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明細書 :光学顕微鏡システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6206871号 (P6206871)
公開番号 特開2015-022070 (P2015-022070A)
登録日 平成29年9月15日(2017.9.15)
発行日 平成29年10月4日(2017.10.4)
公開日 平成27年2月2日(2015.2.2)
発明の名称または考案の名称 光学顕微鏡システム
国際特許分類 G02B  21/00        (2006.01)
FI G02B 21/00
請求項の数または発明の数 7
全頁数 18
出願番号 特願2013-148638 (P2013-148638)
出願日 平成25年7月17日(2013.7.17)
審査請求日 平成28年7月12日(2016.7.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】市村 垂生
個別代理人の代理人 【識別番号】110000040、【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
審査官 【審査官】森内 正明
参考文献・文献 特開2011-39247(JP,A)
特表2012-504226(JP,A)
国際公開第2013/010859(WO,A1)
特開2010-102332(JP,A)
特開2006-113462(JP,A)
特開平10-227694(JP,A)
特表2004-500669(JP,A)
調査した分野 G02B 21/00 - 21/36
特許請求の範囲 【請求項1】
複数色の蛍光プローブを用いて光の回折限界以下のサイズの対象物の光学画像を取得する光学顕微鏡システムであって、
前記蛍光プローブを励起発光させる励起光を照射するレーザー光源と、
前記励起光により励起された前記蛍光プローブの光像を得る光学系と、
前記光学系で得られた光像をイメージング分光する分光器と、
前記分光器で得られた分光画像を撮像して撮像画像を得る撮像装置とを有する光学顕微鏡と、
前記撮像画像を解析してその輝点分布から前記複数色の蛍光プローブそれぞれの位置を推定する解析手段とを備え
前記光像において重なり合った複数の輝点を前記分光器によってスペクトル分離して観察することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項2】
前記光学系が、前記蛍光プローブの第1の光像を得る第1の部分光学系と、前記第1の光像に対して左右いずれかに90°回転した回転光像を得る第2の部分光学系とからなる分割光学系を有し、
前記分光器は、前記第1の部分光学系により得られた前記第1の光像と前記第2の部分光学系で得られた前記回転光像とを同時にイメージング分光し、
前記撮像装置は、前記第1の光像の分光画像と前記回転光像の分光画像とを一つの撮像画像として撮像する請求項1に記載の光学顕微鏡システム。
【請求項3】
前記第1の光像の分光画像と前記回転光像の分光画像から得られた、前記複数色の蛍光プローブそれぞれの位置を対応させることで、前記複数色の蛍光プローブの二次元の配置位置を特定する請求項2に記載の光学顕微鏡システム。
【請求項4】
前記蛍光プローブとして量子ドットを用いる請求項1~請求項3のいずれかに記載の光学顕微鏡システム。
【請求項5】
前記解析手段が、ガウスフィット法により前記撮像画像の輝度分布から前記蛍光プローブの位置を推定する請求項1~4のいずれかに記載の光学顕微鏡システム。
【請求項6】
前記撮像装置がビデオレート以上で前記撮像画像を撮像し、得られた撮像画像から前記蛍光プローブの位置変化の動画像を得る請求項1~5のいずれかに記載の光学顕微鏡システム。
【請求項7】
前記光学顕微鏡は、当該顕微鏡装置の動作制御を行う制御部をさらに備え、前記解析手段が前記制御部の機能として組み込まれている、請求項1~6のいずれかに記載の光学顕微鏡システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本開示は、光の回折限界サイズ以下であるナノメートルオーダーでの分解能で光学像を取得可能な超解像の光学顕微鏡システムに関し、特に、複数色の蛍光性粒子の位置を同時に把握することができる光学顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡とその周辺装置は、さまざまな分野での研究に貢献しているが、近年は特に観察対象物を撮像装置により撮像する機能を備え、撮像した静止画像や動画像の画像データをコンピュータや大型モニタなどの外部機器に送出して、画像解析や現象解析に供されるようになっている。また、光学顕微鏡により取得された画像を解析する解析手段が組み合わされることで、光学顕微鏡単体では把握不可能な、可視光域では数百ナノメートルオーダーである光の回折限界サイズ以下の微細な観察対象物を観察できる光学顕微鏡システムも実用化されている。
【0003】
例えば、生命科学研究の分野では、高解像度の光学顕微鏡を用いて細胞内部の微細構造の変化や細胞分化パターンの解析など行うために、蛍光性物質を標識として用いて、その分布状況や位置の変化を観察することが行われている。生命科学研究分野における高解像度顕微鏡を用いた観察方法として、光活性化局在顕微鏡法、一分子蛍光追跡技術などが知られている。
【0004】
光活性化局在顕微鏡法は、紫外線が照射されると活性化して励起光により発光する蛍光プローブによって観察対象の分子を標識し、分子内の蛍光プローブを順次活性化させてその位置を把握する作業を繰り返し、得た情報を画像として再構築するものである。活性化光の強度を制御して一度に活性化される蛍光プローブの数を制限することで、それぞれの蛍光プローブの発光を離散的な輝点として捉えることができ、得られた画像を合成することで、光学顕微鏡の光学系における回折解析サイズ以下の例えば10ナノメートルの分解能で分子像を得ることができる(非特許文献1、特許文献1参照)。
【0005】
また、一分子蛍光追跡技術は、モータータンパク質や膜タンパク質の動態などを、1分子ずつ観察する方法である。観察対象の分子を蛍光プローブで標識し、全反射照明蛍光顕微鏡などの背景光の小さい顕微鏡法により観察することで、分子の輝点の動きを動画として観察することができる。ガウスフィット法などによって輝点の位置を特定する作業を動画として得られた各フレームの画像に対して行うことで、数ミリ~数十ミリ秒の分解能で分子のナノメートルレベルでの動態を追跡することができる(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2010-102332号公報
【0007】

【非特許文献1】Eric Betzig et al. "Imaging intracellular fluorescent proteins at nanometer resolution" SCIENCE vol.313 1642-1645 (2006)
【非特許文献2】Yildiz A el al. "Myosin V walks hand-over-hand: single fluorescent imaging with 1.5-nm localization" SCIENCE vol.300 2061-5 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の光学顕微鏡を用いた観察手法によれば、いずれも光の回折限界サイズ以下の高い分解能での生体観察が可能である。
【0009】
しかし、光活性化局在顕微鏡法では、一枚の超解像画像を得るために多数の画像を取得する必要があり、数分から数時間の時間が必要となる。このため、ナノメートル~マイクロメートル空間で高速移動する生体分子の動態を観察することはできない。また、一分子蛍光追跡技術は、一分子の動態は観察できるが、光の回折限界以内の距離で近接する複数の分子の動きを同時に観察することができない。
【0010】
そこで本願は、上記した従来の課題を解決して、光の回折限界サイズ内に存在する複数個の分子やナノ構造体が運動する様子を、ビデオレートと同等以上の高速で超解像観察することができる光学顕微鏡システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本願で開示する光学顕微鏡システムは、複数色の蛍光プローブを用いて光の回折限界以下のサイズの対象物の光学画像を取得する光学顕微鏡システムであって、前記蛍光プローブを励起発光させる励起光を照射するレーザー光源と、前記励起光により励起された前記蛍光プローブの光像を得る光学系と、前記光学系で得られた光像をイメージング分光する分光器と、前記分光器で得られた分光画像を撮像して撮像画像を得る撮像装置とを有する光学顕微鏡と、前記撮像画像を解析してその輝点分布から前記複数色の蛍光プローブそれぞれの位置を推定する解析手段とを備え、前記光像において重なり合った複数の輝点を前記分光器によってスペクトル分離して観察することを特徴とする。


【発明の効果】
【0012】
本願で開示する光学顕微鏡システムは、複数色の蛍光プローブの光像を分光器で分光し、得られた分光画像を撮像した撮像画像を解析することで蛍光プローブそれぞれの位置を推定する。このため、光の回折限界サイズ以下の領域に存在する複数の蛍光プローブの位置をその発光色に基づいて正確に分離推定することができ、観察対象物の超解像、かつ、高速での観察画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおける、光学顕微鏡部分の概略構成を説明するためのブロック図。
【図2】本開示にかかる光学顕微鏡の原理を説明するための模式図。
【図3】測定対象のミオシンVと、本実施形態にかかる光学顕微鏡で得られた分光画像とを示す図。
【図4】2つの量子ドットについて、観察開始時点の位置からの距離と時間との関係を示すグラフ。
【図5】本実施形態の光学顕微鏡システムの変形例の構成を説明するブロック構成図。
【図6】回転していない第1の光像と90°回転した回転光像、さらに、それらが分光された分光画像とを模式的に示す図。
【図7】本実施形態の光学顕微鏡システムにより得られた、互いに回転した光像の具体例を示す図。
【図8】光の回折限界サイズ内の領域に配置された3つの蛍光プローブの二次元位置を分離観測した状態を示す図。
【図9】複数色の蛍光プローブの位置変化を二次元の動画像として捉えた様子を説明する図。
【図10】複数色の蛍光プローブの位置変化を二次元の動画像として捉えた様子を説明する図。
【図11】分離光学系により得られた2つの光像において、同一の蛍光プローブからの発光を特定する方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の光学顕微鏡システムは、複数色の蛍光プローブを用いて光の回折限界以下のサイズの対象物の光学画像を取得する光学顕微鏡システムであって、前記蛍光プローブを励起発光させる励起光を照射するレーザー光源と、前記励起光により励起された前記蛍光プローブの光像を得る光学系と、前記光学系で得られた光像をイメージング分光する分光器と、前記分光器で得られた分光画像を撮像して撮像画像を得る撮像装置とを有する光学顕微鏡と、前記撮像画像を解析してその輝点分布から前記複数色の蛍光プローブそれぞれの位置を推定する解析手段とを備えている。

【0015】
このようにすることで、光の回折限界サイズである数百ナノメートルオーダーよりも小さい領域内に存在するため、光学的には互いに重なり合った状態で観察される複数色の蛍光プローブを、その発光色によって分離し、解析手段によってそれぞれの位置を推定することができる。このため、ナノメートルオーダーの高い分解能で対象物を観察することができる。また、カメラの撮像速度で、分光と空間座標取得が同時に行えるため、高速観察が可能となる。

【0016】
本開示の光学顕微鏡システムにおいて、前記光学系が、前記蛍光プローブの第1の光像を得る第1の部分光学系と、前記第1の光像に対して左右いずれかに90°回転した回転光像を得る第2の部分光学系とからなる分割光学系を有し、前記分光器は、前記第1の部分光学系により得られた前記第1の光像と前記第2の部分光学系で得られた前記回転光像とを同時にイメージング分光し、前記撮像装置は、前記第1の光像の分光画像と前記回転光像の分光画像とを一つの撮像画像として撮像することが好ましい。このようにすることで、互いに90°回転した2つの光像に基づく分光画像を一つの撮像画像として取得することができる。

【0017】
また、前記第1の光像の分光画像と前記回転光像の分光画像から得られた、前記複数色の蛍光プローブそれぞれの位置を対応させることで、前記複数色の蛍光プローブの二次元の配置位置を特定することが好ましい。このようにすることで、観察対象物の二次元での位置情報を容易に取得することができる。

【0018】
さらに、前記蛍光プローブとして量子ドットを用いることが好ましい。一つの励起光により発光し、多数色の指標として実現可能である量子ドットを用いることで、最大十数個程度の複数色の蛍光プローブを同時に分離観察することができる。

【0019】
前記解析手段が、ガウスフィット法により前記撮像画像の輝度分布から前記蛍光プローブの位置を推定することが好ましい。ガウス関数を用いるガウスフィット法を用いることで、それぞれの蛍光プローブの位置を、高速かつ正確に推定することができる。

【0020】
前記撮像装置がビデオレート以上で前記撮像画像を撮像し、得られた撮像画像から前記蛍光プローブの位置変化の動画像を得ることが好ましい。このようにすることで、観察対象物の動態を動画像として観察することができる。

【0021】
また、前記光学顕微鏡は、当該顕微鏡装置の動作制御を行う制御部をさらに備え、前記解析手段が前記制御部の機能として組み込まれていることが好ましい。このようにすることで、高い分解能を実現した光学顕微鏡を単体で実現することができる。

【0022】
(実施の形態)
以下、本開示にかかる光学顕微鏡システムの実施形態について、図面を参照しながら説明する。

【0023】
図1は、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおける、光学顕微鏡部分の概略構成を説明するためのブロック図である。

【0024】
図1に示す光学顕微鏡において、観察対象物1は、図1では図示しないステージに配置され、ステージを操作することでx、y、またはzの各方向それぞれに微調整が可能となっている。

【0025】
観察対象物1には、対物レンズ2を通して、レーザー光源3からのレーザー光4が照射される。レーザー光源3から照射されるレーザー光4は、一例として波長488nmの青色半導体レーザーとすることができる。

【0026】
レーザー光源3から照射されたレーザー光4は、ビームエキスパンダー5によって所定の太さの平行光束とされ、青色反射のダイクロイックミラー6によって反射されて、対物レンズ2を介して観察対象物1に照射される。対物レンズ2は、一例として開口数NA=1.4、倍率150倍のものを用いることができる。

【0027】
なお、図1では、レーザー光4が対物レンズ2を介して照射される同軸の落射照明の例を示したが、本実施形態の光学顕微鏡では、試料面全体を一様に照明する照明法(一様照明)であれば、図示した同軸の落射照明の他にも、側射照明、全反射照明、透過照明などの他の照明法も採用可能である。全反射照明を用いた場合には、溶液中に漂う蛍光物質からの背景光を抑制することができるので、試料中の蛍光プローブを検出しやすいというメリットがある。

【0028】
観察対象物1に照射されたレーザー光4は、観察対象物1に標識されている蛍光プローブを励起発光させる。なお、本実施形態では、蛍光プローブとして量子ドット(Quantum dot:QD)を用いている。量子ドットについての詳細は、後述する。

【0029】
レーザー光4により励起発光された蛍光プローブの光像7は、青色のレーザー光4に対して長波長側である緑色~赤色側にシフトしている。このため、光像7は、対物レンズ2を通過した後青色反射のダイクロイックミラー6を透過し、レンズやミラー、絞りなどの光学部材により構成された拡大リレー光学系8により、トータル倍率が数百倍程度(本実施形態の場合は、一例として375倍)となるように拡大される。

【0030】
拡大された観察対象物1の光像7は、集光レンズ9により集光されてスリット10を介して分光器11に入射し、分光される。本実施形態では、分光器11として分散型イメージング分光器を用いている。分光器11としては、反射型もしくは透過型の回折格子や反射型もしくは透過型のプリズムなどを用いた各種の分散型分光器を使用することができ、スリット10と垂直な軸方向に光波を分光するとともに、スリット10と平行な方向には空間位置情報がそのまま結像された分光画像が得られる。

【0031】
分光器11によって分光された蛍光プローブの発光7の分光画像は、分光器11に取り付けられた撮像装置12であるEM-CCD(Electron Multiplying CCD)により撮像されて、撮像画像が得られる。

【0032】
撮像装置12が撮像した撮像画像は、図示しない解析手段としての解析部に出力され、解析部において撮像画像上の輝点分布に基づいてその中心位置としての蛍光プローブ位置が算出される。本実施形態の光学顕微鏡システムでは、撮像画像データから、蛍光プローブの中心位置を推定する手法として最も優れているとされる、ガウス関数によりフィッティングを行うガウスフィット法を用いている。また、本実施形態の光学顕微鏡システムでは、撮像画像における輝点の分布形状を考慮して楕円ガウス関数を用いたガウスフィット法を用いている。なお、ガウスフィット法以外にも、相互相関によるパターンフィッティング法や、光強度を重みとした重心位置計算法などをはじめとする各種数値解析手法を用いることができる。

【0033】
なお、本実施形態の光学顕微鏡システムにおける解析部は、取得した撮像画像データに対して一定の計算処理を行い、蛍光プローブの位置を把握してその位置データを出力可能なものであればよい。このため、解析部は、撮像装置12で撮像された撮像画像が入力されたコンピュータとして実現することができる。また、光学顕微鏡がレーザー光源3や観察対象物1が配置されたステージの移動制御、オートフォーカス制御などの顕微鏡装置自体の各種制御を行う制御部を備えている場合などに、解析手段は、制御部におけるマイコンユニットに組み込まれた一つの機能として光学顕微鏡と一体で実現することができる。

【0034】
さらに、撮像装置12で撮像された画像、および/または、解析部で解析された結果としての蛍光プローブの位置を示す画像等を表示するモニタとして、解析部として機能する外部のコンピュータのディスプレイを用いることができる。さらに、光学顕微鏡が画像表示パネルを備え、この画像表示パネルを、解析部で解析された結果としての蛍光プローブの位置を示す画像等を表示するモニタとして利用する構成も可能である。

【0035】
図2は、本開示にかかる光学顕微鏡システムによって、観察対象物として、光の回折限界サイズ以下である数十ナノメートルレベルの領域に配置された複数色の蛍光プローブを分離区別して、それぞれの蛍光プローブの位置を把握できる原理を説明するための模式図である。

【0036】
図2において、図2(a)が観察対象物としての蛍光プローブの配置状態を、図2(b)が図1を用いてその構成を説明した光学顕微鏡により光学的に把握された観察対象物の光像を、図2(c)が分光器により分光された分光画像を、それぞれ示している。

【0037】
図2(a)に示すように、4色の蛍光プローブが観察対象物において密集した状態で配置されているとする。図2(a)に示す蛍光プローブは、上から緑色21、オレンジ22、黄色23、赤色24の順に並んだ4色である。なお、本実施形態の光学顕微鏡システムでは、蛍光プローブとして各色の量子ドットが使用された状態を想定している。蛍光プローブとして使用される量子ドットは、ポリマーコーティングされた粒子径が数ナノメートル~20ナノメートル程度の半導体微粒子であり、市販品としては、500nmから800nmのものが広く流通している。

【0038】
蛍光プローブである量子ドットの粒径が光の回折限界である数百ナノメートルを下回っているため、図2(b)に示す、光学顕微鏡により得られた光像(一例として375倍のもの)では、4つの量子ドット21~24の輝点がいずれも滲んで一つに重なり合っていて、これを区分することはできない状態である。

【0039】
一方、図2(b)に示した光像を分光器でスペクトル分離した、図2(c)に示す分光画像では、4つの量子ドット21~24が、左から緑色21、黄色23、オレンジ22、赤色24の順に分離して表示される。それぞれの輝点は光の回折限界以下のサイズであるために分光画像においても滲んでいるが、スペクトルに応じて図中横方向に分離されて表示されているため、4つの輝点を別々に把握することが可能である。このように、分光器によってスペクトル分離された4つの輝点それぞれに対して、ガウスフィット法による数値解析を行って、輝点の輝度分布形状からその中心位置を推定することができる。この結果、図2(c)に示すように、4つの量子ドット21~24のY方向の位置(Y座標値)y1~y4を特定することができる。

【0040】
本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、分光画像を撮像した撮像画像の画像データを用いて、分光画像として現れた各輝点に対して解析部がガウスフィット法によりその中心位置を計算している。特に、図2(c)に示すように、分光器によりスペクトル分光された分光画像における輝点が、スペクトル解析を行っている関係から真円ではなく横長の長円形となることに対応して、前述のように楕円ガウス関数を用いたガウスフィット法による解析を行い、横方向である分光の方向と縦方向とで幅が異なることを想定したフィッティングパラメータを用いている。このように、一つの輝点に対してガウスフィット法での解析を行う対象となる領域を、真円ではなく長円形であるとして解析対象のデータを予め限定するなどの工夫によって、撮像画像の画像データから輝点の中心位置を推定するまでに必要な処理時間を短縮することができる。

【0041】
図3、および、図4は、本実施形態の光学顕微鏡システムを用いて、モータータンパク質であるミオシンVがアクチンフィラメント上を移動している様子を、2つのモータード
メインそれぞれを異なる色の量子ドットで標識して観察した観察結果を示している。

【0042】
図3の左側に模式図を示すように、アクチンフィラメント31上を移動するミオシン32の2本のそれぞれのモータードメイン(ヘッド部位)に、一方は緑色の量子ドット33(発光波長565nm)、もう一方に赤色の量子ドット34(発光波長655nm)の2色の量子ドットで標識する。具体的には、ミオシンのモータードメインをビオチン修飾し、ストレブトアビジン修飾した量子ドットをビオチンアビジン結合による標識を行った
このとき得られたビデオレートでの動画像から、1フレーム分の撮像画像をガウスフィット法を用いて解析して、それぞれの量子ドットの輝点位置を特定したものが、図3右側の写真である。図3右側の写真では、左側の輝点が緑色の量子ドット33を、右側の輝点が赤色の量子ドット34を、それぞれ示している。

【0043】
また、図4は、2つの量子ドット33、34の、観察開始時点の位置である基点からの距離と時間との関係とを示すグラフである。

【0044】
図4から、2つの量子ドット33、34が、時に前後の位置を入れ替えながら交互に歩くようにして基点位置から移動する様子を明確に把握することができる。また、2つの量子ドット33、34が移動する様子を動画像として観察することも可能である。

【0045】
このように、本実施形態の光学顕微鏡システムによれば、光の回折限界サイズ以下の極めて小さな領域における複数個の蛍光プローブの位置を、それぞれが近接した状態であっても正確に特定することができ、さらに、蛍光プローブの位置の変化をビデオレートでの動画像として表すことができる。このため、従来は直接的に観察することが困難であったタンパク質の動態などを、容易に観察することができる。

【0046】
次に、本実施形態の光学顕微鏡システムの変形例として、蛍光プローブの二次元の位置を特定することができる光学顕微鏡の構成と、解析手段における蛍光プローブの位置の特定方法について説明する。

【0047】
図5は、本実施形態の光学顕微鏡システムの変形例の構成を説明するブロック構成図である。

【0048】
図5に示す変形例の光学顕微鏡システムでは、図1を用いて説明した光学顕微鏡部分の構成に加えて、拡大リレー光学系で拡大された観察対象物の光像を、そのままの向きの第1の光像と90°回転させた回転光像とに分割する分割光学系を備えている点が異なる。

【0049】
なお、図5に示した、変形例の光学顕微鏡システムの光学顕微鏡部分の構成において、レーザー光源3や対物レンズ2、分光器11や撮像装置12については、図1に示したものと同じものをそのまま用いることができる。このため、図5において、これら図1で説明した光学顕微鏡の構成と共通する部材には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。

【0050】
図5に示す光学顕微鏡の構成では、対物レンズ2、青色反射のダイクロイックミラー6を透過して、拡大リレー光学系8でトータル375倍に拡大された観測対象物1の光像7は、分割光学系41の無偏光型のハーフミラー42によって、2つの光像43、44に分離される。

【0051】
このうちの一方の光像である第1の光像43は、第1のミラー45、第2のミラー46、第3のミラー47と第1の集光レンズ48からなる第1の部分光学系49を経て、分光器11のスリット10に集光されて入射する。第1の部分光学系49を形成する第1のミラー45と第2のミラー46とが、互いにその反射面が正対するように配置されているため、第1の部分光学系49を経た第1の光像43は、対物レンズで得られた観察対象物1の光像7からの回転は生じていない。

【0052】
ハーフミラー42によって分割された他方の光像である回転光像44は、第4のミラー50、第5のミラー51、第6のミラー52、集光レンズ53からなる第2の部分光学系54を経て、分光器11のスリット10に集光されて入射する。なお、スリット10において、第1の部分光学系49を経た第1の光像43と、第2の部分光学系54を経た回転光像44とは、その入射位置が重ならないように上下方向にずれて入射する。図5に示した例の場合は、第1の部分光学系49を経た第1の光像43が上側に入射するようになっている。

【0053】
第2の部分光学系54では、第4のミラー50の反射面がハーフミラー42の反射面に対して90°ずれた方向に配置されているため、第2の部分光学系54を経た回転光像44は、第1の部分光学系49を経た第1の光像43と比較して、90°回転した光像となっている。

【0054】
図6は、図5で説明した分割光学系を経て分光器に入射した、回転していない第1の光像と90°回転した回転光像、さらに、それぞれの光像の分光器により分光された分光画像とを模式的に示したものである。

【0055】
図6において、図6(a)が観察対象物としての蛍光プローブの配置位置の関係を、図6(b)が第1の部分光学系を経た回転していない第1の光像を、図6(c)が、図6(b)に示した第1の光像から分光器により得られた分光画像を、それぞれ示している。また、図6(d)が、第2の部分光学系を経た、第1の光像に対して90°回転した状態の回転光像を、図6(e)が、回転光像から分光器により得られた分光画像を示している。

【0056】
なお、図6では、図6(a)に示したように、緑色61、黄色62、オレンジ63、赤色64の4色の蛍光プローブが二次元的に広がって配置されている状態を想定した。また、蛍光プローブとしては、図2の場合と同様に、いずれも量子ドットが用いられたことを想定している。

【0057】
図6において、図6(b)として示した第1の光像では、図2(a)と同様に、4つの量子ドット61~64の輝点はいずれも滲んで一つに重なり合っているが、第1の光像を分光器でスペクトル分離した図6(c)に示す分光画像では、左から緑色61、黄色63、オレンジ62、赤色64の順に輝点が分離して表示されているため、4つの量子ドット61~64の輝点を別々に把握することが可能である。分光器によってスペクトル分離された撮像画像における4つの輝点それぞれに対して、ガウスフィット法による数値解析を行うことで輝点の輝点分布形状からその中心位置を推定し、それぞれの量子ドット61~64のy座標を特定することができる。

【0058】
また、図6(b)に示した第1の光像に対して90°回転させた状態の図6(d)として示す回転光像を、分光器でスペクトル分離した図6(e)に示す分光画像でも、4つの量子ドット61~64の輝点は、緑色61、黄色63、オレンジ62、赤色64に分離して表示されるため、4つの輝点を別々に把握することが可能であり、それぞれに対してガウスフィット法による数値解析を行うことでその中心位置を推定することができる。回転光像は、第1の光像に対して90°回転した状態のものであるから、回転光像の分光画像から推定した量子ドットの中心位置は、それぞれの量子ドットのx座標を特定するものとなる。

【0059】
回折格子やプリズムなどを用いた、本実施形態の光学顕微鏡システムに用いられる分光器では、分光画像の一方向(図2および図6では横軸方向)に、スペクトル解析されるため、分光された輝点の位置情報としては、スリットの延在方向である一方向(図2および図6の場合における上下方向)のみが得られることになる。

【0060】
そこで、本実施形態の光学顕微鏡システムでは、図5に示したように、光学顕微鏡の光学系として、分光器11に集光入射される段階での光像が、互いに90°回転した2つの光像となるようにする分割光学系を備え、それぞれの光像に対する2つの分光画像から得られた2軸方向の位置情報を互いに相関付けることにより、観察対象の蛍光プローブの二次元の配置位置を特定することができるようにしている。

【0061】
図7は、本実施形態の光学顕微鏡システムにより取得された、互いに回転した光像の具体例を示している。なお、図7は、分割光学系で得られた2つの光像が正しく回転したものであることを検証するためのものとして、ガラス基板上に4つの蛍光プローブを配置した試料を観察対象物としている。

【0062】
図7(a)が、スリット10を介して分光器11に入射された状態での互いに回転した第1の部分光学系49を経た第1の光像43と、第2の部分光学系54を経た回転光像44とを示したものである。図7(b)として切り出された、第1の部分光学系49を経て得られた第1の光像43は、図に示すように左右方向がx軸、上下方向がy軸となっていて、観察対象物そのままの配置を示している。

【0063】
一方、図7(c)として切り出された、第2の部分光学系54を経た回転光像44は、図に示すように左右方向がy軸、上下方向がx軸となっていて、観察対象をそのまま表した第1の光像43を90°回転させたものであることがわかる。なお、図5に具体例を示した分割光学系41によって得られた光像であるため、図7(c)として示す90°回転された状態の回転光像44は、図7(b)として示す回転していない第1の光像43に対して裏返しの関係にある。図7(d)として示すように、図7(c)に示した回転光像44を裏返して回転させた像44’は、図7(b)として示した回転していない状態の第1の光像43と一致することがわかる。このように、図5に示した分割光学系41を経ることで、互いに90°回転した状態の2つの光像43、44を得ることができる。

【0064】
なお、本実施形態の光学顕微鏡システムでは、回転していない第1の光像と90°回転した状態の回転光像とをそれぞれ分光分析し、得られた分光画像から各輝点の位置情報である座標値を求めて、これを対応付けることで二次元の配置位置を特定している。このため、回転した光像から正しいx座標が得られれば、その画像がさらに軸対象操作が加わってY軸に対して反転していることは問題とならない。分光器におけるスリットの延在方向に対して、互いに90°回転した状態の2つの光像を得ることができれば、それぞれ互いに直交する一次元方向の蛍光プローブの配置位置が特定でき、これを組み合わせることで二次元での蛍光プローブの配置位置を特定することができる。この場合、90°回転の方向は右方向(時計回り)、または、左方向(半時計回り)のいずれでもよい。

【0065】
図8は、本実施形態の光学顕微鏡システムにより、光の回折限界サイズ内の領域に配置された3つの蛍光プローブの二次元位置を分離観測した状態を示している。

【0066】
図8(a)が、分光器に入射された状態の光像を、図8(b)が分光器により分光分離された分光画像を示している。図8(a)、図8(b)において、いずれも上側半分が、観察対象物そのままの配置状態の第1の光像および第1の光像から得られた分光画像であり、下側半分が、第1の光像を90°回転させた回転光像および回転光像から得られた分光画像である。したがって、図8(b)の上側半分からそれぞれの蛍光プローブのy軸座標が定まり、図8(b)の下側半分からそれぞれの蛍光プローブのx軸座標が定まる。

【0067】
図8(a)で、図中に矢印で示す輝点は、上半分の第1の光像における輝点71、下半分の回転光像における輝点72ともに、いずれも一つの輝点として見える。しかし、分光画像を示す図8(b)によれば、輝点71と輝点72とは、いずれも青緑色の量子ドット73(発光波長525nm)、緑色の量子ドット74(発光波長565nm)、赤色の量子ドット75(発光波長655nm)の3つの量子ドット73~75の輝点が重なり合ったものであることがわかる。

【0068】
図8(b)で分光された3色の量子ドット73~75の輝点に対して、それぞれガウスフィット法による解析を行うことで輝点の中心位置を推定し、それぞれの量子ドット73~75のx座標とy座標の数値を特定した。3つの量子ドット73~75について、それぞれ推定された座標値を元にx-y座標の平面に二次元的に表したものが図8(c)である。

【0069】
図8(c)での表示に当たっては、図8(a)、図8(b)として、30フレーム/秒のビデオレートで撮像した動画像の各フレーム画像に基づいてそれぞれの量子ドット73~75のx座標値とy座標値を推定し、これをそのままプロットした。顕微鏡の物理的な振動や量子ドットの輝度や発光波長の微細な変化等により、各フレーム画像から得られた量子ドットの推定位置の数値に揺らぎがあるが、図8(c)に示すように3つの量子ドット73~75の位置が、数ナノ~10ナノメートルのオーダーで特定できていることがわかる。

【0070】
図8(d)は、参考までに、光学顕微鏡で得られた二次元の光像をそのまま表したものである。なお、参照のため、図8(d)には、図8(c)で把握された3つの量子ドット73~75の二次元位置を重ねてプロットしている。図8(d)に示すように、3つの量子ドット73~75は光の回折限界サイズよりもはるかに小さな間隔で配置されているため、得られた光像では小さな滲んだ一つの輝点にしか見えない。これに対して、図8(c)に示すように、3つの量子ドット73~75の二次元位置が特定できる本開示の光学顕微鏡システムによる解析画像が、高い分解能を有するものであることが理解できる。

【0071】
本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、分割光学系を用いて取得された二次元の蛍光プローブの配置位置情報についても、これを動画像として得ることが可能である。

【0072】
以下、図9、図10を用いて、モータータンパク質であるミオシンVが、アクチンフィ
ラメント上を移動する様子を本開示の蛍光顕微鏡システムにより二次元的に動画解析をした結果を示す。図9、図10においては、図3、図4を用いた場合と同様にミオシンVの
モータードメインを4つの蛍光プローブで標識して、それぞれ蛍光プローブが移動する状態を示している。なお、図9、図10で示す例では、図3,図4の場合に比べて量子ドットの濃度を低く抑えることで、ミオシンの2つのモータードメインの内の一方のみが標識されるようにした。

【0073】
図9(a)は、ミオシンVの初期状態における光像に基づいて分光器で得られた分光画
像である。図9(a)においても上記図8(b)と同様に、上半分がy座標位置を決める回転していない第1の光像から得られた分光画像、下半分がx軸方向を特定する90°回転した回転光像から得られた分光画像である。

【0074】
図8を用いて説明したと同様に、図9(a)の上下それぞれの輝点に対して、ガウスフィット法に基づく解析を行ってその中心位置を推定し、それぞれの蛍光プローブのx座標とy座標とを求め、これを二次元的に示したものが図9(b)である。すなわち、図9(b)は、観察開始時点の初期状態における4つの量子ドット91~94の位置を二次元で示している。

【0075】
以下、図9(c)が観察開始から10秒後、図9(d)が20秒後、図10(a)が30秒後、図10(b)が40秒後、図10(c)が50秒後、図10(d)が60秒後、図10(e)が70秒後、図10(f)が80秒後と、4つの量子ドット91~94の10秒ごとの二次元的な位置を示す。

【0076】
図9(b)から図10(f)として示した各図より、ミオシンの移動に伴って4つの量子ドットの位置が変化していることがわかる。図9と図10では、途中の画像を省略して観察開始から10秒経過ごとの4つの量子ドット91~94の位置を示したが、本実施形態の光学顕微鏡システムでは、4つの量子ドット91~94の二次元的な位置の変化をビデオレートで撮影、再現することができるので、ミオシンのモータードメインをそれぞれ指標した4つの量子ドット91~94が移動する様子を動画像として観察することができる。

【0077】
特に、図9、図10における量子ドット91、92のように、複数の量子ドットが極めて近い位置に存在している場合でも、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムによれば、その発光波長に基づいて明瞭に区分することかできる。

【0078】
なお、図8、図9、図10を用いて説明した、二次元での蛍光プローブ位置を特定する場合には、回転していない第1の光像と90°回転した回転光像との間で、どの2つの輝点が同一の量子ドットからの発光であるかを特定し、別々に得られるx座標値とy座標値とを正しく対応させる必要がある。特に、図7の例のようにスリット幅を輝点のサイズよりも大きく広げて計測する場合、分光された光像上の各輝点の波長は知ることができないため、同一の量子ドットからの輝点の組み合わせを特定することが難しい。

【0079】
本実施形態の光学顕微鏡システムでは、このような場合に、分光画像における量子ドットのスペクトル揺らぎを利用して、同じ量子ドットからの発光であるか、異なる量子ドットからの発光であるかを区別する。

【0080】
本実施形態の光学顕微鏡システムにおいて、蛍光プローブとして利用している量子ドットは、半導体ナノ粒子の蛍光発光であるため、発光強度と発光波長とが時間的にわずかに変化する(揺らぐ)という特徴を有する。上記説明したように、本実施形態の光学顕微鏡システムでは、対物レンズで得られた一つの光像を分離光学系によって光学的に分離して、回転していない第1の光像と90°回転した回転光像とを得ているため、第1の光像と回転光像とは同じタイミングで取得されたものであるから、量子ドットの発光が揺らげば、2つの光像における輝点は同じタイミングで発光輝度や発光波長の微細な変化が生じる。したがって、発光輝度や発光波長の揺らぎを比較すれば、2つの輝点が同じ量子ドットの発光であるかそうでないのかを容易に判別することができる。

【0081】
図11は、2つの輝点の発光強度のゆらぎに基づいて、回転していない第1の光像から得られた分光画像における輝点と、90°回転した回転光像からの分光画像における輝点とを対応付けた結果を示す。

【0082】
図11では、4色の量子ドット91~94が回折限界サイズ内に存在している状態を観測し、撮像画像におけるそれぞれの輝点の発光輝度の変化から、第1の光像に基づく上半分の画像に現れた4つの輝点91a、92a、93a、94aと、回転光像に基づく下半分の画像に現れた4つの輝点91b、92b、93b、94bとを対応付けたものである。

【0083】
図11右側に示す表は、対応付けた4つの輝点91~94について、発光輝度の揺らぎの相関を総当たりで求めた際の、ピアソンの積率相関係数における相関値を示したものである。図11の右側に示した対応表に示すように、2つの光像から得られた輝点の発光輝度の揺らぎは、互いに対応すると想定した輝点同士で他の輝点との間のものよりも極めて高い相関度合いを示している。この結果から、4つの輝点について正しく対応付けられたと判断することができる。

【0084】
本実施形態の光学顕微鏡システムでは、このようにして分離光学系によって得られた2つの光像に基づく2つの輝点を正しく対応付けることができるので、複数の蛍光プローブの二次元位置の特定を正確に行うことができる。

【0085】
以上説明してきたように、本開示の光学顕微鏡システムによれば、回折限界サイズ以下の狭い領域に、複数色の蛍光プローブが存在している場合でも、光学顕微鏡で得られた光像を分光器でイメージング分光することにより、容易に分離してそれぞれの蛍光プローブの位置を推定することができる。

【0086】
また、蛍光プローブの光像として、互いに90°回転した2つの光像を光学的に得ることにより、蛍光プローブの分光画像からx座標とy座標とを特定することができるので、蛍光プローブの位置を二次元で表すことができる。

【0087】
さらに、本開示の光学顕微鏡システムは、スペクトル情報と2次元空間情報を同時に取得する手段として、従来行われていた、空間的なビーム走査をしながら1点ずつスペクトルを取得する方法や光学フィルタなどを順次切り替えていくことで波長掃引していく方法のようにデータ取得に時間を要する方法とは異なり、空間走査や波長掃引をすることなく、カメラの撮像速度で分光と空間座標取得を同時に行うことができる。このため、高速での観察が可能となり、複数色の蛍光プローブの位置の変化を動画像として表すことができる。さらにまた、解析時間を短くすることなどにより、将来的にはリアルタイムでの動画表示が可能となることも想定できる。

【0088】
なお、上記実施形態において、蛍光プローブとして量子ドットを用いる例を説明した。量子ドットは、一つの励起光によってそれぞれ特有の波長で発光し、蛍光発光のスペクトル幅が狭いため分光により分離しやすい。また、材料や粒径を工夫することで、現在市販されているもの以外にも、可視光から近赤外光までの幅広い領域に渡って、さまざまな波長のものが得られる可能性が高い。このため、複数色の蛍光プローブをその発光波長により分離して観測可能な本開示の光学顕微鏡システムでの観測における指標として好ましい。特に、分子を蛍光プローブで標識する場合に、どの分子がどの蛍光プローブで標識されるかは確率的に定まるため、分離観察したい分子の数以上の蛍光プローブが必要となる。このため、多数の蛍光スペクトルが実現可能である量子ドットは、本開示にかかる光学顕微鏡システムでの生命科学分野における観察に用いられる蛍光プローブとしてとても有効である。

【0089】
なお、本開示の光学顕微鏡システムでは、異なる波長の蛍光プローブを分光画像により分離してそれぞれを判別するものであるため、発光波長が異なる複数種類の蛍光プローブであれば、量子ドット以外の従来からの各種蛍光プローブも使用可能である。量子ドット以外の蛍光プローブを用いる場合には、励起発光が維持される時間が長く、一回の励起光の照射で全ての蛍光プローブが発光するものであることが好ましい。

【0090】
また、上記実施形態では、光学系による拡大倍率を約400倍とした例を示した。本開示にかかる光学顕微鏡では、光学的に得られた光像を、分光器を介して分光画像を得、これを撮像装置で撮像した撮像画像に基づいて解析部で解析して輝点の中心位置を推定する関係から、撮像装置における撮像素子の大きさと撮像画像として得られた光像との関係において、一つの輝点を撮像する素子が少なすぎる場合には、輝点の輪郭部分の測定精度が落ちて、正確な中心位置の推定ができなくなるおそれがある。このため光学顕微鏡の拡大倍率は、撮像装置の撮像素子の大きさにより定まる解像度との関係で適宜定めるべきものである。一例として、少なくとも一つの輝点を、一辺が7~10個程度の撮像素子で撮像されるような状態、輝点全体を50~100個以上の撮像素子で撮像できる状態となるように、光学倍率を確保することが好ましい。

【0091】
また、上記実施形態において説明した光学顕微鏡部分の構成は例示に過ぎない。例えば、レンズやミラーの個数や配置位置などの光学系については、適宜設計により変更できるものである。さらに、蛍光プローブの二次元配置を測定する方法において、図5を用いて分割光学系を備える例について説明したが、互いに90°回転した2つの光像を得る方法は分割光学系を用いる方法には限られない。本開示にかかる光学顕微鏡システムにおいては、上記例示した方法に限らず、x軸方向とy軸方向の輝点の位置を対応付けて得ることができる各種の方法を採用することができる。また、光学顕微鏡として、分光器や撮像装置を2つ備え、それぞれが別々の分光画像や撮像画像を取得する構成とすることも可能である。

【0092】
なお、数学的には、平行でない任意の2つのベクトルの線形結合によっても、二次元平面上の任意の位置を表すことができるため、回転角度は90度である必要はなく、互いに異なる2つの軸方向における位置が検出可能な2つの光像が得られる各種の光学的、解析的な手法を採用することができる。

【0093】
本開示にかかる光学顕微鏡によれば、光の回折限界サイズ以下の領域に配置された、数個から十数個の異なる発光色の蛍光プローブの位置を推定することができる。このため、特に生命科学研究の分野では、従来は動態観察結果と固定試料の観察結果との組み合わせでのみ議論されてきた、筋肉を構成する多数のミオシン分子の同時観察や、細胞膜上の受容体タンパク質の離合集散の観察など、分子の協同的な運動によって機能を生み出す生体ナノシステムの機構解明のための直截的なアプローチが可能となるという、極めて高い効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本願で開示する光学顕微鏡システムは、光の回折限界以下の極めて微細な領域を観察対象として、複数種類の発光色の蛍光プローブの位置を分離把握することができる高い分解能と、動画像の取得も可能とする高速対応の光学顕微鏡システムとして、生命科学分野をはじめとする各種分野での研究への貢献が期待できる。
【符号の説明】
【0095】
1 観察対象物
3 レーザー光源
8 拡大光学系(光学系)
11 分光器
12 EM-CCD(撮像装置)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10