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明細書 :エステル結合を含む非天然タンパク質の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5419220号 (P5419220)
登録日 平成25年11月29日(2013.11.29)
発行日 平成26年2月19日(2014.2.19)
発明の名称または考案の名称 エステル結合を含む非天然タンパク質の製造方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12P 21/02 C
C12N 1/21
C12N 5/00 102
請求項の数または発明の数 8
全頁数 16
出願番号 特願2009-542600 (P2009-542600)
出願日 平成20年11月21日(2008.11.21)
国際出願番号 PCT/JP2008/071221
国際公開番号 WO2009/066761
国際公開日 平成21年5月28日(2009.5.28)
優先権出願番号 2007302452
優先日 平成19年11月22日(2007.11.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年10月28日(2011.10.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】横山 茂之
【氏名】坂本 健作
【氏名】柳沢 達男
【氏名】向井 崇人
【氏名】小林 隆嗣
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
【識別番号】100080816、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 朝道
審査官 【審査官】荒木 英則
参考文献・文献 国際公開第2007/015527(WO,A1)
HARTMAN, M.C.T., et al.,PLoS ONE,2007年10月,2(10),e972,URL,http://www.plosone.org/article/fetchObject.action?uri=info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0000972&representation=PDF
KAVRAN, J.M., et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2007年 7月,104(27),pp.11268-11273
WANG, L., et al.,Chem. Commun.,2002年,pp.1-11
KOH, J.T., et al.,Biochemistry,1997年,36(38),pp.11314-11322
調査した分野 C12N 1/00- 1/21
C12N 5/00- 5/10
C12N 15/00-15/09
C12P 21/00-21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq/PDB
特許請求の範囲 【請求項1】
ポリペプチド主鎖に少なくとも1つのエステル結合を含む非天然タンパク質の製造方法であって、
(a)α-ヒドロキシ酸を活性化しうるアミノアシル-tRNA合成酵素と、
(b)前記アミノアシル-tRNA合成酵素の存在下において前記α-ヒドロキシ酸と結合可能なサプレッサーtRNAと、
(c)所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質をコードする遺伝子と、
を前記α-ヒドロキシ酸の存在下に細胞内又は細胞抽出液内で発現させることを特徴とし、
前記アミノアシル-tRNA合成酵素が、ピロリジル-tRNA合成酵素遺伝子を持つ古細菌又は細菌由来のピロリジル-tRNA合成酵素又はその変異体であり、
前記変異体は、野生型ピロリジル-tRNA合成酵素のC末端側ドメインにおけるクラス-IIaaRSに特徴的な7個のアンチパラレルβ-シートを構成するアミノ酸配列から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置換される変異のみを持つ、
非天然タンパク質の製造方法。
【請求項2】
前記古細菌が、メタノサルシナ・マゼイ(Methanosarcina mazei)、メタノサルシナ・バルケリ(Methanosarcina barkeri)、又は、メタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)、である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノアシル-tRNA合成酵素が、メタノサルシナ・マゼイ(Methanosarcina mazei)由来のピロリジル-tRNA合成酵素又はその変異体であり、
前記変異体は、配列番号2に示した野生型ピロリジル-tRNA合成酵素のアミノ酸配列において302位のアラニン、306位のチロシン、309位のロイシン、346位のアスパラギン、348位のシステイン、384位のチロシン、及び417位のトリプトファンから選択される少なくとも1つのアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置換される変異のみを持つ、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アミノ酸置換が、
302位のアラニンからフェニルアラニンへ、
306位のチロシンからアラニンへ、
309位のロイシンからアラニンへ、
346位のアスパラギンからセリンへ、
348位のシステインからバリン又はイソロイシンへ、及び
384位のチロシンからフェニルアラニンへ
の少なくとも1つのアミノ酸置換を含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記α-ヒドロキシ酸が、N置換6-アミノ-2-ヒドロキシヘキサン酸、又は置換基を有していてもよい3-フェニル乳酸である請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記N置換6-アミノ-2-ヒドロキシヘキサン酸におけるアミノ基の置換基が、t-ブトキシカルボニル基、又は置換基を有していてもよいフェニル基、ベンジル基、若しくはベンジルオキシカルボニル基である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
大腸菌細胞内で発現させることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
哺乳動物細胞内で発現させることを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
[関連出願の記載]
本発明は、日本国特許出願:特願2007-302452号(2007年11月22日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
本発明は、エステル結合を含む非天然タンパク質の製造方法に関し、より詳細には、アミノアシル-tRNA合成酵素とリボソームにおける翻訳系とを用いて、部位特異的にα-ヒドロキシ酸をタンパク質へ導入する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のタンパク質翻訳系に関する技術開発の進展に基づき、非天然アミノ酸を組み込んだ種々のペプチドやタンパク質の合成が可能となっている。これらの非天然構造物は、新規な生理活性物質の開発や工学的な高性能ナノデバイスを作り出す上で重要な技術基盤となる。しかし、細胞内の翻訳系に適合するような非天然の基礎単位が少ないことが、多様な非天然ペプチドや非天然タンパク質を合成する上での一つの障害となっている。
【0003】
タンパク質に新たな機能を付加する上で、ポリペプチド側鎖の構造のみならず、主鎖の構造が重要な役割を果たすことも指摘されている。例えば、膜タンパク質の膜貫通ドメインにおける1つのアミド結合をエステル結合に置換すると、主鎖のペプチド結合に由来する水素結合が破壊されて、当該タンパク質の膜への透過性や受容体活性に大きな影響を与えることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。このような非天然タンパク質を合成するために、部位特異的にポリペプチド主鎖のアミド結合をエステル結合へ置換するいくつかの方法がある。
【0004】
その第一は、試験管内もしくはマイクロインジェクション可能な細胞において、α-ヒドロキシ酸を遺伝暗号に基づいてポリペプチド中に導入する方法である(例えば、非特許文献2及び3参照)。α-ヒドロキシ酸を、酵素的反応ではなく有機化学的反応によって非センスコドン(アンバーコドン、4文字コドンなど)に対応するtRNAに結合させ、試験管内翻訳系に導入する。それによって、α-ヒドロキシ酸が非センスコドン特異的にリボソームでの翻訳反応でポリペプチドへと導入される。しかし、この方法ではα-ヒドロキシ酸を結合させたtRNAが一度反応で使用されると再利用されることはない。従って、合成するポリペプチドの分子数以上のα-ヒドロキシ酸を結合させたtRNA(20~40μM)を有機化学的反応で合成し、試験管内に加えなければならない。その有機化学的な操作が非常に煩雑でありコストもかかる。また、このような系で合成されるα-ヒドロキシ酸を含むポリペプチドの収量は非常に少ない。
【0005】
第二に、試験管内において,リボザイムを用いてα-ヒドロキシ酸を遺伝暗号に基づいてポリペプチド中に導入する方法がある(例えば、非特許文献4参照)。α-ヒドロキシ酸をリボザイムによる酵素的反応によって、非センスコドン(アンバーコドン、4文字コドンなど)に対応するtRNAに結合させ試験管内翻訳系に導入する。それによってα-ヒドロキシ酸が非センスコドン特異的にリボソームでの翻訳反応でポリペプチドへと導入される。しかし、この方法でも、α-ヒドロキシ酸を結合させたtRNAが一度反応で使用されると再利用されることはない。従って、操作の煩雑さ及び合成収量の点に関し、上記と同様の問題がある。
【0006】
第三に、アミノアシル-tRNA合成酵素(aaRS)とtRNAを用いた生細胞中での非天然型アミノ酸の導入技術が挙げられる。これは、もともと非天然型アミノ酸を認識するか、もしくは認識するように人為的に改変した外来のaaRSと、これによって認識され、かつ非センスコドンを認識するサプレッサーtRNAの遺伝子を大腸菌などの生細胞に導入し発現させる。それにより、酵素的に細胞中で非天然型アミノ酸がサプレッサーtRNAに結合され、リボソーム上の翻訳反応により部位特異的に非天然型アミノ酸がポリペプチド(タンパク質)へと導入される。aaRSとtRNAの組み合わせとして、大腸菌内では古細菌型チロシル-tRNA合成酵素(TyrRS)とアンバーサプレッサーtRNATyr変異体、リジル-tRNA合成酵素と4文字コドンに対応するtRNA、ピロリジル-tRNA合成酵素(PylRS)とtRNAPyl(例えば、特許文献1参照)が、真核生物では細菌型TyrRSとアンバーサプレッサーtRNATyr変異体(例えば、非特許文献5参照)、ロイシル-tRNA合成酵素とアンバーサプレッサーtRNALeu変異体、PylRSとtRNAPylが用いられている。しかし、いずれの酵素についてもaaRSのもつα-アミノ酸に対する特異性のため、人為的改変によって側鎖の異なるα-アミノ酸の導入には成功しても、これまでα-ヒドロキシ酸の導入に成功した例はない。また、そのように改変することは実際に困難であると考えられている。
【0007】
第四に、大腸菌メチオニル-tRNA合成酵素を用いて、対応するtRNAに酵素的にメチオニンに対応するα-ヒドロキシ酸を結合させ特殊な試験管内翻訳系でα-ヒドロキシ酸をタンパク質に導入した例が報告されている(非特許文献6参照)。この方法では、tRNAは試験管内翻訳系の反応溶液中で何度もα-ヒドロキシ酸を酵素的に結合され、リボソームで用いられるというサイクルを経るため効率はよい。しかし、翻訳系そのものが特殊なアミノアシル-tRNA合成酵素とtRNAの組成をもつものでなければならず、また全てのメチオニンコドンにα-ヒドロキシ酸が導入されるという問題がある。さらに、生細胞では使用することができない。
【0008】

【特許文献1】特開2007-037445号公報
【非特許文献1】England PM, Zhang Y, Dougherty DA, Lester HA. “Backbone mutations in transmembrane domains of a ligand-gated ion channel: implications for the mechanism of gating”, Cell 96, 89-98 (1999).
【非特許文献2】Koh JT, Cornish VW, Schultz PG. “An experimental approach to evaluating the role of backbone interactions in proteins using unnatural amino acid mutagenesis”, Biochemistry 36, 11314-11322 (1997)
【非特許文献3】Chapman E, Thorson JS, Schultz PG. “Mutational analysis of backbone hydrogen bonds in staphylococcal nuclease”, J. Am. Chem. Soc. 119, 7151-7152 (1997).
【非特許文献4】Murakami H, Ohta A, Ashigai H, Suga H. “A highly flexible tRNA acylation method for non-natural polypeptide synthesis”, Nat. Methods 3, 357-359 (2006).
【非特許文献5】Wang L, Brock A, Herberich B, Schultz PG. “Expanding the genetic code of Escherichia coli”, Science 292, 498-500 (2001).
【非特許文献6】Hartman MC, Josephson K, Lin CW, Szostak JW. “An expanded set of amino Acid analogs for the ribosomal translation of unnatural peptides”, PLoS ONE 2, e972 (2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の特許文献1及び非特許文献1~6の全開示内容は、本書に引用をもって繰り込み記載されているものとする。以下に本発明による関連技術の分析を与える。
上述したように、生体内での翻訳反応系ではaaRSの基質特異性の観点から、連結させることのできる基礎単位はアミノ酸又はその誘導体のみであった。しかし、リボソームにおける生体内翻訳系を用いて、タンパク質を構成する主鎖のペプチド結合を効率的にエステル結合に置換することができれば、多様な非天然タンパク質を合成する上で有用である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、aaRSの構造と機能を研究する中で、一部の古細菌及び細菌のもつアミノアシル-tRNA合成酵素であるピロリジル-tRNA合成酵素(PylRS)が、大腸菌や哺乳動物細胞内においてα-ヒドロキシ酸を認識し、これをmRNAの終止コドンに特異的に導入しうることを見出した。そして、このような反応系を用いて、ポリペプチド主鎖の所望の位置にエステル結合を含む非天然タンパク質を生細胞内で酵素的に合成することに初めて成功した。
【0011】
すなわち、本発明にかかる非天然タンパク質の製造方法は、
(a)α-ヒドロキシ酸を活性化しうるアミノアシル-tRNA合成酵素と、
(b)前記アミノアシル-tRNA合成酵素の存在下において前記α-ヒドロキシ酸と結合可能なサプレッサーtRNAと、
(c)所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質をコードする遺伝子と、
を前記α-ヒドロキシ酸の存在下に細胞内又は細胞抽出液内で発現させることを特徴とする。
【0012】
前記アミノアシル-tRNA合成酵素は、古細菌由来のピロリジル-tRNA合成酵素(PylRS)又はその変異体であることが好ましい。さらに、前記変異体ピロリジル-tRNA合成酵素が、配列番号2に示した野生型ピロリジル-tRNA合成酵素のアミノ酸配列において302位のアラニン、306位のチロシン、309位のロイシン、346位のアスパラギン、348位のシステイン、384位のチロシン、及び417位のトリプトファンから選択される少なくとも1つのアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置換されることが好ましい。
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、前記変異体ピロリジル-tRNA合成酵素のアミノ酸置換は、302位のアラニンからフェニルアラニンへ、306位のチロシンからアラニンへ、309位のロイシンからアラニンへ、346位のアスパラギンからセリンへ、348位のシステインからバリン又はイソロイシンへ、及び384位のチロシンからフェニルアラニンへの少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。1つの実施形態において、本発明にかかる変異体酵素は、PylRS(Y384F)、PylRS(Y306A)、PylRS(L309A,C348V)、及びPylRS(A302F、Y306A、N346S、C348I、Y384F)である。
【0014】
他の好ましい実施形態において、前記α-ヒドロキシ酸は、N置換6-アミノ-2-ヒドロキシヘキサン酸、又は置換基を有していてもよい3-フェニル乳酸である。前記N置換6-アミノ-2-ヒドロキシヘキサン酸におけるアミノ基の置換基が、t-ブトキシカルボニル基、又は置換基を有していてもよいフェニル基、ベンジル基、若しくはベンジルオキシカルボニル基であることがさらに好ましい。1つの実施形態において、本発明にかかるα-ヒドロキシ酸は、6-アミノ-N-Boc-2-ヒドロキシヘキサン酸、6-アミノ-N-ベンジルオキシカルボニル-2-ヒドロキシヘキサン酸、3-フェニル-乳酸である。
【発明の効果】
【0015】
α-ヒドロキシ酸はポリペプチド内に導入されるときに、通常のアミド結合とは異なるエステル結合で結合する。エステル結合はアミド結合に比べ、酸やアルカリによって容易に切断することができる。そのため、タンパク質の所望の位置で、pH依存的に切断されるタグの調製等に応用することができる。またタンパク質の立体構造をアミド結合では達成できない新しい構造へと改変することが可能である。遺伝情報に基づいてエステル結合を導入することができるため、遺伝的スクリーニング法により、特定の活性をもつエステル結合導入ポリペプチドを選択することができる。そのようなポリペプチドの中には、これまでのアミノ酸のみのポリマーにはなかった新しい有用な機能を持つものがあると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】野生型PylRSによって認識される基質アミノ酸又はα-ヒドロキシ酸の構造を示す。
【図2】実施例1で合成されたタンパク質のアルカリ加水分解をSDS-PAGEで分析した結果を示す。
【図3】Boc-Lys-HAを109位に含むGSTのアルカリ加水分解前(上)と加水分解後(下)のMALDI-TOFによる質量スペクトルである。
【図4】実施例2で合成されたタンパク質のアルカリ加水分解をSDS-PAGEで分析した結果を示す。なお、HA+/-はヒドロキシ酸添加の有無を、NH3+/-はアンモニア処理の有無を示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[アミノアシル-tRNA合成酵素(aaRS)]
本発明の方法に用いることができるaaRSは、α-ヒドロキシ酸を活性化することができ、かつサプレッサーtRNAを認識してこれに前記α-ヒドロキシ酸を結合させることができるaaRSである。このようなaaRSであれば天然に存在するか、又は変異体酵素であるかは限定されないが、好ましくは、古細菌、特に、メタン生成古細菌から取得しうるピロリジル-tRNA合成酵素(PylRS)である。本発明者らは、野生型PylRS若しくはアミノ酸の側鎖部分を認識するポケット領域の残基を改変したPylRSが、それぞれの認識可能なα-アミノ酸だけではなく、それらと同一の側鎖をもつα-ヒドロキシ酸を認識することを発見した。
【0018】
野生型PylRSとしては、例えば、メタン生成古細菌であるメタノサルシナ・マゼイ(Methanosarcina mazei)、メタノサルシナ・バルケリ(Methanosarcina barkeri)、及びメタノサルシナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)等から取得することできるがこれらに限定されない。これらの古細菌を含む多くの細菌ゲノム塩基配列及びこれに基づくアミノ酸配列は公知であり、例えばGenBank等の公共データベースから塩基配列やアミノ酸配列の相同性検索を行って、他の相同なPylRSを取得することも可能である。典型的な例として、メタノサルシナ・マゼイ由来のPylRSは、アクセッションNo.AAM31141として、メタノサルシナ・バルケリ由来のPylRSは、アクセッションNo.AAL40867として、及びメタノサルシナ・アセチボランス由来のPylRSは、アクセッションNo.AAM03608として登録されている。特に好ましくは、上記メタノサルシナ・マゼイ由来のPylRSであり、その遺伝子の塩基配列を配列番号1に、タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示した。これらメタノサルシナ属のPylRS相同体の配列はよく保存されており、例えば、アミノ酸配列の相同性は、凡そ70%以上である。これらの野生型PylRSは、基質であるピロリジン側鎖を認識するが、その基質結合部位に変異を導入することによって、所望の側鎖構造を認識する変異体PylRSが作成できると考えられる。
【0019】
[変異体aaRSの作製]
本発明にかかる変異体aaRSは、所望のα-ヒドロキシ酸を認識できるようにその基質結合部位を改変することにより作製することができる。種々のaaRSの立体構造がすでに明らかにされているが、中でも古細菌由来のPylRSを用いることが好ましい。メタノサルシナ・マゼイ由来のPylRSの触媒活性ドメインの結晶化及びX線構造解析方法については、すでに本発明者らにより報告されている(Yanagisawa, T. et al., Acta Cryst. (2006) F62, 1031-1033)。また、PylRSの立体構造に基づいて作製された種々の変異体酵素についても本出願人により特願2007-243574号として2007年9月20日にすでに出願されている。それらの内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
PylRSのアミノ酸基質認識はリジンのεアミノ基に結合するカルボニル、及びその先に付加された疎水性官能基の存在が重要である。疎水性官能基が、ピロール環のようなある程度の大きさと嵩高さを持っていれば、野生型PylRSはそのリジン誘導体を活性化することができる。しかし野生型PylRSが活性化できるリジン誘導体の大きさには限界があり、例えばNε-ベンジルオキシカルボニル-リジン(Z-Lys)のように大きな官能基を持つリジン誘導体は効率的に認識することができない。
【0021】
そこで、様々な側鎖構造を有するα-ヒドロキシ酸を認識するために、PylRSの基質結合部位に変異を導入して所望の変異体酵素を取得することができる。メタノサルシナ・マゼイのPylRSは454個のアミノ酸残基を有し、主に2つのドメインからなる。約250アミノ酸残基のC末端側ドメインは、クラス-IIaaRSに特徴的な7個のアンチパラレルβ-シートを有し、その表面にピロリジン分子を結合する。ピロリジンの嵩高い4-メチル-ピロリン環は、配列番号2に示すアミノ酸配列のAla-302、Leu-305、Tyr-306、Leu-309、Cys-348、Val-401、Leu-407、Ile-413及びTrp-417を含む主として疎水性の残基によって形成されるトンネルに収容されている。従って、これらのアミノ酸残基の何れか若しくはその複数を別のアミノ酸に置換することによって、基質特異性の異なる種々の変異体PylRSを作製することができる。
【0022】
本発明者らはすでに野生型PylRSの384位のチロシンをフェニルアラニンに置換した変異体PylRS(Y384F)がBoc-Lysに対する活性が向上し、306位のチロシンをアラニンに置換した変異体PylRS(Y306A)がZ-Lys誘導体に対する活性が向上することを見出している。また、309位のロイシンをアラニンに、348位のシステインをバリンに置換した二重変異体PylRS(L309A、C348V)はZ-Lysに対する活性が向上する。さらに、302位のアラニンをフェニルアラニンへ、306位のチロシンをアラニンへ、346位アスパラギンをセリンへ、348位のシステインをイソロイシンへ、及び384位のチロシンをフェニルアラニンへ置換した五重変異体PylRS(A302F、Y306A、N346S、C348I、Y384F)が、基質としてフェニルアラニンを認識することも見出した。従って、これらの変異体PylRSを用いて、対応するα-ヒドロキシ酸を導入することができると考えられる。
【0023】
このような変異体を作製する方法としては、当業者に公知の種々の方法を用いることができ、例えば、目的のアミノ酸の位置をコードする塩基配列を改変すべきアミノ酸をコードする塩基配列に置換したプライマーを用いて、改変すべきアミノ酸をコードする塩基配列に置換したDNAをPCRにより増幅させて全長の変異体PylRSをコードするDNAを取得し、これを大腸菌等の宿主細胞を用いて発現させることができる。あるいは、Kunkel法又はギャップ二重鎖(Gapped duplex)法等の公知の部位特異的突然変異導入方法によって行うことができ、これらの手法を利用した変異導入用キット(例えばMutan-KやMutan-G(TAKARA)等)を利用することができる。
【0024】
[α-ヒドロキシ酸]
本発明に用いられるα-ヒドロキシ酸としては、上述したaaRSによって認識されるものであれば特に限定されないが、好ましくは、野生型PylRS及び変異体PylRSによって認識されるα-ヒドロキシ酸である。野生型PylRSは、図1に示すように、ピロリジン(Pyl)の側鎖の構造と良く似たNε-tert-ブトキシカルボニル-リジン(Boc-Lys)や、これに対応するα-ヒドロキシ酸である6-アミノ-N-Boc-2-ヒドロキシヘキサン酸(Boc-Lys-HA)を認識することができる。この他、野生型PylRSは、アリルオキシカルボニル-リジン(Aloc-Lys)、Nε-アセチル-L-リジン(Ac-Lys)、Nε-ニコチニル-L-リジン(Nic-Lys)、Nε-ベンジルオキシカルボニル-L-リジン(Z-Lys)及び蛍光アミノ酸であるNε-(N-メチル-アントラニロイル)-L-リジン(Nma-Lys)等のNε-修飾リジン誘導体でtRNAPylをエステル化することが分かっており、これらに対応するα-ヒドロキシ酸を用いることができる。
【0025】
本発明の好ましい態様において用いることのできるα-ヒドロキシ酸は、N置換6-アミノ-2-ヒドロキシヘキサン酸、又は3置換乳酸である。前記N置換6-アミノ-2-ヒドロキシヘキサン酸におけるアミノ基の置換基は、t-ブトキシカルボニル基、又は置換基を有していてもよいフェニル基、ベンジル基、若しくはベンジルオキシカルボニル(Z)基である。Z基の置換基としては、例えば、オルト位にクロスリンカー(アジド、ジアジリン)や、反応性官能基(アルキン)等を含む。具体的には、Nε-オルト-ヨード-ベンジルオキシカルボニル-2-ヒドロキシヘキサン酸、Nε-オルト-エチニル-ベンジルオキシカルボニル-2-ヒドロキシヘキサン酸、Nε-オルト-アジド-ベンジルオキシカルボニル-2-ヒドロキシヘキサン酸、及びNε-オルト-ジアジリル-ベンジルオキシカルボニル-2-ヒドロキシヘキサン酸等が挙げられる。
【0026】
また、前記3置換乳酸における3位の置換基は、置換基を有していてもよいフェニル基であり、具体的には3-(3-ヨードフェニル)乳酸、3-(3-ブロモフェニル)乳酸、3-(4-アセチルフェニル)乳酸、3-(4-ベンゾイルフェニル)乳酸、3-(4-アジドフェニル)乳酸、3-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)乳酸等が挙げられる。
【0027】
[サプレッサーtRNA]
上記aaRSと組み合わせて使用されるtRNAは、通常20種類のアミノ酸に割り当てられたコドンではないナンセンスコドンに割り当てられ、かつ、上記aaRSにのみ認識され、宿主の通常のアミノアシル-tRNA合成酵素には認識されない(orthogonal tRNA)という要件を備え、かつ真正細菌内又は哺乳動物細胞内で発現しなければならない。このようなtRNAとしては、古細菌由来のサプレッサーtRNAが挙げられる。
【0028】
ここで、ナンセンスコドンとしては、UAG(アンバー)、UAA(オーカー)、UGA(オパール)が挙げられるが、UAG(アンバー)又はUGA(オパール)コドンを用いることが好ましい。また、ナンセンスコドンに代えて、4塩基以上(好ましくは4若しくは5塩基)の塩基からなるコドン(以下「フレームシフトコドン」という。)を用いることもできる。
【0029】
このようなtRNAは、例えば、上記古細菌ゲノムからtRNAPylに対応する遺伝子を取得し、これをそのまま、又は所望の変異を導入してインビトロ又はインビボで発現させて調製することができる。一例として、メタノサルシナ・マゼイ由来の野生型tRNAは以下に示す塩基配列を有する。
tRNApyl:5'-GGAAACCUGAUCAUGUAGAUCGAAUGGACUCUAAAUCCGUUCAGCCGGGUUAGAUUCCCGGGGUUUCCGCCA-3'(配列番号3)
【0030】
[非天然タンパク質の製造]
α-ヒドロキシ酸を活性化しうるアミノアシル-tRNA合成酵素は、古細菌又は真核生物のサプレッサーtRNAと組み合わせて、インビトロ又はインビボでのα-ヒドロキシ酸組み込みタンパク質の製造に用いることができる。すなわち、(a)α-ヒドロキシ酸を活性化しうるアミノアシル-tRNA合成酵素と、(b)前記アミノアシル-tRNA合成酵素の存在下において前記α-ヒドロキシ酸と結合可能なサプレッサーtRNAと、(c)所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質をコードする遺伝子と、をα-ヒドロキシ酸の存在下に細胞内又は細胞抽出液内で発現させる。ここで、本発明にかかるaaRSやサプレッサーtRNAの合成系としては特に制限されることはなく、任意の発現系を用いることができる。例えば、無細胞タンパク質合成系や真正細菌細胞内におけるタンパク質合成系、或いは、真核細胞、好ましくは動物細胞、特に好ましくは哺乳動物細胞である。
【0031】
無細胞タンパク質合成系とは、タンパク質の翻訳に必要なタンパク質因子を細胞抽出液として取り出し、試験管内でこの反応を再構成することで目的とするタンパク質を合成させる系である。様々な生物種に由来する抽出液を利用して無細胞系を構成することができ、例えば、大腸菌や好熱性細菌等の細菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、マウスL-細胞、エールリッヒ腹水癌細胞、HeLa細胞、CHO細胞及び出芽酵母等の、高いタンパク質合成活性の状態の真核細胞、及び原核細胞の抽出液を用いることができる(Clemens, M.J., Transcription and Translation - A Practical Approach, (1984), pp. 231-270, Henes, B.D. et al. eds., IRL Press, Oxford〈参考文献1〉)。なお、参考文献1の記載内容は、引用をもって本書に組み込まれる。
【0032】
大腸菌の抽出液としては、ズベイら(Zubay et al., Ann. Rev. Genet. Vol.7, pp.267-287 (1973) 〈参考文献2〉)又はプラットら(Pratt, J.M. et al., Transcription and Translation - A Practical Approach, (1984), pp. 179-209, Henes, B.D. et al. eds., IRL Press, Oxford〈参考文献3〉)に記載された方法により調製されたS30抽出液を用いることができる。大腸菌S30抽出液は、転写及び翻訳に必要な大腸菌の全ての酵素と因子を含んでいる。更に補充的な混合液を添加することができる。具体的な調製方法としては、最初に大腸菌を培養し、菌体を遠心分離等により回収する。回収された菌体は、洗浄後、緩衝液に再懸濁し、フレンチプレスやガラスビーズ、ワーリングブレンダー等を用いて破砕する。破砕された大腸菌の不溶物質を遠心分離で除去し、プレインキュベーション混合液と混合してインキュベーションする。この操作によって内在性のDNA、RNAが分解されるが、更に、カルシウム塩やマイクロコッカスのヌクレアーゼ等を添加して内在性の核酸を分解させてもよい。続いて、透析により内在性のアミノ酸、核酸、ヌクレオシド等を除き、適量ずつ分注して液体窒素又は-80℃にて保存する。なお、前掲参考文献2及び3の記載内容は、引用をもって本書に組み込まれる。
【0033】
α-ヒドロキシ酸組み込みタンパク質の合成反応を行う際には、上記細胞抽出液に転写/翻訳鋳型となる所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質をコードするDNA又はRNA、α-ヒドロキシ酸を含むアミノ酸、本発明の変異体PylRS、前記変異体PylRSの存在下でα-ヒドロキシ酸と結合可能なサプレッサーtRNA、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、cAMP、葉酸類、抗菌剤、また鋳型としてDNAを用いる場合にはRNA合成の基質、及びRNAポリメラーゼ等を含むことができる。これらは目的タンパク質や、用いるタンパク質合成系の種類によって適宜選択して調製される。例えば、大腸菌のS30抽出液の場合は、Tris-酢酸、DTT、NTPs(ATP、CTP、GTP、及びUTP)、ホスホエノールピルビン酸、ピルビン酸キナーゼ、アミノ酸(天然の20種類のアミノ酸に加えてホスホセリンを添加する。)、ポリエチレングリコール(PEG)、葉酸、cAMP、tRNA、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、グルタミン酸カリウム、及び至適濃度の酢酸マグネシウム等の一部あるいは全部を添加する。
【0034】
本発明にかかるaaRSを哺乳動物細胞内で発現させるためには、aaRS遺伝子をPCR法によって増幅し、これを市販のpcDNA3.1(インビトロジェン社)等の発現ベクターのNheI-BamHIサイトに組み込んで構築したプラスミドを哺乳動物細胞に導入すればよい。細胞へのベクターの導入方法としては、例えば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0035】
一方、サプレッサーtRNAの発現方法としては、特に限定されることなく当業者に公知の方法に従って、大腸菌等の真正細菌内で、又は哺乳動物細胞等の真核細胞内で発現させることができる。例えば、大腸菌内における発現は、サプレッサーtRNAをコードするDNAの5’末端にプロモーター配列を、3’末端にターミネーター配列を夫々連結する。真核細胞内でtRNAを転写するタイプIIプロモーターは、tRNAコーディング配列内の2つの領域から成り立つ内部プロモーターであり、そのコンセンサス配列は、ボックスA、ボックスBとして知られている。ボックスAのコンセンサス配列は、8位~19位のTRGCNNAGYNGG(配列番号4)であり、ボックスBのコンセンサス配列は、52位~62位のGGTTCGANTCC(配列番号5)である。従って、例えば、バチルス・ステアロサーモフィラスのサプレッサーチロシンtRNAのように、そのコーディング配列内にボックスAとボックスBが存在している場合は、なんら改変を加えなくても動物細胞内で発現させることができる。しかし、内部プロモーターを持たないサプレッサーtRNAの場合は、外部プロモーターを用いて真核細胞内で発現させることもできる。例えば、サプレッサーtRNA遺伝子の5’末端に、真核生物のtRNA核酸配列やU1又はU6snRNA遺伝子のプロモーター配列を結合させることによって動物細胞内で効果的に発現させうる。さらに、異なる実施形態として、T7ファージ由来のT7プロモーターを連結し、動物細胞内でT7RNAポリメラーゼと同時に発現させてもよい。
【0036】
本発明は、以下の実施例によりさらに詳細に説明されるが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
[実施例1]大腸菌細胞を用いたα-ヒドロキシ酸組み込み非天然タンパク質の合成
(1)α-ヒドロキシ酸Boc-Lys-HAの合成
H-Lys(Boc)-OH(Bachem)を原料として、文献(Organic Letters 6, 497-500 (2004))に基づく方法により有機合成した。
【0038】
(2)プラスミド
(2.1)PylRS・tRNAPyl発現系
完全長のPylRS遺伝子は、プラスミドpTK2-1において大腸菌trpSプロモーターの制御下で発現させた。このプラスミドpTK2-1は、プラスミドpACYC184の誘導体であって、カナマイシン耐性遺伝子と大腸菌lppプロモーターの制御下で1コピーのtRNAPyl遺伝子を発現する。
(2.2)エステル結合を組み込むグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)発現系
pET21b(アンピシリン耐性)のNdeI-BamHIサイトの間に、N末端から109番目のシステインコドンがアンバーコドン(TAG)に変異したグルタチオンS-トラスフェラーゼ(GST)遺伝子をクローン化し、そのN末端にT7タグ、及びC末端にヒスチジンタグを付加した以下のタンパク質が合成されるような発現ベクターを構築した。そのアミノ酸配列は次のとおりである。
【0039】
MASMTGGQQMGRDPGANSGVTKNSYSPILGYWKIKGLVQPTRLLLEYLEEKYEEHLYERDEGDKWRNKKFELGLEFPNLPYYIDGDVKLTQSMAIIRYIADKHNMLGGCPKERAEISMLEGAVLDIRYGVSRIAYSKDFETLKVDFLSKLPEMLKMFEDRLCHKTYLNGDHVTHPDFMLYDALDVVLYMDPMCLDAFPKLVCFKKRIEAIPQIDKYLKSSKYIAWPLQGWQATFGGGDHPPKSDLEHHHHHH(配列番号6)
【0040】
最初の下線(MASMTGGQQMG)はT7タグ、最後の下線はヒスチジンタグを含むpET21b由来の領域である。中央部の下線で示したCys109に対するコドンをアンバーコドンに対応する配列(TAG)に置換している。
【0041】
(3)エステル結合を含むタンパク質の発現および精製
(3.1)BL21(DE3)に一般の形質転換法により、上記二つのプラスミドを導入した。
(3.2)100μg/mlアンピシリン、50μg/mlカナマイシンを含むLB培地で一晩培養した。培養は全て37℃で行ったが、発現させるタンパク質によって任意に上下させることもできる。
(3.3)得られた培養液より遠心により菌体を分離し、1mMのBocLys-HA、100μg/mlアンピシリン、50μg/mlカナマイシンを含むGMML培地(1×M9(Sigma-Aldrich M-6030)、1mMのMgSO、0.1mMのCaCl、8.5mMのNaCl、5μMのFeSO、1%glycerol、0.3mMのleucine)に植えた。
(3.4)波長600nmにおける濁度が0.3から0.4になった時点で,終濃度1mMでIPTGを加えた。
(3.5)6時間培養し、遠心により集菌した。
(3.6)タンパク質精製はグルタチオンセファロース4ファーストフロー(GEヘルスケア)を用いて付属のプロトコルどおりに行った。
【0042】
(4)エステル結合が導入されていることの検証
(4.1)得られたタンパク質について、水を加えた試料(-OH)、終濃度14%でアンモニア水を加えた試料(+OH)を調製し、それぞれ2時間室温において反応させた。
(4.2)それぞれを12%SDS-ポリアクリルアミド電気泳動で分離し、SimplyBlue Safe Stain (Invitrogen)で染色した。図2に示すように、BocLys-HAを培地に加えたときに限り全長のGSTが発現し、またアンモニア水によって特異的に1箇所で切れ、2本のポリペプチドが見られることから、1箇所にエステル結合が含まれることが示される。タンパク質の収率は、GMML培地ではおよそ1mg/L培養である。
(4.3)(4.2)と同様に泳動したゲルより、ウェスタンブロット法によりT7タグ(N末端)を含むポリペプチドおよびヒスチジンタグ(C末端)を含むポリペプチドを、それぞれに対して特異的な抗体で検出した。図2のように、予想された通りのバンドがそれぞれのタグを含むことが示された。レーン5は、非天然型の基質を培地に加えずにGSTを発現させ、精製したものを泳動している。アンバーコドンのサプレッションが起こらないためにバンドが見られない。一方,Boc-Lys-HAおよびBoc-Lysを加えた際には、全長のGSTが生成している(レーン1、3)。アルカリ分解を行うと、Boc-Lys-HAが導入され、内部にエステル結合を持つ場合に限り、特定位置で切断が起こる(レーン2)。Boc-Lysでは、通常のアミド結合しか持たないため切断は起こらない(レーン4)。完全に加水分解反応が進行していない状態で泳動したため、レーン2では全長のGSTが残っている。
【0043】
(4.4)(4.1)で得られた試料を、一晩おいて完全に切断反応を進行させ、MALDI-TOF質量分析装置により解析した。図3に示したように、主なピークはそれぞれのバンドに対応して1本であり、109位に別のアミノ酸が導入されている可能性は排除された。また、それぞれの質量は、109位にBocLys-HAが導入されていること、またそれによるエステル結合のみがアンモニア水による加水分解で分解されていることを示す。109位がBoc-Lysの場合では、アルカリの有無に関わらずGST全長のピークのみが得られる。
【0044】
[実施例2]HEK293c-18株におけるタンパク質へのBoc-Lys-HAの導入
(1)用いた細胞
HEK293 c-18株(ATCC No.CRL-10852)
【0045】
(2)プラスミド
ヒトのgrb2の111位のロイシンコドンを、Quick Change site-directed mutagenesis kit(ストラタジーン社)を用いて、アンバーコドンに変換した(grb2(Am111))。次いで、C末端にFLAGタグ(DYKDDDDK)が付加するように構築した遺伝子(配列番号7)を、pOriPベクターのBamHI-XhoIサイトに組み込み、サプレッション検出用のプラスミドとした。Grb2は、細胞内で、上皮成長因子受容体と相互作用する、細胞の癌化に関わるタンパク質である。
【0046】
PylRS発現プラスミドの構築は、メタノサルシーナ・マゼイ由来の野生型PylRS遺伝子DNA配列(配列番号1)を、PCR法を用いて増幅した。これを、pOriPベクターのNheI-BamHIサイトに組み込んで、プラスミドを構築した。
【0047】
tRNAPyl遺伝子の発現ベクターは、ヒトU6プロモーターの下流にメタノサルシナ・マゼイ由来の野生型ピロリジンtRNA遺伝子及びターミネーターを連結し、これを一方向に9コピー並べたものをpOriPベクターのNruI-PvuIIサイトに組み込んだ。なお、pOriPは、pcDNA4/TO(Invitrogen)のPvuII-PvuII間の配列を詰めてなくし、MunIサイトに、pCEP4(Invitrogen)のMunI消化断片を挿入したもので、EBNA-1タンパク質を発現するHEK293c-18株などの細胞において、トランスフェクション効率を上昇させる。
【0048】
(3)トランスフェクション方法
上記で作製した3種類のプラスミドを50μlのOpti-MEMに溶解した。2μlのリポフェクタミン2000を別の50μlのOpti-MEMと混合し、室温で5分間インキュベートした。これらの溶液を混合し、室温にて20分間インキュベートした後、90~95%コンフルエントに培養したHEK293細胞に添加し、37℃、4時間、炭酸ガスインキュベーターにて培養した。4時間経過後、培地を10mMのBoc-Lys-HAを含むDMEM/F-12に交換し、さらに37℃で40時間培養した。
【0049】
(4)アッセイ法
上記トランスフェクションによりHEK293c-18株にGrb2(111Amb)、PylRS、t-RNAPyl全ての遺伝子を導入し、一方のウェルには何も加えず、もう一方のウェルにはBoc-Lys-HAを加えた。細胞を回収し、抗FLAG抗体で免疫沈降し、精製したタンパク質をアンモニア溶液あるいは水と混ぜ、15%SDS-PAGEで分離してウェスタンブロッティングを行なった後、抗FLAG抗体で免疫染色した。なお、上記アンモニア処理の条件は、精製タンパク質1μlに、10%SDS溶液を5μl、アンモニア水7.5μlを加え、室温で2時間反応させた。その後、バキュームしながら遠心してアンモニアを飛ばした。アンモニア処理を行わない場合、アンモニアの代わりに水5μlを加え、室温で2時間放置した。
【0050】
(5)結果
以上の実験結果を図4に示す。図4より、Grb2(111Amb)のアンバーコドンにヒドロキシ酸が導入されGrb2_FLAGの全長225残基が発現し、アンモニア処理をした場合に、Grb2が半分に切断され、C末端側の115残基が検出される(C末FLAGタグが染まる)。したがって、ヒドロキシ酸がタンパク質へ導入されていることが証明された。
【0051】
なお、図4においてヒドロキシ酸を添加しないで合成したサンプルについてもGrb2_FLAGの全長が検出されるが、これは、本実験においては大量の精製タンパク質をアプライしているため、内在性のサプレッション活性が検出されているものと思われる。
なお、前述の特許文献等の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図2】
2
【図4】
3