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明細書 :積層体とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-145477 (P2019-145477A)
公開日 令和元年8月29日(2019.8.29)
発明の名称または考案の名称 積層体とその製造方法
国際特許分類 H01M   4/131       (2010.01)
B32B   9/00        (2006.01)
H01M   4/48        (2010.01)
H01M   4/36        (2006.01)
H01M   4/38        (2006.01)
H01M   4/1391      (2010.01)
H01G  11/50        (2013.01)
H01G  11/46        (2013.01)
H01G  11/86        (2013.01)
H01G  11/06        (2013.01)
FI H01M 4/131
B32B 9/00 A
H01M 4/48
H01M 4/36 B
H01M 4/36 E
H01M 4/38 Z
H01M 4/1391
H01G 11/50
H01G 11/46
H01G 11/86
H01G 11/06
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2018-031293 (P2018-031293)
出願日 平成30年2月23日(2018.2.23)
発明者または考案者 【氏名】間宮 幹人
【氏名】秋本 順二
出願人 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
審査請求 未請求
テーマコード 4F100
5E078
5H050
Fターム 4F100AA20
4F100AA20B
4F100AA20D
4F100AA37
4F100AB01A
4F100AB17
4F100AB40
4F100AK01B
4F100AK45
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DE01
4F100DE01B
4F100DE01D
4F100EH46
4F100EH46B
4F100EH66
4F100EH66D
4F100EJ12D
4F100GB41
4F100JA12B
4F100JA12D
4F100JG01
4F100JG01A
4F100JG01B
4F100JG01C
4F100JG10
5E078AA01
5E078AA05
5E078AA11
5E078AB06
5E078BA30
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA15
5H050AA19
5H050BA17
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050FA02
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA13
5H050GA22
5H050GA24
5H050HA04
5H050HA05
要約 【課題】高容量で、安全性、経済性、およびサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池の負極に用いる積層体を提供する。
【解決手段】積層体は、導電性基材と、導電性基材上に設けられた複合層を有している。複合層は、複数の酸化ケイ素の粒子と、複数の酸化ケイ素の粒子の隙間に存在する導電性物質を備えている。酸化ケイ素の粒子の平均粒径は1.0μm以下である。積層体は、複合層上に設けられ、導電性物質を含有する導電層をさらに有している。導電層の厚さは20μm以下である。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
導電性基材と、
前記導電性基材上に設けられ、平均粒径1.0μm以下の複数の酸化ケイ素の粒子と、前記複数の酸化ケイ素の粒子の隙間に存在する導電性物質とを備える複合層と、
を有する積層体。
【請求項2】
請求項1において、
前記酸化ケイ素が一酸化ケイ素である積層体。
【請求項3】
請求項1において、
前記複数の酸化ケイ素の粒子が、非晶質酸化ケイ素の粒子とケイ素の粒子の混合物である積層体。
【請求項4】
請求項1において、
前記酸化ケイ素が非晶質酸化ケイ素である積層体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかにおいて、
前記複合層上に設けられ、前記導電性物質を含有する導電層をさらに有する積層体。
【請求項6】
請求項5において、
前記導電層の厚さが20μm以下である積層体。
【請求項7】
蒸着またはスパッタリングによって、複数の酸化ケイ素の粒子を含む酸化ケイ素層を導電性基材上に形成する成膜工程と、
導電性物質と結着剤とを含有する混合物を前記酸化ケイ素層上に塗布し、前記酸化ケイ素層に前記導電性物質を浸透させるとともに、前記酸化ケイ素層上に前記導電性物質を含有する導電層を形成する塗布工程と、
を有する積層体の製造方法。
【請求項8】
蒸着またはスパッタリングによって、複数の酸化ケイ素の粒子を含む酸化ケイ素層を導電性基材上に形成する成膜工程と、
前記酸化ケイ素層を酸化して非晶質酸化ケイ素層に変換する酸化工程と、
導電性物質と結着剤とを含有する混合物を前記非晶質酸化ケイ素層上に塗布し、前記非晶質酸化ケイ素層に前記導電性物質を浸透させるとともに、前記非晶質酸化ケイ素層上に前記導電性物質を含有する導電層を形成する塗布工程と、
を有する積層体の製造方法。
【請求項9】
蒸着またはスパッタリングによって、複数の酸化ケイ素の粒子を含む酸化ケイ素層を導電性基材上に形成する成膜工程と、
前記酸化ケイ素層を加熱して非晶質酸化ケイ素およびケイ素から構成される混合層に変換する加熱工程と、
導電性物質と結着剤とを含有する混合物を前記混合層上に塗布し、前記混合層に前記導電性物質を浸透させるとともに、前記混合層上に前記導電性物質を含有する導電層を形成する塗布工程と、
を有する積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項7から9のいずれかにおいて、
前記酸化ケイ素が一酸化ケイ素である積層体の製造方法。
【請求項11】
正極と、請求項1から6のいずれかの積層体を備える負極と、電解質とを有するリチウムイオン二次電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性と経済性に優れ、高容量で高サイクル特性を備えるリチウムイオン二次電池の負極に用いる積層体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、これらの間に介在する電解質から主に構成されている。リチウムイオン二次電池の性能は、正極および負極の電極活物質の特性に大きく依存する。黒鉛やハードカーボン等の炭素系材料がリチウムイオン二次電池の負極活物質として広く普及している。炭素系材料を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の理論充電容量は372mAh/gである。自動車や携帯電話等でリチウムイオン二次電池が普及するにつれて、充電容量増加のニーズが高まっている。
【0003】
負極活物質としてケイ素を用いたリチウムイオン二次電池の理論充電容量は約4200mAh/gである。このため、ケイ素が次世代の活物質と期待され、ケイ素を用いた負極活物質の開発が進められている。しかし、ケイ素の体積膨張・収縮率は400%とも言われ、充放電でのリチウムの挿入脱離時に膨張収縮が生じる。このため、ケイ素を負極に用いたリチウムイオン二次電池は、可逆的な充放電反応を行うことが非常に困難である。大きな膨張収縮の解決策の1つとして、一酸化ケイ素をはじめとする酸化ケイ素を負極活物質として用いる試みがある。
【0004】
一酸化ケイ素の充電反応は以下の反応式に従って起こる。
4SiO+17.2Li+7.2e→3Li4.4Si+LiSiO
LiSiOは安定物質であるため、充放電で不可逆容量の要素となる。一方、Li4.4Siのみを負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の理論容量は2011mAh/gであり、炭素系材料を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の理論充電容量の5倍を超える。しかしながら、一酸化ケイ素は絶縁性であるため、電極として作用させるには導電性を付与する必要がある。
【0005】
一般に、二次電池用の電極は、集電体表面に活物質と導電助剤をバインダーで接着して作製される。このような従来手法に従い、導電助剤をコーティングしたSiOまたはSiOの粉末と、黒鉛と、バインダーの混合物を銅箔に塗布し、乾燥後に加圧成形して作製した負電極が知られている(特許文献1)。この負電極を用いたリチウムイオン二次電池の充電容量は、初期不可逆容量を除いて約1500mAh/gで、理論値の約75%である。このように、高充電容量のリチウムイオン二次電池の負極活物質として酸化ケイ素SiOが有望であることは知られているが、酸化ケイ素を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池で、理論充電容量に近い充電容量で充放電するものは開発されていない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2004-47404号公報
【0007】

【非特許文献1】U. S. Vogl et al., Langmuir, 30, 10299-10307 (2014)
【非特許文献2】M. Mamiya et al., J. Crystal Growth, 229, 457-461 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高容量で、安全性、経済性、およびサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池の負極に用いる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
酸化ケイ素の充放電は、珪化リチウムの形成および分解によって起こされる。このとき大きな体積変化を伴う。他のケイ素系の電極でも問題となったように、この体積変化によって電極構造が破壊されることが、高容量での充放電の障害であった。電極活物質の微細化と十分な導電性付与によって、この問題が解決される。
【0010】
すなわち、本発明の積層体は、導電性基材と、導電性基材上に設けられ、平均粒径1.0μm以下の複数の酸化ケイ素の粒子と、複数の酸化ケイ素の粒子の隙間に存在する導電性物質とを備える複合層とを有する。
【0011】
本発明の積層体の製造方法は、蒸着またはスパッタリングによって、複数の酸化ケイ素の粒子を含む酸化ケイ素層を導電性基材上に形成する成膜工程と、導電性物質と結着剤とを含有する混合物を酸化ケイ素層上に塗布し、酸化ケイ素層に導電性物質を浸透させるとともに、酸化ケイ素層上に導電性物質を含有する導電層を形成する塗布工程を有する。
【0012】
本発明の他の積層体の製造方法は、蒸着またはスパッタリングによって、複数の酸化ケイ素の粒子を含む酸化ケイ素層を導電性基材上に形成する成膜工程と、酸化ケイ素層を加熱して非晶質酸化ケイ素層に変換する加熱工程と、導電性物質と結着剤とを含有する混合物を非晶質酸化ケイ素層上に塗布し、非晶質酸化ケイ素層に導電性物質を浸透させるとともに、非晶質酸化ケイ素層上に導電性物質を含有する導電層を形成する塗布工程を有する。
【0013】
本発明の他の積層体の製造方法は、蒸着またはスパッタリングによって、複数の酸化ケイ素の粒子を含む酸化ケイ素層を導電性基材上に形成する成膜工程と、酸化ケイ素層を酸化して非晶質酸化ケイ素およびケイ素から構成される混合層に変換する酸化工程と、導電性物質と結着剤とを含有する混合物を混合層上に塗布し、混合層に導電性物質を浸透させるとともに、混合層上に導電性物質を含有する導電層を形成する塗布工程を有する。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、本発明の積層体を備える負極と、電解質とを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高容量で、安全性、経済性、およびサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態の積層体の断面模式図。
【図2】試料1の外観画像。
【図3】試料1の表面のXRDチャート。
【図4】試料1の表面のSEM画像。
【図5】試料2の外観画像。
【図6】試料2の断面SEM画像。
【図7】試料2の断面の組成分布画像。
【図8】試料2を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電サイクルのグラフと、各サイクルでの充放電容量を示す表。
【図9】試料2を負極に用いたリチウムイオン二次電池で、電気量を変化させたときの充放電容量を示すグラフ。
【図10】試料3を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電サイクルのグラフと、各サイクルでの充放電容量を示す表。
【図11】試料4を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電サイクルのグラフと、各サイクルでの充放電容量を示す表。
【図12】試料5の外観画像。
【図13】試料5の表面のSEM画像。
【図14】試料6の断面SEM画像。
【図15】試料6の断面の組成分布画像。
【図16】試料6を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電サイクルのグラフと、各サイクルでの充放電容量を示す表。
【図17】試料7の断面SEM画像。
【図18】試料7の断面の組成分布画像。
【図19】試料7を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電サイクルのグラフと、各サイクルでの充放電容量を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の積層体、積層体の製造方法、およびリチウムイオン二次電池について、図面を参照しながら、実施形態および実施例に基づいて説明する。なお、重複説明は適宜省略する。図1は、本発明の実施形態に係る積層体の断面を模式的に示している。図1では、図面上の寸法および寸法比は、積層体の実物と必ずしも一致していない。本実施形態の積層体は、図1に示すように、導電性基材と、導電性基材上に設けられた複合層を備えている。

【0018】
導電性を有する基材であれば、導電性基材の材質、形状、大きさ等には特に制限がない。しかしながら、導電性基材は、不活性ガス中で高温に耐えられる金属基板であることが好ましい。真空蒸着法によって、導電性基材上に酸化ケイ素の層が容易に形成できるからである。本実施形態では、酸化ケイ素が一酸化ケイ素であり、真空蒸着法によって導電性基材上に複数の一酸化ケイ素の粒子を析出させている。複合層は、平均粒径1.0μm以下の複数の酸化ケイ素の粒子と、これらの複数の酸化ケイ素の粒子の隙間に存在する導電性物質とを備えている。

【0019】
酸化ケイ素の粒子の平均粒径は、酸化ケイ素の層の表面SEM画像の粒子径を計測して算出する。例えば、SEM画像に写った数十個の酸化ケイ素の粒子径を計測し、この数平均値を酸化ケイ素の平均粒径とすることができる。積層体を負極に用いたときに高容量のリチウムイオン二次電池を得るため、酸化ケイ素は、一酸化ケイ素(SiO)またはSiO(1<x<2)で表される非晶質酸化ケイ素であることが好ましい。また、複数の酸化ケイ素の粒子は、SiO(1<x<2)で表される非晶質酸化ケイ素の粒子とケイ素の粒子の混合物であってもよい。

【0020】
一酸化ケイ素は、Si:Oが1:1の原子比で構成される非晶質で安定な物質である。一酸化ケイ素の結晶体は未だ発見されていない。一酸化ケイ素が、SiOと微結晶のSiから構成される混合物であるという説がある。この説に従ったSiOとSiの混合物も本願でいう一酸化ケイ素である。また、脱酸素雰囲気で一酸化ケイ素を加熱し、不均化反応を生じさせるとSiO(1<x<2)で表される非晶質酸化ケイ素とSiの混合物が得られる。

【0021】
また、酸素雰囲気で一酸化ケイ素を加熱し、酸化すると、SiO(1<x<2)で表される非晶質酸化ケイ素が得られる。本実施形態では、真空蒸着法によって導電性基材上に複数の一酸化ケイ素の粒子を析出させている。このため、一酸化ケイ素の平均粒径が約0.2μm以下と小さい。なお、ボールミル等を用いた一般的なメカニカルミリング法で一酸化ケイ素を粉砕した場合、最小粒径が約1μmである。

【0022】
また、本実施形態の積層体は、複合層上に、導電性物質を含有する導電層をさらに備えている。複合層および導電層の厚さは、ともに数μm~数十μmであることが好ましく、ともに20μm以下であることがより好ましい。本実施形態では、一酸化ケイ素の粒子の隙間に存在する導電性物質と導電層に含まれる導電性物質が同じである。導電性物質としては、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどとして市販されているカーボンブラックが例示できる。酸化ケイ素の粒子の隙間に存在する導電性物質は、酸化ケイ素と導電性基材の間の導電パスを構築するために存在する。このような目的が達成できれば、導電性物質の材質や形状等には特に制限がない。

【0023】
本発明の実施形態に係る積層体の製造方法は、成膜工程と、塗布工程を備えている。成膜工程では、蒸着またはスパッタリングによって、複数の酸化ケイ素の粒子を含む酸化ケイ素層を導電性基材上に形成する。より具体的には、真空雰囲気である管状炉内部に、例えば、蒸着源である試薬の一酸化ケイ素粉末と、導電性基材である銅基板を設置して加熱する。このとき、一酸化ケイ素粉末が約1000℃に、銅基板が約400℃になるような炉内位置に設置する。そして、この管状炉を20時間加熱すれば、平均粒径が小さい一酸化ケイ素の粒子から構成される一酸化ケイ素の層が、真空蒸着によって銅基板上に形成される。

【0024】
ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を蒸着源として用いてもよい。また、蒸着源が気化する温度であれば、蒸着源の加熱温度には特に制限がない。導電性基材の加熱温度が800℃以上になる場合、一酸化ケイ素の粒子の蒸着と同時に、一酸化ケイ素の不均化反応が生じる可能性があるが、それでも一酸化ケイ素の層は電極活物質層として機能する。しかしながら、蒸着物が一酸化ケイ素のみでなくなり、得られた積層体の導電特性に悪影響を及ぼさないように、一酸化ケイ素の不均化反応が生じない温度で導電性基材を加熱することが望ましい。

【0025】
酸化ケイ素は一酸化ケイ素であることが好ましい。蒸着によって導電性基材上に酸化ケイ素層を形成しているため、酸化ケイ素層を構成する酸化ケイ素の粒子の平均粒径が小さい。本実施形態の酸化ケイ素の粒子の平均粒径は、1.0μm以下、例えば約0.2μm以下である。なお、真空蒸着法に代えて、スパッタリング法によって、酸化ケイ素層を導電性基材上に形成してもよい。

【0026】
塗布工程では、導電性物質と結着剤とを含有する混合物を酸化ケイ素層上に塗布し、酸化ケイ素層に導電性物質を浸透させるとともに、酸化ケイ素層上に導電性物質を含有する導電層を形成する。混合物に分散媒が含まれていてもよい。本実施形態では、混合物は、導電性物質としてカーボンブラックを、結着剤として水系バインダーを、分散媒として水をそれぞれ含有するスラリーである。導電性物質の粒径は小さいことが好ましい。酸化ケイ素層に導電性物質が浸透しやすいからである。

【0027】
水系バインダーは、カーボンブラック等の被結着物質と分散媒である水とともに、スラリーを構成する。基材にこのスラリーを塗布し乾燥させれば、基材上で被結着物質同士が結着する。水系バインダーとしては、カルボキシルメチルセルロース(CMC)やスチレンブタジエンコポリマー(SBR)などが例示できる。なお、結着剤は非水系バインダーであってもよい。導電性物質と結着剤を含有するスラリーを酸化ケイ素層上に塗布・乾燥することによって、混合層と導電層が形成される。なお、スパッタリング法等によって、導電性物質を酸化ケイ素層の内部および上面に堆積させてもよい。

【0028】
導電性物質として一般的なカーボンブラックの平均粒径は約35nmである。導電性物質の平均粒径が、酸化ケイ素層を構成する酸化ケイ素の粒子の平均粒径の1/10レベルであるため、酸化ケイ素層に導電性物質が浸透できる。酸化ケイ素層に浸透した導電性物質が酸化ケイ素層に導電性を付与するため、本実施形態の積層体を負極に用いたリチウムイオン二次電池は、高容量でサイクル特性に優れる充放電が可能である。酸化ケイ素層の厚さは一定でなくてもよい。また、酸化ケイ素層が島状に形成されていても構わない。さらに、導電層の一部が導電性基材に直接接していてもよい。

【0029】
本発明の他の実施形態に係る積層体の製造方法は、成膜工程と、酸化工程と、塗布工程を備えている。成膜工程は上述のとおりである。酸化工程では、酸化ケイ素層を酸化して非晶質酸化ケイ素層に変換する。塗布工程では、導電性物質と結着剤とを含有する混合物を非晶質酸化ケイ素層上に塗布し、非晶質酸化ケイ素層に導電性物質を浸透させるとともに、非晶質酸化ケイ素層上に導電性物質を含有する導電層を形成する。

【0030】
さらに、本発明の他の実施形態に係る積層体の製造方法は、成膜工程と、加熱工程と、塗布工程を備えている。成膜工程は上述のとおりである。加熱工程では、酸化ケイ素層を加熱して非晶質酸化ケイ素およびケイ素から構成される混合層に変換する。より具体的には、導電性基板上に形成された酸化ケイ素層、例えば一酸化ケイ素の層を、不活性ガス雰囲気下、800℃~1200℃で4時間~10時間熱処理して、不均化反応生成物である非晶質酸化ケイ素およびケイ素から構成される混合層を作製する。

【0031】
一酸化ケイ素の不均化反応の熱処理温度と反応の進行の関係については、非特許文献2に開示されている。ケイ素を負極として用いたリチウムイオン二次電池の理論充電容量は4200mAh/gである。非特許文献2によれば、不均化反応で生じた微結晶シリコンの要素が加わるため、熱処理後の積層体を負極として用いたリチウムイオン二次電池の容量は、熱処理前の積層体を負極として用いたリチウムイオン二次電池の容量より上昇している。塗布工程では、導電性物質と結着剤とを含有する混合物を混合層上に塗布し、混合層に導電性物質を浸透させるとともに、混合層上に導電性物質を含有する導電層を形成する。

【0032】
本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、本実施形態の積層体を備える負極と、電解質を備えている。なお、本実施形態の積層体は、リチウムイオン二次電池と同様の機構で動作するリチウムイオンキャパシタの負極に用いることもできる。
【実施例】
【0033】
(銅基板を備える積層体(試料2)の作製)
管状炉(光洋サーモシステム、KTF045N1)の炉内中心部に一酸化ケイ素の粉末(キシダ化学製)を置いた。この中心部は炉内の均一温度部である。炉内であって、この中心部から30cm離れた地点に、直径15mm、厚さ0.02mmの銅円板を設置した。炉内を真空雰囲気にして、中心部温度1000℃で20時間加熱して、銅円板上に一酸化ケイ素を真空蒸着して試料1を得た。このとき、銅円板付近の温度は約400℃であった。試料1の外観写真を図2に示す。図2に示すように、銅円板上に一酸化ケイ素の層が形成されたことが確認された。また、真空蒸着前後の試料の質量変化から、銅円板上に0.20mgの一酸化ケイ素の粒子が蒸着していることがわかった。
【実施例】
【0034】
試料1の表面のXRDを測定した。このXRDチャートを図3に示す。図3に示すように、2θ=20°付近に非晶質(図中「アモルファス」)由来のハローパターンが見られた。また、銅板(図中「基板(Cu)」)の結晶由来の回折ピーク以外は存在しなかった。さらに、試料1の表面のSEM観察を行った。このSEM画像を図4に示す。図4に示すように、粒径約0.2μmの一酸化ケイ素の粒子(図中「蒸着SiO」)の層が観察された。ただし、この一酸化ケイ素の層は一様でなく、部分的に銅板(図中「基板(Cu)」)が露出していた。
【実施例】
【0035】
導電性物質であるアセチレンブラック(デンカ工業、粒径35nm)と、アセチレンブラックの2質量%のCMCを混ぜ、この混合物を水に均一に分散させてスラリーを作製した。試料1の表面にこのスラリーを塗布し、自然乾燥させて、積層体である試料2を得た。試料2の質量は、試料1の質量より3.19mg増加していた。試料2の外観写真を図5に示す。
【実施例】
【0036】
また、図6に試料2の断面SEM写真を示す。図6に示すように、一酸化ケイ素の粒子の層内にアセチレンブラックが浸透していた。このアセチレンブラックによって、積層体は電極としての導電性を備える。試料2の断面の組成分析結果を図7に示す。図7(a)は炭素(C)、図7(b)はケイ素(Si)、図7(c)は銅(Cu)の分布をそれぞれ表している。薄い色の部分にそれぞれの元素が存在している。図7に示すように、銅基板上に厚さ約10μmの一酸化ケイ素の層が存在し、さらにその上に厚さ約10μmの炭素の層が存在していた。また、図7(a)に示すように、一酸化ケイ素の層内に炭素が存在することも確認できた。なお、図6および図7では、右方向が積層体の上方向である。
【実施例】
【0037】
(試料2を負極に用いたリチウムイオン二次電池の評価)
試料2を負極に、リチウム金属を正極にした2032型コインセルまたはフラットセルのリチウムイオン二次電池を作製した。なお、エチレンカーボネート(EC)とジメルカーボネート(DMC)を同じ体積で混合した溶媒に、濃度0.1Mとなるようにリチウム塩(LiPF)を添加した溶液を電解液とした。
【実施例】
【0038】
25℃の環境下、測定電位0V~3.0V、電流の方向に垂直な単位面積を毎秒流れる電気量(以下単に「電気量」ということがある)0.1Cで、このリチウムイオン二次電池の充放電特性を評価した。電気量0.1Cは、このリチウムイオン二次電池が10時間で満充電される電気量である。このリチウムイオン二次電池の満充電のときの充電容量は、SiOを負極としたリチウムイオン二次電池の理論充電容量である2011mAh/gとした。試料2は負極として用いるため、電位を0Vに向けて下げる動作を充電と、電位を3.0Vに向けて上げる動作を放電とした。したがって、充電では一酸化ケイ素の層中にリチウムが挿入し、放電では一酸化ケイ素の層中からリチウムが脱離する。
【実施例】
【0039】
このリチウムイオン二次電池の充放電サイクルのグラフと、各サイクルでの充電容量および放電容量の値を図8に示す。図8に示すように、充電過程では、初期サイクルのみ0.7V付近に容量約800mAh/gのプラトーが見られる。この容量は、SiOから不可逆容量成分であるLiSiOが生成するのに必要なLiの容量とほぼ一致する。2サイクル以降では、充放電容量が2100mAh/g付近で安定し、200サイクルを経ても容量劣化がほとんど見られなかった。
【実施例】
【0040】
また、電気量を変化させて、同様に作製したリチウムイオン二次電池の充放電容量を測定した。その結果を図9に示す。このリチウムイオン二次電池は、図9に示すように、0.5Cの電気量では、充放電容量約900mAh/gで安定してサイクルした。100サイクルで電気量を0.2Cに下げたところ、充放電容量が約1500mAh/gに上昇した。その後、電気量を0.1Cに下げると、充放電容量が約2100mAh/gに上昇した。さらに、電気量を0.5Cに戻して測定を続けると、充放電容量が100サイクルまでと同じ約900mAh/gで安定した。
【実施例】
【0041】
(銅基板と一酸化ケイ素の不均化反応生成物を備える積層体(試料3)の作製)
銅円板上に一酸化ケイ素を真空蒸着する工程と、一酸化ケイ素の層の表面にアセチレンブラックを含むスラリーを塗布する工程の間に、アルゴン雰囲気下、900℃で4時間熱処理する加熱工程を追加した点を除いて、試料2の作製方法と同様の方法で試料3を作製した。
【実施例】
【0042】
(試料3を負極に用いたリチウムイオン二次電池の評価)
試料2を負極に用いたリチウムイオン二次電池の評価と同様にして、試料3を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性を評価した。その結果を図10に示す。図10に示すように、100サイクル以降の充放電容量は、2サイクルの充放電容量と比べて、25%以上低下した。一酸化ケイ素の不均化反応によって生じた微結晶ケイ素が、充放電に伴い体積膨張したからだと考えられる。なお、非特許文献2に開示されているように、900℃で一酸化ケイ素を熱処理したときの不均化反応によって生じるケイ素の結晶は、透過型電子顕微鏡でも確認できない大きさで、XRDで僅かにケイ素のピークに由来するパターンの変化が観察できることで確認される大きさである。
【実施例】
【0043】
(銅基板と一酸化ケイ素の不均化反応生成物を備える積層体(試料4)の作製)
熱処理温度を1000℃に変更した点を除いて、試料3の作製方法と同様の方法で試料4を作製した。この熱処理条件では、非特許文献2に開示されているように、一酸化ケイ素の不均化反応によって粒径約4nmのケイ素が生成するが、不均化反応が完全には進行しないで、非晶質酸化ケイ素SiO(1<x<2)と微結晶ケイ素の混合物となっている。
【実施例】
【0044】
(試料4を負極に用いたリチウムイオン二次電池の評価)
試料3を負極に用いたリチウムイオン二次電池の評価と同様にして、試料4を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性を評価した。その結果を図11に示す。図11に示すように、初期の10サイクルでは、試料4を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充電容量は、試料3を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充電容量より高かった。試料3を作製したときの熱処理温度より高温で熱処理して作製した試料4は、一酸化ケイ素の不均化反応が試料3より進行し、負極に用いたときにリチウムイオン二次電池が高容量を示すケイ素が増えたからだと考えられる。
【実施例】
【0045】
一方、試料4を負極に用いたリチウムイオン二次電池のサイクル劣化は顕著だった。充放電サイクルによってケイ素は約4倍にも達する体積膨張をするが、試料4を負極に用いたリチウムイオン二次電池では、ケイ素の周囲の非晶質酸化ケイ素が、ケイ素の体積膨張を十分に緩和できなかったからだと考えられる。ただし、ケイ素のみを負極に用いたリチウムイオン二次電池の2サイクル目での充電容量維持率と比べて、試料4を負極に用いたリチウムイオン二次電池の2サイクル目での充電容量維持率(50%以上)は高かった。非晶質酸化ケイ素が、リチウムイオン二次電池の充電容量の劣化を抑制したことを示している。
【実施例】
【0046】
(ステンレス基板を備える積層体(試料6)の作製)
直径15mm、厚さ0.2mmのステンレス円板を用いた点を除いて、試料1の作製方法と同様の方法で試料5を作製した。試料5の外観写真を図12に示す。図12に示すように、ステンレス円板上に一酸化ケイ素の層が形成されたことが確認された。真空蒸着前後の試料の質量変化から、ステンレス円板上に0.37mgの一酸化ケイ素の粒子が蒸着していることがわかった。また、試料5の表面のSEM観察を行った。このSEM画像を図13に示す。図13に示すように、粒径約0.1μm~0.2μmの一酸化ケイ素の粒子(図中「蒸着SiO」)がほぼ一様にステンレス基板に蒸着していた。
【実施例】
【0047】
試料1を用いて試料2を作製した方法と同様の方法で、試料5を用いて試料6を作製した。試料6の質量は、試料5の質量より1.31mg増加していた。図14に試料6の断面SEM写真を示す。図14に示すように、ステンレス基板上に厚さ約15μmの一酸化ケイ素の層があり、さらにその上に厚さ約8μmの炭素の層が存在していた。試料6の断面の組成分析結果を図15に示す。図15(a)は炭素(C)、図15(b)はケイ素(Si)、図15(c)は鉄(Fe)の分布をそれぞれ表している。薄い色の部分にそれぞれの元素が存在している。図15に示すように、一酸化ケイ素の層内に炭素が存在することが確認できた。
【実施例】
【0048】
(試料6を負極に用いたリチウムイオン二次電池の評価)
試料2を負極に用いたリチウムイオン二次電池の評価と同様にして、試料6を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性を評価した。その結果を図16に示す。図16に示すように、初期充電容量は理論値より高いが、2サイクル以降では充放電容量が約1800mAh/gで安定し、このまま300サイクルまで維持された。グラフの充放電パターンの形状もほとんど変化なく、リチウムの挿入脱離が可逆的に反応していた。銅基板とステンレス基板の違いによる影響はあまり見られず、基板の材料選択に自由度があることがわかった。
【実施例】
【0049】
(ステンレス基板を備える積層体(試料7)の作製)
導電性物質であるアセチレンブラックと非水系バインダーであるポリフッ化ビニリデン(クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン、クレハKFポリマー、L#1120)を質量比1:1で混合し、これに炭酸ジメチルを分散媒として加えて分散液を得た。スラリーに代えてこの分散液を用いた点を除いて、試料5を用いて試料6を作製した方法と同様の方法で、試料5を用いて試料7を作製した。試料7の質量は、試料5の質量より1.41mg増加していた。
【実施例】
【0050】
図17に試料7の断面SEM写真を示す。図17に示すように、一酸化ケイ素の層の上に、厚さ約15μmの炭素の層が存在していた。この炭素の層は、試料6の炭素の層よりやや緻密だった。また、試料7の炭素の層の形状は、試料6の炭素の層の形状と類似していた。試料7の断面の組成分析結果を図18に示す。図18(a)は炭素(C)、図18(b)はケイ素(Si)、図18(c)は鉄(Fe)の分布をそれぞれ表している。薄い色の部分にそれぞれの元素が存在している。図17および図18に示すように、一部の炭素は一酸化ケイ素の層に浸透して、基板である鉄に直接接している様子が見られた。
【実施例】
【0051】
(試料7を負極に用いたリチウムイオン二次電池の評価)
試料2を負極に用いたリチウムイオン二次電池の評価と同様にして、試料7を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性を評価した。その結果を図19に示す。図19に示すように、初期充電容量は理論値より約20%小さかった。試料7を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充電容量は、2サイクル以降でも、試料6を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充電容量より、約30%小さかった。
【実施例】
【0052】
しかしながら、30サイクル近くまで充電容量が増加して1645.1mAh/gに達した。その後は緩やかに劣化が始まり、50サイクル後の充電容量は1551.7mAh/gとなった。非水系バインダーを用いて作製した試料7の形状は、水系バインダーを用いて作製した試料6の形状と著しい違いが見られなかった。しかし、試料6を負極に用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性は、試料7を負極に用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性より優れていた。
【実施例】
【0053】
非特許文献1では、ケイ素を電極活物質の例として、水系バインダーの優位性について説明されている。非特許文献1によれば、水系バインダーで作られる水酸基を介して、電極活物質を基板に保持した負極を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電過程で電極活物質と基板の結合位置を柔軟に変更できる。このため、充放電過程で電極活物質が体積膨張・収縮しても、電極活物質の構造が維持できる。一方、非水系バインダーを用いて電極活物質を基板に保持した場合、充放電過程で電極活物質と基板の結合位置が変更できない。このため、体積膨張・収縮で生じるストレスが電極活物質の破壊を誘発し、リチウムイオン二次電池の充放電特性を下げる。
【実施例】
【0054】
本発明の積層体においても、電極活物質である一酸化ケイ素の層の表面に導電層を形成する際に、導電性物質が一酸化ケイ素の層内に浸透して、この導電性物質が一酸化ケイ素の充放電に伴う電荷の移動を助けていると考えられる。このため、非特許文献1に開示された水系バインダーを用いたケイ素層形成の優位性が、本発明の積層体の導電層の形成に適応されると考えられる。
【実施例】
【0055】
したがって、水系バインダーであるCMCを用いて作製した本発明の積層体は、非水系バインダーを用いて作製した本発明の積層体と比べて、リチウムの挿入脱離を安的的に行うことできる。この結果、水系バインダーを用いて作製した本発明の積層体を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電容量のサイクル維持率は、非水系バインダーを用いて作製した本発明の積層体を負極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電容量のサイクル維持率より優れている。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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