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明細書 :ナノカプセルの集積方法および集積装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成31年4月4日(2019.4.4)
発明の名称または考案の名称 ナノカプセルの集積方法および集積装置
国際特許分類 A61F   7/12        (2006.01)
A61N   5/067       (2006.01)
FI A61F 7/12 Z
A61N 5/067
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 29
出願番号 特願2018-522489 (P2018-522489)
国際出願番号 PCT/JP2017/020883
国際公開番号 WO2017/213107
国際出願日 平成29年6月5日(2017.6.5)
国際公開日 平成29年12月14日(2017.12.14)
優先権出願番号 2016113754
優先日 平成28年6月7日(2016.6.7)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ
発明者または考案者 【氏名】飯田 琢也
【氏名】床波 志保
【氏名】児島 千恵
【氏名】西村 勇姿
出願人 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001195、【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C082
4C099
Fターム 4C082RA02
4C082RA03
4C082RE60
4C099AA01
4C099CA19
4C099EA09
4C099JA11
要約 ナノカプセルの集積方法は、複数のナノカプセル(10)が分散した水性の液体(W)に金ナノ粒子(1)の局在表面プラズモン共鳴の波長域外のレーザ光(L1)を照射することで、ELP2の温度上昇によりELP2を親水性から疎水性へ変化させて複数のナノカプセル(10)の一部を凝集させるステップ(C)と、凝集により形成されたナノカプセル凝集体(10A)をレーザ光(L1)の照射位置に捕捉するステップ(D)と、ナノカプセル凝集体(10A)に含まれる金ナノ粒子(10)によってレーザ光(L1)を熱に変換させてナノカプセル凝集体(10A)の周囲の液体を加熱するステップ(E)と、液体を加熱することで生じた対流によって複数のナノカプセル(10)を集積するステップ(G)とを含む。
特許請求の範囲 【請求項1】
複数のナノカプセルを集積する、ナノカプセルの集積方法であって、
前記複数のナノカプセルの各々は、
1ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲を示すシングルナノメートルのオーダーのサイズを有する金属ナノ粒子と、
前記金属ナノ粒子を内包するポリマー殻と、
前記ポリマー殻の表面に修飾され、温度上昇により親水性から疎水性へと変化する有機分子とを含み、
前記集積方法は、
前記複数のナノカプセルが分散した水性の液体に前記金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外の非共鳴光を照射することで、前記有機分子の温度上昇により前記有機分子を親水性から疎水性へ変化させて前記複数のナノカプセルの一部を凝集させるステップと、
凝集により形成されたナノカプセル凝集体を前記非共鳴光の照射位置に捕捉するステップと、
前記ナノカプセル凝集体に含まれる前記金属ナノ粒子によって前記非共鳴光を熱に変換させて前記ナノカプセル凝集体の周囲の液体を加熱するステップと、
前記液体を加熱することで生じた対流によって前記複数のナノカプセルを集積するステップとを含む、ナノカプセルの集積方法。
【請求項2】
複数のナノカプセルを集積する、ナノカプセルの集積方法であって、
前記複数のナノカプセルの各々は、
1ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲を示すシングルナノメートルのオーダーのサイズを有する金属ナノ粒子と、
前記金属ナノ粒子を内包するポリマー殻と、
前記ポリマー殻の表面に修飾され、温度上昇により疎水性から親水性へと変化する有機分子とを含み、
前記集積方法は、
前記複数のナノカプセルが分散した有機溶媒である液体に前記金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外の非共鳴光を照射することで、前記有機分子の温度上昇により前記有機分子を疎水性から親水性へ変化させて前記複数のナノカプセルの一部を凝集させるステップと、
凝集により形成されたナノカプセル凝集体を前記非共鳴光の照射位置に捕捉するステップと、
前記ナノカプセル凝集体に含まれる前記金属ナノ粒子によって前記非共鳴光を熱に変換させて前記ナノカプセル凝集体の周囲の液体を加熱するステップと、
前記液体を加熱することで生じた対流によって前記複数のナノカプセルを集積するステップとを含む、ナノカプセルの集積方法。
【請求項3】
前記集積するステップは、前記液体を加熱することで気泡を発生させ、前記気泡に向かう前記対流を生じさせることによって前記複数のナノカプセルを集積する、請求項1または2に記載のナノカプセルの集積方法。
【請求項4】
前記非共鳴光は、赤外の波長域に含まれる波長を有するレーザ光である、請求項1~3のいずれか1項に記載のナノカプセルの集積方法。
【請求項5】
前記有機分子は、温度上昇に伴い親水性から疎水性へと変化するポリマーを示す温度応答性ポリマーである、請求項1~4のいずれか1項に記載のナノカプセルの集積方法。
【請求項6】
前記ポリマー殻は、デンドリマーであり、
前記温度応答性ポリマーは、(XPGXG)で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、
はバリンまたはイソロイシンを示し、Xはプロリンを除くアミノ酸を示し、Pはプロリンを示し、Gはグリシンを示し、nは1以上の自然数を示す、請求項5に記載のナノカプセルの集積方法。
【請求項7】
複数のナノカプセルを集積する、ナノカプセルの集積装置であって、
前記複数のナノカプセルの各々は、
1ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲を示すシングルナノメートルのオーダーのサイズを有する金属ナノ粒子と、
前記金属ナノ粒子を内包するポリマー殻と、
前記ポリマー殻の表面に修飾され、温度上昇により親水性から疎水性へと変化する有機分子とを含み、
前記集積装置は、
前記複数のナノカプセルが分散した水性の液体を保持可能に構成された保持部材と、
前記金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外の非共鳴光を発する光源とを備え、
前記光源は、
前記液体に前記非共鳴光を照射することで、前記有機分子の温度上昇により前記有機分子を親水性から疎水性へと変化させて前記複数のナノカプセルの一部を凝集させ、
凝集により形成されたナノカプセル凝集体を前記非共鳴光の照射位置に捕捉し、
前記ナノカプセル凝集体に含まれる前記金属ナノ粒子によって前記非共鳴光を熱に変換させて前記ナノカプセル凝集体の周囲の液体を加熱し、
前記液体を加熱することで生じた対流によって前記複数のナノカプセルを集積する、ナノカプセルの集積装置。
【請求項8】
複数のナノカプセルを集積する、ナノカプセルの集積装置であって、
前記複数のナノカプセルの各々は、
1ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲を示すシングルナノメートルのオーダーのサイズを有する金属ナノ粒子と、
前記金属ナノ粒子を内包するポリマー殻と、
前記ポリマー殻の表面に修飾され、温度上昇により疎水性から親水性へと変化する有機分子とを含み、
前記集積装置は、
前記複数のナノカプセルが分散した有機溶媒である液体を保持可能に構成された保持部材と、
前記金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外の非共鳴光を発する光源とを備え、
前記光源は、
前記液体に前記非共鳴光を照射することで、前記有機分子の温度上昇により前記有機分子を疎水性から親水性へと変化させて前記複数のナノカプセルの一部を凝集させ、
凝集により形成されたナノカプセル凝集体を前記非共鳴光の照射位置に捕捉し、
前記ナノカプセル凝集体に含まれる前記金属ナノ粒子によって前記非共鳴光を熱に変換させて前記ナノカプセル凝集体の周囲の液体を加熱し、
前記液体を加熱することで生じた対流によって前記複数のナノカプセルを集積する、ナノカプセルの集積装置。
【請求項9】
前記光源は、前記金属ナノ粒子によって前記非共鳴光を熱に変換することにより前記保持部材に付着した気泡を発生させ、前記気泡に向かう対流を生じさせることによって前記複数のナノカプセルを集積する、請求項7または8に記載のナノカプセルの集積装置。
【請求項10】
前記非共鳴光は、赤外の波長域に含まれる波長を有するレーザ光である、請求項7~9のいずれか1項に記載のナノカプセルの集積装置。
【請求項11】
前記有機分子は、温度上昇に伴い親水性から疎水性へと変化するポリマーを示す温度応答性ポリマーである、請求項7~10のいずれか1項に記載のナノカプセルの集積装置。
【請求項12】
前記ポリマー殻は、デンドリマーであり、
前記温度応答性ポリマーは、(XPGXG)で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、
はバリンまたはイソロイシンを示し、Xはプロリンを除くアミノ酸を示し、Pはプロリンを示し、Gはグリシンを示し、nは1以上の自然数を示す、請求項11に記載のナノカプセルの集積装置。
【請求項13】
前記光源は、前記複数のナノカプセルの各々の近傍に細胞が存在する場合に、前記非共鳴光の照射により生じた前記ナノカプセル凝集体に含まれる前記金属ナノ粒子の発熱によって、前記細胞を死滅させるように構成されている、請求項7~12のいずれか1項に記載のナノカプセルの集積装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本開示は、ナノカプセルの集積方法および集積装置に関し、より特定的には、金属ナノ粒子を内包したナノカプセルの集積方法および集積装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬物を特定箇所に送達するための薬物送達システム(DDS:Drug Delivery System)が注目されている。薬物送達システムにおいては、薬物を内包した高分子が担体(キャリア)として用いられる。このような担体は一般にナノメートルのオーダーのサイズを有するため、「ナノカプセル」とも称される。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】国際公開WO2014/92937号
【特許文献2】国際公開WO2015/170758号
【特許文献3】特開2012-232961号公報
【0004】

【非特許文献1】D. Fukushima, U. H. Sk, Y. Sakamoto, I. Nakase, C. Kojima, “Dual stimuli-sensitive dendrimers: Photothermogenic gold nanoparticle-loaded thermo-responsive elastin-mimetic dendrimers”, Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 132, 155-160 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属ナノ粒子が分散した液体中に光を照射することによって、ナノメートルのオーダー~マイクロメートルのオーダー程度のサイズを有する微小物体を集積する技術が提案されている(たとえば本発明者らによる国際公開WO2014/92937号(特許文献1)および国際公開WO2015/170758号(特許文献2)参照)。
【0006】
金属ナノ粒子が分散した液体中に光を照射すると、光誘起力が作用することにより光照射位置近傍の金属ナノ粒子が光照射位置に捕捉される。捕捉された金属ナノ粒子は、局在表面プラズモン共鳴により光を熱へと変換する効果(以下「光発熱効果」とも称する)によって周囲の液体を加熱する。それにより生じた温度勾配によって、光照射位置へと向かう対流が発生する。この対流に乗って微小物体が光照射位置へと運ばれて集積される。
【0007】
このように、金属ナノ粒子の光発熱効果により発生した対流を用いることによって微小物体を集積することができる。この金属ナノ粒子の光発熱効果は、金属ナノ粒子がナノカプセルに内包された状態でも起こり得る。そこで、金属ナノ粒子が内包されたナノカプセルへの光照射によりナノカプセルを集積することが考えられる。
【0008】
金属ナノ粒子に作用する光誘起力の強さは、金属ナノ粒子のサイズ(体積)に依存する(詳細は後述)。金属ナノ粒子は、その粒子径が小さいほど光誘起力により捕捉されにくくなる。光照射により捕捉可能な金属ナノ粒子の粒子径は、典型的な光強度(たとえば数100mW程度)では数十nm以上とされる。
【0009】
その一方で、ナノカプセルのサイズによっては、より微小な金属ナノ粒子、すなわち1nmから10nmまでの範囲を示す「シングルナノメートルのオーダー」のサイズを有する金属ナノ粒子を用いることが望ましい場合がある。しかし、シングルナノメートルのオーダーの金属ナノ粒子の捕捉は難しい。光誘起力により金属ナノ粒子を捕捉できないと、対流も発生せず、ナノカプセルを集積することができない。よって、シングルナノメートルのオーダーの金属ナノ粒子を用いるための技術が要望される。
【0010】
また、液体中(たとえば水中)における金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長は一般に可視光の波長域に含まれるところ、ナノカプセルの応用分野(たとえば上述の薬物送達システム)によっては、局在表面プラズモン共鳴の波長域外の非共鳴光(たとえば赤外光)を使用可能であることが望ましい場合がある。しかしながら、非共鳴光を用いる場合には、共鳴光を用いる場合と比べて、金属ナノ粒子の捕捉が一層難しくなり得る。
【0011】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、シングルナノメートルのオーダーの金属ナノ粒子を内包したナノカプセルを、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外の波長を有する非共鳴光を用いて集積可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のある局面に従うナノカプセルの集積方法は、複数のナノカプセルを集積する。複数のナノカプセルの各々は、1ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲を示すシングルナノメートルのオーダーのサイズを有する金属ナノ粒子と、金属ナノ粒子を内包するポリマー殻と、ポリマー殻の表面に修飾され、温度上昇により親水性から疎水性へと変化する有機分子とを含む。上記集積方法は、複数のナノカプセルが分散した水性の液体に金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外の非共鳴光を照射することで、有機分子の温度上昇により有機分子を親水性から疎水性へ変化させて複数のナノカプセルの一部を凝集させるステップと、凝集により形成されたナノカプセル凝集体を非共鳴光の照射位置に捕捉するステップと、ナノカプセル凝集体に含まれる金属ナノ粒子によって非共鳴光を熱に変換させてナノカプセル凝集体の周囲の液体を加熱するステップと、上記液体を加熱することで生じた対流によって複数のナノカプセルを集積するステップとを含む。
【0013】
本開示の他の局面に従うナノカプセルの集積方法は、複数のナノカプセルを集積する。複数のナノカプセルの各々は、1ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲を示すシングルナノメートルのオーダーのサイズを有する金属ナノ粒子と、金属ナノ粒子を内包するポリマー殻と、ポリマー殻の表面に修飾され、温度上昇により疎水性から親水性へと変化する有機分子とを含む。上記集積方法は、複数のナノカプセルが分散した有機溶媒である液体に金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外の非共鳴光を照射することで、有機分子の温度上昇により有機分子を疎水性から親水性へ変化させて複数のナノカプセルの一部を凝集させるステップと、凝集により形成されたナノカプセル凝集体を非共鳴光の照射位置に捕捉するステップと、ナノカプセル凝集体に含まれる金属ナノ粒子によって非共鳴光を熱に変換させてナノカプセル凝集体の周囲の液体を加熱するステップと、上記液体を加熱することで生じた対流によって複数のナノカプセルを集積するステップとを含む。
【0014】
好ましくは、上記集積するステップは、液体を加熱することで気泡を発生させ、気泡に向かう対流を生じさせることによって複数のナノカプセルを集積する。
【0015】
好ましくは、非共鳴光は、赤外の波長域に含まれる波長を有するレーザ光である。
好ましくは、有機分子は、温度上昇に伴い親水性から疎水性へと変化するポリマーを示す温度応答性ポリマーである。
【0016】
より好ましくは、ポリマー殻は、デンドリマーである。温度応答性ポリマーは、(XPGXG)で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである。Xはバリンまたはイソロイシンを示し、Xはプロリンを除くアミノ酸を示し、Pはプロリンを示し、Gはグリシンを示し、nは1以上の自然数を示す。
【0017】
本開示のさらに他の局面に従うナノカプセルの集積装置は、複数のナノカプセルを集積する。複数のナノカプセルの各々は、1ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲を示すシングルナノメートルのオーダーのサイズを有する金属ナノ粒子と、金属ナノ粒子を内包するポリマー殻と、ポリマー殻の表面に修飾され、温度上昇により親水性から疎水性へと変化する有機分子とを含む。集積装置は、複数のナノカプセルが分散した水性の液体を保持可能に構成された保持部材と、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外の非共鳴光を発する光源とを備える。光源は、上記液体に非共鳴光を照射することで、有機分子の温度上昇により有機分子を親水性から疎水性へと変化させて複数のナノカプセルの一部を凝集させ、凝集により形成されたナノカプセル凝集体を非共鳴光の照射位置に捕捉し、ナノカプセル凝集体に含まれる金属ナノ粒子によって非共鳴光を熱に変換させてナノカプセル凝集体の周囲の液体を加熱し、上記液体を加熱することで生じた対流によって複数のナノカプセルを集積する。
【0018】
本開示のさらに他の局面に従うナノカプセルの集積装置は、複数のナノカプセルを集積する。複数のナノカプセルの各々は、1ナノメートルから10ナノメートルまでの範囲を示すシングルナノメートルのオーダーのサイズを有する金属ナノ粒子と、金属ナノ粒子を内包するポリマー殻と、ポリマー殻の表面に修飾され、温度上昇により疎水性から親水性へと変化する有機分子とを含む。集積装置は、複数のナノカプセルが分散した有機溶媒である液体を保持可能に構成された保持部材と、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外の非共鳴光を発する光源とを備える。光源は、上記液体に非共鳴光を照射することで、有機分子の温度上昇により有機分子を疎水性から親水性へと変化させて複数のナノカプセルの一部を凝集させ、凝集により形成されたナノカプセル凝集体を非共鳴光の照射位置に捕捉し、ナノカプセル凝集体に含まれる金属ナノ粒子によって非共鳴光を熱に変換させてナノカプセル凝集体の周囲の液体を加熱し、上記液体を加熱することで生じた対流によって複数のナノカプセルを集積する。
【0019】
好ましくは、光源は、金属ナノ粒子によって非共鳴光を熱に変換することにより保持部材に付着した気泡を発生させ、気泡に向かう対流を生じさせることによって複数のナノカプセルを集積する。
【0020】
好ましくは、非共鳴光は、赤外の波長域に含まれる波長を有するレーザ光である。
好ましくは、有機分子は、温度上昇に伴い親水性から疎水性へと変化するポリマーを示す温度応答性ポリマーである。
【0021】
より好ましくは、ポリマー殻は、デンドリマーである。温度応答性ポリマーは、(XPGXG)で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである。Xはバリンまたはイソロイシンを示し、Xはプロリンを除くアミノ酸を示し、Pはプロリンを示し、Gはグリシンを示し、nは1以上の自然数を示す。
【0022】
好ましくは、光源は、複数のナノカプセルの各々の近傍に細胞が存在する場合に、非共鳴光の照射により生じたナノカプセル凝集体に含まれる金属ナノ粒子の発熱によって、上記細胞を死滅させるように構成されている。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、シングルナノメートルのオーダーの金属ナノ粒子を内包したナノカプセルを、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外の波長を有する非共鳴光を用いて集積することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】金属ナノ粒子が捕捉されるメカニズムを説明するための図である。
【図2】本実施の形態に係るナノカプセルを説明するための図である。
【図3】本実施の形態に係るナノカプセルおよび比較例に係るナノカプセルを説明するための図である。
【図4】ナノカプセルのサイズの温度依存性の一例を示す図である。
【図5】本実施の形態に係るナノカプセルの集積装置の構成を概略的に示す図である。
【図6】基板の周囲の構成をより詳細に示す図である。
【図7】本実施の形態に係るナノカプセルの集積方法を示すフローチャートである。
【図8】光熱変換の原理を説明するための図である。
【図9】本実施の形態におけるナノカプセルの集積メカニズムの各段階を説明するための図である。
【図10】対流発生時のレーザスポット近傍の様子を説明するための図である。
【図11】第1~第7のサンプルにおけるナノカプセルの集積条件を説明するための図である。
【図12】第1のサンプルへの光照射結果を示す連続画像である。
【図13】第2のサンプルへの光照射結果を示す連続画像である。
【図14】第3のサンプルへの光照射結果を示す連続画像である。
【図15】第4のサンプルへの光照射結果を示す連続画像である。
【図16】第5のサンプルへの光照射結果を示す連続画像である。
【図17】第6のサンプルへの光照射結果を示す連続画像である。
【図18】第7のサンプルへの光照射結果を示す連続画像である。
【図19】図示しない分光器を用いて第6のサンプルにおけるレーザスポット近傍の消衰スペクトルを測定した結果の一例を説明するための図である。
【図20】生体組織への影響を確認するための測定に用いた集積装置の構成を示す図である。
【図21】第6のサンプルにおける光照射前後の分光結果を説明するための図である。
【図22】第6のサンプルにおける光照射前後の分光結果を説明するための他の図である。
【図23】第8のサンプルにおける光照射前後の分光結果を説明するための図である。
【図24】第6のサンプルにおける生死判定結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。

【0026】
本開示およびその実施の形態において、「シングルナノメートルのオーダー」とは、1nmから10nmまでの範囲を意味する。「ナノメートルのオーダー」とは、1nmから1000nm(=1μm)までの範囲を意味する。「マイクロメートルのオーダー」とは、1μmから1000μm(=1mm)までの範囲を意味する。

【0027】
本開示およびその実施の形態において、「ナノカプセル」とは、ある物質(いわゆるホスト分子)の内部の空隙に、形状およびサイズが適合する他の物質(いわゆるゲスト分子)が包接された、ナノメートルのオーダーのサイズを有する構造体である。「ナノカプセル凝集体」とは、複数のナノカプセルが凝集することによって形成された塊である。「凝集」とは、媒質中に分散して存在する物質が密な集合状態をとる現象を意味する。「集積」とは、物質が所定領域に集められることによって当該所定領域内の物質の密度が他の領域内の物質の密度よりも高くなる現象を意味する。

【0028】
本開示およびその実施の形態において、「共鳴光」とは、金属ナノ粒子への入射によって金属ナノ粒子に大きな光誘起分極を生じさせる光を意味する。光誘起分極とは、たとえば金属ナノ粒子を対象とした場合には、その内部の電子が光によって励起されることにより生じる電気分極である。「金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域」とは、たとえば金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅に対応する波長域である。この波長域は、多くの場合、400nm~700nmの可視光の波長域に含まれる。一方、「非共鳴光」とは、金属ナノ粒子への入射によって金属ナノ粒子に生じる光誘起分極が小さな光を意味する。「金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外」とは、たとえば金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅の外の波長域である。この波長域は、典型的には赤外の波長域に含まれる。「赤外の波長域」とは、700nm~10,000μm(=1mm)の波長域を指し、好ましくは700nm~2,500nmの波長域を指し、より好ましくは700nm~1,400nmの波長域を指す。なお、「金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長域外」が紫外の波長域(たとえば10nm~400nmの波長域)に含まれる場合もある。

【0029】
本開示およびその実施の形態において、「生体適合性」とは、物質がその本来の機能を果たしつつ、長期間に亘って生体に悪影響も強い刺激も与えず、生体に異常を引き起こさせない当該物質の性質を意味する。

【0030】
[実施の形態]
本実施の形態では、金属ナノ粒子の一つの例示的形態として金ナノ粒子を採用する。ただし、金属ナノ粒子の種類は特に限定されず、たとえば銀ナノ粒子または銅ナノ粒子であってもよい。

【0031】
<金ナノ粒子の捕捉>
本実施の形態では以下に詳細に説明するように、媒質(たとえば液体)中に分散した複数の金ナノ粒子1が光誘起力によって捕捉される。

【0032】
図1は、金ナノ粒子1が捕捉されるメカニズムを説明するための図である。図1を参照して、複数の金ナノ粒子1が分散した媒質にレーザ光Lを照射すると、光誘起力により複数の金ナノ粒子1がレーザ光Lのビームウエスト近傍に捕捉される。「光誘起力」とは、散逸力、勾配力および物質間光誘起力の総称として用いられる。「散逸力」とは、光散乱または光吸収といった散逸的過程において、光の運動量が金ナノ粒子1に与えられることによって発生する力である。「勾配力」は、光誘起分極が生じた金ナノ粒子1が不均一な電磁場の中に置かれた場合に、電磁気学的なポテンシャルの安定点(ビームウエスト)に金ナノ粒子1を移動させる力である。「物質間光誘起力」とは、光励起された複数の金ナノ粒子1中の誘起分極から生じる縦電場による力と横電場による力との和である。光誘起力Fは、下記式(1)によって表される(詳細は、たとえばT. Iida and H. Ishihara, Phys. Rev. B77, 245319 (2008)参照)。

【0033】
【数1】
JP2017213107A1_000003t.gif

【0034】
式(1)は、散逸力、勾配力および物質間光誘起力を含む光誘起力の一般的表式である。式(1)におけるVは、すべての金ナノ粒子1の体積の総和を表す。たとえば金ナノ粒子1が媒質中に1つだけ存在する場合には、上記式(1)は下記式(2)のように表される。

【0035】
【数2】
JP2017213107A1_000004t.gif

【0036】
式(2)において、vは、ある金ナノ粒子1の体積を表す。式(2)から分かるように、金ナノ粒子1の体積vが大きいほど光誘起力Fは強くなる。

【0037】
<ナノカプセル>
本実施の形態に係るナノカプセルには、3次元的に分枝した樹状構造または分岐状構造を有する樹状ポリマーの1種であるデンドリマーが用いられる。一般に、デンドリマーは、ホスト分子として機能してデンドリマー内部にゲスト分子を包接(すなわち内包)可能な性質を有するとともに、デンドリマーの表面に様々な有機分子を修飾可能な性質を有する。

【0038】
図2は、本実施の形態に係るナノカプセル10を説明するための図である。図2(A)に示すように、ナノカプセル10は、ゲスト分子としての金ナノ粒子1と、ホスト分子として金ナノ粒子1を内包するデンドリマー2と、デンドリマー2の表面に修飾された有機分子3とを含む。

【0039】
図2(B)にデンドリマー2の内部構造を模式的に示す。デンドリマー2の形状は球殻状である。デンドリマー2の直径D2は、たとえば数nmから数十nmまでの範囲内である。デンドリマー2は、コア2Aと、分岐部分2Bと、末端基2Cとを含む。コア2Aは、1以上の官能基を有する化合物から誘導されて形成される。

【0040】
分岐部分2Bは、3以上の原子価を有する原子(炭素、窒素、ケイ素、リンなど)を含む分岐構造の繰り返しからなる。図2(B)では、分岐構造の繰り返し数(「世代数」とも称する)が4のデンドリマーを示す。第0世代~第4世代をG0~G4でそれぞれ表す。分岐部分2Bに金ナノ粒子1が内包される。

【0041】
金ナノ粒子1の粒子径D1は、デンドリマー2の直径D2よりも小さく、シングルナノメートルのオーダーである。金ナノ粒子1の粒子径D1は、好ましくは1nm~5nmであり、より好ましくは1nm~3nmであり得る。なお、図2(A)ではデンドリマー2の内部に金ナノ粒子1が1つのみ内包される例を示すが、2以上の金ナノ粒子1が内包されてもよい。金属ナノ粒子をデンドリマーに内包させる手法は公知であり、たとえばY.Haba, C. Kojima, A. Harada, T. Ura, H. Horinaka, K. Kono, Langmuir 23 (2007) 5243に開示されている。

【0042】
末端基2Cは、デンドリマー2の表面に存在する部分構造(基)である。末端基2Cには所定の繰り返し構造を含む有機分子3が修飾される。より詳細には、本実施の形態ではポリペプチドが末端基2Cに修飾される。このポリペプチドは、(XPGXG)で表されるアミノ酸配列のペンタペプチドを含む。Xは、バリンまたはイソロイシンである。Xは、プロリンを除くアミノ酸である。Pはプロリンであり、Gはグリシンである。繰り返し数nは1以上の自然数である。

【0043】
なお、「プロリンを除くアミノ酸」とは、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リシン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンおよびチロシンを意味する(特開2012-232961号公報(特許文献3)参照)。

【0044】
上記ポリペプチドは、デンドリマー2のすべての末端基2Cに修飾されていてもよいし、一部の末端基2Cのみに修飾されていてもよい。また、上記ポリペプチドは、天然由来のものであってもよいし、公知の合成法により得られたものであってもよい。さらに、繰り返し数nが2以上の場合、上記アミノ酸配列におけるXおよびXは、繰り返し構造間で同一であってもよいし異なっていてもよい。

【0045】
<本実施の形態および比較例に係るナノカプセルの対比>
ナノカプセル10は、比較的低い温度で熱変性を起こして凝集体を形成する点に特徴を有する。この特徴について、比較例に係るナノカプセル90と対比しながら説明する。

【0046】
図3は、本実施の形態に係るナノカプセル10および比較例に係るナノカプセル90を説明するための図である。図3を参照して、まず、本実施の形態に係るナノカプセル10について説明する。

【0047】
各デンドリマー2に内包される金ナノ粒子1の数は、たとえば1である。金ナノ粒子1の粒子径D1は、たとえば1.5nmである。デンドリマー2の直径D2は、たとえば4.4nmである。なお、デンドリマー2の世代数は4であり、デンドリマー2の分子量は約14,000である。

【0048】
有機分子3としては、生体(たとえば靭帯、皮膚または動脈)に含まれるエラスチンを模倣したポリペプチドであるエラスチン様ペプチド(ELP:Elastin-Like-Peptides)が用いられる。より詳細には、(VPGVG)とのアミノ酸配列(Vはバリン)で表されるペンタペプチドを2つ含むポリペプチドが用いられる。つまり、上述のアミノ酸配列(XPGXG)においてXおよびXがいずれもバリンであり、繰り返し数nが2である。以下、このエラスチン様ペプチドを「ELP2」とも記載する。ELP2の長さ(有機分子長)L3は約3nmである。

【0049】
次に、比較例に係るナノカプセル90について説明する。各デンドリマー2に内包される金ナノ粒子1の数は、たとえば1である。金ナノ粒子1の粒子径D1は、たとえば2.0nmである。一方、デンドリマー2については、本実施の形態に係るナノカプセル10のデンドリマー2と同等である。すなわち、デンドリマー2の直径D2は、たとえば4.4nmである。

【0050】
有機分子3としては、ポリエチレングリコール(PEG:polyethylene glycol)が用いられる。PEGは親水性を示すため、デンドリマー2の表面をPEGにより修飾することによってナノカプセル90の水和性が高まる。これにより、水性の液体中でのナノカプセル90の分散性を高めることができる。また、ナノカプセルを薬物送達システムに応用するためにはナノカプセルが生体適合性を有することが必要であるところ、デンドリマー2の表面をPEGにより修飾することによってナノカプセルに生体適合性を付与することができる。このことは、たとえば細胞生物学の分野では細胞へのDNA導入、細胞の融合などにPEGが用いられることからも分かる。

【0051】
図4は、ナノカプセル10,90のサイズの温度依存性の一例を示す図である。図4において、横軸は、ナノカプセル10またはナノカプセル90が分散した水性の液体(たとえば純水)の温度(単位:℃)を示す。縦軸は、ナノカプセル10,90のサイズ(直径の平均値)(単位:nm)を示す。

【0052】
ナノカプセル10は、中性領域(たとえばpH6~pH8の領域)において比較的低い温度範囲内(たとえば25℃~50℃の範囲内)で熱変性を起こして凝集体を形成する。より詳細に説明すると、液体の温度上昇に伴い、ELP2の立体構造(コンフォメーション)が親水性のランダムコイル構造から疎水性のβ-ターン構造へと変化することによって、ナノカプセル10の表面が親水性から疎水性へと変化する。このような熱変性が起こると、水性の液体中では疎水性の部位の表面積が小さいほど表面エネルギーが小さく安定な状態であるため、ナノカプセル10同士が凝集してナノカプセル凝集体が形成される。図4に示す例では、ナノカプセル凝集体のサイズは、液体の加熱により約500nmまで増加する。

【0053】
このように、デンドリマー2の表面をELP2により修飾することによって、ナノカプセル10に温度応答性を付与することができる。なお、デンドリマー2の表面をELP2により修飾することによって、ナノカプセル10に生体適合性を付与することも可能である。

【0054】
これに対し、PEGは熱変性を起こさないので、比較例に係るナノカプセル90では、液体の温度が上昇してもナノカプセル凝集体は形成されない。したがって、ナノカプセル90のサイズは、液体の温度にかかわらずほぼ一定である。

【0055】
なお、本実施の形態ではデンドリマーを本開示に係る「ポリマー殻」として用いる例について説明するが、他の樹状ポリマーを「ポリマー殻」として用いてもよい。デンドリマー以外の樹状ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。あるいは、これら樹状ポリマーのうちの2種類以上を組み合わせてもよい。

【0056】
また、金属ナノ粒子を内包可能であり、かつ温度上昇により親水性から疎水性へと変化する有機分子を殻表面に修飾可能である高分子により形成された構造体であれば、樹状ポリマーとは異なる構造を有するポリマーを樹状ポリマーに代えてまたは加えて用いることも可能である。そのようなポリマーとしては、リポソーム(リポソーム膜)またはミセルが挙げられる。リポソーム膜は、たとえばDMPC(dimerystoyl phosphatidylcholine)、DPPC(dipalmitoyl phophatidylcholine)、DSPC(distearoyl phosphatidylcholine)等を用いて形成される。

【0057】
また、上記した特定のアミノ酸配列を有するエラスチン様ポリペプチドに代えて、加熱により親水性から疎水性へと変化する他の物質を有機分子3として用いてもよい。そのような物質は、「温度応答性ポリマー」とも称され、その具体例としては、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAmとも略される)、ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、ポリ(N-ビニルアルキルアミド)、ポリビニルアルキルエーテル、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、オシキエチレン鎖を有する種々のビニルエーテル系ポリマー等が挙げられる。あるいは、別のポリペプチドまたはタンパク質を温度応答性ポリマーとして用いることも可能である(たとえばMasamichi Nakamura, Drug Delivery System 23-6, 627-636 (2008)参照)。

【0058】
<ナノカプセルの集積装置の構成>
図5は、本実施の形態に係るナノカプセル10の集積装置の構成を概略的に示す図である。集積装置100は、基板21と、XYZ軸ステージ22と、サンプル供給部23と、調整機構24と、レーザ光源25と、光学部品26と、対物レンズ27と、照明光源28と、撮影機器29と、制御部30とを備える。以下、x方向およびy方向は水平方向を表す。x方向とy方向とは互いに直交する。z方向は鉛直方向を表す。重力の向きはz方向下方である。

【0059】
基板21は、XYZ軸ステージ22上に配置され、サンプルSを保持する。基板21の詳細な構成については図6にて説明する。

【0060】
サンプル供給部23は、制御部30からの指令に応じて、基板21上にサンプルSを供給する。サンプル供給部23としては、たとえばディスペンサを用いることができる。

【0061】
調整機構24は、制御部30からの指令に応じて、基板21が配置されたXYZ軸ステージ22のx方向、y方向およびz方向の位置を調整する。本実施の形態では対物レンズ27の位置が固定されているので、XYZ軸ステージ22の位置を調整することによって、基板21と対物レンズ27との相対的な位置関係が調整される。調整機構24としては、たとえば顕微鏡に付属のサーボモータおよび焦準ハンドルなどの駆動機構を用いることができるが、調整機構24の具体的な構成は特に限定されるものではない。なお、調整機構24は、固定された基板21に対して対物レンズ27の位置を調整してもよい。

【0062】
レーザ光源25は、制御部30からの指令に応じて、たとえば近赤外(たとえば波長1064nm)のレーザ光L1を発する。なお、レーザ光源25は本開示に係る「光源」に相当する。

【0063】
光学部品26は、たとえばミラー、ダイクロイックミラーまたはプリズムを含む。集積装置100の光学系は、レーザ光源25からのレーザ光L1が光学部品26により対物レンズ27へと導かれるように調整される。

【0064】
対物レンズ27は、レーザ光源25からのレーザ光L1を集光する。対物レンズ27により集光された光は基板21に照射される。ここで「照射する」とは、レーザ光L1がサンプルSを通過する場合を含み、対物レンズ27により集光された光のビームウエストがサンプルS内に位置する場合に限定されない。なお、光学部品26および対物レンズ27は、たとえば倒立型または正立型の顕微鏡本体に組み込むことができる。

【0065】
照明光源28は、制御部30からの指令に応じて、基板21内のサンプルSを照らすための白色光L2を発する。1つの実施例として、ハロゲンランプを照明光源28として用いることができる。対物レンズ27は、照明光源28から基板21に照射された白色光L2を取り込むためにも用いられる。対物レンズ27により取り込まれた白色光L2は、光学部品26により撮影機器29へと導かれる。

【0066】
撮影機器29は、制御部30からの指令に応じて、白色光L2が照射された基板21内のサンプルSを撮影し、撮影された画像を制御部30に出力する。撮影機器29には、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを含むビデオカメラが用いられる。

【0067】
制御部30は、サンプル供給部23、調整機構24、レーザ光源25、照明光源28および撮影機器29を制御する。また、制御部30は、撮影機器29により撮影された画像に所定の画像処理を施す。制御部30は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力バッファとを含んで構成されるマイクロコンピュータによって実現される。

【0068】
なお、集積装置100の光学系は、レーザ光源25からのレーザ光L1を基板21に照射することが可能であるととともに基板21からの白色光L2を撮影機器29に取り込むことが可能であれば、図5に示した構成に限定されず、光ファイバ等を含んで構成されてもよい。また、集積装置100において、サンプル供給部23、照明光源28および撮影機器29は必須の構成要素ではない。

【0069】
図6は、基板21の周囲の構成をより詳細に示す図である。基板21上に保持されるサンプルSは、ナノカプセル10が分散した水性の液体(たとえば超純水)Wである。基板21は、レーザ光L1による金ナノ粒子1の局在表面プラズモン共鳴(後述)に影響を与えず、かつ白色光L2に対して透明な材料により形成される。そのような材料としては石英、シリコンなどが挙げられる。基板21には、たとえばカバーガラスを用いることができる。この場合、基板21上に滴下されたサンプルSは、図6に示すような半楕円球状になる。

【0070】
対物レンズ27は、たとえば基板21の下方に配置され、下方からのレーザ光L1を集光する。集光された光は、対物レンズ27の上方のサンプルSに照射される。レーザ光L1の水平方向の照射位置は、たとえば、サンプルSの円形(または楕円形)の底面の中心近傍とすることが好ましい。また、レーザ光L1の焦点(ビームウエスト)の鉛直方向の位置は、サンプルSと基板21との界面近傍とすることが好ましい。レーザ光L1の照射位置(レーザスポット)の様子が撮影機器29により上方から下方に向けて撮影される(図5参照)。

【0071】
なお、基板21の周囲の構成は、図6に示した構成に限定されるものではない。たとえば、上方から下方に向けてレーザ光L1を照射してもよい。基板21は、本開示に係る「保持部材」に相当する。「保持部材」の形状は、サンプルSを保持することが可能であれば特に限定されず、立体形状を有していてもよい。具体的には、あるいは、サンプルSを滴下すべき位置を示すとともに滴下されたサンプルSの形状を規定する液面ガイド(図示せず)を基板21上に設けてもよい。また、「保持部材」は、図20にて説明するような容器41(たとえばガラスボトムディッシュ)であってもよい。

【0072】
<ナノカプセルの集積フロー>
以上のように構成された集積装置100においては、以下に示すフローチャートに従って各機器が制御されることによって、液体W中に分散したナノカプセル10がレーザスポット近傍に集積される。

【0073】
図7は、本実施の形態に係るナノカプセル10の集積方法を示すフローチャートである。このフローチャートに含まれる各ステップは、基本的には制御部30によるソフトウェア処理によって実現されるが、その一部または全部が制御部30内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。なお、このフローチャートの開始時には、ナノカプセル10が分散したサンプルSがサンプル供給部23内に設置されているものとする。

【0074】
図1および図7を参照して、ステップS10において、制御部30は、基板21を準備してXYZ軸ステージ22上に設置する。この処理は、たとえば基板21の送り機構(図示せず)により実現される。

【0075】
ステップS20において、制御部30は、サンプルSが基板21上に供給(滴下)されるようにサンプル供給部23を制御する。サンプルSの滴下量は、数μL~数mL程度の微量であってもよい。

【0076】
ステップS30において、制御部30は、サンプルSに照射するための白色光L2を発するように照明光源28を制御するとともに、サンプルSの撮影を開始するように撮影機器29を制御する。

【0077】
ステップS40において、制御部30は、調整機構24を制御することによって、レーザ光源25からのレーザ光L1がサンプルSの適切な位置(たとえば図6にて説明した位置)に照射されるようにXYZ軸ステージ22の位置を調整する。一例として、水平方向については、撮影機器29により撮影された画像からパターン認識の画像処理技術を用いてサンプルSの液滴の輪郭を抽出することによって、現在位置から適切な位置(たとえばサンプルSの円形の輪郭の中心近傍)までの調整量を演算することができる。一方、鉛直方向については、調整機構24内のサーボモータ(図示せず)により基板21の現在位置は既知であるため、所定の位置(たとえばサンプルSと基板21との界面の位置)へと調整することが可能である。

【0078】
ステップS50において、制御部30は、レーザ光L1を発するようにレーザ光源25を制御する。レーザ光L1は対物レンズ27により集光され、集光された光がサンプルSに照射される。これにより、サンプルSの液体W中に対流が生じ、液体W中に分散しているナノカプセル10がレーザスポット近傍に集積される。ナノカプセル10の集積メカニズムおよび集積される様子については図8~図19および図21~図25にて詳細に説明する。

【0079】
ステップS60において、制御部30は、レーザ光源25を制御して基板21へのレーザ光L1の照射を停止させる。これにより、一連の処理が終了する。

【0080】
なお、ステップS30の処理は、サンプルSを観察するための処理であって、ナノカプセル10を集積するために必須の処理ではない。また、基板21がXYZ軸ステージ22上に固定されている場合には、ステップS10の処理を省略することができる。したがって、ステップS10,S30の処理を含まないフローチャートを実行した場合でもナノカプセル10を集積することが可能である。

【0081】
<ナノカプセルの集積メカニズム>
集積装置100においては、レーザ光源25からのレーザ光L1がサンプルSに照射されると、ナノカプセル10内の金ナノ粒子1が光熱変換により熱を発生させる。

【0082】
図8は、光熱変換の原理を説明するための図である。図8を参照して、金ナノ粒子1の自由電子は局在表面プラズモンを形成し、レーザ光L1によって振動する。これにより分極が生じる。この分極のエネルギーは、自由電子と原子核との間のクーロン相互作用により格子振動のエネルギーに変換される。その結果、金ナノ粒子1は熱を発生させる。この効果は「光発熱効果」とも称される。なお、金ナノ粒子1がデンドリマー2に内包された状態であっても光発熱効果により熱が発生することが確認されている。

【0083】
図9は、本実施の形態におけるナノカプセル10の集積メカニズムの各段階を説明するための図である。レーザ光L1の照射(以下「光照射」とも略す)の開始前には、水性の液体W中にナノカプセル10が分散した状態である(図9(A)参照)。その後、光照射が開始される(図9(B)参照)。

【0084】
図1にて説明したように、金属ナノ粒子の体積が大きいほど金属ナノ粒子に作用する光誘起力は大きくなる。言い換えると、金属ナノ粒子は、その粒子径が小さいほど光誘起力により捕捉されにくくなる。光照射により捕捉可能な金属ナノ粒子の粒子径は、典型的なレーザ光の強度(たとえば対物レンズ透過後に数100mW程度)では数10nm以上とされる。

【0085】
一方、金ナノ粒子1の粒子径D1は、シングルナノメートルのオーダー(図3に示した例では1.5nm)であり、一般的に捕捉可能な金属ナノ粒子の粒子径よりも1桁小さい。この場合、金ナノ粒子1の体積Vは、一般的に捕捉可能な金属ナノ粒子の体積よりも3桁以上小さいことになる。よって、金ナノ粒子1が単体で液体W中に分散している場合には、光誘起力により金ナノ粒子1を捕捉することは難しい。

【0086】
そこで、本実施の形態においては、金ナノ粒子1が内包されたナノカプセル10の性質を利用する。光照射を開始すると、レーザスポット近傍のナノカプセル10内の金ナノ粒子1が光発熱効果により熱を発生させる。この段階ではレーザスポット近傍に存在する金ナノ粒子1はわずかであるため、発生する熱は微量と考えられる。しかしながら、図4にて説明したようにナノカプセル10の熱変性は比較的低い温度で起こるので、微量の熱であってもレーザスポット近傍のナノカプセル10同士が凝集してナノカプセル凝集体10A(図10参照)が形成される(図9(C)参照)。

【0087】
ナノカプセル凝集体10Aには多数の金ナノ粒子1が含まれるので、ナノカプセル凝集体10Aは金ナノ粒子1の集合体であるとも言える。したがって、光誘起力によりナノカプセル凝集体10Aを捕捉することが可能になる(図9(D)参照)。

【0088】
レーザスポットに捕捉されたナノカプセル凝集体10A内の金ナノ粒子1は、レーザ光L1を継続的に受けることになるので、図9(C)に示した段階と比べて、より大きな熱を光発熱効果によって発生させる。これにより、ナノカプセル凝集体10Aの周囲の液体が加熱される(図9(E)参照)。その結果、レーザスポット近傍の液体Wが局所的に沸騰してレーザスポットにマイクロバブル(マイクロメートルのオーダーの気泡)MBが発生する(図9(F)参照)。マイクロバブルMBは時間の経過とともに成長し得る。

【0089】
レーザスポットに近いほど液体Wの温度は高い。つまり、光照射により液体W中に温度勾配が生じる。この温度勾配に起因して、液体W中には規則的な熱対流(層流)が定常的に発生する(図9(G)参照)。以下では、この熱対流を「対流」と略す。

【0090】
図10は、対流発生時のレーザスポット近傍の様子を説明するための概念図である。なお、図10では図面が煩雑になるのを避けるため、基板21および液体Wの図示を省略している。

【0091】
図10を参照して、対流の方向は、マイクロバブルMB(あるいはレーザスポット)に一旦向かい、その後マイクロバブルMBから離れる方向である。このように狭い領域に対流が生じる理由は以下のように説明することができる。すなわち、マイクロバブルMBの鉛直方向上方に存在する液体が加熱により希薄となり浮力によって上昇する。それとともに、マイクロバブルMBの水平方向に存在する相対的に低温の液体が、加熱された領域に向けて流入する。

【0092】
図9に戻り、ナノカプセル10が対流に乗ってマイクロバブルMBに向けて運ばれることによって、ナノカプセル10がレーザスポット近傍に集積される。より詳細には、マイクロバブルMBと基板21の上面との間には対流の流速がゼロとなる淀み領域Rが生じるので、対流に乗って運ばれてきたナノカプセル10は淀み領域Rに滞留して集積される。その後、光照射を停止すると対流は弱まる(図9(H)参照)。

【0093】
このように、本実施の形態によれば、ナノカプセル10の熱変性(ELP2の立体構造の変化)による凝集作用と、ナノカプセル10の発熱(金ナノ粒子1の光発熱効果)による対流作用とを積極的に利用することによって、短時間かつ高密度にナノカプセル10をレーザスポット近傍に集積することができる。なお、「ナノカプセル10がレーザスポット近傍に集積される」には、ナノカプセル10がマイクロバブルMBの表面に集積される場合を含み得る。

【0094】
<ナノカプセルの集積結果>
続いて、ナノカプセル10の集積結果について、比較例と対比しながら詳細に説明する。本実施の形態および比較例では以下に示す8つのサンプルを準備した。

【0095】
図11は、第1~第8のサンプルにおけるナノカプセルの集積条件を説明するための図である。図11に示すように、比較例のために第1~第4および第8のサンプルを準備するとともに、本実施の形態のために第5~第7のサンプルを準備した。

【0096】
第1のサンプルと第2のサンプルとでは、ナノカプセルに金ナノ粒子1が内包されない点が共通する一方で、ナノカプセルの表面に修飾された有機分子3が互いに異なる。第1のサンプルではナノカプセルの表面がPEGにより修飾され、第2のサンプルではナノカプセルの表面がELP2により修飾される。

【0097】
第3および第4のサンプルでは、いずれもナノカプセルに金ナノ粒子1が内包されるとともに、ナノカプセルの表面がPEGにより修飾される。第3のサンプルと第4のサンプルとでは、ナノカプセルの濃度が1桁異なる。

【0098】
第5~第7のサンプルでは、ナノカプセル10に金ナノ粒子1が内包される点、および、ナノカプセル10の表面がELP2により修飾される点は共通である一方で、ナノカプセル10の濃度が1桁ずつ異なる。

【0099】
第8のサンプルでは、第2のサンプルと同様に、ナノカプセルに金ナノ粒子1が内包されず、かつ、ナノカプセルの表面がELP2により修飾される。ただし、第2のサンプルと第8のサンプルとでは、ナノカプセルの濃度が1桁異なる。

【0100】
レーザ光源25からのレーザ光L1の強度(レーザ出力)は1.0Wであった。対物レンズ27の倍率は100倍であった。対物レンズ27通過後のレーザ出力は、レーザ光源25からのレーザ出力よりも低下し、約20%になる。つまり、サンプルSへのレーザ出力は約200mWであった。

【0101】
図12~図15は、第1~第4のサンプルへの光照射結果をそれぞれ示す連続画像である。図12~図15および後述する図16~図19において、図中の数字は、光照射開始時刻からの経過時間(単位:秒)を示す。

【0102】
図12および図13を参照して、金ナノ粒子1が含まれない第1および第2のサンプルでは、ナノカプセルの表面に修飾された有機分子3の種類にかかわらず、光照射開始から110秒が経過してもマイクロバブルMBは発生しなかった。

【0103】
次に第14および図15を参照して、第3および第4のサンプルは、いずれもナノカプセルに金ナノ粒子1が内包されるものの、ナノカプセルの表面がPEGにより修飾されたものである。この場合、ナノカプセルの濃度が相対的に低い第3のサンプルでは、マイクロバブルMBは発生しなかった。ナノカプセルの濃度がより高い第4のサンプルでは、光照射開始から約60秒経過後にマイクロバブルMBの発生が確認されたものの、マイクロバブルMBのサイズは、後述するサンプルと比べて著しく小さかった。

【0104】
図16~図18は、第5~第7のサンプルへの光照射結果をそれぞれ示す連続画像である。第5~第7のサンプルでは、いずれもナノカプセル10に金ナノ粒子1が内包され、かつナノカプセル10の表面がELP2により修飾される。ナノカプセル10の濃度が最も低い第5のサンプルでは、マイクロバブルMBは発生しなかった。

【0105】
一方、第5のサンプルと比較した場合にナノカプセル10の濃度が1桁高い第6のサンプルでは、光照射開始から数秒経過後にマイクロバブルMBが発生した。さらに、マイクロバブルMBと基板21との接触領域(マイクロバブルMBが基板21に付着した領域)の周りにナノカプセル10が環状に集積される様子が確認された。第6のサンプルにおけるナノカプセル10の濃度と、第3のサンプル(図14参照)におけるナノカプセルの濃度とは等しい。これらのサンプルを比較すると、ナノカプセルの表面がELP2により修飾された場合にはナノカプセルが集積される一方で、ナノカプセルの表面がPEGにより修飾された場合にはナノカプセルが集積されないことが分かる。

【0106】
ナノカプセル10の濃度が最も高い第7のサンプルでは、光照射開始直後にマイクロバブルMBが発生した。マイクロバブルMBのサイズは、第6のサンプルにおけるマイクロバブルMBのサイズよりもさらに大きかった。また、対流が発生している様子が確認されるとともに、マイクロバブルMBの近傍に大量のナノカプセル10が集積した。なお、ナノカプセルの濃度が等しい第4および第7のサンプルを比較すると、ナノカプセルの表面に修飾された有機分子3の種類によってマイクロバブルMBの大きさに明確な違いが存在する。

【0107】
以上の結果より、マイクロバブルMBの発生およびそれに続くナノカプセルの集積には、金ナノ粒子1が必須であることが分かる。また、ナノカプセルの濃度が等しい場合、有機分子3がELP2である方が、有機分子3がPEGであるときと比べて、マイクロバブルMBが発生しやすく、その後のナノカプセルの集積も起こりやすいことが分かる。さらに、有機分子3が同種である場合には、ナノカプセルが高濃度であるほどマイクロバブルMBの発生およびナノカプセルの集積が起こりやすいことが分かる。

【0108】
図19は、図示しない分光器を用いて第6のサンプルにおけるレーザスポット近傍の消衰スペクトルを測定した結果の一例を説明するための図である。図19(A)の連続画像に示すように、光照射中にはマイクロバブルMBが基板21上に付着した状態であったものの、光照射開始から180秒経過後に光照射を停止すると、その直後にマイクロバブルMBは液体W中を浮上して消失した。

【0109】
光照射開始前、光照射開始から183秒、210秒および240秒経過後(すなわち光照射停止から3秒、30秒および60秒経過後)に消衰スペクトルを測定した。光照射中の消衰スペクトルの測定結果が示されていないのは、光照射中にマイクロバブルMBが存在しているときにはレーザ光L1のマイクロバブルMBによる散乱光強度が高過ぎて消衰スペクトルを正確に測定することができないので、マイクロバブルMBが存在しない状態での測定が必要であったためである。消衰スペクトルの測定範囲は、光照射開始から183秒経過後の画像に示した範囲である。

【0110】
図19(B)において、横軸は波長(単位:nm)を示し、縦軸は強度を示す。光照射開始から183秒経過の消衰スペクトルの強度は、光照射開始前の消衰スペクトルの強度の約2倍であった。ランベルト・ベールの法則によれば、消衰スペクトルの強度が高いほど、ナノカプセルの集積度が高いという関係がある。したがって、図17に示した連続画像に加えて、消衰スペクトルからもナノカプセル10の集積化を確認することができたと言える。

【0111】
その一方で、光照射開始から210秒または240秒経過後(すなわち光照射停止から30秒または60秒経過後)の消衰スペクトルの強度は、いずれも光照射開始前の消衰スペクトルの強度とほぼ等しい。これは、レーザスポット近傍の温度が光照射停止後には速やかに低下し、それにより、一旦集積されたナノカプセル10が液体W中へと再び分散したためと考えられる。つまり、ELP2の立体構造の変化は可逆的であるため、温度低下に伴いナノカプセル10の表面が疎水性から親水性へと戻り、その結果、ナノカプセル10が再び分散したと考えられる。

【0112】
仮にレーザ光L1が可視光の波長域に含まれる波長を有する場合、白色光L2の照射下で撮影機器29によりレーザスポット近傍を撮影する際にレーザ光L1が障害となり得る。これに対し、本実施の形態においては、近赤外の波長域に含まれる1064nmの波長を有するレーザ光L1が用いられる。これにより、レーザ光L1が撮影の障害となることを避けることができる。それとともに以下の事実が示される。

【0113】
金ナノ粒子1の局在表面プラズモン共鳴の波長域は、水中では可視光の波長域である。そのため、局在表面プラズモン共鳴の波長域の共鳴光(可視光)を用いる場合には、局在表面プラズモン共鳴の波長域外の非共鳴光(近赤外光)を用いる場合と比べて、同じレーザ出力でより大量の熱を発生させることができる。よって、より容易にナノカプセル凝集体10Aを捕捉し、それにより光発熱効果による対流を生じさせてナノカプセル10を集積することが可能である。このことを逆の視点から見ると、本実施の形態によれば、たとえ非共鳴光である近赤外光を用いた場合であっても(言い換えれば、より厳しい条件下であっても)ナノカプセル10を集積可能であることが分かる。

【0114】
<細胞および生体組織への影響>
近赤外光は、たとえば生体イメージングの分野で広く用いられているように、生体組織による減衰(散乱等)が比較的起こりにくく生体組織内での透過性が高い。本実施の形態によれば、近赤外光を用いてナノカプセル10を集積可能であることから、生体組織への応用可能性が示唆される。以下、本開示に係るナノカプセルの集積方法の生体組織(以下では特に、生体組織の構成要素である細胞)への応用可能性について説明する。

【0115】
図20は、細胞への影響を確認するための測定に用いた集積装置の構成を示す図である。この集積装置では、基板21に代えて容器41が用いられる。図20(A)には容器41の側面図が示されており、図20(B)には容器41の上面図が示されている。

【0116】
図5、図20(A)および図20(B)を参照して、容器41は、たとえばガラスボトムディッシュである。容器41は、円柱形状の底部411と、底部から垂直方向(Z方向)に延在する壁部412と、底部411の中央に形成された円柱形状の窪みである測定ウェル413とを含む。測定ウェル413の材料はガラスである。底部411および壁部412の材料には、たとえば樹脂(たとえばポリプロピレン)が用いられる。

【0117】
集積対象とするサンプルとしては、図11にて説明した第6および第8のサンプルのうちのいずれか一方を用いた。第6のサンプルは、金ナノ粒子1を内包するナノカプセル10を含むサンプルである。一方、第8のサンプルは、金ナノ粒子1を内包しないナノカプセルを含むサンプルである。以下に示す測定結果では、第6および第8のサンプルは、細胞4をさらに含む。細胞4には、ヒト子宮頸ガン由来の細胞であるヒーラ(HeLa)細胞を用いた。なお、環境温度は室温(具体的には24.3℃)であり、光照射前にはナノカプセル10の熱変性(親水性から疎水性への変化)は起こっていない。

【0118】
ヒーラ細胞を含む第6または第8のサンプルの液滴(ヒーラ細胞の培地の液滴)が測定ウェル413に10μL滴下された状態でレーザ光L1を照射した。この測定においても、倍率40倍の対物レンズ27を用いた。レーザ光L1のビームウエストの高さは、調整機構24の駆動機構(具体的には、顕微鏡に付属のサーボモータおよび焦準ハンドルなど)を制御することによって、測定ウェル413の上面から5目盛りだけ上の位置になるように設定した。この1目盛りは、空気中では1μmに相当する。レーザ光源25からのレーザ出力は1.0Wであり、対物レンズ7通過後のレーザ出力は200mWであった。レーザ光L1の照射時間は60秒に設定した。そして、図5、図20(A)および図20(B)には示されていないが、照明光源28からの白色光L2によるサンプルの吸収および散乱を測定するための分光器を設け、サンプルの消衰スペクトル(特定の位置の局所的な消衰スペクトル)を測定した。

【0119】
図21は、第6のサンプルにおける光照射前後の分光結果を説明するための図である。図21~図23では、消衰スペクトルの測定領域を白丸で示す。

【0120】
図21(A)は、光照射前の画像(光学顕微像)および消衰スペクトル(すなわちマイクロバブルMBの発生前の消衰スペクトル)と、光照射により発生したマイクロバブルMBが消滅した直後の画像および消衰スペクトルとを示す。マイクロバブルMBの発生前と消滅後とで、いずれもマイクロバブルMBが存在しない状態という点では共通するものの、消衰スペクトルの強度が異なる。光照射後における消衰スペクトルの強度の方が、光照射前における消衰スペクトルの強度よりも高い。

【0121】
図21(B)は、細胞4の位置における光照射前の消衰スペクトルと、細胞4の位置における光照射後の細胞のスペクトルとを示す。細胞4が存在する位置での消衰スペクトルの強度も、光照射前の方が光照射後と比べて高いことが分かる。

【0122】
図22は、第6のサンプルにおける光照射前後の他の分光結果を説明するための図である。図22には、図21に示した細胞4以外の細胞4a,4bへの照射スペクトルの測定結果を示す。図22(A)は、光照射前の細胞4aの画像を示す。図22(B)は、光照射後の細胞4aの画像を示す。図22(C)は、光照射後の細胞4bの画像を示す。図22(D)は、細胞4a,4bの消衰スペクトルを示す。図22(D)に示す分光結果においても、光照射後の方が光照射前と比べて、消衰スペクトルの強度が高いことが分かる。

【0123】
図23は、第8のサンプルにおける光照射前後の分光結果を説明するための図である。図23(A)および図22(B)は、第8のサンプルにおける光照射前および光照射後の画像をそれぞれ示す。金ナノ粒子1を内包しないナノカプセルを含む第8のサンプルにおいては、マイクロバブルMBは発生しなかった。また、図23(C)は、消衰スペクトルを示す。光照射前と光照射後とで消衰スペクトルがほとんど変化しないことが分かる。

【0124】
次に、光照射後の細胞4の生死の判定結果について説明する。細菌を染色するための蛍光色素として、カルセイン(Calcein)-AMとPI(Propidium Iodide)とが知られている。カルセイン-AMは、それ自体は蛍光をほとんど発しないが、細胞内で加水分解されると、励起波長の光照射に伴い黄緑色の強い蛍光を発する。よって、蛍光観察像において黄緑色に観察される領域は細胞が生存していることを示す。一方、PIは膜透過性を有さない。そのため、細胞膜に損傷が生じている細胞(すなわち死菌)のみがPIにより染色される。PIを外部から励起すると、赤色の蛍光を発する。

【0125】
図24は、第6のサンプルにおける生死判定結果を説明するための図である。ここでは測定ウェル413を4つの領域に仮想的に分割し、領域B、領域C、領域Dの順にレーザ光L1を照射した(図20参照)。各領域B~Dにおけるレーザ光L1の照射時間は60秒に設定した。なお、領域Aは、レーザ光L1が照射されない対照実験のための領域である。

【0126】
図24(A)は、左から順に、図20に示した領域Cにおける光照射後の画像(光学顕微鏡像)、位相差像および蛍光観察像を示す。図24(B)は、領域Dにおける光照射後の画像、位相差像および蛍光観察像を示す。蛍光観察像では、死滅した細胞(赤色の蛍光を発する細胞)が生存している細胞から区別して示されている。

【0127】
図24(A)および図24(B)に示すように、レーザスポット近傍の細胞4が死滅していることが分かる。このように、非共鳴光であるレーザ光L1の照射位置に金ナノ粒子1を内包したナノカプセル10を集積させ、金ナノ粒子1の発熱により、金ナノ粒子1の近傍の細胞4を死滅させることができる。つまり、狙った位置のガン細胞を選択的に死滅させることができる。このことから薬物送達システム(DDS)への利用が可能であることが示された。なお、金ナノ粒子1の「近傍」とは、好ましくは、レーザ光L1の照射により生成するマイクロバブルMBの直径の数倍(たとえば2~3倍)よりも内側の領域を意味する。

【0128】
なお、本実施の形態では、温度上昇に伴い親水性から疎水性へと変化する有機分子である温度応答性ポリマーがナノカプセル表面に修飾される構成を例に説明した。このように、水性の液体中において、低温では親水性のため溶解するが、ある温度まで昇温すると親水性から疎水性へと変化して不溶化する温度応答性ポリマーは、下限限界共溶温度(LCST:Lower Critical Solution Temperature)型温度応答性ポリマーとも称される。

【0129】
LCST型温度応答性ポリマーに代えて、以下のような温度応答性ポリマーを用いることも可能である。すなわち、有機溶媒である液体(非水性の液体)中において、低温では疎水性のため溶解するが、ある温度まで上昇すると疎水性から親水性へと変化して不溶化する温度応答性ポリマーを用いてもよい。このような温度応答性ポリマーは、上限限界共溶温度(UCST:Upper Critical Solution Temperature)型温度応答性ポリマーとも称される。有機溶媒である液体とUCST型温度応答性ポリマーとの組合せについては、親水性/疎水性の変化の方向が逆であるものの、基本的には上記した実施の形態と同様であるため、詳細な説明は繰り返さない。なお、有機溶媒中においても金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の共鳴波長が可視光の波長域に含まれ得るので、非共鳴の波長域は、たとえば赤外(または紫外)の波長域となり得る。

【0130】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本開示は、たとえば、金属ナノ粒子とともに薬物が内包されたナノカプセルを集積する方法または装置として利用することができる。一例として、新規開発において微量の薬物を光照射位置に集積させて細胞または生体組織への影響を評価するなど医療分野に利用することができる。また、本開示は、いわゆる「温熱療法」(ハイパーサーミア)を実施するための医療機器への応用も可能である。42.5℃以上に温度が上昇すると、ヒトの細胞は急速に死滅することが知られている。さらに、金属ナノ材料を投与し、光照射によって温熱療法を誘起する「光温熱療法」も温熱療法の一例として挙げられる。本開示のように、ナノカプセルへの光照射により、そのナノカプセルの近傍に存在する、たとえばガン細胞の温度を選択的に上昇させて死滅させることによって光温熱療法が可能となり、ガン組織を縮小したりガン細胞の増殖を抑制したりすることができる。
【符号の説明】
【0132】
1 金ナノ粒子、2 デンドリマー、2A コア、2B 分岐部分、2C 末端基、3 有機分子、10,90 ナノカプセル、10A ナノカプセル凝集体、21 基板、22 XYZ軸ステージ、23 サンプル供給部、24 調整機構、25 レーザ光源、26 光学部品、27 対物レンズ、28 照明光源、29 撮影機器、30 制御部、4,4a,4b 細胞、41 容器、411 底部、412 壁部、413 測定ウェル、100 集積装置、S サンプル、W 液体。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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