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明細書 :マイクロ液滴及びその作成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-104029 (P2020-104029A)
公開日 令和2年7月9日(2020.7.9)
発明の名称または考案の名称 マイクロ液滴及びその作成方法
国際特許分類 B01J  13/06        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
FI B01J 13/06
C12N 1/00 Z
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 9
出願番号 特願2018-242397 (P2018-242397)
出願日 平成30年12月26日(2018.12.26)
発明者または考案者 【氏名】剣持 貴弘
【氏名】作田 浩輝
【氏名】貞包 浩一朗
【氏名】吉川 研一
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110001427、【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4G005
Fターム 4B065AA99X
4B065AB01
4B065BD50
4B065CA60
4G005AA07
4G005AB14
4G005BA05
4G005DA09W
4G005DB12X
4G005DB21X
4G005DB30X
4G005DC56Z
4G005DD05W
4G005DD07W
4G005DD24W
4G005DD57W
4G005EA03
4G005EA04
要約 【課題】不純物の混入が少なくモデル細胞として適切なマイクロ液滴及びその作成方法を提供する。
【解決手段】第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に第一の水溶性高分子のマイクロ液滴が浮遊している系に、リン脂質が水に分散している懸濁液を混合させる。例えば第一の水溶性高分子がデキストランで、第二の水溶性高分子がポリエチレンゴリコールである。リン脂質は例えばレシチンである。液滴内部に生体高分子を封入することも可能である。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に第一の水溶性高分子のマイクロ液滴が浮遊している系に、リン脂質が水に分散している懸濁液を混合させることを特徴とする、液滴表面がリン脂質膜で被覆されたマイクロ液滴の作成方法。
【請求項2】
第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に第一の水溶性高分子のマイクロ液滴が浮遊している系に、リン脂質が水に分散している懸濁液を混合させ、次にDNAを含有するDNA溶液を混合させることを特徴とする、液滴表面がリン脂質膜で被覆されているともに前記液滴内部に前記DNAが封入されたマイクロ液滴の作成方法。
【請求項3】
第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に第一の水溶性高分子のマイクロ液滴が浮遊している系に、DNAを含有するDNA溶液を混合させ、次にリン脂質が水に分散している懸濁液を混合させることを特徴とする、液滴表面がリン脂質膜で被覆されているともに前記液滴内部に前記DNAが封入されたマイクロ液滴の作成方法。
【請求項4】
第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊している第一の水溶性高分子のマイクロ液滴の表面がリン脂質膜で被覆されている、ことを特徴とするマイクロ液滴。
【請求項5】
第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊している第一の水溶性高分子のマイクロ液滴の表面がリン脂質膜で被覆されているとともに前記マイクロ液滴の液滴内部に生体高分子が封入されている、ことを特徴とするマイクロ液滴。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、モデル細胞として利用できるマイクロ液滴及びそのマイクロ液滴の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物、植物、微生物といった全ての生物は単一又は多数の細胞の集合であり、これらの細胞とその小器官は全て生体膜と呼ばれる半透性の膜で仕切られている。この生体膜の主成分は大きさのそろった単層膜のリン脂質である。また細胞は細胞膜内部の内包液に30~40重量%程度の生体高分子や基質を含む極めて混在した環境を作り出し生命活動を維持している。
【0003】
しかしながらタンパク質やDNA等の生体高分子を細胞と同様な程度まで高濃度に内包したような人工的なモデル細胞系の構築は困難であった。従来は油中水滴を作成し、それを水相に移行させるといった実験手法が提案されている。
【0004】
界面透過法といわれる手法では、脂質単分子膜に覆われた油中水滴を別の油水界面に並ぶ脂質単分子膜に透過させることで脂質二分子膜小胞(リポソーム)を作成する(非特許文献1)。液滴の界面透過ダイナミクスの観察から液滴の界面透過には3種の動力学的過程が存在することが判明しており、透過挙動には液滴サイズ依存性が存在し、μmオーダーの細胞サイズが透過に適していることが見出されている。しかしその界面通過挙動は十分に解明されておらずまた水相中のモデル細胞に油相由来の不純物が混入するといった問題があった。
【0005】
静置水和法といわれる手法では、例えば試験管内に作製したリン脂質を主成分とする脂質フィルムに水溶液を加え静置して膜小胞を作成する(非特許文献2,3)。しかし静置水和法では多層膜となりこれではモデル細胞としては不適切である。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】H. Ito, T. Yamanaka, S. Kato, T. Hamada, M. Takagi, M. Ichikawa, and K. Yoshikawa, Dynamical formation of lipid bilayer vesicles from lipid-coated droplets across a planar monolayer at an oil/water interface. Soft Matter, 9, 9539-9547 (2013).
【非特許文献2】D. A, Vandenberg, M. Schondeld, M. H. Ellisman, N. C. Spitzer, M. Montal, Reassembly of protein-lipid complexes into large bilayer vesicles: Perspectives for membrane reconstitution. Proc Natl Acad Sci USA, 77, 239-243 (1980).
【非特許文献3】M. Honda, K. Takiguchia, S. Ishikawa, H. Hotani, Morphogenesis of liposomes encapsulating actin depends on the type of actin-crosslinking, J. Mol. Biology, 287, 293-300 (1999).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、不純物の混入が少なくモデル細胞として適切なマイクロ液滴及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるマイクロ液滴は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊している第一の水溶性高分子のマイクロ液滴の表面がリン脂質膜で被覆されていることを特徴とする。
【0009】
本発明にかかるマイクロ液滴の作成方法は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に第一の水溶性高分子のマイクロ液滴が浮遊している系に、リン脂質が水に分散している懸濁液を混合させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、不純物の混入が少なくモデル細胞として適切なマイクロ液滴及びその製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを用いた濃度に依存した相図(相分離の様子)を説明する図である。
【図2】液滴表面がリン脂質で被覆されているマイクロ液滴を作成する工程を説明する図である。
【図3】(a)はPEG 5% Dextran 5%においてPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴の明視野観察写真図であり、(b)はPEG 5% Dextran 5%においてPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴を被覆するリン脂質がrhodamine Bにて染色されている写真図であり、(c)はPEG 5% Dextran 5%においてPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴を被覆するリン脂質の蛍光強度のピークを示す図である。
【図4】(a)はPEG 5% Dextran 5%においてPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴の明視野観察写真図であり、(b)はPEG 5% Dextran 5%においてPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴を被覆するリン脂質がrhodamine Bにて染色されている写真図であり、(c)はPEG 5% Dextran 5%においてPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴がFITCにて染色されている写真図であり、(d)はrhodamine Bによる観察画像とFITCによる観察画像とをmergeした図である。
【図5】(a)はPEG 5% Dextran 5%においてPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴に封入されているDNAがFITCにて染色されている写真図であり、(b)はPEG 5% Dextran 5%においてPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴を被覆するリン脂質がrhodamine Bにて染色されている写真図であり、(c)はPEG 5% Dextran 5%においてPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴の明視野観察写真図であり、(d)はrhodamine Bによる観察画像とFITCによる観察画像とをmergeした図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。

【0013】
本発明者は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成している系において、リン脂質が水に分散している懸濁液を混合させることで、液滴表面がリン脂質膜で被覆されたマイクロ液滴が作成できる手法を新知見として見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。

【0014】
即ち、本実施形態にかかるマイクロ液滴は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊している第一の水溶性高分子のマイクロ液滴の表面がリン脂質膜で被覆されているマイクロ液滴である。

【0015】
本実施形態にかかる液滴表面がリン脂質膜で被覆されたマイクロ液滴の作成方法は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に第一の水溶性高分子のマイクロ液滴が浮遊している系に、リン脂質が水に分散している懸濁液を混合させる。従来の液滴は油中水滴であるが、本実施形態にかかる液滴は水/水相分離を形成している系における水滴である。

【0016】
第一の水溶性高分子と第二の水溶性高分子とについて、一分子同士の相互作用ポテンシャルを下記とする。
ε11・・・第一の水溶性高分子と第一の水溶性高分子との間のポテンシャル
ε22・・・第二の水溶性高分子と第二の水溶性高分子との間のポテンシャル
ε12・・・第一の水溶性高分子と第二の水溶性高分子との間のポテンシャル
このとき第一の水溶性高分子と第二の水溶性高分子との結合が一つ増すときの自由エネルギーの増加は下記式となり、ε>0の場合に相分離となる。

【0017】
【数1】
JP2020104029A_000003t.gif

【0018】
より詳しくは、高分子のdepletion相互作用によるエントロピー項が、異種高分子系の相分離をより起こしやすくするといった効果があるが、大域的な相分離挙動の本質は上記のようなモデルで記述することが可能となっている。

【0019】
図1は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とが水/水相分離を形成している系を説明する図である。Binodal曲線よりも上の領域の系では相分離を起こし、下の領域の系では相分離を起こさずに均一な溶液となる。図1に示されるように、Binodal曲線の上方には点線で示される液滴界面変異境界線が示されており、Binodal曲線と液滴界面変異境界線との間の領域では緩い界面が形成される弱い相分離領域であり、液滴界面変異境界線よりも上の領域ではシャープな界面が形成される強い相分離領域である。本願発明では弱い相分離領域と強い相分離領域とを併せて相分離領域(即ちマイクロ液滴生成領域)として示される。

【0020】
水/水相分離を形成する第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液との組み合わせは、特に限定されるものではないが例えば下記表1に示される通りであり、特に第一の水溶性高分子がデキストランであり、第二の水溶性高分子がポリエチレンゴリコールである組み合わせが好ましい。

【0021】
【表1】
JP2020104029A_000004t.gif

【0022】
第一の水溶性高分子の水溶液及び第二の水溶性高分子の水溶液のそれぞれの分子量は、特に限定されるものではないが例えば第一の水溶性高分子がデキストランの場合、重量平均分子量150000~250000とすることが可能であり、第二の水溶性高分子がポリエチレンゴリコールの場合、重量平均分子量5000~7000とすることが可能である。

【0023】
本実施形態にかかるマイクロ液滴の直径は特に限定されるものではないが例えば20μm~500μmであり、好ましくは40μm~400μmである。

【0024】
液滴表面を被膜するリン脂質は、特に限定されるものではなく、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、大豆レシチン、卵黄レシチン等の天然リン脂質、天然リン脂質中の不飽和炭素鎖を水素により飽和とした水素添加大豆リン脂質、水素添加卵黄リン脂質等の水素添加リン脂質、ジオレイルホスファチジルコリン等の合成リン脂質等が挙げられる。リン脂質は、その1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明においては、大豆レシチン、卵黄レシチン等のリン脂質、水素添加大豆リン脂質、水素添加卵黄リン脂質等の水素添加リン脂質、合成リン脂質を用いることが好ましい。マイクロ液滴の酸化安定性や温度安定性が向上するからである。

【0025】
また、本実施形態にかかるマイクロ液滴は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に浮遊している第一の水溶性高分子のマイクロ液滴の表面がリン脂質膜で被覆されているとともにマイクロ液滴の液滴内部に生体高分子が封入されているマイクロ液滴である。封入されている生体高分子は、例えばDNA又はタンパク質である。

【0026】
液滴内部にDNAを封入する場合は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に第一の水溶性高分子のマイクロ液滴が浮遊している系に、リン脂質が水に分散している懸濁液を混合させ、次にDNAを含有するDNA溶液を混合させる。また、液滴内部にDNAを封入する場合は、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に第一の水溶性高分子のマイクロ液滴が浮遊している系に、DNAを含有するDNA溶液を混合させ、次にリン脂質が水に分散している懸濁液を混合させることも可能である。なお、液滴内部にDNAを封入する場合、第一の水溶性高分子の水溶液と第二の水溶性高分子の水溶液とを組み合わせて水/水相分離を形成して第二の水溶性高分子の水溶液中に第一の水溶性高分子のマイクロ液滴が浮遊している系に、リン脂質が水に分散している懸濁液を混合させると同時にDNAを含有するDNA溶液を混合させることも可能である。

【0027】
マイクロ液滴の液滴内部に封入されるDNA又はタンパク質は特に限定されるものではないが例えば長鎖DNAや重合度の高いタンパク質が好ましい。長鎖(49kbp)のλDNAや重合度の高いF-アクチン(G-アクチンが多数重合した糸状(filamentous)の重合体)は液滴の内部に局在することに対して、短鎖(数10bp)程度のoligomer DNAや重合度の低いG-アクチンは液滴の内外に均一に局在するからである。ここで長鎖DNAは特に限定されるものではないが例えば10kbp以上のDNAである。重合度の高いタンパク質は特に限定されるものではないが例えば数平均分子量が30000以上のタンパク質である。なお、F-アクチンは高重合度のbundle状態になると液滴の界面に寄り、細胞骨格様の骨格構造を液滴に対して作り出す。さらに、λDNAとF-アクチンが共存する場合には、DNAが液滴の中央付近に配向するF-アクチンに押し出されるように液滴内で分離する。
【実施例】
【0028】
1.実施例1(表面にリン脂質が吸着している液滴の作成)
第一の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のDextran(分子量200,000)を使用し、第二の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のpolyethylene glycol(PEG)(分子量6,000)を使用した。リン脂質としてレシチンを使用した。レシチンは、粉末状大豆レシチン(ナカライテスク製)を使用した。
【実施例】
【0029】
まず上記の粉末状大豆レシチンに水を加えて水和し、大豆レシチンが水に分散している懸濁液を作成した。次にPEG及びDextranをそれぞれ20 wt%で超純水(Milli-Q、 18.2 MΩcm)に溶解させ、ストックした。それらの溶液を混合させ、PEG 5%とDextran 5%の水-水相分離系を作成した。次に大豆レシチンが水に分散している懸濁液を、PEG 5%とDextran 5%の水-水相分離系に混合させた(図2)。
【実施例】
【0030】
明視野観察の結果、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴が観察された(図3(a))。また、蛍光物質として1 mol%のrhodamine Bを大豆レシチン懸濁液が混合されたPEG 5%とDextran 5%の水-水相分離系に添加して、蛍光顕微鏡観察を行った。その結果、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴の表面に大豆レシチンの被膜が存在する(即ち、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴の表面に大豆レシチンが吸着されている。)ことが赤色蛍光を示して観察された(図3(b))。蛍光強度の分布を図示すると2箇所にピークが見られたため、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴の表面に大豆レシチンの被膜が存在することが示唆された(図3(c))。従来の液滴は油中水滴であるが本実施例により作成された液滴は水/水相分離を形成している系における水滴であるため、従来のようにモデル細胞としての液滴に油相由来の不純物が混入するといった問題は生じない。また本実施例により作成された液滴を被膜するリン脂質は単層であり生体のモデル細胞として適切である。
【実施例】
【0031】
同様に、明視野観察では、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴が観察され(図4(a))、蛍光物質としてrhodamine Bを大豆レシチン懸濁液が混合されたPEG 5%とDextran 5%の水-水相分離系に添加して蛍光顕微鏡観察を行うと、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴の表面に大豆レシチンの被膜が存在することが赤色蛍光を示して観察された(図4(b))。蛍光物質としてFluorescein Isothiocyanate(FITC)が修飾されたデキストラン(FITC-Dextran (Sigma Aldrich製))を大豆レシチン懸濁液が混合されたPEG 5%とDextran 5%の水-水相分離系に添加して蛍光顕微鏡観察を行うと、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴が緑色蛍光を示して観察された(図4(c))。rhodamine Bによる赤色蛍光による観察画像とFITCによる緑色蛍光による観察画像とをmergeすると、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴が緑色に発色しており、その緑色に発色している液滴の表面に大豆レシチンの被膜が赤色発色により存在していることが観察された(図4(d))。
【実施例】
【0032】
2.実施例2(水/水相分離のミクロ液滴へのDNAの封入)
第一の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のDextran(分子量200,000)を使用し、第二の水溶性高分子として和光純薬工業株式会社製のpolyethylene glycol(PEG)(分子量6,000)を使用した。リン脂質としてレシチンを使用した。レシチンは、粉末状大豆レシチン(ナカライテスク製)を使用した。
【実施例】
【0033】
まず上記の粉末状大豆レシチンに水を加えて水和し、大豆レシチンが水に分散している懸濁液を作成した。次にPEG及びDextranをそれぞれ20 wt%で超純水(Milli-Q、 18.2 MΩcm)に溶解させ、ストックした。それらの溶液を混合させ、PEG 5%とDextran 5%の水-水相分離系を作成した。次に、長鎖のλDNA(49kbp)を含む濃度36.5μMのDNA溶液をPEG 5%とDextran 5%の水-水相分離系に混合させ、これにより内部にλDNAが封入されているPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴が作成された。次に、大豆レシチンが水に分散している懸濁液を、内部にλDNAが封入されているPEG水溶液中に浮遊するDextran液滴が存在するPEG 5%とDextran 5%の水-水相分離系に混合させた。
【実施例】
【0034】
明視野観察の結果、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴が観察された(図5(c))。また、蛍光物質としてGelGreen(Biotium Inc. 製)を添加して蛍光顕微鏡観察を行うと、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴の内部に封入されているλDNAが緑色蛍光を示して観察された(図5(a))。また、蛍光物質として1 mol%のrhodamine Bを添加して蛍光顕微鏡観察を行うと、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴の表面に大豆レシチンの被膜が存在することが赤色蛍光を示して観察された(図5(b))。rhodamine Bによる赤色蛍光による観察画像とGelGreenによる緑色蛍光による観察画像とをmergeすると、PEG水溶液中に浮遊するDextran液滴の内部に封入されているλDNAが緑色蛍光を示しており、その緑色に発色している液滴の表面に大豆レシチンの被膜が赤色発色により存在していることが観察された(図5(d))。
【産業上の利用可能性】
【0035】
人工細胞の製造に利用できる。具体的には、特定の遺伝子を取り込ませて、有用なたんぱく質の生産を行わせることや、新規薬剤の細胞への作用のメカニズムの解明に供するなどの応用展開が考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4