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明細書 :アンジオテンシン変換酵素阻害活性の高い発酵乳および生理活性ペプチドの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成31年4月11日(2019.4.11)
発明の名称または考案の名称 アンジオテンシン変換酵素阻害活性の高い発酵乳および生理活性ペプチドの製造方法
国際特許分類 A23C   9/13        (2006.01)
A23L  33/10        (2016.01)
C12P   1/02        (2006.01)
C12P  21/06        (2006.01)
A61K  35/20        (2006.01)
A61K  36/07        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
A61P   9/12        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C07K   5/065       (2006.01)
C12R   1/645       (2006.01)
FI A23C 9/13
A23L 33/10
C12P 1/02 Z
C12P 21/06
A61K 35/20
A61K 36/07
A61P 9/10
A61P 9/12
A61P 43/00 111
C07K 5/065
C12R 1:645
国際予備審査の請求
全頁数 20
出願番号 特願2018-524168 (P2018-524168)
国際出願番号 PCT/JP2017/023100
国際公開番号 WO2017/222029
国際出願日 平成29年6月22日(2017.6.22)
国際公開日 平成29年12月28日(2017.12.28)
優先権出願番号 2016124765
優先日 平成28年6月23日(2016.6.23)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】岡本 賢治
【氏名】並河 徹
出願人 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100145403、【弁理士】、【氏名又は名称】山尾 憲人
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
審査請求 未請求
テーマコード 4B001
4B018
4B064
4C087
4C088
4H045
Fターム 4B001AC05
4B001AC21
4B001BC14
4B001EC05
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4B018MD71
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4H045CA40
4H045EA20
4H045FA15
4H045FA16
要約 本発明は、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性の高い発酵乳を提供する。さらに本発明は、きのこを用いて乳を発酵させることを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性の高い発酵乳の製造方法およびTyr-Proの製造方法を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
きのこを用いて乳を発酵させることを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を有する発酵乳の製造方法。
【請求項2】
きのこがキカイガラタケ科のきのこ、サルノコシカケ科のきのこまたはコウヤクタケ科のきのこである請求項1記載の方法。
【請求項3】
きのこがNeolentinus属、Trametes属またはPeniophora属のきのこである請求項2記載の方法。
【請求項4】
きのこがNeolentinus属またはPeniophora属のきのこである請求項3記載の方法。
【請求項5】
乳が牛乳またはスキムミルクである請求項1~4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の方法により得られる、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を有する発酵乳。
【請求項7】
請求項6記載の発酵乳を含有させることを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を有する飲食物の製造方法。
【請求項8】
請求項6記載の発酵乳を含有させることを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素阻害用、血圧降下用および/または脳卒中予防用の医薬組成物の製造方法。
【請求項9】
きのこを用いて乳を発酵させることを特徴とする、Tyr-Proの製造方法。
【請求項10】
きのこがキカイガラタケ科のきのこ、サルノコシカケ科のきのこまたはコウヤクタケ科のきのこである請求項9記載の方法。
【請求項11】
きのこがNeolentinus属、Trametes属またはPeniophora属のきのこである請求項10記載の方法。
【請求項12】
きのこがNeolentinus属またはPeniophora属のきのこである請求項11記載の方法。
【請求項13】
乳が牛乳またはスキムミルクである請求項9~12のいずれか記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性を有する食品の製造方法、詳細にはアンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性の高い発酵乳の製造方法に関する。さらに本発明は、生理活性ペプチドの製造方法、詳細にはTyr-Proの製造方法に関する。なお、本願は、国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成28年度農林水産省「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)である。
【背景技術】
【0002】
食と健康との関係が益々注目されている昨今において、新しくかつ優れた生理活性を有する食品の開発が望まれている。食品の生理活性については多くの研究がなされており、様々な生理活性を有する食品が開発され、販売されている。とりわけ発酵食品の生理活性は注目すべきものが多い。例えば、タンパク質分解活性をもつ乳酸菌を用いた発酵乳は血圧降下活性を有することが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
血圧降下活性を示す発酵乳中の物質として、Ile-Pro-Pro、Val-Pro-Pro、Tyr-Proなどのペプチドが知られている。これらのペプチドはアンジオテンシン変換酵素阻害活性によって血圧を降下させる。しかし、これらのペプチドの安価な工業生産技術はまだ確立されておらず、高価である。
【0004】
したがって、従来の発酵乳よりも更にアンジオテンシン変換酵素阻害活性や血圧降下活性などが高い発酵乳が求められている。また、上記のようなアンジオテンシン変換酵素阻害活性や血圧降下活性を有するペプチドは非常に高価であり、安価かつ簡単にこれらのペプチドを製造する技術が求められていた。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際特許出願公開公報WO2012/063826A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性の高い新規な発酵乳を得ることであった。さらに、本発明の解決しようとする課題は、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するペプチドを安価かつ簡単に製造することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、ある種のきのこを用いて得られた発酵乳が、非常に高いアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を示すこと、そして得られた発酵乳中のTyr-Pro含量が極めて多いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記に関する:
(1)きのこを用いて乳を発酵させることを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を有する発酵乳の製造方法。
(2)きのこがキカイガラタケ科のきのこ、サルノコシカケ科のきのこまたはコウヤクタケ科のきのこである(1)記載の方法。
(3)きのこがNeolentinus属、Trametes属またはPeniophora属のきのこである(2)記載の方法。
(4)きのこがNeolentinus属またはPeniophora属のきのこである(3)記載の方法。
(5)乳が牛乳またはスキムミルクである(1)~(4)のいずれか記載の方法。
(6)(1)~(5)のいずれか記載の方法により得られる、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を有する発酵乳。
(7)(6)記載の発酵乳を含有させることを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を有する飲食物の製造方法。
(8)(6)記載の発酵乳を含有させることを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素阻害用、血圧降下用および/または脳卒中予防用の医薬組成物の製造方法。
(9)きのこを用いて乳を発酵させることを特徴とする、Tyr-Proの製造方法。
(10)きのこがキカイガラタケ科のきのこ、サルノコシカケ科のきのこまたはコウヤクタケ科のきのこである(9)記載の方法。
(11)きのこがNeolentinus属、Trametes属またはPeniophora属のきのこである(10)記載の方法。
(12)きのこがNeolentinus属またはPeniophora属のきのこである(11)記載の方法。
(13)乳が牛乳またはスキムミルクである(9)~(12)のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により得られる発酵乳は非常に高いACE阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を有するので、血圧が高い人の血圧管理や高血圧の予防、脳卒中の予防などを効果的に行うことができる。また、本発明の発酵乳は、ACE阻害作用、血圧降下作用、脳卒中予防作用だけでなく、抗不安作用、精神安定作用、鎮痛作用、筋肉疲労の回復作用、呈味効果などを有するものである。可食性のきのこあるいは毒性が認められないきのこを用いて製造する場合、本発明の発酵乳は安全性が高い。さらに、本発明によれば、ACE阻害作用、抗不安作用、鎮痛作用などの生理活性を有するTyr-Proを牛乳などの原料から、安価かつ簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、マツオウジを用いて得られた発酵乳のACE阻害活性の経時変化を示すグラフである。
【図2】図2は、マツオウジを用いて得られた発酵乳と市販品のACE阻害活性を比較したグラフである。
【図3】図3は、カワタケを用いて得られた発酵乳のACE阻害活性の経時変化を示すグラフである。
【図4】図4は、カワタケを用いて得られた発酵乳と市販品のACE阻害活性を比較したグラフである。
【図5】図5は、マツオウジを用いて得られた発酵乳の脳卒中易発症自然発症高血圧ラット(SHRSPラット)に対する血圧降下作用を調べた結果を示すグラフである。実線はマツオウジ発酵乳投与区分の収縮期血圧、破線は対照区分の収縮期血圧を示す。
【図6】図6は、マツオウジを用いて得られた発酵乳の脳卒中易発症自然発症高血圧ラット(SHRSPラット)に対する脳卒中予防効果を調べた結果を示すグラフである。実線は1%食塩を含むマツオウジ発酵乳投与区分の生存率、破線は対照区分の生存率を示す。
【図7】図7は、マツオウジを用いて得られた発酵乳中のTyr-Proを同定した結果を示すエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)のチャートである。
【図8】図8は、Tyr-Pro生産菌のスクリーニング結果を示すグラフである。
【図9】図9は、マツオウジを用いて得られた発酵乳中のTyr-Pro濃度の経時変化を示すグラフである。
【図10】図10は、カワタケを用いて得られた発酵乳中のTyr-Pro濃度の経時変化を示すグラフである。
【図11】図11は、カワタケを前培養せずに菌糸体を直接原料に接種して得られた発酵乳中のTyr-Pro濃度の経時変化を示すグラフである。左パネルは牛乳を原料とした場合、右パネルはスキムミルクを原料とした場合のTyr-Pro濃度を示す。
【図12】図12は、マツオウジを用いて得られた発酵乳中のアミノ酸分析結果を示すグラフである。
【図13】図13は、カワタケを用いて得られた発酵乳中のアミノ酸分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、1の態様において、きのこを用いて乳を発酵させることを特徴とする、発酵乳の製造方法に関する。好ましくは、本発明の方法により得られる発酵乳はACE阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を有するものである。

【0012】
本発明は、さらなる態様において、きのこを用いて乳を発酵させて得られる、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を有する発酵乳に関する。

【0013】
発酵乳の製造には乳酸菌を用いるという技術常識が存在している。かかる状況下において本発明者らは、きのこを用いて発酵乳の製造を試みたところ、意外なことに極めて強力なACE阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を有する発酵乳が得られることを見出した。さらに本発明者らは、得られた発酵乳中のTyr-Pro含量が、乳酸菌を用いた発酵乳中のTyr-Pro含量よりも遙かに多いことも見出した。これらの知見に基づいて、本発明が完成された。

【0014】
きのことは、菌類のうち肉眼で観察できる程度の大きさの子実体を形成するものをいい、その多くは担子菌門または子のう菌門に属する生物である。本発明の発酵乳の製造方法およびTyr-Proの製造方法において用いるきのこは、食用とされているきのこ、あるいは毒性が認められないきのこであれば特に限定されない。そのようなきのこの例としては、ヒラタケ(Pleurotus osteatus)、タモギタケ(Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus)、ウスヒラタケ(Pleurotus pulmonarius)、トキイロヒラタケ(Pleurotus djamor)、エリンギ(Pleurotus eryngii)、バイリング(ハクレイタケ)(Pleurotus nebrodensis)、オオヒラタケ(Pleurotus cystidiosus)、クロアワビタケ(Pleurotus abalonus)、マツオウジ(Neolentinus lepideus)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)、シイタケ(Lentinula edodes)、ハタケシメジ(Lyophyllum decastes)、ブナシメジ(Hypsizygus marmoreus)、ムラサキシメジ(Lepista nuda)、コムラサキシメジ(Lepista sordida)、ニオウシメジ(Trichoroma giantea)、ナラタケ属のきのこ(Armillaria spp.)、ムキタケ(Panellus serotinus)、ヌメリツバタケ(Oudemansiella mucida)、ヤコウタケ (Mycena chlorophos)、エノキタケ(Flammulina velutipes)、オオイチョウタケ(Leucopaxillus giganteus)、フクロタケ(Volvariella volvacea)、ツクリタケ(マッシュルーム)(Agaricus bisporus)、カワリハラタケ(別名ヒメマツタケ、アガリクス)(Agaricus brazei)、ササクレヒトヨタケ(Coprinus comatus)、ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea)、サケツバタケ(Stropharia rugosoannulata)、キサケツバタケ(Stropharia rugosoannulata Farlow in Murrill f. lutea Hongo)、クリタケ(Naematoloma sublateritium)、シビレタケ属のきのこ(Psilocybe spp.)、ナメコ(Pholiota nameko)、ヌメリスギタケ(Pholiota adiposa)、ヌメリスギタケモドキ(Pholiota aurivella)、チャナメツムタケ(Pholiota lubrica)、シロナメツムタケ(Pholiota lenta)、ハナビラタケ(Sparassis crispa)、カンゾウタケ(Fistulina hepatica)、サンゴハリタケ(Hericium ramosum)、ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)、エゾハリタケ(Climacodon septentrionalis)、ブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii)、タマチョレイタケ(Polyporus tuberaster)、アミスギタケ(Favolus arcularius)、チョレイマイタケ(Polyporus umbellatus)、トンビマイタケ(Meripilus giganteus)、マイタケ(Grifola frondosa)、マスタケ(Laetiporus sulphureus)、ブクリョウ(Wolfiporia cocos)、マンネンタケ(Ganoderma lucidum)、マゴジャクシ(Ganoderma neojaponicum)、コフキサルノコシカケ(Elfvungia applanata)、カバノアナタケ(Inonotus oblizua)、メシマコブ(Phellius linteus)、シロキクラゲ(Tremella fuciformis)、ハナビラニカワタケ(Tremella foliacea)、アラゲキクラゲ(Auricularia polytricha)、キクラゲ(Auricularia auricula)、キヌガサタケ(Dictyophora indusiata)などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明において好ましく用いられるきのこは乳をよく発酵し、発酵乳中にACE阻害活性、血圧降下活性および/または脳卒中予防活性を生じさせることができるきのこ、あるいは発酵乳中にTyr-Proを多く生じさせることができるきのこである。本発明において好ましく用いられるきのこの例としてはキカイガラタケ科(Gloeophyllaceae)のきのこ、コウウヤクタケ科(Corticiaceae)のきのこ、サルノコシカケ科(Polyporaceae)のきのこなどが挙げられる。

【0015】
本発明に用いることのできるキカイガラタケ科のきのことしては、Neolentinus属のきのこ、例えばマツオウジ(Neolentinus lepideus)などが例示されるが、これらに限定されない。マツオウジは褐色腐朽菌で、針葉樹の切り株や丸太に発生する比較的大型のきのこであり、可食性であり、弾力のある肉質を有し、ラムネ様の芳香を放つ。本発明に用いることのできるサルノコシカケ科のきのことしては、Trametes属のきのこ、例えばカワラタケなどが例示されるが、これらに限定されない。本発明に用いることのできるコウヤクタケ科のきのことしては、Peniophora属のきのこ、例えばカワタケなどが例示されるが、これらに限定されない。

【0016】
本発明において好ましく用いられるきのことしては、Neolentinus属、Trametes属またはPeniophora属のきのこが挙げられるが、これらに限定されない。

【0017】
本発明に用いることができるきのこは、森林、山野、野原などから採取することができる。本発明に用いることができるきのこは、鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝子資源研究センター(FMRC)、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)、American Type Culture Collection(ATCC)などの機関から分譲してもらうこともできる。

【0018】
本発明に用いる乳は哺乳動物の乳である。乳が由来する動物種は特に限定されず、ウシ、ヤギ、ヒツジ、スイギュウ、ヤク、ラクダ、ロバ、ウマ、トナカイ、ヘラジカなどが例示される。牛乳は生産量も多く比較的安価であるので、本発明の発酵乳を大量生産するために好適に用いられる。本明細書において、乳という場合には、脱脂粉乳(スキムミルク)などの乳の加工品も含まれる。

【0019】
きのこによる乳の発酵は、乳または乳を含む液体中にきのこの菌糸または胞子を添加して一定時間培養することにより行われる。きのこによる乳の発酵において、ラクトース、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロース、マルトース、セロビオース、デンプン、廃糖蜜などの炭素源、酵母エキス、カゼインの加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物、コーンスティープリカー等の有機窒素含有物を窒素源として乳に添加してもよい。リン酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などの無機塩類を乳に添加してもよい。

【0020】
発酵温度はきのこの種類、乳の種類、乳への添加物の種類、発酵時間などの要因によって異なるが、通常は20℃~37℃、好ましくは25℃~35℃、より好ましくは28℃~33℃であるが適宜変更できる。発酵は、通常は、好気条件下または微好気条件下で行う。微好気条件下とは、きのこが増殖可能な中~低酸素環境下をいう。このような条件は当業者に公知であり、適宜定めうる。静置培養、撹拌培養、振とう培養などの様々な公知の培養様式にて発酵を行うことができる。培養容器も公知のものを適宜選択して使用することができ、フラスコ、ジャー、タンクなどの培養容器を用いることができる。発酵過程においてpHの調節を行ってもよく、行わなくてもよい。発酵時間もきのこの種類、乳の種類、乳への添加物の種類、発酵温度などの要因によって異なるが、通常は1日~30日、好ましくは3日~21日であるが適宜変更できる。発酵時間は、例えば、発酵乳中のACE阻害活性や所望のペプチドの生産量などを測定することによって決めることができる。発酵条件は当業者が通常の知識を用いて、あるいは通常の実験を行うことにより決定することができる。乳へのきのこの接種は、あらかじめ作成しておいた種培養を原料乳に添加することにより行ってもよく、きのこの菌体を直接原料乳に添加することにより行ってもよい。

【0021】
本明細書においてACE阻害とは、アンジオテンシン変換酵素の活性を低下させることをいう。具体的にはアンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を触媒する活性を低下させることをいう。ACE阻害はインビトロにおけるものであってもよく、インビボにおけるものであってもよい。ACE阻害活性の測定は公知の方法(例えばCushman, DW., Cheung, HS. Spectrophotometric assay and properties of the angiotensin-converting enzyme of rabbit lung. Biochemical Pharmacology, 20: 1637-1648 (1971)に記載の方法)にて行うことができる。ACE阻害活性測定用キットも市販されている。

【0022】
本発明の発酵乳は、Tyr-Proを多く含み、高いACE阻害活性を有するので、優れた血圧降下作用を示す。本明細書において血圧降下とは、対象の血圧を低下させることをいう。血圧の測定は公知の方法にて行うことができる。本発明の発酵乳を高血圧の治療および/または予防に用いてもよい。高血圧の治療とは、対象における血圧を低下させて正常な血圧にする、あるいは正常な血圧に近づけることをいう。高血圧の予防とは、対象における将来の高血圧の発症可能性を低下させることをいう。

【0023】
本発明の発酵乳はまた、優れた脳卒中予防活性を有する。脳卒中は、脳出血と脳梗塞およびクモ膜下出血を包含する。本明細書において、脳卒中の予防とは、対象における将来の脳卒中の発症可能性を低下させることをいう。

【0024】
本発明の発酵乳は、発酵によって生じたTyr-Proを、好ましくは200μg/ml以上、より好ましくは300μg/ml以上含有する。

【0025】
さらに、本発明の発酵乳は、バリン、ロイシン、イソロイシンなどの分岐鎖アミノ酸、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンなどの芳香族アミノ酸、グルタミン酸などの呈味性アミノ酸を豊富に含むので、ACE阻害作用、血圧降下作用、脳卒中予防作用だけでなく、抗不安作用、精神安定作用、鎮痛作用、筋肉疲労の回復作用、栄養補填効果、呈味効果などを有する。

【0026】
本発明の発酵乳は、きのこにより発酵された乳そのままであってもよく、きのこにより発酵された乳を濃縮、希釈、乾燥などの処理・加工に付したものであってもよい。これらの処理・加工は当業者に公知であり、公知の方法により行うことができる。したがって、本発明の発酵乳の形態はいずれの形態であってもよく、特に限定されない。本発明の発酵乳の形態は液体であってもよく、あるいは粉末、顆粒、フレーク、ブロックなどの固体、ゲル、ペースト、クリームなどの半固体であってもよい。

【0027】
本発明は、さらなる態様において、きのこを用いて乳を発酵させて得られる発酵乳を食品または食品素材、あるいは担体または賦形剤に含有させることを特徴とする、ACE阻害活性、血圧降下活性、および/または脳卒中予防活性を有する飲食物の製造方法に関する。

【0028】
本発明は、さらにもう1つの態様において、きのこを用いて乳を発酵させて得られる発酵乳を含む、ACE阻害活性、血圧降下活性、および/または脳卒中予防活性を有する飲食物に関する。

【0029】
本発明の飲食物は、ACE阻害作用、血圧降下作用、および/または脳卒中予防作用だけでなく、抗不安作用、精神安定作用、鎮痛作用、筋肉疲労の回復作用、栄養補填効果、呈味効果などを有する。

【0030】
きのこを用いて乳を発酵させて得られる発酵乳を含有させる食品は、いかなる種類の食品であってもよく、特に限定されない。きのこを用いて乳を発酵させて得られる発酵乳を含有させる食品素材についても、いかなる種類の食品素材であってもよく、特に限定されない。食品素材は、食品を製造するために処理・加工される素材であり、食品の原料も含まれる。

【0031】
本発明の飲食物は液体であってもよく、乾燥品のごとき固体であってもよく、ペーストなどの半固体であってもよい。本発明の飲食物を固体、液体または半固体にする方法は公知である。本発明の発酵乳をそのまま飲食物として提供してもよく、あるいは本発明の発酵乳を飲料、菓子、あるいはクリーム、チーズなどの乳製品などに含ませた飲食物を製造してもよい。本発明の発酵乳を乳製品以外の飲食物に含ませた飲食物を製造してもよい。

【0032】
本発明の発酵乳や飲食物はサプリメントであってもよい。サプリメントの調製方法は公知であり、製薬分野で公知の担体や賦形剤を用いて調製してもよい。サプリメントはドリンク剤、濃縮液のごとき液剤、錠剤、粉末や顆粒あるいはドロップのごとき固形剤、クリーム、ペースト、ゲルのごとき半固形剤、あるいはカプセル剤などとして調製することができる。きのこを用いて得られる、高いACE害活性、血圧降下活性、および/または脳卒中予防活性を有する発酵乳はこれまで知られていないので、それを含む飲食物は新規なものである。本発明の発酵乳をクロマトグラフィー法などの公知の方法により精製し、ACE阻害活性の高い1またはそれ以上の画分を得て、該画分を含む飲食物を得てもよい。かかる飲食物もまた新規である。

【0033】
本発明は、さらなる態様において、きのこを用いて乳を発酵させて得られる発酵乳を担体または賦形剤に含有させることを特徴とする、アンジオテンシン変換酵素阻害用、医薬組成物の製造方法に関する。担体や賦形剤は製薬分野で公知のものを用いることができる。本発明の医薬組成物は、混合、粉砕、充填、打錠などの公知のプロセスにより製造することができる。着色料、香料、甘味料などの公知の添加物を本発明の医薬組成物に用いてもよい。

【0034】
本発明は、さらにもう1つの態様において、きのこを用いて乳を発酵させて得られる発酵乳を含む、アンジオテンシン変換酵素阻害用、血圧降下用、および/または脳卒中予防用の医薬組成物に関する。

【0035】
本発明の医薬組成物は、ACE阻害、血圧降下、脳卒中予防だけでなく、抗不安、精神安定、鎮痛、筋肉疲労の回復、栄養補填などにも用いることができる。

【0036】
本発明の医薬組成物の剤形は特に限定されるいずれの剤形であってもよい。錠剤、ドロップ、顆粒、粉末などの固形であってもよく、シロップなどの液体であってもよく、クリーム、ペーストのような半固体であってもよく、あるいはカプセル剤としてもよい。各種剤形の製法は公知であり、本発明の医薬組成物にも適用することができる。本発明の発酵乳をクロマトグラフィー法などの公知の方法により精製し、ACE阻害活性、血圧降下活性、および/または脳卒中予防活性の高い1またはそれ以上の画分を用いて、ACE阻害用、血圧降下用、および/または脳卒中予防用の医薬組成物を製造してもよい。

【0037】
本発明は、別の態様において、きのこを用いて乳を発酵させることを特徴とする、Tyr-Proの製造方法に関する。

【0038】
上で説明したように、Tyr-ProはACE阻害活性を有しているので、血圧降下作用がある。Tyr-Proは抗不安作用を有すること、鎮痛活性にも重要であることも知られている。

【0039】
本発明のTyr-Proの製造方法に用いる乳については上で説明したとおりである。

【0040】
本発明のTyr-Proの製造方法に用いられるきのこについても、上で説明したとおりであるが、加えて、後の操作によってTyr-Proと毒性物質が分離できる場合には毒性が認められるきのこであっても使用可能である。本発明のTyr-Proの製造方法に好ましく用いられるきのこはキカイガラタケ科のきのこ、サルノコシカケ科のきのこまたはコウヤクタケ科のきのこなどである。これらのきのこについては上で説明したとおりである。本発明のTyr-Proの製造方法において、より好ましく用いられるきのこはNeolentinus属、Trametes属またはPeniophora属のきのこが挙げられるが、これらに限定されない。

【0041】
本発明のTyr-Proの製造方法における乳の発酵条件も当業者が適宜定めうる。当業者であれば、きのこの種類、乳の種類や濃度、発酵温度、発酵時間、発酵pH、通気撹拌条件、培養容器などの諸条件を選定して、Tyr-Proの生産量の増加をはかることができる。

【0042】
発酵乳中のTyr-ProをHPLC等の公知の手段により定量することができる。発酵乳中に生じたTyr-Proを、遠心分離、膜分離などの方法による固液分離、ならびにイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、疎水クロマトグラフィーなどの公知の分離、精製方法によって精製し、目的に応じた純度とすることができる。

【0043】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0044】
実施例1.きのこを用いるACE阻害活性(ACE阻害活性)を有する発酵乳の製造
(1)マツオウジ(Neolentinus lepideus)の前培養
MYG培地(麦芽エキス1.0%、酵母エキス0.4%、グルコース0.4%、寒天1.5%)で生育させた菌糸を5mmのサイズで切り出し、前培養用のMYG液体培地(麦芽エキス1.0%、酵母エキス0.4%、グルコース0.4%)50mlに接種し、28℃で7~9日間培養した。その後、生育した培養菌糸体を無菌条件下でろ過により分離し、発酵乳の製造に用いた。実験に用いたマツオウジは、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて、郵便番号292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室の、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、2016年6月8日付けで受領番号NITE AP-02283を付与された。このマツオウジは、同センターにおいて国際寄託に移管され、2017年6月9日付けで受託番号NITE BP-02283を付与された。このマツオウジを以下の実験で使用した。
【実施例1】
【0045】
(2)マツオウジによる発酵乳の製造とACE阻害活性
前培養で得られた菌糸体を、オートクレーブ済みの牛乳培地に植菌し、28℃、微好気条件下で培養し、培養物の一部を経日的にサンプリングし、遠心分離(4℃、15000rpm、10分)して上清をフィルター濾過したサンプルについて、ACE Kit-WST(同仁化学研究所)を用いて行った。結果を図1に示す。ACE阻害活性は経日的に増加し、発酵4日目にACE活性を約70%以上阻害し、発酵6日目以降にACE活性を約80%阻害するに至った。
【実施例1】
【0046】
(3)マツオウジを用いて得られた発酵乳と市販特定保健用食品のACE阻害活性の比較
上記と同様にしてマツオウジを用いて6日間発酵して得られた発酵乳と、市販特定保健用食品(牛乳に乳酸菌を作用させて製造される血圧が高めの人に適していると言われる乳性飲料)のACE阻害活性を比較した。本発明の発酵乳と市販特定保健用食品(ラクトトリペプチドVPPおよびIPPを含有)をそれぞれ100倍希釈、500倍希釈したサンプルを調製し、ACE阻害活性を調べた結果を図2に示す。本発明の発酵乳を100倍希釈したものは、市販特定保健用食品を100倍希釈したものに比べて2倍近くのACE阻害活性を有していた。本発明の発酵乳を500倍希釈したものは、市販特定保健用食品を500倍希釈したものに比べて2倍以上のACE阻害活性を有していた。本発明の発酵乳は1000倍希釈してもACE活性を示したが、市販特定保健用食品は1000倍希釈するとACE活性をほとんど消失した。これらの結果から、本発明の発酵乳は、市販特定保健用食品よりも高いACE阻害活性を有することがわかった。
【実施例1】
【0047】
(4)カワタケ(Peniophora sp.)による発酵乳の製造とACE阻害活性
上記(2)と同様にして、カワタケを用いて発酵乳を製造し、ACE阻害活性を調べた。結果を図3に示す。ACE阻害活性は経日的に増加し、発酵4日目にACE活性を約70%以上阻害し、発酵6日目以降にACE活性を約80%阻害するに至った。実験に用いたカワタケは、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて、郵便番号292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室の、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、2016年6月8日付けで受領番号NITE AP-02284を付与された。このカワタケは、同センターにおいて国際寄託に移管され、2017年6月9日付けで受託番号NITE BP-02284を付与された。このカワタケを以下の実験で使用した。
【実施例1】
【0048】
(5)カワタケを用いて得られた発酵乳と市販特定保健用食品のACE阻害活性の比較
上記(3)と同様にして、カワタケを用いて6日間発酵して得られた発酵乳と、市販特定保健用食品(牛乳に乳酸菌を作用させて製造される血圧が高めの人に適していると言われる乳性飲料)のACE阻害活性を比較した。結果を図4に示す。本発明の発酵乳を100倍希釈したものは、市販特定保健用食品を100倍希釈したものに比べて2倍近くのACE阻害活性を有していた。本発明の発酵乳を500倍希釈したものは、市販特定保健用食品を500倍希釈したものに比べて2倍以上のACE阻害活性を有していた。本発明の発酵乳は1000倍希釈してもACE活性を示したが、市販特定保健用食品は1000倍希釈するとACE活性をほとんど消失した。これらの結果から、本発明の発酵乳は、市販特定保健用食品よりも高いACE阻害活性を有することがわかった。
【実施例1】
【0049】
(6)マツオウジを用いて得られた発酵乳の脳卒中易発症自然発症高血圧ラット(SHRSPラット)に対する血圧降下作用
10週令もしくは8週令の雄性SHRSP10匹を2群に分け、対照群には蒸留水を、実験群には3倍希釈した発酵乳を自由摂取させた。1週間毎にtail-cuff法にて血圧を測定するとともに、飲水量、摂餌量、体重の測定を実施した。
【実施例1】
【0050】
結果を図5に示す。飲用開始2週目あたりから、発酵乳区分と対照区分との間に有意な収縮期血圧差が認められた(p=0.027)。この結果から、マツオウジを用いて得られた発酵乳のSHRSPラットに対する血圧降下作用が確認された。
【実施例1】
【0051】
(7)マツオウジを用いて得られた発酵乳の脳卒中易発症自然発症高血圧ラット(SHRSPラット)に対する脳卒中予防作用
12週令の雄性SHRSP12匹を2群に分け、対照群には1%食塩水を、実験群には1%食塩水に3倍希釈の発酵乳を加えたものを自由摂取させ、脳卒中発症までの日数を測定した。脳卒中発症は、麻痺や痙攣、無動、体重の急速な減少などで判断し、MRIにて脳梗塞、脳出血があることを確認した。
【実施例1】
【0052】
結果を図6に示す。発酵乳区分では6匹中1匹のみが脳卒中を発症して死亡したが、対照区分では6匹中5匹が脳卒中を発症して死亡し、log rank testにて有意な差がみられた(p=0.01)。この結果から、マツオウジを用いて得られた発酵乳のSHRSPラットに対する脳卒中予防効果が確認された。
【実施例2】
【0053】
実施例2.きのこを用いて乳を発酵させることによるTyr-Pro(YP)の製造
(1)発酵乳中のYPの同定
実施例1(1)と同様に前培養したマツオウジ菌糸体を、9%(w/w)脱脂粉乳液に植菌し、微好気条件下にて28℃で培養し、培養物の一部を経日的にサンプリングし、遠心分離(15000rpm、10分)して上清を0.22μmのフィルター(ミリポア社製、Millex-GP)で濾過してサンプルを得た。サンプルをCadenza CD-c18カラム(カラムサイズ4.6mm X 150mm,Imtakt社製)を用いる逆相HPLC(島津製作所のモデルProminence)にて分画した。溶出は、流速0.6 ml/min、カラム温度28℃にて、溶液A(0.1%トリフルオロ酢酸-H2O)をまず5分間流し、そこから100分後に20%の溶液B(0.1%トリフルオロ酢酸-アセトニトリル)になる直線濃度勾配に設定して行った。ペプチドの検出は、紫外光の215nmで行った。
【実施例2】
【0054】
発酵の経過に伴い増加傾向が認められた保持時間52分のピーク画分を分取し、再度上記条件で逆相HPLCを行い、このピーク画分について同仁化学社製造キットACE Kit-WSTを用いてACE阻害活性を調べたところ、この画分のACE阻害率は40~55%であり、他の画分よりも高かった。
【実施例2】
【0055】
上記ピーク画分について、タンパク質一次構造分析装置(PPSQ-31A、島津製作所)を用いてペプチドシークエンスを行って、Tyr-Proであるという結果を得た。さらに、上記ピーク画分について、質量分析計(ExactiveTMPlus Orbitrap、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用い、ポジティブイオンモードにてエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)を行った。結果を図7に示す。Tyr-Pro(YP)の分子量278.31に対応するシグナルm/z 279.1339[M+H]が検出され、当該ピークがジペプチドYPであることが明らかになった。
【実施例2】
【0056】
(2)YP生産菌のスクリーニング
野生きのこ23菌株を用いて、実施例1(1)と同様に前培養した菌糸体を用いて、9%(w/w)脱脂粉乳液にて微好気条件下、28℃で6日間培養して、発酵乳中のYP生成量を逆相HPLCにて測定した。発酵乳中のYPは、ベックス社(BEX CO., LTD.)による化学合成品を標品として作成した検量線に基づいて行った。結果を図8に示す。試験した4株のマツオウジ(Neolentinus lepideus 1-4)はいずれもYPを産生し、Neolentinus lepideus 1-3は多くのYPを産生した。Neolentinus lepideus 4も比較的多くのYPを産生した。試験した5株のカワラタケ(Trametes versicolor 1-4およびTrametes hirsuta)はいずれもYPを産生し、Trametes versicolor 1-4が比較的多くのYPを産生した。試験した5株のコウヤクタケ(Peniophora sp.、Peniophora cinerea 1-2およびPeniophora incarnata 1-2)はいずれもYPを産生し、Peniophora sp.が多くのYPを産生した。
【実施例2】
【0057】
(3)マツオウジによるYP生産量の経時変化
実施例1と同様にマツオウジを用いて9%(w/w)脱脂粉乳液で発酵を行い、経時的にサンプリングを行って、HPLCを用いてYP生成量を測定した。結果を図9に示す。YP生成量は経時的に増加し、4日目以降は200μg/ml以上となり、21日目で450μg/mlに達した。YPのACEに対するIC50値は720μMと報告されており、この値は200μg/mlに相当する。特許文献1によると、乳酸菌(Lactobacillus helveticus)のYP生成量は最大で約70μg/mlであった。
【実施例2】
【0058】
(4)カワタケによるYP生産量の経時変化
菌株をカワタケに変えて上記(3)と同様に発酵を行い、HPLCを用いてYP生成量を測定した。結果を図10に示す。YP生成量は経時的に増加し、4日目に約200μg/mlとなり、21日目で350μg/ml以上に達した。
【実施例2】
【0059】
菌株としてカワタケを用い、上記実験とは異なり、前培養を行わずに菌糸体を直接牛乳またはスキムミルク(9%)に添加して培養を行った。牛乳では培養16日目に最大590μg/mlのYPが得られ(図11左パネル)、スキムミルクでは培養14日目に最大430μg/mlのYPが得られた(図11右パネル)。
【実施例2】
【0060】
以上の結果から、きのこを用いて乳を発酵させるとYPが大量に得られることがわかった。YPは、ACE阻害作用、血圧降下作用、抗不安作用、鎮痛作用等の作用効果を有することが知られている。したがって、YPを多く含む本発明の発酵乳はこのような作用を有するものである。
【実施例3】
【0061】
実施例3:きのこ発酵乳中のアミノ酸分析
(1)マツオウジ発酵乳中のアミノ酸分析
マツオウジを用いて9%(w/w)脱脂粉乳液で30℃、8日間静置培養を行い、全自動アミノ酸分析機(JLC-500/V2、日本電子)を用い、生体遊離アミノ酸分析110分(高分離)モードにてアミノ酸生成量を測定した。結果を図12に示す。各アミノ酸は経時的に増加し、特にロイシン、グルタミン酸の増加が顕著であった。また、チロシン、フェニルアラニン、バリン、イソロイシンの生成量も多かった。
【実施例3】
【0062】
(2)カワタケ発酵乳中のアミノ酸分析
上記(1)と同様にして、カワタケ発酵乳中のアミノ酸生成量を測定した。結果を図13に示す。グルタミン生成量が比較的多い以外はマツオウジ発酵乳と同様の結果であった。
【実施例3】
【0063】
グルタミン酸は呈味効果、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンなどの芳香族アミノ酸は精神安定作用、抗不安作用、鎮痛作用、バリン、ロイシン、イソロイシンなどの分岐鎖アミノ酸は筋肉疲労の回復作用を有することが知られている。したがって、これらのアミノ酸を多く含む本発明の発酵乳はこのような作用を有するものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、食品や医薬品などの分野において利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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