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明細書 :遺伝子ノックイン細胞の作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 令和元年6月6日(2019.6.6)
発明の名称または考案の名称 遺伝子ノックイン細胞の作製方法
国際特許分類 C12N  15/00        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2018.01)
C12Q   1/6811      (2018.01)
C12Q   1/6853      (2018.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12Q   1/686       (2018.01)
C12Q   1/6876      (2018.01)
FI C12N 15/00
C12N 5/10 ZNA
C12N 15/09 110
C12Q 1/68 100Z
C12Q 1/6811 Z
C12Q 1/6853 Z
A01K 67/027
C12Q 1/686 Z
C12Q 1/6876 Z
国際予備審査の請求
全頁数 27
出願番号 特願2018-532953 (P2018-532953)
国際出願番号 PCT/JP2017/027838
国際公開番号 WO2018/030208
国際出願日 平成29年8月1日(2017.8.1)
国際公開日 平成30年2月15日(2018.2.15)
優先権出願番号 2016157484
優先日 平成28年8月10日(2016.8.10)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JO , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT
発明者または考案者 【氏名】相田 知海
【氏名】田中 光一
出願人 【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001047、【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4B065
Fターム 4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
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4B063QR35
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4B063QS16
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4B063QS34
4B063QX01
4B065AA87X
4B065AA87Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA91X
4B065AA91Y
4B065AB01
4B065BA01
4B065BA04
4B065CA44
4B065CA46
要約 タンパク質の形態のヌクレアーゼ及びDNA標的化RNAを含むゲノム編集システムを利用して、一本鎖DNAをドナーとして、ノックイン動物の作製を試みたところ、極めて高い効率で、ドナーDNAがノックインされた細胞が得られることを見出した。
特許請求の範囲 【請求項1】
所望のDNAが標的DNA領域に挿入された細胞の作製方法であって、
(a)ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質、
(b)標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列及び(a)のタンパク質と相互作用する塩基配列を含むDNA標的化RNA、及び
(c)所望のDNAを含む一本鎖ドナーDNA
を細胞に導入する工程を含む方法。
【請求項2】
所望のDNAが標的DNA領域に挿入された細胞の作製方法であって、
(a)Cas9タンパク質、
(b)crRNA断片とtracrRNA断片の組み合わせ、及び
(c)所望のDNAを含む一本鎖ドナーDNA
を細胞に導入する工程を含む方法。
【請求項3】
(c)の一本鎖ドナーDNAが600塩基以上の塩基配列を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(c)の一本鎖ドナーDNAが、次の(i)又は(ii)の方法で調製される、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
(i)量の異なる一対のプライマーを用いたPCRによりDNAを増幅する工程、及び増幅産物に含まれる二本鎖DNAを特異的に分解する工程を含む方法
(ii)一対のプライマーのうち、一方のプライマーにリン酸化されたプライマーを用いるPCRによりDNAを増幅する工程、及び増幅産物におけるリン酸化された鎖を特異的に分解する工程を含む方法
【請求項5】
細胞が卵母細胞である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
卵母細胞が受精卵である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
所望のDNAが標的DNA領域に挿入された細胞を含む非ヒト個体の作製方法であって、
(a)請求項1~6のいずれか1項に記載の方法を実施する工程、及び
(b)工程(a)により得られた細胞から非ヒト個体を作製する工程、
を含む方法。
【請求項8】
非ヒト哺乳動物がげっ歯類である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法に用いるためのキットであって、以下の(a)から(c)からなる群より選択される少なくとも1の分子を含むキット。
(a)ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質
(b)標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列及び(a)のタンパク質と相互作用する塩基配列を含むDNA標的化RNA
(c)所望のDNAを含む一本鎖ドナーDNA
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、CRISPR-Cas9システムなどのゲノム編集技術を利用して、高効率で遺伝子ノックイン細胞を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子ターゲティング(ノックアウト又はノックイン)哺乳動物は、in vivoにおける遺伝子機能を解析する上で重要なツールとなっているが、その製造は胚性幹細胞(ES細胞)を利用する複雑かつ手間のかかる工程を要するものとなっている。
【0003】
これまでに、ZFN、TALEN、CRISPR-Cas9などのゲノム編集技術が開発され、遺伝子改変のための有用なツールとして注目されている。
【0004】
これらゲノム編集技術のうち、現在最も利用されているCRISPR-Cas9システムは、細菌の獲得免疫機構を基盤とし、二本鎖DNA切断酵素であるCas9タンパク質と、標的DNA領域と相補的な塩基配列を有するRNA(crRNA)と、crRNAと一部相補的な塩基配列を有するRNA(trans-activationg RNA;tracrRNA)からなる複合体が、標的DNA領域を特異的に認識・結合し、切断する。
【0005】
このシステムを利用して、Cas9タンパク質をコードするRNA、ならびにcrRNA及びtracrRNA(これら2つのRNAがリンカーヌクレオチドを介して結合している一本鎖キメラRNAの形態の場合を含む)を受精卵に導入し、受精卵のゲノムをin vivoにて直接的に操作し(in vivoゲノム改変)、ES細胞を介することなく、遺伝子ターゲティング哺乳動物を製造することができる(特許文献1、非特許文献1)。今日までに、この手法によりノックアウトマウスの製造(特許文献2、非特許文献2-4)や、一塩基置換を伴うノックインマウスの製造(非特許文献3,5,6)が多数行われている。
【0006】
しかしながら、CRISPR-Cas9システムを用いて比較的大きなサイズの遺伝子を挿入したノックイン哺乳動物を製造する場合、遺伝子のノックイン効率が非常に低いことが問題となっている(非特許文献7)。
【0007】
そこで、Cas9タンパク質(RNAではなく、タンパク質の形態)、crRNA断片、及びtracrRNA断片からなるクローニングフリーのCRISPR-Cas9システムを利用して、比較的大きなサイズの二本鎖DNAをドナーとして、高効率で非ヒト哺乳動物にノックインする方法が開発された(特許文献3)。この方法では、主として、ドナーDNAがヘテロでノックインされた哺乳動物を作製することができる(後述の比較例2を参照のこと)。
【0008】
その一方、従来のCRISPR-Cas9システムを利用して、一本鎖DNAをドナーとして、高効率で非ヒト哺乳動物にノックインする方法も開発されている(非特許文献8)。この方法では、ドナーDNAがホモでノックインされた哺乳動物を得ることに成功している。
【0009】
なお、最近になり、新たなゲノム編集技術として、CRISPR-cpf1システムが開発された(非特許文献9)。このシステムも、CRISPR-Cas9システムと同様、ガイドRNA及びそれと相互作用するヌクレアーゼを利用したゲノム編集技術であり、CRISPR-Cas9システムと同様の利用が期待されている。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】WO2014/131833
【特許文献2】WO2013/188522
【特許文献3】WO2016/080097
【0011】

【非特許文献1】Aida,T.ら、Dev.Growth Differ.56,34-45,194(2014).
【非特許文献2】Shen,B.ら、Cell Res.23 720-3(2013).
【非特許文献3】Wang,H.ら、Cell 153,910-8(2013).
【非特許文献4】Li,D.ら、Nat.Biotechnol.31,681-3(2013).
【非特許文献5】Long,C.ら、Science 345,1184-8(2014).
【非特許文献6】Wu,Y.ら、Cell Stem Cell 13,659-62(2013).
【非特許文献7】Yang,H.ら、Cell 154,1370-9(2013).
【非特許文献8】Miura,H.ら、Sci. Rep. 5,12799(2015)
【非特許文献9】Zetsche,B.ら、Cell 163(3),759-71(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来法よりも飛躍的に高い効率でドナーDNAを細胞にノックインしうる方法であって、かつ、ドナーDNAをホモでノックインしうる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、Cas9タンパク質(RNAではなく、タンパク質の形態)、crRNA断片、及びtracrRNA断片からなるCRISPR-Cas9システムを利用して、長鎖一本鎖DNAをドナーとして、ノックイン動物の作製を試みたところ、驚くべきことに、検証した範囲において80%の効率で、ドナーDNAがノックインされた動物が得られることを見出した(後述の実施例1)。これは、上記の特許文献3の方法と比較しても、飛躍的に高い効率であった。しかも、本発明の方法によれば、特許文献3の方法では得ることが困難な、ホモでドナーDNAがノックインされた個体を作製することができた。
【0014】
また、一般にドナーDNAは長鎖になればなるほどノックイン個体を作製することが困難となるが、本発明の方法では、非特許文献8の方法よりも長鎖の一本鎖DNA(600bp以上)を用いた場合でも、高い効率でノックイン個体を作製することができた。非特許文献8の方法では、296~514bpの一本鎖DNAをドナーとして用いているが、本発明と同様の条件(600bp以上の一本鎖DNA)で検証を行ったところ、ノックインの効率は極めて低かったことに鑑みれば(後述の比較例1)、本発明の方法は、特に長鎖の一本鎖DNAを用いた場合に、従来法と比較したノックインの効率の差がより顕著となると考えられる。
【0015】
また、本発明者は、本発明に用いる長鎖の一本鎖ドナーDNAが、非対称PCRや片側リン酸化PCRと特異的DNA分解酵素との組み合わせにより、その鎖長に制限なく、ワンチューブ反応で短時間で調製しうることを見出した。
【0016】
さらに、本発明者は、その原理から、ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質とガイドRNAを含むゲノム編集システムであれば、CRISPR-Cas9システム以外のシステムであっても本発明を広く応用できること、また、ノックイン動物の作製目的で受精卵にドナーDNAをノックインする以外にも、様々な目的で広く細胞のノックインに応用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
従って、本発明は以下を提供するものである。
【0018】
[1]所望のDNAが標的DNA領域に挿入された細胞の作製方法であって、
(a)ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質、
(b)標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列及び(a)のタンパク質と相互作用する塩基配列を含むDNA標的化RNA、及び
(c)所望のDNAを含む一本鎖ドナーDNA
を細胞に導入する工程を含む方法。
【0019】
[2]所望のDNAが標的DNA領域に挿入された細胞の作製方法であって、
(a)Cas9タンパク質、
(b)crRNA断片とtracrRNA断片の組み合わせ、及び
(c)所望のDNAを含む一本鎖ドナーDNA
を細胞に導入する工程を含む方法。
【0020】
[3](c)の一本鎖ドナーDNAが600塩基以上の塩基配列を有する、[1]又は[2]に記載の方法。
【0021】
[4](c)の一本鎖ドナーDNAが、次の(i)又は(ii)の方法で調製される、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
(i)量の異なる一対のプライマーを用いたPCRによりDNAを増幅する工程、及び増幅産物に含まれる二本鎖DNAを特異的に分解する工程を含む方法
(ii)一対のプライマーのうち、一方のプライマーにリン酸化されたプライマーを用いるPCRによりDNAを増幅する工程、及び増幅産物におけるリン酸化された鎖を特異的に分解する工程を含む方法
[5]細胞が卵母細胞である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
【0022】
[6]卵母細胞が受精卵である、[5]に記載の方法。
【0023】
[7]所望のDNAが標的DNA領域に挿入された細胞を含む非ヒト個体の作製方法であって、
(a)[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法を実施する工程、及び
(b)工程(a)により得られた細胞から非ヒト個体を作製する工程、
を含む方法。
【0024】
[8]非ヒト哺乳動物がげっ歯類である、[7]に記載の方法。
【0025】
[9][1]~[8]のいずれか1項に記載の方法に用いるためのキットであって、以下の(a)から(c)からなる群より選択される少なくとも1の分子を含むキット。
(a)ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質
(b)標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列及び(a)のタンパク質と相互作用する塩基配列を含むDNA標的化RNA
(c)所望のDNAを含む一本鎖ドナーDNA
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ドナーDNAとして用いる一本鎖DNAが、たとえ、長鎖であっても、従来のゲノム編集技術と比較して、飛躍的に高い効率で細胞にノックインすることができる。しかも、ドナーDNAがホモでノックインされた細胞を得ることもできる。また、本発明に用いる一本鎖ドナーDNAは、非対称PCRなどを利用してワンチューブ反応で短時間で収率よく調製でき、調製する一本鎖DNAの鎖長にも特に制限はない。従って、このように調製された一本鎖ドナーDNAとクローニングフリーのゲノム編集システムとを組み合わせて用いる本発明は、ノックイン効率のみならず、簡便さにも優れたゲノム編集システムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】通常法(sgRNA+Cas9 mRNA)により、長鎖一本鎖ドナーDNA(floxCol12a1)をインジェクションして作製したマウスにおいて、ノックイン効率を検出した結果を示す電気泳動写真である。ノックインマウスではバンドサイズが高分子量にシフトしている(以下、同様)。
【図2】通常法(sgRNA+Cas9 mRNA)により、長鎖一本鎖ドナーDNA(Dct-Cre)をインジェクションして作製したマウスにおいて、ノックイン効率を検出した結果を示す電気泳動写真である。ノックインマウスではバンドサイズが高分子量にシフトしている。
【図3】クローニングフリーCRISPR/Casシステム(crRNA+tracrRNA+Cas9タンパク質)により、環状二本鎖ドナーDNA(floxCol12a1)をインジェクションして作製したマウスにおいて、ノックイン効率を検出した結果を示す電気泳動写真である。
【図4】クローニングフリーCRISPR/Casシステム(crRNA+tracrRNA+Cas9タンパク質)により、長鎖一本鎖ドナーDNA(floxCol12a1)をインジェクションして作製したマウスにおいて、ノックイン効率を検出した結果を示す電気泳動写真である。
【図5】産仔の数を増やして、図4と同様の実験を行った結果を示す電気泳動写真である。なお、レーン4(産仔3)は、解析不能であった。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、所望のDNAが標的DNA領域に挿入された細胞の作製方法を提供する。本発明の方法においては、以下の(a)~(c)の分子を細胞に導入する工程を含む。

【0029】
(a)ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質
本発明において、「ヌクレアーゼ活性」とは、DNAを切断する触媒活性を意味する。典型的には、エンドヌクレアーゼ活性である。

【0030】
本発明における「ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質」は、後述するDNA標的化RNAに結合して標的DNA領域に標的化され、これにより部位特異的なヌクレアーゼ活性を発揮することができる限り、特に制限はない。このようなヌクレアーゼ活性を有するタンパク質としては、例えば、Cas9タンパク質やCpf1タンパク質が挙げられる。本発明においては、特に、Cas9タンパク質が好ましい。

【0031】
本発明においてCas9タンパク質は、CRISPR/Cas9システムにおいて使用できるものであればよく、crRNA断片及びtracrRNA断片と結合して複合体を形成し、標的DNA領域に標的化されて標的二本鎖DNAを切断する。種々の由来のCas9タンパク質は公知であり、WO2014/131833に例示されるものを利用することができる。好ましくは、Streptococcus pyogenes由来のCas9タンパク質(SpCas9)を利用する。Cas9タンパク質のアミノ酸配列及び塩基配列は公開されたデータベース、例えば、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)に登録されており(例えば、アクセッション番号:Q99ZW2.1等)、本発明においてはこれらを利用することができる。

【0032】
好ましくは本発明においてCas9タンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むか、当該アミノ酸配列からなるものを利用することができる。また、本発明においてCas9タンパク質には、天然型のアミノ酸配列に対して、1~複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列を含む変異体を用いることもできる。ここで「複数個」とは1~50個、好ましくは1~30個、さらに好ましくは1~10個である。さらに、本発明においてCas9タンパク質には、元のタンパク質の活性を保持する限り、配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、当該アミノ酸配列からなるポリペプチドも含む。アミノ酸配列の比較は公知の手法によって行うことができ、例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等を例えば、デフォルトの設定で用いて実施できる。

【0033】
このような変異体としては、例えば、触媒部位の1つに変異が導入されニッカーゼ活性を示すCas9タンパク質(nCasタンパク質)が挙げられる。nCasタンパク質を利用することにより、オフターゲット作用を減少させることができる。

【0034】
一方、Cpf1タンパク質は、CRISPR/Cpf1システムにおいて使用できるものであればよく、crRNA断片と結合して活性化し、標的二本鎖DNAを切断する。この作用において、tracrRNA断片は不要である。また、Cas9タンパク質は、標的二本鎖DNAを切断した結果、平滑末端を生じさせるのに対し、Cpf1タンパク質は突出末端を生じさせる点でも異なる。Cpf1タンパク質は公知であり、非特許文献9に例示されるものを利用することができる。好ましくは、Lachnospiraceae bacteriumあるいはAcidaminococcus sp.由来のCpf1タンパク質(LbCpf1、AsCpf1)を利用する。それらのアミノ酸配列は公開されたデータベース、例えば、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)に登録されている(例えば、アクセッション番号:WP_021736722、WP_035635841等)。

【0035】
例えば、本発明においてCpf1タンパク質は、配列番号6又は7で表されるアミノ酸配列を含むか、当該アミノ酸配列からなるものを利用することができる。また、天然型のアミノ酸配列に対して、1~複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列を含む変異体を用いることができる点は、Cas9タンパク質の場合と同様である。

【0036】
本発明においてヌクレアーゼ活性を有するタンパク質は、タンパク質の形態で利用される。当該タンパク質は、遺伝子組換え技術により得られた形質転換細胞又は微生物に産生させることを含む生物学的手法により製造されたものであってもよいし、慣用のペプチド合成法を用いて化学的に製造されたものであってもよい。あるいは、市販品を使用してもよい。

【0037】
(b)標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列及び(a)のタンパク質と相互作用する塩基配列を含むDNA標的化RNA
本発明のDNA標的化RNAは、標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列及び上記ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質と相互作用する塩基配列を含む。

【0038】
本発明において「標的DNA領域」とは、生物のゲノムDNA上、目的とする遺伝子改変を生じる部位を含む領域を意味し、通常、17~30塩基、好ましくは17~20塩基からなる領域である。当該領域は3’側にてPAM(proto-spacer adjacent motif)配列と隣接する領域より選択されることが好ましい。典型的には、標的DNAの部位特異的切断は、DNA標的化RNAと標的DNAの間の塩基対形成の相補性と、その3’側に存在するPAMの両方によって決定される位置で生じる。

【0039】
PAMは、本発明のヌクレアーゼ活性を有するタンパク質の種類や由来により異なるが、Cas9では、典型的には、「5’-NGG(Nは任意の塩基)-3’」であり、Cpf1では、典型的には、「5’-TTN(Nは任意の塩基)-3’」又は「5’-TTTN(Nは任意の塩基)-3’」である。なお、タンパク質を改変すること(例えば、変異の導入)により、PAM認識を改変することも可能である(Benjamin,P.ら、Nature 523,481-485(2015)、Hirano,S.ら、Molecular Cell 61, 886-894(2016))。これにより標的DNAの選択肢を拡大することができる。

【0040】
標的DNA領域を選択する方法として種々の方法が知られており、例えば、CRISPR Design Tool(http://crispr.mit.edu/)(マサチューセッツ工科大学)、E-CRISP(http://www.e-crisp.org/E-CRISP/)、Zifit Targeter(http://zifit.partners.org/ZiFiT/)(Zing Fingerコンソーシアム)、Cas9 design(http://cas9.cbi.pku.edu.cn/)(北京大学)、CRISPRdirect(http://crispr.dbcls.jp/)(東京大学)、CRISPR-P(http://cbi.hzau.edu.cn/crispr/)(華中農業大学)、Guide RNA Target Design Tool.(https://wwws.blueheronbio.com/external/tools/gRNASrc.jsp)(Blue Heron Biotech)などを利用して決定することができる。

【0041】
DNA標的化RNAは、ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質と相互作用する塩基配列(タンパク質結合セグメント)を含むことによって、ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質と複合体を形成する(すなわち、非共有結合性相互作用によって結合する)。また、DNA標的化RNAは、標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列(DNA標的化セグメント)を含むことによって、標的特異性を複合体に与える。このように、ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質は、それ自体がDNA標的化RNAのタンパク質結合セグメントと結合することによって標的DNA領域に誘導され、そして、その活性によって標的DNAを切断する。

【0042】
DNA標的化RNAは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、また通常用いられるRNA自動合成装置を利用して、化学的に合成することができる。

【0043】
DNA標的化RNAは、CRISPR/Cas9システムの場合には、crRNA断片とtracrRNA断片の組み合わせである。

【0044】
crRNA断片は少なくとも、標的DNA領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列とtracrRNA断片と相互作用可能な塩基配列を、5’側よりこの順で含んでなる。crRNA断片は、そのtracrRNA断片と相互作用可能な塩基配列において、tracrRNA断片と二重鎖RNAを形成し、形成された二重鎖RNAは、Cas9タンパク質と相互作用する。これによりCas9タンパク質が標的DNA領域にガイドされる。

【0045】
tracrRNA断片と相互作用可能な塩基配列とは、tracrRNA断片の一部の塩基配列と結合(ハイブリダイズ)可能な塩基配列を意味する。典型的には、少なくとも配列番号2で表される塩基配列を含む。好ましくはtracrRNA断片と相互作用可能な塩基配列は、配列番号3で表される塩基配列において5’末のグリシン「G」を1番目として以降の塩基については2番目、3番目、4番目...22番目と順次番号付けを行った場合、1番目から6番目の塩基からなる塩基配列と共に、7番目から22番目の領域より、7番目の塩基に隣接して選択される1又は連続する複数の塩基からなる塩基配列を含むか、当該塩基配列よりなる。好ましくは、1番目から10番目の塩基からなる塩基配列と共に、11番目から22番目の領域より、11番目の塩基に隣接して選択される1又は連続する複数の塩基からなる塩基配列を含むか、当該塩基配列よりなる。実際、本発明者は、tracrRNA断片と相互作用可能な塩基配列において、5’側の6塩基を有すれば、本発明のゲノム編集システムが切断活性を持ち、5’側の10塩基を有すれば、本発明のゲノム編集システムが優れた切断活性を持つことを見出している。

【0046】
また、本発明においてtracrRNA断片と相互作用可能な塩基配列には、上記塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下で結合する(ハイブリダイズする)塩基配列を有し、かつtracrRNA断片と相互作用可能なオリゴヌクレオチドも含まれる。「ストリンジェントな条件」とは、例えば、0.7~1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍濃度のSSC(Saline Sodium Citrate;150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)溶液を用いて、65℃で洗浄することを意味する(以下においても、同じ意味で使用する)。このようなオリゴヌクレオチドには、上記塩基配列において数塩基の付加、置換、欠失又は挿入を有する塩基配列からなるオリゴヌクレオチドや(ここで「数塩基」とは、3塩基以内、又は2塩基以内の塩基数を意味する)、上記塩基配列と、BLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなるオリゴヌクレオチド等が含まれ得る。このようなオリゴヌクレオチドのことを本明細書においては、上記塩基配列の「変異配列」と記載する場合がある。

【0047】
crRNA断片は、上記標的DNA領域の塩基配列と相補的な塩基配列と上記tracrRNA断片と相互作用可能な塩基配列を含み、全体として、好ましくは42塩基以下、39塩基以下、又は36塩基以下、あるいは30塩基以上、36塩基以上、又は39塩基以上、例えば、30~42塩基、より詳細には30塩基、31塩基、32塩基、33塩基、34塩基、35塩基、36塩基、37塩基、38塩基、39塩基、40塩基、41塩基又は42塩基とすることができる。

【0048】
なお、DNA標的化RNAは、CRISPR/Cpf1システムの場合には、crRNA断片を意味し、tracrRNA断片は不要である。crRNA断片がCpf1タンパク質と相互作用することにより、Cpf1タンパク質が標的DNA領域にガイドされる。crRNA断片において、Cpf1タンパク質と相互作用する塩基配列(タンパク質結合セグメント)については、非特許文献9に開示されている。

【0049】
複数のDNA領域を標的とするために、また、同一DNA領域において複数箇所を標的とするために、複数種のDNA標的化RNAを用いることができる。複数種のDNA標的化RNAは、同時に細胞に導入されても良いし、連続的に導入されてもよい。nCasタンパク質を利用する場合には、例えば、標的DNA領域の二本鎖における各鎖に対して、それぞれ一箇所(合計2箇所)を標的とした、複数種のDNA標的化RNAを用いることができる。

【0050】
本発明においてtracrRNA断片は、5’側にcrRNA断片の一部の塩基配列と結合(ハイブリダイズ)可能な塩基配列を有する。これら塩基配列の相互作用によりcrRNA断片/tracrRNA断片が二重鎖RNAを形成し、形成された二重鎖RNAは、Cas9タンパク質と相互作用する。

【0051】
本発明においてtracrRNA断片は、crRNA断片と共にCas9タンパク質をガイドできるものであれば特に限定されないが、好ましくは、Streptococcus pyogenes由来のtracrRNAを利用する。

【0052】
tracrRNA断片について、CRISPR/Casシステムに必要とされる塩基配列はある程度明らかにされており(Jinek et al.Science 337:816,2012)、本発明においてはこれらの知見を利用することができる。本発明のtracrRNA断片は、少なくとも配列番号4で表される塩基配列を含む。好ましくはtracrRNA断片は、配列番号5で表される塩基配列において5’末のアデニン「A」を1番目として以降の塩基については2番目、3番目、4番目...69番目と順次番号付けを行った場合、11番目から34番目の塩基からなる塩基配列と共に、1番目から10番目及び/又は35番目から69番目の領域より、11番目及び/又は34番目の塩基に隣接して選択される1又は連続する複数の塩基からなる塩基配列を含むか、当該塩基配列よりなる。

【0053】
したがって、tracrRNA断片は全体として、好ましくは69塩基以下、59塩基以下、又は34塩基以下、あるいは24塩基以上、例えば、24塩基、24~34塩基、24~59塩基又は24~69塩基とすることができる。

【0054】
また、本発明においてtracrRNA断片には、上記塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下で結合する(ハイブリダイズする)塩基配列を有し、かつcrRNA断片と共にCas9タンパク質をガイドできるオリゴヌクレオチドも含まれる。このようなオリゴヌクレオチドには、上記塩基配列において数塩基の付加、置換、欠失又は挿入を有する塩基配列からなるオリゴヌクレオチドや(ここで「数塩基」とは、3塩基以内、又は2塩基以内の塩基数を意味する)、上記塩基配列と、BLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなるオリゴヌクレオチド等が含まれ得る。このようなオリゴヌクレオチドのことを本明細書においては、上記塩基配列の「変異配列」と記載する場合がある。

【0055】
(c)一本鎖ドナーDNA
本発明において一本鎖ドナーDNAは、ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質に切断された部位にて生じる相同組換え修復(Homologous Recombination:HR)を利用して、標的DNA領域に所望のDNAを挿入(ノックイン)するために用いられる一本鎖DNAである。

【0056】
相同組換え修復のプロセスにおいては、標的DNAとドナーDNAの塩基配列の相同性を必要とし、ドナーDNAを標的DNA(すなわち、二重鎖切断を受けたDNA)の鋳型修復に用い、ドナーDNAから標的DNAへの遺伝情報の移動をもたらす。これにより、標的分子の塩基配列の変化(例えば、挿入、欠失、置換など)をもたらすことができる。

【0057】
従って、一本鎖ドナーDNAは、標的DNA領域内の塩基配列と高い同一性を有する2つの塩基配列(所謂、相同性アーム)とそれらの間に配置された所望のDNA(標的DNA領域に挿入するためのDNA)を含む。

【0058】
相同性アームは相同組換えを行うのに十分な程度の大きさがあればよく、また、一本鎖ドナーDNAの鎖長により変動し得るが、例えば、20~300bの範囲よりそれぞれ独立して選択することができる。本発明によれば、例えば、70bp以下(例えば、65bp以下、60bp以下、55bp以下)の鎖長であっても、十分なノックイン効率を実現することが可能である。

【0059】
また、相同性アームは相同組換えを行うのに十分な程度に標的DNA領域内の塩基配列と同一性を有していれば、100%の同一性がなくともよい。例えば、BLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.9%以上の同一性をそれぞれ有する。

【0060】
また、挿入する所望のDNAの大きさは特に限定されることなく、様々なサイズのものを利用することができる。一本鎖DNAの鎖長は、例えば、100b以上、200b以上、300b以上、400b以上、500bp以上、600b以上、700b以上、800b以上、900b以上、1kb以上である。非特許文献8では、296~514bpの一本鎖DNAをドナーとして用いているが、本発明の方法では、非特許文献8の方法よりも長鎖の一本鎖DNA(600bp以上)を用いた場合でも、極めて高い効率でノックイン個体を作製することができる。なお、非特許文献8の方法を、本発明と同様の一本鎖RNAの条件(600bp以上)で検証を行ったところ、ノックインの効率は極めて低かった(後述の比較例1)。従って、本発明の方法によれば、特に長鎖の一本鎖DNAを用いた場合に、従来法と比較した、ノックインの効率の差がより顕著となる。

【0061】
所望のDNA中に、事後的に除去したい塩基配列が存在する場合には、当該塩基配列の両端に、例えば、loxP配列やFRT配列を付加することもできる。loxP配列やFRT配列に挟まれた塩基配列は、Cre組換え酵素やFLP組換え酵素を作用させることにより、除去することができる。また、一本鎖ドナーDNAのノックインの成功を確認するため等の目的で、例えば、選択マーカー配列(例えば、蛍光タンパク質や薬剤耐性遺伝子など)を所望のDNA中に組み込むこともできる。

【0062】
また、挿入する所望のDNAには、プロモーター及び/又はその他の制御配列を作動可能に連結することができる。「作動可能に連結する」とは、プロモーターの下流に連結された所望のDNA(遺伝子)が発現可能なように、プロモーターと所望のDNAが連結されていることを意味する。プロモーター及び/又はその他の制御配列は特に限定されないが、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、時期特異的プロモーター、誘導性プロモーター、CMVプロモーターなど、その他の調節エレメントなど(例えば、ターミネーター配列)を適宜選択することができる。

【0063】
本発明の一本鎖ドナーDNAは、例えば、非対称PCR法や片側リン酸化PCR法を利用して、ワンチューブ反応で短時間かつ高収率で一本鎖ドナーDNAを調製することができる。

【0064】
非対称PCR法は、PCR法で用いる一組のプライマーについて、一方のプライマー量を少なくしておき、片鎖を優先的に合成する方法である。非対称PCRの後、その増幅産物に二本鎖特異的DNA分解酵素を作用させて二本鎖DNAを分解することにより、一本鎖DNAを調製することができる。一方、片側リン酸化PCR法においては、一対のプライマーのうち、目的とする長鎖一本鎖ドナーDNAと逆鎖のプライマーとして、リン酸化したプライマーを用いる。そして、PCR反応後、その増幅産物に対し、リン酸化されたDNA特異的なDNA分解酵素を作用させて、リン酸化された鎖を分解することにより、一本鎖DNAを調製することができる。

【0065】
これら方法で用いるプライマーには、一本鎖ドナーDNAの構成要素としたい所望の配列を付加したものを用いることができる。所望の配列としては、例えば、相同性アームの配列、loxP配列やFRT配列などの組換え酵素の認識配列などが挙げられるが、これらに制限されない。

【0066】
また、非特許文献8に記載の方法や吉見らの方法(Yoshimiら, Nat Commun 7:10431(2016), DOI: 10.1038/ncomms10431)を利用して調製することもできる。

【0067】
なお、本発明の一本鎖DNAには、実験の性質上あるいはその他の理由により、多少の二本鎖DNAが混合されうることは理解されたい。

【0068】
標的DNA領域が異なる複数種のDNA標的化RNAあるいは同一標的DNA領域内の標的箇所が異なる複数種のDNA標的化RNAを本発明において利用する場合には、それぞれの標的DNA領域に対応した相同性アームを有する、複数種の一本鎖ドナーDNAを含めることができる。この場合、複数種のドナーDNAに含まれる所望のDNAとしては、異なる塩基配列のDNAとすることができる。

【0069】
本発明において、上記(a)~(c)の分子が導入される細胞としては、その由来に特に制限はない。細胞は、動物細胞、植物細胞、藻細胞、真菌細胞などの真核生物細胞であっても、細菌や古細菌などの原核生物細胞であってもよい。好ましくは真核生物細胞であり、特に好ましくは動物細胞である。

【0070】
動物細胞としては、例えば、哺乳類(マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジなど)の細胞の他、魚類、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類の細胞が挙げられる。哺乳類の細胞は、好ましくは、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどのげっ歯類の細胞であり、特に好ましくはマウス細胞である。

【0071】
また、本発明は、いかなる種類の細胞も対象になり得るが、動物細胞においては、例えば、卵母細胞や精子などの生殖細胞;各段階の胚の胚細胞(例えば、1細胞期胚、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、16細胞期胚、桑実期胚など);誘導多能性幹(iPS)細胞や胚性幹(ES)細胞などの幹細胞;線維芽細胞、造血細胞、ニューロン、筋細胞、骨細胞、肝細胞、膵臓細胞などの体細胞などが挙げられる。

【0072】
卵母細胞は、受精前及び受精後の卵母細胞を利用することができるが、好ましくは受精後の卵母細胞、すなわち受精卵である。特に好ましくは、受精卵は前核期胚のものである。卵母細胞は、凍結保存されたものを解凍して用いることができる。

【0073】
これら細胞への上記(a)~(c)の分子の導入には、タンパク質やRNA断片を細胞に導入するための公知の方法を利用することができ、例えば、顕微注入法を好適に用いることができる(例えば、Nagy A,Gertsenstein M,Vintersten K,Behringer R.,2003.Manipulating the Mouse Embryo.Cold Spring Harbour,New York:Cold Spring Harbour Laboratory Pressを参照のこと)。電気穿孔法などその他の方法も利用することができる。

【0074】
卵母細胞に顕微注入する場合には、卵母細胞の前核、細胞質、それらの両方、好ましくは前核に対して行う。受精卵の場合には雌性前核及び/又は雄性前核、細胞質、それらの両方、好ましくは雄性前核に対して行う。

【0075】
代表的な一例として、本発明のCRISPR/Cas9システムを細胞に注入する場合の条件は、次の通りである。

【0076】
注入溶液には、Cas9タンパク質、crRNA断片及びtracrRNA断片をそれぞれ以下(i)~(iii)の一又は複数にて規定される量より選択される量にて含めることができる:
(i) Cas9タンパク質は、通常、5~5000ng/μL、好ましくは5~500ng/μL、より好ましくは10~50ng/μL、さらに好ましくは20~40ng/μL、よりさらに好ましくは30ng/μLとする;
(ii) crRNA断片及びtracrRNA断片はそれぞれ、Cas9タンパク質1ng/μLに対し、通常、0.002pmol/μLを超える濃度、好ましくは0.005pmol/μL以上、より好ましくは0.01pmol/μL以上、さらに好ましくは0.02pmol/μL以上であり、上限は、通常、2pmol/μL以下、好ましくは0.2pmol/μL以下となる濃度とする(crRNA断片の量とtracrRNA断片の量とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい);
(iii) crRNA断片及びtracrRNA断片はそれぞれ、通常、0.06pmol/μLを超える濃度、好ましくは0.15pmol/μL以上、より好ましくは0.3pmol/μL以上、さらに好ましくは0.6pmol/μL以上であり、上限は、通常、60pmol/μL以下、好ましくは6pmol/μL以下、となる濃度とする(crRNA断片の量とtracrRNA断片の量とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい)。

【0077】
一態様において注入溶液中には、Cas9タンパク質を、通常、20~40ng/μL、好ましくは30ng/μL、crRNA断片を、通常、0.15pmol/μL以上、好ましくは0.3pmol/μL以上、より好ましくは0.6pmol/μL以上、ならびに、tracrRNA断片を、通常、0.15pmol/μL以上、好ましくは0.3pmol/μL以上、より好ましくは0.6pmol/μL以上の濃度でそれぞれ含めることができる。

【0078】
CRISPR/Cpf1システムを使用する場合の条件は、上記CRISPR/Cas9システムを使用する場合の条件を基に、当業者であれば適宜設定しうる。

【0079】
顕微注入に際して、上記ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質と上記DNA標的化RNAは複合体を形成していることが好ましい。複合体の形成は、これらを注入溶液中にて、通常、35~40℃、好ましくは37℃にて、通常、少なくとも15分間程度、インキュベートすることにより行うことができる。

【0080】
注入溶液の注入量は、細胞への顕微注入において一般的に用いられている量であればよく、例えば、卵母細胞の前核へ顕微注入する場合には、前核の膨化が飽和状態となる量とすることができる。

【0081】
注入されたヌクレアーゼ活性を有するタンパク質は、DNA標的化RNAとの結合により、細胞におけるゲノムDNA上の標的DNA領域にガイドされ当該領域内の二本鎖DNAの切断を引き起こす。

【0082】
相同組換え修復によれば、ドナーDNAの存在下、これを鋳型として相同組換え修復が起こり、一本鎖ドナーDNAに含まれた所望のDNAが標的DNA領域に挿入(遺伝子ノックイン)され得る。

【0083】
一本鎖ドナーDNAは、ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質、DNA標的化RNAと共に細胞に導入することができ、通常、1~200ng/μL、好ましくは5~10ng/μLの濃度にて他の成分と共に注入溶液中に含めることができる。

【0084】
また、上記複数種のDNA標的化RNAや複数種の一本鎖ドナーDNAを組み合わせて用いることによって、複数種の遺伝子改変を生じることができる。

【0085】
本発明は、また、所望のDNAが標的DNA領域に挿入された細胞を含む非ヒト個体の作製方法を提供する。この方法は、上記した、所望のDNAが標的DNA領域に挿入された細胞の作製方法を実施する工程、及び当該工程により得られた細胞から非ヒト個体を作製する工程を含む。

【0086】
非ヒト個体としては、例えば、非ヒト動物及び植物が挙げられる。非ヒト動物としては、哺乳類(マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジなど)、魚類、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類が挙げられるが、好ましくは、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどのげっ歯類であり、特に好ましくはマウスである。植物としては、例えば、穀物類、油料作物、飼料作物、果物、野菜類が挙げられる。具体的な作物としては、イネ、トウモロコシ、バナナ、ピーナツ、ヒマワリ、トマト、アブラナ、タバコ、コムギ、オオムギ、ジャガイモ、ダイズ、ワタ、カーネーションを例示することができる。

【0087】
細胞から非ヒト個体を作製する方法としては、公知の方法を利用することができる。動物において細胞から非ヒト個体を作製する場合、通常、生殖細胞又は多能性幹細胞が利用される。例えば、上記(a)~(c)の分子を卵母細胞に顕微注入し、得られた卵母細胞を次いで、偽妊娠状態にした雌非ヒト哺乳動物の子宮に移植し、その後産仔を得る。移植は1細胞期胚、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、16細胞期胚、又は桑実期胚の受精卵にて行うことができる。顕微注入された卵母細胞は必要に応じて、移植されるまで適当な条件下にて培養することができる。卵母細胞の移植及び培養は従来公知の手法に基づいて行うことができる(Nagy Aら、上掲)。

【0088】
また、植物においては、古くから、その体細胞が分化全能性を有していることが知られており、様々な植物において、植物細胞から植物体を再生する方法が確立されている。従って、例えば、上記(a)~(c)の分子を植物細胞に顕微注入し、得られた植物細胞から植物体を再生することにより、所望のDNAがノックインされた植物体を得ることができる。

【0089】
遺伝子改変の有無の確認、及び遺伝子型の決定は、従来公知の手法に基づいて行うことができ、例えばPCR法、配列決定法、サザンブロッティング法等を利用することができる。

【0090】
得られた非ヒト個体からは、所望のDNAがノックインされた子孫やクローンを得ることもできる。

【0091】
本発明の方法によれば、ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質及びDNA標的化RNAを含むゲノム編集技術を利用して、一本鎖ドナーDNAを細胞に導入することによって、極めて高効率にて標的DNAを遺伝子改変することができる。本発明方法によれば、遺伝子改変をホモ接合型にて有する非ヒト哺乳動物の製造も効率的に行うことができる。600b以上の長鎖一本鎖DNAを用いた場合でも、極めて高いノックイン効率を示すことから、本発明によれば、様々なサイズの遺伝子を極めて高効率でノックインすることが可能である。本発明の方法を用いた場合、検証した範囲において80%ものノックイン効率を示したことは、驚くべきことである。

【0092】
本発明は、また、上記本発明の方法に用いるためのキットを提供する。本発明のキットは、上記ヌクレアーゼ活性を有するタンパク質、上記DNA標的化RNA、及び上記一本鎖ドナーDNAからなる群より選択される少なくとも1つの分子を含む。2つの分子を含んでもよく、3つの分子を含んでもよい。

【0093】
当該のキットは、一つ又は複数の追加の試薬をさらに含む場合があり、追加の試薬としては、例えば、希釈緩衝液、再構成溶液、洗浄緩衝液、対照試薬(例えば、対照のDNA標的化RNA)が挙げられるが、これらに制限されない。

【0094】
キットに含まれる各要素は、それぞれ別個の容器に収容されていてもよいし、あるいは同一の容器に収容されていてもよい。各要素は、一回の使用量ごとに容器に収容されていてもよいし、あるいは複数回分の量が一つの容器に収容されていてもよい(使用者は一回の使用に必要な量を取り出して用いることができる)。各要素は乾燥形態で容器に収容されていてもよいし、適当な溶媒中に溶解した形態で容器に収容されていてもよい。
【実施例】
【0095】
以下に、比較例及び実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
1.材料と方法
(1)長鎖一本鎖ドナーDNAのデザイン
Cre組換え酵素が存在する特定細胞においてのみ、標的遺伝子が欠損するように設計されたノックインマウスをfloxノックインマウスと呼ぶ。Cre組換え酵素は、2つのLoxPで挟まれた遺伝子領域を欠損させる作用を有することから、当該標的遺伝子をLoxPで挟み込むことにより、floxノックインマウスを作製することができる。当該マウスは、ゲノム編集による遺伝子改変マウス作製の応用例で最も困難とされている。
【実施例】
【0097】
本発明者は、マウスCol12a1遺伝子の第2エクソンを標的としたfloxノックインマウスを作製するため、当該エクソン含む遺伝子領域の両末端に、LoxP配列及び55塩基対のCol12a1相同配列を含む、長鎖一本鎖ドナーDNA(floxCol12a1 ssDNA、全長637塩基)を設計した(配列番号8)。
【実施例】
【0098】
同様に、マウスDct遺伝子の第1エクソンを標的としたCre組換え酵素ノックインマウスを作製するため、Cre組換え酵素遺伝子の両末端に55塩基対Dct相同配列を含む、長鎖一本鎖ドナーDNA(全長1148塩基)を設計した(配列番号9)。
【実施例】
【0099】
(2)長鎖一本鎖ドナーDNAの作製
(i)cDNA法
三浦らの方法(非特許文献8)によりfloxCol12a1長鎖一本鎖ドナーDNAを作製した。具体的には、LoxP配列を付加したプライマーを用いて、マウスゲノムDNAより、マウスCol12a1遺伝子の第2エクソンを含む遺伝子領域をPCRにより増幅した。PCR反応は全てPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(Takara Bio)により行った。このPCR産物を精製後に鋳型として用いて、さらに55塩基対のCol12a1相同配列を付加したプライマーを用いて、PCRによりfloxCol12a1遺伝子カセットを作製した。このPCR産物を精製後に鋳型として用いて、さらに片側にT7認識配列を付加したプライマーを用いて、T7-floxCol12a1遺伝子カセットを作製した。サンガーシークエンスにより塩基配列を確認した。
【実施例】
【0100】
次に、このPCR産物を精製後に鋳型として用いて、mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)によりT7試験管内RNA合成法により、floxCol12a1 mRNAを増幅した。floxCol12a1 mRNAは、MEGAclear Kit(Thermo Fisher Scientific)で精製した。Bioanalyzer(Agilient Technologies)及びAgilent RNA 6000 Pico Kit(Agilient Technologies)により電気泳動でサイズ確認を行った。NanoDrop(Thermo Fisher Scientific)により濃度測定を行った。
【実施例】
【0101】
次に5μgのfloxCol12a1 mRNAを鋳型として、SuperScript III CellsDirect cDNA Synthesis Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて、floxCol12a1 cDNA合成を行った。合成したfloxCol12a1 cDNAをアガロースゲル電気泳動により分離し、予想サイズのバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen)を用いて精製した。精製したfloxCol12a1 cDNAをエタノール沈殿でさらに濃縮した。これをfloxCol12a1長鎖一本鎖ドナーDNAとした。サンガーシークエンス法により、一本鎖DNAであること、また配列が正しいことを確認した。
【実施例】
【0102】
(ii)非対称PCR法
上記のfloxCol12a1遺伝子カセットPCR産物を鋳型として、両端に設計したプライマー(Tm値は57℃)により非対称PCRを行った。プライマーは、長鎖一本鎖ドナーDNAとして増幅するDNAと同鎖のプライマーを最終1mM、逆鎖のプライマーを最終10-25μMで加えた。プライマーのアニーリングは62℃で10サイクル、さらに57℃で35サイクルとして、PCR反応を行った。アガロースゲル電気泳動により、長鎖一本鎖ドナーDNAの増幅を確認した。次に、二本鎖特異的DNase(PCR decontamination kit, ArcticZymes)をPCR後の反応液に加え、PCRで生成された二本鎖DNAを分解した。MinElute PCR Purification Kit(Qiagen)によりfloxCol12a1長鎖一本鎖ドナーDNA精製した。サンガーシークエンス法により、一本鎖DNAであること、また配列が正しいことを確認した。Dct-Cre遺伝子カセットについても同様に作製した。
【実施例】
【0103】
(iii)リン酸化PCR法
上記(i)のfloxCol12a1遺伝子カセットPCR産物を鋳型として、両端に設計したプライマーで通常のPCRを行った。ただしプライマーについて、長鎖一本鎖ドナーDNAとして増幅するDNAと同鎖のプライマーは非修飾、逆鎖のプライマーは5’末端塩基をリン酸化修飾した。PCR産物をアガロース電気泳動で確認し、QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen)で精製後に、Lambda Exonuclease(NEB)で処理して、5’末端がリン酸化されたDNA鎖のみを分解し、floxCol12a1長鎖一本鎖ドナーDNAを得た。
【実施例】
【0104】
(3)ガイドRNA作製
(i)クローニングフリーCRISPR/Casシステム法
相田らの方法(Aidaら, Genome Biol 16:87(2015), DOI: 10.1186/s13059-015-0653-X)により作製した。マウスCol12a1遺伝子の第2エクソンの5’上流及び3’上流を標的としたcrRNAをRNA化学合成で作製した(ファスマック)。インビトロ消化分析(in vitro digestion assay)で標的DNAの切断活性を検定した。5’上流及び3’上流について最も高い活性を示したcrRNAをそれぞれインジェクションに用いた。マウスDct遺伝子の第1エクソンを標的としたcrRNAも同様にRNA化学合成(ファスマック)で作製した。tracrRNAについても同様にRNA化学合成(ファスマック)で作製した。
【実施例】
【0105】
なお、マウスCol12a1遺伝子の第2エクソンの5’上流及び3’上流を標的としたcrRNAの塩基配列をそれぞれ配列番号10と11に、マウスDct遺伝子の第1エクソンを標的としたcrRNAの塩基配列を配列番号12に示した。これらcrRNAにおいて、5’側の20塩基が標的遺伝子と相補的な領域である。また、tracrRNAの塩基配列を配列番号5に示した。
【実施例】
【0106】
(ii)通常法
相田らの方法(上掲)により作製した。上記のcrRNAに対応するマウスCol12a1遺伝子の第2エクソンの5’上流及び3’上流を標的としたsgRNA、及びマウスDct遺伝子の第1エクソンを標的としたsgRNAについて、これらのT7付加PCR産物を鋳型として、MEGAshortscript T7 Kit(Thermo Fisher Scientific)によりT7試験管内RNA合成法により作製した。
【実施例】
【0107】
(4)Cas9
(i)クローニングフリーCRISPR/Casシステム法
Cas9タンパク質(PNA Bio及びNew England Biolabs)を用いた。
【実施例】
【0108】
(ii)通常法
相田らの方法(上掲)により作製した。pX330(Addgene)プラスミドを鋳型に、T7付加Cas9 PCR産物を増幅した。これを鋳型として、mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)によりT7試験管内RNA合成法により、Cas9 mRNAを増幅した。
【実施例】
【0109】
(5)インジェクション
相田らの方法(上掲)により行った。C57BL/6J系統のマウス凍結受精卵の前核に、下記のインジェクション溶液を顕微注入した。インジェクション後に短時間37℃で培養を行い、当日中に偽妊娠メスマウスに移植した。
【実施例】
【0110】
(i)クローニングフリーCRISPR/Casシステム法
10mM Tris-HCl溶液に、crRNA及びtracrRNA(0.61μM)、Cas9タンパク質(30ng/μl)、長鎖一本鎖ドナーDNA(5-10ng/μl)で加えた。
【実施例】
【0111】
(ii)通常法
10mM Tris-HCl溶液に、sgRNA(2.5ng/μl)、Cas9 mRNA(5ng/μl)、長鎖一本鎖ドナーDNA(5-10ng/μl)で加えた。
【実施例】
【0112】
(6)解析
相田らの方法(上掲)により行った。産仔のテールDNAを用いたPCRにより、ノックインマウスを同定した。これらのクローニングとサンガーシークエンスにより正確なノックインを確認した。
【実施例】
【0113】
2.結果
[比較例1] 通常法+長鎖一本鎖ドナーDNA(非特許文献8の方法)
マウスCol12a1遺伝子の第2エクソンの5’上流及び3’上流を標的とした2つのsgRNA、Cas9 mRNA、及びfloxCol12a1長鎖一本鎖ドナーDNA(637塩基)をマウス受精卵にインジェクションした。26匹の産仔のうち、floxCol12a1ノックインマウスは1匹も得られなかった。ノックイン効率は0%であった(図1)。
【実施例】
【0114】
次に、マウスDct遺伝子の第1エクソンを標的としたsgRNA、Cas9 mRNA、及びDct-Cre長鎖一本鎖ドナーDNA(1148塩基)をマウス受精卵にインジェクションした。10匹の産仔のうち、1匹がDct-Creノックインマウスであった。ノックイン効率は10%であった(図2)
以上から、通常用いられるCas9 mRNAとsgRNAに長鎖一本鎖ドナーDNAの組み合わせでは、0.6kbより長い遺伝子カセットを用いた場合、ノックイン効率が低いことが示された。
【実施例】
【0115】
[比較例2] クローニングフリーCRISPR/Casシステム+環状二本鎖ドナーDNA
マウスCol12a1遺伝子の第2エクソンの5’上流及び3’上流を標的とした2つのcrRNA、tracrRNA、Cas9タンパク質、及びfloxCol12a1環状二本鎖ドナーDNAをマウス受精卵にインジェクションした。9匹の産仔のうち、3匹がfloxCol12a1ノックインマウスであった。ノックイン効率は33.3%であったが(図3)、ホモのノックインマウスは得られなかった。
【実施例】
【0116】
以上から、クローニングフリーCRISPR/Casシステムを用いることで、0.6kbより長い遺伝子カセットのノックインが可能であることが示された。短い相同領域の環状二本鎖ドナーDNAを用いたにもかかわらず、ノックイン効率は、相田ら(上掲)で示された45.5%をやや下回る程度で、一般的には高い効率であった。
【実施例】
【0117】
[実施例1]クローニングフリーCRISPR/Casシステム+長鎖一本鎖ドナーDNA
マウスCol12a1遺伝子の第2エクソンの5’上流及び3’上流を標的とした2つのcrRNA、tracrRNA、Cas9タンパク質、及びfloxCol12a1長鎖一本鎖ドナーDNA(637塩基)をマウス受精卵にインジェクションした。3匹の産仔のうち、3匹全てがfloxCol12a1ノックインマウスであった(図4)。うち1匹はホモのノックインマウスであった。さらに、産仔の数を増やして同様の実験を行ったところ、12匹の産仔のうち、9匹がfloxCol12a1ノックインマウスであった(図5;レーン4の産仔3は解析不能であったため、除外した)。全体のノックイン効率は、80%(12/15)であった。
【実施例】
【0118】
なお、複数の他の遺伝子を標的として同様の実験を行ったが、いずれの場合でも、高効率でノックインが認められた。
【実施例】
【0119】
以上から、クローニングフリーCRISPR/Casシステムに、長鎖一本鎖ドナーDNAを組み合わせることで、0.6kbより長い遺伝子カセットの超高効率のノックインが可能であることが示された。これは従来のクローニングフリーCRISPR/Casシステムによるノックインや、長鎖一本鎖ドナーDNAによるノックインの効率を大きく上回るものである。またこの組み合わせにより、初めてホモノックインマウスが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のゲノム編集システムによれば、高効率で遺伝子ノックイン細胞を作製することが可能である。本発明は、実験動物の作成などの研究目的のみならず、再生医療などの医療分野、有用形質を有する作物の作成などの農業分野、微生物を利用した有用物質の生産などの工業分野、など幅広い産業分野での利用が期待される。
【配列表フリ-テキスト】
【0121】
配列番号2~5、10~12
<223> 合成オリゴヌクレオチド
配列番号8、9
<223> 一本鎖ドナーDNA
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4