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Specification :(In Japanese)藍藻においてプラスチック原料および関連物質を生産する方法

Country (In Japanese)日本国特許庁(JP)
Gazette (In Japanese)特許公報(B2)
Patent Number P5946080
Date of registration Jun 10, 2016
Date of issue Jul 5, 2016
Title of the invention, or title of the device (In Japanese)藍藻においてプラスチック原料および関連物質を生産する方法
IPC (International Patent Classification) C12N   1/12        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12P   7/62        (2006.01)
C12P   7/46        (2006.01)
C12P   3/00        (2006.01)
FI (File Index) C12N 1/12 C
C12N 15/00 ZNAA
C12P 7/62
C12P 7/46
C12P 3/00 Z
Number of claims or invention 19
Total pages 18
Application Number P2015-505453
Date of filing Mar 10, 2014
International application number PCT/JP2014/056115
International publication number WO2014/142051
Date of international publication Sep 18, 2014
Application number of the priority 2013052208
Priority date Mar 14, 2013
Claim of priority (country) (In Japanese)日本国(JP)
Date of request for substantive examination Jun 12, 2015
Patentee, or owner of utility model right (In Japanese)【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
Inventor, or creator of device (In Japanese)【氏名】小山内 崇
【氏名】平井 優美
【氏名】斉藤 和季
【氏名】沼田 圭司
Representative (In Japanese)【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100135909、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 和歌子
Examiner (In Japanese)【審査官】福間 信子
Document or reference (In Japanese)AZUMA, M. et al.,A response regulator Rre37 and an RNA polymerase sigma factor SigE represent two parallel pathways t,Plant Cell Physiol.,2011年,52 (2),p404-412,特に、要約、406-407頁
OSANAI, T. et al.,Pathway-level acceleration of glycogen catabolism by a response regulator in the cyanobacterium Syne,Plant Physiol.,2014年 4月,164 (4),p.1831-1841,[Epub 2014 Feb 12]
小山内崇, 外9名,シグマ因子SigE過剰発現によるシアノバクテリアバイオプラスチックの増産,第64回日本生物工学会大会講演要旨集,2012年 9月25日,p.58,2Ga08
SUDESH, K. et al.,Effect of increased PHA synthase activity on polyhydroxyalkanoates biosynthesis in Synechocystis sp.,Int. J. Biol. Macromol.,2002年,30 (2),p.97-104,特に、要約
ラン藻のバイオプラスチック生産が3倍増-バイオプラスチック生産の新規因子「Rre37」の発見と代謝制御機構,独立行政法人理化学研究所 報道発表資料 [online],2014年 2月17日,URL,http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140217_2/
小山内崇ら,窒素関連レスポンスレギュレーターを用いたラン藻の糖代謝改変,第65回日本生物工学会大会講演要旨集,2013年 8月25日,p.134,2P-121
JOSEPH, A., et al.,Rre37 stimulates accumulation of 2-oxoglutarate and glycogen under nitrogen starvation in Synechocys,FEBS Letters,2013年12月24日,588 (3),pp.466-471,URL,http://dx.doi.org/10.1016/j.febslet.2013.12.008
Field of search C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
Scope of claims (In Japanese)【請求項1】
rre37遺伝子が過剰発現している藍藻。
【請求項2】
藍藻がポリヒドロキシアルカン酸生産能を有する、請求項1記載の藍藻。
【請求項3】
藍藻がポリヒドロキシブタン酸生産能を有する、請求項2記載の藍藻。
【請求項4】
phaAB遺伝子とphaEC遺伝子を有する、請求項1~3のいずれか1項記載の藍藻。
【請求項5】
Synechocystis属に属する、請求項1~4のいずれか1項記載の藍藻。
【請求項6】
さらにsigE遺伝子が過剰発現している、請求項1~5のいずれか1項記載の藍藻。
【請求項7】
ポリヒドロキシアルカン酸の生産方法であって、ポリヒドロキシアルカン酸生産能を有し、rre37遺伝子が過剰発現している藍藻を培養すること、及びポリヒドロキシアルカン酸を採取することを含む、前記方法。
【請求項8】
藍藻がphaAB遺伝子とphaEC遺伝子を有する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
藍藻がSynechocystis属に属する、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
ポリヒドロキシアルカン酸がポリヒドロキシブタン酸である、請求項7~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
藍藻が、さらにsigE遺伝子を過剰発現している、請求項7~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
培養を窒素欠乏条件で行う、請求項7~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
藍藻においてポリヒドロキシアルカン酸生産能を増強する方法であって、藍藻においてrre37遺伝子を過剰発現させることを含む、前記方法。
【請求項14】
藍藻がphaAB遺伝子とphaEC遺伝子を有する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
藍藻がSynechocystis属に属する、請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
ポリヒドロキシアルカン酸がポリヒドロキシブタン酸である、請求項13~15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
コハク酸の生産方法であって、請求項1~6のいずれか1項記載の藍藻を培養し、コハク酸を採取することを含む、前記方法。
【請求項18】
培養を窒素欠乏条件で行う、請求項17記載の方法。
【請求項19】
水素の生産方法であって、請求項1~6のいずれか1項記載の藍藻を、嫌気条件下で培養することを含む、前記方法。
Detailed description of the invention (In Japanese)【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素応答性レスポンスレギュレーター遺伝子を過剰発現させた藍藻、及びこれを用いてポリヒドロキシアルカン酸を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシブタン酸(PHB)は、微生物が生産するバイオポリマーの一種であり、微生物により分解可能な熱可塑性樹脂として、医薬類、農薬類、医療材料、工業材料等の多方面での応用が期待される材料である。PHBは、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の一種でアセチルCoAから三段階の反応で合成されるポリエステルである。PHAを微生物により生産させる方法は、これまでに種々開示されている。例えば、特許文献1でPHBの製造方法について開示されている。しかしながら、これらの何れの方法の場合も資化性炭素源として有機炭素源を必要とするという欠点があった。
【0003】
そこで、有機炭素源の還元物質を必要とすることなく微生物から効率的にPHAを生産させる方法が種々模索された。これまでに藍藻PHAに関する研究報告は数多くなされているが、局所的な酵素活性の増大は、PHA量の増加につながらないことが明らかとなっている(非特許文献1)。PHA量をより増加させるためには、炭素代謝を大きく改変し、PHAへの代謝フローを促進させる必要があるが、個々の代謝酵素改変では代謝全体の改変にはつながらないことも明らかとなっている。また、Anabaena属の藍藻において窒素応答性レスポンスレギュレーター遺伝子が糖異化を制御することが報告されているが、当該藍藻はPHA産生能がなく、PHAの生産に利用することは報告されていない(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開平1-222788号公報
【0005】

【非特許文献1】Internarional Journal of Biological Macromolecules,30,2002,97-104
【非特許文献2】The Journal of Biological Chemistry,vol286,44,2011,38109-38114
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光合成微生物である藍藻を用いて、光エネルギーと二酸化炭素を利用して、藍藻細胞内に蓄積するバイオプラスチックであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を効率的に生産する系を構築し、PHAの生産量を増加させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、藍藻において、窒素応答性レスポンスレギュレーターであるrre37遺伝子を過剰発現させることにより、炭素の貯蔵源であるグリコーゲンを減少させ、解糖系の酵素を増加させ、炭素骨格をより多く供給し、PHA合成酵素を増やすことによって、培養液あたり及び細胞乾燥重量あたりのPHA量を増加させることに成功した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0009】
(1)rre37遺伝子が過剰発現している藍藻。
【0010】
(2)ポリヒドロキシアルカン酸生産能を有する、(1)記載の藍藻。
【0011】
(3)ポリヒドロキシブタン酸生産能を有する、(2)記載の藍藻。
【0012】
(4)phaAB遺伝子とphaEC遺伝子を有する、(1)~(3)のいずれかに記載の藍藻。
【0013】
(5)Synechocystis属に属する、(1)~(4)のいずれかに記載の藍藻。
【0014】
(6)さらにsigE遺伝子が過剰発現している、(1)~(5)のいずれかに記載の藍藻。
【0015】
(7)ポリヒドロキシアルカン酸の生産方法であって、ポリヒドロキシアルカン酸生産能を有し、rre37遺伝子が過剰発現している藍藻を培養すること、及びポリヒドロキシアルカン酸を採取することを含む、前記方法。
【0016】
(8)藍藻がphaAB遺伝子とphaEC遺伝子を有する、(7)記載の方法。
【0017】
(9)藍藻がSynechocystis属に属する、(7)又は(8)記載の方法。
【0018】
(10)ポリヒドロキシアルカン酸がポリヒドロキシブタン酸である、(7)~(9)のいずれかに記載の方法。
【0019】
(11)藍藻が、さらにsigE遺伝子を過剰発現している藍藻である、(7)~(10)のいずれかに記載の方法。
【0020】
(12)培養を窒素欠乏条件で行う、(7)~(11)のいずれかに記載の方法。
【0021】
(13)藍藻においてポリヒドロキシアルカン酸生産能を増強する方法であって、藍藻においてrre37遺伝子を過剰発現させることを含む、前記方法。
【0022】
(14)藍藻がphaAB遺伝子とphaEC遺伝子を有する、(13)記載の方法。
【0023】
(15)藍藻がSynechocystis属に属する、(13)又は(14)記載の方法。
【0024】
(16)ポリヒドロキシアルカン酸がポリヒドロキシブタン酸である、(13)~(15)のいずれかに記載の方法。
【0025】
(17)コハク酸の生産方法であって、(1)~(6)のいずれかに記載の藍藻を培養し、コハク酸を採取することを含む、前記方法。
【0026】
(18)培養を窒素欠乏条件で行う、(17)記載の方法。
【0027】
(19)水素の生産方法であって、(1)~(6)のいずれかに記載の藍藻を、嫌気条件下で培養することを含む、前記方法。
【0028】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2013-52208号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、光合成微生物である藍藻を用いて、光エネルギーと二酸化炭素を利用して、藍藻細胞内に蓄積するバイオプラスチックであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を効率的に生産することが可能になる。また、コハク酸や水素の生産も効率的に実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】Rre37過剰発現株構築用のプラスミドの模式図を示す。
【図2】野生株(GT)とRre37過剰発現株(ROX370)におけるrre37mRNA量を示す。
【図3】野生株(GT)とRre37過剰発現株(ROX370)におけるRre37タンパク質量を示す。
【図4】Rre37/SigE二重過剰発現株構築用のプラスミドの模式図を示す。
【図5】Rre37過剰発現株、Rre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)及び野生株(GT)について、細胞を窒素欠乏状態にし、細胞バイオマスを測定した結果を示す。
【図6】Rre37過剰発現株(ROX370)、Rre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)及び野生株(GT)について、培養液100mlあたりのPHB量を測定した結果を示す。
【図7】Rre37過剰発現株(ROX370)、Rre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)及び野生株(GT)について、ポリヒドロキシブタン酸(PHB)の細胞内蓄積量を測定した結果を示す。
【図8】Rre37過剰発現株(ROX370)、Rre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)及び野生株(GT)について、クエン酸及びコハク酸の細胞内蓄積量を測定した結果を示す。
【図9】Rre37過剰発現株(ROX370)及び野生株(GT)について、水素生産量を測定した結果を示す。
【図10】Rre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)及び野生株(GT)について、培養液1Lあたりのコハク酸量を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、藍藻においてrre37遺伝子を過剰発現させることを特徴とする。藍藻は、シアノバクテリア(藍色細菌)とも呼ばれる真正細菌の1群であり、光合成によって酸素を生み出すという特徴を有する。単細胞で浮遊するもの、少数細胞の集団を作るもの、糸状に細胞が並んだ構造を持つものなどがあり、特に制限されないが、単細胞のものが好ましい。

【0032】
ポリヒドロキシアルカン酸の生産量を増大させる観点からは、ポリヒドロキシアルカン酸、好ましくはポリヒドロキシブタン酸の生産能を有する藍藻を用いることが好ましい。したがって、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子、例えばphaAB遺伝子及びphaEC遺伝子を有する藍藻を用いることが好ましい。ポリヒドロキシアルカン酸の生産能を有する藍藻には、遺伝子改変や突然変異誘導等によりポリヒドロキシアルカン酸の生産能が付与された藍藻も包含される。したがって、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子、例えばphaAB遺伝子及びphaEC遺伝子を有する藍藻には、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子が導入された藍藻も包含される。

【0033】
藍藻の具体例としては、Synechocystis属藍藻、Mycocystis属藍藻、例えばMycocystis aeruginosa、Arthrospira属藍藻、例えばArthrospira platensis、Cyanothece属藍藻、Alcaligenes属藍藻、例えばAlcaligenes eurtophus、Anabaena属藍藻、Synechococcus属藍藻、Thermosynechococcus属藍藻、例えばThermosynechococcus elongats、Gloeobacter属藍藻、例えばGloeobacter violaceus、Acaryochloris属藍藻、例えばAcaryochloris marina、Nostoc属藍藻、例えばNostoc punctiforme、Trichodesmium属藍藻、Prochloron属藍藻、Prochlorococcus属藍藻などが挙げられる。

【0034】
このうち、少なくともSynechocystis属藍藻、例えばSynechocystis sp.PCC6803、Mycocystis属藍藻、例えばMycocystis aeruginosa、Arthrospira属藍藻、例えばArthrospira platensis、Alcaligenes属藍藻、例えばAlcaligenes eurtophus、Synechococcus属藍藻、Cyanothece属藍藻、Nostoc属藍藻、例えばNostoc muscorumについては、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子の存在が明らかとなっている。

【0035】
rre37遺伝子は、レスポンスレギュレーターの1種である、窒素応答性レスポンスレギュレーターRre37をコードする遺伝子である。細菌やカビなどの微生物、さらに高等植物は、「二成分情報伝達系」と呼ぶセンサーシステムを備えており、この二成分情報伝達系は、微生物が光、熱、酸素、ストレス、栄養、金属イオンなど、めまぐるしく変化するさまざまな外部環境を鋭敏に感知し、その変化に適応して生存していくために、欠かせないシステムである。二成分情報伝達系は、「ヒスチジンキナーゼ」と「レスポンスレギュレーター」と呼ぶ2種類のタンパク質からできている。ヒスチジンキナーゼは、環境変化を感じ取るセンサードメイン、リン酸化反応を行う触媒ドメインや、二量化ドメインという3種のパーツで構成されている。このヒスチジンキナーゼは、センサードメイン部で環境変化を感じ取ると、触媒ドメインが生体エネルギーの基となるATP(アデノシン三リン酸)を使って、二量化ドメインにあるヒスチジンにリン酸基を結合させる(リン酸化)。レスポンスレギュレーターは、さらにそのリン酸基をヒスチジンキナーゼから受取り、環境変化に適応できるようなタンパク質の発現や活性の調節を行っている。すなわち、二成分情報伝達系は、環境変化をリン酸化という生体シグナルに変換する役割を担っている。

【0036】
窒素応答性レスポンスレギュレーターRre37は、窒素欠乏時に発現が増加するレスポンスレギュレーターである。藍藻由来rre37遺伝子の具体例として、Synechocystis sp.PCC6803由来のrre37遺伝子の塩基配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に示す。rre37遺伝子には、配列番号1の塩基配列からなる遺伝子と機能的に同等の遺伝子も包含される。配列番号1の塩基配列からなる遺伝子と機能的に同等の遺伝子としては、配列番号1と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の相同性又は同一性を有する塩基配列からなり、窒素応答性レスポンスレギュレーターの活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。また、本発明においてrre37遺伝子には、そのホモログやオルソログも包含される。

【0037】
窒素応答性レスポンスレギュレーターRre37には、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質も包含される。配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質としては、配列番号2と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列からなり、窒素応答性レスポンスレギュレーターの活性を有するタンパク質が挙げられる。また、配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、窒素応答性レスポンスレギュレーターの活性を有するタンパク質も、窒素応答性レスポンスレギュレーターRre37に包含される。欠失、置換、挿入又は付加されるアミノ酸の数は、通常2~10個、好ましくは2~5個、より好ましくは2~3個である。

【0038】
rre37遺伝子をはじめ、目的遺伝子の塩基配列は公共のデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)より検索可能であり、例えば上記藍藻に由来するrre37遺伝子のうち、配列が未知の藍藻に由来するrre37遺伝子は、配列が既知の藍藻に由来するrre37遺伝子の情報を利用し、クローニングにより取得することができる。所望の遺伝子をクローニングにより取得する方法は、分子生物学の分野において周知である。例えば、遺伝子配列が既知の場合、制限エンドヌクレアーゼ消化により適したゲノムライブラリを作り、所望の遺伝子配列に相補的なプローブを用いてスクリーニングすることができる。配列が単離されたら、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような標準的増幅法を用いてDNAを増幅し、形質転換(遺伝子導入)に適した量のDNAを得ることができる。遺伝子のクローニングに用いるゲノムライブラリの作製、ハイブリダイゼーション、PCR、プラスミドDNAの調製、DNAの切断及び連結、形質転換等の方法は、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第3版(Sambrook&Russell,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001)に記載されている。

【0039】
藍藻において、rre37遺伝子に加えて、sigE遺伝子を過剰発現させることにより、すなわちrre37遺伝子とsigE遺伝子とを二重過剰発現させることにより、ポリヒドロキシアルカン酸生産能をさらに増強することができる。

【0040】
sigE遺伝子は、RNAポリメラーゼシグマ因子であるSigEをコードする遺伝子である。RNAポリメラーゼシグマ因子は遺伝子のプロモーター領域に結合し、転写を開始させるために必要なタンパク質である。シグマ因子は生存に必須な主要型シグマ因子(グループ1)、主要型シグマ因子と類似したプロモーター認識特異性を有するが生存に必須でないシグマ因子(グループ2)、主要型シグマ因子とプロモーター認識特異性の異なるその他のシグマ因子(グループ3)に分別されるが、SigEは、グループ2シグマ因子に該当する。

【0041】
藍藻由来sigE遺伝子の具体例として、Synechocystis sp.PCC6803由来のsigE遺伝子の塩基配列を配列番号3に、アミノ酸配列を配列番号4に示す。上記sigE遺伝子には、配列番号3の塩基配列からなる遺伝子と機能的に同等の遺伝子も包含される。配列番号3の塩基配列からなる遺伝子と機能的に同等の遺伝子としては、配列番号3と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の相同性又は同一性を有する塩基配列からなり、RNAポリメラーゼシグマ因子の活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。また、本発明においてsigE遺伝子には、そのホモログやオルソログも包含される。

【0042】
藍藻由来RNAポリメラーゼシグマ因子SigEには、配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質も包含される。配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質としては、配列番号4と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列からなり、RNAポリメラーゼシグマ因子の活性を有するタンパク質が挙げられる。また、配列番号4のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、RNAポリメラーゼシグマ因子の活性を有するタンパク質も、RNAポリメラーゼシグマ因子SigEに包含される。欠失、置換、挿入又は付加されるアミノ酸の数は、通常2~10個、好ましくは2~5個、より好ましくは2~3個である。

【0043】
藍藻においてrre37遺伝子やsigE遺伝子を過剰発現させる方法としては、例えばrre37遺伝子やsigE遺伝子が過剰発現するような変異を加える方法が挙げられ、当技術分野で公知の方法で実施することができ、特に制限されない。rre37遺伝子を過剰発現させる方法の具体例としては、rre37遺伝子を導入する方法、rre37遺伝子のプロモーターを当該遺伝子を過剰発現させるようなプロモーターと交換する方法、突然変異誘導による方法などが挙げられる。以下、rre37遺伝子について具体的に説明するが、sigE遺伝子についても同様である。

【0044】
遺伝子導入は、rre37遺伝子又はその一部を適当なベクターに連結し、得られた組換えベクターをrre37遺伝子が発現し得るように宿主である藍藻中に導入することにより、又は相同組換えによってゲノム上の任意の位置にrre37遺伝子又はその一部を挿入することにより実施できる。「一部」とは、宿主中に導入された場合にrre37遺伝子がコードするタンパク質を発現することができるrre37遺伝子の一部分を指す。導入するrre37遺伝子は、宿主である藍藻とは別の属や種に由来するものでもよいが、宿主である藍藻と同一の属や種に由来する遺伝子が好ましい。プロモーターの交換は、例えば、相同組換えによってゲノム上のrre37遺伝子プロモーターを目的のプロモーターと交換することにより実施できる。突然変異誘導による方法は、親株を紫外線照射、又は変異誘発剤(例えば、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホン酸など)で処理した後、ポリヒドロキシアルカン酸を高生産する株を選抜することにより実施できる。

【0045】
遺伝子導入のために遺伝子を連結するベクターとしては、宿主細胞で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド、ファージ及びコスミド等が挙げられる。染色体遺伝子との相同組換えによる遺伝子導入では、プラスミドを用いることなく、PCR等によって、遺伝子配列の両末端相同組換え部位の遺伝子配列とrre37遺伝子配列を含む線状の遺伝子配列を合成したものを用いることができる。本線状遺伝子は配列の両末端に宿主ゲノム上の遺伝子と相同配列を有し、本相同配列を介して宿主染色体中へ導入される。

【0046】
上記ベクターにおいては、挿入したrre37遺伝子が確実に発現されるようにするため、該遺伝子の上流に適当なプロモーターを連結することができる。使用するプロモーターは、二酸化炭素を炭素源とする培養において窒素欠乏条件でrre37を発現させるプロモーターであれば制限されず、宿主に応じて当業者が適宜選択すればよい。光合成系II反応中心タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター、例えばpsbAIIのプロモーター、色素タンパク質フィコシアニンをコードする遺伝子cpcAのプロモーター、炭素同化酵素ルビスコサブユニットをコードする遺伝子rbcLのプロモーターなどが挙げられる。また、構成的プロモーターを用いてもよい。構成的プロモーターは、宿主細胞内外の刺激と関係なく一定のレベルで構造遺伝子を発現させるプロモーターをいう。構成的プロモーターの例としては、人工合成プロモーターtrc、などが挙げられるが、これらに限定されない。

【0047】
ベクターには、プロモーター及び目的の遺伝子に加えて、所望により選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などが連結されていてもよい。また、導入する遺伝子配列は、選択マーカーを含んでいてもよい。選択マーカーの例としては、カナマイシン、スペクチノマイシン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシンなどの薬剤耐性マーカーが挙げられるがこれに限定されない。

【0048】
遺伝子を連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。好ましくは市販のライゲーションキット、例えばLigation high(東洋紡)やDNA Ligation Kit(タカラバイオ)を用いて、規定の条件にてライゲーション反応を行うことにより組換えベクターを得ることができる。また、これらのベクターを、必要であればボイル法、アルカリSDS法、磁性ビーズ法及びそれらの原理を使用した市販されているキット等により精製し、さらにエタノール沈殿法、ポリエチレングリコール沈殿法などの濃縮手段により濃縮することができる。

【0049】
遺伝子の導入は、藍藻とベクター又はDNA断片とを接触させることにより実施できるが(自然形質転換)、接合法、エレクトロポレーション法等を用いてもよい。

【0050】
相同組換えによってゲノム上の任意の位置に目的の遺伝子を挿入する方法は、ゲノム上の配列と相同な配列に目的遺伝子をプロモーターとともに挿入し、このDNA断片を細胞内に導入して相同組換えを起こさせることにより実施できる。ゲノムへの導入の際には目的遺伝子と選択マーカー遺伝子を連結したDNA断片を用いると容易に相同組換えが起こった株を選抜することができる。また、薬剤耐性遺伝子と特定の条件下で致死的になる遺伝子を連結した遺伝子をゲノム上に上記の方法で相同組換えによって挿入し、その後、薬剤耐性遺伝子と特定の条件下で致死的になる遺伝子を置き換える形で目的遺伝子を相同組換えを利用して導入することもできる。

【0051】
上記で得られたrre37遺伝子が過剰発現している藍藻(例えば、形質転換藍藻及び藍藻変異体)を、好ましくは窒素欠乏条件で培養することにより、ポリヒドロキシアルカン酸を生産することができる。藍藻が光エネルギーと二酸化炭素を利用して光合成を行う場合には、二酸化炭素を炭素源として培養することができる。

【0052】
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、ある種の微生物がその体内に蓄積することが知られているポリエステルであり、以下の化学式:
【化1】
JP0005946080B2_000002t.gif
[式中、Rは同一でも異なっていてもよく、炭素数1~14の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、nは2以上の整数であり、好ましくは100以上の整数であり、好ましくは100000以下の整数である]で表すことができる。

【0053】
PHAは自然環境中で分解されることから生分解性プラスチックや生体適合性材料への応用が期待されている。PHAの具体例として、例えば、以下の化学式で表されるものが挙げられる。
【化2】
JP0005946080B2_000003t.gif

【0054】
PHAのうち、ポリヒドロキシブタン酸(PHB及びP(3HB)とも表される)は、微生物が生産するバイオポリマーとして知られ、微生物により分解可能な熱可塑性樹脂として、医薬類、農薬類、医療材料、工業材料等の多方面での応用が期待される材料である。ポリヒドロキシブタン酸(PHB)は、アセチルCoAから三段階の反応で合成されるポリエステルである。

【0055】
ポリヒドロキシブタン酸生産能を有する藍藻としては、Synechocystis属藍藻、例えば、Synechocystis sp.PCC6803、Alcaligenes属藍藻、例えばAlcaligenes eurtophus、Synechococcus属藍藻、例えばSynechococcus sp.strain MA19、Nostoc属藍藻、例えばNostoc muscorumなどが挙げられる。

【0056】
本発明の藍藻の培養方法は、特に制限されないが、好ましくは二酸化炭素を炭素源として、窒素欠乏条件で培養する。培養に用いる培地は、当業者であれば適宜好適なものを選択できるが、例えば、BG-11培地、MDM培地、AO培地、ATCC培地、CRBIP培地、SP培地などを利用できる。

【0057】
例えば、本発明の藍藻は、上記BG-11培地のような培地で、連続明好気条件で培養を行う。一般に培養温度は20~60℃、好ましくは25~55℃であり、培養液のpHは6~12、好ましくは7~10である。また光強度は20~150マイクロモルフォトン(1平方メートル、1秒あたり)が好ましく、時間は4~168時間、好ましくは8~48時間である。明暗条件で培養することも可能である。

【0058】
菌体内のPHA蓄積率を上げるためには、窒素欠乏条件、例えば分離した藍藻菌体を窒素源を制限した培養液、例えば、BG-11培地から硝酸ナトリウムを除いた培地にて培養を行うことが好ましい。このようにして藍藻菌体にPHAを生成蓄積させ、このPHAを培養物から採取する。

【0059】
「培養物」は、例えば、培養した藍藻を含む培養液の他に、培養液の上清、培養細胞若しくは培養菌体、又は、培養細胞若しくは培養菌体の破砕物等を包含する。PHAが、例えば、菌体内又は細胞内に生産される場合、培養後、菌体又は細胞を破砕することにより単離できる。また、PHAが、例えば、菌体外又は細胞外に生産される場合、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により培養液から菌体又は細胞を除去することで単離できる。その後、当技術分野で通常用いられる方法を、単独で、又は、適宜組み合わせることによって、培養物からPHAを精製することもできる。精製方法としては、特に制限されず、例えば、PHAが可溶である有機溶剤にPHAを溶解させて抽出する方法や、PHA以外の菌体構成成分を可溶化等させて取り除くことによりPHAを得る方法などが挙げられる。抽出溶媒としては、メタノールなどのアルコール、ヘキサン、クロロホルムなどが挙げられる。例えば、PHAを培養物から採取する方法として、G.Brauneggらの方法(European Journal of AppliedMicrobiology and Biotechnology 6,29-37(1978))や、M. Katoらの方法(Appl.Microbiol.Biotechnol.45:363-370(1996))を使用することができる。

【0060】
本発明により得られる藍藻の乾燥重量あたりのPHAの量は、Rre37過剰発現株では野生株の1.4~2.0倍であり、Rre37/SigE二重過剰発現株では野生株の1.7~2.7倍である。したがって、本発明によりPHA、特にPHBを効率的に生産することが可能になる。

【0061】
本発明の藍藻を培養することにより、コハク酸を効率的に生産することも可能である。培養及びコハク酸の採取は、上記と同様の方法により実施できる。また、本発明の藍藻を、上記BG-11培地のような培地で、明好気条件で培養した後、光を遮断し、例えば窒素ガスでの空気の置換により酸素が実質的に存在しない条件(暗嫌気条件)にすることで、細胞外にコハク酸を放出させ、このコハク酸を培養物から採取することができる。コハク酸が細胞外に放出されることから、その精製を低コストで実施できる。酸素が実質的に存在しない条件とは、酸素濃度が、例えば1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.2%以下の条件をいう。

【0062】
また、本発明のrre37遺伝子を過剰発現している藍藻を培養することにより、水素を効率的に生産することも可能である。藍藻は、光合成色素としてクロロフィルa、フィコビリン、カロテノイドを有し、光合成細菌とは異なって、光合成系IおよびIIをもち、水を酸化して酸素を発生する緑色植物型光合成を行う。水素ガスの生成は、光合成によって生じた還元力(およびATP)が、二酸化炭素の還元に用いられず、H+の還元に用いられた場合、または、一旦二酸化炭素の還元によって生成したデンプン等の細胞内貯蔵還元物質の分解によって生じた還元力(およびATP)がH+の還元に用いられた場合に行われる。通常、藍藻での水素生産において、還元力の供給は、一旦固定された炭素化合物の分解に依存していることが多く、光エネルギーの水素への転換効率の大幅な改善は困難であった。

【0063】
本発明の藍藻は、嫌気条件及び光照射下で培養することによって水素を効率的に発生させることができる。培養は、例えばBG-11培地を用い、50~80μmolフォトン/m2sの光照射下、25~35℃で培養を行い、窒素ガスを吹き込んだ後、密閉条件でさらに培養することにより実施できる(明嫌気条件)。本発明の藍藻は、電子供与体と反応させることによってもまた水素を生産させることができる。電子供与体には、メチルビオローゲン、フェレドキシン等が例示される。本発明の藍藻と電子供与体の反応は、本発明の藍藻を濃縮した菌体培養液に対して電子供与体を終濃度1~10mM添加し、ジチオナイトなどを添加することによって嫌気状態にし、25~35℃で反応させる。また、本発明の藍藻は、明嫌気条件下で培養後のものを使用することが水素発生量が増大する上で好ましい。発生した水素の採取は、当技術分野で公知の方法、例えば水上置換法によって実施できる。嫌気条件は、酸素が実質的に存在しない条件であり、例えば、窒素ガスでの空気の置換により達成される。酸素が実質的に存在しない条件とは、酸素濃度が、例えば1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.2%以下の条件をいう。

【0064】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
(実施例1)Rre37過剰発現株の構築
単細胞性シアノバクテリア(単細胞性藍藻)、Synechocystis sp.PCC 6803(以下Synechocystis)細胞を用いて、窒素応答性レスポンスレギュレーターRre37を過剰発現する株を構築した。Synechocystis sp.PCC 6803は、パスツール研究所(フランス)から入手可能である(http://www.pasteur.fr/ip/easysite/pasteur/en/research/collections/crbip/general-informations-concerning-the-collections/iv-the-open-collections/iv-iii-pasteur-culture-collection-of-cyanobacteria)。rre37遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)に光合成系II反応中心タンパク質をコードするpsbAIIのプロモーターを付加し、ゲノム上の影響の少ない領域へ導入した(図1)。具体的には、Rre37過剰発現株を、以下のとおり作製した。
【実施例】
【0066】
rre37(sll1330)ORF領域をSynechocystisのゲノムDNAを鋳型に、KODポリメラーゼ(東洋紡)を用いてPCRで増幅した。得られた断片の末端をNdeIとHpaI(タカラバイオ)で切断し、Synechocystis過剰発現用のベクターpTKP2031VのNdeI-HpaI領域に導入した。ライゲーションには、DNA Ligation Kit(タカラバイオ)を用いた。完成したプラスミド(pTKP2031V-rre37)の配列は、シークエンシングで確認した。
【実施例】
【0067】
形質転換は以下の通りに実施した。A730=2~3の濃度のSynechocystisの野生株(GT株)の培養液200μlに、pTKP2031V-rre37を約100ng加え、BG-11培地プレート上の混合セルロースメンブレン(メルクミリポア)に塗布した。シアノバクテリア用インキュベータ内で1日培養した後、メンブレンを50μg/mlカナマイシンを含んだBG-11培地プレートに移し、約3週間培養した。得られたコロニーを、同濃度のカナマイシンを含んだBG-11培地プレートで3回植継ぎ、Rre37過剰発現株を確立した。BG-11培地組成は以下のとおりである。
【表1】
JP0005946080B2_000004t.gif
【実施例】
【0068】
以下、BG-11液体培地では、17.65mM NaNO3を除き、5mM NH4Clを窒素源とした。アンモニア源を使い切らせるか、窒素源を除いた培地にフィルターで回収した細胞を再懸濁することにより、窒素欠乏条件とした。
【実施例】
【0069】
得られた過剰発現株(ROX370)と親株(GT)について、Rre37のmRNA量をリアルタイムPCRにより(図2)、及びタンパク質量をウエスタンブロットにより測定した(図3)。Rre37過剰発現株(ROX370)では、親株に比べて、Rre37のmRNA量及びタンパク質量が大幅に増加していた。
【実施例】
【0070】
また、Rre37過剰発現株では、窒素充足時又は窒素欠乏時に、すべてのPHA合成酵素(PhaA、B、C及びE)が野生株に比べて増加することがわかった。さらに、PHA合成酵素に加えて、グリコーゲン分解酵素や解糖系の酵素の発現がmRNAレベルで増加することがわかった。
【実施例】
【0071】
(実施例2)Rre37/SigE二重過剰発現株の構築
単細胞性シアノバクテリア、Synechocystis sp.PCC 6803(以下Synechocystis)細胞を用いて、Rre37とSigEの二重過剰発現株を以下のとおり作製した。
【実施例】
【0072】
pTKP2031Vのカナマイシン耐性カセット領域を、XhoIとAatII(タカラバイオ)で除去した。ゲンタマイシン耐性カセット領域を、pVZ322ベクターを鋳型に、KODポリメラーゼと特異的プライマー[5’-AAATTTCTCGAGTGTAAGCAGACAGTTTTA-3’(配列番号5)及び5’-AAACCCGACGTCTGTTAGGTGGCGGTACTT-3’(配列番号6)]を用いて増幅した。得られた断片をXhoIとAatIIで切断し、pTKP2031VのXhoI-AatII領域に導入した。完成したプラスミドをpTGP2031と名付けた。
【実施例】
【0073】
SynechocystisグリコーゲンシンターゼglgA(sll0945)の翻訳開始点+1~+1180塩基の領域を、KODポリメラーゼと特異的プライマー[5’-TTCCGCATGCATGAAGATTTTATTTGTGGC-3’(配列番号7)及び5’-TTAAGAATTCCATTGATAGGATCGTAGAA-3’(配列番号8)]を用いて増幅した。得られた断片をSphIとEcoRIで切断し、pUC119ベクター(タカラバイオ)のSphI-EcoRI領域に導入した。得られたプラスミドをApaIで切断し、この場所に、ゲンタマイシン耐性カセット、psbAIIプロモータ、NdeI-HpaIクローニングサイトを含む領域を、pTGP2031を鋳型にKODポリメラーゼと特異的プライマー[5’-TTTGCTTCATCGCTCGAG-3’(配列番号9)及び5’-ATCCAATGTGAGGTTAAC-3’(配列番号10)]によって増幅した断片を導入した。得られたプラスミドをpTGP0945と名付けた。
【実施例】
【0074】
sigEのORF領域を、SynechocystisゲノムDNAを鋳型に、KODポリメラーゼと特異的プライマーを用いて増幅した[5’-ATTATTCATATGAGCGATATGTCTTCC-3’(配列番号11)及び5’-AAAGGGGTTAACCTATAACCAACCTTTGAG-3’(配列番号12)]。得られた断片をNdeIとHpaIで切断した後、pTGP0945のNdeI-HpaI領域に導入した。完成したpTGP0945-sigEプラスミド(図4)を、形質転換によってRre37過剰発現株に導入した。形質転換は、上記と同様だが、カナマイシンの替わりに、3μg/mlゲンタマイシンを含んだプレートを用いた。
【実施例】
【0075】
(実施例3)細胞バイオマスの測定
実施例1で作製したRre37過剰発現株(ROX370)、実施例2で作製したRre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)及び野生株(GT)について、細胞を窒素欠乏状態にし、細胞バイオマスを調べた。窒素源のない培地に異なる濃度の塩化アンモニウムを窒素源として加え、これを使い切らせることにより窒素欠乏状態にした。本実施例では、3段階の初期塩化アンモニウム濃度(2、3、5mM)で9日間培養した後、細胞を回収した。回収した細胞を、-80℃で3日間凍結乾燥し、その重量を細胞バイオマスとした。
【実施例】
【0076】
塩化アンモニウム濃度が増加するにつれ、細胞バイオマスが増加したが、Rre37過剰発現株の細胞バイオマスは、全ての条件で野生株と同等だった。Rre37/SigE二重過剰発現株では、細胞の乾燥重量が増加し、野生株に比べ、約20%増加することが分かった(図5)。
【実施例】
【0077】
(実施例4)ポリヒドロキシブタン酸(PHB)生産量の測定
実施例1で作製したRre37過剰発現株(ROX370)、実施例2で作製したRre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)及び野生株(GT)について、ポリヒドロキシブタン酸(PHB)の細胞内蓄積量を測定した。PHB定量には、2段階の初期塩化アンモニウム濃度(3、5mM)を使用した以外は実施例3と同様に培養した細胞を用いた。まず細胞を凍結乾燥し、得られた細胞をクロロホルムに懸濁し、4日間70℃のインキュベートと約5分間の超音波破砕を行った。この破砕液をヘキサン、クロロホルム、メタノール等を用いて抽出・精製し、得られたサンプルの重量をPHB量とした。
【実施例】
【0078】
培養液100mlあたりのPHB量は、野生株では2つの培養条件で0.6~0.7mgであったのに対し、Rre37過剰発現株では0.9~1.2mgであることが明らかになった。Rre37/SigE二重過剰発現株では、培養液あたりのPHB量は、野生株の1.8~2.8倍に増加していた(図6)。乾燥重量あたりのPHB量は、Rre37過剰発現株では野生株の1.4~2.0倍に増加し、Rre37/SigE二重過剰発現株では野生株の1.7~2.7倍に増加していた(図7)。
【実施例】
【0079】
(実施例5)クエン酸及びコハク酸の生産量の測定
実施例1で作製したRre37過剰発現株(ROX370)、実施例2で作製したRre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)及び野生株(GT)について、クエン酸及びコハク酸の細胞内蓄積量を測定した。
【実施例】
【0080】
BG-11液体培地50mlで3~4日間培養し、70mlのBG-110(窒素源の入っていない培地)+5mM NH4Clに、A730=0.2となるように、遠心して回収した前培養の細胞を加えた。9日間培養した後、培養した細胞を回収した。
【実施例】
【0081】
回収した細胞を次のとおり前処理した。細胞を60%メタノール(480μl)+50mM Na2CO3水溶液(内標)120μlに懸濁し、シェーカーで振りながら抽出した(低温室のシェーカーで、強さ30、15分)。遠心分離(15000rpm、4℃、5分)し、上清500μlを5kDaカットオフフィルターでろ過した(15000rpm、4℃、約90分)。全量をドライアップし(65℃、3時間)、移動相(3mM HClO4溶液)400μlに溶解した。
【実施例】
【0082】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)LC-2000 Plus(日本分光)により、A440の吸収により、クエン酸及びコハク酸を定量した。標準物質の保持時間と比較して、物質を同定し、内標のNa2CO3で補正した。高速液体クロマトグラフィーの条件は以下のとおりである。
【実施例】
【0083】
移動相:3mM過塩素酸水溶液
反応液:0.2mM BTB、15mM Na2HPO4・12H2O
カラム:Shodex RSpak KC-811x2
結果を図8に示す。Rre37過剰発現株(ROX370)、特にRre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)において、野生株と比較してコハク酸生産量の顕著な増大が見られた。
【実施例】
【0084】
(実施例6)水素生産量の測定
実施例1で作製したRre37過剰発現株(ROX370)及び野生株(GT)を培養した場合の水素生産量を測定した。培養は、すべて30℃、白色光50~80μmolフォトン/m2sで実施した。
【実施例】
【0085】
Rre37過剰発現株(ROX370)及び野生株を、BG-11液体培地50mlで3~4日間培養し、70ml BG-110(窒素源の入っていない培地)+1mM NH4Clに、A730=0.2となるように、遠心して回収した前培養の細胞を加えた。3日間培養し、培養した細胞を回収し、新しい10mlのBG-110培地にA730=1.0となるように細胞を再懸濁した。ガラスのガスクロバイアル瓶に入れ、ブチルゴムで密栓した。テルモシリンジを2本差し、片方からN2ガスを吹き込み、1時間経過後、N2ガスを止め、シリンジを抜いた。密閉したまま1日間振盪培養し、GC-TCD(GC-2014 Plus AT、島津)で、バイアル内のH2濃度を測定した。
【実施例】
【0086】
結果を図9に示す。Rre37過剰発現株(ROX370)において、野生株と比較して水素生産量の増大が見られた。
【実施例】
【0087】
(実施例7)コハク酸の生産量の測定
実施例2で作製したRre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)及び野生株(GT)について、嫌気・暗条件での培養液中のコハク酸量を測定した。
【実施例】
【0088】
まず、各藍藻株を、70mlのBG-11培地で好気・明条件、30℃で培養した。好気培養では、1%CO2を混合した空気を培養液中に導入した。3日間の培養の後、濁度がA730=20となるように、20mM Hepes-KOH(pH7.8)溶液10mlに細胞を濃縮、懸濁し、ガスクロマトグラフィー用のバイアル瓶に移した。バイアル瓶にブチルゴムで蓋をした後、2本の注射針をゴム栓に刺し、一方から窒素ガスを1時間導入した。その後、注射針を抜くことで、バイアル瓶中を嫌気状態にした。バイアル瓶をアルミホイルで包んで暗条件とし、30℃で3日間振盪した。培養液を遠心分離にかけることで細胞を分離し、0.45μmフィルターで濾過をしながら上清を新しいチューブに移して、凍結乾燥によって内容物を固化させた。これを過塩素酸に懸濁し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、分析した。定量は、ブロモチモールブルーを用いたポストラベル法によって行った。
【実施例】
【0089】
結果を図10に示す。Rre37/SigE二重過剰発現株(Rre37/SigEox)において、野生株と比較してコハク酸生産量の増大が見られた。
【実施例】
【0090】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参照により本明細書にとり入れるものとする。
Drawing
(In Japanese)【図1】
0
(In Japanese)【図2】
1
(In Japanese)【図3】
2
(In Japanese)【図4】
3
(In Japanese)【図5】
4
(In Japanese)【図6】
5
(In Japanese)【図7】
6
(In Japanese)【図8】
7
(In Japanese)【図9】
8
(In Japanese)【図10】
9