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明細書 :酵素結晶固定化電極及び酵素結晶固定化電極の製造方法、並びに酵素結晶固定化電極を備えるバイオ電池及びバイオセンサー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5740754号 (P5740754)
登録日 平成27年5月15日(2015.5.15)
発行日 平成27年7月1日(2015.7.1)
発明の名称または考案の名称 酵素結晶固定化電極及び酵素結晶固定化電極の製造方法、並びに酵素結晶固定化電極を備えるバイオ電池及びバイオセンサー
国際特許分類 C12N  11/14        (2006.01)
G01N  27/327       (2006.01)
FI C12N 11/14 ZNA
G01N 27/30 353F
請求項の数または発明の数 24
全頁数 45
出願番号 特願2012-530689 (P2012-530689)
出願日 平成23年8月24日(2011.8.24)
国際出願番号 PCT/JP2011/069060
国際公開番号 WO2012/026493
国際公開日 平成24年3月1日(2012.3.1)
優先権出願番号 2010189788
優先日 平成22年8月26日(2010.8.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年4月9日(2013.4.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】重森 康司
【氏名】中沖 優一郎
【氏名】美川 務
個別代理人の代理人 【識別番号】100107308、【弁理士】、【氏名又は名称】北村 修一郎
【識別番号】100114959、【弁理士】、【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
【識別番号】100148183、【弁理士】、【氏名又は名称】森 俊也
審査官 【審査官】松浦 安紀子
参考文献・文献 Electrochem. Solid-State Lett.,2002年,Vol.5, No.8,p.E37-E39
J. Mol. Biol.,1999年,Vol.289, Iss.2,p.319-333
Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr.,2002年,Vol.D58, No.9,p.1490-1493
調査した分野 C12N 11/14
G01N 27/327
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
外部回路に接続可能な導電性基材と、電極触媒として酵素結晶を備え、前記酵素結晶が前記導電性基材に固定化された酵素結晶固定化電極を備えるバイオ電池。
【請求項2】
前記酵素結晶固定化電極が、微細化された導電性基材上に前記酵素結晶が固定化された微小電極として構成される請求項1に記載のバイオ電池。
【請求項3】
前記酵素結晶が、酸化反応を触媒する酵素の結晶である請求項1又は2に記載のバイオ電池。
【請求項4】
前記酵素結晶が、アシネトバクターカルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの結晶である請求項3に記載のバイオ電池。
【請求項5】
前記アシネトバクターカルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼが、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有する請求項4に記載のバイオ電池。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列
(C)(A)または(B)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列
【請求項6】
前記酵素結晶が、還元反応を触媒する酵素である請求項1又は2に記載のバイオ電池。
【請求項7】
前記酵素結晶が、バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼの結晶である請求項6に記載のバイオ電池。
【請求項8】
前記バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼが、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有する請求項7に記載のバイオ電池。
(A)配列番号6に示すアミノ酸配列
(B)配列番号8に示すアミノ酸配列
(C)(A)又は(B)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列
【請求項9】
外部回路に接続可能な導電性基材に電極触媒として酵素結晶を固定化した酵素結晶固定化電極を備えるバイオ電池であって、
前記酵素結晶固定化電極が、酵素溶液からの酵素の結晶化を前記導電性基材上で行って前記導電性基材に酵素結晶を固定化することにより製造されるバイオ電池。
【請求項10】
前記酵素結晶固定化電極が、前記酵素の結晶化を蒸気拡散法の環境下において行うことによって製造される請求項9に記載のバイオ電池。
【請求項11】
酵素結晶固定化電極が、微細化された導電性基材上に前記酵素結晶が固定化された微小電極として構成される請求項9又は10に記載のバイオ電池。
【請求項12】
前記酵素結晶が、酸化反応を触媒する酵素の結晶である請求項9~11の何れか一項に記載のバイオ電池。
【請求項13】
前記酵素結晶が、アシネトバクターカルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの結晶である請求項12に記載のバイオ電池。
【請求項14】
前記アシネトバクターカルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼが、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有する請求項13に記載のバイオ電池。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列
(C)(A)または(B)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列
【請求項15】
前記酵素結晶が、還元反応を触媒する酵素の結晶である請求項9~11の何れか一項に記載のバイオ電池。
【請求項16】
前記酵素結晶が、バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼの結晶である請求項15に記載のバイオ電池。
【請求項17】
前記バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼが、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有する請求項16に記載のバイオ電池。
(A)配列番号6に示すアミノ酸配列
(B)配列番号8に示すアミノ酸配列
(C)(A)又は(B)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列
【請求項18】
前記酵素結晶固定化電極を、アノードとして備える請求項3~5、及び12~14の何れか一項に記載のバイオ電池。
【請求項19】
前記酵素結晶固定化電極を、カソードとして備える請求項6~8及び15~17の何れか一項に記載のバイオ電池。
【請求項20】
請求項1~19の何れか一項に記載のバイオ電池を製造するためのバイオ電池の製造方法であって、アノードとカソードを対向させて電極を形成し、前記アノードと前記カソードを隔離するようにイオン伝導性物質を配置し、ここで、前記電極の何れか一方が前記酵素結晶固定化電極として構成するバイオ電池の製造方法。
【請求項21】
前記アノードを、前記酵素結晶固定化電極として構成する請求項3~5、及び12~14の何れか一項に記載のバイオ電池を製造するための請求項20に記載のバイオ電池の製造方法。
【請求項22】
前記カソードを、前記酵素結晶固定化電極として構成する請求項6~8、及び15~17の何れか一項に記載のバイオ電池を製造するための請求項20に記載のバイオ電池の製造方法。
【請求項23】
外部回路に接続可能な導電性基材と、電極触媒として酵素結晶を備え、前記酵素結晶が前記導電性基材に固定化された酵素結晶固定化電極を備えるバイオセンサー。
【請求項24】
外部回路に接続可能な導電性基材に電極触媒として酵素結晶を固定化した酵素結晶固定化電極を備えるバイオセンサーであって、
前記酵素結晶固定化電極が、酵素溶液からの酵素の結晶化を前記導電性基材上で行って前記導電性基材に酵素結晶を固定化することにより製造される請求項23に記載のバイオセンサー。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素結晶固定化電極及び酵素結晶固定化電極の製造方法、並びに酵素結晶固定化電極を備えるバイオ電池及びバイオセンサーに関する。詳細には、酵素結晶を導電性基材表面に固定化した酵素結晶固定化電極及び酵素結晶固定化電極の製造方法、並びに当該酵素結晶固定化電極を備えるバイオ電池及びバイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオマス資源を利用したバイオ電池が、その高いエネルギー効率及び低い環境負荷から次世代のエネルギーとして提案されている。微生物を始めとする生物は、酵素等の生体触媒により、炭水化物、タンパク質、脂質等を酸化分解する生体内代謝過程において、ATP等の化学エネルギー物質(結合エネルギー)を生成して、生命活動に必要なエネルギーを獲得している。バイオ電池は、かかる生体内代謝過程において発生するエネルギーを電気エネルギーとして電極に取り出す発電装置である。なかでも、酵素の基質特異的な触媒反応と電極反応を共役させる酵素燃料電池は、糖類やアミン類等の環境中に存在する化合物を燃料とできるため特に安全かつ環境負荷が低いクリーンな電源として注目されている。
【0003】
酵素燃料電池の構築に際して、電極触媒となる酵素の選択は重要な要素となる。アノード(負極)側には燃料を酸化分解する酵素を、カソード(正極)側には酸素を還元する酵素を選択する。例えば、グルコースを燃料とする場合には、例えばグルコースデヒドロゲナーゼをアノード側の触媒として使用する。一方、カソード側の触媒としてラッカーゼ等を使用することができる(特許文献1)。ラッカーゼは、微生物・菌類・植物などに広く存在することが知られている酵素である。例えば、バチルス・サブティリス由来CotAラッカーゼ等が報告されており、配列決定及び結晶構造解析が行われている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
酵素燃料電池の実用化に当たっては、酵素固定化電極の構築がその成否を左右することから、酵素の触媒機能を最大限に発揮できる酵素電極の構築が進められている。そして、現在までに、酵素や、電極と酵素との間の電子伝達を媒介する電子メディエーターを電極表面に固定化した種々の電極が報告されている。例えば、膜結合型酵素の疎水基とカーボン基材の疎水基との直接結合によって、膜結合型酵素がカーボン基材上に固定化された酵素電極(特許文献2)、及び、チトクロームC部位を含むタンパク質として構成された酵素を、疎水性面のカーボン製導電性基材上に固定化した酵素電極(特許文献3)の構築が報告されている。また、酵素や、電子メディエーターを導電性基材に固定化する際に、前記メディエーターを有機高分子鎖に結合させて高分子-メディエーター複合体を形成し、それを誘電率が24以下の溶媒に分散させることで分散性を向上させて導電性基材表面に塗布することにより、優れた電極性能を発現する酵素固定化電極が作製できたこと(特許文献4)、導電性基材に酵素を固定化する際に用いる溶液に有機溶媒を加えることにより、酵素の活性を損なうことなく、複雑な構造を有する電極であっても、酵素を電極内部に容易に浸透させて電極内部の表面に三次元的かつ高密度に固定化した電極が構築できたこと(特許文献5)が報告されている。さらに、正極と負極が電解質を介して対向した構造を有する電極が構築され、このなかで電極の一例としてカーボンフェルト製の導電性基材を用い、これに酵素を染み込ませることにより電極に酵素を固定したことが報告されている(特許文献6)。
【0005】
しかしながら、上記した従来技術は、全て酵素を水や緩衝液に分散した溶液状態の酵素溶液を使用して、カーボン基材などの導電性基材に固定化するものである。そのため、電極上の酵素が不安定となり、酵素結合量に見合った電流値が得られないとの問題点あった。また、特許文献2に開示される電極は、その適用が膜結合型酵素に限定され、特許文献3に開示される電極は、親水的な表面を有する酵素に適用できない等、適用できる酵素の種類が限定されるという問題点もあった。
【0006】
酵素電極において、充分な電流値を得るためには、酵素-電子メディエーター-電極間の円滑な電子伝達が必要である。そのため、より多くの酵素が電極表面上に近接する位置に存在することが求められる。つまり、酵素-電子メディエーター-電極の相互的な位置関係によって酵素電極の電極性能は大きく左右されることを意味する。そのため、酵素を電極表面へ固定化する際の濃度を高めることが優れた電極性能を発揮する酵素電極を得るためには重要であると考えられた。
【0007】
しかしながら、酵素を溶液形態で導電性基材上に固定化する場合において、高濃度溶液を使用するには限界があった。酵素は親水性と疎水性をもつアミノ酸で構成され、溶液中では、親水性のアミノ酸が表面に存在するような構造体となっている。そのため、一般的には、数mg/ml程度の濃度であれば沈殿は生じない。一方で、酵素を高濃度にすると、酵素分子同時が近接したときに、偶発的に疎水性部分同士が相互作用をし、その結果、凝集、沈殿が生じ、酵素の変性を招き、酵素は不安定な状態に曝される。しかも、一度生じた沈殿は加速度的に増加していくこととなる。したがって、酵素溶液における酵素濃度が高くなる(一般的には、50 mg/cm3を超える)と、溶液中での酵素の分散性が悪くなり、酵素が導電性基材表面に凝集、つまり変性した状態で固定化されることなる。それによって、電極の電子伝達が円滑に進行しなくなり、得られる酵素電極は電極性能に劣るものとなるという問題点があった。
【0008】
たとえば、特許文献2中の具体的開示によると、ここで電極構築の際に使用されている酵素溶液濃度は0.57 mg/mlであり、つまり、カーボン基材に固定化された膜結合型酵素の最大量は1.11μg/cm2であった。また、特許文献3中の具体的開示によると、グラッシーカーボン電極に、1mg/mLの酵素溶液5μl滴下することにより構築したことが記載されている。つまり、使用した酵素溶液濃度は1 mg/mlであるから、カーボン基材に固定化された膜結合型酵素の最大量は71.4μg/cm2であった。更に、特許文献4の具体的開示によれば、カーボンペーパー表面に、酵素の5 mg/mLリン酸緩衝溶液を8μl滴下することにより構築したことが記載されている。つまり、使用した酵素溶液濃度は5 mg/mlであり、ここから算出すると、カーボン板へ固定化された酵素の最大量は51.0μg/cm2であった。さらに、特許文献5中の具体的開示によれば、13.8 mgの酵素を緩衝溶液200μlに溶解させ酵素溶液をグラッシーカーボンディスク電極表面上に滴下していることから、使用した酵素溶液濃度は69 mg/mlであり、特許文献6の具体的開示によれば、使用した酵素溶液濃度は50 mg/mlであった。このように、従来技術において固定化に使用される酵素濃度は上記の通りであると推定された。
【0009】
また、酵素結合量に見合った電流量が得られない要因として、電極上での酵素結合の方向性(配向性)の最適化が不十分であることも挙げられる。酵素は溶液中では配向性を統一させること無く無秩序な状態で存在する。したがって、溶液状態で固定化を行うと、酵素はランダムな方向性を持って導電性基材に結合し、これにより出力の低下等を招く。そのため電極上で酵素の配向制御は、電極性能の観点から改善すべき技術課題の一つであった。更に、溶液状態での固定化は、酵素を一定の分散性を保ったまま電極に固定化することは困難であり、そのため電解質溶液中で電極から解離しやすく、酸化電流測定中に電流値が低下するとの問題点もあった。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特表2009-515303号公報
【特許文献2】特開2010-43978号公報
【特許文献3】特開2007-225444号公報
【特許文献4】特開2008-96352号公報
【特許文献5】特開2007-280944号公報
【特許文献6】特開2009-245920号公報
【0011】

【非特許文献1】Martins LO, Soares CM, Pereira MM, Teixeira M, Costa T, Jones GH, Henriques AO著、「Molecular and biochemical characterization of a highly stable bacterial laccase that occurs as a structural component of the Bacillus subtilis endospore coat.(バチルス・サブティリス内芽胞外殻の構造的成分として生じる細菌ラッカーゼの分子及び生化学的特徴づけ)」、J Biol Chem.、2002年、第277巻、第21号、第18849~59頁
【非特許文献2】Enguita FJ, Matias PM, Martins LO, Pl當ido D, Henriques AO, Carrondo MA.著、「Spore-coat laccase CotA from Bacillus subtilis: crystallization and preliminary X-ray characterization by the MAD method.(バチルス・サブティリス由来芽胞外殻ラッカーゼ CotA:結晶化及びMAD法による予備的X線解析)、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、2002年、58(Pt 9)、第1490~3頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、上記問題点を解決すべく、電極性能の向上した酵素電極の構築のため、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えて酵素を導電体基材に固定化できる技術の構築を目的とする。また、本発明は、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えて酵素を導電体基材に固定化することにより構築された酵素結晶固定化電極を提供することを目的とし、電極の円滑な電子伝達を通した電極性能の向上を目的とする。更には、かかる酵素結晶固定化電極を利用したバイオ電池及びバイオセンサーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、酵素結晶を導電性基材表面に固定化することによって、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えて酵素を導電性基材表面に固定化でき、これにより触媒機能を円滑に発揮できる酵素結晶固定化電極を構築できることを見出した。そして、かかる酵素結晶固定化電極は、電極上での電子伝達の円滑な進行を実現でき、優れた電極性能を発揮するものであることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、上記目的を達成するため、以下の[1]~[28]に示す発明を提供する。
【0015】
[1]外部回路に接続可能な導電性基材と、電極触媒として酵素結晶を備え、前記酵素結晶が導電性基材に固定化されている酵素結晶固定化電極。
[2]微細化された導電性基材上に酵素結晶が固定化された微小電極として構成されている。
[3]前記酵素結晶が、酸化反応を触媒する酵素の結晶である。
[4]前記酵素結晶が、アシネトバクター カルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの結晶である。
[5]前記アシネトバクター カルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼが、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有する。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列
(C)(A)または(B)のアミノ酸配列と80 % 以上の相同性を有するアミノ酸配列
[6]前記酵素結晶が、還元反応を触媒する酵素の結晶である。
[7]前記酵素結晶が、バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼの結晶である。
[8]前記バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼが、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有する請求項5に記載の酵素結晶固定化電極。
(A)配列番号6に示すアミノ酸配列
(B)配列番号8に示すアミノ酸配列
(C)(A)又は(B)のアミノ酸配列と80 % 以上の相同性を有するアミノ酸配列
【0016】
上記[1]の構成によれば、酵素結晶が導電性基材に固定化された酵素結晶固定化電極を提供できる。酵素結晶は酵素分子が分子レベルでの規則性を保持した状態で整列していることから、酵素結晶固定化電極は、電極触媒である酵素を導電性基材表面に、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えて固定化されている。そして、酵素結晶は機能性分子のまま触媒活性を保持した形態で固定化されている。そのため、酵素結晶固定化電極は、電子伝達を円滑に進めることができ、優れた電極性能を発揮することができる。従来の酵素を溶媒に分散させた溶液状態での固定化では、酵素濃度が高くなると、分散性が悪くなり、酵素は導電性基材に凝集した状態で固定化されてしまい、電極の電子伝達の円滑な進行を妨げ電極性能の低下をもたらすという問題点があった。しかし、酵素が均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えた状態で固定化された酵素結晶固定化電極は、かかる問題点を解消するものである。したがって、従来型の酵素電極よりも極めて優れた電極性能を有する酵素結晶固定化電極は、バイオ電池やバイオセンサーをはじめとして種々の産業分野に利用することができる産業上利用価値の高い電極である。
更に、上記[2]の構成によれば、微小な領域に超高濃度の酵素を、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えた状態で固定化された微小電極を提供でき、微小電極の利用価値を更に高めることができる。
また、上記[3]~[5]の構成によれば、酸化反応を触媒する酵素を酵素結晶として固定化することにより、バイオ電池及びバイオセンサー等に利用可能な電極を提供できる。バイオ電池の電極とする場合には、アノードとして利用することができる。また、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼは、反応速度が非常に速く、また溶存酸素の影響を受けにくく、電極に直接固定できることから電極反応、引いては電極構造を簡素化することができるという利点があることから、更に産業上利用価値の高い電極を提供することができる。ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼはグルコースを基質とすることから、グルコースセンサーや、グルコースを燃料としたバイオ電池への応用等、電子、医療、食品、環境分野等の様々な分野に利用することができる。
更に、上記[6]~[8]の構成によれば、還元反応を触媒する酵素を酵素結晶として固定化することにより、バイオ電池及びバイオセンサー等に利用可能な電極を提供できる。バイオ電池の電極とする場合には、カソードとして利用することができる。また、バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼは、マルチ銅オキシダーゼであり、分子内に酵素活性に必要な4原子の銅を含むタンパク質である。そして、基質から取り出した電子を用いて分子状酸素を電子還元し水分子を生成する反応を触媒する酵素であることから、電極触媒として利用することができる。特に、酸素を還元できることからバイオ電池のカソードとして利用価値が高い。更に、フェノール性化合物を検出するためのバイオセンサーとしても利用価値が高い。したがって、電子、医療、食品、環境分野等の様々な分野に利用することができる。
【0017】
[9]外部回路に接続可能な導電性基材に電極触媒として酵素結晶を固定化した酵素結晶固定化電極の製造方法であって、前記導電性基材に前記酵素結晶を固定化することにより酵素結晶固定化電極を製造する酵素結晶固定化電極の製造方法。
[10]前記酵素結晶の固定化に先立って、酵素溶液から酵素の結晶化を行う。
[11]酵素の結晶化を、蒸気拡散法の環境下において行う。
【0018】
上記[9]の構成によれば、酵素結晶が導電性基材上に固定化された酵素結晶固定化電極の製造方法を提供できる。酵素結晶は酵素分子が分子レベルでの規則性を保持した状態で整列していることから、電極触媒である酵素を導電性基材表面に、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えて固定化することができる。そして、酵素結晶は機能性分子のまま触媒活性を保持した形態で固定化される。これにより、電子伝達を円滑に進めることができ、かつ優れた電極性能を発揮することができる酵素結晶固定化電極を提供することができる。従来の酵素を溶媒に分散させた溶液状態での固定化方法では、酵素濃度が高くなると、分散性が悪くなり、酵素は導電性基材表面上に凝集した状態で固定化されてしまい、電極上での電子伝達の円滑な進行を妨げ電極性能の低下をもたらすという問題点があった。しかし、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えた状態での酵素の固定を可能とする酵素結晶固定化電極の製造方法は、かかる問題点を解消するものである。したがって、従来型の酵素電極よりも極めて優れた電極性能を有する酵素結晶固定化電極を製造できることから、バイオ電池やバイオセンサーをはじめとして種々の産業分野に利用することができる産業上利用価値の高い技術である。
上記[10]~[11]の構成によれば、酵素結晶固定化電極に固定化される酵素結晶を、電極触媒としての機能が最大限に発揮できる所望の大きさ、形状及び品質に調整することができ、これにより、電子伝達を円滑に進めることができ、かつ優れた電極性能を発揮することができる酵素結晶固定化電極を提供することができる。
【0019】
[12]外部回路に接続可能な導電性基材に酵素結晶を固定化した酵素結晶固定化電極の製造方法であって、酵素溶液からの酵素の結晶化を前記導電性基材上で行って、前記導電性基材に酵素結晶を固定化することにより酵素結晶固定化電極を製造する酵素結晶固定化電極の製造方法。
[13]酵素の結晶化を、蒸気拡散法の環境下において行う。
[14]本発明の酵素結晶固定化電極の製造方法により製造された酵素結晶固定化電極。
[15]微細化された導電性基材上に酵素結晶が固定化された微小電極として構成されている。
[16]前記酵素結晶が、酸化反応を触媒する酵素の結晶である。
[17]前記酵素結晶が、アシネトバクター カルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの結晶である。
[18]前記アシネトバクター カルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼが、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有する。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列
(C)(A)又は(B)のアミノ酸配列と80 % 以上の相同性を有するアミノ酸配列
[19]前記酵素結晶が、還元反応を触媒する酵素の結晶である。
[20]前記酵素結晶が、バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼの結晶である。
[21]前記バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼが、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有する請求項5に記載の酵素結晶固定化電極。
(A)配列番号6に示すアミノ酸配列
(B)配列番号8に示すアミノ酸配列
(C)(A)又は(B)のアミノ酸配列と80 % 以上の相同性を有するアミノ酸配列
【0020】
上記[12]の構成によれば、酵素結晶が導電性基材に固定化された酵素結晶固定化電極の製造方法を提供できる。酵素結晶は酵素分子が分子レベルでの規則性を保持した状態で整列していることから、電極触媒である酵素を導電性基材表面に、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えて固定化することができる。そして、酵素結晶は機能性分子のまま触媒活性を保持した形態で固定化される。特に、導電性基材表面上で酵素の結晶化を行うことにより、更に配向性を揃えることが可能となり、また、結晶状態を崩すことがない様態で酵素結晶を電極に固定化できる。これにより、電子伝達を円滑に進めることができ、かつ優れた電極性能を発揮することができる酵素結晶固定化電極を提供することができる。また、電極の電流密度、特に初期電流の増加を期待できる。従来の酵素を溶媒に分散させた溶液状態での固定化方法では、酵素濃度が高くなると、分散性が悪くなり、酵素は導電性基材表面上に凝集した状態で固定化されてしまい、電極の電子伝達の円滑な進行を妨げ電極性能の低下をもたらすという問題点があった。しかし、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えた状態での酵素の固定を可能とする酵素結晶固定化電極の製造方法は、かかる問題点を解消するものである。したがって、従来型の酵素電極よりも極めて優れた電極性能を有するが酵素結晶固定化電極を製造できることから、バイオ電池やバイオセンサーをはじめとして種々の産業分野に利用することができる産業上利用価値の高い技術である。
上記[13]の構成によれば、酵素結晶固定化電極に固定化される酵素結晶を、電極触媒としての機能が最大限に発揮できる所望の大きさ、形状及び品質に調整することができ、これにより、電子伝達を円滑に進めることができ、かつ優れた電極性能を発揮することができる酵素結晶固定化電極を提供することができる。
上記[14]の構成によれば、酵素結晶が導電性基材上に固定化された酵素結晶固定化電極を提供できる。導電性基材上で酵素の結晶化を行ったことから、酵素結晶は酵素分子が分子レベルの規則性を保持した状態で整列された状態で導電性基材上に固定化される。したがって、酵素結晶固定化電極は、電極触媒である酵素を導電性基材表面に、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えて固定化され、特に配向性の統一が図れている。そして、酵素結晶は機能性分子のまま触媒活性を保持した形態で、かつ、結晶状態を崩すことがない様態で、導電性基材上に固定化されている。そのため、酵素結晶固定化電極は、電子伝達を更に円滑に進めることができ、優れた電極性能を発揮することができる。従来の酵素を溶媒に分散させた溶液状態での固定化では、酵素濃度が高くなると、分散性が悪くなり、酵素は導電性基材上に凝集した状態で固定化されてしまい、電極の電子伝達の円滑な進行を妨げ電極性能の低下をもたらすという問題点があった。しかし、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えた状態で酵素が固定された酵素結晶固定化電極は、かかる問題点を解消するものである。したがって、従来型の酵素電極よりも極めて優れた電極性能を有するが酵素結晶固定化電極は、バイオ電池やバイオセンサーをはじめとして種々の産業分野に利用することができる産業上利用価値の高い電極である。
更に、上記[15]の構成によれば、微小な領域に超高濃度の酵素を、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えた状態で固定化された微小電極を提供でき、微小電極の利用価値を更に高めることができる。
また、上記[16]~[18]の構成によれば、酸化反応を触媒する酵素を酵素結晶として固定化することにより、バイオ電池及びバイオセンサー等に利用可能な電極を提供できる。バイオ電池の電極とする場合には、アノードとして利用することができる。また、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼは、反応速度が非常に速く、また溶存酸素の影響を受けにくく、電極に直接固定化できることから電極反応、引いては電極構造を簡素化することができるという利点があることから、更に産業上利用価値の高い電極を提供することができる。ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼはグルコースを基質とすることから、グルコースセンサーや、グルコースを燃料としたバイオ電池への応用等、医療、食品、環境分野等、様々な分野に利用することができる。
更に、上記[19]~[21]の構成によれば、還元反応を触媒する酵素を酵素結晶として固定化することにより、バイオ電池及びバイオセンサー等に利用可能な電極を提供できる。バイオ電池の電極とする場合には、カソードとして利用することができる。また、バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼは、マルチ銅オキシダーゼであり、分子内に酵素活性に必要な4原子の銅を含むタンパク質である。そして、基質から取り出した電子を用いて分子状酸素を電子還元し水分子を生成する反応を触媒する酵素であることから、電極触媒として利用することができる。特に、酸素を還元できることからバイオ電池のカソードとして利用価値が高い。更に、フェノール性化合物を検出するためのバイオセンサーとしても利用価値が高い。したがって、電子、医療、食品、環境分野等の様々な分野に利用することができる。
【0021】
[22]本発明の酵素結晶固定化電極を備えるバイオ電池。
[23]前記酵素結晶が、酸化反応を触媒する酵素である。若しくは、アシネトバクター カルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの結晶である。又は、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有するアシネトバクター カルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの結晶である。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列
(C)(A)又は(B)のアミノ酸配列と80 % 以上の相同性を有するアミノ酸配列
[24]前記酵素結晶が、前記酵素結晶が、還元反応を触媒する酵素である。若しくは、バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼの結晶である。又は、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有するバチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼの結晶である。
(A)配列番号6に示すアミノ酸配列
(B)配列番号8に示すアミノ酸配列
(C)(A)又は(B)のアミノ酸配列と80 % 以上の相同性を有するアミノ酸配列
[25]アノードとカソードを対向させて電極を形成し、前記アノードとカソードを隔離するようにイオン伝導性物質を配置する酵素固定化電極を備えるバイオ電池の製造方法であって、前記電極が本発明の酵素結晶固定化電極である。
[26]アノードが、酸化反応を触媒する酵素の結晶を固定化した酵素結晶固定化電極である。若しくは、アシネトバクター カルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの結晶を固定化した酵素結晶固定化電極である。又は、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有するアシネトバクター カルコアセティカス由来のピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの結晶を固定化した酵素結晶固定化電極である。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列
(B)配列番号4に示すアミノ酸配列
(C)(A)又は(B)のアミノ酸配列と80 % 以上の相同性を有するアミノ酸配列
[27]カソードが、還元反応を触媒する酵素の結晶を固定化した酵素結晶固定化電極である。若しくは、バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼの結晶を固定化した酵素結晶固定化電極である。又は、下記(A)~(C)の何れかのアミノ酸配列を有するバチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼの結晶を固定化した酵素結晶固定化電極である。
(A)配列番号6に示すアミノ酸配列
(B)配列番号8に示すアミノ酸配列
(C)(A)又は(B)のアミノ酸配列と80 % 以上の相同性を有するアミノ酸配列
【0022】
上記[22]~[24]の構成によれば、電子伝達を更に円滑に進めることができ、優れた電極性能を発揮することができる酵素結晶固定化電極を備えたバイオ電池を提供することができる。酵素結晶固定化電極は、優れた電極性能を発揮することができることから、これを利用することにより高容量及び高出力の発電を可能とし、発電効率が非常に高く、かつ耐久性に優れた高性能なバイオ電池を提供することができる。
そして、上記[25]~[27]の構成によれば、電子伝達を更に円滑に進めることができ、優れた電極性能を発揮することができる酵素結晶固定化電極を備えたバイオ電池の製造方法を提供することができる。酵素結晶固定化電極は、優れた電極性能を発揮することができることから、これを利用することにより高容量及び高出力の発電を可能とし、発電効率が非常に高く、かつ耐久性に優れた高性能なバイオ電池を製造することができる。
【0023】
[28]本発明の酵素結晶固定化電極を備えるバイオセンサー。
【0024】
上記[28]の構成によれば、電子伝達を更に円滑に進めることができ、優れた電極性能を発揮することができる酵素結晶固定化電極を備えたバイオセンサーを提供することができる。酵素結晶固定化電極は、優れた電極性能を発揮することができることから、これを利用することにより高精度、かつ耐久性に優れたバイオセンサーを提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1A】イオン交換クロマトグラフィー精製によるタンパク質の溶出挙動を、タンパク質濃度の尺度である280 nmでの吸光度をもって解析した結果を示す実施例1の結果を示すグラフである。
【図1B】イオン交換クロマトグラフィー精製によるタンパク質の溶出挙動を、SDS-PAGE電気泳動をもって解析した結果を示す実施例1の結果を示す電気泳動図である。
【図2】アフィニティークロマトグラフィーのみで精製した場合、及び、アフィニティークロマトグラフィーとイオン交換クロマトクロマトグラフィーを組み合わせて精製した場合の酵素の純度をSDS-PAGE電気泳動をもって比較した実施例2の結果を示す電気泳動図である。
【図3A】実施例3にて作製した酵素結晶(結晶の集合体)を示す写真である。
【図3B】実施例3にて作製した酵素結晶(単結晶)を示す写真である。
【図4A】実施例3のシッティングドロップ法での結晶化反応のための装置を模式的に示す図である。
【図4B】実施例3で実施したシッティングドロップ法での結晶化反応の様子を示す写真である。
【図4C】実施例3で実施したシッティングドロップ法での結晶化反応により形成された酵素結晶を示す写真である。
【図5A】実施例4で酵素結晶中の酵素量の測定のために使用した酵素結晶1個の顕微鏡観察像である。
【図5B】酵素結晶中の酵素量と、最高濃度の酵素溶液中の酵素量をアクリルアミドゲル電気泳動で比較した実施例4の結果を示す電気泳動図である。
【図6A】実施例6で作製した酵素結晶固定化電極作製のために使用した酵素結晶の顕微鏡観察像である。
【図6B】実施例6で作製した酵素結晶固定化電極のグルコースに対する触媒電流の応答値の経時変化を示すグラフである。
【図7A】実施例7で実施した導電性基材表面上でのシッティングドロップ法での結晶化反応の様子を示す写真である。
【図7B】実施例7で作製した導電性基材上に形成された酵素結晶の顕微鏡像である。
【図8】実施例7で作製した酵素結晶固定化電極のグルコースに対する触媒電流の応答値の経時変化を示すグラフである
【図9】実施例6で作製した酵素結晶固定化電極と、実施例7で作製した酵素結晶固定化電極の、その触媒機能を電流密度に換算して比較した実施例8の結果を示すグラフである。
【図10A】導電性基材上で結晶成長させた場合の酵素結晶化効率の見積もった実施例9の結果を示す電気泳動図である。
【図10B】専用容器内で結晶成長させた場合の酵素結晶化効率の見積もった実施例9の結果を示す電気泳動図である。
【図11A】MonoQカラム精製における溶出画分(溶出初期)をSDS-PAGEにより確認した実施例10の結果を示す電気泳動図である。
【図11B】MonoQカラム精製における溶出画分(溶出後期)をSDS-PAGEにより確認した実施例10の結果を示す電気泳動図である。
【図12】実施例10で精製した精製酵素の純度を確認した実施例11の結果を示す電気泳動図である。
【図13】実施例10で精製した精製酵素の触媒活性におけるpH特性を確認した実施例13の結果を示すグラフである。
【図14】実施例10で精製した精製酵素の触媒活性における温度依存性を確認した実施例14の結果を示すグラフである。
【図15A】実施例15(表4の丸印の条件)で作製した酵素結晶の顕微鏡による観察像示す写真である。
【図15B】実施例15(表4の丸印の条件)で作製した酵素結晶の顕微鏡による観察像示す写真である。
【図16A】実施例15(表5の二重丸印の条件)で作製した酵素結晶の顕微鏡による観察像示す写真である。
【図16B】実施例15(表5の二重丸印の条件)で作製した酵素結晶の顕微鏡による観察像示す写真である。
【図17】実施例10で精製した精製酵素を固定化した酵素固定化電極の触媒電流をクロノアンペロメトリー法によって測定した実施例16の結果を示すグラフである。
【図18】実施例15で作製した酵素結晶を固定化した酵素結晶固定化電極の触媒電流をサイクリックボルタンメトリー法によって測定した実施例18の結果を示すグラフである。
【図19】実施例15で作製した酵素結晶を固定化した酵素結晶固定化電極の触媒電流をクロノアンペロメトリー法によって測定した実施例19の結果を示すグラフである。
【図20】酵素結晶固定化電極を用いたバイオ電池セルによる性能評価を検討した実施例20の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本願発明について詳細に説明する。

【0027】
本発明の酵素結晶固定化電極は、外部回路に接続できる導電性基材、及び前記導電性基材上に固定化された酵素結晶を含んで構成される。酵素結晶は酵素分子が分子レベルの規則性を保持した状態で整列していることから、酵素結晶固定化電極は、電極触媒である酵素を導電性基材表面に、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えて固定化される。具体的には、酵素は4,000 mg/cm2以上の密度で固定化でき、従来技術における最大固定化量に比べて固定化量を大幅に増加することができる。

【0028】
本発明の酵素結晶固定化電極で使用できる酵素は、酵素の触媒反応と、電極反応を共役させ得ることができる限り特に制限は無く、何れの酵素をも利用することができる。例えば、酸化還元酵素、加水分解酵素、転移酵素等を利用することができる。これに限定するものではないが、酸化還元酵素の利用が好ましい。酸化還元酵素としては、国際生化学・分子生物学連合による酵素番号(Enzyme Commission number)EC.1.に分類される酵素が利用できる。例えば、
デヒドロゲナーゼ、オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ヒロドキシラーゼ、又はオキシゲナーゼ、レダクターゼ等を含む。具体的には、グルコースオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、アルデヒドオシキダーゼ、乳酸オキシダーゼ、ピルビル酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、ピルビル酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、アルデヒドレダクターゼ、グルコースフルクトースオキシドレダクターゼ
、脂肪酸ペルオキシダーゼ、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ及びカタラーゼ、ラッカーゼ等のマルチ銅酵素等を例示することができる。補酵素要求性の有無についても特に制限はなく、補酵素としては、ニコチン酸、リボフラビン等のビタミン補酵素、ピロロキノリンキノン等のキノン補酵素等が例示される。また、補酵素を要求する酵素についても、アポ形態、ホロ形態の別をも問わない。これら酵素は単独で、若しくは複数組み合わせて利用することができる。したがって、例えば、任意の酵素と、その酵素に共役する他の任意の酵素とを組み合わせて用いることによって、共役系を構築することもできる。

【0029】
好ましくは、グルコースデヒドロゲナーゼであり、ピロロキノリンキノン(以下、「PQ Q」と略する。)をその触媒活性の発現において補酵素として要求するPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、NAD+をその触媒活性の発現において要求するNAD+依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ等が含まれる。特には、アシネトバクター カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)由来のグルコースデヒドロゲナーゼ(GENBANK ACCESSION No : 15871、Cleton-Jansen,A.M., Goosen,N., Vink,K. and van de Putte,P.他著、「Cloning, characterization and DNA sequencing of the gene encoding the Mr 50,000 quinoprotein glucose dehydrogenase from Acinetobacter calcoaceticus(アシネトバクター カルコアセティカス由来のMr 50,000のキノプロテイン グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子のクローニング、特徴付け、及びDNAシークエンシング)」、JOURNAL Mol. Gen. Genet.、第217巻、第2~3巻、第430~436頁、1989年)を好適に利用することができる。この酵素は、Acinetobacter細菌のペリプラズム画分に存在しており、酸化により得られた電子を呼吸鎖に渡すことでエネルギー生産に関与している。活性の発現には、PQQとカルシウムイオンが必須で、カルシウムイオンは触媒反応に関与する他にホモ2量体形成にも関係していることが知られている。この酵素は、他のグルコース酸化酵素に比べ、反応速度が非常に速く、また溶存酸素の影響を受けにくいという特徴があるため酵素電極として利用価値が非常に高い酵素である。そのため自己血糖測定器に広く利用され、またグルコースを燃料とした酵素電池の酵素触媒としての応用が期待されている。グルコースデヒドロゲナーゼをバイオ電池の酵素触媒とする場合には、負極つまりアノード側触媒とすることが好ましい。

【0030】
また、ラッカーゼをも好ましく利用することができる。ラッカーゼは、フェノールオキシダーゼの総称である。酸素の存在下、基質としてフェノール性化合物を酸化する酵素である。この酵素は、マルチ銅オキシダーゼであり、分子内に酵素活性に必要な4原子の銅を含むタンパク質である。そして、基質から取り出した電子を用いて分子状酸素を電子還元し水分子を生成する反応を触媒する酵素である。基質としては、2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム塩(2,2'-Azinobis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic Acid Ammonium Salt:以下「ABTS」と略する)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、フェノール、グアヤコール、ピロガロール、p-ヒドロキシ安息香酸、カフェイン酸、ヒドロカフェイン酸、o-クレゾール、p-トルイジン、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,6-ジクロロフェノール、2,4,6-トリクロロフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、p-フェニレンジアミン、没食子酸プロピル等を例示することができる。したがって、ラッカーゼを電極触媒とすることでフェノール性化合物を検出するバイオセンサーを構築することができる。また、電子を利用して酸素を還元できることからバイオ電池の正極つまりカソードとして利用価値が高い。したがって、酵素電池の酵素触媒としての応用が期待されている。特には、バチルス・サブティリス由来CotAラッカーゼ(Martins LO他著、J Biol Chem.、2002年、第277巻、第21号、第18849~59頁(先行技術文献の非特許文献1)、及びEnguita FJ他著、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、2002年、58(Pt 9)、第1490~3頁(先行技術文献の非特許文献2)を好適に利用することができる。

【0031】
また、酵素の由来も特に限定されない。したがって、天然に存在する細菌、酵母、及び動植物等の任意の生物体から適当なタンパク質の単離精製技術により調製された天然由来のものであってもよく、遺伝子工学的手法により組換え体として製造されたもの、あるいは化学的に合成されたものであってもよい。

【0032】
本発明においては、遺伝子組換え手法を用いて、組換えタンパク質として酵素を取得することが好ましい。多くの酵素のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列は公知であり、GenBank、EMBL、DDBJ等の遺伝子配列データベースから取得することができる。そして、当業者であれば、塩基配列の情報に基づいて、所望の酵素遺伝子をクローニングすることができる。一例として、上述のアシネトバクター カルコアセティカス由来のグルコースデヒドロゲナーゼ(GENBANK ACCESSION No : 15871)の配列情報を配列表の配列番号1(塩基配列)及び配列番号2(アミノ酸配列)に示す。また、ここで提示する配列番号3(塩基配列)及び配列番号4(アミノ酸配列)をも利用することができる。また、バチルス・サブティリス由来CotAラッカーゼの配列情報を配列表の配列番号5(塩基配列)及び配列番号6(アミノ酸配列)に示す。また、ここで提示する配列番号7(塩基配列)及び配列番号8(アミノ酸配列)をも同様に利用することができる。

【0033】
具体的には、所望の酵素遺伝子の塩基配列を基にして作製したDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、生物体由来のゲノムDNA、全RNAから逆転写反応によって合成したcDNA等から所望の酵素をコードする核酸分子を調製することができる。ここで用いられるプローブは、所望の酵素と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。このようなプローブとしては、所望の酵素をコードする核酸分子の塩基配列に基づき、この塩基配列の連続する10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20~50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。そして、プローブは必要に応じて適当な標識が付されていてよく、このような標識として放射線同位体、蛍光色素等が例示される。

【0034】
また、所望の酵素遺伝子の塩基配列を基にして作製したプライマーとして用いるPCRによっても同様に、生物体由来のゲノムDNA、cDNAを鋳型として所望の酵素をコードする核酸分子を調製することができる。PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、所望の酵素をコードする核酸配列と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいてプライマーの設計を行う。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、所望の増幅領域を挟んで設計され、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20~50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。

【0035】
ここで、相補的とは、プローブ又はプライマーと標的核酸分子とが塩基対合則に従って特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プローブ又はプライマーと標的核酸分子が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの核酸塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。その塩基数は、標的核酸分子を特異的に認識するために十分に長くなければならないが、長すぎると逆に非特異的反応を誘発するので好ましくない。したがって、適当な長さはGC含量等の標的核酸の配列情報、並びに、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件など多くの因子に依存して決定される。

【0036】
更に、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の酵素をコードする核酸分子を化学的に合成することができる。

【0037】
そして、得られた核酸分子用いて、当業者に公知の遺伝子組換え技術により所望の酵素を製造することができる。

【0038】
具体的には、所望の酵素をコードする核酸分子を適当な発現ベクター中に挿入し、これを宿主に導入することによって形質転換体を作製する。ここで、利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、外来遺伝子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。そして、ベクターは、外来遺伝子がその機能を発現できるように組み込まれ、機能発現に必要な他の既知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、例えば、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく既知のプロモータ配列を利用できる。更に、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性などの遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。

【0039】
ベクターへの外来遺伝子の挿入は、例えば、適当な制限酵素で所望の酵素をコードする核酸分子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法などを用いることができるが、これに限定されない。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、既知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(タカラバイオ社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。

【0040】
形質転換体の作製に際して宿主となる細胞としては、外来遺伝子を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物細胞を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E.coli DH5α、E.coli BL21、E.coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS-7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等を既知の方法を利用することができる。

【0041】
続いて、得られた形質転換体を、導入された核酸分子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養し、所望の酵素を製造する。培養は、常法に準じて行うことができ、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。

【0042】
所望の組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。

【0043】
形質転換体の培養物から、所望の酵素を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いることができる。精製は、上記形質転換体の培養物から、所望の酵素の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、所望の酵素が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS-PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー等の公知の単離精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。特にアフィニティークロマトグラフィーを利用する場合、所望の酵素をヒスチジンタグ(His-tag)等のタグペプチドとの融合タンパク質として発現させて、かかるタグペプチドに対する親和性を利用することが好ましい。また、所望の酵素が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理などの酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、前述の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。

【0044】
また、アミノ酸配列が公知である酵素については、化学的合成技術によっても製造することができる。例えば、所望の酵素のアミノ酸配列の全部、又は一部を、ペプチド合成機を用いて合成し、得られるポリペプチドを適当な条件の下で、再構築することにより調製することもできる。

【0045】
本発明で使用する酵素はさらに、天然由来の酵素に人為的に変異を施した改変体であってもよい。また、蛍光物質、放射線同位体等の各種標識化合物による修飾、抗体やタグペプチド等の他のタンパク質と融合した形態のものであってもよい。

【0046】
ここで、改変体とは、天然由来の酵素の特定のアミノ酸に改変が生じている改変部位を有するアミノ酸配列を含むものを意味する。改変とは、改変の基礎となるタンパク質のアミノ酸配列のうち、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および付加の少なくとも1つからなる改変が生じていることを意味する。そして、「1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする遺伝子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入又は付加することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、挿入又は付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。例えば、このような改変体は、配列番号2又は4で示すアミノ酸配列に対して、アミノ酸レベルで70 %以上、好ましくは80 % 以上、更に好ましくは90 %以上の相同性を保持するものとすることができる。

【0047】
このような改変体は、公知の変異導入技術を利用することにより作製できる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR等を利用して点変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標)Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)等を利用してもよい。また、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の改変を施した酵素をコードする核酸分子を構築することによって行なうことができ、これを、上記した当業者に公知の遺伝子組換え技術により所望の酵素を製造することができる。

【0048】
酵素の結晶化に際しては、高純度に精製された酵素を使用することが好ましい。したがって、結晶化に先立って、必要に応じて酵素を精製する。酵素の精製には、通常のタンパク質の分離・精製手法を使用することができ、例えば、液体クロマトグラフィ(ゲルろ過法、イオン交換クロマトグラフィ、等電点クロマトグラフィ、疎水性クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ)、また、精製対象とするタンパク質が耐熱性を有する場合は熱処理法、等の公知の分離・精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。

【0049】
更に、結晶化に際しては、酵素は濃縮された状態であることが好ましく、精製後に必要に応じて濃縮処理される。例えば減圧濃縮、限外濾過膜等による膜濃縮、更に硫酸アンモニム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理を例示することができるが、これに限定されるものではない。

【0050】
酵素の結晶化は、酵素を過飽和させた溶液中で、塩濃度、蒸発、温度、pHまたは沈殿剤濃度を変化させることにより、溶解度を徐々に下げることによって、溶液内に溶けていた酵素を析出させることによって行われる。一般には、酵素の結晶化は、酵素溶液に酵素溶解度を下げる沈殿剤を加えることによって行われ、沈殿剤として、例えば、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等の無機塩類、ポリエチレングリコール等の高分子、および2-メチル-2,4-ペンタネジオール、エタノール、イソプロパノール等の有機化合物等、いずれを使用することができる。具体的な手法としては、公知のいずれの手法をも用いることができ、例えば、蒸気拡散法、透析法、バッチ法、界面拡散法、温度勾配法等を利用することができ、蒸気蒸散法としては、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法、サンドイッチドロップ法等を利用できる。なかでも、シッティングドロップ法、ハンギングドロップ法が汎用技術として当業者間で認識されている。両者は、沈殿剤を含む酵素溶液の液滴と、より高濃度の沈殿剤溶液を、一つの閉鎖空間内に直接接触しないように密閉し静置する方法である。これにより、沈殿剤濃度の低い酵素溶液の液滴から発した水蒸気は、蒸気平衡によって濃度の高い沈殿剤溶液に徐々に取り込まれ、それにより、酵素溶液の液滴中のタンパク質濃度と沈殿剤濃度が同時に上昇し、過飽和状態が形成され、結晶化に至るというものである。液滴の置き方によりシッティングドロップ法、ハンギングドロップ法に区別され、シッティングドロップ法とは、閉鎖空間内部に液滴台を設置し、その液滴台上に酵素溶液の小滴を静置して密閉する方法であり、ハンギングドロップは、酵素溶液の液滴を、閉鎖空間内の上部のガラス板からぶらさげて密閉する方法である。

【0051】
酵素の結晶化に最適な条件は、酵素の種類によって全く異なることから、固定化の対象となる酵素の種類に応じて、好適な条件を適宜選択し決定する。例えば、アシネトバクター カルコアセティカス株由来のPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの場合には、Oubrie A, Rozeboom HJ, Kalk KH, Olsthoorn AJ, Duine JA, Dijkstra BW.著、「Structure and mechanism of soluble quinoprotein glucose dehydrogenase.(可溶性キノプロテイン グルコースデヒドロゲナーゼの構造とメカニズム)」、EMBO J.、1999年、第18巻、第19号、第5187~5194頁、Oubrie A, Rozeboom HJ, Kalk KH, Duine JA, Dijkstra BW.著、「The 1.7 A crystal structure of the apo form of the soluble quinoprotein glucose dehydrogenase from Acinetobacter calcoaceticus reveals a novel internal conserved sequence repeat.(アシネトバクター カルコアセティカス由PersonName良の可溶性キノプロテインのアポ型の1.7 A結晶構造が新規な内部保存配列反復を明らかにする)」 J Mol Biol.、1999年、第289巻、第2号、第319~333頁を参照することができる。具体的には実施例3に記載の条件に準ずる条件を例示できる。また、バチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼの場合には、Enguita FJ他著、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、2002年、58(Pt 9)、第1490~3頁を参照することができる。具体的には実施例15に記載の条件に準ずる条件を例示できる。しかしながら、好適な結晶化条件が確立されていない酵素の場合には、結晶化条件検索のためのスクリーニングを行う必要がある。結晶化の条件は、例えば、結晶化対象となる酵素の純度、濃度、酵素溶液のイオン強度、濃度、温度、沈殿剤の種類等の最適化を行う必要がある。検討を行った条件が、当該酵素の結晶化において好適であるか否かの判断は、結晶の成否、生成した結晶の大きさ、X線結晶構造解析データ等を検討することにより行うことができる。本発明の酵素結晶固定化電極に適した酵素結晶の大きさは、可能な限り大きい方が好ましいが、通常は0.1~1mm、特に好ましくは0.5~1mm程度である。また、結晶化条件のスクリーニングには、ハンプトンリサーチ社のCrystal Screenキット、Crystal Screen IIキット等の市販のスクリーニングキットを使用することもできる。本発明において、酵素結晶は、水等の溶媒を40~70%程度含んだ酵素結晶として調製されることが好ましく、単結晶、多結晶の別は問わない。また、補酵素を要求する酵素の場合には、アポ型のみならずホロ型酵素の形態で結晶化させることも可能である。

【0052】
本発明の酵素結晶固定化電極で使用できる導電性基材としては、グラファイト、グラッシーカーボン等のカーボン材、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、パラジウム等の金属又は合金、SnO2、In2O3、WO3、TiO2等の導電性酸化物等、従来公知の材質の導電性基材を使用することができる。また、これを単層又は2種以上の積層構造をもって構成してもよい。また、導電性向上のため、市販のケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭粉末等の導電性カーボン微粒子を基材に塗布してもよい。導電性基材の大きさ及び形状等は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜調整することができる。特に本発明の酵素結晶固定化電極は、マイクロメートルオーダーに電極面積を小さくした微小電極として構成することができる。電極を微細化することによって、高速な応答特性や感度の向上などこれまでの測定限界を凌駕することから、微小電極を用いる電気化学測定が注目を集めている。微小電極では、拡散のプロフィールが、従来の平板電極における面拡散とは異なり、(半)円柱状拡散や(半)球状となるため、単位面積当たりに拡散してくる酸化還元種の量が増加する。このため、従来の拡散律速の状態では物質移動が電極反応に追いつかず、拡散層が時間と共に沖合いに成長していくため、応答は定常状態とならなかった。これに対し、微小電極を用いると十分に物質が供給できるようになり、その形状によっては、定常な応答を示すようになる。本発明の酵素結晶固定化電極は、微小な領域に、超高濃度の酵素を固定化することができる唯一の技術となり得る。

【0053】
導電性基材上への酵素の固定化は、公知の方法によって行うことができる。例えば、導電性基材上に酵素結晶を塗布した後、これをポリマーで被覆して固定化することが例示される。また、アルギン酸,カラギーナン等の多糖類、導電性ポリマー、酸化還元ポリマー、光架橋性ポリマー等の網目構造をもつポリマー、透析膜等の半透性膜内に封入して固定化する包括法等をも利用することができる。物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定化する担体結合法を利用することもできる。好ましくは、親水性のポリマーで被覆することが好ましい。また、これらを組み合わせて用いてもよく、各々の酵素結晶に最適化な酵素固定化法を適宜選択することが望ましい。

【0054】
導電性基材上で酵素を結晶化させることにより固定化することもできる。例えば、上記で説明したシッティングドロップ法において、閉鎖空間内部に形成される液滴台を導電性基材とし、その導電性基材上に酵素溶液の小滴を静置して密閉することにより、導電性基材表面上で酵素の結晶化と同時に酵素の固定化を行うことができる。これにより、結晶状態を崩すことがない様態で、酵素結晶を電極に固定化できると共に、更に、酵素の配向性の統一を図ることができる。そして、補酵素を要求する酵素の場合には、アポ型のみならずホロ型酵素の形態で結晶化と同時に固定化させることも可能である。

【0055】
酵素として、ピロロキノリンキノン(PQQ)、ナイアシン(NAD、NADP)等の補酵素又は補因子を必要とする酵素、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ等を用いる場合には、補酵素を含むホロ酵素の状態で固定化することが好ましい。しかしながら、アポ酵素の形態で固定化し、補酵素を別の層として、又は、適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。また、その他の、酵素の触媒活性の発現のために必要な物質を、別の層として、又は、適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。

【0056】
以上のように構成することにより、本発明の酵素結晶固定化電極は、電極触媒である酵素を導電性基材表面に、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えて固定化されている。そのため、酵素結晶固定化電極は、電子伝達を円滑に進めることができ、優れた電極性能を発揮することができる。従来の酵素を溶媒に分散させた溶液状態での固定化では、酵素濃度が高くなると、分散性が悪くなり、酵素は導電性基材表面上に凝集した状態で固定化されてしまい、電極の電子伝達の円滑な進行を妨げ電極性能の低下をもたらすという問題点があった。しかし、均一、高密度、かつ一定の配向性を揃えた状態で酵素が固定された酵素結晶固定化電極は、かかる問題点を解消するものである。また、本発明の酵素結晶固定化電極は、触媒機能を保持した、機能性分子の形態で酵素を高密度に固定化できる初めての技術である。酵素分子同士を多官能性の試薬により架橋すると、架橋化の度合いが大きいほど酵素分子間の結合が強化され安定性は増大するが、同時に酵素活性が低下することが知られている(特開2007-236317)。つまり、本発明は、触媒活性の低下の要因となる架橋剤等を使用することなく、酵素結晶を機能性分子のまま固定化することができ、これにより優れた電極性能を発揮することができる。特に、結晶を電極上で成長させることで、結晶状態を崩すことがない様態で、酵素結晶を電極に固定化できる。したがって、本願発明の酵素結晶固定化電極は、電極触媒として高い触媒活性を維持できることから、バイオ電池、バイオセンサー等に好適に利用することができる。

【0057】
(本発明のバイオ電池)
本発明の酵素結晶固定化電極は、バイオ電池に利用することができる。本発明の酵素結晶固定化電極は、電極の電子伝達が円滑に進行することができる電極性能に優れたものである。これを利用することのより、高容量及び高出力の発電が可能となり、発電効率が非常に高く、かつ優れた耐久性をもつ高性能なバイオ電池を構築することができる。つまり、酵素をはじめとするタンパク質は、溶液状態よりも結晶化状態にあるときに安定であることから、酵素結晶を固定化電極を利用したバイオ電池は優れた耐久性を有する。本発明のバイオ電池は、例えば、酸化反応を行うアノード極(負極)と、還元反応を行うカソード極(正極)から構成され、必要に応じてアノードとカソードを隔離する電解質層であるイオン伝導性物質を含んで構成される。したがって、本発明においては、アノード側電極は、酸化反応を触媒する酵素の結晶が固定化された電極として構成されることが好ましい。酸化反応を触媒する酵素としては、好ましくは、糖、アルコール、有機酸、アミン、水素、無機化合物等のバイオ電池の燃料とすることができる物質を酸化することができるものであり、特に好ましくは、触媒活性が非常に高いPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼである。カソード側電極には、酸素や過酸化水素等の酸化剤を還元して電子を伝達することのできる触媒を固定化して構成される。カソード側電極として酵素結晶固定化電極を利用する場合には、例えば、ピルビン酸オキシダーゼ、ラッカーゼ等のマルチ銅酵素が好ましく例示される。特に好ましくはバチルス・サブティリス由来のCotAラッカーゼである。また、電解質層としては、電子伝達能を有さず、イオン伝導性を有するものであれば、何れの物質をも利用することができる。

【0058】
また、必要に応じて、酵素反応と電極間の電子伝達を媒介する電子メディエーターを用いる。メディエーターは、固定化される酵素結晶の種類に応じて最適な物質を選択すればよく、特に限定されるものではない。例えば、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、フェレドキシン類、フェロセンおよびその誘導体等が例示される。

【0059】
酵素として、ピロロキノリンキノン(PQQ)、ナイアシン(NAD、NADP)等の補酵素又は補因子を必要とする酵素を用いる場合には、補酵素を含むホロ酵素の状態で電極に固定化することが好ましい。しかしながら、アポ酵素の形態で固定化し、補酵素を別の層として、又は、適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。また、その他の、酵素の触媒活性の発現のために必要な物質を、別の層として、又は、適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。

【0060】
本発明のバイオ電池は、アノード及びカソード側電極の少なくとも一方を酵素結晶固定化電極として構成する。バイオ電池は、アノード極(プラス極)とカソード極(マイナス極)から構成されるが、マイナス極では燃料から電極に電子移動が生じ、その電子をプラス極で受け取ることにより、はじめて電流が流れる仕組みである。そのため、片方の極として酵素結晶固定化電極を使用しない場合には、その極での触媒電流値がリミットになり、両極を酵素結晶固定化電極とした場合と比較して、酵素結晶固定化電極としたバイオ電池の性能向上効果が低くなる。したがって、バイオ電池の性能の観点からは、双方の極を酵素結晶固定化電極として構成することが好ましい。

【0061】
このように構成することにより、アノード電極側の酵素結晶が燃料である基質を酸化して電子を受け取る。燃料としては、メタノール、エタノール、プロパノール、グリセロール等のアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、グルコース、フルクトース等の糖類やケトン類、アミン類、脂肪類、タンパク質、及びそれらの代謝中間生成物等を利用することができ、電極に固定化される酵素結晶の基質に応じて選択される。そして、この電子は、直接、又は酵素反応と電極間の電子伝達を仲介するためのメディエーターを通してアノード電極に受け渡たされる。そして、アノード電極から外部回路を通ってカソード電極に電子が受け渡されることによって電流が発生する。一方、アノード電極側で発生したイオンが電解質層を通ってカソード電極側に移動し、外部回路を通してアノード側から移動してきた電子と反応し水を生成する。

【0062】
グルコースデヒドロゲナーゼの酵素結晶を固定化し電極として利用する場合には、以下に示す電流応答が生じ、電流を発生することができる。
グルコース+グルコースデヒドロゲナーゼ(酸化型)
→ グルコノラクトン + グルコースデヒドロゲナーゼ(還元型);
H (還元型) → グルコースデヒドロゲナーゼ(酸化型) + H+ + e-

【0063】
また、ラッカーゼの酵素結晶を固定化し電極として利用する場合には、例えば、以下に示す電流応答が生じ、電流を発生することができる。この反応は、メディエーターとしてABTSを用いたものである。
4ABTS + O2 + 4H+ → 4ATBS・- + 2H2O
ATBS・- + e- → ATBS

【0064】
(本発明のバイオセンサー)
本発明の酵素結晶固定化電極は、バイオセンサーに利用することができる。本発明の酵素結晶固定化電極は、電極の電子伝達が円滑に進行することができる電極性能に優れたものであり、これを利用することにより、高精度、かつ耐久性に優れたバイオセンサーを構築することができる。本発明の酵素結晶固定化電極は、例えば、バイオセンサーの電極、好ましくは作用極として利用することができる。本発明のバイオセンサーは、酵素結晶固定化電極を作用電極、及びその対極を設けて二電極方式で構成してもよいし、測定精度の信頼性を高める観点から、銀塩化銀などの参照極を設けた三電極方式として構成してもよい。

【0065】
バイオセンサーによる測定は、測定試料をバイオセンサーと接触させ、電極上の固定化酵素結晶と基質の酸化還元反応により発生した電流を検知することで行われ、これにより、試料中の基質の存在の有無若しくは濃度を測定することができる。本発明のバイオセンサーを用いた測定法としては、酸化電流もしくは還元電流を測定するクロノアンペロメトリー(Chrono amperometry)またはクーロメトリー、サイクリックボルタンメトリー(Cyclic voltammetry)法など、公知の方法を利用することができる。

【0066】
そして、電極触媒としてグルコースデヒドロゲナーゼを用いた場合には、血糖値等のグルコースの検出に、またラッカーゼを用いた場合にはフェノール性化合物の検出に利用することができる。医薬、食品、環境等の分野において特に利用価値が高いバイオセンサーを構築することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例において、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。特に、本実施例においては、酵素結晶固定化電極として、アシネトバクター由来グルコースデヒドロゲナーゼ(実施例1~9)、及びバチルス・サブティリス由来CotAラッカーゼ(実施例10~20)を例にとって説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その触媒活性を電極反応に共役利用できる限り、あらゆる種由来、及びあらゆる理化学的性質を有する酵素に適用できるものである。
【実施例】
【0068】
まず、実施例1~9において、アシネトバクター由来グルコースデヒドロゲナーゼを酵素結晶固定化電極の触媒とした例について説明する。
【実施例】
【0069】
実施例1:酵素発現系の構築、大腸菌タンパク質合成系による酵素合成、及びタンパク精製
結晶化に際して、高純度の酵素を取得するため、遺伝子工学的手法を用いて組換えタンパク質として酵素を産生し、各種クロマトグラフィーを組み合わせることによって精製した。特に、結晶化に際しては、結晶化条件最適化のためのスクリーニング用に大量の精製酵素が必要である。
【実施例】
【0070】
ステップ1:アシネトバクター由来グルコースデヒドロゲナーゼの発現ベクターの構築
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)より購入したアシネトバクター・カルコアセティカスから、増幅によりグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子獲得し、この配列を元にGenBankに登録されているAcinetobacter calcoaceticus gdhB gene for glucose dehydrogenase-B (GDH-B)(ACCESSION No : 15871)のアミノ酸配列と同じアミノ酸となるよう配列の書き換えを行った。書き換えた配列をpET-22b(+)ベクターのNdeI/BamHIの制限酵素サイトに組み込み、発現プラスミドとした。このプラスミドをpET-22b(+)-sGdhと命名した。また、その塩基配列を配列表の配列番号3に、また該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列表の配列番号4に示す。
【実施例】
【0071】
ステップ2:大腸菌による組換え型タンパクの発現
pET-22b(+)-sGdh を用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、得られたコロニーをアンピシリン50μg/ml を含むLB培地Lu ria-Bertani培地(以下「LB/Amp培地」と略する。)300 mlに接種し、37℃で一晩培養した。続いて、ジャーファーメンターにLB/Amp培地を20L入れ、上記で調製した大腸菌の培養液200 mlを加えて、37℃で培養液の吸光度がOD600=0.1となるまで約1時間培養した。そして、組換えタンパク質合成誘導のため終濃度0.01 mMのイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside:IPTG)を添加して、28℃で一晩振盪培養した。培養液を遠心分離に供し、上清を除去した後、沈殿(菌体)を-80℃で以下の実験に使用するまで凍結保存した。これを以下のタンパク質精製に供した。精製は、アフィニティークロマト法(ステップ3)と、タンパク質の電荷特性に従うイオン交換クロマトグラフィー法(ステップ3~4)の2種の酵素精製法を組み合わせて行った。
【実施例】
【0072】
ステップ3:アフィニティークロマトグラフィーによるHis-tagタンパク質精製
上記ステップ2で発現させたタンパク質はHis-tag融合タンパク質であり、His-tagを介してタンパク質を精製した。凍結保存していたタンパク質発現菌体を、25 mM リン酸カリウム緩衝液に懸濁し、界面活性剤(0.4 % Brij-58)を加え、氷中で30分間静置した。次に、超音波破砕処理を行い、菌体懸濁液の粘性がなくなることを確認した後、遠心分離(4℃、40000×g、30分間)に供し、上清を分取した。次に、His-tag融合タンパク質精製用の金属アフィニティー担体(TALON)をオープンカラムに適当量充填し、20 mM リン酸ナトリウム、 5 mMイミダゾール、0.5 M NaCl溶液で前洗浄し、カラムを平衡化した。次に、遠心分離後の上清に0.5 M NaClを加え、これをカラムにアプライした。続いて、20 mM リン酸ナトリウム、 5 mMイミダゾール、0.5 M NaCl溶液で洗浄した後、20 mM リン酸ナトリウム、 500 mMイミダゾール、0.5 M NaCl溶液でタンパク質を溶出した。溶出後、溶出に用いた塩類(イミダゾールやNaCl等)を除去するため、25 mM Tris-HCl(pH7.4)緩衝液を外液として、
透析を一晩行った。
【実施例】
【0073】
ステップ4:イオン交換クロマトグラフィーによるタンパク質精製
上記ステップ3で取得したタンパク質溶液を、更に、タンパク質の電荷特性に従うイオン交換クロマトグラフィーを用いて精製した。
【実施例】
【0074】
クロマトグラフィー担体仕様
・担体:RESOURCE S(GE-Healthcare製)
・カラムサイズ: 0.46×10 cm
・ベッド体積: 1.7 ml
・荷電基: 負電化(-O-CH2-CHOH-CH2-O-CH2-CHOH-CH2-SO3-)
・結合容量: 25 mg/カラム
・推奨流速:6 ml/分
【実施例】
【0075】
RESOURCE Sによる精製は、25 mM リン酸カリウム(pH7.4)、1 mM EDTAをベース緩衝液として、担体を洗浄し平衡化した。続いて、ステップ3で取得した酵素溶液をカラムにアプライし、タンパク質を担体に吸着させた後、上記ベース緩衝液で担体を洗浄し不純物を除去した。続いて、ベース緩衝液を開始用緩衝液とし、0 ~500 mM KClの塩濃度勾配によりタンパク質を溶出した。具体的には、以下の条件で溶出した。
【実施例】
【0076】
溶出緩衝液組成
緩衝液A:25 mM リン酸カリウム(K1H2PO4)、1mM EDTA
緩衝液B:25 mM リン酸カリウム(K1H2PO4)、1mM EDTA、1M KCl
【実施例】
【0077】
そして、各溶出フラグメントについて、酵素濃度の尺度である280nmでの吸光度を分光光度計で測定するとともに、溶出フラクションをSDSポリアクリルアミド(SDS-PAGE)電気泳動に供し、タンパク質の溶出挙動について解析した。
【実施例】
【0078】
結果を図1に示す。図1Aは、各溶出フラクションにおける280nmでの吸光度をプロットした図であり、図1Bは、各溶出フラクションの電気泳動結果を示す。なお、図1中のセグメント(a)はKCl濃度100~105mMで溶出される酵素溶液、セグメント(b)はKCl濃度105~110mMで溶出される酵素溶液、セグメント(c)はKCl濃度115~130mMで溶出される酵素溶液、セグメント(d)はKCl濃度130~150mMで溶出される酵素溶液のフラクションを夫々集めたものである。その結果、溶出初期(KCl濃度100 mM前後)にタンパク質の溶出を示すシグナルが検出され、溶出後半で夾雑物のブロードなシグナルが検出された。タンパク質のシグナルは主に2つのピークに分かれており、これは、酵素の立体構造に係る何らかの要因に起因するものであると推察できる。
【実施例】
【0079】
続いて、ここで精製されたタンパク質は、タンパク質の溶出に用いたKClを除去するため、25 mM Tris-HCl(pH7.4)緩衝液、1 mM EDTAを外液として、透析を一晩行った。
【実施例】
【0080】
実施例2:精製酵素の純度検定
本実施例では、実施例1で取得した精製酵素が、結晶化に求められる高純度の酵素であることを確認した。具体的には、実施例1にて、アフィニティークロマトグラフィーで精製したタンパク質溶液中に存する酵素、及び、アフィニティークロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーを組み合わせて精製したタンパク質溶液中に存する酵素を定量することによって行った。なお、アフィニティークロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーを組み合わせて精製したサンプルとしては、図1B中のセグメント(c)の領域に相当するフラクションを使用した。
【実施例】
【0081】
まず定量に先立って溶出タンパク質の確認を行った。上記精製後のタンパク質溶液をSDS-PAGE電気泳動後、タンパク質染色剤Flamingo Fluorescent Gel Stain(バイオラド社製)で染色し、フルオロ・イメージングアナライザーFLA-3000(富士フィルム社製)によりバンドの可視化を行った。
【実施例】
【0082】
結果を図2に示す。
図中、レーン1は、アフィニティークロマトグラフィーのみで精製した酵素で、レーン2はアフィニティークロマトグラフィーとイオン交換クロマトクロマトグラフィーを組み合わせて精製した酵素の結果を示す。この結果から、アフィニティークロマトグラフィーとイオン交換クロマトクロマトグラフィーを組み合わせて精製することにより、夾雑物がほぼ除去されることが確認できた。
【実施例】
【0083】
続いて、純度を定量するために、各レーンの全シグナルの領域と、酵素シグナル領域のみの濃度測定を行った。具体的には、FLA-3000により可視化されたゲル上のタンパク質のバンドのシグナル強度を、全シグナル(サンプルの泳動開始の位置から、泳動の先端部までの短冊形)と、酵素シグナル(酵素のシグナル部分だけ)を付属の専用ソフトを使って数値化した。結果を表1に示す。
【実施例】
【0084】
【表1】
JP0005740754B2_000002t.gif
【実施例】
【0085】
この結果から、アフィニティークロマトグラフィーとイオン交換クロマトクロマトグラフィーを組み合わせて精製することで、夾雑物がほぼ除去された高純度の酵素溶液を得られることが確認できた。なお、図1Bのセグメント(c)の酵素の比活性を4,200 unit/mg)であるとした。
【実施例】
【0086】
実施例3:酵素の結晶化条件のスクリーニング、及び酵素の結晶化
本実施例においては、実施例1で精製した酵素を結晶化するための検討を行った。結晶化の対象として、実施例1で取得した酵素の図1Bのセグメント(c)の領域に相当するフラクションを使用し、結晶化は蒸気拡散法によって行った。図1Bのセグメント (c)を選択した理由は、図1Bのセグメント(b)(c)の領域に相当するフラクションにつき、酵素の沈殿剤溶液の緩衝液組成(50 mM Tris-HCl (pH9.3)、120 mM NaCl、3 mM CaCl2)中での安定性を比較したところ、数日間以上の保存安定性がセグメント(b)の方が僅かに低いことが判明した。そのため、酵素の質と量でもっとも好ましいセグメント(c)を結晶化対象として選択した。
【実施例】
【0087】
まず、結晶が析出する条件を突き止めるために、本実施例の対象としたアシネトバクター カルコアセティカスの可溶性のPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの立体構造解析のための酵素結晶の製造方法について開示された文献(Oubrie A, Rozeboom HJ, Kalk KH, Olsthoorn AJ, Duine JA, Dijkstra BW.著、「Structure and mechanism of soluble quinoprotein glucose dehydrogenase.(可溶性キノプロテイン グルコースデヒドロゲナーゼの構造とメカニズム)」、EMBO J.、1999年、第18巻、第19号、第5187~5194頁、Oubrie A, Rozeboom HJ, Kalk KH, Duine JA, Dijkstra BW.著、「The 1.7 A crystal structure of the apo form of the soluble quinoprotein glucose dehydrogenase from Acinetobacter calcoaceticus reveals a novel internal conserved sequence repeat.(アシネトバクター カルコアセティカス由来の可溶性キノプロテインのアポ型の1.7 A結晶構造が新規な内部保存配列反復を明らかにする)」 J Mol Biol.、1999年、第289巻、第2号、第319~333頁)に記載の結晶化条件を参考に、結晶化条件のスクリーニングを行った。
【実施例】
【0088】
具体的には、4μlの反応スケールで、酵素溶液と沈殿剤溶液を混合した。このとき、酵素濃度を7.5、10、12.5、15μg/μlとし、沈殿剤成分として19、20、21、22、23、24%のポリエチレングリコールを用いた。なお、沈殿剤溶液は、上記沈殿剤成分であるポリエチレングリコールを50 mM Tris-HCl (pH9.3)、120 mM NaCl、3 mM CaCl2緩衝液組成中に混和することにより調製した。次に、上記酵素溶液と沈殿剤溶液の混合液の液滴を、シリコンコートしたカバーグラス上に調製し、続いて、カバーグラス片を裏返して液滴のくぼみにかぶせて蒸気拡散法により結晶化を行った。30℃のインキュベーター中で7日間静置した後、結晶析出の有無を顕微鏡観察(倍率400倍)した。
【実施例】
【0089】
その結果、透明感のある膜状の固形物や、同じく透明感のある微結晶(約0.02 mm)が観察され、膜状の固形物は、酵素が集合しフィルム状になったものと推察された。また、酵素濃度が低い条件(酵素濃度7.5μg/μl、ポリエチレングリコール21%)では、1個の酵素結晶(約0.1 mm)が確認できたが、三次的な結晶成長は確認できなかった。したがって、本実験の反応条件では酵素濃度が高すぎるために、3次元的な結晶成長ができず、膜状になったり、微結晶で成長が停止したりしていると考えられた。
【実施例】
【0090】
上記の実験の結果をうけ、酵素濃度を0.5、1、2、3μg/μlに下げ、ポリエチレングリコール濃度20、21、22%として、再スクリーニングを行った。上記と同様に30℃のインキュベーター中で7日間静置した後で、結晶析出の有無を顕微鏡観察(倍率400倍)した。
【実施例】
【0091】
その結果、多数の酵素結晶(約1.0 mm)が確認できた。詳細には、酵素濃度:0.1~0.5μg/μlでは約0.1mm大の結晶が、酵素濃度1~2μg/μlでは約0.5mm大の結晶が、酵素濃度3~4μg/μlでは約1~5mm大の結晶が形成できることが確認できた。
【実施例】
【0092】
この観察結果から、高めの酵素濃度(3~4μg/μl)では、図3Aに示すような大きな結晶の集合体ができること、低い酵素濃度(1~2μg/μl)では、図3Bに示すようなPersonName良質でX線解析など構造解析に適した単結晶ができることが判明した。以上の結果を鑑み、本発明の利用に最適な0.5 mm程度の酵素結晶が形成できる条件として、結晶化条件を表2のように決定した。
【実施例】
【0093】
【表2】
JP0005740754B2_000003t.gif
【実施例】
【0094】
次に、反応をスケールアップさせるために、蒸気拡散法の一つである「シッティングドロップ法」での結晶化反応を行った。これにより、反応スケールを4μlから5倍の20μlにスケールアップすることができた。ここで実施したシッティングドロップ法の模式図を図4Aに示し、実際に結晶化反応を実施している様子を示す写真を図4Bに示す。説明を加えると、密閉容器内において、沈殿剤溶液の液層に酵素溶液を座らせるための専用容器である椅子を置き、その上で結晶成長させる仕組みになっている。なお、反応スケールをスケールアップしたため、結晶化のための反応時間を、30℃のインキュベーターで20日間と延長した。そして、上記と同様に、結晶析出の有無を顕微鏡観察(倍率400倍)に行った。
【実施例】
【0095】
結果を図4Cに示す。この結果、本条件下で、約0.5~1.0 mmの大きさの単結晶の形成が確認された。これにより、本発明の酵素結晶固定化電極の構築のための利用に適当した酵素結晶の取得ができることが判明した。
【実施例】
【0096】
実施例4:酵素結晶中のタンパク質濃度の比較
本実施例では、実施例3においてシッティングドロップ法により得られた酵素結晶中に含まれるタンパク質濃度を、溶液状態として存在することができる酵素の量と比較した。
【実施例】
【0097】
実施例3にて得られた酵素結晶1個を、結晶化反応液から分離した。結晶の分離は、結晶化反応液から専用の紙縒り(ハンプトンリサーチ社)を用いて液体部分を吸い取った後、顕微鏡下で専用の結晶ピッカー(ハンプトンリサーチ社)を使って拾い上げることで分離した。この酵素結晶1個の顕微鏡観察像を図5Aに示す。結晶化反応液から分離した酵素結晶を、20μlの50 mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に溶解させ、酵素結晶溶液とした。
【実施例】
【0098】
そして、酵素結晶溶液に含まれる酵素量を測定し、酵素結晶中に含まる酵素量を算出した。酵素量は、タンパク質濃度の尺度である280 nmでの吸光度を分光光度計で測定し、モル吸光係数ε=67,420と、分子量MW= 53,665として算出した。計算上、酵素結晶には、4,000mg/cm3濃度で酵素が含まれることが判明した。また、顕微鏡の視野にある定規から、結晶の縦・横・高さを計測し大まかに体積を見積もった。そして、この結晶の体積に相当する酵素の溶液に含まれると酵素量と、酵素結晶中の酵素量を比較した。なお、酵素溶液中に含まれる酵素量は、濃度40 mg/mlとして比較した。40 mg/mlという値は、ここで用いたアシネトバクター カルコアセティカス由来のPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼが、溶液状態の場合に濃度が50 mg/mlを超えると沈殿が生じたことから、溶液状態として存在することができる最高濃度は40 mg/mlであるとして導かれた数字である。この結果、酵素結晶とすることで、溶液状態の場合と比べて約100倍高い濃度の酵素を含め得ることが判明した。
【実施例】
【0099】
続いて、酵素結晶中に含まれる酵素量と、溶液状態の酵素溶液に含まれる酵素量を電気泳動により比較した。具体的には、上記で調製した酵素結晶溶液の一部を12.5%アクリルアミドゲル電気泳動に供し、CBB染色によりタンパク質のバンドを可視化した。比較対照として、結晶の体積に相当する酵素の溶液についても同様に電気泳動に供した。このとき、酵素の溶液の濃度は、上記した通り40 mg/mlである。
【実施例】
【0100】
結果を図5Bに示す。
図中、レーン1は上記で調製した酵素結晶の溶解液の原液、レーン2はレーン1での原液の1/2量、レーン3はレーン1での原液の1/4量の泳動結果を示す。レーン4は、比較対照の濃度40 mg/mlの酵素溶液、レーン5はレーン4での酵素溶液の1/2量、レーン6はレーン4での酵素溶液の1/4量の泳動結果を示す。この結果からも、上記した計算上の比較と同様、酵素溶液に比べ、酵素結晶が遥かに高い濃度の酵素を含んでいることが判明した。
【実施例】
【0101】
実施例5:酵素結晶固定化電極の作製
本実施例では、バイオ電池の電極触媒としての利用を想定し、酵素結晶固定化電極を作製するため、酵素結晶の導電性基材への固定化方法を検討した。
【実施例】
【0102】
酵素結晶の導電性基材への固定化は、光架橋性ポリマーを用いる方法を選択した。具体的には、酵素固定化キット(東洋合成工業製)を用いて、そのキットに付属の標準プロトコル(可溶性のPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ固定化電極作製手順が開示されている)に従い実施した。この酵素固定化キットは、電気化学検出のバイオセンサーの初期検討に最適な実験キットである。また、固定化材としては、上記キット付属の酵素固定化用ポリマーBIOSURFINEを使用し、酵素結晶を導電性基材に固定化し酵素結晶固定化電極を調製した。
【実施例】
【0103】
具体的な手順の詳細を以下に示す。まず、酵素結晶を、酵素活性の発現に必要な補酵素PQQを結合させるためホロ化処理をした。本実施例で取得された酵素結晶はアポ型であり、活性型酵素に変換するためにはPQQを取り込ませるホロ化処理を行う必要があるため、実施例3で得られた酵素結晶が形成されている溶液に、PQQ溶液を終濃度0.1 mMとなるように添加し、室温で30分間静置することによりホロ型酵素に変換した。なお、酵素溶液にPQQを加えてホロ化処理した後に、PQQが結合したホロ型酵素の形態で結晶化させることも可能である。そして、ホロ化処理後、結晶化反応液から専用の紙縒りを用いて液体部分を10μl程度残して吸い取り結晶を濃縮した。濃縮した結晶液をすべて導電性基材表面(平板状で電極面積2.5 mm2)に滴下し、さらに紙縒りろ紙を用いて完全に液体部分を吸い取った。酵素を固定化する導電性基材としては、カーボン電極(三極型印刷電極)を使用した。次に、2%に希釈したポリマー溶液5μlを導電性基材に滴下し乾燥させた後、UV露光を5分間行い、酵素結晶を固定化した。
【実施例】
【0104】
結晶化に際して使用したポリエチレングリコールが酵素結晶中に含まれるが、これは、酵素固定化用ポリマーBIOSURFINEとは混和及び反応しない物性をもっているため、固定化の支障にはならない。
【実施例】
【0105】
なお、ここで、使用した酵素固定化ポリマーとカーボン電極は、酵素活性測定等の電気化学測定やバイオセンサーなど、研究開発向けのディスポーサブル印刷電極(DEP-Chip:北陸先端科学技術大学院大学発のベンチャー企業製でグラッシーカーボンと同等の電極性能)である。
【実施例】
【0106】
実施例6:導電性基材固定化した酵素結晶の触媒機能評価-1
本実施例では、実施例5の手順で、予め結晶化された酵素結晶を導電性基材の表面に固定化して作製された酵素結晶固定化電極の触媒機能評価を行った。
【実施例】
【0107】
実施例5の手順に従って酵素結晶を導電性基材に固定化した電極を作製した。ここで、図6Aに、本実施例において実際の固定化に使用した酵素結晶の顕微鏡像を示す。これは、実施例3にて形成された酵素結晶である。これにより、結晶は、3次元方向だけでなく、微結晶や2次元方向に成長してフィルム状のものも多く含まれることが理解できる。次に、これを用いて、酵素の基質であるグルコースの酸化反応に伴う電流応答を、外部電源(ポテンショスタット)を用いて3電極の電気化学測定系で測定した。
【実施例】
【0108】
具体的には、作用電極として実施例5の手順に従って作製された酵素結晶固定化電極、対極としてカーボン電極、および参照電極として銀塩化銀電極を用い、この3電極を反応混合液(25 mM リン酸緩衝液(pH7.4)、0又は100 mMグルコース、および1 mM mPMS(1-methoxy-5-methylphenazinium methylsulfate)に浸して、一定の電圧0.1V(vs銀/塩化銀電極)の定電位測定(mPMSの酸化還元電位における電流測定)を行った。電子メディエーターとしてmPMSを使用したため、mPMSの標準酸化還元電位(+0.063V)から定電位電解電位は+0.1 Vとした。このようにして構築した酵素結晶固定化電極を用いて、グルコース濃度0 mMと100 mM条件下での電流応答をクロノアンペロメトリー法(電圧固定で電流の時間変化を測定、以下「CA」と略する場合がある。)で測定した。
【実施例】
【0109】
結果を図6Bに示す。波形1は、グルコース濃度100 mM条件下での結果を示し、波形2は、グルコース濃度0 mM条件下、即ちグルコースを含まない反応混合液での結果を示す。この結果から、グルコース濃度100 mM条件下では、15μA(30秒後)の電流値(波形1)が得られた。一方、グルコースを含まない場合には、電流値は限りなく0であった。このように、電流値がグルコースに依存して得られたことから、ここで作製した酵素結晶固定化電極が酵素触媒機能電極として機能することが確認された。
【実施例】
【0110】
ポテンショスタットのCA測定条件
・Init E (V) = 0 (開回路電位)、
・High E (V) = +0.1、Low E (V) = 0
・Init P/N = N、
・Step = 1、
・Pulse Width(sec ) = 30、
・Sample Interval (s) = 0.01、
・Quiet Time (sec) = 5
【実施例】
【0111】
実施例7:導電性基材に固定化した酵素結晶の触媒機能評価-2
本実施例では、導電性基材表面上で、酵素の結晶化反応を行うことで作製された酵素結晶固定化電極の触媒機能評価を行った。
【実施例】
【0112】
導電性基材上で酵素の結晶化反応を行うことにより酵素結晶固定化電極を作製した。これを、実施例6において作製された、予め作製した酵素結晶を導電性基材上に固定化した酵素結晶固定化電極と比較して、導電性基材上で酵素の結晶化反応を行うことによって、電極機能が優れた電極を作製できる可能性を検証した。
【実施例】
【0113】
実施例3で実施したシッティングドロップ法による酵素結晶化反応で、酵素溶液を座らせるための椅子の代わりに、導電性基材を置き、その表面で酵素結晶化反応を行った。
【実施例】
【0114】
図7Aに、電極とする導電性基材上で酵素の結晶化反応を行っている様子を示す。ここで使用した導電性基材は、カーボン電極をフィルム上に印刷してあり、小さく加工することが可能である。そのため、実施例3に記述したシッティングドロップ法での結晶化条件をそのまま使うことができる利点がある
【実施例】
【0115】
図7Bに、導電性基材表面で作製した酵素結晶の顕微鏡像を示す。結晶は、3次元方向だけでなく、微結晶や2次元方向に成長してフィルム状のものも多く含まれる。
【実施例】
【0116】
導電性基材上での酵素結晶の固定化方法は、実施例5の方法において、導電性基材表面に結晶を滴下した工程以降は同じ手順により行った。ここで構築した酵素結晶固定化電極を用いて、グルコース濃度0 mMと10 0 mM条件下で電流応答を、クロノアンペロメトリー法(電圧固定で電流の時間変化を測定)で測定した。
【実施例】
【0117】
結果を図8に示す。
図中、波形1は、グルコース濃度100 mM条件下での結果を示し、波形2は、グルコース濃度0 mM条件下、即ちグルコースを含まない反応混合液での結果を示す。この結果から、グルコース濃度100 mM条件下では、15μA(30秒後)の電流値(波形1)が得られた。一方、グルコースを含まない場合には、電流値は限りなく0であった。このように、電流値がグルコースに依存して得られたことから、ここで作製した酵素結晶固定化電極が酵素触媒機能電極として機能することが確認された。
【実施例】
【0118】
ポテンショスタットのCA測定条件
・Init E (V) = 0 (開回路電位)、
・High E (V) = +0.1、Low E (V) = 0
・Init P/N = N、
・Step = 1、
・Pulse Width (sec) = 30、
・Sample Interval (s) = 0.01、
・Quiet Time (sec) = 5
【実施例】
【0119】
実施例8:導電性基材に固定化した酵素結晶の触媒機能評価-3
本実施例では、実施例6における導電性表面上に予め作製した酵素結晶を固定化することにより作製した酵素結晶固定化電極と、本実施例7における導電性基材表面上で酵素の結晶化反応を行うことで作製された酵素結晶固定化電極を、その電極機能について比較した。
【実施例】
【0120】
実施例6における導電性表面上に予め作製した酵素結晶を固定化することにより作製した酵素結晶固定化電極と、本実施例7における導電性基材表面上で酵素の結晶化反応を行うことで作製された酵素結晶固定化電極につき、その電極機能を比較するため、実施例6と実施例7で得られたクロノアンペロメトリー法による測定結果を、電流密度に換算して比較した。
【実施例】
【0121】
結果を図9に示す。
図中、波形1は、本実施例7における導電性基材表面上で酵素の結晶化反応を行うことで作製された酵素結晶固定化電極での結果を示し、波形2は、実施例6における導電性表面上に予め作製した酵素結晶を固定化することにより作製した酵素結晶固定化電極の結果を示す。どちらの酵素結晶固定化電極でも、グルコースの酸化反応による電流応答として、電流密度0.6 mA/cm2(波形1及び2)を超える電流値が得られた。したがって、両者の酵素結晶固定化電極が共に、酵素触媒機能電極として十分に機能できることが判明した。特に、電極表面で結晶化反応を行い、酵素結晶を固定化した酵素結晶固定化電極では、測定開始5秒以内では、電流密度1.0 mA/cm2を超える優れた電流値が得られ、初期出力の著しい向上が確認できた。
【実施例】
【0122】
実施例9:酵素結晶化効率の見積もり
本実施例では、酵素の結晶化に際して、導電性基材上と専用容器での酵素の結晶化効率の比較を行った。
【実施例】
【0123】
本実施例は、本発明の有用性を確認することを目的とし、実施例7のように酵素結晶固定化電極の作製に際して導電性基材表面上で酵素の結晶化反応を行った場合の結晶化効率と、実施例6において酵素結晶固定化電極に固定化された酵素結晶のように実施例3の方法により予め専用容器内で結晶化反応を行った場合の結晶化効率を調べた。具体的には、酵素量を50μgとして、シッティングドロップ法にて、専用容器及び導電性基材上で、各々実施例3及び7に従って、酵素の結晶化反応を行った。続いて、生成した結晶を20μlの水に溶解させ、酵素量を測定した。酵素量は、タンパク質濃度の尺度である280 nmでの吸光度を分光光度計で測定し、モル吸光係数ε=67,420と、分子量MW= 53,665として算出した。結果を下記表3に示す。
【実施例】
【0124】
【表3】
JP0005740754B2_000004t.gif
タンパク質濃度の測定結果
【実施例】
【0125】
この結果より、酵素の結晶化量は、電極上での結晶成長、及び専用容器内での結晶成長共に約20μgであり、約50%の効率で結晶化されていることが判明した。これにより、双方の技術とも実用的価値のあることが確認できた。なお、導電性基材上での結晶成長のNo.6は沈殿剤を加えず結晶化反応を行ったコントロールである。
【実施例】
【0126】
続いて、電極上での結晶成長、及び専用容器内での結晶成長により形成された酵素結晶を電気泳動により確認した。具体的には、上記で調製した酵素結晶溶液の一部を12.5%アクリルアミドゲル電気泳動に供し、CBB染色によりタンパク質のバンドを可視化した。
【実施例】
【0127】
結果を図10A、Bに示す。図10Aは、導電性基材上で結晶成長を行った場合、図10Bは、専用容器内で結晶成長を行った場合の結果を示す。
図10Aは、(1)中、レーン1は導電性基材上で結晶成長したサンプル番号1の酵素結晶溶液、レーン2はサンプル番号2、レーン3はサンプル番号3、レーン4はサンプル番号4、レーン5はサンプル番号5、レーン6はコントロールの結果を示す。
図10(2)中、レーン1は専用容器内での結晶成長したサンプル番号1の酵素結晶溶液、レーン2はサンプル番号2、レーン3はサンプル番号3、レーン4はサンプル番号4、レーン5はサンプル番号5、レーン6はサンプル番号6の結果を示す。この結果からも、上記した計算上の比較と同様、双方の技術ともほぼ同じ割合で結晶化され、実用的価値のあることが確認できた。
【実施例】
【0128】
次に実施例10~20において、バチルス・サブティリス由来CotAラッカーゼを酵素結晶固定化電極の触媒とした例について説明する。
【実施例】
【0129】
実施例10:酵素発現系の構築、大腸菌タンパク質合成系による酵素合成、及びタンパク精製
結晶化に際して、高純度の酵素を取得するため、遺伝子工学的手法を用いて組換えタンパク質として酵素を産生し、各種クロマトグラフィーを組み合わせることによって精製した。特に、結晶化に際しては、結晶化条件の最適化のためのスクリーニング用に大量の精製酵素が必要である。
【実施例】
【0130】
ステップ1:バチルス・サブティリス由来CotAラッカーゼの発現ベクターの構築
先行技術文献の非特許文献1として提示するJ. Biol. Chem.、第277巻、第21号、第18849~59頁に記載のバチルス・サブティリス由来CotAラッカーゼのアミノ酸配列をコードするDNA配列を、pET-22b(+)ベクターの制限酵素認識部位NdeIとHidIIIの間に組み込み、pET-22b(+)の制限酵素認識部位HidIII下流のヒスチジン配列を利用して、酵素のC末端側にヒスチジンが付加されるようにデザインし酵素発現ベクターを構築した。ここで発現させたタンパク質の塩基配列を配列表の配列番号7に、また該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列表の配列番号8に示す。
【実施例】
【0131】
ステップ2:大腸菌による組換え型タンパク質の発現
上記ステップ1で得た酵素発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)pLysS株に形質転換し、菌体をLB培地(50μg/mlのアンピシリンとクロラムフェニコールを含む)に接種し37℃で18時間培養した。本培養として、培養した菌体をLB培地(50μg/mlのアンピシリンを含む)に添加し(培養液量の1/20量)、37℃で約1時間(O.D.=0.2まで)培養し、0.2 mM IPTGを加えて、20℃で18時間振盪培養した。酵素発現菌体を遠心分離により回収し、-80℃で凍結保存した。これを以下のタンパク質精製に供した。精製は、アフィニティークロマト法(ステップ3)と、タンパク質の電荷特性に従うイオン交換クロマトグラフィー法(ステップ3~4)の2種の酵素精製法を組み合わせて行った。
【実施例】
【0132】
ステップ3:アフィニティークロマトグラフィーによるHis-tagタンパク質精製
上記ステップ2で発現させたタンパク質はHis-tag融合タンパク質であり、His-tagを介してタンパク質を精製した。凍結保存していた酵素発現菌体を10 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA, pH 7.4に懸濁し、0.4%の界面活性剤(Brij-58)を加え、氷中で30分間放置した。次に、超音波破破砕を行った後、遠心分離により細胞破砕液を分取した。ヒスチジンタグ融合タンパク質精製用金属アフィニティー担体(TALON)による精製担体をオープンカラムに適当量充填し、20mM リン酸ナトリウム、 5 mMイミダゾール、0. 5 M NaCl溶液で前洗浄後、細胞破砕液に0.5 M NaClを加えカラムにアプライした。20 mM リン酸ナトリウム、 5 mMイミダゾール、0.5 M NaCl溶液で洗浄後、20 mM リン酸ナトリウム、 500 mMイミダゾール、0.5 M NaCl溶液で酵素を溶出した。溶出に用いた塩類(イミダゾールやNaCl)を除去するため、25 mM Tris-HCl(pH7.4)緩衝液を外液として、透析を一晩行った。
【実施例】
【0133】
ステップ4:イオン交換クロマトグラフィーによるタンパク質精製
上記ステップ3で取得したタンパク質溶液を、更に、タンパク質の電荷特性に従うイオン交換クロマトグラフィーを用いて精製した。
【実施例】
【0134】
陰イオン交換体の1つであるMono Qクロマトグラフィーによる精製を行った。CotAラッカーゼ(C末端ヒスチジンタグ付)は、分子量60.1 kDa、pI 6.1 のタンパク質である。CotAラッカーゼの可溶化用緩衝液をpH 7.5 とすると、pI 値よりも高いため陰イオン交換体に吸着することが考えられる。なお、文献公知の陽イオン交換体であるMono Sでは精製では担体にタンパク質が吸着しなかった。
【実施例】
【0135】
具体的には、Mono Q 5/50 GL(GE Healthcare:カラム容量が約1 ml)を使用した。Mono Q は、非常に高い分離能と高い結合容量を有する多孔性粒子であるMono ビーズ基盤とし、イオン交換体としてQuaternaryammonium (Q)を持つ強陰イオン交換体である。製造者の取り扱い説明書によるとMono Qの結合容量は65 mg/ml gelである。 MonoQ カラムに使用する緩衝液および添加するタンパク質は、あらかじめ0.22μm のフィルターに通した。
【実施例】
【0136】
ここで、使用した装置、器具及び試薬を以下に示す。
・装置:AKTA explorer 10S (GE Healthcare)
・担体:Mono Q 5/50 GL (GE Healthcare)
・試薬:緩衝液A [20 mM Tris-HCl(pH7.5), 5 mM EDTA, 5 mM 2-mercaptoethanol]
緩衝液B [20 mM Tris-HCl(pH7.5), 5 mM EDTA, 5 mM 2-mercaptoethanol, 1M NaCl]
【実施例】
【0137】
MonoQによる精製手順は、25 mM リン酸カリウム(pH 7.4)、1 mM EDTAをベース緩衝液として、担体を洗浄し平衡化した。続いて、ステップ3で取得したタンパク質溶液をカラムにアプライし、タンパク質を担体に吸着させた後、上記ベース緩衝液で担体を洗浄し不純物を除去した。続いて、ベース緩衝液を開始用緩衝液とし、0 ~500 mM KClの塩濃度勾配によりタンパク質を溶出した。つぎにKClを除去するため、25 mM Tris-HCl(pH 7.4)緩衝液、1 mM EDTAを外液として、透析を一晩行った。具体的には、以下の手順で溶出した。
【実施例】
【0138】
精製手順
1)MonoQ カラムを10 カラム量の緩衝液Aで平衡化。
MonoQ の製造者推奨流速は、0.5~3.0 mL/min、限界圧が4 MPa。
2)10 カラム量の緩衝液Aで平衡化されたMonoQ カラムにタンパク質(緩衝液Aに透析済み)を添加。
3)10 カラム量の緩衝液Aでカラムを洗浄し、非吸着タンパク質を除去。
4)緩衝液Aと緩衝液Bとを用いたリニアグラジエントにより、10 カラム量でタンパク質をフラクションコレクターで分画しながら溶出。
タンパク質の溶出は、KCl濃度を0から500 mMまで増加させる塩濃度勾配による方法で行った。
5)タンパク質の溶出画分をSDS-PAGEに供してタンパク質を確認。
6)カラムを超純水に置換。その後、2 M NaCl、2 M NaOH、75% 酢酸の順番でカラムを洗浄。
【実施例】
【0139】
タンパク質の溶出画分をSDS-PAGEに供した結果を図11A及びBに示す。詳細には、図11Aは溶出初期(KCl濃度:100 mM前後)の画分(以下、「酵素溶液画分I」と称する。)、図11Bは溶出後期(KCl濃度:100 mM前後)の画分(以下、「酵素溶液画分II」と称する。)の電気泳動の結果を示す。 何れも約60kDaの分子量を持つバンドが検出できた。ここではタンパク質の溶出は、KCl濃度を0から500 mMまで増加させる塩濃度勾配による方法で行ったが、溶出初期に溶出される酵素溶液画分と、溶出後期に溶出される酵素溶液画分が2つあることがわかった。クロマトチャート(ここでは図示しない)と図11A、Bの電気泳動図を並べてみると、2つの画分がシャープに分離できているようには見えないが、MonoQに弱く結合した酵素と、強く結合した酵素の両方が混在しているようであった。これは、何らかの酵素の物性に起因すると推察できる。
【実施例】
【0140】
実施例11:精製酵素の純度確認
本実施例においては、実施例10で取得した精製酵素が、結晶化に求められる高純度の酵素であることを確認した。
【実施例】
【0141】
具体的には、実施例10にて、大腸菌タンパク質合成系による合成を行った直後のタンパク質溶液(ステップ1~2)、アフィニティークロマトグラフィーで精製したタンパク質溶液(ステップ1~3)、及びアフィニティークロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーを組み合わせて精製したタンパク質溶液(ステップ1~4)を、SDS-PAGE電気泳動に供した。
【実施例】
【0142】
結果を図12に示す。詳細には、パネルAは大腸菌タンパク質合成系による合成を行った直後のタンパク質溶液であり、レーン1はタンパク質発現させた大腸菌の全破砕液、レーン2はその可溶化画分、レーン3はレーン2その可溶化画分のステップ3のアフィニティークロマトグラフィー担体を素通りした溶液の電気泳動結果である。パネルBは大腸菌の全破砕液をアフィニティークロマトグラフィーにより精製したタンパク質溶液、パネルCはアフィニティークロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーを組み合わせて精製したタンパク質溶液の電気泳動結果である。なお、パネルB及びCのレーンMは分子量マーカーである。
【実施例】
【0143】
パネルAの結果から、大腸菌の破砕液には約60 kDaの分子量を持つタンパク質のバンドが見られタンパク質が発現していることがわかる。さらに、パネルBの結果から、アフィニティークロマトグラフィー担体に効率PersonName良くタンパク質が結合していることが理解できる。そして、パネルCにおいて、ほぼ1本の目的のタンパク質のシグナルバンドのみ認められた。したがって、アフィニティークロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーを組み合わせることによって高純度なCotAラッカーゼを精製できることが判明した。
【実施例】
【0144】
実施例12:精製酵素の活性測定
本実施例においては、実施例10で取得した精製酵素の活性を測定した。
【実施例】
【0145】
実施例10のステップ1~4を経て取得した酵素溶液画分Iと画分IIの酵素溶液は、精製後の透析によって、25 mM Tris 7.5, 1 mM EDTA、5mM 2-メルカプトエタノール、50% Glycerolに置換されている。結晶化用の酵素溶液として調製するため、酵素溶液画分を100 mM クエン酸ナトリウム緩衝液 pH 5.5に対して透析した。その結果、酵素溶液画分Iはタンパク質が沈殿し変性した。沈殿が生じる酵素濃度を調べたところ、CotAラッカーゼは酵素濃度0.5 mg/ml以上で沈殿が生じ活性を失うことが確認された。この変性は、実施例1のステップ3後のアフィニティークロマトグラフィー精製のみを行った精製酵素でも生じ、酵素溶液に還元剤として2-メルカプトエタノールを添加して透析を行うと沈殿を生じなかった。一方、酵素溶液画分IIついては沈殿を生じることなく、100 mM クエン酸ナトリウム緩衝液へ置換することができた。結晶化用の酵素溶液として、2-メルカプトエタノールを添加することはできないため、酵素溶液画分IIを結晶化用の酵素溶液として選択した。
【実施例】
【0146】
次に、酵素溶液画分IIを透析して得られた酵素溶液の触媒活性(基質ABTSの酸化活性)について、透析前の酵素溶液と比較した。両者は酵素溶液に含まれる酵素量は同じであり、溶媒の組成のみが相違する。その結果、透析後の方が、2倍近く触媒活性が高くなった。かかる理由の詳細は不明であるが、透析によって2-メルカプトエタノールが除去されたことに起因すると推定される。
【実施例】
【0147】
なお、ラッカーゼ活性の測定は以下の手順により行った。基質として1mM ABTS、0.1 mM硫酸銅を含む20 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を反応液として用いて比色法で行った。まず、反応液に酵素溶液を添加し反応を開始させた。反応は50℃で行った。基質(ABTS)の酸化に伴う418 nmの吸光度の変化(酵素反応速度)により測定した。
【実施例】
【0148】
続いて、上記酵素溶液の比活性を、ABTSを基質として測定した。0.4 mM ABTSを含む50 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)を反応液とし、酵素溶液を加えて全量200μlとした。反応は25℃で行った。1 U を1μmol/min のABTSを酸化させる酵素量と定義して比活性を算出した。8.3 U/mg protein (μmol/min mg-1)その結果、上記酵素溶液中に含まれる酵素は、結晶化用酵素として十分な触媒活性を有していた。
【実施例】
【0149】
実施例13:酵素の緒性質(pH特性)
本実施例では、酵素の諸性質うちpH特性について検討を行った。
【実施例】
【0150】
実施例10のステップ1~4を経て取得した精製酵素のpH特性を、pH3.5から10.0の範囲における触媒活性を測定することにより検討した。触媒活性の測定は、1mM ABTS、0.1 mM硫酸銅を含む20 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を反応液として用いて比色法で行った。まず、反応液に酵素溶液を添加し反応を開始させた。反応は50℃で行った。基質(ABTS)の酸化に伴う418 nmの吸光度の変化(酵素反応速度)により測定した。なお、各pH域の緩衝液の緩衝成分として、pH3.5~5.5:クエン酸、pH5~7:リン酸、pH6.5~9:トリス-塩酸、pH8.5~10:グリシン-NaOHを活性測定に使用した。
【実施例】
【0151】
結果を図13に示す。この結果、至適pHは弱酸性域であった。かかるpH特性は、同じ酸素還元酵素であるマルチ銅オキシダーゼ(CueO)等に類似する。
【実施例】
【0152】
実施例14:酵素の緒性質(温度依存性)
本実施例では、酵素の諸性質うち温度依存性について検討を行った。
【実施例】
【0153】
実施例10のステップ1~4を経て取得した精製酵素の温度依存性を、25~80℃における触媒活性を測定することにより検討した。触媒活性の測定は、1mM ABTS、0.1 mM硫酸銅を含む20 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を反応液として用いて比色法で行った。まず、反応液に酵素溶液を添加し反応を開始させた。反応は上記所定の温度で行い、基質(ABTS)の酸化に伴う418 nmの吸光度の変化(酵素反応速度)により活性を測定した。なお、緩衝液の緩衝成分として、pH3.5~5.5:クエン酸を使用した。
【実施例】
【0154】
結果を図14に示す。その結果、至適温度は70℃付近であった。これは、同じ酸素還元酵素である大腸菌由来CueOラッカーゼと類似する。高温度領域で活性を維持できることから、高温領域を含む様々な使用条件及び長期使用に耐え得る有用な酵素電極触媒として利用することができる。
【実施例】
【0155】
実施例15:酵素の結晶化条件のスクリーニング、及び酵素の結晶化
本実施例では、酵素の結晶化条件のスクリーニングを行い、続いて酵素結晶を作製した。
【実施例】
【0156】
実施例10のステップ1~4を経て取得した精製酵素と同じバチルス・サブティリス由来CotAラッカーゼについての結晶化及び構造決定について開示するEnguita FJ 他著、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、2002年、58(Pt 9)、第1490~1493頁を参考に結晶化反応を行った。本文献は、先行技術文献の非特許文献2として提示している。
【実施例】
【0157】
ステップ1:透析と濃縮
実施例10のステップ1~4を経て取得した精製酵素を、結晶化反応母液の緩衝液(100 mM クエン酸ナトリウム緩衝液 pH 5.5)に対する透析を行った。緩衝液交換の後、限外ろ過スピンカラムによる濃縮(1 5 mg/ml)を行った。透析後の酵素溶液の状態を確認したところ、実施例12で確認した通り酵素溶液画分Iでは酵素の沈殿が生じた。これは、緩衝液交換によって酵素の溶解度が低下したためであると考えられる。沈殿が生じた酵素溶液は結晶化反応用には使えないため、酵素の沈殿の生じなかった酵素溶液画分IIにて結晶化反応を行った。濃縮後に、酵素濃度と純度を、分光光度計を使った各波長光のスキャンにより測定した。その結果、酵素結晶化の妨げとなる核酸の混在の程度を示す2波長260/280の比率が0.52であり核酸の混在はないことが確認できた。イオン交換クロマトでの精製を組み合わせたことにより、アフィニティー精製だけでは除去が困難な核酸の混在をほぼ完全に除去できた。
【実施例】
【0158】
ステップ2:結晶化
結晶が析出する条件を突き止めるために、上記非特許文献 に記載の結晶化条件を参考に結晶化条件のスクリーニングを行った。まず、上記先行技術文献の項に提示した非特許文献2に記載の結晶化条件に前後10%程度の条件幅を持たせて初回のスクリーニングを行った。このとき、スクリーニングプレート2枚を使用し、15×2で実施した。具体的には、4μLの反応スケールで、下記に示す酵素濃度と沈殿剤濃度の配合で、酵素溶液と沈殿剤溶液を混合した液滴をカバーグラス上に調製し、カバーグラスを裏返して沈殿剤溶液の入った容器にかぶせて蒸気拡散法により行った。20℃のインキュベータで5日間静置し結晶化反応させた後、結晶の有無を顕微鏡観察により確認した。
【実施例】
【0159】
ここに、酵素溶液の酵素濃度と沈殿剤濃度を以下に示す。
酵素溶液の酵素濃度:
・8 mg/ml (CotAラッカーゼ)
結晶化反応母液の組成及び沈殿剤濃度:
・100 mM クエン酸ナトリウム緩衝液 pH 5.5
・15% グリセロール
・10、15、20 % イソプロピルアルコール
・10、12、14、16、18、20 % ポリエチレングリコール 4K
【実施例】
【0160】
結果を表4に示す。表4中の丸印を付けた条件で、それぞれ図15A、Bに示すような針状結晶(約1.0 mm)の形成が顕微鏡による観察により確認できた。この結果から、沈殿剤濃度が高い条件でのみ結晶化したことが理解できる。また、同時に、酵素結晶以外の夾雑沈殿物が多く生じていることが確認できた。これは、酵素濃度が高すぎることに起因すると予想される。
【実施例】
【0161】
【表4】
JP0005740754B2_000005t.gif
【実施例】
【0162】
上記実験の結果を受け、夾雑沈殿物の形成を減少させることを目的として次のスクリーニングを行った。本実験では、酵素濃度を下げて結晶化条件を調べた。初回と同じく20℃のインキュベータで5日間静置し結晶化反応させた後、結晶の有無を顕微鏡観察により確認した。
【実施例】
【0163】
ここに、酵素溶液の酵素濃度と沈殿剤濃度を以下に示す。
酵素溶液の酵素濃度:
4又は8 mg/ml (CotAラッカーゼ)
結晶化反応母液の組成及び沈殿剤濃度:
100 mM クエン酸ナトリウム緩衝液 pH 5.5
15% グリセロール
14、16、18、20 %イソプロピルアルコール
10、12、14、16、18、20 % ポリエチレングリコール 4K
【実施例】
【0164】
結果を表5に示す。表5中の二重丸印を付けた条件で、それぞれ、図16A、Bに示すような多数の酵素結晶(約0.5~1.0 mm)の形成が確認できた。この結果においても、酵素結晶以外の夾雑沈殿物の量の減少させることができなかった。かかる夾雑沈殿物は沈殿剤の濃度が高いために生じるものであって、今回の酵素結晶化に際しては混在するものであると考える。また、高めの酵素濃度(8 mg/ml)では大きな結晶の集合体(固まり)ができること(図16A)、低い酵素濃度(4 mg/ml)では小さめの多数の酵素結晶(約0.5 mm)ができる傾向(図16B)が認められた。このことより、酵素溶液の酵素濃度を調節することにより結晶サイズを作り分けることができることが確認できた。
【実施例】
【0165】
以上の結果から、酵素結晶が析出する条件は、沈殿剤:20%、酵素濃度:4~8 mg/ml、緩衝液pH:5.5、温度20℃、必要日数5日間前後であることが判明した。かかる結晶化条件に基づけば、酵素結晶を再現性よく確実に作製できることが確認できた。
【実施例】
【0166】
【表5】
JP0005740754B2_000006t.gif
【実施例】
【0167】
実施例16: 酵素固定化電極の作製と触媒機能の評価
本実施例では、バイオ電池の電極触媒としての利用を想定して酵素固定化電極を作製した。そして、その触媒機能を評価した。
【実施例】
【0168】
酵素固定化電極の電極触媒として実施例10のステップ1~4を経て取得した精製酵素を使用した。酵素の導電性基材への固定化は、光架橋性ポリマーを用いる方法を選択した。具体的には、酵素固定化キット(東洋合成工業製)を用いて、そのキットに付属の標準プロトコルに従い実施した。この酵素固定化キットは、電気化学検出のバイオセンサーの初期検討に最適な実験キットである。また、固定化材としては、上記キット付属の酵素固定化用ポリマーBIOSURFINEを使用し、酵素を導電性基材に固定化し酵素固定化電極を調製した。
【実施例】
【0169】
続いて、ポテンショスタットを用いて酵素固定化電極の評価を行った。評価は、クロノアンペロメトリー法(電圧固定で電流の時間変化を測定)による触媒電流の測定により行った。具体的には、反応混合液(50 mM クエン酸ナトリウム, pH5.2、1 mM ABTS)に、作用電極として精製酵素(50μg)固定化電極、対極(カーボン)および参照電極(銀塩化銀)を浸して、ABTS(酸化還元電位:0.5V)の還元反応に伴う電流応答を測定することにより行った。
【実施例】
【0170】
電気化学の反応式は以下の通りある。
4ABTS + O2 + 4H+ → 4ATBS・- + 2H2O
ATBS・- + e- → ATBS
【実施例】
【0171】
上記ポテンショスタットのCA測定条件を以下に示す。
Init E (V) = 0 (開回路電位)、
High E (V) = +0.1、
Low E (V) = 0、
Init P/N = N、
Step = 1、
Pulse Width(sec ) = 30、
Sample Interval (s) = 0.01、
Quiet Time (sec) = 2
【実施例】
【0172】
結果を図17に示す。波形1は酵素の固定化反応処理を行った電極、波形2は酵素を添加せずに上記固定化処理を行った電極で観察された触媒電流を示す。その結果、酵素固定化電極では、触媒電流の電流密度:-0.09 mA/cm2であった(波形1)。ABTSカチオンラジカルの再還元波が観測されるため電流は負側に観察できる。一方、酵素の固定化がなされていない電極では、触媒電流の電流密度は0.03 mA/cm2であった。これらの結果から、精製酵素(CotAラッカーゼ)によって負側の触媒電流が流れ、バイオ電池のカソード側触媒として使えることが確認できた。
【実施例】
【0173】
実施例17:酵素結晶固定化電極の作製
本実施例では、バイオ電池の電極触媒としての利用を想定し酵素結晶固定化電極を作製した。
【実施例】
【0174】
酵素結晶固定化電極の電極触媒として実施例15にて作製した酵素結晶を使用した。酵素結晶の導電性基材への固定化は、実施例16と同様、光架橋性ポリマーを用いる方法で行った。具体的には、酵素固定化キット(東洋合成工業製)を用いて、そのキットに付属の標準プロトコルに従い実施した。この酵素固定化キットは、電気化学検出のバイオセンサーの初期検討に最適な実験キットである。また、固定化材としては、上記キット付属の酵素固定化用ポリマーBIOSURFINEを使用し、酵素結晶をカーボン電極に固定化し酵素固定化電極を調製した。
【実施例】
【0175】
具体的には、実施例15で取得した酵素結晶を、それぞれ酵素活性の発現に必要な補欠因子CuSO4を結合させるホロ化反応を行った。続いて、結晶化反応液から専用の紙縒りを用いて液体部分を10μl程度残して吸い取り結晶を濃縮した。濃縮した結晶液をすべて電極表面(平板上で電極面積2.5 mm2)に滴下し、さらに紙縒りろ紙を用いて完全に液体部分を吸い取った。次に、2 %に希釈したポリマー溶液5 μlを電極に滴下し乾燥させた後、UV露光を5分間行うことにより、酵素結晶を固定化した。
【実施例】
【0176】
実施例18:酵素結晶固定化電極の触媒機能評価-1
本実施例では、実施例15に記載の酵素結晶化反応により作製した酵素結晶を実施例17に記載の方法で導電性基材の表面に固定化して作製した酵素結晶固定化電極の触媒機能評価を行った。
【実施例】
【0177】
実施例15に記載した酵素結晶化反応により作製した酵素結晶を、実施例17に記載の方法で電極に固定化し、サイクリックボルタンメトリー(以下、「CV」と略する場合がある。)法により触媒電流を測定した。
【実施例】
【0178】
上記BASポテンショスタットのCV測定条件を以下に示す。
Init E (V) = -0.2、
High E (V) = 0.6、
Low E (V) = -0.2、
Init P/N = P、
Scan Rate (V/s) = 0.02、
Segment = 2、
Sample Interval (V) = 0.001、
Quiet Time (sec) = 5、
Sensitivity (A/V) = 1e-5
【実施例】
【0179】
結果を図18に示す。以下に示す電気化学反応のABTSカチオンラジカルの再還元波が観察された。これにより、本実施例で作製した酵素結晶固定化電極が、酵素触媒機能電極として機能することが確認された。
4ABTS + O2 + 4H+ → 4ATBS・- + 2H2O
ATBS・- + e- → ATBS
【実施例】
【0180】
実施例19:酵素結晶固定化電極の触媒機能評価-2
本実施例では、実施例15に記載の酵素結晶化反応により作製した酵素結晶を実施例17に記載の方法で導電性基材の表面に固定化して作製した酵素結晶固定化電極の触媒機能評価を行った。
【実施例】
【0181】
実施例15に記載した酵素結晶化反応により作製した酵素結晶を、実施例17に記載の方法で電極に固定化し、クロノアンペロメトリー法により触媒電流を測定した。具体的には、時間t後の印加電圧による電流の変化を測定した。CA測定のパラメータ設定は、実施例18のCVの結果を参考にして、初期電位(E0)は開回路ポテンシャル、印加電圧を0.5V、印加電圧をかけ始める時間を5秒で行った。ここで固定化した酵素はラッカーゼであるので、観測したい電流は酸素の還元に消費される電流になるので、再還元波より負側の電位に設定することが望ましい。
【実施例】
【0182】
結果を図19に示す。波形1は酵素結晶の固定化反応処理を行った電極、波形2はコントロール実験としてあえて結晶化しないように沈殿剤の濃度を下げて作製した酵素結晶擬似物の固定化反応処理を行った電極で観察された触媒電流を示す。その結果、酵素結晶固定化電極では電流密度0.18 mA/cm2の触媒電流が観察された(波形1)。一方、コントロール実験ではとしてあえて結晶化しないように沈殿剤の濃度を下げて作製した酵素結晶では電流密度:0.07 mA/cm2の触媒電流が観察された(波形2)。これらの結果から、バイオ電池のカソード側触媒として使えるCotAラッカーゼについて、酵素結晶化することによって触媒電流が向上することが判明した。ラッカーゼは酸素を基質として反応するため、反応溶液の溶存酸素濃度の限界で反応速度が頭打ちになることがわかっている。今回得られた電流密度0.18 mA/cm2についても、溶存酸素に相当する応答電流値であると考えられる。そのため、酵素結晶化による電流値向上のレベルについては、大気酸素を反応に使うことでさらに効果が大きくなると予想される。
【実施例】
【0183】
実施例20:酵素結晶固定化電極を用いたバイオ電池セルによる性能評価
本実施例では、本発明の酵素結晶固定化電極を用いて実際にバイオ電池セルを構築し、その性能評価を行った。
【実施例】
【0184】
実施例15に記載の酵素結晶化反応を、結晶化反応容器ではなくバイオ電池セルのカソードに使う炭素材中で酵素結晶化反応を行った。つまり、導電性基材上で酵素の結晶化反応を行うことにより酵素結晶固定化電極を作製した。ここで使用した炭素材は、カーボンペーパー(以下、「CP」と略する)に、高導電性カーボン微粒子のケッチェンブラック(以下、「KB」と略する)を塗布したものである。
【実施例】
【0185】
以下に具体的手順を示す。
ステップ1:CPへのKBの塗布処理
CPに、適当量の高導電性カーボン微粒子のKBを塗布した。
【実施例】
【0186】
ステップ2:CotAラッカーゼの電極中での結晶化
実施例15に記載の通り、実施例10のステップ1~4を経て取得した精製酵素を、結晶化反応母液の緩衝液(100 mM クエン酸ナトリウム緩衝液 pH 5.5)に対する透析を行った。続いて、酵素結晶化反応液(100 mMクエン酸緩衝液pH5.5、15% Glycerol、18% 2-propanol、20% PEG)と、酵素溶液(15 mg/ml)を混ぜ合わせ、実施例15に記載の手順に沿って上記ステップ1で調製したCP/KP電極中で結晶化反応を行った。これをカソードとしてバイオ電池セルを構築した(実施例)。
【実施例】
【0187】
ステップ3:バイオ電池セルの作製
本実施例においては、2種類のバイオ電池セルを組み立てた。図1のバイオ電池セルは、アクリル製型枠に、カソード|燃料ゲル|アノードの順番で重ね四方をネジ止めし組み立てた。カソード及びアノードは共に14mm×14mmとした。外枠はアクリル製型枠とし、厚さ1 mmのアクリル板、厚さ2 mmのアクリル板の中央部に1cm×1cmの角穴を開けたものを使用した。角穴の四辺にはネジ止め用に穴を開けた。燃料ゲルは、アクリル板の中央部に角穴を開けたアクリル製型枠に保持し装着した。アクリル板の厚さは、装着する燃料ゲルの厚さに従って適宜2 mm、5 mm、10 mmとした。なお、集電板としてチタンメッシュ(Alfa Aesar 40921、10mm幅×40mm長に切断して使用)、スペーサーとして0.5 mm厚のシリコンシート(アズワン等)を使用し、カソード及びアノードと燃料ゲルの間のシリコンシートの中央部には燃料ゲルと電極が接触するように電極大の14 mmの角穴を開け、アノードとアノード側の外枠との間のシリコンシートには角穴は開けずに構成した。つまり、アクリル板(外枠:角穴)/チタンメッシュ/カソード/シリコンシート(角穴)/中央部に燃料ゲルを保持したアクリル板/シリコンシート(角穴)/アノード/チタンメッシュ/シリコンシート/アクリル板(外枠)の順に積層した。
【実施例】
【0188】
なお、アノード、及び燃料ゲルは以下の通り調製を行った。
1.アノード用酵素溶液の調製
アノード用酵素溶液として、グルコース脱水素酵素溶液を調製した。なお、グルコース脱水素酵素としてアシネトバクター・カルコアセティカスNBRC12552株由来のグルコース脱水素酵素を以下の通り調製した。酵素発現プラスミドpET-22b(+)-sGdhを大腸菌BL21(DE3)株をトランスフォーメーションし、コロニーをLB/Amp(含アンピシリン50μg/ml)培地300 mlに接種し、37 ℃で一晩培養した。つぎにジャーファーメンターにLB/Amp培地を20 L仕込み、前培養液200 mlを加え、37℃で約1時間(O.D.=0.1になるまで)培養し、0.01 mM IPTGを加えてタンパク発現誘導をかけ、28 ℃で一晩振盪培養した。培養液を遠心、上清を除去した沈殿を-80 ℃で凍結保存した。凍結保存された酵素発現菌体5 gをPBS緩衝液15 mlに懸濁した。氷上で、超音波破砕機(15 Wで15秒間、XL2000、MISONIX社製)を用いて破砕を10回行なった。破砕液は4 ℃、5,000 rpmで20分間遠心分離し、分取した上清をCellulose Acetate 0.45μm filter (ADBANTEC)でフィルタリングした。オープンカラムにヒスチジンタグ精製用レジン(TALON、Clontech社製)を10 ml充填し、ベッドボリュームの5倍量の平衡化緩衝液(300 mM NaCl、1X PBS)で平衡化した。前処理を行なったサンプルをカラムにアプライし、ベッドボリュームの5倍量の洗浄用緩衝液(300 mM NaCl、10 mM Imidazol、1X PBS)で洗浄後、ベッドボリュームの3倍量の溶出用緩衝液で(300 mM NaCl、150 mM Imidazol、1X PBS)溶出した。回収した溶出液を限外ろ過膜(Amicon Ultra-44、Millipore社製)を用いて濃縮した後、最終の酵素溶液Bufferに透析した(10 mM Tris-HCl pH 7.5、0.1 mM CaCl2)た。酵素溶液は、電極使用前に、15,000 rpmで5分間遠心分離し、分取した上清を20 mg/ml以上になるように再度濃縮した。
【実施例】
【0189】
2.アノードの調製
上記1で調製したアノード用酵素溶液に1 mM CaCl2、1 μm PQQとなるよう添加し4℃でインキュベートする。カーボンフェルト(カーボンマット50 g/m2のもの)を1.4 cm×1.4 cmにカッターで切断する。酵素溶液に更に0.1 M Sodium phosphate Buffer pH 7.0、5 mM mPMSとなるよう添加した溶液0.22 mlをカーボンフェルトに滴下、風乾して使用した。
【実施例】
【0190】
3.燃料ゲルの調製
1(w/v)% Agarose、60 mM D-Glucose、0.1 M Sodium phosphate Buffer pH 7.0に調製した溶液を電子レンジで溶解、アクリル製型枠に注いで固めた。
【実施例】
【0191】
なお、比較として、上記ステップ結晶化酵素のステップ2で調製した酵素溶液を結晶化せずにそのままカソードの電極触媒として用いたバイオ電池セルを構築した(比較例A)。また、ビリルビンオキシダーゼ(Bilirubin Oxidase:天野エンザイム、BOアマノ3、以下「BOD」と略する。)の20 mg/mlとなるように濃度調整した酵素溶液を結晶化せずにそのままカソードの電極触媒として用いたバイオ電池セルをも構築した(比較例B)。更に、カソード用の導電性基材として、KB塗布を行わないCPを用いて、ステップ2の手順でCotAラッカーゼの酵素結晶を固定化したカソードを用いたバイオ電池セルをも構築した(比較例C)。
【実施例】
【0192】
ステップ4:バイオ電池セルの電気化学的な測定
電子付加装置で一定電流を流したときの電圧を測定し、電流値から電力密度を求めた。
【実施例】
【0193】
ステップ5:電極上の酵素量の測定
電極上の酵素量を酵素免疫測定法(EIA法)により測定し、電力密度の値を補正した。EIA法の詳細手順を以下に示す。
購入試薬
・PBS(Phosphate Buffered Saline、シグマ アルドリッチ社製)
・PBS-T(Phosphate Buffered Saline with Tween 20、シグマ アルドリッチ社製)
・ブロッキング剤(ブロックエース粉末、大日本製薬社製)
・反応Buffer(44.5 ml PBS、0.5 ml 1%(w/v) Triton X-100、5 mlブロックエース)
・HRP標識抗マウスIgG抗体(Anti-Mouse Ig、HRP-Linked Whole Ab、アマシャム社製)
・発色試薬(TMBOne Solution、プロメガ社製)
測定試薬
・抗血清溶液(反応バッファーで10,000倍希釈)
・二次抗体溶液(ブロッキング剤で4,000倍希釈)
測定手順
1.測定後の電極をチューブに入れ、ブロックエース中で2時間静置
3.PBS-Tで洗浄ラ3回繰り返し
4.抗血清溶液中で1時間静置
6.PBS-Tで洗浄ラ3回繰り返し
8.二次抗体溶液中で1時間静置
9.PBS-Tで洗浄×3回繰り返し後、PBSで洗浄ラ2回繰り返し
10.発色試薬中で5分間静置した後、2 ml塩酸(1 N)で反応停止
12.分光光度計で測定(450 nm吸光度から595 nm吸光度(バックグラウンド)の差分値測定)
【実施例】
【0194】
結果を図20に示す。図中、KB/CP電極+BODは比較例B、KB/CP+CotAは比較例A、KB/CP+CotA結晶の本実施例、及びCP+CotAは上記比較例Cの結果を示す。かかる結果から、カソード側触媒として用いる酵素を結晶化することによって、電池セルの出力が向上することが確認できた。また、導電性基材上で酵素を結晶化し固定化することによっても、実用価値の高い電極を作成できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明は、酵素結晶固定化電極及び酵素結晶固定化電極の製造方法、並びに酵素結晶固定化電極を備えるバイオ電池及びバイオセンサーに関し、酵素電極が要求されるあらゆる分野、特に、医療、食品、環境分野等の産業分野において利用可能である。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図2】
2
【図3A】
3
【図3B】
4
【図4A】
5
【図4B】
6
【図4C】
7
【図5A】
8
【図5B】
9
【図6A】
10
【図6B】
11
【図7A】
12
【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
16
【図10B】
17
【図11A】
18
【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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