TOP > 国内特許検索 > 細胞膜片を備えた発電素子および発電デバイス > 明細書

明細書 :細胞膜片を備えた発電素子および発電デバイス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6066312号 (P6066312)
公開番号 特開2014-200142 (P2014-200142A)
登録日 平成29年1月6日(2017.1.6)
発行日 平成29年1月25日(2017.1.25)
公開日 平成26年10月23日(2014.10.23)
発明の名称または考案の名称 細胞膜片を備えた発電素子および発電デバイス
国際特許分類 H02N  11/00        (2006.01)
FI H02N 11/00 Z
請求項の数または発明の数 10
全頁数 13
出願番号 特願2013-074561 (P2013-074561)
出願日 平成25年3月29日(2013.3.29)
審査請求日 平成28年3月3日(2016.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】田中 陽
【氏名】西中 正弘
【氏名】北森 武彦
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】柿崎 拓
参考文献・文献 米国特許出願公開第2009/0196902(US,A1)
特開平11-080027(JP,A)
特開2007-027019(JP,A)
特表2012-503279(JP,A)
調査した分野 H02N 11/00
H01M 8/16
特許請求の範囲 【請求項1】
凍結乾燥された、生物由来のシナプス後細胞の細胞膜片を備える発電素子。
【請求項2】
孔または不連続部分を有する第一の絶縁性支持体を備え、
上記シナプス後細胞の細胞膜片が、上記孔または不連続部分を跨ぐように上記第一の絶縁性支持体に固定されている、請求項1に記載の発電素子。
【請求項3】
孔または不連続部分を有し、上記第一の絶縁性支持体と共に上記細胞膜片を挟持する、第二の絶縁性支持体をさらに備える、請求項2に記載の発電素子。
【請求項4】
上記絶縁性支持体は、疎水修飾されている、請求項2または3に記載の発電素子。
【請求項5】
第二の細胞膜片を備え、
上記シナプス後細胞の細胞膜片と上記第二の細胞膜片とが、内側面同士が対向するように所定の間隔をおいて配置されてなる、請求項1~4の何れか一項に記載の発電素子。
【請求項6】
上記シナプス後細胞の細胞膜片の外側面に対して神経伝達物質を含む液体を供給する流路と、
上記シナプス後細胞の細胞膜片の内側面に対してATPを含む液体を供給する流路とを備える、請求項1~5の何れか一項に記載の発電素子。
【請求項7】
上記シナプス後細胞の細胞膜片は、発電生物の発電細胞における神経支配側の細胞膜片である、請求項1~6の何れか一項に記載の発電素子。
【請求項8】
上記発電生物は、シビレエイ、デンキウナギ、またはデンキナマズである、請求項7に記載の発電素子。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の発電素子を備える発電デバイス。
【請求項10】
シナプス後細胞の上記細胞膜片の内側面に対してATPを含む液体を供給する第一の供給手段と、
シナプス後細胞の上記細胞膜片の外側面に対して神経伝達物質を含む液体を供給する第二の供給手段とを備える、請求項9に記載の発電デバイス。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜片を備えた発電素子、および当該発電素子を備えた発電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力および原子力などの既存の発電方法は、環境面および安全面で問題がある。これらに代わる、クリーンで安全な発電方法として、水力、風力、地熱、および太陽光などの自然依存型発電があるが、地形または自然状況に左右され、安定供給が難しいという問題がある。そのため、やはりこれらとは別に、常時供給可能な発電システムが求められている。
【0003】
そこで、近年、クリーンかつ安全な電力供給手段として、生物の機能を利用する発電方法が注目を集めている。その代表例として、微生物が有する酸化還元酵素を電極に組み込み、グルコースから直接電子を取り出して発電するバイオ燃料電池(非特許文献1)、および、微生物から直接電気を取り出す微生物燃料電池(非特許文献2)などがある。燃料が安価で大量生産可能なため、大規模な発電システムとしても期待されているが、最適化には時間を要するため、出力性能は現状必ずしも十分ではなく、最高でも10mW/cm2程度にとどまっている。
【0004】
一方、生物の発電機能の利用という観点で歴史的にみれば、紀元前5世紀の古代ギリシャ時代には既にシビレエイが痛風および頭痛の鎮痛用に使用されていたという記録がある。しかし、この発電機能を人為的に制御することは現在に至るまで困難であった。最近では、同じく強電気魚の一種であるデンキウナギを用いた電飾が行われているが、むろん展示としての利用のみで、産業応用には至っていない。発電細胞の機能を制御するには、細胞膜を極めて高い時間・空間分解能で化学刺激する必要があるからである。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Kendall, Nat. Mater. 1, 211 (2002)
【非特許文献2】Kato et al., PNAS 109, 10042 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、クリーンかつ安全で、しかも、人為的に発電を制御することが可能な新たな発電デバイスを開発することが望まれている。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、クリーンかつ安全で、人為的に発電を制御し得る発電素子および発電デバイス等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、生物の発電細胞などの電気を発生する細胞の細胞膜を取り出し凍結乾燥をしたものが、電気を発生するような環境に置くことによって、人為的に発電を制御し得ることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る発電素子は、凍結乾燥された、生物由来のシナプス後細胞の細胞膜片を備える。
【0010】
本発明に係る発電素子は、孔または不連続部分を有する第一の絶縁性支持体を備え、上記シナプス後細胞の細胞膜片が、上記孔または不連続部分を跨ぐように上記第一の絶縁性支持体に固定されていることが好ましい。
【0011】
本発明に係る発電素子は、孔または不連続部分を有し、上記第一の絶縁性支持体と共に上記細胞膜片を挟持する、第二の絶縁性支持体をさらに備えることが好ましい。
【0012】
本発明に係る発電素子において、上記絶縁性支持体は、疎水修飾されていることが好ましい。
【0013】
本発明に係る発電素子は、第二の細胞膜片を備え、上記シナプス後細胞の細胞膜片と上記第二の細胞膜片とが、内側面同士が対向するように所定の間隔をおいて配置されてなることが好ましい。
【0014】
本発明に係る発電素子は、上記シナプス後細胞の細胞膜片の外側面に対して神経伝達物質を含む液体を供給する流路と、上記シナプス後細胞の細胞膜片の内側面に対してATPを含む液体を供給する流路とを備えることがより好ましい。
【0015】
本発明に係る発電素子において、上記シナプス後細胞の細胞膜片は、発電生物の発電細胞における神経支配側の細胞膜片であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る発電素子において、上記発電生物は、シビレエイ、デンキウナギ、またはデンキナマズであることがより好ましい。
【0017】
本発明に係る発電デバイスは、上述の発電素子を備える。
【0018】
本発明に係る発電デバイスは、シナプス後細胞の上記細胞膜片の内側面に対してATPを含む液体を供給する第一の供給手段と、シナプス後細胞の上記細胞膜片の外側面に対して神経伝達物質を含む液体を供給する第二の供給手段とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、クリーンかつ安全で、人為的に発電を制御し得る発電素子および発電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】シビレエイの発電器官および発電原理の概要を示す図である。
【図2】本発明に係る発電素子の製造方法の一実施形態を概略的に示す図である。
【図3】本発明に係る発電素子の発電の検証方法の一例を概略的に説明する図である。
【図4】本発明に係る発電デバイスの一実施形態を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔本発明の概念〕
本発明は、生物の発電細胞などの電気を発生する細胞の細胞膜を取り出し、電気を発生するような環境に置くことによって、人為的に発電を制御し得る。

【0022】
電気を発生する細胞として、シナプスにおけるシナプス後細胞が挙げられる。シナプス後細胞は、シナプス前細胞からのシグナルを受け取ると、電気を発生させる。そのメカニズムは現在までに詳細に研究され、よく知られている。一例について簡単に説明すると、シナプス後細胞の細胞膜に埋め込まれているNa+ポンプ(ATP依存性Na+ポンプ、Na+-K+交換型ATP依存性ポンプ(Na+-K+ATPアーゼ)など)がATPのエネルギーを利用して、細胞内のNa+を濃度勾配に逆らって細胞内から細胞外へと汲み出す。このときエネルギーは、細胞膜の内側表面と外側表面との電位差として蓄えられる。次いで、シナプス前細胞から神経伝達物質が放出されると、シナプス後細胞の細胞膜に埋め込まれているリガンド依存性Na+チャネルが開き、Na+濃度の高い細胞外から、Na+濃度の低い細胞内へと、濃度勾配に従ってNa+が一気に流入する。そのため、細胞内外での電位が変化し、電流が発生する。シナプス前細胞から放出される神経伝達物質としては、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、およびセロトニン等が挙げられる。電流発生後、神経伝達物質は分解酵素によって速やかに分解される。また、K+などのイオンも電位差の生成に重要であり、シナプス後細胞の細胞膜に埋め込まれているK+チャネルが重要な働きを果たしている。上述のイオンポンプおよびイオンチャネルは膜タンパク質である。生体内では、このようなメカニズムにより、神経細胞間の伝達、神経筋肉間の伝達、生物発電などを行っている。

【0023】
生物発電の一例として、シビレエイの発電器官について、図1に基づいて説明する。シビレエイの発電器官は、図1の(a)に示すように、胸鰭基部の皮膚下に存在する(参考文献:Hucho, VCH publisher (1986))。この発電器官は、図1の(b)に示すように、発電細胞が直列に積層しているため、高い電圧を得ることができる。シビレエイの発電器官では、出力性能が一瞬(~10ms)であるが、一匹あたり最大10kW以上、100W/cm2を実現している。このような精密な構造は進化の中で最適化されてきたと考えられる。

【0024】
発電細胞では、通常時、グルコース分解で生成したATPのエネルギーを利用して、発電細胞の表面にある膜タンパク質の一種であるイオンポンプが、濃度勾配に逆らって細胞内のNa+を細胞外へ汲み出している。そのため、図1の(c)に示すように、Na+濃度は、細胞内よりも細胞外が高くなっている。興奮時、図1の(d)に示すように、シナプス前細胞のシナプス小胞からアセチルコリンが放出されると、発電細胞の表面にある膜タンパク質の一種であるNa+チャネルが開き、Na+濃度の高い細胞外から、Na+濃度の低い細胞内へと、濃度勾配に従ってNa+が一気に流入する。これらのタンパク質は発電細胞の細胞膜のうちシナプス前細胞と対向する側の面に局在化しているため、細胞内で電位差が生じ、放電する。発電細胞では、このようなタンパク質が細胞膜表面に極めて多数集積しているため、電流密度が増している。

【0025】
本発明に係る発電素子は、このようなシナプス後細胞の細胞膜だけを取り出し、神経伝達物質を人為的に受容体に接触させれば発電を行うことができるという発想に基づき、考えられたものである。接触させる神経伝達物質の量を制御することによって、発電を制御することが可能となる。なお、細胞自体を用いるよりも、細胞膜を取り出して用いる方が、機能保持期間が長く、保存および加工にも適しており、デバイス化が容易である。

【0026】
〔発電素子〕
本発明に係る発電素子は、凍結乾燥された、生物由来のシナプス後細胞の細胞膜片を備えている。

【0027】
本発明に係る発電素子に含まれるシナプス後細胞の細胞膜片(以下、「第一の細胞膜片」という)は、生物に由来する。第一の細胞膜片の由来となる生物は、シナプス後細胞を有する生物であれば特に限定されないが、シビレエイ、デンキウナギ、およびデンキナマズ等の強電気魚等の発電生物であることが好ましい。

【0028】
シナプス後細胞としては、発電細胞、神経細胞、および筋細胞等が挙げられる。なお、発電細胞は、神経細胞または筋細胞が特殊化したものである。シナプス後細胞として好ましくは、シビレエイ、デンキウナギ、およびデンキナマズ等の発電生物の発電器官の発電細胞である。発電細胞の細胞膜には、生物発電において機能するタンパク質が密集して存在している。そのため、発電細胞から取り出した細胞膜片では、より効率的な発電を行うことができる。シナプス後細胞は、生物個体のものであってもよいし、培養器官のものであってもよいし、あるいは培養細胞であってもよい。

【0029】
第一の細胞膜片は、特に、シナプス前細胞と対向する面の細胞膜片であることが望ましい。この面の細胞膜には、Na+チャネルなどの膜タンパク質が局在化(他の面と比較して)しているため、大きな発電効率が期待できるからである。第一の細胞膜片は、より好ましくは、発電生物の発電細胞における神経支配側の細胞膜片である。

【0030】
本発明に係る発電素子の製造方法の一例では、生物に由来するシナプス後細胞に、孔または不連続部分を有する基体を圧着して、当該圧着部分に位置する細胞膜および当該孔または不連続部分に位置する細胞膜を一体的に剥離する剥離工程と、剥離した細胞膜片を上記基体に保持させたまま凍結乾燥する凍結乾燥工程と、を含む製造方法によって製造される。

【0031】
なお、基体の不連続部分とは、孔ではない不連続構造、例えば、基体の辺縁部から内側方向に向かって形成された切れ込みや、同じ平面内にある表面同士が所定の間隔(不連続部分)をおいて配置された構造等の総称である。

【0032】
当該製造方法は、上記凍結乾燥工程の後、細胞膜片の全部または一部を取り出し、それを孔または不連続部分を有する第一の絶縁性支持体に、当該孔または不連続部分を跨ぐように固定することが好ましい。さらに、上記孔または不連続部分に位置する細胞膜片の少なくとも一部が露出するように、上記第一の絶縁性支持体と、孔または不連続部分を有する第二の絶縁性支持体とで上記細胞膜片を挟持させる挟持工程をさらに含むことが好ましい。第一の絶縁性支持体および第二の絶縁性支持体は、疎水修飾されていることがより好ましい。

【0033】
本発明に係る発電素子の製造方法の一実施形態を図2に基づいて以下に説明する。本実施形態では、シビレエイの発電器官の細胞の細胞膜を用いて、発電素子を製造する。なお、シビレエイは、一般的に食されることはなく、他の魚と共に捕獲されても不要なものとして廃棄されている。そのため、シビレエイの利用は、元々廃棄されているものを利用するという点で、生態系を不必要に乱すものではないといえる。

【0034】
まず、シビレエイの個体から発電器官を取り出し、スライスする。次いで、ポリリシン等で正に帯電したガラス板(以下「剥離用ガラス板」という)をスライスの表面に圧着する。なお、剥離用ガラス板は、少なくとも細胞に触れる面がポリリシン等で正に帯電していればよい。剥離用ガラス板は孔を有しており、直径は、例えば0.1mm~10mm、好ましくは1mm~3mmである。剥離用ガラス板の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01mm~1mm、好ましくは0.01mm~0.2mmとすることができる。

【0035】
圧着は、例えば、ポリリシンコートしたガラス板を細胞上に置き、10~20間静置することで行う。これにより、圧着されている部分の細胞膜が剥離用ガラス板の表面に吸着する。そして、剥離用ガラス板をスライスから剥離することによって、剥離用ガラス板の表面に吸着した細胞膜とそれに囲まれた孔部分の細胞膜とが一体的に剥離する。剥離の面において、圧着部分の細胞膜の面積は、孔部分の細胞膜の面積の10倍以上であることが好ましく、20倍以上であることがより好ましい。なお、剥離用ガラス板の孔の大きさを調節することによって、1個の細胞の細胞膜を剥離することもできるし、複数の細胞の細胞膜を一緒に剥離することもできる。

【0036】
なお、ポリリシンの代わりに、基板を正に帯電させることができる他の修飾剤を用いることもできる。そのような修飾剤としては、Alcian Blue等が挙げられる。

【0037】
次いで、剥離した細胞膜片を剥離用ガラス板に保持させたまま、凍結乾燥(例えば、真空凍結乾燥)を行う。凍結乾燥は公知の方法で行えばよい。この工程によって、保存性および操作性を向上させることができる。そのため、発電デバイスに搭載させる際の操作が容易になる。なお、細胞膜片を凍結乾燥しても、発電機能を維持している。

【0038】
なお、細胞膜片を剥離するための基体は、ガラス板に限定されず、ポリスチレン等のプラスチック板であってもよい。

【0039】
凍結乾燥工程後、剥離用ガラス板に保持された細胞膜片を切り取り、その細胞膜片を疎水修飾したガラス板(第一の絶縁性支持体に相当、以下「挟持用ガラス板a」という)の上に載せる。次いで、別の疎水修飾したガラス板(第二の絶縁性支持体に相当、以下「挟持用ガラス板b」という)を載せ、上記細胞膜片を挟持させる(挟持工程)。なお、2枚の挟持用ガラス板は何れも、少なくとも細胞膜片に触れる側の面が疎水修飾されていればよい。疎水修飾は、例えば、ポリカーボネート、オクダデシルシラン(ODS)、およびフッ素コーティング剤等の疎水修飾剤を公知の方法でガラス板の表面にコーティングすることによって行えばよい(参考文献:X. Gao, Y. Tanaka, Y. Sugii, K. Mawatari, T. Kitamori, Anal.Sci., 27 (9), 907-911 (2011))。

【0040】
挟持用ガラス板aと挟持用ガラス板bとは同じ形状を有しており、孔を有している。挟持用ガラス板aと挟持用ガラス板bとが合うように細胞膜片を挟んで重ね合わせ、ネジ等で固定する。すると細胞膜片の一部が両方のガラス板から露出する。細胞膜のうち細胞内に接していた面(以下、「内側面」という)は挟持用ガラス板aの孔から露出し、細胞膜のうち細胞外に接していた面(以下、「外側面」という)は挟持用ガラス板bの孔から露出する。このような挟持工程を行うことによって、発電素子の強度が増し、耐用期間を長くすることができる。

【0041】
挟持用ガラス板の厚みは、強度の観点からは厚い方が好ましいが、発電デバイスの小型化の観点からは薄い方が好ましい。挟持用ガラス板の厚みは、例えば、0.01mm~1mm、好ましくは0.01mm~0.2mmとすることができる。

【0042】
なお、第一の絶縁性支持体および第二の絶縁性支持体は何れも、ガラス板に限定されず、ポリスチレン等のプラスチック板であってもよい。第一の絶縁性支持体および第二の絶縁性支持体は何れも、ガラス板であることが好ましい。ガラス板は硬くかつ薄いからである。

【0043】
このように製造された本発明に係る発電素子は、凍結乾燥された、生物に由来するシナプス後細胞の細胞膜片と、孔または不連続部分を有する第一の絶縁性支持体とを備え、上記シナプス後細胞の細胞膜片が、上記孔または不連続部分を跨ぐように上記第一の絶縁性支持体に固定されている。また、本発明に係る発電素子の好ましい一形態では、孔または不連続部分を有し、上記第一の絶縁性支持体と共に上記細胞膜片を挟持する、第二の絶縁性支持体をさらに備える。また、本発明に係る発電素子のより好ましい一形態では、第一の絶縁性支持体および第二の絶縁性支持体は、疎水修飾されている。

【0044】
本発明に係る発電素子に含まれる細胞膜片は、凍結乾燥されている。これによって、保存性および操作性が向上している。そのため、発電デバイスに搭載させる際の操作が容易になる。

【0045】
このように製造された発電素子の発電機能を検証する方法の一例を、図3に概略的に示す。図3に示す方法では、発電素子を、第一の細胞膜片の内側面が下を向くようにシリコーン樹脂製の容器にセットする。また、第一の細胞膜片の内側面側と第一の細胞膜片の外側面側とをオシロスコープに接続する。第一の細胞膜片の内側面側にNa+溶液を入れ、第一の細胞膜片の外側面側にATP+Na+溶液を入れる。Na+ポンプで外側面側のNa+を内側面側に汲み出させた後、内側面側にアセチルコリンを導入する。この際の電位の変化をオシロスコープで観測する。

【0046】
このように製造された発電素子は、シビレエイ個体の電流・電圧値から、電圧値150mV、電流値2mA程度が見込まれる。

【0047】
本発明に係る発電素子は、第二の細胞膜片を備え、上述のシナプス後細胞の細胞膜片(第一の細胞膜片)と第二の細胞膜片とが、対向するように所定の間隔をおいて配置されてなることが好ましい。さらに、第一の細胞膜片と第二の細胞膜片とが、内側面同士が対向するように所定の間隔をおいて配置されてなることがより好ましい。なお、第一の細胞膜片と第二の細胞膜片とが、外側面同士が対向するように所定の間隔をおいて配置されていてもよい。

【0048】
第二の細胞膜片は、第一の細胞膜片と比較して、ナトリウムチャネルの数が少ないことが望ましい。第二の細胞膜片は、生物由来であってもよいし、公知の方法で人工的に合成したもの(例えば、脂質二重膜)であってもよい。第二の細胞膜片は、例えば、シナプス後細胞における非神経支配側の細胞膜片であることが好ましい。第二の細胞膜片は、生物由来である場合、上述した本発明に係る発電素子の製造方法の一例と同様の方法で、細胞から剥離されてもよい。また、第二の細胞膜片は上述と同様の方法で、凍結乾燥されていてもよい。さらに、第二の細胞膜片は上述と同様の方法で、疎水修飾した絶縁性支持体で挟持されていてもよい。そのため、第二の細胞膜片は、孔または不連続部分を有する第三の絶縁性支持体と、孔または不連続部分を有する第四の絶縁性支持体とで挟持されたものであり得る。なお、第一の細胞膜片と第二の細胞膜片とは、同一の細胞に由来する必要はない。

【0049】
本発明に係る発電素子は、上述のシナプス後細胞の細胞膜片(第一の細胞膜片)の外側面に対して神経伝達物質を含む液体を供給する流路と、第一の細胞膜片の内側面に対してATPを含む液体を供給する流路とを備えることがより好ましい。

【0050】
上述の流路は、例えば、絶縁性材料からなる壁で囲まれている。流路を構成する絶縁性材料としては、ガラス、シリコーン樹脂、およびプラスチック等が挙げられる。また、液体を投入するための流入口および液体を排出するための排出口を有していてもよい。なお、流路の断面形状は特に限定されない。

【0051】
第一の細胞膜片と、第二の細胞膜片と、神経伝達物質を含む液体を供給する流路と、ATPを含む液体を供給する流路とを備える発電素子では、第一の細胞膜片と第二の細胞膜片との間にATPを含む液体を流すことができる。そのため、疑似細胞構造を形成することができる。

【0052】
本発明に係る発電素子は、後述の発電デバイスに搭載され得る。

【0053】
〔発電デバイス〕
本発明に係る発電デバイスは、上述の本発明に係る発電素子を備えている。本発明に係る発電素子デバイスでは、生体内における発電の仕組みを応用して発電を行う。

【0054】
本発明に係る発電デバイスの一実施形態を図4に基づいて以下に説明する。本実施形態に係る発電デバイス100は、シビレエイの発電細胞における神経支配側の細胞膜片を備えている発電素子1を搭載している。

【0055】
発電デバイス100は、溶液流路層2と複数の発電層3とが積層してなる。より具体的には、溶液流路層2の下に複数の発電層3が積層している。

【0056】
溶液流路層2は、上部ガラス板4aと、下部ガラス板4bと、ATP溶液充填部5と、Na+-AChE(アセチルコリン分解酵素)溶液充填部6と、Na+-ACh(アセチルコリン)溶液充填部7と、流路8~10とを備えている。流路8~10は、上部ガラス板4aおよび下部ガラス板4bを重ね合わせた際の上部ガラス板4aと下部ガラス板4bとの間隙として形成されている。流路8~10は、例えば、深さ10μm~100μm、幅100μm~1mmとすることができる。流路8はATP溶液充填部5と連通している。流路9はNa+-AChE溶液充填部6と連通している。流路10はNa+-ACh溶液充填部7と連通している。また、溶液流路層2には複数のバルブが設けられており、流路8~10を流れる各溶液が発電層3へ流入することを制御可能となっている。また、流路8~10には、対応する溶液充填部の近傍に、それぞれ公知のポンプ5a、6a、7aが備えられている。

【0057】
発電層3は、ATP溶液通路11と発電素子1とNa+液通路12と底部膜13とを、上方からこの順序で備えている。発電層3は複数あり、溶液流路層2の下層に積層している。複数の発電層3のうち最上部にある発電層3は、下部ガラス板4bを介して溶液流路層2と隔てられている。図4の(d)に示すように、発電素子1は、細胞膜のうち細胞内に接していた面(内側面)が上を向くように設けられている。すなわち、内側面がATP溶液通路11と接し、細胞膜のうち細胞外に接していた面(外側面)がNa+液通路12と接するように配置されている。底部膜13は、脂質二重膜13aが孔を有する2枚のガラス板13b・13cで挟持された構造を有している。

【0058】
流路8は、各発電層3のATP溶液通路11と連通している。流路9および流路10は、各発電層3のNa+液通路12と連通している。各溶液は対応する溶液充填部から対応する流路へと流れ、当該流路から対応する通路へと流れるようになっている。ポンプ5a~7aは各溶液を一方向に押し出すため、各溶液は一方向に流動し、逆流することはない。

【0059】
発電デバイス100を用いた発電方法を以下に説明する。ここでは、複数の発電層3のうちで最も上層にある発電層3に着目して説明する。

【0060】
まず、ATP溶液充填部5にATP溶液を充填し、ポンプ5aを用いて流路8へ流動させる。また、Na+-AChE溶液充填部6にNa+-AChE溶液(150mM Na++アセチルコリン分解酵素)を充填し、ポンプ6aを用いて流路9へ流動させる。また、Na+-ACh溶液充填部7にNa+-ACh溶液(150mM Na++アセチルコリン)を充填し、ポンプ7aを用いて流路10へ流動させる。

【0061】
さらに、ATP溶液通路11に、流路8に流したATP溶液を流し込む。また、Na+液通路12には流路9に流したNa+-AChE溶液を流し込む。この状態では発電は起こらない(図4の(d))。ここで、Na+液通路12に、流路10に流したNa+-ACh溶液を流し込む。すると、発電素子1の細胞膜片上に存在するACh依存性Na+チャネルのACh結合部位にAChが結合し、Na+のチャネルが開く。そして、Na+濃度が高いNa+液通路12からNa+濃度が低いATP溶液通路11へ、Na+が一気に移動する。そのため、発電素子1の細胞膜片と底部膜13とに電位差が生じ、発電素子1から底部膜13へ電気が流れる(図4の(e))。この電気は、例えば、コンデンサに蓄えられる。

【0062】
Na+液通路12へのNa+-ACh溶液の流し込みをやめて、再びNa+液通路12にNa+-AChE溶液を流す。すると、Na+液通路12にあるAChがAChEによって分解され、Na+のチャネルが閉じる。ATP溶液通路11に流れ込んだNa+は、発電素子1の細胞膜片上に存在するATP依存性Na+ポンプによって、Na+液通路12へ汲み出される。

【0063】
そして、再びNa+液通路12に、流路10に流したNa+-ACh溶液を流し込み、上述の原理で発電させる。このサイクルを繰り返すことによって、ATPの化学エネルギーを電気エネルギーに変換して、発電を行うことができる。

【0064】
各溶液の対応する流路から対応する通路への流動は、図4の(b)に示すようなバルブ機構で制御する。バルブ機構は流路ごとに設けられており、3つの溶液の流れはそれぞれ制御することができる。バルブ機構は溶液流路層2に設けられている。上部ガラス板4aには円形の開口部4cが設けられており、開口部4cはガラス薄板4dによって封止されている。さらに、ガラス薄板4dの中央付近に外側からピエゾアクチュエータ21が取り付けられている。また、下部ガラス板4bは、ピエゾアクチュエータ21に対向する部分が高くなって、凸部4eを形成している。

【0065】
溶液の流れの制御は、ピエゾアクチュエータ21でガラス薄板4dを上から押力を付加することによって行う。ガラス薄板4dに押力を付加していない状態では、溶液は流路を流れる(図4の(b)上)。ガラス薄板4dに押力を付加すると、ガラス薄板4dの変位が生じ、凸部4eとガラス薄板4dとで流路が封止されて、溶液の流れが止まるか、あるいは減少する(図4の(b)下)。押力を開放すると、ガラス薄板4dの自己復元によって、あるいは溶液に押される形でガラス薄板4dが復元し、再び溶液が流れる。

【0066】
ガラスは自重によってたわむことがなく、ガラス板と自然吸着することもないため、ガラス薄板4dと凸部4eとの距離を小さくすることができる。そのため、デッドボリュームを極めて少なくすることができ、逆方向の溶液の流れの発生を回避することができる。ガラス薄板4dと凸部4eとの距離は、例えば、1~100μmの範囲内で設計することが可能である。また、ガラス薄板4dによって封止される開口部4cの径は、例えば、1~3mmとすることができる。また、ガラス薄板4dの厚みは、50μm以下にすることができ、例えば、1~50μmであり、好ましくは1~25μmであり、より好ましくは1~10μmである。

【0067】
流路10と各発電層3のNa+液通路12とは、移送通路14を介して連通している。図4の(c)に示すように、発電層3ごとに移送通路14(移送通路14a・14b・14c)が設けられている。なお、図4の(c)では、説明の単純化のために移送通路14は3つしか示されていないが、実施には発電層3の数だけ移送通路14が存在している。流路10に設けられているバルブ機構は、全ての発電層3へのNa+-ACh溶液の流入を同時に制御している。

【0068】
このようなバルブ機構により、瞬間的および局所的に各溶液の流れをそれぞれ制御することができる。そのため、生体と同様に断続的なアセチルコリンの放出を行うことができる。また、バルブのオン・オフのタイミングを制御することにより、発生電圧および電流を制御することができる。なお、バルブ制御には電力が必要であるが、常時10W以下であり、発電デバイス100による発電量で十分に賄うことができる。なお、このようなバルブ機構は、本願発明者が開発したものである(特願2012-151915)。

【0069】
なお、ATP溶液充填部5、ポンプ5a、流路8、ATP溶液通路11、流路8の流れを制御するバルブ機構、流路8に設けられた逆止弁(図示せず)、および流路8とATP溶液通路11とを連通する移送通路(図示せず)は、シナプス後細胞の細胞膜片の内側面に対してATPを含む液体を供給する第一の供給手段を構成している。また、Na+-ACh溶液充填部7、ポンプ7a、流路10、移送通路14、Na+液通路12、流路10の流れを制御するバルブ機構、および流路10に設けられた逆止弁(図示せず)は、シナプス後細胞の細胞膜片の内側面に対して神経伝達物質(アセチルコリン)を含む液体を供給する第二の供給手段を構成している。また、Na+-AChE溶液充填部6、ポンプ6a、流路9、Na+液通路12、流路9の流れを制御するバルブ機構、流路9に設けられた逆止弁(図示せず)、および流路9とNa+液通路12とを連通する移送通路(図示せず)は、シナプス後細胞の細胞膜片の内側面に対して神経伝達物質の分解酵素(アセチルコリン分解酵素)を含む液体を供給する第三の供給手段を構成している。

【0070】
なお、他の実施形態において、発電素子は第三の供給手段を有していなくてもよい。また、他の実施形態において、第一の供給手段は、ATP溶液充填部とATP溶液通路とからなり、第二の供給手段は、Na+-ACh溶液充填部とNa+液通路とからなり、第三の供給手段は、Na+-AChE溶液充填部とNa+液通路とからなっていてもよい。

【0071】
アセチルコリンは、化学的に合成してもよいし、生物学的に合成してもよい。また、ATPは、化学的に合成してもよいし、生物学的に合成してもよい。ATPを生物学的に合成する場合、例えば、一般的な植物のセルロースを遺伝子組み換えバクテリアに分解させることで、ATPを合成させる方法が挙げられる。

【0072】
アセチルコリン分解酵素(アセチルコリンエステラーゼ)の由来生物は、特に限定されない。また、アセチルコリン分解酵素の製造方法は、特に限定されず、例えば、遺伝子組み換えバクテリアで大量発現させればよい。

【0073】
シビレエイのシナプス後細胞の細胞膜片を用いる場合、神経伝達物質としてアセチルコリンを用いているが、神経伝達物質は、細胞膜片の由来となる生物および細胞に応じて選択すればよい。例えば、デンキウナギおよびデンキナマズのシナプス後細胞の細胞膜片を用いる場合も、アセチルコリンを用いる。

【0074】
通常の「エネルギー効率」という観点では、発電の原理となるのは、細胞膜片上のイオンポンプによるATPをエネルギー源としたイオン濃度勾配の維持であるため、イオンポンプのエネルギー効率に依存する。イオンポンプの効率自体は100%近いとされており(参考文献:Yasuda, R., Noji, H., Kinosita, K. Jr., Yoshida, M. (1998) Cell 93, 1117-1124;野地博行、吉田賢右 (1999) 生化学 71, 34-50)、発電機としてもこれに準ずる効率が得られると考えられる。

【0075】
一方、「空間・時間的な効率」という観点では、2次元的な集積度を上げるとともに、厚み約5μmの超薄板ガラスをデバイス本体に用いて積層することによって、シビレエイの発電器官と同等以上の構造・効率が可能であると考えられる。仮にシビレエイの発電器官と同等とすると、シビレエイ自体が平均約0.01W/cm3で得られており、これと同等以上は期待できる。これは例えば20cm3の机に置けるサイズの発電デバイスで定常100W以上が可能となり(蓄電率100%とした場合)、冷蔵庫1台を動かす程度の出力を得られるということになる。

【0076】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、発電を行う装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 発電素子
2 溶液流路層
3 発電層
4a 上部ガラス板
4b 下部ガラス板
4c 開口部
4d ガラス薄板
4e 凸部
5 ATP溶液充填部
5a ポンプ
6 Na+-AChE(アセチルコリン分解酵素)溶液充填部
6a ポンプ
7 Na+-ACh(アセチルコリン)溶液充填部
7a ポンプ
8、9、10 流路
11 ATP溶液通路
12 Na+液通路
13 底部膜
13a 脂質二重膜
13b、13c ガラス板
14、14a、14b、14c 移送通路
21 ピエゾアクチュエータ
100 発電デバイス
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3