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明細書 :蛍光特性を示す新規なポリペプチド、およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6444856号 (P6444856)
登録日 平成30年12月7日(2018.12.7)
発行日 平成30年12月26日(2018.12.26)
発明の名称または考案の名称 蛍光特性を示す新規なポリペプチド、およびその利用
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/566       (2006.01)
G01N  33/58        (2006.01)
C07K  14/46        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C12N  15/12        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI G01N 33/53 S
G01N 33/566
G01N 33/58 Z
C07K 14/46
C07K 19/00
C12N 15/12 ZNA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
請求項の数または発明の数 4
全頁数 29
出願番号 特願2015-503061 (P2015-503061)
出願日 平成26年2月28日(2014.2.28)
国際出願番号 PCT/JP2014/055160
国際公開番号 WO2014/133158
国際公開日 平成26年9月4日(2014.9.4)
優先権出願番号 2013040097
優先日 平成25年2月28日(2013.2.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年12月13日(2016.12.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】宮脇 敦史
【氏名】熊谷 安希子
個別代理人の代理人 【識別番号】110002572、【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
審査官 【審査官】高山 敏充
参考文献・文献 特開2008-141988(JP,A)
HAYASHI S., et al.,A novel fluorescent protein purified from eel muscle,Fisheries Science,2009年,Vol. 75,pp.1461-1469
調査した分野 C12N 15/00-15/90
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
対象物中のビリルビンを検出する方法であって、
ポリペプチド又は融合ポリペプチドと、前記対象物とを接触させる接触工程、及び
前記接触工程後に前記ポリペプチド又は前記融合ポリペプチドから発される蛍光を検出する検出工程、
を含み、前記対象物が生物系試料又は非生物系試料であり、前記ポリペプチドが、以下の(1)~(5)のいずれか1つに示す、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドから成る群より選択され、且つ、前記融合ポリペプチドが、以下の(1)~(5)のいずれか1つに示す、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドから成る群より選択されるポリペプチドと他のポリペプチドとから成る融合ポリペプチドである、前記方法。
(1) 配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、
(2) 配列番号1記載のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するポリペプチド、
(3) 配列番号1記載のアミノ酸配列においてA12E、S80N、R82E及びK84Eから成る群より選択される1以上の置換を有するポリペプチド、
(4) 配列番号5又は29記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び、
(5) ビリルビンに対する解離定数が、0.1nM以上100nM以下である、前記(1)~(4)のいずれか1つのポリペプチド。
【請求項2】
前記対象物が生体から取得した血液由来又は尿由来の試料である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記検出工程での検出結果に基づき、肝臓疾患又は溶血性疾患の素因の有無又は発症の有無を検査するために前記検出結果を基準と比較する比較工程をさらに含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを有する組換えベクター、前記ポリヌクレオチド又は前記組換えベクターを有する形質転換体、及び融合ポリペプチドから選択される少なくとも1つを含む、ビリルビンの検出キットであって、前記ポリペプチドが、以下の(1)~(5)のいずれか1つに示す、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドから成る群より選択され、且つ、前記融合ポリペプチドが、以下の(1)~(5)のいずれか1つに示す、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドから成る群より選択されるポリペプチドと他のポリペプチドとから成る融合ポリペプチドである、前記キット。
(1) 配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、
(2) 配列番号1記載のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するポリペプチド、
(3) 配列番号1記載のアミノ酸配列においてA12E、S80N、R82E及びK84Eから成る群より選択される1以上の置換を有するポリペプチド、
(4) 配列番号5又は29記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び、
(5) ビリルビンに対する解離定数が、0.1nM以上100nM以下である、前記(1)~(4)のいずれか1つのポリペプチド。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎動物から単離されうる、蛍光特性を示す新規なポリペプチドとその利用とに関する。
【背景技術】
【0002】
GFP(緑色蛍光タンパク質)などの蛍光タンパク質は、細胞、組織、または生物個体などを可視化するツールとして、欠かせないものとなっている。
【0003】
これまで、蛍光タンパク質の大部分は、サンゴ、イソギンチャク、節足動物などの無脊椎動物から単離されてきた。しかし、例えば、非特許文献1~2、および特許文献1~2には、脊椎動物であるニホンウナギ(Anguilla japonica)が、蛍光タンパク質を持つことが報告されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2007-254371(公開日:2007年10月4日)」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開2008-141988(公開日:2008年6月26日)」
【0005】

【非特許文献1】本田将雄、岸野仁輔、今村美由紀、林征一:平成16年度日本水産学会大会 講演要旨集(2004年4月2日、p.203、1101)
【非特許文献2】Hayashi et al., Fisheries Science,75,1461-1469,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脊椎動物由来の蛍光タンパク質は、無脊椎動物由来の蛍光タンパク質とは異なる特性を有する可能性がある。そのため、脊椎動物由来の蛍光タンパク質の単離というテーマは、非常に興味が持たれている。
【0007】
しかし、上記特許文献1~2および非特許文献1~2での報告から相当に時間が経過したものの、脊椎動物に由来する蛍光タンパク質の全長、および当該蛍光タンパク質をコードする遺伝子の単離は未だに成功していない。
【0008】
本願発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、脊椎動物から単離されうる新規な蛍光タンパク質とその利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本願発明は以下の何れかの一態様を包含する。
1)以下の(1)~(4)の何れかに示す、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチド。(
1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~21個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチド、(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有するポリペプチド、(4)上記(1)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチド。
2)以下の(1)~(4)の何れかに記載のポリヌクレオチド。(
1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~21個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有し、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有し、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(4)上記(1)に記載のポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、分子生物学などの分野で有用な蛍光タンパク質とその利用を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例における組み換えUnaGタンパク質の大腸菌および哺乳類細胞における発現を示した図である。(a)は、組み換えUnaGタンパク質を発現させた大腸菌(2)をUVトランスイルミネーターによって青色の光を照射して観察した図である。左上は対照としてベクターpRSETをトランスフェクションした大腸菌(1)であり、右上はEGFPを発現させた大腸菌(3)である。(b)は、(a)に示した大腸菌(1)~(3)の細胞抽出液をSDS-PAGE電気泳動により電気泳動したゲルをCBB染色法によって染色した図である。(c)は、組み換えUnaGタンパク質を発現させた哺乳類細胞HEK293Tを蛍光顕微鏡下で観察した図である。上は微分干渉像、下は蛍光像である。
【図2】本発明の実施例における、UnaGタンパク質の蛍光特性を示した図である。
【図3】本発明の実施例における、ウシ胎児血清(FBS)およびFBS画分との再構成によるUnaGタンパク質の蛍光の特性等を示した図である。(a)は、FBSによって再構成したアポ体のUnaGタンパク質(左)およびホロ体のUnaGタンパク質(哺乳類細胞由来のFLAG-UnaGタンパク質)(右)の励起スペクトルおよび蛍光スペクトルを示した図である。(b)は、FBSを密度勾配超遠心分離により分画し、各画分とアポ体のUnaGタンパク質を再構成し測定した蛍光強度(実線)および各血清画分のタンパク質濃度(破線)を示した図である。縦軸は蛍光強度(左軸)とタンパク質濃度(mg/ml)(右軸)、横軸は画分番号を示す。
【図4】本発明の実施例における、ビリルビン(左)と、ホロ体のUnaGから抽出したリガンド(右)の吸収スペクトルを示した図である。横軸は吸収光の波長を示し、縦軸は吸光度を示す。
【図5】本発明の実施例におけるUnaGタンパク質の非抱合型ビリルビンに対する特異性を示した図である。アポ体のUnaG(0.5μM)に、リガンドとして様々な濃度のビリルビン(非抱合型)または様々な濃度のビリルビンの類縁体である、ビリベルジン、ウロビリンもしくはジタウロビリルビンと混合し、各濃度における蛍光強度を測定した。縦軸は蛍光強度、横軸は各リガンドの濃度(μM)を示す。
【図6】本発明の実施例における、野生体のUnaGタンパク質およびR82EK84E改変体のUnaGタンパク質の、粒子径の測定結果を示した図である。
【図7】本発明の実施例における、ヒト血清(200倍希釈)にアポ体のUnaG(2μM)を混合した場合の蛍光検出結果(10検体)を示した図である。縦軸は蛍光強度、横軸は血清にアポ体のUnaGタンパク質を添加したときを0分としたときの経過時間を指す。
【図8】本発明の実施例における、間接ビリルビン(非抱合型ビリルビン)の量と、UnaGタンパク質の蛍光強度との相関を示した図である。
【図9】本発明の実施例における、ビリルビン濃度と、野生体のUnaGタンパク質およびA12ES80N改変体のUnaGタンパク質のmCherryタンパク質に対する蛍光強度比との相関を示した図である。
【図10】本発明の実施例における、A12ES80N改変体のUnaGタンパク質の蛍光の特性を示した図である。左の図はA12ES80N改変体のUnaGタンパク質の吸収スペクトルを示しており、横軸は吸収光の波長を示し、縦軸は吸光度を示す。右の図は、A12ES80N改変体のUnaGタンパク質の励起スペクトルおよび蛍光スペクトルを示しており、横軸は励起光および蛍光の波長を示し、縦軸は蛍光強度を示す。
【図11】本発明の実施例における、ビリルビンの量と、野生体のUnaGタンパク質(左)またはA12ES80N改変体のUnaGタンパク質(右)の蛍光強度との相関を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の一形態について詳細に説明する。

【0013】
〔用語などの定義〕
本明細書において、「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体を意図している。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言でき、特に言及のない限り、デオキシリボヌクレオチドの配列またはリボヌクレオチドの配列を意図している。また、ポリヌクレオチドは、一本鎖であっても二本鎖構造であってもよく、一本鎖の場合はセンス鎖であってもアンチセンス鎖であってもよい。

【0014】
本明細書において、「ポリペプチド」は、「タンパク質」とも換言できる。

【0015】
本明細書において、「ウナギ」は、ニホンウナギ、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギ、およびオオウナギなどの、ウナギ科ウナギ属(Anguilla)に含まれる魚類を意図している。

【0016】
本明細書において、「Aおよび/またはB」は、AおよびBとAまたはBとの双方を含む概念であり、「AおよびBの少なくとも一方」とも換言できる。

【0017】
本明細書において、「ビリルビン」は、ヘモグロビンの構成物であるヘムの分解産物を指す。本発明においてビリルビンの好ましい態様の一つは非抱合型ビリルビンである。非抱合型ビリルビンは、間接ビリルビンとも称される。

【0018】
〔1.蛍光特性を有するポリペプチド〕
本発明に係るポリペプチドは、以下の(1)~(4)の何れかに示す、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチド(以下、「蛍光ポリペプチド」と称する)である。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛍光ポリペプチド。
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~21個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有する蛍光ポリペプチド。なお、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸の個数は、1~21個であることが好ましく、1~14個であることがより好ましく、1~7個であることがさらに好ましく、1~5または6個であることが特に好ましい。
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有する蛍光ポリペプチド。なお、配列同一性は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上であることが特に好ましい。
(4)上記(1)に記載の蛍光ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を有する蛍光ポリペプチド。なお、ストリンジェントな条件については、本発明に係るポリヌクレオチドの欄で後述する。

【0019】
本発明に係る蛍光ポリペプチドは、ビリルビン非存在下など、ビリルビンとの相互作用が失われる環境になると、蛍光特性を示さない。これまでに例を見ない、かかる蛍光特性を有することが、本ポリペプチドの単離が困難であった一因と推定される。

【0020】
上記蛍光ポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合してなるポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含むものであってもよい。ここでいうポリペプチド以外の構造としては、糖鎖やイソプレノイド基などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。また、上記蛍光ポリペプチドはビリルビンとの結合部位となる構造を有しているポリペプチドである。

【0021】
本発明にかかる蛍光ポリペプチドは、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。より具体的には、当該ポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された翻訳産物をその範疇に含む。本発明に係る蛍光ポリペプチドの一例は、ウナギ由来のものが挙げられ、より具体的にはニホンウナギ由来のものが挙げられる。配列番号1にそのアミノ酸配列を示す蛍光ポリペプチド(UnaGと呼ぶ)は、元々はニホンウナギから単離したものであるが、特にその由来は限定されない。

【0022】
本発明に係る蛍光ポリペプチドは、ビリルビン存在下(ビリルビンと結合した状態)では、励起光の照射を受けて所定波長の蛍光を発するが、ビリルビンの非存在下では同じ励起光の照射を受けても蛍光を発しないという共通した特性を有するポリペプチド群である。ただし、リガンド存在下で蛍光を発するという特性を満たす限りにおいて、さらに他の化合物(例えば、ビリルビンの類縁化合物)の存在下で蛍光を発するもの(蛍光ポリペプチドの改変体を含む)であってもよい。

【0023】
本発明に係る蛍光ポリペプチドは、さらに、UnaGと同等の蛍光特性を示すことが好ましい場合がある。ここで、同等の蛍光特性を示すこととは、同等の励起波長、および同等の蛍光波長を有することを指す。

【0024】
なお、UnaGの蛍光特性の主だったものは、以下の通りである。
最大励起波長(nm):498~499
最大蛍光波長(nm):525~530(緑色)
モル吸光係数(M-1cm-1):50000~78000
量子収率(%):50~54
蛍光寿命(ナノ秒):2.2
なお、UnaGと同等の励起波長を有するとは、例えば、最大励起波長が480nm~520nmの範囲内であり、或いは、490nm~510nmの範囲内であり、或いは、494nm~504nmの範囲内であることを意味している。
また、UnaGと同等の蛍光波長を有するとは、例えば、最大蛍光波長が507nm~547nmの範囲内であり、或いは、517nm~537nmの範囲内であり、或いは、522nm~532nmの範囲内であることを意味している。

【0025】
なお、上記の(1)~(4)に示した蛍光ポリペプチドのうち、(2)~(4)は、(1)を基準とした場合に変異体と捉えることができる。例えば、当業者は、蛍光強度、蛍光速度および蛍光の安定性から選択される1つ以上の蛍光特性の向上を目的として、任意の方法で変異を導入することができる。ここで、蛍光強度とは蛍光を発する光の強さを指標として数値化したものであり、光の吸収効率(すなわち吸光係数)と励起光と蛍光との変換効率(すなわち量子収率)とに比例する、蛍光の輝度を意味している。また、蛍光速度とは励起光を受けてから一定の蛍光強度に達するまでの速さを数値化した値を意味している。また、蛍光の安定性とは一定の蛍光強度を維持する時間を指標として判定される、蛍光ポリペプチドの有する特性を意味している。すなわち、一定の経過時間における蛍光の減衰の度合が小さいほど、蛍光の安定性が高いことを意味している。

【0026】
(1)に示した蛍光ポリペプチドのうち、配列番号1に示す12番目、57番目、61番目、77番目、80番目、81番目、112番目、132番目および134番目の9個のアミノ酸は、ビリルビンとの結合能に特に関与している。従って、ビリルビンとの結合能が変化しうる変異体を得る場合は、上記9個のアミノ酸の少なくとも一つに変異(置換、欠失、挿入、および/または付加、好ましくは他のアミノ酸への置換)を生じさせることが好ましい。一方、ビリルビンとの結合能が同等に維持されうる変異体を得る場合は、上記9個のアミノ酸以外のアミノ酸に変異を生じさせることが好ましい。例えば、配列番号1に示す82番目~85番目のアミノ酸から選択される少なくとも一つ、より好ましくは82番目および84番目のアミノ酸から選択される少なくとも一つに変異(好ましくは他のアミノ酸への置換)を生じさせることにより、蛍光特性が実質的に維持され、かつ分子同士の分散性が改善された蛍光ポリペプチドを提供することができる(実施例も参照)。

【0027】
また、特に、本発明に係るポリペプチドの蛍光特性を維持しながら、ビリルビンとの結合能を低下させる場合、(1)に示した蛍光ポリペプチドのうち、配列番号1に示す12番目、80番目、57番目および61番目の4個のアミノ酸のうちの少なくとも1つに変異を生じさせることが好ましく、12番目、80番目および61番目のうちの少なくとも1つに変異を生じさせることがより好ましく、12番目および80番目に変異を生じさせることがさらに好ましい。上述のアミノ酸は、それぞれビリルビンと水素結合することによって、ビリルビンとの結合性に関与するアミノ酸である。例えば、12番目のアミノ酸と、80番目のアミノ酸とに変異(好ましくは他のアミノ酸への置換)を生じさせることにより、蛍光特性が実質的に維持され、かつUnaGと比較してビリルビンとの結合能が低下した蛍光ポリペプチドを提供することができる(実施例も参照)。

【0028】
UnaGと比較してビリルビンとの結合能が低下した蛍光ポリペプチドは、例えば対象物中のビリルビンの検出において、好適に用いることができる。

【0029】
なお、対象物中のビリルビンの検出方法については、以下の〔6.対象物中のビリルビンの検出〕において詳細に記載する。

【0030】
ビリルビンとの結合能は、ビリルビンの量と、UnaGタンパク質の蛍光強度との相関をカーブフィットすることにより、解離定数(Kd)を算出することによって評価することができる。一例として、UnaGと比較してビリルビンとの結合能が低下しているとは、UnaGと比較して、Kdが大きいことを意味している。

【0031】
なお、UnaGのKdは、98pMである。

【0032】
一例として、UnaGと比較してビリルビンとの結合能が低下した蛍光ポリペプチドとは、KdがUnaGのKdの1000倍以上、好ましくは100倍以上、より好ましくは15~20倍以上の値である。

【0033】
また、ビリルビンの検出に用いられるために好適なKdとしては、0.1nM以上100nM以下であることが好ましく、0.1nM以上10nM以下であることがより好ましく、0.1nM以上2nM以下であることがさらに好ましい。

【0034】
解離定数の算出方法としては公知の方法を挙げることができ、例えば以下の計算式によって計算され得る。
Y=[K+B+P-{(K+B+P-4×B×P1/2]/(2×P
Yはビリルビンの結合度(蛍光強度)、Kは解離定数、Bはビリルビン濃度、Pはアポ体のUnaGタンパク質濃度(5nM)を表す。

【0035】
なお、上記(2)~(4)に示した蛍光ポリペプチドは、例えば、Kunkel法(Kunkel et al.(1985):Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.82.p488-)などの部位特異的突然変異誘発法を用いて、上記(1)に示した蛍光ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに人為的に変異を導入してもよい。この蛍光ポリペプチドの一例は、配列番号5および配列番号29に示すアミノ酸配列を持つものである。また、天然に存在する同様の変異ポリペプチドに由来するものなどであってもよい。この蛍光ポリペプチドの一例は、配列番号3に示すアミノ酸配列を持つものである。

【0036】
〔3.蛍光ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド〕
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記蛍光ポリペプチドの何れかをコードするものである。このポリヌクレオチドは、具体的には、以下の(1)~(4)の何れかに記載のポリヌクレオチドである。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~21個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有し、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。なお、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸の個数は、1~21個であることが好ましく、1~14個であることがより好ましく、1~7個であることがさらに好ましく、1~5または6個であることが特に好ましい。
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有し、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。なお、アミノ酸配列の配列同一性は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上であることが特に好ましい。例えば、ウナギに由来する変異遺伝子、またはウナギ以外の生物に由来する相同遺伝子がこの範疇に含まれる。
(4)上記(1)に記載のポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。なお、ストリンジェントな条件下とは、例えば、参考文献[Molecular cloning-a Laboratory manual 2nd edition(Sambrookら、1989)]に記載の条件などが挙げられる。ストリンジェントな条件下とは、より具体的には例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハートおよび100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8~16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件、および当該条件におけるハイブリダイズ後に65℃で約0.1Mまたはそれより低い塩を含む溶液中、好ましくは0.2×SSCまたは同程度のイオン強度を有する任意の他の溶液において洗浄する条件が挙げられる。なお、このポリヌクレオチドは、上記(1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列に対して85%以上の配列同一性を有することが好ましく、90%以上の配列同一性を有することがより好ましく、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上の配列同一性を有することがさらに好ましい。

【0037】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。本発明にかかるポリヌクレオチドの一例である、配列番号2に示す塩基配列は、配列番号1に示すポリペプチドをコードするcDNAである。本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列などの付加的な配列を含むものであってもよい。

【0038】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得する(単離する)方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記ポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。或いは、本発明に係るポリヌクレオチドを、ホスホロアミダイト法などの核酸合成法に従って合成してもよい。

【0039】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドを取得する方法として、PCRなどの増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、当該ポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)などを鋳型にしてPCRなどを行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。

【0040】
本発明に係るポリヌクレオチドとして、例えば、ニホンウナギ由来のcDNA(配列番号2および4)、当該cDNAの変異体(配列番号6)などを挙げることができる。

【0041】
〔3.組み換えベクター〕
本発明に係るポリヌクレオチド(例えばDNA)は、適当なベクター中に挿入された組み換えベクターとして利用に供することもできる。当該ベクターの種類は、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミドなど)でもよいし、或いは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。

【0042】
上記ベクターは、好ましくは発現ベクターである。発現ベクターにおいて本発明に係るポリヌクレオチドは、転写に必要な要素(例えば、プロモータなど)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜することができる。

【0043】
細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Bacillusstearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha-amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus Subtilis alkaline protease gene)もしくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosldase gene)のプロモータ、またはファージ・ラムダのPR若しくはPLプロモータ、大腸菌のlac、trp若しくはtacプロモータなどが挙げられる。

【0044】
昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータなどがある。酵母細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2-4cプロモータなどが挙げられる。糸状菌細胞で作動可能なプロモータの例としては、ADH3プロモータまたはtpiAプロモータなどがある。

【0045】
哺乳動物細胞で作動可能なプロモータの例としては、SV40プロモータ、MT-1(メタロチオネイン遺伝子)プロモータ、またはアデノウイルス2主後期プロモータなどがある。

【0046】
また、本発明に係るポリヌクレオチドは必要に応じて、例えばヒト成長ホルモンターミネータまたは真菌宿主についてはTPI1ターミネータ若しくはADH3ターミネータのような適切なターミネータに機能的に結合されてもよい。本発明に係る組み換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル、転写エンハンサ配列および翻訳エンハンサ配列のような要素を有していてもよい。

【0047】
本発明に係る組み換えベクターは、さらに、該ベクターが宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)が挙げられる。

【0048】
本発明に係る組み換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。

【0049】
〔4.形質転換体〕
本発明に係るポリヌクレオチド、または、本発明に係る組み換えベクター(本発明の核酸構築物と総称する)を適当な宿主細胞に導入することによって形質転換体を作製することができる。

【0050】
宿主細胞としては、例えば、細菌細胞、酵母細胞、真菌細胞、および高等真核細胞などが挙げられる。なお、宿主細胞の細胞内にビリルビンが含まれる培養条件において培養した場合は、本発明に係るポリペプチドはビリルビンと結合した状態で産生され得るが、細胞内にビリルビンが含まれない培養条件においては(例えばリポタンパク質を含まない培地を使用する培養条件など)、ビリルビンと結合していない状態のポリペプチドが産生され得る。

【0051】
細菌細胞の例としては、バチルスまたはストレプトマイセスなどのグラム陽性菌または大腸菌などのグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌細胞の形質転換は、例えば、プロトプラスト法、またはコンピテント細胞を用いる方法などにより行えばよい。

【0052】
酵母細胞の例としては、サッカロマイセスまたはシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)などが挙げられる。本発明の核酸構築物の酵母宿主への導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法などを挙げることができる。

【0053】
酵母細胞以外の真菌細胞の例は、糸状菌、例えば、アスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、本発明の核酸構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。核酸構築物の宿主染色体への組み込みは、例えば、相同組換えまたは異種組換えにより行うことができる。

【0054】
昆虫細胞を宿主細胞として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる。共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法またはリポフェクション法などを挙げることができる。

【0055】
哺乳動物細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞またはCHO細胞などが挙げられる。哺乳動物細胞の形質転換には、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法などを用いることができる。

【0056】
上記の形質転換体は、導入された核酸構築物の発現を可能にする条件下で、適切な培養培地中で培養する。次いで、必要に応じて、形質転換体の培養物から、本発明に係る蛍光ポリペプチドを単離精製する。

【0057】
なお、形質転換体は、細胞に限定されない。すなわち、形質転換体は、例えば、本発明に係る核酸構築物で形質転換された組織、器官、および個体であってもよい。ただし、細胞以外の形質転換体は、非ヒト由来のものであることが好ましい場合があり、特に個体は非ヒト由来のものであることが好ましい。

【0058】
〔5.蛍光ポリペプチドとビリルビンとの複合体など〕
本発明に係る蛍光ポリペプチドとビリルビンとの複合体(ホロ体)も本発明の範疇である。この複合体は、所定波長の励起光を照射することによって蛍光を発する。また、ビリルビンを安定的に保持する保持担体として、本発明に係る蛍光ポリペプチドは機能し得る。この複合体は、ビリルビンと結合していない蛍光ポリペプチド(アポ体)を単離精製した後に、ビリルビンと接触させることで再構成した複合体であってもよい。

【0059】
本発明に係る蛍光ポリペプチドと他のポリペプチドとからなる融合ポリペプチド(以下、本発明に係る融合ポリペプチドと称する)も本発明の範疇である。融合ポリペプチドは、例えば、本発明に係る組み換えベクターの発現によって産生される融合タンパク質;任意のタンパク質を本発明に係る蛍光ポリペプチドで標識した融合タンパク質;本発明に係る蛍光ポリペプチドと、蛍光を安定化させるための所定のペプチド配列とが融合してなる融合タンパク質;本発明に係る蛍光ポリペプチドと他の蛍光ポリペプチドとを備えたFRET用プローブ;などが挙げられる。すなわち、本発明に係る蛍光ポリペプチドと融合させる他のポリペプチドの種類は特に限定されない。

【0060】
また、本発明に係る蛍光ポリペプチドに特異的に結合する抗体も本発明の範疇に含まれる。

【0061】
〔6.対象物中のビリルビンの検出〕
本発明に係るビリルビンの検出方法は、1)本発明に係る蛍光ポリペプチド、または本発明に係る融合ポリペプチドと、ビリルビンの検出の対象物とを接触させる接触工程、および、2)接触工程後に当該ポリペプチドまたは当該融合ポリペプチドから発される蛍光を検出する検出工程、を含む方法である。

【0062】
(接触工程)
ビリルビンの検出の対象物の種類は、ビリルビン含有の有無、またはその含有量を検出したい対象物であれば特に限定されない。対象物としては、例えば、生物系試料、または非生物系試料が挙げられる。生物系試料としては、特に限定されないが、例えば、細胞自身、細胞抽出液および体液由来試料(例えば、血液、唾液、リンパ液、髄液および尿などに由来する試料)などが挙げられ、中でも体液由来試料が好ましく、血液由来または尿由来の試料がより好ましい。血液由来の試料としては、生体から採取した血液自身、血清および血漿などが挙げられる。なお、生体はヒトであっても非ヒト脊椎動物であってもよいが、ヒトまたは非ヒト哺乳動物が好ましく、ヒトがより好ましい。また、細胞自身、または細胞抽出液としては、例えば、脾臓細胞(特に細網細胞)、肝細胞、およびこれら細胞の抽出液が挙げられる。非生物系試料としては、ビリルビンを所定の濃度で含むビリルビン標準サンプルなどが挙げられる。

【0063】
本発明に係る蛍光ポリペプチドまたは融合ポリペプチドと、上記対象物とを接触させる方法は、用いる対象物の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、検出の対象物が細胞自身などのように遺伝子の翻訳系を有する場合は、本発明に係る蛍光ポリペプチドまたは融合ポリペプチドをコードするポリペプチドを対象物内に導入することによって、上記接触工程を行えばよい。また、検出の対象物が細胞自身以外である場合は、例えば、単離した本発明に係る蛍光ポリペプチドまたは融合ポリペプチドと、対象物とを直接接触させる(両者を混合する)ことによって、上記接触工程を行えばよい。

【0064】
接触工程を行う条件は、本発明に係る蛍光ポリペプチドまたは融合ポリペプチドに実質的な変性が生じない条件で行うことができる。これらポリペプチドに実質的な変性が生じない条件とは、例えば、温度条件が4℃以上で65℃以下の範囲内であり、20℃以上で37℃以下の範囲内であることが好ましい。また、接触工程は、必要に応じて、生理的食塩水中、或いは、リン酸系などの緩衝溶液中で行ってもよい。
(検出工程)
上記検出工程は、接触工程後に行われ、本発明に係るポリペプチドまたは融合ポリペプチドから発される蛍光を検出する工程である。蛍光の検出方法は特に限定されないが、例えば、UVトランスイルミネーターもしくはLEDトランスイルミネーター、蛍光顕微鏡、蛍光検出器またはフローサイトメトリーなどの蛍光検出手段を用いて、蛍光発光の有無または蛍光強度を測定すればよい。蛍光発光の有無を測定すれば、対象物中にビリルビンが含まれる(蛍光発光有り)か否か(蛍光発光無し)を検出することができる。また、蛍光強度を測定すれば、対象物中のビリルビンの含有量を検出することができる。

【0065】
なお、対象物中のビリルビンの含有量とは、基準となる試料と比較した場合の相対的なビリルビン含有量であってもよく、絶対的なビリルビン含有量(絶対濃度)であってもよい。絶対的なビリルビン含有量を求めるためには、濃度既知のビリルビン標準サンプルを用いた検量線の作成などを予め行ってもよい。

【0066】
(検査工程)
本発明に係るビリルビンの検出方法は、さらに必要に応じて、上記検出工程での検出結果に基づき、肝臓疾患の素因の有無または発症の有無を検査する検査工程をさらに含んでいてもよい。

【0067】
脊椎動物において、ビリルビンは、ヘムの分解産物の一つである。赤血球が脾臓で分解される際に、ヘムは脾臓の細網細胞で分解されてビリルビン(非抱合型)が生じる。生じたビリルビンは、アルブミンと結合した形で肝臓へと輸送される。

【0068】
血液検査では間接ビリルビン量という項目で非抱合型のビリルビン量を評価しているが、これは総ビリルビン量と直接ビリルビン(抱合型ビリルビン)量とを測定し、総ビリルビン量から直接ビリルビン量を差し引いて求めたものである。

【0069】
血液検査では、間接ビリルビン量は肝機能を表す指標の一つとして確立されている。従って、本発明に係るビリルビンの検出方法を用いて、対象物中(特に血液由来の試料中)のビリルビンの含有量を求めれば、肝臓疾患または溶血性疾患などの素因の有無または発症の有無を検査することが可能となる。

【0070】
なお、検査対象となる肝臓疾患とは、各種の肝機能障害が挙げられる。肝臓疾患または溶血性疾患として、より具体的には例えば、肝炎、肝硬変、肝がん、胆道系疾患、溶血性貧血および体質性黄疸(Gilbert 症候群およびCrigler-Najjar 症候群)、などが挙げられ、特に非抱合型ビリルビン量が指標になる疾患としては溶血性黄疸、劇症肝炎、体質性黄疸および新生児にみられる核黄疸などが挙げられる。

【0071】
肝臓疾患の素因の有無または発症の有無を検査する場合の基準は、対象物が血液由来の試料の場合には、例えば、従来の血液検査における基準(間接ビリルビン量:0.8mg/dl以下であれば正常範囲)を参照すればよい。

【0072】
本発明に係るビリルビンの検出方法は、非抱合型のビリルビン量を直接測定するものであるが、この直接測定の結果と、抱合型のビリルビン量を直接測定(バナジン酸酸化法、ジアゾカップリング法などで測定可能)した結果とを合わせて、総ビリルビン量を求めることもできる。

【0073】
なお、本明細書中において「診断する」、「診断」とは、医師によってなされる、患者の徴候および症状に基づく疾患または病態の同定を指す。一方、本明細書中の「検査する」、「検査」とは、医師による同定(診断)を伴わない、検査対象のヒトまたは非ヒト動物(「被験体」と称する場合もある)における、肝臓疾患または溶血性疾患などの素因の有無または発症の有無の検査を指す。本発明に係る検出方法によって得られた検査結果は、医師によってなされる診断の一材料になりうる。

【0074】
(ビリルビンの検出方法の他の応用例)
本発明に係るビリルビンの検出方法の他の応用例としては、生物系試料などの生物由来の対象物に含まれており、ビリルビンとの結合性を有する生体物質について、対象物のビリルビンの検出を介することによって、間接的に生体物質を検出する、生体物質の検出方法が挙げられる。例えば、対象物(特に血液由来の試料)中のHDLコレステロール量の測定が挙げられる。HDLコレステロールはビリルビンへの特異的な結合性を示す。

【0075】
〔7.ビリルビンの検出キット〕
本発明に係るビリルビンの検出キットは、1)本発明に係る蛍光ポリペプチド、2)本発明に係る蛍光ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、3)本発明に係る組み換えベクター、4)本発明に係る形質転換体、または5)本発明に係る融合ポリペプチドから選択される少なくとも1種以上を含んでなる。この検出キットは、1)~3)または5)から選択される少なくとも1種を含んでなることが好ましい。

【0076】
本発明に係る検出キットは、さらに、必要に応じて、ビリルビンの検出に用いる各種試薬および器具(緩衝溶液、ピペットなど)、試料(検出の対象物)を調製するための各種試薬および器具(試験管、緩衝溶液など)、検出キットの使用説明書、検出の時に用いられる対照用となる試料、検出結果を解析するときに用いられる対照用のデータ、などの少なくとも1つを備えていてもよい。なお、検出キットの使用説明書には、上記〔6.対象物中のビリルビンの検出〕の欄で説明した、本発明に係る検出方法の内容が記録されている。

【0077】
〔8.基体固定化ポリペプチド〕
また、本発明に係るポリペプチドの一態様として、基体に固定された形態が挙げられる。ポリペプチドが供されて固定化される基体の材質は特に限定されず、具体的には例えば、ポリスチレン、マグネティックビーズ、滅菌和紙、滅菌濾紙、滅菌不織布、またはPVDF膜(ポリフッ化ビニリデン膜)もしくはPTFE膜(ポリテトラフルオロエチレン膜)等の親水性膜、またはシリコーンゴムなどの柔軟性のある高分子材料、ポリグリコール酸もしくはポリ乳酸などの生分解性ポリマー、または寒天培地、コラーゲンゲルもしくはゼラチンゲルなどのハイドロゲルならびに金薄膜等が挙げられる。このように基体に固定化されることによって、上述したビリルビンの検出等に好適に用いられる。

【0078】
基体の形状も特に限定されず、具体的には例えば、平板形状(すなわち基板またはシート状)または球形状等が挙げられる。ポリペプチドが固定された基体を含む製品としては、具体的には例えば、シート、マイクロチップ、ビーズおよびセンサーチップ等が挙げられる。シートの例としては、繊維状、不織布状またはフィルム状等の膜が挙げられる。

【0079】
また、本発明に係るポリペプチドを基体に供して固定化する方法は基体の材質に応じて適宜選択すればよく、具体的には例えば、ビオチン-アビジン法、抗原抗体法、およびHis-tag等を利用したアフィニティタグ法などが利用できるが、簡便性の観点からはアフィニティタグ法が好ましい。また、シート状の基体に本発明のポリペプチドを固定する方法としては、シート状基体に塗布(例えば浸漬、エアースプレーおよびインクジェットによる塗布)する方法、基体上に本発明のポリペプチドを滴下、転写または播種する方法、および本発明のポリペプチドを滴下、転写または播種した後、風乾または凍結乾燥させる方法等が挙げられる。

【0080】
〔9.本発明に係る具体的な態様の例示〕
すなわち、本発明は、以下の1)~11)の何れかを包含する。
1)以下の(1)~(4)の何れかに示す、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチド。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~21個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチド、(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有するポリペプチド、(4)上記(1)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチド。
2)以下の(1)~(4)の何れかに記載のポリヌクレオチド。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~21個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有し、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列同一性を有し、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(4)上記(1)に記載のポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、ビリルビン存在下において蛍光特性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
3)上記ポリペプチドのビリルビンに対する解離定数が、0.1nM以上100nM以下であることを特徴とする、1)に記載のポリペプチド。
4)上記3)に記載のポリヌクレオチドを有する組み換えベクター。
5)上記3)に記載のポリヌクレオチドまたは上記4)に記載の組み換えベクターが導入されている形質転換体。
6)上記1)または3)に記載のポリペプチドと他のポリペプチドとからなる融合ポリペプチド。
7)ビリルビンと結合していない、上記1)、3)または6)に記載のポリペプチドに、ビリルビンを接触させることによって構成されたポリペプチド-ビリルビン複合体。
8)対象物中のビリルビンを検出する方法であって、上記1)に記載のポリペプチド、3)に記載のポリペプチドまたは上記5)に記載の融合ポリペプチドと、上記対象物とを接触させる接触工程、および、上記接触工程後に上記ポリペプチドまたは上記融合ポリペプチドから発される蛍光を検出する検出工程、を含む、検出方法。
9)上記対象物が生体から取得した血液由来または尿由来の試料である、7)に記載の検出方法。
10)上記検出工程での検出結果に基づき、肝臓疾患または溶血性疾患の素因の有無または発症の有無を検査する検査工程をさらに含む、8)または9)に記載の検出方法。
11)上記1)に記載のポリペプチド、上記2)に記載のポリヌクレオチド、3)に記載のポリペプチド、上記4)に記載の組み換えベクター、上記5)に記載の形質転換体、または上記6)に記載の融合ポリペプチドから選択される少なくとも1種以上を含む、ビリルビンの検出キット。

【0081】
なお、本出願は日本で出願された特願2013-040097(出願日:2013年2月28日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【実施例】
【0082】
〔実施例1〕
〔1.ニホンウナギ由来のUnaG遺伝子のクローニング〕
(材料および方法)
<実験材料>
天然のニホンウナギ(Anguilla japonica)の稚魚であるシラスウナギ(ケニス株式会社より入手)を使用した。
【実施例】
【0083】
<シラスウナギからのtotal RNAの調製>
生体のシラスウナギ(約0.2g前後)を液体窒素に投入し、即時凍結させた。その後、液体窒素中においてテフロンホモゲナイザーを用いて、シラスウナギを破砕した。ホモゲナイザー容器中のシラスウナギにTRIzol(登録商標)試薬3mlを添加し、氷上で溶解後、低温室においてホモジナイズを行った。コニカルチューブにホモジネートを移し、0.6mlのクロロホルムを添加した。上述のクロロホルムを添加したホモジネートを攪拌し室温において5分静置した。7000rpm、4℃で20分間遠心後、水層を回収した(約1.5ml)。回収した水層に、1.5mlのイソプロパノールを添加して攪拌し、室温において10分間静置した。続いて、15,000rpmの回転速度で、4℃において10分間遠心した。上清を除去し、沈殿を75%エタノールでリンスし、10,000rpmの回転速度で4℃において5分間遠心し、エタノールを除去し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を風乾させ、100μlのRNaseフリーの水に溶解し、ニホンウナギのtotal RNAを得た。得られたtotal RNAについて、260nmの波長における吸光度(以降A260と表記し、異なる波長における吸光度についても同様の表記方法とする)を測定し、RNAの濃度を求めた(1A260≒40ngRNA/μlとして換算)。
【実施例】
【0084】
<5’RACE法および3’RACE法を用いたクローニングによるUnaG遺伝子全長の取得>
林ら(Hayashi et al., Fish. Sci. 75, 1461-1469, 2009)によって単離および同定されたウナギの蛍光タンパク質の9つのアミノ酸断片配列の情報に基づき、配列番号7~16に示す縮重プライマーを設計した。さらに、配列番号17~23に示すRACE用のアダプタープライマーを設計し、3’RACE法および5’RACE法により、ニホンウナギの蛍光タンパク質をコードする遺伝子のクローニングを行った。以下にクローニングの手順について詳細を記載する。なお、クローニングに用いた、配列番号7~23に示すプライマーは、表1にもその塩基配列を示した。
【実施例】
【0085】
【表1】
JP0006444856B2_000002t.gif
【実施例】
【0086】
Total RNA 5μgに対して、100μMのSpeI-NotI-d(T)15プライマー(配列番号23)を0.5μl、10mMのdNTPmixtureを1μl添加し、水を加えて容量を13μlとした。65℃において15分間加熱後、素早く氷冷し、5× First-Strand Buffer(250mMのTris-HCl(pH 8.3)、375mMのKCl、15mMのMgCl)を4μl、0.1MのDTTを1μl、組換え型RNase インヒビターRNase OUT(商標)(インビトロジェン株式会社)を40ユニット、およびSuperScript III(商標)逆転写酵素(インビトロジェン株式会社)を200ユニット添加し、50℃で60分間加熱後、70℃で15分間さらに加熱した。続いて、リボヌクレアーゼ Hを1μl加え、37℃で20分間インキュベートし、3’RACE用の1st strand cDNAを調製した。一方、5’RACE用の1st strand cDNAは5' RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends, Version 2.0(インビトロジェン株式会社)を用いて、製品に添付されている手順書に従って調製した。上述のように設計した縮重プライマー、ならびに3’ RACE用および5’RACE用のアダプタープライマーを用いてPCRを行い、増幅産物をpT7Blue T-Vector(Novagen社)にクローンニングし、Applied Biosystems 3730xl DNA Analyzer(Applied Biosystems社)によってDNA配列解析を行い、遺伝子解析ソフトウェアであるDNAdynamo(BlueTractorSoftware)を用いて配列の決定を行った。
【実施例】
【0087】
(結果)
上述の方法によって得られた、完全長cDNAの5’側末端、3’側末端、ならびにその他の領域を配列の重複に基づき統合して配列番号2に示す420bpの塩基配列を得て、これをUnaG遺伝子の完全長cDNA配列とした。また、配列番号2の塩基配列の他に、配列番号4で示した塩基配列も配列番号2のバリアントとして得られた。なお、以下の実験は、すべて配列番号2の配列に基づき行った。
【実施例】
【0088】
また、配列番号2のcDNA配列から、配列番号1に示す、139個のアミノ酸を有する推定アミノ酸配列を得た。このアミノ酸配列で示されるポリペプチドをUnaGタンパク質と称する。UnaGタンパク質は、GFPおよびGFP様タンパク質のアミノ酸配列に含まれ、発色団を形成しているアミノ酸配列である、X-Y-G(Xは任意のアミノ酸を示す)を有していなかった。
【実施例】
【0089】
〔2.組み換えUnaGタンパク質の発現〕
〔2-1.大腸菌におけるUnaGタンパク質(アポ体)の発現〕
(材料および方法)
<大腸菌発現用組み換え体(ベクター)の作製>
上記のようにして得たUnaG遺伝子全長の配列を有するDNA断片を、GST融合タンパク質を大腸菌において発現可能な、GSTタグ配列を有する大腸菌発現ベクターpGEX-2T(GEヘルスケア)のBamHIおよびEcoRIの制限酵素サイトにライゲーションし、大腸菌株DH5αに形質転換することによってサブクローニングし、大腸菌のUnaG(アポ体)発現ベクター(pGEX-2T-UnaG)を構築した。
【実施例】
【0090】
<大腸菌発現用組み換え体(ベクター)の大腸菌における発現、培養およびタンパク質の精製>
構築した発現ベクター(pGEX-2T-UnaG)を大腸菌株BL21(DE3)に形質転換し、形質転換体をLB固体培地のプレート上で培養してコロニーを得た。得られたコロニーを、LB液体培地40mlに植菌し、37℃において一晩前培養した。ここで、得られた大腸菌液のグリセロールストックを作製し、以下に記載の実験において、大腸菌発現用組み換え体(ベクター)を用いる場合は、上記グリセロールストックを植菌に用いた。前培養液を用いて、LB培地400mlにスケールアップし、37℃において1時間培養した(A600≒1.0)。その後、LB培地に終濃度0.4mMとなるようにIPTG(イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクシド)を加え、17℃において6時間振とうし、UnaGタンパク質の発現を誘導した。8000rpmの回転速度で3分間遠心分離を行い、大腸菌の菌体を回収した。
【実施例】
【0091】
上記の操作によって回収した菌体を20mlのPBS(phosphate buffered saline)で懸濁し、リゾチーム(4mg/ml)を200μl添加し、液体窒素によって菌体を凍結させた後、融解させた。この凍結融解の作業を3回繰り返し、3分間超音波処理を行った後、7000rpmの回転速度で、4℃において20分間遠心分離し、上清を回収し菌体の可溶化液を得た。PBSによって平衡化した1mlのGlutathione Sepharose4B(GEヘルスケア株式会社)(GSTの担体)および可溶化液を4℃で1時間インキュベートし、上記の担体にGST融合UnaGタンパク質を結合させた。担体の総容量の10倍以上の容量のPBSによって上記の担体を洗浄した後、80ユニットのThrombin(GEヘルスケア株式会社)を担体に加え、室温において一晩消化反応を行い、担体に結合したGSTからUnaGタンパク質を切断した。さらに、UnaGタンパク質溶液にPBSによって平衡化した1mlのBenzamidine Sepharose 6B(GEヘルスケア株式会社)(Thrombinの担体)を加え、4℃で1時間インキュベートし、Thrombinを担体に結合させることによって回収し、担体を除去して上清を得た。得られた上清をUnaGタンパク質の精製品とし、2.0~2.5mgのUnaGタンパク質の精製品を得た。UnaGタンパク質の精製品について、SDS-PAGE電気泳動による電気泳動を行い、精製度の確認を行った。結果を図1に示し、以下の項目2-2.にまとめて記載する。
【実施例】
【0092】
<タンパク質濃度の測定>
タンパク質濃度は以下のように算出された。なお、〔2.組み換えUnaGタンパク質の発現〕~〔7.ヒト血清中ビリルビンの検出〕に記載されている実験方法のうちタンパク質濃度を測定する場合は、すべて同様の方法により算出された。
【実施例】
【0093】
まず、280nmにおけるUnaGタンパク質のモル吸光係数(ε)を算出した(C.N.Pace et al., Protein Sci. 4, 2411-2423, 1995)。次に、得られたε値およびA280の吸光度に基づき、以下に示した計算式によりタンパク質濃度を求めた。
【実施例】
【0094】
ε=Trp(2)×5500+Tyr(5)×1490+Cystine(0)×125=18450(A280/mol/cm)
タンパク質濃度=A280/ε=A280/18450(mol/dm
〔2-2.哺乳類細胞におけるUnaGタンパク質(ホロ体)の発現〕
(材料および方法)
<哺乳類細胞発現用組み換え体(ベクター)の作製>
鋳型DNAとして配列番号2のUnaG遺伝子の完全長cDNA、センスプライマー(配列番号24)、およびアンチセンスプライマー(配列番号25)を用いたPCRにより哺乳類細胞用発現ベクターに挿入するDNAを増幅した。哺乳類細胞用発現ベクターpcDNA3(インビトロジェン株式会社)のKpnI制限酵素サイトおよびBamHI制限酵素サイトに、FLAGタグ配列(配列番号26)を挿入したpcDNA3-FLAGベクターのBamHI制限酵素サイトおよびEcoRI制限酵素サイトに、増幅したDNA断片をライゲーションした後、大腸菌株DH5αに形質転換することによりクローニングした。大腸菌からベクターを抽出した後にベクターを精製し、DNA配列解析により配列を確認し、哺乳類細胞UnaG発現ベクター(pcDNA3-FLAG-UnaG)を構築した。
【実施例】
【0095】
<哺乳類細胞発現用組み換え体(ベクター)の哺乳類細胞における発現、培養、およびタンパク質の精製>
HEK293T細胞を直径10cmのディッシュ20枚に播種し、10%のウシ胎児血清(GIBCO社製)および抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)を含むDulbecco's Modified Eagle Medium(高グルコース)(GIBCO)で5%のCOおよび37℃の条件下で培養した。50~60%コンフルエントまで細胞が増殖したら、ディッシュ中の培地を抗生物質を含まない培地に交換し、予め混合した哺乳類細胞UnaG発現ベクターのプラスミドDNAおよびトランスフェクション試薬(10cmディッシュ1枚あたり、DNAを10μg、FuGene(登録商標)HDトランスフェクション試薬を40μl、Opti-MEM(登録商標)I Reduced-Serum Medium(GIBCO)を500μl)をディッシュ1枚あたり500μl添加し、トランスフェクションした。トランスフェクション後、細胞を一晩培養し、ディッシュ中の培地を抗生物質を含む培地に交換した。さらに一晩培養し、タンパク質を発現させた。
【実施例】
【0096】
タンパク質を発現させた後、培地をディッシュから除去し、PBSによって細胞を洗浄した。つづいて、PBSをディッシュに添加することによって細胞をディッシュから剥がし、細胞をPBSに懸濁させた。上述の懸濁液を、1000prmの遠心力で3分間遠心することによって、細胞を沈殿物として回収した。細胞を溶解バッファー[50mMのTris-HCl(pH 7.4)、150mMのNaCl、1mMのEDTAおよび1%のTriton X-100]20mlに懸濁し、室温において15分間ローテーターで攪拌しながら細胞を溶解バッファー中に溶解させた。15,000gの遠心力で、4℃において10分間遠心し、上清を回収した。回収した上清をTBSバッファー[50mMのTris-HCl(pH 7.4)および150mMのNaCl]によって平衡化したANTI-FLAG M2-Agarose Affinity Gel(シグマ アルドリッチ社)4mlと4℃において3時間インキュベートした。インキュベーションの後、遠心することによって上清を除き、ゲルを総容量の10倍の容量以上のTBSバッファーで洗浄した。その後、上記のゲルの総容量の5倍の容量のTBSバッファー(FLAGペプチド(シグマ アルドリッチ社)(100μg/ml)を含む)を用いてゲルからFLAG-UnaGタンパク質(ホロ体)を溶出させた。溶出カラムとしてAmicon Ultra-15(3000MWCO、メルクミリポア)を用い、限外濾過することによって溶出液の濃縮を行った後、PD-10カラム(GEヘルスケア株式会社)に供してバッファー交換および余剰のFLAGペプチドを除くことにより精製し、FLAG-UnaGタンパク質の精製品とした。精製したFLAG-UnaGタンパク質(ホロ体)について、UVトランスイルミネーターで照射し、蛍光の有無を確認した。さらにSDS-PAGE電気泳動による電気泳動を行い、精製度の確認を行った。結果を図1に示す。
【実施例】
【0097】
(結果)
図1は組み換えUnaGタンパク質の、大腸菌および哺乳類細胞における発現を示した図である。(a)は、組み換えUnaGタンパク質を発現させた大腸菌(2)をUVトランスイルミネーターによって青色の光を照射して観察した図である。左上は対照としてベクターpRSETをトランスフェクションした大腸菌(1)であり、右上はEGFPを発現させた大腸菌(3)である。(b)は、(a)に示した大腸菌(1)~(3)の細胞抽出液をSDS-PAGE電気泳動により電気泳動したゲルをCBB染色法によって染色した図である。(c)は、組み換えUnaGタンパク質を発現させた哺乳類細胞HEK293Tを蛍光顕微鏡下で観察した、微分干渉像および蛍光像の図である。図1の(b)および(c)に示されているように、大腸菌および哺乳類細胞のいずれにおいて発現した場合もUnaGタンパク質は、十分な発現量を示した。また、上述の精製の操作によって、不純物を十分に除去することができた。しかしながら、図1の(a)の顕微鏡写真から明らかなように、大腸菌においてUnaGタンパク質を発現させた場合、大腸菌の細胞内において、UnaGタンパク質は蛍光を示さなかった。一方、図1の(c)の顕微鏡写真から明らかなように哺乳類の細胞において発現させたUnaGタンパク質は蛍光を示した。
【実施例】
【0098】
以上のことから、UnaGタンパク質は、大腸菌には含まれていないが哺乳類細胞には含まれているリガンドの存在下において蛍光特性を有することが明らかとなった。また、リガンドは、脊椎動物、すくなくとも魚類および哺乳類が共通に有するものであることが推測された。
【実施例】
【0099】
〔3.UnaGタンパク質の蛍光特性の分析〕
(材料および方法)
<UnaGタンパク質の蛍光スペクトル、吸収スペクトルおよび量子収率の測定>
UnaGタンパク質の蛍光特性について分析するため、蛍光スペクトル、吸収スペクトルおよび量子収率の測定を行った。励起スペクトルおよび蛍光スペクトルは分光蛍光光度計RF-5300PC(株式会社島津製作所)によって測定された(励起波長475nm、蛍光波長550nm)。吸収スペクトルは分光光度計 U-2900(株式会社日立ハイテクノロジーズ)によって測定された。量子収率は絶対PL量子収率測定装置Quantaurus-QY(浜松ホトニクス株式会社)によって測定された(励起波長470nm、480nm)。また、公知の蛍光タンパク質であるEGFPについても同様に測定を行い、UnaGタンパク質の値と比較した。結果を表2に示す。
【実施例】
【0100】
(結果)
【実施例】
【0101】
【表2】
JP0006444856B2_000003t.gif
【実施例】
【0102】
図2は、UnaGタンパク質の蛍光特性を示した図である。
【実施例】
【0103】
〔4.UnaGタンパク質のリガンドの同定〕
(材料および方法)
<密度勾配遠心分離法によるウシ胎児血清(FBS)の分画>
FBS(GIBCO)20mlにKBrを8g(0.4gKBr/ml)加え、0.4g/mlのKBrを含むPBSで36mlにメスアップした。この溶液を遠心チューブ6本に6mlずつ分注し、分注した溶液の上から0.75%食塩水6mlを重層した。遠心管およびSw41Tiローター(ベックマン・コールター社)を用いて170,000g、15℃で20時間超遠心分離(ベックマン・コールター社)を行った。続いて、分画機(エスケーエスバイオインターナショナル社)を用いて、各遠心チューブ中の分画血清の上層から0.33mlずつ分注した。
【実施例】
【0104】
<FBSおよびFBS画分によるアポ体のUnaGタンパク質の再構成>
アポ体のUnaGタンパク質は、上述の項目2-1の方法によって作製したものを用いた。10%FBS溶液に0.5μMとなるようにアポ体のUnaGタンパク質を添加し、室温で30分間インキュベートし再構成した。
【実施例】
【0105】
FBSによって再構成したUnaGタンパク質の励起スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定した。
【実施例】
【0106】
PBSによって2倍に希釈したFBS画分に、0.5μMとなるようにアポ体のUnaGタンパク質を添加し、室温で30分間インキュベートした。続いて96穴マイクロプレート(greiner bio-one)に200μlずつ添加し、EnSpire マルチモードプレートリーダー(PerkinElmer)を用いて波長497nmの励起光で波長527nmの蛍光強度を測定した。結果を図3に示した。
【実施例】
【0107】
(結果)
図3は、FBSおよびFBS画分との再構成によるUnaGタンパク質の蛍光特性等を示した図である。(a)は、FBSによって再構成したアポ体のUnaGタンパク質(左)およびホロ体のUnaGタンパク質(哺乳類細胞由来のFLAG-UnaGタンパク質)(右)の励起スペクトルおよび蛍光スペクトルを示した図である。(b)は、FBSを密度勾配超遠心分離により分画し、各画分とアポ体のUnaGタンパク質とを再構成し測定した蛍光強度(実線)および各血清画分のタンパク質濃度(破線)を示した図である。縦軸は蛍光強度(左軸)とタンパク質濃度(mg/ml)(右軸)、横軸は画分番号を示す。
【実施例】
【0108】
図3の結果から、FBSに含有される成分がUnaGタンパク質のリガンドとして機能することがわかった。
【実施例】
【0109】
<ホロ体のUnaGタンパク質からのリガンドの抽出法>
リガンドの抽出はBligh and Dyer法(Bligh, E.G. & Dyer, W.J. Can. J. Biochem. Physiol. 37, 911-917, 1959)に従って行った。哺乳類細胞由来のFLAG-UnaGタンパク質(ホロ体)溶液0.4mlに対し、クロロホルム0.5mlおよびメタノール1mlを加えて混合した。上記混合物に対し、クロロホルム0.5mlおよびバッファー0.5mlを加えてさらに混合し、最終的に水溶液:メタノール:クロロホルムの比を0.9:1:1となるようにした。その後、1,500rpmの遠心力で5分間遠心分離を行い、リガンドを含む脂質成分が抽出された有機溶媒層と、水層とに分離させた。このうち、リガンドを含む脂質の抽出液(すなわち有機溶媒層)を回収した。
【実施例】
【0110】
<ホロ体のUnaGタンパク質から抽出したリガンドおよびビリルビンの吸収スペクトルの比較>
上述の方法によって、ホロ体のUnaGタンパク質から抽出されたリガンドおよび血清に含まれている成分の1つであるビリルビンについて、吸収スペクトルを比較し、吸収ス
ペクトルが一致するものを探索した。結果を図4に示す。
【実施例】
【0111】
(結果)
図4は、ビリルビン(左)と、UnaGリガンド(右)の吸収スペクトルを示した図である。横軸は吸収光の波長を示し、縦軸は吸光度を示した。図4に示されているように、UnaGのリガンドの吸収スペクトルは、ビリルビンの吸収スペクトルと一致した。したがって、UnaGのリガンドはビリルビンであることが示された。
【実施例】
【0112】
〔5.UnaGタンパク質の非抱合型ビリルビンに対する特性〕
(材料および方法)
<再構成によるホロ体のUnaGの作製>
100%DMSOに溶解させたビリルビン(和光純薬)をPBSによって希釈し、ビリルビンの濃度がアポ体のUnaG溶液に対してモル比において2倍の量となるように、アポ体のUnaGタンパク質溶液にビリルビンを添加し、混合した。混合の際、ビリルビン溶液のDMSOの終濃度と、アポ体のUnaGタンパク質溶液のDMSOの終濃度とが同じになるようにした。混合した溶液を入れた容器を遮光し、室温において10分間静置した。その後、PD-10カラム(GEヘルスケア株式会社)に該混合溶液を供して、混合溶液に含まれるバッファーを、PBSへバッファー交換しつつ余剰のビリルビンを除いた。必要に応じて、Amicon Ultra(3000MWCO、メルクミリポア)を用いて限外濾過することによって、ホロ体のUnaGタンパク質の濃縮を行った。
<ビリルビンまたはビリルビン類縁体を用いたアポ体のUnaGタンパク質の再構成>
ビリルビンまたはビリルビン類縁体である、ビリベルジン(Tronto Research Chemicals)、ウロビリン(MP Biomedicals)もしくはジタウロビリルビン(Frontier Scientific)を終濃度が、0.125μM、0.25μM、0.5μM、1.0μM、および2.0μMとなるようにPBSで希釈し、0.5μMのアポ体のUnaGタンパク質と混合し、室温で30分間静置した。96穴マイクロプレート(greiner bio-one)に200μlずつ添加し、EnSpire マルチモードプレートリーダー(PerkinElmer)を用いて波長497nmの励起光で波長527nmの蛍光強度を測定した。結果を図5に示す。
【実施例】
【0113】
(結果)
図5は、アポ体のUnaGタンパク質溶液に各濃度のビリルビンまたは各濃度のビリルビン類縁体を添加して再構成したUnaGタンパク質の蛍光強度を示す。横軸はリガンド濃度(μM)、縦軸は蛍光強度を示す。ビリルビン類縁体を加えてもUnaGは蛍光を発せず、UnaGの蛍光はビリルビン特異的であることが示された。
【実施例】
【0114】
〔6.UnaGタンパク質の凝集性に関与する部位の解析〕
(材料および方法)
<変異導入(R82EK84E)によるUnaG改変体の作製方法およびR82EK84E改変体のUnaGタンパク発現>
GENEART(登録商標) Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン株式会社)を使用し、製品に添付されている手順書に従って、UnaGのアミノ酸配列に対する部位特異的な変異導入を行った。上述の2-1.に記載の大腸菌発現用組み換え体(ベクター)pGEX-2T-UnaGを鋳型とし、センスプライマー(配列番号27)とアンチセンスプライマー(配列番号28)を用いてPCRにより野生体のUnaGタンパク質の82番目のアミノ酸であるR、および84番目のアミノ酸であるKをそれぞれEに置換した。変異を導入したpGEX-2T-UnaG(R82EK84E)を大腸菌株BL21(DE3)に形質転換し、上述の2-1.に記載の野生体のUnaGタンパク質の発現方法と同様の方法によってタンパク質を発現させた。UnaGタンパク質の精製についても上述の2-1.に記載の方法と同様に行った。ただし、Thrombin消化に用いたThrombinは40ユニットとし、20℃において、3時間の条件により行った。精製後、ビリルビンと再構成させることによりホロ体を調製した。ホロ体の調製方法は、上述の2-2.に記載の方法と同様の方法を用いて行った。R82EK84E改変体の推定アミノ酸配列を配列番号5に示した。
【実施例】
【0115】
<タンパク質の凝集性の評価>
野生体のUnaGタンパク質(10mg/ml)およびR82EK84E改変体のUnaGタンパク質(8.5mg/ml)のタンパク質溶液20μlをマイクロトラック粒度分析計MT3000II(日機装株式会社)に供し、動的光散乱法を用いて粒子径を測定した。粒子径に対する頻度をプロットし、凝集性を評価した。結果を図6に示す。
【実施例】
【0116】
<R82EK84E改変体の蛍光特性の分析>
R82EK84E改変体の蛍光特性について分析するため、蛍光スペクトル、吸収スペクトルおよび量子収率の測定を行った。測定は上述の3.に記載の方法と同様の方法によって行った。蛍光寿命は小型蛍光寿命測定装置Quantaurus-Tau(浜松ホトニクス株式会社)で測定した。また、野生体のUnaGタンパク質の値と比較した。結果を表3に示す。
【実施例】
【0117】
(結果)
【実施例】
【0118】
【表3】
JP0006444856B2_000004t.gif
【実施例】
【0119】
図6は、野生体のUnaGタンパク質およびR82EK84E改変体のUnaGタンパク質の、粒子径の測定結果を示した図である。横軸は粒子径(nm)、縦軸は頻度(%)を示す。図6に示されているように、野生体の場合は、粒子径の分布範囲の異なる2つのピークが見られた。このうち、粒子径の分布範囲の小さいピークは単量体を示し、粒子径の分布範囲の大きい方のピークは凝集体のピークを示していると推測された。これに対し、R82EK84E改変体は、野生体の2つのピークのうち、粒子径の分布範囲の小さいほうのピークと重なる位置に単一のピークを示した。すなわち、R82EK84E改変体は、野生体よりも分散性が向上し、凝集しにくくなった。
【実施例】
【0120】
〔7.ヒト血清中ビリルビンの検出〕
(材料および方法)
<滴定によるアポ体のUnaGタンパク質とビリルビンとの結合>
アポ体のUnaGタンパク質の濃度が5nMのアポ体のUnaGタンパク質溶液に、ビリルビン濃度が最終的に10nMになるまでビリルビンを滴定し、蛍光分光光度計で蛍光スペクトルを測定した。グラフ作成ソフトウェアOrigin(OriginLab社)を用いて、各データの最大蛍光波長527nmの蛍光強度をグラフにし、下記の式を用いてカーブフィットすることにより解離定数を求めた。
Y=[K+B+P-{(K+B+P-4×B×P1/2]/(2×P
Yはビリルビンの結合度(蛍光強度)、Kは解離定数、Bはビリルビン濃度、Pはアポ体のUnaGタンパク質濃度(5nM)を表す。
【実施例】
【0121】
<ヒト血清中の非抱合型ビリルビンの検出法>
ヒト検体を用いた実験は、独立行政法人理化学研究所の「人を対象とする研究規定」に従い、承認を得て実施した。
【実施例】
【0122】
23Gの注射針(テルモ株式会社)および5mlの注射筒(テルモ株式会社)を用いて、腕の静脈より5mlを真空密封採血管(ネオチューブ、ニプロ株式会社)中に採血した。採取した血液を遮光し、室温において30分間静置した後、3,000rpmの回転速度で、20分間遠心分離(KUBOTA K-80)を行い、血清約2.5mlを回収した。回収した血清は遮光しながら氷冷し、速やかにビリルビン測定に供した。
【実施例】
【0123】
PBSで200倍に希釈した血清にアポ体のUnaGを終濃度0.5μMとなるように添加し、96穴のマイクロプレート(ブラック、非吸着型、Greiner bio-one)に200μl加えた。プレートにサンプルを添加した直後から蛍光の測定を開始した。EnSpire(商標)マルチモードプレートリーダー(株式会社パーキンエルマー)を使用し、室温において10分間おきに1時間、蛍光波長527nm(励起波長497nm)における蛍光強度を測定した。各血清3ウェルずつ測定を行い、アポ体のUnaGタンパク質を加えない血清もバックグランドとして測定した。アポ体のUnaGタンパク質を加えた値からバックグランドの値を差し引き、正味の蛍光強度とした。結果を図7に示す。
さらに、三菱化学メディエンス株式会社に生化学検査を依頼し、血清中の総ビリルビン値および直接ビリルビン値を酵素法(Doumas, B.T. et al., Clin. Chem.. 33, 1349-1353, 1987; Kurosaka K et al., Clin. Chim. Acta. 269, 125-136, 1998)により測定し、間接ビリルビン値を計算法により測定した。なお、計算法とは総ビリルビン量と直接ビリルビン量とを測定し、総ビリルビン量から直接ビリルビン量を差し引いた値を間接ビリルビン量とする方法である。間接ビリルビンの値と血清中のUnaGの蛍光強度との相関係数を求めた。結果を図8に示す。
【実施例】
【0124】
(結果)
図7は、ヒト血清にUnaGを混合した場合の蛍光検出結果を示した図である。縦軸は血清にアポ体のUnaGタンパク質を添加したときを0分としたときの経過時間、横軸は蛍光強度を指す。10検体の検査結果を示した。
【実施例】
【0125】
図7に示されているように、200倍に希釈した血清を用いた場合でも十分な蛍光強度を得ることができた。したがって、非常に少ない量の血清であってもビリルビンの測定が可能であることが示唆された。約10分後には安定した蛍光が産生しその後も1時間以上持続する。したがって、添加10分後以降の適当な時間に測定することで再現性の高いデータが得られる。
【実施例】
【0126】
図8はビリルビンの量と、UnaGの蛍光強度との相関を示した図である。横軸は血清中に含まれる間接ビリルビン(非抱合型ビリルビン)の濃度、縦軸は蛍光強度を示す。UnaGタンパク質の蛍光強度と、血清中の間接ビリルビンの濃度との間には強い相関性があることが示された。
【実施例】
【0127】
〔8.ビリルビン低結合性のUnaG改変体の作製〕
(材料および方法)
<ランダム変異誘発>
Diversify(登録商標)PCRランダム突然変異誘発キット(Clonetech)を用いて、PCRで野生体のUnaGにランダムに突然変異を導入した。野生体のUnaGの鋳型DNAをもとにセンスプライマー(配列番号31)、アンチセンスプライマー(配列番号32)を用いて、PCRによりベクターに挿入するDNAを増幅した。大腸菌発現ベクターpRSETBのKpnI/BamHI制限酵素サイトにmCherry配列を挿入したpRSETB-mCherryベクターのBamHI/EcoRI制限酵素サイトに増幅したDNA断片をライゲーションした後、大腸菌株JM109(DE3)に形質転換しクローニングした。mCherryのアミノ酸配列を配列番号33、塩基配列を配列番号34に示す。
【実施例】
【0128】
<スクリーニング(コロニータイトレーション)>
上述の形質転換によって得られた大腸菌コロニーから、ランダムにコロニーをピックアップし、LB培地1mlに植菌し、37℃で1晩培養した。8000rpmの回転速度で1分間遠心後、上清を除いた。回収した菌体に、B-PER Protein Extraction Reagents(Thermo Scientific)を400μl添加し、5分間攪拌した。8000rpmの回転速度で、4℃で3分間遠心し、上清を回収した。96穴マイクロプレート(FIAブラックプレート、greiner bio-one)に各サンプルをそれぞれ50μlずつ4穴に分注した。ビリルビン溶液を150μl添加し、終濃度がそれぞれ0.01、0.1、1.0および10μMとなるようにした。室温で20分間インキュベートし、EnSpire(登録商標)マルチモードプレートリーダー(株式会社パーキンエルマー)を用いて、UnaGの野生体および改変体について、波長497nmの励起光で波長527nmの蛍光強度を測定した。また、mCherryについて、励起波長580nmで波長610nmの蛍光強度を測定した。UnaGタンパク質のmCherryに対する蛍光強度比を求めてプロットした。野生体のUnaGタンパク質と比較して、ビリルビンに低親和性を示し、且つ野生体と同程度の蛍光強度を保つクローンであるUnaG改変体のタンパク質のプロットの結果を図9に示す。
【実施例】
【0129】
また、野生体のUnaGタンパク質と比較して、ビリルビンに低親和性を示し、且つ野生体と同程度の蛍光強度を保つクローンを複製し、Applied Biosystems 3730xl DNA Analyzer(Applied Biosystems社)によってDNA配列解析を行い、遺伝子解析ソフトウェアであるDNAdynamo(BlueTractorSoftware)を用いて配列の決定を行った。
【実施例】
【0130】
(結果)
配列解析の結果、野生体の12番目のAがEに、80番目のSがNにそれぞれ置換したアミノ酸配列を有する変異体(以降A12ES80N改変体と称する)であることが分かった。得られたアミノ酸配列を配列番号29に示す。
【実施例】
【0131】
図9は、ビリルビン濃度と、野生体のUnaGタンパク質およびA12ES80N改変体のUnaGタンパク質のmCherryタンパク質に対する蛍光強度比との相関を示した図である。横軸はビリルビンの濃度、縦軸は蛍光強度比を示す。
【実施例】
【0132】
〔9.ビリルビン低親和性改変体であるA12ES80N改変体タンパク質の解析〕
<大腸菌におけるA12ES80N改変体UnaGタンパク質(アポ体)の発現>
A12ES80N改変体のDNA断片を大腸菌発現ベクターpcRSETBのKpnI/BamHI制限酵素サイトにFLAGタグ配列(配列番号26)を挿入したpRSETB-FLAGベクターのBamHIおよびEcoRIの制限酵素サイトにライゲーションし、大腸菌株JM109(DE3)に形質転換しサブクローニングした。
【実施例】
【0133】
LBプレート上のコロニーをLB液体培地50mlに植菌し、17℃で3晩培養し、UnaGの発現を誘導した。8000rpmで3分間遠心分離を行い、大腸菌を回収した。
菌体を5mlのPBSで懸濁し、リゾチーム(4mg/ml)を50μl添加し、液体窒素で菌体を凍結させた後融解させた。この凍結融解の作業を3回繰り返し、3分間超音波処理を行った後、7000rpm、4℃で20分間遠心分離し、上清を回収し可溶化液を得た。PBSで平衡化した1mlのNi-NTA Agarose(QIAGEN)と可溶化液を4℃で1時間インキュベートし、担体にHis-FLAG融合UnaGを結合させた。担体の総容量の10倍以上の5mMのイミダゾールを含むPBSで洗浄した後、更に担体の総容量の15倍以上の10mMのイミダゾールを含むPBSで洗浄した。その後、300mMのイミダゾールを含むPBSを500μlずつ担体に添加し、His-FLAG-UnaG改変体タンパク質を溶出し、ブラッドフォード法を用いて溶出画分を検出した。溶出画分を回収し、Amicon Ultra-4(メルクミリポア)を用いて限外濾過を行い、濃縮した。イミダゾールを除去するために、PBSで平衡化した脱塩カラムPD-10(GEヘルスケア)に濃縮したタンパク溶液を添加し、PBSを500μlずつ加えHis-FLAG-UnaG改変体タンパク質を溶出し、ブラッドフォード法を用いて溶出画分を検出した。精製したHis-FLAG-UnaG改変体タンパク質について、以下に示した計算式によりA280の吸光度に基づきタンパク質濃度を求めた。その後SDS-PAGE電気泳動によって精製の確認を行った。
ε=Trp(2)×5500+Tyr(7)×1490+Cystine(0)×125=21430(A280/mol/cm)
タンパク濃度=A280/ε=A280/21430(mol/dm
精製後、ビリルビンと再構成させることによりホロ体を調製した。ホロ体の調製方法は、上述の2-2.に記載の方法と同様の方法を用いて行った。
【実施例】
【0134】
<A12ES80N改変体の蛍光特性の分析>
ホロ体のA12ES80N改変体タンパク質の蛍光特性について分析するため、蛍光スペクトル、吸収スペクトルおよび量子収率(励起波長470nm)の測定を行った。測定は上述の3.に記載の方法と同様の方法によって行った。また、野生体のUnaGタンパク質の値と比較した。結果を図10および表4に示す。
【実施例】
【0135】
(結果)
【実施例】
【0136】
【表4】
JP0006444856B2_000005t.gif
【実施例】
【0137】
図10は、A12ES80N改変体のUnaGタンパク質の蛍光の特性を示した図である。左の図はA12ES80N改変体のUnaGタンパク質の吸収スペクトルを示しており、横軸は吸収光の波長を示し、縦軸は吸光度を示す。右の図は、A12ES80N改変体のUnaGタンパク質の励起スペクトルおよび蛍光スペクトルを示しており、横軸は励起光および蛍光の波長を示し、縦軸は蛍光強度を示す。
【実施例】
【0138】
〔9.A12ES80N改変体のビリルビン結合性能の評価〕
(材料および方法)
<解離定数測定>
アポ体のA12ES80N改変体タンパク質にビリルビンを滴定し、分光蛍光光度計F-2500(株式会社日立ハイテクノロジーズ)で蛍光強度を測定した。その結果をプロットし、データ分析およびグラフ作成ソフトウェアOrigin(OriginLab社)によりフィッティングを行い解離定数(Kd)を求めた。ビリルビンの滴定方法および解離定数の測定方法については、7.に記載の方法と同様の方法によって行った。結果を図11に示す。
【実施例】
【0139】
(結果)
図11は、ビリルビンの量と、野生体のUnaGタンパク質(左)またはA12ES80N改変体のUnaGタンパク質(右)の蛍光強度との相関を示した図である。カーブフィッティングの結果、UnaG野生体のK=98pMに対し、A12ES80N改変体はK=1.9nMの親和力でビリルビンに結合することが分かった。
【実施例】
【0140】
本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載した参考文献に記載の内容は全て、リファレンスとして本明細書の内容に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、ニホンウナギ由来の新規な蛍光特性を有するタンパク質を提供する。また、本発明のポリペプチドをバイオマーカーとした、新規なビリルビンの検出方法を提供することが出来る。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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