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明細書 :結晶アレイ検出器、小角散乱測定装置、及び小角散乱測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-078593 (P2019-078593A)
公開日 令和元年5月23日(2019.5.23)
発明の名称または考案の名称 結晶アレイ検出器、小角散乱測定装置、及び小角散乱測定方法
国際特許分類 G01N  23/202       (2006.01)
G01N  23/201       (2018.01)
FI G01N 23/202
G01N 23/201
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2017-204584 (P2017-204584)
出願日 平成29年10月23日(2017.10.23)
発明者または考案者 【氏名】小泉 智
【氏名】能田 洋平
出願人 【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100107766、【弁理士】、【氏名又は名称】伊東 忠重
【識別番号】100070150、【弁理士】、【氏名又は名称】伊東 忠彦
審査請求 未請求
テーマコード 2G001
Fターム 2G001AA01
2G001AA04
2G001BA14
2G001CA01
2G001CA04
2G001DA01
2G001DA06
2G001EA01
2G001KA01
2G001LA01
2G001LA05
2G001NA01
2G001SA01
要約 【課題】広範囲の大きさにわたって構造体の測定と解析を可能にする。
【解決手段】結晶アレイ検出器は、真空チャンバと、前記真空チャンバ内で光軸に沿って配置され、それぞれが前記光軸に対して異なる角度で保持される複数のアナライザ結晶と、前記アナライザ結晶の各々で散乱された放射線を検出する検出器と、を有し、前記アナライザ結晶の各々は、外部の試料で散乱され前記真空チャンバに入射した散乱放射線の中から、特定の波長と散乱角を選択して散乱する。
【選択図】図6
特許請求の範囲 【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内で光軸に沿って配置され、それぞれが前記光軸に対して異なる角度で保持される複数のアナライザ結晶と、
前記アナライザ結晶の各々で散乱された放射線を検出する検出器と、
を有し、
前記アナライザ結晶の各々は、外部の試料で散乱され前記真空チャンバに入射した散乱放射線の中から、特定の波長と散乱角を選択して散乱することを特徴とする結晶アレイ検出器。
【請求項2】
前記アナライザ結晶の格子面間隔をd、i番目のアナライザ結晶の前記角度をθとすると、
n×λ=2d*sinθ
を満たす波長λの前記放射線が前記アナライザ結晶で散乱され、nは1/k(kは自然数)であることを特徴とする請求項1に記載の結晶アレイ検出器。
【請求項3】
前記アナライザ結晶の各々は、前記角度が個別に制御されるように前記真空チャンバ内で保持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶アレイ検出器。
【請求項4】
前記検出器は、前記アナライザ結晶の配列長よりも長い有感長を有する棒状の検出器であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶アレイ検出器。
【請求項5】
試料を保持する試料ホルダと、前記試料で散乱された散乱放射線を検出する小角散乱検出器とを有する装置本体と、
前記装置本体の後段に配置される結晶アレイ検出器と、
を有し、
前記小角散乱検出器は、前記装置本体に入射する入射放射線の光軸上に開口を有し、
前記結晶アレイ検出器は、前記散乱放射線のうち、前記開口を通過して前記結晶アレイ検出器に入射した超小角の散乱放射線を検出することを特徴とする小角散乱測定装置。
【請求項6】
前記結晶アレイ検出器は、前記光軸に沿って配置される複数のアナライザ結晶を有し、前記複数のアナライザ結晶の入射面は、前記光軸に対してそれぞれ異なる角度で保持されていることを特徴とする請求項5に記載の小角散乱測定装置。
【請求項7】
前記結晶アレイ検出器は、前記複数のアナライザ結晶の各々で散乱された前記超小角の散乱放射線を検出する検出器を有することを特徴とする請求項6に記載の小角散乱測定装置。
【請求項8】
前記小角散乱検出器は、第1の方向に長軸を有する複数の棒状検出器で形成される第1検出層と、前記第1の方向と直交する第2の方向に長軸を有する複数の棒状検出器で形成される第2検出層とを少なくとも有し、前記開口は、前記第1検出層と前記第2検出層を貫通していることを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載の小角散乱測定装置。
【請求項9】
前記装置本体の入射側に配置されるコリメータ、
をさらに有し、
前記コリメータは、前記開口に照準を合わせていることを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記載の小角散乱測定装置。
【請求項10】
試料に放射線を照射し、
前記試料で小角散乱された散乱放射線を、開口を有する第1検出器で検出し、
前記散乱放射線のうち、前記開口を通過した超小角の散乱放射線を、複数の結晶が光軸に沿って配列された第2検出器で検出する、
ことを特徴とする小角散乱測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、小角散乱測定に関し、特に、結晶アレイ検出器を用いた超小角散乱測定に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の非破壊検査に、X線、電子線、中性子線等の放射線が用いられている。X線は原子の持つ電子によって散乱されるのに対し、電荷を持たない中性子線は、原子核によって散乱される。X線小角散乱法は原子番号の大きい原子ほど感度が高くなるが、軽元素(水素等)の中性子に対する散乱能は、原子番号の大きな元素とほぼ同じオーダーの大きさである。
【0003】
中性子散乱を用いた測定と解析は、水素原子をはじめとする質量の軽い元素の解析に有効であり、タンパク質(生体高分子)の形態変化に起因する疾患の診断などに適用されている。一方、生体分子よりも大きな高分子の構造や空間分布を特定する際にも、中性子小角散乱測定が用いられ得る。散乱ベクトルの絶対値(または波数、以後これを「q」と呼ぶ)qの範囲を最適化して散乱データを得ることで、ゴム材料の充填材の形状と配置を効率良く特定する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2013-108800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、中性子の小角散乱測定は、数ナノから数百ナノメータの内部構造の解析に用いられている。ミクロン領域の物質の解析には、通常は電子線や波長の長いレーザ光を用いた光学測定が適用される。しかし、測定対象物の種類や光学系の構成によっては、透過力の小さい電子線や長波長のレーザ光は試料を透過することができない。
【0006】
構造体の空間周期と散乱ベクトルの大きさは、反比例の関係にある。散乱ベクトルqが大きいほど、微細な構造の解析が可能である。逆に、散乱ベクトルq(絶対値)を小さくする方向に拡張できれば、従来の小角散乱測定装置のプローブをそのまま用いて、より大きな空間構造を解析することができる。これは、中性子の小角散乱測定だけでなく、X線等の電磁放射線を用いた小角散乱測定にも当てはまる。
【0007】
本発明は、広範囲の大きさにわたって構造体の測定と解析を可能にする超小角散乱測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、超小角の散乱を検出して、散乱ベクトルqの下限(最小値)を、より小さい方向に拡張する。具体的には、結晶アレイを用いた検出器を用いて、超小角で散乱された放射線を精度良く検出することで、広範囲の大きさの構造体の解析を実現する。
【0009】
本発明の第1の側面では、結晶アレイ検出器は、
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内で光軸に沿って配置され、それぞれが前記光軸に対して異なる角度で保持される複数のアナライザ結晶と、
前記アナライザ結晶の各々で散乱された放射線を検出する検出器と、
を有し、
前記アナライザ結晶の各々は、外部の試料で散乱され前記真空チャンバに入射した散乱放射線の中から、特定の波長と散乱角を選択して散乱する。
【0010】
この構成により、散乱ベクトルqが小さい領域で大きな構造の解析が可能になる。
【0011】
発明の第2の側面では、結晶アレイ検出器を用いた小角散乱測定装置は、
試料を保持する試料ホルダと、前記試料で散乱された散乱放射線を検出する小角散乱検出器とを有する装置本体と、
前記装置本体の後段に配置される結晶アレイ検出器と、
を有し、
前記小角散乱検出器は、前記装置本体に入射する入射放射線の光軸上に開口を有し、
前記結晶アレイ検出器は、前記散乱放射線のうち、前記開口を通過して前記結晶アレイ検出器に入射した超小角の散乱放射線を検出する。
【0012】
この構成により、測定可能な対象物の大きさの範囲を拡張することができる。
【発明の効果】
【0013】
上記の構成により、広範囲の大きさにわたって物質の測定と解析が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態の小角散乱測定装置の上面模式図である。
【図2】装置本体の模式的な斜視図である。
【図3】小角散乱検出器の模式図である。
【図4】飛行時間法を説明する概念図である。
【図5】飛行時間法を説明する概念図である。
【図6】実施形態の結晶アレイ検出器の概略上面図である。
【図7】結晶アレイ検出器による超小角散乱検出の原理を説明する図である。
【図8】結晶アレイ検出器による中性子カウント数を示す図である。
【図9】小角散乱検出器での測定結果を示す図である。
【図10】結晶アレイ検出器を配置したことによる解析範囲(散乱ベクトル範囲)の拡張を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、実施形態の小角散乱測定装置1の上面から見た構成模式図である。小角散乱測定装置1は、中性子などの粒子放射線を用いた小角散乱測定装置であってもよいし、X線等の高輝度な電磁放射線を用いた小角散乱測定装置であってもよい。以下の例では、中性子小角散乱を例にとって説明する。

【0016】
小角散乱測定装置1は、装置本体10と、中性子線の入射側からみて装置本体10の後方に配置される結晶アレイ検出器20を有する。装置本体10の入射側に、入射中性子束を平行に絞り込むコリメータ5が配置されていてもよい。

【0017】
装置本体10は、一例として、後方散乱を検出する後方散乱検出バンク13、光軸と直交する面内方向の散乱を検出する90°検出バンク14、前方散乱を検出する低角検出バンク15、及び小角散乱を検出する小角散乱検出器11を有する。90°検出バンク14の試料散乱槽19の内部に試料ホルダ12が配置され、試料30を保持する。

【0018】
実施形態の特徴として、装置本体10の後端面に、開口111を有する小角散乱検出器11が配置され、小角散乱検出器11のさらに後方に、結晶アレイ検出器20が配置されている。結晶アレイ検出器20は、真空状態を保った状態で小角散乱検出器11の開口111に接続されている。

【0019】
開口111は、開口の中心が光軸とほぼ一致するように、小角散乱検出器11の中央部に形成され、小角散乱検出器11で検出されない超小角の散乱中性子を通過させる。小角散乱検出器11は、開口111以外の領域で小角散乱を検出する。小角散乱とは、一般的に散乱角(2θ)が5°~6°以下の散乱をいう。開口111は、小角散乱検出器11の不感帯に対応する位置に設けられており、その径はたとえば100mmである。

【0020】
小角散乱検出器11の開口111を通過するのは、非常に小さい散乱角で試料30から散乱された中性子か、または散乱(または回折)をせずに試料30を透過した中性子線である。ここでは、2θ方向への非常に小さい角度での散乱を便宜上、「超小角散乱」と称する。

【0021】
装置本体10の後方に結晶アレイ検出器20を配置することで、小角散乱検出器11で検出されなかった超小角散乱中性子を検出して、小角散乱測定のデータ点の範囲を超小角領域へ拡張する。計測範囲の拡張の方向は、散乱ベクトルqの大きさの下限が拡がる方向であり、解析可能な空間周期dを大きくする方向である。小角散乱検出器11と、後段の結晶アレイ検出器20の具体的な構成と検出原理については、後述する。

【0022】
測定動作では、中性子発生ターゲット2から出力された中性子束は、中性子導管3によって小角散乱測定装置1の方向へ導かれ、コリメータ5でコリメートされて装置本体10に入射する。中性子源としては、放射性同位体を利用するもの、原子炉を用いるもの、加速器を利用するものなど、任意の中性子源を用いることができる。ここでは一例として、シンクロトロンで加速された陽子を、水銀(Hg)の中性子発生ターゲット2に衝突させて、核破砕反応により中性子を生成する。

【0023】
コリメータ5は、たとえば、中性子に対して不透過な層(たとえばシリコンウエハ上に塗布した酸化ガドリニウム)と透過層(たとえばシリコンウエハや空気層)を交互に配置した多層コリメータであり、中性子束の断面形状を整形して、平行なビームを生成する。一例として、角柱、円柱等の不透明材をビーム軸に沿って、井桁型、六角形型等に組み合わせることで、所望の開口を持った多層コリメータを形成することができる。

【0024】
コリメートされた中性子束は、装置本体10内で試料ホルダ12に保持された試料30に入射する。試料30は、試料面に対する入射中性子線の角度θが非常に浅い角度となるように保持されている。入射中性子は、ブラッグの回折条件を満たす場合は、散乱角2θで多様な方向に散乱される。実際には、原子の配置によって決まる方向への回折が支配的であるが、全方向への散乱を検出することで、検出精度を高める。ブラッグ条件を満たさない場合は、中性子は散乱されずにそのまま試料30を透過する。

【0025】
コリメータ5は、小角散乱検出器11の開口111の中心に照準を合わせており、超小角で散乱した散乱中性子が、開口111を通って後段の結晶アレイ検出器20に入射するように小角散乱測定装置1は設計されている。装置本体10で後方散乱、直交散乱、前方散乱、及び小角散乱を含む全散乱が検出される。装置本体10の不感帯を通過した超小角散乱中性子は、後段の結晶アレイ検出器20で検出される。結晶アレイ検出器20をそのまま透過した中性子は、ビームダンパ7で吸収される。

【0026】
装置本体10と結晶アレイ検出器20は、プロセッサ50に接続されており、装置本体10での検出結果と、結晶アレイ検出器20での検出結果が、それぞれプロセッサ50に供給される。プロセッサ50は検出結果を解析して、試料30の内部構造、内部分布等を解析する。

【0027】
図2は、装置本体10の概略斜視図である。線源から見て、装置本体10の後方に結晶アレイ検出器20が配置されている。装置本体10の後方散乱検出バンク13は、中性子束の入射側に後方散乱検出器16を有する。90°検出バンク14は、その周囲に直交散乱検出器17を有する。低角検出バンク15は、90°検出バンク14の後方に位置し、側面に沿って低角散乱検出器18を有する。低角散乱検出器18は、試料30から前方に散乱された中性子を検出する。

【0028】
小角散乱検出器11は、装置本体10の後端面で小角散乱された中性子を検出する。小角散乱検出器11で検出されない超小角の散乱中性子は、開口111から後方の結晶アレイ検出器20に入射する。

【0029】
後方散乱検出器16、直交散乱検出器17、低角散乱検出器18、及び小角散乱検出器11の出力は、それぞれプロセッサ50に接続されている。プロセッサ50は、後方散乱検出器16、直交散乱検出器17、低角散乱検出器18、及び小角散乱検出器11からのデータを、個別に解析することも、統合して解析することもできる。

【0030】
装置本体10の各バンクで後方散乱、直交散乱、及び前方散乱を検出することで、散乱ベクトルqが5nm-1(0.5Å-1)以上の測定範囲がカバーされる。以下で説明するように、小角散乱検出器11を設けることで、散乱ベクトルqが7×10-2nm-1~5nm-1(0.007Å-1~0.5Å-1)の範囲をカバーすることができる。さらに、超小角の散乱を検出する結晶アレイ検出器20はq≦7×10-2nm-1の範囲をカバーすることができる。散乱角の小さいところほど、大きな空間構造を反映している。また、入射中性子の波長が長いほど、大きな空間構造を測定できる。

【0031】
散乱ベクトルqは、
q=(4π/λ)sinθ (1)
で表される。λは中性子の波長、θは散乱角の1/2である。散乱角(2θ)は、入射線の透過方向と散乱方向が成す角度である。加速型の中性子束の場合、白色中性子であり、多様な波長の中性子が含まれている。

【0032】
ブラッグの回折条件は、
2d*sinθ=λ (2)
で表され、試料30の空間周期dの構造が、2θ方向の散乱に寄与するときの条件を表わしている。

【0033】
式(1)と式(2)から、
q=2π/d (3)
が導かれる。qが大きくなるほど、空間周期dは小さくなり、微細な構造を解析することができる。

【0034】
散乱ベクトルqの大きさを小さくすることで、より大きな空間サイズ、たとえばミクロンオーダーの大きさの構造体を解析することができる。式(1)から、θが小さいほど、すなわち2θが小さいほど散乱ベクトルqは小さくなる。

【0035】
図1の構成では、装置本体10の後端の小角散乱検出器11で小角散乱を検出し、小角散乱検出器11の後段の結晶アレイ検出器20で、超小角散乱を検出する。これにより、同じ装置で同じ中性子プローブを用いて、広いqの範囲で測定及び解析が可能になる。

【0036】
図3は、小角散乱検出器11の模式図である。小角散乱検出器11は、多数の棒状の中性子検出器112を多層に組み合わせて形成されている。図3の例では、棒状の中性子検出器112は三層に組み立てられ、中央に開口111を露出している。一層目は、長軸が装置の垂直断面の横方向に延びる中性子検出器112aで形成されている。二層目は、長軸が装置の垂直断面の縦方向に延びる中性子検出器112bで形成されている。三層目は、長軸が装置の垂直断面の横方向に延びる中性子検出器112cで形成されている。開口111を除いて、隙間なく中性子検出器112a~112cを並べることで、小角散乱された中性子を効率良く検出する。

【0037】
中性子検出器112の内部には、中性子と相互作用(核反応)するガスが封入されている。ここでは、3Heガスを封入したHe検出器を用いるが、これに限定されず、リチウム(Li)、ボロン(B)を中性子検出物質として含む検出器を用いてもよい。中性子検出器112の中心に電極が通っており、電極と容器内壁の間に電圧が印加されている。3Heガスを用いる場合は、中性子と3Heの衝突で生じる荷電粒子(プロトン)により電離された電子が電界により電極に惹きつけられて、電流が流れる。

【0038】
小角散乱検出器11の出力はプロセッサ50に接続されており、飛行時間法により散乱強度が計測される。中性子の波長λ(すなわちエネルギー)は、中性子の飛行時間、すなわち中性子の出力時刻と検出時刻の時間差から算出される。

【0039】
棒状の中性子検出器112にはそれぞれ識別番号が与えられており、検出位置が特定される。さらに、中性子検出器112の電極の両端の出力差から、その中性子検出器112での一次元方向の検出位置が特定される。試料30の位置から小角散乱検出器11までの距離はあらかじめわかっており、検出位置により散乱角(2θ)が特定される。波長λと角度θがわかれば、式(1)から散乱ベクトルqが算出され、測定された散乱強度を、散乱ベクトルqの関数としてプロットすることができる。

【0040】
図4と図5は、飛行時間法による中性子測定の概念図である。イオン源から陽子を加速して、たとえば25Hz(1/40ms)で中性子発生ターゲット2に衝突させる。衝突により、中性子発生ターゲット2からパルス中性子が出力される。このパルス中性子は、図4に示すように、連続したエネルギー分布(速度分布)を持ったパルスである。

【0041】
線源(中性子発生ターゲット2)から試料30までの距離をL1、試料30から小角散乱検出器11の各中性子検出器112までの距離をL2とする。中性子発生ターゲット2での中性子発生タイミングと検出タイミングがわかれば、中性子の飛行時間がわかる。距離L1とL2はあらかじめ設計により設定されている。飛行時間と飛行距離から、検出された中性子の速度、すなわちエネルギーがわかる。

【0042】
なお、試料30で散乱された中性子のうち、超小角で散乱された散乱中性子は、小角散乱検出器11の開口111を通過し、後述する原理により結晶アレイ検出器20で検出される。

【0043】
図5を参照すると、たとえば25Hzで線源からパルス中性子束が出力される。中性子束に含まれる中性子のエネルギー(波長)によって、中性子検出器112に到着する中性子の時間が異なる。高エネルギー(短波長)の中性子は、先に中性子検出器112に到着し、低エネルギー(長波長)の中性子は、遅れて中性子検出器112に到着する。図5において、中性子の出力パルスから検出位置へ延びる斜めの線分の傾斜が、中性子の速度を示している。パルス発生時刻と検出時間をモニタすることで、検出された中性子のエネルギー、すなわち波長を知ることができる。

【0044】
図5では、1回のパルスごとに中性子の検出時間を計測するシングルフレームモードで測定を行っているが、中性子のエネルギー分布の幅が大きいときは、パルス間隔よりも検出時間の遅延のほうが大きくなり得る。その場合は、ひとつおきにパルス中性子をマスキングして、ダブルフレームモードで動作させてもよい。

【0045】
図6は、実施形態の結晶アレイ検出器20の上面図である。小角散乱検出器11の開口111を通過した中性子は、結晶アレイ検出器20に入射する。結晶アレイ検出器20は真空チャンバ25を有し、真空チャンバ25内で、光軸に沿って複数の結晶が配列されている。結晶は、たとえば長方形、正方形等に加工されたシリコン結晶板である。この例では、10枚のシリコン結晶21-1~21-10(以下、適宜「シリコン結晶21」と総称する)が光軸に沿って配置されている。シリコン結晶のサイズは、たとえば100mm×50mm×0.5mmである。シリコン結晶21-1~21-10の各々は、ゴニオメータ等の駆動手段に接続されたホルダに保持されており、プロセッサ50によってその角度が個別に調整可能である。

【0046】
結晶アレイ検出器20の内側の側壁には、シリコン結晶21-1~21-10の配列と平行に検出器22が配置されている。シリコン結晶21-1~21-10の入射面は、光軸に対してそれぞれ異なる角度で傾斜している。シリコン結晶21-1~21-10の各々で散乱された中性子は、検出器22で検出される。

【0047】
検出器22は、たとえば内径が12.5mm、有感長が600mmの棒状のHe検出器である。検出器22の有感長はシリコン結晶21-1~21-10の配列長よりも長く、検出器22において、一次元方向に中性子の検出位置を特定することができる。結晶アレイ検出器20の内面は、検出器22を除いて、ゴム等の中性子吸収材で覆われている。

【0048】
中性子は電荷を持たないため、物質への透過性に優れる。シリコンの完全結晶では、中性子はほぼ100%の透過率で透過する。ただし、中性子がシリコンを通過する際に、結晶面の状態(格子面間隔と格子面に対する中性子線の入射角度θ)と、中性子線の波長λがブラッグの回折条件(2d*sinθ=λ)を満たす場合は、中性子線の一部が2θの方向に回折(散乱)する。

【0049】
シリコン結晶21に入射するのは、試料30で散乱された中性子である。シリコン結晶21は、試料30で散乱された中性子のうち、特定のエネルギーのものだけを選別するアナライザとして機能する。

【0050】
シリコンの(111)面の格子面間隔は、ブラッグの回折条件の空間周期dに対応し、約0.31nmである。入射角度θは、光軸に対するシリコン結晶21の入射面の角度で決まる。結晶アレイ検出器20に入射した超小角の散乱中性子のうち、2d*sinθ=λを満たす波長(エネルギー)の中性子は、シリコン結晶21で散乱されて検出器22で検出される。ブラッグの条件を満たさない(オフブラッグ条件の)中性子は、シリコン結晶21をそのまま透過する。

【0051】
複数のシリコン結晶21-1~21-10を光軸に沿って異なる角度で直列に並べて結晶アレイを構成することで、試料30により超小角で散乱された中性子のうち、異なる回折条件を満たす中性子を順次検出することができる。

【0052】
異なる回折条件とは、上述のように、波長λと散乱角2θの2つのパラメータの組み合わせであり、多種多様な組み合わせがある。異なる角度で直列に配置された結晶アレイによって、異なる波長の散乱中性子が順次、検出器22で検出される。

【0053】
検出器22の出力はプロセッサ50に接続されており、小角散乱検出器11と同様に散乱強度(カウント数)が計測され、飛行時間法で中性子の波長λが特定される。検出器22での検出位置から散乱角2θがわかるので、散乱ベクトルqが求められる。

【0054】
図7は、結晶アレイ検出器20による超小角散乱検出の原理を説明する図である。図7では図示の便宜上、5枚のシリコン結晶21-1~21-5を用いて説明する。シリコン結晶21-1~21-5の入射面は、中性子線の光軸に対してそれぞれ異なる角度θ、θ、θ、θ、θで保持されている。

【0055】
各シリコン結晶21-iで散乱される中性子の散乱ベクトルqは、
=(4π/λ)sinθ (4)
で表される。

【0056】
シリコン結晶21-3に着目すると、光軸に対してθ=49.95°の角度で保持されており、格子面間隔(空間周期d)は0.31nmである。式(2)は正確には、
2d*sinθ=nλ (2A)
と記載される。ここで、n=1,1/2,1/3,1/4,…であり、高調波の成分を表わす。

【0057】
シリコン結晶21-3で散乱され検出器22で検出される中性子の波長λは、n=1のとき、0.5nmと見積られる。散乱ベクトルqは、算出された波長λと中性子の入射角θから、q=(4π/λ)sinθで求められる。

【0058】
検出器22の中心を通る電極(ワイヤ)の有感長を1に規格化すると、電極の両端で検出される電荷の比Q1/Q2は、x/(1-x)である。シリコン結晶21-3で散乱された中性子の検出位置x3は、Q1/(Q1+Q2)で求められ、どのシリコン結晶21で散乱されたのかを特定できる。角度θと波長λが分かれば、散乱強度を散乱ベクトルqの関数としてプロットすることができる。

【0059】
検出位置xの特定は、電極両端の電荷の比に替えて、電極両端での電気信号発生の時間差を用いてもよい。あるいは、各シリコン結晶21の直前に、複数の縦方向のスリットを有するカドミウム(Cd)製のスリット板を配置して、中性子の軌道を特定することで検出位置を決定してもよい。

【0060】
図8は、シリコン結晶21-3で散乱された中性子の計測結果を示す。横軸は飛行時間(マイクロ秒)であり、中性子の波長に比例する。縦軸は、中性子のカウント数である。中央の最も大きなピークが、基本波のカウント数である。第2高調波(λ/2)は消滅して、現れていない。飛行時間が短い方(横軸の左側)に向かって、第3高調波(λ/3)、第4高調波(λ/4)、第5高調波(λ/5)が検出されている。光軸に対して所定の角度に傾けられたひとつのシリコン結晶21で、対応する波長の基本波とその高調波を取り出すことができる。基本波は、大きな構造の解析に寄与する。高調波成分は、小さな構造の解析精度の向上に寄与する。

【0061】
図9は、装置本体10の小角散乱検出器11による検出結果を示す。試料30として、高分子(ブロックポリマー)を用いている。横軸は散乱ベクトルq(Å-1)、縦軸は散乱強度S(q)である。散乱ベクトルqが0.007Å-1~0.5Å-1(7×10-2nm-1~5nm-1)の範囲で、散乱スペクトルが得られている。これは波長λが1Å(0.1nm)から10Å(1nm)の範囲に相当する。

【0062】
散乱体の形状(球)を表わすq-4の依存性は、0.05Å-1~0.2Å-1の領域に現れている。0.05Å-1よりも低いq側のいくつかのピークは試料の内部構造の周期性を表わしている。小角散乱検出器11を配置することで、大きさ(空間周期d)が数100nmの物質の形状と内部構造を解析できる。

【0063】
図10は、結晶アレイ検出器20を追加したことによる解析範囲の拡張効果を示す図である。図10の破線で示されている散乱カーブが、結晶アレイ検出器20による検出結果を示す。プロセッサ50にて、波長λと角度θで決まる散乱ベクトルqごとに散乱強度(中性子のカウント数)を記録することで、破線の散乱カーブが得られる。

【0064】
結晶アレイ検出器20を組み合わせることで、超小角散乱による中性子が検出され、散乱ベクトルqの下限は、q≦0.0001Å-1(q≦1×10-3nm-1)に拡張される。qの大きさの最も小さい側でのなだらかなカーブは、粒子の重心周りの大きさ(回転半径)に関する情報を表わす。小角散乱検出器11と結晶アレイ検出器20を併用することで、同じ中性子プローブ(パルス中性子)を用いて、比較的大きな構造体の形状、大きさ、内部構成を解析することができる。

【0065】
小角散乱は、一般には生体分子の構造(たんぱく質中の水素分子の位置)や、無機の結晶構造などの微細な構造の解析に適している。実施形態の小角散乱測定装置1を用いることで、測定と解析の範囲が拡張され、より大きな空間構造の物資の解析に併用することができる。

【0066】
たとえば、タイヤ等のゴム製品には、機械的強度の付与、紫外線による劣化防止等の目的で、カーボンブラック等の粒子が充填されている。不透明な厚いゴム製品では、電子線や長波長のレーザ光線が透過しないが、小角散乱測定装置1の中性子プローブ(パルス中性子)を用いて、ミクロンオーダーの径を有するカーボンブラック粒子の分布状態を解析することができる。

【0067】
以上、特定の実施例に基づいて説明してきたが、本発明は上述した例に限定されない。たとえば、結晶アレイ検出器20を真空接続管で着脱可能にして、必要に応じて装置本体10に接続してもよい。結晶アレイ検出器20は、小角散乱検出器が配置される測定チャンバの一部に不感帯を有してビームダンパが設けられる任意の散乱測定装置に適用することができる。

【0068】
結晶アレイ検出器20は、中性子散乱測定の用途に限定されず、高輝度なX線(放射光)と超薄膜な結晶を組み合わせて、X線小角散乱測定と併用する可能である。試料30によって超小角で散乱されたX線を、その波長(エネルギー)ごとに各アナライザ結晶(たとえばシリコン結晶21)で選択して検出器22で検出してもよい。この場合、検出器22に封入されるガスとして、アルゴン(Ar)ガスやメタンガスを用いてもよいし、液体検出器、半導体検出器などを用いてもよい。

【0069】
結晶アレイ検出器20でアナライザとして用いられる結晶は、Si結晶に限定されず、欠陥の少ない高純度のゲルマニウム(Ge)結晶板を用いてもよい。アレイを構成する結晶板の数と配置間隔は、検出器の有感長、波長分離の細かさ等によって適宜設計される。

【0070】
実施形態の小角散乱測定装置1を用いることで、広いq範囲をカバーし、ナノレベルから数ミクロンにわたって構造体の測定と解析が可能になる。
【符号の説明】
【0071】
1 小角散乱測定装置
2 中性子発生ターゲット
5 コリメータ
7 ビームダンパ
10 装置本体
19 試料散乱槽
11 小角散乱検出器(第1検出器)
111 開口
112 中性子検出器
12 試料ホルダ
20 結晶アレイ検出器(第2検出器)
21、21-1~21-10 シリコン結晶(アナライザ結晶)
22 検出器
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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