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明細書 :位置推定システム及び方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-139930 (P2020-139930A)
公開日 令和2年9月3日(2020.9.3)
発明の名称または考案の名称 位置推定システム及び方法
国際特許分類 G01S   5/02        (2010.01)
FI G01S 5/02 Z
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2019-038028 (P2019-038028)
出願日 平成31年3月1日(2019.3.1)
発明者または考案者 【氏名】小野 文枝
【氏名】児島 史秀
【氏名】三浦 龍
【氏名】松田 崇弘
出願人 【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100120868、【弁理士】、【氏名又は名称】安彦 元
審査請求 未請求
テーマコード 5J062
Fターム 5J062AA07
5J062AA09
5J062BB05
5J062CC18
5J062DD23
5J062DD25
5J062EE01
要約 【課題】領域外に固定的に配置する相当数の無線端末を準備することなく、また事前に障害物の配置を推定していない未知の領域において、人間の位置を即座に推定する。
【解決手段】移動無線端末2間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(1)を測定し、移動無線端末2と対象体4との間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(2)を測定し、移動無線端末2間の位置関係に基づく重み行列W(1)を取得し、対象体4と移動無線端末2間の位置関係に基づく重み行列W(2)を取得し、測定した観測ベクトルz(1)と、取得した重み行列W(1)とに基づいて、領域内を分割した小領域毎に信号減衰率が推定された減衰マップfを求め、測定した観測ベクトルz(2)と、取得した重み行列W(2)と減衰マップfとに基づいて、対象体の位置を推定する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
領域外を時系列的に移動する複数の移動無線端末により、上記領域内にある対象体の位置推定を行う移動無線端末による位置推定システムにおいて、
上記移動無線端末間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(1)を測定する第1観測ベクトル測定手段と、
上記移動無線端末と上記対象体との間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(2)を測定する第2観測ベクトル測定手段と、
上記移動無線端末間の位置関係に基づく重み行列W(1)を取得する第1重み行列取得手段と、
上記対象体と上記移動無線端末間の位置関係に基づく重み行列W(2)を取得する第2重み行列取得手段と、
上記第1観測ベクトル測定手段により測定された観測ベクトルz(1)と、上記第1重み行列取得手段により取得された重み行列W(1)とに基づいて、上記領域内を分割した小領域毎に信号減衰率が推定された減衰マップfを求める減衰マップ取得手段と、
上記第2観測ベクトル測定手段により測定された観測ベクトルz(2)と、上記第2重み行列取得手段により取得された重み行列W(2)と、上記減衰マップ取得手段により取得された減衰マップfとに基づいて、上記対象体の位置を推定する位置推定手段とを備えること
を特徴とする位置推定システム。
【請求項2】
上記位置推定手段は、更に上記移動無線端末と上記対象体との間で送受信する無線信号の距離減衰dとに基づいて、上記対象体の位置を推定すること
を特徴とする請求項1記載の位置推定システム。
【請求項3】
上記位置推定手段は、上記観測ベクトルz(2)と、上記重み行列W(2)
上記距離減衰dについて、上記対象体の位置rをそれぞれ関数としたz(2)(r)、W(2 )(r)、d(r)を有する下記式を満たすrに基づいて上記対象体の位置を推定する こと
(2)(r)=W(2)(r)f+d(r)
を特徴とする請求項2記載の位置推定システム。
【請求項4】
上記減衰マップ取得手段は、それぞれ時系列的に取得された上記観測ベクトルzt(1)と、上記重み行列Wt(1)とに基づいて、上記減衰マップFtを時系列的に取得し、
上記位置推定手段は、それぞれ時系列的に取得された上記観測ベクトルzt(2)と、上記重み行列Wt(2)と、上記減衰マップ取得手段により時系列的に取得された上記減衰マップFtとに基づいて、上記対象体の位置を時系列的に順次推定すること
を特徴とする請求項1記載の位置推定システム。
【請求項5】
上記減衰マップ取得手段は、更に観測誤差vtを時系列的に取得し、
下記式に基づいてカルマンフィルタによる逐次推定を行うことで、上記減衰マップFtを求めること
t(1)=Wt(1)t+vt
t+1=Ft
t:時系列的に設定される観測誤差
を特徴とする請求項4記載の位置推定システム。
【請求項6】
領域外を時系列的に移動する複数の移動無線端末により、上記領域内にある対象体の位置推定を行う移動無線端末による位置推定方法において、
上記移動無線端末間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(1)を測定する第1観測ベクトル測定ステップと、
上記移動無線端末と上記対象体との間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(2)を測定する第2観測ベクトル測定ステップと、
上記移動無線端末間の位置関係に基づく重み行列W(1)を取得する第1重み行列取得ステップと、
上記対象体と上記移動無線端末間の位置関係に基づく重み行列W(2)を取得する第2重み行列取得ステップと、
上記第1観測ベクトル測定ステップにおいて測定した観測ベクトルz(1)と、上記第1重み行列取得において取得した重み行列W(1)とに基づいて、上記領域内を分割した小領域毎に信号減衰率が推定された減衰マップfを求める減衰マップ取得ステップと、
上記第2観測ベクトル測定ステップにおいて測定した観測ベクトルz(2)と、上記第2重み行列取得ステップにおいて取得した重み行列W(2)と、上記減衰マップ取得ステップにおいて取得された減衰マップfとに基づいて、上記対象体の位置を推定する位置推定ステップとを有すること
を特徴とする位置推定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
領域外を時系列的に移動する複数の移動無線端末により、上記領域内にある対象体の位置推定を行う位置推定システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火災が発生している建築構造物等に消防員が突入して消火活動や救助活動を行う場合等のように、危険領域内において人間が作業を行わざるを得ないケースがある。かかる場合には、万一のことも想定し、その危険領域内に侵入した人間の正確な位置を把握する必要もある。
【0003】
従来において、危険領域内に侵入した人間が携帯する無線端末からの受信信号強度(RSS)等を測定し、その測定したRSSからその危険領域内を移動する人間の位置をリアルタイムに把握する方法が提案されている。しかしながら、このRSSに基づく位置推定方法では、例えば建築構造物内における壁や什器等により無線端末から発信した電波が遮蔽されてしまうことから、位置推定の精度が低下してしまうという問題点があった。
【0004】
このため、無線トモグラフィを利用することにより、領域内を移動する人間の位置をより高精度に推定する方法が提案されている。この無線トモグラフィとは、領域外に設置された無線端末間の受信電力より、領域内部の各地点における信号電力の減衰量を推定する方法である。無線トモグラフィを利用した位置推定を行うためには、領域外に固定された無線端末を介して、領域内部の信号減衰の空間分布を推定し、更にこの空間分布に基づいて実際の人間の位置を推定することになる。
【0005】
図7は、無線トモグラフィを利用した従来の位置推定システム7を示している(例えば、非特許文献1参照。)。この位置推定システム7では、領域外に固定的に設けられた無線端末71により、領域内における人間の位置を把握するためには、領域内にある壁や什器の影響を除去する必要がある。このため、図7(a)に示すように、先ず計測対象の人間が居ない状態における領域内に対して、領域外の無線端末71から無線信号を照射し、その減衰量から領域内の壁や什器等の障害物72の配置を推定する。次に、実際に位置情報を測定したい人間が、この領域内に侵入した場合には、図7(b)に示すように、領域外の無線端末71から無線信号を照射し、その減衰量を得るところまでは同様であるが、以前に推定した障害物72の配置をこの減衰量から補正することにより、当該障害物72の影響を除去した人間のみの位置情報を高精度に推定することが可能となる。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】J. Wilson, and N. Patwari,“Radio Tomographic Imaging with Wireless Networks,” IEEE Transactions on Mobile Computing, vol. 9, no. 5, pp. 621--632, 2010.
【非特許文献2】B. R. Hamilton, X. Ma, Robert J. Baxley, and Stephen M. Matechik,“Propagation Modeling for Radio Frequency Tomography in Wireless Networks,” IEEE Journal of Selected Topics in Signal Processing, vol. 8, no. 1, pp. 55-65, Feb. 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来技術によれば、位置推定精度を向上させるためには、領域外に固定的に設置する無線端末の数をある程度揃える必要がある。このため、実際に無線トモグラフィによる位置推定を行う領域毎に、相当数の無線端末を予め敷設しておく必要があることから、実用化を考える上では、その敷設労力の増大に伴いコストが増加してしまう問題点があった。
【0008】
また、上述した従来技術によれば、事前に障害物の配置を推定するための減衰量測定を行った上で、人間の位置情報の推定時にこれを補正する必要がある。このため、事前に障害物の配置を推定していない未知の領域において、人間の位置推定を緊急に行う必要がある場合に、これを即座に開始することができなくなるという問題点もあった。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、領域外を時系列的に移動する複数の移動無線端末により、領域内にある対象体の位置推定を無線トモグラフィにより行う上で、領域外に固定的に配置する相当数の無線端末を準備することなく、また事前に障害物の配置を推定していない未知の領域において、人間の位置を即座に推定することが可能な位置推定システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を解決するために、移動無線端末間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(1)を測定し、移動無線端末と対象体との間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(2)を測定し、移動無線端末間の位置関係に基づく重み行列W(1)を取得し、対象体と移動無線端末間の位置関係に基づく重み行列W(2)を取得し、測定した観測ベクトルz(1)と、取得した重み行列W(1)とに基づいて、領域内を分割した小領域毎に信号減衰率が推定された減衰マップfを求め、測定した観測ベクトルz(2)と、取得した重み行列W(2)と減衰マップfとに基づいて、対象体の位置を推定する方法を発明した。
【0011】
第1発明に係る位置推定システムは、領域外を時系列的に移動する複数の移動無線端末により、上記領域内にある対象体の位置推定を行う移動無線端末による位置推定システムにおいて、上記移動無線端末間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(1)を測定する第1観測ベクトル測定手段と、上記移動無線端末と上記対象体との間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(2)を測定する第2観測ベクトル測定手段と、上記移動無線端末間の位置関係に基づく重み行列W(1)を取得する第1重み行列取得手段と、上記対象体と上記移動無線端末間の位置関係に基づく重み行列W(2)を取得する第2重み行列取得手段と、上記第1観測ベクトル測定手段により測定された観測ベクトルz(1)と、上記第1重み行列取得手段により取得された重み行列W(1)とに基づいて、上記領域内を分割した小領域毎に信号減衰率が推定された減衰マップfを求める減衰マップ取得手段と、上記第2観測ベクトル測定手段により測定された観測ベクトルz(2)と、上記第2重み行列取得手段により取得された重み行列W(2)と、上記減衰マップ取得手段により取得された減衰マップfとに基づいて、上記対象体の位置を推定する位置推定手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る位置推定システムは、第1発明において、上記位置推定手段は、更に上記移動無線端末と上記対象体との間で送受信する無線信号の距離減衰dとに基づいて、上記対象体の位置を推定することを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る位置推定システムは、第2発明において、上記位置推定手段は、上記観測ベクトルz(2)と、上記重み行列W(2)、上記距離減衰dについて、上記対象体の位置rをそれぞれ関数としたz(2)(r)、W(2)(r)、d(r)を有する下記式を満たすrに基づいて上記対象体の位置を推定すること
(2)(r)=W(2)(r)f+d(r)
を特徴とする。
【0014】
第4発明に係る位置推定システムは、第1発明において、上記減衰マップ取得手段は、それぞれ時系列的に取得された上記観測ベクトルzt(1)と、上記重み行列Wt(1)とに基づいて、上記減衰マップFtを時系列的に取得し、上記位置推定手段は、それぞれ時系列的に取得された上記観測ベクトルzt(2)と、上記重み行列Wt(2)と、上記減衰マップ取得手段により時系列的に取得された上記減衰マップFtとに基づいて、上記対象体の位置を時系列的に順次推定することを特徴とする。
【0015】
第5発明に係る位置推定システムは、第4発明において、上記減衰マップ取得手段は、下記式に基づいてカルマンフィルタによる逐次推定を行うことで、上記減衰マップFtを求めること
t(1)=Wt(1)t+vt
t+1=Ft
t:時系列的に設定される観測誤差
を特徴とする。
【0016】
第6発明に係る位置推定方法は、領域外を時系列的に移動する複数の移動無線端末により、上記領域内にある対象体の位置推定を行う移動無線端末による位置推定方法において、上記移動無線端末間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(1)を測定する第1観測ベクトル測定ステップと、上記移動無線端末と上記対象体との間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(2)を測定する第2観測ベクトル測定ステップと、上記移動無線端末間の位置関係に基づく重み行列W(1)を取得する第1重み行列取得ステップと、上記対象体と上記移動無線端末間の位置関係に基づく重み行列W(2)を取得する第2重み行列取得ステップと、上記第1観測ベクトル測定ステップにおいて測定した観測ベクトルz(1)と、上記第1重み行列取得において取得した重み行列W(1)とに基づいて、上記領域内を分割した小領域毎に信号減衰率が推定された減衰マップfを求める減衰マップ取得ステップと、上記第2観測ベクトル測定ステップにおいて測定した観測ベクトルz(2)と、上記第2重み行列取得ステップにおいて取得した重み行列W(2)と、上記減衰マップ取得ステップにおいて取得された減衰マップfとに基づいて、上記対象体の位置を推定する位置推定ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上述した構成からなる本発明によれば、領域R内における対象体の位置を正確に推定することができる。本発明によれば、領域外に移動無線端末を時系列的に移動させれば位置推定ができることから、従来のように、固定的に設置する無線端末の数をある程度揃える必要も無くなり、その敷設労力を軽減でき、コストを抑えることができる。
【0018】
また本発明によれば、事前に障害物の配置を推定するステップを省略し、対象体の位置推定時に、この障害物の配置も同時に考慮して補正することができる。このため、事前に障害物の配置を推定していない未知の領域において、対象体の位置を即座に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用した位置推定システムの全体構成を示す図である。
【図2】対象体の位置推定を行う上で必要な定義について説明するための図である。
【図3】本発明を適用した位置推定システムにおいて位置推定を行うためのフローチャートである。
【図4】移動無線端末間で計測する観測ベクトルz(1)について説明するための図である。
【図5】減衰マップfの一例を示す図である。
【図6】観測ベクトルz(2)について説明するための図である。
【図7】従来技術の問題点について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した位置推定システムについて図面を参照しながら詳細に説明をする。

【0021】
図1は、本発明を適用した位置推定システム1の全体構成を示している。この位置推定システム1は、領域Rの外部を時系列的に移動する複数の移動無線端末2と、領域R内にある対象体4が携帯し、又は実装されるデバイス3とを備えている。この位置推定システム1は、領域R内にある対象体4の位置推定を行うことを目的としたものである。

【0022】
移動無線端末2は、無線信号の送信機能、受信機能をそれぞれ有するものである。移動無線端末2は、例えば、センサ端末、リモートコントローラ、携帯電話機、スマートフォン、ウェアラブル端末、タブレット型端末、ノートPC、その他電子機器として具現化される。一対の移動無線端末2における一方の移動無線端末2は、無線信号を送信し、他方の移動無線端末2は、この送信されてきた無線信号を受信する。また、この一対の移動無線端末2における一方の移動無線端末2は無線信号の送信のみを行うものではなく、送信されてきた無線信号を受信し、他の移動無線端末2も同様に無線信号の受信のみを行うものではなく、無線信号の送信を行う場合もある。この移動無線端末2間で行われる無線信号の送受信は、主として領域Rにおける壁や什器といった遮蔽物の配置を把握するために行われるものである。

【0023】
また、この移動無線端末2は、領域R内にある対象体4が携帯し、又は実装されるデバイス3との間で無線信号を送受信する。この移動無線端末2とデバイス3との間における無線信号の送受信は、デバイス3の正確な位置を推定するために行われる。そして、デバイス3の位置を推定することができれば、当該デバイス3の位置を介して対象体4の位置を推定することが可能となる。

【0024】
各移動無線端末2は、領域R外における所定箇所に固定的に配置されるものではなく、それぞれ時系列的に移動することが前提となっている。この移動無線端末2の移動方法としては、スマートフォンやウェアラブル端末として具現化した上で、人間にこれを携帯させることで移動自在となるように構成するようにしてもよいし、人間以外の車両、ロボット、無人航空機(ドローン)、ヘリコプター等に搭載されることで移動自在とされていてもよい。

【0025】
デバイス3は、無線信号の送信機能、受信機能をそれぞれ有するものである。デバイス3は、例えば、センサ端末、リモートコントローラ、携帯電話機、スマートフォン、ウェアラブル端末、タブレット型端末、ノートPC、その他電子機器として具現化される。デバイス3は、位置の推定対象である対象体により携帯され、又は実装される。対象体4が領域Rを時系列的に移動するものであるならば、このデバイス3もこれに応じて領域R内を時系列的に移動する。デバイス3は、上述したように、自らの位置を正確に把握することを目的とした無線信号の送受信を移動無線端末2との間で行う。

【0026】
対象体4は、デバイス3を携帯し、又はデバイス3が実装され、領域R内を移動自在としてなる。この対象体4は、領域R内に侵入した人間を想定しているが、これに限定されるものではなく、人間以外の対象物で構成されていてもよく、例えば、動物、ロボット、無人航空機、車両、船舶等で構成されていてもよい。対象体4は領域Rを時系列的に移動することを前提としているが、これに限定されるものではなく、必ずしも時系列的に移動することは必須ではない。

【0027】
領域Rは、例えば建築構造物の内部等である。この領域R内において例えば什器や壁等の遮蔽物5が配置され、更に上述した対象物が時系列的に移動する。但し、この領域Rは屋内に限定されるものではなく、屋外である場合も含まれる。

【0028】
次に本発明を適用した位置推定システム1の動作について説明をする。なお、以下に説明する動作において行われる各種演算は、何れか1以上の移動無線端末2やデバイス3において行うようにしてもよいし、移動無線端末2から図示しない基地局を介して通信可能な他の電子機器を通じて行うようにしてもよい。

【0029】
対象体4(デバイス3)の位置推定を行う上で以下に説明する定義を行う。図2に示すように、ターゲットとしての対象体4の位置をrとする。また、時刻t(t=1、2、・・・)における移動無線端末2としての観測ノードn(移動ノード)の位置をytn(n=1、2、・・・、N)と定義する。つまり、n=1、2、・・・、Nからなる各移動無線端末2は、時刻t(t=1、2、・・・)においてそれぞれ時系列的に移動する。

【0030】
このような前提条件の下、本発明を適用した位置推定システム1は、図3に示すフローチャートに基づいて対象体4の位置推定を行う。

【0031】
先ずステップS11において、移動無線端末2間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(1)を測定するとともに、重み行列W(1)の算出を行う。

【0032】
図4に示すように観測ベクトルz(1)は、例えば移動無線端末2におけるn1、n2に焦点を当てたとき、以下の式1)で定義することができる。なお、この式1)における観測ベクトルz(1)は、あくまで距離減衰を除いた減衰量を仮定する。つまり、移動無線端末2の位置は分かっているものと仮定し、距離減衰も既知と仮定した上、これを除いた減衰量である。この減衰量には、移動無線端末2に存在する遮蔽物5に基づく減衰も含まれる。

【0033】
【数1】
JP2020139930A_000003t.gif
・・・・・・・・・・・・・・1)

【0034】
ここで、fiは、図4に示すように領域RをN1×N2のブロックに分割したとき、i番目のブロックにおける信号減衰率を示している。各ブロック(1、2、3、・・・・、N1×N2)についての信号減衰率は、それぞれf1、f2、f3、・・・、fN1×N2となる。各ブロック毎の信号減衰率を組み合わせることで領域Rについてブロック毎に信号減衰率が推定された減衰マップfを求めることができる。この減衰マップfを定式化する際には、式2)に示すように、ブロック毎の信号減衰率f1、f2、f3、・・・、fN1×N2の集合体で表示することができる。

【0035】
【数2】
JP2020139930A_000004t.gif
・・・・・・・・・・・・・2)

【0036】
また、式1)におけるw(xi;yn1、yn2)は、移動無線端末2間の位置関係に基づ
く重み付けである。つまり、図4に示すように移動無線端末2におけるn1、n2間の位置関係に応じてこの重み付けは変わってくる。

【0037】
重み付けw(xi;yn1、yn2)におけるxiは、領域R内における各位置を示してお
り、上述したi番目のブロックに相当する。また、yn1、yn2は、移動無線端末2におけ
るn1、n2の各位置を示している。この重み付けw(xi;yn1、yn2)は、具体的に
は非特許文献2に示す以下の3)式で定義することができる。

【0038】
【数3】
JP2020139930A_000005t.gif
・・・・・・・・・・・・・3)

【0039】
3)式の例では、x1、x2が2つの移動無線端末2の位置であり、またxは、領域R内における任意の位置を示している。この任意の位置xにおける重み付けw(x;x1、x2)は、上記3)式に基づいて計算されるが、移動無線端末2間の位置関係に基づいて決まることが分かる。βは、この減衰量を決めるパラメータであり、βが小さい場合には長軸から離れた位置ほど重みが小さくなる。このβは定数であり、システム側、或いはユーザ側において自由に決めてもよい。

【0040】
式1)における説明に戻るが、z(1)は、重み付けw(xi;yn1、yn2)と、fi
乗算の各ブロックの総和で表される。重み付けw(xi;yn1、yn2)の集合は、重み行
列WTとして表示することが可能となる。

【0041】
この式1)のうち、z(1)は、移動無線端末2間で送受信する無線信号の減衰量を測定することで求めることができる。また重み付けw(xi;yn1、yn2)は、式3)から計
算で求めることができる。これら2つの変数を求めることができれば、減衰マップfを求めることができる。

【0042】
なお、上述した例では、移動無線端末2がn1、n2の一対で構成される場合を例にとり説明をしたが、移動無線端末2が3以上で構成される場合には、更にn3、n4、・・・N間における無線信号の送受信も行われることとなる。この無線信号の送受信は、移動無線端末2間におけるノード対の最大個数分行われることとなる。この移動無線端末2間のノード対の最大個数Mは、移動無線端末Nの個数に応じて、M=(N-1)N/2で表される。そして、このノード対の個数Mに応じた無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルzm(1)を得ることができる(ここでm=1、2、・・・・M)。

【0043】
かかる場合には、この観測ベクトルzm(1)の集合z(1)は、(z1(1)、z2(1)、z3(1)、・・・・・、zM(1)Tで表すことができる。

【0044】
このような観測ベクトルの集合(z1(1)、z2(1)、z3(1)、・・・・・、zM(1)Tによりz(1)を表示する場合、上記1)式は、下記4)式で表示することが可能となる。

【0045】
【数4】
JP2020139930A_000006t.gif
・・・・・・・・・・・・・・・4)

【0046】
つまり、1)式における重み行列w1T、w2T、w3T、・・・・、wMTは、M個の観測ベクトルの分に応じてそれぞれ算出されることになり、これらをまとめてW(1)として表示することができる。

【0047】
次にステップS12へ移行し、この減衰マップfを求める。図5は、減衰マップfの一例である。z(1)には、遮蔽物5を含んだ観測ベクトルの集合である。これに加えて、移動無線端末2間の位置関係に基づいて求められた重み行列w1T、w2T、w3T、・・・・、wMTの集合からなるW(1)を既に求めており、これらが共に減衰マップfとして反映される。これにより、遮蔽物5が存在すると信号が減衰する結果、減衰マップfには濃淡として相対的に表示することが可能となる。

【0048】
上述した1)~4)式は、何れもある一時点に着目したものであるが、移動通信端末2は、時系列的に移動することを前提としている。このため、移動通信端末2が逐次移動することにより、各ノード対の間で送受信される無線信号の減衰量は逐次変化し、また重み付けw、ひいては重み行列W(1)も逐次変化することになる。このため、本発明においては、逐次変化するz(1)、W(1)を時系列的に取得していく。この時系列的に順次取得する観測ベクトルzt(1)、重み行列Wt(1)は逐次変化するものであるのに対して、同じく行列としての減衰マップFtは、あくまで遮蔽物5に基づく各ブロックにおける信号減衰率の集合であることから、これ自体は時系列的に変化するものではない。このため、zt(1)、Wt(1)、Ftは、以下の5)式により示される状態空間モデルで表示することができる。

【0049】
t(1)=Wt(1)t+vt ・・・・・・・・・・・5)
t+1=Ft

【0050】
つまり、減衰マップFtは、時系列的に変化するものではないことから、Ft+1=Ftで表される。また観測誤差vtも時系列的に取得した場合には、これを5)式に盛り込むようにしてもよい。観測誤差vtは、時系列的に取得する各データの統計的な分散やばらつきを考慮して設定するものである。観測誤差vtは、5)式において省略するようにしてもよい。

【0051】
この5)式に基づいてFtを求める上では、周知のいかなる数学的手法を用いるようにしてもよいが、カルマンフィルタによる逐次推定を行うようにしてもよい。

【0052】
カルマンフィルタによる推定を行う場合には、以下の手順に基づいて行う。

【0053】
先ずt=1において下記6)~8)式に沿って、カルマンゲイン、時刻tにおけるFtの推定値、推定誤差の共分散行列を求めていく。これらがすべて終了した後、時刻t=t+1とした上で同様に下記6)~8)式に沿って演算を繰り返す。

【0054】
【数5】
JP2020139930A_000007t.gif
・・・・・・6)

【0055】
【数6】
JP2020139930A_000008t.gif
・・・・・・7)

【0056】
【数7】
JP2020139930A_000009t.gif
・・・・・・8)

【0057】
【数8】
JP2020139930A_000010t.gif

【0058】
上述したカルマンフィルタによる逐次推定を通じて時刻tにおけるFtの推定値していくこととなる。

【0059】
次にステップS13へ移行し、移動無線端末2とデバイス3間で送受信する無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルz(2)を測定するとともに、重み行列W(2)の算出を行う。

【0060】
図6に示すように観測ベクトルz(2)は、例えば移動無線端末2におけるnと、デバイス3(対象体4)の位置に焦点を当てたとき、以下の式9)で定義することができる。

【0061】
【数9】
JP2020139930A_000011t.gif
・・・・・・9)

【0062】
ここで、fは、ステップS12において求めた減衰マップである。また、式9)におけるw(xi;yn、r)は、移動無線端末2とデバイス3間の位置関係に基づく重み付け
である。

【0063】
観測ベクトルz(2)には、移動無線端末2とデバイス3間の位置関係により決まる減衰量に加え、その間に存在する遮蔽物に基づく減衰量も含まれている

【0064】
重み付けw(xi;yn1、yn2)におけるxiは、領域R内における各位置を示してお
り、上述したi番目のブロックに相当する。また、ynは、移動無線端末2におけるnの
位置を示している。この重み付けw(xi;yn、r)は、3)式に基づいて算出するこ
とができることは上述の通りである。

【0065】
式9)における説明に戻るが、z(2)は、重み付けw(xi;yn、r)と、fiの乗
算の各ブロックの総和で表される。重み付けw(xi;yn、r)の集合は、重み行列W
Tとして表示することが可能となる。

【0066】
この式9)のうち、z(2)は、移動無線端末2とデバイス3間で送受信する無線信号の減衰量を測定することで求めることができる。また重み付けw(xi;yn、r)は、式
3)から計算で求めることができる。これら2つの変数を求めることができれば、減衰マップfを求めることができる。

【0067】
なお、上述した例では、移動無線端末2がnのみで構成される場合を例にとり説明をしたが、移動無線端末2は2以上で構成される場合には、更にn=1、2、3・・Nとデバイス3間における無線信号の送受信も行われることとなる。この無線信号の送受信は、移動無線端末2間におけるノード対の個数分(N個分)行われることとなる。そして、このノード対の個数Nに応じた無線信号の減衰量に基づく観測ベクトルzm(2)を得ることができる(ここでm=1、2、・・・・N)。

【0068】
かかる場合には、この観測ベクトルzm(2)の集合z(2)は、(z1(2)、z2(2)、z3(2)、・・・・・、zN(2)Tで表すことができる。

【0069】
このような観測ベクトルの集合(z1(2)、z2(2)、z3(2)、・・・・・、zN(2)Tによりz(2)を表示する場合、上記9)式は、下記10)式で表示することが可能となる。

【0070】
【数10】
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・・・・・・・・・10)

【0071】
つまり、9)式における重み行列w1T、w2T、w3T、・・・・、wNTは、N個の観測ベクトルの分に応じてそれぞれ算出されることになり、これらをまとめてW(2)として表示することができる。

【0072】
次にステップS14へ移行し、デバイス3(対象体4)の位置推定を行う。このステップS14では、デバイス3の位置rを未知の変数とし、ステップS13以前において求めた各種パラメータに基づいて、このrを求めていくことを行う。

【0073】
移動無線端末2における位置ynを既知としたとき、z(2)、即ち移動無線端末2とデバイス3間で送受信する無線信号の減衰量は、デバイス3の位置rに依存するものとなる。このため、以下の式11)に示すようにz(2)は、rの関数で表示することができる。

【0074】
【数11】
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・・・・・・・・・11)

【0075】
この11)式で表されるzn(2)(r)は、以下の式12)で再定義することができる。

【0076】
【数12】
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・・・・・・・・・12)

【0077】
この12)式における10αLog//r-yn//は、距離減衰の項である。距離減衰は、移動無線端末2とデバイス3間の距離r-ynに基づく。即ち、この12)式を通じて、zn(2)(r)は、移動無線端末2とデバイス3間の遮蔽物5による減衰と距離減衰により決まるものとしている。

【0078】
この式12)は、一の移動無線端末2に着目したとき、その移動無線端末2の位置ynは基地であるから、以下の式13)に書き換えることができる。

【0079】
【数13】
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・・・・・・・・・13)

【0080】
ここでd(r)は、デバイス3の位置に基づく距離減衰である。

【0081】
この式13)を満たすrが、実測したz(2)(r)が、移動無線端末2とデバイス3間の遮蔽物5による減衰と距離減衰との間において整合が取れるrである。デバイス3の正確な位置rである場合に、この式13)式の整合が取れることとなる。この式13)を満たすrを求める上ではいかなる方法に基づいて行うようにしてもよいが下記の式14)に示される関数に基づいて正確なrの推定位置を推定するようにしてもよい。

【0082】
【数14】
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・・・・・・・・・14)

【0083】
この14)式におけるargmin関数の中には、上述した13)式の左辺と右辺の差を代入している。最小のrを求めることで13)式に最も漸近したrを求めることができる。

【0084】
以上のrを求めることでステップS14が終了する。

【0085】
本発明においては、このステップS11~ステップS14に示す動作を時系列的に継続して行う。つまり、t=1においてステップS11~ステップS14に示す動作を実行してデバイス3の位置rを求めた後、ステップS15においてt=t+1とし、位置推定が終了するまで再びステップS11~ステップS14に示す動作を実行することを繰り返す。その結果、各tについて、デバイス3の位置rを時系列的に順次推定することができる。そして、このデバイス3の位置rを介して、これを携帯し、又は実装する対象体4の位置rも同様に推定することができる。

【0086】
上述した構成からなる本発明によれば、領域R内における対象体4の位置rを正確に推定することができる。本発明によれば、領域外に移動無線端末2を時系列的に移動させれば位置推定ができることから、従来のように、固定的に設置する無線端末の数をある程度揃える必要も無くなり、その敷設労力を軽減でき、コストを抑えることができる。

【0087】
また本発明によれば、事前に障害物5の配置を推定するステップを省略し、対象体4の位置推定時に、この障害物5の配置も同時に考慮して補正することができる。このため、事前に障害物5の配置を推定していない未知の領域において、対象体4の位置を即座に推定することが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
1 位置推定システム
2 移動無線端末
3 デバイス
4 対象体
5 遮蔽物
7 位置推定システム
71 無線端末
72 障害物
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6