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明細書 :形状記憶合金アクチュエータの駆動方法、形状記憶合金アクチュエータおよびこれを用いた機器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-105171 (P2019-105171A)
公開日 令和元年6月27日(2019.6.27)
発明の名称または考案の名称 形状記憶合金アクチュエータの駆動方法、形状記憶合金アクチュエータおよびこれを用いた機器
国際特許分類 F03G   7/06        (2006.01)
FI F03G 7/06 E
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2017-236415 (P2017-236415)
出願日 平成29年12月8日(2017.12.8)
発明者または考案者 【氏名】原田 宏幸
【氏名】田島 悠介
出願人 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100110766、【弁理士】、【氏名又は名称】佐川 慎悟
【識別番号】100133260、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 基子
【識別番号】100169340、【弁理士】、【氏名又は名称】川野 陽輔
【識別番号】100195682、【弁理士】、【氏名又は名称】江部 陽子
【識別番号】100206623、【弁理士】、【氏名又は名称】大窪 智行
審査請求 未請求
要約 【課題】 形状記憶合金を高速で振動させることができ、形状記憶合金アクチュエータとしての新たな用途や機能を提供することができる形状記憶合金アクチュエータの駆動方法、形状記憶合金アクチュエータおよびこれを用いた機器を提供する。
【解決手段】 形状記憶合金を用いた形状記憶合金アクチュエータの駆動方法であって、温度変化に対して前記形状記憶合金の伸縮量の変化が最大となる最適温度を含む所定の高応答温度範囲内に前記形状記憶合金の温度を保持する温度保持ステップと、前記高応答温度範囲内に保持された前記形状記憶合金に交流電圧を印加する交流電圧印加ステップと、を有する。
【選択図】 図3
特許請求の範囲 【請求項1】
形状記憶合金を用いた形状記憶合金アクチュエータの駆動方法であって、
温度変化に対して前記形状記憶合金の伸縮量の変化が最大となる最適温度を含む所定の高応答温度範囲内に前記形状記憶合金の温度を保持する温度保持ステップと、
前記高応答温度範囲内に保持された前記形状記憶合金に交流電圧を印加する交流電圧印加ステップと、
を有する、形状記憶合金アクチュエータの駆動方法。
【請求項2】
前記温度保持ステップでは、前記形状記憶合金に直流電圧を印加することによって加熱する、請求項1に記載の形状記憶合金アクチュエータの駆動方法。
【請求項3】
前記形状記憶合金の温度または周囲温度を測定する温度測定ステップと、
前記形状記憶合金の温度または周囲温度に基づいて、前記形状記憶合金の温度が前記高応答温度範囲内となるように前記直流電圧の電圧値を調節する直流電圧調節ステップと、
を有する、請求項2に記載の形状記憶合金アクチュエータの駆動方法。
【請求項4】
前記高応答温度範囲は、冷却過程における、前記形状記憶合金の変態終了温度と前記最適温度との中間値を下限値とし、加熱過程における、前記最適温度と前記形状記憶合金の変態終了温度との中間値を上限値とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の形状記憶合金アクチュエータの駆動方法。
【請求項5】
形状記憶合金を用いた形状記憶合金アクチュエータであって、
温度変化に対して前記形状記憶合金の伸縮量の変化が最大となる最適温度を含む所定の高応答温度範囲内に前記形状記憶合金の温度を保持する温度保持手段と、
前記高応答温度範囲内に保持された前記形状記憶合金に交流電圧を印加する交流電圧印加手段と、
を有する、形状記憶合金アクチュエータ。
【請求項6】
前記温度保持手段は、前記形状記憶合金に直流電圧を印加することによって加熱する、請求項5に記載の形状記憶合金アクチュエータ。
【請求項7】
前記形状記憶合金の温度または周囲温度を測定する温度測定手段と、
前記形状記憶合金の温度または周囲温度に基づいて、前記形状記憶合金の温度が前記高応答温度範囲内となるように前記直流電圧の電圧値を調節する直流電圧調節手段と、
を有する、請求項6に記載の形状記憶合金アクチュエータ。
【請求項8】
前記高応答温度範囲は、冷却過程における、前記形状記憶合金の変態終了温度と前記最適温度との中間値を下限値とし、加熱過程における、前記最適温度と前記形状記憶合金の変態終了温度との中間値を上限値とする、請求項5から請求項7のいずれかに記載の形状記憶合金アクチュエータ。
【請求項9】
請求項5から請求項8のいずれかに記載の形状記憶合金アクチュエータを搭載してなる機器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶合金を用いた形状記憶合金アクチュエータの駆動方法、形状記憶合金アクチュエータおよびこれを用いた機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、温度変化に応じて形状が変化する性質を備えた形状記憶合金(SMA:Shape Memory Alloy)を用いた形状記憶合金アクチュエータが知られている。例えば、特許第6152243号公報には、所定のパルス電圧を印加することによって動作する形状記憶合金を用いたアクチュエータの駆動方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特許第6152243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された発明を含め、従来の形状記憶合金アクチュエータにおいては、形状記憶合金への電圧印加による通電加熱と、通電停止による自然放熱とを利用して温度変化させている。このため、印加電圧を制御可能な加熱過程では、比較的高い駆動応答性が得られるのに対し、自然放熱に依存する冷却過程では、駆動応答性が悪く、高速駆動できないという問題がある。
【0005】
したがって、従来、形状記憶合金アクチュエータは、主に高速駆動が要求されない用途や製品についてのみ研究開発が進められている。しかしながら、他のアクチュエータと比較して、形状記憶合金アクチュエータは、単位重量あたりの駆動力が大きく、取り扱いが容易である等、優れた特性を有している。このため、形状記憶合金アクチュエータとしての新たな用途や機能の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、形状記憶合金を高速で振動させることができ、形状記憶合金アクチュエータとしての新たな用途や機能を提供することができる形状記憶合金アクチュエータの駆動方法、形状記憶合金アクチュエータおよびこれを用いた機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る形状記憶合金アクチュエータの駆動方法は、形状記憶合金を高速で振動させ、形状記憶合金アクチュエータとしての新たな用途や機能を提供するという課題を解決するために、形状記憶合金を用いた形状記憶合金アクチュエータの駆動方法であって、温度変化に対して前記形状記憶合金の伸縮量の変化が最大となる最適温度を含む所定の高応答温度範囲内に前記形状記憶合金の温度を保持する温度保持ステップと、前記高応答温度範囲内に保持された前記形状記憶合金に交流電圧を印加する交流電圧印加ステップと、を有する。
【0008】
また、本発明の一態様として、簡単かつ迅速に形状記憶合金を高応答温度範囲内に保持するという課題を解決するために、前記温度保持ステップでは、前記形状記憶合金に直流電圧を印加することによって加熱してもよい。
【0009】
さらに、本発明の一態様として、形状記憶合金の温度が変化しやすい環境下においても高精度に形状記憶合金を高応答温度範囲内に保持するという課題を解決するために、前記形状記憶合金の温度または周囲温度を測定する温度測定ステップと、前記形状記憶合金の温度または周囲温度に基づいて、前記形状記憶合金の温度が前記高応答温度範囲内となるように前記直流電圧の電圧値を調節する直流電圧調節ステップと、を有していてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様として、高応答温度範囲内に保持された形状記憶合金の駆動応答性を担保するという課題を解決するために、前記高応答温度範囲は、冷却過程における、前記形状記憶合金の変態終了温度と前記最適温度との中間値を下限値とし、加熱過程における、前記最適温度と前記形状記憶合金の変態終了温度との中間値を上限値としてもよい。
【0011】
また、本発明に係る形状記憶合金アクチュエータは、形状記憶合金を高速で振動させ、形状記憶合金アクチュエータとしての新たな用途や機能を提供するという課題を解決するために、形状記憶合金を用いた形状記憶合金アクチュエータであって、温度変化に対して前記形状記憶合金の伸縮量の変化が最大となる最適温度を含む所定の高応答温度範囲内に前記形状記憶合金の温度を保持する温度保持手段と、前記高応答温度範囲内に保持された前記形状記憶合金に交流電圧を印加する交流電圧印加手段と、を有する。
【0012】
また、本発明の一態様として、簡単かつ迅速に形状記憶合金を高応答温度範囲内に保持するという課題を解決するために、前記温度保持手段は、前記形状記憶合金に直流電圧を印加することによって加熱してもよい。
【0013】
さらに、本発明の一態様として、形状記憶合金の温度が変化しやすい環境下においても高精度に形状記憶合金を高応答温度範囲内に保持するという課題を解決するために、前記形状記憶合金の温度または周囲温度を測定する温度測定手段と、前記形状記憶合金の温度または周囲温度に基づいて、前記形状記憶合金の温度が前記高応答温度範囲内となるように前記直流電圧の電圧値を調節する直流電圧調節手段と、を有していてもよい。
【0014】
また、本発明の一態様として、高応答温度範囲内に保持された形状記憶合金の駆動応答性を担保するという課題を解決するために、前記高応答温度範囲は、冷却過程における、前記形状記憶合金の変態終了温度と前記最適温度との中間値を下限値とし、加熱過程における、前記最適温度と前記形状記憶合金の変態終了温度との中間値を上限値としてもよい。
【0015】
また、本発明に係る機器は、上述したいずれかの態様を有する形状記憶合金アクチュエータを搭載してなるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、形状記憶合金を高速で振動させることができ、形状記憶合金アクチュエータとしての新たな用途や機能を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る形状記憶合金アクチュエータの一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の高応答温度範囲を示すグラフである。
【図3】本発明に係る形状記憶合金アクチュエータの駆動方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図4】実施例1~3で用いた実験装置を示すブロック図である。
【図5】実施例1~3で用いた実験装置の諸元を示す表である。
【図6】実施例1~3における実験条件を示す表である。
【図7】実施例1の実験結果を示すグラフである。
【図8】実施例2の実験結果を示すグラフである。
【図9】実施例3の実験結果を示すグラフである。
【図10】形状記憶合金とバイアス材との他の組み合わせ例を示す図である。
【図11】形状記憶合金とバイアス材との他の組み合わせ例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明者らは、上述した課題に鑑み、形状記憶合金アクチュエータの用途を「振動」に限定することにより、形状記憶合金自体の振動により冷却を促進し、上述した冷却過程における駆動応答性を向上することを着想した。そして、鋭意研究の結果、形状記憶合金を適切な温度範囲内に保持した状態では、高周波数の交流電圧を印加することによって高速に振動することを見い出し、本発明を完成させるに至った。

【0019】
以下、本発明に係る形状記憶合金アクチュエータの駆動方法、形状記憶合金アクチュエータおよびこれを用いた機器の一実施形態について図面を用いて説明する。

【0020】
本実施形態の形状記憶合金アクチュエータ1は、図1に示すように、主として、ワイヤ状の形状記憶合金2と、この形状記憶合金2に所定のバイアス力を付与するバイアス材3と、形状記憶合金2の温度を測定する温度測定手段4と、形状記憶合金2に印加される直流電圧の電圧値を調節する直流電圧調節手段5と、所定の温度範囲内に形状記憶合金2の温度を保持する温度保持手段6と、形状記憶合金2に交流電圧を印加する交流電圧印加手段7とを有している。以下、各構成手段について詳細に説明する。

【0021】
形状記憶合金2は、温度変化に応じて形状が変化する性質を備えた合金である。本実施形態において、形状記憶合金2は、ニッケル(Ni)とチタン(Ti)を主成分とする合金であって、ワイヤ状に形成されている。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、高速振動が可能な形状記憶合金2であればよい。例えば、鉄(Fe)-マンガン(Mn)-ケイ素(Si)合金や、銅(Cu)-亜鉛(Zn)-アルミニウム(Al)合金等の形状記憶合金2を使用してもよい。また、コイル状、板状、膜状等に形成された形状記憶合金2を使用してもよい。

【0022】
なお、本実施形態において、加熱過程における形状記憶合金2は、図2に示すように、変態開始温度(As点)以下の低温状態ではマルテンサイト相を呈し、伸長した状態となる。また、形状記憶合金2は、変態開始温度(As点)まで加熱されると、マルテンサイト相からオーステナイト相への変態を開始し、収縮し始める。そして、形状記憶合金2は、変態終了温度(Af点)以上の高温状態では、オーステナイト相を呈し、収縮した状態となる。

【0023】
一方、冷却過程における形状記憶合金2は、変態開始温度(Ms点)以下まで冷却されると、オーステナイト相からマルテンサイト相への変態を開始し、伸長し始める。そして、形状記憶合金2は、変態終了温度(Mf点)以下の低温状態では、マルテンサイト相を呈し、伸長した状態となる。

【0024】
ただし、本実施形態の形状記憶合金2は、収縮方向への形状記憶を有する一方向性の形状記憶合金2であるため、一旦収縮すると、外力を付与しない限り、元の長さに戻らない。そこで、本実施形態では、図1に示すように、形状記憶合金2を伸長させる方向にバイアス力を付与するバイアス材3が設けられている。具体的には、形状記憶合金2の一端を固定子に固定するとともに、他端を振動子に固定する。そして、当該振動子を介してバイアス材3の一端を直列に連結し、その他端を固定子に固定する。これにより、形状記憶合金2が収縮状態と伸長状態とを繰り返すことにより、振動子が振動するようになっている。

【0025】
なお、本実施形態において、バイアス材3は、コイルバネによって構成されているが、この構成に限定されるものではない。例えば、弾性を有する板状の基材をバイアス材3として使用してもよい。この場合、当該基材上に形状記憶合金2を貼り付けて固定すると、加熱時には基材の弾性に逆らって収縮する一方、冷却時には元の形状に戻ろうとする基材と一体となって元の長さに伸長する。

【0026】
また、本実施形態では、上述したとおり、収縮方向への形状記憶を有する一方向性の形状記憶合金2を使用しているため、バイアス材3を設けている。しかしながら、収縮方向の形状記憶のみならず、伸長方向への形状記憶も有する二方向性の形状記憶合金2を使用してもよく、この場合、バイアス材3は不要である。

【0027】
温度測定手段4は、形状記憶合金2の温度を測定するものである。本実施形態において、温度測定手段4は、形状記憶合金2に設けられる熱電対と、熱電対用アンプと、オシロスコープとから構成されている(いずれも図示せず)。そして、熱電対で発生した熱起電力を熱電対用アンプによって増幅し、オシロスコープに出力された電圧値を変換することにより、形状記憶合金2の温度を測定するようになっている。

【0028】
なお、本実施形態において、温度測定手段4は、形状記憶合金2の表面温度を測定しているが、これに限定されるものではなく、形状記憶合金2の周囲温度を測定してもよい。また、本実施形態では、屋外のように形状記憶合金2の温度が変化しやすい環境下においても、形状記憶合金アクチュエータ1を高精度に駆動させるために、形状記憶合金2の温度または周囲温度に基づいて、後述する直流電圧の電圧値を調節している。しかしながら、密閉された屋内等のように、周囲温度がほぼ一定に保持しうる環境下においては、直流電圧の電圧値を固定できるため、温度測定手段4を設けなくてもよい。

【0029】
直流電圧調節手段5は、形状記憶合金2に印加される直流電圧の電圧値を調節するものである。本実施形態において、直流電圧調節手段5は、電気増幅素子、トランジスタ、リレーなどから構成されている(いずれも図示せず)。そして、温度測定手段4によって測定された温度に基づいて、後述する温度保持手段6によって形状記憶合金2に印加される直流電圧の電圧値が、所望の値となるように調節されるようになっている。

【0030】
具体的には、形状記憶合金2の測定温度が所望の温度範囲内であれば、それ以上の加熱は不要であるため、電圧値を0に設定する。一方、形状記憶合金2の測定温度が所望の温度範囲の下限値を下回っている場合は、加熱する必要がある。このため、所望の温度範囲までに温度上昇させるのに必要な電圧値に設定する。

【0031】
なお、直流電圧調節手段5は、手動によって操作されてもよく、コンピュータによって制御されてもよい。コンピュータによって制御する場合は、メモリ等の記憶手段(図示せず)に、形状記憶合金2の温度と、印加すべき直流電圧の電圧値との対応関係を示すテーブルデータを予め保存しておき、当該テーブルデータに基づいて自動制御してもよい。

【0032】
温度保持手段6は、所定の温度範囲内に形状記憶合金2の温度を保持するものである。本実施形態において、温度保持手段6は、交流電圧印加手段7と兼用されており、直流電圧調節手段5によって調節された電圧値の直流電圧を形状記憶合金2に印加する。これにより、形状記憶合金2は、ジュールの法則に従ってジュール熱を発生させ、加熱されるようになっている。また、本発明において、温度保持手段6によって保持される温度範囲は、形状記憶合金2の駆動応答性を高い状態で維持するように選択される。

【0033】
具体的には、図2に示すように、温度変化に対して形状記憶合金2の伸縮量の変化が最大となる温度を最適温度とし、当該最適温度を含む所定の温度範囲を高応答温度範囲としている。本実施形態において、当該高応答温度範囲は、図2に示すように、冷却過程における、形状記憶合金2の変態終了温度(Mf点)と最適温度との中間値を下限値とし、加熱過程における、最適温度と形状記憶合金2の変態終了温度(Af点)との中間値を上限値とする温度範囲に設定されている。そして、この高応答温度範囲内に形状記憶合金2の温度が保持されるように、直流電圧調節手段5が直流電圧の電圧値を調節する。

【0034】
なお、本実施形態において、温度保持手段6は、交流電圧印加手段7と兼用されており、形状記憶合金2に直流電圧を印加することによって内部加熱している。しかしながら、この構成に限定されるものではなく、形状記憶合金2を所定の温度に保持しうるものであれば、交流電圧印加手段7とは別個独立の温度保持手段6であってもよい。例えば、コイル等を利用した誘導加熱(Induction Heating:IH)ヒータ、形状記憶合金2に直接貼り付けて伝熱加熱するヒータ、レーザ光を照射して加熱する高出力レーザ、および環境温度を調節する空調機器等のように、外部加熱による温度保持手段6を使用してもよい。

【0035】
交流電圧印加手段7は、高応答温度範囲内に保持された形状記憶合金2に交流電圧を印加するものである。高応答温度範囲内に保持された形状記憶合金2は、駆動応答性が高い状態を保持する。したがって、当該状態の形状記憶合金2に交流電圧を印加することにより、当該交流電圧の周波数に応じた周波数で振動する。本実施形態において、交流電圧印加手段7は、ファンクションジェネレータと、電圧アンプと、電流アンプとから構成されている(いずれも図示せず)。

【0036】
ファンクションジェネレータは、正弦波、のこぎり波、三角波などの様々な波形を有する交流電圧信号を生成するものである。また、ファンクションジェネレータは、生成した交流電圧信号に直流電圧信号をバイアスとして付加する機能を有している。このため、本実施形態の交流電圧印加手段7は、直流電圧の印加によって形状記憶合金2を加熱する温度保持手段6としても兼用しうるようになっている。

【0037】
電圧アンプは、ファンクションジェネレータに接続されており、ファンクションジェネレータから出力されたバイアス波形電圧を増幅するものである。また、電流アンプは、電圧アンプから電圧信号を受け取り、元の電圧信号を単一ゲインで生成するものである。これら電圧アンプおよび電流アンプの出力インピーダンスが、形状記憶合金2の出力インピーダンスよりも大きいため、一定のゲインで正確な電圧を供給しうるようになっている。

【0038】
なお、形状記憶合金2のインピーダンスは極めて小さいため、電圧アンプから正確な電圧が供給されても、出力インピーダンスに応じて電圧降下が生じる。また、温度によって形状記憶合金2のインピーダンスが変化するという問題もある。そして、これらの比が変化すると、形状記憶合金2に一定のゲインで正確に電圧を供給するのが困難になるため、電流アンプが設けられている。

【0039】
本実施形態において、電流アンプは電流増幅素子を内蔵しており、出力インピーダンスを低減しうるようになっている。このため、交流電圧印加手段7は、入力インピーダンスの小さい形状記憶合金アクチュエータ1に、減衰のない理想的な波形電圧を供給する。なお、本実施形態において、交流電圧印加手段7は、電源による高調波ノイズなどのノイズを除去するために、ローパスフィルタによって出力信号をフィルタリングしている。

【0040】
つぎに、本実施形態の形状記憶合金アクチュエータ1の駆動方法、形状記憶合金アクチュエータ1およびこれを用いた機器の作用について説明する。

【0041】
本実施形態の形状記憶合金アクチュエータ1を高速で振動させる場合、図3に示すように、まず、温度測定手段4が形状記憶合金2の温度を測定する(温度測定ステップ:ステップS1)。これにより、形状記憶合金2の現在の温度が把握されるため、当該温度が高応答温度範囲内となるように、直流電圧調節手段5が直流電圧の電圧値を調節する(直流電圧調節ステップ:ステップS2)。これにより、形状記憶合金2の温度が変化しやすい環境下においても、高精度に形状記憶合金2が高応答温度範囲内に保持されることとなる。

【0042】
つぎに、温度保持手段6としての交流電圧印加手段7が、直流電圧調節手段5によって調節された電圧値で直流電圧を形状記憶合金2に印加し、高応答温度範囲内に形状記憶合金2の温度を保持する(温度保持ステップ:ステップS3)。このとき、直流電圧によって形状記憶合金2が内部加熱されるため、簡単かつ迅速に形状記憶合金2が高応答温度範囲内に保持される。また、高応答温度範囲内に保持された形状記憶合金2は、温度に対する駆動応答性が高い状態となる。

【0043】
そして、高応答温度範囲内に保持された形状記憶合金2に、交流電圧印加手段7が交流電圧を印加する(交流電圧印加ステップ:ステップS4)。これにより、駆動応答性が高められた形状記憶合金2は、交流電圧の周波数に応じた周波数で振動する。そして、当該振動によって形状記憶合金2自体の冷却が促進されるため、冷却過程における駆動応答性が改善する。したがって、印加する交流電圧の周波数帯域をキロヘルツオーダーの高周波数帯域まで拡大しても、形状記憶合金2が高精度に応答し高速で振動する。

【0044】
このため、本実施形態の形状記憶合金アクチュエータ1は、これまでにない新たな用途や機能を提供する。具体的には、高速振動する形状記憶合金2は、周波数を調節することで様々な音を再現する。また、ワイヤ状等の形状記憶合金2は、小型化および軽量化し易く、柔軟に変形しうるため、製品形態の自由度が向上する。したがって、補聴器や人工中耳等の機器における音響発生源として搭載される可能性がある。ただし、印加する電圧信号の波形が一定の場合、高周波になるほど音量が低下する。このため、イコライザ等によって、周波数毎に音量が一定となるように元の波形を調節することが好ましい。

【0045】
また、近年の外科手術用デバイスには、高速振動による摩擦熱によって組織の切断や血管の封止を行うものが開発されている。このため、本実施形態の形状記憶合金アクチュエータ1は、上述した外科手術用デバイスおける振動発生源として搭載される可能性もある。この場合、本実施形態の形状記憶合金アクチュエータ1は、形状記憶合金2自体を振動させるため、カテーテルやファイバースコープのような柔軟構造体の先端部にも切断・止血機能を付加しうる可能性がある。

【0046】
以上のような本実施形態の形状記憶合金アクチュエータ1の駆動方法、形状記憶合金アクチュエータ1およびこれを用いた機器によれば、以下のような効果を奏する。
1.形状記憶合金2を高速で振動させ、形状記憶合金アクチュエータ1としての新たな用途や機能を提供することができる。
2.直流電圧を印加することによって加熱するため、簡単かつ迅速に形状記憶合金2を高応答温度範囲内に保持することができる。
3.形状記憶合金2の温度や周囲温度に基づいて直流電圧の電圧値を調節するため、形状記憶合金2の温度が変化しやすい環境下においても高精度に形状記憶合金2を高応答温度範囲内に保持することができる。
4.高応答温度範囲を適切に設定することにより、高応答温度範囲内に保持された形状記憶合金2の駆動応答性を担保することができる。
5.形状記憶合金アクチュエータ1を様々な分野における機器に搭載し、利便性や性能を向上することができる。

【0047】
つぎに、本発明に係る形状記憶合金アクチュエータ1の駆動方法、形状記憶合金アクチュエータ1およびこれを用いた機器の具体的な実施例について説明する。

【0048】
まず、以下の各実施例1~3で使用した実験装置について説明する。本実験装置は、図4に示すように、主として、ワイヤ状の形状記憶合金2(以下、SMAワイヤという)と、このSMAワイヤと直列に連結されたバイアス材3としてのコイルバネと、これらSMAワイヤおよびコイルバネを収容する条件調整ボックスと、SMAワイヤを駆動する交流電圧印加手段7(以下、SMAドライバという)と、各種データを測定する測定装置とから構成されている。

【0049】
SMAワイヤとコイルバネとの間には、振動子としてのプレートと、絶縁性のカップリングとが介在されている。また、プレートには、振動速度を測定するための反射板が設けられている。さらに、各部材の連結および条件調整ボックスへの固定には、金属線が用いられている。

【0050】
条件調整ボックスは、断熱材で覆われたアルミニウムケースで構成されている。また、条件調整ボックスの側面には、測定装置からのレーザー光を通過させる穴が設けられている。さらに、条件調整ボックスの上面には、温度調整用のペルチェ素子が設けられている。ペルチェ素子の背面には、熱を放出するための大型ヒートシンクが固定されている。一方、内側面には条件調整ボックス内部の空気温度を調整するための小型ヒートシンクが設けられている。

【0051】
また、大型ヒートシンクは、断熱材で被覆されたアクリル製の水冷タンク内に設けられており、熱を効率的に排出する。水冷タンクには氷片が収容されているとともに、大型ヒートシンクに水を供給するポンプが設けられている。以上の構成により、条件調整ボックス内の温度は、ペルチェ素子に印加される電流を変化させることによって制御することができる。

【0052】
SMAドライバは、上述した本実施形態の交流電圧印加手段7と同様、ファンクションジェネレータと、電圧アンプと、電流アンプとから構成されている。このため、形状記憶合金2に交流電圧を印加する機能のみならず、直流電圧の印加によって形状記憶合金2を加熱する温度保持手段6としての機能を兼ね備えている。

【0053】
測定装置は、速度測定ユニットと、電圧測定ユニットと、温度測定ユニットとから構成されている。速度測定ユニットは、レーザープローブと信号処理装置(レーザードップラー速度計)とから構成されている。レーザープローブは、レーザー光を反射板に照射し、その反射光に基づく信号を信号処理装置に出力する。信号処理装置は、レーザープローブから出力された信号を変換し、電源によるノイズを除去するハイパスフィルタや、環境ノイズを低減するローパスフィルタを適用する。電圧測定ユニットは、SMAドライバから出力される高周波の電圧を測定するオシロスコープを有している。

【0054】
温度測定ユニットは、上述した本実施形態の温度測定手段4と同様、熱電対と、熱電対用アンプと、オシロスコープとから構成されている。熱電対としては、広い温度範囲を有し、温度と電圧との間にほぼ直線的な関係を持つKタイプを使用した。そして、SMAワイヤの中央部分に被覆された絶縁性のチューブに熱電対を貼り付けた。

【0055】
なお、上述した実験装置の仕様を図5に示す。また、以下の各実施例1~3における実験条件を図6に示す。具体的には、環境温度は28℃に設定した。また、SMAワイヤとして、トキ・コーポレーション社のBioMetal(登録商標)を使用し、その長さは100mmで、直径は0.15mmであった。さらに、コイルバネの荷重は100gfであった。また、SMAワイヤに印加する交流電圧の波形はサイン波とし、そのストローク(ピークピーク値)は5.0Vとした。
【実施例1】
【0056】
本実施例1では、上述した実験装置および実験条件のもと、直流電圧によるバイアスの付加が形状記憶合金2の駆動応答性に及ぼす影響を確認するための実験を行った。
【実施例1】
【0057】
具体的には、SMAワイヤに印加する交流電圧に、直流電圧バイアスを付加しなかった場合と、直流電圧バイアスを付加した場合のそれぞれについて、SMAワイヤの速度応答を測定した。その結果を図7に示す。なお、本実施例1において、直流電圧バイアスの電圧値は、SMAワイヤを高応答温度範囲内に保持しうる電圧値として、予め実験によって2.5Vと特定した。また、交流電圧の周波数は1000Hzで固定した。
【実施例1】
【0058】
図7に示すように、直流電圧バイアスが付加されていない交流電圧を印加した場合、SMAワイヤの速度応答は0.1Vp-p未満であった。これに対し、直流電圧バイアスが付加された交流電圧を印加した場合、SMAワイヤの速度応答は0.7Vp-p以上であり、直流電圧バイアスが付加されていない場合と比較して、7倍以上向上することが確認された。
【実施例1】
【0059】
以上のような本実施例1によれば、交流電圧に適切な直流電圧バイアスを付加することによって、SMAワイヤを高応答温度範囲に保持すると、キロヘルツオーダーの高周波数帯域におけるSMAワイヤの速度応答が改善し、振幅が増大することが示された。
【実施例2】
【0060】
本実施例2では、上述した実験装置および実験条件のもと、形状記憶合金2に印加される交流電圧の周波数が、形状記憶合金2の駆動応答性に及ぼす影響を確認するための実験を行った。
【実施例2】
【0061】
具体的には、SMAワイヤに印加する交流電圧の周波数を1000Hz、6000Hzおよび7000Hzとした場合のそれぞれについて、SMAワイヤの速度応答を測定した。その結果を図8に示す。なお、本実施例2では、いずれのケースにおいても、交流電圧に付加する直流電圧バイアスの電圧値は、2.5Vで固定した。
【実施例2】
【0062】
図8に示すように、周波数が1000Hzの交流電圧を印加した場合、SMAワイヤの速度応答は0.8Vp-p程度であった。また、周波数が6000Hzの交流電圧を印加した場合、SMAワイヤの速度応答は0.2Vp-p程度であった。さらに、周波数が7000Hzの交流電圧を印加した場合、SMAワイヤの速度応答は0.1Vp-p未満であった。
【実施例2】
【0063】
以上のような本実施例2によれば、SMAワイヤを実用化レベルで高速振動させる交流電圧の周波数は、少なくとも6000Hz程度まで上限値を上げられることが示された。ただし、当該上限値は、形状記憶合金2の種類、環境温度およびバイアス材3の荷重等を最適化することによって、さらに向上できるものと考えられる。
【実施例3】
【0064】
本実施例3では、上述した実験装置および実験条件のもと、形状記憶合金2に印加される交流電圧の周波数に対する、形状記憶合金2の応答精度を確認するための実験を行った。
【実施例3】
【0065】
具体的には、1000Hzの周波数を有する交流電圧に、2.5Vの直流電圧バイアスを付加してSMAワイヤに印加し、高速振動させたときの速度応答を周波数解析した。その結果を図9に示す。
【実施例3】
【0066】
図9に示すように、1000Hzの交流電圧が印加されたSMAワイヤの速度応答は、1000Hzにおいて波のストロークが顕著なピーク値を示し、残りは2000Hzにおいて、わずかに観測される程度であった。なお、2000Hzにおける応答は、SMAワイヤの特定的な歪みによるものと考えられる。
【実施例3】
【0067】
以上のような本実施例3によれば、SMAワイヤに、適切な直流電圧バイアスが付加された交流電圧を印加すると、交流電圧の周波数に応じてほぼ正確に応答し、高速に振動することが示された。
【実施例3】
【0068】
なお、本発明に係る形状記憶合金アクチュエータ1の駆動方法、形状記憶合金アクチュエータ1およびこれを用いた機器は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【実施例3】
【0069】
例えば、上述した本実施形態では、温度保持手段6が、形状記憶合金2を加熱することによって高応答温度範囲に保持しているが、これに限定されるものではない。すなわち、高応答温度範囲の上限値よりも高温の環境下において、形状記憶合金アクチュエータ1を使用する場合には、温度保持手段6が形状記憶合金2を冷却することによって高応答温度範囲に保持してもよい。この場合の温度保持手段6としては、ペルチェ素子やヒートポンプ等を用いた冷却手段が考えられる。ただし、当該冷却手段による温度の高速制御が困難であれば、過度に冷却させた状態で、上述した加熱による駆動を実施してもよい。
【実施例3】
【0070】
また、上述した本実施形態および実施例においては、形状記憶合金2とバイアス材3とを直列的に連結しているが、この構成に限定されるものではない。例えば、図10に示すように、固定子と振動子との間に、収縮方向の形状記憶を有する形状記憶合金2と、圧縮バネ等からなるバイアス材3とを並列的に配置してもよい。この構成により、振動子は、図10における上下方向に高速振動する。
【実施例3】
【0071】
さらに、図11に示すように、固定子に基端部が固定された振動子の表面と裏面のそれぞれに、収縮方向の形状記憶を有する形状記憶合金2と、引張バネ等からなるバイアス材3とを設けてもよい。この構成により、振動子が、図11における上方向への湾曲と、下方向への湾曲を繰り返すため、その先端部が高速振動する。
【符号の説明】
【0072】
1 形状記憶合金アクチュエータ
2 形状記憶合金
3 バイアス材
4 温度測定手段
5 直流電圧調節手段
6 温度保持手段
7 交流電圧印加手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10