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明細書 :外来遺伝子発現ワクシニアウイルスの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6731646号 (P6731646)
登録日 令和2年7月9日(2020.7.9)
発行日 令和2年7月29日(2020.7.29)
発明の名称または考案の名称 外来遺伝子発現ワクシニアウイルスの製造方法
国際特許分類 C12N   7/01        (2006.01)
C12N  15/54        (2006.01)
C12N  15/55        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  35/768       (2015.01)
FI C12N 7/01 ZNA
C12N 15/54
C12N 15/55
A61P 35/00
A61K 35/768
請求項の数または発明の数 5
全頁数 26
出願番号 特願2018-527653 (P2018-527653)
出願日 平成29年7月13日(2017.7.13)
国際出願番号 PCT/JP2017/025486
国際公開番号 WO2018/012570
国際公開日 平成30年1月18日(2018.1.18)
優先権出願番号 2016138712
優先日 平成28年7月13日(2016.7.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年10月23日(2018.10.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
発明者または考案者 【氏名】中村 貴史
【氏名】中武 大夢
【氏名】黒▲崎▼ 創
【氏名】堀田 享佑
個別代理人の代理人 【識別番号】110002572、【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
審査官 【審査官】川合 理恵
参考文献・文献 特表2008-519024(JP,A)
国際公開第2015/076422(WO,A1)
特開2001-204474(JP,A)
国際公開第02/090554(WO,A1)
調査した分野 C12N 7/01
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT)遺伝子が、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1L遺伝子の一方中に挿入され、マーカー遺伝子がワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1L遺伝子の他方中に挿入され、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1L遺伝子の機能が欠損しており、正常細胞内では増殖しないが、癌細胞内で特異的に増殖し、癌細胞を特異的に障害する腫瘍溶解性を有し、さらに自殺遺伝子の作用で癌細胞を殺傷するワクシニアウイルス。
【請求項2】
ワクシニアウイルスが、LC16株又はLC16mO株である、請求項1記載のワクシニアウイルス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のワクシニアウイルスを含む癌治療のための医薬組成物。
【請求項4】
請求項記載の癌治療のための医薬組成物と5-フルオロシトシン(5-FC)又は5-フルオロウラシル(5-FU)との組合せキット。
【請求項5】
5-フルオロシトシン(5-FC)又は5-フルオロウラシル(5-FU)と併用される、請求項記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は外来遺伝子を発現するワクシニアウイルスの製造方法及び得られたワクシニアウイルスの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在世界中において、生きたウイルスを利用したがん治療の前臨床研究や臨床試験が積極的に行われている。このがんウイルス療法は、感染した細胞・組織内で増殖伝播しながらそれらを死滅させるというウイルス本来の性質をがん治療に利用する方法である。従来の放射線・化学療法に比べ、第一にウイルス増殖による腫瘍溶解、第二にそれに伴う抗腫瘍免疫の誘導により多様なメカニズムで抗がん作用を発揮する。
【0003】
かつて日本国内で樹立され痘瘡ワクチンとしてヒトに使われ、高い安全性が証明されているワクシニアウイルスのワクチン株がある(非特許文献1を参照)。しかし、依然正常組織における弱い増殖性を維持しているため、より安全ながんウイルス療法として確立するには、がん細胞でのみ増殖させる改良が必須であった。そこで、このワクチン株を基に遺伝子組換え技術により改良を加え、広範ながんにおけるMAPK/ERK経路の制御異常を指標にして、がん細胞特異的に増殖し破壊する遺伝子組換えワクシニアウイルスの開発に成功した(特許文献1及び2を参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第WO2011/125469号
【特許文献2】国際公開第WO2015/076422号
【0005】

【非特許文献1】蛋白質 核酸 酵素 Vol.48 No.12(2003), p.1693-1700
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は外来遺伝子を発現するワクシニアウイルスの製造方法及び外来遺伝子を発現するワクシニアウイルスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ワクシニアウイルスは治療用遺伝子を外来遺伝子として導入することにより癌治療用ウイルスとしても用いることができ、また細菌等の抗原を外来遺伝子として導入することによりワクチンとしても用いることができ、多数の用途が考えられる。このためには、ワクシニアウイルスに外来遺伝子を導入する必要があるが、本発明者はワクシニアウイルスに外来遺伝子を簡便かつ迅速に導入する方法について鋭意検討を行った。
【0008】
本発明者らは、最初にワクシニアウイルスの内在遺伝子又は非翻訳領域に蛍光マーカー遺伝子等のマーカー遺伝子を挿入し、次いで蛍光マーカー遺伝子を導入しようとする目的の外来遺伝子と相同組換えにより置き換えた。細胞や微生物に遺伝子を導入する場合、遺伝子が導入されたことの確認が容易ではないが、最初にマーカー遺伝子を挿入し、次いで目的の外来遺伝子をマーカー遺伝子と置き換える場合、マーカー遺伝子が発する蛍光等のシグナルの消失を指標に外来遺伝子が導入されたことを確認することができ、簡便、確実かつ迅速に外来遺伝子を導入することができる。
【0009】
本発明者は、先にワクシニアウイルスの内在のVGF遺伝子及びO1L遺伝子に蛍光タンパク質遺伝子を挿入し、VGF遺伝子及びO1L遺伝子の機能を欠損させた抗癌作用を有するワクシニアウイルス分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(Mitogen-activated protein kinase (MAPK))依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)を作製した(国際公開第WO2015/076422号)。この内在遺伝子に蛍光タンパク質遺伝子を挿入したワクシニアウイルスに上記の方法により自殺遺伝子(CD遺伝子及びUPRT遺伝子)を導入した。このVGF遺伝子及びO1L遺伝子の機能が欠損し、さらに自殺遺伝子が導入されたワクシニアウイルスは癌細胞をMD-RVVの効果のみならず、自殺遺伝子の効果で死滅させることができることを確認した。
【0010】
本発明は以下のとおりである。
[1] 外来遺伝子としてシトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT)遺伝子及び単純ヘルペスチミジンキナーゼ(HS-tk)遺伝子からなる群から選択される自殺遺伝子が導入されているワクシニアウイルス。
[2] 外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT)遺伝子が導入されているワクシニアウイルス。
[3] ワクシニアウイルスが、LC16株又はLC16mO株である、[1]又は[2]のワクシニアウイルス。
[4] 自殺遺伝子が、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及び/又はO1L遺伝子中に挿入され、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及び/又はO1L遺伝子の機能が欠損しており、正常細胞内では増殖しないが、癌細胞内で特異的に増殖し、癌細胞を特異的に障害する腫瘍溶解性を有し、さらに自殺遺伝子の作用で癌細胞を殺傷するワクシニアウイルス。
[5] 自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT)遺伝子が、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1L遺伝子の一方中に挿入され、マーカー遺伝子がワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1L遺伝子の他方中に挿入され、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1L遺伝子の機能が欠損しており、正常細胞内では増殖しないが、癌細胞内で特異的に増殖し、癌細胞を特異的に障害する腫瘍溶解性を有し、さらに自殺遺伝子の作用で癌細胞を殺傷する、[4]のワクシニアウイルス。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のワクシニアウイルスを含む癌治療のための医薬組成物。
[7] [6]の癌治療のための医薬組成物と5-フルオロシトシン(5-FC)又は5-フルオロウラシル(5-FU)との組合せキット。
[8] 5-フルオロシトシン(5-FC)又は5-フルオロウラシル(5-FU)と併用される、[6]の癌治療のための医薬組成物。
[9] ワクシニアウイルスの内在遺伝子又は非翻訳領域にマーカー遺伝子が挿入されているワクシニアウイルスを作製する方法であって、マーカー遺伝子を挿入しようとするワクシニアウイルスの内在遺伝子をコードするDNA又は非翻訳領域のDNA中にマーカー遺伝子が挿入された構造を有するマーカー遺伝子挿入用プラスミドをワクシニアウイルスに導入し、相同組換えによりワクシニアウイルスの内在遺伝子又は非翻訳領域にマーカー遺伝子を挿入することを含む方法。
[10] マーカー遺伝子を挿入しようとするワクシニアウイルスの内在遺伝子をコードするDNA又は非翻訳領域のDNA中にマーカー遺伝子が挿入された構造を有するマーカー遺伝子挿入用プラスミドをワクシニアウイルスに導入し、相同組換えによりワクシニアウイルスの内在遺伝子又は非翻訳領域にマーカー遺伝子を挿入することにより、ワクシニアウイルスの内在遺伝子又は非翻訳領域にマーカー遺伝子を挿入し、
さらに、内在遺伝子又は非翻訳領域に挿入したマーカー遺伝子を他の外来遺伝子と置き換えることを含み、
マーカー遺伝子が発生するシグナルの消失を指標に外来遺伝子がマーカー遺伝子と置き換えられワクシニアウイルス中に導入されたと判断する、ワクシニアウイルスに外来遺伝子を導入する方法。
[11] あらかじめ内在遺伝子又は非翻訳領域にマーカー遺伝子が挿入されているワクシニアウイルスの挿入されたマーカー遺伝子を他の外来遺伝子と置き換えることを含み、
マーカー遺伝子が発生するシグナルの消失を指標に外来遺伝子がマーカー遺伝子と置き換えられワクシニアウイルス中に導入されたと判断する、ワクシニアウイルスに外来遺伝子を導入する方法。
[12] ワクシニアウイルスが、LC16株又はLC16mO株である、[9]~[11]のいずれかの方法。
[13] マーカー遺伝子が、ルシフェラーゼ(LUC)遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、βグルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子及びβ-ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子からなる群から選択される[9]~[12]のいずれかの方法。
[14] マーカー遺伝子が挿入された内在遺伝子が、赤血球凝集素(HA)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)遺伝子及びO1L遺伝子からなる群から選択される[9]~[13]のいずれかの方法。
[15] 導入する外来遺伝子が細胞毒性効果若しくは免疫賦活効果を有する治療用遺伝子、又は癌、ウイルス、細菌若しくは原虫の抗原をコードするDNA、又は自殺遺伝子である、[10]~[14]のいずれかの方法。
[16] 外来遺伝子がシトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT)遺伝子及び単純ヘルペスチミジンキナーゼ(HS-tk)遺伝子からなる群から選択される[15]の方法。
【0011】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-138712号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0012】
最初にワクシニアウイルスの内在遺伝子又は非翻訳領域に蛍光マーカー遺伝子等のマーカー遺伝子を挿入し、次いで蛍光マーカー遺伝子を導入しようとする目的の外来遺伝子と相同組換えにより置き換えることにより簡便、確実かつ迅速にワクシニアウイルスに目的の外来遺伝子を導入することができる。また、この方法により作製した自殺遺伝子を導入したワクシニアウイルスはワクシニアウイルスが有する癌細胞死滅効果のみならず、自殺遺伝子の作用により癌細胞を死滅させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】遺伝子組換えワクシニア作出のための、VGF又はO1L遺伝子に外来遺伝子発現ユニットを挿入するためのシャトルベクターの構造を示す図である。図1AはpTNshuttle/VGF-SP(EL)-BFPの構造を示し、図1BはpTNshuttle/O1L-SP(EL)-BFPの構造を示す図である。
【図2】組換えワクシニアウイルスLC16mO VGF-EL-BFP/O1L-p7.5E-DsRed(図2A)及びLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-p7.5E-DsRed (図2B)の構造を示す図である。
【図3】組換えワクシニアウイルスLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFP(図3A)及びVGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LacZ(図3B)の構造を示す図である。
【図4】VGF遺伝子(図4A)及びO1L遺伝子(図4B)に蛍光マーカー遺伝子を挿入したワクシニアウイルスに外来遺伝子を相同組換えにより導入する方法を示す図である。
【図5】LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFPを感染させたPanc1細胞におけるワクシニアウイルスの感染量とGFP蛍光強度との関係を観察像で示す図である。
【図6】LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFPを感染させたPanc1細胞におけるワクシニアウイルスの感染量とGFP蛍光強度との関係を数値化データにより示す図である。
【図7】LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFPを感染させたPanc1細胞におけるワクシニアウイルスの感染量とルシフェラーゼ発光強度との関係を数値化データにより示す図である。
【図8】LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LacZを感染させたPanc1細胞にGenlatis X-Gal Staining Assay Kitを用いて染色を行った結果を示す図である。
【図9】LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFP(FF/LG)、及びLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur /O1L-EL-LacZ(FF/LacZ)を感染させたPanc1細胞内のウイルス力価を示す図である。
【図10-1】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(Mitogen-activated protein kinase (MAPK))依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=1でヒト膵癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:AsPC1、B:AsPC1 CD44v9 High、C:BxPC3、D:MiaPaca2)。
【図10-2】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=1でヒト膵癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:Panc10.05、B:Panc1、C:SW1990)。
【図10-3】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.1でヒト膵癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:AsPC1、B:AsPC1 CD44v9 High、C:BxPC3、D:MiaPaca2)。
【図10-4】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.1でヒト膵癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:Panc10.05、B:Panc1、C:SW1990)。
【図10-5】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.01でヒト膵癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:AsPC1、B:AsPC1 CD44v9 High、C:BxPC3、D:MiaPaca2)。
【図10-6】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.01でヒト膵癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:Panc10.05、B:Panc1、C:SW1990)。
【図10-7】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=1でヒト卵巣癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:A2780、B:ES-2、C:KF、D:KFTx)。
【図10-8】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=1でヒト卵巣癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:OVCAR3、B:RMG-1、C:SHIN-3、D:SKOV3)。
【図10-9】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.1でヒト卵巣癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:A2780、B:ES-2、C:KF、D:KFTx)。
【図10-10】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.1でヒト卵巣癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:OVCAR3、B:RMG-1、C:SHIN-3、D:SKOV3)。
【図10-11】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.01でヒト卵巣癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:A2780、B:ES-2、C:KF、D:KFTx)。
【図10-12】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.01でヒト卵巣癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:OVCAR3、B:RMG-1、C:SHIN-3、D:SKOV3)。
【図10-13】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=1でヒト結腸癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:Caco2、B:HT29、C:Lovo、D:SW480)。
【図10-14】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.1でヒト結腸癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:Caco2、B:HT29、C:Lovo、D:SW480)。
【図10-15】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.01でヒト結腸癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:Caco2、B:HT29、C:Lovo、D:SW480)。
【図10-16】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=1でヒト乳癌細胞、あるいはヒト肺癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:MCF-7、B:SK-BR-3、C:A549)。
【図10-17】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.1でヒト乳癌細胞、あるいはヒト肺癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:MCF-7、B:SK-BR-3、C:A549)。
【図10-18】外来遺伝子として自殺遺伝子であるシトシンデアミナーゼ遺伝子及びウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)をMOI=0.01でヒト乳癌細胞、あるいはヒト肺癌細胞に感染させた後に、5-FCを添加したときの細胞生存率を示す図である(A:MCF-7、B:SK-BR-3、C:A549)。
【図11-1】ウミシイタケ由来ルシフェラーゼ(Rluc)を恒常的に発現する6種のヒト膵癌細胞(AsPC1 CD44v9 High、BxPC3、MiaPaca2、Panc10.05、Panc1、SW1990)を腹腔内に移植した腫瘍腹膜播種SCIDマウスモデルに対し、組換えワクシニアウイルスLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFPを1x106PFU/mouseで腹腔内に投与後2日、あるいは10日時点でのウイルスルシフェラーゼ(Fluc)発光の体内分布を示す図である。
【図11-2】ウミシイタケ由来ルシフェラーゼ(Rluc)を恒常的に発現する6種のヒト膵癌細胞(AsPC1 CD44v9 High、BxPC3、MiaPaca2、Panc10.05、Panc1、SW1990)を腹腔内に移植した腫瘍腹膜播種SCIDマウスモデルに対し、組換えワクシニアウイルスLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFPを1x106PFU/mouseで腹腔内に投与する2日前、あるいは投与後11日時点での腫瘍Rluc発光の体内分布を示す図である。
【図12-1】図11-1で示したマウス体内のウイルスFluc発光の数値化結果を示す図である(A:AsPC1 CD44v9 High、B:BxPC3、C:MiaPaca2、D:Panc10.05、E:Panc1、F:SW1990)。
【図12-2】図11-1で示したマウス体内の腫瘍Rluc発光の数値化結果を示す図である(A:AsPC1 CD44v9 High、B:BxPC3、C:MiaPaca2、D:Panc10.05、E:Panc1、F:SW1990)。
【図13】ヒト膵癌腹膜播種モデルにおいてのウイルス(LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFP)投与後の生存率を示す図である(A:AsPC1 CD44v9 High、B:BxPC3、C:MiaPaca2、D:Panc10.05、E:Panc1、F:SW1990)。
【図14】マウス結腸癌細胞MC38を用いた腫瘍皮下移植B6マウスモデルに対し、LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LacZを1x108PFU/mouseで腫瘍内へ、さらに5-FC 12.5mgを腹腔内へ交互に6回ずつ投与した後の腫瘍径の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0015】
本発明は、外来遺伝子を発現するワクシニアウイルスの作製方法及び得られた特定の外来遺伝子を発現するワクシニアウイルスである。

【0016】
本発明の外来遺伝子を発現するワクシニアウイルスは、最初にワクシニアウイルスの内在遺伝子又は非翻訳領域にマーカー遺伝子を挿入する。

【0017】
次いで、挿入したマーカー遺伝子を、ワクシニアウイルスに挿入しようとする目的の外来遺伝子と置き換える。

【0018】
この際、目的の外来遺伝子がマーカー遺伝子と置き換わったか否かはマーカー遺伝子の発現産物が発するシグナルを指標とする。すなわち、マーカー遺伝子が外来遺伝子と置き換わった場合、マーカー遺伝子の発現産物のシグナルは消失するので、シグナルの消失を指標にして、マーカー遺伝子を外来遺伝子に置き換わったと判断することができる。例えば、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である場合、該蛍光タンパク質が発する蛍光の有無を指標に、マーカー遺伝子が外来遺伝子に置換えられたか否かを判断することができる。

【0019】
本発明の外来遺伝子を発現するワクシニアウイルスは、ワクシニアウイルスが元々有する内在遺伝子又は非翻訳領域にマーカー遺伝子が挿入されているワクシニアウイルスを用いて作製することもできる。ワクシニアウイルスが元々有する内在遺伝子にマーカー遺伝子が挿入されているワクシニアウイルスとは、例えば、特定の内在遺伝子の機能を欠損させることを目的として、前記内在遺伝子内にマーカー遺伝子を挿入したワクシニアウイルスをいう。

【0020】
最初にマーカー遺伝子を挿入する内在遺伝子は限定されないが、ワクシニアウイルスの生活環に必須でない遺伝子が好ましい。あるいは、例えば、癌細胞においては、遺伝子の挿入により機能が欠損した場合であっても、癌細胞が豊富に有する酵素等によりその機能欠損が補償され得るが正常細胞では機能欠損が補償されない遺伝子等に挿入してもよい。

【0021】
内在遺伝子として、例えば、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)遺伝子(米国特許出願公開第2003/0031681号明細書);O1L遺伝子;赤血球凝集素(HA)遺伝子;チミジンキナーゼ(TK)遺伝子;Fフラグメント;F3遺伝子;出血領域又はA型封入体領域(米国特許第6,596,279号明細書);Hind III F、F13L若しくはHind III M領域(米国特許第6,548,068号明細書);A33R、A34R若しくはA36R遺伝子(Katz et al., J. Virology 77:12266-12275 (2003));SalF7L遺伝子(Moore et al., EMBO J. 1992 11:1973-1980);N1L遺伝子(Kotwal et al., Virology 1989 171:579-58);M1遺伝子(Child et al., Virology. 1990 174:625-629);HR、HindIII-MK、HindIII-MKF、HindIII-CNM、RR若しくはBamF領域(Lee et al., J Virol. 1992 66:2617-2630);C21L遺伝子(Isaacs et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1992 89:628-632)等が挙げられる。これらの遺伝子の中でも、VGF遺伝子、O1L遺伝子、TK遺伝子、HA遺伝子、Fフラグメントが好ましい。

【0022】
これらの内在遺伝子の1つ又は複数、例えば、1つ又は2つ、あるは1~3つにマーカー遺伝子を挿入すればよい。

【0023】
例えば、ワクシニアウイルスのTK遺伝子にマーカー遺伝子を挿入しTK遺伝子が機能を欠損するとは、TK遺伝子が発現しないか、あるいは発現してもその発現タンパク質がTKの正常な機能を保持していないことをいう。TK遺伝子の機能が欠損すると、正常細胞におけるワクシニアウイルスの増殖能が低下する。一方、癌細胞にはこの遺伝子の機能を補う酵素が豊富に存在するため癌細胞では増殖能は低下しない。正常細胞において増殖能が低下することは正常細胞に対する病原性が低下することを意味し、すなわち、生体に適用した場合の安全性が向上する。

【0024】
また、ワクシニアウイルスのVGF及びO1L遺伝子にマーカー遺伝子を挿入しVGF及びO1L遺伝子が機能を失うとは、VGFをコードする遺伝子及びO1Lをコードする遺伝子が発現しないか、あるいは発現してもその発現タンパク質がVGF、O1Lの正常な機能を保持していないことをいう。内在遺伝子の一例として、ワクシニアウイルスのVGF及びO1Lの遺伝子配列を、それぞれ、配列番号10及び11に示す。VGF及びO1Lの機能が欠損したワクシニアウイルスが正常細胞に感染した場合、正常細胞ではERKが活性化されないため、細胞増殖は促進されず、その結果、ワクシニアウイルス増殖は著明に低下する。一方、癌細胞ではRas/Raf/MEK/ERK代謝経路が異常に活性化しているため、それがワクシニアウイルスのVGF及びO1LによるERKの活性化機能を補うので、ワクシニアウイルスは増殖できる。この結果、ワクシニアウイルスは癌細胞特異的に増殖し、癌細胞を破壊し障害をもたらす。すなわち、本発明の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性組換えワクシニアウイルスは癌細胞特異的な腫瘍溶解性を有する。

【0025】
非翻訳領域は、mRNAのコーディング領域の両側に存在するタンパク質に翻訳されない領域をいい、5'非翻訳領域及び3'非翻訳領域がある。本発明の非翻訳領域はいずれの非翻訳領域も含む。

【0026】
上記の内在遺伝子又は非翻訳領域に挿入するマーカー遺伝子は、レポーター遺伝子ともいい、ルシフェラーゼ(LUC)遺伝子、緑色蛍光タンパク質(Green fluorescent protein;GFP)等の蛍光タンパク質遺伝子、赤色蛍光タンパク質(DsRed)等の蛍光タンパク質遺伝子、βグルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子等が挙げられる。

【0027】
内在遺伝子又は非翻訳領域へのマーカー遺伝子の挿入は、例えば、相同組換えにより行えばよい。相同組換えとは、細胞内で2つのDNA分子が同じ塩基配列を介して相互に組換えを起こす現象で、ワクシニアウイルスのような巨大なゲノムDNAを持つウイルスの組換えにしばしば用いられる方法である。まず、標的とするワクシニアウイルスの内在遺伝子部位又は非翻訳領域のDNA配列を中央で分断する形で、マーカー遺伝子を連結したプラスミド(これをトランスファーベクターという)を構築し、これを、ワクシニアウイルスを感染させた細胞に導入してやると、ウイルス複製の過程で裸になったウイルスDNAとトランスファーベクター上の同じ配列部分との間で入れ換えが起こり、挟み込まれたマーカー遺伝子がウイルスゲノム中に組み込まれる。このとき用いる細胞としては、CV1細胞、RK13細胞、BSC-1細胞、HTK-143細胞、Hep2細胞、MDCK細胞、Vero細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK-21細胞、初代ウサギ腎臓細胞等、ワクシニアウイルスが感染し得る細胞を用い得る。また、ベクターの細胞への導入は、リン酸カルシウム法、カチオニックリボゾーム法、エレクトロポレーション法等の公知の方法で行えばよい。

【0028】
例えば、図1にワクシニアウイルスの内在遺伝子であるVGF遺伝子又はO1L遺伝子に簡便かつ迅速にマーカー遺伝子発現ユニットを挿入するためのプラスミド(シャトルベクター)の構造を示す。本発明は、ワクシニアウイルスの内在遺伝子マーカー遺伝子発現ユニットを挿入するためのプラスミドも包含する。

【0029】
また、マーカー遺伝子を導入する際、マーカー遺伝子の上流に適当なプロモーターを機能し得る形で連結させるのが望ましい。プロモーターは、限定はないが、PSFJ1-10や、PSFJ2-16、p7.5Kプロモーター、p11Kプロモーター、T7.10プロモーター、CPXプロモーター、HFプロモーター、H6プロモーター、T7ハイブリッドプロモーター等を用いることができる。本発明のワクシニアウイルスベクターにマーカー遺伝子を導入する方法は、組換えワクシニアウイルスベクターを構築する公知の方法により行うことができ、例えば別冊 実験医学 ザ・プロトコールシリーズ 遺伝子導入&発現解析実験法 斎藤泉他編集、羊土社(1997年9月1日発行)、あるいは、D. M. Glover他編、加藤郁之進 監訳DNAクローニング4-哺乳類のシステム-(第2版)TaKaRa、EMBO Journal 1987年 6巻 p.3379-3384等の記載に従えばよい。

【0030】
ワクシニアウイルスが元々有する内在遺伝子にマーカー遺伝子が挿入されているワクシニアウイルスは、例えば、国際公開第WO2011/125469号又は国際公開第WO2015/076422号に記載されており、該公報に記載されている方法に従って作製することができる。国際公開第WO2011/125469号には、内在遺伝子であるTK遺伝子、HA遺伝子等にマーカー遺伝子を挿入し、TK、HAの機能を欠失させたワクシニアウイルスが記載されている。また、国際公開第WO2015/076422号には、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF:vaccinia virus growth factor)遺伝子及びO1L遺伝子にマーカー遺伝子を挿入し、ワクシニアウイルスのワクシニアウイルス増殖因子(VGF:vaccinia virus growth factor)及びO1Lの機能を欠失したワクシニアウイルスが記載されている。このワクシニアウイルスを分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(Mitogen-activated protein kinase (MAPK))依存性組換えワクシニアウイルス(MD-RVV)と呼ぶ。

【0031】
ワクシニアウイルスが元々有する内在性遺伝子にマーカー遺伝子が挿入されているワクシニアウイルスを製造するためのワクシニアウイルスの株は限定されないが、リスター(Lister)株、リスター株から確立されたLC16株、LC16mO株、LC16m8株(橋爪 壮、臨床とウイルス vol.3, No.3, 269, 1975等)、NYBH株等の株、Wyeth株、コペンハーゲン株、WR株、MVA株等が挙げられる。LC16mO株は、Lister株からLC16株を経て作出された株であり、LC16m8株は、さらにLC16mO株から作出された、ウイルス膜タンパク質をコードする遺伝子であるB5R遺伝子にフレームシフト変異が認められ、このタンパク質が発現、機能しなくなったことで弱毒化された株である(蛋白質 核酸 酵素 Vol.48 No.12(2003), p.1693-1700)。

【0032】
本発明に用いるワクシニアウイルスが元々有する内在遺伝子にマーカー遺伝子が挿入されているワクシニアウイルスは弱毒化され、病原性を有していないものが好ましい。このような弱毒化された株として、B5R遺伝子を部分的に又は完全に欠失した株が挙げられる。B5R遺伝子は、ワクシニアウイルスのエンベロープに存在するタンパク質をコードしており、B5R遺伝子産物は、ウイルスの感染・増殖に関与している。B5R遺伝子産物は感染細胞表面及びウイルスのエンベロープに存在し、隣接の細胞、あるいは宿主体内の他の部位にウイルスが感染・伝播するときに、その効率を高める働きをし、ウイルスのプラークサイズ及び宿主域にも関与している。B5R遺伝子を欠失させると、動物細胞に感染させた場合のプラークサイズが小さくなり、ポックサイズも小さくなる。また、皮膚増殖能が低下し、皮膚病原性が低下する。B5R遺伝子が部分的に又は完全に欠失したワクシニアウイルスは、B5R遺伝子の遺伝子産物がその正常機能を有さず、皮膚増殖性も小さく、ヒトに投与した場合でも副作用を起こさない。B5R遺伝子を欠失している弱毒化株として、例えば上記のLC16m8株からB5R遺伝子を完全に欠失させて確立されたm8Δ株(LC16m8Δ株とも呼ぶ)が挙げられる。また、LC16mO株からB5R遺伝子を完全に欠失して確立されたmOΔ株(LCmOΔ株とも呼ぶ)を用いることもできる。これらのB5R遺伝子を部分的に又は完全に欠失した弱毒されたワクシニアウイルス株は国際公開第WO2005/054451号に記載されており、その記載に基づいて入手することができる。ワクシニアウイルスがB5R遺伝子を部分的に又は完全に欠失し、B5Rタンパク質の機能が欠失しているかどうかは、例えば、RK13細胞に感染させたときに形成されるプラークサイズ、ポックサイズ、Vero細胞でのウイルス増殖性、ウサギにおける皮膚病原性等を指標に判断することができる。また、ワクシニアウイルスの遺伝子配列を調べてもよい。

【0033】
本発明の外来遺伝子を発現するワクシニアウイルスを癌治療に用いる場合は、B5R遺伝子を癌細胞中で発現させ、B5Rタンパク質の作用により、癌細胞の傷害をもたらすように設計する。この場合、用いるワクシニアウイルスは完全なB5R遺伝子を発現することが望ましい。上記のようにB5R遺伝子を有しておらず、弱毒化され安全性が確立されているワクシニアウイルスを用いる場合、該B5R遺伝子を欠失したワクシニアウイルスにあらためて完全なB5R遺伝子を導入する。B5R遺伝子を部分的に又は完全に欠失したワクシニアウイルスを用いる場合、該ワクシニアウイルスゲノムに、B5R遺伝子を挿入して、本発明のワクシニアウイルス製造の材料として用いればよい。B5R遺伝子のワクシニアウイルスへの挿入は如何なる方法で行ってもよいが、例えば公知の相同組換え法により行うことができる。また、この場合のB5R遺伝子を挿入する位置は、もともとB5R遺伝子が存在していたB4R遺伝子とB6R遺伝子の間でもよいし、ワクシニアウイルスのゲノムの任意の部位であってもよい。さらに、あらかじめ、B5R遺伝子をDNAコンストラクトとして構築し、それをワクシニアウイルスに導入してもよい。

【0034】
マーカー遺伝子と置き換える外来遺伝子(外来DNA又は外来ポリヌクレオチド)としては、細胞毒性や免疫賦活効果を有する産物をコードする治療用遺伝子が挙げられ、さらに、癌、ウイルス、細菌、原虫等のタンパク質抗原をコードするDNAが挙げられる。さらに、シトシンデアミナーゼ(CD:cytosine deaminase)遺伝子、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT: Urasil phosphoribosyltransferase)遺伝子、単純ヘルペスチミジンキナーゼ(HS-tk)遺伝子、グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)遺伝子又はニトロレダクターゼ遺伝子等の自殺遺伝子が挙げられる。

【0035】
内在遺伝子に挿入したマーカー遺伝子の全てを外来遺伝子と置き換えてもよいし、マーカー遺伝子のうちの1つ又は複数、例えば、1つ又は2つ、あるは1~3つのマーカー遺伝子を外来遺伝子に置き換えてもよい。

【0036】
治療用遺伝子は、癌や感染症等の特定の疾患の治療に用い得る遺伝子であり、p53、Rb等の腫瘍抑制遺伝子;インターロイキン1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、アンジオスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチン、METH-1、METH-2、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、腫瘍壊死因子等の生理活性物質をコードする遺伝子;ヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)をコードする遺伝子等が挙げられる。ヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)をコードする遺伝子は放射性ヨードと併用すればよく、放射性同位元素を腫瘍組織に送達させることができる。本発明の外来遺伝子を発現するワクシニアウイルスを癌治療に用いる場合、ワクシニアウイルスの有する腫瘍溶解性と共に癌に対する治療用遺伝子が癌治療効果を発揮することができる。

【0037】
また、外来遺伝子(外来DNA)としてウイルス、細菌、原虫及び癌等の抗原をコードするDNAを導入することにより、外来遺伝子を導入したワクシニアウイルスベクターを種々のウイルス、細菌、原虫及び癌に対するワクチンとして用いることができる。例えば、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、ミコバクテリア、マラリア原虫、重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)ウイルス等の感染防御抗原(中和抗原)、あるいは癌抗原をコードする遺伝子を導入すればよい。

【0038】
これらの外来遺伝子は、例えば、相同組換えの手法を用いることにより導入することができる。相同組換えは上述の方法で行えばよい。例えば、導入したい部位のDNA配列中に導入すべき外来遺伝子を連結したプラスミド(トランスファーベクター)を作製し、これを、ワクシニアウイルスを感染させた細胞の中に導入すればよい。外来遺伝子の導入領域は、ワクシニアウイルスの生活環に必須でない遺伝子中が好ましい。あるいは、例えば、癌細胞においては、遺伝子の挿入により機能が欠損した場合であっても、癌細胞が豊富に有する酵素等によりその機能欠損が補償され得るが正常細胞では機能欠損が補償されない遺伝子等に挿入してもよい。

【0039】
また、外来遺伝子を導入する際、外来遺伝子の上流に適当なプロモーターを機能し得る形で連結させるのが望ましい。プロモーターは、限定はないが、上述のPSFJ1-10や、PSFJ2-16、p7.5Kプロモーター、p11Kプロモーター、T7.10プロモーター、CPXプロモーター、HFプロモーター、H6プロモーター、T7ハイブリッドプロモーター等を用いることができる。本発明のワクシニアウイルスベクターに外来遺伝子を導入する方法は、組換えワクシニアウイルスベクターを構築する公知の方法により行うことができ、例えば別冊 実験医学 ザ・プロトコールシリーズ 遺伝子導入&発現解析実験法 斎藤泉他編集、羊土社(1997年9月1日発行)、あるいは、D. M. Glover他編、加藤郁之進 監訳DNAクローニング4-哺乳類のシステム-(第2版)TaKaRa、EMBO Journal 1987年 6巻 p.3379-3384等の記載に従えばよい。

【0040】
ワクシニアウイルスを癌治療に用いる場合、対象とする癌は限定されず、例えば発生臓器別に分類した場合、肺癌、膵癌、卵巣癌、皮膚癌、胃癌、肝臓癌、大腸癌、結腸癌、肛門・直腸癌、食道癌、子宮癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、食道癌、脳・神経腫瘍、リンパ腫・白血病、骨・骨肉腫、平滑筋腫、横紋筋腫等あらゆる癌種が対象となる。

【0041】
本発明のワクシニアウイルスを含む癌治療用医薬組成物は、医薬的に有効量の本発明のワクシニアウイルスを有効成分として含んでおり、無菌の水性又は非水性の溶液、懸濁液、又はエマルションの形態であってもよい。さらに、塩、緩衝剤、アジュバント等の医薬的に許容できる希釈剤、助剤、担体等を含んでいてもよい。投与は種々の非経口経路、例えば、皮下経路、静脈内経路、皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、鼻内経路、経皮経路によればよい。また、癌部に局所投与してもよい。有効投与量は被験体の年齢、性別、健康、及び体重等により適宜決定することができる。例えば、限定されないが、ヒト成人に対して、投与当たり約102~1010プラーク形成単位(PFU)である。

【0042】
例えば、外来遺伝子として、自殺遺伝子であるCD遺伝子を用いる場合、CD遺伝子を発現し得るワクシニアウイルスを被験体に投与するとともに、5-フルオロシトシン(5-FC)を投与する。CD遺伝子の発現産物であるシトシンデアミナーゼは5-FCを、細胞毒性を有する抗癌剤である5-フルオロウラシル(5-FU)に変換し、抗癌効果が発揮される。また、外来遺伝子として、自殺遺伝子であるUPRT遺伝子を用いる場合、UPRT遺伝子を発現し得るワクシニアウイルスを被験体に投与するとともに、5-フルオロウラシル(5-FU)を投与する。UPRT遺伝子の発現産物であるウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼは5-FUの抗癌剤効果を増強させる。

【0043】
外来遺伝子として、CD遺伝子及びUPRT遺伝子の両方を用いてもよく、この場合CD遺伝子及びUPRT遺伝子を発現し得るワクシニアウイルスを被験体に投与するとともに、5-FCを投与する。5-FCはCD遺伝子の発現産物であるシトシンデアミナーゼにより5-FUに変換され、さらに、UPRT遺伝子の発現産物であるウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼにより抗癌剤効果が増強される。

【0044】
また、外来遺伝子として、自殺遺伝子である単純ヘルペスチミジンキナーゼ(HS-tk)遺伝子を用いた場合、ワクシニアウイルスを被験体に投与するとともに、ガンシクロビル(GCV)、アシクロビル、ベンシクロビル等を投与する。GCV自体は、薬物活性はないが、HS-tkにより一リン酸化し、さらに細胞内で三リン酸に転換される、三リン酸化されたGCVはワクシニアウイルスが感染した癌細胞を攻撃し、癌細胞を死滅させる。

【0045】
また、外来遺伝子として、自殺遺伝子であるグアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)遺伝子を用いる場合は、6-チオキサンチン又は6-チオグアニンを投与すればよく、ニトロレダクターゼ遺伝子を用いる場合は、CB1954を投与すればよい。

【0046】
正常細胞でワクシニアウイルスが増殖し副作用が発生した場合、該ワクシニアウイルスが自殺遺伝子を発現していれば、自殺遺伝子の作用でウイルスの増殖を止めることができ副作用を抑制することができる。

【0047】
本発明は、外来遺伝子として自殺遺伝子を含み自殺遺伝子が発現するワクシニアウイルスを包含する。自殺遺伝子は、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)遺伝子及びO1L遺伝子中に挿入されていることが好ましく、そのようなワクシニアウイルスはワクシニアウイルス増殖因子(VGF)遺伝子及びO1L遺伝子の機能が欠損しており、正常細胞内では増殖しないが、癌細胞内で特異的に増殖し、癌細胞を特異的に障害する腫瘍溶解性を有し、さらに自殺遺伝子の作用で癌細胞を殺傷し得る。

【0048】
また、図3に例示されるように、自殺遺伝子は、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)遺伝子又はO1L遺伝子中に挿入されていてもよく、この場合、自殺遺伝子が挿入されていないワクシニアウイルス増殖因子(VGF)遺伝子又はO1L遺伝子中にマーカー遺伝子が挿入されていてもよい。マーカー遺伝子としては、上記のβ-ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子等が挙げられる。

【0049】
自殺遺伝子としては、シトシンデアミナーゼ(CD:cytosine deaminase)遺伝子、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT: Urasil phosphoribosyltransferase)遺伝子、単純ヘルペスチミジンキナーゼ(HS-tk)遺伝子、グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)遺伝子又はニトロレダクターゼ遺伝子等が挙げられ、複数の自殺遺伝子の融合遺伝子が挿入されていてもよく、例えば、シトシンデアミナーゼ(CD:cytosine deaminase)遺伝子とウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT: Urasil phosphoribosyltransferase)遺伝子の融合遺伝子が挙げられる。

【0050】
本発明のワクシニアウイルスとして、例えば、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)遺伝子中にシトシンデアミナーゼ(CD:cytosine deaminase)遺伝子とウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT: Urasil phosphoribosyltransferase)遺伝子の融合遺伝子が挿入され、さらに、O1L遺伝子中にβ-ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子が挿入されたワクシニアウイルス(VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LacZ)が挙げられる。

【0051】
本発明は、これらのワクシニアウイルスを有効成分として含む、癌治療のための医薬組成物すなわち抗癌剤を含む。該医薬組成物は、5-フルオロシトシン(5-FC)又は5-フルオロウラシル(5-FU)と併用することができる。例えば、ワクシニアウイルス中にシトシンデアミナーゼ(CD:cytosine deaminase)遺伝子のみ、あるいはシトシンデアミナーゼ(CD:cytosine deaminase)遺伝子とウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT: Urasil phosphoribosyltransferase)遺伝子、あるいはそれらの融合遺伝子が挿入されている場合は、5-フルオロシトシン(5-FC)と併用すればよく、ワクシニアウイルス中にウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT: Urasil phosphoribosyltransferase)遺伝子のみが挿入されている場合、5-フルオロウラシル(5-FU)と併用すればよい。

【0052】
本発明は、上記のワクシニアウイルスと5-フルオロシトシン(5-FC)又は5-フルオロウラシル(5-FU)との組合せ製剤又は組合せキットを包含する。さらに、本発明は、ワクシニアウイルスを有効成分として含む、5-フルオロシトシン(5-FC)又は5-フルオロウラシル(5-FU)と併用される医薬組成物を包含する。ワクシニアウイルスと5-フルオロシトシン(5-FC)又は5-フルオロウラシル(5-FU)は、同時に投与しても、別々に投与してもよい。また、順次に投与してもよく、投与順は、ワクシニアウイルスが先でもよいし、5-フルオロシトシン(5-FC)又は5-フルオロウラシル(5-FU)が先でもよい。
【実施例】
【0053】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
実施例1 遺伝子組換えワクシニア作出のプラットフォーム
VGF遺伝子又はO1L遺伝子に簡便かつ迅速に外来遺伝子発現ユニットを挿入するため、最初にpTagBFP-N(FP172、Evrogen社)のDNAを鋳型として、2つのプライマー(配列番号1と配列番号2)によって、BFP遺伝子領域を増幅した。その各PCR産物を制限酵素SfiIとEcoRIで切断し、それをpTK-SP-LGベクター(国際公開第WO2015/076422号)の同じ制限酵素部位にクローニングし、合成ワクシニアウイルスプロモーター(Hammond JM. et al., Journal of Virological Methods. 1997; 66(1):135-138)下にBFPを連結したpTK-SP-BFPを構築した。次に、pTK-SP-BFPを制限酵素SphIとEcoRIで切断し、Blunt処理後、そのSP-BFP断片を、pUC19-VGFベクター(国際公開第WO2015/076422号)を制限酵素AccIで切断しBlunt処理した部位へ、又はpUC19-O1Lベクター(国際公開第WO2015/076422号)を制限酵素XbaIで切断しBlunt処理した部位へクローニングし、シャトルベクターpTNshuttle/VGF-SP(EL)-BFP、又はpTNshuttle/O1L-SP(EL)-BFPを構築した。図1に作出したプラスミドの構造を示す。
【実施例】
【0055】
図2に示すウイルスゲノムを持つ組換えワクシニアウイルスの回収のため、6wellディッシュに80%コンフルエントに培養されたCV1細胞、又はRK13細胞にVGF-/O1L-分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性組換えワクシニアウイルス(国際公開第WO2015/076422号)をMOI=0.02~0.1で感染させ、室温で1時間吸着後、FuGENE HD(Roche)と混合したトランスファーベクタープラスミドDNA(pTN-VGF-EL-BFP)をマニュアルに従って細胞に添加して取り込ませ、37℃にて2~5日間培養した。細胞を回収し凍結融解後、ソニケーション処理し、ほぼコンフルエントになったBSC1細胞又はRK13細胞に適当に希釈して接種し、0.8%メチルセルロースを含むEagle MEM、5%FBS培地を加え、37℃で2~5日間培養した。培地を除き、BFP発現プラークをチップの先で掻き取り、Opti-MEM培地(Invitrogen)に浮遊させた。BSC1細胞又はRK13細胞にてさらに3回以上この操作を繰り返し、プラーク純化した。プラーク純化後に採取したプラークの浮遊液をソニケーション後、その200μLよりHigh Pure Viral Nucleic Acid Kit(Roche)を用いマニュアルに従ってゲノムDNAを抽出し、PCRによるスクリーニングに供した。VGFに関しては2つのプライマー(配列番号3と配列番号4)によって、O1Lに関しては2つのプライマー(配列番号5と配列番号6)によってPCRを行い、所定の大きさのPCRプロダクトが検出されたクローンについて、PCRプロダクトの塩基配列をダイレクトシーケンスにより確認した。塩基配列に問題が無いウイルスクローンLC16mO VGF-EL-BFP/O1L-p7.5E-DsRedを選択し、A549細胞又はRK13細胞にて増幅させた後、RK13細胞にてウイルス力価を測定し、遺伝子組換えワクシニア作出のプラットフォームとして実験に供した。
【実施例】
【0056】
実施例2 遺伝子組換えワクシニアの作出
VGF遺伝子に外来遺伝子の発現ユニットを挿入するため、pORF5-Fcy::Fur(InvivoGen社)のプラスミドDNAを鋳型として、2つのプライマー(配列番号7と配列番号8)によって、酵母シトシンデアミナーゼ/ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ融合(Fcy::Fur)遺伝子領域を増幅した。そのPCR産物を制限酵素NheIとMluIで切断し、それをpIRESベクター(クロンテック株式会社)の同じ制限酵素部位にクローニングし、pIRES-Fcy::Furを構築した。pIRES-Fcy::Furを制限酵素SfiIとSphIで切断して得たFcy::FurをBFP遺伝子と置換するようにpTK-SP-BFPベクターの同じ制限酵素部位にクローニングしpTK-SP-Fcy::Furを構築した。一方、H.sapiensにコドン最適化するよう合成した大腸菌LacZ遺伝子(配列番号9)を制限酵素AgeIとNheIで切断し、それをBFP遺伝子と置換するようにpTNshuttle/VGF-SP(EL)-BFPベクターの同じ制限酵素部位にクローニングし、pTNshuttle/VGF-SP(EL)-LacZを構築した。そして、pTK-SP-Fcy::Furを制限酵素SphIで切断し、Blunt処理後、AgeIで切断して得たFcy::Fur断片を、pTNshuttle/VGF-SP(EL)-BFPをNheIで切断し、Blunt処理後、AgeIで切断して得たベクター断片へクローニングし、pTNshuttle/VGF-SP(EL)-Fcy::Furを構築した。
【実施例】
【0057】
O1L遺伝子に外来遺伝子の発現ユニットを挿入するため、pIRES-LucGFP(国際公開第WO2015/076422号)を制限酵素EcoRIで切断し、Blunt処理後、EcoRIで切断して得たLucGFP断片を、pTNshuttle/O1L-SP(EL)-BFPを制限酵素AgeIとNheIで切断し、Blunt処理して得たベクター断片へクローニングし、pTNshuttle/O1L-SP(EL)-LucGFPを構築した。また、H.sapiensにコドン最適化するよう合成した大腸菌LacZ遺伝子(配列番号9)を制限酵素AgeIとNheIで切断し、それをBFP遺伝子と置換するようにpTNshuttle/O1L-SP(EL)-BFPベクターの同じ制限酵素部位にクローニングし、pTNshuttle/O1L-SP(EL)-LacZを構築した。
【実施例】
【0058】
図2に示すウイルスゲノムを持つ組換えワクシニアウイルスの回収のため、6 wellディッシュに80%コンフルエントに培養されたCV1細胞にワクシニアウイルス(LC16mO VGF-EL-BFP/O1L-p7.5E-DsRed)をMOI=0.02~0.1で感染させ、室温で1時間吸着後、FuGENE HD(Roche)と混合したトランスファーベクタープラスミドDNA(pTNshuttle/VGF-SP(EL)-Fcy::Fur)をマニュアルに従って細胞に添加して取り込ませ、37℃にて2~5日間培養した。細胞を回収し凍結融解後、ソニケーション処理し、ほぼコンフルエントになったBSC1細胞に適当に希釈して接種し、0.8%メチルセルロースを含むEagle MEM、5%FBS培地を加え、37℃で2~5日間培養した。培地を除き、BFP発現が消失したプラークをチップの先で掻き取り、Opti-MEM培地(Invitrogen)に浮遊させた。BSC1細胞にてさらに3回以上この操作を繰り返し、プラーク純化した。プラーク純化後に採取したプラークの浮遊液をソニケーション後、その200μLよりHigh Pure Viral Nucleic Acid Kit(Roche)を用いマニュアルに従ってゲノムDNAを抽出し、PCRによるスクリーニングに供した。上述と同様にVGF領域を2つのプライマーによってPCRを行い、所定の大きさのPCRプロダクトが検出されたクローンについて、PCRプロダクトの塩基配列をダイレクトシーケンスにより確認した。塩基配列に問題が無いウイルスクローンLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-p7.5E-DsRedを選択し、A549細胞にて増幅させた後、RK13細胞にてウイルス力価を測定し、実験に供した。
【実施例】
【0059】
図3に示すウイルスゲノムを持つ組換えワクシニアウイルスの回収のため、ワクシニアウイルス(LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-p7.5E-DsRed)とトランスファーベクタープラスミドDNA(pTNshuttle/O1L-SP(EL)-LucGFP、又はpTNshuttle/O1L-SP(EL)-LacZ)を基に、DsRed発現消失を指標に、上記と同様の方法にて組換えウイルスを回収し、LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFP、又はLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LacZとした。各組換えウイルスはA549細胞にて大量培養し精製した後、RK13細胞にてウイルス力価を測定し、実験に供した。
【実施例】
【0060】
以上、本レスキューシステムは、2種類の異なる蛍光タンパク質を発現する遺伝子組換えワクシニア作出のプラットフォームを基に、目的とする2種類の外来遺伝子のみを発現する組換えワクシニアウイルスを作出できる(図4)。
【実施例】
【0061】
実施例3 遺伝子組換えワクシニアの特性解析
本レスキューシステムにより導入された外来遺伝子の実際の発現や機能を確認するため、作出した組換えワクシニアウイルスの特性解析を行った。まずO1L領域に挿入されたLucGFP、LacZ遺伝子の発現を確認するため、ヒト膵臓癌細胞Panc1を96wellプレートに6×103/wellで播種し37℃ 24時間培養後、LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFP、又はLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LacZをMOI=0、0.01、0.1でそれぞれ感染させ(n=3)、感染から72時間後にGFP蛍光の観察やLuciferase発光の数値化、X-Gal染色、力価測定等を行った(図5~9)。LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFPに感染させた細胞を蛍光顕微鏡(BZ-X700、キーエンス社)で撮影したところ、ウイルスに組み込んだGFP遺伝子の発現が緑色蛍光として観察され、その蛍光領域がウイルス感染量に比例して大きくなることも確認された(図5)。さらにBZ-X700(キーエンス社)のハイブリッドセルカウントによって、ウイルスのGFP蛍光強度を数値化したところ、観察像と一致してウイルス感染量の増加に比例したGFP蛍光強度の増強も確認された(図6)。さらにPromega One-Glo Luciferase Assay System(プロメガ株式会社)によりLuciferase遺伝子の発現を発光として数値化したところ、観察像及びGFP蛍光と同様にウイルスの感染量に比例した発光の上昇が確認された(図7)。
【実施例】
【0062】
またLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LacZを感染させた細胞にGenlatis X-Gal Staining Assay Kit(Genlantis社)を用いて染色を行った(図8)。X-Gal染色によりLacZを発現するウイルス感染領域が青色に染色され、さらにウイルス感染量の増加に伴う染色域の増大も確認された。
加えて上記のLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFP、又はLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur /O1L-EL-LacZに感染させたPanc1細胞から細胞内ウイルスを凍結融解、細胞破砕(ソニケーション)処理、遠心(2,000 rpm、4℃、10分間)によって回収し、RK13細胞を用いて力価測定を行ったところ、両ウイルスともウイルス感染量の増加に伴うウイルス力価の増加が確認され(図9)、上述したGFP蛍光強度の増強やLuciferase発光の上昇、X-Gal染色域の増大と一致した傾向が確認された。
【実施例】
【0063】
最後にVGF領域に導入したFcy::Fur遺伝子の発現を解析するため、7種類のヒト膵臓癌細胞株(AsPC1・AsPC1 CD44v9 High:7x103/well、BxPC3・Panc1・SW1990:6x103/well、MiaPaca2:5x103/well、Panc10.05:1x104/well)、8種のヒト卵巣癌細胞株(A2780: 6x103/well、ES-2: 6x103/well、KF: 6x103/well、KFTx: 6x103/well、OVCAR3: 5x103/well、RMG-1: 6x103/well、SHIN-3: 6x103/well、SKOV3: 6x103/well)、4種のヒト結腸癌細胞株(Caco2、HT29、Lovo、SW480(全て6x103/well))、2種のヒト乳癌細胞株(MCF-7、SK-BR-3(全て6x103/well))、及び1種のヒト肺癌細胞株(A549:6x103/well)を96wellプレートへ播種し37℃ 24時間培養後、VGF-/O1L-(国際公開第WO2015/076422号)(LG/DsRed)、LC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFP(FF/LG)、又はLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LacZ(FF/LacZ)の3種のウイルスをそれぞれMOI=0.01、0.1、1で感染させた(n=3)。そして感染から48時間後に5-FCを0μg/ml、1μg/ml、10μg/ml、100μg/mlで添加し、37℃ 72時間培養後にPromega Celltiter 96 AQueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay(プロメガ株式会社)による細胞生存率の測定を行った(図10-1~図10-18)。
【実施例】
【0064】
ウイルス量の多いMOI=1では膵癌AsPC1 CD44v9 High、BxPC3、MiaPaca2、Panc10.05、Panc1、SW1990、卵巣癌ES-2、KF、KFTx、RMG-1、SHIN-3、結腸癌Cac02、SW480、乳癌MCF-7、SK-BR-3、肺癌A549等の多くの細胞がウイルス単独で死滅するため5-FCの付加による細胞死の増強は見られなかったが、ウイルス単独では細胞死が生じづらい膵癌AsPC1、卵巣癌A2780、OVCAR3、SKOV3、結腸癌HT-29、Lovo等において、5-FCの添加量依存的な細胞死の増強が確認された(図10-1、図10-2、図10-7、図10-8、図10-13、図10-16)。MOI=0.1では、ウイルス感染量が低下したことによりウイルス単独では細胞死が生じづらくなった膵癌AsPC1 CD44v9 High、MiaPaca2、Panc10.05、卵巣癌ES-2、KF、KFTx、SHIN-3、結腸癌Cac02、SW480、乳癌MCF-7、SK-BR-3、肺癌A549等の細胞株において、5-FCの量依存的な細胞死の増強が確認された(図10-3、図10-4、図10-9、図10-10、図10-14、図10-17)。さらにMOI=0.01では、膵癌Panc1、SW1990、卵巣癌RMG-1等のウイルスの感染量が高い(MOI=1及びMOI=0.1の)場合には5-FCとの併用効果が見られなかった細胞株においても、5-FCの量依存的な併用効果が確認された(図10-5、図10-6、図10-11、図10-12、図10-15、図10-18)。
【実施例】
【0065】
実施例4 マウス体内での遺伝子組換えワクシニアの特性解析・治療効果検討
本レスキューシステムにより導入された外来遺伝子の発現や機能をマウス生体内において確認するため、異種移植モデルを用いたルシフェラーゼ導入ウイルスの発光検出、同種移植モデルを用いたFcy::Fur導入ウイルスと5-FC併用検討、並びに両モデルに対するウイルス治療効果の検討を行った。
【実施例】
【0066】
異種移植ではウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)を恒常的に発現する6種の膵癌細胞(AsPC1 CD44v9 High、BxPC3、Miapaca2、Panc1、Panc10.05、SW1990)を5x106cellsでCB.17 ICR-SCID/SCID Jclマウス腹腔内に移植し、1~2週間生着、増殖させた。移植後の膵臓癌腹膜播種マウスにLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LucGFP(FF-LG)を1x106PFUで腹腔内投与し、投与後のウイルス増殖及びウイルスに導入した外来遺伝子発現の確認、並びに生存率の観察を行った(図11-1、図11-2、図12-1、図12-2、図13)。ViviRen In Vivo Renilla Luciferase Substrate(プロメガ)の投与により腫瘍細胞のRluc発現を、またVivo Glo Luciferin(プロメガ)の投与によりウイルスに導入したルシフェラーゼ(Fluc)発現をそれぞれ発光として非侵襲的に検出した。発光検出、及び発光値の数値化にはin vivoイメージングシステム(Berthold, NightDHADE LB985)を使用した。
【実施例】
【0067】
ウイルスFlucの発現を見るとウイルス投与後2日目時点では全てのウイルス投与マウス(FF-LG)において腹腔内での強力なルシフェラーゼ発光(≒ウイルス増殖)が確認され、投与後10日目になるとその発光は減衰していた(図11-1)。また腫瘍Rlucの発現を見ると投与2日前では全てのマウスで腹腔内での強力なRluc発光(≒腫瘍増殖)が確認されるものの、ウイルス投与後11日時点ではウイルス非投与マウス(PBS)のみが強力なRluc発光を維持しており、ウイルス投与マウス(FF-LG)の腹腔内でのRluc発現は大きく減衰していた(図11-2)。Fluc及びRlucの数値化結果より、Flucの発光値はウイルス投与マウスにおいて投与後2日目から10日目にかけて減少していた(図12-1)。またRlucの発光値はウイルス非投与マウスでは投与前から投与後11日目にかけて増加しているのに対し、ウイルス投与マウスでは投与前から投与後11日目にかけてで大きく減少していた(図12-2)。特に投与後11目時点でのウイルス投与マウスのRluc発光値はウイルス非投与マウスの約1/10から1/100まで減衰していた。加えてウイルス投与後の生存率を見ると、全ての膵癌細胞移植モデルにおいてウイルス投与マウスはウイルス非投与マウスと比べその生存期間を延長させていた(図13)。
【実施例】
【0068】
また同種移植ではマウス結腸癌MC38細胞を1x105cellsでC57BL6Jjclマウスに皮下移植し、腫瘍が44~95mm3になるまで約10日間成長させた。腫瘍成長後にLC16mO VGF-EL-Fcy::Fur/O1L-EL-LacZ(FF/LacZ)を1x108PFUで腫瘍内へ直接投与し、その1日後に5-FCを12.5mg マウス腹腔内へ投与した。このウイルス・5-FCの交互投与を6回行い、以後腫瘍径測定によりウイルスの抗腫瘍効果及びプロドラッグとの併用効果を検討した。その結果、ウイルスとプロドラッグ併用(FF-LacZ+5-FC)は、ウイルス非投与マウス(PBS+PBS、PBS+5-FC)、及びウイルス単独投与マウス(FF-LacZ+PBS)と比べ腫瘍の増殖を抑制しており、15日後のウイルス非投与マウス(PBS+PBS)の腫瘍体積と比べて有意な差があること(* P<0.05)、17日後のウイルス非投与マウス及びウイルス単独投与マウスの腫瘍体積と比べて非常に有意な差があることがtwo-way ANOVA統計解析によって確認された(*** P<0.001, **** P<0.0001)(図14)。【0069】
以上より、本レスキューシステムにより外来遺伝子を導入された組換えワクシニアウイルスは、感染した細胞内でウイルス増殖に伴って外来遺伝子を発現させ、その遺伝子機能に応じた特性を獲得することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の方法で作製した外来遺伝子を発現する遺伝子は種々の疾患の治療等に用いることができる。
【配列表フリ-テキスト】
【0071】
配列番号1~8 プライマー
配列番号9 合成
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10-1】
9
【図10-2】
10
【図10-3】
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【図10-4】
12
【図10-5】
13
【図10-6】
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【図10-7】
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【図10-8】
16
【図10-9】
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【図10-10】
18
【図10-11】
19
【図10-12】
20
【図10-13】
21
【図10-14】
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【図10-15】
23
【図10-16】
24
【図10-17】
25
【図10-18】
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【図11-1】
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【図11-2】
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【図12-1】
29
【図12-2】
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【図13】
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【図14】
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