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明細書 :トリパノソーマ関連疾患治療薬、トリパノソーマ原虫の殺虫方法およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6245570号 (P6245570)
公開番号 特開2015-074629 (P2015-074629A)
登録日 平成29年11月24日(2017.11.24)
発行日 平成29年12月13日(2017.12.13)
公開日 平成27年4月20日(2015.4.20)
発明の名称または考案の名称 トリパノソーマ関連疾患治療薬、トリパノソーマ原虫の殺虫方法およびその利用
国際特許分類 A61K  31/7105      (2006.01)
A61P  33/10        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
FI A61K 31/7105
A61P 33/10
A61P 43/00
A61K 48/00 ZNA
請求項の数または発明の数 7
全頁数 19
出願番号 特願2013-211448 (P2013-211448)
出願日 平成25年10月8日(2013.10.8)
審査請求日 平成28年9月21日(2016.9.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
発明者または考案者 【氏名】御子柴 克彦
【氏名】奈良 武司
【氏名】橋本 宗明
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】六笠 紀子
参考文献・文献 特開2012-080804(JP,A)
特表平10-513343(JP,A)
特表平08-508645(JP,A)
国際公開第2012/057294(WO,A1)
Acidocalcisomes of Trypanosoma brucei have an inositol 1,4,5-trisphosphate receptor that is required for growth and infectivity,Proc Natl Acad Sci USA,2013年 1月,110 (5),1887-1892
Inositol 1,4,5-triphosphate receptor regulates replication, differentiation, infectivity and virulence of the parasitic protist Trypanosoma cruzi,Mol Microbiol,2013年 2月,87 (6),1133-1150
調査した分野 A61K 31/33-33/44
A61K 38/00-38/58
WPI
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)

特許請求の範囲 【請求項1】
トリパノソーマ関連疾患治療薬であって、
トリパノソーマ原虫のイノシトール1,4,5-三リン酸受容体タンパク質の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドを薬効成分とする、トリパノソーマ関連疾患治療薬。
【請求項2】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチド、配列番号2に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチド、配列番号3に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチド、および配列番号4に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載のトリパノソーマ関連疾患治療薬。
【請求項3】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、および配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載のトリパノソーマ関連疾患治療薬。
【請求項4】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号1~4に示す塩基配列の何れか1つと90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである、請求項1に記載のトリパノソーマ関連疾患治療薬。
【請求項5】
トリパノソーマ原虫のイノシトール1,4,5-三リン酸受容体タンパク質の発現を抑制するための薬剤であって、
上記イノシトール1,4,5-三リン酸受容体タンパク質の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドを有効成分とする、薬剤。
【請求項6】
トリパノソーマ原虫の感染阻止または殺虫方法であって、
請求項に記載の薬剤を、ヒトの体外に存在するトリパノソーマ原虫に対して、有効量供給する工程を含んでいる、トリパノソーマ原虫の感染阻止または殺虫方法。
【請求項7】
トリパノソーマ関連疾患への二次感染の防止方法であって、
トリパノソーマ原虫が感染した血液または感染の虞がある血液であって、ヒトの体外に存在するものに対して、請求項に記載の薬剤を供給する工程を含んでいる、トリパノソーマ関連疾患への二次感染の防止方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はトリパノソーマ関連疾患治療薬、トリパノソーマ原虫の感染阻止または殺虫方法、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
トリパノソーマ症(trypanosomiasis)をはじめとするトリパノソーマ関連疾患は、鞭毛虫類キネトプラスト門トリパノソーマ属の原虫が感染することによって発症する疾病の総称である。毎年多数のヒトおよび家畜をはじめとする動物が、トリパノソーマ関連疾患によって死亡していることが報告されており、トリパノソーマ原虫による被害は甚大かつ深刻である。
【0003】
これまでに、いくつかのトリパノソーマ関連疾患治療薬が開発されているが、早期治療が大前提であり、強い副作用および耐性虫の出現等の問題がある。また、ワクチンは開発されておらず、未だ有効な治療薬および治療法は確立されていない。
【0004】
疾患の治療として、疾患に応答する遺伝子をサイレンシングすることによって働くオリゴヌクレオチド用いた治療は、最先端技術として知られている。そのような治療法として、例えば、dsRNAを用いたRNA干渉法を用いた治療が挙げられる(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、トリパノソーマ原虫の一種で、アメリカトリパノソーマ症(シャーガス病)の病原体であるクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)において、媒介昆虫寄生型のエピマスティゴートおよび哺乳類の細胞内増殖期型のアマスティゴートの何れにおいても、dsRNAは分解され、RNA干渉を行うことができないことが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Barker RH Jr et al., Proc Natl Acad Sci U S A 93:514-518, 1996
【非特許文献2】DaRocha WD et al., Mol Biochem Parasitol 133:175-86, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、トリパノソーマ原虫による感染症の治療法として、オリゴヌクレオチドを用いた有効な治療法はこれまでに報告されていない。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、従来とは異なるメカニズムを利用したトリパノソーマ関連疾患治療薬、トリパノソーマ原虫の感染阻止または殺虫方法、およびその利用を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の何れかの一態様を包含する。
(1) トリパノソーマ関連疾患治療薬であって、
トリパノソーマ原虫のイノシトール1,4,5-三リン酸受容体タンパク質の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドを薬効成分とする、トリパノソーマ関連疾患治療薬。
(2) 上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチド、配列番号2に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチド、配列番号3に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチド、および配列番号4に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1つである、(1)に記載のトリパノソーマ関連疾患治療薬。
(3) 上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、および配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1つである、(1)または(2)に記載のトリパノソーマ関連疾患治療薬。
(4) 上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号1~4に示す塩基配列の何れか1つと90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである、(1)に記載のトリパノソーマ関連疾患治療薬。
(5) トリパノソーマ関連疾患の治療方法であって、(1)~(4)の何れか1つに記載のトリパノソーマ関連疾患治療薬を、ヒトまたは動物に対して治療有効量投与する工程を含んでいる、トリパノソーマ関連疾患の治療方法。
(6) 上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の投与タイミングが、ヒトまたは動物におけるトリパノソーマ原虫の形態に応じて決定される、(5)に記載のトリパノソーマ関連疾患の治療方法。
(7) 上記ヒトまたは動物におけるトリパノソーマ原虫の形態が血流型のトリポマスティゴートである期間に、上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の血中濃度が治療有効量となるように、上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の投与タイミングが決定される、(5)または(6)に記載のトリパノソーマ関連疾患の治療方法。
(8) 上記トリパノソーマ原虫は、クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)、ブルーストリパノソーマ複合体群(Trypanosoma brucei complex)、トリパノソーマ・エバンシ(T. evansi)、トリパノソーマ・バイバックス(T. vivax)およびトリパノソーマ・コンゴレンセ(T. congolense)のうちの少なくとも1種である、(5)~(7)の何れか1つに記載のトリパノソーマ関連疾患の治療方法。
(9) トリパノソーマ原虫のイノシトール1,4,5-三リン酸受容体タンパク質の発現を抑制するための薬剤であって、上記イノシトール1,4,5-三リン酸受容体タンパク質の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドを有効成分とする、薬剤。
(10) トリパノソーマ原虫の感染阻止または殺虫方法であって、(9)に記載の薬剤を、トリパノソーマ原虫に対して、有効量供給する工程を含んでいる、トリパノソーマ原虫の感染阻止または殺虫方法。
(11) トリパノソーマ関連疾患への二次感染の防止方法であって、トリパノソーマ原虫が感染した血液または感染の虞がある血液であって、ヒトまたは動物の体外に存在するものに対して、(9)に記載の薬剤を供給する工程を含んでいる、トリパノソーマ関連疾患への二次感染の防止方法。
(12) トリパノソーマ関連疾患治療薬候補のスクリーニング方法であって、トリパノソーマ原虫の形態がトリポマスティゴートの間において、インビトロで、スクリーニング対象となる薬剤を添加する第一工程と、次いで、上記薬剤の添加によって、上記トリパノソーマ原虫の生育が抑制された、またはトリパノソーマ原虫が感染阻止または殺虫された場合に、当該薬剤をトリパノソーマ関連疾患治療薬候補として選択する第二工程と、を含んでいる、トリパノソーマ関連疾患治療薬候補のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、従来とは異なるメカニズムを利用したトリパノソーマ関連疾患治療薬、トリパノソーマ原虫の感染阻止または殺虫方法、およびその利用を提供することが出来るという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、クルーズトリパノソーマのエピマスティゴートにおけるイノシトール1,4,5-三リン酸受容体(TcIPR)タンパク質の寿命を示す図である。Aは、天然型のTcIPRの発現レベルを示し、Bは組換え型であるEGFP-TcIPR融合タンパク質の発現レベルを示す。
【図2】図2は、トリポマスティゴートにおいてTcIPRタンパク質の発現レベルが非常に低いことを示す図である。
【図3】図3は、TcIPRに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドが、トリポマスティゴートにおけるTcIPRタンパク質の発現を抑制することを示す図である。EGFP-TcIPR融合タンパク質を過剰発現しているトリポマスティゴートをアンチセンス(配列番号3)またはセンスオリゴヌクレオチド(配列番号7)存在下で各時間培養し、抗EGFP抗体、または内部コントロールとして抗チューブリン抗体を用いて、ウェスタンブロッティングを行った結果を示す。
【図4】図4は、トリポマスティゴートの細胞侵入におけるTcIPR特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドの阻害効果を示す図である。Aは、トリポマスティゴート(2×10個)を、ホスホロチオエート化した40μMのアンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号3)またはセンスオリゴヌクレオチド(配列番号7)で8時間処理し、4×10個のマウス線維芽細胞(3T3-SWISS albino)と12時間37℃でインキュベーションしたときの、200個の3T3- SWISS albino細胞あたりのアマスティゴートの数を示す(10MOI)。Bは、トリポマスティゴート(4×10個)を40μMのホスホロチオエート化オリゴヌクレオチド(配列番号1、2、3および4)を用いて8時間処理し、4×10個のHeLa細胞と12時間37℃でインキュベーションしたときの200個のHeLa細胞あたりのアマスティゴートの数を示す(10MOI)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔1.トリパノソーマ関連疾患治療薬〕
生体において、細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度のダイナミックな変化は、細胞のシグナル伝達および生理機能において重要な役割を担っている。ホスホイノシチド-ホスホリパーゼCは(PI-PLC)は、細胞表面の受容体を介して外部刺激に対する応答で活性化し、ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP)の加水分解を触媒する。これによって、二つの重要なセカンドメッセンジャーである、D-ミオイノシトール1,4,5-三リン酸(IP)およびsn-1,2-ジアシルグリセロール(DAG)を産生する。IPは、細胞内の貯蔵部位からのCa2+の遊離を促進する一方で、DAGはプロテインキナーゼC(PKC)を活性化する。

【0013】
イノシトール1,4,5-三リン酸受容体(IP receptor、以降、IPR)タンパク質は、小胞体(ER)に局在するCa2+チャンネルであり、IPと結合することによって活性化され、Ca2+シグナル伝達を開始する。

【0014】
本願発明者らは、クルーズトリパノソーマにおけるIPRタンパク質のホモログ(TcIPR)は、必須のタンパク質であり、トリパノソーマ原虫の分裂増殖、発育期転換および宿主細胞に感染する能力に関与していることを明らかにした。さらに、本願発明者らは、TcIPRタンパク質が、インビボにおいて、トリパノソーマ原虫の毒性の決定要素であることを示した(参考文献:Hashimoto M, et al., Mol Microbiol 87:1133-1150, 2013)。また、TcIPRタンパク質の一次構造は、ヒトのIPRタンパク質群の一次構造との相同性が非常に低い。そのため、TcIPRタンパク質は、トリパノソーマ関連疾患治療薬のターゲット候補として好適であると考えた。そこで、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたTcIPRタンパク質の発現抑制を試みたところ、トリポマスティゴートの形態において当該タンパク質を発現抑制することによって、原虫感染を防ぐことに成功した。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることによって、極めて優れた効果を奏するトリパノソーマ関連疾患治療薬、およびトリパノソーマ原虫の感染阻止または殺虫をするための方法を提供し得ることを新たに見出し、本発明を想到するに至った。

【0015】
(トリパノソーマ関連疾患の治療とは)
本発明において治療の対象となるトリパノソーマ関連疾患は、トリパノソーマ属のトリパノソーマ原虫がヒトまたは動物(ヒトを除く、以下同じ)に感染している状態を広く指し、ヒトまたは動物において、トリパノソーマ関連疾患に特有の症状が顕在化している状態はもちろん、当該症状が顕在化する以前の状態も含む概念である。トリパノソーマ関連疾患は人獣共通感染症であり、トリパノソーマ症はアフリカトリパノソーマ症およびアメリカトリパノソーマ症からなる。さらに、アフリカトリパノソーマ症およびアメリカトリパノソーマ症は、それぞれ、ヒトが発症するヒトトリパノソーマ症と、ヒト以外の動物が発症する動物トリパノソーマ症を含んでいる。このうち、動物トリパノソーマ症はナガナ病およびスーラ病を含む。

【0016】
治療の対象となるトリパノソーマ関連疾患は、トリパノソーマ原虫による感染症であればよく、例えば、トリパノソーマ症、より具体的にはアフリカトリパノソーマ症およびアメリカトリパノソーマ症が挙げられる。

【0017】
なお、トリパノソーマ関連疾患に特有の症状とは、特に限定されず、例えばアフリカトリパノソーマ症の場合、無症候期の後に生じる2期に分かれた症状が挙げられる。1期目の症状としては、発熱、リンパ節腫大、肝脾腫、および皮膚における全身性組織単球性トリパノソーマ播種症等の症状が挙げられる。2期目の症状としては、感覚障害(例えば、痙攣、神経根の痛み、神経痛、または知覚過敏等)、精神障害(例えば、単純な性格変化等)、睡眠障害(例えば、夜間の不眠等)、および運動障害(例えば、偽腫瘍性麻痺、痙攣発作、戦慄、舞踏病的またはアテトーゼ様の異常運動、小脳性の連合動作不全および錐体外路性の反射減衰等)、神経および内分泌障害(例えば、体温調節障害、口渇、性欲の喪失、無月経、不妊および下垂体性の甲状腺機能不全等)が挙げられる。

【0018】
また、アメリカトリパノソーマ症の場合、急性期においては発熱および脾腫等が挙げられる。また、慢性型へ移行した場合、慢性心症(例えば、狭心症様の前胸部痛、不整脈、伝導障害、左心または両心不全および塞栓症等が挙げられる)、巨大臓器症(例えば巨大食道等)および慢性脳症等が挙げられる。また、上述した幾つかの症状が単独で、または合併して現れる。

【0019】
本発明において治療とは、何らの措置をしない場合と比較して、ヒトまたは動物内におけるトリパノソーマ原虫の活動を抑制することを指し、好ましくはトリパノソーマ原虫を感染阻止することを指し、より好ましくは殺虫することを指す。ここで、感染阻止とは、トリパノソーマ原虫の感染に関与する活動を阻害することによってトリパノソーマ原虫を感染できない状態にすることを指す。治療の一つの側面には、トリパノソーマ関連疾患に関連する少なくとも1つの症状を軽減または緩和すること、およびトリパノソーマ関連疾患に関連する1つ以上の症状の組合せの軽減または緩和が含まれる。

【0020】
(治療薬の投与対象となるヒトまたは動物)
治療対象は、トリパノソーマ原虫の宿主となっているヒトまたは動物であり、より具体的には、トリパノソーマ原虫が寄生可能なヒトを含む哺乳類からなる群より選択される何れかである。中でも、哺乳類に対して特に好適に本発明の治療方法が適用される。治療対象となる哺乳類の種類は特に限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモットおよびヒトを除く霊長類等の実験動物;イヌおよびネコ等の愛玩動物(ペット);ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジおよびウマ等の家畜;ヒト;が挙げられ、好ましくは家畜またはヒトであり、特に好ましくはヒトである。

【0021】
(トリパノソーマ原虫の種類およびそれぞれのトリパノソーマ原虫によって引き起こされるトリパノソーマ関連疾患)
治療および感染阻止または殺虫の対象となるトリパノソーマ原虫の種類は、上記ヒトまたは動物に寄生可能なトリパノソーマ原虫であれば特に限定されない。トリパノソーマ原虫の種類によって、種々の異なるトリパノソーマ関連疾患が引き起こされることが知られている。

【0022】
アメリカトリパノソーマ症(シャーガス病)の原因となるトリパノソーマ原虫としては、クルーズトリパノソーマ(T. cruzi)が挙げられる。アフリカトリパノソーマ症のうち、ヒトが発症するヒトアフリカトリパノソーマ症(アフリカ睡眠病)の原因となるトリパノソーマ原虫としては、ブルーストリパノソーマ複合体群(Trypanosoma brucei complex)が挙げられ、当該複合体にはローデシアトリパノソーマ(T. brucei rhodensiense)および/またはガンビアトリパノソーマ(T. brucei gambiense)が存在する。また、ヒト以外の動物が発症する動物アフリカトリパノソーマ症の1つである、ナガナ病は、ブルーストリパノソーマ(T. brucei brucei)、トリパノソーマ・コンゴレンセ(T. congolense)およびトリパノソーマ・バイバックス(T. vivax)等が家畜を含む動物に感染することによって引き起される。また、動物アフリカトリパノソーマ症の他の例であるスーラ病は、トリパノソーマ・エバンシ(T. evansi)等が家畜を含む動物に感染することによってを引き起こされる。

【0023】
(治療および感染阻止または殺虫の対象となるトリパノソーマ原虫の形態)
治療および感染阻止または殺虫の対象となるトリパノソーマ原虫は、生活環における何れの形態であってもよい。

【0024】
例えばクルーズトリパノソーマの場合、4種類の異なる形態をとる。錐鞭毛期型であるトリポマスティゴート(trypomastigote)は、哺乳類の血液中に出現する感染期型であり、哺乳類細胞に侵入した後、球形の無鞭毛期型(細胞内増殖期型)であるアマスティゴート(amastigote)に転換し増殖を開始する。アマスティゴートは哺乳類の何れの種類の細胞においても増殖するが、心筋等の横紋筋またはリンパ節等の細胞において顕著に増殖する。アマスティゴートはやがてトリポマスティゴートへと転換し、感染細胞を破壊して血流型トリポマスティゴートとして、血流に放出される。媒介昆虫サシガメの哺乳類宿主に対する吸血を介してそのサシガメに取り込まれた原虫は、上鞭毛期型であるエピマスティゴート(epimastigote)へと転換し、サシガメの消化管で分裂を繰り返す。さらにエピマスティゴートはサシガメの消化管内でメタサイクリック型である終末発育トリポマスティゴートへと転換を遂げる。そして、サシガメの糞とともにサシガメの体外へ放出されたメタサイクリック型は、傷口または粘膜を介して哺乳類宿主体内に侵入する。このようにして、感染サイクルが繰り返される。これら何れの形態におけるクルーズトリパノソーマであっても、治療および感染阻止または殺虫の対象となり得る。

【0025】
他のトリパノソーマ原虫においても、トリポマスティゴート、アマスティゴート、エピマスティゴート、終末発育トリポマスティゴート(メタサイクリック型)等の形態の何れであっても、治療および感染阻止または殺虫の対象となり得る。治療および感染阻止または殺虫効果を最大化するために、形態が感染期型のトリポマスティゴートまたは細胞内増殖期型のアマスティゴートであるトリパノソーマ原虫を対象とすることが好ましい場合がある。さらに、トリポマスティゴートの形態のうち、血流型トリポマスティゴートであるトリパノソーマ原虫を対象とすることがより好ましい場合がある。

【0026】
(治療および感染阻止または殺虫の対象となるトリパノソーマ原虫の感染経路)
ヒトまたは動物に対する、トリパノソーマ原虫の感染経路は特に限定されない。

【0027】
各トリパノソーマ関連疾患の原因となるトリパノソーマ原虫の種類によって、それぞれ感染経路が異なることが知られている。

【0028】
例えば、アフリカトリパノソーマ症の原因であるガンビアトリパノソーマ、ローデシアトリパノソーマおよびアフリカトリパノソーマ症の1つであるナガナ病の病原となるトリパノソーマ原虫は、イエバエ科ツェツェバエ属の吸血性のハエであるツェツェバエの媒介によって感染する。ツェツェバエの媒介による感染は、ツェツェバエがヒトまたは動物を吸血するときに、ツェツェバエの唾液腺からトリパノソーマ原虫が、ヒトまたは動物の体内に注入されることによって起こる。また、トリパノソーマ・エバンシはアブおよびサシバエの吸血によって媒介される。

【0029】
また、シャーガス病の病原体であるクルーズトリパノソーマは、半翅目サシガメ科の昆虫であるサシガメの媒介によって感染する。サシガメがヒトまたは動物を吸血すると同時に、大量のトリポマスティゴートの形態のクルーズトリパノソーマを含む糞(液状)をヒトまたは動物の皮膚の上に落とす。そして、この糞が傷口または粘膜等から体内へ擦り込まれることによって感染が起こる。

【0030】
また、トリパノソーマ原虫の感染経路として、上記の他に、トリパノソーマ原虫を含む血液(感染血)の輸血、感染者からの臓器移植、胎盤経由の母子感染、感染した母乳の授乳による母子感染、注射針を介した感染、および感染型原虫に汚染された食品(生ジューズ、生の食肉等)の摂取等による感染等が挙げられる。

【0031】
(トリパノソーマ原虫のIPRタンパク質)
本発明に係るトリパノソーマ関連疾患治療薬は、トリパノソーマ原虫のIPRタンパク質の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドを薬効成分とする。ここで、「トリパノソーマ原虫のIPRタンパク質の発現を抑制する」とは、例えば、トリパノソーマ原虫のIPRタンパク質をコードするmRNAの転写および/または翻訳を抑制することが意図される。

【0032】
ここで、「トリパノソーマ原虫のIPRタンパク質」とは、トリパノソーマ原虫が有するCa2+チャンネルであり、IPと結合することによって活性化され、Ca2+シグナル伝達をを引き起こす機能を持つ膜貫通型のタンパク質を指す。トリパノソーマ原虫のIPRタンパク質は、例えば、ERに局在的に分布しており、ERにおいてIP媒介型のCa2+放出(ERの外へのCa2+イオン輸送)を引き起こして、Ca2+シグナル伝達を開始する。

【0033】
トリパノソーマ原虫のIPRタンパク質としては、具体的には、例えば、次のものが例示される。
1)配列番号9に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
2)配列番号9に示すアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有し、IPが結合することによって、IP媒介型のCa2+輸送を引き起こす機能を有するタンパク質。なお、配列同一性は、85%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であることが特に好ましい。
3)配列番号9に示すアミノ酸配列に対して1~602個の置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有し、IP媒介型のCa2+輸送を引き起こす機能を有するタンパク質。なお、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸の個数は、1~451個であることが好ましく、1~301個であることがより好ましく、1~150個であることがさらに好ましく、1~120個、1~90個、1~60個、1~30個、1~6個または1~5個であることが特に好ましい。
4)配列番号9に示すアミノ酸配列のうち、IPRに種間を超えて保存されている膜貫通領域(2533番目~2786番目のアミノ酸)およびゲートキーパー領域(2787~3011番目のアミノ酸)のアミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性を有し、IPが結合することによって、IP媒介型のCa2+輸送を引き起こす機能を有するタンパク質。なお、配列同一性は、80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であることが特に好ましい。

【0034】
なお、配列番号9に示すアミノ酸配列は、本願発明者らが単離した、クルーズトリパノソーマ由来のIPR(TcIPR)タンパク質のアミノ酸配列である(参考文献:Hashimoto M, et al., Mol Microbiol 87:1133-1150, 2013)。また、クルーズトリパノソーマ以外のトリパノソーマ原虫では、ブルーストリパノソーマ由来のIPR(TbIPR)タンパク質のアミノ酸配列として、配列番号11に示すアミノ酸配列が知られている(参考文献:Huan G, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 110:1887-92, 2013)。

【0035】
(アンチセンスオリゴヌクレオチド)
本発明では、トリパノソーマ原虫のIPRタンパク質をコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを薬効成分として用いて、当該IPRタンパク質の発現を抑制する。すなわち、本発明に係るトリパノソーマ関連疾患治療薬は、ターゲットとなるタンパク質をコードするmRNA(センス鎖)に対してハイブリダイズする一本鎖のオリゴヌクレオチドを用いて、当該タンパク質の発現を抑制する、アンチセンス法を利用したものである。

【0036】
なお、アンチセンスオリゴヌクレオチドが、タンパク質をコードするmRNA(センス鎖)に対してハイブリダイズするとは、ハイブリダイズが生じうる領域においてアンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基配列とmRNAの塩基配列とが完全に相補的な関係にある場合に限定されない。例えば、ハイブリダイズが生じうる上記領域が20bp以上である場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、当該領域におけるmRNAの塩基配列と完全に相補的な配列に対して、80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の配列同一性を有するオリゴヌクレオチドであってもよい。あるいは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、完全に相補的な上記配列に対して、5塩基以下、好ましくは4塩基以下、より好ましくは3塩基以下、さらに好ましくは2塩基以下、特に好ましくは1塩基の相違を有するオリゴヌクレオチドであってもよい。

【0037】
一実施形態に係るトリパノソーマ関連疾患治療薬において、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、上記トリパノソーマ原虫のIPRのmRNAの少なくとも一部とハイブリダイズ可能な塩基配列を含んでいる。

【0038】
このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチド、配列番号2に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチド、配列番号3に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチド、および配列番号4に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドが挙げられる。配列番号1~4に示す塩基配列は、それぞれ、配列番号10に示すTcIPRのコード領域のDNAの塩基配列(ウラシル塩基をチミン塩基に置換して表記した、コード領域のTcIPRのmRNAも同一の配列)における1778~1797番目の塩基配列、5532~5551番目の塩基配列、5996~6015番目の塩基配列、および8647~8666番目と相補的な配列である。

【0039】
好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドの一形態は、配列番号1の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチド、配列番号2の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチド、配列番号3の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチド、および配列番号4の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドである。好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドの他の形態は、配列番号1~配列番号4の何れかに1つに示す塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドである。ここで、配列同一性は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上または95%以上であることがさらに好ましい。

【0040】
なお、1つのトリパノソーマ関連疾患治療薬において、複数種のアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれていてもよい。

【0041】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、トリパノソーマ原虫のIPRのゲノムDNA、cDNAまたはmRNAの塩基配列に基づいて設計し得る。例えば、トリパノソーマ原虫がクルーズトリパノソーマである場合、TcIPRのコード領域のDNAの塩基配列およびウラシル塩基をチミン塩基に置換して表記した、コード領域のmRNAの塩基配列である配列番号10に基づいて設計し得る。トリパノソーマ原虫のIPRのゲノムDNA、cDNAまたはmRNAの塩基配列の情報は、例えば、GenBank等から入手可能である。例えば、TcIPRのゲノムDNAの塩基配列およびmRNAの塩基配列は、GenBankアクセッション番号:AB701320である。また、TbIPRのコード領域のDNAの塩基配列およびウラシル塩基をチミン塩基に置換して表記した、コード領域のmRNAの塩基配列は、NCBI参照番号:XM_842017である(配列番号12)。

【0042】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA分子、RNA分子、およびDNAとRNAとのハイブリッド分子の何れであってもよい。安定性の観点からは、DNA分子であることが好ましい場合がある。

【0043】
また、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、天然型のヌクレオチドであってもよく、非天然型のヌクレオチドであってもよい。非天然型のヌクレオチドとしては、例えば、ホスホロチオエート型、および2’-O,4’-C-エチレン架橋型核酸種(ENA)ペプチド核酸(PNA)等が挙げられる。これらの非天然型のヌクレオチドはヌクレアーゼによって分解されにくいため、細胞内で効率的に作用する。特に、ヌクレアーゼ耐性がより強い、2’-O,4’-C-エチレン架橋型核酸種(ENA)等であることが好ましい場合がある。

【0044】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法およびヌクレオチド合成方法によって得ることができる。具体的には、化学合成、インビトロ転写(in vitro translation)などの公知の方法を用いて調製し得る。

【0045】
また、本発明に係るトリパノソーマ関連疾患治療薬において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、その状態で含まれ、ヒトまたは動物に投与される形態のものであってもよいし、適当なプロモータ配列の下流に組み込まれてアンチセンスRNA発現ベクターとして、ヒトまたは動物に投与される形態のものであってもよい。

【0046】
アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするヌクレオチドが組み込まれるベクターは、特に限定されないが、例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、およびレトロウイルスベクター等のウイルスベクター、ならびにプラスミドベクター等、遺伝子治療に適用可能なベクターが挙げられる。ウイルスベクターは、自己複製能を欠損するように改変されているものであることが好ましい。

【0047】
上記ベクターには、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドをトリパノソーマ原虫に特異的に発現させる発現調節配列が組み込まれていることが好ましい。ここで、発現調節配列とは、例えば、プロモータまたはエンハンサであり、より具体的には、トリパノソーマ原虫由来のリボソームRNAのプロモータ配列等が挙げられる。

【0048】
発現ベクターの構築は、公知の遺伝子工学的手法を用いて行うことができる。

【0049】
なお、「ヌクレオチドをトリパノソーマ原虫に特異的に発現させる」とは、治療対象となるヒトまたは動物では当該ヌクレオチドが実質的に発現せず、トリパノソーマ原虫内でのみ当該ヌクレオチドが発現する状態を指し、これによってトリパノソーマ原虫に選択的に遺伝子治療剤の効果を及ぼすことができる。

【0050】
(トリパノソーマ関連疾患治療薬のその他の成分および剤型)
本発明に係るトリパノソーマ関連疾患治療薬は、上述のアンチセンスオリゴヌクレオチド以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。当該他の成分は特に限定されないが、例えば、薬学的に許容される担体、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧調整用の塩類、緩衝剤、着色剤、香味料、甘味料、抗酸化剤、および粘度調整剤等が挙げられる。また、必要に応じて、スラミン、ペンタミジン、エフロルニチン、メラルソプロール、ベンズニダゾール、およびニフルチモックス等のトリパノソーマ関連疾患治療薬を、本発明に係るトリパノソーマ関連疾患治療薬の一構成として加えて複合剤を構成してもよい。

【0051】
上記薬学的に許容される担体は、特に限定されないが、担体であって、トリパノソーマ関連疾患治療薬と同時投与された場合にトリパノソーマ関連疾患治療薬の機能(トリパノソーマ関連疾患の治療)を阻害せず、かつ、投与対象となるヒトまたは動物に対して実質的な悪影響を及ぼさないという性質を備えることが好ましい。

【0052】
上記担体としては、この分野で既報のものを広く使用でき、具体的には、例えば、水、各種塩溶液、アルコール、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、パラフィン、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドン等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。担体の種類は、トリパノソーマ関連疾患治療薬の剤型、および投与方法等に応じて、適宜選択すればよい。

【0053】
トリパノソーマ関連疾患治療薬の剤型も特に限定されず、例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、および注射剤等が挙げられ、好ましくは注射剤または経口投与用の剤型である。例えば、携帯性および投与の容易さ等の観点では、錠剤等の経口投与の剤型が好ましく、所定のタイミングでトリパノソーマ関連疾患治療薬の血中濃度を所定の範囲内に制御することがより容易という観点では注射剤が好ましい。また、トリパノソーマ関連疾患治療薬はリポソーム製剤であってもよい。

【0054】
〔2.トリパノソーマ関連疾患の治療方法〕
(投与方法・用量)
本発明に係るトリパノソーマ関連疾患の治療方法は、上述のトリパノソーマ関連疾患治療薬の少なくとも一種を、ヒトまたは動物に対して、治療有効量投与する工程を含む。一実施形態において、投与対象となるヒトまたは動物は、トリパノソーマ原虫に感染している。ここで、トリパノソーマ関連疾患治療薬は、当該トリパノソーマ関連疾患治療薬のみを単独で投与してもよく、または、投与の目的に適した薬学的組成物の一構成成分として投与してもよい。

【0055】
上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の投与方法は特に限定されず、経口投与、静脈内または動脈内への血管内投与、腸内投与といった手法によって全身投与されてもよく、経皮投与、舌下投与といった手法によって局所投与されてもよい。好ましい一つの投与態様では、血管系(血液中)に棲息するトリパノソーマ原虫に作用を及ぼすために、トリパノソーマ関連疾患治療薬は、静脈内投与または動脈内投与によって全身投与される。好ましい他の投与態様では、投与の容易さ等の観点で優れるため、経口投与される。

【0056】
上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の投与量(治療有効量)は、投与対象となる上記ヒトまたは動物の年齢、性別、体重、症状、投与経路、投与回数、および投与期間等に応じて適宜設定すればよい。また、必要であれば、トリパノソーマ関連疾患治療薬を用いたインビボアッセイを事前に行い、過度の実験を要することなく上記投与量を決定することができる。

【0057】
上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の投与回数も治療効果が得られる限り特に限定されず、例えば、トリパノソーマ関連疾患治療薬の種類、上記投与量、投与経路、症状、ヒトまたは動物の年齢、性別、体重等に応じて適宜設定すればよい。

【0058】
上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の投与タイミングも、治療効果が得られる限り特に限定されないが、治療効果を最大化するために、ヒトまたは動物におけるトリパノソーマ原虫の形態に応じて決定することが好ましい場合がある。例えば、上記ヒトまたは動物におけるトリパノソーマ原虫の形態がトリポマスティゴートの間に、上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の血中濃度が治療有効量となるように、上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の投与タイミングが決定されることがより好ましい場合がある。

【0059】
なお、ヒトまたは動物に対して、トリパノソーマ原虫の感染前のタイミングでトリパノソーマ関連疾患治療薬が投与される、いわゆる予防投与のような投与形態も、本発明の治療方法の範疇に含まれる。すなわち、ヒトまたは動物にトリパノソーマ原虫が感染する前に、上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の血中濃度が治療有効量以上に保たれた状態にし、トリパノソーマ原虫が感染した際に治療効果を奏するという態様である。

【0060】
なお、ヒトまたは動物におけるトリパノソーマ原虫の形態は、当業者であれば容易に把握することができる。当該形態を把握する方法の一例としては、血液の厚層塗抹を調製して、ギムザ染色法等の方法で染色した後に、トリパノソーマ原虫を顕微鏡観察する方法が挙げられる。トリパノソーマ原虫の生育に周期性が見られる場合には、一度、形態を確認しておけば、所定時間経過後の形態も予見可能となる。

【0061】
また、必要に応じてインビボアッセイ等を行うことによって、ヒトまたは動物における上記トリパノソーマ関連疾患治療薬の血中濃度、より具体的には、トリパノソーマ関連疾患治療薬の投与量、投与タイミングおよびその血中濃度の関係も、当業者であれば容易に把握することができる。

【0062】
(併用療法)
本発明に係るトリパノソーマ関連疾患の治療方法において、スラミン、ペンタミジン、エフロルニチン、メラルソプロール、ベンズニダゾール、およびニフルチモックス等の、本発明に係るトリパノソーマ関連疾患治療薬以外のトリパノソーマ関連疾患治療薬と組合せてもよい(併用療法)。本発明に係るトリパノソーマ関連疾患の治療方法は、従来のトリパノソーマ関連疾患治療薬とは異なるメカニズムを利用した新規な治療方法である。それゆえ、本併用療法を採用すれば、従来治療法との間で相乗的な治療効果を示し、治療成績が飛躍的に向上することが期待される。

【0063】
〔3.薬剤〕
本発明に係る薬剤は、トリパノソーマ原虫のIPRタンパク質の発現を抑制するための薬剤であって、当該IPRタンパク質の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドを有効成分とする。

【0064】
本発明に係る薬剤に含まれるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、上述の〔1.トリパノソーマ関連疾患治療薬〕の欄の記載を、そのまま参照可能である。

【0065】
本発明に係る薬剤において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、その状態で含まれ、対象に投与される形態のものであってもよいし、適当なプロモータ配列の下流に組み込まれてアンチセンスRNA発現ベクターとして、対象に投与される形態のものであってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするヌクレオチドが組み込まれるベクターは、上述の〔1.トリパノソーマ関連疾患治療薬〕の欄の記載を、そのまま参照可能である。

【0066】
また、本発明に係る薬剤は、上記アンチセンスオリゴヌクレオチド以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。当該他の成分は、上述の〔1.トリパノソーマ関連疾患治療薬〕の欄の記載を、そのまま参照可能である。

【0067】
〔4.トリパノソーマ原虫の感染阻止または殺虫方法〕
本発明に係るトリパノソーマ原虫の殺虫方法は、上述の薬剤を、トリパノソーマ原虫に対して、「有効量」供給する工程を含んでいる方法である。

【0068】
ここで、「有効量」とは、トリパノソーマ原虫の感染阻止が出来る量、より好ましくはトリパノソーマ原虫を殺虫することが出来る量を意図しており、上記薬剤が投与されるトリパノソーマ原虫の棲息環境等の条件に応じて、当業者によって適宜設定される。

【0069】
感染阻止または殺虫の対象となるトリパノソーマ原虫が生体以外(例えば、トリパノソーマ原虫用の培養培地および血液等の生体サンプル等の培養細胞等)に存在している場合、上記薬剤を、当該トリパノソーマ原虫用の培養培地、生体サンプルまたは細胞培養液等に添加すればよい。また、細胞内に寄生するトリパノソーマ原虫に適用する場合、リポフェクションおよびマイクロインジェクション等によって、当該細胞内へアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入してもよい。

【0070】
上記生体サンプルおよび培養細胞の由来は、例えば、トリパノソーマ原虫の宿主となるヒトまたは動物であり、より具体的には、ヒトを含む哺乳類からなる群より選択される何れかであることが好ましい。哺乳類の種類は特に限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモットおよびヒトを除く霊長類等の実験動物;イヌおよびネコ等の愛玩動物(ペット);ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジおよびウマ等の家畜;ヒト;が挙げられ、好ましくは家畜またはヒトであり、特に好ましくはヒトである。

【0071】
トリパノソーマ原虫の感染阻止または殺虫方法の応用例としては、トリパノソーマ原虫の感染が判明したまたは感染の虞がある血液に対して上記薬剤を供給することで、トリパノソーマへの二次感染リスクを抑制することが挙げられる。例えば、上記の血液とは、特に限定されないが、献血活動において回収した血液、輸血用血液、野外活動(交通事故等を含む)における流血、医療現場における流血等、ヒトまたは動物の体外に取り出された血液も意図した概念である。

【0072】
なお、トリパノソーマ原虫の殺虫効果を確認する方法の一例は、血液の厚層塗抹を調製して、ギムザ染色法等の方法で染色した後に、トリパノソーマ原虫を顕微鏡観察する方法が挙げられる。

【0073】
その他、本方法が適用される、トリパノソーマ原虫の種類、形態等については、上記した〔1.トリパノソーマ関連疾患治療薬〕の欄の記載を、そのまま参照可能である。

【0074】
〔5.トリパノソーマ関連疾患治療薬候補のスクリーニング方法〕
本発明に係るトリパノソーマ関連疾患治療薬候補のスクリーニング方法は、トリパノソーマ原虫の形態がトリポマスティゴートの間において、インビトロで、スクリーニング対象となる薬剤を添加する第一工程と、次いで、上記薬剤の添加によって、上記トリパノソーマ原虫の生育が抑制された、またはトリパノソーマ原虫が感染阻止または殺虫された場合に、当該薬剤をトリパノソーマ関連疾患治療薬候補として選択する第二工程と、を含んでいる。

【0075】
本発明に係るスクリーニング方法は、トリパノソーマ原虫が、トリポマスティゴートにある場合に、トリパノソーマ原虫のIPRタンパク質の発現量を抑制可能な剤を投与すれば、トリパノソーマ原虫の生育が抑制される、またはトリパノソーマ原虫が感染阻止または殺虫されるとの知見に基づく方法であり、従来とは異なる作用機序を示す治療薬候補のスクリーニングを可能とする。

【0076】
なお、上記第一工程における同調培養の方法、およびトリパノソーマ原虫の形態を確認する方法は特に限定されない。

【0077】
本発明に係るスクリーニング方法は、トリパノソーマ原虫の感染阻止剤または殺虫剤候補のスクリーニング方法と捉えることもできる。
【実施例】
【0078】
本発明について、以下の実施例および参考例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0079】
シャーガス病の化学療法は、現在、ベンズニダゾールおよびニフルチモックスという、主に2種類の治療薬に依存しているが、両方とも有害な副作用を生じる。したがって、疾患を治療するための新規な薬剤の開発が重要である。感染症に対する新規の治療の手段として、アンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用は、原因である病原菌における不可欠な成分をノックダウンすることを目的とする。
【実施例】
【0080】
〔材料および方法〕
初めに、実施例および参考例に共通する材料および方法について、以下に説明する。
【実施例】
【0081】
(1)トリパノソーマ原虫および宿主細胞の培養
T. cruzi Tulahuen株のエピマスティゴートを、既報の方法(参考文献:Iizumi K, et al., Biochim Biophys Acta 1758:738-746, 2006)に従って、培地中で培養した。続いて、既報の方法(参考文献:Gluenz E, et al., Int J Parasitol 37:617-625, 2007)に従って、終末発育トリポマスティゴートを誘導した。既報の方法(参考文献:Nakajima-Shimada J, et al., Antimicrob Agents Chemother 40:2455-2458, 1996)に従って、終末発育トリポマスティゴートを3T3-SWISS Albino細胞(Health Science Research Bank)に感染させ、インビトロの培養および感染系を確立および維持し、培地中に出現したトリポマスティゴートを、遠心分離によって回収した。インビトロにおける実験的な感染には、3T3-SWISS Albino細胞およびヒト由来のHeLa細胞を用いた。
【実施例】
【0082】
(2)TcIPR過剰発現型組み換え体のプラスミド
強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)を融合した組換えTcIPR(EGFP-TcIPR)を過剰発現するT. cruziの作製には既報(参考文献:Hashimoto M, et al., Mol Microbiol 87:1133-1150, 2013)の方法に従って作製されたプラスミドを用いた。
【実施例】
【0083】
(3)抗体および試薬
抗TcIPRモノクローナル抗体を、既報の方法(参考文献:Hashimoto M, et al., Mol Microbiol 87:1133-1150, 2013)に従って調製した。抗EGFP抗体(Molecular Probes, Inc., Eugene, OR)および抗チューブリン抗体(Thermo Fisher Scientific, Inc., Rockford, IL)を購入した。シクロヘキシミド(和光純薬株式会社)を購入した。Quick-CBB PLUS(和光純薬株式会社)をCBB染色に用いた。既報(参考文献:Murata E, et al., Microbiol Immunol 52:539-543, 2008)に従ってウェスタンブロッティングを行った。
【実施例】
【0084】
(4)オリゴヌクレオチド
ホスホロチオエート型のオリゴヌクレオチドを設計し、Integrated DNA Technologies, Inc.(Diego, CA)から購入した。配列番号1、2、3および4で示される配列は、それぞれTcIPR遺伝子のセンス配列である、配列番号5、6、7、および8で示される配列の相補的な配列である。
【実施例】
【0085】
〔参考例1:TcIPRタンパク質の性質決定〕
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNAの転写阻害あるいは不安定化を介してタンパク質への翻訳を妨害するため、短寿命のタンパク質は、アンチセンスオリゴヌクレオチドによる、有効で機能的なノックダウンの対象として望ましい。TcIPRタンパク質が、アンチセンスオリゴヌクレオチドのストラテジーに好適であるかどうか確認するために、クルーズトリパノソーマのエピマスティゴートを、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミド(CHX)存在下で培養し、ウェスタンブロットによって、TcIPRタンパク質の分解を経時観察した。
【実施例】
【0086】
結果を図1のAに示す。図1は、クルーズトリパノソーマのエピマスティゴートにおけるTcIPRタンパク質の寿命を示す図であり、図1のAは、エピマスティゴートにおける天然型のTcIPRタンパク質の発現レベルを示す図である。また、図1のBは組換え型であるEGFP-TcIPR融合タンパク質の発現レベルを示す図である。クルーズトリパノソーマのエピマスティゴートを、示されている各時間、200μg/mLのCHX存在下で培養し、抗TcIPR抗体を用いたウェスタンブロッティングによって解析した。TcIPRタンパク質の発現レベルをチューブリンの発現レベルで標準化し、相対的な割合(%)を示した。
【実施例】
【0087】
図1のAに示されているように、TcIPRタンパク質の発現レベルは、CHX処理後に急速に低下した。この結果から、TcIPRタンパク質は、短寿命のタンパク質であると結論付けられるが、正確な半減期を調べるために以下に示す実験を行なった。
【実施例】
【0088】
EGFP-TcIPRの過剰発現型エピマスティゴートを、図1のAにおける実験と同様に、CHX存在下で培養し、抗TcIPR抗体を用いたウェスタンブロッティングを行なった。コントロールとして、EGFPを単独で発現するエピマスティゴートを実験に供した。
【実施例】
【0089】
結果を図1のBに示す。図1のBは組換え型であるEGFP-TcIPR融合タンパク質の発現レベルを示す図である。図1のBに示されているように、コントロールにおけるEGFPの発現量はほとんど変化しない一方で、EGFP-TcIPRは経時的に減少した。このことは、TcIPRドメインに特異的な、おそらくはプロテアソーム依存性の分解が起きていることを示している。また、EGFP-TcIPRの半減期は約3時間であった。これに対し、哺乳動物の刺激していない培養細胞におけるIPRタンパク質の半減期は10~12時間であることが知られている(参考文献:Wojcikiewicz RJH, WIREs Membr Transp Signal 1:126-135, 2012)。このことは、TcIPRタンパク質が、哺乳動物のIPRタンパク質よりも不安定であることを示している。したがって、TcIPRタンパク質は、短寿命のタンパク質であると結論付けた。TcIPRタンパク質が短寿命であることは、アンチセンスオリゴヌクレオチドが効果的に作用し得る点において、トリパノソーマ関連疾患治療薬として有効である。
【実施例】
【0090】
〔参考例2:トリポマスティゴートにおけるTcIPRのタンパク質レベル〕
本願発明者らは、TcIPRのmRNAの転写がトリパノソーマ原虫の生活環の中で恒常的に起こるが、転写レベルは形態毎に異なっており、トリポマスティゴートで最も低いことを示した。本参考例において、発育段階におけるTcIPRタンパク質の発現レベルの違いを、抗TcIPRモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングによって試験した。内部コントロールとして抗チューブリン抗体を用いたウェスタンブロッティングを行なった。結果を図2に示す。図2に示すように、TcIPRタンパク質は、エピマスティゴート(E)では検出される一方、トリポマスティゴート(T)では検出されない。これらの結果は、TcIPRタンパク質のレベルは、トリポマスティゴートにおいて、非常に低いことを示唆している。この結果は、クルーズトリパノソーマにおいて唯一の感染型であるトリポマスティゴートを標的としたアンチセンスヌクレオチドが効果的に作用し得る点において、トリパノソーマ関連疾患治療薬として有効であることを示している。
【実施例】
【0091】
トリポマスティゴートにおいてTcIPRタンパク質のレベルが低いことは、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた治療の標的として、以下の理由で有利である。第一に、クルーズトリパノソーマにおいては、トリポマスティゴートが唯一の感染型の形態であるため、効率よく感染を阻止し得る。第二に、トリポマスティゴートは分裂しないため、細胞内に取り込まれたアンチセンスオリゴヌクレオチド濃度は安定であり得る。第三に、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、特別な処理を必要とすることなくトリポマスティゴートに取り込まれるため(参考文献:Malaga S, Yoshida N. Infect Immun 69:353-359, 2001)、IPRタンパク質の発現は効率よく抑制され得る。また、TcIPRはヒトを含む哺乳動物のIPRとの相同性が非常に低いことため、副作用が起こりにくいと考えられる。以上のように、TcIPRはアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた治療の標的として好適である。
【実施例】
【0092】
〔実施例1:TcIPR特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドによるTcIPRタンパク質の発現抑制〕
TcIPR特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた処理は、トリポマスティゴートにおけるTcIPRタンパク質の発現を実際に妨げるどうかを評価した。TcIPRタンパク質はトリポマスティゴートにおいて検出されなかったため(図1のB参照)、EGFP-TcIPRの過剰発現トリポマスティゴートをアンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号3:Antisense 5995)またはセンスオリゴヌクレオチド(配列番号7:Sense 5995S)存在下で培養し、抗EGFP抗体を用いたウェスタンブロッティングを行なった。EGFP-TcIPRの発現コントロールとして未処理のEGFP-TcIPR過剰発現エピマスティゴートを用いた。内部コントロールとして抗チューブリン抗体を用いたウェスタンブロッティングを行なった。結果を図3に示す。
【実施例】
【0093】
EGFP-TcIPR過剰発現原虫においても、その発現レベルはトリポマスティゴートにおいて著しく低下していた。これは、TcIPRドメイン特異的な分解活性がトリポマスティゴートにおいて非常に強いことを示している。配列番号3のアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理した場合、共培養後4時間でEGFP-TcIPRの発現レベルは40%まで低下した。これらの結果は、トリポマスティゴートにおけるTcIPRの発現がアンチセンスオリゴヌクレオチド処理によって効率よく抑制できることを示している。また、配列番号7のセンスオリゴヌクレオチド処理においてもEGFP-TcIPRの発現レベルの低下が認められた。このことから、センスヌクレオチドによって、転写レベルでの発現抑制が起きていることも明らかとなった。
【実施例】
【0094】
以上の実験結果は、TcIPR特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドが、トリパノソーマ関連疾患治療薬の成分として有効であることを示している。
【実施例】
【0095】
〔実施例2:TcIPR特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドによるトリポマスティゴートの感染阻止〕
TcIPR特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドがトリポマスティゴートの細胞侵入を抑制するかどうかを検討した。40μMのホスホロチオエート型のオリゴヌクレオチド存在下でトリポマスティゴートを8時間培養し、原虫:宿主細胞=10:1の比で3T3-SWISS Albino細胞に感染させ、12時間後に200個の宿主細胞当たりのアマスティゴート数を計測した。示されているデータは、3回の独立した実験の平均±標準偏差である。実験群間の有意差の検定にはANOVAおよびフィッシャーのPLSD post hocテストを用いた。結果を図4のAに示す。
【実施例】
【0096】
図4は、トリポマスティゴートの細胞侵入におけるTcIPR特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドの阻害効果を示す図である。図4のAは、トリポマスティゴート(2×10個)を、ホスホロチオエート化した40μMのアンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号3)またはセンスオリゴヌクレオチド(配列番号7)で8時間処理し、4×10個のマウス線維芽細胞(3T3-SWISS albino)と12時間37℃でインキュベーションしたときの、200個の3T3-SWISS albino細胞あたりのアマスティゴートの数を示す(10MOI)。
【実施例】
【0097】
図4のAに示すように、配列番号3のアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理した場合、未処理(M)および配列番号7のセンスオリゴヌクレオチド処理と比較して感染アマスティゴート数が有意に低下した。これらの結果は、TcIPR遺伝子ノックアウト原虫を用いて得られた結果に一致し、TcIPRタンパク質の発現抑制がトリポマスティゴートの感染能を低下させることを示している。
【実施例】
【0098】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの標的となるDNA配列に特異性があるかどうかを調べるため、配列番号3に加えて、異なる領域に設定した3種のTcIPR特異的アンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号1、2および4)を用いてトリポマスティゴートの感染阻止効果を検討した。図4のAにおける実験と同様の処理を行ない、宿主細胞にはヒト由来HeLa細胞を用いた。その結果を図4のBに示す。
【実施例】
【0099】
図4のBは、トリポマスティゴート(4×10個)を40μMのホスホロチオエート化オリゴヌクレオチド(配列番号1、2、3および4)を用いて8時間処理し、4×10個のHeLa細胞と12時間37℃でインキュベーションしたときの200個のHeLa細胞あたりのアマスティゴートの数を示す(10MOI)。
【実施例】
【0100】
以上のように、実験に用いた全てのアンチセンスオリゴヌクレオチドについて、トリポマスティゴートの感染能の低下を誘導した。これらの結果は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの配列の選択性は低く、TcIPR遺伝子またはmRNAのコード領域であれば基本的にはどこにでもアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計でき得ることを示している。
【実施例】
【0101】
以上から、TcIPRを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドはトリパノソーマ関連疾患治療薬の成分として有効であることを示唆している。
【実施例】
【0102】
本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載した参考文献に記載の内容は全て、リファレンスとして本明細書の内容に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、例えば、トリパノソーマ関連疾患の治療・研究、およびトリパノソーマ関連疾患治療薬の開発等に利用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3