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明細書 :糖タンパク質のN結合型糖鎖の解析方法及び解析システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6502534号 (P6502534)
登録日 平成31年3月29日(2019.3.29)
発行日 平成31年4月17日(2019.4.17)
発明の名称または考案の名称 糖タンパク質のN結合型糖鎖の解析方法及び解析システム
国際特許分類 C12Q   1/34        (2006.01)
C07K   7/06        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
G01N  30/72        (2006.01)
G01N  30/88        (2006.01)
FI C12Q 1/34 ZNA
C07K 7/06
G01N 27/62 V
G01N 27/62 X
G01N 30/72 C
G01N 30/88 J
請求項の数または発明の数 13
全頁数 30
出願番号 特願2017-562372 (P2017-562372)
出願日 平成29年8月18日(2017.8.18)
国際出願番号 PCT/JP2017/029658
国際公開番号 WO2018/034346
国際公開日 平成30年2月22日(2018.2.22)
優先権出願番号 2016161118
優先日 平成28年8月19日(2016.8.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年10月19日(2018.10.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
発明者または考案者 【氏名】太田 悠葵
【氏名】川崎 ナナ
【氏名】高倉 大輔
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110001656、【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
審査官 【審査官】坂崎 恵美子
参考文献・文献 国際公開第2015/152135(WO,A1)
特開2008-309501(JP,A)
特開2010-256101(JP,A)
特開2015-145840(JP,A)
特開2008-051552(JP,A)
特表2011-505849(JP,A)
第64回質量分析総合討論会(2016)講演要旨集,2016年 5月 9日,p.190, 3P-11
第65回質量分析総合討論会(2017)講演要旨集,2017年 5月 1日,p.160, 2P-47
調査した分野 C12Q 1/34
C07K 7/06
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化して糖ペプチド含有試料を得る、糖タンパク質断片化工程、
糖ペプチド含有試料の一部をエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼと反応させ、糖鎖とアスパラギン(Asn)残基との結合部に存在するキトビオースのβ-1,4結合を切断することにより、1残基のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)(ただし該GlcNAcには1残基のフコース(Fuc)が結合していてもよい)をペプチド上に残して糖鎖を切断する、糖鎖切断工程、
糖鎖切断工程で得られた糖鎖切断ペプチド試料に対して液体クロマトグラフィー/質量分析を行ない、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを得る、事前液体クロマトグラフィー/質量分析工程、
Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する、糖鎖結合位置決定工程、
事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する、保持時間・m/z推定工程、
糖ペプチド含有試料の残部を液体クロマトグラフィー/質量分析に供し、前記保持時間及び前記m/zの推定結果に従い分析すべきプリカーサーイオンピークを選定し、選定されたピークに対してプリカーサーイオン選択質量分析を行ない、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する、本分析工程、
を含む、糖タンパク質のN結合型糖鎖の解析方法。
【請求項2】
エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼが、Endo F1、Endo F2、Endo F3、Endo M、Endo H及びEndo Sから選択される1種又は2種以上を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
糖ペプチド含有試料として、糖鎖が結合していないペプチドを除去して糖ペプチドを濃縮した試料を用いる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
糖鎖切断工程で得られた糖鎖切断ペプチド試料を内部標準として、糖ペプチド含有試料の残部に添加して本分析工程を実施し、当該糖鎖結合部位に存在する糖鎖を相対定量することをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記内部標準として、糖鎖未切断の糖ペプチドを除去した糖鎖切断ペプチド試料を用いる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
糖鎖未切断の糖ペプチドの除去は、冷却したアセトンを添加し、糖鎖未切断の糖ペプチドを沈殿させて分離する方法により、又は親水性相互作用クロマトグラフィーを用いて糖鎖未切断の糖ペプチドを吸着除去することにより行われる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化した糖ペプチド含有試料より調製された、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼにより1残基のGlcNAc(ただし該GlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)をペプチド中のAsn残基上に残して糖鎖が切断された糖鎖切断ペプチド試料について、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを取得する、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部と、
Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する、糖鎖結合位置決定部と、
事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する、保持時間・m/z推定部と、
本分析用試料である糖鎖切断前の糖ペプチド含有試料について、本分析を行なう、本分析部であって、
本分析用試料について、クロマトグラム、及び推定された保持時間の画分のマススペクトルを取得する、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
m/zの推定結果に従い、前記推定された保持時間の画分のマススペクトルより分析すべきプリカーサーイオンピークを選定する、分析対象ピーク選定部、及び
選定された分析対象ピークについてのプリカーサーイオン選択質量分析データを取得し、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する、糖鎖構造決定部
を含む、本分析部と、
分析結果を出力する出力部と
を備える、糖タンパク質のN結合型糖鎖の解析システム。
【請求項8】
N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化した糖ペプチド含有試料より調製された、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼにより1残基のGlcNAc(ただし該GlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)をペプチド中のAsn残基上に残して糖鎖が切断された糖鎖切断ペプチド試料について、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを取得する、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部と、
Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する、糖鎖結合位置決定部と、
事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する、保持時間・m/z推定部と、
本分析用試料である糖鎖切断前の糖ペプチド含有試料について、本分析を行なう、本分析部であって、
前記糖鎖切断ペプチド試料が内部標準として添加された本分析用試料について、クロマトグラム、及び推定された保持時間の画分のマススペクトルを取得する、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
m/zの推定結果に従い、前記推定された保持時間の画分のマススペクトルより分析すべきプリカーサーイオンピークを選定する、分析対象ピーク選定部、
選定された分析対象ピークについてのプリカーサーイオン選択質量分析データを取得し、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する、糖鎖構造決定部、及び
内部標準と各糖ペプチドの抽出イオンクロマトグラムを取得して、内部標準に対する各糖ペプチドの相対強度を算出することにより、当該糖鎖結合部位に存在する糖鎖を相対定量する、糖鎖定量部
を含む、本分析部と、
分析結果を出力する出力部と
を備える、糖タンパク質のN結合型糖鎖の解析システム。
【請求項9】
糖タンパク質のN結合型糖鎖を解析するために、1又は複数のコンピューターを、
N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化した糖ペプチド含有試料より調製された、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼにより1残基のGlcNAc(ただし該GlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)をペプチド中のAsn残基上に残して糖鎖が切断された糖鎖切断ペプチド試料について、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを取得する、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する、糖鎖結合位置決定部、
事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する、保持時間・m/z推定部、
本分析用試料である、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼによる糖鎖切断処理を受けていない糖ペプチド含有試料について、本分析を行なう、本分析部であって、
本分析用試料について、クロマトグラム、及び推定された保持時間の画分のマススペクトルを取得する、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
m/zの推定結果に従い、前記推定された保持時間の画分のマススペクトルより分析すべきプリカーサーイオンピークを選定する、分析対象ピーク選定部、及び
選定された分析対象ピークについてのプリカーサーイオン選択質量分析データを取得し、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する、糖鎖構造決定部
を含む、本分析部、並びに
分析結果を出力する出力部
として機能させるためのプログラム。
【請求項10】
糖タンパク質のN結合型糖鎖を解析するために、1又は複数のコンピューターを、
N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化した糖ペプチド含有試料より調製された、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼにより1残基のGlcNAc(ただし該GlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)をペプチド中のAsn残基上に残して糖鎖が切断された糖鎖切断ペプチド試料について、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを取得する、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する、糖鎖結合位置決定部、
事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する、保持時間・m/z推定部、
本分析用試料である糖鎖切断前の糖ペプチド含有試料について、本分析を行なう、本分析部であって、
前記糖鎖切断ペプチド試料が内部標準として添加された本分析用試料について、クロマトグラム、及び推定された保持時間の画分のマススペクトルを取得する、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
m/zの推定結果に従い、前記推定された保持時間の画分のマススペクトルより分析すべきプリカーサーイオンピークを選定する、分析対象ピーク選定部、
選定された分析対象ピークについてのプリカーサーイオン選択質量分析データを取得し、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する、糖鎖構造決定部、及び
内部標準と各糖ペプチドの抽出イオンクロマトグラムを取得して、内部標準に対する各糖ペプチドの相対強度を算出することにより、当該糖鎖結合部位に存在する糖鎖を相対定量する、糖鎖定量部
を含む、本分析部、並びに
分析結果を出力する出力部
として機能させるためのプログラム。
【請求項11】
EEQFNSTFR、EEQYNSTFR、又はEEQFNSTYRのアミノ酸配列からなるペプチドのアスパラギン残基に、1残基のGlcNAc、又は1残基のFucが結合した1残基のGlcNAcが結合してなるペプチドからなる、IgG型抗体のトリプシン消化物に含まれる糖ペプチド上の糖鎖を定量解析するための内部標準物質。
【請求項12】
IgG型抗体を断片化したペプチド混合物から糖ペプチドを分離回収し、糖ペプチドをエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼと反応させた後、糖鎖未切断の糖ペプチドを除去することを含む、IgG型抗体の糖鎖を定量解析するための内部標準の製造方法。
【請求項13】
EEQYNSTYRのアミノ酸配列からなるペプチドのアスパラギン残基に、1残基のGlcNAc、又は1残基のFucが結合した1残基のGlcNAcが結合してなるペプチドの、IgG型抗体のトリプシン消化物に含まれる糖ペプチドを定量解析するための内部標準物質としての使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィー/質量分析を用いてN結合型糖鎖を解析するN結合型糖鎖解析方法及びN結合型糖鎖解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖は重要なタンパク質の翻訳後修飾であり、近年、その構造及び機能の解析が急速に進められている。このような糖タンパク質、糖ペプチドの解析方法として、液体クロマトグラフィー/質量分析を用いた方法が広く用いられるようになっている。このように液体クロマトグラフィー/質量分析を用いてN結合型糖タンパク質、糖ペプチドの構造を解析する場合、ペプチド-N-グリカナーゼ(PNGase F)による糖鎖の切断を行い、N結合型糖鎖が結合していたアスパラギン(Asn)をアスパラギン酸(Asp)へ変化させ、この変化を検出することによりN結合型糖鎖の結合位置を決定する手法が一般的である。(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、PNGase Fを用いてN結合型糖鎖結合位置に存在するAsnのAspへの変化を観察する方法には、Asnの脱アミド化によるAspへの変化なのか、PNGase F処理によるAspへの変化なのか判別がつかないという問題、AsnからAspへの質量の変化が+1 Daと小さいことから、誤同定が頻発しやすいという2つの問題がある。
【0004】
これらの問題への対処法として、例えば、安定同位体標識したH218O中でPNGase Fで糖鎖を切断することにより、糖鎖結合位置のAsnをAspへ変化させる際にAspのカルボキシル基のヒドロキシ基を18Oでラベルし、質量の変化を+3 DaとすることでAsnの脱アミド化と差別化し、モノアイソトピックピークピッキングのミスによる誤同定を緩和する方法が用いられている(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
糖タンパク質、糖ペプチドから遊離させた糖鎖の定量に関しては、PNGase FによりすべてのN結合型糖鎖をタンパク質から切断遊離させ、糖鎖を標識した後液体クロマトグラフィー等を用いて測定する方法がよく知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2015-142555号公報
【特許文献2】特開2009-145169号公報
【0007】

【非特許文献1】Kaji, H. et al.(2003) Lectin affinity capture, isotope-coded tagging and mass spectrometry to identify N-linked glycoproteins. Nat Biotechnol, 21, 667-672
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、糖タンパク質、糖ペプチドの糖鎖を定性、定量する場合、例えば以下のような3つの問題が存在する。
【0009】
1つ目の問題は、N結合型糖鎖結合位置のAsnをPNGase FでAspへ変化させた場合、その質量変化は+1 Da、18O安定同位体標識した場合は+3 Daとなるが、+3 Daの変化でも質量分析において区別しやすいとは言い難い。質量分析で適切に区別するためには+5 Da以上の質量の変化が望ましく、+3 Da程度の変化では誤同定につながりやすい。
【0010】
2つ目の問題は、糖鎖修飾は非常に多くのタンパク質に起こっており、かつ同一のタンパク質に複数の糖鎖修飾が施されている場合も多い。PNGase Fで糖鎖をすべて糖タンパク質、糖ペプチドから切断し遊離させた場合、どの糖鎖がどのAsnに結合していたのか判別が不可能となり、糖鎖結合部位ごとの糖鎖の定量をすることができない。糖鎖結合位置ごとの糖鎖の定量を行うならば、PNGase Fで糖鎖を切断せずに、糖タンパク質、または糖ペプチドの状態で分析を行わなければならない。
【0011】
3つ目の問題は、タンパク質、ペプチドと比較して糖タンパク質、糖ペプチドの質量分析でのイオン化効率は悪く、データディペンデントMS分析において、糖タンパク質、糖ペプチドをプリカーサーイオンとしたデータ取得が行いにくいという問題がある。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、N結合型糖鎖の結合部位ごとの定性・定量を正確に実行できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、分析すべき糖ペプチド含有試料の一部をエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼで処理して、N結合型糖鎖結合位置のAsn上にキトビオースコアのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を一つだけ残して糖鎖を切断し、この糖鎖切断試料を事前に液体クロマトグラフィー/質量分析に付し、その結果をもとに、本分析での目的糖ペプチドの保持時間と解析すべきプリカーサーイオンの質量電荷比(m/z)を予測して本分析を実施することにより、上記の課題を解決できることを見出し、以下の発明を完成した。
(1) N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化して糖ペプチド含有試料を得る、糖タンパク質断片化工程、
糖ペプチド含有試料の一部をエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼと反応させ、糖鎖とアスパラギン(Asn)残基との結合部に存在するキトビオースのβ-1,4結合を切断することにより、1残基のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)(ただし該GlcNAcには1残基のフコース(Fuc)が結合していてもよい)をペプチド上に残して糖鎖を切断する、糖鎖切断工程、
糖鎖切断工程で得られた糖鎖切断ペプチド試料に対して液体クロマトグラフィー/質量分析を行ない、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを得る、事前液体クロマトグラフィー/質量分析工程、
Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する、糖鎖結合位置決定工程、
事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する、保持時間・m/z推定工程、
糖ペプチド含有試料の残部を液体クロマトグラフィー/質量分析に供し、前記保持時間及び前記m/zの推定結果に従い分析すべきプリカーサーイオンピークを選定し、選定されたピークに対してプリカーサーイオン選択質量分析を行ない、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する、本分析工程、
を含む、糖タンパク質のN結合型糖鎖の解析方法。
(2) エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼが、Endo F1、Endo F2、Endo F3、Endo M、Endo H及びEndo Sから選択される1種又は2種以上を含む、(1)記載の方法。
(3) 糖ペプチド含有試料として、糖鎖が結合していないペプチドを除去して糖ペプチドを濃縮した試料を用いる、(1)又は(2)記載の方法。
(4) 糖鎖切断工程で得られた糖鎖切断ペプチド試料を内部標準として、糖ペプチド含有試料の残部に添加して本分析工程を実施し、当該糖鎖結合部位に存在する糖鎖を相対定量することをさらに含む、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) 前記内部標準として、糖鎖未切断の糖ペプチドを除去した糖鎖切断ペプチド試料を用いる、(4)記載の方法。
(6) 糖鎖未切断の糖ペプチドの除去は、冷却したアセトンを添加し、糖鎖未切断の糖ペプチドを沈殿させて分離する方法により、又は親水性相互作用クロマトグラフィーを用いて糖鎖未切断の糖ペプチドを吸着除去することにより行われる、(5)記載の方法。
(7) N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化した糖ペプチド含有試料より調製された、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼにより1残基のGlcNAc(ただし該GlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)をペプチド中のAsn残基上に残して糖鎖が切断された糖鎖切断ペプチド試料について、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを取得する、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部と、
Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する、糖鎖結合位置決定部と、
事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する、保持時間・m/z推定部と、
本分析用試料である糖鎖切断前の糖ペプチド含有試料について、本分析を行なう、本分析部であって、
本分析用試料について、クロマトグラム、及び推定された保持時間の画分のマススペクトルを取得する、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
m/zの推定結果に従い、前記推定された保持時間の画分のマススペクトルより分析すべきプリカーサーイオンピークを選定する、分析対象ピーク選定部、及び
選定された分析対象ピークについてのプリカーサーイオン選択質量分析データを取得し、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する、糖鎖構造決定部
を含む、本分析部と、
分析結果を出力する出力部と
を備える、糖タンパク質のN結合型糖鎖の解析システム。
(8) N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化した糖ペプチド含有試料より調製された、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼにより1残基のGlcNAc(ただし該GlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)をペプチド中のAsn残基上に残して糖鎖が切断された糖鎖切断ペプチド試料について、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを取得する、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部と、
Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する、糖鎖結合位置決定部と、
事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する、保持時間・m/z推定部と、
本分析用試料である糖鎖切断前の糖ペプチド含有試料について、本分析を行なう、本分析部であって、
前記糖鎖切断ペプチド試料が内部標準として添加された本分析用試料について、クロマトグラム、及び推定された保持時間の画分のマススペクトルを取得する、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
m/zの推定結果に従い、前記推定された保持時間の画分のマススペクトルより分析すべきプリカーサーイオンピークを選定する、分析対象ピーク選定部、
選定された分析対象ピークについてのプリカーサーイオン選択質量分析データを取得し、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する、糖鎖構造決定部、及び
内部標準と各糖ペプチドの抽出イオンクロマトグラムを取得して、内部標準に対する各糖ペプチドの相対強度を算出することにより、当該糖鎖結合部位に存在する糖鎖を相対定量する、糖鎖定量部
を含む、本分析部と、
分析結果を出力する出力部と
を備える、糖タンパク質のN結合型糖鎖の解析システム。
(9) 糖タンパク質のN結合型糖鎖を解析するために、1又は複数のコンピューターを、
N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化した糖ペプチド含有試料より調製された、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼにより1残基のGlcNAc(ただし該GlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)をペプチド中のAsn残基上に残して糖鎖が切断された糖鎖切断ペプチド試料について、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを取得する、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する、糖鎖結合位置決定部、
事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する、保持時間・m/z推定部、
本分析用試料である、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼによる糖鎖切断処理を受けていない糖ペプチド含有試料について、本分析を行なう、本分析部であって、
本分析用試料について、クロマトグラム、及び推定された保持時間の画分のマススペクトルを取得する、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
m/zの推定結果に従い、前記推定された保持時間の画分のマススペクトルより分析すべきプリカーサーイオンピークを選定する、分析対象ピーク選定部、及び
選定された分析対象ピークについてのプリカーサーイオン選択質量分析データを取得し、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する、糖鎖構造決定部
を含む、本分析部、並びに
分析結果を出力する出力部
として機能させるためのプログラム。
(10) 糖タンパク質のN結合型糖鎖を解析するために、1又は複数のコンピューターを、
N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化した糖ペプチド含有試料より調製された、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼにより1残基のGlcNAc(ただし該GlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)をペプチド中のAsn残基上に残して糖鎖が切断された糖鎖切断ペプチド試料について、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを取得する、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する、糖鎖結合位置決定部、
事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチ又はde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する、保持時間・m/z推定部、
本分析用試料である糖鎖切断前の糖ペプチド含有試料について、本分析を行なう、本分析部であって、
前記糖鎖切断ペプチド試料が内部標準として添加された本分析用試料について、クロマトグラム、及び推定された保持時間の画分のマススペクトルを取得する、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、
m/zの推定結果に従い、前記推定された保持時間の画分のマススペクトルより分析すべきプリカーサーイオンピークを選定する、分析対象ピーク選定部、
選定された分析対象ピークについてのプリカーサーイオン選択質量分析データを取得し、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する、糖鎖構造決定部、及び
内部標準と各糖ペプチドの抽出イオンクロマトグラムを取得して、内部標準に対する各糖ペプチドの相対強度を算出することにより、当該糖鎖結合部位に存在する糖鎖を相対定量する、糖鎖定量部
を含む、本分析部、並びに
分析結果を出力する出力部
として機能させるためのプログラム。
(11) EEQYNSTYR、EEQFNSTFR、EEQYNSTFR、又はEEQFNSTYRのアミノ酸配列からなるペプチドのアスパラギン残基に、1残基のGlcNAc、又は1残基のFucが結合した1残基のGlcNAcが結合してなるペプチドからなる、IgG型抗体のトリプシン消化物に含まれる糖ペプチド上の糖鎖を定量解析するための内部標準物質。
(12) IgG型抗体を断片化したペプチド混合物から糖ペプチドを分離回収し、糖ペプチドをエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼと反応させた後、糖鎖未切断の糖ペプチドを除去することを含む、IgG型抗体の糖鎖を定量解析するための内部標準の製造方法。
(13) EEQYNSTYRのアミノ酸配列からなるペプチドのアスパラギン残基に、1残基のGlcNAc、又は1残基のFucが結合した1残基のGlcNAcが結合してなるペプチドの、IgG型抗体のトリプシン消化物に含まれる糖ペプチドを定量解析するための内部標準物質としての使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、糖タンパク質において、どの部位にどのような構造のN結合型糖鎖が結合しているか(定性)、その結合部位には各糖鎖がどのような比率で結合しているか(定量)を解析することができる。本発明では、1残基のGlcNAc(このGlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)をペプチドのAsn上に残してN結合型糖鎖を切断するので、質量の変化が+203 Da(Fucが結合している場合には、+349 Da)と大きく、質量分析において質量の変化を適切に検出でき、誤検出を防止できる。また、AsnをAspに変化させる手法とは異なり、ペプチドに電荷の変化が生じないので、糖鎖切断前後でクロマトグラフィー保持時間に変化が起こりにくい。そのため、1残基のGlcNAcを残して糖鎖切断したペプチドの事前分析結果から、糖鎖切断前の本分析対象試料のクロマトグラフィー保持時間を高い精度で予測することができる。事前分析結果から、糖鎖切断前の糖ペプチド試料を本分析した時の液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを予測することで、分析すべきピークを適切に選定でき、効率的な糖鎖解析が可能となる。事前分析に用いた、1残基のGlcNAcを残して糖鎖を切断した糖ペプチドを本分析時の内部標準として用いることで、糖鎖結合部位ごとに糖鎖を相対定量する定量解析も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係るN結合型糖鎖解析システムの構成例を示したブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るN結合型糖鎖解析システムによる処理の一例を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の第2実施形態に係るN結合型糖鎖定量解析システムの構成例を示したブロック図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るN結合型糖鎖定量解析システムによる処理の一例を説明するフローチャートである。
【図5】糖ペプチドからAsn残基上にGlcNAcを残して糖鎖を切断するために用いるエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ、及びその他のグリコシダーゼの作用を説明する図である。
【図6】とあるIgG1抗体医薬品候補(とあるmAb)の糖ペプチドからGlcNAcまたはGlcNAc-Fucを残して糖鎖を切断したペプチドのマススペクトルと抽出イオンクロマトグラムの図である。
【図7】とあるmAbの糖ペプチド(本分析用試料)のベースピーククロマトグラムと15から17分に認められる主ピーク統合マススペクトルの図である。図6と非常に近い保持時間に糖ペプチドが溶出されていることが分かる。
【図8】とあるmAbの糖ペプチドから従前の方法であるPNGase F処理により糖ペプチドを切断した時の抽出イオンクロマトグラムの図である。本分析用試料の溶出時間との差が大きいことが分かる。図6のGlcNAcを残して糖鎖を切断したペプチドと比較して、図7の糖ペプチドの溶出時間より離れた位置に溶出されてしまっているのが分かる。
【図9】ヒト骨髄腫由来のIgG1から調製した、第2実施形態のための内部標準物質のベースピーククロマトグラムとマススペクトルである。糖鎖が切断され、ペプチド上にGlcNAcまたはGlcNAc-Fucが残されており、糖鎖未切断の不純物を含まない。
【図10】とあるmAb及びヒト骨髄腫由来IgG1のトリプシン消化物にそれぞれ内部標準を添加して液体クロマトグラフィー/質量分析を行った時のベースピーククロマトグラムである。
【図11】とあるmAbのトリプシン消化物に内部標準を添加した試料の保持時間10分から11分のマススペクトルを示している。内部標準物質と、とあるmAbの糖ペプチドのピークが確認できる。
【図12】内部標準を添加して比較定量した時のとあるmAbとヒト骨髄腫由来IgG1の結合位置特異的糖鎖定量の結果を示している。
【図13】抗体医薬品の一例として、IgG1の糖鎖を本発明の方法により解析した解析例1の結果を示す図である。A; IgG1のトリプシン消化により得た糖ペプチドからGlcNAc、Fucを残して糖鎖を切断したペプチド(以下、G-TAGと略す)のベースピーククロマトグラム。G-TAGの保持時間は11.53分であった。B; IgG1のG-TAGのマススペクトル。この結果から糖鎖切断前の糖ペプチドのm/zの推定値を算出し、リスト化した。C; IgG1のG-TAGのプロダクトイオンスペクトル。この結果から、IgG1の糖鎖修飾部位を確認した。D; 糖鎖切断前のIgG1糖ペプチドのベースピーククロマトグラム。G-TAGと非常に近い保持時間(11.37分)に糖ペプチドのピークが確認された。E; 保持時間11.37分付近の画分のマススペクトル。IgG1糖ペプチドに由来するイオンが検出されている。G-TAGの解析結果から糖ペプチドのm/zを予測可能であることが確認された。F; G-ILIS(Glycopeptide-inclusion list data-dependent acquisition MS)リスト依存的MS/MSにより取得したプロダクトイオンスペクトルの例として、IgG1の代表的糖鎖G2Fが結合した糖ペプチドのプロダクトイオンスペクトルとフラグメントの帰属を示した。
【図14】高マンノース型糖鎖修飾タンパク質の一例として、RNase Bの糖鎖を本発明の方法により解析した解析例2の結果を示す図である。A; RNase Bのトリプシン消化により得た糖ペプチドからGlcNAcを残して糖鎖を切断したペプチド(以下、G-TAGと略す)の抽出イオンクロマトグラム。G-TAGの保持時間は7.02分であった。B; RNase BのG-TAGのマススペクトル。この結果から糖鎖切断前の糖ペプチドのm/zの推定値を算出し、リスト化した。C; RNase Bが有する代表的な糖鎖であるMan5が結合した糖ペプチド(SRNLTKのNに図示した通りの糖鎖(丸印がマンノース)が結合した糖ペプチド)の抽出イオンクロマトグラム。G-TAGと非常に近い保持時間(7.26分)に糖ペプチドのピークが確認された。D; 保持時間7.26分付近の画分のマススペクトル。G-TAGの解析結果から糖ペプチドのm/zを予測可能であることが確認された。E; G-ILISリスト依存的MS/MSにより取得したプロダクトイオンスペクトルの例として、Man5が結合した糖ペプチドのプロダクトイオンスペクトルとフラグメントの帰属を示した。
【図15】シアル酸結合複合型2本鎖糖鎖修飾タンパク質の一例として、トランスフェリン(Tf)の糖鎖を本発明の方法により解析した解析例3の結果を示す図である。A; Tfの還元カルバミドメチル化物からトリプシン消化により得たCGLVPVLAENYNK配列を有する糖ペプチドからGlcNAcを残して糖鎖を切断したペプチド(以下、G-TAGと略す)の抽出イオンクロマトグラム。G-TAGの保持時間は13.41分であった。B; TfのG-TAGのマススペクトル。この結果から糖鎖切断前の糖ペプチドのm/zの推定値を算出し、リスト化した。C; Tfが有する代表的な糖鎖であるジシアリル2本鎖(S2-Bi)が結合した糖ペプチド(CGLVPVLAENYNKの第10番Nに図示した通りの糖鎖が結合した糖ペプチド)の抽出イオンクロマトグラム。G-TAGと非常に近い保持時間(14.12分)に糖ペプチドのピークが確認された。D; 保持時間7.26分付近の画分のマススペクトル。G-TAGの解析結果から糖ペプチドのm/zを予測可能であることが確認された。E; G-ILISリスト依存的MS/MSにより取得したプロダクトイオンスペクトルの例として、S2-Biが結合した糖ペプチドのプロダクトイオンスペクトルとフラグメントの帰属を示した。
【図16】シアル酸結合複合型3本鎖糖鎖修飾タンパク質の一例として、フェツインの糖鎖を本発明の方法により解析した解析例4の結果を示す図である。A-1; フェツインの還元カルバミドメチル化物からトリプシン消化により得たLCPDCPLLAPLNDSR配列を有する糖ペプチドからGlcNAcを残して糖鎖を切断したペプチド(以下、G-TAGと略す)の抽出イオンクロマトグラム。G-TAGの保持時間は13.85分であった。A-2; フェツインのG-TAGのマススペクトル。この結果から糖鎖切断前の糖ペプチドのm/zの推定値を算出し、リスト化した。A-3; G-TAGのプロダクトイオンスペクトル。B-1; 糖鎖切断前のフェツイン糖ペプチドのトータルイオンカレントクロマトグラム。G-TAGの保持時間の前後2.5分にLCPDCPLLAPLNDSR配列を有する糖ペプチドが溶出されていると予想された。B-2; 保持時間14.61~15.19分の画分のマススペクトル。LCPDCPLLAPLNDSR配列を有する糖ペプチドのイオンのピークが確認された。G-TAGの解析結果から糖ペプチドのm/zも予測可能であることが確認された。B-3; LCPDCPLLAPLNDSR配列のN残基にフェツインが有する代表的な糖鎖であるトリシアリル3本鎖糖鎖が結合した糖ペプチド(m/z 1534.62;図示した通りの糖鎖が結合した糖ペプチド)の抽出イオンクロマトグラム。B-4; m/z 1534.62の糖ペプチドをプリカーサーイオンとしたプロダクトイオンスペクトルと主なフラグメントの帰属。
【図17】シアル酸結合複合型4本鎖糖鎖修飾タンパク質の一例として、α1-酸性糖タンパク質の糖鎖を本発明の方法により解析した解析例5の結果を示す図である。A-1; α1-酸性糖タンパク質のトリプシン消化により得たSVQEIQATFFYFTPNK配列を有する糖ペプチドからGlcNAcを残して糖鎖を切断したペプチド(以下、G-TAGと略す)の抽出イオンクロマトグラム。G-TAGの保持時間は15.32分であった。A-2; α1-酸性糖タンパク質のG-TAGのマススペクトル。この結果から糖鎖切断前の糖ペプチドのm/zの推定値を算出し、リスト化した。A-3; G-TAGのプロダクトイオンスペクトル。B-1; 糖鎖切断前のα1-酸性糖タンパク質糖ペプチドのトータルイオンカレントクロマトグラム。G-TAG保持時間の前後2.5分の範囲内にSVQEIQATFFYFTPNK配列を有する糖ペプチドが溶出されると予想された。B-2; 保持時間15.83~17.75分の画分のマススペクトル。SVQEIQATFFYFTPNK配列を有する糖ペプチドのイオンのピークが確認された。G-TAGの解析結果から糖ペプチドのm/zも予測可能であることが確認された。B-3; SVQEIQATFFYFTPNK配列のN残基にα1-酸性糖タンパク質が有する代表的な糖鎖であるテトラシアリル4本鎖糖鎖が結合した糖ペプチド(m/z 1813.07;図示した通りの糖鎖が結合した糖ペプチド)の抽出イオンクロマトグラム。B-4; m/z 1813.07のピークの糖ペプチドをプリカーサーイオンとしたプロダクトイオンスペクトルと主なフラグメントの帰属。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で解析対象となる糖タンパク質は、N結合型糖鎖を有する糖タンパク質であれば特に限定されない。N結合型糖鎖とO結合型糖鎖の両方を有する糖タンパク質でもよい。

【0017】
本発明のN結合型糖鎖の解析方法には、糖タンパク質・糖ペプチドの構造(N結合型糖鎖の糖タンパク質・糖ペプチド分子中での結合位置、及び結合しているN結合型糖鎖の構造)を決定する定性分析を行なう第1実施態様と、N結合型糖鎖が結合している各部位ごとに、どのような構造の糖鎖がどれだけの割合で結合しているかを相対定量する第2実施態様が包含される。

【0018】
以下、まず第1実施態様と第2実施態様の共通部分の工程を説明し、次いで第2実施態様に特徴的な工程を説明する。

【0019】
本発明のN結合型糖鎖解析方法は、糖タンパク質断片化工程、糖鎖切断工程、事前液体クロマトグラフィー/質量分析工程、糖鎖結合位置決定工程、保持時間・m/z推定工程、本分析工程を含む。

【0020】
糖タンパク質断片化工程では、N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化して糖ペプチド含有試料を得る。トリプシンやAsp-N等の、特定の配列部位で特異的にペプチドを切断する酵素を用いることができるが、特に限定されるものではなく、公知の断片化方法を採用することができる。断片化に先立ち、通常、糖タンパク質の還元処理及びアルキル化処理が行われる。

【0021】
この工程で得られる糖ペプチド含有試料は、糖鎖が結合したペプチド(糖ペプチド)と、糖鎖が結合していないペプチドとの混合物である。所望により、糖鎖が結合していないペプチドを除去して糖ペプチドを濃縮してもよい。その場合、冷却したアセトンを添加し、糖ペプチドを沈殿させて回収する方法や、セルロース親水性相互作用クロマトグラフィーなどの常法により糖ペプチドを分離回収したものを糖ペプチド含有試料とすればよい。

【0022】
糖タンパク質断片化工程で得られる糖ペプチド含有試料は、一部が糖鎖切断工程に付されて事前分析用試料となり、残部(残部の全てでも一部でもよい)が本分析用試料となる。

【0023】
糖鎖切断工程では、糖タンパク質断片化工程で得られた糖ペプチド含有試料の一部をエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼと反応させ、糖鎖とアスパラギン(Asn)残基との結合部に存在するキトビオースのβ-1,4結合を切断することにより、1残基のGlcNAcをペプチド上に残して糖鎖を切断する。このペプチド上に残すGlcNAcには、1残基のFucが結合していてもよい。

【0024】
エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼの種類は特に限定されない。使用可能なエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼの具体例として、Endo F1、Endo F2、Endo F3、Endo M、Endo H及びEndo Sを挙げることができる。これらのエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼから選択される1種又は2種以上、例えば3種類以上、4種類以上、5種類以上、又はこれらの全てを使用することができる。Endo F1、Endo F2、Endo F3の3種、又はEndo Mのみでも多くの糖タンパク質に対応できるが、断片化した糖タンパク質試料中に含まれる全てのN結合型糖鎖を切断できるよう、できるだけ多くのエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼを用いることとしてもよい。複数のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼで処理する場合には、全ての酵素を同時に糖ペプチド含有試料と反応させても良いし、順次反応させても良い。また、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼで処理する前に、その他の糖鎖切断酵素(例えば、ノイラミニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ等)で処理しても良い。

【0025】
事前液体クロマトグラフィー/質量分析工程では、糖鎖切断工程で得られた糖鎖切断ペプチド試料に対して液体クロマトグラフィー/質量分析を行ない、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを得る。この液体クロマトグラフィー/質量分析自体は常法通りに実施することができる。質量分析には、衝突誘起解離(CID)を有する静電場イオントラップ型(Orbitrap)や四重極イオントラップ型等の質量分析計を用いることができる。CIDを用いた質量分析では、イオン開裂させて検出器で質量分析を行うという一連の動作を繰り返すことにより、MSn(nは2以上の整数)によるプロダクトイオンスキャンを行い、GlcNAcが付加されているペプチドを順次測定する。

【0026】
糖鎖結合位置決定工程では、糖ペプチドのAsn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮した(すなわち、AsnにGlcNAc又はGlcNAc-Fucが付加されているものとして)MS/MSイオンサーチまたはde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する。MS/MSイオンサーチまたはde novoシーケンス解析に用いるアルゴリズム、ソフトウエアは何ら限定されず、公知のアルゴリズム、ソフトウエアを利用することができる。

【0027】
もとの糖タンパク質が分子内の複数箇所にN結合型糖鎖を有している場合、糖鎖切断ペプチドには、ペプチド配列が異なる複数種類のGlcNAc又はGlcNAc-Fuc結合ペプチドが含まれるので、それら複数種類のGlcNAc又はGlcNAc-Fuc結合ペプチドのそれぞれについて、GlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチまたはde novoシーケンス解析を行ない、糖鎖結合位置を決定すればよい。

【0028】
保持時間・m/z推定工程では、上記の事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチまたはde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチド含有試料の本分析における液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンの質量電荷比(m/z)を推定する。

【0029】
本分析試料の液体クロマトグラフィー保持時間(RtGlycosylated)は、下記式1のように、糖鎖切断ペプチド試料の事前分析における液体クロマトグラフィー保持時間RtPeptide+GlcNAcに、差分Δtを加算、減算することにより推定すればよい。これにより、RtGlycosylatedがとる数値範囲が推定される。
RtGlycosylated=RtPeptide+GlcNAc±Δt ・・・式1

【0030】
Δtは、解析者が任意に適当な値を入力するが、本分析における液体クロマトグラフィー/質量分析の分析条件が一般的な条件であるならば通常3分程度以下であり、例えば2分以下、又は1分以下の値としてよい。本発明においては、AsnをAspに変化させる従来法とは異なり、糖鎖切断してもペプチドに電荷の変化が生じないので、糖鎖切断前後でクロマトグラフィー保持時間に変化が起こりにくく、糖鎖切断したペプチドは糖鎖切断前の糖ペプチドとほぼ同じ位置に溶出される。そのため、Δtは3分程度以下という小さい値を採用できる。

【0031】
m/zの推定では、糖鎖結合位置決定工程で行われたMS/MSイオンサーチまたはde novoシーケンス解析の結果から、糖鎖切断ペプチドのモノアイソトピック質量を算出し、これに適当な糖鎖の質量を加算して本分析試料の糖ペプチドのモノアイソトピック質量を推定する。具体的には、ヘキソース、N-アセチルヘキソサミン、フコース、シアル酸等の単糖からなる糖鎖の想定しうるモノアイソトピック質量を網羅する方法や、糖鎖データベース、例えばGlycomeDB(http://glycome-db.org)からN結合型糖鎖として付加しうる糖鎖のモノアイソトピック質量を網羅する方法をとることができる。

【0032】
前者の単糖からなる糖鎖の想定しうるモノアイソトピック質量を網羅する方法では、例えば、ヘキソース(最小3から最大12個、モノアイソトピック質量162.0528)、N-アセチルヘキソサミン(最小1から最大9個、モノアイソトピック質量203.0794)、フコース(最小0から最大4個、モノアイソトピック質量146.0579)、N-アセチルノイラミニン酸(最小0から4個、モノアイソトピック質量291.0954)を想定すると、想定しうるすべての糖鎖のモノアイソトピック質量は、
(12-3+1)×(9-1+1)×(4-0+1)×(4-0+1)=2250通り
あるので、これをすべて計算機で書き出して、GlcNAc(又はGlcNAc-Fuc)を残して糖鎖が切断されたペプチドのモノアイソトピック質量に加算すれば、糖ペプチドのモノアイソトピック質量を網羅することができる。N結合型糖鎖を構成する各単糖の数は、生物種によってある程度決まっている。例えばヒトでは、N結合型糖鎖生合成経路の仕組みから、ヘキソース(マンノース、グルコース、ガラクトース)は基本的に上記した通り合計で3個~12個の範囲となる。下記表はヒトの糖タンパク質のN結合型糖鎖で各単糖がとり得る個数である。

【0033】
【表1】
JP0006502534B2_000002t.gif

【0034】
もとの糖タンパク質が分子内の複数箇所にN結合型糖鎖を有している場合には、複数種類のGlcNAc又はGlcNAc-Fuc結合ペプチドのそれぞれについて、保持時間とm/zの推定を行なえばよい。

【0035】
本分析工程では、糖タンパク質断片化工程で得られた糖ペプチド含有試料の残部を液体クロマトグラフィー/質量分析に供し、上記で推定した保持時間及びm/zの推定結果に従い分析すべきマススペクトルピークを選定し、選定されたピークに対してプリカーサーイオン選択質量分析を行ない、糖ペプチドの糖鎖構造を決定する。

【0036】
本分析工程における液体クロマトグラフィー/質量分析は、事前分析における液体クロマトグラフィー/質量分析と同じ条件で行う。本分析の液体クロマトグラフィー/質量分析では、上記で推定された保持時間の画分(この画分に分析すべき糖ペプチドが含まれる)を質量分析に供する。得られたマススペクトルより、上記で推定されたm/zのピークを選定し、プリカーサーイオン選択質量分析(主にプロダクトイオンスキャン)に供する。糖ペプチド構造の決定は、Sequest、MASCOT、X!Tandemのような公知のスコアリングアルゴリズムを用いて行えばよい。

【0037】
もとの糖タンパク質が複数箇所に糖鎖を有している場合には、ペプチド部分のアミノ酸配列が異なる糖ペプチドのそれぞれについて、保持時間及びm/zの推定結果を用いて液体クロマトグラフィー/質量分析及びプリカーサーイオン選択質量分析を行ない、各糖ペプチドの糖鎖構造を決定すればよい。

【0038】
第2実施態様の糖鎖定量解析を行う場合には、糖鎖切断工程で得られた糖鎖切断ペプチド試料を内部標準として、糖ペプチド含有試料の残部に添加して本分析工程を実施する。糖鎖切断ペプチド試料から糖鎖未切断の糖ペプチドを除去したものを内部標準として用いることが好ましい。糖鎖未切断の糖ペプチドの除去は、例えば、冷却したアセトンを添加し、糖鎖未切断の糖ペプチドを沈殿させて分離する方法、親水性相互作用クロマトグラフィーを用いて糖鎖未切断の糖ペプチドを吸着除去する方法などにより行うことができる。

【0039】
糖鎖定量工程では、推定された保持時間の画分のマススペクトルを取得した後、内部標準と各糖ペプチド(同じ配列のペプチドに種々の糖鎖が結合した糖ペプチド)の抽出イオンクロマトグラムを作成し、内部標準に対する各糖ペプチドの相対強度を算出することにより、当該糖鎖結合部位に存在する糖鎖を相対定量する。例えば、抽出イオンクロマトグラムのピーク面積を算出し、下記式2のように、各糖ペプチドのピーク面積を内部標準のピーク面積で除した値を求め、この値(×100は任意に行われる)を対比すればよい。
各糖ペプチドのピーク面積/内部標準のピーク面積×100 ・・・式2

【0040】
もとの糖タンパク質が複数箇所にN結合型糖鎖を有している場合には、内部標準ペプチドは、糖鎖結合部位ごとに調製する。例えば、もとの糖タンパク質が1分子中の3箇所にN結合型糖鎖を有している場合には、糖タンパク質を断片化して糖ペプチド含有試料を調製すると、ペプチド部分の配列が異なる3種類の糖ペプチドが生じ得る。それら3種類の糖ペプチドのそれぞれに対して内部標準を調製し、糖ペプチドの種類ごとに本分析を行なうことで、3箇所の糖鎖結合部位それぞれについて、当該部位に結合している糖鎖を相対定量することができる。

【0041】
糖タンパク質がIgG型抗体の場合、対応抗原が異なる抗体であっても、サブタイプが同一であれば、糖鎖結合部位のペプチド配列は同一である。例えば、抗原タンパク質Aに対するヒトIgG1型抗体と、抗原タンパク質Bに対するヒトIgG1型抗体を、それぞれトリプシンで消化し、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼで処理してペプチドのAsn残基上に1残基のGlcNAc又はGlcNAc-Fucを残して糖鎖切断した場合には、いずれの抗体からもEEQYNSTYR(配列番号1)というペプチドのN(Asn)にGlcNAc又はGlcNAc-Fucが結合したペプチドが得られる。ヒトIgG2型抗体の場合、トリプシンで消化し、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼで処理してペプチドのAsn残基上に1残基のGlcNAc又はGlcNAc-Fucを残して糖鎖切断すると、EEQFNSTFR(配列番号2)からなるペプチドのNにGlcNAc又はGlcNAc-Fucが結合したペプチドが得られる。ヒトIgG3型抗体の場合、トリプシンで消化し、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼで処理してペプチドのAsn残基上に1残基のGlcNAc又はGlcNAc-Fucを残して糖鎖切断すると、EEQYNSTFR(配列番号3)からなるペプチドのNにGlcNAc又はGlcNAc-Fucが結合したペプチドが得られる。ヒトIgG4型抗体の場合、トリプシンで消化し、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼで処理してペプチドのAsn残基上に1残基のGlcNAc又はGlcNAc-Fucを残して糖鎖切断すると、EEQFNSTYR(配列番号4)からなるペプチドのNにGlcNAc又はGlcNAc-Fucが結合したペプチドが得られる。同一生物種由来の抗体同士に限らず、異種生物由来の抗体でも糖鎖結合部位のペプチド配列が同一の場合もある。従って、IgG型抗体のN結合型糖鎖を本発明に従い定量解析する場合には、糖タンパク質断片化に同じ酵素を用いる限り、解析対象のIgG型抗体とは異なるIgG型抗体(サブタイプは同じである必要がある)で調製した内部標準を使用することができる。このような場合、異なる糖タンパク質試料に対して同一の内部標準を用いて糖鎖を相対定量できるため、試料間での糖鎖の比較定量評価も可能となる。IgG1型抗体では、EEQYNSTYR(配列番号1)からなるペプチドのNに1残基のGlcNAc又はGlcNAc-Fucが結合したペプチドを、IgG2型抗体の糖鎖解析では、EEQFNSTFR(配列番号2)からなるペプチドのNに1残基のGlcNAc又はGlcNAc-Fucが結合したペプチドを、IgG3型抗体の糖鎖解析では、EEQYNSTFR(配列番号3)からなるペプチドのNに1残基のGlcNAc又はGlcNAc-Fucが結合したペプチドを、IgG4型抗体の糖鎖解析では、EEQFNSTYR(配列番号4)からなるペプチドのNに1残基のGlcNAc又はGlcNAc-Fucが結合したペプチドを、それぞれ内部標準ペプチドとして使用すればよい。各サブタイプのIgG型抗体の糖鎖結合部位のペプチド配列が上記の通りであることはこの分野で周知である(例えば、Harazono A, Kawasaki N, Itoh S, Hashii N, Matsuishi-Nakajima Y, Kawanishi T, Yamaguchi T: Simultaneous glycosylation analysis of human serum glycoproteins by high-performance liquid chromatography/tandem mass spectrometry. J. Chromatogr. B. 868, 20-30 (2008)を参照)。

【0042】
次に、図面を参照しながら、本発明による糖タンパク質のN結合型糖鎖の解析システムについて説明する。図1、図2は、第1実施形態に係るN結合型糖鎖解析システムを説明する図であり、図3、図4は、第2実施形態に係るN結合型糖鎖解析システムを説明する図である。図1と図3で共通する構成には同じ符号を付している。

【0043】
図1に示した第1実施形態に係るN結合型糖鎖解析システム100は、上記した本発明のN結合型糖鎖解析方法の第1実施態様を実施する装置であって、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部10と、糖鎖結合位置決定部12と、保持時間・m/z推定部14と、本分析部16と、入力部20と、出力部30とを備える。本分析部16は、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部161と、分析対象ピーク選定部162と、糖鎖構造決定部163を含む。破線の矢印は試料の流れを、実線の矢印は電気信号の流れを示す。

【0044】
入力部20は、糖鎖解析システム100の動作に関わる情報を入力する手段である。キーボード等の従来公知の入力手段を好ましく用いることができる。出力部30は、分析結果をモニター等の表示装置に出力する。糖鎖結合位置の決定結果及び糖鎖構造の決定結果を出力するほか、装置が処理する各ステップの結果なども出力し得る。

【0045】
事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部10は、N結合型糖鎖を有する糖タンパク質を断片化した糖ペプチド含有試料より調製された、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼにより1残基のGlcNAc(ただし該GlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)をペプチド中のAsn残基上に残して糖鎖が切断された糖鎖切断ペプチド試料について、クロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを取得する。事前液体クロマトグラフィー/質量分析の詳細は、上記本発明の解析方法の事前液体クロマトグラフィー/質量分析工程で説明した通りである。

【0046】
事前液体クロマトグラフィー/質量分析に供する糖鎖切断ペプチド試料は、上記本発明の解析方法の糖タンパク質断片化工程および糖鎖切断工程によって調製する。図1には糖ペプチドの濃縮工程も記載されているが、糖タンパク質断片化工程で説明した通り、糖ペプチドの濃縮は所望により実施すればよい。

【0047】
糖鎖解析システム100の外部で調製した糖鎖切断ペプチド試料をシステム使用者が液体クロマトグラフィー/質量分析計に投入してもよいし、糖タンパク質断片化工程及び糖鎖切断工程もシステム100が実施するように構成してもよい。

【0048】
後者の場合、糖鎖解析システム100はさらに、糖タンパク質断片化部と、糖鎖切断部とを備え、所望により糖ペプチド濃縮部も備える。使用者は、糖タンパク質断片化部の試料投入口に糖タンパク質試料を投入する。糖タンパク質断片化部では、トリプシンやAsp-N等の酵素処理、又はその他の公知の断片化方法により、糖タンパク質試料を断片化する。断片化された糖タンパク質試料(糖ペプチド含有試料)は、所望により糖ペプチド濃縮部による糖ペプチドの濃縮処理を経て、一部が糖鎖切断部に投入され、残部(残部の全てでも一部でもよい)が本分析用の試料として一時的にストックされる。糖ペプチド濃縮部では、セルロース親水性相互作用クロマトグラフィーなどの常法により糖ペプチドが分離回収され、濃縮される。糖鎖切断部では、1種類又は2種類以上のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼで糖ペプチド含有試料を処理し、ペプチドのAsn残基上に1残基のGlcNAc(このGlcNAcには1残基のFucが結合していてもよい)を残して糖鎖を切断し、糖鎖切断ペプチド試料を調製する。この糖鎖切断ペプチド試料が液体クロマトグラフィー/質量分析計に投入され、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部10によってクロマトグラム及びマススペクトルが取得される。

【0049】
糖鎖結合位置決定部12は、Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチまたはde novoシーケンス解析を行ない、糖ペプチドにおける糖鎖結合位置を決定する。糖鎖結合位置の決定の詳細は、上記本発明の解析方法の糖鎖結合位置決定工程で説明した通りである。もとの糖タンパク質が分子内の複数箇所にN結合型糖鎖を有している場合には、ペプチド部分の配列が異なるGlcNAc又はGlcNAc-Fuc結合ペプチドのそれぞれについて、MS/MSイオンサーチまたはde novoシーケンス解析を行ない、糖鎖結合位置を決定する。

【0050】
保持時間・m/z推定部14は、事前液体クロマトグラフィー/質量分析及びMS/MSイオンサーチまたはde novoシーケンス解析の結果より、糖鎖切断前の糖ペプチドの液体クロマトグラフィー保持時間及びプリカーサーイオンのm/zを推定する。この推定ステップの詳細は、上記本発明の解析方法の保持時間・m/z推定工程で説明した通りである。液体クロマトグラフィー保持時間の推定の際は、システム使用者がΔtの値を入力部20より入力すればよい。もとの糖タンパク質が分子内の複数箇所にN結合型糖鎖を有している場合には、ペプチド部分の配列が異なるGlcNAc又はGlcNAc-Fuc結合ペプチドのそれぞれについて、本分析における液体クロマトグラフィー保持時間の推定とプリカーサーイオンのm/zの推定を行なう。

【0051】
本分析部16では、本分析用試料である、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼによる糖鎖切断処理を受けていない糖ペプチド含有試料の本分析が行われる。糖鎖解析システム100の外部で糖ペプチド含有試料を調製した場合には、事前液体クロマトグラフィー/質量分析が完了した後、システム使用者が糖ペプチド含有試料を液体クロマトグラフィー/質量分析計に投入する。糖タンパク質の断片化等の試料調製工程もシステムが行う構成とした場合には、システム内に一時的にストックされていた糖鎖切断していない糖ペプチド含有試料(本分析用試料)が、事前液体クロマトグラフィー/質量分析の完了後に液体クロマトグラフィー/質量分析計にシステムによって投入される。

【0052】
まず、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部161が、本分析用試料について、クロマトグラム、及び推定された保持時間の画分のマススペクトルを取得する。より具体的には、本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部161がまずは液体クロマトグラムを取得し、保持時間・m/z推定部14で推定された保持時間の画分が質量分析に供され、当該画分のマススペクトルが取得される。

【0053】
次いで、分析対象ピーク選定部162が、m/zの推定結果に従い、取得された上記画分のマススペクトルより分析すべきプリカーサーイオンピークを選定する。

【0054】
次いで、糖鎖構造決定部163により、選定された分析対象ピークのプリカーサーイオン選択質量分析(プロダクトイオンスキャン)が行われ、糖鎖の構造が決定される。

【0055】
もとの糖タンパク質が分子内の複数箇所にN結合型糖鎖を有している場合には、本分析用の糖ペプチド含有試料中に存在する、ペプチド配列が異なる糖ペプチドのそれぞれについて、保持時間及びm/zの推定結果を用いた液体クロマトグラフィー/質量分析とプリカーサーイオン選択質量分析が行われ、各糖ペプチドの糖鎖構造が決定される。

【0056】
図3に示した第2実施形態に係るN結合型糖鎖解析システム100は、上記した本発明のN結合型糖鎖解析方法の第2実施態様を実施する装置である。本分析部16が糖鎖定量部164をさらに含むほかは、基本的な構成は図1の第1実施態様に係るシステムと同様である。

【0057】
第2実施形態のシステム100では、糖鎖切断された試料が、事前液体クロマトグラフィー/質量分析に用いられるほか、本分析における内部標準としても利用される。解析方法の第2実施態様の説明にある通り、糖鎖切断ペプチド試料から糖鎖未切断の糖ペプチドを除去したものを内部標準として用いることが好ましい。

【0058】
第2実施形態においても、糖鎖解析システム100の外部で糖鎖切断ペプチド試料及び内部標準を調製し、システム使用者が糖鎖切断ペプチド試料の液体クロマトグラフィー/質量分析計への投入と本分析用試料への内部標準の添加を行なう構成としても良いし、システム100が糖タンパク質断片化、糖鎖切断、内部標準の調製及び本分析用試料への添加も実施するように構成してもよい。

【0059】
後者の構成では、第1実施形態のシステムと同様に、システム100は糖タンパク質断片化部と、糖鎖切断部と、所望により糖ペプチド濃縮部とを備えるほか、さらに所望により内部標準調製部を備えても良い。この場合、糖鎖切断部で糖鎖切断処理を受けた試料は、一部が事前液体クロマトグラフィー/質量分析に供され、残部が内部標準調製部に供される。内部標準調製部では、冷却したアセトンを添加し、糖鎖未切断の糖ペプチドを沈殿させて分離する方法や、親水性相互作用クロマトグラフィーを用いて糖鎖未切断の糖ペプチドを吸着除去する方法などにより、糖鎖切断ペプチド試料から糖鎖未切断の糖ペプチドを除去する処理が行われる。あるいは、糖鎖切断部が糖鎖未切断の糖ペプチドを糖鎖切断ペプチド試料から除去する処理をさらに行ない、除去処理後の糖鎖切断ペプチド試料の一部を事前液体クロマトグラフィー/質量分析に供し、残部を内部標準として用いることとしてもよい。

【0060】
本分析用試料に内部標準が添加される点以外は、糖鎖構造決定部163までの処理は第1実施形態のシステムと同様である。

【0061】
糖鎖定量部164では、内部標準と各糖ペプチドの抽出イオンクロマトグラムを取得して、内部標準に対する各糖ペプチドの相対強度を算出することにより、当該糖鎖結合部位に存在する糖鎖を相対定量する。詳細は本発明の解析方法の第2実施態様の糖鎖定量工程の説明の通りである。相対強度の算出結果は、所望によりグラフ化され、出力部30から表示装置に出力、表示される。

【0062】
本発明はまた、糖タンパク質のN結合型糖鎖を解析するために、1又は複数のコンピューターを、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部;糖鎖結合位置決定部;保持時間・m/z推定部;本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部、分析対象ピーク選定部、及び糖鎖構造決定部を含む、本分析部;並びに出力部として機能させるためのプログラムを提供する。当該プログラムは、第1実施形態に係るシステムとしてコンピューターを機能させるためのプログラムである。

【0063】
さらにまた、本発明は、糖タンパク質のN結合型糖鎖を解析するために、1又は複数のコンピューターを、事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部;糖鎖結合位置決定部;保持時間・m/z推定部;本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部(本分析用試料には、糖鎖切断ペプチド試料が内部標準として添加される)、分析対象ピーク選定部、糖鎖構造決定部、及び糖鎖定量部を含む、本分析部;並びに出力部として機能させるためのプログラムを提供する。当該プログラムは、第2実施形態に係るシステムとしてコンピューターを機能させるためのプログラムである。

【0064】
本発明はまた、EEQYNSTYR(配列番号1)、EEQFNSTFR(配列番号2)、EEQYNSTFR(配列番号3)又はEEQFNSTYR(配列番号4)のアミノ酸配列からなるペプチドのアスパラギン残基に、1残基のGlcNAc、又は1残基のFucが結合した1残基のGlcNAcが結合してなる、IgG型抗体のトリプシン消化物に含まれる糖ペプチドを定量解析するための内部標準ペプチドを提供する。ペプチド配列がEEQYNSTYR(配列番号1)のものが、IgG1型抗体の糖ペプチド定量解析のための内部標準として使用でき、ペプチド配列がEEQFNSTFR(配列番号2)のものが、IgG2型抗体の糖ペプチド定量解析のための内部標準として使用でき、ペプチド配列がEEQYNSTFR(配列番号3)のものが、IgG3型抗体の糖ペプチド定量解析のための内部標準として使用でき、ペプチド配列がEEQFNSTYR(配列番号4)のものが、IgG4型抗体の糖ペプチド定量解析のための内部標準として使用できる。当該内部標準ペプチドは、種々のIgG型抗体、好ましくは種々のヒトIgG型抗体の糖鎖の解析に用いることができる。ここで、ヒトIgG型抗体という語には、ヒトから分離されたIgG型抗体及びヒト細胞株を用いて製造されたIgG型抗体のほか、ヒト抗体を産生できるように遺伝的に改変された非ヒト動物を用いて製造されたIgG型抗体も包含される。

【0065】
IgG型抗体の糖鎖を定量解析するための質量分析用内部標準は、IgG型抗体を断片化したペプチド混合物から糖ペプチドを分離回収し、糖ペプチドをエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼと反応させた後、糖鎖未切断の糖ペプチドを除去することにより製造できる。IgG型抗体の断片化にトリプシンを用いた場合には、得られる内部標準ペプチドは、IgG型抗体トリプシン消化物から調製した糖ペプチド含有試料のN結合型糖鎖を定量解析するための内部標準となる。IgG型抗体の断片化に別の酵素、例えばAsp-Nを用いた場合には、得られる内部標準ペプチドは、IgG型抗体Asp-N消化物から調製した糖ペプチド含有試料のN結合型糖鎖を定量解析するための内部標準となる。糖鎖未切断の糖ペプチドの除去方法は上述した通りである。また、上述したように、解析すべきIgG型抗体と同じサブタイプのIgG型抗体を用いて内部標準ペプチドを調製する必要がある。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
実施例1(第1実施形態)
(1) 分析用試料の調製
糖タンパク質試料として、N結合型糖タンパク質である、とあるIgG1抗体(とあるmAb)医薬品候補を用いた。この糖タンパク質試料100μgを100μgの50 mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン、2 M 尿素、pH 8.0に溶解させた。1μgの1 M ジチオトレイトールを加えて室温で1時間放置し糖タンパク質を還元した後、2.8μgの1 M ヨード酢酸を加えて暗闇の中で1時間放置しアルキル化した。その後、1μgの1 M ジチオトレイトールを加えてアルキル化を停止した。
【実施例】
【0068】
(2) タンパク質の断片化
アルキル化した試料に100μLの水を加えた後、2μgのトリプシンを加えて、37℃で16時間インキュベートすることにより、糖タンパク質を消化して断片化した。次いで、このトリプシン消化物をセルロース親水性相互作用クロマトグラフィーに供し、トリプシン消化物から糖ペプチドを分離回収して糖ペプチドを濃縮し、糖ペプチド試料とした。
【実施例】
【0069】
(3) 糖鎖の切断
糖ペプチド試料の半分を糖鎖切断に供し、残り半分を本分析用試料とした。0.001 unitのEndo F2及び0.001 unitのEndo F3を半分量の糖ペプチド試料に加え、37℃で16時間処理することにより、還元末端のGlcNAcをペプチド上に残して糖鎖を切断した。
【実施例】
【0070】
(4) 事前LC/MS/MS及びMS/MSイオンサーチ
糖鎖切断後の試料をLC/MS/MSに付し、Asn-GlcNAc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチを行なった。
<使用機器及び分析条件>
1. 還元末端のGlcNAcをペプチド上に残して糖鎖を切断し、乾燥させた試料を25μLの0.1% ギ酸水溶液に溶解させた。
2.トラップカラム (PepMap100 C18 3μm、直径75μm×長さ20 mm; Thermo Scientific, 米国MA州) と分析カラム (Nano HPLC capillary column; 日京テクノス株式会社、日本国東京) を装着したナノ液体クロマトグラフ (EASY-nLC 1000; Thermo Scientific) をハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計 (Q Exactive; Thermo Scientific) に接続し、溶解させた試料5μLをトラップカラムにインジェクション、脱塩した後、分析カラムで試料の分離を行った。試料の分離には、A溶媒に0.1% ギ酸水溶液、B溶媒に0.1% ギ酸アセトニトリルを用いて、0分から40分でB溶媒0%からB溶媒35%のリニアグラジエント、40分から45分でB溶媒35%からB溶媒100%のリニアグラジエントを用いた。全測定を通じてポジティブイオンモード (印加電圧 2,000 V) で測定した。
【実施例】
【0071】
その結果、EEQYNSTYR(配列番号1)というペプチドのAsnにGlcNAcもしくはGlcNAc+Fucが修飾されたペプチドが決定された。このペプチドのクロマトグラフィー保持時間(RtPeptide+GlcNAc)は16.1分、モノアイソトピック質量〔M+H〕は1189.51+203.0794=1392.5894(GlcNAc修飾の場合)もしくは1189.51+203.0794+146.0579=1538.6473(GlcNAc+Fuc修飾の場合)であることが判明した(図6)。
【実施例】
【0072】
(5) 本分析における糖ペプチドの保持時間及びm/zの推定
糖ペプチド試料の残部を本分析したときの糖ペプチドの保持時間及び質量電荷比(m/z)を推定した。
【実施例】
【0073】
保持時間は、上記式1でΔtを2分と設定して推定した。その結果、本分析での糖ペプチドの保持時間は14.1分から18.1分と推定された。
【実施例】
【0074】
糖ペプチドのm/zは、糖鎖データベースGlycomeDB(http://glycome-db.org)からN結合型糖鎖として付加しうる糖鎖のモノアイソトピック質量を網羅する方法により推定値を算出した。その結果、〔M+2H〕2+は1041.418、1114.446、・・・、1317.526、1398.552、・・・、〔M+3H〕3+は694.614、743.300、・・・、878.687、932.704、・・・と推定された。
【実施例】
【0075】
(6) 糖ペプチド試料の本分析
糖鎖を切断していない残り半分の糖ペプチド試料をLC/MS/MSに付した。
<使用機器及び分析条件>
1. 還元末端のGlcNAcをペプチド上に残して糖鎖を切断し、乾燥させた試料を25μLの0.1% ギ酸水溶液に溶解させた。
2.トラップカラム (PepMap100 C18 3μm、直径75μm×長さ20 mm; Thermo Scientific, 米国MA州) と分析カラム (Nano HPLC capillary column; 日京テクノス株式会社、日本国東京) を装着したナノ液体クロマトグラフ (EASY-nLC 1000; Thermo Scientific) をハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計 (Q Exactive; Thermo Scientific) に接続し、溶解させた試料5μLをトラップカラムにインジェクション、脱塩した後、分析カラムで試料の分離を行った。試料の分離には、A溶媒に0.1% ギ酸水溶液、B溶媒に0.1% ギ酸アセトニトリルを用いて、0分から40分でB溶媒0%からB溶媒35%のリニアグラジエント、40分から45分でB溶媒35%からB溶媒100%のリニアグラジエントを用いた。全測定を通じてポジティブイオンモード (印加電圧 2,000 V) で測定した。
【実施例】
【0076】
糖ペプチド試料のベースピーククロマトグラムを図7Aに示す。事前に推定した通り、保持時間15~17分の間にベースピークが現れたので、この画分を質量分析に供した。その結果、図7Bに示したように、事前のm/z予測の通り、m/z 1317.526、1398.552、878.687、932.704等の糖ペプチドピークが観察された。これらのピークをプリカーサーイオン選択プロダクトイオンスキャンによる分析に供することで、目的とする糖ペプチド構造の決定を効率的に行うことができる。糖ペプチド構造の決定は、Sequest、MASCOT、X!Tandemのような公知のスコアリングアルゴリズムを用いて行えばよい。
【実施例】
【0077】
図8は、(2)で得た糖ペプチド試料から、従前の方法であるPNGase F処理により糖鎖を切断してAsnをAspに変化させ(ペプチド配列はEEQYNSTYRからEEQYDSTYRに変化)、これをLC/MS/MSに付して得られた抽出イオンクロマトグラムである。GlcNAcを残して糖鎖を切断したペプチド試料(図6)、及び糖鎖切断しない糖ペプチド試料(図7)の溶出時間と比較すると、PNGase F処理試料は離れた位置に溶出されてしまっている。このように、PNGase F処理による従来法では、AsnがAspに変化することで保持時間の差が大きくなってしまうので、GlcNAcを残して糖鎖を切断したペプチドを使用することに大きな意味があることが分かる。
【実施例】
【0078】
実施例2(第2実施形態)
(1) 分析用試料の調製
糖タンパク質試料として、N結合型糖タンパク質である、とあるmAb及びヒト骨髄腫由来IgG1を用いた。各試料100μgを、100μgの50 mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン、2 M 尿素、pH 8.0に溶解させた。1μgの1 M ジチオトレイトールを加えて室温で1時間放置し糖タンパク質を還元した後、2.8μgの1 M ヨード酢酸を加えて暗闇の中で1時間放置しアルキル化した。その後、1μgの1 M ジチオトレイトールを加えてアルキル化を停止した。
【実施例】
【0079】
(2) タンパク質消化
アルキル化した試料に100μLの水を加えた後、2μgのトリプシンを加えて、37℃で16時間インキュベートすることにより、糖タンパク質を消化して断片化し、糖ペプチドを含むペプチド試料とした。
【実施例】
【0080】
(3) 糖鎖の切断(内部標準物質の調製)
ヒト骨髄腫由来IgG1のペプチド試料の半分をセルロース親水性相互作用クロマトグラフィーに供し、ペプチド試料から糖ペプチドを分離回収し、ヒト骨髄腫由来IgG1の糖ペプチド試料とした。これに0.001 unitのEndo F2及び0.001 unitのEndo F3を加え、37℃で16時間処理することにより、還元末端のGlcNAcをペプチド上に残して糖鎖を切断した。
【実施例】
【0081】
糖鎖が切断されたペプチドから、未反応の糖ペプチドを除くため、セルロース親水性相互作用クロマトグラフィーを用いて未反応糖ペプチドを抜去した。この試料は、本分析における目的の糖ペプチドの溶出時間及びm/zの推定のための事前LC/MS/MSの試料として用いたほか、本分析における内部標準としても利用した。とあるmAbもIgG1抗体であり、ヒト骨髄腫由来IgG1と糖鎖結合位置のペプチド配列が同一であることから、とあるmAbの本分析においてもこの試料を内部標準として用いた。
【実施例】
【0082】
(4) 事前LC/MS/MS解析
本分析における目的の糖ペプチドの溶出時間及びm/zの推定のため、ヒト骨髄腫由来IgG1試料から調製した上記の糖鎖切断試料(内部標準物質)をLC/MS/MSに付した。LC/MS/MSの条件は実施例1と同様とした。ペプチド配列及び糖鎖結合部位は上記実施例1で既に同定できているため、Asn-GlcNAc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチのステップは省略した。
【実施例】
【0083】
内部標準物質のベースピーククロマトグラムとマススペクトルを図9に示す。糖鎖が切断され、ペプチドにGlcNAcまたはGlcNAc+Fucが残されており、糖鎖未切断の不純物を含まないことが分かる。この内部標準物質のクロマトグラフィー保持時間(RtPeptide+GlcNAc)は10.52分であった(図9A)。m/z(〔M+2H〕2+)は、GlcNAc+Fuc修飾ペプチドが769.83、GlcNAc修飾ペプチドが696.80であった(図9B)。
【実施例】
【0084】
(5) 本分析における糖ペプチドの保持時間及びm/zの推定
とあるmAb及びヒト骨髄腫由来IgG1のトリプシン消化物試料(ペプチド試料)を本分析したときの糖ペプチドの保持時間及び質量電荷比(m/z)を推定した。
【実施例】
【0085】
保持時間は、上記式1でΔtを0.5分と設定して推定した。その結果、本分析での糖ペプチドの保持時間は10.02分から11.02分と推定された。
【実施例】
【0086】
糖ペプチドのm/zは、図9Bの〔M+2H〕2+の結果をベースに、糖鎖データベースGlycomeDB(http://glycome-db.org)からN結合型糖鎖として付加しうる糖鎖のモノアイソトピック質量を網羅する方法により推定値を算出した。その結果、〔M+2H〕2+は1203.97, 1245.00, 1318.03, ・・・, 1399.05, ・・・, 1480.08, ・・・、〔M+3H〕3+は・・・, 879.02, ・・・, 933.04, ・・・と推定された。
【実施例】
【0087】
(6) トリプシン消化物試料の本分析
(6-1) 糖鎖構造の決定
とあるmAb及びヒト骨髄腫由来IgG1のトリプシン消化物試料に一定量の内部標準を添加し、LC/MS/MSを行なった。なお、本実施例2ではトリプシン消化物試料の糖ペプチド濃縮を省略して本分析を行なったが、実施例1と同様に、糖ペプチドを濃縮したものを用いて本分析を行なっても良い。
<使用機器及び分析条件>
1. 還元末端のGlcNAcをペプチド上に残して糖鎖を切断した内部標準5μgを50μgのとあるmAb及びヒト骨髄腫由来IgG1のトリプシン消化物試料に添加し、総量を50μLとした。
2.トラップカラム (PepMap100 C18 3μm、直径75μm×長さ20 mm; Thermo Scientific, 米国MA州) と分析カラム (Nano HPLC capillary column; 日京テクノス株式会社、日本国東京) を装着したナノ液体クロマトグラフ (EASY-nLC 1000; Thermo Scientific) をハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計 (Q Exactive; Thermo Scientific) に接続し、内部標準が添加された試料1μLをトラップカラムにインジェクション、脱塩した後、分析カラムで試料の分離を行った。試料の分離には、A溶媒に0.1% ギ酸水溶液、B溶媒0.1% ギ酸アセトニトリルを用いて、0分から10分でB溶媒0%からB溶媒35%のリニアグラジエント、10分から12分でB溶媒35%からB溶媒100%のリニアグラジエントを用いた。全測定を通じてポジティブイオンモード (印加電圧 2,000 V) で測定した。
【実施例】
【0088】
2つのトリプシン消化物試料のベースピーククロマトグラムを図10A、Bにそれぞれ示す。保持時間の推定結果に従い、保持時間10~11分の画分を質量分析に供した。
【実施例】
【0089】
図11は、とあるmAbのトリプシン消化物試料(図10A)の保持時間10~11分のマススペクトルである。事前のm/z予測の通り、m/z 879.02, 933.04, 1203.97, 1245.00, 1318.03, 1399.05, 1480.08等の糖ペプチドピークが観察された。これらの糖ペプチドピークをプリカーサーイオン選択プロダクトイオンスキャンによる分析に供することで、図11中に示した通りに各糖ペプチドの構造を決定した(pep=EEQYNSTYR, Nに各糖鎖が結合)。ヒト骨髄腫由来IgG1についても同様に、保持時間10~11分のマススペクトルを取得し、各糖ペプチドピークをプリカーサーイオン選択プロダクトイオンスキャンによる分析に供して糖ペプチドの構造を決定した(図は省略)。
【実施例】
【0090】
(6-2) 糖鎖の相対定量
次に、当該糖鎖結合部位における糖鎖の相対定量を行なった。内部標準(m/z 769.83)及び各糖ペプチド(m/z 879.02、933.04等)の抽出イオンクロマトグラムを作成し、それぞれのピーク面積を算出し、内部標準のピーク面積で各糖ペプチドのピーク面積を割り、100を掛けることにより、図12に示すように、とあるmAbとヒト骨髄腫由来IgG1のそれぞれについて、当該糖鎖結合部位における糖鎖の比較定量結果を得た。
【実施例】
【0091】
実施例3:モデル糖タンパク質の解析例
数種類のモデル糖タンパク質を本発明の糖鎖解析方法により解析した解析例を示す。以下の解析例では、事前LC/MS/MSの結果から糖鎖切断前の糖ペプチドの保持時間とm/zを推定し、推定結果に従って糖鎖切断前の糖ペプチドのLC/MS/MSまたはLC/MSnを実施する工程をG-ILIS(Glycopeptide-inclusion list data-dependent acquisition MS)と表現する。
【実施例】
【0092】
<解析例1:IgG1(抗体医薬品の例)>
実施例1、2で用いたIgG1抗体とは異なるIgG1(ヒト抗体)の糖鎖を以下の手順で解析した。基本的な操作は実施例1と同様に行った。
【実施例】
【0093】
(事前LC/質量分析)
IgG1のトリプシン消化物から糖ペプチドを回収した糖ペプチド濃縮試料をエンドグリコシダーゼF1~F3で処理し、アスパラギン残基上に1残基のGlcNAc又はGlcNAc-Fucを残して糖鎖が切断されたペプチド試料(以下、G-TAGと呼ぶ)を調製した。G-TAGのLC/MS/MSを実施し、G-TAGのベースピーククロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを得た。
【実施例】
【0094】
(G-ILIS)
事前LC/質量分析により取得したG-TAGの保持時間と質量から、糖鎖切断前の糖ペプチドの保持時間とm/zを推定し、m/zの推定値(実施例1と同様の方法にて算出)をリスト化した。事前LC/質量分析と同条件で、リスト依存的LC/MS/MS(G-ILIS)を実施し、IgG1糖ペプチドのベースピーククロマトグラム、マススペクトル及びプロダクトイオンスペクトルを取得して、糖鎖構造を決定した。
【実施例】
【0095】
分析条件:
nanoLC, EASY-nLCTM 1000 (Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA); トラップカラム, AcclaimTM PepMapTM 100 C18 (3 μm, 0.075 mm × 10 mm; Thermo Fisher Scientific); 分析カラム, NTCC-360/75-3-125 (C18, particle diameter 3 μm, 0.075 mm × 125 mm; Nikkyo Technos); hybrid quadrupole-orbitrap mass spectrometer, Q ExactiveTM (Thermo Fisher Scientific); 溶出条件, a linear gradient of solution A (0.1% (v/v) formic acid/water) and solution B (0.1% (v/v) formic acid/acetonitrile) at 300 nL/min (0-15 min, 0-35% solution B; 15-20 min, 35-100% solution B.
【実施例】
【0096】
解析結果を図13に示す。上段(A~C)がG-TAGのLC/MS/MS(事前LC/質量分析)の結果である。G-TAGの保持時間は11.53分であり、この付近のマススペクトルのピーク(m/z 769.8 (2+)、計算質量と一致することを確認)を抽出してプロダクトイオンスペクトルを取得し、Asn残基のGlcNAc修飾又はGlcNAc-Fuc修飾を考慮したMS/MSイオンサーチを実施した結果、IgG1のG-TAGの糖鎖修飾部位とアミノ酸配列が同定された。
【実施例】
【0097】
図13の下段(D~F)がG-ILISの結果である。G-TAGの保持時間(A)と質量(B)から、糖鎖切断前のIgG1糖ペプチドの保持時間とm/zを推定し、m/zの推定値をリスト化した。糖鎖切断前のIgG1糖ペプチドのベースピーククロマトグラム(D)では、G-TAGの保持時間に非常に近い11.37分(上記式1でΔtを0.5分に設定した範囲内)に目的の糖ペプチドのピークが認められた。11.37分付近の画分のマススペクトル(E)ではm/zの推定値に合致するピークが認められ、G-TAGの解析結果から糖ペプチドのm/zを予測できることが確認された。Eのマススペクトル中でm/zが推定値と一致した各糖ペプチドをプリカーサーイオンとし、プロダクトイオンスペクトルを得ることで、Fに示すように、各糖ペプチドの糖鎖構造を決定することができた(Fには、IgG1の代表的糖鎖G2Fが結合した糖ペプチドのプロダクトイオンスペクトルとフラグメントの帰属を示す)。
【実施例】
【0098】
<解析例2:リボヌクレアーゼB(高マンノース型糖鎖修飾タンパク質の例)>
解析例1と同様の方法にて、リボヌクレアーゼB(RNase B)(ウシ膵臓由来:SIGMA-ALDRICH)の糖鎖解析を行なった。
【実施例】
【0099】
結果を図14に示す。上段(A、B)がG-TAGのLC/MS/MS(事前LC/質量分析)の結果であり、下段(C~E)がG-ILISの結果である。RNase BのG-TAGの保持時間は7.02分であった(A)。糖鎖切断前のRNase B糖ペプチドの抽出イオンクロマトグラム(C)では、G-TAGの保持時間に非常に近い7.26分(上記式1でΔtを0.5分に設定した範囲内)に目的の糖ペプチドのピークが認められた。保持時間7.26分付近の画分のマススペクトル(D)ではm/zの推定値に合致するピークが認められ、G-TAGの解析結果から糖ペプチドのm/zを予測できることが本解析例でも確認された。Dのマススペクトル中でm/zが推定値と一致した各糖ペプチドをプリカーサーイオンとし、プロダクトイオンスペクトルを得ることで、Eに示すように、各糖ペプチドの糖鎖構造を決定することができた(Eには、RNase Bの代表的糖鎖Man5が結合した糖ペプチドのプロダクトイオンスペクトルとフラグメントの帰属を示す)。
【実施例】
【0100】
以上、リボヌクレアーゼBは高マンノース型糖鎖を有する糖タンパク質であるが、かかる糖タンパク質の糖鎖も本発明の方法で解析できた。
【実施例】
【0101】
<解析例3:トランスフェリン(シアル酸結合複合型2本鎖糖鎖修飾タンパク質の例)>
解析例1と同様の方法にて、トランスフェリン(Tf)(ヒト;SIGMA-ALDRICH)の糖鎖解析を行なった。
【実施例】
【0102】
結果を図15に示す。上段(A、B)がG-TAGのLC/MS/MS(事前LC/質量分析)の結果であり、下段(C~E)がG-ILISの結果である。TfのCGLVPVLAENYNK配列を有するG-TAGの保持時間は13.41分であった(A)。糖鎖切断前のTf由来CGLVPVLAENYNK配列を持つ糖ペプチドの抽出イオンクロマトグラム(C)では、G-TAGの保持時間に非常に近い14.12分(上記式1でΔtを1分に設定した範囲内)に目的の糖ペプチドのピークが認められた。保持時間14.12分付近の画分のマススペクトル(D)ではm/zの推定値に合致するピークが認められ、G-TAGの解析結果から糖ペプチドのm/zを予測できることが本解析例でも確認された。Dのマススペクトル中でm/zが推定値と一致した各糖ペプチドをプリカーサーイオンとし、プロダクトイオンスペクトルを得ることで、Eに示すように、各糖ペプチドの糖鎖構造を決定することができた(Eには、Tfの代表的糖鎖であるジシアロ2本鎖(S2-Bi)が結合した糖ペプチドのプロダクトイオンスペクトルとフラグメントの帰属を示す)。
【実施例】
【0103】
以上、トランスフェリンはシアル酸を含む複合型の糖鎖を有する糖タンパク質であるが、かかる糖タンパク質の糖鎖も本発明の方法で解析できた。
【実施例】
【0104】
<解析例4、5:フェツイン、α1-酸性糖タンパク質>
シアル酸結合複合型糖鎖修飾タンパク質のさらなる解析例として、3本鎖糖鎖を有するフェツイン(牛胎児血清由来;SIGMA-ALDRICH)及び4本鎖糖鎖を有するα1-酸性糖タンパク質(ヒト血漿由来;SIGMA-ALDRICH)の糖鎖解析も解析例1と同様の方法にて行なった。
【実施例】
【0105】
フェツインの糖鎖解析結果を図16に示す。上段のA-1~A-3がLCPDCPLLAPLNDSR配列を有するG-TAGのLC/MS/MS(事前LC/質量分析)の結果であり、中段~下段のB-1~B-4がG-ILISの結果である。フェツインのG-TAGの保持時間は13.85分であり(A-1)、この保持時間から、糖鎖切断前の糖ペプチドの保持時間を13.85±2.50分と推定した。糖ペプチド画分のトータルイオンカレントクロマトグラム(B-1)では、13.85±2.50分の範囲に多くのピークが検出された。実際、14.61~15.19分に、LCPDCPLLAPLNDSR配列を有する糖ペプチドで、m/zの推定値に合致するピークが認められた(B-2)。G-TAGの解析結果から糖ペプチドの保持時間及びm/zを予測できることが本解析例でも確認された。
【実施例】
【0106】
α1-酸性糖タンパク質の糖鎖解析結果を図17に示す。上段のA-1~A-3がSVQEIQATFFYFTPNK配列を有するG-TAGのLC/MS/MS(事前LC/質量分析)の結果であり、中段~下段のB-1~B-4がG-ILISの結果である。α1-酸性糖タンパク質のG-TAGの保持時間は15.32分であり(A-1)、この保持時間から、糖鎖切断前の糖ペプチドの保持時間を15.32±2.50分と推定した。糖ペプチド画分のトータルイオンカレントクロマトグラム(B-1)では、15.32±2.50分の範囲に多くのピークが認められた。実際、15.83分~17.75分の範囲でm/zの推定値に合致するピークが認められた(B-2)。G-TAGの解析結果から糖ペプチドの保持時間及びm/zを予測できることが本解析例でも確認された。
【実施例】
【0107】
フェツイン、α1-酸性糖タンパク質は、トランスフェリンとは異なるシアル酸結合複合型糖鎖を有する糖タンパク質であるが、これらの糖タンパク質の糖鎖も本発明の方法で解析できた。
【符号の説明】
【0108】
100 本発明の糖鎖解析システム
10 事前液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部
12 糖鎖結合位置決定部
14 保持時間・m/z推定部
16 本分析部
161 本分析用試料の液体クロマトグラフィー/質量分析データ取得部
162 分析対象ピーク選定部
163 糖鎖構造決定部
164 糖鎖定量部
20 入力部
30 出力部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16