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明細書 :クーラントおよびそれを用いた塑性加工又は研削又は切削又は研磨装置およびその方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5392740号 (P5392740)
公開番号 特開2008-231414 (P2008-231414A)
登録日 平成25年10月25日(2013.10.25)
発行日 平成26年1月22日(2014.1.22)
公開日 平成20年10月2日(2008.10.2)
発明の名称または考案の名称 クーラントおよびそれを用いた塑性加工又は研削又は切削又は研磨装置およびその方法
国際特許分類 C10M 145/40        (2006.01)
C10M 159/02        (2006.01)
C10M 161/00        (2006.01)
C10M 163/00        (2006.01)
C10M 173/02        (2006.01)
B24B  55/02        (2006.01)
C10M 129/06        (2006.01)
C10N  30/00        (2006.01)
C10N  30/06        (2006.01)
C10N  40/20        (2006.01)
C10N  40/22        (2006.01)
C10N  40/24        (2006.01)
FI C10M 145/40
C10M 159/02
C10M 161/00
C10M 163/00
C10M 173/02
B24B 55/02 Z
C10M 129/06
C10N 30:00 Z
C10N 30:06
C10N 40:20 Z
C10N 40:22
C10N 40:24 Z
請求項の数または発明の数 5
全頁数 25
出願番号 特願2008-038022 (P2008-038022)
出願日 平成20年2月19日(2008.2.19)
権利譲渡・実施許諾 特許権者において、実施許諾の用意がある。
優先権出願番号 2007042989
優先日 平成19年2月22日(2007.2.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年10月5日(2010.10.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
発明者または考案者 【氏名】磯部 佳成
個別代理人の代理人 【識別番号】100111132、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 浩
審査官 【審査官】坂井 哲也
参考文献・文献 特開2000-129282(JP,A)
特開昭57-098598(JP,A)
特開2006-249320(JP,A)
特開昭63-162792(JP,A)
特開昭57-008297(JP,A)
特開平04-218594(JP,A)
特開2006-188637(JP,A)
調査した分野 C10M 101/00-177/00
C10N 40/20-40/24
特許請求の範囲 【請求項1】
金属を塑性加工又は研削又は切削又は研磨する際に加工部位に供給して冷却及び潤滑するためのクーラントであって、
このクーラントは水溶性と、増粘性とを備えて摂食可能な多糖類又は糖タンパク質又はこれらの混合体を水に溶解又は分散させてなる水溶液であり、
前記クーラントの常温における粘度は3-10[mPa・sec.]の範囲内であり、
前記クーラントは前記加工部位にミスト化して供給され、
使用済の前記クーラントの少なくとも一部は大気中に拡散させて廃棄可能であることを特徴とするクーラント。
【請求項2】
前記クーラントは、水溶性のアルコールを含有することを特徴とする請求項1に記載のクーラント。
【請求項3】
前記アルコールは、エタノールであることを特徴とする請求項2に記載のクーラント。
【請求項4】
請求項1乃至請求項のいずれか1項記載のクーラントを供給するためのクーラント供給設備を有することを特徴とする塑性加工又は研削又は切削又は研磨装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか1項記載のクーラントを用いることを特徴とする塑性加工又は研削又は切削又は研磨方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性加工又は研削又は切削又は研磨を行う際に加工具と被加工物の接触部分に供給してその表層温度を低下させるためのクーラント(冷却液)に関し、より具体的には、水溶性と増粘性を有する多糖類を含有するクーラント及びそれを用いた塑性加工又は研削又は切削又は研磨装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属の塑性加工又は研削又は切削又は研磨を行う場合、被加工物における作用部には摩擦が生じ加工熱が生じるため、被加工物との接触部分にクーラントとして油や、油と水の混合体であるエマルジョンを供給して加工熱の発生を抑制していた。
しかしながら、このような油性又はエマルジョンからなるクーラントは、環境下において容易に生分解されないため廃棄する際には、複雑な工程を経て安全な物質に変換してから廃棄する必要があり、このような作業には手間と多大なコストがかかるという課題があった。
そこで上述のような課題に対処するため、従来の油性又はエマルジョンからなるクーラントの代替組成物に関する発明がいくつか開示されている。
【0003】
特許文献1には「水溶性クーラント」という名称で、金属の洗浄、研削 、切削、塑性加工クーラント において、窒素、燐、塩素を含有しない水溶性 クーラント 組成物に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される「水溶性クーラント」は、金属の研削 ・切削・塑性加工において使用される水溶性クーラント組成物において、(A)アルカリ金属炭酸塩、(B)ホウ素系化合物、(C)分子内にカルボキシル基を一つ以上有する炭素数6~22の有機化合物を含有し、窒素、燐、塩素を含有する化合物を含有しないことを特徴とするものである。
上記構成の特許文献1に記載の発明によれば、アミン添加型クーラント などと比較し、防錆性、防腐性、潤滑性、アルカリ価が同等であり、廃水処理性において優れたクーラント設計が可能であるという効果を有する。
また、この配合組成で、窒素化合物、燐化合物、塩素化合物を一切使用せず、環境への影響を低減したクーラント が設計できるという効果も有する。
さらに、特許文献1に記載の「水溶性クーラント」には、別途水溶性の添加剤を加えることができ、潤滑性、切削性、研削性といった各一次機能、及び、消泡性、他油分離性、といった二次機能を向上させることができるという効果を有する。
【0004】
また、特許文献2には「研削加工方法及び研削加工装置」という名称で、ドライブプレート及びシューによって回転可能に支持されたワークを、ドライブプレートの回転によって回転させながら、回転する研削砥石により研削するための研削加工方法及び研削加工装置に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示される研削加工装置は、研削砥石によるワーク研削の際に、フロントシュー接触部潤滑用ミスト供給パイプ及びリアシュー接触部潤滑用ミスト供給パイプによってワークとフロントシューとの接触部分より上流側、及びワークとリアシューとの接触部分より上流側に、各接触部潤滑用ミストを供給するよう構成されるものである。
また、ドライブプレート潤滑用ミスト供給パイプによってドライブプレートのワーク支持面に、ドライブプレート潤滑用ミストを供給するとともに、冷風供給パイプによって研削点に冷却用の冷風を供給し、研削点潤滑用ミスト供給パイプによって研削砥石の研削点より上流側に研削点潤滑用ミストを供給するよう構成されるものである。
上記構成の特許文献2に記載の発明によれば、研削砥石に研削点潤滑性のミスト及び冷却用の冷風を供給することで、クーラントを用いることなく研削することができるとともに、ワークとシューとの接触部分における焼け、シューマーク、シューの磨耗等の不具合を確実に防止することができるという効果を有する。
【0005】

【特許文献1】特開平11-246887号公報
【特許文献2】特開2004-17234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される「水溶性クーラント」においては、少なくとも3種類の物質を含有し、加えて、加工性や潤滑性などの一時機能付与のため、脂肪酸、合成エステル、ポリアルキレングリコールなどが、界面活性剤として石油スルホネート、高級アルコールのEO付加体、ノニルフェニルエーテルのEO付加体が添加されたり、消泡剤、防腐防黴剤、非鉄金属防食剤、防錆剤なども添加される可能性がある。
このため、従来の油性又はエマルジョンからなるクーラントに比べると、廃棄する際の処理工程を簡易にすることができると考えられるものの、特許文献1に記載の「水溶性クーラント」を使用後、クーラント中の金属屑を除去した後、水で希釈して下水に放流できる程度にまで処理工程を簡素化することはできず、廃棄処理には依然として手間とコストがかかるという課題があった。
【0007】
また、上述の特許文献2に記載の発明は、クーラントを用いないとしているが、研削点潤滑用ミストとして植物性油を用いることが望ましい旨の記載があり、結果的には研削点潤滑用ミストがクーラントの役割を果たしているとも言える。
従って、使用済みの潤滑用ミストの処理に関する課題は、油性のクーラントの処理に関する課題と同じであると言え、依然として金属屑を含有する油性成分の処理に関する課題が未解決のままである。
【0008】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、従来の鉱油からなるクーラントと同程度の冷却効果を有し、かつ、廃棄処理を要しない、あるいは、使用済みのクーラントから金属屑を除去した後、水で希釈して下水に排水して廃棄することができ、生分解性を有するクーラント及びその供給設備を有する塑性加工又は研削又は切削又は研磨装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明であるクーラントは、金属を塑性加工又は研削又は切削又は研磨する際に加工部位に供給して冷却及び潤滑するためのクーラントであって、このクーラントは水溶性と、増粘性とを備えて摂食可能な多糖類又は糖タンパク質又はこれらの混合体を水に溶解又は分散させてなる水溶液であり、クーラントの常温における粘度は3-10[mPa・sec.]の範囲内であり、クーラントは加工部位にミスト化して供給され、使用済のクーラントの少なくとも一部は大気中に拡散させて廃棄可能であることを特徴とするものである。
上記構成の発明において、クーラントに含有される多糖類又は糖タンパク質又はこれらの混合体は、いずれも水に溶解又は分散して粘稠性を生じる高分子物質であり、このような多糖類又は糖タンパク質を構成する高分子物質は、水に溶解又は分散して粘度液体を形成させるという作用を有する。
また、この粘度液体は加工具又は被加工物を構成する金属表面に被膜を形成して摩擦を低減するという作用を有する。
【0010】
請求項2に記載の発明であるクーラントは、請求項1に記載のクーラントであって、クーラントは、水溶性のアルコールを含有することを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1記載のクーラントと同じ作用に加え、水溶性のアルコールを添加することで、請求項2記載のクーラント内の水と水溶性アルコールを反応させて、金属表面に優先的に吸着する脂肪酸等の極性物質を発生させるという作用を有する。
また、この極性物質は、金属表面に被膜を形成して摩擦を低減するという作用を有する。
なお、請求項2に記載のクーラントに添加する水溶性アルコールとしては、20℃の温度条件下(常温)において水に完全に溶解するものであればよく、より具体的には、メタノール,エタノール,ブタノールが添加可能である。
【0011】
請求項3に記載の発明であるクーラントは、請求項2に記載のクーラントであって、アルコールは、エタノールであることを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項2記載の発明と同じ作用を有する。
【0014】
請求項に記載の発明である塑性加工又は研削又は切削又は研磨装置は、請求項1乃至請求項のいずれか1項記載のクーラントを供給するためのクーラント供給設備を有することを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1乃至請求項に記載のそれぞれの発明の作用に加え、金属加工時に被加工物の作用点において摩擦による加工熱の発生を抑制すると同時に、金属加工時に加工具、すなわち、塑性加工刃又は研削刃又は切削刃又は砥石の磨耗を妨げるという作用を有する。
【0015】
請求項に記載の発明である塑性加工又は研削又は切削又は研磨方法は、請求項1乃至請求項のいずれか1項記載のクーラントを用いることを特徴とするものである。
上記構成の発明は請求項記載の発明を方法の発明として捉えたものであり、請求項に記載の発明と同じ作用を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1に記載のクーラントによれば、多糖類又は糖タンパク質又はこれらの混合体と水によりクーラントを構成することで粘性液体が形成され、この粘性液体が金属表面に被膜を形成することで摩擦が低減され、表層温度を低下させるという効果を有する。
また、従来の鉱油から成るクーラントと同程度の冷却効果を有する。
さらに、請求項1に記載のクーラントは、使用後大気中に拡散させて消失させることができるという効果を有する。
また、請求項1に記載のクーラント、環境汚染性が極めて低いので使用済みのクーラントから金属屑を除去した後、水で希釈して下水として排水できるという効果を有する。従って、廃棄処理にかかる手間とコストを大幅に軽減できるという効果を有する。この結果、環境への影響を低減できるという効果を有する。
さらに、特に請求項1に記載のクーラントの原料を、食品又は食品添加物として認められる増粘安定剤又は糊料であるため、請求項1に記載のクーラントを環境や人体に対して一層安全性の高いものにすることができるという効果を有する。
【0017】
本発明の請求項2に記載のクーラントは、請求項1記載の発明と同様の効果を有する。また、この効果に加え、水溶性のアルコールと水が反応して生成する極性物質が、金属表面に吸着して被膜を形成し、摩擦低減効果を発揮するため、請求項1記載のクーラントの冷却効果が促進される。
さらに、アルコールは水に比べて沸点が低く気化しやすいので、加工具と被加工具の接触部分において生じた摩擦熱がアルコールの気化熱として除去されることによっても、加工熱の発生が抑制されるという効果を有する。
よって、請求項2に記載のクーラントは、請求項1記載のクーラントと同等の冷却効果を発揮させるために必要な多糖類又は糖タンパク質又はこれらの混合体の量を少なくできるという効果を有する。
この結果、請求項2に記載のクーラントの原材料費を安価にできるという効果を有する。
【0018】
本発明の請求項3に記載のクーラントは、請求項2記載の発明と同様の効果に加え、クーラントに添加する水溶性のアルコールとして、人体に取り込まれた際に毒性を示さないエタノールを使用することで、環境や人体に対する安全性を一層高めることができるという効果を有する。
【0021】
本発明の請求項に記載の塑性加工又は研削又は切削又は研磨装置は、金属加工時に請求項1乃至請求項に記載のそれぞれのクーラントを供給する供給設備を備えることで、請求項1乃至請求項に記載のそれぞれのクーラントの効果に加え、加工熱の発生を抑制しながら金属を加工することができるという効果を有する。
加えて、粘度液体が加工具又は被加工物を構成する金属表面に被膜を形成するので、金属加工時に加工具である、塑性加工刃又は研削刃又は切削刃又は砥石が摩擦により磨耗するのを遅らせるという効果を有する。
また、摩擦による発熱で、加工具や被加工物が破損するのを防止するという効果を有する。
従って、請求項に記載の塑性加工又は研削又は切削又は研磨装置の耐久性を向上させることができるという効果を有する。
【0022】
本発明の請求項に記載の塑性加工又は研削又は切削又は研磨方法は、請求項記載の発明を方法の発明として捉えたものであり、請求項に記載の発明と同じ効果を有する。

【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
一般に、金属を塑性加工又は研削又は切削又は研磨加工する際に発生する加工熱の主な熱源は、加工具、すなわち、塑性加工刃又は研削刃又は切削刃又は砥石と、被加工物の接触による摩擦であり、加工時の摩擦係数を低減できれば加工具と被加工物の接触部分において発生する熱量を低減することができるといえる。
そして、加工時の摩擦係数を低減するには、加工具と被加工物の接触部分の潤滑が有効である。
また、潤滑物質による潤滑状態は概ね次のように分類されており、それぞれは、物体の表面に吸着した物質により被膜が形成されて摩擦を低減する境界潤滑、液体により相対運動する物体が完全に隔てられて摩擦が低減される流体潤滑、境界潤滑と流体潤滑の中間段階である混合潤滑である。
特に境界潤滑から混合潤滑においては、物質の表面に被膜を形成する物質の選択が重要であり、流体潤滑においては粘度の調整が潤滑状態を左右することが知られている。
【0024】
本発明の場合のような塑性加工,研削加工,切削加工,研磨加工はいずれも、金属表面に被膜が形成されて摩擦が低減される境界潤滑である。
従来、境界潤滑では、金属表面に被膜を形成させる物質の特性として油性が重要であるとされており、クーラントとしては油や、水と油の混合物であるエマルジョンが使用されてきた。また、特許文献1に係る「水溶性のクーラント」も脂肪酸を含有している。
しかしながら、従来のクーラントに含有される油性の有機化合物は、自然界において容易に分解できない場合が多く、また、焼却処分すると環境汚染性の高い物質が発生する可能性が高かった。
このため、実際に廃棄する際には複雑な処理工程を経ることで安全な物質に変換した上で廃棄する必要があり、このような有機化合物の廃棄作業は極めて煩雑な上、その処理にはコストもかかるという課題があった。
【0025】
その一方で従来、境界潤滑においては、従来金属表面近傍に形成される被膜の重要な特性として油性が挙げられてきたが、近年この重要な特性は「金属の表面分子引力の作用する領域で高められた粘性」に置き換えることが可能である旨の示唆があった。
そこで、発明者は鋭意研究の結果、極めて薄い厚さの粘度液体や、極めて薄い濃度の粘度液体が、境界潤滑における油性と同様の効果を有することを見出し、さらに、極めて薄い濃度の粘度液体を形成すると同時に摩擦面における冷却効果を発揮する物質として多糖類や糖タンパク質が有効であることを見出した。
【実施例1】
【0026】
まず、実施例1に係るクーラントについて説明する。
実施例1に係るクーラントは、水に溶解又は分散して粘稠性を生じる高分子物質の水溶液であり、より具体的には、水溶性と増粘性を有する多糖類又は糖タンパク質又はこれらの混合体を水に溶解又は分散させた水溶液であることを特徴とするものである。
そして、実施例1に係るクーラントにおいて、粘度液体を形成する物質としては、水に溶解又は分散させた際に粘度液体を形成する多糖類又は糖タンパク質又はこれらの混合体であればよい。
実施例1に係るクーラントに添加される多糖類としては、単糖一種類の重合体であるホモ多糖類(単純多糖)や、単糖2種類以上の重合体であるヘテロ多糖類(複合多糖)や、ヘテロ多糖類の中でも特に動物の結合組織や体液中に存在しアミノ酸を含有し、生体内でタンパク質と結合しているムコ多糖類が使用可能である。
より具体的には、ホモ多糖類では、デンプン、グリコーゲン、セルロース、イヌリン、マンナン等が、また、ヘテロ多糖類では、グルコマンナン、寒天等が、さらに、ヘテロ多糖類の中でも動物の結合組織や体液中に存在してアミノ酸を含有し、生体内ではタンパク質と結合しているムコ多糖類としては、ムコ多糖—タンパク質複合体である、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン-4-硫酸(コンドロイチン硫酸A)、コンドロイチン-6-硫酸(コンドロイチン硫酸C)、デルマタン硫酸(コンドロイチン硫酸B)、ケラト硫酸(ケラタン硫酸)、ヘパリン、水溶性キチンがある。さらに、上記以外の多糖類ではアルギン酸ナトリウム、フコイダン、ペクチン、カラギナン、水溶性キトサン(グルコサミン)がある。
なお、これらの多糖類は水に溶解又は分散させた後、加熱することで粘度液体を形成するものであってもよい。
また、実施例1に係るクーラントに添加される粘度液体化物質は、タンパク質を構成するアミノ酸に糖鎖が結合した糖タンパク質でもよく、より具体的には、動物の上皮細胞や植物、あるいは一部の菌類から分泌される粘液物質として知られる、ムチン、ムコプロテインでもよい。
【0027】
さらに、本実施例に係るクーラントにおいては、上記多糖類のうちの複数種類を、又は、上記糖タンパク質のうちの複数種類を、又は、上記多糖類と上記糖タンパク質を少なくとも1種類ずつをそれぞれ混合してなる混合体を水に溶解又は分散させて粘度液体を形成してもよい。
つまり、境界潤滑では金属表面に極めて薄い厚さの粘度液体から成る被膜が形成されることで摩擦が低減されるため、実施例1に係るクーラントにおいては、クーラントが粘度液体を形成するような物質を含有している必要がある。
よって、実施例1に係るクーラントにおいては、多糖類や糖タンパク質を複数種類混合した場合に、凝固したり、粘性がなくなる等の不具合を生じなければ、その組み合わせは自由に設定されてよい。
通常クーラントの冷却効果は、そのクーラントを使用した場合の動摩擦係数あるいは摩擦係数で示されることが知られており、動摩擦係数あるいは摩擦係数の値が小さい方が冷却効果が高いといえる。
特に本願明細書において冷却効果を有すると記載する場合は、金属からなる加工具と被加工物の作用点に水のみを供給した場合に測定される動摩擦係数(=0.3)よりも、実施例に係るクーラントを用いた場合の動摩擦係数が小さいことを意味しており、測定される動摩擦係数又は摩擦係数が0.1程度の場合には、従来の油やエマルジョンからなるクーラントと同程度の冷却効果を有するといえる。
従って、上述のような実施例1に係るクーラントによれば、金属加工時に粘度液体による被膜が金属表面上に形成されることで摩擦が低減され、この結果、加工熱の発生を抑制することができるという効果を有する。
つまり、加工具と被加工物の摩擦面における冷却効果を有するのである。
【0028】
また、実施例1に係るクーラントにおいては、上述のような多糖類又は糖タンパク質又はこれらの混合体を溶解又は分散させた水溶液の粘度が、3[mPa・sec.]以上であることが望ましい。
これは、実施例1に係るクーラントの粘度が3[mPa・sec.]よりも小さい場合には、金属表面上に粘度液体から成る被膜が良好に形成されず、十分な摩擦低減効果が発揮されないためである。
さらに、特に実施例1に係るクーラントの粘度を、3~10[mPa・sec.]の範囲内に設定した場合には、ミスト化した状態で実施例1に係るクーラントを供給対象に供給することができるという効果を有する。
これは、実施例1に係るクーラントの粘度が10[mPa・sec.]よりも大きい場合には、超音波を利用する等しても容易にミスト化できなくなるためである。
そして、実施例1にかかるクーラントをミスト化して供給対象に供給した場合、実施例1に係るクーラントは使用後、大気中に拡散して消失するので、使用済みのクーラントを回収して廃棄処理する手間とコストを省くことができるという効果を有する。
この結果、取扱いが容易でかつ廃棄する際に環境への負荷が極めて小さいクーラントを提供できるという効果を有する。
【0029】
特に、実施例1に係るクーラントに粘性を付与する物質として、通常食品に増粘安定剤として添加され、天然由来成分の多糖類、すなわち、澱粉や果実、藻類などから直接もしくは発酵により得られる多糖類である、アルギン酸ナトリウム、フコイダン、ペクチン、カラギーナン(カラギナン)、グアーガム(グァーガム)、キサンタンガム、タマリンドガムや、あるいは、デンプンやセルロースを試薬により処理して得られる多糖類である、カルボキシメチルセルロース、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等のようないわゆる水溶性食物繊維を用いた場合、これらの多糖類は食品としての安全性が認められていることから、先に述べたような摩擦部分の冷却効果に加え、万一使用済みのクーラントが大気中に拡散した場合でも環境汚染等の原因になり難く、環境や使用者にとって極めて安全性の高いクーラントを提供することができるという効果を有する。
さらに、粘度液体化物質である多糖類や糖タンパク質自体が金属表面に吸着することによっても被膜が形成されて摩擦の低減効果が発揮される。
よって、粘度液体化物質自体が金属表面への高い吸着性を有することがより望ましい。
なお、実施例1に係るクーラントにおいて粘度液体化物質が、カルボキシル基を有する酸性多糖類又は酸性糖タンパク質である場合には、それ自体が金属表面に優先的に吸着して被膜が形成され、さらに、酸性多糖類又は酸性糖タンパク質を含有する水溶液が粘度液体であることによっても金属表面に被膜が形成されて冷却効果が発揮されるため、実施例1に係るクーラントの冷却効果をいっそう促進することができる。
【0030】
また、実施例1にかかるクーラントに含有される多糖類又は糖タンパク質は、通常生物にとっての栄養源であったり、生体内において保湿等の機能を有するものであるため、極めて生分解されやすい。
従って、特に実施例1に係るクーラントを循環させて繰り返し利用する場合、使用済みのクーラントから金属屑を取り除いた後に、水で十分に希釈して下水に排水して処理することができるという効果を有する。
よって、従来の油性又はエマルジョンからなるクーラントを使用する場合に比べて、実施例1に係るクーラントは、廃棄にかかる手間やコストを大幅に削減することができるという効果を有する。
なお、実施例1に係るクーラントを循環して利用する場合、クーラント内において雑菌が繁殖してクーラントの品質が低下したり、微生物の代謝物による悪臭が発生するのを防止する目的で、実施例1に係るクーラントを一時的に収容する容器に紫外線照射設備等を設けるか、あるいは、実施例1に係るクーラントに環境汚染性の低い抗菌剤を添加しておくことが望ましい。
さらに、実施例1に係るクーラントを繰り返し利用する場合、クーラントの粘度は必ずしも3~10[mPa・sec.]の範囲内である必要はなく、金属表面上に被膜を形成するのに必要な粘度を有していればよい。
このため、クーラントを循環させて使用する場合、実施例1に係るクーラントの粘度は少なくとも3[mPa・sec.]以上であればよく、粘度の上限はクーラントの循環利用に差し支えなければ自由に設定されてよい。
【0031】
そして、上述のような実施例1に係るクーラントを供給するための供給設備を備える塑性加工又は研削又は切削又は研磨装置によれば、実施例1に係るクーラントが供給対象へと供給されることで、金属加工時の加工熱の発生を抑制できると同時に、その際に使用するクーラントの廃棄にかかる手間とコストを大幅に削減できるという効果を有する。
また、実施例1に係るクーラントを用いた塑性加工又は研削又は切削又は研磨方法においても、同様の効果を有する。
【0032】
次に、実施例2に係るクーラントについて説明する。
なお、実施例1に係るクーラントと同一構成部分についての詳細な説明については省略し、実施例1に係るクーラントと比較した際の相違点に重点をおいて説明する。
実施例2に係るクーラントは、実施例1に係るクーラントに水溶性のアルコールを添加したことを特徴とするものである。
境界潤滑では、アルコール等の石油系溶媒を極性溶剤(水等)に少量添加すると、-ROH(アルコール)と水が反応して、-ROOH(脂肪酸)等の極性物質が発生して、優先的に金属表面に吸着することが知られている。
このため、実施例2に係るクーラントが水溶性のアルコールを含有することで、実施例2に係るクーラント中に、水とアルコールが反応して成る極性物質が発生し、この極性分子が金属表面に吸着して被膜を形成することによっても摩擦の低減効果が発揮される。
また、水溶性のアルコールは、水よりも沸点が低く気化しやすい。このため、実施例2に係るクーラントに水溶性のアルコールを添加した場合、加工具と被加工物の接触部分において生じる熱が、アルコールの気化熱として奪われることで加工熱の発生が一層抑制されるという効果も有する。
すなわち、実施例2に係るクーラントは、水溶性のアルコールを含有することで、実施例1に係るクーラントと同等の冷却効果を発揮させるために必要な多糖類又は糖タンパク質又はこれらの複合体の量を少なくすることができるという効果を有する。
この結果、実施例2に係るクーラントを製造するのに必要な多糖類又は糖タンパク質又はこれらの複合体の量を少なくできるため、実施例2に係るクーラントを安価に提供できるという効果を有する。
【0033】
なお、実施例2に係るクーラントに添加可能な水溶性アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノールが挙げられるが、特にエタノールを用いた場合には、実施例2に係るクーラントが使用後大気中に拡散された場合でも、外部環境や人体に対する悪影響を最小限度にすることができるので、特に安全性の高いクーラントを提供できるという効果を有する。
これは、水溶性エタノールにおいてエタノールのみが人体において安全に生分解されるためである。
また、実施例2に係るクーラントに添加可能な水溶性アルコールはいずれも生分解性を有する、すなわち、微生物等により環境に無害な物質に分解されるため、実施例2に係るクーラントも実施例1に係るクーラントと同様に、金属屑を除去してから水で十分に希釈して下水に排水して処理できるという効果を有する。
さらに、実施例2に係るクーラントをミスト化して供給対象に供給する場合の最適な粘度は、実施例1に係るクーラントの場合と同じであり、この場合、実施例1に係るクーラントと同様の効果を有する。
よって、実施例2に係るクーラント供給設備を備える塑性加工又は研削又は切削又は研磨装置および、実施例2に係るクーラントを用いた塑性加工又は研削又は切削又は研磨方法はいずれも、上述の実施例2に係るクーラントの効果に加え実施例1に記載の装置又は方法と同様の効果を有する。
【0034】
続いて、本発明の実施例1及び実施例2に係るクーラントの冷却効果を実証する第1の試験結果について説明する。
【0035】
本願発明は、水に溶解あるいは分散させた際に粘度液体化させる物質として、多糖類又は糖タンパク質又はこれらの混合体を添加したことを特徴とするものであり、本試験においては、水に溶解あるいは分散させた際に粘度液体化させる物質の一例としてアルギン酸ナトリウムを、また、水溶性アルコールの一例としてエタノールを用いた。
【0036】
1)粘度の測定
まず、オストワルド粘度計で、アルギン酸ナトリウム水溶液及びエタノール水溶液の濃度を変化させながら、それぞれの水ミストの粘度を測定した。
本測定において粘度とは、基準となる水と被測定物の相対計測であり、上記のそれぞれの水ミストがオストワルド粘度計内を流下する時間を測定して、以下に示す数式1により算出したものである。
なお、測定条件は、気温25℃、基準となる水の粘度は機械学会,伝熱工学資料(1999)の記載から、0.8995[mPa・sec.]とした。
【0037】
【数1】
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【0038】
なお、上記数式1にいてη[Pa・sec.]は被測定物の粘度を、ηwater [Pa・sec.]は水の粘度を、ρ[kg/m3]は被測定物の密度を、ρwater [kg/m3]は水の密度を、t[sec.]は被測定物の流下時間を、twater[sec.]は水の流下時間を示している。
【0039】
図1は、アルギン酸ナトリウム水溶液及びエタノール水溶液の濃度と粘性の関係を示すグラフである。
図1に示すように、エタノール水溶液では、濃度を変化させた場合でも粘性はほとんど変化しなかったが、アルギン酸ナトリウム水溶液では、アルギン酸ナトリウムを微量添加するだけで著しい粘度の変化が生じた。
【0040】
2)動摩擦係数の測定
次に、摩擦磨耗試験機EFM-III-F(エー・アンド・デイ社製)を用いて水のみ、実施例1に係るクーラント(アルギン酸ナトリウム水溶液)、実施例2に係るクーラント(アルギン酸ナトリウム水溶液にエタノールを3.3重量%(以下w%と表記する。)添加したもの)をそれぞれミスト化して供給した場合の動摩擦係数の測定を行った。
なお、比較対象として乾燥状態(クーラントの供給を行わない状態)の動摩擦係数の測定も行った。
本試験はボールオンディスク式で行い、使用下ボールはSUJ-2で、ボール直径φ10mmのものを用いた。また、回転半径10mm、荷重2kgf、回転速度40rpm、ディスク材料SS400、ディスク表面を粒度G=♯500(500番)で研磨仕上げの設定で試験を行った。なお、一般に研磨工程で用いられる砥石の目の粗さは、砥粒の大きさの大小を示す粒度により表示される。また、この粒度は、砥粒をふるい分ける場合の、長さ25.4mm当たりの間にあるふるい目の数で示されることから、粒度を表わす番号(G)と砥粒の平均粒径[mm]は対応しており、番号(G)が大きくなるほど砥粒は小さくなる。
また、動摩擦係数は以下に示す数式2により算出されることが知られている。なお、以下の数式2において、μは動摩擦係数、F[N]は摩擦力の平均値、P[N]は荷重をそれぞれ示している。
【0041】
【数2】
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【0042】
以下の表1に、実施例1に係るクーラントの一例であるアルギン酸ナトリウム水溶液の粘度を変化させた場合の動摩擦係数を示す。また、図2は表1をグラフに示したものである。
【0043】
【表1】
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【0044】
上記表1及び図2に示すように、実施例1に係るクーラントを用いた場合、アルギン酸ナトリウム水溶液の粘度の上昇に伴って、動摩擦係数が低減する傾向が認められた。また、実施例1に係るクーラントの粘度を3[mPa・sec.]以上とした場合には、動摩擦係数の低減が緩やかになる傾向が認められた。
また、日本規格協会編,田中久一郎著,「摩擦のはなし」によれば、鋼-硬鋼間にクーラントとして鉱油を用いた場合の静摩擦係数(動摩擦係数とほぼ同値となる)が0.16である旨の記載がある。
よって、実施例1に係るクーラントの粘度を3[mPa・sec.]以上に調整した場合には、従来の鉱油と同程度の冷却効果を有すると言える。
【0045】
続いて、水のみ、実施例1に係るクーラント(アルギン酸ナトリウム水溶液)、実施例2に係るクーラント(アルギン酸ナトリウム水溶液にエタノールを3.3w%添加したもの)の濃度を変化させながら、それぞれをミスト化して供給した場合の動摩擦係数の測定を行った。また、比較対象として、乾燥させた状態での動摩擦係数についても測定した。
以下の表2に、実施例1及び実施例2に係るクーラントにおいて、アルギン酸ナトリウムの濃度を変化させた場合の動摩擦係数の測定結果を示した。また、図3は以下の表2をグラフに示したものである。
【0046】
【表2】
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【0047】
図3(a)は粘度液体化物質の濃度と動摩擦係数の関係を示すグラフであり、(b)は粘度液体化物質の濃度が特に0から0.2w%である場合の動摩擦係数との関係を示すグラフである。
表2及び図3(a)中の参考例1で示すように、乾燥状態における動摩擦係数は約0.7であった。
また、図3(a)中の参考例2で示すように、エタノールのみを供給した場合、濃度約4w%から8w%付近において動摩擦係数の極小値が存在していると考えられる。
さらに、図3には示さなかったが、参考例3のように水のみを供給した場合の動摩擦係数は約0.3であった。
また、表2及び図3(b)に示すように、実施例1に係るクーラントにおいて、粘度液体化物質(アルギン酸ナトリウム)の濃度を増加させた場合、濃度0.04w%から動摩擦係数が0.1に漸近しており、実施例1に係るクーラントの濃度を0.04w%以上とした場合に、従来の鉱油からなるクーラントと同程度の冷却効果を有すると言える。
さらに、3.3w%のエタノールを含有する実施例2にかかるクーラントでは、動摩擦係数の極小値は0.1程度であり、実施例1に係るクーラントを供給した場合と比較して動摩擦係数の大幅な低減は認められなかったものの、実施例1に係るクーラントに比べて、動摩擦係数の極小値が粘度液体化物質の濃度の低い側へシフトする傾向が認められた。
すなわち、粘度液体化物質が溶解又は分散した水溶液にアルコールを添加した場合、粘度液体化物質の濃度がより低い水溶液で冷却効果を最大にできると言える。
【0048】
3)被加工物内温度測定試験
第1の試験に係る被加工物内の温度測定試験は、図4に示すような被加工物内温度測定試験装置を用いて行なった。
図4(a)は、被加工物内温度測定試験に使用した装置の側面図であり、(b)はその砥石の正面図である。また、図5は被加工物内温度測定試験に使用した試験加工物の構造を示す概念図である。
図4(a)に示すように、本試験に使用した被加工物内温度測定試験装置1は主に、試験加工物4を固定するための構成と、この試験加工物4を研削する砥石2により構成されるものである。
より具体的には、載置台7上にスライド可能に設置された力量計5の上面側に万力6が固設され、この万力6により熱電対が配された試験加工物4が固定されたものである。
また、図4(a),(b)に示すように、被加工物4の上方には回転運動する円盤状の砥石2が設置され、この砥石2の両側面側には、砥石2を両側面側から挟むようにミスト状のクーラントを供給するためのクーラント供給ノズル3が設けられている。
さらに、図5(a),(b)に示すように本試験に用いた試験加工物4は、S45C材の上部部品9と下部部品10の間にK型熱電対8が挟持されたものであり、より具体的には、下部部品10の上端面にφ25μmのK型熱電対8が配線され、このK型熱電対8には、研削時の接触抵抗を低減する目的で銀ペーストが塗布されている。
そして、このK型熱電対8の上面側から上部部品9でK型熱電対8を挟み込んだ状態で合わせボルト11,11により締め付け固定されるものである。
【0049】
本試験は、上述のような被加工物内温度測定試験装置1を用い試験加工物4を実際に研削する形式で実施した。
より具体的には、水ミスト研削を、すなわちクーラント供給ノズル3から水のみを、又は、実施例1に係るクーラントを、又は、エタノール水溶液をそれぞれ供給しながら1パスによる下向き削りを試験加工物4に対して実施した。また、比較対象としてクーラント供給ノズル3から何も供給しない乾燥状態でも研削試験を実施した。
なお、上記試験における加工条件は、砥石2周速度V=1500[m/min]、試験加工物4の送り速度V=15[m/min]、切り込み量を20[μm]とし、クーラント等の水ミストの供給量は一律230[g/h]とした。
さらに、本試験では、試験加工物4内に配されるK型熱電対8の素線が研削表面に現れるまで研削繰り返すのであるが、1パス加工毎に十分な冷却時間をとり、深さをそれぞれ変更しながら各深さにおける温度測定を行った。
また、図4(a)にも示すように、クーラント供給ノズル3は、砥石2の中心から試験加工物4の研削面上に引いた垂線から30°位置ずれした位置に配置されており、砥石2の回転時、砥石2の気孔部は負圧となるので、試験加工物4の研削面に水ミスト又は実施例1に係るクーラントをスムースに供給することができた。
【0050】
図6(a),(b)はいずれも被加工物内温度測定試験における研削面表層温度を示すグラフであり、(c)は雰囲気ガス濃度を制御した状態で水のみを供給した場合の被加工物内温度測定試験における研削面表層温度の測定結果を示すグラフである。
なお、図6(a)において、乾燥状態で研削を行った場合の研削面表層温度の変化を白抜き記号で、水のみを供給して研削を行った場合の研削面表層温度の変化を黒く塗りつぶした記号で示した。
図6(a)のグラフにも示すように、上述の被加工物内温度測定試験装置1において乾燥状態のまま研削を行った場合の研削面表層温度は約350℃、水ミストのみを供給した場合の研削面表層温度は約300℃であった。
また、図6(b)において、実施例1に係るクーラントであるアルギン酸ナトリウム水溶液(0.04w%)を供給しながら研削を行った場合を黒く塗りつぶした三角記号で、また、エタノール水溶液(3.3w%)を供給した場合を黒く塗りつぶした四角記号でそれぞれ示した。
図6(b)のグラフに示すように、上述の被加工物内温度測定試験装置1においてエタノール水溶液を供給しながら研削を行った場合の研削面表層温度は約275℃、アルギン酸ナトリウム水溶液を供給した場合は約220℃であった。
なお、比較対象として雰囲気ガス濃度を制御した状態で水のみを供給しながら研削を行った場合の研削面表層温度は、図6(c)に示すように約240℃であった。
他方、先の動摩擦係数の測定結果より、各条件における動摩擦係数はそれぞれ、乾燥状態では約0.7、水のみを供給した場合は約0.3、実施例1に係るクーラントであるアルギン酸ナトリウム0.04w%水溶液を供給した場合は約0.15であった。
従って、動摩擦係数が大きいほど研削加工時の研削面表層温度が高いと言える。
よって、実施例1及び実施例2に係るクーラントは、乾燥状態で研削作業を行った場合や、水のみを供給しながら研削作業を行った場合、さらには、雰囲気ガス濃度を制御した状態で水のみを供給しながら研削を行った場合に比べ研削面表層温度の上昇を抑制する効果を有すると言える。
また、実施例1及び実施例2に係るクーラントは、従来研削作業時にクーラントとして用いられる鉱油と同程度の冷却効果を有すると言える。
【0051】
さらに、本発明の実施例1に係るクーラントの冷却効果を実証する第2の試験結果について説明する。
【0052】
本願発明は、水に溶解あるいは分散させた際に粘度液体化させる物質として、多糖類又は糖タンパク質又はこれらの混合体を添加したことを特徴とするものであり、本試験においては、水に溶解あるいは分散させた際に粘度液体化させる物質の一例として、アルギン酸ナトリウム水溶液、ペクチン水溶液、ムチン水溶液を用いた。
【0053】
ここで、第2の試験に用いたアルギン酸ナトリウム、ペクチン、ムチンについて図7を参照しながら詳細に説明する。
図7(a)は第2の試験に用いたアルギン酸ナトリウム分子の推定構造式であり、(b)はペクチン分子の推定構造式である。
図7(a)に示すように、アルギン酸ナトリウム分子は、その構造にカルボキシル基を有することで金属表面に吸着し、D-マンヌロン酸ナトリウムとL-グルロン酸ナトリウムから成る長鎖成分が、油性成分における炭化水素基と同様の作用を奏することで、金属表面に被膜が形成されると考えられる。本試験では、このようなアルギン酸ナトリウムを用いた水溶液を試料Aとして供試した。
また、図7(b)に示すように、ペクチン分子は、D-ガラクツロン酸がグリコシド結合した線状の高分子であり、エステル基を有することで、金属表面に吸着し、D-ガラクツロン酸から成る長鎖成分が、油性成分における炭化水素基と同様の作用を奏することで、金属表面に被膜が形成されると考えられる。本試験では、このようなペクチンを用いた水溶液を試料Bとして供試した。
さらに、ムチンはアポムチンと呼ばれるコアタンパクが、無数の糖鎖によって修飾されてできた巨大分子の総称である。そして、コアタンパクの主要領域の大半は、セリン又はトレオニンからなる10~80残基のペプチドの繰り返し構造であり、このセリンやトレオニンはいずれも水酸基を構成している。また、糖鎖は、ムチンの分子量の50%以上を占めており、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、フコース、シアル酸などから構成されている。このため、ムチンはコアタンパクが極性基として作用することで金属表面に吸着し、糖鎖が油性成分における炭化水素基と同様の作用を奏することで、金属表面に被膜が形成されると考えられる。本試験では、このようなムチンを用いた水溶液を試料Cとして供試した。
【0054】
1)粘度の測定
まず、オストワルド粘度計で、試料A(アルギン酸ナトリウム水溶液)、試料B(ペクチン水溶液)、試料C(ムチン水溶液)の濃度を変化させながら、それぞれの試料A~Cの水ミストの粘度を測定した。
本測定において粘度とは、基準となる水と被測定物の相対計測であり、試料A~Cの水ミストがオストワルド粘度計内を流下する時間を測定して、先に述べた数式1により算出したものである。
なお、測定条件は、先に述べた第1の試験に係る粘度の測定と同様にした。
【0055】
図8は実施例1に係るクーラントである試料A~Cの濃度と粘性の関係を示すグラフである。
図8に示すように、試料A~Cはいずれもその重量濃度(w%)が上昇するにつれて粘度が上昇する傾向が認められた。
また、増粘材の添加量の上昇に伴う、水溶液の増粘効果は、アルギン酸ナトリウム水溶液、ペクチン水溶液、ムチン水溶液の順で高かった。
【0056】
2)動摩擦係数の測定
次に、摩擦磨耗試験機EFM-III-F(エー・アンド・デイ社製)を用いて試料A~Cをそれぞれミスト化して供給した場合の動摩擦係数の測定を行った。
なお、本試験における動摩擦係数の測定条件等は先に述べた第1の試験と同様にした。
以下の表3に、実施例1に係るクーラントである試料A~Cの粘度を変化させた場合の動摩擦係数を示す。また、図9は表3をグラフに示したものである。
【0057】
【表3】
JP0005392740B2_000006t.gif

【0058】
上記表3及び図9に示すように、実施例1に係るクーラントである試料A~Cを用いた場合、試料A~Cの粘度の上昇に伴って動摩擦係数が低減する傾向が認められ、試料Aでは動摩擦係数が0.1程度に、試料B,Cではともに動摩擦係数が0.17程度に漸近した。
そして、先にも述べたが日本規格協会編,田中久一郎著,「摩擦のはなし」によれば、鋼-硬鋼間にクーラントとして鉱油を用いた場合の静摩擦係数(動摩擦係数とほぼ同値となる)が0.16である旨の記載があることから、試料Aでは重量濃度が0.04w%以上の場合に、試料Bでは重量濃度が概ね1w%以上の場合に、試料Cでは重量濃度が概ね2w%以上の場合に、従来の鉱油と同程度の冷却効果を有するといえる。
また、試料Aにおいては、濃度が0.04w%より小さい場合でも従来の鉱油と同程度の冷却効果を有する可能性があるが、この度の試験では0.04w%よりも低い濃度に試料Aを正確に調整することが困難であったため、その下限値を明確にすることができなかったが、アルギン酸ナトリウムはその添加量が微量であった場合でも高い摩擦低減効果を有するといえる。
【0059】
3)被加工物内温度測定試験
第2の試験に係る被加工物内の温度測定試験を、図4に示すような被加工物内温度測定試験装置を用いて行なった。
より具体的には、実施例1に係るクーラントである試料A~Cを供給しながら1パスによる下向き削りを図4に示す試験加工物4に対して実施した。また、比較対照としてクーラント供給ノズル3から何も供給しない乾燥状態でも研削試験を実施した。
なお、試験条件は、第1の試験に係る被加工物内の温度測定試験と同様にした。
【0060】
図10は第2の試験に係る被加工物内温度測定試験における研削面表層温度を示すグラフである。
なお、図10において、試料A,B,Cを試験加工物4に供給した際の温度変化をそれぞれ、ひし形,正方形,三角形の記号で示した、また、乾燥状態で研削を行った際の温度変化を円形の記号で示した。
図10からも明らかなように、試料A~Cを供給した場合、研削面表層温度はいずれも乾燥状態よりも低くなっており、実施例1に係るクーラントとしてアルギン酸ナトリウム水溶液、ペクチン水溶液、ムチン水溶液を用いた場合、いずれも摩擦を低減する効果を有しているといえる。
通常、研削加工における潤滑は境界潤滑であり、摩擦の低減効果は金属表面に被膜を形成する物質に左右されると考えられているが、図10を参照すると、試料A~Cの温度曲線の形状がほぼ一致しているので、研削加工においても流体潤滑と同様に、クーラントの粘度を制御することで摩擦制御ができると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように本発明は、粘度液体化物質として多糖類又は糖タンパク質又はこれらの複合体を含有したクーラントに関するものであり、塑性加工又は研削又は切削又は研磨の分野及び、境界潤滑の分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】アルギン酸ナトリウム水溶液及びエタノール水溶液の濃度と粘性の関係を示すグラフである。
【図2】実施例1に係るクーラントの粘度と動摩擦係数の関係を示すグラフである。
【図3】(a)は粘度液体化物質の濃度と動摩擦係数の関係を示すグラフであり、(b)は粘度液体化物質の濃度が特に0から0.2w%である場合の動摩擦係数との関係を示すグラフである。
【図4】(a)は、被加工物内温度測定試験に使用した装置の側面図であり、(b)はその砥石の正面図である。
【図5】(a),(b)はいずれも被加工物内温度測定試験に使用した試験加工物の構造を示す概念図である。
【図6】(a),(b)はいずれも被加工物内温度測定試験における研削面表層温度を示すグラフであり、(c)は雰囲気ガス濃度を制御した状態で水のみを供給した場合の被加工物内温度測定試験における研削面表層温度の測定結果を示すグラフである。
【図7】(a)は第2の試験に用いたアルギン酸ナトリウム分子の推定構造式であり、(b)はペクチン分子の推定構造式である。
【図8】実施例1に係るクーラントである試料A~Cの濃度と粘性の関係を示すグラフである。
【図9】実施例1に係るクーラントである試料A~Cの粘度と動摩擦係数の関係を示すグラフである。
【図10】第2の試験に係る被加工物内温度測定試験における研削面表層温度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1…被加工物内温度測定試験装置 2…砥石 3…クーラント供給ノズル 4…試験加工物 5…力量計 6…万力 7…載置台 8…K型熱電対 9…上部部品 10…下部部品 11…合わせボルト
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9