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明細書 :ヘモグロビンのメト化抑制能を有する人工赤血球

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6831589号 (P6831589)
登録日 令和3年2月2日(2021.2.2)
発行日 令和3年2月24日(2021.2.24)
発明の名称または考案の名称 ヘモグロビンのメト化抑制能を有する人工赤血球
国際特許分類 A61K  38/42        (2006.01)
A61K  47/26        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61P   7/08        (2006.01)
A61P   7/00        (2006.01)
A61P  39/02        (2006.01)
A61P  39/06        (2006.01)
FI A61K 38/42
A61K 47/26
A61K 9/127
A61P 7/08
A61P 7/00
A61P 39/02
A61P 39/06
請求項の数または発明の数 18
全頁数 25
出願番号 特願2018-503383 (P2018-503383)
出願日 平成29年3月1日(2017.3.1)
国際出願番号 PCT/JP2017/008187
国際公開番号 WO2017/150637
国際公開日 平成29年9月8日(2017.9.8)
優先権出願番号 2016040494
優先日 平成28年3月2日(2016.3.2)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 令和2年1月28日(2020.1.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
発明者または考案者 【氏名】酒井 宏水
【氏名】山田 孫平
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100125081、【弁理士】、【氏名又は名称】小合 宗一
審査官 【審査官】伊藤 基章
参考文献・文献 特開2002-161047(JP,A)
特開平6-321802(JP,A)
特開平4-59735(JP,A)
特開平2-178233(JP,A)
SAKAI, H. et al.,Red Blood Cells Donate Electrons to Methylene Blue Mediated Chemical Reduction of Methemoglobin Comp,Bioconjug Chem,2014年,Vol.25, No.7,p.1301-10,ISSN 1043-1802
酒井宏水,外2名,赤血球解糖系が産生する電子エネルギーの活用による人工赤血球(ヘモグロビンベシクル)の機能持続効果,日本化学会第95春季年会(2015)講演予稿集III,2015年,p.820
調査した分野 A61K 38/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
NADH及び/又はNADPHとヘモグロビンとを含む水溶液と、該水溶液を内包するカプセルとからなり、前記水溶液及びカプセルはメトヘモグロビンを還元する酵素活性が実質的にない、人工赤血球。
【請求項2】
ヘモグロビンの50%メト化時間が72時間以上である、請求項1に記載の人工赤血球。
【請求項3】
前記カプセルに内包された水溶液中のヘモグロビン濃度は10g/dL~45g/dL(1.6mM~7.0mM)であり、該水溶液中のNADH及び/又はNADPHのモル濃度はヘモグロビンのモル濃度の0.5~10倍である、請求項1又は2に記載の人工赤血球。
【請求項4】
第2の水溶液中のヘモグロビンのモル濃度の0.5~3倍のモル濃度のpyridoxal 5’-phosphateを第2の水溶液中に含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の人工赤血球。
【請求項5】
前記カプセルは、リポソーム、ポリマーソーム及び高分子薄膜からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の人工赤血球。
【請求項6】
前記リポソームは、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine(DPPC)、
cholesterol、
1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-L-glutamate(DHSG)及び1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-PEG5000(DSPE-PEG5000)からなる、請求項5に記載の人工赤血球。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の人工赤血球を含む輸血代替用製剤。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の人工赤血球を水溶液中に分散された状態で含み、さらに、該水溶液中に、電解質、糖質、アミノ酸、膠質、NADH及びNADPHからなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を生理的に許容される濃度で含む、請求項7に記載の輸血代替用製剤。
【請求項9】
NO、H及びO・からなるグループから選択される少なくとも1つの物質の消去剤であって、
NADH及び/又はNADPHの水溶液を内包するカプセルを含み、前記水溶液及びカプセルは、メトヘモグロビンを還元する酵素活性が実質的になく、メチレンブルーを含まず、
メチレンブルーは前記物質の消去には関与しない、消去剤。
【請求項10】
人工赤血球の製造方法であって、
(a)ヘモグロビンを含む第1の水溶液からメトヘモグロビン還元する酵素活性を実質的に除去するステップと、
(b)第1の水溶液にNADH及び/又はNADPHを溶解して、実質的にメトヘモグロビンを還元する酵素活性がないヘモグロビンと、NADH及び/又はNADPHとを含む第2の水溶液を用意するステップと、
(c)第2の水溶液をカプセルに内包して、第2の水溶液とカプセルとからなる人工赤血球を得るステップとを含む、人工赤血球の製造方法。
【請求項11】
前記ステップ(a)は、第1の水溶液を60~65℃にて1~12時間加熱することを含む、請求項10に記載の人工赤血球の製造方法。
【請求項12】
第2の水溶液中のヘモグロビン濃度は10g/dL~45g/dL(1.6mM~7.0mM)であり、第2の水溶液中のNADH及び/又はNADPHのモル濃度はヘモグロビンのモル濃度の0.5~10倍である、請求項10又は11に記載の人工赤血球の製造方法。
【請求項13】
前記ステップ(b)において、第2の水溶液中のヘモグロビンのモル濃度の0.5~3倍のモル濃度のpyridoxal 5’-phosphateを第2の水溶液中に含む、請求項10ないし12のいずれか1項に記載の人工赤血球の製造方法。
【請求項14】
前記ステップ(b)は、pyridoxal 5’-phosphateを第1の水溶液又は第2の水溶液に溶解することを含む、請求項13に記載の人工赤血球の製造方法。
【請求項15】
前記カプセルは、リポソーム、ポリマーソーム及び高分子薄膜からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項10ないし14のいずれか1項に記載の人工赤血球の製造方法。
【請求項16】
前記リポソームは、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine(DPPC)、
cholesterol、
1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-L-glutamate(DHSG)及び1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-PEG5000(DSPE-PEG5000)からなる、請求項15に記載の人工赤血球の製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の人工赤血球を含む、敗血症の治療、亜硝酸塩の大量摂取の治療及びNO吸入療法におけるメトヘモグロビン血症予防のための医薬組成物。
【請求項18】
請求項7又は8に記載の輸血代替用製剤を含む、請求項17に記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、NADH及び/又はNADPHと、ヘモグロビンとを含む水溶液と、該水溶液を内包するカプセルとからなる人工赤血球及びその製造方法に関し、より具体的には、ヘモグロビンのメト化抑制能を有する人工赤血球及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現行の医療において、献血・輸血システムは不可欠の技術であり、高い安全性を誇っている。しかし、輸血による感染の可能性は完全には無くなっていない。また、新興感染症の脅威にも晒されている。医療過誤により血液型の異なる血液を患者に投与する事故が発生している。また、緊急輸血を必要とする際の血液型交叉試験は困難な場合が多い。献血後、濃厚赤血球バッグは、日本では冷蔵で3週間、欧米では6週間あまりであり、期限が切れると廃棄せざるをえない。保存期間が短いため、大規模災害や有事など輸血用血液の需要が高くなる際に、輸血用血液を十分に供給できなくなる可能性がある。
【0003】
これらの問題点を克服するため、人工血液製剤が開発されてきた(非特許文献1)。血液に含まれる蛋白質のうち、最も多くあるのがヘモグロビンである。ヘモグロビンは酸素を可逆的に結合-解離する蛋白質であり、要するに血液の主要な機能は酸素運搬であり、酸素供給が生命の維持に如何に重要であるかを示している。ヘモグロビンが酸素を結合解離することは古くから知られていたので、人工酸素運搬体(人工赤血球)として開発されてきた物質としては、ヘモグロビンを加工したものが多い。いわゆる修飾ヘモグロビンとは、(i) ヘモグロビンがサブユニットに解離することを防いだ分子内架橋ヘモグロビンや、(ii) ヘモグロビンの分子量を大きくするために、グルタルアルデヒドや活性化ラフィノーズなどで分子間架橋した重合ヘモグロビン、また、(iii) ポリエチレングリコールやデキストラン、アルブミンを化学的に結合させた高分子結合ヘモグロビンなどである。修飾ヘモグロビンは製造法が比較的簡単なため、臨床試験にまで進んだものが多いが、ほぼ全てについて毒性が明らかになり、開発を中断している。その原因は、ヘモグロビンが血管内皮弛緩因子である一酸化窒素(NO)と強い親和性、あるいは反応性があり、NOを失活させて結果として血管収縮を引起こし、末梢循環不全を引き起こすこと、また活性酸素等と反応したときに生じる副産物が血管壁に直接接触し、血管壁や心筋に損傷を与えること、また、粒子径が小さいために容易に血管外に漏出し、様々な副作用を引き起こすことなどが論じられている(非特許文献2)。つまり、本来赤血球の中にあるべきヘモグロビンが一旦赤血球から出ると(溶血すると)、毒性を示すことと同じなのである。
【0004】
発明者らは、リポソームに内包した形式である、ヘモグロビンベシクル(Hb-V)を開発してきた。Hb-Vは、高純度高濃度ヘモグロビン(30-42g/dL)をリポソームに内包した人工赤血球である(非特許文献3)。リポソームの構成成分は、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (DPPC)と、
cholesterolと、
1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-L-glutamate (DHSG)と、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-PEG5000(DSPE-PEG5000)との4成分である。Hb-V分散液のヘモグロビン濃度は10g/dLであり、粒子径は250-280nmに制御されている。これまでに動物投与試験により高い安全性が確認され、また、出血性ショックからの蘇生、高度血液希釈、貧血に対する投与、脳梗塞の梗塞領域の低減、虚血領域の酸素化、体外循環回路の補填液、臓器灌流液、COキャリアなどとして効果を示すことが動物実験モデルから明らかにされている。
【0005】
ところで、ヘモグロビン1分子は4個のサブユニット(αβ)から構成され、各サブユニットに酸素結合部位であるヘムが1つずつ存在する。ヘムの中心鉄が二価(ferrous、Fe2+)のときに酸素を可逆的に結合する。中心鉄が二価の状態で酸素を結合した状態をオキシヘモグロビン(HbO2)、酸素を結合していない状態をデオキシヘモグロビン(deoxyHb)とよぶ。酸素を結合したHbO2は、次第に自動酸化によって酸素を結合しない鉄三価(ferric、Fe3+)のメトヘモグロビン(metHb)に変化する。このとき以下の化学式の反応によりスーパーオキサイドアニオン(O2-・)を放出する。
HbO2 → metHb + O2-
O2-・は、不均化反応によって過酸化水素になり、HbO2及びdeoxyHbの酸化を促進する。赤血球内には、これらの反応を抑制するために、metHbを還元する仕組みや、活性酸素を除去する仕組みが含まれる。metHbを還元するシステムには以下のものが知られている。
(i)アスコルビン酸やグルタチオンなどの還元剤が直接metHbと反応して還元し、酸化したデヒドロアスコルビン酸と酸化型グルタチオンは酵素によって還元体に戻される。
(ii)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を基質とするNADH系メトヘモグロビン還元酵素として、NADH-methemoglobin reductaseが報告されたが、これはNADH-cytochrome b5 reductaseの作用とcytochrome b5が電子媒体となってmetHbが還元される機構であることが明らかになっている。酸化型のNAD+はEmbden Myerhof 経路によってNADHに復元される。NADH cytochrome b5 reductaseは、赤血球膜中に存在するものと、赤血球中に溶解しているものがある。
(iii)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドフォスフェート(NADPH)を基質とするNADPH methemoglobin reductaseの作用でmetHbが還元され、酸化型のNADP+はpentose phosphate経路によってNADPHに復元される。
(iv)また赤血球は、O2-・を過酸化水素に変換するスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、過酸化水素を消去するカタラーゼ(CAT)を含有している。
【0006】
人工酸素運搬体の製造の原料となるヘモグロビンは、ヒト赤血球や、家畜の赤血球から精製単離する。一般的な精製法としては、まず、抗凝固剤を含有した血液を遠心分離すると赤血球が沈降する。上澄みの血漿層と血小板、バッフィーコート(白血球)を取り除き、沈降した赤血球を回収する。これに生理食塩水を添加して赤血球を分散させ、遠心分離を行い、上澄みを除去し赤血球を回収する。この操作を2、3回繰り返すことにより洗浄赤血球を得ることができる。赤血球に蒸留水を添加していくと溶血し、ヘモグロビンが遊離する。この溶液を溶血血液(hemolysate)とよぶ。ストローマ(赤血球膜)成分を除去するには、(i)限外分子量1000kDa程度の限外濾過膜で処理し、水溶性物質のみを透過させ、ストローマ成分を除去する、あるいは、(ii)超遠心分離によりストローマ成分を沈殿として除去する。得られたヘモグロビン溶液は、ストローマフリーヘモグロビン(stroma free hemoglobin、SFHb)とよばれ、ヘモグロビンが主成分ではあるが赤血球中に含まれる水溶性の酵素系も共存している。そのあと、限外分子量8~10kDaの限外濾過膜で透析、濃縮させる。酵素系を含有しているストローマフリーヘモグロビンは、酵素の基質を添加してやれば、metHb還元系が復元できるので、上述のメト化を抑制することができる。また、粗製ヘモグロビン(SFHb)溶液に酵素系の基質を添加し、これをカプセルに内包して、人工赤血球とした場合、metHb還元酵素系を回転させることによって人工赤血球のメト化を遅延させることができる。
【0007】
酵素類を含有するストローマフリーヘモグロビンを使うことの「欠点」は、ウィルス不活化・除去工程が不完全な状態になることである。ヒト赤血球由来のヘモグロビンであれば、それから作られる人工酸素運搬体は特定生物由来製剤に該当する。動物の赤血球由来であれば、生物由来製剤に該当する。いずれにしても、精製の工程に、ウィルス不活化・除去工程が導入されていること、またその不活化率・除去率 (Log Reduction Value)が規定値に比較して十分であることが求められる。ウィルス不活化工程としては、液状加熱処理(60℃、10時間)あるいはS/D処理(有機溶媒/界面活性剤処理)がある。これらは、ウィルスを変性させて失活させる。また、ウィルス除去工程としてナノフィルトレーション処理があり、フィルタの孔径(例えば15nm)よりも大きいウィルスは透過できないので除去できる。ヘモグロビンは球状タンパク質であり構造的に安定であるが、酵素類は不安定である。通常ヘモグロビンはヘムに酸素を結合しているが、これを一酸化炭素に変換(HbCO)、あるいは、酸素を排除してdeoxyHbに変換すると耐熱性を帯び、液状加熱処理が可能となり、ウィルスの不活化が可能になるが、加熱中にほぼ全ての酵素類が変性不溶化する(非特許文献4、5)。また、ナノフィルトレーションを使った場合は、ナノフィルトレーションの孔径よりも大きな酵素類は排除される。
【0008】
発明者らは、感染源をすべて排除することが人工酸素運搬体(人工赤血球)に求められる条件であると理解し、赤血球からヘモグロビンを精製する工程に加熱処理とナノフィルトレーションを取り入れている。これによって、ウィルスのLog Reduction Valueは基準を満たし、製剤の安全度を格段に高めることができる。しかし、加熱処理及びナノフィルトレーションによって酵素系は全て消失するため、結果としてHbO2がメト化して鉄三価のmetHbとなり、鉄二価の状態に還元することができず、酸素運搬機能が漸減する。したがって、ウィルス不活化・除去工程を経て、酵素系を実質的に含有しない精製濃縮ヘモグロビンを用いる場合、これをカプセルに内包した人工赤血球製剤の開発において、上述のメト化を抑制する方法が必要になる。
【0009】
これまでに様々な非酵素的なmetHb還元システムが検討されてきた。(i)グルタチオンやシステインなどのチオール類は、metHbと直接反応して還元することができる(非特許文献6)。この方法は、脱酸素状態で長期間保存する場合には、残存酸素を完全に消去し、metHbを完全に還元することに適している(特許文献1、非特許文献7)。しかし、metHb濃度が高くない状態で酸素が存在するとチオール類が溶存酸素と直接反応して活性酸素種を生じ、逆にメト化を促進する場合がある。(ii)電子伝達物質としてフラビン類と、電子供与体としてグルコースを精製濃縮ヘモグロビン溶液に添加して可視光照射によってmetHbを還元する方法を考案したが、光照射法は限定されており、実用的な方法とはならなかった(特許文献2)。(iii)アミノ酸のチロシンとメトヘモグロビンが共存すると、過酸化水素を消去する擬似カタラーゼ活性を示し、ある程度のメト化速度の抑制が見られるが、実用的な方法とはならなかった(特許文献3)。(iv)人工赤血球(ヘモグロビンベシクル)に対して、NADHとメチレンブルーを外から添加したところ、人工赤血球内のmetHbが還元された(非特許文献8)。これは、メチレンブルーがNADHと反応して還元型Leukomethylene blueになり、これが人工赤血球内に拡散してmetHbを還元したと考えられる。さらに、(v)人工赤血球(ヘモグロビンベシクル)を血管内投与したあとmetHbの含有量が増大した時点で、メチレンブルーをごく少量投与すると、メチレンブルーが血流中で赤血球内のNADHやNADPHと反応して還元型Leukomethylene blueになり、これが人工赤血球内に拡散してmetHbを還元し、効果が明確で、実用的あること明らかになった(非特許文献9)。しかし、Leukomethylene blueは酸素と反応して活性酸素を発生する場合があること、また皮膚の色調が青くなることが問題となった。したがって、酵素系を実質的に含有しないヘモグロビンを内包した人工赤血球製剤について、メト化を遅延又は抑制する別の手段による技術の開発が求められている。
【0010】
また、血管内では血管壁から常に血管内皮弛緩因子として一酸化窒素(NO)が放出されているが、これがヘモグロビンと極めて高い反応性を示し、メト化を促進する。更に、炎症反応や虚血再灌流障害において、iNOSの誘導により血管内のNOの産生が亢進したり、好中球やマクロファージが活性化し、NADPH-オキシダーゼの作用でスーパーオキサイドの産生が亢進し、これが不均化で過酸化水素になり、これらもヘモグロビンと反応してメト化を促進することが問題となっている。したがって、体内における酸化的ストレスに対しても、人工赤血球製剤の機能として、過剰な内因性活性酸素、NOに対する新しい防御システムを保持させることが求められていた。この必要性は従来の人工赤血球あるいはカプセル化型ヘモグロビンの開発において、認識されていなかった。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特許3466516公報
【特許文献2】特許4181290公報
【特許文献3】特許4763265公報
【0012】

【非特許文献1】Chang T.M. Biomater Artif Cells Immobilization Biotechnol. 1992;20(2-4):159-79.
【非特許文献2】Natanson C.ら、JAMA. 2008;299(19):2304-12.
【非特許文献3】Sakai H.ら、Methods Enzymol. 2009;465:363-84.
【非特許文献4】Sakai Hら、 Protein Expr Purif. 1993 Dec;4(6): 563-9.
【非特許文献5】Sakai Hら、J Biochem. 2002 Apr;131(4):611-7.
【非特許文献6】Takeoka S.ら、Bioconjug Chem. 1997 Jul-Aug;8(4):539-44.
【非特許文献7】Sakai H.ら、Bioconjug Chem. 2000 May-Jun;11(3):425-32.
【非特許文献8】Takeoka S.ら、Artif Cells Blood Subst Immob Biotechnol. 1997;25:31-41.
【非特許文献9】Sakai H.ら、Bioconjug Chem. 2014 Jul 16;25(7):1301-10.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、酵素系を実質的に含有しない精製濃縮ヘモグロビンを内包した人工赤血球製剤において、保存中のみならず、投与して血管内を循環している間のメト化を遅延させ、あるいは、抑制すること、さらには積極的に酸化ストレスを消去することを可能とする非酵素的な解決手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは上述の背景と課題を熟慮し、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。
【0015】
本発明は、人工赤血球を提供する。本発明の人工赤血球は、NADH及び/又はNADPHと、ヘモグロビンとを含む水溶液と、該水溶液を内包するカプセルとからなり、前記水溶液及びカプセルはメトヘモグロビンを還元する酵素活性が実質的にない。
【0016】
本発明の人工赤血球は、ヘモグロビンの50%メト化時間が72時間以上の場合がある。
【0017】
本発明の人工赤血球において、前記カプセルに内包された水溶液中のヘモグロビン濃度は10g/dL~45g/dL(1.6mM~7.0mM)であり、該水溶液中のNADH及び/又はNADPHのモル濃度はヘモグロビンのモル濃度の0.5~10倍の場合がある。
【0018】
本発明の人工赤血球において、内包させるヘモグロビン水溶液中に、ヘモグロビンのモル濃度の0.5~3倍のモル濃度のpyridoxal 5'-phosphateを含む場合がある。
【0019】
本発明の人工赤血球において、前記カプセルは、リポソーム、ポリマーソーム及び高分子薄膜からなる群から選択される少なくとも1つの場合がある。
【0020】
本発明の人工赤血球において、前記リポソームは、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (DPPC)、
cholesterol、
1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-L-glutamate (DHSG)及び1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-PEG5000(DSPE-PEG5000)
からなる場合がある。
【0021】
本発明は、本発明の人工赤血球を含む輸血代替用製剤を提供する。
【0022】
本発明の輸血代替用製剤は、本発明の人工赤血球を水溶液中に分散された状態で含み、さらに、該水溶液中に、電解質、糖質、アミノ酸、膠質、NADH及びNADPHからなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を生理的に許容される濃度で含む場合がある。
【0023】
本発明は、NO、H2O2及びO2-・からなるグループから選択される少なくとも1つの物質の消去剤を提供する。該消去剤は、NADH及び/又はNADPHの水溶液を内包するリポソームを含む。本発明のNO、H2O2及びO2-・からなるグループから選択される少なくとも1つの物質の消去剤において、前記リポソームは1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (DPPC)、
cholesterol、
1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-L-glutamate (DHSG)及び1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-PEG5000 (DSPE-PEG5000)
からなる場合がある。
【0024】
本発明は、本発明の人工赤血球を含む、敗血症の治療、亜硝酸塩の大量摂取の治療及びNO吸入療法におけるメトヘモグロビン血症予防のための医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、本発明の輸血代替用製剤の場合がある。
【0025】
本発明は人工赤血球の製造方法を提供する。本発明の人工赤血球の製造方法は、
(a)ヘモグロビンを含む第1の水溶液からメトヘモグロビン還元する酵素活性を実質的に除去するステップと、
(b)第1の水溶液にNADH及び/又はNADPHを溶解して、実質的にメトヘモグロビン還元する酵素活性がないヘモグロビンとNADH及び/又はNADPHとを含む第2の水溶液を用意するステップと、
(c)第2の水溶液をカプセルに内包して、第2の水溶液とカプセルとからなる人工赤血球を得るステップとを含む。
【0026】
本発明の人工赤血球の製造方法において、前記ステップ(a)は、第1の水溶液を60~65℃にて1~12時間加熱することを含む場合がある。
【0027】
本発明の人工赤血球の製造方法において、第2の水溶液中のヘモグロビン濃度は10g/dL~45g/dL(1.6mM~7.0mM)であり、第2の水溶液中のNADH及び/又はNADPHのモル濃度はヘモグロビンのモル濃度の0.5~10倍である場合がある。
【0028】
本発明の人工赤血球の製造方法の前記ステップ(b)において、ヘモグロビンのモル濃度の0.5~3倍のモル濃度のpyridoxal 5'-phosphateを第2の水溶液中に含む場合がある。
【0029】
本発明の人工赤血球の製造方法において、前記カプセルは、リポソーム、ポリマーソーム及び高分子薄膜からなる群から選択される少なくとも1つの場合がある。
【0030】
本発明の人工赤血球の製造方法において、前記リポソームは、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (DPPC)、
cholesterol、
1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-L-glutamate (DHSG)及び1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-PEG5000(DSPE-PEG5000)
からなる場合がある。
【0031】
敗血症の患者では大量のNOが血液循環に放出され、ヘモグロビンのメト化率(metHb%、ヘモグロビン中のメト化ヘモグロビンの重量百分率)が上昇することが知られている(Ohashi, K.ら、Acta. Anaesthesiol. Scand.、 42: 713-716 (1998))。亜硝酸塩を大量摂取した患者でヘモグロビンのメト化率が上昇することが知られている(Cockburn, A.ら、Toxicology and Applied Pharmacology、270: 209-217 (2013)、Sharma, M.K.ら、J.Clin. Diagnostic Res. 7:1552-1554 (2013))。また、新生児遷延性高血圧症に対するNO吸入療法を施された新生児患者でヘモグロビンのメト化率が上昇することが知られている(Salguero, K.L.ら、Pulmonary Phamacol. Therapeutics、15: 1-5 (2002)、Hmon, I.ら、Acta Paediatrica、99:1467-1473 (2010))。本発明の人工赤血球は、亜硝酸やNOの存在下でもヘモグロビンのメト化が抑制されるため、本発明の人工赤血球を含む本発明の医薬組成物は、敗血症の治療、亜硝酸塩の大量摂取の治療及びNO吸入療法におけるメトヘモグロビン血症予防の用途に用いられる。
【発明の効果】
【0032】
NADH及び/又はNADPHを人工赤血球に所定量内包させることにより、自動酸化ならびに酸化ストレスによる劣化を遅延させる、あるいは、抑制することが可能となり、酸素運搬機能をより長く持続させることができる。さらには、虚血再灌流障害や炎症反応で組織から産生される酸化ストレスを、積極的に消去することも可能である。
【0033】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】NADH内包量の異なる人工赤血球製剤のメト化率の経時的変化を示すグラフ。
【図2】NADH内包量の異なる人工赤血球製剤を37℃恒温槽内に静置して24時間経過後のメト化率を示すグラフ。
【図3A】NADHを内包した人工赤血球にNOC7を添加後、630nmの吸光度の経時的変化を示すグラフ。
【図3B】NADHを内包した人工赤血球にNOC7を添加後のメト化率の経時的変化を示すグラフ。
【図4A】NADHを内包した人工赤血球にH2O2を添加後、630nmの吸光度の推移経時的変化を示すグラフ。
【図4B】NADHを内包した人工赤血球にH2O2を添加後のメト化率の推移経時的変化を示すグラフ。
【図5A】NADHを内包した人工赤血球にNaNO2を添加後、630nmの吸光度の経時的変化を示すグラフ。
【図5B】NADHを内包した人工赤血球にNaNO2を添加後のメト化率の経時的変化を示すグラフ。
【図6A】NADHを添加したヘモグロビン溶液にNOC7を添加後、630nmの吸光度の経時的変化を示すグラフ。
【図6B】NADHを添加したヘモグロビン溶液にNOC7を添加後のメト化率の経時的変化を示すグラフ。
【図7A】NADHを添加したヘモグロビン溶液にH2O2を添加後、630nmの吸光度の経時的変化を示すグラフ。
【図7B】NADHを添加したヘモグロビン溶液にH2O2を添加後のメト化率の経時的変化を示すグラフ。
【図8A】NADHを添加したヘモグロビン溶液にNaNO2を添加後、630nmの吸光度の経時的変化を示すグラフ。
【図8B】NADHを添加したヘモグロビン溶液にNaNO2を添加後のメト化率の経時的変化を示すグラフ。
【図9】NADHとNOC7を混合後のNADH濃度(340nmの吸光度)の経時的変化を示すグラフ。
【図10】NADHとH2O2を混合後のNADH濃度(340nmの吸光度)の経時的変化を示すグラフ。
【図11】NADHとNaNO2を混合後のNADH濃度(340nmの吸光度)の経時的変化を示すグラフ。
【図12】NADHを内包した人工赤血球をラットに投与後のメト化率の経時的変化を示すグラフ。
【図13】出血性ショック状態としたラットにNADHを内包した人工赤血球を投与後のメト化率の経時的変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除および置換を行うことができる。

【0036】
本明細書において「人工赤血球」とは、輸血用血液の主成分であるヒトその他の動物の循環血由来の赤血球の代替品として用いられる、ヘモグロビンを内包したカプセルをいう。血液の主要な機能は酸素運搬であり、赤血球内のヘモグロビンが酸素を可逆的に結合している。ヘモグロビンに化学的修飾を加えた溶液が輸血用血液の代替品として開発されている。しかし、ヘモグロビン溶液を直接血流循環させると、毒性を示す。その原因は、ヘモグロビンが血管内皮弛緩因子である一酸化窒素(NO)と強い親和性、あるいは反応性があり、NOを失活させて結果として血管収縮を引起こし、末梢循環不全を引き起こすこと、また活性酸素等と反応したときに生じる副産物が血管壁に直接接触し、血管壁や心筋に損傷を与えること、また、粒子径が小さいために容易に血管外に漏出し、様々な副作用を引き起こすことなどが論じられている(Natanson C.ら、JAMA. 2008;299(19):2304-12.)。これは溶血による遊離ヘモグロビンの毒性と同じである。そこで、カプセルに内包されたヘモグロビンが人工赤血球として開発されている。また、人工赤血球は、COキャリアなどとして効果を示すことが動物実験モデルから明らかにされているので、HbCOのまま投与してもよい。COが活性酸素産生に関与するヘムタンパク質に作用し、活性酸素の産生を抑制する。この場合は、血管内でCOが次第に解離し、HbO2に変化し、酸素運搬体になる。そのため、COが解離した後は自動酸化ならびに酸化ストレスによる劣化を受けるが、NADH及び/又はNADPHを人工赤血球の中に共存させることにより、酸素運搬機能をより長く持続させることができる。

【0037】
本発明の人工赤血球に内包されるヘモグロビンは、ヒト又は家畜由来の血液から精製濃縮される。あるいは遺伝子組み換え技術により菌体に産生させたものを精製濃縮させる。精製濃縮は、例えば、以下の手順で行われる場合があるが、この手順に限定されず、当業者に知られたいかなる手順によって行われても構わない。ヒト又は家畜由来の血液を元に、まず遠心分離をして上澄みの血漿成分とバッフィーコートを除去し、等張液(生理食塩水やリン酸緩衝生理食塩水)を添加して穏やかに攪拌したのち、再度遠心分離をして上澄みを除去する操作を3回繰り返し、洗浄赤血球を得る。低張液(純水など)を添加すると、赤血球は溶血し、ヘモグロビンが遊離する。超遠心分離によって膜成分を沈殿除去するか、或いは限外濾過膜(分画分子量1,000,000程度)によってヘモグロビンのみ透過させて膜成分を除去する。以下で説明するウィルス不活化工程及び除去工程を経たHbCO溶液は、透析、pH調整などを経て、限外濾過膜によって濃縮される。このときの分画分子量は、8,000~30,000程度で効率良く実施することができる。得られたHbCO溶液は、Hb濃度が30~45g/dLと濃厚である。この溶液をアニオン交換樹脂処理させ、孔径0.22μmの滅菌フィルタに透過させる。

【0038】
本発明の人工赤血球においてヘモグロビンを内包するカプセルの材料としては、ポリスチレン、アラビアゴム、ナイロン、シリコーンなどの高分子、ゼラチンなどの生体由来材料、ポリεカプロラクタムやポリエチレングリコールと生分解性高分子であるポリ乳酸やポリグリコール酸などの共重合体、多糖類、アミノ酸高分子の共重合体を含むが、これらに限定されない材料で調製される高分子薄膜がある。また更にカプセルの材料としては、ハイドロゲル、シリカゲル、Hb/O/Wエマルション、ヘパリン-ポリアルキルシアノアクリレート、ポリイオンコンプレックス、ポリマーソーム、ニオソーム及びリポソームを含むが、これらに限定されない物質の場合がある。

【0039】
本発明の人工赤血球においてヘモグロビンを内包するカプセルがリポソームの場合には、生体膜と同様に脂質二重膜でヘモグロビンが内包されるため、生体適合性に優れ、また調製が簡単である(Djordjevici L.ら、Fed Proc 1977, abstract No. 1561 (physiology), page 567.)。リポソームに用いる脂質にはさまざまな組成のものが報告されている(Sakai H.ら、Methods Enzymol. 2009;465:363-84.)。リポソームでヘモグロビンを内包した人工赤血球の1つの例では、リポソームは、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphatidylcholine (DPPC)と、cholesterolと、1,5-O-dihexadecyl-N-succinyl-L-glutamate (DHSG)と、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphatidylethanolamine-N-PEG5000(DSPE-PEG5000)という4つの成分からなる。前記成分からなるリポソームであって、ヘモグロビンベシクル(Hb-V)分散液のヘモグロビン濃度は10g/dL~45g/dLであり、これは、1.6mM~7.0mMのモル濃度に相当する。人工赤血球(Hb-V)は、これまでに動物投与試験により高い安全性が確認され、また、出血性ショックからの蘇生、高度血液希釈、貧血に対する投与、脳梗塞の梗塞領域の低減、虚血領域の酸素化、体外循環回路の補填液、臓器灌流液、COキャリアなどとして効果を示すことが動物実験モデルから明らかにされている。

【0040】
リポソームを調製する手段としては、超音波処理法 (プローブ法、浴槽法)、有機溶媒注入法、界面活性剤除去法、凍結融解法、逆相蒸発法、押出し法(extrusion法)、乾燥リポソーム粉末-水和法、高圧乳化分散法、遊星運動による混錬法などが知られている。ヘモグロビンを変性させずに、カプセル化させる手段としては、乾燥リポソーム粉末-水和法、押し出し法、混錬法などが好ましい。

【0041】
本発明のNADH及び/又はNADPHは、本発明の人工赤血球に内包されるヘモグロビン溶液中のヘモグロビンに対してモル比で0.5~10の量を添加される。あるいは、本発明の人工赤血球に内包されるヘモグロビン溶液中のヘモグロビンに対してモル比で1~3の量を添加される。本発明の人工赤血球に内包されるNADH、NADPH及びヘモグロビンのモル濃度を、それぞれ、[NADH]、[NADPH]及び[Hb]と表すとき、
0.5≦([NADH]+[NADPH])/[Hb]≦10
あるいは
1≦([NADH]+[NADPH])/[Hb]≦3
となるように添加される場合がある。本発明において、「NADH及び/又はNADPH」の代わりに、「NAD+及び/又はNADP+をNADH及び/又はNADPHに変換可能な酵素系と、NAD+及び/又はNADP+と」で置換可能であることは当業者に周知である。

【0042】
カプセルに内包されるヘモグロビン溶液には、NADH及び/又はNADPHの他に添加物を添加する場合がある。該添加物は、pyridoxal 5’-phosphate (PLP)を含むが、これらに限定されない。PLPはヘモグロビンの酸素親和度を調節するためのアロステリック因子として、ヘモグロビンに対するモル比が0~3となるように添加される場合がある。あるいは、本発明の人工赤血球に内包されるPLP及びヘモグロビンのモル濃度を、それぞれ、[PLP]及び[Hb]と表すとき、
0<[PLP]/[Hb]≦3
【0043】
カプセル化工程の後、カプセルの中に封入されなかったヘモグロビンは、限外濾過膜処理(例えば分画分子量1000 kDa)により濾過除去することができる。あるいは、遠心分離操作によって人工赤血球を沈降させ、上澄みのヘモグロビン溶液を除去し、沈殿に生理食塩水などを添加し人工赤血球を再分散させてもよい。人工赤血球を再分散させた溶液には、電解質、糖質、アミノ酸、膠質、NADH及びNADPHを含ませてもよく、またこれらに限定されない添加物を添加する場合がある。ここで膠質は、アルブミン(5g/dL以下)、ヒロドキシエチルスターチ(10g/dL以下)、デキストラン(10g/dL以下)、修飾ゼラチン(5g/dL以下)を含むが、これらに限定されない、人工赤血球の分散液に膠質浸透圧を付与することのできる物質をいう。晶質浸透圧は300mOsmに調節されることが望ましく、生理食塩水の場合はNaCl濃度が0.9wt%であるが、NaCl濃度を7wt%近くの高張浸透圧とさせることで、蘇生効果を高めることもできる。NADH及び/又はNADPHが人工赤血球を再分散させた溶液に含まれる場合には、さらなるヘモグロビンの保護効果が期待できる。

【0044】
HbCO溶液をカプセル化した場合には、酸素気流下、光反応によりHbCOをHbO2に変換する必要がある。液膜を形成させる、或いは透析膜を通過中に可視光照射することで反応は速やかに進行する(特許第3682072号公報)。

【0045】
本明細書の「メトヘモグロビンを還元する酵素」は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を基質とするNADH系メトヘモグロビン還元酵素と、NADPH系メトヘモグロビン還元酵素とを含むが、これらに限定されない。NADH系メトヘモグロビン還元酵素としては、NADH-methemoglobin reductaseが報告されたが、これはNADH-cytochrome b5 reductaseの作用とcytochrome b5が電子媒体となってmetHbが還元される機構であることが明らかになっている。酸化型のNAD+はEmbden Myerhof 経路によってNADHに復元される。NADH cytochrome b5 reductaseは、赤血球膜中に存在するものと、赤血球中に溶解しているものがある。NADPH系メトヘモグロビン還元酵素は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドフォスフェート(NADPH)を基質とするNADPH methemoglobin reductaseの作用でmetHbが還元され、酸化型のNADP+はpentose phosphate経路によってNADPHに復元される。本発明の「NAD+をNADHに変換可能な酵素系」及び「NADP+をNADPHに変換可能な酵素系」は、それぞれ、Embden Myerhof 経路のglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)と、pentose phosphate経路のglucose-6-phosphate dehydrogenase (G6PDH) 及び6-phosphogluconate dehydrogenase (6PGDH)とである。したがって、「メトヘモグロビンを還元する酵素」と、「NAD+及び/又はNADP+をNADH及び/又はNADPHに変換可能な酵素系」とは異なる酵素である。

【0046】
本明細書のメトヘモグロビンを還元する酵素について、「酵素活性が実質的にない」とは、ヒト又は家畜由来の血液から精製濃縮されたヘモグロビン溶液の酵素活性の10%、5%、3%、1%、0.5%、0.2%、0.1%、0.05%又は0.03%以下か、あるいは、メトヘモグロビン還元酵素の酵素活性の検出限界以下かの酵素活性をいう。ここで、本明細書のメトヘモグロビンを還元する酵素の酵素活性は、例えば、以下の手順で決定することができる。
NADH-cytochrome b5 reductase activityの測定は、Beutler, E.(RED CELL MTABOLISM: A MANUAL OF BIOCHEMICAL METHOD, Grune &Stratton, Inc. pp.81-82(1987))にしたがって行うことができる。測定原理は、NADH methemoglobin reductaseを本方法では、NADH-ferricyanide reductase活性として測定する。
K3Fe(CN)6 + NADH + H+ → K3HFe(CN)6+ NAD+
の反応において、酵素を含有する検体の添加によって促進される程度を追跡することから活性測定する。消費されるNADHの特性吸収340nmの吸光度変化(減少)を測定する。
また、NADPH-flavin reductase activityの測定は、Beutler, E.(RED CELL MTABOLISM: A MANUAL OF BIOCHEMICAL METHOD, Grune &Stratton, Inc.pp. 79-80(1987)))にしたがって行うことができる。測定原理は、NADH methemoglobin reductase を本方法では、NADH diaphorase活性として測定する。メチレンブルー(MeBl)がルーコメチレンブルー(LeukMeBl)に還元される反応
NADPH + H+ + MeBl → NADP+ + LeukMeBl
は遅い反応として知られているが、酵素を含有する検体の添加によって促進される程度を追跡することから活性測定する。消費されるNADPH特性吸収340nmの吸光度変化(減少)を測定し、上記原理に基づいて活性を測定する。

【0047】
本明細書のメトヘモグロビンを還元する酵素の活性が実質的にない状態は、ヒト又は家畜由来の血液からヘモグロビンを精製濃縮した後、ウィルス不活化のための加熱処理及び/又はウィルス除去のためのナノフィルトレーション処理により達成することができる。ウィルス不活化のための加熱処理は、例えば、前記精製濃縮されたヘモグロビン溶液を60℃にて10~12時間加熱することにより行われる場合がある。ウィルス除去のためのナノフィルトレーション処理は、例えば、前記精製濃縮され、さらに、ウィルス不活化のための加熱処理を施したヘモグロビン溶液を孔径15~50nmの精密ろ過膜(Nanofiltration Membrane)でろ過することにより行われる場合がある。

【0048】
加熱処理とナノフィルトレーションの操作によって、不活化率・除去率 (Log Reduction Value)の総計は9を上回り、ウィルスクリアランスバリデーションとして必要とされる規定をクリアする。これらの操作によって、解糖系、メトヘモグロビン還元系、脱炭酸酵素、活性酸素を消去する酵素類は全て排除される。特に、本発明に関わるNADHを基質とするNADH-cytochrome b5reductase、および電子伝達体であるcytochrome b5は、耐熱性に乏しいことはよく知られており(Arinc E.ら、Comp Biochem Physiol B. Jan-Feb;101(1-2):235-42. (1992))、加熱処理中に変性、失活する。加熱処理によってヘモグロビン溶液のタンパク質純度が極めて高くなる(99.8%以上)。また、NADH-cytochrome b5 reductase及びNADPH-flavin reductase の酵素活性を測定しても、活性はないことが確認できる。

【0049】
本明細書において、「50%メト化時間」とは、測定対象の人工赤血球に内包されるヘモグロビンのうち、メトヘモグロビンの割合が50%になるまでの時間をいう。50%メト化時間は、以下の手順により決定される。

【0050】
測定対象の人工赤血球を37℃恒温槽内に静置してインキュベーションを行い、インキュベーション開始時と、その後の時間、例えば、0、2、6、8、24及び26時間後に一部を採取してメト化率を計測する。測定装置としては、積分球を内蔵した紫外可視分光光度計(V-660; Jasco Corp.,Tokyo, Japan)を用いる。検体を生理食塩水に希釈し、キュベット内に封入し、窒素バブルして脱酸素化するとdeoxyHbとmetHbの二成分系になる。それぞれの最大吸収波長430nm、405nmの吸光度の比から、メト化率を計算する。メト化率が50%を超えるまで経時的に測定した結果のグラフから、メト化率が50%となるインキュベーション時間を決定する。測定時間内にメト化率が50%に達しない場合には、経時的に測定した結果のグラフから外挿してメト化率が50%となるインキュベーション時間を決定する。

【0051】
本発明のNO及び/又はH2O2の消去剤は、NADH及び/又はNADPHの水溶液を内包するリポソームを含む。NADH及びNADPHはリポソームに内包されるため、酵素と接触することはできず、酵素反応の補酵素として消費されることはない。しかし、リポソームの脂質膜は、NO及び/又はH2O2低分子に対してはバリア性が無いことが知られている(Sakai Hら(J Biol Chem. 2008 Jan 18;283(3):1508-17)、Takeoka Sら(Bioconjug Chem. 2002 Nov-Dec;13(6):1302-8))。そこで、NADH及び/又はNADPHの水溶液をリポソーム内に保持させることで、例えば血管内投与した場合のNADHまたはNADPHの血中滞留時間を大幅に延長することが期待でき、血管内で過剰に発生するNO及び/又はH2O2を消去する効果が期待できる。
【実施例】
【0052】
実施例1
期限切れのヒト赤血球バッグ(400mL採血由来)8袋分を、遠心機専用プラスチック製ボトル(500mL)に分注し、遠心分離した(3,000回転、1時間)。そして、上澄みの残存血漿成分とバッフィーコート(白血球)をアスピレータで吸引除去した。ついで、注射用生理食塩水でボトルを満たし、軽く振盪し、再度同一条件にて遠心分離を行い、上澄みをアスピレータで吸引除去した。この操作をあと2回繰り返し、洗浄ヒト赤血球を得た。ついで、この洗浄赤血球に注射用蒸留水を添加しつつ、タンジェンシャルフロー型限外濾過膜処理(分画分子量1000kDa)をすることにより、赤血球の溶血によって放出されるヘモグロビンを濾過回収し、赤血球膜成分(ストローマ)を分離除去した。得られた濾液は、ストローマフリーヘモグロビン (stroma free Hb、SFHb)であり、赤血球膜成分は除去されたものの、赤血球内に溶存する水溶性酵素タンパク質はヘモグロビンと共存している。SFHb溶液を10~20g/dL程度に限外濾過膜(分画分子量8kDa)で濃縮したあと、耐熱性密封容器に移し、一酸化炭素ガスを充填して撹拌する操作を繰り返し、オキシヘモグロビンHbO2をカルボニルヘモグロビンHbCOに置換した。プロペラ型撹拌器で穏やかに撹拌しながら、液温を60℃まで上げ、その温度のまま12時間撹拌を続けた。この加熱処理はウィルス不活化工程であるが、この操作によって、夾雑タンパク質は変性不溶化する。そのあと、液温が室温まで戻ったことを確認したのち、遠心分離により変性不溶化したタンパク質を沈殿として除去し、限外濾過膜(分画分子量1000kDa)で処理した。濾過液については、すぐにウィルス除去フィルタ(ナノフィルトレーション処理)を行い、ついで、限外濾過膜(分画分子量8kDa)を用い、塩濃度(Na+濃度をもとにNaCl換算)が0.01%以下になるまで透析を行い、その後濾過濃縮を行い、最終的に40-42g/dLにまで濃縮する。精製物をアニオン交換樹脂処理し、その後負に帯電した孔径0.22μmの滅菌フィルタを透過させ、精製濃縮HbCO溶液を得た。該精製濃縮HbCO溶液は、以下の酵素活性の検討及びHbO2の自動酸化に対する抑制効果のスクリーニングに供するとともに、実施例2の次のカプセル化工程に供した。
【実施例】
【0053】
前記精製濃縮HbCO溶液について、NADH-cytochrome b5 reductaseの活性を、上述のBeutler, E.の方法によってNADH-ferricyanide reducase活性として測定した。NADH含有緩衝液に対し、測定する酵素が含まれる希釈したHb試料を加え、混合した。混合液を30℃10分間静置後、酵素基質であるフェリシアン化カリウム(K3Fe(CN)6)液を加え、酵素反応を開始した。NADHの特性吸収である340nmの1分あたりの吸光度差分の減少反応を測定し、活性単位E(IU/gHb)を求めた。比較の粗製SFHb溶液では、20IU/gHbの活性が認められたが、精製濃縮ヘモグロビンでは、活性が全く認められなかった。精製工程で加熱処理を導入しているため、熱に対して不安定と報告されているNADH-cytochrome b5 reductaseは、変性不溶化して除去されたか、あるいは変性して活性を失ったと考えられた。また、NADPH methemoglobin reductaseやNADPH-flavin reductaseに相当するNADPH diaphoraseの活性を上述のBeutler, E.の方法により測定した。NADPH含有緩衝液に対し、測定する酵素が含まれる希釈した血液試料を加え、混合した。混合液を37℃10分間静置後、酵素基質であるメチレンブルー(MeBl)液を加え、酵素反応を開始した。NADPHの特性吸収である340nmの1分あたりの吸光度差分の減少反応を測定し、反応液中のヘモグロビン濃度1g/dLの変化量に換算して、活性単位E(IU/gHb)を求めた。比較の粗製SFHb溶液では、2.91IU/gHbの活性が認められたが、精製濃縮ヘモグロビンでは、活性が全く認められなかった(0.01IU/gHb以下)。また、精製HbCO溶液について、カタラーゼ活性を、Beutler, E.(RED CELL MTABOLISM: A MANUAL OF BIOCHEMICAL METHOD, Grune &Stratton, Inc. pp.105-106(1987))にしたがって、H2O2に起因する230 nmの吸光度変化から測定したところ、比較の粗製SFHb溶液では、17.5×10IU/1gHbの活性が認められたが、精製濃縮ヘモグロビンでは、活性が全く認められなかった(0.03×10IU/gHb以下)。また、SOD活性の測定には、Pyrogallolを用いた(Marklund, S.及びMarklund, G.(Eur. J. Biochem. 47, 469-474 (1974))、Roth, E. F. Jr.及びGilbert, H. S.( Anal. Biochem. 137, 50-53(1984)))。Pyrogallolは酸素酸化してsuperoxideを生じ、さらに反応して420 nm に吸収をもつ黄色色素になるが、SODはこの反応を阻害する。この阻害作用からSOD酵素活性を測定した。測定検体は、精製HbO2、HbCO、及びmetHb溶液、これらにNADHやL-チロシンを含有させた溶液とした。更に比較として粗製SFHb溶液についても酵素活性を測定した。対照の粗製SFHb溶液では高いカタラーゼ活性及びSOD活性が検出されたが、本実験に使用した精製Hb溶液から調製したHbO2、metHb、HbCOについては酵素活性を一切示さなかった。しかし、NADHとHbO2が共存したときCATとSODの高い疑似活性を示した(表1)。チロシンとHbO2が共存したときも、擬似活性は見られるものの、NADHに比べ、極めて低い結果であった。また、NADHのみでも測定原理上疑似活性を示すが、HbO2が共存する場合に比較して1/10程度の低い活性であった。なお、metHbやHbCOもNADHと共存すると疑似活性が認められたが、わずかであることから、Hbが鉄二価であること、また酸素錯体であることが必要であることが考えられた。また、この疑似活性はNADHの添加量増加とともに高くなる結果を得た。さらに、精製HbCO溶液について、HPLC、等電点電気泳動、SDS-PAGE電気泳動を行ったところ、ヘモグロビン以外の他のタンパク質は一切認められなかったことから、夾雑タンパク質は存在しないことが確認された。
【実施例】
【0054】
【表1】
JP0006831589B2_000002t.gif
【実施例】
【0055】
HbO2の自動酸化に対する各種化合物の抑制効果を検討するために用いた抗酸化剤は、タンパク質としてヒトアルブミン製剤(献血アルブミン25%静注「ベネシス」5g/20mL、日本血液製剤機構)(ALB)、アミノ酸としてL-チロシン、L-アルギニン、L-グルタミン、L-トリプトファン、L-リジン、L-ヒスチジン、L-アスパラギン、L-システイン及びL-メチオニンの9種類、抗酸化剤としてケルセチン及びアスタキサンチンの2種類、水溶性高分子としてPEG2000、PEG400、PEG200及びヒドロキシエチルスターチ、毒性が少ないと思われる抗酸化剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム、D-グルコース、グルコン酸ナトリウム、グリセロール、ニコチンアミド、ATP、NADPH及びNADHであった。NADHはオリエンタル酵母株式会社から購入し、他はすべてSigma-Aldrich(St. Louis, MO, USA)から購入した。HbCO溶液をナス型フラスコに入れ、酸素気流下、可視光(ハロゲンランプ;LPL Videeoligtvl-302、LPLCO., Ltd. Tokyo, Japan)を照射してHbO2に変換した。生理食塩水にて10g/dLになるように希釈した後、HbO2液に前記25種類の抗酸化剤を1g/dL濃度で添加し、37℃にて24時間インキュベートし、メト化率を求めた。メト化率は、可視光吸収スペクトルから求めた。日本分光株式会社の分光光度計(型番V-660)に、光散乱を最小限に制御する装置(積分球ユニットISV-722)を装備し、300nmから500nmのスペクトルの測定を行った。Thumbergキュベット内を窒素ガスで置換し、酸素を除いた状態で、405nm(metHbのλmax)と430nm(deoxyHbのλmax)の比率からメト化率を求めた。
【実施例】
【0056】
【表2】
JP0006831589B2_000003t.gif
【実施例】
【0057】
HbO2の自動酸化に対する前記25種類の抗酸化剤の抑制効果を上記の表2にまとめた。酵素を一切含有しないHbO2は、37℃で24時間インキュベートすると、自動酸化によりメト化率が53%にまで上昇した。アミノ酸9種類を添加するとメト化率が32~43%に抑制された。ヒトアルブミン製剤は32%、PEG2000、PEG400、PEG200、ヒドロキシエチルスターチの4種類は37%~43%であった。その他、ケルセチン、アスタキサンチン、グルコン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ナトリウム、D-グルコース、グリセロール、ニコチンアミド、ATP及びNADPHの9種類は、メト化率が34%~49%程度に抑制された。ところが、NADHの添加のみ17%と、メト化率が著しく低く、優れたメト化抑制機能が認められた。
【実施例】
【0058】
実施例2
【実施例】
【0059】
前記精製濃縮HbCO溶液(41g/dLすなわち6.2mM)10mLに対し、アロステリック因子としてpyridoxal 5'-phosphate (Aldrich社製、PLP)をヘモグロビンに対して等モル量添加した。ついで、NADH(ベーリンガー製、ナトリウム塩)を0、3.1、6.2、12.4又は24.8mM 添加した。それぞれ、ヘモグロビンに対するNADHのモル比が、0、0.5、1.0、2.0又は4.0に相当する。円筒型プラスチック容器(50mL容量)内にて、HbCO溶液に対して混合脂質粉末 (DPPC/cholesterol/ DHSG/ DSPE-PEG5000)を添加し、容器をローラー型シェーカーに載せて穏やかに回転させることで脂質を分散させ、リポソームを形成させ、人工赤血球分散液を簡易的に作成した。超遠心分離(50,000g、1時間)によって人工赤血球を沈降させ、内包されなかったヘモグロビン溶液の存在する上澄みを除去し、沈殿に生理食塩水を添加して人工赤血球を再分散させ、分散液のヘモグロビン濃度を9.9g/dLになるように調節した。分散液を氷冷下、酸素気流下光照射にて常法にもとづき、HbCOをHbO2に変換した。
【実施例】
【0060】
それぞれのNADH内包量の異なる人工赤血球について、37℃恒温槽内に静置し、0、2、6、8、24及び26時間のインキュベーション後に一部を採取してメト化率を計測した。測定装置としては、積分球を内蔵した紫外可視分光光度計(V-660; Jasco Corp.,Tokyo, Japan)を用いた。検体を生理食塩水に希釈し、キュベット内に封入し、窒素バブルして脱酸素化するとデオキシHbとmethemoglobinの二成分系になる。それぞれの最大吸収波長430nm及び405nmの吸光度の比から、メト化率を計算した。その結果、人工赤血球に内包したNADHの濃度が高くなるほど、メト化の進行は遅くなった(図1)。図1のグラフの縦軸はヘモグロビンのメト化率(%)で、横軸はインキュベーション時間である。5本の線はそれぞれ、0、3.1、6.2、12.5及び24mMのNADHを含む人工赤血球のメト化率の経時変化を表す。図1のグラフのメト化率の経時変化から、0、3.1、6.2、12.5及び24mMのNADHを含む人工赤血球の50%メト化時間は、それぞれ、22、35、72、74及び76時間と決定された。図1のグラフをもとに、横軸をNADH添加量、縦軸を24時間後のメト化率のグラフに変換すると、人工赤血球に内包したNADH添加量がヘモグロビンと同モル(6.2mM)程度からメト化が抑えられることが明らかになった(図2)。図2のグラフの縦軸は24時間後のヘモグロビンのメト化率(%)で、横軸は人工赤血球に添加されたNADHの濃度([NADH] in Hb-V)(mM)である。したがって、ヘモグロビンと同モル比程度の以上の量のNADH添加が至適条件と考えられた。
【実施例】
【0061】
比較例2
実施例2の人工赤血球において、PLPを含有せず、ヘモグロビンに対するNADHのモル比を1.0とした人工赤血球を調製した。この人工赤血球について、実施例2に記載のとおり、37℃恒温槽内に静置し一部を採取してメト化率を計測したところ、PLPを含有するものに比較してメト化が速くなる傾向が認められた。
【実施例】
【0062】
実施例3
実施例2で調製した人工赤血球のうち、ヘモグロビンに対するNADHのモル比が1.0の人工赤血球について以下の実験を実施した。
【実施例】
【0063】
(1)血管内皮弛緩因子でもある一酸化窒素(NO)は、ヘモグロビンと速やかに反応し、メト化を促進することが知られている。そこで、NOを発生する試薬NOC7(1-Hydroxy-2-oxo-3-(N-methyl-3-aminopropyl)-3-methyl-1-triazene, 株式会社同仁化学研究所製)を添加した場合のメト化について検討した。光路長1cmのキュベット内に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、GIBCO製、pH 7.4)を3mL、NADHを内包した人工赤血球の分散液(ヘモグロビン濃度が9.9g/dLすなわち1.5mM)を30μL、さらにNOC7(PBS中1.5mM)を30μL加え、混和後、直ちに25℃にてmetHbの吸収波長である630nmの吸光度変化を10分間及び40分間追跡した(図3A及びB)。図3A及びBのグラフの縦軸は630nmの吸光度で、横軸はインキュベーション時間(秒)である。図3A及びBの2本の線は、それぞれ、NADHを内包した人工赤血球の分散液にNOC7を添加した条件でのメト化ヘモグロビンの経時変化(Hb-V+NADH+NOC7)と、NADHを内包しない人工赤血球の分散液にNOC7を添加した条件でのメト化ヘモグロビンの経時変化(Hb-V+NOC7)を表す。NADHを内包することにより、メトヘモグロビン特有の630nmの吸光度の増加がNADHを含まない場合に比較して著しく抑制されており、NO(NOC7)によるメト化促進効果がNADHにより一定量消去され、メト化が抑制されたと考えられた。
【実施例】
【0064】
(2)次に、活性酸素の一種であり、メト化を促進することが知られている過酸化水素H2O2を添加した場合について検討した。光路長1cmのキュベット内に、PBSを3mL、NADHを内包した人工赤血球分散液(ヘモグロビン濃度が9.9g/dLすなわち1.5mM)を30μL、さらにH2O2(1.5mM)を30μL加え、混和後、直ちに25℃にてmetHbの吸収波長である630nmの吸光度変化を10分間及び40分間追跡した(図4A及びB)。図4Aのグラフの縦軸は630nmの吸光度で、横軸はインキュベーション時間(秒)である。図4A及びBの2本の線は、それぞれ、NADHを内包した人工赤血球の分散液にH2O2を添加した条件でのメト化ヘモグロビンの経時変化(Hb-V+NADH+H2O2)と、NADHを内包しない人工赤血球の分散液にH2O2を添加した条件でのメト化ヘモグロビンの経時変化(Hb-V+H2O2)とを表す。NADHを内包することにより、メトヘモグロビン特有の630nmの吸光度の増加がNADHを含まない場合に比較して著しく抑制されており、H2O2によるメト化促進効果がNADHにより一定量消去され、メト化が抑制されたと考えられた。
【実施例】
【0065】
(3)次に、ヘモグロビンの酸化剤として知られる亜硝酸イオン(NO2-)を添加した場合について検討した。光路長1cmのキュベット内に、PBSを3mL、NADHを内包した人工赤血球の分散液(ヘモグロビン濃度が9.9g/dLすなわち1.5mM)を30μL、さらにNaNO2を溶解した溶液(PBS中1.5mM)を30μL加え、混和後、直ちに25℃にてmetHbの吸収波長である630nmの吸光度変化を10分間及び40分間追跡した(図5A及びB)。図5A及びBのグラフの縦軸は630nmの吸光度で、横軸はインキュベーション時間(秒)である。図5A及びBの2本の線は、それぞれ、NADHを内包した人工赤血球の分散液にNaNO2を添加した条件でのメト化ヘモグロビンの経時変化(Hb-V+NADH+NaNO2)と、NADHを内包しない人工赤血球の分散液にNaNO2を添加した条件でのメト化ヘモグロビンの経時変化(Hb-V+NaNO2)とを表す。NADHを内包することにより、メトヘモグロビン特有の630nmの吸光度の増加がNADHを含まない場合に比較して著しく抑制されており、NO2-によるメト化促進効果がNADHにより一定量消去され、メト化が抑制されたと考えられた。
【実施例】
【0066】
実施例4
ヘモグロビンの酸化がNADHの内包によって抑制されたことについて、より詳細を検討するため、カプセルに内包しないヘモグロビン溶液について同様の実験を行った。実施例2の方法で精製された、酵素系を一切含有しないHbCO溶液(42g/dL)について、生理食塩水で4倍に希釈し、酸素気流下、光照射することでHbO2に変換し、次の実験に用いた。
【実施例】
【0067】
(1)まず、NOC7を添加した場合のメト化について検討した。光路長1cmのキュベット内に、PBSを3mL、HbO2溶液(1.5mM)を30μL、NADH溶液(1.5mM)を30μL、さらにNOC7(PBS中1.5mM)を30μL加え、混和後、直ちに25℃にて630nmの吸光度変化を10分間及び40分間追跡した(図6A及びB)。図6A及びBのグラフの縦軸は630nmの吸光度で、横軸はインキュベーション時間(秒)である。図6Aの3本の線は、それぞれ、HbO2とNADHとを含む溶液に更にNOC7を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+NADH+NOC7)と、NADHを含まないHbO2溶液にNOC7を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+NOC7)と、HbO2溶液に対してNADHもNOC7も添加しない場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+water)とを表す。図6Bの2本の線は、それぞれ、HbO2とNADHとを含む溶液に更にNOC7を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+NADH+NOC7)と、NADHを含まないHbO2溶液にNOC7を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+NOC7)とを表す。NADHの共存により、メトヘモグロビン特有の630nmの吸光度の増加がNADHを含まない場合に比較して著しく抑制された。
【実施例】
【0068】
(2)次に、H2O2を添加した場合について検討した。光路長1cmのキュベット内に、PBSを3mL、HbO2溶液(1.5mM)を30μL、NADH溶液(1.5mM)を30μL、さらにH2O2(1.5mM)を30μL加え、混和後、直ちに25℃にて630nmの吸光度変化を10分間及び40分間追跡した(図7A及びB)。図7A及びBのグラフの縦軸は630nmの吸光度で、横軸はインキュベーション時間(秒)である。図7Aの3本の線は、それぞれ、HbO2とNADHを含む溶液にH2O2を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+NADH+H2O2)と、NADHを含まないHbO2溶液にH2O2を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+H2O2)と、HbO2溶液に対してH2O2もNADHも添加しない場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+water)とを表す。図7Bの2本の線は、それぞれ、HbO2とNADHを含む溶液にH2O2を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+NADH+H2O2)と、NADHを含まないHbO2溶液にH2O2を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+H2O2)とを表す。NADHの共存により、メトヘモグロビン特有の630nmの吸光度の増加がNADHを含まない場合に比較して著しく抑制された。
【実施例】
【0069】
(3)次に、NaNO2を添加した場合について検討した。光路長1cmのキュベット内に、PBSを3mL、HbO2溶液(1.5mM)を30μL、NADH溶液(1.5mM)を30μL、さらにNaNO2(PBS中1.5mM)を30μL加え、混和後、直ちに25℃にて630nmの吸光度変化を10分間及び40分間追跡した(図8A及びB)。図8A及びBのグラフの縦軸は630nmの吸光度で、横軸はインキュベーション時間(秒)である。図8Aの3本の線は、それぞれ、HbO2及びNADHを含む溶液にNaNO2を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+NADH+NaNO2)と、NADHを含まないHbO2に対してNaNO2を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+NaNO2)と、HbO2溶液に対してNaNO2もNADHも添加しない場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+water)とを表す。図8Bの2本の線は、それぞれ、HbO2とNADHを含む溶液にNaNO2を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+NADH+NaNO2)と、NADHを含まないHbO2に対してNaNO2を添加した場合のメト化ヘモグロビンの経時変化(HbO2+NaNO2)とを表す。NADHの共存により、メトヘモグロビン特有の630nmの吸光度の増加がNADHを含まない場合に比較して著しく抑制された。
【実施例】
【0070】
実施例5
NADHのメト化抑制のメカニズムを明らかにするため、NADHと酸化剤との反応性を調べた。ヘモグロビンは添加せず、NADHの吸収波長340nmの吸光度変化を追跡した。
【実施例】
【0071】
(1)まず、光路長1cmのキュベット内に、PBSを3mL、NADH溶液(1.5mM)を0.4mL、NOC7(PBS中1.5mM)を0.4mL加え、混和後、直ちに25℃にて340nmの吸光度変化を10分間追跡した(図9)。図9のグラフの縦軸は340nmの吸光度で、横軸はインキュベーション時間(秒)である。図9の2本の線は、それぞれ、NADH溶液に対しNOC7を添加した場合のNADHの経時変化(NADH+NOC7)と、NADH溶液に対してNOC7を添加しない場合のNADHの経時変化(NADH)とを表す。NOC7の存在によりNADHの吸光度は減少しており、NADHとNOが反応していることが明らかになった。したがって、実施例3(1)、実施例4(1)においてNOC7によるメト化促進がNADHの共存によって抑制された結果は、NADHがNOを失活させる作用によってもたらされたものと考えられた。
【実施例】
【0072】
(2)次に、光路長1cmのキュベット内に、PBSを3mL、NADH溶液(1.5mM)を0.4mL、H2O2(PBS中1.5mM)を0.4mL加え、混和後、直ちに25℃にて340nmの吸光度変化を10分間追跡した(図10)。図10のグラフの縦軸は340nmの吸光度で、横軸はインキュベーション時間(秒)である。図10の2本の線は、それぞれ、NADH溶液に対しH2O2を添加した場合のNADHの経時変化(NADH+H2O2)と、NADH溶液に対してH2O2を添加しない場合のNADHの経時変化(NADH)とを表す。H2O2の存在によりNADHの吸光度は減少しており、NADHとH2O2が反応していることが明らかになった。したがって、実施例3(2)、実施例4(2)においてH2O2によるメト化促進がNADHの共存によって抑制された結果は、NADHがH2O2を失活させる作用によってもたらされたものと考えられた。また、実施例3(2)において、HbO2の自動酸化で生じるO2-・が不均化したH2O2をNADHが消去したことにより、メト化速度が遅延されたことが一つの理由として考えられた。しかし、実施例4(2)でのメト化抑制反応における変化幅と比較すると、NADHとH2O2の反応性は高くなく、これだけでは説明が出来ない可能性がある。別の可能性として、HbとNADHが共存することによってH2O2の失活(カタラーゼ活性)が促進され、メト化が抑制される機序が考えられる。
【実施例】
【0073】
(3)次に、光路長1cmのキュベット内に、PBSを3mL、NADH溶液(1.5mM)を0.4mL、NaNO2(PBS中1.5mM)を0.4mL加え、混和後、直ちに25℃にて340nmの吸光度変化を10分間追跡した(図11)。図11のグラフの縦軸は340nmの吸光度で、横軸はインキュベーション時間(秒)である。図11の2本の線は、それぞれ、NADH溶液に対してNaNO2を添加した場合のNADHの経時変化(NADH+NaNO2)と、NADH溶液に対してNaNO2を添加しない場合のNADHの経時変化(NADH)とを表す。NaNO2の存在によりNADHの吸光度は極くわずかに減少しているように見えるが、NOC7、H2O2を添加した場合に比較すると、変化幅は極めて小さい。したがって、NADHとNaNO2の反応性は低いことが明らかになった。したがって、実施例3(3)、実施例4(3)においてNaNO2によるメト化促進がNADHの共存によって抑制された結果は、NADHがNaNO2を直接失活させる作用では無く、別の作用によるものと考えられた。具体的には、NaNO2とHbO2が反応する際に生成するNO、H2O2をNADHが消去するためと考えられた。
【実施例】
【0074】
実施例6
実施例2で精製濃縮したHbCO溶液に対して、アロステリック因子としてpyridoxal 5'-phosphate (Aldrich社製、PLP)をヘモグロビンに対して等モル量添加した。ついで、NADH粉末(オリエンタルバイオ社製)をヘモグロビンに対して、モル比が1.0又は2.0となるように添加、穏やかに撹拌して溶解させた。混合脂質粉末 (DPPC/cholesterol/DHSG/DSPE-PEG5000)を、NADHとPLPが入った濃厚HbCO溶液に添加し、遊星運動を原理とする混錬法によってヘモグロビンをカプセルに内包した(国際公開第WO2012/137834号パンフレット)。混錬法によって得られる粘稠なスラリーに生理食塩水を適量添加し、さらに穏やかに混錬をして分散させ、次いで超遠心分離(50,000g、1時間)により、ヘモグロビンを内包した人工赤血球を沈降させ、上澄みの内包されなかったヘモグロビン溶液を除去した。沈殿に生理食塩水を添加して分散させ、次にナス型フラスコに入れてロータリーエバポレータの装置に装填し、回転させ、洗気びんを通気した酸素を容器内部に吹き付けつつ、容器外部よりナトリウムランプの光を照射し、HbCOをHbO2に変換した。最終的に生理食塩水を添加してヘモグロビン濃度が10g/dLになるように調節し、動物投与試験を行った。
【実施例】
【0075】
Wistar系ラット(雄性, 体重350-450g)をIsoflurane (1-2%、FiO=20%)吸入麻酔とし、大腿動脈、大腿静脈にポリエチレン製カテーテルを挿管した。そして、人工赤血球製剤を静脈内投与した。投与物は、NADHの添加量をヘモグロビンに対してモル比が0、1.0及び2.0とした人工赤血球3種類である。投与量は10mL/kg体重とした。経時的に100μL程度採血し、硝子製のヘマトクリット測定用キャピラリーに導入し、遠心分離をして上澄みに人工赤血球の分散した血漿層を得た。これをTumberg管付きのキュベットに入れ、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)で希釈し、ゴム栓で密封し、針を導入して窒素バブルをして、溶液中の酸素を完全に排除し、deoxyHbとmetHbの2成分系とし、それぞれの最大吸収波長(430nm及び405nm)の吸光度比からメト化率を測定した。その結果を図12に示す。図12のグラフの縦軸はヘモグロビンのメト化率(%)で、横軸はインキュベーション時間である。図12の3本の線は、それぞれ、NADHの添加量をヘモグロビンに対してモル比が2.0とした人工赤血球のヘモグロビンのメト化率の経時変化(Hb-V+2×NADH)と、NADHの添加量をヘモグロビンに対してモル比が1.0とした人工赤血球のヘモグロビンのメト化率の経時変化(Hb-V+1×NADH)と、NADHを含まない人工赤血球のヘモグロビンのメト化率の経時変化(Hb-V)とを表す。図12に示すとおり、NADHを内包した系では、半分程度のメト化抑制効果が認められた。
【実施例】
【0076】
実施例7
実施例1のSOD, CATの疑似活性(表1)について、NADHの代わりにNADPHを添加して同様に実験をしたところ、すべてにおいてNADHと同等の結果が得られた。また、実施例4及び5において、NADHの代わりにNADPHを添加して同様に実験をしたところ、全てにおいてNADHと同等の結果が得られた。NADHとNADPHは構造が類似であることから、反応性は殆ど同じであることがわかった。しかし、NADPHはNADHに比較して化学的に不安定であるため(Wu, J. T., Wu, L. H., and Knight, J. A. (1986) Stability of NADPH: effect of various on the kinetics of degradation. Clin. Chem. 32, 314-319))、実施例1の37℃にて26時間HbO2と共存させる実験において、NADPHのメト化抑制効果はNADHに比較して劣っていたものと考えられた。
【実施例】
【0077】
実施例8
Wistar系ラット(雄性, 体重280-350g)を用いた。実施例6の方法と同様に麻酔をかけ、血管内にカテーテルを導入した。ラットの循環血液量を体重1kgあたり56mLとし、その半量にあたる体重1kgあたり28mLを毎分1mLの速度で脱血した。15分経過後に、アルブミン製剤(献血アルブミン25%静注「ベネシス」5g/20mL、日本血液製剤機構)(ALB)に対し、NADH含有Hb-Vを、ALB:HbV=1.4:8.6の体積比で混合した液を、脱血した量と同量を投与した。投与直後から1時間おきに血液を約100μLずつ採取し、上述の方法により採血し、Hb-Vのメト化率を計測した。ラットは7時間後の採血の後、腹大動脈から放血して安楽死させた。
【実施例】
【0078】
循環血液量の50%を脱血し、出血性ショック状態としたラットに対し、Hb-Vを投与して蘇生した場合、健常ラットに投与した場合に比べメト化速度が速くなった。Hb-Vは無添加に比べメト化は同じようにほぼ半分程度抑制された(図13)。2倍量のNADHを含有させると、更にメト化を抑制させる傾向を示した。また、投与後、ラットは外観上、NADHの有無による違いは見られなかった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3A】
2
【図3B】
3
【図4A】
4
【図4B】
5
【図5A】
6
【図5B】
7
【図6A】
8
【図6B】
9
【図7A】
10
【図7B】
11
【図8A】
12
【図8B】
13
【図9】
14
【図10】
15
【図11】
16
【図12】
17
【図13】
18