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明細書 :評価装置、評価方法、プログラム、ならびに、情報記録媒体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-198870 (P2018-198870A)
公開日 平成30年12月20日(2018.12.20)
発明の名称または考案の名称 評価装置、評価方法、プログラム、ならびに、情報記録媒体
国際特許分類 A63B  71/06        (2006.01)
G06N  99/00        (2010.01)
FI A63B 71/06 J
G06N 99/00 153
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2017-105889 (P2017-105889)
出願日 平成29年5月29日(2017.5.29)
発明者または考案者 【氏名】藤井 慶輔
【氏名】河原 吉伸
出願人 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100110135、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 裕一郎
審査請求 未請求
要約 【課題】得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームに属するプレイヤおよびオブジェクトの位置時系列から、得点確率を推定する。
【解決手段】評価装置101にて、距離部102は、2つのチームのうち所望のチームがオブジェクトをコントロールしている間の位置時系列からなる攻撃セグメントから、所望のチームに属する攻撃者と他方のチームに属する守備者との間の、複数種類の距離時系列を算定する。分解部103は、算定された複数種類の距離時系列を特徴ベクトルに分解する。学習部104は、攻撃セグメントにて点が得られたか否かを教師データとして、攻撃セグメントに対する特徴ベクトルから得点確率を推定するための学習をする。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームのうち、所望のチームが前記オブジェクトをコントロールしている間の前記2つのチームに属するプレイヤおよび前記オブジェクトの位置時系列からなる攻撃セグメントから、前記所望のチームに属する攻撃者と他方のチームに属する守備者との間の、複数種類の距離時系列を算定する距離部、
前記算定された複数種類の距離時系列を特徴ベクトルに分解する分解部、
前記攻撃セグメントにて点が得られたか否かを教師データとして、前記攻撃セグメントに対する特徴ベクトルから得点確率を推定するための学習をする学習部
を備えることを特徴とする評価装置。
【請求項2】
前記分解部は、カーネル法により前記複数種類の距離時系列を動的モード分解することにより、前記特徴ベクトルを得る
ことを特徴とする請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記分解部は、クープマン固有値、クープマン固有関数、及びクープマンモードに対して指数割引を適用したシルベスタ方程式を解くことにより、クープマントレースカーネルまたはクープマン行列式カーネルを算定し、当該算定されたクープマントレースカーネルまたはクープマン行列式カーネルを前記攻撃セグメントの類似度とする
ことを特徴とする請求項2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記分解部は、時系列を直列に結合した観測データの中心化グラム行列の右上部分を切り取った行列に基いてクープマンモードを作成し、当該作成されたクープマンモードの内積を合成した行列を用いて、一般化固有値問題を解くことにより、クープマン主成分角カーネルを算定し、当該算定されたクープマン主成分角カーネルを前記攻撃セグメントの類似度とする
ことを特徴とする請求項2に記載の評価装置。
【請求項5】
前記複数種類の距離時系列として、
(1)前記オブジェクトに最も近い主攻撃者と、当該主攻撃者に最も近い守備者と、の間の距離の時系列、
(2)前記主攻撃者と、前記守備者のうち前記主攻撃者に2番目に近い守備者と、の間の距離の時系列、
(3)前記主攻撃者以外の副攻撃者の各々と、当該副攻撃者の各々に前記守備者のうち最も近い守備者と、の距離の最大値の時系列、および、
(4)前記攻撃者の各々と、前記攻撃者の各々に前記守備者のうち2番目に近い守備者と、の距離の最大値の時系列
を採用する
ことを特徴とする請求項1に記載の評価装置。
【請求項6】
前記学習部は、単純ベイズ分類器により学習する
ことを特徴とする請求項1に記載の評価装置。
【請求項7】
前記学習部は、関連ベクトルマシンにより学習する
ことを特徴とする請求項1に記載の評価装置。
【請求項8】
前記2つのチームに属するプレイヤおよび前記オブジェクトの前記チームスポーツにおける位置時系列を、前記所望のチームが前記オブジェクトをコントロールしているか否かにより、前記攻撃セグメントと、守備セグメントと、のいずれかに分割する分割部をさらに備え、
前記分割された攻撃セグメントから、前記複数種類の距離時系列が算定される
ことを特徴とする請求項1に記載の評価装置。
【請求項9】
評価装置が、
得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームのうち、所望のチームが前記オブジェクトをコントロールしている間の前記2つのチームに属するプレイヤおよび前記オブジェクトの位置時系列からなる攻撃セグメントから、前記所望のチームに属する攻撃者と他方のチームに属する守備者との間の、複数種類の距離時系列を算定し、
前記算定された複数種類の距離時系列を特徴ベクトルに分解し、
前記攻撃セグメントにて点が得られたか否かを教師データとして、前記攻撃セグメントに対する特徴ベクトルから得点確率を推定するための学習をする
ことを特徴とする評価方法。
【請求項10】
コンピュータに、
得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームのうち、所望のチームが前記オブジェクトをコントロールしている間の前記2つのチームに属するプレイヤおよび前記オブジェクトの位置時系列からなる攻撃セグメントから、前記所望のチームに属する攻撃者と他方のチームに属する守備者との間の、複数種類の距離時系列を算定し、
前記算定された複数種類の距離時系列を特徴ベクトルに分解し、
前記攻撃セグメントにて点が得られたか否かを教師データとして、前記攻撃セグメントに対する特徴ベクトルから得点確率を推定するための学習をする
処理を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のプログラムが記録された非一時的なコンピュータ読取可能な情報記録媒体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴールにボールをシュートすることによって点が得られるゴール型集団球技等、得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツにおけるプレイヤーのフォーメーションを評価するのに好適な評価装置、評価方法、プログラム、ならびに、情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴールにボールをシュートすることによって点が得られるボール型集団球技等、得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることによって点が得られるチームスポーツにおいては、プレイヤーのフォーメーションを分析することが広く行われている。
【0003】
このようなチームスポーツとしては、オブジェクトしてボールを採用するバスケットボール、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボール、ホッケー、ハンドボール等や、オブジェクトとしてパックを採用するアイスホッケー等がある。
【0004】
特にプロフェッショナルスポーツの業界では、自チームや対戦相手のチームの動きを分析し、戦術を評価したり立案したりすることが、系統立てて行われている。
【0005】
計測技術の発達により、ビデオカメラで撮影した試合の経過から各プレイヤーやオブジェクトの位置の時系列を収集し、各種の情報を配信するまでの一連のシステムは整備されてきている。各チームのコーチは、このシステムを利用し、自身の経験と合わせて、フォーメーションの分析や立案などをすることができる。
【0006】
さらに、自然言語処理等で利用される機械学習の技術を応用して、チーム全体の動きをおおまかに分析する技術が提案されている(非特許文献1, 2)。
【0007】
非特許文献1においては、選手全員の軌跡のオプティカルフロー画像を再帰型ニューラルネットワーク(RNN)に入力して、攻撃フォーメーションの分類を行う技術が開示されている。
【0008】
非特許文献2においては、ある長さの選手個人の軌跡データを単位として、その並びを考慮しない集合を用いて、教師なし学習手法である潜在ディリクレ配分法(LDA)を適用し、部分的に攻撃フォーメーションの分類を行った。
【0009】
一方で、本願発明者は、バスケットボールにおいてボールをコントロールしている攻撃側のチームが得点条件を満たして点を得ることができるか否かの評価において、プレイヤ同士の位置関係を分析した。その結果、少なくとも
(1)攻撃側チームに属するプレイヤのうちボールに最も近い主攻撃者と、守備側チームに属するプレイヤのうち当該主攻撃者に最も近い守備者と、の間の距離(ボール-マーク距離)、
(2)主攻撃者と、守備側チームに属するプレイヤのうち主攻撃者に2番目に近い守備者と、の間の距離(ボール-ヘルプ距離)、
(3)攻撃側チームに属するプレイヤのうち主攻撃者以外の副攻撃者の各々と、守備側チームに属するプレイヤのうち当該副攻撃者の各々に最も近い守備者と、の距離の最大値(パス-マーク距離)
の3つの距離が、点を得る上で重要な役割を果たしていることが判明した。これらのパラメータに基づいて点が得られるか否かの成否を推定した際の正解率は、54%程度であった(非特許文献3)。
【0010】
また、本願発明者は、可観測な対象の上での無限次元の線形演算子であるクープマン演算子をスペクトル分析することによって、非線型の動的なシステムのグローバルな振舞いのモードを、動的モード分解(Dynamic Mode Decomposition)アルゴリズムを提案した(非特許文献4)。本アルゴリズムに基づいてカーネル法による動的モード分解を利用すれば、非線形な潜在ダイナミクスを持つシステムから得られた少数の時系列に対し、当該システムの明示的な支配方程式の知識がない場合でも、厳密に力学的な意味を持つモードが定義できる。
【先行技術文献】
【0011】

【非特許文献1】K. C. Wang, and R. Zemel. Classifying NBA offensive plays using neural networks. MIT Sloan Sports Analytics Conference, 2016年
【非特許文献2】A. C. Miller, and L. Bornn. Possession Sketches: Mapping NBA Strategies. MIT Sloan Sports Analytics Conference, 2017年3月3日
【非特許文献3】K. Fujii, K. Yokoyama, T. Koyama, A. Rikukawa, H. Yamada and Y. Yamamoto. Resilient help to switch and overlap hierarchical subsystems in a small human group. Scientific reports 6:23911, 2016年4月5日
【非特許文献4】Y. Kawahara. Dynamic Mode Decomposition with Reproducing Kernels for Koopman Spectral Analysis. Advances in neural information processing systems, pp. 911-919, 2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1に係る技術では、選手全員の軌跡をまとめて処理しているため、選手間の相互作用を有効に表現できていない。スポーツでは、同じ軌跡をプレイヤーがたどったとしても、どちらが先に動くかが重要である。
【0013】
一方、非特許文献2に係る技術では、ある動作単位間の時系列を考慮していないため、チームプレーに重要な時空間的相互作用を表現することはできない。
【0014】
さらに、これらの手法では、チーム内のプレイヤの動きがシュートの成功にどの程度寄与しているか、定量的に分析することはできていなかった。
【0015】
したがって、得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームに属するプレイヤおよびオブジェクトの位置時系列から、得点確率を推定することにより、プレイヤ同士の相互作用を定量的に分析する技術が求められている。
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するためのもので、得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームに属するプレイヤおよびオブジェクトの位置時系列から、得点確率を推定するのに好適な評価装置、評価方法、プログラム、ならびに、非一時的なコンピュータ読み取り可能な情報記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る評価装置は、
得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームのうち、所望のチームが前記オブジェクトをコントロールしている間の前記2つのチームに属するプレイヤおよび前記オブジェクトの位置時系列からなる攻撃セグメントから、前記所望のチームに属する攻撃者と他方のチームに属する守備者との間の、複数種類の距離時系列を算定し、
前記算定された複数種類の距離時系列を特徴ベクトルに分解し、
前記攻撃セグメントにて点が得られたか否かを教師データとして、前記攻撃セグメントに対する特徴ベクトルから得点確率を推定するための学習をする。
【0018】
また、本発明に係るプログラムは、プロセッサおよびメモリを有するコンピュータにて、当該プロセッサに前記算定、前記分解、および、前記学習を実行させるための算定コード、分解コード、および、学習コードを含む。
【0019】
当該プログラムは、非一時的(non-transitory)なコンピュータ読み取り可能な情報記録媒体に記録して、配布、販売等をすることができる。
【0020】
また、当該プログラムは、コンピュータ通信網等の一時的な伝送媒体を介して、配布、販売等をすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームに属するプレイヤおよびオブジェクトの位置時系列から、得点確率を推定するのに好適な評価装置、評価方法、プログラム、ならびに、非一時的なコンピュータ読み取り可能な情報記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る評価装置の概要構成を示す説明図である。
【図2】本実施形態に係る評価装置により実行される評価処理の制御の流れを示すフローチャートである。
【図3】単純ベイズ分類器を採用した場合の誤答率を表す説明図である。
【図4】RVMを採用した場合の誤答率を表す説明図である。
【図5】各種の距離や位置を採用した場合の特徴ベクトルの分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態を説明する。なお、本実施形態は、説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。したがって、当業者であれば、本実施形態の各要素もしくは全要素を、これと均等なものに置換した実施形態を採用することが可能である。また、各実施例にて説明する要素は、用途に応じて適宜省略することも可能である。このように、本発明の原理にしたがって構成された実施形態は、いずれも本発明の範囲に含まれる。

【0024】
また、以下の説明では、ボールをゴールにシュートすることによって点が得られるボール型集団球技、特にバスケットボールを分析対象の例としてとりあげるが、上記のように、本実施形態の対象としては、得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られる任意のチームスポーツを採用することができる。

【0025】
たとえば、ラグビーやアメリカンフットボールでは、敵陣のエンドゾーンにボールを持ち込むことでタッチダウンが成立し、点が得られる。アイスホッケーにおいては、ボールではなくパックをゴールにシュートすることによって点が得られる。

【0026】
(概要構成)
図1は、本実施形態に係る評価装置の概要構成を示す説明図である。以下、本図を参照して説明する。

【0027】
本実施形態に係る評価装置101は、距離部102、分解部103、学習部104を備える。また、データの前処理を実行する分割部105をさらに備えるように構成することも可能である。

【0028】
これら各部は、コンピュータにて所定のプログラムを実行することにより、実現される。当該プログラムには、各機能をコンピュータのプロセッサに実行させるための各部に応じたコードが含まれている。プログラムは、情報記憶媒体からコンピュータ内の一時記憶領域として機能するメモリにロードされ、プロセッサは、ロードされたプログラムに含まれるコードを読み出して、当該コードに対応付けられる処理を実行する。

【0029】
なお、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の技術では、プログラムを電子回路の設計図として利用することが可能である。この態様では、評価装置101は、当該プログラムに基づいて構成された電子回路というハードウェアによって実現される。

【0030】
図2は、本実施形態に係る評価装置により実行される評価処理の制御の流れを示すフローチャートである。以下、本図を参照して説明する。以下では、省略可能な分割部105による処理もあわせて説明する。さらに、理解を容易にするため、バスケットボールに本発明を適用した実験例とその結果についても、適宜言及する。

【0031】
まず、評価装置101は、対戦する2つのチームに属する全プレイヤおよびオブジェクトの位置が、試合中にどのように変化したかを表す位置時系列を、入力として受け付ける(ステップS201)。バスケットボールでは、5人対5人のプレイヤで試合が行われるので、ボールの位置時系列と、10人のプレイヤの位置時系列と、が受け付けられることになる。

【0032】
本実験例では、カメラシステムSportVUを用いて、バスケットボールの実際の国際試合を撮影し、25Hz単位で全選手とボールの位置データを計測して得られた位置時系列を使用している。

【0033】
次に、評価装置101において、分割部105は、受け付けられた位置時系列を、所望のチームがオブジェクトをコントロールしているか否かにより、攻撃セグメントと、守備セグメントと、に分割する(ステップS202)。典型的には、試合がなされた経過時間を、所望のチームが攻撃をしている時間帯(攻撃時間帯)と、相手方のチームが攻撃をしている時間帯(守備時間帯)と、それ以外の時間帯(守備と攻撃の切り替わり等の時間帯)と、に分割し、位置時系列から攻撃時間帯に属する部分のみを抽出する。

【0034】
得られる攻撃セグメントは、チームスポーツのルールに応じて適宜選択することができる。バスケットボールの場合には、チームがボールポゼッションを有する間は攻撃セグメントに相当すると考えられるが、シュートを試みることなく守備側チームにボールを奪われた場合や、反則によって攻撃が終了した場合等は、攻撃セグメントの対象外としても良い。

【0035】
本実験例では、両チームのプレイヤ全員が、ボールポゼッションを有する攻撃側のハーフコート内に足を踏み入れた時点から、当該ボールポゼッションが維持されたまま、攻撃側チームがシュートを打つまでの時間長が5秒以上のものを、攻撃時間帯とした。

【0036】
また、攻撃側プレイヤがチームがシュートを打ったが、そのシュートが外れ、攻撃側プレイヤが外れたボールを再度保持したオフェンスリバウンドの場合については、攻撃時間帯は継続しているものと判断した。

【0037】
これは、オフェンスリバウンドの状況は、攻撃側チームおよび守備側チームが意図してそのような状況を作り出した場合が多いと考えられるからである。

【0038】
そして、上記のように、守備側チームにボールを奪われた場合や反則によって攻撃が終了した場合には、攻撃時間帯として取り扱わず、評価の対象としないこととした。

【0039】
バスケットボールでは、ボールポゼッションを有してから24秒以内にシュートをしなければならない、という、ショットクロックと呼ばれるルールがあるが、上記のように攻撃時間帯を定めたため、攻撃セグメントの時間長は、24秒を超えることがある。本実験例では、攻撃時間帯の時間長は、5秒以上44.5秒以下となった。

【0040】
受け付けられた位置時系列を攻撃セグメントに分割する手法については、チームスポーツのルール等に合わせて、非特許文献1, 2等に開示される技術や、これを変形した技術により、種々の自動分割を適用することができる。

【0041】
このようにして、所望のチームがオブジェクトをコントロールし、攻撃を行っている間の各プレイヤおよびオブジェクトの位置時系列を表す攻撃セグメントが得られる。

【0042】
ついで、評価装置101において、距離部102は、各攻撃セグメントをなす複数の位置時系列から、所望のチームに属する攻撃者と他方のチームに属する守備者との間の、複数種類の距離時系列を算定する(ステップS203)。

【0043】
発明者らは、各攻撃セグメントにおける各プレイヤやオブジェクトの位置関係において、攻撃側チームに属するプレイヤ(攻撃者)、守備側チームに属するプレイヤ(守備者)、および、オブジェクトの距離が、攻撃の成否に大きく寄与していることを発見している。本実施例では、このような攻撃者-守備者間距離として、以下の4種類を採用する。

【0044】
(1)ボール-マーク距離。攻撃側チームに属するプレイヤのうち、ボールに最も近い主攻撃者と、守備側チームに属するプレイヤのうち当該主攻撃者に最も近い守備者と、の間の距離であり、得点確率を求める上で、最も重要な要素と考えられる。

【0045】
(2)ボール-ヘルプ距離。主攻撃者と、守備側チームに属するプレイヤのうち主攻撃者に2番目に近い守備者と、の間の距離である。主攻撃者に最も近い守備者が主攻撃者に突破されないように、あるいは、突破された場合に備えるため、当該守備者を助けるのが、主攻撃者に2番目に近い守備者である。

【0046】
(3)パス-マーク距離。攻撃側チームに属するプレイヤのうち主攻撃者以外の副攻撃者の各々と、守備側チームに属するプレイヤのうち当該副攻撃者の各々に最も近い守備者と、の距離の最大値である。これは、守備者を引き離している度合が最も高い副攻撃者、すなわち、パス先となる可能性が最も高い副攻撃者を想定したものである。

【0047】
(4)パス-ヘルプ距離。攻撃者の各々と、攻撃者の各々に守備者のうち2番目に近い守備者と、の距離の最大値である。これは、パス先となりうる副攻撃者に最も近い守備者をヘルプできる度合が最も低い守備者を想定したものである。

【0048】
これらは、バスケットボール等、各種の球技の試合の分析において、大きな役割を果たすことが、発明者の研究によりわかっている。すべての位置時系列をまとめて扱うのではなく、上記のような限られた種類の情報に整理し直すことで、寄与が乏しい情報を除去することで、計算処理の高速化を図ることができ、評価の精密度を上げることができる。

【0049】
上記4種類の距離の時系列を考慮することで、オブジェクトを直接コントロールしているプレイヤのみならず、他のプレイヤ同士の動きや相互作用に基づいて、点が得られる確率をより正確に評価することができるようになる。

【0050】
なお、距離部102は、チームスポーツの種類に応じて、上記4種類以外の距離時系列を得ることとしても良いし、上記4種類の距離時系列のいずれかを省略することも可能である。

【0051】
攻撃者と守備者の間の距離として、もっとも単純なものは、両者の位置のユークリッド距離であるが、バスケットボール等の場合には、そのチームスポーツの種類に応じた攻撃者-守備者間距離を採用することもできる。

【0052】
たとえば、非特許文献3と同様、攻撃者と守備者の間の距離を算定するために、以下のような手法を用いることができる。

【0053】
まず、ある攻撃者に対する理想守備位置を、以下のように定義する。すなわち、バスケットボールのリング(ゴール)から始まり、当該攻撃者を通過する半直線を想定し、当該攻撃者を超えて0.5m進んだ位置を、理想守備位置と定義する。

【0054】
そして、理想守備位置と、実際の守備者の位置と、の間のユークリッド距離を、攻撃者-守備者間距離とする。なお、以下のように、これをさらに補正することもできる。

【0055】
たとえば、ボールから遠い攻撃者は、それだけシュートの可能性が減少すると考えられる。

【0056】
そこで、ある攻撃者Xへ他の攻撃者Yがボールをパスした際には、当該攻撃者Xがパスをキャッチするまでの時間については、
(a) 当該攻撃者Xは、現在の速度で移動し続け、
(b) パスされたボールは、一定速度(たとえば10m/s)で移動し続け、
(c) 攻撃者Xに相対する守備者Pは、攻撃者Xに対する理想守備位置に向かって一定速度(たとえば3m/s)で移動し続ける
と仮定して、攻撃者の未来位置と、守備者の未来位置と、の距離を、攻撃者-守備者間距離とする。これを、時間補正と呼ぶ。

【0057】
また、攻撃者Xとリングとの距離Rに応じて、攻撃者Xと守備者Pの間の距離Lの空間補正を行うこともできる。たとえば、距離Lを
L' = L×1, (R≦1.0[m])
= L×(12.0-R)/(12.0-1.0), (1.0[m]<R<12.0[m])のように、空間補正した値L'を得る、という手法である。これは、攻撃者とリングのユークリッド距離Rに応じて、仮想的なシュートの成功率pを、距離Lに乗じるものである。
p = 1, (R≦1.0)
= (12.0-R)/11.0, (1.0<R<12.0)
【0058】
なお、仮想的なシュートの成功率pを求めるための関数は、上記のものに限られない。距離Rに応じて次第に減少するようなものであれば、任意のものを採用することができる。

【0059】
さて、攻撃者5人と守備者5人との間の距離を、すべてそのまま扱うと、25本の距離時系列が得られる。また、各プレイヤの2次元的な位置をそのまま扱うと、20本の位置時系列が得られる。本実験例においては、オブジェクト(ボール)との位置関係を考慮した上で、位置情報を整理することで、上記4本の距離時系列を、以下の処理の対象としている。

【0060】
このようにして、各攻撃セグメントに対して複数の距離時系列が得られると、評価装置101の分解部103は、当該複数の距離時系列を、各攻撃セグメントに対する特徴ベクトルに分解する(ステップS204)。

【0061】
特徴ベクトルを得る手法としては、カーネル法を用いた動的モード分解を適用することができるが、その他の手法を採用することもできる。以下では、カーネル法を用いた動的モード分解による処理について説明する。

【0062】
一般に、動的モード分解では、入力ベクトルを、特徴空間内におけるモードに分解する。これにより、各入力ベクトルに対して、各モードの寄与度を表す特徴ベクトルが得られる。

【0063】
本実施例では、各攻撃セグメントにおける複数の距離時系列のセットが入力ベクトルとなり、各セットを特徴空間に射影することで、モードに分解する。そして、各攻撃セグメントのセットと、各モードとの類似度が、当該各攻撃セグメントの特徴ベクトルとなる。

【0064】
動的モード分解については、非特許文献4に開示される技術が適用可能であるが、本実施例においては、非特許文献4には開示されていない改良を加えている。以下では、その改良点についても明記する。

【0065】
一般に、動的モード分解では、状態ベクトルx1, x2, x3, …があるときに、その背後に潜在的に存在する離散時間の非線形力学系
xt+1 = f(xi)
を考える。ここで、x1, x2, x3, …は、実数d次元からなる状態空間M⊂Rdにおける状態ベクトルであり、fは、非線型力学系を想定した状態遷移関数である。

【0066】
ここで、状態空間Mを複素数Cに射影するスカラー関数g1, g2, g3, …に作用するクープマン作用素Kを考える。クープマン作用素Kは、無限次元の線形作用素である。クープマン作用素Kにより、スカラー関数giを
(K gi)(x) = gi○f(x)
のように、新しい関数K giに写像する。ここで、○は2つの関数を合成(compose)する演算子である。

【0067】
クープマン作用素Kは、線形演算子であるから、固有値分解が可能である。
(K φj)(x) = λj φj(x), (j = 1, 2, 3, …)

【0068】
ここで、λj∈Cは、j番目のクープマン固有値であり、φjは、固有値λjに対応するクープマン固有関数である。

【0069】
関数g1, g2, g3, …, gpを縦に並べて連結した、関数ベクトル
g = [g1, g2, g3, …, gp]T
を考えると、g1, g2, g3, …, gpが固有関数φjに張られた空間内にある場合には、ベクトル値g(x)を、以下のように拡張することができる。
g(x) = Σj=1 φj(x)ψj

【0070】
ここで、ψ1, ψ2, ψ3, …は、クープマンモードと呼ばれるベクトル係数である。上記の結果から、以下が成立する。
g○f(x) = Σj=1 λjφj(x)ψj

【0071】
すなわち、λjは、対応するクープマンモードψjの時間発展を特徴付けるパラメータであり、λjの位相はその周波数を決定し、λjの振幅はダイナミクスの成長率を決定する。

【0072】
動的モード分解は、有限長の観測データ列
y0, y1, y2, …, yτ ∈ RP;
と、これを並べたデータ行列
Y = [y0, y1, y2, …, yτ]
と、
yt = g(xt), (t = 0, 1, 2, …, τ)
と、から、λjおよびψjを推定するための一般的なアプローチである。

【0073】
ここで、観測データ列を1つだけずらして並べることにより得られる行列
A = [y0, y1, y2, …, yτ-1],
B = [y1, y2, y3, …, yτ],
および、Bと、Aの擬似逆行列Aと、により定義される行列
P = B A
を考える。

【0074】
基本的な動的モード分解では、
(1/τ) Σt=0τ-1 |yt+1 - P yt|2
を最小化する解を固有値分解により得ることで、λjおよびψjを推定する。

【0075】
これを計算するため、本実施例では、グラム行列を作成する。まず、行列Aのyiとyjにおけるガウスカーネルk(yi,yk)のグラム行列Gxxが算出される。ガウス分布の分散パラメータは、データ行列Yのサンプル間距離の中央値を採用する。

【0076】
同様に、行列A, Bの各時刻のベクトルにおけるガウスカーネルのグラム行列Gxyが算出される。

【0077】
このとき、状態空間Mから再生核ヒルベルト空間Hへの特徴写像をφとし、
Mτ = [φ(x0), φ(x1), φ(x2), …, φ(xτ-1)],
M+ = [φ(x1), φ(x2), φ(x3), …, φ(xτ)]
とおけば、行列Xのエルミート転置をX*と書くこととして、
Gxx = Mτ* Mτ,
Gxy = Mτ* M+
となる。

【0078】
特徴写像φへのクープマン作用素KHは、
(KH φ)(x) = φ○f(x)
と定義される。実用的には、φは再生核ヒルベルト空間に存在する必要はなく、単にヒルベルト空間に存在すると仮定すれば十分である。

【0079】
上記仮定により、固有直交分解(Proper Orthogonal Decomposition; POD)方向にデータを射影することによって、動的モード分解がロバスト化される。

【0080】
まず、単位行列Iの各要素から1/τを減算した行列Hを用いて、グラム行列Gを、中心化グラム行列に変換する。

【0081】
【数1】
JP2018198870A_000003t.gif

【0082】
行列の中心化は、上記のように、行列名の上に線を引いて表記することもあるが、本願では、適宜、以下のように、行列名の右側上に文字「c」をつけて表記する。すなわち、
Gc = H G H

【0083】
固有値及び固有ベクトルは、固有値の大きさに基づいて切り捨てることができると仮定すると、p (p≦τ)個の固有値を採用して、
Gc ≒ Vc Sc Vc*
と考えて、行列Vc, Scを考える。

【0084】
すると、特徴空間における主直交方向は、行列Vcのj番目の行をβjとおくと、
νj = Mτ H (Sc)-1/2jj βj
と表現できる。

【0085】
さらに、
U = [ν1, ν2, …, νp] = Mτ H Vc (Sc)-1/2
とおくと、
M+ = KH Mτ
と考えられるので、ν1, ν2, …, νpに張られた空間への射影は、
F = U* KH U
= (Sc)-1/2 Vc* H Mτ M+ H Vc (Sc)-1/2
のように得られる。

【0086】
ここで、
Gxy = Mτ* M+
であるから、上記Fを
F = T-1 Λ T
のように固有値分解する。行列Λは、クープマン固有値からなる対角行列であり、時間発展を表す。

【0087】
すると、中心化されたクープマンモードは、行列T-1のj番目の行をbjと書いて、
ψj = U bj = Mτ H Vc (Sc)-1/2 bj
のように得られる。

【0088】
なお、本実施例では、特徴ベクトルを得ることが目的の一つであるため、カーネルの主成分方向を表す行列Uと、その成分ν1, ν2, …, νpに張られた空間へのKHの射影Fを、カーネルの作成において利用する。

【0089】
以下では、攻撃セグメント同士の特徴空間における類似度を求める手法について説明する。ここで求められるカーネルは、クープマン作用素がスペクトル分解されて得られたクープマン固有値、クープマン固有ベクトル、クープマンモードを反映したものであり、クープマンスペクトルカーネルと呼ぶことができる。

【0090】
このようなカーネルは、系の軌跡からなる位数(order)qの合成行列のトレースから計算でき、本実験例では、クープマントレースカーネル、クープマン行列式カーネル、クープマン主成分角カーネルの3種類を採用している。

【0091】
ここで、クープマントレースカーネルは、位数q=1としたときのカーネルであり、力学系の時間発展の性質を直接的に反映する。

【0092】
一方、クープマン行列式カーネルは、位数qが力学系の次元数と等しいときのカーネルであり、力学系の特徴がクープマントレースカーネルよりも一層反映されている。

【0093】
また、クープマン主成分角カーネルは、クープマントレースカーネルの特殊な場合であり、クープマン固有値を反映せずに、簡易に計算をすることが可能である。

【0094】
いずれにおいても、背景に特殊なモデルを仮定せずに、任意の非線形力学系を比較することが、本発明の特徴となっている。以下、各カーネルについて詳細に説明する。

【0095】
さて、動的モード分解がされた後は、力学系DSiとDSjのトレースカーネルは、以下のように定義できる。
k(DSi,DSj) = Σt=0 e-κt gi(xi,t)T W gj(xj,t)
= φi(xi,0)T Σt=0 e-κt Λit ΦiT W Φj Λjt (xj,0)

【0096】
ここで、
giは、観測関数であり
Λiは、i番目の攻撃セグメントに対するクープマン固有値λ0, λ1, λ2, …, λpを対角要素に並べた対角行列であり、
Φiは、i番目の攻撃セグメントに対するクープマンモードφ0, φ1, φ2, …, φpを並べた行列[φ0, φ1, φ2, …, φp]であり、
Wは、単位行列等を含む任意の半正定値行列である。

【0097】
また、上式を収束させるために、指数割引
μ(t) = e-κt, (k>0)
を乗じている。

【0098】
上式は無限和であるから直接的な計算は困難であるが、非特許文献4に示すように、行列
M = Σt=0 e-κt Λit ΦiT W Φj Λjt
については、シルベスタ方程式
M = e ΛiT M Λj + ΦiT W Φj
に対して、
Φ = U bj = Mτ H Vc (Sc)-1/2 T-1
を代入して、解くことにより、閉形式で解Mが得られる。

【0099】
すると、トレースカーネルは、
k(DSi,DSj) = φi(xi,0)T M φj(xj,0)
のように定められる。

【0100】
Fの左固有ベクトルをa, 行列Mtの最初の列からなる列ベクトルをMτ,0と表記すると、上記トレースカーネルに対して、
φ(x0) = a* (Mτ H Vc (Sc)-1/2)* Mτ,0
を代入すれば、各i、各jに対するトレースカーネルを計算することができる。

【0101】
なお、潜在ダイナミクスの初期値φi(xi,0), φj(xj,0)から、独立のトレースカーネルを作成するには、両者の期待値を使えば良い。すなわち、
k(DS1,DS2) = E{xi,0,xj,0} φi(xi,0)T M φj(xj,0)
= tr(σ{φi(xi,0),φj(xj,0)} M)
ここで、σ{φi(xi,0),φj(xj,0)}は、i,j = 1, 2, …, pのすべての初期値φ(x0)において、固有値のインデックス1, 2, …, pごとに分散を計算した行列である。

【0102】
次に、クープマン行列式カーネルについてついて説明する。クープマン行列式カーネルも、上記と同様に、
k(DSi,DSj) = det〔Σt=0 gi(xi,t) gj(xj,t)T
= det〔Σt=0 e-κt Φi Λit φi(xi,0) φj(xj,0)T Λjt ΦjT
= det〔Φi M Φj〕,
M = e ΛiT M Λj + φi(xi,0) φj(xj,0)
と求めることができる。なお、ここでは、議論の一般性を考慮して、行列Wとして単位行列を採用している。

【0103】
なお、初期値から独立の行列式カーネルは多重線形であり、共分散行列σ{φi(xi,0),φj(xj,0)}のほか、高次の統計量にも依存するため、単一出力のシステムなど、特別な場合を除いて算出できない。

【0104】
最後に、クープマン主成分角カーネルについて説明する。まず、DSiについて、特徴空間における線形部分空間の内積
A* A = Ti-1 Ui* Gxxi Ui Ti
を考える。行列Fの階数(rank)をriとすると、A* Aはri次の正方行列となる。

【0105】
DSjについても、同様の行列B* Bを作る。

【0106】
さらに、DSiとDSjの線形部分空間の内積として、
A* B = Ti-1 Ui* Gxxij Uj Tj
を考える。ここで、Gxxijは、観測データYi(i番目の攻撃セグメントの距離時系列)と、Yj(j番目の攻撃セグメントの距離時系列)と、を時系列において直列に結合したデータから中心化グラム行列を作った後、当該中心化グラム行列の右上部分を、ni行nj列となるように切り取った行列である。ここで、niは、Yiの時系列長であり、njは、Yjの時系列長である。

【0107】
そして、これらの行列を用いて、以下の一般化固有値問題を解く。

【0108】
【数2】
JP2018198870A_000004t.gif

【0109】
なお、一般化固有値λijのサイズは、最終的には、大きいものからrij = min(ri,rj)になるように調整する。

【0110】
そして、主成分角カーネルは、求められた一般化固有値λijにより、
k(DSi,DSj) = λij
と表現することができる。

【0111】
さて、このように各種のカーネルが求められると、行列
Xi,j = k(Yi,Yj)
を定めることができる。この行列のうち、
Xi = [xi,1, xi,2, …, xi,n]
を、i番目の攻撃セグメントにおける特徴ベクトルとして用いる。

【0112】
このようにして、各攻撃セグメントにおける特徴ベクトルが得られたら、評価装置101の学習部104は、各攻撃セグメントにて点が得られたか否かを教師データとして、各攻撃セグメントに対する特徴ベクトルから得点確率を推定するための学習をする(ステップS205)。

【0113】
学習には、種々の教師あり機械学習手法を採用することができる。なお、プレイヤの動きに基づいて得点の成否を予測する際には、たとえばシュートの正確性など、各プレイヤの能力も関連するため、識別結果ではなく、予測に対する事後確率を計算するほうが望ましい。そこで、本実施例では、単純ベイズ分類器と関連ベクトルマシンの2種類をそれぞれ採用する。

【0114】
まず、単純ベイズ分類器は、特徴ベクトル同士に独立性があると単純に仮定して、ベイズの定理
P(Y|X) = P(Y)P(X|Y)/P(X)
を適用する分類器である。

【0115】
本実施例では、Yは予測子(得点の成否)、Xは特徴ベクトルに相当する。単純ベイズ分類器による学習では、新しい(未知の)特徴ベクトルXが与えられたときのYの確率を予測するための学習を行うことである。

【0116】
右辺の計算においては、あるXに対して最も尤度が高いYを求められれば十分である。このとき、Xは定数なので、P(Y)P(X|Y)が求められればよい。

【0117】
P(Y)は、事前分布であり、P(X|Y)は、条件付き確率(尤度)である。

【0118】
単純ベイズ分類器では、条件付き確率P(X|Y)に関して、
P(X|Y) = Πi=1N P(xi|Y)
という単純な条件付き独立性を仮定する。つまり、各特徴変数xiが、条件付きで、他の特徴変数xj(ただしi≠j)と独立であることを仮定する。

【0119】
本実施例では、P(xi|Y)が、以下の多変量ガウス分布に従うと考える。

【0120】
【数3】
JP2018198870A_000005t.gif

【0121】
ただし、μY、σ2Yは、ガウス分布のパラメータである平均値と分散であり、これらを推定することが必要となる。

【0122】
本実施例では、事前分布P(Y)は一様分布(定数)であると仮定するので、
Π P(xi Y)
が最大となる時のμY、σ2Yを計算する必要がある。

【0123】
最大化すべき目的関数Mは、以下のように表現できる。

【0124】
【数4】
JP2018198870A_000006t.gif

【0125】
ただし、skijは、Y=kになる正解データのi番目の入力データのj番目の要素とする。

【0126】
目的関数Mが最大になる必要条件は、μおよびσに関するMの偏微分が0になることである。これに基づいて計算すれば、以下のように解が求まる。

【0127】
【数5】
JP2018198870A_000007t.gif

【0128】
これによって、新しいxiに対する最も確からしいYの値を予測することができる。

【0129】
このようにして構成された単純ベイズ分類は、設計も仮定も非常に単純ではあるが、複雑な実世界の状況において、十分な精度で働くことが多い。さらに、分類に不可欠なパラメータ(変数群の平均と分散)を見積もるのに、訓練例データが少なくて済む、という利点を有する。

【0130】
次に、関連ベクトルマシン(Relation Vector Machine; RVM)について説明する。RVMは、識別問題に対して広く用いられているSVM(Support Vector Machine)の多くを引き継ぎながら、今回の分析上の要求である予測に対する事後確率を計算できるという利点を持つ。また、SVMでは交差検定が必要とされるが、RVMは必要とされないため、RVMでは、より高速な予測ができるようになる。

【0131】
本実施例では、
y(x,w) = σ(wT φ(x))
のように、基底関数の線形結合をロジスティックシグモイド関数σで変換したものを用いるには、重みパラメータwと、その精度に関する超パラメータαを決定する必要がある。そこで、まず、αを初期化する。

【0132】
そして、事後分布をガウス分布で近似し、これを用いて周辺化尤度を計算する。そして、得られた周辺化尤度を最大化するように、αを更新する。

【0133】
これらの処理を、適当な収束条件が満たされるまで繰り返す。

【0134】
ラプラス近似によれば、αの近似事後分布の平均値と共分散行列は、
w* = A-1 ΦT (t-y),
Σ = (ΦT B Φ + A)-1
のように求めることができる。

【0135】
ここで、
Aは、αの各要素α1, α2, …を対角成分に並べた対角行列であり、
tは、0もしくは1の二値をとる目標変数であり、
Bは、n番目の対角成分がyn(1 - yn)で与えられるN×Nの対角行列であり、
Φは、各要素がφ(xi)である計画行列である。

【0136】
得られたラプラス近似を用いて周辺尤度を計算し、対数周辺化尤度のαiに対する微分を0とすると、
αinew = γi/(ωi*)2
が得られる。ただし、
γi = 1 - αiΣii
である。

【0137】
目的関数となる対数周辺化尤度の近似式は、
ln(p|α,β) = -(1/2)〔N ln(2π) + ln |C| + h(t)^{T) C-1 h(t)〕,
h(t) = Φ w* + B-1(t - y),
C = B + Φ A ΦT
と表せる。

【0138】
この目的関数を最大化するように超パラメータαを更新すれば、対応する重みパラメータwが決定される。

【0139】
このようにして、学習が終われば、本処理は終了する。学習が終わった後は、学習結果により得られた分類器やベクトルマシンに対する入力ベクトルとして、未知(得点の成否がわからない攻撃セグメント)もしくは既知(学習に利用した攻撃セグメント)の攻撃セグメントの距離時系列の特徴ベクトルを与えれば、当該攻撃セグメントにおいて点が得られる確率が出力できることになる。

【0140】
(実験結果)
上記の各種諸元で、シュートの成否が正解となるか、を、推定された得点確率が50%超えならば、得点が得られた場合を正解とし、50%未満ならば、得点が得られない場合を正解として、その正解率を実験により求めた。図3は、単純ベイズ分類器を採用した場合の誤答率を表す説明図である。図4は、RVMを採用した場合の誤答率を表す説明図である。以下、これらの図を参照して説明する。

【0141】
両図におけるグラフの縦軸は、不正解率を示しており、これを1から減算した値が、正解率である。

【0142】
横軸は、入力ベクトルの種類を表す。
攻撃者-守備者間距離のうち(1)のみを利用、(1)-(2)を利用、(1)-(3)を利用、(1)-(4)を利用、のように、順に増やしたものは、横軸「1」「2」「3」「4」に相当し、
プレイヤ間の全距離をそのまま使ったもの(25本の距離時系列)が、横軸「25」に相当し、
攻撃者-守備者間距離(1)-(4)を採用するが、時間補正や空間補正をせずにユークリッド距離をそのまま使用したものが、横軸「Euclid」に相当し、
プレイヤの全位置をそのまま使ったもの(20本の位置時系列)が、横軸「xy」に相当する。

【0143】
各グラフの
□印(Ktr)は、クープマントレースカーネルを、
△印(Kdet)は、クープマン行列式カーネルを、
○印(Kpa)は、クープマン主成分各カーネルを、
▽印(w/o K)は、比較対象として単純に特徴ベクトルを、
それぞれ採用して、学習を行った場合を示している。

【0144】
本図によれば、単純ベイズ法によって、(1)-(4)の距離時系列を採用した場合には、正解率64.1%(誤差率35.9%)であり、最も性能が良好であった。

【0145】
すなわち、非特許文献3に開示される技術(3種類の距離時系列(1)-(3)をそのまま学習の対象とし、動的モード分解を行わない)の正解率53.8%(誤答率46.2%)を大きく向上させていることがわかる。

【0146】
すなわち、潜在ダイナミクスを考慮した動的モード分解により求めた特徴ベクトルの方が、時系列を考慮しない単純な特徴ベクトルに比べて、(最高性能含め)概ね高い性能を示している。

【0147】
これから、得点しやすさを選手全員の動きから予測する場合、時系列というデータ構造の特性が重要であることがわかる。

【0148】
また、動的モード分解に対して与える入力ベクトルでも、シュートに関わる単一の攻撃-守備者間距離(1)だけ、あるいは、選手すべての2次元的な位置を利用した場合には、その他の場合よりも、性能が悪い。前者からは、シュートに直接関係ない攻撃者、守備者の距離も重要であるということがわかる。後者からは、選手の2次元的な位置そのものよりも、攻撃者-守備者間距離の方が、得点に対する寄与が大きいことがわかる。

【0149】
上記の実験例においては、4種類の攻撃者-守備者距離を用いた特徴ベクトルによる単純ベイズ識別器が最も高い性能を示している。

【0150】
ここで得られる特徴ベクトルは、ボールをコントロールしている主攻撃者が
(1)シュート、
(2)ドリブル、
(3)パス
をしたときの自分や味方の得点のしやすさを反映しているとともに、
(4)パスをした後にパス先の味方がドリブルをして守備者を抜き去った
後の得点のしやすさも反映していると考えられる。

【0151】
なお、今回の実験では、(1)-(3)の距離を採用した場合でも、良好な正答率が得られているが、どのような距離をいくつ採用すべきか、は、チームスポーツの態様によって異なると考えられる。

【0152】
しかしながら、オブジェクトを利用するチームスポーツにおいては、シュート、ドリブル、パスに類似する攻撃手法が採用されるのが一般的であり、上記(1)-(4)の距離は、多くのチームスポーツにおいて有用な攻撃者-守備者間距離であると考えられる。

【0153】
さらに、特徴ベクトルの類似度を可視化するため、カーネルを用いて距離行列
dist(DSi,DSj) = k(Yi,Yi) + k(Yj,Yj) - 2 k(Yi,Yj)
を作成し、多次元尺度構成法により、その分布を二次元化した。図5は、各種の距離や位置を採用した場合の特徴ベクトルの分布を示す説明図である。以下、本図を参照して説明する。

【0154】
本図aは、(1)-(4)の4種の攻撃者-守備者間距離を採用した場合、本図bは、(1)のみの攻撃者-守備者間距離を採用した場合、本図cは、距離ではなく、2次元的な位置情報を採用した場合の特徴の分布を2次元化したものである。

【0155】
これらの図からもわかる通り、4種の攻撃者-守備者間距離を採用した場合が、最も分布が広がっており、表現力が高いことがうかがえる。

【0156】
(まとめ)
以上説明したように、本実施形態に係る評価装置は、
得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームのうち、所望のチームが前記オブジェクトをコントロールしている間の前記2つのチームに属するプレイヤおよび前記オブジェクトの位置時系列からなる攻撃セグメントから、前記所望のチームに属する攻撃者と他方のチームに属する守備者との間の、複数種類の距離時系列を算定する距離部、
前記算定された複数種類の距離時系列を特徴ベクトルに分解する分解部、
前記攻撃セグメントにて点が得られたか否かを教師データとして、前記攻撃セグメントに対する特徴ベクトルから得点確率を推定するための学習をする学習部
を備えるように構成する。

【0157】
また、本実施形態に係る評価装置において、
前記分解部は、カーネル法により前記複数種類の距離時系列を動的モード分解することにより、前記特徴ベクトルを得る
ように構成することができる。

【0158】
また、本実施形態に係る評価装置において、
前記分解部は、クープマン固有値、クープマン固有関数、及びクープマンモードに対して指数割引を適用したシルベスタ方程式を解くことにより、クープマントレースカーネルまたはクープマン行列式カーネルを算定し、当該算定されたクープマントレースカーネルまたはクープマン行列式カーネルを前記攻撃セグメントの類似度とする
ように構成することができる。

【0159】
また、本実施形態に係る評価装置において、
前記分解部は、時系列を直列に結合した観測データの中心化グラム行列の右上部分を切り取った行列に基いてクープマンモードを作成し、当該作成されたクープマンモードの内積を合成した行列を用いて、一般化固有値問題を解くことにより、クープマン主成分角カーネルを算定し、当該算定されたクープマン主成分角カーネルを前記攻撃セグメントの類似度とする
ように構成することができる。

【0160】
また、本実施形態に係る評価装置において、
前記複数種類の距離時系列として、
(1)前記オブジェクトに最も近い主攻撃者と、当該主攻撃者に最も近い守備者と、の間の距離の時系列、
(2)前記主攻撃者と、前記守備者のうち前記主攻撃者に2番目に近い守備者と、の間の距離の時系列、
(3)前記主攻撃者以外の副攻撃者の各々と、当該副攻撃者の各々に前記守備者のうち最も近い守備者と、の距離の最大値の時系列、および、
(4)前記攻撃者の各々と、前記攻撃者の各々に前記守備者のうち2番目に近い守備者と、の距離の最大値の時系列
を採用する
ように構成することができる。

【0161】
また、本実施形態に係る評価装置において、
前記学習部は、単純ベイズ分類器により学習する
ように構成することができる。

【0162】
また、本実施形態に係る評価装置において、
前記学習部は、関連ベクトルマシンにより学習する
ように構成することができる。

【0163】
また、本実施形態に係る評価装置は、
前記2つのチームに属するプレイヤおよび前記オブジェクトの前記チームスポーツにおける位置時系列を、前記所望のチームが前記オブジェクトをコントロールしているか否かにより、前記攻撃セグメントと、守備セグメントと、に分割する分割部をさらに備え、
前記分割された攻撃セグメントから、前記複数種類の距離時系列が算定される
ように構成することができる。

【0164】
また、本実施形態に係る評価方法は、評価装置が、
得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームのうち、所望のチームが前記オブジェクトをコントロールしている間の前記2つのチームに属するプレイヤおよび前記オブジェクトの位置時系列からなる攻撃セグメントから、前記所望のチームに属する攻撃者と他方のチームに属する守備者との間の、複数種類の距離時系列を算定し、
前記算定された複数種類の距離時系列を特徴ベクトルに分解し、
前記攻撃セグメントにて点が得られたか否かを教師データとして、前記攻撃セグメントに対する特徴ベクトルから得点確率を推定するための学習をする
ように構成する。

【0165】
本実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、
得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームのうち、所望のチームが前記オブジェクトをコントロールしている間の前記2つのチームに属するプレイヤおよび前記オブジェクトの位置時系列からなる攻撃セグメントから、前記所望のチームに属する攻撃者と他方のチームに属する守備者との間の、複数種類の距離時系列を算定し、
前記算定された複数種類の距離時系列を特徴ベクトルに分解し、
前記攻撃セグメントにて点が得られたか否かを教師データとして、前記攻撃セグメントに対する特徴ベクトルから得点確率を推定するための学習をする
処理を実行させる。

【0166】
また、非一時的なコンピュータ読取可能な情報記録媒体に、本実施形態の発明のプログラムを記録するように構成することができる。

【0167】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明によれば、得点条件が満たされるまでオブジェクトをコントロールすることにより点が得られるチームスポーツに参加する2つのチームに属するプレイヤおよびオブジェクトの位置時系列から、得点確率を推定するのに好適な評価装置、評価方法、プログラム、ならびに、非一時的なコンピュータ読み取り可能な情報記録媒体を提供することができる。
【符号の説明】
【0169】
101 評価装置
102 距離部
103 分解部
104 学習部
105 分割部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4