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明細書 :膜タンパク質の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5704677号 (P5704677)
登録日 平成27年3月6日(2015.3.6)
発行日 平成27年4月22日(2015.4.22)
発明の名称または考案の名称 膜タンパク質の製造方法
国際特許分類 C12P  21/02        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61K  47/24        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/00        (2006.01)
FI C12P 21/02 ZNAC
A61K 9/127
A61K 47/24
A61K 47/42
C12N 15/00 A
C12Q 1/00 Z
請求項の数または発明の数 8
全頁数 25
出願番号 特願2009-540056 (P2009-540056)
出願日 平成20年11月5日(2008.11.5)
国際出願番号 PCT/JP2008/070116
国際公開番号 WO2009/060857
国際公開日 平成21年5月14日(2009.5.14)
優先権出願番号 2007286899
優先日 平成19年11月5日(2007.11.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年10月28日(2011.10.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】横山 茂之
【氏名】下野 和実
【氏名】白水 美香子
【氏名】五島 美絵
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】渡邉 潤也
参考文献・文献 特開2003-018999(JP,A)
国際公開第2003/097829(WO,A1)
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12P 21/02
CAplus/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Thomson Innovation
特許請求の範囲 【請求項1】
脂質ディスク又はリポソーム内で天然構造又は活性構造に折りたたまれた膜タンパク質の製造方法であって、
(a)膜タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、ステロイド性界面活性剤と、リン脂質と、を含む無細胞タンパク質合成反応液を調製する工程、ここで、前記ステロイド性界面活性剤は、コール酸又はCHAPSであり、前記ステロイド性界面活性剤は、前記反応液中に臨界ミセル濃度の1.5~10倍の初期濃度で含まれ、
(b)前記反応液の界面活性剤濃度を低下させる工程、及び
(c)前記膜タンパク質を透析法を用いた無細胞タンパク質合成反応により前記界面活性剤濃度の低下に従って合成すると共に、合成された膜タンパク質を組み込んだ脂質ディスク又はリポソームを形成させる工程、
を含むことを特徴とする膜タンパク質の製造方法。
【請求項2】
前記無細胞タンパク質合成反応液が、初期濃度10~20mg/mlのコール酸ナトリウムを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記無細胞タンパク質合成反応液が、初期濃度5~10mg/mlのCHAPSを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(b)が、前記界面活性剤に結合可能な樹脂を用いて前記界面活性剤を吸着することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記膜タンパク質が、受容体タンパク質、チャネルタンパク質、トランスポーター、膜結合酵素、又はその部分配列、相同配列、改変配列及び誘導配列を含む請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
さらに前記脂質ディスク又はリポソームとの複合体から膜タンパク質を可溶化し、当該膜タンパク質を精製する工程を含むことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載の方法により製造された膜タンパク質を脂質ディスク又はリポソームに組み込まれた状態で含むことを特徴とする薬剤のスクリーニング用組成物。
【請求項8】
請求項1~5の何れか1項に記載の方法により製造された膜タンパク質と、生理活性薬剤とを、脂質ディスク又はリポソームに組み込まれた状態で含むことを特徴とする薬剤送達用組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
[関連出願の記載]
本発明は、日本国特許出願:特願2007-286899号(2007年11月05日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
本発明は、無細胞タンパク質合成系を用いた膜タンパク質の製造方法に関し、詳しくは、無細胞タンパク質合成系で合成された膜タンパク質を脂質リポソームに組み込んだ状態で効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ゲノムプロジェクトの成果に基づいて、様々な生物のゲノムにコードされているタンパク質の一次構造が明らかとなってきた。高等生物のタンパク質については、その約30%が膜貫通ヘリックスをもつ内在性膜タンパク質であると推定されている。膜タンパク質は、細胞膜におけるシグナル伝達、物質輸送、エネルギー生産、細胞骨格形成などに関与し、創薬ターゲットとしても極めて重要である。実際、市販されている医薬品の約70%が膜タンパク質、特にGタンパク質共役受容体に作用することが知られている。タンパク構造の重要性をふまえて取り組まれた我国のタンパク3000プロジェクトは、当初の目標を上回る数多くのタンパク質の立体構造を解明し、国際的にも高い成果を上げている。しかし、立体構造解析に適した膜タンパク質の結晶を作成することは難しいため、膜タンパク質の立体構造が解明された例は未だ少数である。
【0003】
本出願人は、すでに無細胞タンパク質合成系を用いて難溶性タンパク質を界面活性剤の存在下において不溶化させることなく製造する方法を開発している(例えば、特許文献1、及び非特許文献1参照)。この方法は、多くの膜タンパク質を可溶性画分として大量に合成できるのもの、使用する界面活性剤がタンパク質合成を阻害しないものにのみ限定されるため、合成されたタンパク質の安定化に寄与する界面活性剤を選択できない場合がある。
【0004】
また、単に脂質リポソームを無細胞タンパク質合成系に添加して、生物学的機能を担持した膜タンパク質の合成方法も報告されている(例えば、特許文献2、及び非特許文献2参照)。しかし、リポソームへの挿入されやすさが個々の膜タンパク質の性質に大きく依存し、かつ合成されたポリペプチド鎖とリポソームとの接触確率が低いため、必ずしも汎用的ではないと考えられる。
【0005】

【特許文献1】特開2003-18999号公報
【特許文献2】特開2005-225796号公報
【非特許文献1】Ishihara G. et al., (2005) Protein Expression and Purification, Vol. 41, pp.27-37
【非特許文献2】Kalmbach, R. et al., (2007) Journal of Molecular Biology, Vol. 371, pp.639-648
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の特許文献1、2及び非特許文献1、2の全開示内容は、本書に引用をもって繰り込み記載されているものとする。以下に本発明による関連技術の分析を与える。
上記刊行物に述べられた膜タンパク質の製造方法は、活性構造をもたらすものの、本発明者らの分析によれば未だ収率や再現性の点で満足できるものではない。さらに、より効率的で汎用性のある方法が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、界面活性剤と脂質とを共存させた無細胞タンパク質合成系において、透析法によるタンパク質合成と脂質二重膜の形成とを同時に進行させることによって、膜タンパク質の機能体を大量に合成できるという知見に基づく。すなわち、本発明は、脂質ディスク又はリポソーム内で天然構造又は活性構造に折りたたまれた膜タンパク質の製造方法であって、(a)膜タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、ステロイド性界面活性剤と、リン脂質と、を含む無細胞タンパク質合成反応液を調製する工程、ここで、前記ステロイド性界面活性剤は、臨界ミセル濃度よりも高い濃度で含まれ、(b)前記反応液の界面活性剤濃度を低下させる工程、及び(c)前記膜タンパク質を合成すると共に、当該膜タンパク質を組み込んだ脂質ディスク又はリポソームを形成させる工程、を含むことを特徴とする。
【0008】
好ましい実施形態において、前記膜タンパク質は、透析法を用いた無細胞タンパク質合成反応により合成され、かつ前記ステロイド性界面活性剤が、前記反応液中に臨界ミセル濃度の1.5~10倍、さらに好ましくは2~5倍の初期濃度で含まれることを特徴とする。前記ステロイド性界面活性剤は、ジギトニン、コール酸又はCHAPSであることが好ましい。1つの実施形態において、透析法以外の無細胞タンパク質合成系を用いる場合は、前記工程(b)が、前記界面活性剤に結合可能な樹脂を用いて前記界面活性剤を吸着することが好ましい。本発明の他の1つの実施形態において、さらに前記脂質ディスク又はリポソームとの複合体から膜タンパク質を可溶化し、当該膜タンパク質を精製する工程を含むことを特徴とする。
【0009】
異なる観点において、本発明の方法により製造された膜タンパク質を脂質ディスク又はリポソームに組み込まれた状態で含むことを特徴とする組成物が提供される。当該組成物は、薬剤のスクリーニング又は生理活性薬剤の送達のために用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、タンパク質の合成とリポソームの形成が同時期に行なわれることによって、合成された疎水性の高いポリペプチドがリポソーム形成時の脂質ディスクで保護され、タンパク質の凝集が抑制される。タンパク合成の初期段階では、例えば、コール酸を用いた場合には、臨界ミセル濃度以上の界面活性剤が存在することによって合成反応が抑制されるが、界面活性剤の濃度が低下すると合成が開始される。そして、脂質ディスクが融合する際に合成されたタンパク質のフォールド形成が促進され、正常なフォールドをもつ膜タンパク質が効率よく合成できると考えられる。従って、本発明の方法は多くの膜タンパク質に汎用的に用いることができ、膜タンパク質の大量調製法としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】無細胞タンパク質合成に対する界面活性剤種類の検討結果を示す。
【図2】無細胞タンパク質合成に対する界面活性剤濃度の検討を示す。
【図3】無細胞合成BRの密度勾配遠心によるリポソームの分離を示す。
【図4】合成速度、フォールド分子生成速度とリポソーム形成速度の比較を示すグラフである。
【図5】本発明による無細胞機能発現過程のモデルを示す模式図である。
【図6】無細胞合成AQPZの密度勾配遠心によるリポソームの分離を示す。
【図7】無細胞合成AQPZが4量体を形成することを示すBlue-Native PAGEの結果である。
【図8】無細胞合成NtpKの密度勾配遠心によるリポソームの分離を示す。
【図9】無細胞合成NtpKが10量体を形成することを示すBlue-Native PAGEの結果である。
【図10】種々の膜タンパク質の合成、及びリポソームへの挿入を示す結果である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[膜タンパク質]
本明細書において「膜タンパク質」とは、膜貫通ヘリックスをもつ膜内在性タンパク質の他、パルミトイル化、ゲラニル化、ミリストイル化されて修飾部分が膜脂質に埋め込まれているもの、あるいは膜脂質や膜タンパク質と相互作用しているものも含む。例えば、膜タンパク質は、受容体タンパク質、チャネルタンパク質、トランスポーター(輸送体タンパク質)、及び膜結合酵素等を含むがこれらに限定されない。特に膜貫通部位をもつ膜内在性タンパク質は、膜脂質に組み込まれやすいように配列された疎水的アミノ酸配列を有するため、極めて水に溶けにくい性質を示す。組換えDNA技術を用いてこれらの膜タンパク質を異種宿主で発現させると、すぐに凝集して不溶性の沈殿を生ずるので、生物学的に活性でかつ正確な立体構造を有するタンパク質を調製することが困難である。しかし、これらの膜タンパク質の中には細胞内のシグナル伝達や増殖制御など重要な働きを有するものが多く、創薬のターゲットとして極めて重要である。
【0013】
シグナル伝達経路とは、Gタンパク質やcAMPなどのセカンドメッセンジャーによって調節される医学的に重要な生物学的経路である。このシグナル伝達経路に関与するタンパク質としては、ペプチド性ホルモン、神経伝達物質、などのリガンドと結合するGタンパク質共役型受容体(GPCR)、Gタンパク質自身、ホスポリパーゼC、アデニル酸シクラーゼ、ホスホジエステラーゼなどのエフェクタータンパク質、及びプロテインキナーゼAやプロテインキナーゼCなどがある。
【0014】
膜タンパク質であるGPCRスーパーファミリーは、αヘリックスによる膜貫通部位を7ヶ所もっているので7回膜貫通型受容体とも呼ばれる。共役するGタンパク質は通常三量体であり、α、β、γのサブユニットからなる。非常に多くのリガンドがGPCRに結合することが知られており、例えばドーパミン、アドレナリン、エンドセリン、アデノシン、ムスカリン、アセチルコリン、セロトニン、ヒスタミン、トロンビン、キニン、味覚成分や嗅覚成分が含まれる。この受容体の活動をコントロールすることは、神経、免疫、血圧、代謝に関係する疾患の治療に有効である。真核生物のゲノム解析によって数多くの受容体が同定されており、包括的な研究手段が必要とされているが、GPCRは7個の膜貫通領域を有するという構造上、極めて疎水性が高く従来の技術では大量発現で凝集が起こりやすいという問題がある。
【0015】
その他の細胞膜受容体としては、イオンチャネル内蔵受容体(脳内のグルタミン酸受容体等)があり、トランスポーターとしては、グルコースやアミノ酸等の比較的低分子物質から、タンパク質やDNA等の比較的大きな分子を輸送するためのもの等がある。
【0016】
膜結合酵素としては、上述したGタンパク質等の細胞内へのシグナル伝達に関与する多くのタンパク質が存在し、細胞増殖の調節や細胞のガン化等に関し重要な働きをしている。さらに、このような従来から公知の膜タンパク質のみならず、ゲノム情報からその存在が推測されるものの未だその機能が明らかでない新規な膜タンパク質も含まれる。さらに、これらの部分配列、相同配列、改変配列及び誘導配列であっても基本的に脂質二重膜と相互作用しているものは本発明の膜タンパク質に含まれる。
【0017】
これらの膜タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドの何れかからなる任意の長さの核酸重合物である。また、一本鎖又は二本鎖のDNA又はRNAである。更に、従来から公知の任意の修飾を施されていても良く、例えば、蛍光物質などによる標識、メチル化、キャップ構造の付加、ヌクレオチドアナログなどにより置換されていても良い。
【0018】
DNAの場合には通常二本鎖であるが、環状二本鎖でも直鎖状二本鎖でもいずれでも良く、これらは無細胞タンパク質合成系で転写及び翻訳される。これらは当業者に周知であって大腸菌等を宿主とする従来の組換えDNA技術によって作製することができる。あるいは、宿主細胞を形質転換することなくPCR等の試験管内でのDNA増幅技術によって調製することもできる。RNAの場合には、通常一本鎖のmRNAとして用いられ、無細胞タンパク質合成系で翻訳される。これらの技術は、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, 1989〈参考文献1〉; D. N Glover (ed.), DNA Cloning, Volumes I and II, 1985; M. J. Gait (ed.), Oligonucleotide Synthesis, 1984〈参考文献2〉等に記載されている。
【0019】
無細胞タンパク質合成系での転写、翻訳に必要な配列としては、例えばT7プロモーター等の強力なプロモーター、リボソーム結合部位、T7ターミネーター等の配列の他に、発現した融合タンパク質の精製を効率的に行うためヒスチジンやGSTなどのタグ配列を付加することもできる。
【0020】
[無細胞タンパク質合成系]
本発明の方法に使用する無細胞タンパク質合成系は、細胞抽出液を用いて試験管内でタンパク質を合成する系であり、このような合成系としてはmRNAの情報を読み取ってリボゾーム上でタンパク質を合成する無細胞翻訳系、又はDNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系と無細胞翻訳系の両者を含む系の何れでも良い。DNAを鋳型として用いる場合には、PCR等の試験管内での増幅反応により、従来必要とされたクローニングという煩雑な操作を経ることなく、多数の鋳型DNAを同時並行的に迅速に調製することができる。
【0021】
上記細胞抽出液としては、リボゾーム、tRNA等のタンパク質合成に必要な成分を含む真核細胞又は原核細胞の抽出液が使用可能である。前記真核細胞及び原核細胞としては従来公知のものが何れも使用可能であり、具体的に例示すれば、大腸菌、好熱性細菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、マウスL-細胞、エールリッヒ腹水癌細胞、HeLa細胞、CHO細胞及び出芽酵母などが挙げられ、特に大腸菌由来のもの(例えば大腸菌S30細胞抽出液)又は高度好熱菌(Thermus thermophilus)由来のものが高い合成量を得る点において望ましい。該大腸菌S30細胞抽出液は、大腸菌A19(rna、met)、BL21、BL21star、BL21コドンプラス株等から公知の方法(Pratt, J.M. et al., Transcription and translation - a practical approach, (1984), pp.179-209, Henes, B.D.とHiggins, S.J.編、IRL Press, Oxford〈参考文献3〉参照)に従って調製できるし、あるいはプロメガ社やノバジェン社から市販されるものを使用してもよい。
【0022】
大腸菌S30抽出液の具体的な調製方法としては、最初に大腸菌を培養し、菌体を遠心分離等により回収する。回収された菌体は、洗浄後、緩衝液に再懸濁し、フレンチプレスやガラスビーズ、ワーリングブレンダー等を用いて破砕する。破砕された大腸菌の不溶物質を遠心分離で除去し、プレインキュベーション混合液と混合してインキュベーションする。この操作によって内在性のDNA、RNAが分解されるが、更に、カルシウム塩やマイクロコッカスのヌクレアーゼ等を添加して内在性の核酸を分解させてもよい。続いて、透析により内在性のアミノ酸、核酸、ヌクレオシド等を除き、適量ずつ分注して液体窒素又は-80℃にて保存する。
【0023】
本発明のタンパク質合成反応液には、大腸菌S30等の粗細胞抽出液の他に、膜タンパク質をコードするポリヌクレオチド(mRMA等)と、ステロイド性界面活性剤と、リン脂質と、を含む。さらにATP(0.5~5mM)、GTP(0.005~1.0mM)、CTP(0.005~1.0mM)、UTP(0.005~1.0mM)、緩衝液、塩類、アミノ酸、RNase阻害剤、抗菌剤、必要によりRNAポリメラーゼ(DNAを鋳型とする場合)及びtRNA等を含むことができる。その他、ATP再生系、ポリエチレングリコール(例えばPEG#8000)、3’、5’-cAMP、葉酸類(0.1~5mM)、還元剤(例えば1~10mMのジチオスレイトール)等が含まれる。
【0024】
緩衝液としては、例えばHepes-KOH、Tris-OAcのような緩衝剤を使用できる。塩類としては、酢酸塩(例えばアンモニウム塩、マグネシウム塩等)、グルタミン酸塩等が使用でき、抗菌剤としてはアジ化ナトリウム、アンピシリン等が使用可能である。またDNAを鋳型として用いる場合にはRNAポリメラーゼを反応系に添加するが、例えばT7RNAポリメラーゼ等の市販の酵素を使用できる。
【0025】
本発明において、ATP再生系としては好ましくは0.02~5μg/μlのクレアチンキナーゼ(CK)と10~100mMのクレアチンホスフェート(CP)の組合せが挙げられるが、これに限定されるものではなく、従来より公知の材料が何れも使用可能であり、上記以外に例えば1~20mMのホスホエノールピルベート(PEP)と0.01~1μg/μlのピルビン酸キナーゼ(PK)の組合せ等が使用可能である。これらPK及びCKは何れもADPをATPに再生する酵素であり、それぞれPEPおよびCPを基質として必要とする。
【0026】
本発明の無細胞タンパク質合成系は、バッチ法、フロー法の他、従来公知の技術(例えば、Spirin, A et al., Methods in Enzymol., 217, 123-142, 1993〈参考文献4〉参照)がいずれも適用可能であるが、膜タンパク質の合成と、反応液中における界面活性剤濃度の低下とを同時に行うためには、透析膜(限外濾過膜)を介して内液と外液とを隔離して含む振とう若しくは攪拌可能な透析法が好ましい。透析装置としては、例えば、DispoDialyzer(登録商標)(Spectrum社製)、Slidealyzer(登録商標)(Pierce社製)、又はSpectra/Por(登録商標)透析用チューブ(Spectrum社製)等を用いることができる。本出願人により改良された透析法を用いる無細胞タンパク質合成系の詳細は特開2000-175695号公報〈参考文献5〉に開示されており、その内容は参照により本出願に組み込まれる。なお、前掲参考文献1~4の記載内容は、引用をもって本書に組み込まれる。
【0027】
[界面活性剤]
本発明の方法に用いる界面活性剤は、膜タンパク質の種類に依存することなく、タンパク質の疎水性領域及び脂質との親和性に優れたステロイド性界面活性剤である。本発明の方法に使用可能なステロイド性界面活性剤は、コール酸、タウロコール酸、グリココール酸、デオキシコール酸、タウロデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、ジギトニン、3-[(3-コルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート(CHAPS)、3-[(3-コルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホネート(CHAPSO)を含むがこれらに限定されない。これらの界面活性剤は、タンパク質との相互作用によってタンパク質の凝集を抑制し、かつ安定化する比較的緩和な界面活性剤であるが、初期濃度において無細胞タンパク質合成反応を阻害する界面活性剤であってもよい。界面活性剤濃度の低下に伴ってタンパク質合成反応が開始され、脂質ディスクの成長と共にこれらに組み込まれていくからである。通常用いられる濃度としては、その界面活性剤の臨界ミセル濃度(cmc)の1~10倍程度であるが、少なくともcmcよりも高い初期濃度であればよい。このcmc値は、界面活性剤が水中で両親媒性ミセル構造を形成する濃度を示し、この濃度よりも高いとミセルが生じる。すなわち、cmc値は基本的に水中での界面活性剤の可溶性を反映する。cmc値より上では溶存界面活性剤・単量体の濃度は一定している。
【0028】
透析法を用いて界面活性剤濃度を低下させる場合は、前記ステロイド性界面活性剤の初期濃度がcmcの1.5~10倍程度であることが好ましく、さらに好ましくは2~5倍程度である。1.5倍よりも低いと透析開始と同時に界面活性剤濃度が低下し、脂質ディスクの成長速度が速すぎて合成された膜タンパク質が脂質ディスクへ組み込まれるための十分な時間が確保できない。一方、cmcの10倍よりも濃度が高いと透析により界面活性剤濃度が低下するのに時間がかかり、脂質ディスクの成長速度が遅くなって合成された膜タンパク質のフォールディングが十分ではないと考えられる。本実施形態においては、このように使用する界面活性剤の種類と濃度を適切に調整することによって膜タンパク質の機能体の合成収率を最適化することができる。
【0029】
[リン脂質]
本発明の方法に使用可能なリン脂質としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、これらの水素添加物等が挙げられる。リン脂質には、グリセロ糖脂質、やスフィンゴ糖脂質を含んでいてもよく、これらを一種又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
[プロテオリポソームの合成]
本発明は、脂質ディスク又はリポソーム内で天然構造又は活性構造に折りたたまれた膜タンパク質(プロテオリポソーム)の製造方法を提供する。図5は、本発明の典型的な方法としての透析法を用いた無細胞タンパク質合成反応の過程を模式的に表したものである。最初に、(a)膜タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、ステロイド性界面活性剤と、リン脂質と、を含む無細胞タンパク質合成反応液を調製する。ここで、前記ステロイド性界面活性剤は、臨界ミセル濃度(cmc)よりも高い濃度で存在することが必要である。タンパク質合成反応開始直後は界面活性剤濃度が高く、リン脂質は界面活性剤と会合して小さなディスクを形成する。この段階では界面活性剤によりタンパク質合成反応が阻害ざれていてもよい。例えば、好ましい界面活性剤であるコール酸ナトリウムはステロイド性の疎水基を含むアニオン界面活性剤であり、cmc以上の濃度ではタンパク質合成を阻害するが透析により除去する場合に適している。界面活性剤濃度の低下に従って合成された膜タンパク質はそのままでは凝集するが、脂質ディスクと会合すると凝集を抑制しながら脂質二重膜の内部に組み込まれる。さらに界面活性剤濃度が低下すると脂質膜が成長し、これに伴って組み込まれた膜タンパク質のフォールディングが進行する。脂質ディスクは球状の開口型リポソームを経て最終的には閉鎖型リポソームにまで成長すると考えられる。界面活性剤が大きなミセルを形成する場合は、透析する前に反応溶液を希釈してモノマーに分散させるか、あるいはコール酸塩などと混合してミセルを分散させてもよい。
【0031】
透析法以外の無細胞タンパク質合成系を用いる場合は、疎水性や電荷といった界面活性剤の一般的な性質を利用して界面活性剤を除去することができる。例えば、疎水性吸着法は疎水性樹脂に結合する界面活性剤の性質を利用する。一般に界面活性剤を含んだ溶液に所定量の樹脂を添加し、その混合物を4℃又は室温で静置する。界面活性剤が結合した樹脂は遠心分離又はろ過によって取り除くことができる。また、両性界面活性剤を使用する場合は、膜タンパク質を含むミセルをイオン交換樹脂に吸着させ、膜タンパク質を含まないミセルを透過させるような条件も選択可能である。
【0032】
[膜タンパク質の構造及び機能の解析並びに医薬組成物への応用]
本発明の方法により製造された膜タンパク質は、脂質ディスク又はリポソームへ組み込まれた状態にて活性を有する。従って、本発明の方法は、天然構造又は活性構造に安定化された膜タンパク質を大量に調製するために有用である。合成された膜タンパク質は、そのままの状態で機能解析研究や構造解析研究に使用することができる。機能解析研究としては、脂質二重膜を介した物質移動やリガンドとの結合を検出することによって膜タンパク質の活性を測定することができる。この機能解析技術は、受容体タンパク質の酵素活性やリガンドとの結合性を指標とするハイスループットスクリーニングに用いることができる。例えば、ぺプチド、タンパク質、又は化合物のコンビナトリアルライブラリーを用いて受容体タンパク質に作用する物質を同定する。GPCRに結合する特定のリガンドの結合を実証し、又はその阻害剤、競合剤を同定するために種々のリガンド分子を放射性同位元素、蛍光物質又は発光化合物等で標識し受容体タンパク質との結合を解析することができる。
【0033】
膜タンパク質の構造解析研究としては、X線結晶構造解析、核磁気共鳴(NMR)解析、小角X線分散(SAXS)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)、原子間力顕微鏡(AFT)等により行なうことができるがこれらに限定されない。X線回折を行なうための結晶は、リポソームに組み込まれたままのタンパク質を用いても、リポソームから膜タンパク質を可溶化し、さらに精製を行なうことによっても可能である。リン脂質二重膜に受容体タンパク質を存在させた状態で当該タンパク質を結晶化させるための種々の方法も報告されている(例えば、特開2006-219401号公報〈参考文献6〉参照)。なお、参考文献6の記載内容は、引用をもって本書に組み込まれる。
【0034】
本発明の方法によって製造されたプロテオリポソームは、さらに低分子の治療用薬剤を組み込むことによって医薬組成物として利用することもできる。薬物トランスポーターや多剤排出ポンプ等の膜タンパク質は、それらが輸送しうる低分子薬剤と共にリポソームに組み込んで使用する。これらを含む医薬組成物が生体内に投与され、体内を循環する場合に各種臓器の存在する環境に依存して目的とする薬剤を送達することができる。例えば、生体内のpHや温度条件を制御し、これを指標として薬剤を放出する。
【0035】
本発明の1つの実施形態では、上記医薬組成物を構成する疎水性のコア内への疎水性治療用薬剤の導入は、当該薬剤の循環寿命を延ばすことができ、薬剤の持続的放出の効果を提供することができる。このような疎水性薬剤としては、例えば、ソラレンやポルフィリンのような光力学性治療剤、タモキシフェン、パクリタキセル、アドリアマイシン、ダウノルビシン等の抗癌剤、コレステロール低下薬物、及びバンコマイシン等の抗菌剤を含むがこれらに限定されない。
【0036】
また、本発明の他の実施形態において、膜タンパク質としてウイルスタンパク質や癌抗原を発現させることができ、これらを含む免疫原性組成物はワクチ成分として使用することができる。ウイルスタンパク質としては、ヒト免疫不全ウイルスのgp120、単純ヘルペスウイルスのエンベロープグリコプロテイン、SARSウイルスのスパイクタンパク質、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン等が挙げられる。免疫応答が助けになる抗原には細菌等の病原体や腫瘍細胞表面の膜タンパク質も含まれる。
【0037】
本発明は、以下の実施例によりさらに詳細に説明されるが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
[実施例1]高度好塩菌ハロバクテリウム・サリナラム(Halobacterium salinarum)由来バクテリオロドプシン(BR)の無細胞機能発現
BRは、7回膜貫通型αヘリカルな膜タンパク質である光駆動型プロトンポンプである。BRは、発色団として全トランス-レチナール(all-trans retinal)を持ち、216番目のリジン残基と共有結合し、570nm付近に極大吸収波長を持つ。570nm付近の光を吸収すると、全トランス-レチナールは13-シス-レチナールへ光異性化する。これに伴い、BRの立体構造が変化し、熱依存的に種々の光化学反応中間体を経て元の状態に戻る反応を示す。一連の過程の中で、細胞質側から細胞外側へプロトンを輸送する。
【0039】
1)BR合成プラスミドの調製
合成プラスミドは、2段階PCR法を用いてTEV(Tobacco Etch Virus)プロテアーゼ認識部位を含む天然のHisタグ(MKDHLIHNVHKEEHAHAHNKDYDIPTTENLYFQGSSGSSG:配列番号1)、T7プロモーター、T7ターミネーターを含むフラグメントを増幅し、pCR2.1ベクターに組み込むことで調製した。鋳型として用いたBR大腸菌発現ベクター(Shimono, K. et al., J. Biol. Chem.,(2003) 278, 23882-23889〈参考文献7〉)は、北海道大学加茂直樹博士より提供された。5’-プライマー;5'-tccagcggctcctcgggacaggcccagatcacc-3'(配列番号2)、3’-プライマー;5'-gggcggggatcaatcaatcattatcagtcgctggtcgcg-3'(配列番号3)を用いてPCRを行い、BRの14番目のアミノ酸からコードする遺伝子を増幅した。続いて一次PCR産物を鋳型として、この両末端と一部重複する2つの化学合成2本鎖DNA断片(T7プロモーター配列、N末端天然Hisタグ、及びTEVプロテアーゼ認識部位をコードする5’断片およびT7ターミネーター配列をコードする3’断片)と5’,3’-プライマー;5'-gctcttgtcattgtgcttcg-3'(配列番号4)、とを用い、二次PCRを行った。この結果5’上流のT7プロモーター配列と3’下流のT7ターミネーター配列の間に、N末端天然Hisタグ、及びTEVプロテアーゼ認識部位、リンカー配列、N末端の一部欠失したBRの融合タンパク質をコードする配列が挿入されたフラグメントが得られた。このフラグメントをpCR2.1-TOPO(インビトロジェン)にTAクローニングすることでBR合成プラスミドを得た。なお、前掲参考文献7の記載内容は、引用をもって本書に組み込まれる。
【0040】
2)無細胞タンパク質合成法によるBRの合成
タンパク質合成反応は、下記の表1に示した組成の内液に、終濃度100μM全トランス-レチナール(シグマ)と必要に応じ合成プラスミド9μg、指定濃度の界面活性剤や6mgの卵黄フォスファチジルコリン(Type XVI-E、シグマ)を加え反応液量を0.9mLとして透析膜(Spectra/Por 7、分画分子量:15000、スペクトラム)に入れ、15mLコニカルチューブに入れた10倍容(9mL)の外液に対しロータリーシェーカー(RT-50、TAITEC)で回転振とうすることにより透析しながら30℃で6時間合成反応を行った。界面活性剤と脂質を添加する場合は、予め指定濃度の10倍濃度の界面活性剤と脂質水溶液を混合し、1時間室温にて穏やかに撹拌した溶液を反応内液に添加した。
【0041】
【表1】
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【0042】
3)可視吸収測定による活性体BR量の見積もり
合成反応終了後、反応内液を、15000rpm、10分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。沈殿物を900μLの50mMTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁した。沈殿懸濁液20μLまたは50μLに10%(w/v)ドデシル-D-マルトシド(DDM、Anatrace)10μL添加し、終濃度50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaCl、1%(w/v)DDMとなるように調製し、ボルテックス後即時に15000rpm、5分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。遠心上清をとり即時に分光光度計(U-2810、Hitachi)にて波長250nmから750nmまでの可視吸収スペクトルを測定した。680nmから750nmまでの測定値を直線回帰し測定スペクトルから差し引くことで散乱補正を行った。散乱補正を行ったスペクトルの560nmの値からモル吸光係数42000、分子量31.4kを用いて活性体BR量を算出した。
【0043】
4)BR無細胞合成における界面活性剤の効果の検討
透析法による無細胞タンパク質合成系に種々の界面活性剤と卵黄フォスファチジルコリンを添加し、機能体BRが合成できるかを検討した結果を図1に示す。(A)は合成反応液を遠心分離し、沈殿物1μLをSDS-PAGE(XV PANTERA Gel 10-20%)し、CBB染色した結果である。(B)は、上記方法により、合成沈殿物の可視吸収から見積もった活性体量を示す。レーン1はDNA及び界面活性剤/PC無添加のコントロール、レーン2は界面活性剤/PC無添加のコントロールである。レーン3~15に添加した界面活性剤は次のとおりである。レーン3,SUV;レーン4,MLV;レーン5,1%OG/PC;レーン6,0.03%TritonX100/PC;レーン7,0.02%DDM/PC;レーン8,0.02%Brij58/PC;レーン9,0.2%ジギトニン/PC;レーン10,1%コール酸Na/PC;レーン11,1%CHAPS/PC;レーン12,0.5%デオキシコール酸Na/PC;レーン13,2%ペンタデカフルオロオクタン酸(PFO)/PC;レーン14,1%ラウリルサルコシン/PC;レーン15,0.5%SDS/PC。界面活性剤の濃度は、すべて重量対容量%濃度(w/v%)で表示している。MLV(multi lamellar vesicle)は、100mg/mLとなるように卵黄フォスファチジルコリン(タイプXVI-E、シグマ)をクロロホルムに溶解し、ロータリーエバポレーターにて減圧乾固し薄膜を作成した後、滅菌超純水で100mg/mLとなるようにボルテックスし激しく懸濁することで調製した。SUV(small unilamellar vesicle)は、MLVを氷上にて90W、30秒×3回(VP-30s、TAITEC)超音波処理することで調製した。
【0044】
他の条件と比較してステロイド系界面活性剤(ジギトニン(レーン9)、コール酸Na(レーン10)、CHAPS(レーン11))・卵黄フォスファチジルコリンを共存下での合成時に構造を保持したBRが効率的に合成される(図1B)。
【0045】
またコール酸Naを種々の条件で添加した結果とジギトニン、CHAPSの濃度依存性の結果を図2に示す。(A)は、透析法による無細胞タンパク質合成系に種々の界面活性剤と卵黄フォスファチジルコリンを添加し合成反応液を遠心分離し、沈殿物1μLをSDS-PAGE(XV PANTERA Gel 10-20%)し、CBB染色した結果を示す。分子量マーカー(レーンM)として、Prestained SDS-PAGE Standards Broad Range(Bio-Rad)1μLを泳動した。検出は、CBB染色することで行った。(B)は、合成沈殿物の可視吸収から見積もった活性体量を示す。レーン1はDNA無添加、1%コール酸Na/PC;レーン2~15はDNA添加:レーン2,1%コール酸Na;レーン3,1%コール酸Na(内外液);レーン4,1%コール酸Na/PC(内液)1%コール酸Na(外液);レーン5,MLV;レーン6,0.2%コール酸Na/PC;レーン7,0.5%コール酸Na/PC;レーン8,1%コール酸Na/PC;レーン9,2%コール酸Na/PC;レーン10,0.03%ジギトニン/PC;レーン11,0.06%ジギトニン/PC;レーン12,0.2%ジギトニン/PC;レーン13,0.1%CHPAS/PC;レーン14,0.3%CHPAS/PC;レーン15,0.5%CHPAS/PC;レーン16,1%CHPAS/PC。界面活性剤の濃度は、重量対容量%濃度(w/v%)で表示している。なお、図2には示していないが、0.4%ジギトニン/PCの条件下においても、図2のレーン12と同等以上の活性体量が回収できることが分かっている。
【0046】
図2に示した結果より、濃度依存的に活性体比率の上昇が見られる。臨界ミセル濃度(cmc)以上で顕著な上昇が見られた(レーン8(1%(w/v)コール酸Na)、12(0.2%(w/v)ジギトニン)、15(0.5%(w/v)CHAPS))。それぞれの界面活性剤のcmcは以下の通りである。コール酸Na、0.41%(w/v)、ジギトニン、0.06%(w/v)、CHAPS、0.49%(w/v)。透析内外液にコール酸Naを添加しコール酸濃度を保ち合成したところ、BRの合成は見られなかった(図2レーン3、4)。このためコール酸Naはタンパク質合成を阻害する効果があると考えられる。
【0047】
5)スクロース密度勾配遠心による脂質2重膜挿入確認
1%(w/v)コール酸Na/卵黄フォスファチジルコリン共存下で上記と同様の方法でBRを合成し、合成反応終了後、反応内液を、15000rpm、10分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。沈殿物を900μLのPBS、10mMのEDTAに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄した。さらに、沈殿物を900μLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄し、この操作を2回行った。洗浄した沈殿物を900μLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、氷上にて90W、30秒×3回(VP-30s、TAITEC)超音波処理を行った。次に5000rpm、5分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。遠心上清を50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClで1mLにメスアップし、予め用意した10(2.5mL)、30(2mL)、40(2mL)、50(2.5mL)%(w/w)スクロース密度勾配溶液の上に重層し、SW41Tiローターにて100000×g、10時間(L-80XP、Beckman)超遠心し、上部から1mLずつ分取した。
【0048】
各画分に対しSDS-PAGEによるタンパク質存在確認、可視吸収測定による活性体量の見積もり、リンモリブデン酸比色法によるリン脂質定量を行った。SDS-PAGEは定法に従い検出はクーマシーブリリアントブルー(CBB)染色により行った。可視吸収測定は上記と同様の方法で行った。リンモリブデン酸比色法によるリン脂質定量法について以下に記す。密度勾配遠心画分を100μL取り、100μLメタノールと100μLクロロホルムを加え激しくボルテックス後、15、000rpm、1分間(MX-301、TOMY)遠心し、2層に分離させた。クロロホルム層を分取し、減圧乾燥機(MV-100、TOMY)にてクロロホルムを除去した後、超純水100μLに懸濁した。懸濁液をガラス製試験管に移し、10N硫酸250μLを加え、ヒートブロック(DTU-1C、TAITEC)にて170℃、2時間加熱した。30%(v/v)過酸化水素水20μL添加し、さらに170℃、1時間加熱した。放冷後、100μLの5%リンモリブデン酸溶液、2.2mL超純水、100μLのFiske-Sabbarow試薬(亜硫酸水素Na7.5g、亜硫酸Na0.25g、1-アミノ-2-ナフトール-4-スルホン酸0.125g/50mL)を加えボルテックス後、100℃、5分間加熱した。放冷後、プレートリーダー(Model-680、Bio-Rad)にて750nmの吸収を測定した。2mMリン酸二水素ナトリウム溶液を10、20、30、40、50μLを同様に測定し検量線とし、試料の定量を行った。
【0049】
その結果を図3に示す。図3Aは各画分2μLをSDS-PAGEし、CBB染色した結果であり、図3Bは、各画分の可視吸収から見積もった活性体量(●)及びリンモリブデン酸比色法によるリン脂質量(○)を示す。タンパク質画分(図3A、レーン3、6)とリン脂質画分(図3B、○)が同一の画分に存在することから、合成されたBRがリン脂質リポソームに挿入されていることが確認できた。また正常なフォールドを維持されたBRはフラクション3、6に多く存在(図3B、●)し、リン脂質量のプロファイルと一致している。これらのことから、正常な構造を保持した膜タンパク質BRがリン脂質リポソーム中で合成できることを確認した。
【0050】
6)機能合成過程の解析
1%(w/v)または2%(w/v)コール酸Na/卵黄フォスファチジルコリン共存下で上記と同様の方法でBRを合成し、任意の時間で反応内液を、滅菌超純水により2倍希釈し反応を停止させた。希釈反応液に対し15000rpm、10分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。沈殿物は、50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁した。
【0051】
タンパク質合成、フォールドタンパク質、リン脂質リポソーム量の透析時間に対する時間変化の測定結果を図4に示す。タンパク質合成量は、SDS-PAGE/CBB染色のバンド強度から算出した。バンド強度の算出は、Multi-gauge(富士フィルム)を用いて行い、高純度に精製したBRをコントロールとして定量した。フォールドタンパク質量は可視分光測定から、リン脂質リポソーム量はリンモリブデン酸比色定量法により算出した。図中、(○,●)は、1%(w/v)コール酸ナトリウムを添加した場合を示し、(□,■)は、2%(w/v)コール酸ナトリウムを添加した場合を示す。○及び□は、遠心上清の活性体量の透析時間依存性である。
【0052】
1%(w/v)コール酸の場合、透析開始後、30分後から遠心沈殿でのタンパク質合成、フォールドタンパク質、リン脂質量が増加している(図4、●)。フォールドタンパク質生成、リン脂質リポソーム形成の速度は一致していることから、2つの過程は協同して行われていると考えられる。さらにリポソーム形成後は、タンパク質合成量は増加するが、フォールドタンパク質は増加しないことから、高効率のフォールドには、未成熟な脂質2重膜(脂質ディスク)の存在が関与し、リポソーム形成の過程が重要であることが示唆される。またフォールドBRは透析初期1時間後をピークに遠心上清に現れることから、遠心で沈殿しない程度に小さいリポソームまたは脂質ディスクに覆われている分子種が主であると考えられる(図4B、○)。2%(w/v)コール酸の場合もすべての開始時間が遅れて同様の現象が見られた(図4、■、□)。このことは、コール酸濃度が3者の速度を制御していることを意味する。
【0053】
これらのことから図5のような過程を経て膜タンパク質の無細胞機能合成が実現していると考えられる。透析初期ではコール酸・脂質の混合ミセルが存在し、タンパク質合成を阻害している。透析が進み界面活性剤濃度が減少すると脂質ディスクを形成し、タンパク質合成も開始される。合成初期ポリペプチドは疎水性部を脂質ディスクで保護されながら、合成、フォールディングが進行する。さらに透析が進むとポリペプチドを含む脂質ディスクが融合してより大きな脂質ディスクまたはリポソームへと成長する。その際、脂質ディスク融合過程を利用して膜タンパク質のフォールディングも促進されると考えられる。
【0054】
[実施例2]大腸菌由来水チャネル(AQPZ)の無細胞機能発現
AQPZは、6回膜貫通型αヘリカルな膜タンパク質であり、水チャネルとして機能する。AQPZは、極めて安定な4量体を形成することが知られている。
【0055】
1)AQPZ合成プラスミドの調製
合成プラスミドは、2段階PCR法を用いてTEV(Tobacco Etch Virus)プロテアーゼ認識部位を含む天然のHisタグ(MKDHLIHNVHKEEHAHAHNKDYDIPTTENLYFQGSSGSSG:配列番号1)、T7プロモーター、T7ターミネーターを含むフラグメントを増幅し、pCR2.1ベクターに組み込むことで調製した。5’-プライマー;5'-ccagcggctcctcgggaatgttcagaaaattagc-3'(配列番号5)、3’-プライマー;5'-gggcggggatcaatcaatcattaatcacgcttttccagca-3'(配列番号6)、及び鋳型として大腸菌コロニーを用い、PCRを行い、AQPZ全長をコードする遺伝子を増幅した。続いて一次PCR産物を鋳型として、この両末端と一部重複する2つの化学合成2本鎖DNA断片(T7プロモーター配列とN末端Native HisタグおよびTEVプロテアーゼ認識部位をコードする5’断片およびT7ターミネーター配列をコードする3’断片)と5’、3’-プライマー;5'-gctcttgtcattgtgcttcg-3'(配列番号4)、とを用い、二次PCRを行った。この結果5’上流のT7プロモーター配列と3’下流のT7ターミネーター配列の間に、N末端Native Hisタグおよびプロテアーゼ認識部位、リンカー配列、AQPZ全長をコードする配列が挿入されたフラグメントが得られた。このフラグメントをpCR2.1-TOPO(インビトロジェン)にTAクローニングすることでAQPZ合成プラスミドを得た。
【0056】
2)スクロース密度勾配遠心による脂質2重膜挿入確認
上述の表1に示した組成の内液に、AQPZ合成プラスミド9μg、1%(w/v)コール酸Naと6mgの卵黄フォスファチジルコリン(Type XVI-E、シグマ)を加え反応液量を0.9mLとして透析膜(Spectra/Por 7、分画分子量:15000、スペクトラム)に入れ、15mLコニカルチューブに入れた10倍容(9mL)の外液に対しロータリーシェーカー(RT-50、TAITEC)で回転振とうすることにより透析しながら30℃で6時間合成反応を行った。合成反応終了後、反応内液を、15000rpm、10分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。沈殿物を900μLのPBS、10mMのEDTAに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄した。さらに、沈殿物を900μLの50mMTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄し、この操作を2回行った。洗浄した沈殿物を900μLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、氷上にて90W、30秒×3回(VP-30s、TAITEC)超音波処理を行った。次に5000rpm、5分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。遠心上清を50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClで1mLにメスアップし、予め用意した30(3mL)、40(3mL)、50(3mL)%(w/w)スクロース密度勾配溶液の上に重層し、SW41Tiローターにて100000×g、10時間(L-80XP、Beckman)超遠心し、上部から1mLずつ分取した。各画分に対しSDS-PAGE/CBB染色によるタンパク質存在確認、可視吸収測定による活性体量の見積もり、リンモリブデン酸比色法によるリン脂質定量を行った。
【0057】
図6Aは、画分1、2、4、5、7、8、10及び沈殿物10μLをSDS-PAGE(XV PANTERA Gel 15 %)し、CBB染色した結果を示す。分子量マーカー(レーンM)として、Prestained SDS-PAGE Standards Broad Range (Bio-Rad)を3μL泳動した。検出は、CBB染色することで行った。図6Bは、画分2-6のリン脂質量を示す。図6に示した結果より、タンパク質画分(図6A、レーン4)とリン脂質画分(図6B、レーン4)が同一の画分に存在することから、合成されたAQPZがリン脂質リポソームに挿入されていることが確認できた。またSDS-PAGEで100kDa付近にAQPZ由来のバンドが検出されたことから、合成されたAQPZは4量体形成分子も存在していることが示唆された(図6A)。
【0058】
3)AQPZの精製
上述の表1に示した組成の内液に、AQPZ合成プラスミド45μg、1%(w/v)コール酸Naと30mgの卵黄フォスファチジルコリン(TypeXVI-E、シグマ)を加え反応液量を4.5mLとして透析膜(Spectra/Por 7、分画分子量:15、000、スペクトラム)に入れ、50mLコニカルチューブに入れた10倍容(45mL)の外液に対しロータリーシェーカー(RT-50、TAITEC)で回転振とうすることにより透析しながら30℃で6時間合成反応を行った。合成反応終了後、反応内液を、15000rpm、10分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。沈殿物を4mLのPBS、10mMのEDTAに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄した。さらに、沈殿物を4mLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄し、この操作を2回行った。洗浄した沈殿物を4mLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、氷上にて90W、30秒×3回(VP-30s、TAITEC)超音波処理を行った。次に5000rpm、5分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。遠心上清1mL分取し、終濃度50mMのTris-HCl(pH7.0)、100mMのNaCl、10%(v/v)グリセリン、5mMの2-メルカプトエタノール、1%(w/v)DDM、4mLで4℃、1時間穏やかに撹拌することにより可溶化を行った。可溶化試料を100000×g、1時間(CS120GX、Hitachi)超遠心し、上清と沈殿に分離した。遠心上清をHisTrapカラム(1ml)(GEヘルスケアバイオサイエンス)にかけ、アフイニティー精製を行った。20mMのTris-HCl(pH7.4)、100mMのNaCl、500mMイミダゾール、0.05%(w/v)DDM、10%(v/v)グリセリン、5mM2-メルカプトエタノールを用いて目的タンパク質の溶出を行った。目的タンパク質を含む画分2.8mLをAmicon Ultra-4(分画分子量:50k、ミリポア)を用いて、200μLに濃縮した。濃縮試料をHiLoad 16/60 Superdex 75 pg カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)にかけ、ゲルろ過精製を行った。20mMのTris-HCl(pH7.4)、100mMのNaCl、0.025%(w/v)DDM、10%(v/v)グリセリン、2mMジチオスレイトールを用いて目的タンパク質の溶出を行った。目的タンパク質を含む画分をAmiconUltra-4(分画分子量:50k、ミリポア)とMicroconYM-50(ミリポア)を用いて、2.1mg/mL(総量、60μL)となるまで濃縮した。タンパク量は、DC Protein Assay kit(Bio-Rad)を用いて、Lowry法によりBSAをコントロールとして定量した。
【0059】
4)Blue-Native PAGEによる4量体形成確認
本系で合成したAQPZが機能体である4量体を形成しているかを確認するために、Blue-Native PAGEを行った。上述の精製濃縮試料2μLに12μLのゲルろ過バッファー(20mMTris-HCl(pH7.4)、100mMのNaCl、0.025%(w/v)DDM、10%(v/v)グリセリン、2mMジチオスレイトール)、3μLの6×サンプルバッファー(300mMのBis-Tris-HCl(pH7.0)、60%(v/v)グリセリン)、1μLの5%(w/v)CBB-G250を加え、NativePAGE4-16%Bis-Trisgel(インビトロジェン)へアプライした。陰極バッファーとしてDark blue cathodeバッファー(50mMのBisTris、50mMのTricine、0.02%(w/v)CBB G-250、pH6.8)、陽極バッファーを50mMのBisTris、50mMのTricine、pH6.8を用い、150V定電圧下で20分電気泳動後、Dark blue cathodeバッファーを捨て、Light blue cathodeバッファー(50mMのBisTris、50mMのTricine、0.002%(w/v)CBB G-250、pH6.8)に交換した。更に150V定電圧下で40分電気泳動後、250V定電圧下で約60分電気泳動した。泳動は、4℃で行った。泳動終了後、ゲルを脱染液(20%(v/v)メタノール、10%(v/v)酢酸)に浸しバンドの可視化を行った。
【0060】
その結果を図7に示す。160kDa付近に明瞭なバンドが確認できることから、本系で合成したAQPZは、DDM存在下でも4量体を形成していることが確認できた。
【0061】
[実施例3]腸内連鎖球菌(Enterococcus hirae)由来V型ATPaseKサブユニット(NtpK)の無細胞機能発現
腸内連鎖球菌(Enterococcus hirae)由来V型ATPaseは、ATPの加水分解エネルギーにより働くナトリウムイオンポンプであり、9個のサブユニットからなる超分子複合体である。この内、Kサブユニット(NtpK)は、4回膜貫通型αヘリカルな膜タンパク質であり、細胞膜中に存在するローター(回転子)部分を構成し、リング状の10量体を形成する。
【0062】
1)NtpK合成プラスミドの調製
合成プラスミドは、2段階PCR法を用いてTEV(Tobacco Etch Virus)プロテアーゼ認識部位を含むヒスチジンタグ、T7プロモーター、T7ターミネーターを含むフラグメントを増幅し、pCR2.1ベクターに組み込むことで調製した。鋳型として大腸菌発現用にコドン最適化を行った完全合成遺伝子を用いた。合成遺伝子は、京都大学村田武士博士より提供された。5’-プライマー;5'-ccagcggctcctcgggaatgatggattacctgat-3'(配列番号7)、3’-プライマー;5'-cctgacgagggccccgacgcattcagcaccagcag-3'(配列番号8)、を用い、PCRを行い、NtpK全長をコードする遺伝子を増幅した。続いて一次PCR産物を鋳型として、この両末端と一部重複する2つの化学合成2本鎖DNA断片(T7プロモーター配列をコードする5’断片およびC末端6×HisタグとT7ターミネーター配列をコードする3’断片)と5’、3’-プライマー;5'-gctcttgtcattgtgcttcg-3'(配列番号4)、とを用い、二次PCRを行った。この結果5’上流のT7プロモーター配列と3’下流のT7ターミネーター配列の間に、NtpK全長をコードする配列、TEVプロテアーゼ認識部位を含むリンカー配列(SGPSSGENLYFQG;配列番号9)、C末端6×Hisタグが挿入されたフラグメントが得られた。このフラグメントをpCR2.1-TOPO(インビトロジェン)にTAクローニングすることでNtpK合成プラスミドを得た。
【0063】
2)スクロース密度勾配遠心による脂質2重膜挿入確認
上述の表1に示した組成の内液に、NtpK合成プラスミド9μg、1%(w/v)コール酸Naと6mgの卵黄フォスファチジルコリン(Type XVI-E、シグマ)を加え反応液量を0.9mLとして透析膜(Spectra/Por 7、分画分子量:15、000、スペクトラム)に入れ、15mLコニカルチューブに入れた10倍容(9mL)の外液に対しロータリーシェーカー(RT-50、TAITEC)で回転振とうすることにより透析しながら30℃で6時間合成反応を行った。合成反応終了後、反応内液を、15000rpm、10分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。沈殿物を900μLのPBS、10mMのEDTAに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄した。さらに、沈殿物を900μLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄し、この操作を2回行った。洗浄した沈殿物を900μLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、氷上にて90W、30秒×3回(VP-30s、TAITEC)超音波処理を行った。次に5000rpm、5分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。遠心上清を50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClで1mLにメスアップし、予め用意した30(3mL)、40(3mL)、50(3mL)%(w/w)スクロース密度勾配溶液の上に重層し、SW41Tiローターにて100000×g、10時間(L-80XP、Beckman)超遠心し、上部から1mLずつ分取した。各画分に対しSDS-PAGE/CBB染色によるタンパク質存在確認、可視吸収測定による活性体量の見積もり、リンモリブデン酸比色法によるリン脂質定量を行った。
【0064】
図8Aは、各画分及び沈殿物10μLをSDS-PAGEで分析した結果であり、図8Bは、画分2~6のリン脂質量を示す。これらの結果より、タンパク質が多く存在する画分(図8A、レーン4)にリン脂質も存在する(図8B、レーン4)ことから、合成されたNtpKがリン脂質リポソームに挿入されていることが示唆された。
【0065】
3)NtpKの精製
上述の表1に示した組成の内液に、NtpK合成プラスミド45μg、1%(w/v)コール酸Naと30mgの卵黄フォスファチジルコリン(Type XVI-E、シグマ)を加え反応液量を4.5mLとして透析膜(Spectra/Por 7、分画分子量:15000、スペクトラム)に入れ、50mLコニカルチューブに入れた10倍容(45mL)の外液に対しロータリーシェーカー(RT-50、TAITEC)で回転振とうすることにより透析しながら30℃で6時間合成反応を行った。合成反応終了後、反応内液を、15000rpm、10分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。沈殿物を2mLのPBS、10mMのEDTAに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄した。さらに、沈殿物を2mLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄し、この操作を2回行った。洗浄した沈殿物半量を1mLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、氷上にて90W、30秒×3回(VP-30s、TAITEC)超音波処理を行った。次に5000rpm、5分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。遠心上清1mL分取し、終濃度50mMのTris-HCl(pH7.0)、100mMのNaCl、20%(v/v)グリセリン、1%(w/v)DDM、4mLで4℃、1時間穏やかに撹拌することにより可溶化を行った。可溶化試料を100000xg、1時間(CS120GX、Hitachi)超遠心し、上清と沈殿に分離した。遠心上清をHisTrapカラム(1ml)(GEヘルスケアバイオサイエンス)にかけ、アフイニティー精製を行った。20mMのTris-HCl(pH7.4)、10mMのNaCl、500mMイミダゾール、0.05%(w/v)DDM、20%(v/v)グリセリンを用いて目的タンパク質の溶出を行った。目的タンパク質を含む画分2.8mLをAmicon Ultra-4(分画分子量:50k、ミリポア)を用いて、500μLに濃縮した。濃縮試料をSuperdex200 10/300 GL カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)にかけ、ゲルろ過精製を行った。20mMのTris-HCl(pH7.4)、10mMのNaCl、0.05%(w/v)DDM、20%(v/v)グリセリンを用いて目的タンパク質の溶出を行った。目的タンパク質を含む画分をAmicon Ultra-4(分画分子量:50k、Millipore)を用いて、0.7mg/mL(総量、100μL)となるまで濃縮した。タンパク量は、DC Protein Assay kit(Bio-Rad)を用いて、Lowry法によりBSAをコントロールとして定量した。
【0066】
4)Blue-Native PAGEによる10量体形成確認
本系で合成したNtpKが機能体である10量体リングを形成しているかを確認するために、Blue-Native PAGEを行った。上述のゲルろ過精製試料14μLに3μLの6×サンプルバッファー(300mMのBis-Tris-HCl(pH7.0)、60%グリセリン)、1μL5%(w/v)CBB-G250を加え、NativePAGE4-16%Bis-Tris gel(インビトロジェン)へアプライした。陰極バッファーとしてDark blue cathodeバッファー(50mMのBisTris、50mMのTricine、0.02%(w/v)CBB G-250、pH6.8)、陽極バッファーを50mMのBisTris、50mMのTricine、pH6.8を用い、150V定電圧下で20分電気泳動後、Dark blue cathodeバッファーを捨て、Light blue cathodeバッファー(50mMのBisTris、50mMのTricine、0.002%(w/v)CBB G-250、pH6.8)に交換した。更に150V定電圧下で40分電気泳動後、250V定電圧下で約60分電気泳動した。泳動は、4℃で行った。泳動終了後、ゲルを脱染液(20%(v/v)メタノール、10%(v/v)酢酸)に浸しバンドの可視化を行った。さらに脱染したゲルを銀染色試薬「第一」(第一化学薬品)により銀染色を行った。
【0067】
結果を図9に示す。245kDa付近に明瞭なバンドが確認できることから、本系で合成したNtpKは、DDM存在下でも10量体のリングを形成していることが示唆された。
【0068】
[実施例4]様々な性質を持つ多回膜貫通型膜タンパク質群の無細胞機能発現
1%コール酸Na/6mg卵黄フォスファチジルコリンまたは大腸菌脂質共存下で上述の方法により無細胞合成した大腸菌多剤排出型輸送担体EmrE(4回膜貫通型)、ヒトタイトジャンクションタンパク質Cldn4(4回膜貫通型)、Gタンパク質共役型受容体ヒトアドレナリン受容体(β2AR)、ヒトムスカリン受容体(m2AChR)(7回膜貫通型)試料に対し、30、40、50%スクロース密度勾配遠心を行い、脂質2重膜挿入確認を行った。
【0069】
1)合成プラスミドの調製
合成プラスミドは、2段階PCR法を用いてTEVプロテアーゼ認識部位を含む天然のHisタグ(MKDHLIHNVHKEEHAHAHNKDYDIPTTENLYFQGSSGSSG:配列番号1)、T7プロモーター、T7ターミネーターを含むフラグメントを増幅し、pCR2.1ベクターに組み込むことで調製した。EmrE全長をコードする遺伝子の増幅は、5’-プライマー;5'-ccagcggctcctcgggaatgaacccttatattta-3'(配列番号10)、3’-プライマー;5'-gggcggggatcaatcaatcattaatgtggtgtgcttcgtg-3'(配列番号11)、鋳型として定法により調製した大腸菌ゲノムを用い、PCRにより調製した。Cldn4全長をコードする遺伝子の増幅は、5’-プライマー;5'-ccagcggctcctcgggaatggcctccatggggct-3'(配列番号12)、3’-プライマー;5'-gggcggggatcaatcaatcattacacgtagttgctggca-3'(配列番号13)、鋳型として“Full-length Human cDNA Sequencing Analysis” projectから分与されたクローンを用い、PCRにより調製した。続いて上記一次PCR産物を鋳型として、この両末端と一部重複する2つの化学合成2本鎖DNA断片(T7プロモーター配列とN末端天然Hisタグをコードする5’断片およびT7ターミネーター配列をコードする3’断片)と5’、3’-プライマー;5'-gctcttgtcattgtgcttcg-3'(配列番号4)、とを用い、二次PCRを行った。この結果5’上流のT7プロモーター配列と3’下流のT7ターミネーター配列の間に、N末端天然HisタグおよびTEVプロテアーゼ認識部位、目的タンパク質全長をコードする配列が挿入されたフラグメントが得られた。このフラグメントをpCR2.1-TOPO(インビトロジェン)にTAクローニングすることで合成プラスミドを得た。
【0070】
β2AR全長をコードする遺伝子の増幅は、5’-プライマー;5'-tccagcggctcctcgggaatggggcaacccggg-3'(配列番号14)、3’-プライマー;5'-cctgacgagggccccgacagcagtgagtcatttgta-3'(配列番号15)、鋳型としてβ2AR大腸菌無細胞タンパク質発現ベクター(非特許文献1参照)を用い、PCRにより調製した。m2AChR全長をコードする遺伝子の増幅は、5’-プライマー;5'-tccagcggctcctcgggaatggatgactccacgga-3'(配列番号16)、3’-プライマー;5'-cctgacgagggccccgaccttgtagcgcctatgt-3'(配列番号17)、鋳型としてm2AChR大腸菌無細胞タンパク質発現ベクター(非特許文献1参照)を用い、PCRにより調製した。
【0071】
続いて上記一次PCR産物を鋳型として、この両末端と一部重複する2つの化学合成2本鎖DNA断片(T7プロモーター配列とN末端天然HisタグおよびTEVプロテアーゼ認識部位をコードする5’断片およびT7ターミネーター配列とC末端リンカー配列をコードする3’断片)と5’、3’-プライマー;5'-gctcttgtcattgtgcttcg-3'(配列番号4)、とを用い、二次PCRを行った。この結果5’上流のT7プロモーター配列と3’下流のT7ターミネーター配列の間に、N末端天然HisタグおよびTEVプロテアーゼ認識部位、目的タンパク質全長をコードする配列、C末端リンカー配列(SGPSSG:(配列番号18)が挿入されたフラグメントが得られた。このフラグメントをpCR2.1-TOPO(インビトロジェン)にTAクローニングすることで合成プラスミドを得た。
【0072】
2)スクロース密度勾配遠心による脂質2重膜挿入確認
上述の表1に示した組成の内液に、目的タンパク質合成プラスミド9μg、1%(w/v)コール酸Naと6mgの卵黄フォスファチジルコリン(Type XVI-E、シグマ)または大腸菌脂質(Avanti)を加え反応液量を0.9mLとして透析膜(Spectra/Por 7、分画分子量:15、000、スペクトラム)に入れ、15mLコニカルチューブに入れた10倍容(9mL)の外液に対しロータリーシェーカー(RT-50、TAITEC)で回転振とうすることにより透析しながら30℃で6時間合成反応を行った。合成反応終了後、反応内液を、15000rpm、10分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。沈殿物を900μLのPBS、10mMのEDTAに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄した。さらに、沈殿物を900μLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、100000×g、30分間(CS120GX、Hitachi)超遠心し沈殿物を洗浄し、この操作を2回行った。洗浄した沈殿物を900μLの50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClに懸濁し、氷上にて90W、30秒×3回(VP-30s、TAITEC)超音波処理を行った。次に5000rpm、5分間(MX-301、TOMY)遠心し上清と沈殿に分離した。遠心上清を50mMのTris-HCl(pH7.0)、400mMのNaClで1mLにメスアップし、予め用意した30(3mL)、40(3mL)、50(3mL)%(w/w)スクロース密度勾配溶液の上に重層し、SW41Tiローターにて100000×g、10時間(L-80XP、Beckman)超遠心し、上部から1mLずつ分取した。各画分に対しSDS-PAGE/CBB染色によるタンパク質存在確認、リンモリブデン酸比色法によるリン脂質定量を行った。
【0073】
その結果を図10に示す。1%(w/v)コール酸Na/6mg卵黄フォスファチジルコリンまたは大腸菌脂質共存下で無細胞合成した大腸菌多剤排出型輸送担体EmrE(4回膜貫通型)、ヒトタイトジャンクションタンパク質Cldn4(4回膜貫通型)、Gタンパク質共役型受容体ヒトアドレナリン受容体(β2AR)、ヒトムスカリン受容体(m2AChR)(7回膜貫通型)試料に対し、30、40、50%スクロース密度勾配遠心し、上部から1mLずつ分取した。図中に示された画分10μLに対し、SDS-PAGEを行ないCBB染色した結果とリン脂質含量を示す。EmrEは、1%(w/v)コール酸Na/6mg大腸菌脂質共存下で無細胞合成した。EmrE以外は1%(w/v)コール酸Na/6mg卵黄フォスファチジルコリン共存下で無細胞合成した。図中に示す分子量はすべてN末端天然Hisタグを含む分子量である。これらの結果より、タンパク質が存在する画分にリン脂質も存在することから、合成した膜タンパク質すべてがリン脂質リポソームに挿入されていることが確認できた。
なお、前述の特許文献等の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
図面
【図4】
0
【図5】
1
【図1】
2
【図2】
3
【図3】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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【図10】
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