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明細書 :陰イオン交換体を触媒とする糖脂肪酸エステルの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年6月24日(2019.6.24)
発明の名称または考案の名称 陰イオン交換体を触媒とする糖脂肪酸エステルの製造方法
国際特許分類 C07H  13/06        (2006.01)
B01J  31/08        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07H 13/06
B01J 31/08 Z
C07B 61/00 300
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 15
出願番号 特願2018-535696 (P2018-535696)
国際出願番号 PCT/JP2017/029937
国際公開番号 WO2018/038103
国際出願日 平成29年8月22日(2017.8.22)
国際公開日 平成30年3月1日(2018.3.1)
優先権出願番号 2016162015
優先日 平成28年8月22日(2016.8.22)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】北川 尚美
【氏名】笹山 知嶺
【氏名】上神田 悠斗
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100100181、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 正博
審査請求 未請求
テーマコード 4C057
4G169
4H039
Fターム 4C057AA19
4C057BB02
4C057CC01
4C057DD02
4C057HH03
4G169AA04
4G169BA23A
4G169BA23B
4G169BE46B
4G169CB25
4G169CB75
4G169DA05
4G169DA06
4G169DA08
4G169FA08
4H039CA66
4H039CL25
要約 本発明の目的は、従来のスクロース脂肪酸エステル(FASuc)等の糖脂肪酸エステルの製造方法における、上記のような様々な問題点を解決し、石鹸が副生しない、触媒と生成物との分離が容易である等の利点を有し、温和な条件下での簡便な操作によって、流通系での効率的な合成も可能となる製造方法及び該糖脂肪酸エステルを含む組成物を提供すること。
本発明は、陰イオン交換体を触媒として用いて、脂肪酸エステルと糖類とのエステル交換反応により、糖脂肪酸エステルを製造する方法及び該糖脂肪酸エステルを含む組成物等に関する。
特許請求の範囲 【請求項1】
脂肪酸エステルと糖類とのエステル交換反応を用いて糖脂肪酸エステルを製造する方法であって、触媒として陰イオン交換体を用いる前記方法。
【請求項2】
前記陰イオン交換体が、実質的に予め糖類が吸着された陰イオン交換体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
糖類を陰イオン交換体へ吸着させる吸着工程、次いで、吸着工程により糖類が吸着した陰イオン交換体を用いて糖脂肪酸エステルを合成させる合成工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記吸着工程が、糖類を含む反応液を陰イオン交換体に供給することにより糖類を陰イオン交換体へ吸着させることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記合成工程が、前記吸着工程により糖類が吸着した陰イオン交換体に脂肪酸エステルを含む反応液を供給させることにより糖脂肪酸エステルを合成させることを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記脂肪酸エステルを含む反応液は、更に糖類を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記合成工程で使用する反応液に於ける脂肪酸エステルと糖類のモル濃度比が1:0.5~1:5である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
陰イオン交換体が、強塩基性陰イオン交換樹脂である請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
脂肪酸エステルが、炭素数1~30の脂肪酸と炭素数1~8の低級アルコールから成るエステルである、請求項1~8のいずれか一項にの方法。
【請求項10】
糖類が、単糖類、二糖類、及び、多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
脂肪酸エステルがオレイン酸メチルであり、糖類がスクロースである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法で製造された糖脂肪酸エステルを含む組成物。
【請求項13】
糖脂肪酸エステルの80質量%以上がモノ体であることを特徴とする、請求項12記載の組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換体を触媒とする糖脂肪酸エステルの製造方法等に関する。本発明は、特に、強塩基性陰イオン交換樹脂を触媒として用いて、脂肪酸エステルと糖類とのエステル交換反応により、糖脂肪酸エステルを製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
糖のスクロース(Suc)は、年間生産量が約1.8億トンといわれ、単一の有機化合物としては、最大級の生産規模を持ち、高純度品を安価に入手可能であることから、化学原料として様々な利用法の提案がなされている。現在、工業的に生産されているスクロース誘導体の一つとして、スクロース脂肪酸エステル(FASuc)がある。
【0003】
FASucは、親水基のSucと親油基の植物油由来の脂肪酸FAがエステル結合した非イオン性の界面活性剤である。スクロースが有する8個の水酸基に結合させる脂肪酸の数によって親水、親油性を変化させることができるため、広範な親水・親油バランス(HLB)値を持つ。FASucは、乳化作用のほかに、可溶化能、分散能、潤滑能など高い機能性を有している。
【0004】
また、近年、製薬分野で、FASucの錠剤の結合剤としての用途の研究が行われ、医薬品分野での利用も期待されている。
【0005】
このように、FASucは、安価な砂糖と植物油から製造される高付加価値のバイオマス由来化成品であるが、親水性のSucと脂肪酸の混和性が低く合成が困難であることが知られている。
【0006】
現在、FASucの工業的な製造法では、溶媒に両親媒性のジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、均相アルカリNaCOを触媒としたSucと脂肪酸メチルエステル(FAMe)とのエステル交換反応が利用されている。
【0007】
しかし、転化率を高めるために副生メタノール(MeOH)を除去する減圧条件が必須であり、FAMeと触媒の反応により石鹸を副生、均相触媒の分離が困難、連続操作が不可、といった問題があり、コスト高の要因となっている。
このような問題に対処するために、例えば、充填塔と複数個の凝縮器を直列に配置した反応器を用い、第1段凝縮器の凝縮液を充填塔の塔頂に還流する手法を提案している(特許文献1)。
【0008】
別のFASucの工業的な製造法としては、有機溶媒及び触媒を用いず、エステル交換をする試みも行われている(特許文献2及び特許文献3)。例えば、特許文献3には、スクロース水溶液と脂肪酸メチルエステルに乳化剤として糖脂肪酸エステルを添加し、超音波及びマイクロ波を照射してエマルションを生成させ反応を促進する手法が記載されている。
【0009】
一方、本発明者等は、油脂類とアルコール類とのエステル交換反応による脂肪酸エステルの製造方法において、アニオン交換体を触媒として用い、油脂類とアルコール類のモル比が1/30~1/1である脂肪酸エステルの製造方法を開示している(特許文献4)。
【0010】
また、ショ糖脂肪酸エステルの製造方法としては、ショ糖と脂肪酸の低級アルカノールエステルまたはグリセリド類とをアルカリ金属でイオン交換された陽イオン交換樹脂の存在下でエステル交換反応させる方法が開示されている(特許文献5)。しかしながら、四級アンモニウム基を官能基として有する塩基性陰イオン交換樹脂あるいは三級アミンを官能基として有する塩基性陰イオン交換樹脂を用いて該反応を行った場合には満足な結果が得られなかったことが記載されている(特許文献5、4頁左上欄)。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開平6-122694号公報
【特許文献2】特開2010-37256号公報
【特許文献3】特開2015-151400号公報
【特許文献4】特開2006-104316号公報
【特許文献5】特開昭63-179884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来のスクロース脂肪酸エステル(FASuc)等の糖脂肪酸エステルの製造方法に関し、上記のような様々な問題点を解決し、石鹸が副生しない、触媒と生成物との分離が容易である等の利点を有し、温和な条件下での簡便な操作によって、好ましくは流通系での効率的な合成も可能となる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、陰イオン交換体を触媒として用い、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
即ち、本発明は、以下の各態様にかかるものである。
[態様1]
脂肪酸エステルと糖類とのエステル交換反応を用いて糖脂肪酸エステルを製造する方法であって、触媒として陰イオン交換体を用いる前記方法。
[態様2]
前記陰イオン交換体が、実質的に予め糖類が吸着された陰イオン交換体である態様1に記載の方法。
[態様3]
糖類を陰イオン交換体へ吸着させる吸着工程、次いで、吸着工程により糖類が吸着した陰イオン交換体を用いて糖脂肪酸エステルを合成させる合成工程を含む、態様2に記載の方法。
[態様4]
前記吸着工程が、糖類を含む反応液を陰イオン交換体に供給することにより糖類を陰イオン交換体へ吸着させることを特徴とする態様3に記載の方法。
[態様5]
前記合成工程が、前記吸着工程により糖類が吸着した陰イオン交換体に脂肪酸エステルを含む反応液を供給させることにより糖脂肪酸エステルを合成させることを特徴とする態様3または4に記載の方法。
[態様6]
前記脂肪酸エステルを含む反応液は、更に糖類を含むことを特徴とする態様5に記載の方法。
[態様7]
前記合成工程で使用する反応液に於ける脂肪酸エステルと糖類のモル濃度比が1:0.5~1:5である、態様6記載の方法。
[態様8]
陰イオン交換体が、強塩基性陰イオン交換樹脂である態様1~7のいずれか一項に記載の方法。
[態様9]
脂肪酸エステルが、炭素数1~30の脂肪酸と炭素数1~8の低級アルコールから成るエステルである、態様1~8のいずれか一項に記載の方法。
[態様10]
糖類が、単糖類、二糖類、及び、多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、態様1~9のいずれか一項に記載の方法。
[態様11]
脂肪酸エステルがオレイン酸メチルであり、糖類がスクロースである、態様1~8のいずれか一項に記載の方法。
[態様12]
態様1~11のいずれか一項に記載の方法で製造された糖脂肪酸エステルを含む組成物。
[態様13]
糖脂肪酸エステルの80質量%以上がモノ体であることを特徴とする、態様12記載の組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明方法によって、上記の従来技術に於ける問題点を解決し、温和な条件下での簡便な操作によって糖脂肪酸エステルを高収率で得ることが出来る。更に、生成物として得られる糖脂肪酸エステルに関して、従来の製造法では、脂肪酸エステルを多く入れるため、1つの糖に複数の脂肪酸が付加したジ、トリ体ができてしまうことが問題であったが、本発明方法では、製造される糖脂肪酸エステルのほぼ全て、例えば、糖脂肪酸エステルの80質量%以上、好ましくは95質量%以上がモノ体である、という利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1~5と比較例1の実験結果を示す。
【図2-1】実施例6の結果を示す。
【図2-2】実施例7の結果を示す。
【図2-3】実施例8の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、脂肪酸エステルと糖類とのエステル交換反応を用いて糖脂肪酸エステルを製造する方法であって、触媒として陰イオン交換体を用いることを特徴とする前記方法に関する。

【0018】
陰イオン交換体としては、例えば、当業者に公知の陰イオン交換樹脂、好ましくは、不溶性担体に第三級アミンを化学結合してなる第四級アンモニウム基を有する陰イオン交換体である強塩基性陰イオン交換樹脂を用いることが出来る。このような強塩基性陰イオン交換樹脂は、例えば、官能基のpKa>11、好ましくは、pKa>13を有する。

【0019】
このような強塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、ダイヤイオンPA-306(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA-306S(同)、ダイヤイオンPA-308(同)、ダイヤイオンHPA-25(同)及びダウエックス1-X2(ダウケミカル社製)等を挙げることができる。

【0020】
因みに、強塩基性陰イオン交換樹脂は、購入時では塩化物形となっているため水酸化物形に再生してから本発明に使用される。例えば、再生剤には0.5~2モル/dm3の水酸化ナトリウム溶液が用いられ、再生剤の通液速度は、陰イオン交換樹脂1mL当たり、2~10mL-NaOH/分程度が好ましい。通液量はアニオン交換樹脂1mL当たり5~20mL使用される。再生終了後、再生剤が残留しないように充分洗浄し、最後に反応の溶媒で膨潤化させた後、本発明に使用することができる。

【0021】
尚、陰イオン交換樹脂を架橋度又は多孔度から分類した場合、ゲル型、ポーラス型、ハイポーラス型等が挙げられる。又、強塩基性陰イオン交換樹脂官能基としては、例えば、トリメチルアミン基、ジメチルエタノールアンモニウム基、N-アルキル-N,N-ジアルカノールアミン基、及びトリアルカノールアミン基などが挙げられる。

【0022】
また、陰イオン交換体は、不溶性担体として樹脂骨格が種々の化学構造を有するものを使用できる。具体的には、例えば、ジビニルベンゼン等で架橋されたポリスチレン、及びポリアクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル、フェノール樹脂等の合成高分子や、セルロース等の天然に生産される多糖類の架橋体等が挙げられる。中でも合成高分子が好ましく、架橋ポリスチレンが更に好ましい。架橋の程度(度合)はモノマー全量に対するジビニルベンゼンの使用量で左右され、例えば、1~10質量%の範囲から選択される。その際、架橋度が低いほど分子サイズの大きな反応物が内部に拡散しやすくなるが、官能基濃度が小さくなるため、エステル交換反応の高い触媒活性を発現するには最適値が存在する。

【0023】
本発明方法に於いて反応物(供給原料)として用いる脂肪酸エステル及び糖類は、本発明方法の目的生成物である糖脂肪酸エステルの種類・使用目的等に応じて、当業者に公知の任意の化合物から選択することが出来る。更に、それら化合物は、当業者に公知の任意の方法で調製されるか、又は、市販されている各種の脂肪酸エステル及び糖類を用いることも出来る。

【0024】
例えば、炭素数1~8、好ましくは、炭素数1~5の直鎖又は分岐鎖の炭化水素骨格を有する低級アルコールと、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、べヘニン酸、及びエルカ酸等の炭素数1~30の脂肪酸から成る脂肪酸エステルを用いることが出来る。

【0025】
更に、糖類としては、単糖類、スクロース等の二糖類、及び、多糖類から選択される一つ又はそれ以上の糖類を用いることが出来る。

【0026】
従って、本発明方法に於いて用いる脂肪酸エステルの具体例として、例えば、以下の実施例で使用されている、オレイン酸メチル、及び、糖の具体例としてスクロース等を挙げることが出来る。

【0027】
本発明方法に於いては、親油性の脂肪酸エステルと親水性の糖類は極性が大きく異なり混和し難いため、例えば、両親媒性を持つ、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エチルメチルケトン、酢酸エチル、2-プロパノール、プロピレングリコール、メタノール、エタノール、及び、2-メチル-1-プロパノール等の当業者に公知の溶媒系で陰イオン交換体と反応させることが出来る。

【0028】
以下の実施例に示されるように、糖が充分に存在しない状態で脂肪酸エステルが陰イオン交換体の活性部位OH基と接触した場合には、脂肪酸エステルの脂肪酸残基と陰イオン交換体のOH基との間のイオン交換反応によって陰イオン交換体の触媒活性が消失してしまい、その後、糖類が陰イオン交換体に取り込まれても脂肪酸エステルとの間でエステル交換反応が効率的に生じないことが判った。

【0029】
このような反応は、本発明者等の独自発想で開発した陰イオン交換体を触媒とした脂肪酸エステル連続合成技術(特許文献4)等に於いては全く生じなかったため、従来技術からは予測不能な課題であった。

【0030】
本発明方法に於いては、このような技術的課題を解決するために、実質的に糖類が予め吸着された陰イオン交換体を用いることが好ましい。例えば、(第一工程)糖類の吸着工程:脂肪酸エステルと糖類とのエステル交換反応に先立ち、陰イオン交換体に実質的に糖類を吸着させる工程、及び、その後、(第二工程)糖脂肪酸エステルの合成工程:第一工程で得られた陰イオン交換体を用いて脂肪酸エステルと糖類とのエステル交換反応を行わせる工程、から成る2段階の工程によって実施することが好ましい。

【0031】
尚、本発明方法における各段階において、反応物と陰イオン交換体との接触方式については、バッチ法(回分系)、連続法(流通系)など、当業者に公知の任意の方式で行うことが出来る。装置の形態としては、処理槽を設けたもの、循環系や向流系で樹脂移送するものなどが挙げられる。接触方法としては、流通(イオン交換樹脂の充填層に通液する方法)、撹拌(撹拌槽を用いる方法)、流動(流動層反応器)、振とう(振とう型反応器)などが挙げられる。供給原料の導入口、生成物質の回収口が一定のカラム通液型、展開床(エクスパンデッドベッドカラム)の他、回分型を用いることもできる。

【0032】
ただし、回分系では、反応の進行に伴い反応物濃度が減少するため、糖類濃度を高く維持し続けることが困難な場合は、反応物を必要に応じて追添することができる。一方、樹脂を充填した反応器を用いた連続法(流通系)では、高い糖類濃度を維持し続けることによって、目的の糖エステル合成反応を優先的に進行させることが出来るので、好適である。

【0033】
上記の連続法(流通系)を用いて本発明方法を実施する場合は、第一工程として、糖類を含む反応液を陰イオン交換体に供給して糖類の吸着工程を実施し、次に、第二工程として、該陰イオン交換体に、脂肪酸エステルのみ、又は、脂肪酸エステルと糖類とを含む反応液を供給してそれらの間のエステル交換反応による糖脂肪酸エステルの合成工程を実施することが好ましい。特に、第二工程の間、触媒である陰イオン交換体内の糖類を高濃度に維持するように、脂肪酸エステルと糖類とを含む反応液を供給し、且つ、該反応液に於ける糖類濃度を高くすることが好ましい。

【0034】
第二工程(合成工程)で使用する糖類濃度は、例えば、反応液中、脂肪酸エステルに対する糖類のモル濃度比が1:0.5~1:5の範囲であることが好ましく、1:0.5~1:3の範囲であることがより好ましい。糖類の濃度比が0.5未満の場合、前述のように、陰イオン交換体の触媒活性が消失してしまい、その後、糖類が陰イオン交換体に取り込まれても脂肪酸エステルとの間でエステル交換反応が効率的に生じないことがある。一方、糖類の濃度比が5を超える場合は、反応液の濃度が高くなり過ぎ、またコスト高となって生産性の点で好ましくない。また、糖類を過剰に入れすぎると、製品から糖類を除去する操作が必要となるため、生産性が悪くなる。

【0035】
本発明方法における所望の目的を達成する為に、上記二工程の操作を任意の生産プロセスと組み合わせても良い。例えば、目的生成物である糖脂肪酸エステルをその他の生成物であるアルコール及びその他の不純物等から分離・精製する工程を更に含むことが出来る。即ち、本発明の陰イオン交換体を触媒として用いた糖脂肪酸エステルを製造する方法では、脂肪酸エステルと糖類とのエステル交換反応を実施した後に得られる組成物は、溶媒中に生成物である糖脂肪酸エステルと、未反応の反応物である糖類や脂肪酸エステルとが含まれた組成物、あるいは更にアルコール体等が含まれた組成物であり、これら組成物から生成物である糖脂肪酸エステルを精製する為に、抽出工程と水洗工程を所望の回数を繰り返して行い、抽出液から抽出溶媒を留去後乾燥して、溶媒を含まない生成物を含む混合物を得ることができる。この生成物を含む混合物から、当業者に公知の任意の手段・方法、例えば、蒸留工程、膜分離工程、分取液体クロマト分離工程等を組み込んで高純度な糖脂肪酸エステルを得ることが出来る。

【0036】
また、本発明の製造方法で得られる組成物には、、前述のように、糖脂肪酸エステル以外に、未反応の反応物が含まれる。該組成物中の糖脂肪酸エステルの純度は、モル分率が100%未満であって、好ましくは0.01~99%の範囲でもよく、またより好ましくは0.1~90%の範囲であってもよく、また1~70%の範囲であってもよく、所望の純度に高める為に、更に公知な高純度化処理を実施することができる。又、前記組成物は、その中に含まれる糖脂肪酸エステルの80質量%以上、好ましくは、90~99.9質量%がモノ体であることが好ましい。なお、これらの組成物中の各成分は、公知な液体クロマトグラフィ等の分析装置で分析することができる。

【0037】
更に、本発明方法を流通系で実施する場合において、陰イオン交換樹脂を充填層として使用することによって、繰り返し同じ反応に利用できるが、適宜、樹脂を再生することが好ましい。その場合、公知の方法に従い、再生処理を行う。例えば、遊離脂肪酸との混和性を持つ溶媒を用いた酸溶液で処理して官能基を酸基で置換した後、アルカリ溶液で処理して官能基をOH基に置換、その後、反応溶媒で膨潤化を行う。再生処理の目的は、樹脂の官能基を触媒活性(OH)基に置換することであるが、樹脂の官能基が脂肪酸型となっている可能性があるため、直接アルカリ溶液で処理すると石鹸生成が生じて置換が上手く進まない。酸溶液による処理は、この石鹸生成の回避等、効率的なOH基への置換のために必要である。酸としては、蟻酸、酢酸、クエン酸などの有機酸を使用することができる。

【0038】
本発明の方法におけるその他の条件・手段、例えば、各反応物のモル濃度及びモル比、陰イオン交換体の使用量、陰イオン交換体と反応物との量比、反応系の温度・圧力、及び反応時間等は、使用する各反応物及び陰イオン交換体の種類等を考慮して、当業者に公知の任意の中から適宜選択することができる。例えば、各工程の反応時間は反応温度、陰イオン交換体の使用量等に応じて当業者が適宜設定することが出来る。反応は通常、20~100℃、好ましくは、30~ 70℃で実施する。尚、反応圧力は特に制限ない。常圧下で実施するのが操作上簡便であるが、必要に応じて1~10気圧程度に加圧、あるいは、0.002~1気圧程度に減圧してもよい。

【0039】
本発明は、上記の方法を実施するための装置、例えば、所定の陰イオン交換体を充填した容器(反応器)の一方に反応物の導入口を、他方に、生成物の回収口をそれぞれ有する1つ又は複数の反応器から成る反応装置にも関する。前記容器は、単独に有していてもよいが、並列および/または直列に、複数個接続されている構造を有していてもよい。また、前記容器の形状は特に限定はないが、通常、カラムが用いられる。陰イオン交換樹脂をカラムに充填して使用する場合、樹脂が膨潤して破損することを防止するため、空隙率の高いエクスパンデッドベッドカラム充填層を用いる態様は好ましい。ここで、エクスパンデッドベッドカラムとは、粘度の高い流体や固形分を含んだ流体中から溶解している目的成分を吸着剤粒子に吸着させて回収する分離精製法に用いられ、カラム内を上向きに流体を流し、比重の大きい吸着剤粒子を静止状態で浮遊させ、空隙率を大きく保った状態でカラムクロマトグラフィー操作を行うもの等をいい、例えば、化学工学論文集第27巻第2号(2001)第145-148頁等に記載される公知の方法を用いることができる。従って、本発明はこのような本発明方法を実施するための装置にも係る。尚、本発明方法では、例えば、密度が1よりも大きい溶液や粘性の高い溶液を反応液として用いる場合、偏流を防いで効率的に反応を進めるため、上昇流を用いることが好ましい。

【0040】
以下、実施例に則して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。尚、以下の実施例において特に断わりがない限り、当業者に公知の一般的な方法に従い実施した。
【実施例1】
【0041】
回分系における糖脂肪酸エステル合成
[実験方法と条件]
反応物には、脂肪酸エステルとしてオレイン酸メチル(OAMe)、及び、糖としてスクロース(Suc)を用いた。したがって、本実験では反応式(1)より、スクロースオレイン酸エステル(OASuc)が生成する。

【化1】
JP2018038103A1_000003t.gif
【実施例1】
【0042】
溶媒には、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた。樹脂触媒には、市販の多孔性の強塩基性陰イオン交換樹脂、DiaionPA306S(三菱化学社製)を用いた。
【実施例1】
【0043】
陰イオン交換樹脂は、工場出荷時は官能基が不活性なCl型で水膨潤状態である。そのため、不活性Cl型から活性OH型への官能基置換と溶媒膨潤化を行う活性化処理が必要となる。この処理は、本発明者等によって既に構築した樹脂の繰り返し利用のための再生処理法に従い行った。
【実施例1】
【0044】
各実験に於いて、SucとOAMeを以下の表1に示した濃度になるようにそれぞれ計量し、DMSO中に溶解させるために60℃の恒温槽中で振盪した。そして、樹脂触媒を、反応溶液に対して湿重量で20質量%となるように投入し、同じ温度で十分に振盪しながら24h反応を行った。その際、樹脂への反応物吸着の影響を検討するため、まず、反応物の一方を樹脂に吸着させた後、もう一方を加えて反応を行う実験、並びに、同時に2つの反応物を加えて行う実験を行った。
【実施例1】
【0045】
実施例1乃至3は先に0.1~0.3mol/dmのSucを樹脂触媒に吸着させた条件、実施例4は先に0.1mol/dmのOAMeを樹脂触媒に吸着させた条件、実施例5は同時に2つの反応物を樹脂触媒に加えた(すなわちSucまたはOAMeのいずれか一方を先に樹脂触媒に吸着させる操作を行わない)条件である。比較のため、同時に2つの反応物を加えた条件で、樹脂触媒の代わりに従来の均相触媒NaCOを 2.2質量%添加した実験(比較例1)も同様に行った。これらの実験条件を表1に示す。
尚、各実験では、所定時間毎に反応液を少量採取し、OASuc等の各生成物の濃度を、蒸発光散乱検出器を備えた液体クロマトグラフィを用いて測定した。
【実施例1】
【0046】
[結果]
図1に、実施例1~5と比較例1の実験結果を示す。また、表1に、実施例1~5と比較例1に於ける生成物の、最大OASuc濃度、最大OASuc濃度に達した反応時間、およびその際の最大OASuc収率を示す。先にOAMeを樹脂触媒に吸着させた実施例4、及び、吸着操作なしに2つの反応物を同時に投入した実施例5では、24h反応後でも生成物濃度は検出限界以下、つまりほとんど生成しなかった。これに対し、先にSucを樹脂触媒に吸着させた実施例1乃至3では、実施例4および5に比して生成物が検出され、先に樹脂触媒に吸着させるSuc濃度に応じて生成物OASuc濃度が高くなった。特に実施例3では3h反応後に生成物OASuc濃度が最大となり、その時のOASuc収率(最大OASuc収率)は12%となり、従来の均相アルカリ触媒を用いた比較例1で24h反応後に得られた収率(10%)と同等以上となった。これより、高濃度のSucを先に樹脂触媒に入れた場合、OASucの高収率の生成が観察され、また、その生成速度は、均相触媒の場合よりも大きいことが分かった。ただし、反応後期では、OASucの濃度が減少していることからOASucの分解反応が進行している可能性がある。従って、生成物OASuc濃度を最大とする適切な反応時間が存在すると考えられる。また、得られたOASucは95質量%以上がモノ体であった。
ここで、OASuc収率は、「(OASuc濃度/投入OAMe濃度)×100」で定義される。
【実施例1】
【0047】
【表1】
JP2018038103A1_000004t.gif
【実施例1】
【0048】
流通系における糖脂肪酸エステル合成
[実験方法と条件]
反応系を前述の回分系から流通系(連続式)に変えた以外は、反応物、溶媒、樹脂触媒の投入量は、実施例3と同様とした。但し、実験装置は、反応液タンクと送液ポンプ、恒温ジャケット付カラム型反応器、恒温槽からなる。供給溶液タンクは恒温槽中に設置し60℃に保持した。カラムには樹脂触媒22g(湿重量)を充填した。そして、回分系と同様の手順で樹脂触媒の活性化処理を行った。
【実施例1】
【0049】
流通系での実験は、樹脂触媒への糖の吸着操作とエステル合成操作の2工程のプロセスで行った。まず、吸着操作では、所定濃度のSucのDMSO溶液を、ポンプを用いて、60℃に保持した樹脂触媒充填カラムの底部から上部に向かって上昇流で供給、破過するまで流して、陰イオン交換樹脂にSucを吸着させた。その際、Sucの濃度は実施例3と同じ0.3mol/dmとし、供給速度を1.0cm/minとした。合成操作では、実施例1~5と同じ濃度(0.1mol/dm)のOAMeだけを溶解させたDMSO溶液のみを0.2cm/minで同様にカラム底部から供給した(実施例6)。この流量での樹脂充填層内の滞在時間を計算すると1.5hであった。また、別の合成操作として、実施例1~5と同じ濃度(0.1mol/dm)のOAMeと所定濃度(0.12または0.23mol/dm)のSucを共に溶解させたDMSO溶液を同様に供給した実験も行った(実施例7、8)。これらの実験条件をあわせて図2-1~図2-3および表2に示す。
【実施例1】
【0050】
【表2】
JP2018038103A1_000005t.gif
【実施例1】
【0051】
[結果]
合成工程でOAMeのみを供給した実施例6では、流出液中のSuc濃度は飽和濃度から徐々に減少し、その一方で生成物OASuc濃度が一旦増加し最大値を取った後、徐々に低下した。得られたOASuc濃度の最大値とその際のOASuc基準の収率を表2に記載した。また、合成工程でOAMeとSucを共に供給した実施例7および8では、流出液中のOASuc濃度は徐々に増加して一定となる傾向を示した。得られた定常濃度とその際の収率を表2に示した。
【実施例1】
【0052】
特に、実施例8において、流出液中の生成物であるOASuc濃度が一定となった時点では、OASuc濃度は0.051mol/dmであり、流出液中の反応物であるSuc濃度は0.19mol/dmであり、OAMe濃度は0.031mol/dmであったことから、流出液中でのOASuc濃度は反応物と生成物の全モル中(0.272mol/dm)、18.8%(モル分率)であった。これは、OASuc収率を投入したOAMe濃度の0.1mol/dmを基準にすると、収率51%となる。この条件では、収率が100%になる時は流出液中でのOASuc濃度のモル分率は36.8%になる。これより、カラム内Suc濃度を高く維持することで、滞在時間1.5hという短い時間で効率的なFASuc合成が可能であった。また、得られたOASucは95質量%以上がモノ体であった。
【実施例1】
【0053】
以上の結果から、本発明方法によって、反応温度60℃及び大気圧下という穏和な条件で、収率51%と従来法よりもはるかに効率的なFASuc合成が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、スクロース脂肪酸エステル等の様々な用途を有する糖脂肪酸エステルの合成方法の開発において、新たな可能性を提供するものである。
図面
【図1】
0
【図2-1】
1
【図2-2】
2
【図2-3】
3