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明細書 :位相差走査透過電子顕微鏡装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成31年4月25日(2019.4.25)
発明の名称または考案の名称 位相差走査透過電子顕微鏡装置
国際特許分類 H01J  37/295       (2006.01)
H01J  37/05        (2006.01)
H01J  37/28        (2006.01)
FI H01J 37/295
H01J 37/05
H01J 37/28 C
国際予備審査の請求
全頁数 19
出願番号 特願2018-508074 (P2018-508074)
国際出願番号 PCT/JP2017/012647
国際公開番号 WO2017/170554
国際出願日 平成29年3月28日(2017.3.28)
国際公開日 平成29年10月5日(2017.10.5)
優先権出願番号 2016068958
優先日 平成28年3月30日(2016.3.30)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ
発明者または考案者 【氏名】永谷 幸則
出願人 【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100094352、【弁理士】、【氏名又は名称】佐々木 孝
審査請求 未請求
テーマコード 5C033
Fターム 5C033AA05
5C033SS07
5C033SS10
要約 【課題】 試料の電子線被曝を最小化し、所望のコントラストで試料の相変化を画像化可能な、取扱性に優れた位相差走査透過電子顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】 位相差走査透過電子顕微鏡装置は、電子銃31、照射光学系32、スキャンコイル33、収束光学系34、対物レンズ35、電子線の強度を検出する明視野検出器36を備えており、STEM焦点面より上流側において、フレネル・ゾーン・プレート40が、その焦点がSTEM焦点面に来る様に配置されており、これにより、当該プレートからの主プローブ波と参照波を含む電子線が、収束光学系34と対物レンズ35との間に置かれた試料物体50上に照射する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
電子銃と、
前記電子銃から放射された電子線を収束する収束光学系と、
前記収束光学系からの電子線を試料に対して水平方向に走査するように偏向するためのスキャニング手段と、
前記スキャニング手段で偏向された電子線を前記試料に照射する対物レンズと、
前記試料を透過した電子線の強度を検出する手段とを備えた走査透過電子顕微鏡装置において、
前記電子銃と前記対物レンズの間の、対物レンズ前方焦点面とは異なった位置に配置され、前記電子銃から放射された電子線を予め設定された比率の主プローブ波と参照波に変換するビームスプリッタを備え、前記主プローブ波と参照波は異なった焦点位置をもっている電子波であることを特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記ビームスプリッタにより変換される前記主プローブ波と前記参照波との比率は0.25以上4以下であることを特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項3】
前記請求項2に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記ビームスプリッタは、フレネル・ゾーン・プレートを含むことを特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項4】
前記請求項3に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、前記電子線を少なくとも2つのビームに分波し、その一方を通過させて前記主プローブ波とし、他方を前記参照波として収束、あるいは、発散し、かつ、当該フレネル・ゾーン・プレートは、前記収束する参照波の焦点を結ぶ位置、あるいは、発散する参照波がレンズ系により焦点を結ぶ位置が、前記対物レンズの前記電子銃側の焦点と一致するように配置されていることを特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項5】
前記請求項4に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、前記電子線の全体を分波するように配置されていることを特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項6】
前記請求項4に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、前記電子線の一部を分波するように配置されていることを特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項7】
前記請求項4に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記フレネル・ゾーン・プレートと前記対物レンズの間に、1つ以上のレンズを設け、当該レンズを、前記フレネル・ゾーン・プレートが結ぶ焦点位置を、前記対物レンズの前記電子銃側の焦点と一致するように移動もしくは転送する位置に配置したことを特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項8】
前記請求項4に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、通過する前記主ブローブ波と、発散させる前記参照波とに分波する機能を持ち、更に、前記発散する参照波を収束させる少なくとも1つのレンズを設け、当該レンズを、備える事により、前記参照波の収束点と前記対物レンズの前記電子銃側の焦点とを一致させる位置に配置したことを特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項9】
前記請求項3に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、窒化ケイ素、アモルファス炭素もしくはグラフェンを素材とする薄膜の上に、電子線を吸収するタングステン、白金、金、銀、銅、鉛、鉄、亜鉛、錫、モリブデン、チタン、ニッケル又はアルミニウム、若しくは、それらの合金を素材とする同心円状の少なくとも1本以上の輪帯より構成されている事を特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項10】
前記請求項3に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、電子線を吸収するタングステン、白金、金、銀、銅、鉛、鉄、亜鉛、錫、モリブデン、チタン、ニッケル又はアルミニウム、若しくは、それらの合金を素材とし、架橋部を備える同心円状の少なくとも1本以上の輪帯より構成される薄膜である事を特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項11】
前記請求項3に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、窒化ケイ素、アモルファス炭素もしくはグラフェンを素材とする薄膜の上に、電子線の位相をシフトする同心円状の少なくとも1本以上の輪帯状の溝より構成されている事を特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項12】
前記請求項9に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、更に、窒化ケイ素、アモルファス炭素もしくはグラフェンを素材とする薄膜の上に、電子線の位相をシフトする同心円状の少なくとも1本以上の輪帯状の溝より構成された吸収型フレネル・ゾーン・プレートを貼り合せた構成である事を特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
【請求項13】
前記請求項11に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、更に、その上に、窒化ケイ素、アモルファス炭素もしくはグラフェンを素材とする薄膜の上に、電子線を吸収するタングステン、白金、金、銀、銅、鉛、鉄、亜鉛、錫、モリブデン、チタン、ニッケル又はアルミニウム、若しくは、それらの合金を素材とする同心円状の少なくとも1本以上の輪帯を形成することにより構成している事を特徴とする位相差走査透過電子顕微鏡装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、透過電子顕微鏡装置に関し、特に、電子線を走査し、かつ、位相板を用いながら試料を観察する位相差式の走査透過電子顕微鏡装置(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡は、薄い試料のナノメートルの構造を観察する等において広く用いられており、これは、試料に電子線を照射し、当該試料を透過した電子線を、検出器上に拡大投影し、試料内部の構造を透かし観る手法であり、試料物体内部の電子線の吸収度を反映した投影像が得られるものであり、例えば、以下の特許文献1により既に知られている。
【0003】
かかる透過型電子顕微鏡において、特に、電子線の吸収が少なくコントラストの付きにくい無染色の生体軟組織や樹脂などを対象とする場合には、試料物体を透過する電子線の位相をコントラストに変換して観察する、所謂、位相差電子顕微鏡法や位相差走査透過電子顕微鏡法が用いられている。なお、一般的に、電子銃から放出された電子線を走査しながら被検査対象である試料を観察する、所謂、走査透過電子顕微鏡装置については、例えば、以下の特許文献2によって既に知られている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2012-3843号公報
【特許文献2】特開2012-43563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した位相差電子顕微鏡法および位相差走査透過電子顕微鏡法のうち、その構成から、試料と検出器との間に透過電子ビームの吸収体が存在しないことから、特に、試料の電子線被曝の低減を図るのに有利な位相差走査透過電子顕微鏡法に関するものである。
【0006】
ところで、本発明の関わる走査透過電子顕微鏡法においても、なお、試料物体中においてより重い元素がより高い密度で存在している程、より大きな電子線の散乱があり、より明瞭なコントラストが得られるという吸収コントラストの原理によるものである。しかしながら、同種の軽元素を主成分とする無染色の生体組織や樹脂などを対象とする場合には、像にコントラストが付きにくいという欠点があった。
【0007】
従来、これを解決する手法として、以下にも詳細に説明するが、位相板を用いて試料物体を透過する電子線の位相をコントラストに変換して観察する、位相差電子顕微鏡法(図11を参照)が用いられている。なお、かかる位相板としては、これまでに、厚さ数10nmのアモルファス炭素薄膜の中心に直径数100nmの穴を開けた炭素薄膜型ゼルニケ位相板、アモルファス炭素薄膜をそのまま用い、電子線ビームスポット照射による炭素薄膜の物性変化を位相変調に用いる穴なし炭素薄膜型ゼルニケ位相板、シリコン微細加工技術により中心部だけに電位差を生じさせるアインツェルレンズ型などが提案されている。
【0008】
しかしながら、これらの位相板は、焦点面上の強い強度の電子線スポット近傍に置かれるため、電子線照射により位相板の物性が経時変化してしまう。その結果として、位相コントラストが正しく再生されなくなってしまう欠点があり、位相板の帯電現象として認識されている。また、これらの位相板は、装置の操作などにおいて強い電子線を浴びると容易に破壊されてしまう。
【0009】
加えて、これらの位相板は、位相を変調する本来の機能の他に、電子線を吸収してしまう副作用をも有しており、試料を透過した電子ビームの一部を無駄にし、その結果として、試料の電子線被曝を増大してしまうという課題も抱えている。
【0010】
本発明は、上述した従来技術における事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、より少ない試料の電子線の被曝を可能にすると共に、選択可能な所望のコントラストで良好な資料の可視化を可能とした操作性にも優れた位相差透過型電子顕微鏡装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明によれば、まず、電子銃と、前記電子銃から放射された電子線を収束する収束光学系と、前記収束光学系からの電子線を試料に対して水平方向に走査するように偏向するためのスキャニング手段と、前記スキャニング手段で偏向された電子線を前記試料に照射する対物レンズと、前記試料を透過した電子線の強度を検出する手段とを備え走査透過電子顕微鏡装置において、前記電子銃と収束光学系の間に配置され、前記電子銃から放射された電子線を予め設定された比率の主プローブ波と参照波とに分波するビームスプリッタを備えている位相差走査透過電子顕微鏡装置が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、前記に記載した走査透過電子顕微鏡装置において、前記ビームスプリッタにより変換される前記主プローブ波と前記参照波との強度比率は1:1もしくはそれに近い比率(1:4~1:0.25=0.25以上4以下)であることが好ましく、更には、前記ビームスプリッタは、フレネル・ゾーン・プレートを含むことが好ましい。更には、前記フレネル・ゾーン・プレートは、前記電子線を少なくとも2つのビームに分波し、その一方を通過させて前記主プローブ波とし、他方を前記参照波として収束、あるいは、発散し、かつ、当該フレネル・ゾーン・プレートは、前記収束する参照波の焦点を結ぶ位置、あるいは、発散する参照波がレンズ系により焦点を結ぶ位置が、前記対物レンズの前記電子銃側の焦点と一致するように配置されてもよい。
【0013】
また、前記フレネル・ゾーン・プレートと前記対物レンズの間に、1つ以上のレンズを配置し、前記フレネル・ゾーン・プレートが結ぶ焦点位置を、前記対物レンズの前記電子銃側の焦点と一致するように移動もしくは転送するように配置してもよい。
【0014】
さらに、前記フレネル・ゾーン・プレートは、通過する前記主ブローブ波と、発散させる(広げる方向の)参照波とに分波する機能を持ち、前記発散する参照波を収束させる少なくとも1つのレンズを備える事により、参照波の収束点と前記対物レンズの前記電子銃側の焦点と一致させる配置をとってもよい。
【0015】
そして、前記フレネル・ゾーン・プレートは、窒化ケイ素、アモルファス炭素もしくはグラフェンを素材とする薄膜の上に、電子線を吸収するタングステン、白金、金、銀、銅、鉛、鉄、亜鉛、錫、モリブデン、チタン、ニッケル又はアルミニウムを含む純金属、若しくは、それらの合金を素材とする同心円状の少なくとも1本以上の輪帯より構成されている事が好ましい。
【0016】
また、前記フレネル・ゾーン・プレートは、電子線を吸収するタングステン、白金、金、銀、銅、鉛、鉄、亜鉛、錫、モリブデン、チタン、ニッケル又はアルミニウムを含む純金属、若しくは、それらの合金を素材とし、架橋部を備える同心円状の少なくとも1本以上の輪帯より構成される薄膜であってもよい。
【0017】
また、前記フレネル・ゾーン・プレートは、窒化ケイ素、アモルファス炭素もしくはグラフェンを素材とする薄膜の上に、電子線の位相をシフトさせる同心円状の少なくとも1本以上の輪状の溝が形成された位相型のフレネル・ゾーン・プレートであってもよい。
【0018】
さらに、前記フレネル・ゾーン・プレートは、位相および振幅の双方を変調する位相・振幅複合型のフレネル・ゾーン・プレートであってもよい。即ち、前記吸収型フレネル・ゾーン・プレートと前記位相型フレネル・ゾーン・プレートを貼り合せる事によって構成してもよいし、前記位相型のフレネル・ゾーン・プレート上に、電子線を吸収するタングステン、白金、金、銀、銅、鉛、鉄、亜鉛、錫、モリブデン、チタン、ニッケル又はアルミニウムを含む純金属、若しくは、それらの合金を素材とする同心円状の少なくとも1本以上の輪帯を形成することにより構成してもよい。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明によれば、試料物体への電子線被曝を抑えつつ、試料物体の電子線の位相変化を画像化し、電子線の位相変化の分布を定量的に計測する位相差走査型の透過電子顕微鏡を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態になる位相差走査透過電子顕微鏡装置の全体構成図である。
【図2】上記位相差走査透過電子顕微鏡装置のフレネル・ゾーン・プレートの平面とその断面を示す図である。
【図3】上記位相差走査透過電子顕微鏡装置の架橋型のフレネル・ゾーン・プレートの平面とその断面を示す図である。
【図4】その他の例として、位相型フレネル・ゾーン・プレートと位相・振幅複合型のフレネル・ゾーン・プレートを示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態(実施例2)になる位相差走査透過電子顕微鏡装置の全体構成図である。
【図6】本発明の更に他の実施形態(実施例3)になる位相差走査透過電子顕微鏡装置の全体構成図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態(実施例4)になる位相差走査透過電子顕微鏡装置の全体構成図である。
【図8】本発明の更に他の実施形態(実施例5)になる位相差走査透過電子顕微鏡装置の全体構成図である。
【図9】本発明の更に他の実施形態(実施例6)になる位相差走査透過電子顕微鏡装置の全体構成図である。
【図10】従来技術において、ゼルニケ位相板などを用いることにより得られる電子ビームを使用する位相差STEMの像生成原理を説明する図である。
【図11】従来技術における位相差電子顕微鏡法の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照しながら本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、それに先立ち、本発明の基本的な特徴や考え方等について簡単に述べる。

【0022】
(位相差STEMの像生成原理)
通常のSTEMは、図10(A)にも示すように、電子銃からの電子線を点状の収束ビーム(主プローブ)とし、当該収束ビームをスキャニングコイルにより試料に平行方向に走査しながら、収束点の吸収率と収束点内部の微分位相を可視化して観察するものであるが、通常、位相の(超)低周波数域は可視化することができない。

【0023】
そこで、図10(B)にも示すように、上述したゼルニケ位相板などを用いることにより、点状の収束ビーム(主プローブ)に対し、位相を+π/2もしくは-π/2だけ移相した参照平面波ビーム(参照ビーム)を重ね合わせた電子ビームを使用して走査することにより、半径Rの参照波の広がり程度の超低周波数域をも可視化可能とするものである。

【0024】
しかしながら、単にSTEMの前方回折面にゼルニケ位相板などを挿入するだけでは、主プローブ波の振幅(A)に対し、参照波の振幅Bが圧倒的に不足してしまい、十分なコントラストが得られないことが分かった。なお、上記に替え、例えばヒルベルト位相板を挿入することにより多少の改善が見られたが、しかしながら、得られる像の解釈が困難である等、なお不十分なものであった。

【0025】
より詳細には、位相差走査透過電子顕微鏡では、参照波を生成するために、位相板の中心に穿孔を施したゼルニケ位相板を用い、当該ゼルニケ位相板をSTEM焦点面に、直接、挿入する手法が用いられている。しかしながら、この場合には、参照波として用いられる散乱波は、ゼルニケ位相板の中心の小面積の穴のエッジ部分で生じる散乱波に限定されてしまう。一方、プローブ波はゼルニケ位相板の全域をそのまま通過する。そのため、穴のエッジ部分で生じる散乱波は、そのまま通過するプローブ波に比べて参照波の強度が著しく小さくなってしまう。その結果、干渉によるコントラストが小さくなってしまう。

【0026】
その為、従来、例えば、投影光学系を調節して検出器に入射するプローブ波を制限する等により、コントラストを得るなどの対策が取られるが、しかしながら、この事は、試料を透過したプローブ波を無駄にする事にもなってしまい、試料被曝が増大すると言う問題を生じてしまう。

【0027】
発明者の検討によれば、上述した主プローブ波と参照波を用いて得られる像のコントラストは、一般に、以下の式で表すことができる。
I∝|Aeiφ+Bein/2|=A+B+2ABsinφ・・・(式1)
ここで、A:主プローブ振幅、B:参照波振幅(於センサ部)である。

【0028】
更に、上記式1を平均強度(A+B)で規格化することによれば、以下の式(2)が得られる。
I∝1+2・{(A/B)+(B/A)}-1・sinφ・・・(式2)

【0029】
即ち、上記のAとBとがバランスする(等しい)時に、得られる像の位相コントラストが最大化することが分かる。換言すれば、STEMの前方焦点面に挿入される位相板と同等の機能を果たす装置として、それを透過する主プローブとそれにより散乱波として生じる参照波との強度の比率(B/A)が1に近い値、具体的には0.25以上4以下の範囲において所望のものを選択して採用することにより、上述の問題を解消することが可能となる。

【0030】
本発明は、上述した知見に基づいて達成されたものであり、以下に、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と称する)により詳細に説明する。実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。なお、以下の説明では、電子顕微鏡を構成する各種の電子レンズは、実際には電磁場を形成するための電磁コイルにより構成されるが、以下の説明では、説明の簡素化のため、単にレンズを呼び、図中においても通常の光学レンズと同様の形態で示す。
<実施例1>

【0031】
(位相差走査透過電子顕微鏡の全体構成)
図1は、本発明の一実施例(実施例1)になる位相差走査透過電子顕微鏡の全体構成を示しており、即ち、装置は、電子銃31、照射光学系32、スキャンコイル33、収束光学系34、対物レンズ35、そして、検出手段として、電子線の強度を検出する明視野検出器36を備えている。

【0032】
そして、本実施例では、上述した主プローブ波と参照波とを生成するためのビームスプリッタとして、図2に示すような、所謂、フレネル・ゾーン・プレート40を採用している。なお、フレネル・ゾーン・プレート40は、その面からの散乱により、試料に照射される電子線を波動としてプローブ波と参照波に分波する機能をもっている。より具体的には、フレネル・ゾーン・プレート40の0次の散乱波、即ち、プレートをそのまま通過したビームが主プローブ波となり、1次の散乱波として収束する波の成分が参照波となる。そして、このフレネル・ゾーン・プレート40は、図からも明らかなように、その収束波である参照波の焦点がSTEM焦点面と一致するように配置・調整される。

【0033】
一方、試料50は、STEM像面に配置される。

【0034】
即ち、上述した構成の位相差走査透過電子顕微鏡では、電子銃31から放射された電子ビームは、照射光学系32により平行光となった後、フレネル・ゾーン・プレート40の働きにより、主プローブ波と参照波とも分離される。その後、主プローブ波は、収束光学系34により、試料50の面上で微小な焦点となり、即ち、主プローブビームとなり、他方、参照波は、円形に広がった平面波として、試料50上に投影・照射され、双方ともに試料50を透過する。なお、これら双方のビームは、共にビーム形状を保ったまま、それぞれ、スキャンコイル33によって偏向され、試料50上を走査する。

【0035】
試料50を透過した双方のビームは、明視野検出器36上で重ね合わされ、その強度が検出され、その後、スキャンコイル33による走査と併せて画像化される。即ち、試料を透過した主ブローブ波と参照波とが、波として重ね合わされ、その干渉強度を検出する。これにより、試料上の点を透過した主プローブ波と、試料上の広がった領域を透過した参照波との相対位相に応じた強度が検出される。

【0036】
<フレネル・ゾーン・プレート(FZP)>
フレネル・ゾーン・プレート40は、上記の図2からも明らかなように、球面波と平面波から作るホログラムであり、それにより得られる球面波と平面波の強度比や位相差は、自在に設計することが可能である。なお、この図2に示すのは、所謂、sin型FZPであり、入射した平面波を、平面波と2つの球面波の合成波に変換し、かつ、平面波と球面波の相対位相差を90度にする機能をもっている、その他、平面波と球面波の相対位相差が0度となるcos型FZPなどが知られている。

【0037】
また、フレネル・ゾーン・プレート40は、半導体製造の微細加工技術のパターン形成により製造することが可能である。例えば、窒化ケイ素(SiN)、アモルファス炭素もしくはグラフェンを素材とする円盤状の薄膜41の表面上に、電子を吸収するタングステン、白金、金、銀、銅、鉛、鉄、亜鉛、錫、モリブデン、チタン、ニッケル、若しくは、アルミニウムを含む純金属、若しくは、それらの合金を素材として、同心円状に、少なくとも1本以上の輪帯42を蒸着することにより形成することができる。

【0038】
また、フレネル・ゾーン・プレート40は、図3に示す様に、支持膜となる薄膜41を用いず、電子を吸収するタングステン、白金、金、銀、銅、鉛、鉄、亜鉛、錫、モリブデン、チタン、ニッケル、若しくは、アルミニウムを含む純金属、若しくは、それらの合金を素材とする薄膜を、輪帯を支持する架橋部を伴った、同心円状の輪帯42'に加工して形成することもできる。

【0039】
図2および図3には、電子線を吸収する輪帯より構成される、所謂、吸収型(振幅型)フレネル・ゾーン・プレートの例を示したが、更には、図4(A)に示すように、位相シフトの輪帯43より構成される位相型フレネル・ゾーン・プレートや、図4(B)に示すように、位相シフトの輪帯43と吸収の輪帯42を組み合わせた、位相・振幅複合型のフレネル・ゾーン・プレートを用いてもよい。また、位相あるいは吸収量が連続的に変化するレリーフ型のフレネル・ゾーン・プレートを用いてもよい。これらの採用により、より精度が高く副次的な回折波の少ない参照波を生成することができる。

【0040】
特に、ここで生成されるプローブ波の強度と参照波の強度比は、フレネル・ゾーン・プレート40の設計により任意に定められる事が重要である。例えば、主プローブ波の強度と参照波の強度比(R)を1に近い値に定める事により、干渉により生じるコントラストを最大にとる事ができる。或いは、予め複数の強度比(R)の異なるフレネル・ゾーン・プレートを用意しておき、それらの中から好適な強度比(R)のフレネル・ゾーン・プレートを選択して使用することによれば、所望のコントラストで試料の相変化を画像化することが可能となる。

【0041】
なお、現実に作成可能なフレネル・ゾーン・プレートは、電子線を透過し収束する効果だけではなく、電子線を吸収する効果もその副作用として有しているが、この吸収される電子線は、上述した走査透過電子顕微鏡の構造上、試料物体に照射される前に吸収されるため、試料の電子線の被曝量が増大する怖れはない。

【0042】
吸収型(振幅型)フレネル・ゾーン・プレートを用いる場合、入射波は、そのまま透過する波、収束波と発散波の少なくとも3つの波に分波されるが、収束波もしくは発散波のうちどちらか一方は不要なビームとなる。この不要なビームは、不要ビームの焦点位置にピンストップ型の絞りの挿入により除去することができる。後にも述べるピンストップ型の絞りは、窒化ケイ素、アモルファス炭素もしくはグラフェンを素材とする円盤状の薄膜の表面上に、電子を吸収するタングステン、白金、金、銀、銅、鉛、鉄、亜鉛、錫、モリブデン、チタン、ニッケル、若しくは、アルミニウムを含む純金属、若しくは、それらの合金を素材とする円形状のパターンを形成もしくは球形状の粒子を載せる事により構成できる。位相・振幅複合型のフレネル・ゾーン・プレートを用いれば、入射波は、透過波と、収束波もしくは発散波の選択可能などちらか一方の2つの波に分波されるため、ピンストップ型の絞りの挿入は不要となる。
<実施例2>

【0043】
図5は、本発明の他の実施例(実施例2)になる位相差走査透過電子顕微鏡の全体構成を示している。なお、上記の実施例1では、電子銃31から放射された電子ビーム全体をフレネル・ゾーン・プレート40に照射する、所謂、全面FZPについて示したが、この実施例2では、電子ビームの一部をフレネル・ゾーン・プレート40に照射する、所謂、部分FZPを示す。なお、この場合、得られる参照波の照射領域は、最外輪帯(図2を参照)の溝幅の逆数によって決まることから、参照波の照射領域を、適宜、設定することが可能となる。

【0044】
即ち、上記の実施例2になる位相差走査透過電子顕微鏡によれば、電子銃31から放射された電子ビームの一部を主プローブ波と参照波に変換することにより、それらの間の強度比(R)をより自在に設定することを可能とすることができる。
<実施例3>

【0045】
図6は、本発明の更に他の実施例(実施例3)になる位相差走査透過電子顕微鏡の全体構成を示している。なお、上記の実施例1では、フレネル・ゾーン・プレート40は、主プローブ波となる透過するビームと、参照波となる収束するビームとに分波する機能を備えていたが、これに対し、本実施例3では、主プローブ波となる透過するビーム(図の実線)と、参照波となる発散するビーム(図の破線)とに分波する機能を備えている。

【0046】
フレネル・ゾーン・プレート40の上方の電子銃31からフレネル・ゾーン・プレート40には、電子ビームが照射され、そのまま透過し収束してゆくビーム(図の実線)が主プローブ波となり、他方、発散する方向に分波されたビーム(図の実線)が平行ビームとして出力されて参照波となる。
<実施例4>

【0047】
図7は、本発明の更に他の実施例(実施例4)になる位相差走査透過電子顕微鏡の全体構成を示している。なお、本実施例においても、上記の実施例3と同様に、フレネル・ゾーン・プレート40は、主プローブ波となる透過するビーム(図の実線)と、参照波となる発散するビーム(図の破線)とに分波する機能を備えている。

【0048】
フレネル・ゾーン・プレート40の上方の照射光学系レンズ32により、フレネル・ゾーン・プレート40には収束してゆく電子ビームが照射され、そのまま透過し収束してゆくビーム(図の実線)が主プローブ波となり、他方、発散する方向に分波されたビーム(図の破線)が参照波となる。フレネル・ゾーン・プレート40で発散される方向に分波された参照波も収束ビームとなるが、その焦点位置は収束光学系34のレンズが作る焦点位置よりもより下側に来る。この下側に移動した参照波の焦点を、STEM焦点面の焦点位置に合わせる事により、試料には、収束する主プローブ波と平面波の参照波が照射され、スキャン機能により位相差STEM像が得られる。
<実施例5>

【0049】
図8は、本発明の更に他の実施例(実施例5)になる位相差走査透過電子顕微鏡の全体構成を示している。このように、実施例3の図6に示す構成に、振幅型ゾーンプレートを用いた場合、図8に示すように、実線の透過ビームと破線の発散する参照ビームに加え、点線で示す収束する不要なビームが生じてしまう欠点を持っている。この不要なビームは、不要なビームの収束点に、収束点のビームだけを透過しないピンストップ型の絞りを挿入することにより除去することができる。

【0050】
即ち、不要ビームの焦点位置にピンストップ型の絞りを正確に挿入することにより、不要ビームをほぼ完全に除去されるにも関わらず、透過ビームおよび参照ビームにはほとんど影響を与えず、理想的なプローブビームが生成される。
<実施例6>

【0051】
更に、図9は、本発明の更に他の実施例(実施例6)になる位相差走査透過電子顕微鏡の全体構成を示している。このように、実施例4の図7に示す構成に、振幅型ゾーンプレートを用いた場合、図9に示すように、実線の透過ビームと破線の発散する参照ビームに加え、点線で示す収束する不要なビームが生じてしまう欠点を持っている。

【0052】
しかしながら、この不要なビームは、不要なビームの収束点にピンストップ型の絞りを挿入することにより、上記図8に示した実施例5と同様にして、除去することができる。

【0053】
これらの実施例3~6によっても、やはり、上記の実施例1や2に示した位相差走査透過電子顕微鏡と同様の効果が得られることは、当業者にとっては明らかであろう。

【0054】
なお、以上に述べた実施例の全てにおいては、フレネル・ゾーン・プレートを取り除く事により、いつでも従来型のSTEMとして用いる事が出来る。また、従来型のSTEMの照射系の絞りポート等にフレネル・ゾーン・プレートを挿入することによって、従来型のSTEMを位相差STEMに容易に改造することも可能である。

【0055】
以上に詳細に述べたように、上述した実施例では、STEM焦点面より上流側において、STEM焦点面に挿入される従来のゼルニケ位相板に替えて、一例として、フレネル・ゾーン・プレートを、フレネル・ゾーン・プレートの直接の焦点が、もしくは、レンズ系により転送あるいは移動した先の焦点が、STEM焦点面に来る様な位置において挿入することにより、上述した問題を解決している。即ち、本発明は:

【0056】
(1)走査透過電子顕微鏡であって、電子銃と、前記電子線源と収束光学系の間に配置され、前記電子線源から放射された電子線が通過するゼルニケ位相板の代替機能として、フレネル・ゾーン・プレートを利用し、前記対物レンズの背後に配置された試料物体を透過した電子ビームの強度を検出する手段とを備える。

【0057】
(2)上記(1)の構成において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、前記電子線を2つ以上のビームに分波させ、その一方のビームは入射ビーム波面を保ったままであり、当該一方のビームは対物レンズにより試料上に焦点を結んでおり、他方のビームは収束ビームとなり、その収束点は対物レンズの前方焦点面に配置され、そして、試料面上では、対物レンズによって広がったビームとなる。

【0058】
(3)上記(1)の構成において、前記フレネル・ゾーン・プレートは、波面を保ったまま通過する電子波と、収束する電子波との相対的な位相の差が、ゼロ(0)、又は、正もしくは負の値であり、90度を含む有限の値となる。

【0059】
即ち、本発明では、位相差走査透過電子顕微鏡法に用いる主プローブビームと参照ビームの対を効率的に生成することにより、より高い位相コントラスト、より少ない試料の電子線被曝、より長い位相板の寿命を実現する為の技術が提供される。

【0060】
なお、上記の実施例では、通過する電子線を所望の強度比で主プローブ波と参照波に変換する位相板として、フレネル・ゾーン・プレートを使用したものについて詳述したが、しかしながら、本発明はこれにのみ限定されるものではなく、同様の機能を発揮するものであれば、他の物であっても構わないことは、当業者であれば明らかであろう。

【0061】
以上、本発明の実施例になる位相差走査透過電子顕微鏡装置について種々述べた。しかしながら、本発明は、上述した実施例のみに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するためにシステム全体を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、薄い試料のナノメートルの構造を観察する等において広く用いられる透過電子顕微鏡装置、特に、電子線を走査し、かつ、位相板を用いながら試料を観察する位相差式の走査透過電子顕微鏡装置において利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
31…電子銃、32…照射光学系、33…スキャンコイル、34…収束光学系、35…対物レンズ、36…明視野検出器、40…フレネル・ゾーン・プレート、41…円盤状の薄膜、42…輪帯、42'…自立型の輪帯、43…輪帯状の溝、50…試料。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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