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明細書 :スキルミオン駆動方法およびマイクロ素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6116043号 (P6116043)
公開番号 特開2014-086470 (P2014-086470A)
登録日 平成29年3月31日(2017.3.31)
発行日 平成29年4月19日(2017.4.19)
公開日 平成26年5月12日(2014.5.12)
発明の名称または考案の名称 スキルミオン駆動方法およびマイクロ素子
国際特許分類 H01L  43/08        (2006.01)
H01L  29/82        (2006.01)
B82Y  25/00        (2011.01)
H01L  21/8246      (2006.01)
H01L  27/105       (2006.01)
H01F  10/14        (2006.01)
FI H01L 43/08 Z
H01L 29/82 Z
B82Y 25/00
H01L 27/10 447
H01F 10/14
請求項の数または発明の数 7
全頁数 8
出願番号 特願2012-232324 (P2012-232324)
出願日 平成24年10月19日(2012.10.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 1.2012年8月23日付日経産業新聞第11面に掲載されたMRAMの消費電力の軽減方法に関する記事 2.2012年8月8日付独立行政法人理化学研究所のホームページに記載された「電子スピンの渦「スキルミオン」を微小電流で駆動」 3.2012年8月7日付Nature Communicationsに掲載の「Skyrmion flow near room temperature in anultralow current density」
審査請求日 平成27年9月10日(2015.9.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】于 秀珍
【氏名】十倉 好紀
【氏名】金澤 直也
【氏名】小野瀬 佳文
個別代理人の代理人 【識別番号】110000877、【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
審査官 【審査官】加藤 俊哉
参考文献・文献 特開2002-343943(JP,A)
特表2009-508353(JP,A)
特開2002-374019(JP,A)
N S Kiselev他,Chiral skyrmions in thin magnetic films: new objects for magnetic storage technologies?,Jounal of Physics D:Applied Physics,米国,IOP Publishing,2011年 9月12日,Vol.44,No.39,pp.1-4
X.Z.Yu他,Real-space observation of a two-dimensional skyrmion crystal,Nature,米国,Macmillan Publishers,2010年 7月17日,Vol.465,No.09124,pp.901-904
調査した分野 H01L 43/08
B82Y 25/00
H01F 10/14
H01L 21/8246
H01L 27/105
H01L 29/82
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも部分的に二次元材料として形成され、前記二次元材料と略直交する方向に磁場を印加し、1又は複数のスキルミオンが誘起された前記二次元材料に、平行に電流を流すことにより、前記1又は複数のスキルミオンを移動させるスキルミオン駆動方法。
【請求項2】
前記スキルミオンが誘起された材料の前記二次元材料として形成された部分の厚さは、100nm以下であることを特徴とする請求項に記載のスキルミオン駆動方法。
【請求項3】
前記二次元材料の温度の上昇に従い減少する温度依存性を有する臨界電流以上の電流を前記二次元材料に流す
請求項1又は2に記載のスキルミオン駆動方法。
【請求項4】
前記スキルミオンが誘起された材料は、FeGeであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のスキルミオン駆動方法。
【請求項5】
少なくとも部分的に二次元材料として形成される材料と、
前記二次元材料として形成された部分に、該二次元材料の二次元平面と平行な方向に電流を印加するように、前記材料に接続された複数の電極と
前記二次元材料と略直交する方向に磁場を印加して、1又は複数のスキルミオンを誘起する磁場発生部と、
を備るスキルミオン駆動用マイクロ素子。
【請求項6】
前記材料の前記二次元材料として形成された部分の厚さは、100nm以下であることを特徴とする請求項に記載のマイクロ素子。
【請求項7】
前記材料は、FeGeであることを特徴とする請求項5又は6に記載のマイクロ素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、スキルミオン駆動方法およびスキルミオン駆動用マイクロ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体の磁化方向(電子スピンの向き)をデジタル情報として利用する磁気素子は、不揮発性・耐放射線などの特徴をもつエレクトロニクスデバイスとして注目されており、その磁気情報を電気的に操作する試みが近年盛んに行われている。
【0003】
従来使われている磁気抵抗メモリ(MRAM)等の磁気メモリ素子では、強磁性材料に電流を流して磁壁を移動させることにより、磁化反転が可能になり情報を書き込むことができる。しかし、磁壁を移動させるには、最低でも1平方センチメートル(cm)あたり約10万アンペア(A)という大電流密度が必要であった(例えば、特許文献1~3および非特許文献1~5参照)。このため、素子中に大量のジュール熱が生じ、消費電力が大きい。このため、より低い電流密度で磁気情報担体を操作する方法が望まれている。
【0004】
一方、最近一部の特殊な金属の中で、電子のスピンが「スキルミオン」と呼ばれる渦巻き構造をつくることが発見されている。図8は、スキルミオンの電子スピンの配列を模式的に示す図であり、図中の各矢印は電子スピンの方向を示している。スキルミオンは、らせん型のスピン配列をとるらせん磁性体に、所定の温度条件下で磁場を印加することにより、蜂の巣状の格子(スキルミオン結晶)を組むように形成される。スキルミオン101の半径は数ナノ~数十ナノメートルと非常に小さく、安定した粒子としての性質を持つことから、将来的に演算素子、磁気記憶素子としての利用が期待されている。
【0005】
また、スキルミオンを磁気記憶素子として用いることを想定した場合、スキルミオンは結晶中の欠陥などに捕捉されにくい性質があるために、従来の磁気記憶素子において磁壁を駆動する場合に比べて、遥かに低い電流密度で駆動できるという利点があることも予測される。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】米国特許第6834005号明細書
【特許文献2】米国特許第6898132号明細書
【特許文献3】米国特許第6920062号明細書
【0007】

【非特許文献1】M. Yamanouchi, D. Chiba, F. Matsukura, H. Ohno, Nature 428, 539 (2004)
【非特許文献2】Y. Zhang, W. S. Zhao, D. Ravelosona, J.-O. Klein, J. V. Kim et al., J. Appl. Phys. 111, 093925 (2012).
【非特許文献3】Xin Jiang, Luc Thomas, Rai Moriya, and Stuart S. P. Parkin, Nano Lett. 11, 96 (2011)
【非特許文献4】Xin Jiang, Luc Thomas, Rai Moriya , Masamitsu Hayashi , Bastiaan Bergman , Charles Rettner & Stuart S.P. Parkin, Nature Communication 1, 1024 (2010).
【非特許文献5】Luc Thomas, Rai Moriya, Charles Rettner, Stuart S. P. Parkin, Science 330, 1810 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スキルミオンは近年になりようやくローレンツ顕微鏡や小角中性子散乱により実証された。しかし、これまでスキルミオンを材料中で駆動操作する方法が確立されておらず、デバイスへの応用の検討も進んでいなかった。
【0009】
したがって、かかる点に着目してなされた本発明の目的は、スキルミオンを低消費電力で駆動するスキルミオン駆動方法およびスキルミオン駆動用マイクロ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するスキルミオン駆動方法の発明は、磁場の印加によりスキルミオンが誘起された材料に電流を印加することにより、スキルミオンを駆動させることを特徴とするものである。スキルミオンが誘起された材料に電流を流すと、通過する伝導電子にスキルミオンから実効的な磁場が加わり、トポロジカルホール効果など新規な電磁気現象が現れたり、伝導電子のスピンの向きが変わったりする。伝導電子のスピンの向きの変化に応じて、スキルミオンのスピンも変化するため、スキルミオンが回転したり電流方向へ移動したりする(スピントランスファートルク効果)。これによって、材料中のスキルミオンを駆動することが可能となる。
【0011】
また、スキルミオンが誘起された材料は、少なくとも部分的に二次元材料として形成されることが好ましい。この場合、スキルミオンが誘起された材料の二次元材料として形成された部分の厚さは、100nm以下とすることが好ましい。スキルミオンが誘起された材料を、少なくとも部分的に二次元材料とすることによって、低温から室温付近までの広い温度範囲で、弱磁場下で安定したスキルミオン結晶を生成することができる。なお、二次元材料とは、材料の厚さが材料のらせん磁気構造の周期よりも小さいものとして定義される。
【0012】
さらに、磁場は、スキルミオンが誘起された材料の表面に直交する方向に印加されることが好ましい。二次元材料の表面に垂直方向に磁場を印加することによって、効率的にスキルミオンを生成することができる。
【0013】
また、スキルミオンが誘起される材料としては、FeGeを挙げることができる。これにより、60Kから室温付近までの広い温度範囲で、弱磁場の印加によりスキルミオン結晶を誘起することができる。
【0014】
また、上記目的を達成するスキルミオン駆動用マイクロ素子の発明は、少なくとも部分的に二次元材料として形成される材料と、前記二次元材料として形成された部分に、該二次元材料に沿う方向に電流を印加するように、前記材料に接続された複数の電極とを備え、磁場の印加により前記材料にスキルミオン結晶が誘起されるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、磁場の印加によりスキルミオンが誘起された材料に電流を印加することにより、スキルミオンを駆動するようにしたので、材料中のスキルミオンを従来の強磁性体における磁壁の駆動方法と比べ低消費電力で駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係るスキルミオン駆動観察用マイクロ素子の斜視図である。
【図2】図1のらせん磁性体の断面図である。
【図3】磁場を印加しない状態でのらせん磁性体のらせん磁気構造を示すローレンツ顕微鏡画像である。
【図4】弱磁場を印加した状態で生成されたらせん磁性体のスキルミオン結晶のローレンツ顕微鏡画像である。
【図5】FeGeのマイクロ素子の磁気相図である。
【図6】電流の印加によるスキルミオン結晶の移動を説明する図であり、(a)は電流密度がゼロの場合のローレンツ顕微鏡画像であり、(b)は、弱電流(26A/cm)を流した場合のローレンツ顕微鏡画像である。
【図7】スキルミオンが並進運動する臨界電流密度の温度依存性を示す図である。A,B,Cはそれぞれ結晶欠陥密度が異なる(高い順)試料領域に得られたデータを示す。
【図8】スキルミオンの電子スピンの配列を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
少なくとも一部を厚さ100nm以下の薄膜状に加工したらせん磁性体(FeGe)に、例えば-23°C~室温近傍(-3°C)で、例えば200ミリテスラ(mT)以下の弱磁場を印加してスキルミオン結晶を生成する。このらせん磁性体に、薄膜の表面に沿う方向に例えば約5A/cmの微弱な電流を流す。これにより、スキルミオン結晶の回転や並進移動などが生じる。以下の実施例において図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本実施形態に係るスキルミオン駆動観察用マイクロ素子の斜視図である。このスキルミオン駆動観察用マイクロ素子1は、本発明によるスキルミオンの駆動状態をローレンツ顕微鏡により観察するために用意されたものである。スキルミオン駆動観察用マイクロ素子1は、FeGeであるらせん磁性体10と2つの電極11、12と電極11および電極12の間に電流を流すための定電流源13とを備える。
【実施例】
【0019】
らせん磁性体10の形状は、縦(図1において手前から奥行き方向)が165μm、横(図1において左右方向)が100μmの長方形であり、厚さが縦方向の位置によって100nm~30μmの範囲で異なる。図2は、らせん磁性体10の縦方向の断面図である。らせん磁性体の一端部は厚さ100nmの薄膜部10aとなっており、さらに、縦方向に他端部に向けて1μm、2μm、3μmと順に厚みを増し、以降、他端部での厚さが30μmとなるように勾配を有している。薄膜部10aは、縦30μm、横100μmであり、スキルミオンはこの部分で観察される。らせん磁性体10の100nmよりも厚い部分は、薄膜部10aを支持するために設けられたものであり、他の方法で薄膜部10aを支持することができるならば、らせん磁性体10はこのように厚みに勾配を有する形状である必要はない。
【実施例】
【0020】
電極11および電極12は、らせん磁性体10を挟むように、らせん磁性体10に両横方向から接続される。電極11および12は、定電流源13に接続されており、らせん磁性体10の薄膜部10aの表面に沿う方向に所望の大きさの電流を流すことができる。
【実施例】
【0021】
次に、温度や磁場の大きさなどの条件を変え、このスキルミオン駆動観察用マイクロ素子1のらせん磁性体10の薄膜部10aを、ローレンツ電子顕微鏡で観察した結果を示す。磁場を印加しない場合、すなわちゼロ磁場の場合、温度が-268°C~2°Cの範囲で図3に示すような周期70nmのストライプ構造が観測された。これは、らせん磁性体のらせん磁気構造を反映したものである。次に、150mTの弱磁場を印加すると、-23°Cから-3°Cの温度範囲で、直径70nmのスキルミオンが三角格子状に並んだスキルミオン結晶が誘起された。図4で白いドットとして表されるのは、それぞれ一つのスキルミオンである。
【実施例】
【0022】
図5は、らせん磁性体10を構成するFeGeの温度および印加する磁場の条件を変えて作成した磁気相図である。スキルミオンは、FeGeのらせん磁性体を用いたことにより、室温の近傍(-3°C)を含む磁気相図上の広い範囲で安定的に存在する。なお、図5の中の白ぬきの丸は、実験データを示している。「混合構造」として示した領域は、フェリ磁性、無秩序のスキルミオン、および、らせん磁性を含む領域である。
【実施例】
【0023】
さらに、誘起されたスキルミオン結晶に、定電流源13により直流電流を印加すると、微小な電流密度でスキルミオン結晶を駆動することが観察された。図6は、電流の印加によるスキルミオン結晶の移動を説明する図である。図6(a)は-23°Cで電流密度がゼロのときのローレンツ顕微鏡画像である。スキルミオンが、均一な密度で整列しスキルミオン結晶を形成している。次に、この状態で、FeGeマイクロ素子に電流を流す。図6(b)は、電流密度26A/cmの弱電流を流した場合のローレンツ顕微鏡画像である。スキルミオンは、電流方向(図6(b)の下方向)に並進移動し、図に示す破線の上側には存在しなくなっている。
【実施例】
【0024】
図7は、ローレンツ電子顕微鏡を用いた観察に基づくスキルミオンが並進運動する臨界電流密度の温度依存性を示す図である。A,B,Cで示される3つの折れ線は、異なる3つの観察領域での測定結果を示すものである。温度の上昇とともに臨界電流密度は減少し、スキルミオン結晶が存在している-3°Cで、約5A/cmになる。
【実施例】
【0025】
以上説明したように、弱静磁場によりFeGeのらせん磁性体中に誘起されたスキルミオン結晶を、約5A/cmの微小な電流密度で駆動することができた。これは、従来の強磁性体において磁壁を駆動する場合に比べて10万分1以下の電流密度である。したがって、強磁性体において磁壁を駆動する場合に比べ、はるかに低消費電力で駆動することができる。
【実施例】
【0026】
なお、らせん磁性体中にスキルミオンが存在すると、磁場および電流と直交する方向にホール電圧が生じるので、これを測定することによってスキルミオンを検出することができる。このように、本発明のスキルミオン駆動方法は、将来のスキルミオンを用いた磁気素子の開発に道を開くものである。
【実施例】
【0027】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。たとえば、スキルミオンが誘起される材料としては、FeGeのらせん磁性体に限られず、スキルミオンが誘起される種々の材料に適用することができる。また、スキルミオンが誘起される材料の厚さは100nmに限られず、むしろ、1nm付近までより薄くすることによって、より安定したスキルミオンが得られ、より低い電流密度でスキルミオンを駆動することが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、スキルミオンを従来の磁気記憶素子の磁壁の駆動方法と比べ、はるかに低消費電力で駆動することができるので、高速な大容量磁気メモリ等への利用が期待される。
【符号の説明】
【0029】
1 スキルミオン駆動観察用マイクロ素子
10 らせん磁性体
10a 薄膜部
11,12 電極
13 定電流源
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7