TOP > 国内特許検索 > グラフェン分散液の製造方法 > 明細書

明細書 :グラフェン分散液の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-050577 (P2020-050577A)
公開日 令和2年4月2日(2020.4.2)
発明の名称または考案の名称 グラフェン分散液の製造方法
国際特許分類 C01B  32/194       (2017.01)
C01B  32/19        (2017.01)
C25B   1/00        (2006.01)
FI C01B 32/194
C01B 32/19
C25B 1/00 Z
請求項の数または発明の数 15
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2018-184673 (P2018-184673)
出願日 平成30年9月28日(2018.9.28)
公序良俗違反の表示 1.テフロン
発明者または考案者 【氏名】佐藤 正秀
【氏名】堀川 由紀子
出願人 【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査請求 未請求
テーマコード 4G146
4K021
Fターム 4G146AA01
4G146AA15
4G146AB07
4G146AC27B
4G146AD15
4G146AD17
4G146AD20
4G146AD22
4G146BA02
4G146BB04
4G146BB11
4G146BC18
4G146BC31A
4G146BC31B
4G146CB35
4G146CB36
4K021AA09
4K021BA18
4K021BB03
4K021DA13
要約 【課題】グラフェンの酸素含有量の調整が容易なグラフェン分散液の製造方法を提供する。また、酸素含有量の低いグラフェンを含むグラフェン分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】グラフェン分散液の製造方法であって、電解液に浸漬したグラファイトを陽極として電圧印加すること、任意にその後放置することを含み、上記電解液はイオン液体相および水相を含む多相電解液であり、上記イオン液体相および上記水相は互いに接しており、上記陽極は上記イオン液体相に接している、上記製造方法。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
グラフェン分散液の製造方法であって、
電解液に浸漬したグラファイトを陽極として電圧印加することを含み、
前記電解液はイオン液体相および水相を含む多相電解液であり、
前記イオン液体相および前記水相は互いに接しており、
前記陽極は前記イオン液体相に接している、前記製造方法。
【請求項2】
前記電解液が二相電解液であり、かつ前記イオン液体相が下相である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記電圧印加のときの陰極としてグラファイトまたは白金を用いる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記電圧印加のときの陰極としてグラファイトを用いる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記陽極および前記陰極がいずれも前記イオン液体相および前記水相の両方に接している請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記電圧印加の電圧が10V~18Vである請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記電圧印加の後、前記多相電解液に前記グラファイトを浸漬したまま放置することを含む請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記電圧印加を1時間~3時間行い、前記放置を12時間~24時間行う請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記電圧印加および前記放置をこの順で2回以上10回以下繰り返す請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記水相を除き前記電圧印加後に得られたグラフェンを含むイオン液体相を単離することを含む請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記イオン液体相が、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるアニオンを含むイオン液体からなる請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記イオン液体相が、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択されるアニオンを含むイオン液体からなる請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
グラフェンおよびイオン液体を含むグラフェン分散液であって、
前記イオン液体が、以下の式Iで表されるカチオンと[PF6-または[BF4-との塩であるグラフェン分散液;
【化1】
JP2020050577A_000008t.gif
式中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子または脂肪族炭化水素基であり、R3は脂肪族炭化水素基である。
【請求項14】
1が炭素数1~3のアルキル基または水素原子であり、R2が炭素数1~3のアルキル基または水素原子であり、R3が炭素数3~20のアルキル基である請求項13に記載のグラフェン分散液。
【請求項15】
前記イオン液体が、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートまたは1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートである請求項13に記載のグラフェン分散液。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン分散液は、高い電気伝導性および熱伝送性を有するため、電池、ナノエレクトロニクス材料などの物品に応用できる。グラフェンは、グラファイトの層状構造を構成する各層であり、溶媒中でグラファイト(黒鉛)をグラフェンに剥離することにより製造することができる。
【0003】
グラファイトからグラフェンを剥離する技術としては、グラファイトを酸化して、酸化グラフェンとして剥離する技術が知られている(非特許文献1)。酸化によりグラファイトの層間に酸素含有基が付加されることにより水分子が浸透しやすくなりグラフェンの剥離が達成される。グラフェンの導電性は酸化が進むと低下するため、酸化グラフェンは、例えば、ヒドラジンを用いて還元し、導電性の高いグラフェンとすることができる。
【0004】
一方、特許文献1および2では、イミダゾリウムオリゴマーからなる新規イオン液体を合成し、この液体に超音波やマイクロ波加熱を援用させながらグラファイト粉末を添加することでグラフェン分散液を製造したことが開示されている。イオン液体は液体で存在する塩であって、高沸点、低蒸気圧、高安定性など特有の性質を有し、これを利用した様々な分野での応用が期待される塩である。
【0005】
非特許文献2には、親水性イオン液体と水との混合溶媒中に黒鉛電極を挿入して直流電解を行うことでグラフェン分散液を得る方法が開示されている。非特許文献2においては、さらに、部分的酸化グラフェンの生成には水分子の介在が必要であることが開示されている。非特許文献2に記載のグラフェン分散液の製造方法においては、水の溶解度の大きい親水性イオン液体と水との均一混合溶媒が使用されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】WO2013/172350
【特許文献2】WO2014/175449
【0007】

【非特許文献1】W. S. Hummers and R. E. Offeman, J. Am. Chem. Soc., 80(1958)1339.
【非特許文献2】ACS Nano, 3, pp.2367-2375 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
酸化グラフェンの還元により得られたグラフェンは、酸素含有基が減少し強い疎水性を有するため互いに凝集しやすく、溶媒中に均一分散した分散液を得ることは難しい。特許文献1および2に記載の新規イオン液体を用いた方法では酸素含有量の低いグラフェンの分散液が得られていると考えられるが、容易に入手可能なイオン液体を用いた非特許文献2で用いられている混合溶媒は、水濃度が高く、得られたグラフェンの酸素含有量は高いと考えられる。また、非特許文献2に記載の溶媒はイオン液体特有の性質をもはや十分に有しているとはいえない。
【0009】
本発明の課題は、グラフェンの酸素含有量の調整が容易なグラフェン分散液の製造方法を提供することである。また、本発明は、酸素含有量の低いグラフェンを含むが、これが凝集しにくいグラフェン分散液を得ることを課題とする。さらに、このようなグラフェン分散液を容易に入手可能な材料を用いて得ることができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意検討を行う過程で、非水混和性のイオン液体と水とを用いて得られる二相電解液でグラファイトの電気分解を行うことによりイオン液体にグラフェンが分散した分散液を容易に得られることを見出し、この知見に基づいてさらに検討を重ね、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の[1]~[15]を提供するものである。
【0011】
[1]グラフェン分散液の製造方法であって、
電解液に浸漬したグラファイトを陽極として電圧印加することを含み、
上記電解液はイオン液体相および水相を含む多相電解液であり、
上記イオン液体相および上記水相は互いに接しており、
上記陽極は上記イオン液体相に接している、上記製造方法。
[2]上記電解液が二相電解液であり、かつ上記イオン液体相が下相である、[1]に記載の製造方法。
[3]上記電圧印加のときの陰極としてグラファイトまたは白金を用いる[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]上記電圧印加のときの陰極としてグラファイトを用いる[1]または[2]に記載の製造方法。
[5]上記陽極および上記陰極がいずれも上記イオン液体相および上記水相の両方に接している[3]または[4]に記載の製造方法。
[6]上記電圧印加の電圧が10V~18Vである[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
【0012】
[7]上記電圧印加の後、上記多相電解液に上記グラファイトを浸漬したまま放置することを含む[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]上記電圧印加を1時間~3時間行い、上記放置を12時間~24時間行う[7]に記載の製造方法。
[9]上記電圧印加および上記放置をこの順で2回以上10回以下繰り返す[7]または[8]に記載の製造方法。
[10]上記水相を除き上記電圧印加後に得られたグラフェンを含むイオン液体相を単離することを含む[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]上記イオン液体相が、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるアニオンを含むイオン液体からなる[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]上記イオン液体相が、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオンおよびそれらの組み合わせからなる群より選択されるアニオンを含むイオン液体からなる[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]グラフェンおよびイオン液体を含むグラフェン分散液であって、
上記イオン液体が、以下の式Iで表されるカチオンと[PF6-または[BF4-との塩であるグラフェン分散液;
【0013】
【化1】
JP2020050577A_000003t.gif

【0014】
式中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子または脂肪族炭化水素基であり、R3は脂肪族炭化水素基である。
[14]R1が炭素数1~3のアルキル基または水素原子であり、R2が炭素数1~3のアルキル基または水素原子であり、R3が炭素数3~20のアルキル基である[13]に記載のグラフェン分散液。
[15]上記イオン液体が、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートまたは1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートである[13]に記載のグラフェン分散液。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、グラフェンの酸素含有量の調整が容易なグラフェン分散液の製造方法が提供される。本発明の製造方法は、容易に入手可能な材料を用いて行うことができる。また、本発明の製造方法により、酸素含有量の低いグラフェンが均一に分散したグラフェン分散液を得ることができる。さらに、本発明の製造方法によっては、イオン液体およびグラフェンを含むグラフェン分散液であって、水濃度が低く、イオン液体特有の性質が維持されているグラフェン分散液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】二相電解液に浸漬した電極の模式図である。
【図2】例1のグラフェンゲルの作製における、1回目の電圧印加開始から1回目の放置後までの電解液の変化を示す写真である。
【図3】例2のグラフェンゲルの作製における、1回目の電圧印加開始から終了時までの電解液の変化を示す写真である。
【図4】例3のグラフェンゲルの作製における、1回目の電圧印加開始から終了時までの電解液の変化を示す写真である。
【図5】例1、例2および比較例のグラフェン(沈殿物)のXPSスペクトルである。
【図6】例1、例2および比較例のグラフェン(沈殿物)のXPSスペクトル波形分離解析を示す図である。
【図7】例2および例3のグラフェン(沈殿物)のXPSスペクトルである。
【図8】例2および例3のグラフェン(沈殿物)のXPSスペクトルの1sピークの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のグラフェン分散液の製造方法では、原料としてのグラファイトの電気化学的剥離により、グラフェンを得る。具体的には、本発明のグラフェン分散液の製造方法では、電解液にグラファイトを浸漬し、グラファイトを陽極として電圧印加することにより、グラフェン分散液を得る。なお、本明細書においては、「グラファイト」を「黒鉛」ということがある。

【0018】
後述の実施例で示すように、本発明のグラフェンの製造方法における電圧印加後は、イオン液体相が黒色に変化する。すなわち、グラフェンはイオン液体相に分散する。グラファイトの層間にイオン液体由来のカチオン(例えばイミダゾリウムイオン)が進入しグラフェン表面が修飾されることにより分散しやすくなっていると考えられる。

【0019】
本発明のグラフェンの製造方法においては、電解液としてイオン液体相および水相を含む多相電解液を用いる。この多相電解液においては、イオン液体相および水相は互いに接するように配置される。グラファイト剥離が主にイオン液体相と水相との界面近傍で進行すると考えられるためである。上記のように、グラフェンはイオン液体相に分散するが、グラファイト剥離の際には、非特許文献2に記載されている下記式の、水が関与する反応も同時に一部で起こっていると考えられる。

x+H2O→CX-1OH+H++e-
x+2H2O→CX-1+CO2↑+4H++4e-
x+2H2O→CX-1COOH+CO2↑+3H++3e-

【0020】
多相電解液は、イオン液体相および水相を互いに接するように含む限り、何層であってもよい。多相電解液としては、例えば、二相電解液、三相電解液、四相電解液、五相電解液等が挙げられる。多相電解液はイオン液体相および水相以外に、例えば、水の蒸発を防止するための油相などを含んでいてもよい。多相電解液は、イオン液体相および水相からなる二相電解液であることが好ましい。二相電解液においては、イオン液体相が下相であり水相が上相であることが好ましい。

【0021】
イオン液体相および水相の体積比は、特に限定されないが、「イオン液体相の体積/水相の体積」として、1/10~1/1が好ましく、1/8~1/2がより好ましい。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。

【0022】
水相は、電解質を含んでいても、含んでいなくてもよいが、含んでいないことが好ましい。すなわち、水相は純水からなることが好ましい。水相が電解質を含む場合、電解質の例としては、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、塩化物等が挙げられる。
水相のpHは5以上9以下が好ましく、6以上8以下がより好ましい。

【0023】
イオン液体相はイオン液体以外の成分を含んでいてもよいが、イオン液体相はイオン液体からなるものであることが好ましい。本発明の製造方法において、イオン液体としては、水と混合しない、非水混和性かつ疎水性のイオン液体が用いられていればよい。イオン液体は水より比重が大きいことが好ましい。

【0024】
本発明の製造方法において用いられるイオン液体を構成するカチオンの好ましい例としては、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、コリン、アンモニウムイオン、脂肪族カチオン、スルホニウムイオン、およびホスホニウムイオンなどが挙げられる。イオン液体は、カチオンとして上記の例のいずれか2つ以上を含むものであってもよい。カチオンとしては、上記の例のうちうち、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオンが好ましく、イミダゾリウムイオンがより好ましい。

【0025】
本発明の製造方法において用いられるイオン液体相を構成するイオン液体のアニオンの好ましい例としては、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、トリフルオロメタンスルホナートイオン、ヘキサフルオロプロパンスルホナートイオン、ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドイオン、およびテトラクロロフェラートイオンが挙げられる。これらのアニオンは水に混和しにくいイオン液体を形成可能であるからである。イオン液体は、アニオンとして上記の例のいずれか2つ以上を含むものであってもよい。上記の例のうち、テトラフルオロボレートイオン、またはヘキサフルオロホスフェートイオンがより好ましい。

【0026】
本発明の製造方法において用いられるイオン液体を構成するカチオンは例えば、以下の式Iで表されるカチオンであることが好ましい。

【0027】
【化2】
JP2020050577A_000004t.gif

【0028】
式中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子または脂肪族炭化水素基であり、R3は脂肪族炭化水素基である。R1は炭素数1~3のアルキル基または水素原子であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。R2は、炭素数1~3のアルキル基または水素原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。R3は、炭素数3~20のアルキル基であることが好ましく、炭素数5~10のアルキル基であることがより好ましい。本明細書において、「アルキル基」は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。

【0029】
式Iで表されるカチオンは、[PF6-または[BF4-または[CF3SO3-または[CF3(CF22SO3-または[(CF3SO22N]-または[FeCl4-を対イオン(アニオン)として塩を構成していることが好ましい。
本発明の製造方法において好ましく用いられるイオン液体の具体的な例としては、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどが挙げられる。

【0030】
本発明の製造方法において用いられるグラファイトとしては、天然黒鉛、人造黒鉛等が挙げられる。本発明の製造方法では、品質の調整が容易である人造黒鉛を用いることが好ましく、高配向性結晶黒鉛を用いることがより好ましい。

【0031】
グラファイトの形状は特に限定されないが、電極として用いられるグラファイトは棒状または板状であることが好ましく、棒状であることがより好ましく、円柱棒状であることがさらに好ましい。グラファイトの大きさは用いる電解液の量または容器の大きさに応じて決定すればよく、例えば、円柱棒状である場合、直径1mm~3cmであればよく、2mm~2cmであることが好ましく、3mm~1cmであることがより好ましく、長さは3cm~30cmであればよく、5cm~20cmであることが好ましく、8cm~15cmであることがより好ましい。

【0032】
電解液を収容するための電解槽は、箱状であってもよく、管状であってもよく、特に限定されない。電解槽の材質としては、例えば、ガラス製、セラミック製、金属製、樹脂製などが挙げられる。本発明の製造方法においては、テフロン性の電解槽を好ましく用いることができる。

【0033】
電極に電圧を印加するための電源としては、直流電源を用いればよい。直流電源としては電気分解に用いられる電源として従来から知られている電源を用いることができる。

【0034】
本発明の製造方法における電圧印加の工程では、陽極および陰極の一対の電極のうち少なくとも陽極となる電極にグラファイトを用いる。陰極としては特に限定されないが、グラファイト電極または白金電極を用いることが好ましく、グラファイト電極を用いることがより好ましい。

【0035】
電圧印加の際、陽極のグラファイト電極は、少なくとも一部が電解液に浸漬されている。また、陽極のグラファイト電極は、電圧印加の際、一部がイオン液体相に接している。例えば、棒状のグラファイトの一方の末端がイオン液体相に接しており、他方の末端は電解液の外の空気中にあって、電源との接続に用いられていればよい。このとき、その末端の間のグラファイトの少なくとも一部が水相と接していることが好ましい。電圧印加の際、陰極についても、電解液に、少なくとも一部が浸漬されていればよい。また、陰極は電圧印加の際、一部がイオン液体相に接していることが好ましい。陽極および陰極の電極は、それぞれ独立に、水相と接していても、接していなくてもよいが、接していることが好ましい。陽極および陰極の電極のいずれも、水相と接していることがより好ましい。電極が水相と接触しないように絶縁して電圧印加を行っても、同様にグラフェンが生成するが、電極をイオン液体相のみでなく水相とも接触させた場合にグラフェンの生成量がより多いためである。陽極と陰極とは、これらが電解液中で対向するように配置されることが好ましい。陽極と陰極との距離は特に限定されないが、1cm~30cmであればよく、3cm~20cmであることが好ましく、5cm~10cmであることがより好ましい。

【0036】
陽極と陰極とはそれぞれ、クリップ付き導線などを用いて、電源の正極端子と負極端子にそれぞれ電気的に接続されていればよい。
印加する電圧は8V~20Vであればよく、10V~18Vが好ましく、12V~15Vがより好ましい。8V~15V程度の低電圧を用いることにより、酸素含有量がより少ないグラフェンの分散液を製造することができる。
電流は、印加電圧の大きさや電極の電解液との接触面積や電極間距離に応じて異なるが、例えば、10mA~500mA、好ましくは20mA~100mAになるように調整すればよい。グラフェン生成(剥離)が進行する範囲でできるだけ低い電圧および電流を使用することによって酸素含有量がより少ないグラフェンを得ることができる。

【0037】
電圧印加時の電解液の温度は、特に限定されないが、例えば、10℃~50℃であればよく、20℃~40℃が好ましい。
電圧印加の時間は、電圧などの他の条件により調整すればよく、特に限定されないが、例えば、1時間~30時間であればよく、2時間~15時間であることが好ましく、5時間~12時間であることがより好ましい。後述するように電圧印加を間欠的に行う場合は、それらを合わせた時間の合計が上記の時間であればよい。連続的に電圧印加する時間を4時間未満、好ましくは、2時間以下とすることにより、酸素含有量がより少ないグラフェンの分散液を製造することができる。

【0038】
本発明の製造方法において、電圧印加の後は放置することが好ましい。放置する工程を含ませることにより、酸素含有量の少ないグラフェンを効率良く得ることができる。放置は、電圧を印加したときの状態で電極を電解液に浸漬したまま、電源のみを切って行うことが好ましい。すなわち、放置は、陽極のグラファイト電極の少なくとも一部を電解液に浸漬させたまま行うことが好ましい。また、グラファイト電極の一部がイオン液体相に接している状態のまま行うことが好ましい。放置の際、陰極も、少なくとも一部が電解液に浸漬し、一部がイオン液体相に接していることが好ましい。

【0039】
電圧印加の時間、および放置の時間は、電圧などの他の条件により調整すればよい。印加時間が長いほど、生成するグラフェンの酸素含有量が増えるため、グラフェン生成(剥離)が進行する範囲のできるだけ短い印加時間の後、放置を行うことで、酸素含有量がより少ないグラフェンを得ることができる。例えば、電圧印加を30分~5時間、好ましくは1時間~3時間行った後、1時間~48時間放置することができる。放置時間は、5時間~24時間が好ましく、12時間~22時間がより好ましい。一例として、12V~15Vで電圧を印加する場合、電圧印加を2時間行った後、22時間放置する。

【0040】
電圧印加および放置の工程の組み合わせは、2回以上繰り返すことも好ましい。言い換えると本発明の製造方法において、電圧印加は間欠的に行うことも好ましい。電圧印加および放置の工程の組み合わせを繰り返し行うことにより、酸素含有量の低いグラフェンの分散液を高濃度で得ることができる。繰り返しは、例えば、2~20回行うことができ、3~10回行うことが好ましく、4~8回行うことがより好ましい。

【0041】
本発明の製造方法は、上記の電圧印加および任意に放置の工程の後、またはその繰り返しの後に、電解液から水相を除く工程を含んでいてもよい。得られたイオン液体を溶媒とするグラフェン分散液(グラフェンおよびイオン液体を含むグラフェン分散液)は、さらにイオン液体を除き、必要に応じて洗浄および乾燥などの処理を行ってグラフェンとしてもよい。または、グラフェン分散液の製造の際に生じる沈殿物からグラフェンを得てもよい。

【0042】
本発明の製造方法において、印加する電圧、電圧印加時間、および放置の有無や放置時間を調整することにより、生成するグラフェンの酸素含有量を調整することができる。特に、電圧印加の後に放置する工程を繰り返す製造方法により、従来の製造方法で行われているヒドラジンなどによる還元処理を行うことなく、酸素含有量の低いグラフェンを得ることができる。

【0043】
グラフェンの酸素含有量はX線光電子分光法(XPS)により確認することができる。グラフェン分散液中のグラフェンはろ過や遠心分離により単離してXPSによる表面分析に付すことができる。ろ過や遠心分離による単離ができないときはグラフェン分散液中に沈殿したグラフェンのXPSによる表面分析を行い、分散液におけるグラフェンの酸素含有量を推定することができる。本発明の製造方法により、XPS測定より求めた表面元素組成(原子数濃度%)として、20%以下のグラフェン、さらには10%以下のグラフェンを得ることができる。

【0044】
本発明の製造方法によって、グラフェンおよびイオン液体を含むグラフェン分散液を得ることができる。この分散液を本明細書においてグラフェンゲルということがある。グラフェンゲルはこのままポリスチレンなどのポリマーと混合し、母体ポリマーに、高い電気伝導性を付与することができる。グラフェンゲルまたは、グラフェンゲルと混合されたポリマーは、電池、ナノエレクトロニクス材料などの各種物品の製造に用いて製造される物品の電気伝導性を調整することができる。また、グラフェンゲルまたは、グラフェンゲルと混合されたポリマーは、高伝熱材料として用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
<グラフェンゲルの作製>
例1:水-疎水性イオン液体二相系を用いる電気化学的剥離
疎水性イオン液体として1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート([C8mim]PF6)10mlと超純水50mlとをテフロン製容器に入れ、上相が水相、下相がイオン液体相の二相系を得た。この状態のまま、高配向性黒鉛電極棒(直径5mm)を2本を図1に示すようにテフロン製容器内の電解液に挿入した。電極間距離は6cmとした。電極を直流定電圧電源に接続して電圧を印加した。印加電圧15V一定(初期電流値40mA)の状態で2時間経過後、直流定電圧電源の電源を切って一晩放置したところ、下相イオン液体相が黒色に変化した(図2)。電圧印加後放置する操作をさらに4回繰り返した。水相を除いて、グラフェンがイオン液体に分散したグラフェンゲルを得た。グラフェンゲル中の沈殿物をサンプリングし、5000rpmで5分間遠心分離し、デカンテーションによってグラフェンを得た。得られたグラフェンは、エタノールで3回洗浄し乾燥機を用い60℃で2時間乾燥させた。
【実施例】
【0047】
例2:水-疎水性イオン液体二相系を用いる電気化学的剥離
疎水性イオン液体として、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([C8min]BF4)を用いた以外は例1と同様の条件で、グラフェンゲルおよびグラフェンを得た。このときの電解質の変化を図3に示す。
【実施例】
【0048】
例3:水-疎水性イオン液体二相系を用いる電気化学的剥離
印加電圧15V一定(初期電流値40mA)の状態で2時間経過後、直流定電圧電源の電源を切って12時間放置する操作を5回繰り返す代わりに、10時間連続で15V一定(初期電流値40mA)の電圧を印加する以外は例2と同様の条件で、グラフェンゲルおよびグラフェンを得た。上記10時間連続での電圧印加中、4時間電圧印加した時点で下相イオン液体相が黒色に変化した(図4)。
【実施例】
【0049】
比較例:親水性イオン液体均一相系を用いる電気化学的剥離
親水性イオン液体(1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムクロライド([C8min]Cl,))10mlと超純水50mlとをテフロン製容器に入れ、混合して均一相とした。その後、高配向性黒鉛電極棒(直径5mm)を2本をテフロン製容器内電解液に挿入した。電極間距離は6cmとした。電極を直流定電圧電源に接続して電圧を印加した。印加電圧15V一定(初期電流値40mA)の状態で2時間経過後、直流定電圧電源の電源を切って一晩放置する操作を5回繰り返し、グラフェンがイオン液体に分散したグラフェンゲルを得た。グラフェンゲル中の沈殿物をサンプリングし、5000rpmで5分間遠心分離し、デカンテーションによってグラフェンを得た。得られたグラフェンは、エタノールで3回洗浄し乾燥機を用い60℃で2時間乾燥させた。
【実施例】
【0050】
<電解質の差異による元素組成の差異>
例1、例2および比較例のグラフェン(沈殿物)の表面元素組成(原子数濃度%)をXPS測定より求めた。
XPS測定はアルバックファイ株式会社製PHI 5000 VersaProbe IIにて、単色化AlKα線、出力100W、TOA90°の条件で行った。結果を図5および表1に示す。
【実施例】
【0051】
【表1】
JP2020050577A_000005t.gif
【実施例】
【0052】
いずれの例においても、N(窒素原子)由来のピークが観測されたことから、イミダゾリウム基で修飾されたグラフェンが得られたと考えられる。
比較例のグラフェンの表面酸素濃度は30.8%と高い。グラフェンはむしろ酸化グラフェンの状態で黒鉛電極棒から剥離したことがわかる。一方、例1および例2のグラフェンの表面酸素濃度は8%程度と非常に低かった。これは、100/cm程度の高い電気導電率を保持できるとされる10-20%以下の酸素濃度に該当する。(Morimoto, N. et al. Tailoring the Oxygen Content of Graphite and Reduced Graphene Oxide for Specific Applications. Sci. Rep. 6, 21715; doi: 10.1038/srep21715 (2016).)
【実施例】
【0053】
グラフェンにどのように酸素が結合しているのかを明らかにするためXPS測定結果から波形分離解析を行った。
この解析に用いた1Sの結合エネルギーは以下のとおりである。
C=C 284.8eV
C-N 285.9eV
C-OH 286.1eV
C=O 288.2eV
O=C-O 289.0eV

結果を図6および表2に示す。
【実施例】
【0054】
【表2】
JP2020050577A_000006t.gif
【実施例】
【0055】
比較例のグラフェンでは、グラフェン骨格由来のC=C,C-C結合の存在割合が30%程度まで大幅に低下していることが分かる。酸化によるものと考えられる。これに対して、例1および例2のグラフェンでは、約70%程度のグラファイト由来のC=C,C-C結合が残存していることがわかる。
【実施例】
【0056】
<電圧印加時間の影響>
上記の間欠的に電圧印加した例2のグラフェンおよび連続的に電圧印加した例3のグラフェンについてXPSスペクトル測定を行った。結果を図7、図8(C1sピークの拡大)および表3に示す。
例3のグラフェン表面の酸素濃度は23.9%と、間欠的に電圧印加した例2のグラフェンの7.7%に比べて非常に大きくなった。間欠的に電圧を印加することにより、酸化が抑制されることがわかる。
【実施例】
【0057】
【表3】
JP2020050577A_000007t.gif
【符号の説明】
【0058】
1 電極
2 イオン液体相
3 水相
4 電解槽
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7