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明細書 :藻類に貯蔵される油脂の蓄積量を増大させるペプチドおよびその使用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6664130号 (P6664130)
公開番号 特開2017-149662 (P2017-149662A)
登録日 令和2年2月20日(2020.2.20)
発行日 令和2年3月13日(2020.3.13)
公開日 平成29年8月31日(2017.8.31)
発明の名称または考案の名称 藻類に貯蔵される油脂の蓄積量を増大させるペプチドおよびその使用
国際特許分類 C07K  14/415       (2006.01)
C12N  15/29        (2006.01)
C12N   5/16        (2006.01)
C12N   1/13        (2006.01)
FI C07K 14/415
C12N 15/29 ZNA
C12N 5/16
C12N 1/13
請求項の数または発明の数 12
全頁数 20
出願番号 特願2016-032608 (P2016-032608)
出願日 平成28年2月24日(2016.2.24)
審査請求日 平成31年2月14日(2019.2.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
発明者または考案者 【氏名】西田 生郎
【氏名】栗田 朋和
【氏名】石塚 嵩広
個別代理人の代理人 【識別番号】100137512、【弁理士】、【氏名又は名称】奥原 康司
【識別番号】100178571、【弁理士】、【氏名又は名称】関本 澄人
審査官 【審査官】西村 亜希子
参考文献・文献 国際公開第2011/127118(WO,A1)
米国特許出願公開第2007/0026484(US,A1)
日本植物学会大会研究発表記録,2014年 9月 1日,Vol.78,p.231
The Journal of Biological Chemistry,1993年 8月15日,Vol.268, No.23,pp.17504-17512
調査した分野 C07K
C12N 1/
C12N 15/
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)または(b)に示すポリペプチド。
(a)配列番号3または配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるオレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目のいずれかのアミノ酸までからなるポリペプチド
(b)(a)に記載のポリペプチドのアミノ酸配列と90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有するポリペプチド
【請求項2】
前記(a)のポリペプチドが、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項4】
以下の(a)または(b)に示す請求項に記載の核酸。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸
(b)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸と90%以上の塩基配列同一性を有する核酸であって、該核酸がコードするポリペプチドが、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有する核酸
【請求項5】
以下の(a)または(b)に示すポリペプチドをコードする請求項に記載の核酸。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有するポリペプチド
【請求項6】
請求項ないしのいずれかに記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項に記載の発現ベクターを含む細胞。
【請求項8】
請求項1または2のいずれかに記載のポリペプチドを発現する藻類細胞。
【請求項9】
請求項ないしのいずれかに記載の核酸を発現可能に保持する藻類細胞。
【請求項10】
前記藻類が、MLDPを発現していることを特徴とする、請求項またはに記載の藻類細胞。
【請求項11】
緑藻類であることを特徴とする、請求項ないし10のいずれかに記載の藻類細胞。
【請求項12】
前記藻類が、クラミドモナス属、クロレラ属、ボルボックス属、ドナリエラ属に属する藻類であることを特徴とする、請求項ないし11のいずれかに記載の藻類細胞。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類に貯蔵される油脂の蓄積量を増大させるペプチド、該ペプチドを発現する藻類に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化や化石燃料の枯渇、さらには、原子力エネルギーの利用における危険性が現実となってきた今日において、安全かつクリーンな再生可能エネルギーの利用が注目されている。化石燃料等を使用せずに太陽光や風力を利用してエネルギーを生み出す方法に加え、バイオマスを利用する方法も、現在のエネルギー問題を解決するための手段として重要である。
藻類は、光合成を行うことで糖のみならずトリアシルグリセロール(TAG)などの油脂をも合成することができ、藻類によって合成されたTAGなどは、バイオディーゼルの原料となる。バイオディーゼルの原料は、菜種や大豆からも製造することができるが、食料と競合するという問題が生じてしまう。この点、藻類からバイオディーゼルの原料を生産することができれば、食料との競合もなく、安定的にバイオマスエネルギーの供給ができると期待されている。
【0003】
近年、光合成産物の脂質を多く蓄積するボトリオコッカスやシュードコリシスチスなどの微細藻類が、バイオマスエネルギーの供給材料として注目を浴びている。例えば、ディーゼル燃料に替わる燃料として利用可能な炭化水素化合物を生産させるために、シュードコリシスチス属の微細藻類を窒素欠乏状態で培養する方法(特許文献1)、elF-5Aを過剰発現する藻類細胞(特許文献2)、トリアシルグリセロール高生産性藻類(特許文献3)などが報告されている。
クラミドモナスなどの緑藻類では、窒素欠乏状態で油脂貯蔵オルガネラ中に油脂を貯蔵するが、正常な栄養状態に戻すと、油脂貯蔵オルガネラは分解され、内部に貯蔵されていた油脂は膜脂質に変換されてしまい、バイオマスエネルギーとしての利用ができなくなってしまう。
そこで、緑藻類などを窒素欠乏条件下で培養し、合成させた油脂を安定的に取得するために、油脂貯蔵オルガネラの分解過程を制御し、貯蔵された油脂を安定化し、油脂の貯蔵量を増大させるための手段が必要とされていた。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】WO2008/059877
【特許文献2】特開2013-524816
【特許文献3】WO2015/137449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、藻類の油脂貯蔵量を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
栄養欠乏などのストレスに応答して、藻類がその細胞内に蓄積する油脂は、リピッドドロプレット(lipid droplet; LD)として細胞内に溜まるが、リピッドドロプレットの表面はリン脂質の一重膜とMajor Lipid Droplet Protein (MLDP)と呼ばれるタンパク質におおわれ、その中で油脂は安定化されている。栄養欠乏状態から正常な栄養状態に細胞を復帰させると、MLDPは分解され、油脂は膜脂質に変換される。
他方、高等植物の細胞内では、油脂は、オイルボディ(oil body; OB)として細胞内に溜まるが、オイルボディの表面はリン脂質の一重膜とオレオシン(oleosin)と呼ばれるタンパク質におおわれ、オイルボディが安定化されている。
オレオシンとMLDPは、そのアミノ酸の1次配列が全く異なるタンパク質であり、藻類細胞内では分解されず、その結果、オレオシンを藻類に発現させると、藻類細胞内にオイルボディを形成する一方、藻類はそのオイルボディを効率よく分解できないことが予想された。
そこで、発明者らは、緑藻類の一種クラミドモナス・レインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)にオイルボディを形成させれば、栄養欠乏から正常な栄養状態に細胞を戻すときに、オイルボディの分解は、リピッドドロプレットの分解よりも遅れ、油脂を安定に維持できると考えた。
【0007】
発明者らは、クラミドモナス・レインハーディにシロイヌナズナのオレオシン遺伝子のひとつであるOLE2cDNAをクラミドモナスで使われている翻訳コドンに改変して発現させたところ、予想に反して、cDNA配列の内部がスプライシングされ、OLE2のN末端の配列が発現するとともに、オイルボディの形成が促進されることを見いだした。このN末領域を意図的にクラミドモナス・レインハーディで発現させても同様の効果が認められた。オレオシンのN末領域のみでオイルボディが形成されることは、発明者らによって初めて見出されたことである。
また、窒素欠乏条件での油脂蓄積量は、コントロール(OLE2のN末領域を発現させていないもの)よりも高かった。OLE2のN末領域を発現させると、従来のリピッドドロプレットとは異なる形態(仮に、変形オイルボディとよぶ)で油脂を蓄積できるようになり、これが、高油脂蓄積につながったと考えられる。
以上の知見に基づき、本発明は完成された。
【0008】
したがって、本発明は以下の(1)~(13)である。
(1)以下の(a)または(b)に示すポリペプチド。
(a)オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目のいずれかのアミノ酸までを含むポリペプチド
(b)(a)に記載のポリペプチドのアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有するポリペプチド
(2)前記オレオシンが、配列番号3または配列番号7で表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする上記(1)に記載のポリペプチド。
(3)前記(a)のポリペプチドが、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のポリペプチド。
(4)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のポリペプチドをコードする核酸。
(5)以下の(a)または(b)に示す上記(4)に記載の核酸。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸
(b)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸であって、該核酸がコードするポリペプチドが、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有する核酸
(6)以下の(a)または(b)に示すポリペプチドをコードする上記(4)に記載の核酸。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有するポリペプチド
(7)上記(4)ないし(6)のいずれかに記載の核酸を含む発現ベクター。
(8)上記(7)に記載の発現ベクターを含む細胞。
(9)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のポリペプチドを発現する藻類細胞。
(10)上記(4)ないし(6)のいずれかに記載の核酸を発現可能に保持する藻類細胞。
(11)前記藻類が、MLDPを発現していることを特徴とする、上記(9)または(10)に記載の藻類細胞。
(12)緑藻類であることを特徴とする、上記(9)ないし(11)のいずれかに記載の藻類細胞。
(13)前記藻類が、クラミドモナス属、クロレラ属、ボルボックス属、ドナリエラ属に属する藻類であることを特徴とする、上記(9)ないし(12)のいずれかに記載の藻類細胞。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、藻類における油脂の蓄積量を増加させ、また、正常栄養状態における油脂の分解を抑制することができるため、野生型の藻類を用いる場合と比較して、多くの油脂を回収することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】RT-PCRによる各過剰発現株の発現確認の結果。 クラミドモナス株をOD750=1.5 程度まで通常条件で培養し、抽出したmRNAを鋳型にして cDNAを合成後、RT-PCR によって発現を検討した。ACTIN遺伝子はコントロールとして用いた。発現検討の結果、OLE2*、OLE2、OLE2Nがそれぞれクラミドモナス内で発現していた。OLE2Nと表記された転写産物蓄積の位置は2つある。しかし、OLE2*発現株で蓄積する短い位置の転写産物は翻訳時に、55番目のコドンで翻訳が停止するため、OLE2N株で蓄積した転写産物によるタンパク質と同じ、OLE2のN末端ドメインのみを合成する。
【図2】OLE2OLE2*OLE2N 過剰発現株の生育状況。 通常条件、窒素欠乏条件、窒素復帰条件で各過剰発現株の生育を測定した。各条件における植え継ぎ濃度はOD750で以下のようにした。通常条件OD750=0.01、窒素欠乏条件OD750=0.4、窒素復帰条件OD750=0.2。液体培地は図の黒矢印部で植え継ぎを行った。また、それぞれ3回ずつ行った (n = 3) 。
【図3】窒素欠乏条件3日目におけるLDの観察 (広視野)。 窒素欠乏条件3日目におけるLDをNile red 染色によって観察した。培養液を2.0 OD unit になるようにそれぞれ分取し、終濃度 1 % となるようにグルタルアルデヒドで5 分間処理した後、TBS buffer (0.15 M NaCl、0.05 M Tris-HCl) で2回培養液を洗い、顕微鏡サンプルとして実験に供した。Nile red 試薬は終濃度 1 ng μl-1 となるように加えた。 (Bars = 10 μm)
【図4】窒素復帰条件1日目におけるLDの観察 (広視野)。 図3の「窒素欠乏条件3日目におけるLDの観察」と同様にして窒素復帰条件1日目におけるLDを観察した。 (Bars = 10 μm)
【図5】窒素欠乏条件2日目におけるLDの観察(広視野)。 図3「窒素欠乏条件3日目におけるLDの観察」と同様にして窒素復帰条件2日目におけるLDを観察した。(Bars = 10 μm)
【図6】窒素欠乏条件、および窒素復帰条件におけるLD観察(狭視野)。 窒素欠乏条件と窒素復帰条件においてNile red を用いたLD観察。広視野の画像の一部を切り取り条件毎に並べて比較した。(Bars = 10 μm)
【図7】クラミドモナス細胞のサイズの計測結果。 明視野の写真をimage J に取り込み細胞サイズを測定した。それぞれ50個ずつ細胞サイズを測定して平均と標準偏差を算出した。Logarithmic phase(対数増殖期)におけるEV株の細胞面積の平均値を1とする相対値で他の細胞サイズを比較検討した。さらに有意差検定ソフトRを用いて、Tukeyの方法で有意を判定した (n = 3)。
【図8】TLCによるTAGの分離。 20×20 cm のシリカゲルTLCプレートに総脂質0.5 mgをスポットして、ヘキサン : ジエチルエーテル : 酢酸 = 80 :30: 1 で展開し、TAG(矢頭)分離した。展開後、0.01 % プリムリン試薬を噴霧し、365 nm の紫外光でスポットを検出した。
【図9】細胞当たりのTAG含量(左図)と培養液当たりのTAG含量(右図)の測定。 ガスクロマトグラフによって脂質の定量を行った。TLCで展開したTAGのスポットを剃刀で掻きとり、10 μl (50 nmol 相当) の15:0 スタンダードと10 mg ml-1 の 10μl BHT溶液、3 ml の5 % 塩酸メタノール液を加え、80 ℃で3時間メタノリシス処理をした。メタノリシス処理後、ヘキサンを 3 mlずつ加え、ヘキサン層を新しい試験管に移し、窒素環流でヘキサンを揮発した。その後、ヘキサンに溶かして、ガスクロマトグラフに供した。脂肪酸量からTAGを定量し、細胞当たりのTAG含量と培養液当たりのTAG含量を算出した。それぞれ平均値と標準偏差を算出し、有意差検定ソフト R を用いて有意差を判定した (n = 3)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態は、以下の(a)または(b)に示すポリペプチド(「本発明に係るポリペプチド」)である。
(a)オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目のいずれかのアミノ酸までを含むポリペプチド
(b)(a)に記載のポリペプチドのアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有するポリペプチド

【0012】
オレオシン(oleosin; OLE)は、陸上植物において、TAGなどの油脂を蓄積するオイルボディ(oil body; OB)と呼ばれるオルガネラの蓄積形態(OBのサイズ)の制御に関わる(ShimadaおよびHara-Nishimura, Biol. Pharm. Bull., 33:360-363 2010)ほか、植物の発芽(ShimadaおよびHara-Nishimura, Biol. Pharm. Bull., 33:360-363 2010)などにも関与している。オレオシンのアミノ酸配列は多くの植物において明らかにされている(例えば、Fangら, PLoS One 9:e103806.doi:10.1371/journal /.pone.0103806)。例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の場合、16のアイソフォームが存在しており、5タイプが種子に、8タイプがその他の部位に在り、種子に多い5タイプでは、OLE1(配列番号7)とOLE2(配列番号3)の存在量が多い。
シロイヌナズナのole1変異体、ole2変異体およびole1 ole2変異体では、細胞内に存在するオイルボディのサイズの制御ができず、肥大化していることが報告されている(ShimadaおよびHara-Nishimura, Biol. Pharm. Bull., 33:360-363 2010)。
他方、藻類、特に緑藻類においては、TAGなどの油脂をリピッドドロプレット(lipid droplet; LD)と呼ばれるオルガネラとして蓄積することが知られているが、リピッドドロプレットの表面には、そのコートタンパク質であるMLDP(major lipid droplet protein)が存在しており、緑藻類における栄養飢餓からの復帰過程における貯蔵油脂の再利用過程において重要な機能を果たしている(Tsaiら, Plant J., 83:650-660 2015)。

【0013】
植物のオレオシン(例えば、シロイヌナズナの配列番号3、配列番号7)と藻類のMLDP(例えば、クラミドモナス・レインハーディの配列番号9)は一次配列が大きく異なることから、油脂貯蔵オルガネラ(植物のOBおよび藻類のLD)の形態形成の分子基盤が異なるだけでなく、貯蔵油脂の再利用における分化制御のしくみも異なることが予想された。そこで、発明者らは、高等植物のオレオシンを、MLDPをLDのコートタンパク質として有する緑藻類中に発現させれば、従来藻類中に存在するリピッドドロプレット(LD)とは異なる、植物のオイルボディ(または、OBに類似の形態のオルガネラ(変形OBとする))中に油脂を蓄積し、OBの分解制御系が存在しない藻類中において、油脂を安定に貯蔵することができるのではないかと考えた。
具体的には、クラミドモナス・レインハーディに、シロイヌナズナ由来のオレオシンのN端側(1番目のアミノ酸から54番目のアミノ酸まで)を発現させたところ、クラミドモナス・レインハーディ中に蓄積するTAGの量が有意に増加することを見出した。

【0014】
以上の知見から、本発明の第1の実施形態は、藻類細胞内におけるTAG含量を増加させる機能を有する、「オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目(50番目~60番目)のいずれかのアミノ酸までを含むポリペプチド」および、「オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目(50番目~60番目)のいずれかのアミノ酸までを含むポリペプチド」と実質的に同一のポリペプチドである。
ここで、「オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目(50番目~60番目)のいずれかのアミノ酸までを含むポリペプチドと実質的に同一のポリペプチド」とは、「オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目(50番目~60番目)のいずれかのアミノ酸までのアミノ酸配列」と約70%以上、好ましくは約80%以上、約81%以上、約82%以上、約83%以上、約84%以上、約85%以上、約86%以上、約87%以上、約88%以上、約89%以上、より好ましくは約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、最も好ましくは約99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、藻類細胞内におけるTAG含量を増加させる機能を有するポリペプチドのことである。

【0015】
あるいは、「オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目(50番目~60番目)のいずれかのアミノ酸までを含むポリペプチドと実質的に同一のポリペプチド」とは、「オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目(50番目~60番目)のいずれかのアミノ酸までのアミノ酸配列」において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有するポリペプチドのことである。
上記アミノ酸の置換、欠失、挿入および付加は、ポリペプチドをコードする天然由来の核酸に元々存在した変異であってもよく、また、該核酸を当該技術分野で公知の手法によって改変することによって新たに導入したものであってもよい。当該改変は、例えば、特定のアミノ酸残基の置換は、市販のキット(例えば、MutanTM-G(TaKaRa社))等を使用し、Guppedduplex法やKunkel法等の公知の方法、または、それらに準じる方法により塩基の置換を行なうことによって実施することができる。
ここで、「藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能」とは、「オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目(50番目~60番目)のいずれかのアミノ酸までを含むポリペプチド」またはこれと実質的に同一のポリペプチドを藻類細胞内で発現させた場合に、これらのポリペプチドを発現させていない対照の藻類細胞と比較して、細胞内に蓄積されるTAGの量を有意に増加させる機能のことである。

【0016】
本発明の第1の実施形態における「オレオシン」は、特に限定されず、Fangら, PLoS One 9:e103806.doi:10.1371/journal /.pone.0103806のTable S1中にGenBankのアクセッション番号が列挙されているオレオシンなどを使用することができる。より具体的には、例えば、シロイヌナズナ由来の配列番号3(OLE2)および配列番号7(OLE1)などを挙げることができる。
さらに、「オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目のいずれかのアミノ酸までを含むポリペプチド」とは、限定はしないが、例えば、シロイヌナズナのOLE2のアミノ酸配列(配列番号3)において、例えば、1番目から50番目まで、1番目から51番目まで、1番目から52番目まで、1番目から53番目、1番目から54番目、1番目から55番目、1番目から56番目、1番目から57番目、1番目から58番目、1番目から59番目または1番目から60番目、より好ましくは1番目から52番目まで、1番目から53番目または1番目から54番目、1番目から55番目または1番目から56番目、最も好ましくは1番目から54番目までのアミノ酸からなるアミノ酸配列(配列番号1)である。

【0017】
本発明の第2の実施形態は、以下の(a)または(b)に示すポリペプチドをコードする核酸である。
(a)オレオシンのN末端のアミノ酸(1番目のアミノ酸)から50番目ないし60番目のいずれかのアミノ酸までを含むポリペプチド
(b)(a)に記載のポリペプチドのアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有するポリペプチド

【0018】
本発明の第2の実施形態にかかる核酸は、より具体的には、以下の(a)または(b)に示す核酸である。
(a)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸
(b)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸であって、該核酸がコードするポリペプチドが、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有する核酸
あるいは、以下の(a)または(b)に示すポリペプチドをコードする核酸である。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有するポリペプチド

【0019】
本発明の第2の実施形態に係る核酸としては、限定はしないが、例えば、配列番号2で表される塩基配列からなるDNA、および、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、該DNAがコードするポリペプチドが、藻類細胞内のTAG含量を増加させる機能を有するDNAなどを挙げることができる。
配列番号2で表わされる塩基配列からなる核酸(例えば、DNA)と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸としては、配列番号2で表わされる塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、約81%以上、約82%以上、約83%以上、約84%以上、約85%以上、約86%以上、約87%以上、約88%以上、約89%以上、より好ましくは約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、最も好ましくは約99%以上の塩基配列同一性を有する配列からなるDNA等が挙げられる。

【0020】
ここで、ストリンジェントな条件とは、当業者によって容易に決定されるハイブリダイゼーション条件のことで、一般的に、プローブ長、洗浄温度、および塩濃度に依存する経験的な実験条件である。通常、プローブが長くなると適切なアニーリングのための温度が高くなり、プローブが短くなると温度は低くなる。DNA同士のハイブリッドの形成は、相補的な鎖がその融点よりやや低い環境における再アニールする能力に依存する。
ストリンジェントな条件とは、具体的には、低ストリンジェントな条件として、例えば、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄段階において、37℃~42℃の温度条件下、0.1×SSC(1倍濃度のSSC溶液の組成は、例えば、150mmol/L 塩化ナトリウム、15mmol/L クエン酸ナトリウム)、0.1%SDS溶液中で洗浄する条件などが挙げることができる。また、高ストリンジェントな条件として、例えば、洗浄段階において、60℃~70℃、好ましくは65℃の温度条件下、5×SSC、0.1%SDS中で洗浄する条件などが挙げられる。ストリンジェントな条件をより高くすることにより、相同性の高い核酸を得ることができる。

【0021】
本発明の第1の実施形態に係るポリペプチド自体を使用する場合には、当業者において公知の方法により調製することができる。
本発明の第1の実施形態に係るポリペプチドの発現用ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC118など(大腸菌宿主)、pEGF-C、pEGF-Nなど(動物細胞宿主)、pVL1392、pVL1393など(昆虫細胞宿主)、pG-1、Yep13、pPICZなど(酵母細胞宿主)を使用することができる。これらの発現ベクターは、各々のベクターに適した、複製開始点、選択マーカーおよびプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写集結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位およびポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。

【0022】
発現させたポリペプチドを培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的のポリペプチドを取得することができる。公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法(例えば、GSTタグと共に蛋白質を発現させた場合にはグルタチオンを担体に結合させた樹脂を、Hisタグと共に蛋白質を発現させた場合にはNi-NTA樹脂やCoベースの樹脂を、HAタグと共に蛋白質を発現させた場合には、抗HA抗体結合カラムなどを使用することができる)、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。

【0023】
本発明の第3の実施形態は、本発明に係るポリペプチドを発現する、または、発現可能な状態にある(または、本発明に係るポリペプチドをコードする核酸を発現可能に保持する)藻類細胞である。
ここで、「藻類細胞」とは、特に限定はしないが、本発明に係るポリペプチドが、オレオシンとは異なるアミノ酸配列をもつリピッドドロプレットコートタンパク質(例えば、MLDPなど)のLDへの局在を阻害して機能する可能性を考慮すると、その野生型において、オレオシンとは異なるアミノ酸配列をもつリピッドドロプレットコートタンパク質(例えば、MLDPなど)が細胞内で機能している藻類が好ましく、MLDP(またはMLDP様タンパク質)をリピッドドロプレットコートタンパク質として有している緑藻類が特に好ましい(Moelleringら, Eukaryot. Cell, 9:97-106 2010)。限定はしないが、緑藻類として、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、クロレラ属(Chlorella)、ボルボックス属(Volvox)、ドナリエラ属(Dunaliella)などを例示することができる。

【0024】
本発明に係るポリペプチドとして、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを藻類細胞内で発現させる場合、藻類用の発現ベクター、例えば、pChlamyシリーズのベクター(Invitrogen社)、pOptシリーズのベクター(Chlamydomonas resource center)などを挙げることができる。配列番号1のポリペプチドをコードするDNA(例えば、配列番号2の塩基配列からなるDNA)は、プロモーター等との関係において、発現可能となるような位置関係で、発現ベクターに挿入する。
藻類細胞内での発現ベクターには、発現用途に適したプロモーター、例えば、HSP70A/RbcS2、beta-tubulin、PSAD、CaMV 35S、NIT1、Cyc6、SQD2などの過剰発現用プロモーターが含まれていることが望ましい。また、発現ベクターには、3’UTR、ターミネーターおよび選択マーカーなど、目的ポリペプチドの発現および発現株の選択に必要な構成要素が含まれていることが望ましい。選択マーカーとしては、例えば、ハイグロマイシン耐性遺伝子(Aph7’)、パロモマイシン耐性遺伝子(AphVIII)、ゼオシン耐性遺伝子(BLE)、スペクチノマイシン耐性遺伝子(aadA)およびエメシン耐性遺伝子(CRY1-1)などを使用することができる。
藻類細胞への発現ベクターの導入は、公知の方法によって行うことができ、例えば、エレクトロポレーション法、ボンバードメント法、グラスビーズ法およびアグロバクテリウム法などにより行うことができる。

【0025】
以下の実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
本実施例においては、本発明に係るポリペプチドとして配列番号1で表されるアミノ酸からなるポリペプチドを、クラミドモナス・レインハーディ細胞内で発現させた場合に、細胞内におけるTAG含量がどのように変化するかを検討した。
【実施例】
【0026】
1.実験方法
1-1.クラミドモナスのストレインの入手と培養条件
本実施例では、細胞壁を欠損したcw15変異体であるクラミドモナス・レインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii )のCC-400株を用いた。この株は細胞壁欠損により効率的に形質転換を行うことが可能である。CC-400株はクラミドモナスリソースセンター(http://chlamycollection.org)より入手した。クラミドモナスは、150 mE m-2 s-1 の連続光、23℃に設定したインキュベーター(Biotron NC-240HC、日本医化機械製作所、大阪)中で、シェーカー(NR-30、TAITECH、埼玉) を用いて120 rpmフィルターキャップ(C-40、AS ONE、大阪) でふたをしたフラスコ(100 ml)によって無菌培養した。表1に培養に用いたTAP培地の組成を示す。
【表1】
JP0006664130B2_000002t.gif
【実施例】
【0027】
発現ベクター(empty vector;以下、EVと表記)は、pChlamy_2/D-TOPOベクター(Invitrogen、USA)を用いた。各株の濃度は750 nmの吸光度(Optical Density、OD750)を吸光度計UV1800(SHIMADZU、京都)により測定した。
形質転換クラミドモナス株(以下に説明するEV、OLE2、OLE2*、OLE2N導入株)はTAP寒天培地上で保持し、使用時に液体TAP培地にコロニーを移して OD750 = 0.2~0.8 になるまで前培養し、本培養 (100 ml培地 in 300 mlフラスコ) に植え継いで目的のOD750 になるまで培養した。
【実施例】
【0028】
1-2.各種発現プラスミド構築
1-2-1.シロイヌナズナのオレオシン2(OLE2)cDNAのクローニング
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のOLE2(配列番号6)で、クラミドモナス発現用のcDNAは、ユーロフィンゲノミクス社(USA, 旧オペロンバイオテクノロジー;https://eurofinsgenomics.jp/jp/home.aspx)に委託して合成遺伝子を作製した。クラミドモナス型のコドンに変換したため、シロイヌナズナからのクローニングは行っていない。取得方法は1-2-2に記載する。
【実施例】
【0029】
1-2-2.シロイヌナズナ OLE2 のコドンの変換
クラミドモナスのゲノムはGC含率が非常に高いため、シロイヌナズナと使用コドンの頻度が異なる。そこで、シロイヌナズナの遺伝子であるOLE2を効率的に発現するため、クラミドモナスに最適なコドンへ変換をした。コドンのデザイン、および合成はユーロフィンゲノミクス(USA, 旧オペロンバイオテクノロジー;https://eurofinsgenomics.jp/jp/home.aspx) に委託した。合成された遺伝子は pEX-A ベクターにクローニングされており、クラミドモナス型のコドン利用頻度(codon usage)に変換されたOLE2Crを取得した。この配列は、解析により、クラミドモナスで発現させるとスプライシングすることがわかったので、OLE2*(配列番号5)と名付け、その後に作成した“スプライシングしない”配列をOLE2(配列番号4;配列番号5をA297Gと修正した配列、配列番号3(アミノ酸配列))として区別した。
さらに、スプライシングでは、OLE2のN末端側のポリペプチド(配列番号1)が翻訳されると期待されたので、その配列を特異的に発現する遺伝子(配列番号2)を作成し、OLE2Nと表記した。
【実施例】
【0030】
1-2-3.過剰発現プラスミド pChlamy_3/D-TOPO について
外来遺伝子をクラミドモナスで発現するために、Thermo Fisher 社のThe GeneArt(登録商標)Chlamydomonas TOPO(登録商標)Engineering kitを用いた。このキットは、クラミドモナスの発現用プラスミドpChlamy_3/D-TOPO (Invitrogen、USA) が含まれ、発現する遺伝子はTOPOクローニング法によってプラスミドに導入できる。pChlamy_3/D-TOPOは恒常性の過剰発現プロモーター (HSP70A/RbcS2) とRbcS2のイントロン、3’UTR、ターミネーターを持つ。選択マーカーとして ハイグロマイシン耐性遺伝子 (Aph7’) を持つ。
【実施例】
【0031】
1-2-4.OLE2*発現プラスミドpChlamy_3/D-TOPO_OLE2*の作製
1-2-2の方法により取得したコドン改変型のOLE2* をクラミドモナス過剰発現用プラスミドpChlamy_3/D-TOPOベクターにクローニングした。OLE2*をポリメラーゼKOD-FX (東洋紡、大阪)、プライマーセット1(表2)(Forward TI22 OLE2* 5'末端クローニング用プライマーCACCATGGCCGACACCCATCGCGT(配列番号10)、Reverse TI23 OLE2* 3’末端クローニング用プライマー TTAGGCCGCGGTGGTCCGGC(配列番号11))を用いてPCR反応によって増幅し、600 bpの目的サイズのPCR産物を取得した。PCR反応は、1-2-2で取得したプラスミドをテンプレートとし、濃度を100 ng に調製した。PCRは94℃ 2分を1サイクル、98℃ 10秒、56℃30秒、68℃2分を30サイクル繰り返すプログラムを用いた。PCR産物に10 × loading dye を 5 μlを加え、0.5 μl のエチジウムブロマイドを含む1%アガロースゲル中で100 V 30分電気泳動した。該当するバンドをゲルから切り出し、Wizard SV PCR clean up Kit (Promega、USA) を用いてPCR産物を精製した。その後、切り出したインサートDNA濃度を2.8 ng に調製し、pChlamy_3/D-TOPOのプラスミドにTOPOクローニングした。TOPOクローニングはキットのプロトコールに従った。
【表2】
JP0006664130B2_000003t.gif
【実施例】
【0032】
その後、大腸菌DH5α (以下、DH5α) のコンピテントセルに形質転換した。大腸菌は最終濃度50 μg ml-1のアンピシリンを含むLBプレート上で37℃、16時間培養し、プライマーセット2(配列番号12および配列番号13)を用いた(表2)コロニーPCRによってプラスミド導入株を取得した。PCRはポリメラーゼEx-Taq (TAKARA、滋賀) を用いて行い、94℃2分を1サイクル、98℃10秒、52℃30秒、72℃1分を35サイクル繰り返すプログラムを用いた。取得した株を液体培地で37℃、16時間培養した。培養したサンプルを13,000 ×g、1分で遠心(KUBOTA 3700、KUBOTA、東京)し、菌体を回収した。回収した菌体からWizard Plus Miniprep DNA Purification System(Promega、USA)を用いて、プラスミドを抽出した。抽出はキットのプロトコールに従った。回収したプラスミドをシーケンシング(Applied Biosystems 3130 Genetic Analyzer)により配列確認し、OLE2* 過剰発現用プラスミドpChlamy_3/D-TOPO_OLE2*を取得した。
【実施例】
【0033】
1-2-5.OLE2発現プラスミドpChlamy_3/D-TOPO_OLE2の作製
OLE2*は、クラミドモナスに発現させると160 bpから298 bpの間でスプライシングすることがわかったので、アミノ酸配列は変えずにスプライシングに必要な塩基を置換してスプライシングしないOLE2を構築した。具体的にはOLE2*の279番目のアデニンをグアニンに変換し、これをOLE2と名付け、スプライシングするOLE2*と区別した。方法は以下のとおり。OLE2過剰発現用プラスミドを作製した。コドン変換はKOD-Plus-Mutagenesis Kit (東洋紡、大阪) のプロトコールに従った。PCR反応に用いたテンプレートは、1-2-3で取得したOLE2*発現ベクターで、テンプレート濃度を50 ngに調製した。PCRはプライマーセット3(表2)(Forward TI41 OLE2* mutagenesis 用プライマーGCGGCCCTGACCATCGGCCTGGCGATGACC(配列番号14)、Reverse TI42 OLE2* mutagenesis 用プライマーGGGCACGATCACGGGCGAGAACAGCAGGAA(配列番号15))を使用し、94℃2分を1サイクル、98℃10秒、68℃5分を5サイクル繰り返すプログラムを用いた。反応終了後、大腸菌DH5αに形質転換した。大腸菌は最終濃度50μg ml-1のアンピシリンを含むLBプレート上で37℃、16時間培養し、プライマーセット4(配列番号16および配列番号17)を用いた (表1-2) PCRによってプラスミド導入株を取得した。PCR反応はポリメラーゼLA-Taq(TAKARA、滋賀)を用いて行い、95℃5分を1サイクル、95℃20秒、57℃30秒、68℃3分を30サイクル繰り返すプログラムを用いた。16コロニーのうち5つの形質転換体を取得した。取得した株を液体培地で37℃、16時間培養した。培養したサンプルを13000 ×g 、1分で遠心(KUBOTA 3700 、KUBOTA、東京)し、菌体を回収した。回収した菌体からWizard Plus Miniprep DNA Purification System (Promega、USA)を用いて、プラスミドを抽出した。抽出したプラスミドをシーケンシングによって配列確認し、OLE2過剰発現用プラスミドpChlamy_3/D-TOPO_OLE2を取得した。
【実施例】
【0034】
1-2-6.OLE2N発現プラスミドpChlamy_3/D-TOPO_OLE2Nの作製
スプライシング後のOLE2N末ドメインのみを発現するOLE2N過剰発現用プラスミドを作製した。PCR反応に用いたテンプレートは、1-2-5で取得したOLE2発現ベクターで、テンプレート濃度を50 ngに調製した。PCR反応はプライマーセット5(表2)(Forward TI22 OLE2* 5’末端クローニング用プライマー CACCATGGCCGACACCCATCGCGT(配列番号18)、Reverse TI44 OLE2N 作製用プライマー Rv TCAGGGCTGGGTGGAGGACGGCCCCG(配列番号19))を用い、94℃2分を1サイクル、98℃10秒、68℃1分を30サイクル繰り返すプログラムを用いた。PCR産物に10 × loading dye を 5μl を加え、0.5 μl のエチジウムブロマイドを含む1%アガロースゲル中で100 V 30分電気泳動した。該当するバンドをゲルから切り出し、Wizard SV PCR clean up Kit(Promega、USA)を用いてPCR産物を精製した。その後、切り出したインサートDNA濃度を3.6 ng に調製し、pChlamy_3/D-TOPOのプラスミドにTOPOクローニングした。反応終了後、大腸菌DH5αに形質転換した。大腸菌は最終濃度50 μg ml-1 のアンピシリンを含むLBプレート上で37℃、16時間培養し、プライマーセット2を用いた(表2)PCRによってプラスミド導入株を取得した。PCR反応はポリメラーゼEx-Taq(TAKARA、滋賀)を用いて行い、94℃2分を1サイクル、98℃10秒、57℃30秒、72℃1分を30サイクル繰り返すプログラムを用いた。16コロニーのうち2つの形質転換体を取得した。取得した株を液体培地で37℃、16時間培養した。培養したサンプルを13000 ×g 、1分で遠心(KUBOTA 3700 、KUBOTA、東京)し、菌体を回収した。回収した菌体からWizard Plus Miniprep DNA Purification System(Promega、USA)を用いて、プラスミドを抽出した。抽出したプラスミドをシーケンシングによって配列確認し、過剰発現用プラスミドpChlamy_3/D-TOPO_OLE2Nを取得した。
【実施例】
【0035】
1-3.クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)の形質転換法
クラミドモナスCC-400株をTAP培地 100 mlで1×106 cells ml-1まで培養し、全量(1×108 cells ml-1)を50 ml チューブに集藻した。これを 遠心機himac CF 7D(HITACHI、東京)を用いて480 ×g 、20℃で5分間遠心して上清を除き、ペレットを1 ml の60 mMスクロース含有TAP培地に再懸濁した。再度同様のプログラムで遠心し、250μl の60 mM スクロース含有TAP培地にペレットを懸濁し、0.4 cmギャップのエレクトロポレーション用キュベット(BIO RAD、USA)に移した。さらに制限酵素処理によって直鎖状にしたOLE2OLE2*OLE2Nの各過剰発現用プラスミド、およびコントロールとなるpChlamy_2/D-TOPOベクター100 ng 相当量をキュベットに加えて懸濁した。各プラスミドは1500 ngを制限酵素FspI(New England Biolabs Japan Inc、東京)によって2.5時間、37℃で処理した。その後、処理したDNAに10×loading dye を 5 μl を加え、0.5 μl のエチジウムブロマイドを含む1%アガロースゲル中で100V 30分電気泳動した。該当するバンドをゲルから切り出し、Wizard SV PCR clean up Kit(Promega、USA)を用いて直線化したDNAを精製し、エレクトロポレーションに供した。直線化されたDNAをエレクトロポレーション用キュベットに加えたあと、16℃で5分間静置し、MicroPulser(BIO RAD、USA)を用い、1.1 kVでエレクトロポレーションした。室温で10分間静置し、20 ml の 60 mM スクロース含有TAP培地に懸濁液全量を移し、一晩通常条件で静置培養した。培養後、フラスコから培養液を50 ml チューブに集藻し、遠心機himac CF 7D(HITACHI、東京)を用いて480 ×g、20℃、5分で遠心した。ペレットを1.8 ml の 60 mM スクロース含有TAP培地に懸濁した。その後終濃度10 μg/ml となるハイグロマイシンを含むTAP固体培地に懸濁液を1ml ずつ2つに分けてプレーティングし、通常条件でコロニーが現れるまで培養した。
【実施例】
【0036】
1-4.Nile Redによる油脂染色と顕微鏡観察法
通常条件の3日目(logarithmic phase)、7日目(early stationary phase)、10日目(late stationary phase)、窒素欠乏条件の3日目(N-depleted condition)、窒素復帰条件の1日目、2日目、3日目(N-repleted condition)で培養液をそれぞれ分取し、落射蛍光顕微鏡 ECLIPSE Ti (Nikon、東京)を用いてLD形態の観察と葉緑体の自家蛍光観察を行った。各条件の培養液をそれぞれ2.0 OD unit となるようにエッペンドルフチューブに分取した後、グルタルアルデヒドを終濃度 1 % となるように加えた。その後、氷上で5分間インキュベートし、600 ×g 、4℃、5 min(KUBOTA 3700 、KUBOTA、東京)で遠心した。上清を除き、それぞれ培養液と当量のTBS buffer(表3)にペレットを再懸濁し、 600 ×g 、4℃、5分(KUBOTA 3700 、KUBOTA、東京)で遠心した。この作業をもう一度繰り返し、最後にペレットを300 μlのTBS buffer に懸濁し、顕微鏡の観察実験に供した。
それぞれの顕微鏡サンプルに、終濃度 1 ng μl-1 となるように中性脂質染色試薬であるNile red を加え、落射蛍光顕微鏡ECLIPSE Ti(Nikon、東京)で観察した。蛍光顕微鏡の観察条件は倍率×1、×60、Analog Gain 2.0、ND1/4でおこなった。DICはexposure 100 msec (ms)で観察した。Nile red蛍光は、GFP-BPフィルター(excitation 480/40 nm / emission 535/50 nm)を用いてexposure 400 msで観察した。葉緑体自家蛍光はCy5 フィルター(excitation 620/60 nm / emission 700/75 nm)を用いてexposure 40 msで観察した。
【表3】
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【実施例】
【0037】
1-5.脂質抽出とGLCによる定量分析法
窒素欠乏条件3日目、窒素復帰条件の1日目、2日目でEV、OLE2OLE2*OLE2N各発現株の培養液をそれぞれ 100 mlずつ分取し、脂質の抽出を行った。抽出を行う前にあらかじめ細胞数計測用に培養液50 μl と OD750測定用の500 μl をエッペンドルフチューブに分取しておき、OD750の値を測定した。50 OD unit の培養液を遠心してペレットにしたときのペレット量を150 μl とし、測定したOD750の値から各々のペレット量を算出した。その後、分取した 100 mlずつを遠心機Himac CF 7D(HITACHI、東京)を用いて、1000 × g、0℃、15 min で遠心し、上清を捨てた。残ったペレットに合計 800 μl となるよう0.6 mM Tris-HCl(pH = 7.5)を加え、懸濁した。懸濁液に 3 mlずつのメタノール:クロロホルム=2:1 を加え、ボルテックスとシェイクでよく懸濁した。懸濁後、Himac CF 7D(HITACHI、東京)を用いて、900 × g、20℃、5 min で遠心し、上清を30 ml の遠心管に移した。その後、もとの 50 ml 遠心管に残ったペレットに 1.5 mlずつのメタノール:クロロホルム=2:1と 0.4 ml の水を加えて、ボルテックスとシェイクでよく懸濁した。懸濁後、Himac CF 7D(HITACHI、東京)を用いて、 900 ×g 、20℃、5 min で遠心し、上清を先ほど一度目の上清を移した 30 ml 遠心管に移し、上清を合わせた。合わせた上清に 1.5 ml のクロロホルムと 1.5 ml の水を加え、ボルテックスで懸濁した。懸濁後、Himac CF 7D(HITACHI、東京)を用いて、 900 ×g 、20℃、7 min で遠心し、下層のクロロホルム層を新しい 30 ml の遠心管に移した。移したクロロホルム層の液に 0.9 % KCl 3 mlを加え、ボルテックスとシェイクによりよく懸濁した。その後、Himac CF 7D(HITACHI、東京)を用いて、 900 ×g 、20℃、10 min で遠心した。下層のクロロホルム層をあらかじめデシケータ—で10分乾燥させ、精密天秤で重さを測定しておいたナシ型フラスコに移した。その後、ナシ型フラスコをロータリーエバポレーターEYELA N-1110 (東京理化器械、東京) を用いてクロロホルムを除き脂質を減圧濃縮した。濃縮後にそれぞれのナシ型フラスコに少量の 100 % エタノールを加え、再度ロータリーエバポレーターにより濃縮した。脂質を濃縮したナシ型フラスコを10分間デシケータ—で乾燥し、精密天秤を用いて抽出した総脂質量を測定した。脂質量を測定後、それぞれ脂質濃度が10 mg ml-1となるようにクロロホルムをナシ型フラスコに加え、脂質サンプル保存用のバイアル瓶に脂質を移した。その後 10 mg ml-1 の酸化防止剤BHT溶液を10 μl を加え、バイアルに窒素封入をして-30℃で保存した。最後に細胞当たりの脂質量を算出するため、細胞数測定用あらかじめ分取しておいた50 μlの培養液にグルタルアルデヒドを終濃度 1 % となるように加えた。その後、ヘモサイトメーター(エルマ、東京) と落射蛍光顕微鏡を用いて細胞数を計数した。観察条件は倍率×1 ×10、Analog Gain 2.0、ND1/4でDIC 40 ms で行った。DICはexposure 40 msecで観察した。
【実施例】
【0038】
抽出した脂質から薄層クロマトグラフTLC Silica gel 60 25 Glass plates(Merck、Germany)を用いてTAGの展開と抽出を行った。20 ×20 cm TLCプレートを130 ℃で5 時間加熱し活性化した。その後、各抽出脂質を 500 μg ずつTLC プレートにローディングした。その後、ヘキサン : ジエチルエーテル : 酢酸 = 80 : 30 : 1 の展開溶媒でTLC展開を行った。展開後、ドライヤーを使ってTLCプレートを乾かし、プレートに濃度 0.01 % のプリムリン試薬を噴霧した。噴霧後、再度ドライヤーでTLCプレートを乾かし、UVイルミネーターBenchtop 2UV Transilluminator(UVP、UK)を用いて360 nmの紫外光でスポットを検出した。検出したスポットを鉛筆で丸く囲み、剃刀を使ってスポットを掻き取り、ねじ口の長試験管に移した。内部標準物質としてペンタデカン酸15:0(Sigma、米国)を5 μg/ml を 10 μl 、酸化防止剤BHT溶液、3 ml の5 % 塩酸メタノール液を加えた。ふたをきつく締め、ボルテックスで攪拌し、80 ℃で3時間加熱し各脂質の脂肪酸をメチルエステル化した。
加熱終了後、各長試験管に 3 ml ずつヘキサンを加え、ボルテックスで攪拌した。攪拌後、上部のヘキサン層をパスツールピペットで新しい 10 ml 試験管に移した。その後、EYELA MG-2200(東京理化器械、東京)を用いて窒素環流によってヘキサンを揮発させ、パスツールピペットで7 滴のヘキサンに溶かしてガスクロマトグラフィー用のバイアル瓶に移し、ガスクロマトグラフ(GC-2014、SHIMADZU、京都)に供した。得られたガスクロマトグラフの解析は、GC solution(SHIMADZU、京都)を使用した。
【実施例】
【0039】
2.結果
2-1.OLE2OLE2*OLE2N各遺伝子過剰発現株の取得
クラミドモナスはシロイヌナズナに較べ、ゲノムDNAのGC含率が非常に高くコドンの使用頻度が異なる。そのため、シロイヌナズナの持つOLE2遺伝子をクラミドモナスで発現させるため、OLE2をクラミドモナスの最適コドンに変換した。この配列は、クラミドモナスで発現させるとスプライシングしたため、OLE2*と名付けた。さらにOLE2*発現株の表現型への寄与を検討するため、本実験ではスプライシングに必要な塩基を、アミノ酸配列を変えず除いた、スプライシングしないOLE2、スプライシング後にできるN末端の54残基のみを発現するOLE2N をそれぞれ過剰発現する株を作出した。各過剰発現株をRT-PCR に供し予想される位置に転写産物の蓄積を検出し、各株における導入遺伝子の発現を確認した(図1)。
【実施例】
【0040】
2-2.OLE2OLE2*OLE2N 各遺伝子過剰発現株の生育検討
各発現株における生育への影響を検討した(図2)。
まず、通常条件で生育を検討した結果、全ての過剰発現株の生育がEV株 に較べ遅延していた。さらに、EV、OLE2OLE2* 株ではOD750 = 3.0 程度まで生育して定常期に入ったが、OLE2N株ではOD750 = 2.0 程度のところで生育が停止し、定常期に入った(図2、「通常条件」)。
油脂蓄積条件である窒素欠乏条件で各遺伝子過剰発現株における生育への影響を検討した結果、EV 株では2日目まで若干の生育が見られたが、3日目で生育曲線は横ばいになった。OLE2OLE2*発現株においてもEV株とほとんど同様の生育の様子を示した。しかし、OLE2N株では2日目に生育は停止し、3日目には生育の低下が見られた(図2、「窒素欠乏条件」)。
油脂を分解する窒素復帰条件で各遺伝子発現株における生育への影響を検討した結果、EV株では2日目でOD750 = 1.0、3日目でOD750 = 3.0程度になり、3日で生育は定常期に入った。OLE2発現株もEV株と同様の生育の様子を示した。しかし、OLE2*OLE2N株ではそれぞれ生育の遅延が検出された。OLE2*株では2日目でOD750 = 0.5、3日目でOD750 = 1.5程度となり、5日目でEV株と同程度のOD750 = 3.0 程度まで生育した。OLE2N発現株ではさらに生育の遅延は顕著になり、2日目でOD750 = 0.4、3日目でOD750 = 1.0程度となり、5日目になってもOD750 = 1.5程度と低かった(図2、「窒素復帰条件」)。
【実施例】
【0041】
2-3.OLE2OLE2*OLE2N 各遺伝子過剰発現株のLD形態の観察
中性脂質染色試薬Nile red と落射蛍光顕微鏡を用いて、各遺伝子過剰発現株のLDの観察を行った(図3~5;広視野、図6;狭視野)。窒素欠乏条件3日目(図3、図6)と窒素復帰条件の1日目(図4、図6)、2日目(図5、図6)でLDを観察した結果、EV株では窒素欠乏条件3日目でLDが蓄積していた。しかし、窒素復帰条件になると、1日目、2日目と進むにつれて、Nile redの蛍光強度は減少していき、復帰2日目ではほとんどLDが検出できなくなった。OLE2株ではEV株と同様のLD蓄積の様子を示した。しかし、OLE2*株では、窒素欠乏条件におけるLD蓄積の様子はEV株とほとんど変わらなかったものの、窒素復帰条件の1日目ではEV株に較べ、LDが多く蓄積しており、2日目でも少量ではあるが、LDを蓄積する株を観察した。OLE2N 株では、窒素欠乏条件でLDの染色強度がEV株に較べて増加していたほか、窒素復帰1日目、2日目において多くの細胞でLDの蓄積を観察した。さらにLDを多量に含む株は細胞サイズが増加しているように見えた。
【実施例】
【0042】
2-4.OLE2OLE2*OLE2N 各遺伝子過剰発現株の細胞サイズの検討
項2-3で見られた細胞サイズの増加を詳細に検討するため、画像処理ソフト image J を用いて、各遺伝子過剰発現株の細胞サイズを測定した(図7)。細胞サイズの測定は通常条件の3日目(log)と10日目(stationary)、窒素欠乏条件(-N)の1日目と3日目、窒素復帰条件(N)の1日目と2日目の明視野観察の画像を使用した。各画像から50個ずつ細胞面積を測定し、通常条件3日目におけるEV株の細胞サイズ平均を1とした相対値で、全条件における各株の細胞サイズを比較した。その結果、EV株は通常条件ではほとんど細胞サイズが変わらず、窒素欠乏条件では培養日数が進むにつれ、細胞が肥大化していた。しかし、窒素復帰条件では再び細胞サイズは小さくなり、通常条件のときと同程度になった。OLE2株ではEV株と同様であった。これに対してOLE2*株では通常条件、窒素欠乏条件ではEV株と同程度の細胞サイズの変化、および大きさを示したものの、窒素復帰条件の1日目で細胞サイズが窒素欠乏条件3日目に較べて増加した。窒素復帰条件1日目のEV株と較べても細胞サイズは有意に肥大化した。OLE2N株では全ての条件でEV株に較べて細胞サイズが有意に肥大化した。さらに細胞サイズの変化はOLE2*株と同じプロファイルを示し、窒素復帰条件の1日目で最も細胞サイズが肥大化した。
【実施例】
【0043】
2-5.OLE2OLE2*OLE2N 各遺伝子過剰発現株の脂質分析
ガスクロマトグラフを用いて、各遺伝子過剰発現株のTAGを定量した。脂質の定量は窒素欠乏条件の3日目と窒素復帰条件の1日目、2日目で行った。TAGはTLCの展開によって分離し、プリムリンにより検出した(図8)。その結果、EV株では窒素欠乏条件3日目、窒素復帰条件1日目でTAGのスポットが検出されたものの、窒素復帰条件の2日目ではほとんどTAGが蓄積していなかった。OLE2株もEV株と同様であった。しかし、OLE2*過剰発現株では窒素復帰条件の2日目においてもTAGのスポットが検出された。OLE2N株では、OLE2*株と同様に窒素復帰条件の2日目においてTAGのスポットを検出したほか、窒素復帰条件の1日目では他の株に較べて大きなスポットを検出した。これらのスポットをガスクロマトグラフ実験に供し、細胞当たりのTAG含有量、および培養液当たりのTAG含有量を算出した(図9)。
細胞当たりのTAG含有量は、EV株において窒素欠乏条件3日目から窒素復帰条件に培養条件が変わると、徐々にTAG含量が減少した。OLE2*株も同様に窒素復帰条件でTAG含量が減少した。しかし、OLE2株では窒素復帰条件の1日目において少量ながらTAG含有量が増加した。OLE2N株では比較した全ての条件でEV株に較べて、細胞当たりのTAG含有量が有意に増加した。さらに、最も細胞当たりにTAGを多く含んでいるのは窒素欠乏条件3日目でなく、窒素復帰条件1日目であった。
培養液当たりのTAG含有量は、EV株において細胞当たりのTAG含有量と同様に、培養液当たりのTAG含有量も窒素欠乏条件から窒素復帰条件に培養条件を移したとき、徐々に減少していた。また、各過剰発現株においても同様に、培養液当たりのTAG含有量は窒素復帰条件で減少していた。しかし、OLE2*OLE2N株では窒素復帰条件において、EV株に較べて、培養液当たりのTAG含有量が有意に増加した(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、藻類に貯蔵される油脂の蓄積量を増大させるペプチド、該ペプチドを発現する藻類、および該ペプチドを発現する藻類を利用した油脂の製造方法を提供する。従って、本発明は、バイオ燃料を効率的かつ安価に生産する上で、有用な方法を提供する。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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