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明細書 :疾患モデル動物および疾患治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成31年4月25日(2019.4.25)
発明の名称または考案の名称 疾患モデル動物および疾患治療剤
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
C12N 15/09 Z
C12Q 1/02
A61K 45/00
A61K 48/00
A61P 43/00 105
A61P 25/28
国際予備審査の請求
全頁数 41
出願番号 特願2018-527612 (P2018-527612)
国際出願番号 PCT/JP2017/025273
国際公開番号 WO2018/012497
国際出願日 平成29年7月11日(2017.7.11)
国際公開日 平成30年1月18日(2018.1.18)
優先権出願番号 2016139308
優先日 平成28年7月14日(2016.7.14)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】祖父江 元
【氏名】石垣 診祐
【氏名】横井 聡
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100104802、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 尚人
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4C084
Fターム 4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ91
4B063QR72
4B063QS40
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZB211
4C084ZB212
要約 本発明は、脳におけるシナプス異常を伴う疾患の症状を呈する新規な特異的ノックアウトモデル動物、およびその製造方法、または当該疾患の治療剤を提供することを主な課題とする。
本発明として、例えば、脳におけるFUS遺伝子を、例えば、Cre-loxPシステムとCamK2プロモーターとを用いて特異的にノックアウトして作製されることを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患(例えば、前頭側頭葉変性症(FTLD))の症状を呈するモデル動物、その製造方法、または当該モデル動物を使用した当該疾患の治療薬のスクリーニング方法などを挙げることができる。
特許請求の範囲 【請求項1】
脳におけるFUS遺伝子の特異的ノックアウトにより作製されることを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の症状を呈するモデル動物。
【請求項2】
ノックアウトが、Cre-loxPシステムとCamK2プロモーターとを用いて行われる、請求項1に記載のモデル動物。
【請求項3】
シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、請求項1または2に記載のモデル動物。
【請求項4】
動物がマウスである、請求項1~3のいずれか一項に記載のモデル動物。
【請求項5】
動物が近交系である、請求項1~4のいずれか一項に記載のモデル動物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のモデル動物から取得されるモデル神経細胞またはモデル神経細胞株。
【請求項7】
脳におけるFUS遺伝子を特異的にノックアウトする操作工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の症状を呈するモデル動物の製造方法。
【請求項8】
脳におけるFUS遺伝子を特異的にノックアウトする操作工程が、Cre-loxPシステムとCamK2プロモーターとを用いるものである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、請求項7または請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
動物がマウスである、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
動物が近交系である、請求項7~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか一項に記載のモデル動物、または請求項6に記載のモデル神経細胞もしくはモデル神経細胞株を用いる工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療薬を探索するためのスクリーニング方法。
【請求項13】
シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、請求項12に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
対象薬物の適用によるSynGAPα2の増減を測定する工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療薬を探索するためのスクリーニング方法。
【請求項15】
シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、請求項14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
SynGAPα2をコードする遺伝子もしくはSynGAPα2タンパク質、または脳におけるSynGAPα2遺伝子の発現を促進する薬物もしくはSynGAPα2タンパク質を増加しうる薬物を有効成分として含有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療剤。
【請求項17】
シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、請求項16に記載の治療剤。
【請求項18】
SynGAPα2を脳に補充または増加させる工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療方法。
【請求項19】
シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、請求項18に記載の治療方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組み換え実験動物、および疾患の治療剤の技術分野に属する。本発明は、シナプス異常を伴う疾患(例えば、前頭側頭葉変性症)の症状を呈する、脳におけるFUS遺伝子特異的ノックアウトモデル動物、その製造方法、もしくは当該モデル動物を使用した当該疾患に有効な治療薬のスクリーニング方法、または当該疾患の治療剤などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療および科学技術の進歩により、特に先進国における平均寿命は大きく延長された。しかし、それに伴い、過去には問題にならなかった脳の老化によって発生する様々な機能低下、疾患、病態が大きな社会問題となってきている。それらの中でも認知症は、患者本人のクオリティ・オブ・ライフを大きく低下させ、また、介護する家族への負担も非常に大きい。認知症による症状としては、記憶障害、視覚障害、言語障害、問題行動、睡眠障害、うつ症状等の多岐にわたる。このような認知症をきたす脳の変性疾患としては、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭葉変性症(FTLD:Frontotemporal lobar degeneration)等が知られている。
【0003】
FTLDによる認知症は、特に欧米では、アルツハイマー病に次いで多い進行性認知症である。FTLDの主な特徴は、前頭葉と側頭葉が変性部位であることであり、その組織病理的所見は、前頭葉変性型、ピック病型、運動ニューロン病型の3つである。症状としては、人格障害および社会的行動の異常といった高次脳機能障害に起因する行動異常が見られる。しかし、FTLDの病態は非常に複雑であり、これまで診断法、治療法に関する研究が十分に進められてこなかったため、根本的な治療法は未だ確立されていない。
【0004】
非常に複雑な病態を呈するFTLDの詳細な研究を更に進めるためには、その病態を示す均一なモデル動物の系の存在が必要不可欠である。そのようなモデル動物の系としては、遺伝子組み換えモデル動物、例えば、ノックアウトマウスであることが好ましい。従来、FTLDは、神経細胞内でFUSやTDP-43タンパク質の異常凝集・蓄積や異常局在により神経変性を引き起こすと言われている。そのため、FTLD等の認知症モデル動物は、認知症関連遺伝子の過剰発現により、例えば、遺伝子のノックインにより作製されてきた。しかし、これらは当該特定の遺伝子が大量に発現することによる毒性が、神経変性を引き起こしている可能性を否定できず、モデルそのものが異常所見によっているものではないかという批判が存在した。
【0005】
特許文献1には、筋萎縮性側索硬化症および/または前頭側頭葉変性症のモデルマウスが開示されている。当該モデルマウスは、内在性のTDP-43の少なくとも一方のアレルに変異型のTDP-43を置き換えたノックインマウスである。当該モデルマウスは、筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭葉変性症と同様の病態を呈するが、ノックインマウスであるため、モデルそのものが異常所見によるかものどうかの判断が困難である。
【0006】
本発明者らのグループは、マウスを用いて上述のFTLDの病態の研究を行い、その結果、マウスの脳においてFUS(Fused in sarcoma)遺伝子を、shRNA発現レンチウイルスを用いてノックダウンしたマウスが、FTLD様の病態を示すことを示した(非特許文献1参照。)。さらにFUS遺伝子をノックダウンした培養細胞において、シナプスに存在するグルタミン酸受容体GluA1タンパク質の量が顕著に低下すること、そしてFUSはGluA1のmRNAに特異的に結合し安定化させる働きを有すること、そして上述のFUSをノックダウンしたマウスのFTLD様の病態が、GluA1の遺伝子導入により回復することを示した。
【0007】
上述の実験でその発現抑制(機能喪失)がFTLDの原因のひとつとして示唆されたFUS遺伝子について、更に精密に研究を進めるには、FUS遺伝子ノックアウトマウスの作製が必要である。しかしながら、FUS遺伝子ノックアウトマウスは、通常は胎生致死であるため、これまで交雑系のマウスにおける作製報告があるものの(例、非特許文献2、非特許文献3参照。)、それ以外は報告が見当たらない。また、ほぼ同じ遺伝子バックグラウンドを有する近交系のマウスにおけるノックアウトマウスの作製はさらに困難であり、今まで報告がなかった。FTLD型認知症は、非常に複雑な病態を有するため、信頼できる実験結果を得るためには、個体差の大きい交雑系では限界がある。
【0008】
一方、SynGAP(Synaptic Ras GTPase activating Protein)は、シナプス後厚部(PSD)に存在するタンパク質であり、グルタミン酸受容体の活性化の下流で小分子Gタンパク質シグナリングを負に制御することが知られている。SynGAPタンパク質は、線虫から高等哺乳動物まで存在することがわかってきている。また、SynGAPタンパク質には、現在までに複数の種類のC末端ドメイン(α1、α2、β、γ等)と、複数の種類のN末端ドメイン(A、B、C等)の組み合わせからなる多種スプライシングバリアントの存在が示されており、その多様な機能を示唆している(例、非特許文献4、非特許文献5参照。)。

【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】国際公開第2013/180214号
【0010】

【非特許文献1】Udagawa T, Fujioka Y, Tanaka M, Honda D, Yokoi S, Riku Y, Ibi D, Nagai T, Yamada K, Watanabe H, Katsuno M, Inada T, Ohno K, Sokabe M, Okado H, Ishigaki S, Sobue G., Nat Commun.,(2015), May 13;6:7098. doi: 10.1038/ncomms8098.
【非特許文献2】Kino et al. Acta Neuropathologica Communications 2015;3:24
【非特許文献3】Kuroda M, Sok J, Webb L, Baechtold H, Urano F, Yin Y, Chung P, de Rooij DG, Akhmedov A, Ashley T, Ron D. EMBO J. 2000 Feb 1;19(3):453-62.
【非特許文献4】A.C. McMahon, M.W. Barnett, T.S. O'Leary, P.N. Stoney, M.O. Collins,S. Papadia,J.S. Choudhary,N.H. Komiyama,S.G.N. Grant,G.E. Hardingham,D.J.A. Wyllie& P.C. Kind, Nat commun.,(2012), June 12; 3:900. doi: 10.1038/ncomms1900.
【非特許文献5】Jeyabalan N, Clement JP., Front Cell Neurosci. (2016), Feb 15;10:32. doi: 10.3389/fncel.2016.00032.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
FUS遺伝子を、例えばアデノ随伴ウイルスで注射しノックダウンするモデルは、海馬のみに効果が限局しており、また手技の習得が容易ではない。報告されているFUS遺伝子ノックアウトマウスは、すべて交雑系であり、特にその行動解析は系統によっても結果が異なる可能性がある。一方、近交系の背景に統一されたFUS遺伝子ノックアウトマウスを用いた解析例は知られていない。
また、loxP-Creシステムを用いて組織特異的にノックアウトする技術は知られているが、プロモーターの選択やCreの発現方法などにより表現型が異なるため、最適化された病態モデル動物(病態モデルマウス)の作製は必ずしも容易ではない。
【0012】
本発明は、シナプス異常を伴う疾患(例えば、FTLD)の症状を呈する新規なモデル動物、およびその製造方法を提供することを主な課題とする。また、当該モデル動物を使用した、シナプス異常を伴う疾患に有効な治療薬のスクリーニング方法、当該疾患の治療剤および治療方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、脳におけるFUS遺伝子のコンディショナルノックアウトにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに到った。また、本発明者らは、シナプス後厚部に存在するタンパク質SynGAPα2を増やすことが、シナプス異常を伴う疾患の治療に有効であることも見出した。
【0014】
本発明として、例えば、下記を挙げることができる。
[1]脳におけるFUS遺伝子の特異的ノックアウトにより作製されることを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の症状を呈するモデル動物。
[2]ノックアウトが、Cre-loxPシステムとCamK2プロモーターとを用いて行われる、上記[1]に記載のモデル動物。
[3]シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、上記[1]または[2]に記載のモデル動物。
[4]動物がマウスである、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のモデル動物。
[5]動物が近交系である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のモデル動物。
[6]上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のモデル動物から取得されるモデル神経細胞またはモデル神経細胞株。
【0015】
[7]脳におけるFUS遺伝子を特異的にノックアウトする操作工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の症状を呈するモデル動物の製造方法。
[8]脳におけるFUS遺伝子を特異的にノックアウトする操作工程が、Cre-loxPシステムとCamK2プロモーターとを用いるものである、上記[7]に記載の製造方法。
[9]シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、上記[7]または[8]に記載の製造方法。
[10]動物がマウスである、上記[7]~[9]のいずれか一項に記載の製造方法。
[11]動物が近交系である、上記[7]~[10]のいずれか一項に記載の製造方法。
【0016】
[12]上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のモデル動物、または上記[6]に記載のモデル神経細胞もしくはモデル神経細胞株を用いる工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療薬を探索するためのスクリーニング方法。
[13]シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、上記[12]に記載のスクリーニング方法。
[14]対象薬物の適用によるSynGAPα2の増減を測定する工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療薬を探索するためのスクリーニング方法。
[15]シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、上記[14]に記載のスクリーニング方法。
【0017】
[16]SynGAPα2をコードする遺伝子もしくはSynGAPα2タンパク質、または脳におけるSynGAPα2遺伝子の発現を促進する薬物もしくはSynGAPα2タンパク質を増加しうる薬物を有効成分として含有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療剤。
[17]シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、上記[16]に記載の治療剤。
[18]SynGAPα2を脳に補充または増加させる工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療方法。
[19]シナプス異常を伴う疾患が、前頭側頭葉変性症(FTLD)または運動ニューロン疾患である、上記[18]に記載の治療方法。

【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シナプス異常を伴う疾患、例えば、前頭側頭葉変性症(FTLD)、運動ニューロン疾患の病態や治療法を研究開発することができ、または当該疾患の治療薬をスクリーニングすることができる。また、かかるスクリーニングから見出された治療薬を含む薬剤を当該疾患の治療に用いることができる。

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ES細胞に挿入したベクター遺伝子の模式図である。
【図2】上図は遺伝子挿入前の野生型遺伝子(WT)の模式図、中図は挿入したベクター遺伝子の模式図、下図は遺伝子挿入後の組換え遺伝子(KO)の模式図である。
【図3】上図は野生型遺伝子(WT)の模式図、中図はベクターが挿入された組換え遺伝子(KO)の模式図、下図はFLPマウスとの掛け合わせでNeoカセットを除去し完成したコンディショナルノックアウトマウスの遺伝子(Neo Deletion)の模式図である。
【図4A】コンディショナルノックアウトマウスを作成するにあたり、遺伝子操作の標的となるFUS遺伝子の野生型の遺伝子配列のうち、エクソン1から6までを含む領域を表す。
【図4B】図4Aの遺伝子配列の続き。
【図5A】コンディショナルノックアウトマウスに挿入した遺伝子配列のうち、FUS遺伝子のエクソン1から6までを含む領域を表す。
【図5B】図5Aの遺伝子配列の続き。
【図6A】SynGAP Aα2の遺伝子配列を挿入したAAVベクターの遺伝子配列を表す。
【図6B】図6Aの遺伝子配列の続き。
【図7】対照マウス(Cre-)とCreを発現したFUS遺伝子コンディショナルノックアウトマウス(FUS-cKOマウス(Cre+))について、図(A)は、海馬CA1領域におけるFUSタンパク質の免疫染色像を、図(B)は、海馬CA1領域サンプルのウエスタンブロットの結果を、それぞれ表す。
【図8A】対照マウス(Cre-)とFUS-cKOマウス(Cre+)について、海馬CA1領域における脳組織切片のゴルジ染色像を表す。
【図8B】上記脳組織切片における総スパイン数を表す。縦軸は神経突起100μmあたりの総スパイン数を示す。
【図8C】上記脳組織切片における成熟スパインの割合を表す。縦軸は総スパイン数における成熟スパインの割合(%)を示す。
【図9】対照マウス(Cre-)とFUS-cKOマウス(Cre+)におけるオープンフィールド試験の結果を表す。縦軸はアリーナにおけるマウスの移動距離(mm)を示す。
【図10】対照マウス(Cre-)とFUS-cKOマウス(Cre+)における高架型十字迷路法による試験であって、図(A)は、「壁のある道」または「壁のない道」での結果を表す。縦軸は滞在時間(秒)を示す。図(B)は、「壁のない道」での結果を表す。縦軸は侵入回数(回)を示す。
【図11】対照マウス(Cre-)とFUS-cKOマウス(Cre+)について、図(A)は、新規物体認知試験の結果を表す。縦軸は探索嗜好性(%)を示す。図(B)は、恐怖条件付け試験の結果を表す。縦軸はすくみ反応の時間(秒)を示す。
【図12】対照マウス(Cre-)とFUS-cKOマウス(Cre+)について、図(A)は、海馬CA1領域における蛍光免疫染色像を、図(B)は、海馬CA1領域サンプルのウエスタンブロットの結果を、それぞれ表す。
【図13A】SynGAP Aα2を補充したFUS-cKOマウス(Cre+)、FUS-cKOマウス(Cre+)、および対照マウス(Cre-)について、脳組織切片のゴルジ染色像を表す。
【図13B】上記脳組織切片における成熟スパインの割合を表す。縦軸は総スパイン数における成熟スパインの割合(%)を示す。
【図14A】SynGAP Aα2を補充したFUS-cKOマウス(Cre+)、FUS-cKOマウス(Cre+)、および対照マウス(Cre-)について、オープンフィールド試験の結果を表す。縦軸は移動距離(cm)を示す。
【図14B】SynGAP Aα2を補充したFUS-cKOマウス(Cre+)、FUS-cKOマウス(Cre+)、および対照マウス(Cre-)について、高架型十字迷路法による試験の結果を表す。縦軸は壁のない道への侵入回数(回)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1 本発明に係るモデル動物
本発明に係るモデル動物(以下、「本発明モデル動物」という。)は、脳におけるFUS遺伝子の特異的ノックアウトにより作製されることを特徴とし、シナプス異常を伴う疾患の症状を呈する。
ここで本発明における「脳」は、下等生物においても存在するが、特に高等生物においては主に大脳またはそれに相当する部分、特に前頭葉、側頭葉、海馬などを挙げることができる。

【0021】
1.1 FUS遺伝子
FUS遺伝子は、線虫、ゼブラフィッシュ等の魚類、カエル等の両生類、マウス、ラット、モルモット等の齧歯類、ウサギ、フェレット、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマおよびサルやヒト等の高等哺乳動物に至るまで広く存在する遺伝子である。FUS遺伝子がコードするFUSタンパク質の共通の構造としては、N末端側に転写活性化ドメイン、そしてC末端側にRNA結合モチーフとジンクフィンガードメインを有する。各動物におけるFUS遺伝子の塩基配列情報は、例えば遺伝子情報データベースであるGenbankから入手可能である。
本発明モデル動物の作製においては、対象とする動物のFUS遺伝子が、遺伝子情報データベース等のデータを利用して遺伝子操作され、特異的にノックアウトされる。

【0022】
1.2 脳におけるFUS遺伝子の特異的ノックアウト
本発明モデル動物は、当該動物のFUS遺伝子を脳において特異的にノックアウトすることにより作製される。
特異的ノックアウトを行う方法としては、通常、時間・空間的に対象モデル動物の目的の遺伝子をノックアウトする方法であるコンディショナルノックアウト法を挙げることができる。かかるコンディショナルノックアウト法で使用されるシステムとしては、例えば、バクテリオファージP1由来の組み換え酵素Cre(Creリコンビナーゼ)とその標的配列であるloxP配列のシステム(Cre-loxPシステム)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来の組み換え酵素FLPとその標的配列であるFRT配列のシステム、醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)由来の組み換え酵素Rとその標的配列であるRS配列のシステム、またはバクテリオファージMu由来の組み換え酵素Ginとその標的配列であるGix配列のシステム、テトラサイクリンON-OFFシステムが挙げられる。これらの中でもCre-loxPシステムが好ましい。

【0023】
Cre-loxPシステムは、遺伝子組み換え酵素であるCreリコンビナーゼ、およびその認識配列であるloxP配列を用いるシステムである。当該システムは、通常、遺伝子組み換えモデル動物において、Creリコンビナーゼを、時期特異的および/または部位特異的に機能するプロモーターに連結し、目的遺伝子をloxP配列に挟んだ配列とし、そして、時期、部位特異的に発現させたCreリコンビナーゼにより、loxP配列に挟まれた目的遺伝子の欠失を引き起こす。当該方法を使用した場合、受精卵や初期発生の段階ではFUS遺伝子をノックアウトせず正常に機能させ、成体にまで成長した段階において当該モデル動物の脳において特異的にFUS遺伝子をノックアウトすることができる。通常は、当該モデル動物の受精卵または発生の初期の段階、例えば、2細胞期~胞胚、胚盤胞期(blastocyst)において目的の遺伝子が操作され、本発明モデル動物であるFUS遺伝子コンディショナルノックアウトモデル動物(FUS-cKOモデル動物)が作製される。

【0024】
Creリコンビナーゼ遺伝子が組み込まれるプロモーターとしては、当該モデル動物の成体期の脳において特異的に機能するものであれば特に制限されないが、例えば、CamK2、Arc、Chatが挙げられる。これらの中でもCamK2プロモーターが好ましい。マウスのCamK2プロモーターは、出生後2か月齢以降のマウスの脳において顕著な遺伝子の発現が見られるプロモーターであり、成体期の脳において特異的にFUS遺伝子をノックアウトすることができる。

【0025】
1.3 シナプス異常を伴う疾患
本発明モデル動物が呈するシナプス異常を伴う疾患としては、例えば、前頭側頭葉変性症(FTLD)や運動ニューロン疾患が挙げられる。本発明モデル動物は主に前頭葉および側頭葉に変性を生じ、前頭葉変性型、運動ニューロン病型の組織病理的所見を呈する。症状としては、例えば、前頭葉と側頭葉の顕著な萎縮、または高次脳機能障害から引き起こされる行動異常が挙げられる。

【0026】
本発明モデル動物が呈するシナプス異常としては、例えば、神経細胞の細胞体に存在する樹状突起のスパインの異常が挙げられる。後シナプスに存在するスパインの形態は、シナプス形成が成熟するとマッシュルーム型に変化し、前シナプスとの接触する表面積が増加することでシナプス増強が生じ、行動生理に影響するといわれている(Hippocampus 2000;10:501, JCB 2010;189:619)。神経変性疾患においては、後シナプスである樹状突起スパインの変化が病態に関与している可能性が示唆されている(Annu Rev Pathol 2016;11:221, Neurosci Biobehav Rev 2015;59:208)。本発明モデル動物が呈するスパインの異常としては、例えば、スパイン数の減少、成熟スパイン数の減少、スパイン形態の異常が挙げられる。本発明モデル動物においては、シナプス異常に伴って、シナプスに存在するタンパク質の異常が引き起こされる。シナプスに存在するタンパク質の異常としては、例えば、PSD-95の局在異常、SynGAPα2の減少が挙げられる。

【0027】
本発明モデル動物が呈するシナプス異常を伴う疾患は、その結果として高次脳機能障害を示す場合がある。上記高次脳機能障害としては、例えば、多動(行動量の異常)、不安行動、記憶障害、うつ様行動、人格障害、社会的行動の異常、痛覚感受性の異常が挙げられる。これらの高次脳機能障害は、脳科学の分野において用いられている行動試験により評価することができる。行動量の異常の行動試験としては、例えば、オープンフィールド試験(Open filed test)、ホームケージ活動解析試験(Home cage activity test)が挙げられる。不安行動の行動試験としては、例えば、高架式十字迷路法(Elevated plus maze test)、明暗選択箱試験(Light/dark transition test)が挙げられる。記憶障害の行動試験としては、例えば、新規物体認知試験(Novel object recognition test)、および恐怖条件付け試験(Fear conditioning test)、モリス水迷路試験(Morris water maze test)が挙げられる。

【0028】
うつ様行動の行動試験としては、例えば、ポーソルト強制水泳試験(Porsolt forced swim test)、尾懸垂試験(Tail suspension test)が挙げられる。社会的行動の異常の行動試験としては、社会的行動試験(Social interaction test)、24時間ホームケージ社会的行動試験(24hr homecage social interaction test)が挙げられる。痛覚感受性の異常の試験としては、例えば、ホットプレート試験(Hot plate test)、ホルマリン試験(formalin test)が挙げられる。これらの行動試験は、症状、および評価する脳高次機能の種類に応じて、単体で、あるいは複数で行われ、高次脳機能障害に関する評価を行うことができる。
FTLDないし前頭側頭型認知症(FTD)の症状を呈する本発明モデル動物に対して上記のような行動試験を行うと、有意な運動量の上昇、不安の欠如が見られ、一方、記憶障害は見られないという傾向を示す。

【0029】
1.4 動物種
本発明モデル動物の作製に使用される動物種としては、通常、実験動物として使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、線虫、ゼブラフィッシュ等の魚類、カエル等の両生類、マウス、ラット、モルモット等の齧歯類、サル、マーモセット等の霊長類、ウサギ、フェレット、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマを挙げることができる。その中でも、好ましくはマウス、ラット、モルモット等の齧歯類、またはサル、マーモセット等の霊長類であり、より好ましくはマウスである。これら動物の系統の多くは実験動物業者から容易に入手することができる。

【0030】
動物の系統は、交雑系でも近交系でもよく特に制限されないが、動物実験における結果の個体差を最小とするためには遺伝子背景が均一化された近交系が好ましい。近交系の実験動物は、マウスの場合、通常、20世代以上の近交交配によって得られ、そのため、0.01%以下のヘテロ接合の遺伝子しか有さないため、それぞれが遺伝的にはほぼ同一の個体と見なすことができる。一般的な近交系の実験動物としては、例えば、ラットではWister系、マウスではDBA/2系、C57BL/6系、BALB/c系を挙げることができる。これら近交系の実験動物は実験動物業者から容易に入手することができる。また、Charles River等の実験動物業者が提供するMAX-BAXプログラム等の近交系動物の作製サービスを用いて確立することもできる。
本発明の一つの特徴として、実験に適した近交系モデル動物(特にマウス)も提供していることにある。

【0031】
1.5 本発明に係るモデル神経細胞、およびモデル神経細胞株
本発明は、本発明モデル動物から取得されるモデル神経細胞(以下、「本発明モデル神経細胞」という)またはモデル神経細胞株(以下、「本発明モデル神経細胞株」という)を含む。
本発明モデル神経細胞は、本発明モデル動物から取得される初代培養神経細胞であり、神経細胞の初代培養等に用いられる既知の方法により取得し培養することができる。本発明モデル神経細胞は、通常、本発明モデル動物の脳または神経系の神経細胞が取得される。また、本発明モデル神経細胞株とは、上記本発明モデル神経細胞より、継代培養を繰り返すことにより樹立された細胞株(株化細胞)である。本発明モデル神経細胞および本発明モデル神経細胞株は、本発明モデル動物と比較して容易に扱うことができるという利点を有し、液体窒素中等に凍結保存し、必要に応じて解凍して用いることもできる。本発明モデル神経細胞等の培養、継代培養、凍結保存、解凍等には、細胞培養の技術分野における既知の方法を使用することができる。本発明モデル神経細胞を用いた研究、実験、試験に関しても、細胞培養の技術分野における既知の方法を使用することができる。
ここで「細胞株」とは、長期間にわたって生体外で継代培養により維持され、一定の安定した性質を有するに至った細胞をいう。本発明モデル神経細胞株を用いることにより、再現性のある安定した実験を行うことができる。

【0032】
1.6 製造方法
本発明は、脳におけるFUS遺伝子を特異的にノックアウトする操作工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の症状を呈するモデル動物の製造方法(以下、「本発明製造方法」という。)を含む。
「FUS遺伝子」、「シナプス異常を伴う疾患」、「動物種」などは前記と同義である。

【0033】
本発明製造方法に係る、脳におけるFUS遺伝子を特異的にノックアウトする操作工程としては、前記「1.2 脳におけるFUS遺伝子の特異的ノックアウト」項で掲げたコンディショナルノックアウト法を挙げることができる。かかるコンディショナルノックアウト法で使用されるシステムとしては、例えば、同項で示したものと同じシステムを挙げることができるが、その中でも、Cre-loxPシステムが好ましい。
また、当該ノックアウトする操作においては、Cre-loxPシステムとCamK2プロモーターとを用いることが好ましい。

【0034】
本発明製造方法においては、対象とする動物の発生段階で特定の遺伝子が遺伝子操作される。かかる遺伝子操作を行う方法としては、例えば、受精卵の前核に直接DNAの注入を行うマイクロインジェクション法、レトロウイルスベクターを利用する方法、ES細胞を利用する方法、iPS細胞を使用する方法を挙げることができる。受精卵等に注入された遺伝子は、例えば、相同組み換えにより染色体に組み込まれる。本発明製造方法において、Cre-loxPシステムを用いる場合、loxP配列に挟まれたFUS遺伝子と、Creリコンビナーゼ遺伝子の全長をコードする配列(以下、「Cre遺伝子」という。)の2つの遺伝子が遺伝子操作され受精卵等に組み込まれる。本発明製造方法においては、Cre遺伝子の組み込みとloxP配列に挟まれたFUS遺伝子とを一個体に一度に組み込むこともできるが、Cre遺伝子と上記FUS遺伝子を別々の個体に組み込み、その個体同士を交配することによって両遺伝子が組み込まれた個体を得ることもできる。
以下では、本発明製造方法の具体例として、マウスを用いたマイクロインジェクション法による場合について説明する。

【0035】
マイクロインジェクション法では、まず交尾が確認された雌マウスの卵管より受精卵を採取し、そして培養した後にその前核に所望のDNAコンストラクトの注入を行う。DNAコンストラクトとしてはCre遺伝子を含むものが使用される。使用するDNAコンストラクトには導入遺伝子の時期特異的な発現を可能とするプロモーター配列であるCamK2プロモーターを使用することができる。加えて、loxP配列を有するFUS遺伝子が相同組み換えにより染色体に挿入される。注入操作を終了した受精卵を偽妊娠マウスの卵管に移植し、移植後のマウスを所定期間飼育して仔マウス(F0)を得る。

【0036】
仔マウスの染色体にCre遺伝子および/またはloxP配列を有するFUS遺伝子が適切に組込まれていることを確認するために、仔マウスの尾などからDNAを抽出し、導入遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCR法や導入遺伝子に特異的なプローブを用いたドットハイブリダイゼーション法等が行われ、適切な遺伝子組み換えマウスが選択される。
本発明モデル動物の成体期において、コンディショナルノックアウトが適切に行われたかどうかの評価は、標的組織、即ち脳組織を試験することにより確認することができる。試験法としては、FUSタンパク質を対象とする試験では、例えば、組織切片の免疫染色、抽出タンパクのウエスタンブロット、FUSのmRNAを対象とする試験としては、例えば、定量的PCR、ノーザンハイブリダイゼーション、in situ ハイブリダイゼーションが挙げられる。


【0037】
2 本発明に係るスクリーニング方法
本発明は、本発明モデル動物、または本発明モデル神経細胞もしくは本発明モデル神経細胞株を用いる工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療薬を探索するためのスクリーニング方法(以下、「本発明スクリーニング方法」という。)を含む。
本発明スクリーニング方法は、本発明モデル動物を用いる場合は、通常、シナプス異常を伴う疾患、例えば、前頭側頭葉変性症(FTLD)、運動ニューロン疾患などの症状を呈する本発明モデル動物に、対象薬物を投与し、その特徴的な症状、病理所見、または高次脳機能障害が緩和、治療されるか否かを評価することによって行われる。本発明モデル動物へ対象薬物を投与した結果、その特徴的な症状、病理所見または高次脳機能障害が緩和、治療された場合、当該薬物は当該疾患を治療または緩和させる可能性があると評価することができる。

【0038】
また、本発明モデル動物または本発明モデル神経細胞もしくは本発明モデル神経細胞株を用いる本発明スクリーニング方法においては、対象薬物の有効性を評価する工程として、例えば、本発明モデル動物へ対象薬物を投与した後、その結果として引き起こされる、シナプス異常を伴う疾患と関連する遺伝子の、特に脳におけるタンパク質またはmRNAの量の変動(投与前後の変化)を測定する工程を挙げることができる。かかるシナプス異常を伴う疾患と関連する遺伝子としては、例えば、SynGAPα2、Tau、GluA1が挙げられる。これらの中でも、SynGAPα2タンパク質、またはmRNAの増減を測定することが好ましい。

【0039】
本発明モデル動物へ対象薬物を投与した結果、疾患部におけるSynGAPα2タンパク質、またはmRNAの量が投与前あるいはコントロール群と比べて増加した場合、当該薬物は当該疾患を治療または緩和させる可能性があると評価することができる。SynGAPα2の増減は、常法により、SynGAPα2をコードするmRNA量、またはSynGAPα2タンパク質の量を測定することによって確認することができる。mRNAの測定法としては、例えば、定量的RT-PCR、ノーザンハイブリダイゼーションが挙げられる。タンパク質の測定法としては、例えば、ウエスタンブロットおよび免疫染色法が挙げられる。通常、上述の測定による有効性の評価は、例えば、疾患部位の組織の抽出液、または組織切片を用いて行われる。

【0040】
なお、本発明モデル動物等を用いず、in vivoないしin vitroにおいて、対象薬物の適用によるSynGAPα2の増減を測定する工程を有することにより、シナプス異常を伴う疾患(例、前頭側頭葉変性症(FTLD)、運動ニューロン疾患など)の治療薬をスクリーニングすることもできる。このようなスクリーニング方法も本発明に含まれる(以下、当該スクリーニング方法も含めて、「本発明スクリーニング方法」ともいう。)。

【0041】
SynGAPα2の増減は、常法により測定することができる。そして、対象薬物の適用の結果、SynGAPα2が適用前あるいはコントロール群と比べて増加した場合、当該薬物は当該疾患を治療または緩和させる可能性があると評価することができる。上記in vivoにおける当該スクリーニング方法においては、通常、使用される動物の脳におけるSynGAPα2の増減が測定される。一方、上記in vitroにおける当該スクリーニング方法においては、通常、使用される細胞等におけるSynGAPα2の増減が測定される。

【0042】
上記in vivoにおける当該スクリーニング方法において、使用しうる動物種としては、通常、実験動物として使用される非ヒト動物であれば特に制限されないが、例えば、霊長類(サル、マーモセット)、齧歯類(マウス、ラット、モルモット等)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマが挙げられる。
上記in vitroにおける当該スクリーニング方法においては、通常、ヒトおよび上述した、実験動物として使用される非ヒト動物の脳または神経の培養細胞等が使用される。ヒト培養細胞としては、例えば、運動神経由来の培養細胞であるNSC-34が挙げられる。非ヒト動物の培養細胞としては、例えば、マウスの初代培養神経細胞、Neuro2Aが挙げられる。また、上記シナプス異常を呈する疾患を有するまたは有さないヒト、または非ヒト動物の細胞から作製されたiPS細胞を使用することもできる。

【0043】
本発明スクリーニング方法に適用しうる対象薬物(治療薬候補)としては、通常、薬物として用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、低分子有機化合物、無機化合物、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、脂質、糖脂質、糖、核酸を挙げることができる。その他、植物、微生物、細胞等の抽出液や培養上清であってもよい。
本発明スクリーニング方法において、本発明モデル動物への対象薬物の適用方法(投与方法)としては、実験動物への通常の投与方法を挙げることができ、具体的には、例えば、経口投与、血管内注射、カテーテルを用いた投与、表皮への塗布、皮下投与、腹腔内投与、髄腔内投与、脳室内投与、脳実質注射が挙げられるが、標的部位が脳の疾患部であることから、経口投与、血管内注射、疾患部位へのカテーテルを用いた投与、髄腔内投与、脳室内投与、脳実質注射が好ましい。


【0044】
3 本発明に係る治療剤
本発明は、SynGAPα2をコードする遺伝子もしくはSynGAPα2タンパク質、または脳におけるSynGAPα2遺伝子の発現を促進する薬物もしくはSynGAPα2タンパク質を増加しうる薬物を有効成分として含有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療剤(以下、「本発明治療剤」という。)を含む。
ここで「治療」とは、対象疾患、症状ないしその付随する症候に対し、直接的または間接的に改善、緩和、治癒することのみならず、例えば、当該疾患等を予防することなども含まれる用語である。
ここで本発明におけるSynGAPα2は、SynGAPのスプライシングバリアントの中でC末端側にα2ドメインを有するものであり、N末端側のドメインはA、B、C等のいずれでもよい。

【0045】
本発明者らは、本発明モデル動物を用いて、FUSの病態生理への関与を検討する中で、脳神経細胞における成熟スパインが有意に減少していることを確認し、それと共に脳神経細胞におけるSynGAP2αの発現が低下していること、SynGAP2αの選択的ノックダウンによっても本発明モデル動物と同様の表現形を有すること、また、SynGAP2α遺伝子の補充により成熟スパインが回復したことなども確認した。
したがって、脳におけるSynGAPα2を増やすことができる薬剤は、FTLDなどのシナプス異常を伴う疾患を治療するために有効である可能性がある。そのような薬剤として、例えば、SynGAPα2をコードする遺伝子またはSynGAPα2タンパク質、または脳におけるSynGAPα2遺伝子の発現を促進する薬物もしくはSynGAPα2タンパク質を増加しうる薬物を有効成分として含有する薬剤を挙げることができる。

【0046】
ヒトSynGAPα2遺伝子の塩基配列および該遺伝子のコードするタンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1および配列番号2に表される。また、マウスのSynGAPα2遺伝子の塩基配列および該遺伝子のコードするタンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号3および配列番号4に表される。

【0047】
3.1 SynGAPα2をコードする遺伝子
本発明治療剤に含まれるSynGAPα2のDNAは、配列番号1または配列番号3に表される塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、配列番号1または配列番号3に表される塩基配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有しているDNA、または前記DNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対して1または複数もしくは数個(1~10個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1個若しくは2個)のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAなどのうち、成熟スパインの形成促進の活性を有するタンパクをコードするものであれば、本発明治療剤に含まれる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、「1XSSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5XSSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2XSSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件である。このようにハイブリダイゼーションの条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。ただし、上記のSSC、SDSおよびに温度の条件の組み合わせは例示であり、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーションの反応時間などを適宜組み合わせることにより、必要なストリンジェンシーを実現することが可能である。

【0048】
ヒトSynGAPα2遺伝子は、配列番号1の配列情報に基づいて、ヒト細胞、ヒト組織等から得ることができる。また、マウスSynGAPα2遺伝子は、配列番号3の配列情報に基づいて、マウス細胞、マウス組織等から得ることができる。
さらに、本発明治療剤はSynGAPα2遺伝子を含むベクターをも含む。該ベクターを被験体に導入することにより、被験体体内でSynGAPα2タンパク質が発現し、成熟スパイン形成促進効果を発揮し得る。このような、本発明治療剤の投与における目的の遺伝子の被験体への導入は公知の方法により行うことができる。遺伝子を被験体へ導入する方法として、ウイルスベクターを用いる方法および非ウイルスベクターを用いる方法があり、種々の方法が公知である(別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999)。

【0049】
本発明治療剤に用いられるウイルスベクターとしては、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス等のウイルスベクター、無毒化したレトロウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルスまたはRNAウイルスが挙げられる。その中でもアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)が好ましい。上記のウイルスベクターに目的とする遺伝子を導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることによって、細胞内に遺伝子を導入することが可能である。

【0050】
本発明治療剤には、アデノ随伴ウイルスベクター(AAVベクター)が好ましく用いられる。AAVベクターは、目的のDNAを効率よく発現させるための調節エレメント、例えば、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーターなどを含んでいてもよく、必要に応じて、翻訳開始コドン、翻訳終止コドンなどを挿入してもよい。

【0051】
AAVベクターは増殖/非増殖のいずれの細胞にも遺伝子導入が可能であり、特に非分裂細胞においては長期間の目的遺伝子発現が可能である。アデノウイルスベクターやレトロウイルスベクターと比較して、免疫原性が低く、動物個体への遺伝子導入にも適している。また、非病原性ウイルスであるため、P1レベルの施設でも取扱いが可能であり、安全で取扱いの容易な研究用ウイルスベクターとして広く使用されている。また、AAVには100を超える血清型が存在しており、血清型の違いによって宿主域やウイルスの持つ特徴が異なることが知られている。血清型2(AAV2)は古くから広く研究されてきた血清型の1つであり、宿主域が大変広いことが知られている。血清型1(AAV1)、血清型5(AAV5)と血清型6(AAV6)は、より高い組織指向性を持った血清型であり、AAV1は筋肉、肝臓、気道、中枢神経系等、AAV5は中枢神経系、肝臓、網膜等、AAV6は心臓、筋肉、肝臓等への遺伝子導入効率が高いと言われており、標的とする組織に応じて使い分けることが可能である。後述する試験例においては、血清型9(AAV9)を使用した。非特許文献1において、本実験に使用したAAV9と同じバックボーンのプラスミドから作成されたウイルスを使用した実績がある。

【0052】
本発明治療剤に用いるAAVベクターは、当技術分野で周知となっている標準的方法により調整することができる。例えば、米国特許第5,858,351号およびそこに引用される参考文献には、遺伝子治療における使用に適切な種々の組み換えAAV、ならびにそれらのベクターの作製方法および増殖方法が記載されている(例えば、Kotin(1994)Human Gene Therapy 5:793 ~ 801、または、Berns「 Parvoviridae and their Replication」 Fundamental Virology、第2版、Fields& Knipe編など)。

【0053】
AAVベクターを作製するための好ましい方法によれば、まず、野生型AAVの両端のITRを残し、その間に目的の遺伝子を挿入することによりプラスミドを作製する(AAVベクタープラスミド)。一方、Rep遺伝子(複製タンパク質をコードする遺伝子)およびCap遺伝子(ウイルスの頭殻タンパク質をコードする遺伝子)を発現するプラスミド、ならびにアデノウイルス遺伝子であるE2A、E4、およびVAの各遺伝子を発現するプラスミドを用意する。次いで、E1遺伝子を発現するパッケージング細胞、例えばHEK293細胞にこれら3種のプラスミドを同時にトランスフェクションし、この細胞を培養する。これにより、哺乳動物細胞に対して高い感染能力を持つAAVベクター粒子を産生することができる。後述する試験例においては、非特許文献1と同様の方法でウイルスの作成を行った。

【0054】
本発明治療剤に用いられる非ウイルスベクターとしては、生体内で目的遺伝子を発現させることのできるベクターであれば特に制限されないが、例えば、pCAGGS(Gene 108,193-200(1991))や、pBK-CMV、pcDNA3、1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラタジーン社)、pVAX1などの発現ベクターが挙げられる。非ウイルスベクターを用いる場合は、目的の細胞や組織に遺伝子を効率的に取り込ませるための既知の手法を用いることが好ましい。当該手法としては、例えば、リポフェクション法、リン酸-カルシウム共沈法、DEAE-デキストラン法、微小ガラス管を用いたDNAの直接注入法、内包型リポソーム(internal liposome)による遺伝子導入法、静電気型リポソーム(electorostatic type liposome)による遺伝子導入法、HVJ-リポソーム法、改良型HVJ-リポソーム法(HVJ-AVEリポソーム法)、HVJ-E(エンベロープ)ベクターを用いた方法、レセプター介在性遺伝子導入法、パーティクル銃で担体(金属粒子)とともにDNA分子を細胞に移入する方法、naked-DNAの直接導入法、種々のポリマーによる導入法等が挙げられる。

【0055】
SynGAPα2遺伝子を含むベクターは、適宜遺伝子を転写するためのプロモーターやエンハンサー、ポリAシグナル、遺伝子が導入された細胞の標識および/または選別のためのマーカー遺伝子等を含んでいてもよい。この際のプロモーターとしては、公知のプロモーターを用いることができる。
SynGAPα2遺伝子を含む本発明治療剤を被験体へ導入するには、本発明治療剤を直接体内に導入するin vivo法、及び、ヒトからある種の細胞を取り出して体外で本発明治療剤を該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法等のどちらの方法も使用することができる(日経サイエンス、1994年4月号、20-45頁;月刊薬事、36(1),23-48(1994);実験医学増刊、12(15)、(1994);日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999)。

【0056】
3.2 SynGAPα2タンパク質
本発明治療剤に含まれるSynGAPα2遺伝子のコードするタンパク質は、配列番号2または配列番号4に表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有し、成熟スパインの形成誘導活性を有するタンパク質を用いることができる。ここで、実質的に同一のアミノ酸配列としては、当該アミノ酸配列に対して1または複数もしくは数個(1~10個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1個若しくは2個)のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列または当該アミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有しているものが挙げられる。

【0057】
SynGAPα2タンパク質の神経細胞への取込みは、例えばSynGAPα2タンパク質が細胞膜を通過し得るペプチドと結合させて脳組織部位に投与すればよい。細胞膜を通過し得るペプチドとして、種々のペプチドが公知であり、これらの公知のものを用いることができるが、例えば、HIV-1・TATの細胞膜通過ドメイン(protein transduction domain)、ショウジョウバエのホメオボックスタンパク質アンテナペディアの細胞膜通過ドメイン、VP22のC末端(267-300)ペプチド、HIV-1/Rev(34-50)ペプチド、FHV/coat(35-49)ペプチド、K-FGFのN末端(7-22)の疎水性領域が挙げられる。また、神経細胞に特異的に結合し得る化合物と結合させて投与してもよい。この場合は、脳組織部位に局所的に投与してもよいし、経口投与等により投与し、神経細胞にSynGAPα2タンパク質を送達させてもよい。このような、神経細胞に特異的に結合し得る化合物として、神経細胞の表面に発現している受容体と結合するホーミングシグナルペプチドがあげられる。上記の細胞膜通過ペプチドまたはシグナルペプチドをSynGAPα2タンパク質と結合させるには、例えば、SynGAPα2タンパク質をコードするDNAと上記の細胞膜通過ペプチドまたはホーミングシグナルペプチドをコードするDNAをインフレームで連結し、公知の遺伝子工学技術により融合タンパク質として産生させればよい。

【0058】
さらに、本発明治療剤が含有するSynGAPα2タンパク質またはSynGAPα2遺伝子は、該タンパク質のアミノ酸配列の一部アミノ酸配列からなる断片ペプチドであって成熟スパインの形成促進活性を有するペプチド、および該DNAの塩基配列の一部塩基配列からなる断片ヌクレオチドであって、成熟スパインの形成促進活性を有するペプチドをコードするヌクレオチドも含まれる。このような、断片ペプチドまたは断片ヌクレオチドは、全長タンパク質または全長DNAを適当な部位で切断し、成熟スパインの形成促進活性を有するかどうか測定することにより容易に得ることができる。

【0059】
3.3 製剤
本発明治療剤は、SynGAPα2タンパク質もしくはSynGAPα2タンパク質と細胞膜通過ペプチドまたはホーミングシグナルペプチドとの融合タンパク質またはSynGAPα2遺伝子DNAもしくは該DNAを含むベクターに加えてに薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤等を含むことができる。
本発明治療剤は、種々の形態で投与することができ、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬、スプレー剤、点眼剤、経鼻投与剤、貼付剤などによる非経口投与を挙げることができる。

【0060】
本発明治療剤は、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。

【0061】
3.4 投与対象、投与方法、投与量
本発明治療剤は、通常、動物(生体)内に投与される。投与しうる対象動物は特に制限されないが、例えば、ヒトまたは非ヒト動物が挙げられる。非ヒト動物としては特に制限されないが、ヒト以外の哺乳類、具体的には例えば、霊長類(サル、マーモセット)、齧歯類(マウス、ラット、モルモット等)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマが挙げられる。

【0062】
本発明治療剤の動物(生体内)への投与の方法としては特に制限されず、当業者が治療方法等に応じて適宜決定することができる。投与の方法としては、全身投与又は局所投与のいずれでもよい。本発明治療剤の投与は、注射(針有型、針無型)、カテーテルを用いた投与、内服、外用のいずれの方法によっても行うことができる。投与経路は、治療等に効果的な経路を選択することが好ましい。例えば、全身的に投与する場合は、経口投与の他、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、組織内投与等の非経口投与により投与される。局所的に投与する場合は、例えば、脳室、髄腔、脳実質、皮膚、粘膜、肺、気管支、鼻腔、鼻粘膜、眼等に投与される。これらの投与法の中でも、本発明治療剤の標的部位が主に脳の疾患部であることから、経口投与、血管内注射、疾患部位へのカテーテルを用いた投与、髄腔内投与、脳室内投与、脳実質注射が好ましい。

【0063】
本発明治療剤の投与量は、有効成分の種類、疾患の種類、患者の状態、年齢、体重、性別、担体や添加剤等の種類などに応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、当該有効成分の量として、成人1日当たり、0.1ng~1000mgの範囲内が適当であり、1ng~500mgの範囲内が好ましく、10ng~200mgの範囲内がより好ましい。これ以上必要とする場合もあれば、これ以下で足りる場合もある。また、かかる投与量を1日1回~複数回に分割して投与することができる。

【0064】
有効成分がSynGAPα2タンパク質の場合、経口投与では、1日約0.001mg~100mgが好ましく、1回または数回に分けて投与することが好ましい。また、非経口投与では、1回あたり、0.001mg~100mgを皮下注射、筋肉注射、または静脈注射によって投与することが好ましい。また、有効成分が被験体内で翻訳させる発現ベクター等に挿入されたSynGAPα2遺伝子DNAである場合は、数日または数週間または数ヶ月おきに1回あたり、0.001mg~100mgを皮下注射、筋肉注射、または静脈注射によって投与することが好ましい。

【0065】
3.5 薬物
本発明治療剤は、SynGAPα2をコードする遺伝子やSynGAPα2タンパク質以外に、脳におけるSynGAPα2遺伝子の発現を促進する薬物またはSynGAPα2タンパク質を増加しうる薬物を有効成分として含むことができる。当該薬物としては、例えば、本発明スクリーニング方法により見出される、当該効能を有するものであれば、低分子有機化合物、無機化合物、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、脂質、糖脂質、糖、核酸、植物、微生物、細胞等の抽出液や培養上清など特に制限されない。

【0066】
また、当該薬物以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、医薬上許容される担体等を含みうる。上記担体として、固形、半固形または液状の希釈剤、充填剤、その他の処方用の助剤を挙げることができ、例えば、澱粉、マンニトールのような可食性炭水化物を挙げることができる。これらの担体等の量は製剤中、0.5~99.999%の範囲内が適当であり、好ましくは10~99.99重量%の範囲内がより好ましい。

【0067】
また、当該薬物を有効成分として含む本発明治療剤には、上記担体以外に、本発明の効果を損なわない限り、医薬上許容される添加剤、賦形剤などを配合することができる。かかる添加剤ないし賦形剤として、例えば、乳化補助剤(例えば、炭素数6~22の脂肪酸やその医薬的に許容可能な塩、アルブミン、デキストラン)、安定化剤(例えば、コレステロール、ホスファチジン酸)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グルコース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース)、pH調整剤(例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン)を挙げることができる。これらを一種または二種以上使用することができる。本発明治療剤中の当該添加剤等の含有量は、90重量%以下が適当であり、70重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。

【0068】
当該薬物を有効成分として含む本発明治療剤の剤型としては、特に制限されず投与方法等に応じて適宜選択されるが、非経口投与のための製剤として、例えば、注射剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、貼付剤、リニメント剤、座薬、噴霧剤、吸入剤、スプレー剤、点眼剤、点鼻剤が挙げられる。この中、注射剤が好ましい。経口投与のための製剤としては、例えば、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤を挙げることができる。 当該薬物を有効成分とする本発明治療方法において、投与対象、投与対象、投与量などに関しては、前記と同様である。


【0069】
4 本発明に係る治療方法
本発明は、SynGAPα2を脳に補充または増加させる工程を有することを特徴とする、シナプス異常を伴う疾患の治療方法(以下、「本発明治療方法」という。)を含む。
本発明治療方法が対象とするシナプス異常を伴う疾患としては、例えば、前頭側頭葉変性症(FTLD)や運動ニューロン疾患を挙げることができる。本発明治療方法において、SynGAPα2を脳に補充または増加させるには、例えば、SynGAPα2をコードする遺伝子またはSynGAPα2タンパク質を投与すること、脳におけるSynGAPα2遺伝子の発現を促進する薬物またはSynGAPα2タンパク質を増加しうる薬物を投与することにより、直接的ないし間接的に達成しうる。

【0070】
脳におけるSynGAPα2遺伝子の発現を促進する薬物またはSynGAPα2タンパク質を増加しうる薬物としては、例えば、本発明スクリーニング方法により見出される、当該効能を有するものであれば、低分子有機化合物、無機化合物、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、脂質、糖脂質、糖、核酸、植物、微生物、細胞等の抽出液や培養上清など特に制限されない。
本発明治療方法において、有効成分を投与するための製剤、投与対象、投与量などに関しては、前記と同様である。

【実施例】
【0071】
次に実施例、試験例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はそれら実施例、試験例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
[実施例1]本発明モデル動物(FUS-cKOマウス(Cre+))の作製
Cre-loxPシステムを用いて本発明モデル動物を作製した。Frt配列を有するネオマイシンカセットと共に、FUS遺伝子の5’UTRとイントロン3に同方向のloxP配列を挿入した遺伝子配列を有するベクターを設計し(図1参照)、当該配列を有するベクターを作製した。野生型(WT)遺伝子(図4Aおよび図4B、配列番号5)、ベクター、およびベクターが挿入された遺伝子(KO遺伝子,図5Aおよび図5B、配列番号6)のエクソン1~6の領域の模式図を図2に示す。目的配列の挿入を確認するために、DNAをBamHIやHindIIIで制限酵素処理し、サザンブロッティングを行い、目的の遺伝子導入を確認した。次に当該ベクターを挿入したiTL BA1 ES細胞(C57BL/6J×129/SvEv)を作製した。遺伝子導入したES細胞については、そのDNAをPCR法により目的配列を増幅することにより確認した。作製したベクターの挿入を有するES細胞をC57BL/6J系統のマウスの胚盤胞にマイクロインジェクションにて挿入した。出生した産仔をC57BL/6J FLPマウスと交配してネオマイシンカセットを除去した(上述の工程は、inGenious Targeting laboratory社に委託した。)。WT遺伝子、KO遺伝子、およびネオマイシンカセットが除去された遺伝子(Neo deletion)の模式図を図3に示す。LoxP配列が含まれるNeo deletionを有するマウスの検出のために、マウスのDNAをPCRにて確認した。WTが286bpに対して、Neo deletionの配列は451bpであることから、実験には451bpのみが確認されるホモのマウスを使用した。その後、当該マウスを、C57BL/6J(中部化学資材社より購入)に戻し交配を行った。そして、MAX-BAXプログラム(Charles River)を用いて、遺伝子背景が完全に一致するCre-loxP配列導入マウスを作製した。
【実施例】
【0073】
次に、遺伝子背景を完全に一致させた上記マウスにCamk2a-Creマウス(Cell 1996;87:1917)を交配した。出生した産仔のうち、FUSfl/fl/Cre+マウスをFUS-cKOマウス(Cre+)(本発明モデル動物)として、またFUSfl/+、FUSfl/fl/マウス(Cre-)を対照マウスとして使用した。

以下の試験例では、主に3~4月齢の雄を使用した。試験例7のAAVベクターの脳実質注入を行う場合は6週齢で注入を行い、解析は3~4月齢で施行した。
【実施例】
【0074】
[試験例1]実施例1のFUS-cKOマウス(Cre+)の評価
実施例1で作製したFUS-cKOマウス(Cre+)について、脳の海馬におけるFUSタンパク質の発現量を免疫染色法により評価した。3月齢のFUS-cKOマウス(Cre+)および対照マウス(Cre-)の脳をパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋したサンプルを作製し、その海馬組織切片において抗FUS抗体の免疫染色をDAB発色で行った。次に当該切片より海馬CA1領域を切離し、超音波で破砕したサンプルを用いてウエスタンブロット法によりタンパク発現量を確認した。
【実施例】
【0075】
Creの発現していない対照マウス(Cre-)と比較して、Creを発現して脳特異的にFUS遺伝子をノックアウトした本発明モデル動物(FUS-cKOマウス(Cre+))では、脳組織において、抗FUS抗体を用いた免疫染色よるとFUSタンパク質の染色性が低下していた(図7(A)参照)。FUSタンパク質の染色性の低下は、特に海馬CA1領域、歯状回の神経細胞において顕著であった。また、抗FUS抗体を用いたウエスタンブロット法による実験の結果、FUS-cKOマウス(Cre+)の海馬CA1領域においてはFUSタンパク質の発現量の低下を認めた(図7(B)参照)。
以上から、実施例1で作製したFUS-cKOマウス(Cre+)において、FUS遺伝子のノックアウトが成立していることを確認した。
【実施例】
【0076】
[試験例2]FUS-cKOマウス(Cre+)の表現型の解析
実施例1で作製した、3~4月齢のFUS-cKOマウス(Cre+)の脳組織切片を用いて、FD Rapid GolgiStain kit(FD Neuro Technologies社製)によりゴルジ染色を行い、後シナプス部におけるスパイン形態を評価した。また、当該組織切片における神経突起100μm当たりの総スパイン数、およびマッシュルーム型の成熟スパインの割合を評価した。
【実施例】
【0077】
対照マウスと比較し、FUS-cKOマウス(Cre+)マウスでは矢印で示されるマッシュルーム型の成熟スパインが減少していた(図8A参照)。定量解析では、神経突起100μm当たりの総スパイン数には変化がなかったが(図8B参照)、総スパイン数における成熟スパインの割合はFUS-cKOマウス(Cre+)において有意に低下していた(図8C: N=8 from 4 mice each)。
以上のことから、実施例1で作製したFUS-cKOマウス(Cre+)では、スパインの成熟障害、すなわち後シナプスの成熟障害のあることが判明し、このことが神経活動の低下に寄与している可能性を示唆した。
【実施例】
【0078】
[試験例3]行動試験(行動量)
実施例1で作製したFUS-cKOマウスにおける高次脳機能異常を、脳科学の研究において用いられる行動試験によって評価した。行動試験に用いるマウスは、C57BL/6Jの系統に戻し交配を行い、遺伝子検査(MAX-BAX,Charles River社)にて99.5%以上の一致率を得たマウスを繁殖し、3~4月齢で評価を行った。実験には、対照マウス(Cre-)群は10匹、FUS-cKOマウス(Cre+)群は11匹を使用した。行動量を評価するオープンフィールド試験を行い、その試験方法として、直径60cmのアリーナに被験体マウスを置き、5分間のマウスの行動量をEthoVision(自動追跡プログラム、Brainscience Idea社製)で計測した。
【実施例】
【0079】
対照マウス(Cre-)群と比較して、FUS-cKOマウス(Cre+)群では総移動距離が有意に上昇した(図9参照)。アリーナを直径40cmの円で分けて中央部と外周に分けて解析したところ、特に外周の移動距離が上昇した。
以上の通り、実施例1で作製したFUS-cKOマウス(Cre+)は「多動」の表現型を示した。
【実施例】
【0080】
[試験例4]行動試験(不安行動)
不安行動は高架式十字迷路法によって評価した。被験体マウスとして、試験例3のものを使用した。方法としては、一方を両側に柵を配置した「壁のある道」とし、他方は開けた状態の「壁のない道」にした十字の通路を床上50cmの高さに配置し、そこに被験体マウスを置き、5分間の行動パターンを評価することで行った。
【実施例】
【0081】
対照マウス(Cre-)群と比較して、FUS-cKOマウス(Cre+)群は「壁のない道」の滞在時間が有意に上昇し、「壁のある道」では有意に低下した(図10(A)参照)。5分間における「壁のない道」への侵入回数もFUS-cKOマウス(Cre+)群で有意に上昇していた(図10(B)参照)。
以上の通り、実施例1で作製したFUS-cKOマウス(Cre+)は「不安欠如」の表現型を示した。
【実施例】
【0082】
[試験例5]行動試験(記憶障害)
記憶障害は、新規物体認知試験、および恐怖条件付け試験で評価した。被験体マウスとして、試験例3のものを使用した。
まず、新規物体認知試験は、30cm四方の箱に2つの物体を置き、そこに被験体マウスに5分間自由に探索させる「訓練試行」のステップ、その後、翌日に一方のみを変更し、新規物体の認知を評価する「保持試行」のステップの手順で行った。
また、恐怖条件付け試験は、30cm四方の箱に被験体マウスを入れ(文脈条件付け)、15秒間85dBの音を聞かせ(音条件付け)、最後の5秒間に0.8mAの電気ショックを与えることを4回行い文脈と音により条件付けした。そして、翌日に同じ箱に入れ、電気ショックを与えずに被験体マウスが「すくみ反応」を起こすか2分間観察し恐怖文脈条件付け試験を、さらに4時間後に条件付けと同じ音を聞かせて、音刺激前後および音刺激中の1分間ずつの「すくみ反応」を観察する恐怖音条件付け試験を行った。
【実施例】
【0083】
結果、新規物体認知試験の「訓練試行」では2物体への探索時間に有意差がなく、「保持試行」ではなじみのある物体(ファミリア)と比べて新規物体への探索時間が両群とも有意に上昇しており、両群に探索嗜好性の違いは見られなかった (図11(A)参照)。したがって、本試験では、実施例1で作製したFUS-cKOマウス(Cre+)群の「記憶障害」は認められなかった。
恐怖条件付け試験においては、場所および音刺激のどちらにおいても両群で「すくみ反応」に有意な差は認めなかった(図11(B)参照)。したがって、本試験においても実施例1で作製したFUS-cKOマウス(Cre+)群の「記憶障害」は認められなかった。
【実施例】
【0084】
行動試験の総括として、FUS-cKOマウス(Cre+)群では「多動」、「不安欠如」という行動異常を呈したが、「記憶障害」は認められなかった。この特徴はFTLD患者における初期の臨床症状の特徴に類似している(Dement Geriatr Cogn Disord 2006;21:74)。よって、実施例1で作製したFUS-cKOマウス(Cre+)は、FTLD等のモデル動物として妥当であることが明らかである。
【実施例】
【0085】
[試験例6]FTLD等の治療ターゲットの探索
マウス初代培養神経細胞におけるFUS発現抑制モデルから抽出したタンパク質のLC/MS解析により、治療ターゲットとしてSynGAPα2が得られた。そのため、FUS-cKOマウスの脳組織におけるSynGAPα2タンパク質の量を、試験例1と同様に作製した脳海馬CA1領域のパラフィン切片に対して抗SynGAPα2抗体を用いた蛍光免疫染色を行った。また、当該組織切片の海馬CA1を超音波破砕して得られたサンプルを用いて、抗SynGAPα2抗体を用いたウエスタンブロットを行った。
【実施例】
【0086】
海馬CA1領域から抽出した蛋白質のウエスタンブロット(図12(B)参照)、および海馬CA1領域のパラフィン切片の蛍光免疫染色(図12(A)参照)の結果、FUS-cKOマウス(Cre+)においてSynGAPα2のタンパク質の量が顕著に低下していることが確認された。
【実施例】
【0087】
[試験例7]SynGAP Aα2の補充実験
N末端にFLAGを付したマウスSynGAP Aα2のcDNA配列を組み込み、CAGプロモーター下に発現するAAVベクター作成し、このベクターを搭載したAAVを作成した(図6Aおよび図6B、配列番号7参照)。当該ベクターで発現されたタンパク質には、SynGAPのN末端に標識配列としてFlagペプチドが挿入されている。6週齢のマウスに対して投与し、SynGAP Aα2を発現させることによりSynGAP Aα2タンパク質を補充し、表現型の改善試験を行った。
実験は、実施例1で作製した、6週齢のFUS-cKOマウス(Cre+)の両側海馬にステレオタキシック装置(Angel Two、Leica社)を用いて両側海馬にAAVを1.5×10 13乗 VG/mLの濃度で1μLを定位注入することによって行った。評価は、試験例2と同様に、FUS-cKOマウスの脳組織切片を用いて、FD Rapid GolgiStain kit(FD Neuro Technologies社製)によりゴルジ染色を行い、後シナプス部におけるスパイン形態を評価し、成熟スパインの割合を評価することにより行った。実験は3匹のFUS-cKOマウス(Cre+)を用いて行った。実験の陰性対照群として、FUS-cKOマウス(Cre+)を2匹、および対照マウス(Cre-)にGFPのcDNA配列を組み込んだAAVベクターを搭載したAAVを注入したものを3匹作製した。
【実施例】
【0088】
ゴルジ染色像の観察の結果、SynGAP Aα2の補充を行ったFUS-cKOマウス(Cre+)については、FUS-cKOマウス(Cre+)で見られた総スパイン数におけるマッシュルーム型の成熟スパインの割合の減少が有意に改善した(図13A、図13B参照)。
【実施例】
【0089】
[試験例8]行動試験(行動量、不安行動)
試験例7でSynGAP Aα2の補充を行ったFUS-cKOマウス(Cre+)群について、高次脳機能障害の回復を、行動試験によって評価した。行動量は試験例3と同様にオープンフィールド試験によって、不安行動は試験例4と同様に高架式十字迷路法によって評価した。試験例7と同様に、実験の陰性対照群として、FUS-cKOマウス(Cre+)、および対照マウス(Cre-)にGFPのcDNA配列を組み込んだAAVベクターを搭載したAAVを注入したものを作製した。
【実施例】
【0090】
SynGAP Aα2の補充を行ったFUS-cKOマウスでは、試験例3~4で観察された行動異常である「多動」は、対照であるGFPを補充したFUS-cKOマウスと比較して改善された(図14A参照。左カラムからN=14,11,11)。また、「不安欠如」については、SynGAP Aα2の補充を行ったFUS-cKOマウスでは、対照であるGFPを補充したFUS-cKOマウスと比較して有意に改善された(図14B参照。左カラムからN=8,7,8)。
これらの結果から、SynGAP Aα2がFTLD等の治療ターゲットとなりうることが明らかである。また、FTLD等の治療薬の探索のために、薬物の適用によるSynGAP Aα2の増減、または本マウスの表現型の改善を指標とすることが効果的であることが明らかである。
以上示したように、本発明のFUS-cKOマウスはFTLD等の治療の研究のためのモデル動物として有用であることが示された。

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明モデル動物は、シナプス異常を伴う疾患、例えば、前頭側頭葉変性症(FTLD)、運動ニューロン疾患の病態や治療法を研究開発する上で産業として利用することができる。また、本発明スクリーニング方法は、シナプス異常を伴う疾患の治療薬を探索する上で産業として利用することができる。さらに、本発明治療剤は、シナプス異常を伴う疾患の治療に有効であるから、それを製造販売など行う上で利用することができる。

【配列表フリ-テキスト】
【0092】
配列番号5:マウスFUS遺伝子のエクソン1~6の領域の塩基配列である。
配列番号6:ベクターを挿入後のマウスFUS遺伝子のエクソン1~6の領域の塩基配列である。
配列番号7:SynGAP A2αのcDNAを組み込んだAAVベクターの塩基配列である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4A】
3
【図4B】
4
【図5A】
5
【図5B】
6
【図6A】
7
【図6B】
8
【図7】
9
【図8A】
10
【図8B】
11
【図8C】
12
【図9】
13
【図10】
14
【図11】
15
【図12】
16
【図13A】
17
【図13B】
18
【図14A】
19
【図14B】
20