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明細書 :可溶性ペンタセンを用いた動的核偏極による核スピン高偏極化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-015443 (P2017-015443A)
公開日 平成29年1月19日(2017.1.19)
発明の名称または考案の名称 可溶性ペンタセンを用いた動的核偏極による核スピン高偏極化方法
国際特許分類 G01R  33/28        (2006.01)
G01N  24/12        (2006.01)
A61B   5/055       (2006.01)
FI G01N 24/02 B
G01N 24/12 510L
A61B 5/05 383
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2015-129912 (P2015-129912)
出願日 平成27年6月29日(2015.6.29)
発明者または考案者 【氏名】立石 健一郎
【氏名】上坂 友洋
【氏名】根耒 誠
【氏名】北川 勝浩
出願人 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100126505、【弁理士】、【氏名又は名称】佐貫 伸一
審査請求 未請求
テーマコード 4C096
Fターム 4C096AA11
4C096AA13
4C096AB07
要約 【課題】核スピンの偏極率を向上させる方法を提供する。
【解決手段】下記式(A)で表されるペンタセン誘導体を偏極源に利用したトリプレットDNPによって、核スピンの偏極率を効果的に向上させることができる。
JP2017015443A_000016t.gif
(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子(-H)、重水素原子(-D)、又は酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。但し、Rの少なくとも1つは、酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
トリプレットDNPによる核スピン偏極率の向上方法であって、
トリプレットDNPの偏極源が、下記式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩の光励起三重項電子であることを特徴とする、偏極率の向上方法。
【化1】
JP2017015443A_000014t.gif

(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子(H)、重水素原子(D)、又は酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。但し、Rの少なくとも1つは、酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
【請求項2】
下記の(1)~(3)の操作を含む、請求項1に記載の核スピン偏極率の向上方法。
(1)研究対象化合物、前記ペンタセン誘導体及び/又はその塩、及び溶媒を含む組成物を準備する。
(2)前記ペンタセン誘導体及び/又はその塩を光励起三重項状態とするために、静磁場の中で(1)で準備した組成物にレーザー照射を行う。
(3)トリプレットDNPを行うために、静磁場の中で(2)の操作を行った組成物に磁場の掃引とマイクロ波照射を行う。
【請求項3】
化学分析の測定対象の核スピンの偏極率を向上させる方法である、請求項1又は2に記載の核スピン偏極率の向上方法。
【請求項4】
MRI用造影剤の核スピンの偏極率を向上させる方法である、請求項1又は2に記載の核スピン偏極率の向上方法。
【請求項5】
下記式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩を含むNMR測定用組成物。
【化2】
JP2017015443A_000015t.gif

(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子(H)、重水素原子(D)、又は酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。但し、Rの少なくとも1つは、酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は核スピン偏極率の向上方法に関し、より詳しくはペンタセン誘導体の光励起三重項電子を利用した動的核偏極による核スピン偏極率の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、以下 NMRと略記する。)とは、静磁場中で核スピンが電磁波と相互作用する現象である。NMRの信号強度は、核スピンの揃い具合の程度を示す「偏極率」に比例する。しかしながら、通常の偏極率は10-4~10-6%に過ぎないため、信号強度はまだ1万倍以上も増大され得る可能性を秘めているとも言える。
NMR分光法は、化学分析において重要な手法の1つである。しかしながら感度の面において、他の分析手法(紫外分光法、赤外分光法、質量分析等)に比べて大きく劣ることが知られている。その原因の1つである偏極率の低さを改善するとによって、これまで感度の面で困難であった極微量試料などの測定が可能となる。
また、医療分野で広く用いられている核磁気共鳴撮像法(Magnetic Resonance Imaging、以下 MRIと略記する。)においても、偏極率を向上させた物質は造影剤として使用することができる。この造影剤によれば、代謝過程など従来のMRIでは撮影することができない画像を撮ることができるようになる。
【0003】
後掲の参考文献等にも記載されているように、偏極率を向上させる方策の1つとして、動的核偏極法(Dynamic Nuclear Polarization、以下 DNPと略記する。)が注目を集めており、近年盛んに研究が行われている(例えば、特許文献1、2、及び3参照)。DNPは、以下の(1)~(3)の手順 すなわち、(1)試料に偏極源となる電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance、以下 ESRと略記する。)アクティブな分子を混ぜる、(2)温度を下げるなどで、電子スピン偏極を向上させる(3)マイクロ波を用いてその偏極状態を核スピンへ移す、の手順で行われる。このように、電子スピンは核スピンの偏極状態を増大させる機能を有し、このようなことから電子スピンは偏極源と称されることがある。一般的なDNPでは、ラジカル中の不対電子を偏極源に使用し、100K以下の低温環境を用いて電子スピンを1%以上に偏極させている。しかしながらNMR信号測定時に、[1]ラジカル分子が不要な緩和や分解能の低下を引き起こすこと、[2]原理的な最大信号増大比がHスピンの場合660倍にすぎないこと、さらに、[3]近年のヘリウム高騰で運用コストが上昇しており、普及の足枷になっていることなどの問題があった。
このような問題点は、偏極源にラジカル中の常磁性電子を用いることに起因しており、これを解決するために偏極源に光励起三重項状態にある電子スピンを使用するDNP(以下、トリプレットDNPと略記する。)を利用することが提案されている。この電子スピンの偏極率は実験環境に依存せず、またトリプレットDNP終了後すみやかに基底状態に戻るのでNMR信号測定の障害とならないといった特長を有する。
本願発明者を含む研究者による研究成果が以下のURLに掲載されており、それによるとペンタセンが高い信号強度を得ることができるという観点では有効であることが示されている。
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2014/20140513_1
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2012-220269号公報
【特許文献2】特表2013-516608号公報
【特許文献3】米国特許7,205,764号明細書
【特許文献4】特開2004-503786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のURLに掲載の研究成果にも示されるように、トリプレットDNPの偏極源に利用することができる化合物としてはペンタセンが有力である。しかしながら、ペンタセンはほとんどの有機溶媒(エタノール、アセトン、トルエン、クロロホルム等)に難溶で溶媒内に均一に分散しないため、NMR分光法やMRIの造影剤に応用することが難しいという問題があった。
本発明はトリプレットDNPにおける上記の問題を解決し、汎用的な核スピン偏極向上法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のペンタセン誘導体がトリプレットDNPに非常に好適であることを見出した。それらは様々な溶媒に可溶であり、その光励起三重項状態は高いスピン偏極率と適度な寿命を有している。
なお、偏極源としての電子スピンを供給するために、トリプレットDNPでは「ペンタセン誘導体」にレーザー光を照射している。この意味において「ペンタセン誘導体」は広義の偏極源と言い得る。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> トリプレットDNPによる核スピン偏極率の向上方法であって、
前記トリプレットDNPの偏極源が、下記式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩の光励起三重項電子であることを特徴とする、偏極率の向上方法。
【化1】
JP2017015443A_000002t.gif

(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子(H)、重水素原子(D)、又は酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。但し、Rの少なくとも1つは、酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
<2> 下記の(1)~(3)の操作を含む、<1>に記載の核スピン偏極率の向上方法。
(1)研究対象化合物、前記ペンタセン誘導体及び/又はその塩、及び溶媒を含む組成物を準備する。
(2)前記ペンタセン誘導体及び/又はその塩を光励起三重項状態とするために、静磁場の中で(1)で準備した組成物にレーザー照射を行う。
(3)トリプレットDNPを行うために、静磁場の中で(2)の操作を行った組成物に磁場の掃引とマイクロ波照射を行う。
<3> NMR分光法の測定対象の核スピンの偏極率を向上させる方法である、<1>又は<2>に記載の核スピン偏極率の向上方法。
<4> MRI用造影剤の核スピンの偏極率を向上させる方法である、<1>又は<2>に記載の核スピン偏極率の向上方法。
<5> 下記式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩を含むNMR測定用組成物。
【化2】
JP2017015443A_000003t.gif

(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子(H)、重水素原子(D)、又は酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。但し、Rの少なくとも1つは酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば核スピンの偏極率を効果的に向上させることができ、NMR分光法の感度を効果的に高めることができる。また、本発明の組成物はMRIの造影剤として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例で使用したESRの評価装置の概念図である。
【図2】実施例1~6の組成物のESR信号の測定結果である。
【図3】実施例で使用したNMRの測定装置のシステムを表した概念図である。
【図4】実施例で使用したNMRの測定装置の構成を表した概念図である。
【図5】実施例で行ったレーザー照射、磁場の掃引、及びマイクロ波照射のシーケンスである。
【図6】実施例1~3の組成物のHスピンのNMR信号の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の詳細を説明するに当たり具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明は以下の内容に限定されるものではなく適宜変更して実施することができる。

【0011】
[核スピン偏極率の向上方法]
本発明の一態様である核スピン偏極率の向上方法(以下、「本発明の向上方法」と略す場合がある。)はトリプレットDNPを利用した方法であり、その偏極源が下記式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩の光励起三重項電子であることを特徴とする。
【化3】
JP2017015443A_000004t.gif

(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子(H)、重水素原子(D)、又は酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでい
てもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。但し、Rの少なくとも1つは、酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
前述のように、トリプレットDNPの偏極源に利用することができる化合物としてはペンタセンが有力であるが、ペンタセンはほとんどの有機溶媒(エタノール、アセトン、トルエン、クロロホルム等)に難溶である。そのため、溶媒内に均一には分散難く、汎用的なNMR分光法やMRIの造影剤に応用することが事実上できないという問題があった。
本発明者らは式(A)で表されるペンタセン誘導体が様々な溶媒に可溶であり、さらにその光励起三重項電子が高いスピン偏極率と適度な寿命を有しているため、トリプレットDNPに非常に好適であることを見出したのである。
本発明の測定方法では式(A)で表されるペンタセン誘導体の光励起三重項電子の電子スピン偏極が構成物中の核スピンに伝播的に移り、この核スピン偏極率が高められたNMR信号が測定される仕組みである。式(A)で表されるペンタセン誘導体は様々な溶媒に可溶であり、さらに光励起三重項電子が高いスピン偏極率を有するため、核スピンの偏極率を効果的に高めることができるのである。
以下、「式(A)で表されるペンタセン誘導体」について詳細に説明する。

【0012】
<式(A)で表されるペンタセン誘導体>
本発明の向上方法は、トリプレットDNPの偏極源が下記式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩の光励起三重項電子であることを特徴とするが、ペンタセン誘導体や塩の具体的種類は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【化4】
JP2017015443A_000005t.gif

(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子(H)、重水素原子(D)、又は酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。但し、Rの少なくとも1つは、酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
なお、式(A)のRはそれぞれ独立して水素原子(H)、重水素原子(D)、又は酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表しているが、「炭化水素基」とは直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素-炭素不飽和結合、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよいことを意味する。また、「酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい」とは、酸素原子、硫黄原子、又はケイ素原子を含む官能基を含んでいてもよいことを意味するほか、酸素原子、硫黄原子、又はケイ素原子を含む連結基を炭素骨格の内部又は末端に含んでいてもよいことを意味するものとする。従って、「酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい」炭化水素基には、例えば-CH-CH-OHのようなヒドロキシル基を含む炭素数2の炭化水素基、-CH-O-CHのようなエーテル基を炭素骨格の内部に含む炭素数2の炭化水素基、及び-O-CH-CHのようなエーテル基を炭素骨格の末端に含む炭素数2の炭化水素基等が含まれる。
ペンタセン誘導体の「その塩」とはペンタセン誘導体がカルボキシル基(-COOH)やスルホ基(-SOH)等の酸点を有する化合物であり、その水素イオンが金属陽イオ
ンに置き換えられているものを意味するものとする。
「Rの少なくとも1つは、酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基である」とは、即ち、式(A)で表されるペンタセン誘導体にペンタセン自体と重水素化したペンタセンは含まれないことを意味する。
Rが炭化水素基である場合、炭化水素基の炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは6以上であり、好ましくは12以下、より好ましくは8以下である。
炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基、フェニルチオ基、デシルチオ基、エチニル基等が挙げられる。
炭化水素基に含まれる官能基や連結基としては、カルボキシル基(-COOH)、カルボキシル基のカリウム塩(-COOK)、チオエーテル基(-S-)、トリエチルシリル基(-SiEt)、トリイソプロピルシリル基(-SiPr)等が挙げられる。
炭化水素基の結合数は、通常1以上、好ましくは2以上であり、通常6以下、好ましくは5以下である。
炭化水素基の結合位置は、6位及び13位の組合せ(炭化水素基の結合数2)、5位、7位、12位、及び14位の組合せ(炭化水素基の結合数4)、1位、4位、8位、及び11位の組合せ(炭化水素基の結合数4)、2位、3位、9位、及び10位の組合せ(炭化水素基の結合数4)が挙げられるが、6位及び13位の組合せが最も好ましく、5位、7位、12位、及び14位の組合せ、1位、4位、8位、及び11位の組合せ、位、3位、9位、及び10位の組合せの順で好ましい。ペンタセン誘導体は大気中で溶媒に溶かすと酸化分解され易い傾向があるが、炭素水素基を付加する位置によって上記の順で分解速度が遅くなる。これは、ペンタセンのπ電子雲のスピン密度の高い順に相当する。
また、Proc.Natl.Acad.Sci,U.S.A.2014,111,7527-7530.には、ペンタセンに含まれる水素原子を重水素置換することによって、トリプレットDNPにより達成されるHスピン偏極率が向上することが示されている。
【化5】
JP2017015443A_000006t.gif

【0013】
式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩としては、
1: 6,13-ジフェニルペンタセン、
2: 6,13-ビス(2’,6’-ジメチルフェニル)ペンタセン、
3: 6,13-ビス(2’,6’-ジエチルフェニル)ペンタセン、
4: 6,13-ジビフェニルペンタセン、
5: 3,3’-(6,13-ペンタセンジイルジスルファンジイル)ジプロピオン酸、6: 3,3’-(6,13-ペンタセンジイルジスルファンジイル)ジプロピオン酸カリウム、
7: 6,13-ビス(n-デシルチオ)ペンタセン、
8: 6,13-ビス(フェニルチオ)ペンタセン、
9: 6,13-ビス[(トリエチルシリル)エチニル]ペンタセン、
10: 6,13-ビス[(トリイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン等が挙げられる(下記式参照)。
【化6】
JP2017015443A_000007t.gif

上記に示されるものの内、上記ペンタセン誘導体1:、ペンタセン誘導体4:、ペンタセン誘導体9:、ペンタセン誘導体10:については、実施例においてESR評価とNMR測定を行っている。
また、J.Am.Chem.Soc.2008,130,16274-16286.には、例えば、上記ペンタセン誘導体1:、ペンタセン誘導体2:、ペンタセン誘導体7:、ペンタセン誘導体8:、ペンタセン誘導体10:の各ペンタセン誘導体につき、ペンタセン類のHOMO-LUMOギャップや光酸化抵抗性に与える置換基の効果について詳細に説明されている。
他にも、J.Master.Chem.C,2013,1,2193-2201.には、上記ペンタセン誘導体5:、ペンタセン誘導体6:等のペンタセン誘導体が水に可溶であることが説明されており、溶媒と組合せによって式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩を溶解させ、トリプレットDNPの偏極源として利用できることも明らかである。
上述の10種類の化学式には、化学式に含まれる水素原子(H)のその一部または全部を重水素原子(D)に置換したものも含まれる。

【0014】
本発明の向上方法の用途は特に限定されないが、NMR分光法、MRIの造影剤等に利用することが挙げられる。

【0015】
本発明の向上方法はトリプレットDNPによる核スピン偏極率の向上方法であるが、トリプレットDNPを行うための操作やNMR信号を測定するための操作等は特に限定されず、目的に応じて公知の内容を適宜選択することができる。
本発明の測定方法に含まれる具体的な操作としては、下記の(1)~(3)の操作が挙げられる。
(1)研究対象化合物、前記ペンタセン誘導体及び/又はその塩、及び溶媒を含む組成物を準備する。
(2)前記ペンタセン誘導体及び/又はその塩を光励起三重項状態とするために、静磁場の中で(1)で準備した組成物にレーザー照射を行う。
(3)トリプレットDNPを行うために、静磁場の中で(2)の操作を行った組成物に磁場の掃引とマイクロ波照射を行う。
以下、「(1)~(3)の操作」について詳細に説明する。

【0016】
<(1)の操作>
(1)の操作は研究対象化合物、式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩、及び溶媒を含む組成物を準備する操作であるが、組成物における式(A)で表されるペンタセン誘導体の含有量、溶媒の具体的種類や組成物における含有量等は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。以下、具体例を挙げて詳細に説明する。

【0017】
組成物における式(A)で表されるペンタセン誘導体の含有量は、通常0.01mM以上、好ましくは0.1mM以上、より好ましくは1mM以上であり、通常100mM以下、好ましくは50mM以下、より好ましくは10mM以下である。上記範囲内であると、核スピンの偏極率を高め易くなる。

【0018】
溶媒としては、ベンゼン、トルエン、水、メタノール、エタノール、ジクロロメタン、クロロホルム、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、グリセリン、ポリスチレン、重ベンゼン(ベンゼン-d)、重トルエン(トルエン-d)、重水(水-d)、重メタノール(メタノール-d)、重エタノール(エタノール-d)、重ジクロロメタン(ジクロロメタン-d)、重クロロホルム(ジクロロメタン-d)、重N,N-ジメチルホルムアミド(DMF-d)、重ジメチルスルホキシド(DMSO-d)、重エチレングリコール(エチレングリコール-d)、重グリセリン(グリセリン-d)、重ポリスチレン、または、これらの2種類以上の混合液が挙げられる。
研究対象化合物およびペンタセン誘導体を溶解することのできる溶媒を使用することが均一分散という観点では望ましいが、研究対象化合物は必ずしも溶媒に溶けている必要はなく、ペンタセン誘導体が溶けた溶媒と適度に接しているだけでも相応の効果が期待できると考えられる。
研究対象化合物がナノ結晶やゼオライトのような隙間の大きい物質の場合、ペンタセン誘導体が溶けた溶媒はその隙間に入り込む。また、研究対象化合物がポリマーやゴム、細胞壁のような柔らかい物質の場合、ペンタセン誘導体が溶けた溶媒は浸透もしくは膨潤する。
このように研究対象化合物の種類によるデイメンジョン的属性、硬度(弾性度)的属性等に対応した効果が期待し得ると考える。

【0019】
NMR分光法における組成物における溶媒の含有量は、通常50質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは99質量%以上であり、通常99.999質量%以下、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下である。上記範囲内であると、核スピンの偏極率を高め易くなる。
MRIの造影剤用途における組成物における溶媒の含有量は、通常30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、通常質量99.9%以
下、好ましくは99質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。

【0020】
NMR分光法における組成物における研究対象化合物の含有量は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、通常30質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。上記範囲内であると、核スピンの偏極率を高め易くなる。
MRIの造影剤用途における組成物における研究対象化合物の含有量は、通常3質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、通常90質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは質量50%以下である。

【0021】
NMR分光法における研究対象化合物がタンパク質である場合の水溶媒との含有比率(研究対象化合物の質量/溶媒の質量)は、通常0.0001%以上、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.01%以上であり、通常10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。
MRIの造影剤用途における研究対象化合物がピルビン酸である場合の水溶媒との含有比率(研究対象化合物の質量/溶媒の質量)は、通常1%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であり、通常90%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下である。

【0022】
<(2)の操作>
(2)の操作は、前述のペンタセン誘導体を光励起三重項状態にするために静磁場の中で(1)で準備した組成物にレーザー照射を行う操作であるが、静磁場の磁束密度、レーザーの波長や強度等は式(A)で表されるペンタセン誘導体の種類や含有量に応じて適宜選択されるべきであり特に限定されない。以下、具体例を挙げて詳細に説明する。
静磁場の磁束密度は、通常0.01T以上、好ましくは0.1T以上、より好ましくは0.3T以上であり、通常30T以下、好ましくは5T以下、より好ましくは1T以下である。

【0023】
レーザーの波長は、通常500nm以上、好ましくは550nm以上、より好ましくは590nm以上であり、通常700nm以下、好ましくは670nm以下、より好ましくは650nm以下である。なお、6,13-ジフェニルペンタセンや6,13-ジビフェニルペンタセン等を使用する場合の波長としては、589nmが挙げられる。
レーザーの光量は、通常10mW以上、好ましくは100mW以上、より好ましくは1W以上であり、通常50W以下、好ましくは30W以下、より好ましくは10W以下である。上記範囲内であると、ペンタセン誘導体を十分に励起することができることができる。

【0024】
レーザーは、連続波発振、パルス発振の何れであってもよいが、パルス発振であることが好ましい。
レーザーがパルス発振である場合の波形は、ガウス波形、矩形波形、三角波形等が挙げられるが、矩形波形であることが好ましい。
レーザーがパルス発振である場合のパルス幅は、通常1ns以上、好ましくは10ns以上、より好ましくは100ns以上であり、通常100μs以下、好ましくは30μs以下、より好ましくは10μs以下である。
レーザーがパルス発振である場合のパルス周期は、通常10Hz以上、好ましくは50Hz以上、より好ましくは100Hz以上であり、通常10kHz以下、好ましくは3kHz以下、より好ましくは1kHz以下である。
レーザーがパルス発振である場合のパルス数は、通常1、000以上、好ましくは10、000以上、より好ましくは50,000以上であり、通常1,000,000以下、好ましくは500,000以下、より好ましくは300,000以下である。
上記範囲内であるとペンタセン誘導体を十分に励起することができる。

【0025】
レーザー照射を行うための装置は特に限定されないが、2つの異なる波長のレーザー光を非線形光学結晶中で重ね合わせて和周波発生(Sum Frequency Generation:SFG)を行う装置が挙げられる。例えば、1064nmのYAGレーザー光と1319nmのYAGレーザー光を非線形光学結晶LiB中で重ね合わせることにより589nmの光に変換することができる。

【0026】
(2)の操作におけるその他の条件は特に限定されないが、組成物をガラス転移温度以下に冷却した状態で行われることが好ましい。冷却した状態であると、生成した核スピンの高偏極状態の保持時間が延びるという利点がある。
(2)の操作における組成物の温度は低ければ低いほど望ましいが、通常室温、好ましくは溶媒の融点以下、より好ましくは溶媒のガラス転移温度以下である。
溶媒がエタノールである場合は、融点160K、ガラス転移温度100Kである。
溶媒がトルエンである場合は、融点178K、ガラス転移温度115Kである。

【0027】
<(3)の操作>
(3)の操作はトリプレットDNPを行うために静磁場の中で(2)の操作を行った組成物に磁場の掃引とマイクロ波照射を行う操作であるが、静磁場の磁束密度、マイクロ波の波長、磁場の掃引速度等は、測定対象である核の種類等に応じて適宜選択されるべきであり特に限定されない。以下、具体例を挙げて詳細に説明する。
静磁場の磁束密度は、通常(2)の操作における磁束密度と同一のものである。

【0028】
磁場の掃引とマイクロ波照射を行うための装置は特に限定されないが、磁場掃引装置、マイクロ波発振機、マイクロ波共振器、マイクロ波スイッチ等を利用することが挙げられる。

【0029】
マイクロ波は連続波発振、パルス発振の何れであってもよいが、パルス発振であることが好ましい。なお、磁場の掃引とマイクロ波の照射はレーザー照射に同期し通常同時に行うものである。
マイクロ波の周波数は、通常100MHz以上、好ましくは1GHz以上、より好ましくは8GHz以上であり、通常1THz以下、好ましくは100GHz以下、より好ましくは30GHz以下である。
パルス発振を利用する場合の掃引する磁場の波形は、三角波、正弦波、鋸歯状波等が挙げられるが、三角波であることが好ましい。
パルス発振を利用する場合の照射するマイクロ波の波形は、矩形波、三角波、鋸歯状波等が挙げられるが、矩形波であることが好ましい。
パルス発振を利用する場合の磁場とマイクロ波のパルス幅は、通常1μs以上、好ましくは5μs以上、より好ましくは10μs以上であり、通常1ms以下、好ましくは100μs以下、より好ましくは50μs以下である。
上記範囲内であると、高い信号強度を得易くなる。
磁場の掃引幅は、通常0.1mT以上、好ましくは1mT以上、より好ましくは10mT以上であり、通常1T以下、好ましくは500mT以下、より好ましくは100mT以下である。

【0030】
(3)の操作におけるその他の条件は特に限定されないが、組成物をガラス転移温度以下に冷却した状態で行われることが好ましい。冷却した状態であると、生成した核スピンの高偏極状態の保持時間が延びるという利点がある。
(3)の操作における組成物の温度は低ければ低いほど望ましいが、通常室温、好ましくは溶媒の融点以下、より好ましくは溶媒のガラス転移温度以下である。
溶媒がエタノールである場合は、融点160K、ガラス転移温度100Kである。
溶媒がトルエンである場合は、融点178K、ガラス転移温度115Kである。

【0031】
上記(3)の操作の後には一般的には以下の(4)の操作が伴う。
<(4)の操作>
本発明の向上方法は化学分析用途のNMR分光法、MRIの造影剤等、NMR信号の測定方法に利用することができることを前述したが、これらの用途に利用する場合、NMR信号の測定方法として下記の(4)の操作を含むことが挙げられる。
(4)(3)の操作を行った組成物を用いて静磁場の中で研究対象化合物のNMR信号を測定する操作。
(4)の操作は、(3)の操作を行った組成物を用いて静磁場の中で研究対象化合物のNMR信号を測定する操作であるが、NMR信号の測定するための装置等は連続波法、パルスフーリエ変換法等に応じて適宜選択されるべきであり特に限定されない。パルスフーリエ変換法を利用する場合の装置としては、RFコイル(プローブ)、増幅器等を含んだ装置が挙げられる。

【0032】
[NMR信号測定用の組成物]
式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩はトリプレットDNP法に非常に好適であることを前述したが、下記式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩を含むNMR信号測定用組成物も本発明の一態様である。なお、NMR信号測定用組成物における式(A)で表されるペンタセン誘導体及び/又はその塩の具体的種類等は[核スピン偏極率の向上方法]で説明したものと同義である。
【化7】
JP2017015443A_000008t.gif

(式(A)中、Rはそれぞれ独立して水素原子(H)、重水素原子(D)、又は酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基を表す。但し、Rの少なくとも1つは、酸素原子、硫黄原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお試料は全て、研究対象化合物を含まない前記ペンタセン誘導体及び/又はその塩と溶媒から成る組成物である。トリプレットDNPが実行されれば、これらの三者に含まれる核スピンは等しく高偏極化される。よってトリプレットDNPの可否を示すには、研究対象化合物の有無は必ずしも必要ではない。実施例では、ペンタセン誘導体及び/又はその塩の溶媒への溶解の確認、ESR測定を用いた光励起三重項電子生成の確認、トリプレットDNPによる溶媒中のHスピンのNMR信号強度増大の確認をおこなった。
【実施例】
【0034】
<NMR信号測定用組成物の準備>
(実施例1)
式(A)で表されるペンタセン誘導体として下記式で表される6,13-ジフェニルペ
ンタセン(0.4mg,Sigma-Aldrich Co.製)を、溶媒として水と重エタノールの混合液(2mL、純水:エタノール=1:9質量%)に溶解させ、試料を準備した。なお、組成物において6,13-ジフェニルペンタセンは完全に溶解していることを確認した。
【化8】
JP2017015443A_000009t.gif
【実施例】
【0035】
(実施例2)
式(A)で表されるペンタセン誘導体として上記式で表される6,13-ジフェニルペンタセン(0.5mg)を、溶媒としてベンゼンとポリスチレンの混合液(1mL、ベンゼン:ポリスチレン=5:5質量%)に溶解させ、試料を準備した。なお、組成物において6,13-ジフェニルペンタセンは完全に溶解していることを確認した。
【実施例】
【0036】
(実施例3)
式(A)で表されるペンタセン誘導体として上記式で表される6,13-ジフェニルペンタセン(0.5mg)を、溶媒としてベンゼンと重トルエンの混合液(1mL、ベンゼン:重トルエン=1:9質量%)に溶解させ、試料を準備した。なお、組成物において6,13-ジフェニルペンタセンは完全に溶解していることを確認した。
【実施例】
【0037】
(実施例4)
式(A)で表されるペンタセン誘導体として下記式で表される6,13-ジビフェニルペンタセン(0.4mg,Luminescence Technology Crop.製)を、溶媒としてベンゼンと重トルエンの混合液(2mL、ベンゼン:重トルエン=1:9質量%)に溶解させ、試料を準備した。なお、組成物において6,13-ジビフェニルペンタセンは完全に溶解していることを確認した。
【化9】
JP2017015443A_000010t.gif
【実施例】
【0038】
(実施例5)
式(A)で表されるペンタセン誘導体として下記式で表される6,13-ビス[(トリエチルシリル)エチニル]ペンタセン(0.4mg,Sigma-Aldrich Co
.製)を、溶媒としてベンゼンとポリスチレンの混合液(2mL、ベンゼン:ポリスチレン=5:5質量%)に溶解させ、試料を準備した。なお、組成物において6,13-ビス[(トリエチルシリル)エチニル]ペンタセンは完全に溶解していることを確認した。
【化10】
JP2017015443A_000011t.gif
【実施例】
【0039】
(実施例6)
式(A)で表されるペンタセン誘導体として下記式で表される6,13-ビス[(トリイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン(0.4mg、東京化成工業 製)を、溶媒としてベンゼンとポリスチレンの混合液(2mL、ベンゼン:ポリスチレン=5:5質量%)に溶解させ、試料を準備した。なお、組成物において6,13-ビス[(トリイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセンは完全に溶解していることを確認した。
【化11】
JP2017015443A_000012t.gif
【実施例】
【0040】
(比較例)
下記式で表されるペンタセン(0.4mg,Sigma-Aldrich Co.製)、及び溶媒としてベンゼンと重トルエンの混合液(2mL、ベンゼン:重トルエン=1:9質量%)を混合し、NMR測定用組成物を準備した。しかしながら、組成物においてペンタセンはほとんど溶解せず、容器の底にたまっていた。
【化12】
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【実施例】
【0041】
<ペンタセン誘導体の三重項電子のESRによる評価>
実施例1~6で準備した組成物を試料管(材質:パイレックス(登録商標))に投入して100K以下に冷却してガラス状態とし、それぞれのペンタセン誘導体の三重項電子の電子スピン共鳴を評価した。
なお、電子スピン共鳴の評価装置は図1に示す概念図のような構成を有している。レーザーの発生は1064nmのYAGレーザー光と1319nmのYAGレーザー光を非線
形光学結晶LiB中で重ね合わせることにより589nmの光に変換させるシステムを用いた。また、マイクロ波共振器として誘電体共振器を使用し、共鳴周波数は18GHzとした。この共振器は試料管を投入するために円筒形の形状を有し、さらにレーザー照射用のオプティカルウインドウ、冷却ガスの入射口を備えている。
電子スピン共鳴の信号はQメーター法で測定した。即ち、マイクロ波発振機から連続的に共振器の共鳴周波数に相当するマイクロ波を入射し、反射波をダイオードディテクタで直流に変換したものをオシロスコープでモニターすることにより測定した。レーザーを照射すると電子スピンが生成され、共振器のインピーダンスが変化することで反射波が変化するメカニズムである。
測定結果を図2に示す。
図2の測定結果から、実施例1~6の組成物はペンタセン誘導体に由来する反射波の信号を確認することができ、これらの組成物がトリプレットDNP法に利用できることが明らかである。なお、ペンタセン誘導体に由来する反射波の信号の減衰時定数が溶媒によって大きく変化しているが、トリプレットDNP法に利用する上では大きな影響を及ぼすほどではないものと考えてられる。
【実施例】
【0042】
<NMRの測定>
実施例1~6で準備した組成物を試料管に投入し100K以下に冷却してガラス状態とし、トリプレットDNP実行後、NMRを測定した。
なお、トリプレットDNPの測定装置は図3及び4に示す概念図のような構成を有し、具体的にはレーザー発振機、マイクロ波発振機、マイクロ波共振器、マイクロ波スイッチ、磁場掃引装置を有している。
また、レーザーの照射、磁場の掃引、マイクロ波照射、NMR検出は図5に示すようなシーケンスで行った。即ち、レーザーパルス、スイッチでパルス化されたマイクロ波、三角波の磁場掃引のタイミングを制御して繰り返した。その後、試料管をNMR検出用コイルへ移し、HスピンのNMR信号(マジックエコーシーケンス)を測定した。
○レーザー(パルス発振)
波形:ガウス波形
パルス幅:126ns
パルス周期:200Hz
パルス数:3,000
○マイクロ波(パルス発振)
波形:矩形波
パルス幅:20μs
パルス周期:200Hz
パルス数:3,000
○掃引磁場(パルス発振)
波形:三角波
パルス幅:20μs
パルス周期:200Hz
パルス数:3,000
○その他の条件
静磁場:0.65T
温度:100K
測定結果を図6に示す。なお、参考としてトリプレットDNPを行わなかった場合のHスピンの信号の結果も掲載した。
図6の測定結果から、実施例1~3の組成物からは核スピンの高偏極化信号を得られることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の向上方法はNMR分光法として有機化合物等の同定や構造決定に利用することができるほか、MRI用造影剤の核スピンの偏極率を向上させる方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 マイクロ波共振器
2 レーザー発振機
3 サーキュレーター
4 オシロスコープ
5 局部発振器
6 ダイオード検出器
7 オペアンプ
8 NMR共振器
9 NMR分光計
10 コンピューター
11 マイクロ波スイッチ
12 磁場掃引装置
13 マイクロ波増幅器
14 オペアンプ
15 NMR検出用コイル
16 エンクロージャ(銅)
17 エンクロージャ(黄銅)
18 共振器ホルダー(テフロン(登録商標))
19 円筒型誘電体共振器
20 磁場掃引用コイル
21 組成物
22 試料管
23 導波管
24 ゴードンカプラー
25 マイクロ波発振機
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5