH-S-S(1-3)-S-CH-CH(COOH)-NH、で表すことができる。本明細書においてシスチンポリスルフィドを便宜上、Cys-S-S(1-3)-S-Cysと表記することがある。

【0060】
上記工程(i)は、上記「システインの合成方法」の項目において説明した通りに行うことができる。

【0061】
上記工程(ii)に用いる酸化剤は、メルカプト基から水素原子を引き抜く反応を促進することができる試薬であれば特に限定されないが、例えば亜硝酸ナトリウム(NaNO)、ヨウ素(I)、金属塩(例えば、硫化鉄(II)(FeSO)、塩化鉄(II)(FeCl)、塩化マンガン(II)(MnCl)、酢酸マンガン(III)(Mn(OCOCH、硫化銅(II)(CuSO)、塩化亜鉛(ZnCl))、金属を含む酵素(例えば、ヘミン、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP))等を好適に使用できる。好ましい態様において、酸化剤は亜硝酸ナトリウム(NaNO)である。

【0062】
上記工程(iii)に用いる硫化ナトリウム(NaS)は、イオウ原子について同位体標識されたものであってもよく、イオウ原子について同位体標識されていないものであってもよい。

【0063】
上記(ii)および(iii)の反応条件は、ポリスルフィド結合の形成に適した条件であれば特に限定されないが、例えば、25~37℃が挙げられる。

【0064】
N-アセチルシステインの合成方法
一態様において、以下の工程:
(i)システインシンターゼの存在下で、O-アセチル-L-セリンおよびイオウ原子について同位体標識された基質を反応させる;
(ii)工程(i)で得たイオウ原子を同位体標識したシステインをアセチル化剤と反応させることにより、N-アセチルシステインを得る;
を含む、イオウ原子を同位体標識したN-アセチルシステインの合成方法を提供する。

【0065】
N-アセチルシステインの構造は次式:CH-CONH-C(CH-SH)-COOHで表すことができる。

【0066】
上記工程(i)は、上記「システインの合成方法」の項目において説明した通りに行うことができる。

【0067】
上記工程(ii)に用いるアセチル化剤は、システインのアミノ基をアセチル化することができる試薬であれば特に限定されない。例えば、アセチルCoA、無水酢酸等を好適に使用できる。好ましい態様において、アセチル化剤はアセチルCoAである。

【0068】
上記工程(ii)の反応条件は、アセチル化反応に適した条件であれば特に限定されないが、例えば25℃~37℃、pH7~8などの条件が挙げられる。

【0069】
窒素及び/又は炭素原子が同位体標識されているO-アセチル-L-セリンの提供
上記のシステイン、シスチン、スルホシステイン、S-スルホシステイン、システインパースルフィド、シスチンポリスルフィド、N-アセチルシステインまたはセレノシステインの合成方法において、窒素および/または炭素原子が同位体標識されているO-アセチル-L-セリンを、システインシンターゼによる反応に用いることにより、窒素および/または炭素ならびにイオウが同位体標識された(すなわち、窒素およびイオウが同位体標識された、炭素およびイオウが同位体標識された、窒素、炭素及びイオウが同位体標識された)システイン、シスチン、スルホシステイン、S-スルホシステイン、システインパースルフィド、シスチンポリスルフィド、N-アセチルシステインまたはセレノシステインを得ることができる。

【0070】
この目的のため、別の態様において、上記の方法において、O-アセチル-L-セリンを、以下の工程:セリン-O-アセチルトランスフェラーゼの存在下で、窒素および/または炭素原子について同位体標識されたセリンを反応させる;により得ることをさらに含む方法を提供する。窒素および/または炭素原子についての同位体標識は、それぞれ、安定同位体15Nおよび/または13Cであってよい。

【0071】
システインおよびシステイン誘導体の回収および精製
上記の合成方法または上記の反応により得られた、イオウ原子が同位体標識されたシステインまたはシステイン誘導体、あるいは、窒素および/または炭素ならびにイオウが同位体標識されたシステインまたはシステイン誘導体は、クロマトグラフィーなど当業者に公知の手法により回収・精製することができる。

【0072】
キット
一態様において、イオウ原子を同位体標識したシステインもしくはシスチン、又はシステイン誘導体を合成するためのキットを提供する。当該キットは、システインシンターゼ;及びイオウ原子について同位体標識された基質、又はセレン化ナトリウム(NaSe)(ここで、セレン化ナトリウムのセレン原子は同位体標識されていてもよく、されていなくてもよい);を含む。

【0073】
キットに含まれるシステインシンターゼは、先に「システインシンターゼ」の項目において記載したとおりである。

【0074】
イオウ原子について同位体標識された基質は、合成目的の化合物の種類に応じて、イオウ原子について同位体標識された硫化水素ナトリウム(NaHS)、硫化ナトリウム(NaS)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、及び二硫化ナトリウム(Na)からなる群より選択される少なくとも一つの基質である。ここでイオウ原子の同位体標識の種類については、先に「同位体標識」の項目において記載したとおりである。

【0075】
セレン原子を同位体標識する場合の種類については、先に「同位体標識」の項目において記載した通りである。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0077】
実施例1:34S標識システイン(Cys-34SH)の合成
100mM リン酸バッファー(pH7.6)中、20mM O-アセチル-L-セリン、20mM 硫化水素ナトリウム(Na34S)となるように溶解した。この溶液に、参考例1の手法で調製したシステインシンターゼ(CysK) 0.05mg/mlを添加し、37℃で1時間反応させた。
【実施例】
【0078】
システイン生成の確認を容易にする目的で、上記の反応後、反応液中にメタノール及び過剰量のモノブロモビマン(MBB)を添加し、37℃で15分間インキュベートした。
【実施例】
【0079】
反応物を高速液体クロマトグラフィーにより分析した(カラム:YMC Triat C18 plus(4.6 mm×150 mm)(株式会社ワイエムシィ);カラム温度:35℃;インジェクション容量:10μl;移動層:A液/0.1%ギ酸、及びB液/アセトニトリル;グラジエント:5%B液(0分)-80%B液(22分)-80%B液(23分)-5%B液(24分)-5%B液(30分);流速0.8ml/分)。溶出時間9~10分に目的の生成物(システイン-ビマン)のピークが確認できた。ピーク面積から、15mMの生成物が生じていることが確認された。20mMのO-アセチルセリン及び硫化水素ナトリウムを出発原料として用いたので、これは、反応収率75%であることを意味する。
【実施例】
【0080】
また、この生成物について質量分析を行ったところ、システイン-ビマンの同位体標識されていない標品についてm/z:312.1のピークを検出したのに対し、生成物はm/z:314.1のピークを検出した。このことは、生成物が、安定同位体34Sで同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0081】
実施例2:34S標識シスチン(Cys-34S-34S-Cys)の合成
100mM リン酸バッファー(pH7.6)中、20mM O-アセチル-L-セリン、20mM 硫化水素ナトリウム(Na34S)となるように溶解した。この溶液に、参考例1の手法で調製したシステインシンターゼ(CysK) 0.05mg/mlを添加し、37℃で1時間反応させた。
【実施例】
【0082】
上記の反応後、ヨウ素(I)を40mMになるように反応液に添加し、37℃で10分間インキュベートした。
【実施例】
【0083】
反応物を高速液体クロマトグラフィーにより分析した(カラム:Intrada Amino Acid(100×3 mm)(インタクト株式会社);カラム温度:35℃;インジェクション容量:10μl;移動層:A液/アセトニトリル、及びB液/20mM ギ酸アンモニウム;グラジエント:14%B液(0分)-14%B液(3分)-100%B液(20分)-14%B液(20.5分)-14%B液(30分);流速0.6ml/分)。溶出時間約18分に、目的の生成物(シスチン)のピークが確認できた。反応収率はほぼ100%であった。
【実施例】
【0084】
また、この生成物について質量分析を行ったところ、シスチンの同位体標識されていない標品についてm/z:240.9のピークを検出したのに対し、生成物はm/z:244.9のピークを検出した。このことは、生成物が安定同位体34Sで同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0085】
実施例3:15N標識・34S標識システイン([15N]Cys-34SH)の合成
100mM リン酸バッファー(pH7.6)中、1mM 15N標識L-セリン、1mM アセチルCoA、1mM 硫化水素ナトリウム(Na34S)となるように溶解した。この溶液に、参考例1の手法で調製したシステインシンターゼ(CysK) 0.05mg/mlと参考例2の手法で調製したセリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(CysE)を添加し、37℃で5分反応させた。システイン生成の確認を容易にする目的で、上記の反応後、反応液中にメタノール及び過剰量のモノブロモビマン(MBB)を添加し、37℃で15分間インキュベートした。
【実施例】
【0086】
反応物を高速液体クロマトグラフィーにより分析した(カラム:YMC Triat C18 plus(4.6 mm×150 mm)(株式会社ワイエムシィ);カラム温度:35℃;インジェクション容量:10μl;移動層:A液/0.1%ギ酸、及びB液/アセトニトリル;グラジエント:5%B液(0分)-80%B液(22分)-80%B液(23分)-5%B液(24分)-5%B液(30分);流速0.8ml/分)。溶出時間9~10分に目的の生成物(システイン-ビマン)のピークが確認できた。また、この生成物について質量分析を行ったところ、システイン-ビマンの同位体標識されていない標品についてm/z:312.1のピークを検出したのに対し、生成物はm/z:315.1のピークを検出した。このことは、生成物が、安定同位体34Sと15Nで同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0087】
実施例4:15N標識・スルホシステイン([15N]Cys-SOH)の合成
100mM リン酸バッファー(pH7.6)中、1mM 15N標識L-セリン、1mM アセチルCoA、1mM 亜硫酸ナトリウム(NaSO)となるように溶解した。この溶液に、参考例1の手法で調製したシステインシンターゼ(CysK) 0.05mg/mlと参考例2の手法で調製したセリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(CysE)を添加し、37℃で30分反応させた。反応物を質量分析機により分析した(カラム:Imtakt Scherzo SS-C18(2.0 mm×150 mm)(インタクト株式会社);カラム温度:45℃;インジェクション容量:3μl;移動層:A液/0.2%ギ酸、0.2%酢酸、及びB液/100mM酢酸アンモニウム、50%メタノール;グラジエント:0%B液(0分)-0%B液(1分)-2%B液(4分)-45%B液(15分)-0%B液(15.1分)-0%B液(20分);流速0.3ml/分);質量分析条件:プレカーサーイオン168、プロダクトイオン81、フラグメンター電圧90V、コリジョンエナジー21、極性ネガティブ。溶出時間3~4分に目的の生成物(スルホシステイン)のピークが確認できた。また、この生成物のスルホシステインの同位体標識されていない標品についてm/z:168のピークを検出したのに対し、生成物はm/z:169のピークを検出した。このことは、生成物が、15Nで同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0088】
実施例5:15N標識・S-スルホシステイン([15N]Cys-SSOH)の合成
100mM リン酸バッファー(pH7.6)中、1mM 15N標識L-セリン、1mM アセチルCoA、1mM チオ硫酸ナトリウム(Na)となるように溶解した。この溶液に、参考例1の手法で調製したシステインシンターゼ(CysM) 0.05mg/mlと参考例2の手法で調製したセリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(CysE)を添加し、37℃で30分反応させた。反応物を質量分析機により分析した(カラム:Imtakt Scherzo SS-C18(2.0 mm×150 mm)(インタクト株式会社);カラム温度:45℃;インジェクション容量:3μl;移動層:A液/0.2%ギ酸、0.2%酢酸、及びB液/100mM酢酸アンモニウム、50%メタノール;グラジエント:0%B液(0分)-0%B液(1分)-2%B液(4分)-45%B液(15分)-0%B液(15.1分)-0%B液(20分);流速0.3ml/分);質量分析条件:プレカーサーイオン201、プロダクトイオン136、フラグメンター電圧90V、コリジョンエナジー9、極性ネガティブ。溶出時間4~5分に目的の生成物(S-スルホシステイン)のピークが確認できた。また、この生成物についてS-スルホシステインの同位体標識されていない標品についてm/z:200のピークを検出したのに対し、生成物はm/z:201のピークを検出した。このことは、生成物が、15Nで同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0089】
実施例6:15N標識・セレノシステイン([15N]Cys-SeH)の合成
100mM リン酸バッファー(pH7.6)中、1mM 15N標識L-セリン、1mM アセチルCoA、1mM セレン化ナトリウム(NaSe)となるように溶解した。この溶液に、参考例1の手法で調製したシステインシンターゼ(CysK) 0.05mg/mlと参考例2の手法で調製したセリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(CysE)を添加し、37℃で30分反応させた。反応物を質量分析機により分析した(カラム:Imtakt Scherzo SS-C18(2.0 mm×150 mm)(インタクト株式会社);カラム温度:45℃;インジェクション容量:3μl;移動層:A液/0.2%ギ酸、0.2%酢酸、及びB液/100mM酢酸アンモニウム、50%メタノール;グラジエント:0%B液(0分)-0%B液(1分)-2%B液(4分)-45%B液(15分)-0%B液(15.1分)-0%B液(20分);流速0.3ml/分);質量分析条件:プレカーサーイオン336.9、プロダクトイオン247.8、フラグメンター電圧90V、コリジョンエナジー9、極性ポジティブ。なお、セレノシステインはほぼ全てが反応液中で酸化され、分子同士がジスルフィド結合で連結したセレノシスチン(Cys-Se-Se-Cys)を形成するため、セレノシスチンを検出した。溶出時間4~5分に目的の産物の酸化体であるセレノシスチンのピークが確認できた。また、この生成物についてセレノシスチンの同位体標識されていない標品についてm/z:336.9のピークを検出したのに対し、生成物はm/z:338.9のピークを検出した。このことは、生成物が、15Nで同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0090】
実施例7:34S標識システインパースルフィド(Cys-34SSH)の合成
100mM リン酸バッファー(pH7.6)中、実施例1の手法で調製した0.1mM 34S標識システインと0.1mM 二硫化ナトリウム(Na22)を混合し、37℃で30分反応させた。
【実施例】
【0091】
反応物を質量分析機により分析した(カラム:YMC Triat C18 plus(2.1 mm×150 mm)(株式会社ワイエムシィ);カラム温度:45℃;インジェクション容量:1μl;移動層:A液/0.1%ギ酸、及びB液/アセトニトリル;0.2%B液イソクラティック;流速0.2ml/分);質量分析条件:プレカーサーイオン153.9、プロダクトイオン73.1、フラグメンター電圧50V、コリジョンエナジー10、極性ポジティブ。溶出時間3~4分に目的の生成物(システインパースルフィド)のピークが確認できた。また、この生成物についてシステインパースルフィドの同位体標識されていない標品についてm/z:153.9のピークを検出したのに対し、生成物はm/z:155.9のピークを検出した。このことは、生成物が、34Sで同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0092】
実施例8:34S標識・スルホシステイン(Cys-34SOH)の合成
100mM リン酸バッファー(pH7.6)中、1mM O-アセチル-L-セリン、1mM 34S標識・亜硫酸ナトリウム(Na34SO)となるように溶解した。この溶液に、参考例1の手法で調製したシステインシンターゼ(CysK) 0.05mg/mlを添加し、37℃で30分反応させた。実施例4に記載したものと同じ条件で、反応物を質量分析機により分析した。溶出時間3~4分に目的の生成物(スルホシステイン)のピークが確認できた。また、この生成物のスルホシステインの同位体標識されていない標品についてm/z:168のピークを検出したのに対し、生成物はm/z:170のピークを検出した。このことは、生成物が、34Sで同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0093】
実施例9:34S標識・S-スルホシステイン(Cys-S34SOH)の合成
100mM リン酸バッファー(pH7.6)中、1mM O-アセチル-L-セリン、1mM 34S標識・チオ硫酸ナトリウム(Na34SO)となるように溶解した。この溶液に、参考例1の手法で調製したシステインシンターゼ(CysM) 0.05mg/mlを添加し、37℃で30分反応させた。実施例5に記載したものと同じ条件で、反応物を質量分析機により分析した。溶出時間4~5分に目的の生成物(S-スルホシステイン)のピークが確認できた。また、この生成物についてS-スルホシステインの同位体標識されていない標品についてm/z:200のピークを検出したのに対し、生成物はm/z:202のピークを検出した。このことは、生成物が、34S標識で同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0094】
実施例10:34S標識・シスチンポリスルフィド(Cys34S-34(1-3)34SCys)の合成
5%ギ酸中、5mM 34S標識L-システイン、25mM 亜硝酸ナトリウム(NaNO)となるように溶解し、37℃で15分反応させた。この溶液に、6mM Na34Sを添加し、さらに37℃で15分反応させた。反応物を質量分析機により分析した(カラム:YMC Triat C18 plus(2.1 mm×50 mm)(株式会社ワイエムシィ);カラム温度:45℃;インジェクション容量:3μl;移動層:A液/0.1%ギ酸、及びB液/アセトニトリル;イソクラティック:0.2%B液;流速0.2ml/分;質量分析条件:MS2スキャン(m/z:200-400)、フラグメンター電圧90V、極性ポジティブ。溶出時間2~3分、4~5分、12~13分にそれぞれ目的の生成物(シスチンポリスルフィド:Cys34S-34(1-3)34SCys)のピークが確認できた。また、この生成物についてシスチンポリスルフィドの同位体標識されていない標品についてm/z:273.0、305.0、337.0のピークをそれぞれ検出したのに対し、生成物はm/z:278.9、312.9、346.8のピークをそれぞれ検出した。このことは、生成物が、34Sで同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0095】
実施例11:34S標識 N-アセチルシステインの合成
100mM リン酸バッファー(pH7.6)中、5mM 34S標識L-システイン、5mM アセチルCoA、となるように溶解し、37℃で30分反応させた。反応物を質量分析機により分析した(カラム:YMC Triat C18 plus(2.1 mm×50 mm)(株式会社ワイエムシィ);カラム温度:45℃;インジェクション容量:3μl;移動層:A液/0.1%ギ酸、及びB液/アセトニトリル;グラジエント:0.2%B液(0分)-10%B液(10分)-0.2%B液(10.1分)-0.2%B液(15分);流速0.2ml/分。質量分析条件:プレカーサーイオン166.2、プロダクトイオン99.5、フラグメンター電圧50V、コリジョンエナジー21、極性ポジティブ。溶出時間2~3分に目的の生成物(N-アセチルシステイン)のピークが確認できた。また、この生成物についてN-アセチルシステインの同位体標識されていない標品についてm/z:164のピークを検出したのに対し、生成物はm/z:166のピークを検出した。このことは、生成物が、34Sで同位体標識された化合物であることを示している。
【実施例】
【0096】
参考例1:システインシンターゼ(CysK、CysM)の調製
ネズミチフス菌由来のヒスチジンタグ融合CysKおよびCysMを発現する大腸菌をLB培地にて37℃で振盪培養した。大腸菌の濁度がOD.600=0.5になってから0.5mM IPTGを添加し、さらに30℃で2時間振盪培養した。大腸菌を遠心分離で回収し、リシスバッファー(50mM リン酸バッファー、300mM 塩化ナトリウム、10mM イミダゾール 1mg/ml リゾチーム、0.1μg/ml DNアーゼI pH7.8)で再懸濁した。氷上で30分静置後、超音波破砕機にて大腸菌を破砕し、遠心分離し、上清を回収した。上清をニッケル固相化アガロース充填カラムに通した後、洗浄バッファー(50mM リン酸バッファー、300mM 塩化ナトリウム、20mM イミダゾール pH7.8)にてカラムを2回洗浄した後、溶出バッファー(50mM リン酸バッファー、300mM 塩化ナトリウム、300mM イミダゾール pH7.8)でヒスチジンタグ融合CysKを溶出した。溶出したヒスチジンタグ融合CysKを50mM リン酸バッファー pH7.8で平衡化した脱塩カラムに通し、得られた溶液をシステインシンターゼ(CysK、CysM)として使用した。
【実施例】
【0097】
参考例2:セリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(CysE)の調製
ネズミチフス菌由来のヒスチジンタグ融合CysEを発現する大腸菌をLB培地にて37℃で振盪培養した。大腸菌の濁度がOD.600=0.5になってから0.5mM IPTGを添加し、さらに30℃で2時間振盪培養した。大腸菌を遠心分離で回収し、リシスバッファー(50mM リン酸バッファー、300mM 塩化ナトリウム、10mM イミダゾール 1mg/ml リゾチーム、0.1μg/ml DNアーゼI pH7.8)で再懸濁した。氷上で30分静置後、超音波破砕機にて大腸菌を破砕し、遠心分離し、上清を回収した。上清をニッケル固相化アガロース充填カラムに通した後、洗浄バッファー(50mM リン酸バッファー、300mM 塩化ナトリウム、20mM イミダゾール pH7.8)にてカラムを2回洗浄した後、溶出バッファー(50mM リン酸バッファー、300mM 塩化ナトリウム、300mM イミダゾール pH7.8)でヒスチジンタグ融合CysEを溶出した。溶出したヒスチジンタグ融合CysEを50mM リン酸バッファー pH7.8で平衡化した脱塩カラムに通し、得られた溶液をセリン-O-アセチルトランスフェラーゼ(CysE)として使用した。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明により、イオウ原子を同位体標識したシステイン及びシステイン誘導体を効率よく合成することができ、ひいては当該システインおよびシステイン誘導体を安定して供給することが可能となる点において有用である。