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明細書 :白斑毒性及び黒皮症毒性の試験方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成31年3月22日(2019.3.22)
発明の名称または考案の名称 白斑毒性及び黒皮症毒性の試験方法
国際特許分類 C12Q   1/6851      (2018.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12Q   1/686       (2018.01)
FI C12Q 1/6851 Z
A01K 67/027
C12Q 1/02
C12Q 1/686 Z
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 29
出願番号 特願2018-519185 (P2018-519185)
国際出願番号 PCT/JP2017/017957
国際公開番号 WO2017/203999
国際出願日 平成29年5月11日(2017.5.11)
国際公開日 平成29年11月30日(2017.11.30)
優先権出願番号 2016104698
優先日 平成28年5月25日(2016.5.25)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ
発明者または考案者 【氏名】加藤 昌志
【氏名】飯田 真智子
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR06
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX01
4B063QX02
要約 高感度で白斑毒性又は黒皮症毒性を評価できる評価方法の提供を課題とする。メラニン産生能を有するヘアレスマウスの尾に被験物質を適用するステップと、前記ヘアレスマウスの尾における白斑の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の白斑毒性を判定するステップを含む、白斑毒性の試験方法が提供される。
特許請求の範囲 【請求項1】
以下のステップ(1)及び(2)を含む、白斑毒性の試験方法:
(1)メラニン産生能を有するヘアレスマウスの尾に被験物質を適用するステップ、
(2)前記ヘアレスマウスの尾における白斑の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の白斑毒性を判定するステップ。
【請求項2】
前記ヘアレスマウスが、メラニン産生能が正常なヘアレスマウスである、請求項1に記載の試験方法。
【請求項3】
前記ヘアレスマウスの遺伝的背景がC57BL/6である、請求項1に記載の試験方法。
【請求項4】
前記ヘアレスマウスが、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスである、請求項3に記載の試験方法。
【請求項5】
前記遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスが、Hos:HRMヘアレスマウスにC57BL/6マウスを戻し交配して得られたマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたマウスである、請求項4に記載の試験方法。
【請求項6】
以下のステップ(1)及び(2)を含む、黒皮症毒性の試験方法:
(1)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚(但し、尾の皮膚を除く)に被験物質を適用するステップ、
(2)前記ヘアレスRETマウスの前記皮膚における黒皮症の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の黒皮症毒性を判定するステップ。
【請求項7】
前記皮膚が背、腹又は頭の皮膚である、請求項6に記載の試験方法。
【請求項8】
以下のステップ(1)~(3)を含む、白斑毒性と黒皮症毒性の同時試験方法:
(1)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの尾と、皮膚(但し、尾の皮膚を除く)とに被験物質を適用するステップ、
(2)前記ヘアレスRETマウスの尾における白斑の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の白斑毒性を判定するステップ、
(3)前記ヘアレスRETマウスの前記皮膚における黒皮症の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の黒皮症毒性を判定するステップ。
【請求項9】
前記皮膚が背、腹又は頭の皮膚である、請求項8に記載の試験方法。
【請求項10】
前記活性化型RET遺伝子がc-RET遺伝子とRFP遺伝子のハイブリットによって生じたRFP-RET遺伝子である、請求項4、6~9のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項11】
前記活性化型RET遺伝子がメタロチオネインIプロモーターに連結している、請求項4、6~10のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項12】
前記RET/o-トランスジェニックマウスが、192系統RET/o-トランスジェニックマウス、242系統RET/o-トランスジェニックマウス、304系統RET/o-トランスジェニックマウス、又は304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウスである、請求項4、6~11のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項13】
以下の(i)又は(ii)のマウスからなる、白斑毒性及び黒皮症毒性に感受性のマウス:
(i)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、
(ii)(i)のマウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウス。
【請求項14】
前記活性化型RET遺伝子がc-RET遺伝子とRFP遺伝子のハイブリットによって生じたRFP-RET遺伝子である、請求項13に記載の感受性マウス。
【請求項15】
前記活性化型RET遺伝子がメタロチオネインIプロモーターに連結している、請求項13又は14に記載の感受性マウス。
【請求項16】
前記RET/o-トランスジェニックマウスが、192系統RET/o-トランスジェニックマウス、242系統RET/o-トランスジェニックマウス、304系統RET/o-トランスジェニックマウス、又は304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウスである、請求項13~15のいずれか一項に記載の感受性マウス。
【請求項17】
メラニン産生能を有するヘアレスマウスの尾から採取されるメラノサイト又はその継代細胞を用いて被験物質の白斑毒性を評価することを特徴とするin vitro試験方法。
【請求項18】
活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚(但し、尾の皮膚を除く)から採取されるメラノサイト又はその継代細胞を用いて被験物質の黒皮症毒性を評価することを特徴とするin vitro試験方法。
【請求項19】
以下のステップ(a)~(d)を含む、白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を評価するためのin vitro試験方法:
(a)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚メラノサイトを含む試料を用意し、試験群と対照群に分けるステップ、
(b)試験群を被験物質の存在下で培養するステップ、
(c)ステップ(b)後の試験群と、被験物質が非存在下であること以外は同一の条件で培養した対照群について、c-Met、RFP-RET、c-Ret、Enothelin receptor B (Ednrb)、c-kit、Mc1r、Mitf-m、Tyrosinase、Tyrosinase-realted protein-2、TGF-beta type receptor 2 (Tgfr2)、Fibroblast growth factor (Fgfr)、Bcl2、p53、survivin、CCAAT-enhancer-binding protein homologous protein (CHOP)、Glutamate cysteine ligase (GCLC)、NF-E2 related factor2(Nrf2)、Heat shock protein (HSP) 70、Foxp1、Foxp3、CCR6、Bach2、NACHT leucine-rich-repeat protein 1 (Nalp)、Cytotoxic T-lymphocyte antigen-4 (Ctla4)及びGranzyme B(GZMB)からなる群より選択される一以上のマーカー分子の発現又は活性を検出するステップ、
(d)試験群と対照群の間で検出結果を比較し、比較結果に基づき被験物質の白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を判定するステップ。
【請求項20】
以下のステップ(A)~(D)を含む、白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を評価するためのin vitro試験方法:
(A)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウス由来のメラノサイト系細胞株を用意し、試験群と対照群に分けるステップ、
(B)試験群を被験物質の存在下で培養するステップ、
(C)ステップ(B)後の試験群と、被験物質が非存在下であること以外は同一の条件で培養した対照群について、c-Met、RFP-RET、c-Ret、Enothelin receptor B (Ednrb)、c-kit、Mc1r、Mitf-m、Tyrosinase、Tyrosinase-realted protein-2、TGF-beta type receptor 2 (Tgfr2)、Fibroblast growth factor (Fgfr)、Bcl2、p53、survivin、CCAAT-enhancer-binding protein homologous protein (CHOP)、Glutamate cysteine ligase (GCLC)、NF-E2 related factor2(Nrf2)、Heat shock protein (HSP) 70、Foxp1、Foxp3、CCR6、Bach2、NACHT leucine-rich-repeat protein 1 (Nalp)、Cytotoxic T-lymphocyte antigen-4 (Ctla4)及びGranzyme B(GZMB)からなる群より選択される一以上のマーカー分子の発現又は活性を検出するステップ、
(D)試験群と対照群の間で検出結果を比較し、比較結果に基づき被験物質の白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を判定するステップ。
【請求項21】
以下のステップ(a)~(c)を含む、白斑の予防又は治療用薬剤のスクリーニング方法:
(a)メラニン産生能を有するヘアレスマウスの尾に白斑誘発処理を施すステップ、
(b)前記ヘアレスマウスに被験物質を投与するステップ、
(c)被験物質の予防効果又は治療効果を判定するステップ。
【請求項22】
以下のステップ(A)~(C)を含む、黒皮症の予防又は治療用薬剤のスクリーニング方法:
(A)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚(但し、尾の皮膚を除く)に黒皮症誘発処理を施すステップ、
(B)前記ヘアレスRETマウスに被験物質を投与するステップ、
(C)被験物質の予防効果又は治療効果を判定するステップ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は白斑毒性及び黒皮症毒性を評価する技術に関する。詳しくは、実験動物を用いた白斑毒性及び黒皮症毒性の試験方法に関する。本出願は、2016年5月25日に出願された日本国特許出願第2016-104698号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
近年、2%のロドデノールを含む美白剤の使用による「白斑」被害が社会的に大きな問題となった。白斑とは、皮膚がまだらに白く抜ける(脱色素)を伴う疾患である(非特許文献1)。また、当該美白剤を使用した白斑患者の内、約38%は、色素沈着を伴う「黒皮症」を発症することも報告されている(非特許文献2)。発症時期に関しては、早い人では1~2ヶ月、多くの場合は3~5ヶ月と報告されており、感受性に対する個人差が大きいことも特徴の一つといえる。ロドデノールは、すでに白斑毒性が報告されているラズベリーケトンの還元体であるが、厚生労働省が定める、数種類の動物を用いた安全基準をクリアしたため美白剤として商品化された。それにも関わらず今回の白斑問題が生じた背景を鑑みると、現行の安全性試験に要求される感度は十分とはいえない。さらに、厚生労働省はロドデノール以外にも19件の化粧品等に含まれる化学物質に白斑誘発毒性が疑われることを報告しており、美白剤による白斑被害が今後さらに拡大することが懸念される。
【0003】
美白剤の毒性発覚は企業生命を脅かす大問題であり、その対策は急務である。また、化粧品に限らず、工場などで職業として化学物質を取り扱う人にも白斑被害は多数報告されており、産業衛生的な問題でもある。さらに、輸入食品の増加による食の安全という面からも、動物モデルを用いた安全性試験の化粧品・食品・医薬品メーカーからの需要は非常に高い。
【0004】
白斑毒性の評価に関連するものとして、有毛モルモットを用いた技術が報告されている(非特許文献3)。この技術では、剃毛や紫外線などの人為的刺激により色素産生を増強させた皮膚において、30%ロドデノール外用により白斑を誘発している。しかしながら、低濃度(例えば2%)のロドデノールでは白斑毒性は評価されておらず、10%ロドデノールでも白斑を誘導できていない。また、化学物質をロドデノールに限定した評価技術であり、黒皮症毒性については評価されていない。一方、ヘアレスhk14-SCF Tgマウスを用いた評価法も報告されているが(非特許文献4)、30%ロドデノール外用に限定した白斑毒性評価技術であり、低濃度(例えば2%)のロドデノールによる白斑毒性は評価されていない。また、化学物質をロドデノールに限定した白斑毒性の評価技術であり、黒皮症毒性については評価されていない。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Pigment Cell Melanoma Res,27,754-763,2014
【非特許文献2】日皮会誌:124(11),2095-2109,2014
【非特許文献3】J Toxicol Sci,39,615-23,2014
【非特許文献4】J Dermatol Science 81:35-43,2016
【非特許文献5】J Invest Dermatol. 127(5):1244-9,2007
【非特許文献6】J Biol Chem. 14; 281, 10365-73,2006
【非特許文献7】Toxicology in Vitro 32; 339-346,2016
【非特許文献8】Pigment Cell Melanoma Res. 29(5):541-9,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の社会的ニーズを受け、化学物質による白斑等の健康被害の再発防止のため、より感度の高い評価技術の開発が望まれる。しかしながら、現状、化学物質による白斑毒性/黒皮症毒性を高感度に評価できる技術は存在しない。そこで本発明は、高感度で白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を評価できる、実用性に優れた評価方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた。その結果、一定の特徴を備えるマウスを用いた高感度で汎用性の高い評価系の確立に成功した。当該評価系では、剃毛や紫外線照射などの副次的な刺激が必要ないため、化学物質の毒性のみを一元的に評価可能であり、信頼性の高い評価結果が得られる。特筆すべきことの一つは、特定のマウス(ヘアレスRETマウス)を用いた場合には白斑毒性と黒皮症毒性を同時に評価できる点である。更なる検討によって、白斑毒性又は黒皮症毒性、或いはこれらの両者を同時に評価することが可能な、細胞ベースの評価系(in vitro試験方法)の構築にも成功した。
本発明者らの貢献によって完成した発明を以下に示す。
[1]以下のステップ(1)及び(2)を含む、白斑毒性の試験方法:
(1)メラニン産生能を有するヘアレスマウスの尾に被験物質を適用するステップ、
(2)前記ヘアレスマウスの尾における白斑の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の白斑毒性を判定するステップ。
[2]前記ヘアレスマウスが、メラニン産生能が正常なヘアレスマウスである、[1]に記載の試験方法。
[3]前記ヘアレスマウスの遺伝的背景がC57BL/6である、[1]に記載の試験方法。
[4]前記ヘアレスマウスが、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスである、[3]に記載の試験方法。
[5]前記遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスが、Hos:HRMヘアレスマウスにC57BL/6マウスを戻し交配して得られたマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたマウスである、[4]に記載の試験方法。
[6]以下のステップ(1)及び(2)を含む、黒皮症毒性の試験方法:
(1)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚(但し、尾の皮膚を除く)に被験物質を適用するステップ、
(2)前記ヘアレスRETマウスの前記皮膚における黒皮症の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の黒皮症毒性を判定するステップ。
[7]前記皮膚が背、腹又は頭の皮膚である、[6]に記載の試験方法。
[8]以下のステップ(1)~(3)を含む、白斑毒性と黒皮症毒性の同時試験方法:
(1)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの尾と、皮膚(但し、尾の皮膚を除く)とに被験物質を適用するステップ、
(2)前記ヘアレスRETマウスの尾における白斑の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の白斑毒性を判定するステップ、
(3)前記ヘアレスRETマウスの前記皮膚における黒皮症の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の黒皮症毒性を判定するステップ。
[9]前記皮膚が背、腹又は頭の皮膚である、[8]に記載の試験方法。
[10]前記活性化型RET遺伝子がc-RET遺伝子とRFP遺伝子のハイブリットによって生じたRFP-RET遺伝子である、[4]、[6]~[9]のいずれか一項に記載の試験方法。
[11]前記活性化型RET遺伝子がメタロチオネインIプロモーターに連結している、[4]、[6]~[10]のいずれか一項に記載の試験方法。
[12]前記RET/o-トランスジェニックマウスが、192系統RET/o-トランスジェニックマウス、242系統RET/o-トランスジェニックマウス、304系統RET/o-トランスジェニックマウス、又は304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウスである、[4]、[6]~[11]のいずれか一項に記載の試験方法。
[13]以下の(i)又は(ii)のマウスからなる、白斑毒性及び黒皮症毒性に感受性のマウス:
(i)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、
(ii)(i)のマウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウス。
[14]前記活性化型RET遺伝子がc-RET遺伝子とRFP遺伝子のハイブリットによって生じたRFP-RET遺伝子である、[13]に記載の感受性マウス。
[15]前記活性化型RET遺伝子がメタロチオネインIプロモーターに連結している、[13]又は[14]に記載の感受性マウス。
[16]前記RET/o-トランスジェニックマウスが、192系統RET/o-トランスジェニックマウス、242系統RET/o-トランスジェニックマウス、304系統RET/o-トランスジェニックマウス、又は304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウスである、[13]~[15]のいずれか一項に記載の感受性マウス。
[17]メラニン産生能を有するヘアレスマウスの尾から採取されるメラノサイト又はその継代細胞を用いて被験物質の白斑毒性を評価することを特徴とするin vitro試験方法。
[18]活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚(但し、尾の皮膚を除く)から採取されるメラノサイト又はその継代細胞を用いて被験物質の黒皮症毒性を評価することを特徴とするin vitro試験方法。
[19]以下のステップ(a)~(d)を含む、白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を評価するためのin vitro試験方法:
(a)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚メラノサイトを含む試料を用意し、試験群と対照群に分けるステップ、
(b)試験群を被験物質の存在下で培養するステップ、
(c)ステップ(b)後の試験群と、被験物質が非存在下であること以外は同一の条件で培養した対照群について、c-Met、RFP-RET、c-Ret、Enothelin receptor B (Ednrb)、c-kit、Mc1r、Mitf-m、Tyrosinase、Tyrosinase-realted protein-2、TGF-beta type receptor 2 (Tgfr2)、Fibroblast growth factor (Fgfr)、Bcl2、p53、survivin、CCAAT-enhancer-binding protein homologous protein (CHOP)、Glutamate cysteine ligase (GCLC)、NF-E2 related factor2(Nrf2)、Heat shock protein (HSP) 70、Foxp1、Foxp3、CCR6、Bach2、NACHT leucine-rich-repeat protein 1 (Nalp)、Cytotoxic T-lymphocyte antigen-4 (Ctla4)及びGranzyme B(GZMB)からなる群より選択される一以上のマーカー分子の発現又は活性を検出するステップ、
(d)試験群と対照群の間で検出結果を比較し、比較結果に基づき被験物質の白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を判定するステップ。
[20]以下のステップ(A)~(D)を含む、白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を評価するためのin vitro試験方法:
(A)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウス由来のメラノサイト系細胞株を用意し、試験群と対照群に分けるステップ、
(B)試験群を被験物質の存在下で培養するステップ、
(C)ステップ(B)後の試験群と、被験物質が非存在下であること以外は同一の条件で培養した対照群について、c-Met、RFP-RET、c-Ret、Enothelin receptor B (Ednrb)、c-kit、Mc1r、Mitf-m、Tyrosinase、Tyrosinase-realted protein-2、TGF-beta type receptor 2 (Tgfr2)、Fibroblast growth factor (Fgfr)、Bcl2、p53、survivin、CCAAT-enhancer-binding protein homologous protein (CHOP)、Glutamate cysteine ligase (GCLC)、NF-E2 related factor2(Nrf2)、Heat shock protein (HSP) 70、Foxp1、Foxp3、CCR6、Bach2、NACHT leucine-rich-repeat protein 1 (Nalp)、Cytotoxic T-lymphocyte antigen-4 (Ctla4)及びGranzyme B(GZMB)からなる群より選択される一以上のマーカー分子の発現又は活性を検出するステップ、
(D)試験群と対照群の間で検出結果を比較し、比較結果に基づき被験物質の白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を判定するステップ。
[21]以下のステップ(a)~(c)を含む、白斑の予防又は治療用薬剤のスクリーニング方法:
(a)メラニン産生能を有するヘアレスマウスの尾に白斑誘発処理を施すステップ、
(b)前記ヘアレスマウスに被験物質を投与するステップ、
(c)被験物質の予防効果又は治療効果を判定するステップ。
[22]以下のステップ(A)~(C)を含む、黒皮症の予防又は治療用薬剤のスクリーニング方法:
(A)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚(但し、尾の皮膚を除く)に黒皮症誘発処理を施すステップ、
(B)前記ヘアレスRETマウスに被験物質を投与するステップ、
(C)被験物質の予防効果又は治療効果を判定するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】白斑・黒皮症毒性の評価に用いたマウス。白斑毒性及び黒皮症毒性の評価に用いた8週齢のヘアレス野生型マウス(C57BL/6バックグラウンド)(A: 左は背部皮膚、右は尾部皮膚)、及びヘアレスRETマウス(242系統)(C57BL/6バックグラウンド)(B: 左は背部皮膚、右は尾部皮膚)の代表的な肉眼所見を示す。ヘアレス野生型マウス及びヘアレスRETマウスの背部皮膚におけるL*値(n=5)(平均±SD)についてヘアレス野生型マウスのL*値を1としたときの相対値を示す(C)。** p<0.01(Mann-Whitney U testによる)。*値の相対値(n=5)(平均±SD)について、溶媒を外用したヘアレス野生型マウスのL*値を1としたときの相対値を示す(B)、尾部皮膚の代表的な肉眼所見(C)、尾部皮膚の皮膚色(黒さ)の相対値(n=5)(平均±SD)(D)を示す。* p<0.05, ** p<0.01(対応のある Student’s t-testによる)。【0009】
1.白斑毒性の試験方法
本発明はマウスを用いた毒性試験に関する。第1の局面では白斑毒性の試験方法が提供される。白斑毒性とは、白斑を誘発する作用ないし効果をいう。白斑は、皮膚の基底層に分布する色素細胞であるメラノサイトが減少又は消失することで生ずる病態である。本発明における白斑は、本発明の目的及び利用形態等から明らかな通り、先天性の白斑(白皮症)を含まず、いわゆる尋常性白斑に対応するものである。本発明の白斑毒性試験方法では、以下のステップ(1)及び(2)を行う。
(1)メラニン産生能を有するヘアレスマウスの尾に被験物質を適用するステップ
(2)前記ヘアレスマウスの尾における白斑の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の白斑毒性を判定するステップ

【0010】
ステップ(1)では特定のマウス、即ち、メラニン産生能を有するヘアレスマウスを用意し、その尾に被験物質を適用する。「メラニン産生能を有するヘアレスマウス」は表皮にメラニンを有し、ヘアレス(体毛が欠落する)個体の遺伝型を示す。この特徴は白斑の誘発に必要であるとともに、容易且つ客観的な評価を可能にする点で重要である。メラニン産生能を有するヘアレスマウスの例として、Hos:HRM、Hos:HRM-2及びHR/DeF1(いずれも星野試験動物飼育所から入手可能である)を挙げることができる。メラニン産生能を有するヘアレスマウスとして、メラニン産生の調節に関わる分子、具体的にはMicrophthalmia-associated transcription factor、Tyrosinase、Tyrosinase related protein-1、Tyrosinase related protein 2、Pmel 17、alpha-Melanocyte-stimulating hormone、Stem cell factor、c-Kit、Endothelin、Endothelin receptor等の分子が機能しており、メラニン産生能が正常なヘアレスマウスを用いるとよい。好ましくは、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを用いる。例えば、上掲のヘアレスマウスにC57BL/6マウス(例えば、日本チャールズリバーや日本クレアが提供するC57BL/6マウスを使用できる)を戻し交配することによって、本発明に使用可能な、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウス(RET遺伝子の導入という遺伝子改変を経ていないマウスであり、下記のヘアレスRETマウスと区別するために「ヘアレス野生型マウス」と呼ぶことがある)を得ることができる。遺伝的背景が好ましくは95.0%以上、更に好ましくは99.9%以上C57BL/6になるように、C57BL/6マウスを用いた戻し交配を繰り返すとよい。

【0011】
一態様では、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は当該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスを「メラニン産生能を有するヘアレスマウス」として用いる。ヘアレスRETマウスを用いた場合、比較的長期間かけて白斑が発症するタイプのヒトを想定した評価系となる(詳細は実施例を参照)。一方、ヘアレスRETマウス以外のマウス(即ち、上記のヘアレス野生型マウス)を用いた場合、より感度が高い評価系を実現できる。従って、これら二つの態様を併用すれば、感受性の異なるヒトを対象とした毒性評価が可能となる。

【0012】
上記の通り、ヘアレスRETマウスは、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配する方法(作出法1)、又は作出法1で得られたマウスを兄妹交配する方法(作出法2)によって得ることができる。これらの方法によれば、遺伝子型遺伝子型がhr/hr;Ret/Oで遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを得ることができる。活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスとは、典型的にはc-RET遺伝子とRFP遺伝子のハイブリットによって生じたRFP-RET遺伝子を活性化型RET遺伝子としてヘテロに保有するマウスである。活性化型RET遺伝子がメタロチオネインIプロモーター(MT)に連結していることが好ましい。RET/o-トランスジェニックマウスの具体例は192系統RET/o-トランスジェニックマウス、242系統RET/o-トランスジェニックマウス、304系統RET/o-トランスジェニックマウス (Kato et al.,Oncogene,18(3):837-42,1999; Iwamoto et al.,EMBO J,10(11),3167-3175,1991)、及び304系統RET/o-トランスジェニックマウスに対してC57BL/6マウスを交配して得られた304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウス(Kato et al,.Oncogene, 17, 1885-1888, 1998)である。好ましくは、242系統を用いる。尚、RETトラスジェニックマウスの凍結受精卵及び凍結精子は国立大学法人熊本大学の生命資源研究・支援センター(CARD)、及び独立行政法人理化学研究所の理研バイオリソースセンター(筑波)に保存されている。

【0013】
作出法1では、上記のごときRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配する。遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスとしては上記のヘアレス野生型マウスを用いることができる。好ましい一態様では、Hos:HRMヘアレスマウスにC57BL/6マウスを戻し交配して得られたマウス、又は当該マウスを兄妹交配して得られたマウスを「遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウス」として採用する。

【0014】
作出法2では、作出法1で得られたマウスを兄妹交配する。このようにして得られたマウスは、遺伝的背景の均一性が高まり、個体差による影響を低減できるため、安定した毒性評価が可能になる利点がある。兄妹交配は例えば10回以上、好ましくは20回以上(具体的には20回~30回)行うとよい。

【0015】
以上のようにして用意した「メラニン産生能を有するヘアレスマウス」の尾に被験物質が適用される。即ち、本発明では、尾において特異的に白斑の誘発が認められたという知見に基づき、被験物質の適用部位として尾を採用する。被験物質の適用方法は特に限定されない。例えば、被験物質自体、又は被験物質を含む組成物(溶液、軟膏、クリーム、化粧料等)を尾の皮膚に塗布若しくは滴下し、又は尾に注射する。プリックテストやスクラッチテストも可能である。被験物質又はそれを含む溶液などに尾を投入ないし浸漬することによって被験物質を適用することも可能である。

【0016】
白斑毒性の評価が必要とされる物質、即ち、白斑毒性を示す可能性があるものであれば、任意の物質を被験物質にすることができる。被験物質の構造、分子サイズ、存在状態(例えば他の物質が混在していたり、他の物質と複合体を形成していたりしてもよい)等は特に問わない。従って、様々な有機化合物若しくは無機化合物、又はそれを含む各種組成物が被験物質となり得る。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。化学物質による白斑毒性が物理的刺激(例えば光線)によって増強される場合(例えば、光過敏性白斑黒皮症等)があることも考慮し、被験物質を適用する際、物理的刺激も加えることにしてもよい。また、既存の物質に限らず、今後開発される物質も被験物質として用いることができる。典型的には、例えば、化粧料(例えば化粧水、美容液、乳液、クリーム等の基礎化粧品、美白用化粧品、保湿用化粧品、ファンデーション、口紅、シャンプー、石鹸、整髪剤等)、皮膚用の医薬部外品(例えばハンドクリーム等の薬用クリーム、美白剤、デオドラント剤、白髪染め、ヘアカラー剤、育毛剤、発毛剤等)、医薬品(外用剤、内服剤(例えば、サイアザイド系利尿剤、筋緊張治療薬等)、点滴薬、注射薬等)等の主成分、副成分、添加物又は基材は好適な被験物質となる。また、化粧料自体、医薬部外品自体、医薬品自体等を被験物質としてもよい。化学工場や原料加工業などの産業行程で作業員や周辺住民が曝露され得る各種物質(例えば化学物質、食品、動物・植物由来物質)を被験物質としてもよい。

【0017】
被験物質は単回又は複数回(例えば、2回~360回)、適用される。後者の場合には、典型的には、所定の間隔(例えば6時間、12時間、一日、二日、三日、1週間、2週間)をおいて所定の期間(例えば1週間、2週間、3週間、4週間、1月、2月、3月、4月、5月、6月)にわたって適用されることになる。ここでの間隔は一定であっても、途中で変動してもよい。また、各回の適用量は同一であっても異なっていても良い。

【0018】
ステップ(2)では、ステップ(1)の処置をしたヘアレスマウスの尾における白斑の誘発の有無又は程度、或いはこれらの両者を評価する。そして、評価結果に基づき被験物質の白斑毒性を判定する。典型的には、白斑が誘発された場合に「被験物質が白斑毒性を有する」と判定することになる。但し、このような断定的な判定ではなく、「被験物質が白斑毒性を有する可能性が高い」又は「被験物質が白斑毒性を有する可能性がある」等のような判定結果を出すことにしてもよい。白斑が誘発されなかった場合には「被験物質が白斑毒性を有しない」又は「被験物質が白斑毒性を有する可能性は低い」等の判定結果が出される。白斑誘発の程度に基づき判定する場合には、例えば、白斑誘発の程度(白斑が誘発されるまでの時間、誘発された白斑のサイズ(面積)、白斑の色調など)に対応した複数の毒性レベルを設定しておき、評価結果がいずれの毒性レベルに該当するかを確認し、被験物質の毒性レベルを判定ないし決定する。白斑誘発の有無又は程度の評価は、白斑が誘発されるまでの時間、誘発された白斑のサイズ(面積)、白斑の色調、被験物質適用部位の皮膚色、被験物質適用部位の皮膚メラニン量、被験物質適用部位の皮膚メラノサイトの量、チロシナーゼ活性、メラノサイト及び周辺細胞におけるメラニン関連分子の発現レベル等の評価項目に従って行うことができる。白斑が誘発されるまでの時間、誘発された白斑のサイズ(面積)、白斑の色調、被験物質適用部位の皮膚色については、目視によっても評価可能であるが、色彩色差計や画像解析ソフト(例えばWinROOF画像解析ソフト(三谷商事株式会社))などを利用して評価してもよい。色彩色差計によって白斑の色調や皮膚色などを評価する際には国際色彩基準L*a*b*表色系を採用するとよい。色彩色差計のL*値(明度)によれば、白斑の色調や皮膚色などをより客観的に評価することができる。また、L*C*hやHSL等の表式系により評価する事も可能である。

【0019】
評価の正確性や信頼度を高めるため、二つ以上の評価項目を併用してもよい。評価項目の併用の例として、(i)白斑が誘発されるまでの時間と、誘発された白斑のサイズ(面積)の二つの評価項目の併用、(ii)白斑が誘発されるまでの時間と、白斑の色調の二つの評価項目の併用、(iii)白斑が誘発されるまでの時間と、誘発された白斑のサイズ(面積)と、白斑の色調の三つの評価項目の併用を挙げることができる。

【0020】
好ましくは、被験物質を適用するヘアレスマウス(試験群)と、被験物質を適用しないこと以外は同条件のヘアレスマウス(対照群)を用意する。そして、採用した評価項目に関して試験群と対照群を比較し、その結果を基にしてステップ(2)の判定を行う。このように試験群と対照群を比較することによれば、被験物質の毒性を容易に且つ高い信頼度で判定することができる。試験群及び対照群に含まれる個体数は特に限定されない。一般に、使用する個体数が多くなるほど信頼度の高い結果が得られるが、多数の個体を同時に取り扱うことは使用する個体の確保や操作(飼育を含む)の面で困難を伴う。そこで、各群に含まれる個体数を例えば1~50、好ましくは2~30、さらに好ましくは5~20とする。

【0021】
2.黒皮症毒性の試験方法
本発明の第2の局面は黒皮症毒性の試験方法を提供する。黒皮症とは、色素沈着によって皮膚が黒褐色~紫褐色に変化する病態である。本発明の黒皮症毒性試験方法では以下のステップ(1)及び(2)を行う。尚、以下では各ステップの詳細を説明するが、第1の局面(白斑毒性試験方法)と共通する用語及び要件については、第1の局面での説明を援用し、重複する説明を省略する。
(1)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚(但し、尾の皮膚を除く)被験物質を適用するステップ
(2)前記ヘアレスRETマウスの前記皮膚における黒皮症の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の黒皮症毒性を判定するステップ

【0022】
ステップ(1)では活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は当該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウス(即ち、遺伝子型がhr/hr;Ret/Oで遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウス)を用意し、その皮膚に被験物質を適用する。尾以外の部位の皮膚に被験物質が適用されるが、好ましくは背、腹又は頭の皮膚を被験物質の適用部位とする。被験物質の適用方法は特に限定されない。例えば、被験物質自体、又は被験物質を含む組成物(溶液、軟膏、クリーム、化粧料等)をマウスの皮膚(尾以外)に塗布若しくは滴下し、或いは皮膚(尾以外)に注射する。プリックテストやスクラッチテストも可能である。

【0023】
黒皮症毒性の評価が必要とされる物質、即ち、黒皮症毒性を示す可能性があるものであれば、任意の物質を被験物質にすることができる。従って、第1の局面の場合と同様に様々な物質を採用することができる(詳細は第1の局面における被験物質の説明を参照)。また、第1の局面の場合と同様に、被験物質の投与とともに物理的刺激を加えることにしてもよい。被験物質の適用回数や適用スケジュールも第1の局面に準ずる。

【0024】
ステップ(1)に続くステップ(2)では、ステップ(1)の処置をしたヘアレスRETマウスの皮膚(尾以外)における黒皮症の誘発の有無又は程度、或いはこれらの両者を評価する。そして、評価結果に基づき被験物質の黒皮症毒性を判定する。当然ながら、被験物質の適用部位に対応する部位で評価、判定することになる。即ち、被験物質をマウスの背に適用した場合は「背」が評価部位となる。同様に、被験物質を腹に適用した場合には「腹」、被験物質を頭に適用した場合には「頭」がそれぞれ評価部位となる。典型的には、黒皮症が誘発された場合に「被験物質が黒皮症毒性を有する」と判定することになる。但し、このような断定的な判定ではなく、「被験物質が黒皮症毒性を有する可能性が高い」又は「被験物質が黒皮症毒性を有する可能性がある」等のような判定結果を出すことにしてもよい。黒皮症が誘発されなかった場合には「被験物質が黒皮症毒性を有しない」又は「被験物質が黒皮症毒性を有する可能性は低い」等の判定結果が出される。黒皮症誘発の程度に基づき判定する場合には、例えば、黒皮症誘発の程度(黒皮症が誘発されるまでの時間、誘発された色素沈着のサイズ(面積)、色素沈着の色調など)に対応した複数の毒性レベルを設定しておき、評価結果がいずれの毒性レベルに該当するかを確認し、被験物質の毒性レベルを判定ないし決定する。黒皮症誘発の有無又は程度の評価は、黒皮症が誘発されるまでの時間、誘発された色素沈着のサイズ(面積)、色素沈着の色調、被験物質適用部位の皮膚色、被験物質適用部位の皮膚メラニン量、被験物質適用部位の皮膚メラノサイトの量、チロシナーゼ活性、メラノサイトおよび周辺細胞におけるメラニン関連分子の発現レベル等の評価項目に従って行うことができる。黒皮症が誘発されるまでの時間、誘発された色素沈着のサイズ(面積)、色素沈着の色調、被験物質適用部位の皮膚色については、目視によっても評価可能であるが、色彩色差計や画像解析ソフト(例えばWinROOF画像解析ソフト(三谷商事株式会社))などを利用して評価してもよい。色彩色差計によって白斑の色調や皮膚色などを評価する際には国際色彩基準L*a*b*表色系を採用するとよい。色彩色差計のL*値(明度)によれば、色素沈着の色調や皮膚色などをより客観的に評価することができる。

【0025】
評価の正確性や信頼度を高めるため、二つ以上の評価項目を併用してもよい。評価項目の併用の例として、(i)黒皮症が誘発されるまでの時間と、誘発された色素沈着のサイズ(面積)の二つの評価項目の併用、(ii)黒皮症が誘発されるまでの時間と、色素沈着の色調の二つの評価項目の併用、(iii)黒皮症が誘発されるまでの時間と、誘発された色素沈着のサイズ(面積)と、色素沈着の色調の三つの評価項目の併用を挙げることができる。

【0026】
第1の局面の場合と同様に、黒皮症毒性試験方法においても試験群と対照群を用意し、これらの比較に基づき被験物質の毒性を評価及び判定することが好ましい。

【0027】
3.白斑毒性と黒皮症毒性の同時評価に有用なマウス及びそれを用いた試験方法
後述の実施例に示す通り、ヘアレスRETマウス(即ち、遺伝子型がhr/hr;Ret/Oで遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウス)では、低濃度のロドデノール及びラズベリーケトンの適用により、尾部皮膚では白斑が誘発され、背部皮膚では黒皮症が誘発された。即ち、当該ヘアレスRETマウスは白斑毒性及び黒皮症毒性に高い感受性を示すという、ユニークかつ有用な特性を備え、それ自体の利用価値が高い。そこで本発明は更なる局面として、以下の(i)又は(ii)のマウスからなる、白斑毒性及び黒皮症毒性に感受性のマウスを提供する。尚、(i)及び(ii)のマウスは、上記第1の局面及び第2の局面で使用されるマウスと同一であるため、重複する説明を省略する。以下では、この局面に特有の事項を説明する。
(i)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス
(ii)(i)のマウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウス

【0028】
(ii)のマウスは、(i)のマウスに比較して遺伝的背景の均一性が高く、個体差による影響を低減できるため、安定した毒性評価が可能になるという利点を有し、特に好ましいといえる。兄妹交配は例えば10回以上、好ましくは20回以上(具体的には20回~30回)行うとよい。

【0029】
RET/o-トランスジェニックマウスの具体例は192系統RET/o-トランスジェニックマウス、242系統RET/o-トランスジェニックマウス、304系統RET/o-トランスジェニックマウス、及び304系統RET/o-トランスジェニックマウスに対してC57BL/6マウスを交配して得られた304/B6系統RET/o-トランスジェニックマウスであるが、好ましくは242系統が用いられる。

【0030】
ヘアレスRETマウスは白斑毒性の評価(第1の局面)と黒皮症毒性の評価(第2の局面)に有用であるが、この局面は、白斑毒性及び黒皮症毒性の両者に高い感受性を示すという特徴を活かし、白斑毒性と黒皮症毒性を同時に評価・判定するという極めてユニークな試験方法を提供する。当該試験方法(白斑毒性と黒皮症毒性の同時試験方法)では以下のステップ(1)~(3)を行う。尚、以下では各ステップの詳細を説明するが、第1の局面(白斑毒性試験方法)と共通する用語及び要件については、第1の局面での説明を援用し、重複する説明を省略する。
(1)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの尾と、皮膚(但し、尾の皮膚を除く)とに被験物質を適用するステップ
(2)前記ヘアレスRETマウスの尾における白斑の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の白斑毒性を判定するステップ
(3)前記ヘアレスRETマウスの前記皮膚における黒皮症の誘発の有無及び/又は程度を評価し、評価結果に基づき被験物質の黒皮症毒性を判定するステップ

【0031】
ステップ(1)ではヘアレスRETマウスを用意し、その尾と、皮膚(但し、尾の皮膚を除く)とに被験物質を適用する。即ち、大別して2箇所に被験物質が適用される。各部位への適用は、実質的な時間差を設けることなく(即ち、実質的同時に)、或いは所定の時間間隔を空けて行われる。

【0032】
白斑毒性の評価が必要とされる物質を第1の被験物質として尾に適用し、黒皮症毒性の評価が必要とされる別の物質を第2の被験物質として皮膚(尾以外)に適用し、各被験物質の毒性を同時に評価することも可能であるが、同一の被験物質を尾と皮膚(尾以外)の両方に適用することにすれば、当該物質の白斑毒性と黒皮症毒性を同時に評価することができる。この場合、白斑毒性又は黒皮症毒性、或いはこれらの両者の評価が必要とされる物質を被験物質とする。第1の局面/第2の局面の場合と同様に様々な物質を採用することができる(詳細は第1の局面/第2の局面における被験物質の説明を参照)。被験物質の適用回数や適用スケジュールも第1の局面/第2の局面に準ずる。

【0033】
ステップ(2)では、ステップ(1)の処置をしたヘアレスRETマウスの尾における白斑の誘発の有無又は程度、或いはこれらの両者を評価する。そして、評価結果に基づき被験物質の白斑毒性を判定する。一方、ステップ(3)では、ステップ(1)の処置をしたヘアレスRETマウスの皮膚(尾以外)における黒皮症の誘発の有無又は程度、或いはこれらの両者を評価する。そして、評価結果に基づき被験物質の黒皮症毒性を判定する。ステップ(2)及び(3)はいずれを先に行ってもよい。また、ステップ(2)と(3)を並行して行うことにしてもよい。ステップ(2)の評価及び判定の詳細(評価項目や判定結果など)及びステップ(3)の評価及び判定の詳細(評価項目や判定結果など)は、それぞれ、第1の局面及び第2の局面に準ずる。尚、各ステップにおいて、評価の正確性や信頼度を高めるために二つ以上の評価項目を併用してもよいことや、試験群と対照群を用意し、これらの比較に基づき被験物質の毒性を評価及び判定することが好ましいことなども、上記の局面と同様である。

【0034】
4.in vitro試験系
この局面は細胞ベースの試験方法に関する。具体的には、第1の局面で使用するヘアレスマウスの尾から採取されるメラノサイト又はその継代細胞(株化した細胞も含む)を用いて被験物質の白斑毒性を評価する試験方法と、第2の局面で使用するヘアレスRETマウスの皮膚(但し、尾の皮膚を除く)から採取されるメラノサイト又はその継代細胞(株化した細胞も含む)を用いて被験物質の黒皮症毒性を評価する試験方法が提供される。白斑毒性又は黒皮症毒性の評価には、例えば、メラニン発現量、メラノサイトの増殖能、メラノサイトの生存率、メラノサイト遊走能等の細胞生理機能検査に加え、これらの細胞生理機能に影響を与える分子(チロシナーゼ、αMSH、エンドセリン、エンドセリン受容体、SCF、c-Kit、POMC、GM-CSF、Mitf等)の発現又は活性レベルといった評価項目を利用することができる。

【0035】
より具体的なin vitro試験系として、以下のステップ(a)~(d)を含む、白斑毒性又は黒皮症毒性、或いはこれらの両者を評価するための試験方法が提供される。
(a)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚メラノサイトを含む試料を用意し、試験群と対照群に分けるステップ
(b)試験群を被験物質の存在下で培養するステップ
(c)ステップ(b)後の試験群と、被験物質が非存在下であること以外は同一の条件で培養した対照群について、c-Met、RFP-RET、c-Ret、Enothelin receptor B (Ednrb)、c-kit、Mc1r、Mitf-m、Tyrosinase、Tyrosinase-realted protein-2、TGF-beta type receptor 2 (Tgfr2)、Fibroblast growth factor (Fgfr)、Bcl2、p53、survivin、CCAAT-enhancer-binding protein homologous protein (CHOP)、Glutamate cysteine ligase (GCLC)、NF-E2 related factor2(Nrf2)、Heat shock protein (HSP) 70、Foxp1、Foxp3、CCR6、Bach2、NACHT leucine-rich-repeat protein 1 (Nalp)、Cytotoxic T-lymphocyte antigen-4 (Ctla4)及びGranzyme B(GZMB)からなる群より選択される一以上のマーカー分子の発現又は活性を検出するステップ
(d)試験群と対照群の間で検出結果を比較し、比較結果に基づき被験物質の白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を判定するステップ

【0036】
ステップ(a)では、ヘアレスRETマウス(即ち、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウス)の皮膚メラノサイトを含む試料を用意する。ヘアレスRETマウスについては前述の通り(1.白斑毒性の試験方法の欄)であるのでその詳細な説明は省略する。ここでの試料として、細胞(皮膚メラノサイト単独、又は皮膚メラノサイトと皮膚組織を構成する他の細胞との併用)又は組織片(皮膚組織、表皮組織、若しくは真皮組織)を用いることができる。前者の場合、細胞培養(メラノサイトの単独培養又は共培養)が行われ、後者の場合には器官培養が行われることになる。ステップ(a)に使用する試料は、ヘアレスRETマウスの背部皮膚や尾部皮膚から公知の方法で採取ないし単離することができる。以下、ヘアレスRETマウスの皮膚メラノサイト系細胞の単離及び培養(初代培養)の手順の例を示す。

【0037】
生後0.5日のヘアレスRETマウスの背部皮膚又は尾部皮膚を用いる。単離した背部皮膚又は尾部皮膚をカルシウム・マグネシウム不含のリン酸緩衝液で洗い、0.25%トリプシン溶液に浸漬し2℃で一晩静置する。ピンセットにて表皮と真皮を剥離する。剥離した表皮シートのみを0.02%EDTA溶液にて37℃で10分処理し、ピペッティングにより細胞を解離させる。残った角質シートをピンセットで取り除き、遠心にて細胞ペレットを得る。細胞ペレットをHam's F-10培地中で懸濁した後、メラノサイト選択培地にて37℃、5% CO2にて培養する(培地組成は以下に示す)。培地組成を変えることにより、「未分化メラノサイト」、「分化メラノサイト」、「増殖性未分化メラノサイト」、「増殖性分化メラノサイト」の純粋培養が得られる(Hirobe T. Melanocyte stimulating hormone induces the differentiation of mouse epidermal melanocytes in serum-free culture. J Cell Physiol. 152(2):337-45, 1992.;Hirobe T. Endothelins are involved in regulating the proliferation and differentiation of mouse epidermal melanocytes in serum-free primary culture. J Investig Dermatol Symp Proc. 6(1):25-31, 2001.)。いずれのメラノサイト系細胞を用いてもよいが、好ましくは、より一般的に使用されるメラノサイト(分化メラノサイト又は増殖性分化メラノサイト)を用いる。メラノサイトの中でも増殖性分化メラノサイトは多くの試験物質を評価することに適しており、特に好ましいといえる。尚、試料として用いる皮膚メラノサイト系細胞として、継代培養後の細胞を用いることにしてもよい。

【0038】
<培地の種類と組成>
培地A:未分化メラノサイト培地
Ham's F-10培地
インスリン (10μg/ml)
牛血清アルブミン (1 mg/ml)
エタノールアミン(1μM)
フスフォエタノールアミン (1μM)
亜セレン酸ナトリウム (10 nM)
ペニシリンG (100 U)
Streptomycin sulfate (100μg/ml)
Gentamycin sulfate (50μg/ml)
Amphotericin B (0.25μg/ml)

【0039】
培地B:分化メラノサイト培地
培地Aにα-melanocyte stimulating hormone(α-MSH)(100 nM)を添加したもの

【0040】
培地C:増殖性分化メラノサイト培地
培地AにDibutyryl adenosine 3-cyclic monophosphate (DBcAMP)(0.5 mM)を添加したもの

【0041】
培地D:増殖性未分化メラノサイト培地
培地Cにbasic fibroblast growth factor (bFGF) (2.5 ng/ml)を添加したもの

【0042】
用意した試料は試験群と対照群に分けられ、所定の条件下でそれぞれ培養される(ステップ(b))。試験群については被験物質の存在下で培養する。被験物質の存在下で培養するためには、例えば、試料を培養しておき、被験物質を培養液に添加するか或いは被験物質を添加した培養液に交換すればよい。培養開始直後に被験物質の添加或いは被験物質を添加した培養液への交換を実施することにしてもよい。また、被験物質を予め添加した培養液を用いることにし、培養開始と同時に「被験物質が培養液中に存在した状態」が形成されるようにしてもよい。尚、第1の局面/第2の局面の場合と同様に様々な物質を被験物質として採用することができる(詳細は第1の局面/第2の局面における被験物質の説明を参照)。

【0043】
被験物質存在下での培養時間は特に限定されないが、例えば0.5分~5日間、好ましくは30分~5時間とする。尚、最適な培養時間は予備実験によって決定することができる。

【0044】
本明細書で言及しない事項(培地、培養温度など)については、一般的な培養条件に従えばよい。培養条件は、過去の報告や成書を参考にして、或いは予備実験を通じて決定すればよい。尚、培養温度は通常37℃とする。

【0045】
ステップ(c)では、試験群と対照群について、c-Met、RFP-RET、c-Ret、Enothelin receptor B (Ednrb)、c-kit、Mc1r、Mitf-m、Tyrosinase、Tyrosinase-realted protein-2、TGF-beta type receptor 2 (Tgfr2)、Fibroblast growth factor (Fgfr)、Bcl2、p53、survivin、CCAAT-enhancer-binding protein homologous protein (CHOP)、Glutamate cysteine ligase (GCLC)、NF-E2 related factor2(Nrf2)、Heat shock protein (HSP) 70、Foxp1、Foxp3、CCR6、Bach2、NACHT leucine-rich-repeat protein 1 (Nalp)、Cytotoxic T-lymphocyte antigen-4 (Ctla4)及びGranzyme B(GZMB)からなる群より選択される一以上のマーカー分子の発現又は活性を検出する。好ましくは、c-Met又はRFP-RET、或いはこれらの両方を用いる。採用するマーカー分子に適した検出法が採用される。例えば、転写活性(ルシフェラーゼ活性評価法等)、遺伝子発現レベル(リアルタイムPCR等)、タンパク質発現レベル(ウエスタンブロット、ELISA、免疫組織化学等)、リン酸化などの活性化レベル(ウエスタンブロット、ELISA、免疫組織化学等)を常法で検出する。分泌タンパク質であれば、培養上清中のタンパク質をELISA等で検出/定量することも可能である。

【0046】
ステップ(d)では、試験群と対照群の間で検出結果を比較し、比較結果に基づき被験物質の白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を判定する。即ち、本発明では、試験群と対象群の検出結果を利用して、白斑毒性又は黒皮症毒性、或いはこれらの両方を同時に判定することになる。

【0047】
上掲のマーカー分子の中で、RFP-RET、c-Met、c-Ret、Ednrb、c-Kit、Mc1r、Mitf-m、Tyrosinase、TRP2、Tgfbeta-2、Fgfr、Bcl2、p53、survivin、GCGL、Nrf2、HSP70、Foxp1、Focp3、Bach2、Nalp、Ctla4は、その発現量/活性と黒皮症毒性が正の相関を示す。従って、これらのマーカー分子はその発現量/活性の上昇が黒皮症毒性の指標となり、典型的には、対照群に比較して試験群の方がマーカー分子の発現量/活性が高い場合、「被験物質が黒皮症毒性を有する」と判定することになる。他方、CHOP、CCR6、GZMBは、その発現量/活性と黒皮症毒性が負の相関を示す。従って、これらのマーカー分子はその発現量/活性の低下が黒皮症毒性の指標となり、典型的には、対照群に比較して試験群の方がマーカー分子の発現量/活性が低い場合、「被験物質が黒皮症毒性を有する」と判定することになる。発現量/活性の程度(レベル)に基づき、黒皮症毒性の程度(レベル)を評価することにしてもよい。また、複数の被験物質を用いた場合には、マーカー分子の発現又は活性の上昇又は低下の程度に基づき、各被験物質の黒皮症毒性を比較評価することができる。

【0048】
上掲のマーカー分子の中で、CHOP、CCR6、GZMBは、その発現量/活性と白斑毒性が正の相関を示す。従って、これらのマーカー分子はその発現量/活性の上昇が白斑毒性指標となり、典型的には、対照群に比較して試験群の方がマーカー分子の発現量/活性が高い場合、「被験物質が白斑毒性を有する」と判定することになる。他方、RFP-RET、c-Met、c-Ret、Ednrb、c-Kit、Mc1r、Mitf-m、Tyrosinase、TRP2、Tgfbeta-2、Fgfr、Bcl2、p53、survivin、GCGL、Nrf2、HSP70、Foxp1、Focp3、Bach2、Nalp、Ctla4は、その発現量/活性と白斑毒性が負の相関を示す。従って、これらのマーカー分子はその発現量/活性の低下が白斑毒性の指標となり、典型的には、対照群に比較して試験群の方がマーカー分子の発現量/活性が低い場合、「被験物質が白斑毒性を有する」と判定することになる。発現量/活性の程度(レベル)に基づき、白斑毒性の程度(レベル)を評価することにしてもよい。また、複数の被験物質を用いた場合には、マーカー分子の発現又は活性の上昇又は低下の程度に基づき、各被験物質の白斑毒性を比較評価することができる。

【0049】
好ましくは、白斑毒性の指標としてc-Metを採用し、黒皮症毒性の指標としてRFP-RETを採用する。最も好ましい態様の一つでは、これらの二つの指標を併用し、白斑毒性と黒皮症毒性を同時に判定・評価する。

【0050】
in vitro試験系の更なる態様として、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウス(以下、「RET-マウス」と呼ぶ)由来のメラノサイト系細胞株を用いた試験方法が提供される。この試験方法では、予め用意しておくことが容易なメラノサイト系細胞株を用いる点において、上記の試験方法よりも簡便であるといえる。活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスついては前述の通り(1.白斑毒性の試験方法の欄)であるのでその詳細な説明は省略する。マウスメラノサイト系細胞株は、例えば、RETマウスのメラノサイト系細胞を含む皮膚組織から単離した細胞から樹立することができる。より詳細には、マウスから採取したメラノサイト系細胞を含む皮膚組織を器官培養し、器官外に遊走してきた細胞の継代培養を繰り返す方法、マウスから採取したメラノサイト系細胞を含む皮膚組織をトリプシンなどの酵素により解離させた細胞の継代培養を繰り返す方法、Simian virus 40(SV40)T抗原のようなウイルス遺伝子を利用して不死化を誘発する方法、テロメア逆転写タンパク質(TERT)を発現させて不死化を誘発する方法等の操作によってRET-マウス由来のメラノサイト系細胞株を樹立することができる。

【0051】
この態様では、典型的には、以下のステップ(A)~(D)を行い、被験物質の白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を評価する。
(A)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウス由来のメラノサイト系細胞株を用意し、試験群と対照群に分けるステップ
(B)試験群を被験物質の存在下で培養するステップ
(C)ステップ(B)後の試験群と、被験物質が非存在下であること以外は同一の条件で培養した対照群について、c-Met、RFP-RET、c-Ret、Enothelin receptor B (Ednrb)、c-kit、Mc1r、Mitf-m、Tyrosinase、Tyrosinase-realted protein-2、TGF-beta type receptor 2 (Tgfr2)、Fibroblast growth factor (Fgfr)、Bcl2、p53、survivin、CCAAT-enhancer-binding protein homologous protein (CHOP)、Glutamate cysteine ligase (GCLC)、NF-E2 related factor2(Nrf2)、Heat shock protein (HSP) 70、Foxp1、Foxp3、CCR6、Bach2、NACHT leucine-rich-repeat protein 1 (Nalp)、Cytotoxic T-lymphocyte antigen-4 (Ctla4)及びGranzyme B(GZMB)からなる群より選択される一以上のマーカー分子の発現又は活性を検出するステップ
(D)試験群と対照群の間で検出結果を比較し、比較結果に基づき被験物質の白斑毒性及び/又は黒皮症毒性を判定するステップ

【0052】
ステップ(A)では、RET-マウス由来のメラノサイト系細胞株を用意し、試験群と対照群に分ける。続いて、所定の条件下でそれぞれ培養する(ステップ(B))。培養方法、培養時間等は、ヘアレスRETマウスの皮膚メラノサイトを用いた上記試験方法のステップ(b)に準ずる。ステップ(C)及びステップ(D)についても、それぞれ、ヘアレスRETマウスの皮膚メラノサイトを用いた上記試験方法のステップ(c)及びステップ(d)と同様であるため、その説明を省略する。

【0053】
5.白斑又は黒皮症の予防又は治療用薬剤のスクリーニング方法
本発明の更なる局面は、白斑又は黒皮症の予防又は治療用薬剤のスクリーニング方法を提供する。この局面の第1の態様は白斑の予防又は治療用薬剤のスクリーニング方法であり、以下のステップ(a)~(c)を含む。
(a)メラニン産生能を有するヘアレスマウスの尾に白斑誘発処理を施すステップ
(b)前記ヘアレスマウスに被験物質を投与するステップ
(c)被験物質の予防効果又は治療効果を判定するステップ

【0054】
用語「白斑の予防又は治療用薬剤」は、白斑を発症している患者に対してその症状の改善などを目的として使用される薬剤はもとより、白斑を発症するおそれのある者に対して予防的に(再発防止の目的も含む)使用される薬剤も含む用語として用いられる。このように、本発明のスクリーニング方法を利用して得られる薬剤は、白斑の予防又は治療を目的として使用することができる。

【0055】
ステップ(a)ではメラニン産生能を有するヘアレスマウスを用意し、その尾に白斑誘発処理を施す。メラニン産生能を有するヘアレスマウスについては第1の局面と同様であるため、その説明を省略する。白斑誘発処理は、例えば、白斑毒性のある物質(例えばロドデノール、ラズベリーケトン)の適用(塗布、滴下、注射等)によって行われる。

【0056】
ステップ(b)における被験物質の投与方法としては、尾の皮膚への塗布若しくは滴下、経口投与や静脈内、動脈内、皮下、筋肉、又は腹腔内注射等を例示することができる。被験物質としては様々な分子サイズの有機化合物(核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド等))又は無機化合物を用いることができる。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。核酸・蛋白質、脂質を含む細胞抽出液、培養上清などを被験物質として用いてもよい。2種類以上の被験物質を併用することにしてもよい。

【0057】
被験物質の投与時期(投与のタイミング)は特に限定されず、ステップ(a)の白斑誘発処理の前、白斑誘発処理と同時、又は白斑誘発処理の後に被験物質を投与する。投与回数も特に限定されず、単回又は複数回の投与を行う。

【0058】
ステップ(c)では被験物質の治療又は予防効果を判定する。予防効果又は治療効果があると判定された被験物質は有力な薬剤候補となる。白斑の誘発の有無又は程度、或いはこれらの両者の評価によって治療又は予防効果を判定することができる。評価の指標や評価方法は第1の局面と同様であるため、その詳細な説明は省略する。

【0059】
この局面の第2の態様は、黒皮症の予防又は治療用薬剤のスクリーニング方法であり、以下のステップ(A)~(C)を含む。
(A)活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウスの皮膚(但し、尾の皮膚を除く)に黒皮症誘発処理を施すステップ
(B)前記ヘアレスRETマウスに被験物質を投与するステップ
(C)被験物質の予防効果又は治療効果を判定するステップ

【0060】
用語「黒皮症の予防又は治療用薬剤」は、黒皮症を発症している患者に対してその症状の改善などを目的として使用される薬剤はもとより、黒皮症を発症するおそれのある者に対して予防的に(再発防止の目的も含む)使用される薬剤も含む用語として用いられる。このように、本発明のスクリーニング方法を利用して得られる薬剤は、黒皮症の予防又は治療を目的として使用することができる。

【0061】
ステップ(A)では、活性化型RET遺伝子がヘテロ型に遺伝子導入されたRET/o-トランスジェニックマウスに、遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウスを戻し交配して得られたヘアレスRETマウス、又は当該マウスを兄妹交配して得られたヘアレスRETマウス(即ち、遺伝子型がhr/hr;Ret/Oで遺伝的背景がC57BL/6のヘアレスマウス)を用意し、その皮膚(例えば背、腹又は頭)に黒皮症誘発処理を施す。当該ヘアレスRETマウスについては、第2の局面と同様であるため、その説明を省略する。黒皮症誘発処理は、例えば、黒皮症毒性のある物質(例えばロドデノール、ラズベリーケトン)の適用(塗布、滴下、注射等)によって行われる。

【0062】
ステップ(B)における被験物質の投与方法(但し、塗布、滴下などによって投与する場合には、黒皮症誘発処理を施す部位を適用部位にする)や投与時期、被験物質として採用可能な物質等は第1の態様と同様である。

【0063】
ステップ(C)では被験物質の治療又は予防効果を判定する。予防効果又は治療効果があると判定された被験物質は有力な薬剤候補となる。黒皮症の誘発の有無又は程度、或いはこれらの両者の評価によって治療又は予防効果を判定することができる。評価の指標や評価方法は第2の局面と同様であるため、その詳細な説明は省略する。

【0064】
本発明のスクリーニング方法(第1の態様及び第2の態様)では、好ましくは、被験物質が投与されるモデル動物群(試験群)と、被験物質が投与されないこと以外は同条件のモデル動物群(対照群)を用意する。そして、採用した指標に関して試験群と対照群を比較し、その結果を基にして判定(ステップ(c)、ステップ(C))を行う。比較の結果、例えば対照群のみで白斑(第1の態様の場合)又は黒皮症(第2の態様の場合)の発症を認める場合、試験群の方が対照群よりも白斑(第1の態様の場合)又は黒皮症(第2の態様の場合)の症状が進行ないし重篤化していない場合、試験群で症状の有意な軽快を認める場合など、試験群に治療ないし予防効果が認められれば、被験物質が白斑の予防又は治療用薬剤(第1の態様の場合)或いは黒皮症の予防又は治療用薬剤(第2の態様の場合)の有力な候補であると判定できる。このように被験物質を投与する群(試験群)と投与しない群(対照群)とを比較することによれば、被験物質の有効性を容易に且つ高い信頼度で判定することができる。

【0065】
試験群及び対照群に含まれる個体数は特に限定されない。一般に使用する個体数が多くなるほど信頼度の高い結果が得られるが、多数の個体を同時に取り扱うことは使用する個体の確保や操作(飼育を含む)の面で困難を伴う。そこで例えば各群に含まれる個体数を1~50、好ましくは2~30、さらに好ましくは5~20とする。

【0066】
本発明のスクリーニング方法によって選択された化合物が白斑(第1の態様の場合)又は黒皮症(第2の態様の場合)に対して十分な薬効を有する場合には、当該化合物をそのまま薬剤の有効成分として使用することができる。一方で十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で、白斑の予防又は治療用薬剤(第1の態様の場合)或いは黒皮症の予防又は治療用薬剤(第2の態様の場合)の有効成分として当該化合物を使用することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。

【0067】
本明細書で特に言及しない事項(条件、操作方法など)については常法に従えばよく、例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)、Current protocols in Immunology, John Wiley& Sons Inc等を参考にすることができる。
【実施例】
【0068】
A.ヘアレスマウスを用いた毒性評価系の構築
1.マウス
剃毛処理を必要としない無毛のヘアレスマウスとして、ヘアレス野生型マウス(図1A)とヘアレスRETマウス(図1B)を用意した。両マウスの作製法は下記の通りである。
【実施例】
【0069】
(1)ヘアレス野生型マウスの作製法
星野試験動物飼育所より購入した無毛(hr/hr)でメラニン産生可能なヘアレス野生型マウス(Hos:HRM:CBA/J x C57BL/6J Jmsバックグラウンド)に、C57BL/6マウスを7回バッククロスしたヘアレス野生型マウス(C57BL/6バックグラウンド)を作製し、その後、10回以上の兄妹交配により繁殖させたものを使用した。
【実施例】
【0070】
(2)ヘアレスRETマウスの作製法
本発明者らの研究グループは、以前、192系統(BCF1マウスと1回交配した後、C57BL/6と1回交配)・242系統(BCF1マウスと1回交配した後、C57BL/6と1回交配)・304系統(BCF1マウスと1回交配した後、C57BL/6と6回戻し交配)のRET/o-トランスジェニックマウスを開発した(Iwamoto et al., 1991; Kato et al.,1998)。これらの3系統のRET/o-トランスジェニックマウスに、(1)で作製したヘアレス野生型マウス(C57BL/6バックグラウンド)を7回戻し交配することによってヘアレスRETマウス(C57BL/6バックグラウンド)を作製した。その後、10回以上の兄妹交配により繁殖させたヘアレスRETマウスを以下の実験に使用した。
(3)各マウスの特徴
上述の方法で作製したマウスの内、192系統及び304系統は腫瘍を発症するため、好ましくは242系統のヘアレスRETマウスを用いる。図1に、ヘアレス野生型マウス(A)及び242系統のヘアレスRETマウス(B)の背部(左)及び尾部(右)を示す。ヘアレス野生型マウスの背部皮膚では肉眼的に皮膚の黒さはほとんど確認されない。一方、ヘアレスRETマウスでは背部皮膚全体が黒い。色彩色差計(コニカミノルタCR400)によって計測した皮膚の明るさ(白さ)を示すL*値は、ヘアレス野生型マウスと比べ、ヘアレスRETマウスにおいて統計学的に有意に小さいことが示された(図1C)。尾部の皮膚については、ヘアレス野生型マウスにおいても一定の黒さが確認できるものの、ヘアレスRETマウスの方がより皮膚色が黒い(図1A、B)。
【実施例】
【0071】
尚、上記の方法で作製したヘアレスRETマウス(C57BL/6バックグラウンド)は、以前に報告したヘアレスRETマウス(Hos:HRMマウスと1回交配して作製した242系統のヘアレスRETマウス(CBA/J x C57BL/6J Jmsバックグラウンド。特開2013-106554号公報を参照)とは遺伝的背景の異なる別の系統である。両系統の違いは、皮膚の黒さの違いとして現れ、上記の方法で作製したヘアレスRETマウスは皮膚の黒さが弱い。この特徴は黒皮症毒性の評価における感度に影響する(有利に働く)。
【実施例】
【0072】
2.低濃度のロドデノール及びラズベリーケトンを用いた外用試験
ヘアレス野生型マウス(C57BL/6バックグラウンド)及びヘアレスRETマウス(C57BL/6バックグラウンド)の背部皮膚と尾部皮膚に、70%エタノールにて溶解した2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンを毎日1回、週5回外用した(試験群)。対照群(コントロール)には溶媒(70%エタノール)のみを外用した。外用量は9.0μl/cm2とした。
【実施例】
【0073】
(1)目視、色彩色差計及び画像解析による評価
(1-1)背部皮膚の評価結果
2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンの外用を初めて約3ヶ月後、ヘアレスRETマウスの背部皮膚において黒皮症が誘発された(図2A)。一方、ヘアレス野生型マウスの背部皮膚では、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンを外用したいずれの皮膚においても皮膚色の変化は観察されなかった(図2A)。色彩色差計により計測したL*値による客観評価の結果からも、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンを外用したヘアレスRETマウスの背部皮膚では、溶媒を外用した背部皮膚と比べてL*値のレベルが有意に低い(皮膚がより黒い)ことが示された(図2B)。一方、ヘアレス野生型マウスでは、溶媒を外用した皮膚と、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンを外用した皮膚の間でL*値に有意な差はみられなかった(図2B)。
【実施例】
【0074】
(1-2)尾部皮膚の評価結果
外用を始めて約1ヶ月後、ヘアレス野生型マウスの尾部皮膚では、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンの外用により脱色素が観察された(図2C)。ヘアレスRETマウスの尾部背部皮膚では、外用後1ヶ月の時点で肉眼的に脱色素を観察することはできなかったが、外用を始めて約3ヶ月後、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンの外用により脱色素が観察された(図2C)。尾部皮膚については、装置の構造上の制約から色彩色差計による測定が困難であったため、写真撮影後に画像解析ソフト(WinROOF)にて皮膚の黒さを数値化することで客観評価を行った。その結果、ヘアレス野生型マウス、ヘアレスRETマウスのいずれにおいても、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンを外用した尾部皮膚の黒さは、溶媒を外用した尾部皮膚と比べ、有意に低いことが示された(図2D)。
【実施例】
【0075】
(2)病理解析による評価
次に、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンによって誘発された、黒皮症及び脱色素がヒトの黒皮症・白斑の病態と類似しているかどうかを確認するために病理解析を行った(図3、4)。ヒトの白斑部では、メラニン色素の減少/消失及びメラノサイト数の減少/消失が報告されている。ロドデノールやラズベリーケトンが誘発する黒皮症におけるメラニン及びメラノサイトに関しては現時点でほとんど情報がないが、黒皮症では一般にメラニン色素の増加が確認されており、また、メラノサイトの数については、変化しない症例と増加する症例が報告されている。皮膚メラニンを検出するため、皮膚パラフィン切片を作製し、フォンタナマッソン染色を行った。また、メラノサイトを検出するため、メラノサイト特異抗原であるDopachrometautomerase(Dct)に対する抗体を用いた免疫組織化学法を行った。
【実施例】
【0076】
(2-1)背部皮膚の評価結果
組織学的観察においてもWinROOFによる客観評価においても、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンを外用したヘアレス野生型マウスの背部皮膚と、溶媒を外用した背部皮膚との間でメラニン分布及びメラニン密度の有意な差は認められなかった(図3A、B)。一方、黒皮症が観察されたヘアレスRETマウスの背部皮膚では、組織学的観察及びWinROOFによる客観評価において、溶媒を外用した背部皮膚に比べて有意にメラニン密度が高い事が示された(図3A、B)。また、ヘアレス野生型マウスでは、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトン外用によるメラノサイト数の変化は認められなかったが(図3C、D)、ヘアレスRETマウスでは、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンを外用した皮膚においてメラノサイトの数の明らかな増加(溶媒を外用した皮膚の約2倍のメラノサイト数)が認められた(図3C、D)。
【実施例】
【0077】
(2-2)尾部皮膚の評価結果
2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンの外用により脱色素が確認されたヘアレス野生型マウス、及びヘアレスRETマウスの尾部皮膚におけるメラニン密度は、溶媒を外用した尾部皮膚のメラニン密度と比べ有意に低いことが組織学的観察及びWinROOFによる客観評価により明らかとなった(図4A、B)。また、2%ロドデノール又は2%ラズベリーケトンを外用した尾部皮膚のメラノサイト数は、溶媒を外用した尾部皮膚のメラノサイト数と比べて有意に少ないことが、組織学的観察及びWinROOFによる客観評価により示された(図4C、D)。
【実施例】
【0078】
(3)考察
・実際の美白剤等に含まれる低濃度の化学物質を用いた白斑毒性及び黒皮症毒性の評価が可能となった。ヘアレス野生型マウスについては尾部皮膚において白斑毒性を、ヘアレスRETマウスについては、尾部皮膚における白斑毒性と背部皮膚における黒皮症毒性を同時に評価可能である。
・ヘアレス野生型マウスでは約1ヶ月の外用期間、ヘアレスRETマウスでは約3ヶ月の外用期間により白斑が誘発されたことから、ヘアレス野生型マウスを用いた試験は、より感度が高いヒトを想定した白斑毒性評価系として特に有用である。一方、ヘアレスRETマウスを用いた試験は、比較的長期間かけて白斑が発症するタイプのヒトを想定した白斑毒性評価系として特に有用といえる。ヘアレス野生型マウスとヘアレスRETマウスを併用して評価すれば、感受性の異なるヒトを対象として毒性評価が可能となる。
・ヘアレス野生型マウス及びヘアレスRETマウスを用いた評価系では、剃毛や紫外線照射などの副次的な刺激が必要ないため、化学物質の毒性を一元的に評価可能であり、信頼性の高い評価結果が得られる。
・ヘアレス野生型マウス及びヘアレスRETマウスによって、ロドデノールのみならずラズベリーケトンの白斑・黒皮症毒性を評価できた。この事実は、ヘアレス野生型マウス又はヘアレスRETマウスを用いた評価系が汎用性に優れ、多種多様な化学物質の毒性評価に利用できることを示す。
【実施例】
【0079】
B.in vitro毒性評価系の構築
より簡便且つ短時間で白斑毒性及び黒皮症毒性を評価できる評価系の確立を目指し、RET-マウスから単離・樹立した細胞株を用い、ロドデノール曝露による黒皮症関連遺伝子及び白斑関連遺伝子の発現変化を調べた。RET-マウスにはRFP-RET遺伝子が導入されており、これにより黒皮症が発症することが報告されている(非特許文献5)。そこで、本モデルから単離した細胞株を用い、RFP-RET遺伝子発現を指標に黒皮症毒性を評価した。一方、白斑毒性評価についてはc-Met遺伝子に着目した。c-Metは受容体型チロシンキナーゼであり、ヒトのメラノサイトの増殖・機能に関与する代表分子である(非特許文献6)。
【実施例】
【0080】
1.方法
RET-マウスから単離したメラノサイト細胞株を1.0 x 105/wellの密度で6-well platesに播種した。ロドデノールは、dimethyl sulfoxide (DMSO)にて終濃度の1000倍濃度となるように溶解し、それらを培養液に1/1000量添加した(0.1% DMSO)。メラノサイト細胞株をロドデノールに5時間曝露した後、定量PCR法によりRFP-RET、c-Met、HprtのmRNA発現解析を行った。
【実施例】
【0081】
2.結果
0.2 % ロドデノール添加により、RFP-RETのmRNA発現レベルは約2倍に上昇した。また、0.00002 % ロドデノール添加によりc-MetのmRNA発現レベルは約30%に減少した(図5)。
【実施例】
【0082】
3.考察
(1)ロドデノール曝露により、黒皮症マーカーであるRFP-RETのmRNA発現レベルが上昇し、メラノサイトの生存マーカーであるc-MetのmRNA発現レベルが減少したことから、本試験法を用いることにより、ロドデノールによる黒皮症毒性および白斑毒性を同時に評価できることが示された。
(2)in vitro試験系を用いたロドデノールによる毒性の評価に関する先行技術(非特許文献1、7、8)は、白斑毒性の評価に限定された試験である。対照的に、本評価系によれば白斑毒性と黒皮症毒性を同時に評価可能である。
(3)ヒトにおいて、ロドデノールは白斑毒性を示すだけでなく、患者の約38%が色素沈着を伴う黒皮症を発症することが報告されている(非特許文献2)。本評価法によれば白斑毒性だけでなく黒皮症毒性の評価も可能であることから、よりヒトの症例に対応した毒性の評価が可能である。
(4)ヒトの場合と同様にヘアレス野生型マウスやヘアレスRETマウスでは2%のロドデノールで白斑毒性及び黒皮症毒性が誘発したが、本評価系ではその約1/100000(c-Metを指標にした白斑毒性)と約1/10(RFP-RETを指標にした黒皮症毒性)の感度で毒性を評価可能であった。尚、in vitro試験系で最も感度よく白斑毒性を評価した過去の報告(非特許文献8)と比較しても、本評価系は約50倍高感度である。
(5)過去のin vitro試験系では24時間又は48時間曝露の後に評価しているが(非特許文献1、7、8)、本評価系ではわずか5時間の曝露によっても毒性を評価可能である。
【実施例】
【0083】
5.まとめ
RET-マウスから樹立した株細胞を用いることで、高感度かつ短時間で白斑毒性及び黒皮症毒性を同時に評価することが可能となった。in vitro評価系を構築できたことにより、より多くの試験物質を短期間で評価することができる。また、in vitro評価のみ、in vivo評価のみ、あるいはその両方といった多様なニーズにも対応可能であり、in vitro評価の結果とin vivo評価の結果を合わせて総合的に評価することで、より信頼性の高い毒性評価が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の試験方法によれば高感度で白斑毒性/黒皮症毒性を評価することができる。本発明の試験方法は汎用性も高く、様々な物質の毒性評価に利用可能である。例えば、化粧品、医薬品などの開発段階における安全性確認のための手段として本発明は有用である。
【0085】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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