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明細書 :エマルションの評価方法及びその装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-030146 (P2020-030146A)
公開日 令和2年2月27日(2020.2.27)
発明の名称または考案の名称 エマルションの評価方法及びその装置
国際特許分類 G01N  11/00        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
G01N  25/06        (2006.01)
G01N  30/72        (2006.01)
FI G01N 11/00 C
G01N 27/62 B
G01N 25/06 Z
G01N 30/72 Z
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2018-156690 (P2018-156690)
出願日 平成30年8月23日(2018.8.23)
発明者または考案者 【氏名】内村 智博
【氏名】岩田 匡史
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100110814、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 敏郎
審査請求 未請求
テーマコード 2G040
2G041
Fターム 2G040CA02
2G040CA03
2G041AA10
2G041CA01
2G041DA03
2G041EA03
2G041GA06
要約 【課題】エマルションの転相前後における状態変化を正確かつ客観的に評価できるエマルションの評価方法を提供する。
【解決手段】転相前後のエマルションの状態変化を評価する評価方法において、エマルション状態の試液を状態変化させることが可能な状態変化手段5,6と、この状態変化手段5,6を通過した前記試液をイオン化して分析する質量分析手段3とを準備し、前記試液を状態変化手段5,6に通し、状態変化させた前記試液を質量分析手段3に供給し、質量分析手段3からの出力結果に出現するピークからエマルションの状態を評価するエマルションの評価方法とした。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
転相前後のエマルションの状態の変化を評価する評価方法において、
試液のエマルション状態を変化させることが可能な状態変化手段と、この状態変化手段を通過した前記試液をイオン化して分析する質量分析手段とを準備し、
前記試液を、前記状態変化手段を通過させて前記質量分析手段に供給し、
前記質量分析手段からの出力結果に出現するピークからエマルションの状態の変化を評価すること、
を特徴とするエマルションの評価方法。
【請求項2】
前記状態変化手段として前記試液の温度を調整する温度調整手段を準備し、前記温度調整手段によって前記試液の温度を調整しつつ、前記試液を前記質量分析手段に供給して評価を行うことを特徴とする請求項1に記載のエマルションの評価方法。
【請求項3】
前記温度調整手段による温度調整によって前記試液を転相温度以上に加熱することを特徴とする請求項2に記載のエマルションの評価方法。
【請求項4】
成分の異なる複数の分散相が前記エマルションに含まれている場合に、前記温度調整手段による温度調整によって、前記試液をそれぞれの前記分散相に応じた転相温度以上まで加熱することを特徴とする請求項3に記載のエマルションの評価方法。
【請求項5】
前記温度調整手段によって前記試液を転相温度以上まで加熱した後、前記転相温度より低い温度まで冷却して前記質量分析手段に前記試液を供給することを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載のエマルションの評価方法。
【請求項6】
転相前後のエマルションの状態変化を評価するための評価装置において、
エマルション状態の試液を状態変化させることが可能な状態変化手段と、
この状態変化手段を通した前記試液をイオン化して分析する質量分析手段と、
を有することを特徴とするエマルションの評価装置。
【請求項7】
前記状態変化手段が、前記試液の温度を調整することで、前記試液を転相温度以上まで加熱することが可能な温度調整手段であることを特徴とする請求項6に記載のエマルションの評価装置。
【請求項8】
前記温度調整手段は、前記エマルションに含まれる成分の異なる複数の分散相のそれぞれを転相温度以上に加熱できるものであることを特徴とする請求項7に記載のエマルションの評価方法。
【請求項9】
前記温度調整手段は、転相温度以上まで加熱した前記試液を前記転相温度より低い温度まで冷却する冷却部をさらに有することを特徴とする請求項7又は8に記載のエマルションの評価装置。






発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルションの評価方法及びその装置に関し、特に、転相前後におけるエマルションの状態の変化を評価する方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エマルションとは、水と油のように互いに溶解しない液相の一方が他の一方に微細な液滴として分散したものであり、マヨネーズなどの食品、化粧品、塗料、インクなど広範な分野で利用されている。このようなエマルションには、水中に油滴を分散させたO/W型と、油中に水滴を分散させたW/O型とがあり、油滴又は水滴として分散している相を分散相、その外側の媒質を連続相と称する。
エマルションの外観や安定性は分散相の液滴の粒子径に大きく依存する。一般に、粒子径が1~10μmのエマルションは純白で光沢のある外観であるが、粒子径が小さくなるにしたがって青みを帯びるとともに半透明、さらには透明へと外観が変化する。エマルションの調製法には転相乳化法や無溶剤型乳化法などが知られているが、転相乳化法は生産コストや設備の簡易性の点に優れ、乳化粒子の微細化・均一化が可能であるという利点がある。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開平11-281558号公報
【特許文献2】特開2012-229962号公報
【特許文献3】特開昭62-075331号公報
【特許文献4】特開平11-316181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エマルションの状態は、上記した外観の目視観察の他、顕微鏡による観察、電気伝導度による測定などにより行われているのが現状である。しかし、電気伝導度による測定法では、転相の有無は評価できるものの、分散相の滴径の大きさや液滴の分散状態などを評価することは困難であるという問題がある。また、顕微鏡観察を含む目視観察法では、エマルションの転相や滴径の大きさ、液滴の分散状態などは評価できるものの、人の目視によるものであるため客観的な評価は難しく、かつ、転相温度付近の高温下での評価は困難であるという問題がある。
【0005】
特許文献1~4には、エマルションの粘弾性を粘弾性測定装置などで測定することにより、エマルションの状態や転相過程などを客観的に評価する技術が提案されている。
しかし、これら文献に記載の技術によっても、転相前後における分散相の滴径の変化を正確に評価したり、液滴の分散状態の変化を正確に評価したりすることは困難であるという問題が未だ残存する。
さらに、上記した従来の技術では、分散相の成分分析が行えないため、分散相の成分を特定して転相前後における各分散相の滴径の変化や分散状態の変化を評価することは困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来の技術の問題点を鑑みた新しいエマルションの評価方法及びその装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するにあたり本発明の発明者は、図4に示すような装置を準備してエマルションの質量分析を行った。図4に示すように、この装置では、エマルションの試液が貯留された試液容器1と質量分析器3とをキャピラリカラム等の試液供給管2で接続している。質量分析器3としては、レーザーイオン化飛行時間型質量分析器(LI-TOFMS)を用いた。また、質量分析器3の真空チャンバ3a内に導入された試液をイオン化させるためのイオン化源4としては、イオン化レーザー光を照射するレーザー照射装置を用いた。
質量分析器3からの検出信号はデータ処理部8に送信され、このデータ処理部8で処理された結果が、例えば後述の図5のグラフに示すような検出強度と測定時間との関係において、検出信号のピークの高さや出現頻度(ピークの間隔)などとして示されることで、転相前後におけるエマルションの状態変化の評価に供され、また例えば後述の図7のグラフに示すような検出強度とm/z(mは質量、zは電荷)値との関係において、検出信号のピークの位置として示されることで、分散相の成分の評価に供される。
【0008】
図4の装置を用いて、まず、白濁したエマルションを準備して試液容器1に投入し、質量分析器3に供給した。外観が白濁であることから、このエマルションは油滴が十分に微細化されていない状態であると評価できる。
【0009】
図5(a)は、白濁したエマルションを質量分析器3に供給することで得られた分析結果を示すグラフで、(b)は(a)の実測値を模式的に表したものである。このグラフの縦軸は分散相の分子の局所的な濃度に対応する検出強度を表し、横軸は測定時間を表している。
図5(a)(b)に示すように、スパイク状の大きなピークが出現する。このスパイク状のピークの高さは分散相の分子の局所的な濃度、例えば油滴の大きさに対応し、高さのばらつきは油滴の大きさにばらつきがある、すなわちエマルションが多分散であることを示していると推定できる。このグラフから、このエマルションの油滴が十分に微細化されておらず、かつ多分散の状態であると評価できる。またピークの出現間隔は、エマルションにおける油滴の数に対応していると推定できる。
【0010】
次いで透明なエマルションを準備して試液容器1に投入し、質量分析器3に供給した。外観が透明であることから、このエマルションは油滴が十分に微細化した状態であると評価できる。
【0011】
図5(c)は、透明なエマルションを質量分析器3に供給してその出力結果を示すグラフで、(d)は(c)の実測値を模式的に表したものである。
図5(c)に示すように、油成分を示す検出強度が一定である。すなわち、図5(c)(d)の分析結果は、試液であるエマルションは油滴が十分に微細化した状態、又は油滴が消滅した状態をピークの出現の有無で評価できることを示している。
【0012】
一方、図6に示すように、連続相を水相(O/W)から油相(W/O)に転相させると、図6(a)(b)に示すように、質量分析器3からの出力結果のグラフにおいてスパイク状のピークが消滅して油成分を示す検出強度がフラット状態になった。なお図6(a)は(b)の実測値を模式的に表したものである。これは、油滴が非常に小さくなった、あるいは消滅したことを意味している。以上のことから、ピークの有無及び/又は検出強度を測定することで転相前後のエマルション状態の変化を評価することができる。
このような実験結果から本発明の発明者は本発明に想到した。
【0013】
具体的に、請求項1に記載の発明は、転相前後のエマルションの状態の変化を評価する評価方法において、試液のエマルション状態を変化させることが可能な状態変化手段と、この状態変化手段を通過した前記試液をイオン化して分析する質量分析手段とを準備し、前記試液を、前記状態変化手段を通過させて前記質量分析手段に供給し、前記質量分析手段からの出力結果に出現するピークからエマルションの状態の変化を評価する方法としてある。
本発明の方法によれば、エマルションの状態変化手段を有しているので、前記ピークから転相前後における分散相の滴径の変化をより正確に評価できるようになるほか、ピークの有無や出現頻度及び検出強度を比較することで液滴の分散状態の変化を定量的に評価することが可能になる。
【0014】
また、質量分析手段においては、特定成分の検出強度を測定できるので、m/z値と検出強度との関係からエマルション内の分散相の成分分析が可能である。そして、成分の異なる複数の成分がエマルション内に含まれている場合にも、それぞれの成分の分析が可能である。図7は複数の分散相(図中、X,Yで示す)を有するエマルションを連続的に測定した結果の模式図で、縦軸を検出強度、横軸を測定時間及びm/z値とした場合の検出結果の一例を示す図であるが、図7に示すように、質量分析手段では検出強度とm/z値との関係から、分散相X,Yのそれぞれ成分を特定して評価できるという利点がある。また、1つの液滴の中に成分の異なる複数の分散相が混在するエマルションについても、それぞれの検出強度から局所的な濃度を求めることができる。
なお、「成分の異なる複数の成分がエマルション内に含まれている場合」とは、「油相Xからなる油滴、油相Yからなる油滴、すなわち成分の異なる油滴が分散している場合」、「複数の成分X,Yを含んでいる油滴が分散している場合」、または「それらの場合が複合している場合」を意味している。
【0015】
前記状態変化手段としては、転相させたり分散相の滴径や液滴の分散状態を変化させたりするなど試液の状態を変化させることができるものであればよく、界面活性剤などの乳化剤を添加するものであってもよいし、請求項2に記載するように、前記試液の温度を調整できる温度調整手段であってもよい。この温度調整手段は請求項3に記載するように、前記試液を転相温度以上まで加熱できるものが好ましく、当該転相温度以上の温度を維持できる機能を備えたものであるのが好ましい。また、質量分析手段としては、公知の種々の質量分析手段を用いることができるが、生成したイオンを全て検出できるという点から飛行時間型質量分析器(TOFMS)が好ましく、中でもエマルションを直接導入しイオン化・検出できるという点からレーザーイオン化飛行時間型質量分析器(LI-TOFMS)が好ましい。
【0016】
本発明では、エマルションの中に成分の異なる複数の分散相が含まれている場合も評価が可能である。また、質量分析手段は、成分の異なる複数の分散相が含まれていても、検出強度とm/z値との関係から、それぞれの分散相の成分を特定できるという利点がある。請求項4に記載するように、成分の異なる複数の分散相が前記エマルションに含まれている場合には、前記温度調整手段による温度調整によって、前記試液をそれぞれの前記分散相に応じた転相温度以上まで加熱するようにするとよい。このようにすることで、複数成分の分散相を含むエマルションの状態変化も評価することが可能になる。
また、請求項5に示すように、前記温度調整手段によって前記試液を転相温度以上まで加熱した後、前記転相温度より低い温度まで冷却して前記質量分析手段に前記試液を供給するようにしてもよい。このようにすることで転相前後だけでなく、転相後に冷却したときのエマルションの状態変化を評価することが可能になる。すなわち、転相履歴とエマルション状態との関係を評価できる。
【0017】
上記の方法は、請求項6~9に記載の評価装置を利用することで行うことができる。
請求項6に記載の評価装置は、転相前後のエマルションの状態を評価するための評価装置において、エマルション状態の試液を状態変化させることが可能な状態変化手段と、この状態変化手段を通した前記試液をイオン化して分析する質量分析手段とを有する構成としてある。
本発明の装置によれば、前記ピークから転相前後における分散相の滴径の変化や、転相前後におけるピークの有無や出現頻度から液滴の分散状態の変化など、転相前後におけるエマルションの状態変化を客観的かつ正確に評価することが可能になる。
前記状態変化手段としては、請求項7に記載するように、前記試液の温度を調整することで、前記試液を転相温度以上まで加熱することが可能な温度調整手段とすることができる。
【0018】
また、請求項8に記載するように、本発明では、エマルションの中に成分の異なる複数の分散相が含まれている場合も評価が可能で、このようなエマルションに対して、前記温度調整手段は、前記エマルションに含まれる成分の異なる複数の分散相のそれぞれを転相できる温度に加熱できるものとするとよい。
請求項9に記載するように、前記温度調整手段は、転相温度以上まで加熱した前記試液を前記転相温度より低い温度まで冷却する冷却部をさらに有するものとしてもよい。このようにすることで転相前後だけでなく、転相後に冷却したときのエマルションの状態を評価することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1(a)は本発明の評価装置の第一の実施形態にかかり、その構成を説明する概略図である。
図1(a)に示すように、この実施形態の評価装置は、エマルションの試液を貯留する試液容器1と、真空チャンバ3aを備える質量分析手段としてのレーザーイオン化飛行時間型質量分析器(LI-TOFMS)3と、質量分析器3からの検出信号を受信してデータ処理を行うデータ処理部8と、試液容器1の試液(エマルション)をLI-TOFMS3に供給するためのキャピラリカラムなどの試液供給管2と、真空チャンバ3a内に導入された試液をイオン化するためのイオン化レーザー照射装置などのイオン化源4と、試液供給管2内の試液を加熱する加熱部5と、この加熱部5による試液の温度調整を行う温度制御部6とを備えている。
なお、試液供給管2の内径は5μm~320μm程度、加熱部5の長さは5cm程度が目安である。また、真空チャンバ3aに挿入される試液供給管2の先端部分は、本発明の発明者の発明による特許第6103764号の溶液導入管のように、二重管構造としてもよい。このような二重管構造は、エマルションのように揮発性が低く凝固しやすい試液の分析に有利である。
また、質量分析手段としては他のものを用いることも可能であるが、LI-TOFMS3は複数成分の挙動を同時に評価できるという点で有利である。
【0020】
上記構成の評価装置では、試液供給管2を介して試液を連続的に真空チャンバ3aに供給する。試液は、真空チャンバ3aに供給される前に、試液供給管2内で加熱部5により加熱することができる。そして、真空チャンバ3a内に導入された試液に、イオン化源4からのレーザー光を照射することで試液をイオン化させ、分析を行う。質量分析器3からの検出信号を受信しデータ処理部8では、例えば検出強度のピークの高さや分布を検出強度と測定時間との関係として出力したり、ピークの位置を検出強度とm/z値との関係として出力したりすることで、転相前後におけるエマルションの状態変化の評価や、分散相の成分の評価を行うことが可能になる。
【0021】
図1(b)は、(a)の評価装置を用いた試液の転相前後の状態を示すグラフである。このグラフにおいて縦軸はLI-TOFMS3から出力された検出強度、横軸は測定時間である。
左のグラフは、加熱部5によって試液供給管2内の試液の加熱を行う前の状態を測定したもので、O/Wエマルションの状態を示している。このグラフでは、油成分を示すフラットな線の中に、油滴に対応して複数のピークが出現している。
この状態から、温度制御部6の制御の下で加熱部5を動作させて試液の温度を上昇させていくと、ある温度を超えたときに前記ピークが消滅し、右のグラフの状態となる。この状態が転相した状態を示している。
なお、高温でも転相しない試液の場合は、加熱部5によって試液を高温にしてもピークは消滅せず、左のグラフの状態が維持される。
なお、LI-TOFMS3等の質量分析手段においては、検出強度とm/z値との関係を求めることで、分散相の成分を特定できるという利点がある。そのため、エマルションに含まれる油相の成分が不明な場合には、検出強度とm/z値との関係から当該油相の成分を知ることができる。
【0022】
図2(a)は本発明の評価装置の第二の実施形態にかかり、その構成を説明する概略図である。この実施形態において先の実施形態と同一部位、同一部材には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
この実施形態の評価装置では、試液供給管2の途中部位に、先の実施形態と同様の加熱部5を設け、この加熱部5の下流側であって真空チャンバ3aの手前に冷却部7を設けている。冷却部7の温度制御も、加熱部5と同様に温度制御部6によって行われる。この実施形態の評価装置では、加熱部5で転相温度まで試液を加熱した後に、冷却部7で転相温度よりも低い温度まで試液を冷却することができる。
【0023】
図2(b)は、(a)の評価装置を用いた試液の転相前後の状態を示すグラフである。このグラフにおいて縦軸はLI-TOFMS3から出力された検出強度、横軸は時間である。
左端のグラフは加熱部5及び冷却部7による加熱・冷却を行う前の状態を測定したもので、O/Wエマルションの状態を示している。また、中央のグラフは加熱部5によって加熱した状態を測定したもので、転相した状態を示すものである。
中央のグラフの状態(転相状態)から、温度制御部6の制御の下で冷却部7を動作させて試液の温度を転相温度より低い温度に冷却した状態を測定すると、一律の高さのピークが再出現した右端のグラフの状態となる。例えば図2に示す例では、転相前より転相・冷却後のピークの高さのばらつきが小さくなっていることから、転相前と転相・冷却後とで油滴の滴径が変化し、均一化したと評価することができる。
【0024】
図3は、エマルションが成分の異なる複数(以下の説明では第一の油相Xと第二の油相Yの二成分)の油相を含んでいる場合において、第二の実施形態の評価装置を用いた評価の手順を示すグラフである。
図3(a)は、加熱部5による加熱と冷却部7による冷却のサイクルを示すグラフで、温度Iで第一の油相Xが転相し、温度IIで第二の油相Yが転相したことを示している。
(b)に示すように、加熱前の試液では第一の油相XのピークXと第二の油相のピークYとがそれぞれ出現している。
【0025】
加熱温度が温度Iに達すると、(c)に示すように第一の油相Xのピークが消滅し、さらに加熱して温度IIに達すると、(d)に示すように第二の油相Yのピークも消滅する。この後、冷却部7を動作させて試液を冷却させると、温度IIを下回ったところで、第二の油相Yについて一律の高さのピークが再出現した(e)のグラフの状態となる。さらに冷却を行い、温度Iを下回ったところで、第一の油相Xについて一律の高さのピークが再出現した(f)のグラフの状態となる。
このように、本発明によれば、エマルション内に複数成分の油相が含まれていても、第一及び第二の実施形態と同様に、エマルションの転相挙動やその温度、温度履歴を直接的に評価することが可能である。
なお、この実施形態においても、LI-TOFMS3等の質量分析手段からの検出強度とm/z値との関係から、エマルションに含まれる複数成分の油相のそれぞれの成分を知ることができる。
さらに上記では、油相Xと油相Yが分離してエマルション内に分散している場合を説明しているが、油相Xと油相Yとが混合した状態の液滴がエマルション内に分散している場合も同様に測定することができる。その結果から、転相温度が、それぞれが分離して分散している場合のそれぞれの転相温度とは異なるか否かを評価することができる。本発明の評価方法、評価装置によれば、油相X,Yの混合の有無に関わらず、いずれの場合においても転相温度や転相状態を評価することが可能である。
【0026】
このように、本発明によれば、エマルションの転相前後の状態の変化や転相温度を直接的に評価することが可能になる。また、試液供給管2内を流れる試液の温度を制御することにより、エマルションの状態変化の温度履歴による影響を直接的に評価することが可能になる。さらに、本発明は、O/W型のエマルションだけでなく、同様の現象が起こりうるエマルション、例えばW/O/W型やO/W/O型などのエマルションの状態変化の評価にも適用が可能である。本発明により可能になる評価の例を以下に列挙する。
(i) ピークの高さから、エマルションの液滴の大きさ又は成分分析結果と組み合わせることで液滴成分の濃度が評価できる。
(ii) ピークの出現頻度から、液滴の個数、流れの安定性を評価できる。
(iii) ピークの高さの推移パターンから、液滴の存在の安定性を評価できる。
(iv) グラフ上一本に見えるピークの面積(ピークの幅×高さ)から、液滴の凝集状態を評価できる。
(v) 検出信号強度のベースラインから、油相成分の分配比を評価できる。
(vi) 上記(i)~(v)の評価を含め、転相の前後の評価結果を比較することで、転相前後のエマルション状態の変化を評価できる。
(vii) 同様に、転相前後の評価結果を比較することで、転相前後のエマルションの状態を知ることができる。
(viii) 同様に、転送前後の変化状況のデータを得ることにより、エマルション自身の特性を評価することができる。
【0027】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の説明に限定されるものではない。
例えば、上記の説明では、エマルションの中の油相成分を測定した場合について説明したが、水相成分を測定した場合も同様に状態変化を評価することが可能である。
また、上記の説明では、試液であるエマルションに含まれる分散相は液状のものを前提として説明しているが、一定の温度で溶解するものであれば、分散相は固形又は半固形のものであってもよい。
さらに、加熱部5と冷却部7とは、説明の便宜上、別体のものとして示しているが、加熱部5と冷却部7は一体のものであってもよく、また、加熱部5又は冷却部7は複数設けてもよい。
【0028】
また、上記の説明では、試液容器1から試液(エマルション)をLI-TOFMS3に供給するようにしているが、化粧品や食品、塗料、インク等の製造工程において、エマルション状態の材料が貯留されるタンクや、前記材料が流れる配管などから前記試液を抽出するようにしてもよい。
さらに、上記の説明では、状態変化手段として加熱部5、冷却部7及び温度制御部6を有する温度調整手段を例に挙げて説明したが、転相させたり分散相の滴径や分散の状態を変化させたりするなど、試液の状態を変化させることができるものであれば、試液供給管2内の試液に界面活性剤を投入する手段など、他の状態変化手段であってもよいし、異なる複数の状態変化手段を複合させたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の方法及び装置は、試液であるエマルションの転相状態をリアルタイムで直接分析するのに好適である。例えば、化粧品や食品、塗料、インク等の製造工程において、定期的又は適宜にエマルション状態の材料を抽出し、本発明によって評価を行うことで、前記材料を安定化させるとともに化粧品や食品、塗料、インク等の商品の品質を安定化させるなど、品質管理にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は本発明の評価装置の第一の実施形態にかかり、その構成を説明する概略図、(b)は(a)の評価装置からの出力結果を示すグラフである。
【図2】(a)は本発明の評価装置の第二の実施形態にかかり、その構成を説明する概略図、(b)は(a)の評価装置からの出力結果を示すグラフである。
【図3】エマルションが成分の異なる複数(以下の説明では二成分)の油相を含んでいる場合において、第二の実施形態の評価装置を用いた評価の手順を示すものである。
【図4】試液(エマルション)を質量分析するための装置構成を説明する図である。
【図5】図5(a)は、白濁したエマルションを質量分析器3に供給することで得られた分析結果を示すグラフで、(b)は(a)の実測値を模式的に表したもの、図5(c)は、透明なエマルションを質量分析器3に供給することで得られた分析結果を示すグラフで、(d)は(c)の実測値を模式的に表したものである。
【図6】連続相が水相(W/O)から油相(O/W)に転相したときの状態を説明するグラフで、(a)は(b)の実測値を模式的に表したものである。
【図7】複数の分散相(X,Y)を有するエマルションを連続的に測定した結果の模式図で、縦軸を検出強度、横軸を測定時間及びm/z値とした場合の検出結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 試液容器
2 試液供給管
3 質量分析器
3a 真空チャンバ
4 イオン化源
5 加熱部
6 温度制御部
7 冷却部
8 データ処理部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6