TOP > 国内特許検索 > 陽電子消滅寿命測定装置、放射線計測器の調整方法、放射線計測器 > 明細書

明細書 :陽電子消滅寿命測定装置、放射線計測器の調整方法、放射線計測器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-105598 (P2019-105598A)
公開日 令和元年6月27日(2019.6.27)
発明の名称または考案の名称 陽電子消滅寿命測定装置、放射線計測器の調整方法、放射線計測器
国際特許分類 G01T   1/172       (2006.01)
G01T   1/30        (2006.01)
G01N  23/221       (2006.01)
FI G01T 1/172
G01T 1/30
G01N 23/221
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 30
出願番号 特願2017-239693 (P2017-239693)
出願日 平成29年12月14日(2017.12.14)
発明者または考案者 【氏名】平出 哲也
【氏名】安藤 太一
【氏名】真鍋 賢介
【氏名】上田 大介
出願人 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100097113、【弁理士】、【氏名又は名称】堀 城之
【識別番号】100162363、【弁理士】、【氏名又は名称】前島 幸彦
【識別番号】100194146、【弁理士】、【氏名又は名称】長谷川 明
【識別番号】100194283、【弁理士】、【氏名又は名称】村上 大勇
【識別番号】100141324、【弁理士】、【氏名又は名称】小河 卓
審査請求 未請求
テーマコード 2G001
2G188
Fターム 2G001AA08
2G001BA28
2G001CA02
2G001DA06
2G001KA01
2G188AA02
2G188AA27
2G188BB04
2G188BB05
2G188BB06
2G188BB07
2G188BB15
2G188CC21
2G188CC32
2G188DD02
2G188DD05
2G188EE01
2G188EE02
2G188EE03
2G188EE07
2G188EE12
2G188EE16
2G188EE25
2G188EE29
2G188FF11
2G188FF23
要約 【課題】複数の放射線検出器を並列に用いた場合に、各放射線検出器を同時に用いて高精度の測定を行わせる。
【解決手段】スタート用検出器11Aからのパルス出力P0A、スタート用検出器11Bからのパルス出力P0Bと、ストップ用検出器からのパルス出力P1との間の時間差Δtを測定し、Δtのヒストグラムを生成する。パルス出力P1とパルス出力P0Bの時間間隔は、パルス出力P0Aを基準とした場合において、本来の時間間隔であるΔtBに加えて一様にシフト時間Tだけ広がるように設定される。測定されたΔtのヒストグラムである図2の(iii)においては、ΔtBに対してTが一様に付加されたために、左側のピークの分布がΔtAのヒストグラムに対応し、右側のピークの分布がΔtBのヒストグラムに対応する。このΔtBのヒストグラムを横軸方向にシフトさせれば、ΔtAのヒストグラムと重複させることができる。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
陽電子の発生に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をするスタート用検出器と、陽電子の消滅に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をするストップ用検出器と、を具備し、前記スタート用検出器の前記パルス出力のタイミングからの前記ストップ用検出器の前記パルス出力のタイミングの遅延時間を陽電子の発生・消滅の複数のイベントに対して計測し、計測された前記遅延時間のヒストグラムから陽電子の寿命を認識する陽電子消滅寿命測定装置であって、
前記スタート用検出器又は前記ストップ用検出器として、複数のγ線検出器が、複数の前記γ線検出器の出力を各々における時間軸上の前記パルス出力間の関係が維持された状態で混合した単一の入力信号を生成するように接続されて用いられ、
前記入力信号中の前記パルス出力を認識し前記パルス出力に対応した前記遅延時間を認識する共通計数部と、
前記遅延時間のヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、
前記遅延時間のヒストグラムより前記寿命を算出する寿命算出部と、
を具備し、
前記遅延時間のヒストグラムが前記ヒストグラム生成部で前記γ線検出器毎に得られるように、前記入力信号を生成する前に複数の前記γ線検出器のうちの少なくとも一つ以外の出力に対して識別性を付与する識別性生成部を更に具備し、
前記ヒストグラム生成部は、前記γ線検出器毎に得られた前記遅延時間のヒストグラムである個別ヒストグラムの少なくとも一つを前記遅延時間に対して一様にシフトさせた操作を行った上で、他の前記個別ヒストグラムに重畳させた全体ヒストグラムを生成し、
前記寿命算出部は、前記全体ヒストグラムより、前記寿命を算出することを特徴とする陽電子消滅寿命測定装置。
【請求項2】
前記識別性生成部において、前記識別性を付与するために、前記パルス出力のパルス形状を前記γ線検出器毎に定められた態様とすることを特徴とする請求項1に記載の陽電子消滅寿命測定装置。
【請求項3】
前記識別性生成部において、前記パルス出力に対して前記γ線検出器毎に定められた一定の時間差となるシフト時間を付与し、
前記ヒストグラム生成部は、前記入力信号を用いて得られた前記ヒストグラムから、前記個別ヒストグラムを前記遅延時間の時系列に応じて分離することにより得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の陽電子消滅寿命測定装置。
【請求項4】
陽電子の発生に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をするスタート用検出器と、陽電子の消滅に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をするストップ用検出器と、を具備し、前記スタート用検出器の前記パルス出力のタイミングからの前記ストップ用検出器の前記パルス出力のタイミングの遅延時間を陽電子の発生・消滅の複数のイベントに対して計測し、計測された前記遅延時間のヒストグラムから陽電子の寿命を認識する陽電子消滅寿命測定装置であって、
前記スタート用検出器又は前記ストップ用検出器として、複数のγ線検出器が、複数の前記γ線検出器の出力を各々における時間軸上の前記パルス出力間の関係が維持された状態で混合した単一の入力信号を生成するように接続されて用いられ、
前記入力信号中の前記パルス出力を認識し前記パルス出力に対応した前記遅延時間を認識する共通計数部と、
前記遅延時間のヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、
前記遅延時間のヒストグラムより前記寿命を算出する寿命算出部と、
を具備し、
前記共通計数部は、前記入力信号中における前記パルス出力を波形によって複数の前記γ線検出器毎に弁別することによって前記遅延時間を前記γ線検出器毎に認識し、
前記ヒストグラム生成部は、前記γ線検出器毎に得られた前記遅延時間のヒストグラムである個別ヒストグラムを生成し、前記個別ヒストグラムの少なくとも一つを前記遅延時間に対して一様にシフトさせた操作を行った上で、他の前記個別ヒストグラムに重畳させた全体ヒストグラムを生成し、
前記寿命算出部は、前記全体ヒストグラムより、前記寿命を算出することを特徴とする陽電子消滅寿命測定装置。
【請求項5】
各々が放射線を検出してパルス出力をする複数の放射線検出器を同時に用いて放射線を検出する放射線計測器の調整方法であって、
前記放射線検出器が検出する第1放射線を基準タイミングから略一定の時間間隔で発する線源を用い、前記放射線検出器の各々が前記第1放射線を検出する複数のイベントにおいて、
複数の前記放射線検出器の出力を、各々における時間軸上の前記パルス出力間の関係が維持された状態で混合した単一の入力信号を生成して、当該入力信号中の前記パルス出力及び前記パルス出力に対応した時間差を認識する際に、
認識された前記時間差のヒストグラム中において複数の前記放射線検出器の各々の出力に対応したヒストグラムが識別可能となるように、複数の前記放射線検出器のうちの少なくとも一つ以外の出力に対して識別性を付与して前記入力信号を生成し、
前記放射線検出器毎に得られた前記ヒストグラムである個別ヒストグラムの少なくとも一つを前記遅延時間に対して一様にシフトさせた操作を行った上で、他の前記個別ヒストグラムに重畳させる際のシフト量である総シフト時間を算出し、
前記総シフト時間を用いて前記各放射線検出器の検出タイミングを補正することを特徴とする放射線計測器の調整方法。
【請求項6】
前記線源は前記第1放射線とは異なる第2放射線を前記第1の放射線と略一定の時間間隔で発し、
前記放射線検出器と別体で前記第2放射線を検出する参照用放射線検出器を用い、前記参照用放射線検出器が前記第2放射線を検出したタイミングを前記基準タイミングとすることを特徴とする請求項5に記載の放射線計測器の調整方法。
【請求項7】
前記識別性を付与するために、前記パルス出力のパルス形状を前記放射線線検出器毎に定められた態様とすることを特徴とする請求項5又は6に記載の放射線計測器の調整方法。
【請求項8】
前記入力信号を生成するに際し、前記パルス出力に対して前記放射線検出器毎に定められた一定の時間差となるシフト時間を付与し、
前記個別ヒストグラムを生成するに際し、前記入力信号を用いて得られた前記時間差のヒストグラムから、前記個別ヒストグラムを前記時間差の時系列に応じて分離することにより得ることを特徴とする請求項5から請求項7までのいずれか1項に記載の放射線計測器の調整方法。
【請求項9】
各々が放射線を検出してパルス出力をする複数の放射線検出器を同時に用いて放射線を検出する放射線計測器であって、
複数の前記放射線検出器が、各々における時間軸上の前記パルス出力間の関係が維持された状態で混合した単一の入力信号を生成するように接続されて用いられ、
前記入力信号より、前記パルス出力に関する測定結果を得る測定部と、
前記測定部において前記測定結果が複数の前記放射線検出器毎に得られるように、前記入力信号を生成する前に前記パルス出力に対する前記複数の放射線検出器の各々に対応した識別性を生成する識別性生成部と、
を具備し、
前記測定部で、前記識別性に基づいて前記測定結果を複数の前記放射線検出器の各々に分離して認識することを特徴とする放射線計測器。
【請求項10】
前記識別性生成部は、前記パルス出力のパルス形状を前記放射線検出器毎に定められた態様とすることを特徴とする請求項9に記載の放射線計測器。
【請求項11】
前記識別性生成部は、前記パルス出力に対して前記放射線検出器毎に定められた一定のシフト時間を付与することを特徴とする請求項10に記載の放射線計測器。
【請求項12】
前記識別性生成部は、
複数の前記放射線検出器の各々からの前記パルス出力が入力されるに際し、複数の前記放射線検出器毎に設定された識別信号を当該パルス出力と同期して出力して生成した判定用信号を出力し、
前記測定部は、前記判定用信号を参照して前記入力信号から複数の前記放射線検出器毎に前記パルス出力を認識することを特徴とする請求項9から請求項11までのいずれか1項に記載の放射線計測器。
【請求項13】
複数の前記放射線検出器は配列して設置され、前記測定部は前記入力信号中の前記パルス出力と共に前記パルス出力をした前記放射線検出器の配列中における位置情報を認識することを特徴とする請求項9から請求項12までのいずれか1項に記載の放射線計測器。
【請求項14】
複数の前記放射線検出器は測定対象を囲む環状に配置されたことを特徴とする請求項13に記載の放射線計測器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、物質内における陽電子の寿命を測定することによって物質の各種の構造を解析するための陽電子消滅寿命測定装置に関する。また、複数の放射線検出器を同時に用いて放射線の計測を行う際の放射線計測器の調整方法に関する。また、複数の放射線検出器が同時に用いられる放射線計測器に関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子の物質中における寿命を測定することによって、金属,半導体等の結晶中の空孔や各種の点欠陥に関する情報が得られる。また,高分子等の絶縁物中ではサブナノからナノスケールの空隙の情報が得られる。このため、陽電子を物質に照射し、物質中でのその寿命を測定する陽電子消滅寿命測定法が用いられている。陽電子消滅寿命測定法は、特に原子空孔等のサブナノからナノスケールの構造評価に対して有効であることが知られている。
【0003】
陽電子消滅寿命測定法においては、陽電子が物質中の電子と反応して対消滅によって消滅する際の約511keVのエネルギーのγ線を測定することによって、陽電子が消滅したタイミングが認識される。一方、この寿命を計測するための開始タイミングは、陽電子が物質に入射した時点となる。通常の陽電子消滅寿命測定法においては、陽電子源として22Naが用いられ、22Naの原子核がβ崩壊する際に発生する陽電子が測定に用いられる。陽電子源は試料となる物質と接して設けられるため、陽電子が物質に入射したタイミングは、22Na内において原子核がβ崩壊によって発生したタイミングとみなすことができる。このβ崩壊に際しては、陽電子と同時に1.27MeVのエネルギーのγ線が発生するため、このγ線を計測したタイミングが、前記の寿命計測の開始タイミングとされる。このため、1.27MeVのγ線をスタート信号用のγ線(スタート用γ線)とし、約511keVのγ線をストップ信号用のγ線(ストップ用γ線)とし、これらの検出タイミングの時間差を測定することによって、試料中における陽電子の寿命を測定することができる。
【0004】
陽電子消滅寿命測定装置の一般的な構成については、例えば非特許文献1に記載されている。図16は、この陽電子消滅寿命測定装置900の概要を簡略化して示す図である。ここでは、小さな試料Sの中に前記のような陽電子源が設置されているものとする。このため、上記のような2種類のγ線は小さな試料Sから発せられる。スタート信号用γ線γ1を検出するためのγ線検出器(スタート用検出器91)と、ストップ信号用γ線γ2を検出するためのγ線検出器(ストップ用検出器92)が用いられる。どちらのγ線検出器においても、シンチレータと光電子増倍管を組み合わせたものが用いられる。この場合、γ線がシンチレータに入射することによって発生した光パルスを光電子増倍管が検出することによって、1個のγ線光子が入射する度にパルス出力が得られる。また、このパルス出力のパルス高によってγ線のエネルギーが認識できるため、上記のような2種類のγ線の識別が可能であり、波高による弁別を行うことによって、スタート用検出器91がスタート信号用γ線γ1のみを検知し、ストップ用検出器92がストップ信号用γ線γ2のみを検知するような設定とすることができる。
【0005】
このため、図16に示されるように、スタート用検出器91におけるパルス出力P0の直後でストップ用検出器92におけるパルス出力P1が検出される。ここで、パルス出力P1のパルス出力P0からの遅延時間が陽電子の寿命に対応するが、この時間差は実際には非常に小さく、より長いタイムスケールで見た場合には、パルス出力P1とパルス出力P0はほぼ同時であると認識することができる。このため、図16の構成においては、一致検出回路93によってこれらの同時性が認識された場合に、パルス出力P0、パルス出力P1は単一の陽電子発生・消滅イベントに対応していると推定される。このため、一致検出回路93は、これらの同時性が認識された場合にデジタルオシロスコープ94にトリガ信号を発し、デジタルオシロスコープ94がトリガ信号を受信することによって、パルス出力P0、P1がデジタルオシロスコープ94に取り込まれる。ここで、デジタルオシロスコープの代わりに、以下に説明する機能を同様に実現できるデジタイザ等の計測機器を用いることもできる。この際、この測定を容易とするためにパルス出力P1に対して遅延回路95によって一定の遅延時間が付与され、デジタルオシロスコープ94においては、図16に示されるように、パルス出力P0、P1の実際の検出時間の時間差Δtが計測される。一致検出回路93によって同時性が認識されたパルス出力P0、P1が得られる毎にこの測定が行われる。なお、パルス出力P1のパルス出力P0からの遅延時間が陽電子の寿命に対応するが、統計的ゆらぎにより、実際にはこの遅延時間は測定毎に変動する。
【0006】
実際にはスタート用検出器91、ストップ用検出器92においては、スタート信号用γ線γ1、ストップ信号用γ線γ2とは異なる放射線成分(バックグラウンド成分等)やノイズ成分も多く検出されるが、その中から、上記のように同時性が認識されたパルス出力P0、P1のみが有効な成分となる。また、陽電子源あるいは試料Sにおいて実際に発生したスタート信号用γ線γ1、ストップ信号用γ線γ2のうち、上記のスタート用検出器91、ストップ用検出器92で検出されるのは実際にはその一部であり、これらの2つの検出器で対として検出されなかった成分は、上記の陽電子消滅寿命測定には全く寄与しない。これらの理由により、スタート用検出器91、ストップ用検出器92で検出されたパルス出力のうち、陽電子消滅寿命測定に寄与する成分は実際には非常に少ない。
【0007】
このため、上記のように同時性が認識されたパルス出力P0、P1が得られる度にΔtを計測し、デジタルオシロスコープ94と接続されたPC(パーソナルコンピュータ)96は、図16に示されるように、測定されたΔtのヒストグラムを生成し、このヒストグラムから、周知の統計的手法によって、陽電子消滅寿命の平均値やそのばらつきを認識することができる。この場合、統計的誤差を小さくして陽電子消滅寿命の測定精度を高めるためには、このヒストグラムにおけるイベント数を多くすることが必要であるため、スタート用検出器91、ストップ用検出器92でのカウント数(サンプル数)を多くすることが有効であり、このためには、測定時間を十分に長くとることが必要となる。実際にこのために要求される測定時間は、例えば4時間以上と長くなった。すなわち、陽電子消滅寿命測定において、十分な測定精度を確保するためには、十分なサンプル数を得るために長い測定時間を要した。
【0008】
このため、図16の構成において陽電子消滅寿命を高精度で計測することは実際には容易ではない。こうした点を改善するための技術は、例えば特許文献1に記載されている。ここで記載された構成においては、上記のΔtの測定精度を高めるために、スタート用検出器91、ストップ用検出器92の出力のパルス波形がそれぞれデジタル処理された。
【0009】
更に、陽電子消滅寿命測定に有効なγ線を効率的に検出してサンプル数を十分に確保するために、特許文献1には、試料の周囲に多く(3つ以上)のγ線検出器を配置することも記載されている。この構成によって、陽電子の発生・消滅に際して発せられるγ線の検出効率を高め、認識される陽電子の発生・消滅のイベント数を多くすることができる。スタート用検出器が2つ用いられた陽電子消滅寿命測定装置910の構成を図16に対応させて図17に示す。この場合には、同一仕様のスタート用検出器91A、91Bが用いられ、これらのパルス出力P0A、P0Bが共に一致検出回路93、デジタルオシロスコープ94に入力する。この場合には、パルス出力P0Aとパルス出力P1との同時性、パルス出力P0Bとパルス出力P1との同時性が認識され、パルス出力P1と、これと同時性が認識されたパルス出力P0A又はP0Bがデジタルオシロスコープ94に取り込まれ、前記と同様に、Δtが算出され、そのヒストグラムを用いてPC96で寿命が算出される。図17の例ではスタート用検出器が2つ用いられたが、3つ以上を用いることによって陽電子発生の際のγ線の検出効率を更に高めることもできる。あるいは、スタート用検出器を複数用いる代わりにストップ用検出器を複数用いることによって、陽電子消滅の際のγ線の検出効率を高め、認識される陽電子の発生・消滅のイベント数を同様に増やすこともできる。また、スタート用検出器やストップ用検出器を大きくしてそれぞれの検出可能な空間範囲を広げ、同様に検出効率を高めることもできる。すなわち、こうした構成によって、短い測定時間で高精度で陽電子消滅寿命を測定することができると期待される。
【0010】
また、対消滅で発せられるストップ信号用γ線γ2のエネルギースペクトルにおける約511keVの周りの広がり(ドップラー広がり)は、陽電子と反応して対消滅した電子の運動量を反映するため、この広がりを測定することによって、試料Sとなった物質中の電子についての情報が得られる。このため、上記の測定において、更にストップ信号用γ線γ2のエネルギースペクトルを詳細に測定するAMOC(陽電子消滅寿命・運動量相関)測定も行われる。AMOC測定においては、前記のようなタイミングの検出のためにのみ用いられるスタート用検出器、ストップ用検出器(共にシンチレータ+光電子増倍管)と共に、時間分解能はこれよりも劣るが高いエネルギー分解能でγ線のエネルギースペクトルを高精度で測定することができるスペクトル測定用検出器(半導体検出器)が用いられる。このため、AMOC測定においては、3系統でγ線が検出される。一般的に、陽電子の対消滅の際にはほぼ逆向きに2つの光子が発せられるため、この半導体検出器は、試料に対してストップ用検出器とは逆の位置に設置される。
【0011】
図16、17のような単純な陽電子消滅寿命の測定のためには、スタート用検出器91、ストップ用検出器92の2系統における検出の同時性が要求されたが、AMOC測定の場合には、上記に加えて更にスペクトル測定用検出器が加わった3系統での検出の同時性が要求される。このため、AMOC測定においては特に検出効率が低くなり、更に長い測定時間が要求され、実際には、一つの測定に1週間以上を要する場合もあった。このため、図17の構成のように、同一の用途(スタート用、ストップ用)で複数の検出器を用いて検出効率を高めることができれば、AMOC測定においては特に有効である。
【先行技術文献】
【0012】

【非特許文献1】斎藤晴雄、「陽電子寿命測定法」、陽電子科学、第2号、21頁、2014年2月
【0013】

【特許文献1】特開2003-215251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図17の構成のようにγ線検出器の数を多くすれば、陽電子の生成・消滅の際に発せられるγ線の検出効率を高めることはできるものの、これにより陽電子消滅寿命の測定精度を高めることは実際には困難であった。この理由について説明する。
【0015】
図17の構成において計測される時間差Δtは、正確には出力パルスP1と出力パルスP0Aとの間の時間差ΔtAと、出力パルスP1と出力パルスP0Bとの間の時間差ΔtBに大別され、PC96において最終的に得られるヒストグラムは、ΔtとしてΔtAとΔtBとが混在したものとなる。この状況を模式的に図18に示す。図18において、(i)に示されるように、出力パルスP0AによりΔtA、出力パルスP0BによりΔtBが仮に個別に測定され、(ii)に示されるように、ΔtA、ΔtBに関するヒストグラムが得られたものとする。ΔtA、ΔtBは、同一の陽電子発生・消滅現象についての測定値であるために、スタート用検出器91A、91Bとして同一仕様のγ線検出器が用いられた場合には、理想的には(ii)におけるΔtA、ΔtBのヒストグラムは統計的誤差の範囲内で同一となる。この場合、最終的に得られるΔtについてのヒストグラム(iii)は、(ii)における同一となるべき2つのヒストグラムが積算されたものとなるため、(ii)と同一の形状でサンプル数が増強されたものとなる。このため、統計的誤差が減少し、測定時間が短くとも、(iii)のヒストグラムから高精度で陽電子消滅寿命やそのばらつき等を算出することができる。ここで、出力パルスP0A,P0Bが同一の測定チャンネルに入力する場合には、実際にはデジタルオシロスコープ94は、出力パルスP0Aと出力パルスP0Bを識別することができないため、(ii)の各ヒストグラムは得られず、ここで最終的に得られるのは(iii)のヒストグラムとなる。
【0016】
しかしながら、別体とされたスタート用検出器91A、91Bが用いられた場合には、これらが同一仕様であっても、使用された配線長の違い等によって、デジタルオシロスコープ94で認識されるパルス出力のタイミングは一定ではない。例えば、γ線検出器の位置や配線長の3mmのずれは、10psの時間差に対応し、この時間差は、陽電子消滅寿命の測定のために要求される時間分解能と比べて無視できない値であった。このため、図19に示されるように、(ii)において本来は同一となるべきであるΔtA、ΔtBのヒストグラムにおいては、横軸方向における無視できない程度のずれが生じ、これらを重ね合わせた(iii)のヒストグラムは、本来得られるべきΔtのヒストグラム(図18の(iii))とは異なり、このヒストグラムから陽電子消滅寿命等を正確に算出することは困難となった。使用される全ての検出器に対してこうした時間差がないように調整する、あるいはこれを処理時に補正するような構成とすれば、こうした問題点は解消されるが、そのためには多大な労力を要した。
【0017】
図17の構成においてはスタート用検出器が2つ用いられたが、スタート用検出器を3つ以上とした場合においては、こうした状況は更に顕著となる。ストップ用検出器を複数設けた場合においても同様である。
【0018】
また、前記の通り、スタート用検出器、ストップ用検出器のシンチレータを高密度にする、あるいは大きくし、これらによる検出対象となる範囲を広くすることによっても検出効率を高めることができる。しかしながら、一般的に、シンチレータをこのように高密度化あるいは大型化した場合には、その時間分解能が劣化するため、陽電子消滅寿命等の測定精度は劣化した。更に、このような単一の高密度あるいは大型のシンチレータをもった検出器を用いた場合、より小型の複数のシンチレータをもった検出器を用いた場合よりも高コストとなった。
【0019】
このため、複数のγ線検出器を用いても、これによって陽電子の寿命等を高精度で測定することは実際には困難であった。あるいは、より一般的には、上記の理由により、複数の放射線検出器を並列に用いた場合に、各放射線検出器を同時に用いて高精度の測定を行うことは困難となった。
【0020】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の陽電子消滅寿命測定装置は、陽電子の発生に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をするスタート用検出器と、陽電子の消滅に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をするストップ用検出器と、を具備し、前記スタート用検出器の前記パルス出力のタイミングからの前記ストップ用検出器の前記パルス出力のタイミングの遅延時間を陽電子の発生・消滅の複数のイベントに対して計測し、計測された前記遅延時間のヒストグラムから陽電子の寿命を認識する陽電子消滅寿命測定装置であって、前記スタート用検出器又は前記ストップ用検出器として、複数のγ線検出器が、複数の前記γ線検出器の出力を各々における時間軸上の前記パルス出力間の関係が維持された状態で混合した単一の入力信号を生成するように接続されて用いられ、前記入力信号中の前記パルス出力を認識し前記パルス出力に対応した前記遅延時間を認識する共通計数部と、前記遅延時間のヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、前記遅延時間のヒストグラムより前記寿命を算出する寿命算出部と、を具備し、前記遅延時間のヒストグラムが前記ヒストグラム生成部で前記γ線検出器毎に得られるように、前記入力信号を生成する前に複数の前記γ線検出器のうちの少なくとも一つ以外の出力に対して識別性を付与する識別性生成部を更に具備し、前記ヒストグラム生成部は、前記γ線検出器毎に得られた前記遅延時間のヒストグラムである個別ヒストグラムの少なくとも一つを前記遅延時間に対して一様にシフトさせた操作を行った上で、他の前記個別ヒストグラムに重畳させた全体ヒストグラムを生成し、前記寿命算出部は、前記全体ヒストグラムより、前記寿命を算出することを特徴とする。
本発明の陽電子消滅寿命測定装置は、前記識別性生成部において、前記識別性を付与するために、前記パルス出力のパルス形状を前記γ線検出器毎に定められた態様とすることを特徴とする。
本発明の陽電子消滅寿命測定装置は、前記識別性生成部において、前記パルス出力に対して前記γ線検出器毎に定められた一定の時間差となるシフト時間を付与し、前記ヒストグラム生成部は、前記入力信号を用いて得られた前記ヒストグラムから、前記個別ヒストグラムを前記遅延時間の時系列に応じて分離することにより得ることを特徴とする。
本発明の陽電子消滅寿命測定装置は、陽電子の発生に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をするスタート用検出器と、陽電子の消滅に伴って発生するγ線を検出しパルス出力をするストップ用検出器と、を具備し、前記スタート用検出器の前記パルス出力のタイミングからの前記ストップ用検出器の前記パルス出力のタイミングの遅延時間を陽電子の発生・消滅の複数のイベントに対して計測し、計測された前記遅延時間のヒストグラムから陽電子の寿命を認識する陽電子消滅寿命測定装置であって、前記スタート用検出器又は前記ストップ用検出器として、複数のγ線検出器が、複数の前記γ線検出器の出力を各々における時間軸上の前記パルス出力間の関係が維持された状態で混合した単一の入力信号を生成するように接続されて用いられ、前記入力信号中の前記パルス出力を認識し前記パルス出力に対応した前記遅延時間を認識する共通計数部と、前記遅延時間のヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、前記遅延時間のヒストグラムより前記寿命を算出する寿命算出部と、を具備し、前記共通計数部は、前記入力信号中における前記パルス出力を波形によって複数の前記γ線検出器毎に弁別することによって前記遅延時間を前記γ線検出器毎に認識し、前記ヒストグラム生成部は、前記γ線検出器毎に得られた前記遅延時間のヒストグラムである個別ヒストグラムを生成し、前記個別ヒストグラムの少なくとも一つを前記遅延時間に対して一様にシフトさせた操作を行った上で、他の前記個別ヒストグラムに重畳させた全体ヒストグラムを生成し、前記寿命算出部は、前記全体ヒストグラムより、前記寿命を算出することを特徴とする。
本発明の放射線計測器の調整方法は、各々が放射線を検出してパルス出力をする複数の放射線検出器を同時に用いて放射線を検出する放射線計測器の調整方法であって、前記放射線検出器が検出する第1放射線を基準タイミングから略一定の時間間隔で発する線源を用い、前記放射線検出器の各々が前記第1放射線を検出する複数のイベントにおいて、複数の前記放射線検出器の出力を、各々における時間軸上の前記パルス出力間の関係が維持された状態で混合した単一の入力信号を生成して、当該入力信号中の前記パルス出力及び前記パルス出力に対応した時間差を認識する際に、認識された前記時間差のヒストグラム中において複数の前記放射線検出器の各々の出力に対応したヒストグラムが識別可能となるように、複数の前記放射線検出器のうちの少なくとも一つ以外の出力に対して識別性を付与して前記入力信号を生成し、前記放射線検出器毎に得られた前記ヒストグラムである個別ヒストグラムの少なくとも一つを前記遅延時間に対して一様にシフトさせた操作を行った上で、他の前記個別ヒストグラムに重畳させる際のシフト量である総シフト時間を算出し、前記総シフト時間を用いて前記各放射線検出器の検出タイミングを補正することを特徴とする。
本発明の放射線計測器の調整方法において、前記線源は前記第1放射線とは異なる第2放射線を前記第1の放射線と略一定の時間間隔で発し、前記放射線検出器と別体で前記第2放射線を検出する参照用放射線検出器を用い、前記参照用放射線検出器が前記第2放射線を検出したタイミングを前記基準タイミングとすることを特徴とする。
本発明の放射線計測器の調整方法は、前記識別性を付与するために、前記パルス出力のパルス形状を前記放射線線検出器毎に定められた態様とすることを特徴とする。
本発明の放射線計測器の調整方法は、前記入力信号を生成するに際し、前記パルス出力に対して前記放射線検出器毎に定められた一定の時間差となるシフト時間を付与し、前記個別ヒストグラムを生成するに際し、前記入力信号を用いて得られた前記時間差のヒストグラムから、前記個別ヒストグラムを前記時間差の時系列に応じて分離することにより得ることを特徴とする。
本発明の放射線計測器は、各々が放射線を検出してパルス出力をする複数の放射線検出器を同時に用いて放射線を検出する放射線計測器であって、複数の前記放射線検出器が、各々における時間軸上の前記パルス出力間の関係が維持された状態で混合した単一の入力信号を生成するように接続されて用いられ、前記入力信号より、前記パルス出力に関する測定結果を得る測定部と、前記測定部において前記測定結果が複数の前記放射線検出器毎に得られるように、前記入力信号を生成する前に前記パルス出力に対する前記複数の放射線検出器の各々に対応した識別性を生成する識別性生成部と、を具備し、前記測定部で、前記識別性に基づいて前記測定結果を複数の前記放射線検出器の各々に分離して認識することを特徴とする。
本発明の放射線計測器において、前記識別性生成部は、前記パルス出力のパルス形状を前記放射線検出器毎に定められた態様とすることを特徴とする。
本発明の放射線計測器において、前記識別性生成部は、前記パルス出力に対して前記放射線検出器毎に定められた一定のシフト時間を付与することを特徴とする。
本発明の放射線計測器において、前記識別性生成部は、複数の前記放射線検出器の各々からの前記パルス出力が入力されるに際し、複数の前記放射線検出器毎に設定された識別信号を当該パルス出力と同期して出力して生成した判定用信号を出力し、前記測定部は、前記判定用信号を参照して前記入力信号から複数の前記放射線検出器毎に前記パルス出力を認識することを特徴とする。
本発明の放射線計測器は、複数の前記放射線検出器は配列して設置され、前記測定部は前記入力信号中の前記パルス出力と共に前記パルス出力をした前記放射線検出器の配列中における位置情報を認識することを特徴とする。
本発明の放射線計測器において、複数の前記放射線検出器は測定対象を囲む環状に配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は以上のように構成されているので、複数の放射線検出器を並列に用いた場合に、各放射線検出器を同時に用いて高精度の測定を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る陽電子消滅寿命測定装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る陽電子消滅寿命測定装置における各検出器からのパルス出力の状況((i)(i)’)、及びこれにより測定されるΔtのヒストグラム(iii)を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る陽電子消滅寿命測定装置において得られたΔtのヒストグラムに対する処理の手順を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る陽電子消滅寿命測定装置の変形例における各検出器のパルス出力(i)(ii)、これを用いて生成された入力信号(iii)、個別ヒストグラム(iv)の例である。
【図5】本発明の実施の形態に係る陽電子消滅寿命測定装置においてノイズ成分が存在する場合における各ヒストグラムの状況を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る陽電子消滅寿命測定装置の変形例においてノイズ成分が存在する場合における各ヒストグラムの状況を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る陽電子消滅寿命測定装置の変形例における識別性生成部の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る陽電子消滅寿命測定装置におけるスタート用検出器、ストップ用検出器の他の構成の例を示す図である。
【図9】本発明の実施例となる陽電子消滅寿命測定装置において、シフト時間を付与した場合において実測されたΔtのヒストグラムである。
【図10】本発明の実施例となる陽電子消滅寿命測定装置によって得られたヒストグラムと従来の陽電子消滅寿命測定装置によって得られたヒストグラムとを同程度の計数率で比較した結果である。
【図11】本発明の実施例となる陽電子消滅寿命測定装置において、シフト時間を付与した場合とパルス出力の波形による弁別を行った場合における全体ヒストグラムを比較した結果である。
【図12】本発明の実施の形態に係る放射線計測器の調整方法を実施するための装置構成を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る放射線計測器の構成の一例を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る放射線計測器の構成の他の一例を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態に係る放射線計測器において用いられる識別性生成部の他の構成の一例を示す図である
【図16】従来の陽電子消滅寿命測定装置(その1)の構成を示す図である。
【図17】従来の陽電子消滅寿命測定装置(その2)の構成を示す図である。
【図18】従来の陽電子消滅寿命測定装置(その2)において得られる理想的なΔtのヒストグラムの例である。
【図19】従来の陽電子消滅寿命測定装置(その2)において得られる実際のΔtのヒストグラムの例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の陽電子消滅寿命測定装置においては、複数のγ線検出器を同時に使用することによって、陽電子の発生・消滅に際してのγ線の検出効率を高めることができる。一方で、各γ線検出器の検出タイミングのずれを補正することによって、γ線の検出タイミングを正確に認識することができる。このため、この陽電子消滅寿命測定装置によって、陽電子の寿命等を高精度で測定することができる。また、この陽電子消滅寿命測定装置における、複数のγ線検出器におけるこうしたタイミングのずれを補正する方法は、陽電子消滅寿命測定装置に限らず、複数の放射線検出器を同時に用いる場合において検出器毎の計測結果の識別を行い検出タイミングの補正を行う場合に、一般的に適用可能である。更に、この陽電子消滅寿命測定装置において適用された構成は、複数の放射線検出器を同時に用いる場合(配列型放射線検出器の場合も含む)においても適用が可能であり、これによって、単一の測定部(チャンネル)を用いて高精度の測定を行うことが可能となる。

【0025】
この陽電子消滅寿命測定装置100においては、図17に示された陽電子消滅寿命測定装置910と同様に、同一仕様の2つのスタート用検出器11A、11Bが用いられる。スタート信号用γ線γ1の検出に際し、スタート用検出器11Aからはパルス出力P0A、スタート用検出器11Bからはパルス出力P0Bが発せられる。また、ストップ用検出器12も同様に用いられ、ストップ信号用γ線γ2の検出に際し、ストップ用検出器12からはパルス出力P1が発せられ、遅延回路15を介してパルス出力P1はデジタルオシロスコープ(共通計数部)14に入力する。一致検出回路13は、パルス出力P0A又はP0Bとパルス出力P1との間の同時性が認められた場合に、デジタルオシロスコープ14に対して入力信号を取り込ませるためのトリガを発する。デジタルオシロスコープ14が、スタート用検出器11Aからのパルス出力P0A、スタート用検出器11Bからのパルス出力P0Bと、ストップ用検出器12からのパルス出力P1との間の時間差Δtを測定し、PC(パーソナルコンピュータ)16がΔtのヒストグラムを生成することも同様である。すなわち、PC16は、Δtのヒストグラムを生成するヒストグラム生成部として機能する。

【0026】
ただし、ここでデジタルオシロスコープ14に入力する入力信号は、図17の構成の場合とは異なる。図1の構成においては、パルス出力P0Aとパルス出力P0Bは同一経路で入力信号としてデジタルオシロスコープ14に入力するが、その際に、パルス出力P0Aは遅延回路21A、パルス出力P0Bは遅延回路21Bをそれぞれ通過し、遅延回路21A、遅延回路21Bでは異なる遅延時間が付与される。すなわち、図1の構成においては、パルス出力P0A、P0Bが遅延回路21A、21Bを具備する識別性生成部20を通過後に合流して単一の入力信号が生成され、この入力信号が、デジタルオシロスコープ14においてパルス出力P1との間の時間差Δtを測定するための対象として用いられる。デジタルオシロスコープ14は、この入力信号において、パルス出力P0A、P0Bを同様に認識し、これらとパルス出力P1との時間差Δtを計測する。

【0027】
図2は、この場合において測定されるΔtの状況を図18に対応して模式的に示す図である。ここで、(i)においてパルス出力P0A、P1間の時間差ΔtA、パルス出力P0B、P1間の時間差ΔtBが、共通の陽電子消滅寿命に対応することは前記と同様である。ここで、上記の遅延回路21A、21Bの遅延時間は、デジタルオシロスコープ14において、(i)’に示されるように、パルス出力P1とパルス出力P0Bの時間間隔は、パルス出力P0Aを基準とした場合において、本来の時間間隔であるΔtBに加えて一様にシフト時間Tだけ広がるように設定される。シフト時間Tは、想定される陽電子消滅寿命よりも十分に長く設定される。このようにタイミングが一様にTだけ先行するように設定されたパルス出力P0Bと、前記のパルス出力P0Aが合流して単一の入力信号が生成される。

【0028】
図2において、(iii)は、この入力信号を用いてΔtを計測して得られたヒストグラムを模式的に示す。このヒストグラムは、デジタルオシロスコープ14に接続されたPC16が作成することができる。図18の(iii)においては、陽電子消滅寿命に基づく本来の分布における単一のピークの分布が見られ、図19の(iii)においては、陽電子消滅寿命に基づく本来の分布が横軸方向でずれたものが加算されたために2つのピークが混在し、かつこの2つの分布が分離困難となった分布が得られた。これに対し、測定されたΔtのヒストグラムである図2の(iii)においては、ΔtBに対してTが一様に付加されたために、横軸(時間軸)上で明確に分離された2つのピークの分布がみられ、左側のピークの分布がΔtAのヒストグラムに対応し、右側のピークの分布がΔtBのヒストグラムに対応する。すなわち、この場合には、単一の入力信号を用いて、スタート用検出器11A、11B(ΔtA、ΔtB)毎のヒストグラム(個別ヒストグラム)を横軸上で分離して得ることができる。前記の通り、本質的には、ΔtAのヒストグラムとΔtBのヒストグラムは、同じ測定対象かつ同一仕様のγ線検出器によるものであるため、この横軸上のずれがない場合には統計的誤差の範囲内で一致すべきものである。パルス出力P0Bに対して一様にシフト時間Tを付与することによって、図2の(iii)においては、図19の(iii)では分離できなかったΔtA、ΔtBのヒストグラム(個別ヒストグラム)を、単一のデジタルオシロスコープ14を用いて分離して得ることができる。

【0029】
図16や図18の(iii)のヒストグラムを得るためにΔtを測定を行う際に、図15、16のデジタルオシロスコープ94において、計測を行う時間のレンジT0が設定される。このT0は、図16や図18の(iii)のヒストグラムにおける横軸のレンジ(最大値)となる。陽電子消滅寿命を正確に算出するためには、T0は、図18の(iii)のヒストグラムを十分に含むように長く設定することが好ましい。一方、T0を長くとりすぎた場合には、ヒストグラムにおける時間分解能が低下するため、T0は、ヒストグラムにおける時間分解能を十分に確保できる範囲内で、想定される陽電子消滅寿命よりも十分に長く設定される。

【0030】
図2の(iii)のヒストグラムを得る場合のレンジT1は、シフト時間Tよりも長く設定される。また、シフト時間Tは、ΔtAのヒストグラムとΔtBのヒストグラムとを時間軸方向で十分に分離できるように長く設定することが好ましい。一方、前記のT0と同様に、T1を長くした場合には、ヒストグラムの時間分解能が低下する。このため、シフト時間Tは、上記のT0と同等とすることが好ましい。この場合に、レンジT1は前記のレンジT0の2倍程度とすることが好ましい。

【0031】
図2の(iii)において得られたΔtBのヒストグラム(右側の分布)は、横軸(時間軸)方向のずれ以外については、ΔtAのヒストグラム(左側の分布)と統計的誤差範囲内で一致するべきものである。このため、このΔtBのヒストグラムを横軸方向にシフトさせれば、ΔtAのヒストグラムと重複させることができ、この状態で各ヒストグラムのカウント数を加算すれば、サンプル数が多いためにより統計的精度の高いヒストグラム(全体ヒストグラム)を得ることができ、PC16は、これを用いて陽電子消滅寿命等をより正確に算出することができる。この算出方法としては、周知の方法として、例えば非特許文献1に記載されたものと同様の方法を用いることができる。この構成においては、PC16は、上記のΔtのヒストグラムを生成し、かつこのヒストグラムから個別ヒストグラムを抽出して積算した全体ヒストグラムを得るヒストグラム生成部として機能し、かつこの全体ヒストグラムから陽電子消滅寿命を算出する寿命算出部として機能する。

【0032】
ΔtBのヒストグラムにおける横軸方向のずれ量は、前記のシフト時間Tと、前記のようなスタート用検出器11A、11Bにおけるタイミングのずれによって発生する。シフト時間Tは遅延回路15、21等によって設定される設定値であるが、スタート用検出器11A、11Bにおけるタイミングのずれは設定値ではなく、このための測定を別途行わない場合には、一般的には不明である。

【0033】
ここで、時間軸方向におけるシフト量を除いてはΔtA、ΔtBのヒストグラムは統計的誤差の範囲内で一致するという前提条件があるため、逆にこのシフト量(総シフト時間)を算出(補正)することができる。図3は、このための処理を模式的に示す。まず、図3(a)に示されるように、ΔtBのヒストグラムを左方向にTsだけシフトさせてΔtAのヒストグラムと一致させることができる。この場合、統計的ばらつきの存在のために、両者は厳密には一致しないが、各種の手法によって、両者を重複させることができる。このためには、例えば、各分布における特定の点(例えばピークやピークに対する一定の比となる点)が一致するようにする、重心が一致するようにする、最小二乗法によって両者の差が最小となるようにする、等の手法が考えられる。その後、シフト後のΔtBのヒストグラムをΔtAのヒストグラムに加算すれば、このヒストグラムは、図18の(iii)のヒストグラムと同様に、十分なサンプル数からなるヒストグラムとなるため、これから陽電子消滅寿命等をより正確に算出することができる。この際のシフト量が、上記のシフト時間Tと2つの検出器のタイミングのずれによるシフトとが加味された総シフト時間Tsとなる。

【0034】
この手法においては、スタート用検出器11Bのパルス出力P0Bに対して選択的にシフト時間Tを付与することによって、ΔtAのヒストグラムとΔtBのヒストグラムとを、単一の計測器(デジタルオシロスコープ14)を用いて分離して得ることができる。更に、これらのヒストグラムを加算して、サンプル数が多く統計的誤差の小さなヒストグラムを得ることができる。このヒストグラムを用いて、高い精度で陽電子消滅寿命等を算出することができる。

【0035】
図3に示された処理は、デジタルオシロスコープ14に接続されたPC16を用いて容易に行うことができる。また、この陽電子消滅寿命測定装置100(図1)において、同様に2つのスタート用検出器を用いた陽電子消滅寿命測定装置910(図17)と比べて異なるのは、遅延回路21A、21B(識別性生成部20)を設けた点のみであり、ΔtA、ΔtB(Δt)の測定のためには、単一の計測器(デジタルオシロスコープ14)を同様に用いることができる。このため、この陽電子消滅寿命測定装置100を安価に実現することができる。なお、上記の構成においては、PC16がΔt、ΔtA、ΔtBのヒストグラムを生成するヒストグラム生成部、全体ヒストグラムから陽電子消滅寿命を算出する寿命算出部を兼ねるものとしたが、これらを分離して設けてもよい。

【0036】
上記の構成においては、スタート用検出器が2つ用いられたが、スタート用検出器を1つとし、ストップ用検出器を2つ用いた場合においても、ストップ用検出器のうちの一方の出力にシフト時間を付与することによって、このストップ用検出器側の個別ヒストグラムを分離して認識し、上記と同様の処理を行うことができる。また、スタート用検出器、ストップ用検出器のいずれかを3つ以上設け、そのうちの1つ以外の出力に対して異なるシフト時間を付与することによって、同様に各検出器に対応した個別ヒストグラムを分離して認識し、同様の処理を行うことができる。

【0037】
図1の構成において、陽電子消滅寿命を正確に算出するためには、出力が同程度となるように調整されたスタート用検出器11A、11B、ストップ用検出器12からのパルス出力のタイミングを陽電子消滅寿命のスペクトルの時間幅よりも十分に小さな時間分解能で認識することが要求される。この際、前記の通り、デジタルオシロスコープ14でこのパルス出力を認識する際のタイミングを精密に調整する必要がある。図1の構成においては、この調整はスタート用検出器11Aとストップ用検出器12に関してのみ行えばよく、スタート用検出器11Bについては行う必要がない。このため、この陽電子消滅寿命測定装置100の調整は容易である。更に、上記のように検出器を多く設けた場合においても、そのうちの一部の検出器に対してのみ調整を行えば、他の検出器に対する調整は不要となる。

【0038】
図1の構成において、例えば、試料Sの上側にスペクトル測定用検出器(半導体検出器)を設置し、スペクトル測定用検出器、スタート用検出器11A、11B、ストップ用検出器12との同時測定を行う構成として、AMOC測定を行うこともできる。この場合においても、スタート用検出器を2つ同時に用い、かつこれらによるヒストグラムを高精度で得ることができるために、AMOC測定をより高精度、あるいはより短時間で行うことができる。

【0039】
図1の構成においては、スタート用検出器11Bの出力に一様にシフト時間Tを付与することによって、ΔtBのヒストグラムとΔtAのヒストグラムを横軸(時間軸)上で分離して認識することができるため、デジタルオシロスコープ14は、入力信号中におけるパルス出力がP0A、P0Bのどちらであるかを認識することなく、入力信号中で認識されたパルス出力とパルス出力P1の時間差Δtのみを計測する。この場合にΔtの測定結果から得られたヒストグラム(図2(iii))において、ΔtAとΔtBのヒストグラムが分離されて認識される。最終的に必要となる測定結果がΔtのヒストグラムであれば、デジタルオシロスコープ14は、入力信号中におけるパルス出力がP0A,P0Bのどちらであるかを認識することは不要で、ヒストグラム中でΔtA,ΔtBの分布が識別できれば十分であり、このためには上記のようにシフト時間Tを一方のパルス出力のみに与えればよい。このような処理を行うに際し、上記のデジタルオシロスコープ14に代わり、アナログ回路を用いることもできる。

【0040】
一方、各種のデジタル処理を行うことのできるデジタルオシロスコープ14を用いた場合には、入力信号におけるパルス出力を波形により弁別することもできる。スタート用検出器11A、11Bにおいて、例えば使用されたシンチレータや光電子増倍管が同一仕様であっても、後述するように、このパルス出力の波形が異なるように設定することができる。こうした場合には、デジタルオシロスコープ14が、パルス出力P0A、P0Bを識別した上で、個別ヒストグラム(図18(ii))を得ることができ、これを用いて図3と同様の処理を行うことができる。

【0041】
このため、上記の陽電子消滅寿命測定装置100の変形例として、上記のようにパルス出力P0Bに対してシフト時間Tを付与する識別性生成部20に代わり、パルス出力P0A、P0Bのパルス形状に対して識別性を付与する識別性生成部を用いることができる。この場合の信号の状況、及び測定の概要を図4に模式的に示す。図4において、(i)はスタート用検出器11Aの出力信号で、(ii)はスタート用検出器11Bの出力信号、(iii)はストップ用検出器12の出力信号を模式的に示す。スタート用検出器11Aの出力信号(i)においてはパルス出力P0Aが、スタート用検出器11Bの出力信号(ii)においてパルス出力P0Bが、ストップ用検出器12の出力信号(iii)においてパルス出力P1がそれぞれ時系列的に発せられている。ここで、(i)、(ii)、(iii)の信号から生成される入力信号は(iv)において示され、ここで点線で示されたパルス出力は、ストップ用検出器12のパルス出力P1との同時性が認識されなかったパルス出力P0A又はP0Bであり、スタート用検出器11A、スタート用検出器11Bから出力はされるものの、一致検出回路13からトリガ信号が発せられないためにデジタルオシロスコープ14には取り込まれないパルス出力である。

【0042】
ここでは、スタート用検出器11Bの出力にシフト時間Tは付与されずに(i)の出力信号と(ii)の出力信号のうち、パルス出力P1との同時性が認められたものが合流するため、デジタルオシロスコープ14に入力する入力信号は、(iv)となる。ここではパルス出力P0Aとパルス出力P0Bとが混在しているが、デジタルオシロスコープ14がパルス出力P0Aとパルス出力P0Bとを識別できれば、図4の(v)に示されるように、パルス出力P0Aが認識された場合にはこれとパルス出力P1との時間差をΔtAとして、パルス出力P0Bが認識された場合にはこれとパルス出力P1との時間差をΔtBとして、それぞれ認識することができる。PC16は、この結果より、ΔtA、ΔtBのヒストグラム(個別ヒストグラム)を生成することができる。

【0043】
図2の例では、ΔtBのヒストグラムには、ΔtAのヒストグラムからのシフト時間Tが付与されたのに対し、この場合においては、シフト時間Tは付与されていない。しかしながら、前記のようにスタート用検出器11A、スタート用検出器11Bにおいては、検出器毎のタイミングのずれが存在し、ΔtBのヒストグラムは、ΔtAのヒストグラムから横軸方向でこのずれ量だけシフトしている。このため、図3と同様の処理を行うことによって、このずれ量を総シフト時間Tsとして算出し、ΔtBのヒストグラムとΔtAのヒストグラムを重複させた上で積算し、より統計的誤差の少ないヒストグラム(全体ヒストグラム)を得ることができる。このヒストグラムを用いて、同様に高精度で陽電子消滅寿命を算出することができる。

【0044】
このように波形によってパルス出力P0Aとパルス出力P0Bを弁別して計数を行う場合においては、前記のようにシフト時間Tを設定する場合よりも、更に高精度の測定が可能となる。この点について以下に説明する。

【0045】
同時計数を行うことによって有効なパルス出力P0A、P0Bを選別した場合でも、陽電子の発生・消滅とは無関係のランダムなノイズ成分を完全に除去することは実際には困難であり、このノイズ成分は、陽電子消滅寿命の算出に悪影響を及ぼす。このようなノイズ成分が存在する場合における各ヒストグラムの状況を模式的に図5に示す。図5(a)は、このようなノイズ成分が存在する場合における単一のスタート用検出器を用いた場合のΔtのヒストグラムであり、ノイズがランダムであれば、ノイズ成分は、この中では縦軸のオフセット成分であるNとなり、本来の信号となる部分のピーク値はS0となる。ノイズの影響を低減してこのヒストグラムより陽電子消滅寿命を高精度で算出するためには、これらの比率S0/Nが大きいことが好ましい。

【0046】
この場合において、図2のようなシフト時間Tを付与する処理を行った場合に得られるヒストグラムを、図2の(iii)に対応させて図5(b)に示す。ここではパルス出力P0Bに対して一様にシフト時間Tが付与された上で、スタート用検出器11A、スタート用検出器11Bの出力が重畳されるため、パルス出力P0Aに対応したピーク値S0の部分とパルス出力P0Bに対応したピーク値S0の部分とが、横軸上で分離して得られる。ここで、ノイズ成分は、2つの検出器の出力が重畳されるために、2×Nとなる。このため、図5(b)のヒストグラムにおいては、本来の信号となる部分のピーク値とノイズとの比率はS0/(2×N)となり、図5(a)の場合の半分となる。

【0047】
この場合に図3に示されるようにΔtBのヒストグラムを分離してΔtAのヒストグラムに重ね合わせる作業を行った状況を図5(c)に示す。この場合には、重ね合わせのために本来の信号となる部分のピークが2×S0となる一方で、ノイズ成分は2×2×Nとなる。このため、この場合における本来の信号となる部分のピーク値とノイズとの比率は(2×S0)/(4×N)=S0/(2×N)となる。すなわち、この場合のこの比率は単一のスタート用検出器を用いた場合(図5(a))の半分となる。この例においては、スタート用検出器が2つであったためにこの比の分母が2×Nとなったが、スタート用検出器がn個の場合には、分母はn×Nとなるため、この比は更に低下する。すなわち、図1の構成のようにシフト時間を付与することによって検出器毎の個別ヒストグラムを得る場合には、検出器の個数を増やすに従って、ノイズ成分の影響は大きくなる。

【0048】
これに対して、図4に示されたようにパルス出力P0Aとパルス出力P0Bを弁別して計数する場合の状況を同様に図6に示す。ここで、図6(a)は、弁別を行わずに計数を行った場合のヒストグラムであり、図19の(iii)と同様である。ここで、個々の検出器で得られるべきヒストグラムが図5(a)の通りであれば、図19の(iii)と同様のヒストグラムにおいては、ノイズ成分は重複するため、図6(a)におけるノイズ成分は図5(b)と同様に2×Nとなる。また、この分布においては、本来の信号となる部分は、前記の通り、ピークの位置がずれた分布が重ね合わされるため、本来の分布とは異なる形状となる。パルス出力P0Aとパルス出力P0Bを弁別した場合には、図6(a)のヒストグラムがパルス出力P0A、P0B毎に分離して得られる。ここで、本来のパルス出力によるカウント数は、パルス出力P0Aに対するもの、パルス出力P0Bに対するもののいずれかに2分される。一方、ノイズ成分となるパルスの波形に関しては、どちらにも該当しないために、ノイズはこの計数の際に除去することも原理的には不可能ではないが、実際にはこの弁別によりノイズを完全に除去することは困難である。ここでは、仮に、ノイズは、パルス出力P0Aとして認識されるものとパルス出力P0Bとして認識されるものに2分されるものとする。これは、この手法においてノイズの影響が最も大きくなる場合に対応する。

【0049】
この場合に得られるΔtAのヒストグラムを図6(b)に、ΔtBのヒストグラム(個別ヒストグラム)を図6(c)にそれぞれ示す。各々におけるノイズレベルはN1、N2となり、どちらも図6(a)におけるノイズレベル(=2×N)の半分(=N)となる一方、本来の信号となる部分のピーク値は、図5(a)と同様にS0となるため、結局、各々のヒストグラムは図5(a)と同様となる。その後に図3に示された処理を行った場合のヒストグラム(全体ヒストグラム)を図6(d)に示す。この場合においては、本来の信号となる部分のピーク値は2×S0となり、ノイズレベルは2×Nとなる。このため、本来の信号となる部分のピーク値とノイズとの比率は(2×S0)/(2×N)=S0/Nとなり、図5(a)と等しく、図5(c)の場合の2倍となる。すなわち、この場合には図5(c)の場合よりも全体ヒストグラム中におけるノイズ成分の割合が減少し、この処理によってノイズ成分を相対的に減少させることができる。このため、波形による弁別を行う場合には、シフト時間Tを付与する場合よりもノイズ成分の寄与を相対的に低減させることができ、より高精度に陽電子消滅寿命等を計測することができる。この比率は、スタート用検出器の数を増やした場合においても変わらない。

【0050】
このため、こうした効果は、検出器の数(波形毎に弁別して得られる個別ヒストグラムの数)が多くなった場合に、特に顕著となる。また、前記の通り、図6の結果は、ノイズがパルス出力P0A、P0Bのいずれかとして認識されるものとしていたが、少なくともノイズの一部は、そのパルス形状により、パルス出力P0A、P0Bのどちらにも該当しないものとして計測の際に除外することができる。

【0051】
上記のように、同一仕様のγ線検出器がスタート用検出器11A、11Bとして用いられた際に、パルス出力P0A、P0Bを波形によって弁別させるために、これらの波形が異なるように成形する手法の例について説明する。図7は、この手法を用いる場合の識別性生成部30の一例の構成及び信号の波形を示す図である。スタート用検出器11A、スタート用検出器11Bが同一仕様であれば、これらから出力された直後においては、パルス出力P0A、P0Bは単一ピークの同一形状であり、波形による区別が困難な状態となっている。ここで、スタート用検出器11Aの出力は成形部31Aを通過し、スタート用検出器11Bの出力は成形部31Bを通過する。成形部31A、31Bにおいては、信号電圧を分割しその一方を分岐させる分岐部32と、分岐部32によって分割された信号の一部に遅延時間を付与する遅延回路33A、33Bがそれぞれに設けられる。この遅延回路33A、33B通過後の信号は、分岐部31を通過後の他方の信号と合流する。このため、成形部31A、31Bをそれぞれ通過した後のパルス出力P0A、P0Bの形状は、他方の信号に対応する主ピークの後に副ピークが追加された形状となる。

【0052】
図7の例においては、遅延回路33Bで付与される遅延時間は、遅延回路33Aで付与される遅延時間よりも長く設定される。これにより、パルス出力P0A、P0Bにおける主ピークと副ピークの間隔は異なる。デジタルオシロスコープ14において、このように主ピークと副ピークからなる出力パルスを単一の出力パルスとして認識し、主ピークと副ピークの間隔によってパルス出力P0A、P0Bを識別する設定とすることができる。主ピークに基づいてΔtを算出する設定とすれば、こうしたパルス形状を用いても、上記のようにΔtを適正に測定することができる。

【0053】
なお、図7の構成は、同一仕様とされたスタート用検出器11A、11Bが発するパルス出力P0A、P0Bの波形に対して識別性を付与するための一手法であり、パルス出力P0A、P0Bの検出時刻が適正に認識されて計数できる限りにおいて、他の構成を用いて、パルス出力の波形を他の形状とすることもできる。例えば、図7の例ではそれぞれの出力を分岐させて遅延時間を付与することによって副ピークを形成したが、反射等を用いて副ピークを生成することもできる。あるいは信号が発生したときに,矩形波等を発生する回路を組み込みその矩形波の組み合わせで検出器毎にパルス出力を認識させるようなことも可能である。あるいは、スタート用検出器11A、11Bのパルス出力P0A、P0Bは、共にプリアンプを介して出力されるが、この際に出力されるパルス波形自身にデジタルオシロスコープが認識可能な識別性がある場合には、上記のような識別性を新たに付与することは不要である。また、前記のようにシフト時間を付与すると共に、検出器毎にこのように波形を設定してもよい。

【0054】
上記の構成によって、複数のγ線検出器を用いて陽電子消滅寿命を精密に測定することができる。図1の構成では、試料Sを挟んで対向するようにスタート用検出器11A、11Bが設けられ、これらと直交する位置にストップ用検出器が設けられたが、効率的にスタート信号用γ線γ1、ストップ信号用γ線γ2を検出できる限りにおいて、他の構成を用いることもできる。

【0055】
図8は、スタート用検出器、ストップ用検出器の他の構成の例を示す図((a)(b)は上面図、(c)は斜視図)である。図8(a)においては、同一平面上において、スタート用検出器11A、11Bと、ストップ用検出器12が、試料Sの周囲で120°間隔で設置されている。この場合には、スタート用検出器11A,11Bについて、前記の構成を適用し、スタート用検出器11Aのパルス出力とストップ用検出器12のパルス出力との時間差、スタート用検出器11Bのパルス出力とストップ用検出器12のパルス出力との時間差のそれぞれのヒストグラムを得た上で、これらを重ね合わせる上記の処理を行うことができる。

【0056】
図8(b)においては、逆に、スタート用検出器11と、ストップ用検出器12A、12Bが、試料Sの周囲で120°間隔で設置されている。この場合には、ストップ用検出器12A、12Bについて、前記の構成を適用し、スタート用検出器11のパルス出力とストップ用検出器12Aのパルス出力の時間差、スタート用検出器11のパルス出力とストップ用検出器12Bのパルス出力の時間差のそれぞれのヒストグラムを得た上で、これらを重ね合わせる上記の処理を行うことができる。

【0057】
図8(c)においては、スタート用検出器11A、11Bと、ストップ用検出器12Aが、図8(a)と同様に同一平面上で試料Sの周囲で120°間隔で設置されており、更にストップ用検出器12Bが、この平面と直交するように設置されている。この場合には、スタート用検出器11A、11B、ストップ用検出器12A、12Bのそれぞれに対して上記の構成を適用することによって、スタート用検出器11Aのパルス出力とストップ用検出器12Aのパルス出力の時間差、スタート用検出器11Bのパルス出力とストップ用検出器12Aのパルス出力の時間差、スタート用検出器11Aのパルス出力とストップ用検出器12Bのパルス出力の時間差、スタート用検出器11Bのパルス出力とストップ用検出器12Bのパルス出力の時間差の4つのヒストグラムを得た上で、これらを重ね合わせることができる。

【0058】
図8(a)(b)の場合に重ね合わせられるヒストグラムは2つであったのに対し、この場合に得られるヒストグラムは、4つのヒストグラムの重ね合わせとなるため、更にヒストグラムにおけるカウント数を増やすことができ、統計的誤差を少なくすることができる。なお、この場合において、図3のようにシフト時間Tを付与する場合には、上記の4つの組み合わせが時間軸上で識別できるように、各組み合わせに対して付与されるシフト時間Tは設定される。一方、図7に示されるようにパルス出力の形状に識別性を付与する場合には、スタート用検出器11Aのパルス出力とスタート用検出器11Bのパルス出力、ストップ用検出器12Aのパルス出力とストップ用検出器12Bのパルス出力を、それぞれ識別可能とすればよい。

【0059】
図3において、ヒストグラムを重ね合わせる処理を行う際に、シフト時間Tと検出器毎のタイミングのずれ量とが加味された総シフト時間Tsが算出された。総シフト時間Tsは、装置のセットアップがされ、試料Sや各検出器が固定された後では変化しないと考えられる。このため、ΔtBのヒストグラムがΔtAのヒストグラムと重複するように移動させて総シフト時間Tsを算出する作業は、各検出器の測定タイミングの経時変化や試料Sの位置の変化が無視できる限りにおいて、測定の1回目のみ行い、このTsを記憶すれば、これより後はTsを測定せずに、全体ヒストグラムを生成することができる。これによって、処理時間をより短縮化することができる。この点については、シフト時間Tを付与することによってΔtAのヒストグラムとΔtBのヒストグラムを分離する場合(図3)においても、シフト時間Tを付与せずにパルス出力自身を弁別してΔtAのヒストグラムとΔtBのヒストグラムとを個別に得る場合(図4)のどちらにおいても同様である。

【0060】
なお、上記の例では、スタート用検出器11A、11Bが同一仕様のものであるために、これらによる個別ヒストグラムが統計的誤差の範囲内で一致するものとした。しかしながら、上記と同様に個別ヒストグラムを重ね合わせる処理を行うことができ、これによってより統計的ばらつきの少ないヒストグラムが得られる限りにおいて、これらが同一仕様である必要はない。スタート用検出器が3つ以上設けられた場合、ストップ用検出器が複数設けられた場合においても、同様である。

【0061】
実際に同一の試料Sに対して図1の構成の陽電子消滅寿命測定装置100(実施例装置)を用いてΔtのヒストグラムを作成した。試料Sとしては、陽電子発生源として22Na、陽電子消滅寿命の測定対象となる物質としてポリエチレンを組み合わせたものを用いた。ここで、図9は、パルス出力P0Bに対してシフト時間Tを付与した上でデジタルオシロスコープ14で測定したΔtのヒストグラムであり、図2(iii)に対応する。ここでは、同一形状2つの分布が横軸上で明確に分離して得られ、左側の分布がパルス出力P0Aに、右側の分布がパルス出力P0Bにそれぞれ対応する。その後、図3に示された処理を行った後に最終的に得られた全体ヒストグラムを図10に示す。ここで、この全体ヒストグラムは実施例装置(白丸)として示されており、図16に記載の陽電子消滅寿命測定装置900(従来装置)によって得られたヒストグラムも黒丸で示されており、検出器の計数率は同等としている。ここで、実施例においては、より高いカウント数が得られたために統計的精度の高い結果が得られている。また、一般的には放射線検出器の検出効率と時間分解能はトレードオフの関係にあるが、このように実施例では検出効率を高くすることができたために、放射線検出器自身の検出効率を低下させても時間分解能の高いものを用いることができた。このため、実施例においては密度の高いシンチレータを用いたより時間分解能の高い放射線検出器が用いられ、このために分布自身が鋭くなっており、陽電子消滅寿命やその分布の広がり(試料となる物質中の構造に関わる情報)をより高精度に算出することができる。

【0062】
また、同一の測定対象について、上記と同様にパルス出力の識別化のためにシフト時間Tを付与した上で最終的に得られた全体ヒストグラムと、パルス出力の形状を検出器毎に設定して波形による弁別を行った上で最終的に得られた全体ヒストグラムを比較した結果を図11に示す。前記の通り、本来の陽電子消滅寿命に対応した分布は同様に得られているが、図5(a)等に示されたノイズ成分が、波形による弁別を行った場合には相対的に大きく低減されることが確認できた。

【0063】
また、上記においては、陽電子消滅寿命測定装置100について説明された。しかしながら、複数の検出器を同時に用いた放射線計測器において、上記のスタート用検出器11A、11Bと同様に、各放射線検出器における検出タイミングのずれが問題になるような場合においては、上記と同様の手法を用いることによって、このような検出タイミングのずれを正確に算出することができ、以降の処理において、このずれを補正することができる。また、上記のようなγ線検出器(放射線検出器)と同様にフォトンカウンティングを行う検出器が複数用いられる限りにおいて、この手法を適用できることは明らかであり、ここで、フォトンカウンティングで検出されるフォトン(光子)としては、厳密には可視光等のように、放射線とは異なるものであってもよい。このため、ここでいう「放射線」とは、任意の粒子線や、任意のエネルギーの光子も含めた広い概念のものを含むものとする。

【0064】
すなわち、このような調整の対象となる複数の放射線検出器を図1におけるスタート用検出器11A、11Bとして用い、これらとは別に、参照用放射線検出器をストップ用検出器12として用い、複数の放射線検出器(スタート用検出器11A、11Bに対応)がスタート信号用放射線(第1放射線)を検出し、これらと別に設けた参照用放射線検出器(ストップ用検出器12)がストップ信号用放射線(第2放射線)を検出するように構成し、上記と同様の操作を行い、総シフト時間Tsを算出し、各放射線検出器間の検出タイミングのずれを算出することができる。後でこれらの放射線検出器を用いる際にこのずれを考慮した処理を行うことができる、すなわち、この放射線計測器の調整を行うことができる。

【0065】
ここで、スタート信号用放射線、ストップ信号用放射線の線源としては、γ線を発する上記の試料Sを同様に用いることができる。しかしながら、ストップ信号用放射線とスタート信号用放射線が発せられる時間差が略一定(時間差が零:同時である場合も含む)であれば、上記と同様に個別ヒストグラム、全体ヒストグラムを生成することができ、上記の陽電子消滅寿命測定装置100と同様の処理を行うことが可能であるため、こうした特性をもつ放射線を発する線源を試料Sの代わりに用いることもできる。また、この放射線検出器が検出する放射線はγ線に限定されない。例えば、スタート信号用放射線、ストップ信号用放射線として、他の放射線(光子、α線、β線等)を用いることもできる。また、調整の対象となる放射線検出器が本来の用途において検出する放射線と、スタート信号用放射線、ストップ信号用放射線とが同一の種類の放射線である必要はない。例えば、調整の対象となる放射線検出器が本来は荷電粒子線を検出するためのものである場合においても、放射線検出器が同様に検出することができる限りにおいて、スタート信号用放射線、ストップ信号用放射線として、γ線を用いることもできる。また、スタート信号用放射線とストップ信号用放射線が同一種類の放射線である必要もない。

【0066】
図12は、この調整方法を実施する場合の装置構成を示す図である。ここでは、3つの放射線検出器41A、41B、41Cが並列に用いられた放射線計測器41がこの調整がなされる対象となっており、これらの間における放射線の検出タイミングのずれが測定されるものとする。スタート信号用放射線となる第1放射線X1、ストップ信号用放射線となる第2放射線X2は、共に線源Xから発せられるものとする。放射線検出器41A~41Cは、図1におけるスタート用検出器11A、11Bに対応し、図1においてはスタート用検出器が2つ用いられていたが、ここでは、調整対象となる放射線検出器が3つであるものとする。放射線検出器41A~41Cは、共に第1放射線X1を検出し、前記と同様にそれぞれパルス出力P0A、P0B、P0Cを発する。

【0067】
一方、参照用放射線検出器42は、図1におけるストップ用検出器12に対応する。参照用放射線検出器42は、前記の第1放射線X1とはエネルギーが異なるために第1放射線X1とは識別が可能な第2放射線X2を検出することによってパルス出力P1を発する。第1放射線X1、第2放射線X2は、それぞれ前記のスタート信号用γ線γ1、ストップ信号用γ線γ2に対応する。この場合においては、識別信号生成部43は、上記の陽電子消滅寿命測定装置100と同様に、デジタルオシロスコープ45が単一の入力信号より得たΔtのヒストグラムにおいて、パルス出力P0A、P0B、P0C毎のヒストグラムが分離できるように、各出力に識別性を付与する。一致検出回路44は、入力信号が生成される前におけるパルス出力P0A、P0B、P0Cとパルス出力P1との同時性が認識された場合に、デジタルオシロスコープ45に対してトリガを発し、同時性が認識されたパルス出力P0A、P0B、P0Cのいずれかとパルス出力P1との間の時間差Δtを測定する。

【0068】
なお、図2の方法が適用される場合には、識別性生成部43内や参照用検出器42の出力側に、パルス出力P0B、P0Cに対して異なるシフト時間を付与するために遅延回路が適宜設けられる。また、図4の方法が適用される場合には、図7の成形部31A、31Bに対応した3つの成形部が設けられる。こうした遅延回路や成形部の記載は図10では省略されている。

【0069】
PC46は、図2の方法が適用される場合にはデジタルオシロスコープ45で計測されたΔtのヒストグラムを生成し、その中から放射線検出器41A、41B、41C毎に測定されたΔtA、ΔtB、ΔtCのヒストグラムに対応する部分を認識する。その後、図3(a)に示されたように、ΔtBのヒストグラムのΔtAのヒストグラムに対する総シフト時間、ΔtCのヒストグラムのΔtAのヒストグラムに対する総シフト時間を算出することができる。これらの各総シフト時間とシフト時間Tとの差分は、放射線検出器41B、41Cの放射線検出器41Aからの検出タイミングのずれに相当する。

【0070】
あるいは、図4の方法が適用される場合には、デジタルオシロスコープ45自身が放射線検出器41A、41B、41C毎に測定されたΔtA、ΔtB、ΔtCを認識し、PC46は、これらのヒストグラムをそれぞれ作成する。その後、上記と同様にΔtBのヒストグラムのΔtAのヒストグラムに対する総シフト時間、ΔtCのヒストグラムのΔtAのヒストグラムに対する総シフト時間を算出することができる。これらの各総シフト時間は、放射線検出器41B、41Cの放射線検出器41Aからの検出タイミングのずれに相当する。

【0071】
このため、以降において放射線検出器41A、41B、41Cを用いる際のデータ処理において、この総シフト時間を用いて検出タイミングのずれを補正することができる。

【0072】
なお、図12の構成においては、前記の陽電子消滅寿命測定装置100と同様に、放射線検出器41A~41C(スタート用検出器11A、11Bに対応)の検出タイミングと、参照用放射線検出器42(ストップ用検出器12に対応)の検出タイミングの時間差に基づいて、上記のような検出タイミングのずれが算出された。すなわち、この場合には、参照用放射線検出器42による第2放射線X2の検出タイミングを基準(基準タイミング)とし、放射線検出器41A~41Cが検出する第1放射線X1は、この基準タイミングから略一定の時間後に発せられるものとした。しかしながら、例えば第1放射線X1の発振タイミングを高精度で制御可能である場合には、例えば線源X側におけるこの発振タイミングを上記の基準タイミングとし、この基準タイミングと放射線検出器41A~41C(スタート用検出器11A、11Bに対応)の検出タイミングとの時間差を上記のΔtA、ΔtB、ΔtCとして、同様の処理を行うこともできる。すなわち、基準タイミングを十分な精度で確保できる限りにおいて、第2放射線X2及びこれを検出するための参照用放射線検出器42は不要である。このため、上記の線源Xとしては、22Naを用いたもの以外のもの、例えば、パルス化されたビーム等を用いることができる。

【0073】
このような調整方法は、複数の放射線検出器が同時に用いられる放射線計測器において、放射線の検出タイミングに関わる情報が重要である場合に特に有効である。上記のような陽電子消滅寿命測定装置100はこの典型的な例となるが、他の放射線計測装置においても、この調整方法を適用することができる。

【0074】
更に、上記のように、パルス出力出力信号に対して放射線検出器毎の識別性を付与した上で合流させて単一の入力信号を生成し、その後でこの入力信号における各放射線検出器毎の測定結果を認識する構成は、放射線計測器の調整の際だけでなく、この放射線計測器の通常の使用の際にも適用することができる。アレイ型の放射線検出器を具備する放射線計測器200に対してこうした構成を適用した例を図13に示す。

【0075】
この放射線計測器200は、この観点から上記の陽電子消滅寿命測定装置100を、一般化したものに相当する。ここでは、アレイ型(位置検出型)とされたアレイ型放射線検出部50が用いられる。アレイ型放射線検出部50は4×4個のピクセル51で構成され、各ピクセル51が前記の放射線検出器31A等に対応し、放射線を検出する度にパルス出力を発する。各ピクセル51の出力は識別性生成部60に入力して識別性が生成され、識別性生成部60を通過後の各ピクセル51のパルス出力が合流して単一の入力信号が生成される。測定部70は、この入力信号より、付与された識別性に基づいて各ピクセル51毎のパルス出力の測定結果を認識する。測定部70は、前記の陽電子消滅寿命測定装置100においては、デジタルオシロスコープ14とPC16の組み合わせに相当する。

【0076】
この場合、測定部70において、各ピクセル51毎のパルス出力に対するどのような物理量が測定されるかに応じて、識別性生成部60において付与する識別性となる事項を適宜設定することができる。前記の陽電子消滅寿命測定装置100のように、各ピクセル51のパルス出力と他のパルス出力との間の時間差が測定部70における測定の対象となる場合には、前記のように識別性生成部60において、ピクセル51毎に異なるシフト時間を付与することもできる。この場合には、測定部70においては、入力信号における各ピクセル51毎のパルス出力を弁別することはできないが、要求される測定結果(前記の陽電子消滅寿命測定装置100の場合には各スタート用検出器毎のΔtのヒストグラム)は、各ピクセル51に得ることができる。

【0077】
これに対して、識別性生成部60が、図7に示されるように各ピクセル51のパルス出力のパルス形状をピクセル51毎に定められた形状に成形する場合には、前記の通り、測定部70は、認識されたパルス出力がどのピクセル51からのものであるかを認識することができる。このため、単一の入力信号を用いた場合でも、測定部70は、各ピクセル51毎のパルス出力を認識して処理を行うことができる。この処理としては、例えば単位時間当たりの各ピクセル51毎の計数や、パルス出力の波高分析による放射線のエネルギースペクトル測定等があり、各ピクセル毎の信号を精密に時間やエネルギー等について解析できる。あるいは、これによって、各ピクセル51間に起こるエネルギー等のずれを上記の時間(検出タイミング)のずれと同様に補正することもできる。

【0078】
図13の構成においては、測定部70は、入力信号中のパルス出力を認識する際に、そのパルス出力を発したピクセル51を認識することができるため、このパルス出力の元となった光子が入射した位置を認識することができる。このため、位置検出型の放射線計測器において、こうした構成は特に有効である。図13の構成では、2次元配列中の位置が認識されるが、このように光子が入射した位置に関する情報が特に有効となる放射線計測器の具体的な他の例としては、PET(ポジトロン断層法)における放射線計測器がある。

【0079】
図14は、PETで用いられる放射線計測器210の構成を示す図である。ここでは、各々が上記のピクセル51に対応した放射線検出器52、53、54(各4つ)が、測定対象(被験者)を囲む環状に配置されている。被験者の体内における陽電子発生源から発せられた陽電子はその極近傍で対消滅して前記と同様に511keVの2つのγ線光子を反対方向に発する。この1対のγ線光子が発せられる方向は不定であるが、図14における一点鎖線で結ばれた2対の放射線検出器52、53や1対の放射線検出器52、54は、線源Xから発せられた1対のγ線光子を同時計測で検出するため、γ線光子を同時検出した放射線検出器同士の対が複数あれば、線源Xの位置を、この対を結ぶ線(図14における一点鎖線)の交点として認識することができる。この構成においては、全ての放射線検出器を同時に動作させることが必要であるが、この際に、上記と同様に放射線検出器52、53、54のそれぞれの組に対して識別性生成部61、62、63をそれぞれ用い、識別性生成部61、62、63を通過後の各放射線検出器52の出力、各放射線検出器53の出力、各放射線検出器54の出力をそれぞれ合流させた3つの入力信号をそれぞれに対応したチャンネルで解析する測定部70を用いることができる。この場合に、測定部70としては、多数の放射線検出器が用いられているにも関わらず、複数の放射線検出器からの種々の信号を合わせた測定チャンネルによる同時計測により全体の同時計測に用いることができる。このように、全ての放射線検出器に対して共通となる単体の識別性生成部を用いる代わりに、放射線検出器を複数にグループ分けし、グループ毎に識別性生成部及び入力信号を設けてもよい。こうした場合においては、各入力信号を用いた測定において同一グループ内での放射線検出器毎の識別ができればよいため、図14の構成では放射線検出器は計12個用いられているものの、4種類のみの識別が可能であるように識別性を設定することができる。このため、前記のようにパルス出力の波形を設定する場合には、この波形を4種類とすることができる。また、この場合には、識別性生成部61、62、63を完全に同一の構成としてもよい。

【0080】
また、TOF(Time Of Flight)型PETにおいては、前記の陽電子消滅寿命測定装置100と同様に、対のγ線を略同時に検出したピクセル51の検出タイミングの時間差も測定され、この時間差から、更に線源Xの位置情報を更に高精度に得ることができる。この場合においては、各ピクセル51の検出タイミングの調整を厳密に行うことが要求される。この場合において、図12における線源Xとして小さなものを図14における中心Oに配置し、図12の構成において行われる調整方法を同様に適用することができ、これによって前記の時間差の測定をより高精度で行うことができる。

【0081】
上記の陽電子消滅寿命測定装置100(図1)、放射線計測器の調整方法(図12の構成)、放射線計測器200、210(図13、14)においては、複数の検出器の出力から生成された単一の入力信号中において、各検出器の出力パルスに対して識別性が付与された。ここで、この識別性を付与する具体的な手法としては、最終的に取得される測定結果(陽電子消滅寿命測定装置100においては時間差のヒストグラム)中における各検出器毎の結果が識別して得られるものであれば十分である。この手法として、陽電子消滅寿命測定装置100においては、シフト時間を付与することが用いられた。

【0082】
一般的には、放射線検出器が放射線を検出して発せられるパルス出力においては、このパルス出力に関する様々な情報についての測定が可能である。この情報は、陽電子消滅寿命測定装置100においてはパルス出力のタイミングとカウント数である。ここで必要なタイミングに関する情報としては、パルス出力P0との間の時間差だけであるために、上記のようにシフト時間を付与する技術が有効となった。しかしながら、このようにシフト時間を付与する技術においては、測定部において入力信号中のパルス出力自身の識別は行われないために、他の測定においては必ずしも有効でない、すなわち、この技術によって、各検出器毎の測定結果を分離して得ることができない場合も多い。

【0083】
これに対して、図4、7に記載の手法においては、測定部(デジタルオシロスコープ14)が入力信号中のパルス出力自身を識別するために、より多くのケースで適用が可能である。ただし、図7の手法においては、パルス出力P0A、P0Bの立下り部分の形状が識別性生成部30によって設定されるため、例えば測定部においてこのパルス出力の立下り部分に関する測定を行う場合には、図7の手法は適用が困難である。

【0084】
このような場合においては、入力信号中のパルス出力P0Aにおける時間軸上の関係、パルス出力P0Bにおける時間軸上の関係を維持し、かつパルス出力P0A、P0Bのパルス波形に対して変更を施さないことが好ましい。このためには、図7における識別性生成部30のように各検出器からのパルス出力の波形に対して加工を施す代わりに、入力信号とは別の判定用信号を生成して入力信号と同期させて出力し、この判定用信号を参照することによって入力信号中のパルス出力を検出器毎に認識する構成とすることもできる。図15は、こうした識別性生成部80の構成を図7に対応させて示す図である。

【0085】
ここでも、パルス出力P0Aとパルス出力P0Bの波形は同一であるために、デジタルオシロスコープ14(測定部)で単純にこれらを識別することは困難である。ここで、識別性生成部80において、スタート用検出器11A側には識別信号生成部81Aが、スタート用検出器11B側には識別信号生成部81Bが設けられており、識別信号生成部81A、識別信号生成部81Bは、パルス信号である識別信号QA、QBをそれぞれ発する。識別信号QA、QBは異なる形状をもち、デジタルオシロスコープでこれらを識別することが可能である。

【0086】
スタート用検出器11A、スタート用検出器11Bにはそれぞれパルス出力認識部82が接続されており、パルス出力認識部82は、パルス出力P0A、P0Bが入力した場合に、トリガ信号(識別信号生成トリガ)を発すると共に、入力したパルス出力P0A、P0Bの波形に変更を加えずにそのまま出力する。識別信号生成部81A、81Bは、それぞれこの識別信号生成トリガを受けて、前記の識別信号QA、QBを発する。このため、識別信号QAはパルス出力P0Aと同期し、識別信号QBはパルス出力P0Bと同期して、それぞれ発せられる。その後、識別信号QA、QBが合流して判定用信号が生成されて出力される。

【0087】
一方、パルス出力P0A、P0Bはそれぞれスタート用検出器11A、スタート用検出器11Bから出力されたままの状態(形状)で合流し、図7と同様に入力信号が生成される。デジタルオシロスコープ14(測定部)には判定用信号と入力信号が同期して入力する。前記の通り、デジタルオシロスコープ14は、入力信号のみを見た場合には入力信号中で認識されたパルス出力がパルス出力P0A、P0Bのいずれであるかの判定をすることは困難である。しかしながら、入力信号と同期して入力する判定用信号中におけるパルス信号が識別信号QA,QBのいずれかであるかを認識することができるため、デジタルオシロスコープ14は、入力信号と同期して入力する判定用信号を参照することにより、入力信号中のパルス出力P0A、P0Bの識別をすることができる。これにより、図7の構成を用いた場合と同様に、ΔtA、ΔtBを測定する、あるいは各種の測定結果をスタート用検出器11A、11B毎に得ることができる。

【0088】
図7の構成とは異なり、図15の構成を用いた場合には、パルス出力P0A、P0Bがスタート用検出器11A、スタート用検出器11Bから出力されたままの形状で入力信号中に存在するため、図7の構成を用いた場合と比べて、より幅広い内容の測定、処理をデジタルオシロスコープ14(測定部)で行うことができる。例えば、図15の構成を用いた場合には、入力信号においてはパルス形状に加工が施されないために、パルス出力P0A、P0Bの波形に関する測定も、デジタルオシロスコープ14で行うことが可能となる。

【0089】
また、例えば、前記のようにΔtA、ΔtBを高精度でデジタルオシロスコープで測定するためには、パルス出力P0A、P0Bのタイミングは、スタート用検出器11A、スタート用検出器11Bから出力された直後の状態と同様に入力信号中でも維持されていることが必要である。一方、判定用信号中における識別信号QA、QBのタイミングの精度は、入力信号中において認識されたパルス出力(P0A又はP0B)と判定用信号中において認識された識別信号(QA又はQB)とが対応付けられれば十分であるため、入力信号中におけるパルス出力P0A、P0Bのタイミングほどの高い精度は要求されない。このため、上記のような判定用信号を生成するための識別信号生成部81A、識別信号生成部81B、パルス出力認識部82に対しては、高い時間的精度は要求されない。あるいは、識別信号QA、QBとしては、タイミングの認識の精度が低くなっても、両者の識別が容易となるような形状を採用することができる。このため、識別信号QA、QBとしては、例えば異なるパルス幅のパルスを用いる、あるいは図7における入力信号のように複数のパルス列からなる信号を用いる等、種類が多くなっても識別の容易な形状を採用することができる。こうした識別信号の生成は容易である。このため、図15の識別性生成部80を容易に得ることができる。また、図15の構成では検出器が2つ用いられたが、検出器を3つ以上用いた場合においても、入力信号、判定用信号をそれぞれ一つずつとすることができ、検出器の数を3つ以上とした場合でも測定器(測定チャンネル)を増設する必要はない。

【0090】
なお、図15の例では、識別性生成部80においては、パルス出力認識部82は、パルス出力P0A、P0Bに対して全く変更を施さずに識別信号生成トリガを発するものとしたが、例えば、図7の構成と同様に分岐部を用い、パルス出力P0A、P0Bのパルス形状を実質的に変化させずにその一部を分岐させて得られたパルスを識別信号生成トリガとして用いてもよい。こうした場合においても、デジタルオシロスコープ14は、入力信号と判定用信号とを用いて上記と同様に各種の処理を行うことができる。

【0091】
また、入力信号中におけるパルス出力に対する識別性を付与する場合には、上記のようにシフト時間を付与する、パルス波形を検出器毎に設定する他にも、測定部で所望の測定が可能となる限りにおいて、各種のものを用いることができる。例えば、パルス出力におけるパルス波高は入射した光子のエネルギーに対応し、光子のエネルギーに関する情報が重要である場合にはパルス波高を認識する必要があるが、測定部において光子のエネルギーに関する情報の測定が不要であれば、識別性生成部において、検出器毎にパルス波高を設定し、測定部でパルス波高によってパルス出力を弁別する設定とすることもできる。また、このように識別性を付与する技術を、複数種類組み合わせてもよい。

【0092】
図13、14の構成においては、この他にも、測定部70で所望の物理量がピクセル51毎に分離されて得られる限りにおいて、識別性生成部60の構成を適宜設定することができる。また、前記の陽電子消滅寿命測定装置と同様に、各ピクセル51からのパルス出力がそのまま測定部70で識別可能な形状であれば、識別性生成部60において特別に識別性を付与することは不要であり、各ピクセル51からの出力をそのまま合流させて入力信号とすることもできる。

【0093】
上記と同様にアレイ型放射線検出部50を用いて放射線の検出を行う際に、測定部を各ピクセル51毎に設ける、あるいはピクセル51毎に対応した測定チャンネルをもつ測定部を用いて同様の測定結果を得ることもできる。これに対して、上記の構成においては、単一の測定部、あるいは単一の測定チャンネルを用いてこの測定を行うことができるため、装置構成を単純化し、低コスト化することができる。

【0094】
また、例えばアレイ型放射線検出部50を半導体で構成する、すなわち、アレイ型放射線検出部50を半導体検出器とすることができる。この場合、識別性生成部を半導体回路で形成することができ、これらを共通の半導体チップ中に構成することもできる。

【0095】
このように、上記の陽電子消滅寿命測定装置や上記の放射線計測器においては、複数の放射線計測器を用いて各種の高精度の測定を行うことができると共に、装置構成を単純化し、低コスト化することができる。
【符号の説明】
【0096】
11、11A、11B、91、91A、91B スタート用検出器(γ線検出器、放射線検出器)
12、12A、12B、92 ストップ用検出器(γ線検出器、放射線検出器)
13、44、93 一致検出回路
14、45、94 デジタルオシロスコープ(共通計測部)
15、21A、21B、33A、33B、95 遅延回路
16 PC(パーソナルコンピュータ、ヒストグラム生成部、寿命算出部)
20、30、43、60~63、80 識別性生成部
31A、31B 成形部
32 分岐部
41、200、210 放射線計測器
41A、41B、41C、52~54 放射線検出器
42 参照用放射線検出器
46、96 PC(パーソナルコンピュータ)
50 アレイ型放射線検出部
51 ピクセル(放射線検出器)
70 測定部
81A、81B 識別信号生成部
82 パルス出力認識部
100、900、910 陽電子消滅寿命測定装置
O 中心
S 試料
X 線源
X1 第1放射線
X2 第2放射線
γ1 スタート信号用γ線
γ2 ストップ信号用γ線
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18