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明細書 :生体埋め込み型の無線給電型発光システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-092532 (P2019-092532A)
公開日 令和元年6月20日(2019.6.20)
発明の名称または考案の名称 生体埋め込み型の無線給電型発光システム
国際特許分類 A61N   5/06        (2006.01)
H01L  51/50        (2006.01)
H05B  33/14        (2006.01)
H05B  33/04        (2006.01)
H02J  50/10        (2016.01)
FI A61N 5/06
H05B 33/14 A
H05B 33/14 Z
H05B 33/04
H02J 50/10
A61N 5/06 A
A61N 5/06 B
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2017-221712 (P2017-221712)
出願日 平成29年11月17日(2017.11.17)
発明者または考案者 【氏名】藤枝 俊宣
【氏名】山岸 健人
【氏名】武岡 真司
【氏名】檜 顕成
【氏名】内田 広夫
【氏名】守本 祐司
【氏名】桐野 泉
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
【識別番号】100161665、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 知之
【識別番号】100178445、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 淳二
【識別番号】100146134、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 聡子
【識別番号】100121153、【弁理士】、【氏名又は名称】守屋 嘉高
【識別番号】100188994、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 裕介
【識別番号】100194892、【弁理士】、【氏名又は名称】齋藤 麻美
【識別番号】100207653、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 聡
審査請求 未請求
テーマコード 3K107
4C082
Fターム 3K107AA01
3K107AA05
3K107BB02
3K107CC23
3K107CC43
3K107EE49
3K107EE57
3K107EE61
3K107EE63
3K107FF13
4C082PA01
4C082PA02
4C082PA03
4C082PJ12
要約 【課題】
高い信頼性と実用性を有する埋め込み型の光線力学療法に使用可能で、光線力学療法(PDT)、バイオイメージング及び光遺伝学的制御にも応用可能なPDTシステムを提供することを課題とする。
【解決手段】
特に、高い信頼性と実用性を有した埋め込み型PDTシステムを実現するために、「無線給電」、「LED光源」、並びに「生体へのアイソレーション及び固定のための薄膜(シート)」を要素技術として、これらを組み合わせた光線力学療法用システムであって、生体内で常時発光色素を励起させるために、生体埋め込み型無線発光デバイスの大きさよりも十分大面積な給電用アンテナボードを設置して共鳴電磁波を伝送するシステムを完成させた。
【選択図】図3C
特許請求の範囲 【請求項1】
無線給電型発光素子が高分子薄膜で封止された発光素子封止体を形成し、前記高分子の外面の少なくとも1面上に粘着性ポリマー層が積層された積層膜を有することを特徴とする、薄膜状の無線給電型発光デバイス。
【請求項2】
前記無線給電型発光デバイスが、光線力学療法用、バイオイメージング用又は光遺伝学的制御用であることを特徴とする、請求項1に記載の無線給電型発光デバイス。
【請求項3】
前記無線給電型発光デバイスが生体内への埋植用の無線給電型発光デバイスであって、前記粘着性ポリマー層が、前記無線給電型発光デバイスからの照射光を標的組織に照射させるための前記無線給電型発光デバイスの標的組織への貼付用であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の無線給電型発光デバイス。
【請求項4】
前記無線給電型発光デバイスが生体表面への貼付用の無線給電型発光デバイスであって、生体外から生体内の組織まで挿入するためのプローブを備え、前記プローブを介して前記無線給電型発光デバイスから照射される照射光を前記プローブ先端の出射端より生体内の標的組織に照射するために、前記粘着性ポリマー層が前記無線給電型発光デバイスの生体表面への貼付用であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の無線給電型発光デバイス。
【請求項5】
前記無線給電型発光素子が、有機EL素子又は無機EL素子から選択されるLED素子であり、発光色が近赤外光、赤色光、緑色光、青色光、紫外光又は白色光から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の無線給電型発光デバイス。
【請求項6】
前記高分子薄膜が、シリコーンエラストマー、アクリロニトリル-ブタジエン共重合エラストマー、アクリルエラストマー、エピクロロヒドリンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンエラストマー、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸又はSu-8から選択される材料で形成されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の無線給電型発光デバイス。
【請求項7】
前記シリコーンエラストマーが、オルガノポリシロキサンであることを特徴とする、請求項6に記載の無線給電型発光デバイス。
【請求項8】
前記粘着性ポリマー層がポリフェノール化合物の重合体、又は、医療用接着剤から形成されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の無線給電型発光デバイス。
【請求項9】
前記ポリフェノール化合物が、ドーパミン、タンニン酸、カテキン、ルチン、アントシアニン、イソフラボン、クェルセチン、ヘスペリジン等のフラボノイド化合物や、クロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、クルクリン、クマリン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート及びガロカテキンガレートからなる群から選択される少なくとも1種から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の無線給電型発光デバイス。
【請求項10】
前記光線力学療法が適用される疾患が、脳腫瘍、咽頭・喉頭がん、肺がん、中皮腫、食道がん、胃がん、小腸がん、大腸がん、肝細胞がん、胆管がん、胆のうがん、膵臓がん、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、皮膚がん又は加齢黄斑変性症から選択されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の無線給電型発光デバイス。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の無線給電型発光デバイスであって、前記無線給電型発光素子はアンテナコイルを有し、該アンテナコイルがフレキシブルな導電性配線層から形成されることを特徴とする、折り畳み可能なフレキシブル無線給電型発光デバイス。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の無線給電型発光デバイス、及び、該デバイスに無線給電するための電磁波を発信する発信デバイス、給電アンテナ及びこれらを制御する手段を備えることを特徴とする、無線給電型埋植型光線力学療法システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体埋め込み型の薄膜状の無線給電型発光デバイス、及び、該デバイスを備える無線給電型光線力学療法システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学療法(PDT;photodynamic therapy)は、腫瘍組織等に分布及び/又は集積させた光増感剤を外部光で励起させることで一重項酸素等の活性酸素種を発生させて、腫瘍細胞に細胞死を惹起させで腫瘍を除去する治療方法である(特許文献1~3、非特許文献1)。既に、胃がんや肺がんや食道がんや子宮頸部がん等のがん、脳腫瘍並びに加齢黄斑変性症等を対象に臨床で実用化されている。
【0003】
例えば、PDTは、早期肺がんに対して標準治療としての地位を確立している。また、PDTの食道がんでの適用の場合、手術拒否例・外科手術高危険例あるいはPDT希望例で、画像診断上リンパ節転移がない病変が対象となる。食道がんではEMR(endoscopic mucosal resection:内視鏡的粘膜切除術)やESD(endoscopic submucosal dissection:内視鏡的粘膜下層剥離術)が困難か高危険な場合(バレット食道腺がんを含む)、EMRやESD後または放射線化学療法後の遺残・再発病変が適用対象となる。胃がんでは潰瘍性病変を伴う粘膜下層(SM)までの病変、EMRやESDが困難か高危険な場合、EMRやESD 後の遺残・再発病変が適用対象となる。また、バレット食道や異形成(dysplasia)、粘膜内がんに対するPDTでは、手術不能・化学放射線療法が無効な進行性食道がん(腺がんを含む)に対する姑息的治療として認可され、多数の治療が行われており、日本でも化学放射線療法後の食道扁平上皮がん局所再発病変に対する救済治療(salvage treatment)としてPDTが有用であるとされている。脳腫瘍の治療においては、侵襲度の少ないPDTは、手術中において摘出不能な腫瘍部分への照射によって、生存率が向上することが報告されている。これらの疾患以外にも皮膚がん、咽頭がん、口腔がん及び胆道がんでの治療にPDTが実施又は試みられている(非特許文献2)。
【0004】
PDTは、一般的に生体外に設置した光源から内視鏡などを経由して患部に赤色光を照射する手法が知られている(特許文献3)。しかしながら、生体組織では可視域領域の光の透過性が低いことや、治療時に患者の行動が著しく制限されるという点が課題であり、治療システム全体においてQOLの向上が望まれている。
【0005】
一方で、腫瘍組織への選択的な光増感剤の集積を目的に、抗体等と結合した光増感剤の開発も試みられている(特許文献4)。
【0006】
他方、近年生体内に光源そのものを埋め込み、体内から光を直接腫瘍部に照射する手法も検討されているが、光ファイバの留置や外部電源を要する半埋め込み方式が殆どである(非特許文献3)。また、一部完全埋め込み式も報告されているが、固体に対してデバイスのサイズが著しく大きいことや安定した送電技術の構築が課題である(非特許文献3)。このため、小型発光デバイスの開発と無線通信を利用したPDTシステムの創製が求められている。
【0007】
また、生体内に埋植し、光線照射装置を外科的に標的組織に縫合固定する方式の光線力学療法システムも報告され、旧来のPDTが、強い照度の光線(>100 mW/cm2)を短時間照射していたのと相違し、弱い照度の光線(<1 mW/cm)を数時間以上標的組織に照射するメトロノーム型光線力学療法が利用されている(非特許文献4)。しかし、この方式のシステムは、標的組織に縫合したシステムが、患者の動作に伴って位置ずれを起こす、或いは、生体内に埋植したデバイスが破壊される等の欠点を有し、長期間安定的に標的に光線を照射することに困難を伴う。
【0008】
さらに、生体に投与した蛍光プローブの蛍光を観測するバイオイメージング法による疾患の診断法や研究手法としての応用(特許文献5)や、光遺伝学的制御による光感受性を有するタンパク質を生体内で発現させ、この光感受性タンパク質を介した生体機能の制御のために、生体内で標的組織に対して光線を照射する光遺伝学的手法が最近研究されている(特許文献6、7)。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】国際特許公報WO1995/005214
【特許文献2】国際特許公報WO2010/089416
【特許文献3】国際特許公報WO2011/090885
【特許文献4】国際特許公報WO2003/097105
【特許文献5】国際特許公報WO2008/032535
【特許文献6】国際特許公報WO2015/109323
【特許文献7】国際特許公報WO2016/040961
【0010】

【非特許文献1】A. P. Castano et al., Nat. Rev. Cancer, 6, 535-545 (2016).
【非特許文献2】奥仲哲弥ら、レーザー研究、39、101-105(2011)
【非特許文献3】Bisland et al., Photochem. Photobiol., 80, 22 (2004).
【非特許文献4】Zaane et al., J. Biophoton., 3, 347 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高い信頼性と実用性を有する埋め込み型の光線力学療法に使用可能であり、光線力学療法(PDT)のみならずバイオイメージング及び光遺伝学的制御にも応用可能なPDTシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、光線力学療法(PDT)、バイオイメージング及び光遺伝学的制御で利用するために、近距離無線通信(NFC)にて生体内で近赤外光、赤色光、緑色光、青色光、紫外光又は白色光のLED(light emitting diode)を発光させる薄膜状で埋め込み型の発光デバイスを使用するシステムである。発明者らは鋭意研究し、特に、高い信頼性と実用性を有した埋め込み型PDTシステムを実現するために、「無線給電」、「LED光源」、並びに「生体へのアイソレーション及び固定のための薄膜(シート)」を要素技術として、これらを組み合わせた光線力学療法用システムを完成させた。また、生体内で常時、光増感色素や蛍光色素を励起させるために、生体埋め込み型無線発光デバイスの大きさよりも十分大面積な給電用アンテナボードを設置して共鳴電磁波を伝送するシステムを完成させた。
【0013】
具体的には、本発明は、無線給電型発光素子が高分子薄膜で封止された発光素子封止体を形成し、前記高分子薄膜の外面の少なくとも1面上に粘着性ポリマー層が積層された積層膜を有する薄膜状の無線給電型発光デバイスを提供する。
【0014】
本発明の無線給電型発光デバイスは、光線力学療法用、バイオイメージング用又は光遺伝学的制御用であってもよい。
【0015】
本発明の無線給電型発光デバイスが、生体内への埋植用の無線給電型発光デバイスであって、前記粘着性ポリマー層が、前記無線給電型発光デバイスからの照射光を標的組織に照射させるための前記無線給電型発光デバイスの標的組織への貼付用である場合がある。
【0016】
本発明の無線給電型発光デバイスが、生体表面への貼付用の無線給電型発光デバイスであって、生体外から生体内の組織まで挿入するためのプローブを備え、前記プローブを介して前記無線給電型発光デバイスから照射される照射光を前記プローブ先端の出射端より生体内の標的組織に照射するために、前記粘着性ポリマー層が前記無線給電型発光デバイスの生体表面への貼付用である場合がある。
【0017】
本発明の無線給電型発光デバイスにおいて、前記プローブが光ファイバープローブである場合がある。
【0018】
本発明の無線給電型発光デバイスにおいて、前記無線給電型発光素子が、有機EL(electro-luminescence)素子又は無機ELから選択されるLED素子であり、発光色が近赤外光、赤色光、緑色光、青色光、紫外光又は白色光から選択される場合がある。
【0019】
本発明の無線給電型発光デバイスにおいて、前記高分子薄膜が、シリコーンエラストマー、アクリロニトリル-ブタジエン共重合エラストマー、アクリルエラストマー、エピクロロヒドリンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンエラストマー、ポリカプロラクトン、ポリイミド、ポリ乳酸又はSU-8から選択される材料で形成される場合がある。
【0020】
本発明の無線給電型発光デバイスにおいて、前記シリコーンエラストマーが、オルガノポリシロキサンである場合がある。
【0021】
本発明の無線給電型発光デバイスにおいて、前記オルガノポリシロキサンが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である場合がある。
【0022】
本発明の無線給電型発光デバイスにおいて、前記粘着性ポリマー層が、ポリフェノール化合物の重合体又は医療用接着剤から形成される場合がある。
【0023】
本発明の無線給電型発光デバイスにおいて、前記粘着性ポリマー層がポリフェノール化合物の重合体から選択される場合、前記ポリフェノール化合物が、ドーパミン、タンニン酸、カテキン、ルチン、アントシアニン、イソフラボン、クェルセチン、ヘスペリジン等のフラボノイド化合物や、クロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、クルクリン、クマリン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート及びガロカテキンガレートからなる群から選択される少なくとも1種から選択される場合がある。
【0024】
本発明の無線給電型発光デバイスにおいて、前記無線給電型発光デバイスの厚さが、1.0 mm未満である場合がある。
【0025】
本発明の無線給電型発光デバイスにおいて、前記光線力学療法が適用される疾患が、皮膚がん、肺がん、食道がん、胃がん、子宮頸部がん、脳腫瘍、膵臓がん、肝臓がん、卵巣がん、咽頭がん、口腔がん、胆道がん又は加齢黄斑変性症から選択される場合がある。
【0026】
また、本発明は、前記の薄膜状の無線給電型発光デバイスであって、前記無線給電型発光素子はアンテナコイルを有し、該アンテナコイルがフレキシブルな導電性配線層から形成される折り畳み可能なフレキシブル無線給電型発光デバイスを提供する。
【0027】
また、本発明は、前記無線給電型発光デバイス、及び、該デバイスに無線給電するための電磁波を発信する発信デバイス、給電アンテナ、及び、これらを制御する手段を備える埋植型の無線給電型光線力学療法システムを提供する。
【0028】
さらに、本発明は、前記の薄膜状の無線給電型発光デバイスを用い、生体内に埋植された前記無線給電型発光デバイスから標的組織に照射される光線の照度が1 mW/cm2未満であり、2時間以上の照射時間で標的組織に照射するメトロノーム型光線力学療法を提供する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の薄膜状の無線給電型発光デバイスを使用することにより、高い信頼性と実用性を有する埋め込み型の光線力学療法に使用可能なシステムを提供することができる。本システムは、光線力学療法(PDT)、バイオイメージング及び光遺伝学的制御に利用可能できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1A】ロール・ツー・ロール法によるPDMS自立性薄膜の製膜方法を表した概要図。
【図1B】PDMS自立性薄膜の表面をポリドーパミン層を積層する方法を表した概略図。
【図1C】ポリドーパミン積層PDMS薄膜を物理的に伸張(左側)又は収縮(右側)させた状態を表す写真図。
【図1D】PDA-PDMS積層膜と表面非修飾のpristine PDMS薄膜とでLED発光素子を挟み込んで封止することにより本発明の無線給電型発光デバイスを製造する方法と、電磁波発信装置より発信された電磁波により無線給電型発光デバイスが発光する状態、及び、標的組織に無線給電型発光デバイスへ光線を照射することを示した概念図。
【図2A】PDA-PDMS積層膜とpristine PDMS薄膜とでLED発光素子を挟み込んで封止した本発明の無線給電型発光デバイスを標的組織に貼付し、標的組織に光線を照射している状態を表した概念図。
【図2B】本発明のシステムにおいて、無線給電のための共鳴電磁波発信用デバイスであるリーダーライターより、無線給電型発光デバイスを埋植したマウスへ無線給電を行っている様子を表した写真図。
【図2C】マウス背部に移植し、増殖した腫瘍組織を標的として、マウス背部皮下に粘着させた無線給電型発光デバイスに、無線給電により給電し、LED発光素子が発光している状態を表す写真図。
【図2D】マウス背部に粘着させて埋植した本発明の赤色光(左上図)、緑色光(左下図)及び青色光(右図)を発光するLEDを備える無線給電型発光デバイスが、無線給電により発光している状態を表す写真図。
【図3A】本発明のシステムを用いた、マウスに移植し増殖した腫瘍細胞に対する抗腫瘍効果を評価する実験の実験プロトコールを示した図。光増感剤は、フォトフリンを使用した。
【図3B】本発明の無線給電型光線力学療法システムを使用して、マウス背部に移植し増殖させた腫瘍に10日間赤色光又は緑色光を照射する光線力学療法を実施した後に採取した組織の病理組織像を表す写真図(ヘマトキシリン-エオジン染色像)。
【図3C】本発明の無線給電型光線力学療法システムを使用して、緑色光又は赤色光を照射した光線力学療法の抗腫瘍効果を経時的に観測した結果を表す図。
【図3D】実施例で光増感剤として使用したフォトフリンの吸光スペクトルと、実施例で使用した無線給電型発光デバイスのLED発光素子より照射される緑色光と赤色光の波長との関係を表す図。
【図4】本発明の無線給電型光線力学療法システムを用いて、マウス背部皮下に埋植した無線給電型発光デバイスによって光線を照射した場合の、光線の2次元的な分布域を評価した写真図。マウス左側背部は量子ドット(Q-dot)を背部皮下に注入し分布させた状態で背部皮下に埋植した青色光を発光する発光素子を発光させた結果を、マウス右側背部は、背部皮下に量子ドットが分布しない状態で、背部皮下に埋植した青色発光素子が発光した状態を表す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1.薄膜状無線給電型発光デバイス
本発明の実施形態の1つは、無線給電型発光素子が高分子薄膜で封止された発光素子封止体を形成し、前記高分子薄膜の外面の少なくとも1面上に粘着性ポリマー層が積層された積層膜を有する薄膜状の無線給電型発光デバイスである。

【0032】
ここで、「自立性(self-standing)」とは、薄膜又は超薄膜が安定しており、その特性を維持することが可能であり、何らの支持体を必要とせずにそれら自身を支持することができることをいう。

【0033】
本発明の薄膜状無線給電型発光デバイスは、特に、高い信頼性と実用性を有した埋め込み型PDTシステムを実現するために、「無線給電」、「LED光源」及び「生体へのアイソレーションおよび固定のための薄膜(シート)」を要素技術としており、これらの要素技術を組み合わせて含む薄膜状の無線給電型発光デバイスである。

【0034】
本明細書において、LED光源は、有機発光ダイオード(有機EL)又は無機発光ダイオード(無機EL)のいずれの発光素子であってもよい。

【0035】
本発明の薄膜状無線給電型発光デバイスは、近距離無線通信(NFC)にて生体内で赤、青又は緑色のLEDを発光させる薄膜状の無線給電型発光デバイスである。本デバイスは、無線給電用の発信デバイスと組合わせて、埋植型の無線給電型光線力学療法システムとして使用できる。

【0036】
本発明の薄膜状無線給電型発光デバイスは、生体内で常時発光色素を励起させるために、生体埋め込み型無線発光デバイスの大きさよりも十分大面積な給電用アンテナボードを設置して、例えばラジオ波(例:13.56 MHz)を伝送することができる。したがって、例えば、デバイスを埋め込んだ患者のベッド内部に給電用アンテナボードを設置すれば、寝たままでも治療を受けることが可能である。この埋植型の無線給電型光線力学療法システムは、光線力学療法への使用に限定されるものではなく、バイオイメージングや光遺伝学的制御に利用することができる。したがって、本発明の薄膜状無線給電型発光デバイスは、光線力学療法のみならず、バイオイメージングや光遺伝学的制御に使用できる。

【0037】
本発明の薄膜状無線給電型発光デバイス及びこれを含むシステムをバイオイメージングに使用する例としては、例えば、測定を目的とする標的物質に結合又は反応する蛍光プローブを被験体に投与し、蛍光プローブが生体内に分布し、生体内の標的物質に結合した状態を蛍光を測定して取得されるイメージにより、全体的又は局所的な分布を測定する手法であり、各種疾患の診断の目的や動物実験での研究手法としてin vivoイメージングの利用が試みられている。例えば、生体内で強い平滑筋弛緩作用をはじめとした各種生理活性を有する一酸化窒素(NO)を含む活性酸素種を検出する蛍光プローブが開発されている(WO2004/005917、WO2001/063265、WO2005/085811)。

【0038】
しかし、光線力学療法と同様に、生体組織における光透過性の問題から、in vivoイメージングに利用できる励起光の波長は制限される。近赤外線(約700~1000 nm)は1~4 cmまでの組織透過性を示すところから、in vivoイメージングに利用される照射光は近赤外域の光線が中心である(WO1999/058161、WO2013/127949等)。

【0039】
一方、本発明の薄膜状無線給電型発光デバイスと、これを使用した埋植型の無線給電型光線力学療法システムは、生体内に発光素子を留置し、無線給電によりバッテリー切れのおそれがなく、長時間連続して発光させることにより、標的組織に所望とする波長域の光線を照射し、その経時変化を連続的又は継続的に測定することができる。そこで、バイオイメージングにおいても、観察対象とする標的組織に直接、又はその近傍に本発明の薄膜状無線給電型発光デバイスを貼付することにより生体内に埋植し、場合によっては、標的組織の近傍に励起光を測定するための受光プローブを設置することにより、励起光を近赤外領域のみに制限されることなく、緑色光や青色光の幅広い波長領域で利用できる。この励起光の選択肢の拡大は、蛍光プローブの設計において、利用可能な蛍光性原子団、蛍光化合物の分子種及びその化学構造等の範囲の拡大をもたらすことができる。

【0040】
そこで、本発明の薄膜状無線給電型発光デバイス、及びこれを利用した埋植型の無線給電型光線力学療法システムをin vivoイメージングに応用することにより、従来にない標的化合物や標的組織、さらに、対象とする疾患の範囲を拡大した利用ができる。

【0041】
また、本明細書において、上記の「光遺伝学的制御」とは、光感受性を有し、光によって活性化されるタンパク質を遺伝学的手法を用いて細胞に発現させ、その機能を光によって制御する技術である。既に、線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウス、ラット及び霊長類において、その適用が報告されている。

【0042】
例えば、光感受性タンパク質として、イオンチャンネル(ChR2)としての機能を有するロドプシンタンパク質を細胞に発現させ、光照射によりイオンチャンネルを開く技術も報告されている。さらに、変異型ロドプシンタンパク質(ChR2/C128X(XはT、A若しくはS)又はChR2/D156A)とすることにより、活性化のための光の波長を変化させる技術も知られており、イオンチャンネルに青色バルス光を照射することにより、例えば、神経細胞に脱分極状態を惹起し、次に、550 nm前後の緑色光又は橙色光の照射によりイオンチャンネルを閉じることにより、膜電位を元に戻すことができる(Andre Berndt,et al., Nat. Neurosci.: 2009, 12(2);229-34)。

【0043】
そこで、本発明の薄膜状の埋植型無線給電型発光デバイスを、標的組織に貼付し、無線給電により連続的に、照射光の波長域の制限を受けることなく、標的組織に照射することにより、光遺伝学的手法による生体機能の制御が可能となる。

【0044】
本発明の薄膜状無線給電型発光デバイスにおいて、高分子薄膜の材料として、シリコーンエラストマー、アクリロニトリル-ブタジエン共重合エラストマー、アクリルエラストマー、エピクロロヒドリンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンエラストマー、ポリカプロラクトン、ポリイミド、ポリ乳酸又はSU-8などが挙げられる。

【0045】
本発明の薄膜状無線給電型発光デバイスにおいて、粘着性ポリマー層を形成する材料の例として、ポリフェノール化合物の重合体、又は、セメダイン、アロンアルファ若しくはフィブリン系接着剤から選択される医療用接着剤が挙げられる。

【0046】
薄膜状無線給電型発光デバイスは、例えば、エラストマーであるPDMS(ポリジメチルシロキサン)の自立性薄膜をpH8.5のポリフェノールの1種であるドーパミン水溶液に、酸素バブリング下、浸漬し、ドーパミンを酸化重合させることによりPDA(ポリドーパミン)層をPDMS薄膜上に積層することができる。このPDA-PDMS積層膜と、表面修飾を行っていないpristine PDMS自立性薄膜とで、近距離(NFC)LEDチップを挟み込むことにより封止して製造することができる(図1A参照)。すなわち、このとき、薄膜状無線給電型発光デバイスの外面2面の中の1面はPDA層である(PDMS自立性膜の製造方法、及び、該PDMS自立性薄膜にPDAを積層した積層膜を製造する方法、及び該積層膜の特性は、PCT/JP2017/016283に詳細に開示されている)。

【0047】
PDAは生体組織に粘着性を有し、また、生体組織に追従性の高いPDMS自立性薄膜は生体組織に密着することにより、密着性を有する。そして、PDAの生体組織への粘着性と、追従性の高い自立性薄膜の生体組織に対する密着性の相乗効果により、PDAで表面修飾したPDA-PDMS積層膜は、生体組織に相乗的で良好な接着性を有し、接着剤を使用しなくとも生体組織に接着したPDA-PDMS積層膜は、動物や臓器の動作に基づく位置ずれを起こすことなく長期間安定して生体組織に接着される(PCT/JP2017/016283)。

【0048】
また、PDAで表面修飾したPDA-PDMS積層膜は、高い柔軟性を有し、物理的な引っ張り、又は、圧迫に対して高い耐性を有する(図1B参照)。

【0049】
このポリフェノールポリマーが、生体組織に良好な粘着性をもたらすモノマーとしてのポリフェノール化合物としては、ドーパミンに限定されるものではなく、ドーパミン以外にも、タンニン酸、カテキン、ルチン、アントシアニン、イソフラボン、クェルセチン、ヘスペリジン等のフラボノイド化合物や、クロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、クルクリン、クマリン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート及びガロカテキンガレートからなる群から選択される少なくとも1種から選択して使用できる。

【0050】
また、ポリフェノールを重合させた積層膜を製造するためのエラストマーとして、PDMS膜であるシリコーンエラストマーに限定されるものではなく、シリコーンエラストマー以外にも、アクリロニトリル-ブタジエン共重合エラストマー、アクリルエラストマー、エピクロロヒドリンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンエラストマー、ポリカプロラクトンから選択され得る。

【0051】
また、前記シリコーンエラストマーの場合、ポリジメチルシロキサン(PDMS)以外のオルガノポリシロキサンを選択してポリフェノール重合体と自立性薄膜との積層膜として製造できる。

【0052】
このNFC LEDチップをPDA-PDMSとPDMSとで封止したデバイスは、ヒトを含む動物の生体内の臓器、例えば、腫瘍組織等の標的組織、又は、その近傍に位置する臓器若しくは組織に接着剤を使用することなく貼付することにより、動物の動作又は動物の臓器の蠕動運動等の影響を受けることなく、長期間安定して、位置ずれを起こすことなく貼付位置に存在することができる。

【0053】
本発明の埋植型の薄膜状無線給電型発光デバイスは、貼付部位に外科的に縫合して固定する必要はなく、従来の縫合固定を行う発光システムと比較して、被験体に対して低侵襲で固定し、配置し、設置できる。

【0054】
このとき、薄膜状無線給電型発光デバイスを例えば腹腔等の体腔内に設置し、この体腔内に設置されたより薄膜状無線給電型発光デバイスより照射される照射光を、光ファイバープローブ等のプローブを介して、標的組織に光線を照射することができる。

【0055】
さらに、設置部位は、生体内への埋植に限定されるものではなく、生体外表面に接着剤を使用することなく貼付し、この生体外表面に設置した薄膜状無線給電型発光デバイスより照射される照射光を、光ファイバープローブ等のプローブを介して、標的組織又はその近傍に、光線力学療法のための光線を照射することができる。

【0056】
また、従来の光線力学療法のための光線の照射装置は、体外に設置した照射用光源から内視鏡などを経由して生体に光照射するため、生体組織の光線の透過性の問題があり、多くの場合、赤色光が使用されている。一方、既に、光線力学療法のための光増感剤として、フォトフリン(現行、赤色光(630 nm)を照射)、タラポルフィン、テモポルフィン(赤色光を照射)、ベルテポルフィン、プルリティン及びフォスカン等、数種類が既に開発され、その一部は臨床で使用されている。これらの光増感剤の光増感作用は、赤色光以外の波長の光線で最も効率的に発揮されるものも含まれる。本発明の埋植型の薄膜状無線給電型発光デバイスは、標的組織又はその近傍に接着剤を使用することなく貼付することができるため、生体組織による光透過性の低下の問題を回避でき、赤色光以外の波長の緑色光や青色光等の波長の照射光を照射するLEDチップを使用することができる。

【0057】
本発明の無線給電型発光デバイスにおいて、前記無線給電型発光素子は、NFC LEDチップ等のLED素子に限定されるものではなく、有機EL素子も使用できる。

【0058】
本発明の無線給電型発光デバイスは、生体内に埋植して使用できる限り高分子薄膜の膜厚は限定されないが、例えば、膜厚1μm未満のシリコーンエラストマー薄膜から形成される自立性薄膜に、ポリフェノールが重合した粘着性を有する膜厚1μm未満の粘着性ポリマーを積層した積層膜を使用するため、前記無線給電型発光デバイスの厚さが、発光素子の厚さに依存する。厚さが1 mm未満の発光素子を用いることにより、本発明の無線給電型発光デバイスの厚さを1.0 mm未満とすることができる。

【0059】
現在有機EL素子の厚さとして、最小0.003 mmのものが知られているところから、本発明の無線給電型発光デバイスの厚さは、0.5 mm以下、好ましくは0.003 mm以下のものも製造できる。

【0060】
本発明の無線給電型発光デバイス、及び該デバイスを用いた埋植型の無線給電型光線力学療法システムが適用される疾患の例としては、皮膚がん、肺がん、食道がん、胃がん、子宮頸部がん、脳腫瘍、膵臓がん、肝臓がん、卵巣がん、咽頭がん、口腔がん、胆道がん又は加齢黄斑変性症を対象とすることができるが、これらに限定されない。

【0061】
また、本発明は、前記の薄膜状の無線給電型発光デバイスにおいて、前記無線給電型発光素子が電気的に接続されたアンテナコイルを有し、該アンテナコイルがフレキシブルな導電性配線層から形成される場合、折り畳み可能なフレキシブル無線給電型発光デバイスとして使用することができる。アンテナコイルをフレキシブルな導電性配線層から形成する方法は、例えば、商業的に利用可能な金属ナノ粒子を含有する印刷用のインクを、インクジェットプリンターを用いて、基材上に印刷し、PDMS等のシリコーンエラストマー薄膜に転写させることにより製造することができる。

【0062】
なお、本発明の無線給電型発光素子では、アンテナコイルと発光素子とを一体化して構成しても良いし、アンテナコイルと発光素子との間を配線接続し、離間させた状態の構成としても良い。一体化することで無線給電型発光素子を、より小さく構成することができ、生体への侵襲の影響を下げることが期待できる。逆に、アンテナコイルを発光素子と離間してした構成とすることで、アンテナコイルをより皮膚に近い所に配置して給電効率を上げ、発光素子をより患部に近い所に配置することが可能となる。

【0063】
本発明の無線給電型発光デバイスは、無線給電のための電磁波発信デバイスと組みわせて、埋植型の無線給電型光線力学療法システムとして使用することにより、下記の特性、利点や利便性を発揮できる。
(1) 臓器に粘着可能であり、外科的な縫合による固定の必要がなく、したがって、生体への侵襲が小さい。
(2) 生体組織に対して高い粘着性を有し、ヒト等の動物の動作や臓器の蠕動運動等で、位置ずれを起こすことなく、長期間、安定に固定された状態で使用できる。
(3) 標的臓器に直接貼付、又は、その近傍の組織に貼付できるため、波長依存の組織透過性の問題を回避でき、赤色、緑色、青色のいずれの色においても、光増感剤に適した照射色を選択できる。例えば、フォトフリンを光増感剤とした場合、赤色よりも緑色の方が光吸収性が高い。実際に下記の実施例において、緑色LEDの方が赤色LEDよりも抗腫瘍効果が数倍強いとの結果を得ている。
(4)無線給電で電力を供給するためベッドに寝ているだけで、連続的に光線力学療法を行うことができ、被験者のQOLの向上が得られる。また、バッテリー交換、又はそのための手術等の必要がない。
(5) 脳腫瘍やすい臓がん等の外科的処置が困難ながんへの適用が期待できる。
(6) 外科的に腫瘍摘出した部位に使用することによる残存がん細胞への抗腫瘍効果が期待できる。
(7) 光線力学療法への応用のみならず、バイオイメージングや光遺伝学的制御へ応用できる

【0064】
2.埋植型の無線給電型光線力学療法システム
本発明のもう1つの実施形態は、前記埋植型の薄膜状無線給電型デバイスと、該デバイスに無線給電で電力を供給するための電磁波を発信する発信デバイスを備える埋植型の無線給電型光線力学療法システムである。

【0065】
無線給電で電力を供給するための電磁波を発信する発信デバイスは、既にICチップを有するカードに対する非接触型のリーダーライターとして商業的に利用されており、例えば、これら市販の無線型のリーダーライターを入手して、給電用アンテナボードやこれらを制御するための装置、並びに、上記埋植型の薄膜状無線給電型デバイスと組合わせることによって、使用できる。

【0066】
本埋植型の無線給電型光線力学療法システムの実施態様は、上記薄膜状無線給電型発光デバイスで説明した実施態様と同様である。

【0067】
3.メトロノーム型光線力学療法
本発明のもう1つの実施形態は、埋植型の無線給電型光線力学療法システムを使用したメトロノーム型光線力学療法である。

【0068】
本発明のメトロノーム型光線力学療法は、前記の薄膜状の無線給電型発光デバイスを用い、生体内に埋植された前記無線給電型発光デバイスから標的組織に照射される光線の照度が1 mW/cm2未満であり、2時間以上の照射時間で標的組織に照射するメトロノーム型光線力学療法を提供する。従来の光線力学療法は、被験体の動作を制限するため、例えば、100 mW/cm2を超える強い照度の光線を短時間照射する。しかし、上記の埋植型の無線給電型光線力学療法システムは、被験体の動作を制限することなく照射可能であり、弱い照度(<1 mW/cm)の光線を長時間、患部に照射することができる。その結果、従来の光線力学療法よりも、より高い治療成績をもたらすことができる。
【実施例】
【0069】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0070】
1.実験材料及び装置
ポリジメチルシロキサンポリマー薄膜を製造するためのシロキサンモノマー組成物、及びその硬化剤は、SILPOT 184 W/C及びCATALYST SILPOT(東レ・ダウ コーニング株式会社、東京)を使用した。犠牲層である非水溶性高分子層としてポリビニルアルコール(PVA、関東化学株式会社、東京)を、積層膜の基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(Lumirror 25T60、パナック株式会社、東京)を使用した。
光増感剤:フォトフリンはファイザー社製(東京)を、蛍光化合物:量子ドットはPlasmaChem GmbH社製(ベルリン、独国; CdTe Quantum Dots, powder, hydrophilic; fluorescence wavelength: 700 ± 5 nm)のものを購入し、使用した。
【実施例】
【0071】
ロール・ツー・ロール法による製膜に使用するグラビアコーターは、グラビアコーター(ML-120型、株式会社廉井精機、東京)を使用した。可視光の透過性試験には紫外可視分光高度計(V-670型、日本分光株式会社、東京)を、原子間顕微鏡は、VN-8000型(株式会社キーエンス、東京)を使用した。
【実施例】
【0072】
NFC LEDチップは共立プロダクツ社製KP-NFLER2(赤)、KP-NFLEG(緑)、KP-NFLEB(青)型を、リーダーライターはタカヤ株式会社製TR3-LD003GW4LM-L型を無線給電用の給電装置として使用し、給電用アンテナボードはタカヤ株式会社製TR3-LA101W4型を使用した。
【実施例】
【0073】
2.PDMS自立性薄膜の製造
グラビアコーターを用いて、PETフィルム上に犠牲層となるポリビニルアルコール (PVAの3 wt% 水溶液)を製膜した。PDMS (SILPOT 184、非水溶性高分子薄膜原料組成物(主剤):硬化剤=5:1、10:1、20:1)をヘキサン/酢酸エチル混合溶媒(混合比4/1)にて希釈し、PVA層の上に幅12 cm、長さ約10 m製膜した。その後、オーブンにて80℃で12時間以上加熱することで熱硬化させた。上記プロセスを図1Aに示す。
【実施例】
【0074】
このPDA-PDMS積層膜は、高い柔軟性を有し、伸縮又は圧縮に対して強い耐性を示した(図1B)。
【実施例】
【0075】
PVA及びPDMSが製膜されたPETフィルムの上に、裏面に糊のついたテープ状フレームを貼付し、60℃に加熱した水中に浸漬させることでPVA層を溶解させ、フレームにて自立性のPDMS薄膜(縦:2 cm、横:2 cm、面積:4 cm2)を得た(図1C)。
【実施例】
【0076】
作製したPDMS自立性薄膜(膜厚:588 nm、910 nm、1595 nm)について、可視光領域(波長:360-830 nm)における光透過性を紫外可視(UV-Vis)分光光度計にて測定したところ、透過率96%以上と非常に高い透明性を有することが示され、発光素子の封止に使用しても、照射光をほぼ遮断することなく、標的組織に各種波長の光線を照射するための薄膜として好適であることが示された。
【実施例】
【0077】
また、PDA-PDMS積層膜についても、良好な光透過性を示し、下記で示される動物試験に使用された。
【実施例】
【0078】
3.PDA積層PDMS自立性薄膜の製造
ムール貝などイガイ科の貝が作り出す接着タンパク質を模倣した高分子材料ポリドーパミン(PDA)(H. Lee et al., Science, 318, 426 (2007))をPDMS薄膜表面にコーティングすることで、生体組織への高い接着性を有する非水溶性高分子薄膜の調製を実施した。PDMS薄膜(主剤:硬化剤=10:1、膜厚:561 nm)をドーパミン塩酸塩溶液(2 mg/mL in 10 mM Trisbuffer pH 8.5)に酸素バブリング下にて24時間浸漬させることで、表面にPDAを修飾した。X線光電子分光分析法(XPS)による表面分析の結果、浸漬時間に依存してPDAが有する窒素原子由来のピーク(399 eV付近)強度が増大することが示された。さらに、近赤外スペクトルを測定したところ、24時間の処理によりPDA修飾したPDMS薄膜においてPDAが有する官能基の特徴的なピーク(3745 cm-1 (O-H)、3310 cm-1(N-H)、1640 cm-1 (C=O)、1513 cm-1 (Imide ring))が検出された。
【実施例】
【0079】
4.薄膜状の無線給電型発光デバイスの製造
上記の方法で製造したPDA-PDMS積層膜(膜厚:約600 nm)と、表面修飾を行っていないpristine PDMS自立性薄膜(膜厚:約600 nm)とで、近距離(NFC)LEDチップ(サイズ:7.0 x 11.0 x 0.8 mm、重さ:約20 mg、共鳴周波数:13.56 MHz)を挟み込み、封止することにより、薄膜状(サイズ:20 x 20 x 0.8 mm)の無線給電型発光デバイスを製造した(図1D)。
【実施例】
【0080】
5.埋植型無線給電型発光システムの製造
マウス内背部に接着剤を使用せずに貼付し、埋植した薄膜状の無線給電型発光デバイスを無線給電により発光させるため(図2A)、上記の薄膜状の無線給電型発光デバイスと、リーダーライターと、無線給電型発光デバイスへ無線給電するための給電用アンテナボードと、これらを制御するための制御装置を備えた埋植型無線給電型のメトロノーム型光線力学療法(mPDT)システムを構築した(図2B)。
【実施例】
【0081】
以下に記載の埋植型無線給電型発光システムを使用した腫瘍移植マウスを用いたin vivoでの抗腫瘍効果の評価の実験では、上記給電用アンテナボード上にマウス用ケージを静置し、該ケージ内において、薄膜状の無線給電型発光デバイスを埋植したマウスを非拘束下自由行動させた状態で飼育した。上記給電用アンテナボードよりラジオ波(13.56 MHz)を発信し、無線給電型発光デバイスが、このラジオ波を受信することにより発光素子を発光させた(図2C、図2D)。
【実施例】
【0082】
6.埋植型無線給電型発光システムを使用した腫瘍移植マウスを用いたin vivoでの抗腫瘍効果の評価
マウス背部の表皮内にがん細胞(大腸がん細胞、Colon-26)を移植して腫瘍を形成させ(腫瘍サイズ: 2 mm x 2 mm x 2 mm)、生体接着分子であるポリドーパミンを修飾したPDMSナノ薄膜(膜厚約600 nm)と無修飾PDMSナノ薄膜(膜厚約600 nm)で封止した近距離無線通信(NFC)対応の非接触発光デバイス(赤:波長630 nm、緑:波長530 nm)を腫瘍直下に埋め込んだ(図2A~D)。
【実施例】
【0083】
本発明のシステムの抗腫瘍効果を評価するための実験プロトコールの概要を図3Aに示した。光増感剤(フォトフリン)を経静脈投与したマウスを10日間給電用アンテナボード(13. 56 MHz、)上で飼育することで連続的に弱い照度の光線を照射する光線力学療法を実施した。この時、コントロール(CTL)群には発光部を無効化させたデバイスを埋め込み、上記と同様の方法で10日間飼育した。光増感剤であるフォトフリンは、PDT群やCTL群ともにデバイス埋植の当日(Day 0)及び埋植後(Day 3)に8 mg/kgずつそれぞれ尾静脈内投与した。
【実施例】
【0084】
腫瘍埋植から3、7及び10日後に腫瘍サイズを経時的に測定したところ、赤色光照射群及び緑色光照射群ともにPDT群はCTL群に比べ、増大率の減少が認められた(図3B、C)。緑色光照射群では、10例中6例において、腫瘍が完全に消失したのに対して、赤色光照射群では10例中1例のみで腫瘍の完全消失を認めた。
【実施例】
【0085】
フォトフリンの吸光スペクトル上で、本実験に使用した緑色光と赤色光に相当する波長を図3Dに示した。赤色光と比較して緑色光の吸光度は約3倍高いところから、フォトフリンは、光増感剤として赤色光よりも緑色光の方が好ましいことが図3Dより理解できる。すなわち、本発明の埋植型無線給電型発光システムにおいて、埋植型の薄膜状無線給電型発光デバイスを標的組織に直接、又はその近傍に接着剤を使用することなく貼付し配置することにより、光線の生体組織透過性の問題を回避するために従来より使用されている赤色光を使用する必要はなく、光増感作用としてより効果的な緑色光を照射光として採用できることを示している。このことは、光線力学療法において、より弱い電力供給で長期間光線を照射することにより、より高い抗腫瘍効果を発揮できることを示している。
【実施例】
【0086】
次に、発光デバイスによって励起可能なフォトフリンの二次元的な分布範囲を評価するために、光増感剤の模擬薬剤として蛍光化合物である量子ドットを皮下に注入した。発光デバイス(青:波長460 nm)にて量子ドットを励起したところ、LEDの光源面積(約1 mm2)に対して3倍近い範囲で量子ドットが励起されることが明らかになった(図4)。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図1C】
2
【図1D】
3
【図2A】
4
【図2B】
5
【図2C】
6
【図2D】
7
【図3A】
8
【図3B】
9
【図3C】
10
【図3D】
11
【図4】
12