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明細書 :マイクロチップ用の流体制御デバイスおよびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6172711号 (P6172711)
公開番号 特開2014-029327 (P2014-029327A)
登録日 平成29年7月14日(2017.7.14)
発行日 平成29年8月2日(2017.8.2)
公開日 平成26年2月13日(2014.2.13)
発明の名称または考案の名称 マイクロチップ用の流体制御デバイスおよびその利用
国際特許分類 G01N  35/08        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
B01J  19/00        (2006.01)
FI G01N 35/08 A
G01N 37/00 101
B01J 19/00 321
請求項の数または発明の数 5
全頁数 19
出願番号 特願2013-127810 (P2013-127810)
出願日 平成25年6月18日(2013.6.18)
優先権出願番号 2012151915
優先日 平成24年7月5日(2012.7.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年3月3日(2016.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】田中 陽
【氏名】上田 泰己
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】渡邊 吉喜
参考文献・文献 特開2009-115732(JP,A)
特開2009-014010(JP,A)
特開2003-286940(JP,A)
特開2005-308200(JP,A)
特開2012-087006(JP,A)
米国特許第7314208(US,B1)
田中 陽,超薄板ガラスの柔軟性を利用したマイクロチップ用バルブ,Material Stage,2014年 4月,Vol.14, No.1,p.41-43
調査した分野 G01N35/00-37/00
特許請求の範囲 【請求項1】
中空部が設けられたガラス基板を備え、
上記中空部には、上記ガラス基板の上面および底面へ向けて第1開口部および第2開口部が形成されており、
厚さ1~50μmのガラス薄板が上記第1開口部を封止しており、
上記ガラス薄板が上記中空部へ向けて押圧されたときに上記ガラス薄板によって封止されうる位置に上記第2開口部が設けられており、
上記ガラス薄板は、上記中空部へ向かう押力に応じて変位して上記中空部の容積を変更し、上記第2開口部を封止しうる、
マイクロチップ用の流体制御デバイス。
【請求項2】
中空部が設けられたガラス基板を備え、
上記中空部には、上記ガラス基板の上面および底面へ向けて第1開口部および第2開口部が形成されており、
厚さ1~25μmのガラス薄板が上記第1開口部を封止しており、
上記ガラス薄板が上記中空部へ向けて押圧されたときに上記ガラス薄板によって封止されうる位置に上記第2開口部が設けられており、
上記ガラス薄板は、上記中空部へ向かう押力に応じて変位して上記中空部の容積を変更し、上記第2開口部を封止しうる、
マイクロチップ用の流体制御デバイス。
【請求項3】
上記第1開口部を封止したガラス薄板を、記中空部へ向けて押圧する押圧部をさらに備えている、請求項1または2に記載の流体制御デバイス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の流体制御デバイスと、マイクロ流路が形成されたチャネル基板とを備え、
上記流体制御デバイスの中空部と上記マイクロ流路とが連通している、マイクロチップ。
【請求項5】
記流体制御デバイスを介して連通する第1および第2のマイクロ流路が、記チャネル基板に形成されている、請求項4に記載のマイクロチップ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な流路が形成されたマイクロチップに搭載する流体制御デバイスおよびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の微細加工技術を用いて100μm以下の流路を加工した基板は、一般に「マイクロチップ」とよばれており、近年、このような基板を用いた分析、合成、細胞実験等の種々の化学プロセスおよび/または生化学プロセスを集積化するマイクロナノ化学(科学)が注目されている。
【0003】
マイクロチップの流路における流れ方向を規定したり、流体の流れを制御したりするために、バルブやポンプのような機械的な流体制御デバイスが流路上に設けられている。特許文献1には、スライド可能なガラス基板を用いて流路を切り替えるスライド型バルブが開示されている。特許文献2や非特許文献1には、流路中にニードル型の金属ピンを差し込んで流れを停止するデバイスが開示されている。
【0004】
特許文献1のバルブは、デッドボリュームがほとんどない点で優れている。しかし、ガラス基板そのものを動かしてしまうので流路設計が制限され、並列化・自動化が難しい。さらに、水が漏れないように、ガラス基板の間隙にてフッ素コーティング剤などの疎水修飾を行っているため、有機溶媒を用いたり、100kPaを超えるような高圧下にて使用したりすることは難しい。
【0005】
特許文献2や非特許文献1に記載のデバイスは、流路を一点で塞ぐことができるので、特許文献1のバルブよりも並列化・自動化が比較的容易である。しかし、ニードルとガラスとの間に隙間が形成されることは不可避であり、この隙間に疎水修飾を行うことが必要となり、特許文献1と同様の問題に直面する。
【0006】
ガラスは非常に固い材料であるために、ガラス製の流体制御デバイスを構成することが容易でないだけでなく、ガラス製の流体制御デバイスをガラス基板上に組み込むこともまた非常に困難である。そこで、マイクロチップに用いられる流体制御デバイスには、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を代表とする高分子材料が、近年用いられている。PDMSは、非常に安価であり、加工が容易であり、かつ柔軟性に富むという特性を有している。図12に示すような、円状空隙部13および円状空隙部13を横切るマイクロ流路が形成されたPDMS製の流体素子チップ12がガラス基板11に対向して設けられたマイクロバルブ機構が知られており、このマイクロバルブ機構において、押圧体19の圧力を流体素子チップ12に給排することによって流体素子チップ12が変形して、マイクロ流路の流体の通過と遮断を円状空隙部13にて行う構成が記載されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2005-083510号公報(平成17年3月31日公開)
【特許文献2】特開2005-013980号公報(平成17年1月20日公開)
【特許文献3】特開2005-308200号公報(平成17年11月4日公開)
【特許文献4】特開2012-087006号公報(平成24年5月10日公開)
【0008】

【非特許文献1】K. Morishimaet al. Proc. Micro Total Analysis Systems 2003: 1033-1036 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
PDMSのような弾性体は柔軟性に富むので、局所的に押圧されても破損しづらく、マイクロチップ用の流体制御デバイスに好適に用いられる。しかし、PDMSは、有機溶媒によって溶解するため、有機溶媒を扱う系に用いることは困難である。また、マイクロチップのような微小な流路に流体を通すためには高圧が必要であり、PDMSを用いたマイクロチップにそのような高圧が付与されると流路からの流体の漏出が生じてしまう。さらに、PDMSにはモールディングプロセスが必要であるため、マイクロチップの大量生産に不向きである。
【0010】
PDMSは柔軟性に富むとともにガラスへ自然吸着する性質を有している。そのため、PDMSとガラス基板の距離が近ければ、PDMSの自重によるたわみ、およびPDMSのガラスとの自然吸着性によって、PDMSとガラス基板が元々接着した状態となってしまう。例えば、図12の構成を用いる場合、円状空隙部13の高さが50μm以上必要であり、これ以下であると、PDMS12がガラス基板11と最初から接着してしまったり、所定位置への復元に時間を要したりするので、所望の動作を実現することができない。このように、特許文献3に開示されたマイクロバルブ機構は、デッドボリュームや応答速度の観点から極めて不利な構造といえ、マイクロチップでの流体制御デバイスへの高分子材料の利用は、物理的/化学的な耐性や、応用面に問題があるといえる。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高圧下にて利用可能であり、有機溶媒を用いることができる、汎用的なマイクロチップシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の流体制御デバイスは、マイクロチップに搭載するために、中空部が設けられたガラス基板を備え、上記中空部には、上記ガラス基板の上面および底面へ向けて第1開口部および第2開口部が形成されており、厚さ1~50μmのガラス薄板が第1開口部を封止しており、上記ガラス薄板は、上記中空部へ向かう押力に応じて変位して上記中空部の容積を変更することを特徴としている。
【0013】
本発明の流体制御デバイスにおけるガラス薄板は、マイクロチップ用の流体制御デバイスにて使用するに十分な耐久性を有しており、局所的な押圧を高速かつ反復して行った後でも材料疲労による割れや漏れを生じることがないので、連結したマイクロ流路にて所望の流体流れを押力に応じて生成するマイクロアクチュエータとして機能することができる。もちろん、本発明の流体制御デバイスは、ガラス以外の部材を用いていないので、有機溶媒の利用が可能であるとともに、高圧(数MPa)を付加しても漏れが生じることがない。すなわち、本発明の流体制御デバイスは、マイクロチップでの流体制御デバイスにPDMS等の高分子を用いる場合と比較して、上述した物理的/化学的な耐性や、応用面での不利益を有していない。
【0014】
さらに、ガラスは自重によってたわむことがなく、ガラス基板と自然吸着することもない。すなわち、上記構成を有することにより、本発明の流体制御デバイスは、デッドボリューム(すなわち中空部の容積)を極めて小さくすることができるとともに、所定位置への復元に時間を要しない。よって、バルブとして用いる場合に、流体の混合や逆方向の流体流れの生成を回避することができるとともに、所望の動作の実現が容易である。
【0015】
本発明の流体制御デバイスにおいて、上記ガラス薄板は、上記中空部へ向けて押圧されたときに第2開口部を封止することが好ましい。
【0016】
上記構成を有することにより、本発明の流体制御デバイスは、第2開口部と連結したマイクロ流路における流体流れを停止することができるので、スイッチングバルブとして機能することができる。上記構成を有する流体制御デバイスであれば、第1開口部から第2開口部までの距離が1~100μmであり、第1開口部の径が1~5mmであれば上記ガラス薄板は第2開口部を封止することができる。
【0017】
本発明の流体制御デバイスは、第1開口部を封止したガラス薄板を、上記中空部へ向けて押圧する押圧部をさらに備えていてもよく、応答速度を上げるために、上記押圧部はピエゾ駆動型アクチュエータであることが好ましい。
【0018】
本発明のマイクロチップは、上述した流体制御デバイスと、マイクロ流路が形成されたチャネル基板とを備え、上記流体制御デバイスの中空部と上記マイクロ流路とが連通していることを特徴としている。
【0019】
本発明のマイクロチップにおいて、上記流体制御デバイスが上記チャネル基板に重ね合わせられている。これにより、上記マイクロ流路はその端部を除いて外部と隔離されており、上記中空部は上記マイクロ流路との連結部を除いて外部と隔離されている。よって、上述した構成を用いることにより、上記流体制御デバイスの中空部と上記マイクロ流路との間に連通が形成され、その結果、上記マイクロ流路に導入された流体の流れを生成したり停止したりすることができる。
【0020】
本発明のマイクロチップにおいて、上記チャネル基板はガラス基板であることが好ましい。これにより、本発明のマイクロチップは、全ガラス製を実現することができる。流体制御デバイスを組み込んだマイクロチップをガラスのみで構成することは、これまでに実現されていない。
【発明の効果】
【0021】
全ガラス製のマイクロチップを構成することができるので、高分子材料を用いた従来のマイクロチップと異なり、チップ内で物理的/化学的に安定な流体操作が可能であり、有機溶媒の利用が可能である。
【0022】
デッドボリュームの小さい構造を構築することができるので、細胞および生体分子をオンチップにて操作したり分離したりすることができる。その結果、ES細胞および/またはiPS細胞の高速分離デバイスや、生体分子および/または有機分子の多品種合成デバイスを構成することができる。また、化学物質をオンチップにて操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るマイクロチップの要部構成および全体構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るマイクロチップ用流体制御デバイスの断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るマイクロチップの平面図および断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るマイクロチップの平面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るマイクロチップにおけるマイクロチャネルの概略図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るマイクロチップ用流体制御デバイスのバルブ機能を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るマイクロチップ用流体制御デバイスのバルブ機能を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るマイクロチップ用流体制御デバイスのバルブ機能を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るマイクロチップ用流体制御デバイスのポンプ機能を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るマイクロチップ用流体制御デバイスのポンプ機能を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態に係るマイクロチップ用流体制御デバイスのポンプ機能を示す図である。
【図12】従来技術を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の流体制御デバイスおよび当該デバイスを搭載したマイクロチップの実施形態について、図面を参照しながら説明する。

【0025】
〔1.マイクロチップ〕
図1~3に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るマイクロチップ100の要部であるマイクロアクチュエータ10の斜視図(図1(a))、ならびにマイクロチップ100の全体構成の斜視図(図1(b))および断面図(図1(c))である。

【0026】
本実施形態のマイクロチップ100は、互いに対向する、チャネル基板1aおよびガラス基板1bからなる基板1とガラス薄板2とを備えており、両者を重ね合わせることによって形成されている(図1(b)・(c))。ガラス基板1bには基板の上面側および底面側に開口部を有する中空部3が設けられており、上面側の第1開口部3’はガラス薄板2によって封止されている(図1(a)・(b))。また、チャネル基板1aの表面に微細溝(マイクロチャネル)5a・5bが形成されている(図1(c))。なお、図1(c)は、図1(b)で省略したマイクロチャネル5a・5bを通る平面におけるマイクロチップ100の断面図である。

【0027】
マイクロチャネル5a・5bは本実施形態のマイクロチップ100の流路を規定する。図1(b)では、マイクロチャネル5aへ注入する流体を貯留する部位である注入部6、および、マイクロチャネル5bから排出される流体を貯留する部位である排出部7は、チャネル基板1aにガラス基板1bを重ね合わせた際のチャネル基板1aとガラス基板1bとの間隙として形成されているが、ガラス基板1bと独立してチャネル基板1aに形成されればよく、その形状も特に限定されない。また、注入部6および排出部7の少なくとも一方は、マイクロチャネル5内に流体を充填するためのポンプと接続可能である。

【0028】
このようなチャネル基板1aにガラス基板1bを重ね合わせることによって、中空部3はガラス基板1bの底面の第2開口部4にてマイクロチャネル5aおよび5bと連結され、そしてこれらを介して注入部6および排出部7に連通され、これら以外ではマイクロチップ100の外部と隔離されている。

【0029】
また、本実施形態のマイクロチップ100では、マイクロチャネル5aおよび5bに逆止弁が形成されている(図示せず)。これにより、注入部6からマイクロチャネル5a・5bを経て排出部7へ向かう流体の流れ方向が規定されている。

【0030】
注入部6および排出部7、マイクロチャネル5aおよび5b、ならびに中空部3に流体が充填されている状態にて、ガラス薄板2に対して中空部3へ向かう押力を付加すると、ガラス薄板2の変位が生じ、中空部3の容積が低減し、中空部3の内部の流体がマイクロチャネル5bへ向けて押し出される。なお、上述したように、本実施形態のマイクロチップ100では、マイクロチャネル5aに流体の流れ方向を規定する逆止弁が形成されているので、中空部3の内部の流体がマイクロチャネル5aへ向けて押し出されることはない。

【0031】
上記押力を開放することによって、マイクロチャネル5aの流体が中空部3へ侵入し中空部3の容積が復元する。あるいは、ガラス薄板2の自己復元によって中空部3の容積が復元し、マイクロチャネル5aの流体が中空部3へ侵入する。この場合も、上述したように、本実施形態のマイクロチップ100では、マイクロチャネル5bに流体の流れ方向を規定する逆止弁が形成されているので、マイクロチャネル5b内部の流体が中空部3へ向けて侵入することはない。

【0032】
なお、本実施形態のマイクロチップ100では、逆止弁を用いてマイクロチャネルでの流体の流れ方向が規定されている態様を説明したが、逆止弁を形成することなく、マイクロチャネル5a・5bにて流体を振動させる態様であってもよい。

【0033】
マイクロチップ100に提供される流体は、気体であっても液体であってもよいが、マイクロ化技術による生化学的な分析等に用いられる場合は、液体であることが好ましい。また、マイクロチップ全体をガラス製とした場合には、マイクロ流路上に所望の構造(例えばサンプル分析部、サンプル分離部)を形成させるに必要な任意の溶液/溶媒を用いることもできる。

【0034】
チャネル基板1aは、分析に網的な材料から構成されていればよく、例えば、絶縁性を有する基板(例えば、表面に酸化膜などの絶縁性材料が形成されたシリコン基板、石英基板、酸化アルミニウム基板、ガラス基板,プラスチック基板など)、光透過性の基板(例えば、ガラス基板、石英基板、および光透過性樹脂から作成された基板など)、化学発光を利用して物質を検出する場合、自発蛍光が小さく且つ透明性のあるガラスまたはプラスチック材料(例えば、ポリイミド、ポリベンツイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイトなど)を用いることができる。もちろん、マイクロチップ全体がガラス製であることが所望される場合は、チャネル基板1aはガラスである。

【0035】
また、このようなチャネル基板1aを加工する方法として、直接加工する方法としての機械加工による方法、レーザー加工による方法、金型を用いた射出成型、プレス成型、および鋳造による方法などが挙げられ、チャネル基板1aがガラスである場合は、フォトリソグラフィ法またはエッチング法を好適に用いることができる。

【0036】
マイクロチップ100に用いるに好ましい、チャネル基板1aの厚みは1~10mm程度であり、ガラス基板1bは、チャネル基板1aと同一の厚みを有していても、チャネル基板1aよりも薄くてもよい。

【0037】
チャネル基板1aの表面上に形成されるマイクロチャネル5の深さは0.1~100μm程度であることが好ましく、幅もまた0.1~100μm程度であることが好ましいが、これらに限定されない。また、マイクロチャネル5の長さは、1~10mm程度であるが、チャネル基板1aの大きさに従って適宜変更可能である。

【0038】
マイクロチャネル5の流路は、流体の流れ方向に沿う角柱形状であっても円柱形状であってもよい。すなわち、マイクロチャネル5の、流体の流れ方向に対して垂直な断面の形状は、矩形、台形、円形(半円形)であり得る。

【0039】
マイクロチャネル5は、例えばチャネル基板1a上に凹凸を形成することによって作製することができる。例えば、チャネル基板1a上に凹部を形成し、この凹部をマイクロチャネル5としてもよいし、チャネル基板1a上に複数の凸部を形成し、これらの凸部で囲まれた領域をマイクロチャネル5としてもよい。また、凹部と凸部と形成し、凹部と凸部との組合せからマイクロチャネル5を作製してもよい。当業者であれば、種々の公知技術を用いて、所望の形状のマイクロチャネルを容易に作製することができる。その際に、必要に応じて逆止弁を同様に作製することができる。

【0040】
注入部6および排出部7もまた、マイクロチャネルと同様に種々の公知技術を用いて形成されればよく、その大きさは、マイクロチャネル5の大きさおよび形状に従って適宜変更可能である。

【0041】
このように、本発明のマイクロチップは、以下で詳述するマイクロアクチュエータ(流体制御デバイス)と、マイクロチャネル(マイクロ流路)が形成されたチャネル基板とを備え、マイクロアクチュエータの開口部がマイクロチャネルと連結されており、マイクロアクチュエータの中空部とマイクロチャネルとが連通している構成であり、より好ましい態様において。チャネル基板の表面上に形成された第1および第2のマイクロ流路がマイクロアクチュエータを介して連通している。

【0042】
〔2.マイクロアクチュエータ〕
上述したように、マイクロチップ100におけるガラス基板1bの中空部およびガラス薄板2によって構成される領域は、マイクロチップ100における流体の流れ方向を規定したり、流体の流れを制御したりするためのマイクロアクチュエータである。このマイクロアクチュエータは、マイクロチャネル5内の流体を振動させる手段として、あるいは、マイクロチャネル5内の流体の、注入部6から排出部7への移動を促進/抑制する駆動手段として機能し得る。

【0043】
本発明のマイクロアクチュエータは、図1に示すように、マイクロチップ100の全体構造から着脱可能な態様であってもよいが、マイクロチップ100の一部として一体成形されていてもよい。また、本発明のマイクロアクチュエータの中空部は、図1に示すように、ガラス基板1bの貫通孔としての構成であっても、ガラス基板1bの上面側に第1開口部3’を有する凹部がその底面に第2開口部4としてのポートを有する構成であってもよい。なお、マイクロアクチュエータを構成する際にガラス基板1bの第1開口部3’がガラス薄板によって封止されているので、ガラス基板1bの第2開口部4(ポート4a・4b)がマイクロアクチュエータの開口部といえる。

【0044】
図2に、マイクロチップ100の全体構造から着脱可能な態様のマイクロアクチュエータの例を示す。図2に示すマイクロアクチュエータ10は、ガラス基板1bに設けられた凹部がその底面にポートを有する構成である。

【0045】
図2(a)は、ガラス薄板2の下方に位置するガラス基板1bの一部とガラス薄板2とから構成されるマイクロアクチュエータ10を示す。図2(a)に示したマイクロアクチュエータ10において、ガラス薄板2は、中空部3へ向かう押力に応じて変位して中空部3の容積を変更する。これにより、ポート4a・4bを介した流体の出入が生じる。また、図2(b)に示すように、変位したガラス薄板2がポート4aを封止することによって、ポート4a・4bを介した流体の出入が停止される。なお、ガラス薄板2によって封止されるポートは1つであっても全てであってもよい(図2(c)・(d))。

【0046】
ガラスは自重によってたわむことがなく、ガラス基板と自然吸着することもないので、マイクロアクチュエータ10は、デッドボリューム(すなわち中空部の容積)を極めて小さくすることができる。よって、マイクロアクチュエータ10をバルブとして用いる場合に、流体の混合や逆方向の流体流れの生成を回避することができる。マイクロアクチュエータ10はガラス薄板2と第2開口部4との距離を1~100μmの範囲内に設計することが可能であり、後述する細胞分離に用いる場合は10~50μmであることが好ましい。また、ガラス薄板2によって封止される第1開口部3’の径は、第1開口部3’と第2開口部4との距離(ガラス薄板2と第2開口部4との距離)に応じて設計されればよいが、5mm以下であることが好ましく、1~3mmであることがより好ましい。

【0047】
後述する実施例に示すように、図1(a)の構成にて直径4mmの中空部を封止したガラス薄板2の中央付近に応力をかけ、中心部付近の変位が実用上の必要十分な値である100μm程度となったときの最大の曲率は約30mmである。ガラスに対して垂直方向に応力をかけた場合に、ガラスが割れない(安定している)条件は引張応力50MPa以下であり、100μmの変位を安定して得るためには50μm以下の厚みのガラスを用いることが必要ということがわかった。すなわち、ガラス薄板の厚みを50μm以下にすれば、ガラス薄板は、第1開口部3’から100μm程度離間した第2開口部4(ポート4a・4b)を封止することができる。デバイスの安定性、およびガラス薄板の材料疲労の観点から、ガラス薄板2の厚さは25μm以下であることが好ましい。なお、ガラス薄板2は薄いほど好ましいが、製造の技術レベルから1μm以上である。このように、ガラス薄板の厚みを50μm以下にすることによって100μm程度変位させても割れない安定した動作を得ることができる。ガラス薄板2の変位によってポート4a・4bを封止するためのガラス薄板の厚さは1~50μmであり、好ましくは1~25μmであり、より好ましくは4~25μmである。このような厚さのガラス薄板は公知の手法を用いて作製されればよいが、オーバーフロー法およびフロート法が好ましい。

【0048】
図3に、マイクロチップ100の一部として一体成形された態様のマイクロアクチュエータの例を示す。図3は、本発明の実施の形態に係るマイクロチップ100の上面図および断面図である。本実施形態のマイクロチップ100もまた、互いに対向する、チャネル基板1aと、ガラス1bおよびガラス薄板2とを備えており、両者を重ね合わせることによって形成されている。なお、図3の上面図ではガラス薄板2を省略している。

【0049】
チャネル基板1aには、注入部6および排出部7が形成されており、チャネル基板1aの表面に形成されたマイクロチャネル5a・5bとそれぞれ連結されている。ガラス基板1bには中空部3が設けられており、ガラス基板1bの上面側の第1開口部3’はガラス薄板2によって封止されており、中空部3の底面には2つのポート4a・4bが第2開口部としてガラス基板1bの底面側に形成されている。ガラス基板1bのポート4a・4bはマイクロチャネル5a・5bとそれぞれ連結されている。これにより、中空部3はマイクロチャネル5aおよび5bを介してそれぞれ注入部6および排出部7に連通され、これら以外ではマイクロチップ100の外部と隔離されている。

【0050】
ポート4a・4b、注入部6および排出部7もまた、マイクロチャネルと同様に種々の公知技術を用いて形成されればよく、その大きさは、マイクロチャネル5の大きさおよび形状に従って適宜変更可能である。

【0051】
図3において、マイクロアクチュエータ10は、ガラス基板1b全体とガラス薄板2からなる領域の全体であっても、ガラス薄板2と、ガラス基板1bの、ガラス薄板2の直下に位置する部分からなる領域(すなわち図2(a)の構成)であってもよく、さらに、必要に応じて、チャネル基板1aの、ガラス薄板2の直下に位置する部分を含んでもよい。また、中空部3は、第1開口部3’から第2開口部4へ向けてテイパー形状の貫通孔であってもよい。また、ポート(第2開口部)の数は、連結するマイクロ流路の数に応じて適宜変更可能である。

【0052】
このようなマイクロアクチュエータ10は、連結したマイクロチャネル5内の流体の流れ方向を規定する構造、マイクロチャネル5内の流体の流れを物理的に停止させる構造、マイクロチャネル5内の流体を切断する構造、マイクロチャネル5内の流体を分離する構造などを有し得、必要に応じて全ての機能を備えていてもよい。

【0053】
近年のガラス加工技術の進展により、ガラスを延伸成型し、通常のカバーガラス等(厚さ約200μm)よりもはるかに薄いガラスの製造法が確立されている。その製法としては、オーバーフロー法およびフロート法が挙げられる。オーバーフロー法は、樋状になった成形体上部に溶融したガラスを流し込み、両側からあふれ出たガラスが下方に流れ出て、くさび状の成形体株で融合一体となる製版法であり、最近では厚みが最小で5μmという薄板ガラスが実現されている。また、フロート法は、溶融金属の上に溶融ガラスを流し込み、このガラスを引いて冷却する製版法であり、オーバーフロー法と同様の性状のガラスを得ることができる。これら薄板ガラスは、単に薄いというだけでなく、表面を傷つけるプロセス(すなわち研磨)を経ないため、非常に平滑であり、ナノレベルでの平坦性が高いガラスである。例えば、特許文献4には、幅が50mm以上、厚みが0.2mm未満の母材ガラスを加熱炉にて加熱し、幅が1~300mm、且つ厚みが1~50μmのガラスフィルムに延伸成形する、コンデンサー用の誘電体、フラットパネルディスプレイの基板等に用いられるガラスフィルムの製造方法が開示されている。

【0054】
特許文献4には、ガラスの薄板化を行うと、ガラスに可撓性を付与させることができることや、ガラスはその厚みが薄いほど可撓性に富むことが記載されている。しかし、ガラスを薄板化することの利点として特許文献4にて認識されているものは、折りたたみや巻き取りによって持ち運びを容易にすること、および、平面だけでなく曲面にも使用可能とすることに過ぎない。すなわち、薄板ガラスに求められていた可撓性は、折りたたみ、巻き取り、曲面利用をガラスが割れることなく実現する程度のものであり、マイクロチップ用の流体制御デバイスを構成する部材として利用可能であることはこれまで認識されていなかった。もちろん、折りたたみ、巻き取り、曲面利用という用途や、コンデンサー用の誘電体、フラットパネルディスプレイの基板という用途は、マイクロチップ用の流体制御デバイスと何ら関係ない。

【0055】
さらに、局所的な押圧を高速かつ反復して行った後でも材料疲労による割れや漏れを生じないという、マイクロチップ用の流体制御デバイスにおいて使用するに十分な耐久性は、折りたたみ、巻き取り、曲面利用という用途から予測することは極めて困難である。

【0056】
また、特許文献3のマイクロバルブ機構では、マイクロ流路および円状空隙部13が形成された流体素子チップ12を押圧体19の圧力によって変形させる。本発明の流体制御デバイスは、変形されるべきガラス薄板にマイクロ流路および中空部が形成されていないので、特許文献3のマイクロバルブ機構のPDMSを単にガラスに置換しただけではない。さらに、ガラス薄板に対向するガラス基板にマイクロ流路を形成していることによって、本発明の流体制御デバイスは、ガラス薄板の厚さと独立してマイクロ流路の径を設計することができ、マイクロ流路の径と独立してガラス薄板の厚さを任意に設計することができる。

【0057】
〔3.応用例〕
本発明のマイクロチップ100において、マイクロ流路5aは、単一の流路が分岐して複数のマイクロアクチュエータ10・10’と連結していてもよく(図4(a))、マイクロ流路5bは、複数の上記流体制御デバイスと連結した複数の流路が合流していてもよい(図4(b))。このような構成を有している場合、一方のマイクロアクチュエータを閉じて他方を開放することによってマイクロチップ100における流体流れを切り替えることができる。あるいは、複数のマイクロアクチュエータを連動させたオンチップポンプを形成することによって、流体の注入部6から排出部7への移動を促進/抑制することができる(図4(c))。この場合、マイクロチップ100は、流体の流れ方向を規定する逆止弁が形成されていなくてもよい。また、図4(a)~(c)に示す構成のマイクロチップ100を用いる場合、マイクロチャネル5内での注入部6から排出部7へのサンプルの移動を連続的に行うことも断続的に行うことも可能である。また、マイクロ流路5b・5b’・5b’’に、サンプル中の目的物質(対象物質)を結合しかつ分析するための分析部として構成してもよい。

【0058】
本明細書において、用語「サンプル」とは、マイクロチップの注入部にアプライされる検体(被検物)をいい、検出の対象としている対象物質を含んでいてもいなくてもよい。対象物質といては、タンパク質(例えば、抗原、抗体、酵素、ペプチド等)、DNA、糖、合成高分子などが挙げられるがこれらに限定されない。サンプルとして血液が用いられる場合、免疫グロブリン、アルブミン、GOT、GTP、γ-GPT、HDL、LDL、中性脂肪、尿酸、グルコースなどの血液成分を、対象物質とすることができる。

【0059】
マイクロチャネル5内での注入部6から排出部7へのサンプルの移動は連続的に行われてもよいし、断続的に行われてもよい。分析部での対象物質の検出には、従来公知の手法が用いられればよく、例えば、対象物質の光学的な検出を行う場合、紫外可視分光分析法、蛍光分析法、化学発光分析法などが好適に使用される。

【0060】
近年、細胞生物学の分野において、細胞を集団でなく1個ずつ扱う必要性が増えている。例えば、遺伝子を導入したES細胞をさらに卵細胞に移植して個体を発生させる際、従来の方法では細胞を集団で卵細胞に移植するために、「キメラマウス」という改変/非改変が混合した個体が生成されてしまい、さらに一世代~二世代を経ることによってようやく目的の個体が得られる。このような手順には数カ月間から一年間程度を要し、時間がかかりすぎる。細胞を集団でなく1個ずつ扱うことによって、遺伝子を導入したES細胞を卵細胞に直接移植することが可能となり、一世代のみで所望の個体を作製することができる。

【0061】
本発明を用いれば、各流路に細胞を1個ずつ分離し、そこで所定の位置に接着(パターニング)しかつ培養し、細胞1個ずつに対して刺激を与えたり遺伝子操作または分析を行ったり、個液分離して最終的に1個ずつ回収するという操作の全てを集積化して行うことができる。

【0062】
図5に、バルブによる流路内での単一細胞分離培養システムの例を示す。(a)は流路デザインを示す。3つに分岐した後の流路のそれぞれにバルブを設置している。(b)は細胞接着エリアに表面パターニングを行った状態を示す。

【0063】
細胞CL1~CL3をシステムに導入し、図中上方の流路のバルブを開放し、他の流路のバルブを閉じることによって、目的の流路へ細胞CL1を1つ導入する(図5(c))。(c)で単一細胞CL1が導入された流路のバルブを閉じ、図中下方の流路のバルブを開くことによって、目的の流路へ細胞CL2を1つ導入する(図5(d))。(d)で単一細胞CL2が導入された流路のバルブを閉じ、中央の流路のバルブを開くことによって、目的の流路へ他の細胞CL3を導入してシステムから除外する(図5(e))。図中上方の流路のバルブを開放し、他の流路のバルブを閉じることによって、細胞CL1を細胞接着エリアまで移動する(図5(f))。単一細胞CL1が導入された流路のバルブを閉じ、図中下方の流路のバルブを開くことによって、細胞CL2を細胞接着エリアまで移動する(図5(g))。全てのバルブを閉じることによって流路全体の流れを停止し、細胞を接着させる(図5(h))。そして、接着した細胞の灌流培養を開始する。

【0064】
パターニングには、公知の、光を用いたガラスマイクロチップ流路内単一細胞パターニング方法(K. Jang rt al., Lab on a Chip 10(15): 1937-1945 (2010))が好適に用いられる。しかし、PDMSのバルブを有するマイクロチップでは、有機溶剤が必要なパターニングを行うことができない。もちろん、本発明を用いなければ、各流路に細胞を1個ずつ分離するためのバルブを構成することができない。

【0065】
このように、本発明によるマイクロチップは、流路およびバルブの全てをガラスで作製することができるので、非常に応用範囲が広く、汎用的なシステムの提供に貢献することができる。

【0066】
本発明によるマイクロチップはまた、マイクロチップ100の内部にポンプ(オンチップポンプ)を備えてもよく、その構成は、例えば図4(c)に示される。このような構成を採用することにより、流路およびポンプにおける流体接触面の全てをガラスで作製することができる。

【0067】
マイクロチップでのポンプとしては、PDMSマイクロチップ内ポンプが挙げられ、このようなポンプには、空圧駆動型(文献1)やピエゾ駆動型(文献2)が利用されている。上述したように、PDMSは加工が容易でありかつ弾性体でもあるため、オンチップポンプ材料としてはきわめて適した材料といえる。最近では、そのオンチップポンプの性能を集積度またはやポータビリティの面で高めたものも発案されており、例えば、逆止弁付きポンプ(文献3)、ペリスタリックポンプ(文献4)が知られている。しかしながら、例え流体接触面の一部であってもマイクロチップにおいてPDMS、プラスチック等を用いると、マイクロチップとしての化学的安定性が損なわれ、その用途が限定されることになる。また、比較的安定な材料であるパリレンまたはテフロン(登録商標)を用いたポンプが知られているが、ガラスと比較するとガス透過性および化学的耐久性が劣る。

【0068】
マイクロチップの流体接触面の全ガラス製を実現するためのオンチップポンプとしては、流路内で構造物を光によって回転させ、ずり応力によって送液するという、機械的駆動力を利用したポンプ(文献5)、浸透圧を用いた溶媒間の圧力差を利用したポンプ(文献6)、駆動機構を用いないチップ内駆動機構として、マイクロ流路内で形成される油水2層流および溶媒間に発生するずり応力を利用した送液手法(文献7)が利用可能と考えられる。しかし、文献5に記載のポンプは駆動機構そのものが光重合性樹脂であり、文献6に記載のポンプは半透膜を用いており、いずれも化学的安定性に劣っている。また、文献7に記載の技術は外部からの送液を必要とするため、オンチップポンプとして用いることができない。さらに、PDMSチップの内側をガラスでコーティングする手法(文献8)は、化学的安定性には優れているが、機械的な駆動に対して脆弱であり、PDMSの特徴である柔軟性を損なっている。

【0069】
1:M. A. Unger et al., Science 288 (7): 113-116 (2000)
2:W. Gu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 (45): 15861-15866 (2004)
3:特開2005-283331(平成17年10月13日公開)
4:特開2005-337415(平成17年12月8日公開)
5:特開2008-196481(平成20年8月27日公開)
6:特開2009-115755(平成21年5月28日公開)
7:Y. Kikutani et al., Microchim Acta 164: 241-247 (2009)
8:A. R. Abate et al., Lab Chip 8: 516-518 (2008)。

【0070】
このように、高圧下にて利用可能であり、有機溶媒を用いることができる、汎用的なマイクロチップシステムに利用可能なオンチップバルブは、これまでに知られていない。

【0071】
図9に、オンチップポンプの駆動原理を示す。図9では、単一のチャネル基板1aと単一のガラス基板1bとからなる単一の基板1に形成した単一のマイクロチャネル5’’に、複数(図では4つ)のマイクロアクチュエータ10を直列に設け、複数の第1開口部3’を単一のガラス薄板2で封止している。押圧部9が各マイクロアクチュエータ10に対応して設けられており、開いた状態のマイクロアクチュエータが押圧部9の押圧によって閉じた状態となり、押圧が解放されたマイクロアクチュエータは開いた状態となる。

【0072】
オンに制御した押圧部9(図中星印)を単一方向へ周期的に移動させるように全ての押圧部9を連動させて制御することによって、開いた状態のマイクロアクチュエータが上記方向へ向けて移動し、その結果、ペリスタリックポンプ(上記文献4)と同様に流体を上記方向へ向けて送り出すことができる。

【0073】
バルブ機能はデッドボリュームが小さいことが好ましいが、ポンプ機能はガラス薄板の変異が大きいことが好ましい。よって、50μm以上の変位を必要とするオンチップポンプを構成する際には、ガラス薄板の厚さは10μm以下であることが好ましい。

【0074】
なお、複数のマイクロアクチュエータを直接に連結して構成したオンチップポンプは、マイクロアクチュエータが1つでも破損するとポンプ機能を喪失する。また、オンチップポンプとして利用するには、高速かつ連続的な使用に耐えることが必要である。これらを考慮して、図9には、破損の可能性を回避するための保護部8として、PDMSからなる保護膜を設けている。保護部8を設けた構成のマイクロチップ100は、その全てがガラス製といえないが、流路を規定する領域が全ガラス製であるため、非ガラス製のマイクロチップが有する不利益を有していない。

【0075】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0076】
〔実施例1:ガラス薄板のチャンバー上への実装および手動駆動確認〕
厚さ2mmのPDMS1cに直径4mmの穴を開け、この穴に厚さ6μmのガラス薄板2を貼り付けた器具を作製した(図1(a))。ガラス薄板2の一方の面上にPDMSのブロックを配置し、これをピンセットで押し、ガラス薄板の変位を顕微鏡下で観察した。その結果、押力に応じてガラス薄板2がたわみ、その変位は最大で約110μmであり、マイクロ流路での流体流れを生成したり停止したりするに十分であることがわかった。また、動作を反復した後であってもガラス薄板2の割れや漏れが生じることはなく、マイクロ流路での流体制御デバイスとして機能するに必要な耐久性があることも実証された。
【実施例】
【0077】
〔実施例2:ガラス薄板のピエゾ流体制御デバイスでの駆動および流体駆動の確認〕
マイクロ流路5a・5bを底部に形成したガラス基板1a上に、図1(a)に示した器具を嵌めこむことによって、簡易マイクロチップを作製した(図1(b))。図1(b)に示すマイクロチップにおいて、開口部をガラス薄板で封止された中空部が、マイクロ流路5a・5bを介して注入部6および排出部7と連絡している(図1(c))。
【実施例】
【0078】
マイクロ流路5a・5bおよび上記器具の穴の部分に、ポリスチレンの微小粒子を含む流体Lを充填した。上記器具のガラス薄板2に対してピエゾ流体制御デバイス9によって機械的に200mNの押力を付与することによって、マイクロ流路5b内の流体を駆動し得るかを検証した。流体中のポリスチレンの微小粒子を、マイクロ流路5bにて顕微鏡下でビデオ観察した。
【実施例】
【0079】
その結果、ピエゾ流体制御デバイス9の動きに呼応して流体が移動する様子が観察された。これは、ガラス薄板2が200mNの力に十分耐えること、ならびに流体Lを駆動するのに十分な力を生成していることを示している。このように、本発明の流体制御デバイスの構成は、バルブやポンプといった流体駆動デバイスとしての流体駆動性能を十分に発揮する。
【実施例】
【0080】
〔実施例3:ガラス薄板のチャンバー上への実装およびバルブ機能の確認1〕
実施例1および2において、本発明の流体制御デバイスが、微小領域での曲げ性能、および流体駆動性能を十分に有していることを示した。次いで、本発明の流体制御デバイスが、バルブとして機能することを検証した。
【実施例】
【0081】
図6に示すように、無アルカリガラスの基板上に幅40μm、深さ20μmの分岐型(Y字状)流路を設計し、分岐した後の流路上に厚さ5μmのガラス薄板を用いた、高さ20μm、直径3mmのバルブ構造を組み込んだ。その上に、点字用ピエゾ流体制御デバイスを実装し、バルブ開閉を手動制御し得るように構成した。
【実施例】
【0082】
図6の流路において、直径2μmの蛍光ビーズを含んだ可視化用溶液を、シリンジポンプを用いて図中左側から1μL/分で流し、分岐後の下側のバルブのみを開閉することによって、流体を双方の流路へ流れる(バルブ開)、一方のみへ流れる(バルブ閉)のスイッチングが可能であるかどうかを検証した。
【実施例】
【0083】
結果、図6に示すように、バルブの開閉に伴って流体の流れが切り替わっていることを確認することができた。また、切り替えに要した時間は1秒間以内であった。これにより、本発明の流体制御デバイスがスイッチングバルブとして有効であること、細胞高速分離などに十分利用可能であることが示された。
【実施例】
【0084】
〔実施例4:ガラス薄板のチャンバー上への実装およびバルブ機能の確認2〕
次いで、上述したY字状の分岐型流路において、分岐した後の流路の一方の下流(図4(a)における7’に対応)をメクラネジによって完全に塞いだ。すなわち、分岐型流路において、下流が開放された流路Aと下流が閉塞された流路B(図4(a)における5b’に対応)を形成し、実質的に一本の流路とした。直径2μmの蛍光ビーズを含んだ可視化用溶液を、0.1kPaの定圧でマイクロチップの上流から流し、流路Aのバルブを開閉させた。流路A(図4(a)における5aの10近傍)を撮影した動画から蛍光ビーズの変位を計測し、これに基づいて流体の挙動を確認した。
【実施例】
【0085】
図7(a)に示すように、開状態のバルブを閉状態にするまでの間、流路Aにおいて図中右方向への蛍光ビーズの移動が観察され、バルブを閉状態にすると、若干の逆流はあるものの、流路Aにおける蛍光ビーズの動きは完全に止まり、再び開状態にすると、流路Aにおいて蛍光ビーズが図中右方向へ流れ出すことが確認された。図7(b)~(d)は、それぞれt=0s、1.05sおよび4.21sにおける、流路Aのバルブ上流における蛍光ビーズの動きを蛍光顕微鏡にて観察した結果を示す。図中左が上流であり、図中右が下流であり、粒子の変位をx(右方向が正)とした。また、本実験において、使用可能な範囲の圧力は0.1~3.0kPa、バルブの応答速度は約0.1秒であった。さらに、バルブの繰返し使用が可能であることが実証された。
【実施例】
【0086】
〔実施例5:ガラス薄板のチャンバー上への実装およびバルブ機能の確認3〕
さらに、上述したY字状の分岐型流路(分岐した後の流路の両方が開放)において、直径2μmの蛍光ビーズを含んだ可視化用溶液を、3.0kPaの定圧でマイクロチップの上流から流し、一方のバルブ(図4(a)における10’に対応)を常に開状態にし、他方のバルブ(図4(a)における10に対応)を開閉させた。分岐部近傍を撮影した動画から流体の挙動を確認した。
【実施例】
【0087】
図8(a)に示すように、両方のバルブを開いているときは二本の流路の両方へ流体が流れていたが、図中上側の流路のバルブを閉状態にすると、図8(b)に示すように、上側の流路への流れが完全に遮断され、下側だけに流れる状態となり、図中上側の流路のバルブを再び開状態にすると二本の流路の両方へ流体が流れることが観察された。これにより、バルブ切替が実証された。また、本実験において、バルブの応答速度は約0.1秒であった。さらに、繰り返し使えることを実証した。さらに、バルブの繰返し使用が可能であることが実証された。
【実施例】
【0088】
〔実施例6:ガラス薄板のチャンバー上への実装およびポンプ機能の確認〕
図4(c)および図9の構成を用いて、注入部6から排出部7へ向けて一本の流路と、上記流路から分岐した後に再度合流するバイパス流路(円形流路)とを備えているマイクロチップを作製した。図4(a)に示すように、注入部6からの第1のマイクロ流路5aと排出部7への第2のマイクロ流路5bが、円形流路5’’と接続している。マイクロアクチュエータは、直径3mm、深さ50μmの中空部を有し、直径300μmのポート4a・4bが500μm隔てて形成されており、厚さ6μmのガラス薄板および厚さ200μmのPDMS保護シートが張り付けられている。
【実施例】
【0089】
直径2μmの蛍光ビーズを含んだ可視化用溶液を注入部6からマイクロチップへ導入し、溶液の導入を停止した後に、円形流路に設けた4つのマイクロアクチュエータを押圧してポンプ機能を発揮させた。観察部にて流体を撮影し円形流路にて溶液が循環していることを確認した。具体的には、ピエゾ駆動型アクチュエータを、駆動時間(インターバル)が100ms、すなわち4つでの駆動周期を2.5Hzにて駆動させた。観察開始時をt=0sとし、3sごとに撮影した蛍光顕微鏡像を(図10(a)~(c))に示す。全体として、一部逆流はあるものの、粒子が右へ動いていることがわかる。流路中心付近の特に目立つ蛍光微粒子(の塊)をトレースし、その速度を記録し、さらに流路の断面積から流量を概算した。同様にして、駆動周期を様々に変更し、ピエゾ駆動型アクチュエータの限界である、周期を12.5Hzから周期0.25sまで変更(インターバル20ms)したところ、周期にほぼ比例して流量が増加することがわかった(図11)。このことより、オンチップポンプがペリスタリックポンプの原理に従って作動していることが裏付けられた。また、最大流量約1μL/minは、これは通常のマイクロチップで流す流量(0.01~10μL/min程度)の範囲内であったことから、実用性が実証された。
【実施例】
【0090】
このようなオンチップポンプを上述したバルブとともにマイクロチップに設けることにより、流路内での送液や試料操作が、ガラスマイクロチップ上にてローカルに行うことができる。このような構成を用いることにより、外部ポンプやバルブが不要な、非常に集積度の高いシステムを構築することができる。具体的には、実験机1つをほぼ占拠していたシステムを、掌サイズにて実現することができる。これにより、携帯電話などに搭載可能なポータブル医療分析機器や診断ツール、環境測定器などへの応用も可能となる。また、有機溶媒を用いた油水金属抽出分析システムの省試料化による環境分析(上記文献7)、マイクロ循環細胞培養システムのガラスチップ適用による細胞排出物質・ガス分析(上記文献2)、細胞抽出液等に代表される微量試料での有機分子の合成システムなどに大きな役立つ。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、マイクロナノ化学だけでなく、バイオ、化学、医学、医療の種々の分野にて利用可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 基板
1a チャネル基板
1b ガラス基板
2 ガラス薄板
3 中空部
3’ 第1開口部
4 第2開口部
4a・4b 第2開口部(ポート)
5 マイクロチャネル(マイクロ流路)
5a・5b マイクロチャネル(第1および第2のマイクロ流路)
6 注入部
7・7’ 排出部
8 保護部
9 押圧部(ピエゾ駆動型アクチュエータ)
10・10’ マイクロアクチュエータ(マイクロチップ用流体制御デバイス)
100 マイクロチップ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
11