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明細書 :マイクロファイバーを用いた血中循環細胞の捕捉及び回収用材料及び当該材料を用いる方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成31年2月28日(2019.2.28)
発明の名称または考案の名称 マイクロファイバーを用いた血中循環細胞の捕捉及び回収用材料及び当該材料を用いる方法
国際特許分類 C12M   1/26        (2006.01)
C12N   5/078       (2010.01)
C12N   9/76        (2006.01)
C12N   9/50        (2006.01)
C07K  16/28        (2006.01)
FI C12M 1/26 ZNA
C12N 5/078
C12N 9/76
C12N 9/50
C07K 16/28
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 22
出願番号 特願2018-514680 (P2018-514680)
公序良俗違反の表示 1.TWEEN
国際出願番号 PCT/JP2017/016623
国際公開番号 WO2017/188346
国際出願日 平成29年4月26日(2017.4.26)
国際公開日 平成29年11月2日(2017.11.2)
優先権出願番号 2016089023
優先日 平成28年4月27日(2016.4.27)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ
発明者または考案者 【氏名】高井 まどか
【氏名】寺村 裕治
【氏名】植木 貴之
【氏名】吉原 彬文
【氏名】近藤 康人
出願人 【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114188、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 誠
【識別番号】100119253、【弁理士】、【氏名又は名称】金山 賢教
【識別番号】100124855、【弁理士】、【氏名又は名称】坪倉 道明
【識別番号】100129713、【弁理士】、【氏名又は名称】重森 一輝
【識別番号】100137213、【弁理士】、【氏名又は名称】安藤 健司
【識別番号】100143823、【弁理士】、【氏名又は名称】市川 英彦
【識別番号】100151448、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 孝博
【識別番号】100183519、【弁理士】、【氏名又は名称】櫻田 芳恵
【識別番号】100196483、【弁理士】、【氏名又は名称】川嵜 洋祐
【識別番号】100203035、【弁理士】、【氏名又は名称】五味渕 琢也
【識別番号】100185959、【弁理士】、【氏名又は名称】今藤 敏和
【識別番号】100160749、【弁理士】、【氏名又は名称】飯野 陽一
【識別番号】100160255、【弁理士】、【氏名又は名称】市川 祐輔
【識別番号】100202267、【弁理士】、【氏名又は名称】森山 正浩
【識別番号】100146318、【弁理士】、【氏名又は名称】岩瀬 吉和
【識別番号】100127812、【弁理士】、【氏名又は名称】城山 康文
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B050
4B065
4H045
Fターム 4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029CC10
4B029DG08
4B029HA02
4B029HA06
4B050DD07
4B050LL03
4B065AA94X
4B065AC20
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA60
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA50
要約 【課題】 特定の細胞を効率的に捕捉及び回収するための材料、及び当該材料を用いた細胞の捕捉及び回収方法を提供する。
【解決手段】 マイクロファイバーよりなる不織布を基材とする細胞の捕捉及び回収用材料であって、前記マイクロファイバーが、特定の酵素によって切断され得るペプチド部位及び当該ペプチド部位に連結された細胞接着性部位を有するポリペプチドによって修飾されていることを特徴とする、該材料。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
マイクロファイバーよりなる不織布を基材とする細胞の捕捉及び回収用材料であって、前記マイクロファイバーが、特定の酵素によって切断され得るペプチド部位及び当該ペプチド部位に連結された細胞接着性部位を有するポリペプチドによって修飾されていることを特徴とする、該材料。
【請求項2】
前記マイクロファイバーが、ポリスチレンマイクロファイバーである、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記不織布が、5~20μmの範囲のポアサイズを有する、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
前記不織布が、1~3μmのファイバー径を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の材料。
【請求項5】
前記酵素がコラゲナーゼ又はトリプシンであり、前記ペプチド部位が当該コラゲナーゼ又はトリプシンに認識されるペプチド配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の材料。
【請求項6】
前記ペプチド部位と前記細胞接着性部位との間に親水性スペーサーを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の材料。
【請求項7】
前記細胞接着性部位が、細胞接着性を有する抗体又はアプタマーである、請求項1~6のいずれか1項に記載の材料。
【請求項8】
前記細胞接着性を有する抗体が、マレイミド標識抗体である、請求項7に記載の材料。
【請求項9】
前記細胞接着性を有する抗体が、抗EpCAM抗体である、請求項7に記載の材料。
【請求項10】
前記細胞が、血中循環癌細胞である、請求項1~9のいずれか1項に記載の材料。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の材料を用いて、細胞の捕捉及び回収を行う方法であって、
a)試料を前記材料と接触させて、前記試料中の細胞を捕捉する工程、
b)前記材料を酵素で処理することにより、前記材料に捕捉された前記細胞を剥離する工程、及び
c)前記剥離した細胞を回収する工程
を含むことを特徴とする、該方法。
【請求項12】
前記試料が、血液である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程a)が、前記試料を前記材料によって吸引ろ過を行うことを含む、請求項11又は12に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の細胞、特に血中循環細胞を効率的に捕捉及び回収するための材料、及び当該材料を用いた細胞の捕捉及び回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血中循環癌細胞(CTC:Circulating Tumor Cells)は、原発巣または転移巣から剥離し血中に遊離した癌細胞であり、癌に侵された患者で多く確認される。近年の研究によって、かかるCTCが治療効果や癌の進行度の指標となる事が分かってきており、そのため、当該CTC細胞の検出及びそれによる癌遺伝子等の診断を行うことは、診断治療分野において重要な技術となっている。
【0003】
従来のCTCの検出系としては、米国Veridex社の開発したシステム等が存在するが、当該システムでは、全血に対しCTCの濃縮を行い、腫瘍細胞に対して免疫染色を行った後、自動化蛍光顕微鏡を用いて腫瘍細胞の計数が行われるため、大型の装置、繁雑な手順が検出に必要であり、しかも患者の血液を採取してから検査結果が出るまでに数日の期間が必要となる。一方、マイクロ流路デバイスを用いてCTCを検出する系も試みられているが(例えば、特許文献1)、安定なサンプル導入を行うためのポンプ等の外部設備が必要であり、サンプルを極少量ずつ導入する必要があるため測定に時間を要するという課題があった。さらに、一般に、血液中に存在する膨大な数の正常細胞の中から非常に少数のCTC(全血10ml中に数個から数百個程度)を高感度に検出することは難しく、また、捕捉したCTCを非破壊で回収することは困難であった。
【0004】
したがって、より簡便で迅速に検査結果を伝える事が可能なCTC検査方法の確立が強く求められている。
【0005】

【非特許文献1】特開2011-163830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、臨床現場等での使用に好適な大量サンプルを迅速かつ外部装置を要せずに処理可能であり、また細胞(特に、血中循環癌細胞)を非破壊で回収可能な手法及びデバイスを開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、検出時間の大幅な短縮を目的として、マイクロファイバーよりなる不織布を細胞捕捉用の基材として用いることで血中細胞等の高速捕捉を実現でき、さらに当該不織布に特定の酵素により切断可能なペプチドを修飾することにより捕捉細胞を非破壊で簡便に回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、一態様において、
(1)マイクロファイバーよりなる不織布を基材とする細胞の捕捉及び回収用材料であって、前記マイクロファイバーが、特定の酵素によって切断され得るペプチド部位及び当該ペプチド部位に連結された細胞接着性部位を有するポリペプチドによって修飾されていることを特徴とする、該材料;
(2)前記マイクロファイバーが、ポリスチレンマイクロファイバー又はキトサンマイクロファイバーである、上記(1)に記載の材料;
(3)前記不織布が、5~20μmの範囲のポアサイズを有する、上記(1)又は(2)に記載の材料;
(4)前記不織布が、1から3μmのファイバー径を有する、上記(1)~(3)のいずれか1に記載の材料;
(5)前記酵素がコラゲナーゼ又はトリプシンであり、前記ペプチド部位が当該コラゲナーゼ又はトリプシンに認識されるペプチド配列を含む、上記(1)~(4)のいずれか1に記載の材料;
(6)前記ペプチド部位と前記細胞接着性部位との間に親水性スペーサーを有する、上記(1)~(5)のいずれか1に記載の材料;
(7)前記細胞接着性部位が、細胞接着性を有する抗体又はアプタマーである、上記(1)~(6)のいずれか1に記載の材料;
(8)前記細胞接着性を有する抗体が、マレイミド標識抗体である、上記(7)に記載の材料;
(9)前記細胞接着性を有する抗体が、抗EpCAM抗体である、上記(7)に記載の材料;及び
(10)前記細胞が、血中循環癌細胞である、上記(1)~(9)のいずれか1に記載の材料
に関する。
【0009】
また、別の態様において、本発明は、
(11)上記(1)~(10)のいずれか1に記載の材料を用いて、細胞の捕捉及び回収を行う方法であって、
a)試料を前記材料と接触させて、前記試料中の細胞を捕捉する工程、
b)前記材料を酵素で処理することにより、前記材料に捕捉された前記細胞を剥離する工程、及び
c)前記剥離した細胞を回収する工程
を含むことを特徴とする、該方法;
(12)前記試料が、血液である、上記(11)に記載の方法;及び
(13)前記工程a)が、前記試料を前記材料によって吸引ろ過を行うことを含む、上記(11)又は(12)に記載の方法
にも関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ランダムな三次元構造を有し表面積の大きいマイクロファイバー製の不織布を基材として用いることで血中循環癌細胞や白血病細胞等の標的細胞を高速かつ高効率で捕捉することができ、さらに、特定の酵素で切断可能なペプチド配列でこれを修飾することにより当該基材から捕捉した細胞を生きた状態で効率良く剥離・回収することができるという効果が得られるものである。
【0011】
これにより、血中循環癌細胞等や白血病細胞等の標的細胞を迅速に検出することができ、細胞診断に用いることができる。また、標的細胞を回収して、繰り返して分子生物学的診断や遺伝子異常診断が可能となることから、病態メカニズムの解明(遠隔転移、がん幹細胞、EMT等)に有用であるだけでなく、分子標的治療薬等の開発においても利用できることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の細胞捕捉及び回収用材料の構造に関する模式図を示すものである。
【図2】図2は、全血透過前後の不織布のSEM像である(全血透過前(左)と透過後(右))。
【図3】図3は、Hela細胞(左図)とMCF7細胞(右図)をそれぞれ透過させた不織布の蛍光顕微鏡画像である。
【図4】図4は、Tween20の有無によるPS-tag-抗体の固定化量及び剥離率を示すグラフである。
【図5】図5は、基板上に捕捉されたMCF7細胞の細胞数を示すグラフである。
【図6】図6は、不織布上の捕捉MCF7細胞の蛍光顕微鏡画像である。左図はコラゲナーゼ添加前で、右図はコラゲナーゼ添加後を示す。
【図7】図7は、不織布の厚さと細胞捕捉数の関係を表すグラフである。
【図8】図8は、回収した細胞を培養用ディッシュに播種してからの時間と細胞数の関係を表すグラフである。
【図9】図9は、不織布上の捕捉MCF7細胞の蛍光顕微鏡画像である。左図はトリプシン添加前で、右図はトリプシン添加後を示す。
【図10】図10は、MCF7細胞混合全血を透過させた後の不織布上のMCF7細胞の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。

【0014】
1.本発明の細胞捕捉及び回収用材料
本発明は、マイクロファイバーよりなる不織布を基材とする細胞の捕捉及び回収用材料に関するものであり、前記マイクロファイバーが、特定の酵素によって切断され得るペプチド部位及び当該ペプチド部位に連結された細胞接着性部位を有するポリペプチドによって修飾されていることを特徴とするものである。

【0015】
本発明の材料の構造に関する模式図を図1に示す。当該図では、ペプチド部位を切断する好ましい酵素として、後述のコラゲナーゼを例として記載している。図1において、基材(図中の「TCPS」)は、上述のようにマイクロファイバーよりなる不織布である。そして、当該不織布の表面には、コラゲナーゼによって認識され切断され得るペプチド部位(図中の「コラゲナーゼ認識部位」)を有するポリペプチドが修飾されている。当該修飾は、当該ポリペプチドの末端に基材表面に吸着し得る吸着部位(図中の「PS-tag」)が、基材表面に吸着することでなされている。そして、当該ポリペプチドの他方の末端には、細胞接着性の抗体が連結されており、当該抗体は、例えば、システインのチオールを介してポリペプチドに結合している構造を有する。

【0016】
なお、後述のとおり、標的細胞の捕捉後に、コラゲナーゼを添加して、ペプチド部位を切断することによって、抗体と結合した標的細胞を材料から分離させ、これを回収することで、生きた状態の標的細胞を回収することができる。

【0017】
(1)基材
上述のとおり、本発明の材料において用いられる基材は、マイクロファイバーよりなる不織布が用いられる。不織布は平面基板に比べて表面積が大きく、細胞と抗体の反応の場を増大させることが可能である。これに更に、後述のように吸引による試料処理(ろ過等)を組み合わせる事により、単位時間当たりの細胞の接触頻度が増加し、捕捉効率を向上させることができる。

【0018】
当該不織布を形成する材料としては、マイクロファイバーとして加工できるものであれば、公知のポリマー等を用いることができる。ここで、「不織布」とは、一般に、繊維を3次元構造で重ねて結合させたシート状の素材であり;また、「マイクロファイバー」とは、一般に、数μm程度の極細の直径を有する繊維のことである。かかる、マイクロファイバーとしては、好ましくは、ポリスチレンマイクロファイバーを用いることができる。捕捉細胞を効率良く非破壊で回収するという観点からは、ポリスチレンマイクロファイバーがより好ましい。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、他のポリマーや化合物、例えば共重合体、生分解性ポリマー、リン脂質、その他化合物等、及びこれらの混合物等を基材中に併用することも可能である。

【0019】
不織布のポアサイズは、5~20μmの範囲が好ましく、10~15μmがより好ましい。不織布のポアサイズは、ハーフドライ法など当該技術分野において周知の手法によって測定することができる。また、不織布のファイバー径(平均繊維直径)は、1~3μmであることが好ましい。サンプルのろ過処理等を迅速に行うことができ、かつ、細胞捕捉の効率化の点で細胞と抗体の反応の場を増大させる効果が得られる範囲であるべきである。

【0020】
不織布の厚さは、0.5~3.0mmであることが好ましい。厚さが大きいほど細胞捕捉能が高まるが、サンプルのろ過処理と細胞補足の効率とのバランスの観点からかかる範囲の厚さの不織布を用いることが好ましい。

【0021】
不織布は、当該技術分野において公知の手法により製造することができる。例えば、エレクトロスピニング法を用いて製造することができる。具体的には、ポリマー(及び、必要に応じて分散補助剤)を揮発性溶媒(例えばクロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、又はこれらの混合溶液等)に溶解した溶液を、電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液を電極(アース電極)に向けて曵糸することにより、繊維状物質を製造する方法である。

【0022】
エレクトロスピニング法を用いる場合、ポリマー溶液中のポリマーの濃度は、適宜設定できるが、通常1~30w/vol%、好ましくは10~25w/vol%、より好ましくは20w/vol%程度である。

【0023】
(2)ポリペプチド修飾
上述のとおり、本発明の材料において用いられる基材中のマイクロファイバーは、特定の酵素によって切断され得るペプチド部位及び当該ペプチド部位に連結された細胞接着性部位を有するポリペプチドによって修飾されていることを特徴とする。このように、基材と細胞接着性部位との間に、酵素によって切断可能なペプチド部位を設けることによって、細胞の迅速かつ効率的な捕捉のみならず、捕捉した細胞を簡便な操作で材料から剥離・回収することが可能となる。

【0024】
特定の酵素によって切断され得るペプチド部位としては、本発明の材料によって捕捉された細胞に生物学的な影響を与えない任意の酵素によって認識され切断されることにより、標的細胞を本発明の材料から剥離し、生きた細胞として回収可能なものであれば、当該技術分野において公知のものを用いることができる。例えば、かかる酵素としては、コラーゲンの加水分解酵素であるコラゲナーゼを用いることができ、上記ペプチド部位は、当該コラゲナーゼにより認識されて切断されるペプチド配列を含む。また別の好ましい酵素の例としては、ペプチド結合の加水分解酵素であるトリプシンを用いることができ、上記ペプチド部位は、当該トリプシンにより認識されて切断されるペプチド配列を含むことができる。ただし、用いることができる酵素は、これらに限定されるものではなく、上述のように他の加水分解酵素等を用いることもできる。そのような酵素と及びそれによって認識・切断されるペプチド配列の組み合わせは、例えば、J. L. Lauer-Fields, T. Sritharan, M. S. Stack, H. Nagase, G. B. Fields, Selective hydrolysis of triple-helical substrates by matrix metalloproteinase-2 and -9, J. Biol. Chem. 2003, 278, 18140-18145.などの文献を参照することによって当業者であれば好適なものを選択することができる。

【0025】
細胞接着性部位としては、捕捉の標的とする細胞に対して親和的な接着性を有し、好ましくは特異的に結合し得る、細胞接着性の化合物を用いることができる。例えば、細胞接着性を有する抗体、アプタマー等を用いることができる。当該抗体は、マレイミドで標識された抗体であることが好ましい。

【0026】
かかる細胞接着性を有する抗体として、例えば、標的細胞を血中循環癌細胞(CTC)とする場合には、胚体内胚葉やケラチノサイト、未熟T細胞、ランゲルハンス細胞、リンパ節樹状細胞、胸腺樹状細胞、脾臓樹状細胞、ほぼすべての上皮ガンを含む腫瘍細胞に発現していることが知られているEpCAMに対する抗体、すなわち、抗EpCAM抗体であることが好適である。また、白血病細胞(血液腫瘍)では、CRLF2, CD30, CD93, ALK1 などに対する抗体 を用いることができる。なお、癌細胞の細胞を標的細胞とすることができ、その場合にはかかる標的細胞と接着し得る適切な抗体を用いることができる。

【0027】
細胞接着性部位は、図1に例示したように、システインのチオールを介してポリペプチドに連結させることができる。ただし、当該技術分野において公知のペプチド修飾を用いてかかる連結を行うことが可能である。また、当該細胞接着性部位と上記ペプチド部位との間に親水性スペーサーを設けることができる。かかる親水性スペーサーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー等の親水性ポリマーを挙げることができる。かかるスペーサーを設けることによって、細胞接着性部位に捕捉された標的細胞の剥離率を向上させることができ、細胞の回収効率を高めることができる。

【0028】
また、上記ポリペプチドは、不織布のマイクロファイバー表面に修飾及び固定化されるが、かかる修飾及び固定化は、当該技術分野において公知の任意の手法を用いて行うことができる。例えば、マイクロファイバーであるポリマーに親和性を有するペプチド配列をポリペプチドの末端領域に用い、当該ポリペプチドの溶液に基材である不織布を浸漬する、或いは該溶液を滴下することにより行うことができる。

【0029】
なお、標的細胞が、基材に対して非特的に吸着することを抑制するという観点から、基材へのポリペプチドの修飾(固定化)を適切な界面活性剤の存在下で行うことが好ましい。かかる界面活性剤の好適な例としては、Tween20を挙げることができるが、これに限られるものではない。

【0030】
2.本発明の細胞の捕捉及び回収方法
本発明の別の好ましい態様は、上記のマイクロファイバーよりなる不織布をポリペプチドで修飾した材料を用いて、
a)試料を前記材料と接触させて、前記試料中の細胞を捕捉する工程、
b)前記材料を酵素で処理することにより、前記材料に捕捉された前記細胞を剥離する工程、及び
c)前記剥離した細胞を回収する工程
を行うことを特徴する、細胞の捕捉及び回収を行う方法である。ここで、標的とする細胞は、上述のとおり血中循環癌細胞や白血病細胞であることできるが、かかる癌細胞の細胞についても適用できる。

【0031】
工程a)では、標的とする細胞を含む試料、例えば、血液を前記材料と接触させることにより、細胞接着性部位において特異的に標的細胞を捕捉することができる。ここで、前記試料を前記材料によって接触させる際に、吸引ろ過を行うことが好ましい。当該吸引ろ過は、必ずしも真空ポンプ等の外部装置を用いる必要はなく、例えば、前記材料をシリンジ等に充填し、当該シリンジを真空状態にしたうえでサンプルを吸引することなどにより行うことができる。上述のように、血中に存在する血中循環癌細胞の数は非常に少ないため、定量的に細胞数を測定するためには比較的多量のサンプルが必要となるが、かかる吸引によるサンプル導入速度の増加によって比較的短時間に必要なサンプル量を処理できる。

【0032】
工程b)では、前記材料に固定化されたポリペプチドにおけるペプチド部位をコラゲナーゼ等の酵素によって切断することによって、当該材料に捕捉された標的細胞を材料から剥離することができる。これにより、ポリペプチド先端の抗体に特異的に結合した標的細胞を選択的に分離することができる。

【0033】
その後、工程c)において、前記材料を洗浄等することにより、材料から剥離した標的細胞を回収することができる。このように、本発明の方法によれば、標的細胞自体に作用することなく、抗体等の細胞接着部位と材料を連結するスペーサーであるペプチド部位を切断することで標的細胞を生きた状態で回収することができるため、繰り返して分子生物学的診断や遺伝子異常診断への適用が可能であるという利点が提供される。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
1. 実験方法
(1) ポリスチレン不織布の作製と微細構造の評価
濃度の異なるポリスチレン(in DMF:THF=1:1、PS濃度10-25 w/v%、 Mw:9.0×105)溶液を用いて、エレクトロスピニング法を用いて不織布を作製した。作製条件は噴射速度15 μL/min、印加電圧20 kV、ノズルとコレクター間の距離が10 cmであった。得られた不織布の厚さは、0.7mmであった。SEMと共焦点顕微鏡により、微細構造を評価した。また、吸引装置を用いて、ヤギ全血を透過させ、全血透過前後の構造と溶血度を評価した。
【実施例1】
【0036】
(2)不織布への抗体固定と癌細胞の捕捉
転移性の乳腺細胞(MCF7細胞)と転移性ではない子宮頚癌由来細胞(HeLa細胞)を使用した。転移性癌に発現しているEpCAMに対する抗体(抗EpCAM抗体)溶液(10 μg/mL)中に、不織布を1時間浸漬し、緩衝液で洗浄後、使用した。トリプシンで回収した細胞(1.0×105 cells/mL、4 mL)を、不織布に導入し、細胞捕捉能を評価した。またMCF7細胞を1.0×103 cells混入させたブタ全血10 mLを導入した場合の捕捉能の評価も行った。細胞はいずれの実験も蛍光標識した。
【実施例1】
【0037】
(3)不織布に捕捉された細胞の剥離方法の検討
(3-1) 設計した材料認識ペプチド
設計したペプチドのシーケンスは[N]RIIIRRIRRGGGGPPGVVGEQGEQGPPC[C]であった。RIIIRRIRRがPS-tag(不織布への接着部位)、GPPGVVGEQGEQGPPがコラゲナーゼの認識配列となる。マレイミド標識した抗EpCAM抗体と事前に反応させ、精製した後に実験に使用した。以降、設計したペプチドと抗体が結合したものは「PS-tag-抗体」と表記する。
【実施例1】
【0038】
(3-2)PS-tag-抗体の固定化とコラゲナーゼの作用
PS-tag-抗体の固定化量に対するコーティング溶液の影響、コラゲナーゼによる切断効率を相対的に評価した。PS-tag-抗体としてAlexa Fluor@488 goat anti-rabbit IgGを結合させたPS-tagを用いた。TCPSの96ウェルプレートを基板として使用した。抗体の濃度を10 μg/mLとしたPS-tag-抗体溶液を100 μL基板上に滴下し、1時間静置した。PBSにて2度洗浄した後に、100 u/mLのコラゲナーゼ溶液を100 μL加え、37℃で1時間静置した。その後、PBSにて2度洗浄をおこない測定を行った。測定はTyphoonを用いた。今回はペプチドの凝集抑制の為に界面活性剤Tween20と尿素をコーティング溶液に添加し、その影響を調べた。
【実施例1】
【0039】
(3-3)細胞剥離実験
PS-tag-抗体とコラゲナーゼを用いた手法における細胞剥離能を評価した。PS-tag-抗体として抗EpCAM 抗体を結合させたPS-tagを用いた。細胞は転移性の乳癌細胞(MCF7細胞)、コントロールの細胞として、子宮頚癌由来細胞(HeLa細胞)を用いた。Tissue culture treatedの96ウェルプレートを基板として使用した。抗体の濃度を10 μg/mLとしたPS-tag-抗体溶液を100 μL基板上に滴下し、1時間静置した。PBSにて2度洗浄した後に、2.0×105 cells/mLの細胞溶液を100 μL加え、37℃で30分静置した。PBSにて2度洗浄した後に、100 u/mLのコラゲナーゼ溶液を100 μL加え、37℃で1時間静置した。PBSにて2度洗浄した後、観察をおこなった。
【実施例1】
【0040】
(4)ポリスチレン不織布とPS-tagによる細胞捕捉・剥離実験
PS-tag-抗体を固定化した不織布(プラズマ処理したもの)に対して、Cell tracker greenにて事前に染色したMCF7細胞溶液(2.0×105 cells/mL)を2 mL吸引によって導入した。PBSにて洗浄した後に、100 u/mLのコラゲナーゼ溶液に37℃で30分静置した。PBSにて洗浄した後、蛍光顕微鏡にて観察をおこなった。なお洗浄は吸引によっておこなった。
【実施例1】
【0041】
2.実験結果
(1) エレクトロスピニング法による不織布作製と微細構造の評価
ポリスチレン溶液濃度が増加するにつれてファイバー径(直径)は大きくなり、またポアサイズも大きくなることが分かった(表1)。細胞の大きさは、およそ10 μmであることと不織布の表面積が最大となる20wt%のPS溶液から作製したファイバーが適していると考え、細胞の捕捉能を調べた。 図2に全血透過前後の不織布のSEM像を示した。全血透過前後で不織布の構造に破壊が見られず血球成分の残存が見られなかった。また透過後の全血の上澄み液に対して、560 nmにおける吸光度によって溶血度を評価した場合にも同様の結果が得られた。以上から、構造破壊、血球破壊を生じず、全血を透過させることが可能な基板を作製することができた。
【表1】
JP2017188346A1_000003t.gif
【実施例1】
【0042】
(2)不織布への抗体固定と癌細胞の捕捉
PS-tag-抗体(抗EpCAM抗体)を固定化した不織布に対して、HeLa細胞とMCF7細胞をそれぞれ透過させ、洗浄後、基板を観察した(図3)。MCF7細胞では、不織布への接着が見られ、捕捉されていることが分かった。他方、HeLa細胞では、基板への接着は見られず、捕捉されていないことが分かった。今回使用した基板では、捕捉率は40%程度である事が分かった。また、この捕捉率はポリスチレン不織布の厚さに比例する事が示された。
【実施例1】
【0043】
また、あらかじめ、抗EpCAM抗体でMCF7細胞を処理してEpCAMを阻害し、不織布へ透過させたところ、MCF7細胞の捕捉は見られなかった。以上の結果から、抗体による特異的なMCF7細胞の捕捉であることを示すことであることが分かった。全血からも同様にMCF7細胞を迅速に捕捉する事ができた。これらの結果から、このシステムを用いる事で夾雑物が多数存在する溶液からも特定の細胞を迅速に捕捉できる事が示された。
【実施例1】
【0044】
(3)Tween20の有無によるPS-tag-抗体の固定化量及び剥離率
コーティング溶液におけるTween20の有無によるPS-tag-抗体の固定化量及び剥離率を比較した結果を図4に示す。Tween20存在下で固定化量が全体的に低下する事が示された。更に TCPSに対して抗体のみで固定化を試みた場合では、PS-tagを用いた固定化条件よりも固定化量が低くなることが分かっている。
【実施例1】
【0045】
(4)コラゲナーゼによる抗体遊離の評価
Tween20の存在に関わらずコラゲナーゼ添加後に固定化量が減少した。この結果からコラゲナーゼがペプチドを切断する事によって抗体が遊離している事が示唆された。
【実施例1】
【0046】
(5)細胞の捕捉能と剥離能の評価
基板上に捕捉されたMCF7細胞の細胞数を図5に示した。図4の結果と比較すると細胞の捕捉数がPS-tag-抗体の固定化量に準じていないことが示唆された。これはTween20の存在によって、PS-tagがTCPSに優先的に吸着し、抗体の基板への非特異的吸着が抑制された事が要因であると考える。またPS-tagの吸着によって細胞の非特異的吸着を抑制できる事が示された。抗体のみを用いた細胞捕捉では抗体固定化の後にBSA等によるブロッキング処理が必要であるが、ペプチドを用いる事によってこの手順を省略できることが示唆される。また、基板上の捕捉MCF7細胞を観察したところ、コラゲナーゼを添加すると捕捉された細胞がほとんど剥離される事を確認した。
【実施例1】
【0047】
(6)ポリスチレン不織布とPS-tag-抗体による細胞捕捉・剥離能の評価
コラゲナーゼ添加前後における不織布を観察した蛍光顕微鏡画像を図6に示した。左側がコラゲナーゼ添加前、右側が添加後になる。基板上に捕捉されている細胞が減少している事が示唆された。
【実施例1】
【0048】
(7)ポリスチレン不織布の厚さに依存した細胞捕捉効率の検証
異なる厚さのポリスチレン不織布を用いて上記と同様の細胞捕捉実験を行い、細胞捕捉率の比較を行った。厚さが2mm、1.3mm、0.7mmの不織布を用いたときの細胞捕捉率を図7に示した。
その結果、不織布の厚さが大きくなるにつれて、細胞捕捉率が向上することが分かった。厚さ2mmの不織布を用いた場合には、全細胞数の約80%が捕捉された。
【実施例1】
【0049】
(8)回収細胞の増殖挙動
PS-tag-抗体を固定化したポリスチレン不織布を用いて、捕捉・回収されたMCF7細胞の増殖挙動を評価した。回収した細胞を培養用ディッシュに播種してからの時間と細胞数の関係を図8に示した。
その結果、回収された細胞は、未処理の細胞と同様の増殖曲線(増殖速度)を有していた。このことから、不織布から剥離する際に添加されたコラゲナーゼにより、細胞のダメージはないことが分かった。

【実施例2】
【0050】
[トリプシンを用いた細胞捕捉・剥離実験]
実施例1において用いたコラゲナーゼに変えて、細胞剥離のための酵素としてトリプシンを用いて同様の実験を行った。PS-tag-抗体(抗EpCAM抗体)を固定化した不織布を実施例1と同様に作製した。
【実施例2】
【0051】
トリプシン添加前後における不織布を観察した共焦点顕微鏡画像を図9に示した。左側がトリプシン添加前、右側が添加後になる。基板上に捕捉されている細胞が減少している事が示唆された。
【実施例3】
【0052】
[全血を用いた標的細胞の特異的捕捉]
実施例1で作製したPS-tag-抗体固定化不織布を用いて、ヤギ全血からのEpCAM発現細胞の特異的捕捉・回収能を評価した。
【実施例3】
【0053】
MCF-7細胞を混合した全血をポリスチレン不織布に透過したのち、共焦点顕微鏡にて観察した画像を図10に示した。全血からMCF-7細胞を特異的に捕捉可能であることが示された。

【実施例3】
【0054】
これらの結果は、本発明の材料を用いることによって、迅速かつ高効率で血中の標的細胞を捕捉及び回収することができることを実証するものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9