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明細書 :水晶体の弾性測定方法、水晶体の弾性測定装置、及び水晶体の老視判定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6143289号 (P6143289)
公開番号 特開2015-019698 (P2015-019698A)
登録日 平成29年5月19日(2017.5.19)
発行日 平成29年6月7日(2017.6.7)
公開日 平成27年2月2日(2015.2.2)
発明の名称または考案の名称 水晶体の弾性測定方法、水晶体の弾性測定装置、及び水晶体の老視判定装置
国際特許分類 A61B   3/10        (2006.01)
FI A61B 3/10 ZDMR
請求項の数または発明の数 6
全頁数 9
出願番号 特願2013-147897 (P2013-147897)
出願日 平成25年7月16日(2013.7.16)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 1.平成25年3月1日に、経済産業省のウェブサイトの平成24年度課題解決型医療機器等開発事業成果報告シンポジウム開催通知にて概要を発表(掲載アドレス) http://www.meti.go.jp/press/2012/03/20130301001/20130301001.pdf 2.平成25年3月12日に、経済産業省主催の平成24年度課題解決型医療機器等開発事業の成果報告シンポジウムにて発表
審査請求日 平成28年1月19日(2016.1.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】和田 智之
【氏名】坪田 一男
【氏名】神成 淳司
個別代理人の代理人 【識別番号】110000877、【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
【識別番号】100098545、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 伸一
【識別番号】100087745、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 善廣
【識別番号】100106611、【弁理士】、【氏名又は名称】辻田 幸史
審査官 【審査官】山口 裕之
参考文献・文献 特開昭60-119919(JP,A)
特表2005-515872(JP,A)
米国特許出願公開第2007/0121120(US,A1)
「経産省、平成24年度「課題解決型医療機器等開発事業」実証事業として28事業を採択」,URL: http://www.medtecjapan.com/ja/news/2012/08/08/146,2012年 8月 8日
調査した分野 A61B 3/10
特許請求の範囲 【請求項1】
水晶体の硬さを測定する水晶体の弾性測定方法であって、
前記水晶体にパルスレーザー光を照射して前記水晶体から光弾性波を発生させ、
前記水晶体からの前記光弾性波を測定することを特徴とする水晶体の弾性測定方法。
【請求項2】
前記水晶体に干渉用レーザー光を照射して前記光弾性波による干渉縞を発生させ、
前記干渉縞の変化によって前記水晶体の弾性率を演算することを特徴とする請求項1に記載の水晶体の弾性測定方法。
【請求項3】
前記パルスレーザー光を、前記水晶体における透過率が20%以下の波長としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水晶体の弾性測定方法。
【請求項4】
前記パルスレーザー光を、1400nm~2600nmの領域にある波長としたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の水晶体の弾性測定方法。
【請求項5】
水晶体の硬さを測定する水晶体の弾性測定装置であって、
前記水晶体にパルスレーザー光を照射する励起レーザーと、
前記水晶体に干渉用レーザー光を照射する干渉用レーザーと、
前記水晶体からの光弾性波を測定する検知器と、
前記水晶体の弾性率を演算する演算部と、
前記演算部で演算した前記弾性率を表示する表示部と
を備えたことを特徴とする水晶体の弾性測定装置。
【請求項6】
水晶体の加齢による老視判定を行う水晶体の老視判定装置であって、
前記水晶体にパルスレーザー光を照射する励起レーザーと、
前記水晶体に干渉用レーザー光を照射する干渉用レーザーと、
前記水晶体からの光弾性波を測定する検知器と、
前記水晶体の弾性率を演算する演算部と、
前記演算部で演算した前記弾性率から前記水晶体の加齢による前記老視判定を行う老視判定部と、
前記演算部で演算した前記弾性率や前記老視判定部での前記老視判定を表示する表示部と
を備えたことを特徴とする水晶体の老視判定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶体の硬さを非接触で測定する水晶体の弾性測定方法水晶体の老視判定方法、水晶体の弾性測定装置、及び水晶体の老視判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の総人口の約半分が40歳以上で老視の影響が出ており、ほとんどの眼疾患は加齢が関与している。
このような状況の中で、老視は自覚的検査による診断が行われており、定量的評価ができていない。また、具体的な老視進行の把握が困難なため、適切な治療ができない。
以上のことから、老視の定量的評価が望まれている。
老視の原因は、水晶体のタンパク質の硬化であり、加齢によって水晶体が硬化して調整力が減少する。
従って、水晶体の弾性を測定できれば定量的な診断が可能となる。
一方、眼部の特性を測定する方法として、ラマン散乱や誘導ブリルアン散乱を用いた方法が研究されている。
ラマン散乱を用いる方法は、水晶体の水分量から水晶体の硬さや白内障の進行状態を求めるものである。
また誘導ブリルアン散乱を用いる方法は、共焦点光学系による角膜や水晶体の弾性状態を求めるものである。
なお、被検者の眼球の前部にレーザー光を照射し、生ずる散乱光の状況から被検者の眼の状態を測定する光学的検査装置が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
特許文献1では、放射したレーザー光を眼球内の1点に集光し、発生するレーザー散乱光を光電変換素子により受光して時間相関関数を求め、タンパク質の直径を演算する眼球混濁診断装置を提案している。
特許文献2では、レーザー光を眼球の前眼部に照射し、前房水中に存在する蛋白分子又は細胞からの散乱光、さらには角膜からの散乱光を受光することによって、前房水中の蛋白濃度又は細胞数密度及び角膜の混濁度を定量的に求める眼科測定装置を提案している。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開昭58-206718号公報
【特許文献2】特開平6-217939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラマン散乱を用いる方法は、水分量と硬さの相関に関する基礎的な研究が必要であり、微弱光を計測する必要があるため、装置が複雑になるという問題がある。
ブリルアン散乱を用いる方法は、フォノンによる非常に微視的な情報から弾性を判断するために、水晶体としての弾性を計測するものではない。
特許文献1及び特許文献2においても、分子レベルでのタンパク質等を測定対象としており、水晶体としての弾性を計測するものではない。
【0005】
本発明では、非接触で水晶体の弾性状態を瞬時に定量的に把握できる水晶体の弾性測定方法、及び老視の定量的判定を行うことができる水晶体の老視判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の水晶体の弾性測定方法は、水晶体の硬さを測定する水晶体の弾性測定方法であって、前記水晶体にパルスレーザー光を照射して前記水晶体から光弾性波を発生させ、前記水晶体からの前記光弾性波を測定することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の水晶体の弾性測定方法において、前記水晶体に干渉用レーザー光を照射して前記光弾性波による干渉縞を発生させ、
前記干渉縞の変化によって前記水晶体の弾性率を演算することを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の水晶体の弾性測定方法において、前記パルスレーザー光を、前記水晶体における透過率が20%以下の波長としたことを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の水晶体の弾性測定方法において、前記パルスレーザー光を、1400nm~2600nmの領域にある波長としたことを特徴とする。
請求項5記載の本発明の水晶体の老視判定方法は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の水晶体の弾性測定方法によって前記水晶体の弾性率を演算し、演算した前記弾性率から前記水晶体の加齢による老視判定を行うことを特徴とする。
請求項6記載の本発明の水晶体の弾性測定装置は、水晶体の硬さを測定する水晶体の弾性測定装置であって、前記水晶体にパルスレーザー光を照射する励起レーザーと、前記水晶体に干渉用レーザー光を照射する干渉用レーザーと、前記水晶体からの光弾性波を測定する検知器と、前記水晶体の弾性率を演算する演算部と、前記演算部で演算した前記弾性率を表示する表示部とを備えたことを特徴とする。
請求項7記載の本発明の水晶体の老視判定装置は、水晶体の加齢による老視判定を行う水晶体の老視判定装置であって、前記水晶体にパルスレーザー光を照射する励起レーザーと、前記水晶体に干渉用レーザー光を照射する干渉用レーザーと、前記水晶体からの光弾性波を測定する検知器と、前記水晶体の弾性率を演算する演算部と、前記演算部で演算した前記弾性率から前記水晶体の加齢による前記老視判定を行う老視判定部と、前記演算部で演算した前記弾性率や前記老視判定部での前記老視判定を表示する表示部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水晶体で発生する光弾性波を利用することで、非接触で水晶体の弾性状態を瞬時に定量的に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例による水晶体の弾性測定方法を実現するためのブロック図
【図2】眼球の各部位における光の透過率を示す特性図
【図3】減衰振動を示すグラフ
【図4】測定試料としてカバーガラスを用い、カバーガラスに面積の異なるテープを貼ることにより、硬さ(減衰率)を変えて測定したデータ
【図5】図4で示したデータに基づく、カバーガラスの硬さと減衰率との相関図
【図6】ラットを用いた実験結果を示すグラフ

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による水晶体の弾性測定方法は、水晶体にパルスレーザー光を照射して水晶体から光弾性波を発生させ、水晶体からの光弾性波を測定するものである。本実施の形態によれば、水晶体で発生する光弾性波を利用することで、非接触で水晶体の弾性状態を瞬時に定量的に把握できる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態における水晶体の弾性測定方法において、水晶体に干渉用レーザー光を照射して光弾性波による干渉縞を発生させ、干渉縞の変化によって水晶体の弾性率を演算するものである。本実施の形態によれば、微弱なパルスレーザー光による測定を行うことができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態における水晶体の弾性測定方法において、パルスレーザー光を、水晶体における透過率が20%以下の波長としたものである。本実施の形態によれば、微弱なパルスレーザー光によって光弾性波を発生させることができる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1から第3のいずれかの実施の形態における水晶体の弾性測定方法において、パルスレーザー光を、1400nm~2600nmの領域にある波長としたものである。本実施の形態によれば、水晶体に損傷を与えることなく光弾性波を発生させることができる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態による水晶体の老視判定方法は、第1から第4のいずれかの実施の形態における水晶体の弾性測定方法によって水晶体の弾性率を演算し、演算した弾性率から水晶体の加齢による老視判定を行うものである。本実施の形態によれば、老視の定量的判定を行うことができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態による水晶体の弾性測定装置は、水晶体の硬さを測定する水晶体の弾性測定装置であって、前記水晶体にパルスレーザー光を照射する励起レーザーと、前記水晶体に干渉用レーザー光を照射する干渉用レーザーと、前記水晶体からの光弾性波を測定する検知器と、前記水晶体の弾性率を演算する演算部と、前記演算部で演算した前記弾性率を表示する表示部とを備えたものである。本実施の形態によれば、水晶体で発生する光弾性波を利用することで、非接触で水晶体の弾性状態を瞬時に定量的に把握できる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態による水晶体の老視判定装置は、水晶体の加齢による老視判定を行う水晶体の老視判定装置であって、前記水晶体にパルスレーザー光を照射する励起レーザーと、前記水晶体に干渉用レーザー光を照射する干渉用レーザーと、前記水晶体からの光弾性波を測定する検知器と、前記水晶体の弾性率を演算する演算部と、前記演算部で演算した前記弾性率から前記水晶体の加齢による前記老視判定を行う老視判定部と、前記演算部で演算した前記弾性率や前記老視判定部での前記老視判定を表示する表示部とを備えたものである。本実施の形態によれば、老視の定量的判定を行うことができる。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例による水晶体の弾性測定方法を実現するためのブロック図である。
本発明の一実施例による水晶体の弾性測定装置は、水晶体1にパルスレーザー光を照射する励起レーザー11と、水晶体1に干渉用レーザー光を照射する干渉用レーザー12と、水晶体1からの光弾性波を測定する検知器13と、水晶体1の弾性率を演算する演算部14と、演算部14で演算した弾性率から水晶体1の加齢による老視判定を行う老視判定部15と、演算部14で演算した弾性率や老視判定部15での老視判定を表示する表示部16とを備えている。
励起レーザー11及び干渉用レーザー12は、駆動制御部17によって照射される。
【0017】
本発明の水晶体の弾性測定装置を用いた水晶体の弾性測定方法を説明する。
励起レーザー11から水晶体1にパルスレーザー光を照射して水晶体1から光弾性波を発生させる。
また、干渉用レーザー12から水晶体1に干渉用レーザー光を照射して光弾性波による干渉縞を発生させる。
検知器13では、水晶体1からの光弾性波を、干渉縞の変化として検知する。
そして、演算部14では、検知器13で検知した干渉縞の変化から水晶体1の弾性率を演算する。
【0018】
図2は、眼球の各部位における光の透過率を示す特性図である。
図2は、横軸を波長、縦軸を光の透過率とし、水晶体、前房、及び角膜での光の透過率を示している。
パルスレーザー光は、角膜や前房においては透過率が高く、水晶体においては透過率が低いものが適しており、水晶体における透過率が20%以下、すなわち300nm~400nm又は1400nm~2600nmの領域にある波長が好ましい。
なお、300nm~400nmの波長は、DNAに損傷を与える可能性があるため、パルスレーザー光は、1400nm~2600nmの領域にある波長が適しており、1600nm前後の波長が最も適している。
【0019】
図3は減衰振動を示し、図3(a)は減衰率γが大きい場合、図3(b)は減衰率γが小さい場合を示している。減衰率γは測定対象物が硬いほど小さくなる。
減衰振動は以下の式で表される。
【0020】
【数1】
JP0006143289B2_000002t.gif

【0021】
ここでu(t)はt時間後の振幅、Aはt=0時の振幅、γは減衰率(粘性減衰係数)、ωは固有角振動数、tは時間である。
水晶体1の弾性率は、減衰率(粘性減衰係数)γを演算することによって得る。
【0022】
図4は、測定試料としてカバーガラスを用い、カバーガラスに面積の異なるテープを貼ることにより、硬さ(減衰率γ)を変えて測定したデータを示している。
パルスレーザー光には、355nmの波長を用いた。
図4(a)はテープを貼らない状態でのカバーガラスの減衰振動、図4(b)は縦×横長さが7.5×7.5mmのテープを貼った状態でのカバーガラスの減衰振動、図4(c)は縦×横長さが15×7.5mmのテープを貼った状態でのカバーガラスの減衰振動、図4(d)は縦×横長さが15×15mmのテープを貼った状態でのカバーガラスの減衰振動、図4(e)は縦×横長さが30×15mmのテープを貼った状態でのカバーガラスの減衰振動のデータである。
図4(a)ではカバーガラスの減衰率γは0.005、図4(b)ではカバーガラスの減衰率γは0.009、図4(c)ではカバーガラスの減衰率γは0.012、図4(d)ではカバーガラスの減衰率γは0.040、図4(e)ではカバーガラスの減衰率γは0.150であった。
【0023】
図5は、図4で示したデータに基づく、カバーガラスの硬さと減衰率との相関図である。
図5に示すように、カバーガラスの硬さと減衰率γとの間には相関性があることが分かる。
従って、あらかじめ水晶体1と減衰率との相関性を得ておけば、水晶体1の減衰率γを演算することで、水晶体1の硬さ、すなわち、加齢による水晶体1の硬化を定量的に測定することができる。
【0024】
図6はラットを用いた実験結果を示すグラフである。
生きたラットの水晶体1に、355nmの波長のパルスレーザー光を照射し、光音響信号を測定した。なお、本実験では、検出器としてマイクを用いて音波を検出した。
本実験のように、水晶体1で発生する光弾性波は、音波として検出することもできる。
図6に示すように、水晶体1の弾性を光学的に非侵襲で測定することが実現可能である。
【0025】
以上のように、本実施例によれば、水晶体1で発生する光弾性波を利用することで、非接触で水晶体1の弾性状態を瞬時に定量的に把握できる。
また本実施例によれば、水晶体1に干渉用レーザー光を照射して光弾性波による干渉縞を発生させ、干渉縞の変化によって水晶体1の弾性率を演算することで、微弱なパルスレーザー光による測定を行うことができる。
また、パルスレーザー光を、水晶体1における透過率が20%以下の波長とすることで、微弱なパルスレーザー光によって光弾性波を発生させることができる。
特に、パルスレーザー光を、1400nm~2600nmの領域にある波長とすることで、水晶体1に損傷を与えることなく光弾性波を発生させることができる。
本実施例における水晶体の弾性測定方法によって水晶体1の弾性率を演算し、演算した弾性率から水晶体1の加齢による老視判定を行うことで、老視の定量的判定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、眼科での老視診断や白内障手術前検査として利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 水晶体
11 励起レーザー
12 干渉用レーザー
13 検知器
14 演算部
15 老視判定部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5