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明細書 :テラヘルツ波の吸収材および偏光子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6607734号 (P6607734)
公開番号 特開2017-037999 (P2017-037999A)
登録日 令和元年11月1日(2019.11.1)
発行日 令和元年11月20日(2019.11.20)
公開日 平成29年2月16日(2017.2.16)
発明の名称または考案の名称 テラヘルツ波の吸収材および偏光子
国際特許分類 H05K   9/00        (2006.01)
H01F   1/34        (2006.01)
G02F   1/01        (2006.01)
G01N  21/3581      (2014.01)
FI H05K 9/00 M
H01F 1/34 180
G02F 1/01 A
G01N 21/3581
請求項の数または発明の数 6
全頁数 20
出願番号 特願2015-159166 (P2015-159166)
出願日 平成27年8月11日(2015.8.11)
審査請求日 平成30年8月1日(2018.8.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】▲高▼橋 陽太郎
【氏名】徳永 祐介
【氏名】田口 康二郎
【氏名】十倉 好紀
【氏名】金子 良夫
個別代理人の代理人 【識別番号】110000877、【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
審査官 【審査官】梅本 章子
参考文献・文献 特開2002-160924(JP,A)
特開2011-009016(JP,A)
特表2011-521865(JP,A)
特開2015-115499(JP,A)
Sakyo Hirose,外3名,"Mutual control of magnetization and electrical polarization by electric and magnetic fields at room temperature in Y-type BaSrCo2-xZnxFe11AlO22 ceramics",Applied Physics Letters,2014年 1月,Vol.104, No.2,022907-1~022907-4
調査した分野 H05K 9/00
G02F 1/01
H01F 1/34
G01N 21/3581
特許請求の範囲 【請求項1】
磁気モーメントがらせん構造を有するらせん磁性体Y型フェライトからなるテラヘルツ波の吸収材であって、
らせん磁性体Y型フェライトは、化学式(Ba1-xSrCuFe12-yAl22、0≦x≦1、0≦y≦1からな
テラヘルツ波の吸収材。
【請求項2】
磁気モーメントがらせん構造を有するらせん磁性体Y型フェライトからなるテラヘルツ波の偏光子であって、
らせん磁性体Y型フェライトは、化学式(Ba1-xSrCuFe12-yAl22、0≦x≦1、0≦y≦1からな
テラヘルツ波の偏光子。
【請求項3】
前記らせん磁性体Y型フェライトに印加した磁場により、前記らせん磁性体Y型フェライトのテラヘルツ波に対する吸収強度が可変になる
請求項に記載のテラヘルツ波の偏光子。
【請求項4】
前記らせん磁性体Y型フェライトの温度により、前記らせん磁性体Y型フェライトのテラヘルツ波に対する吸収ピークが可変になる
請求項2または3に記載のテラヘルツ波の偏光子。
【請求項5】
請求項に記載のテラヘルツ波の偏光子を用いたスイッチ素子。
【請求項6】
請求項に記載のテラヘルツ波の偏光子を用いたスイッチ素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波の吸収材、偏光子およびスイッチ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波とは、およそ300GHzから10THzの周波数帯(テラヘルツ帯)の光を指す。例えば、1THz(周波数)=33.3cm—1(波数)=4.2meV=300μmとなる。現在、携帯電話の通信に用いられる周波数がGHz帯である。近年、テラヘルツ波の応用展開が盛んになっている。テラヘルツ波は、被測定物の精彩な画像を再現できる。また、テラヘルツ波は、人体に被爆の危険性がないので、X線に変わって衣服下の金属、爆発物及び麻薬等を探知する装置への応用が期待されている。特に、郵便物の非破壊検査装置へのテラヘルツ波の応用は、すでに実用段階にある。また、テラヘルツ波による材料特定と成分分析への応用研究開発も盛んである。そして、現在の通信に用いられているGHz帯は、通信情報の大規模化のため、テラヘルツ帯にブロードバンド化することも予想されている。
[特許文献1] 特開2009-224414号公報
[非特許文献1] N.Kida、D.Okuyama、 S.Ishiwata、 Y.Taguchi、 R.Shimano、 K.Iwasa、 T.Arita、and Y.Tokura、"Electric-dipole-active magnetic resonance in the conical-spin magnet BaMgFe1222"、PHYSICAL REVIEW B、米国、The American Physical Society、2009年12月10日、Vol.80、220406(R).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
テラヘルツ波を通信に利用する場合、多くの解決すべき課題がある。例えば、テラヘルツ波を自動車の走行システムに用いる電子料金収受システム(ETC:Electronic Toll Collection System)に使う場合、通過する車体によってテラヘルツ波が広い範囲に反射する。反射したテラヘルツ波がノイズとなるため、車両通過路の両サイドにテラヘルツ波の吸収材を設ける必要がある。また、テラヘルツ波を空港での探知装置に用いる場合、検査用に用いるテラヘルツ波を遮蔽するための吸収材が必要である。
【0004】
また、テラヘルツ波を光源として材料の成分分析を行う場合、テラヘルツ波の偏光成分を取り出す必要がある。従来、テラヘルツ波の偏光には、金属細線のグリッド偏光子を使用していた。金属細線のグリッド偏光子の作成には多くの工程が必要なので、製造コストが高い。また、金属細線のグリッド偏光子は、金属細線の間隔によって使用周波数が限定されるため、テラヘルツ波の周波数に応じて各種のグリッドを用意する必要がある。以上の通り、使い勝手の観点、及び製造コストの観点から、簡便で安価な偏光子材料が必要とされている。
【0005】
また、テラヘルツ波を通信に利用する場合、通信に必要な短パルスのテラヘルツ波が必要である。通信に使用する場合、使用に必要な時間に限定して多くの回線を使用できるようにするために、テラヘルツ波のスイッチ素子が必要である。
【0006】
なお、300GHzを越えるテラヘルツ帯においてテラヘルツ波を吸収する材料は未だ見つかっていない。但し、テラヘルツ帯に近い吸収材として、最高到達周波数が175GHz付近の吸収材の報告はある(例えば、特許文献1)。我々は、テラヘルツ帯の吸収材として利用できる材料を探索してきた。そこで、磁気励起周波数帯がテラヘルツ帯に存在することから磁気励起周波数と光の電場成分が結合する機構に着目した。その結果、テラヘルツ帯において、テラヘルツ波とスピンによる磁気モーメントゆらぎが、エレクトロマグノン励起により結合することを見出した(例えば、非特許文献1)。具体的には、Y型フェライト構造を有するBaMgFe1222において、巨大なエレクトマグノンによるc結晶軸方向の吸収帯を見出した。らせん磁性体Y型フェライトBaMgFe1222は、誘電率虚部が4という巨大な吸収特性を示す。しかし、Y型フェライトBaMgFe1222の吸収バンドは、200Kの低温で消失してしまう。そこで、テラヘルツ波の室温での吸収材として実用化するためには、低温から室温以上でも、エレクトロマグノン励起による吸収バンドが存在する材料が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、磁気モーメントがらせん構造を有するらせん磁性体Y型フェライトからなるテラヘルツ波の吸収材であって、らせん磁性体Y型フェライトは、化学式AFe12-y22、0≦y≦1からなり、記号AはMg、Sr、Ba、Sc、Pb元素の2価イオンを少なくとも1つ含み、記号BはMn、Fe、Co、Ni、Cu元素の2価の磁性イオンを少なくとも1つ含み、記号Cは任意の元素の3価イオンを含むテラヘルツ波の吸収材を提供する。
【0008】
本発明の第2の態様においては、磁気モーメントがらせん構造を有するらせん磁性体Y型フェライトからなるテラヘルツ波の偏光子であって、らせん磁性体Y型フェライトは、化学式AFe12-y22、0≦y≦1からなり、記号AはMg、Sr、Ba、Sc、Pb元素の2価イオンを少なくとも1つ含み、記号BはMn、Fe、Co、Ni、Cu元素の2価の磁性イオンを少なくとも1つ含み、記号Cは任意の元素の3価イオンを含むテラヘルツ波の偏光子を提供する。
【0009】
本発明の第3の態様においては、本発明の第2の態様に係るらせん磁性体Y型フェライトが、化学式(Ba1-xSrCuFe12-yAl22、0≦x≦1、0≦y≦1からなるテラヘルツ波の偏光子を提供する。
【0010】
本発明の第4の態様においては、本発明の第3の態様に係るテラヘルツ波の偏光子を用いたスイッチ素子を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】Y型フェライトAFe1222の原子配列および磁気モーメントを示す。
【図2A】フェリ磁性体Y型フェライトAFe1222のT層の磁気モーメントL1とS層磁気モーメントL2を示す。
【図2B】らせん磁性体Y型フェライトAFe1222のT層の磁気モーメントL1とS層磁気モーメントL2を示す。
【図3】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の磁化の200Kにおける磁場依存性を示す。
【図4】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の磁化の300Kにおける磁場依存性を示す。
【図5】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の磁化の400Kにおける磁場依存性を示す。
【図6A】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の結晶軸(c結晶軸)と光の進行方向(k)、電場(Eω)並びに磁場(Hω)との空間配置(a)を示す。
【図6B】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の結晶軸(c結晶軸)と光の進行方向(k)、電場(Eω)並びに磁場(Hω)との空間配置(b)を示す。
【図6C】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の結晶軸(c結晶軸)と光の進行方向(k)、電場(Eω)並びに磁場(Hω)との空間配置(c)を示す。
【図7】Y型フェライトBaSrCoFe11AlO222の屈折率虚部の周波数依存性を示す。
【図8】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の粉末の場合の吸収率の周波数依存性を示す。
【図9】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の偏光度の周波数依存性を示す。
【図10】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の誘電率虚部の磁場依存性を示す。
【図11】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22のスペクトル強度の磁場依存性を示す。
【図12】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の誘電率虚部の温度依存性を示す。
【図13】らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の誘電率虚部の中心周波数の温度依存性を示す。
【図14】らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の磁化の300Kにおける磁場強度依存性を示す。
【図15】らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の磁化の400Kにおける磁場強度依存性を示す。
【図16】らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の屈折率虚部偏光度の周波数依存性を示す。
【図17】らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の粉末の場合の吸収率偏光度の周波数依存性を示す。
【図18】らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の偏光度偏光度の周波数依存性を示す。
【図19A】らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の誘率の虚部の磁場依存性を示す。
【図19B】らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の誘電率の虚部の磁場依存性を示す。
【図19C】らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の誘電率の虚部の磁場依存性を示す。
【図20】らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の誘電率の磁場依存性を示す。
【図21】らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の単結晶図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。

【0013】
本発明者らは、らせん磁性体Y型フェライト構造を有するAFe1222に引き続き注目した。Bサイトが公知の2価イオンの非磁性元素であるMg2+(非特許文献1参照)以外の元素でらせん磁性を示すY型を調査した結果、エレクトロマグノンが室温以上の温度で安定に存在する為には、Bサイトに2価のMn、Fe、Co、Ni、Cuなどの磁性イオンとし、Feの3価のイオンをAl+3、Sc+3、In+3、Ti+40.5Mn+20.5、Ti+40.5Co+20.5、Ti+40.5Ni+20.5、Ti+40.5Cu+20.5、Zr+40.5Mn+20.5、Zr+40.5Co+20.5、Zr+40.5Ni+20.5、Zr+40.5Cu+20.5などの3価イオン元素で置換すればよいことが分かった。具体的には、(Ba1-xSrCoFe12-yAl22、0≦x≦1、0≦y≦1、又は、(Ba1-xSrCuFe12-yAl22、0≦x≦1、0≦y≦1を用いて、常温以上の温度範囲で、テラヘルツ波によってエレクトロマグノンを励起できる材料を開発した。

【0014】
エレクトロマグノンとは、電気磁気結合を通じて生じるスピン波である。エレクトロマグノンは、らせん磁性体フェライトであることが必要条件である。らせん磁性体フェライトには、らせん磁性体Y型、らせん磁性体Z型、らせん磁性体U型等のいくつかの型が存在する。

【0015】
しかしながら、らせん磁性体フェライトであれば、必ずエレクトロマグノンが存在するとは限らない。例えば、らせん磁性体Z型フェライトSrCoFe2441、及びらせん磁性体U型フェライトSrCoFe3660ではエレクトロマグノンを観察できない。このように、エレクトロマグノンの発生機構は未解明の部分もあるが、エレクトロマグノンが引き起こす新たな現象は今まで知られていなかった巨大な効果を与える。以下、実施例に基づいて詳細に説明する。

【0016】
(実施例1)
図1にY型フェライトAFe1222の原子配列を示す。Y型フェライトは、六方晶結晶構造を有する。Y型フェライトAFe1222は、磁性元素の磁気モーメントがc結晶軸に垂直な面内にあり、各磁気モーメントの向きが180度の角度で相対抗する磁気モーメントからなり、相対抗する磁気モーメントの大きさが異なるフェリ磁性体である。記号A、Bは、それぞれY型フェライト構造において、元素の占める位置(サイト)を示す。

【0017】
大きな白丸はマイナス2価の酸素イオンを示す。大きな多重丸は記号Aで示す元素からなるプラス2価のイオンを示す。記号Aに対応する元素イオンは、Mg、Sr、Ba、Sc、Pb元素を少なくとも1つを含むプラス2価イオンからなる。

【0018】
小さな白丸は、c結晶軸に垂直で右向きの磁気モーメントをもつ磁性イオンを示す。また、小さな黒丸はc結晶軸に垂直で左向きの磁気モーメントをもつ磁性イオンを示す。これらの元素はプラス3価の鉄イオンと記号Bで示す元素からなるプラス2価のイオンからなる。記号Bで示す元素がMgやZn元素の2価の非磁性イオンのY型フェライトは、室温において典型的なフェリ磁性体である。Y型フェライトAFe1222の結晶構造は、Y型フェライトAFe1222を構成する原子配列に応じて、c結晶軸方向にT層とS層とが交互に積み重なったような構造である。T層は、プラス2価の記号Aで示す元素イオンを含む層である。一方、S層は、記号Aで示す元素イオンを含まない層である。

【0019】
磁気モーメントL1はS層とT層の一部を構成する元素イオンの磁気モーメントを合計(ベクトル和)した磁気モーメントである。磁気モーメントL2は、T層の一部を構成する元素イオンの磁気モーメントを合計(ベクトル和)した磁気モーメントである。図1において、磁気モーメントL1は、S層とT層の一部を構成する元素イオンの磁気モーメント黒丸(左向き)と磁気モーメント白丸(右向き)のベクトル和である。磁気モーメントL1は右向きの磁気モーメントを示す。一方、磁気モーメントL2は、T層の一部の磁気モーメント黒丸(左向き)と磁気モーメント白丸(右向き)のベクトル和である。磁気モーメントL2は左向きの磁気モーメントを示す。磁気モーメントL1は、磁気モーメントL2よりも大きい。

【0020】
図2Aにフェリ磁性体Y型フェライトAFe1222の磁気モーメントを示す。Y型フェライトAFe1222は、磁気モーメントL1及びL2を有する。磁気モーメントL1及びL2は、いずれもc結晶軸に対して垂直な方向を向く。また、磁気モーメントL1及びL2は、互いに180°相対する反平行な磁気モーメントである。

【0021】
図2Bにらせん磁性体Y型フェライトAFe12-y22、0≦y≦1の磁気モーメントを矢印で示す。Y型フェライトAFe12-y22、0≦y≦1は、磁気モーメントがらせん状に旋回するらせん磁性体である。記号A、Bは、それぞれらせん磁性体Y型フェライト構造において、元素の占める位置(サイト)を示す。記号BはMn、Fe、Co、Ni、Cu元素の2価の磁性イオンを少なくとも1つを含む。なお、らせん磁性体Y型フェライトを単に、AFe1222と記載する場合もあるが、らせん磁性体Y型フェライトは、Fe12の場合に限定されるものではなく、化学式AFe12-y22、0≦y≦1と表されるように、Fe元素を、記号Cで示す任意の3価イオンと置換したものも含み得る。

【0022】
らせん磁性体Y型フェライトAFe12-y22、0≦y≦1は、フェリ磁性体Y型フェライトAFe1222と同様に、c結晶軸方向にT層とS層とが交互に積み重なったような構造を有する。本例の磁気モーメントL1及び磁気モーメントL2は大きさ及び方向が異なる。磁気モーメントL1を太線、磁気モーメントL2を破線で示す。

【0023】
磁気モーメントL1及び磁気モーメントL2は、Y型フェライトAFe1222と同様に、磁気モーメントL1はS層とT層の一部を構成する元素イオンの磁気モーメントを合計(ベクトル和)した磁気モーメントである。磁気モーメントL2は、T層の一部を構成する元素イオンの磁気モーメントを合計(ベクトル和)した磁気モーメントである。但し、本例の磁気モーメントL1及び磁気モーメントL2は、c結晶軸方向と垂直でないらせん状の磁気モーメントとなる。磁気モーメントL1及び磁気モーメントL2をらせん状に配置するためには、c結晶軸に対して垂直に反平行に向いている磁気モーメントをc結晶軸方向に傾かせる必要がある。

【0024】
コーン角θは、磁気モーメントL1と磁気モーメントL2との関係に基づき、らせん磁性体Y型フェライトの特性を規定する。コーン角θは、c結晶軸と磁気モーメントL1もしくはL2の方向とのなす角度を指す。磁気モーメントのL1のコーン角θは、90°より小さい。磁気モーメントL1は、コーン角θを一定に保ちながら、c結晶軸方向に対して一定の角度で旋回する。一方、磁気モーメントL2のコーン角θは90°より大きい。磁気モーメントL2も、コーン角θを一定に保ちながら、c結晶軸方向に対して一定の角度で旋回する。

【0025】
ここで、Y型フェライトAFe12-y22、0≦y≦1に用いる元素の組み合わせを工夫することにより、らせん磁性を室温以上の高温まで安定して存在させることができる。例えば、Bサイトに2価イオン元素で、且つ、磁性を有するイオンを用いれば、磁気モーメントL1とL2との相互作用が変化する。また、Feの3価イオンに着目し、Fe12の一部をFeと異なる磁性を有する元素に置き換えることにより、磁気モーメントL1及び磁気モーメントL2の大きさを調整する。これにより、らせん磁性を室温以上の高温まで安定して存在するY型フェライトAFe12-y22、0≦y≦1を得ることができる。

【0026】
例えば、12個のFeの3価イオンの一部をAl+3、Sc+3、In+3、Ti+40.5Mn+20.5、Ti+40.5Co+20.5、Ti+40.5Ni+20.5、Ti+40.5Cu+20.5、Zr+40.5Mn+20.5、Zr+40.5Co+20.5、Zr+40.5Ni+20.5、Zr+40.5Cu+20.5などで置換することにより、磁気モーメントL1及び磁気モーメントL2の大きさを調整できる。ここで、Al+3、Sc+3、In+3は3価の非磁性イオンである。これにより3価のFeイオンが配置する元素位置での磁気モーメントの大きさを調整できる。また、非磁性イオンであるTi+4、Zr+4と、磁性イオンであるNi+2、Co+2、Co+2とを組み合わせたものを、Feの3価イオンと置き換えることにより、磁気モーメントL1及び磁気モーメントL2の大きさを調整できる。

【0027】
らせん磁気構造の存在は、エレクトロマグノンを励起するための必要条件である。らせん磁気構造を有する場合、下記の数式が成り立つ。
【数1】
JP0006607734B2_000002t.gif
ここで、Pijは、分極ゆらぎを指し、S及びSは、それぞれ、S部分及びL部分の磁気モーメントを指す。即ち、[数1]式は、2つの互いに相反する方向を向いた磁気モーメント(S、S)が存在する場合、磁気モーメントS及び磁気モーメントSjの積に比例した電気分極が生じることを示す。磁気モーメントSの結晶軸(c結晶軸)方向のゆらぎは、磁気モーメントS(j=i+1)と結合して、c結晶軸方向の分極ゆらぎを励起する(非特許文献1)。ただし、らせん磁気構造は、エレクトロマグノンを励起するための必要条件であって、十分条件ではないことに注意を払う必要がある。つまり、らせん磁気構造であっても、エレクトロマグノンを励起できない場合がある。

【0028】
以上の通り、テラヘルツ波を吸収するためには、テラヘルツ波の電場成分が、らせん磁気構造により生ずる電気分極を揺することにより、エレクトロマグノンを励起する必要がある。また、高温領域でテラヘルツ波を吸収するためには、高温領域で安定的にらせん磁気構造を形成する必要がある。なお、高温領域とは、20℃以上の温度を指してよい。より好ましくは、高温領域は400K以上の温度である。

【0029】
図3にY型フェライトBaSrCoFe11AlO22の磁化の200Kにおける磁場依存性を示す。縦軸は磁化(μB/f.u.)を示し、横軸は磁場強度を示す。本例の磁場強度は、-4kOeから+4kOeまで変化する。曲線はそれぞれ、c結晶軸に平行な磁化及びc結晶軸に垂直な磁化を示す。c結晶軸方向の弱磁場印可に対して、磁気モーメントはc結晶軸に平行の向きを向く成分をもつ。Y型フェライトAFe1222はらせん磁性を持たないフェリ磁性体の場合、c結晶軸に平行の磁場印加により、c結晶軸方向の磁気モーメント成分は小さくほとんど傾きを持たない。c結晶軸方向に磁気モーメント成分を持つY型フェライトBaSrCoFe11AlO22はc結晶軸を中心軸としてらせん磁性を示す証左である。磁化のc結晶軸成分が有限な値を示すことは、磁気モーメントのコーン角θが有限の値を有することを示す。コーン角θはエレクトロマグノンが励起し得ることを示す。

【0030】
図4にY型フェライトBaSrCoFe11AlO22の磁化の300Kにおける磁場依存性を示す。縦軸は磁化(μB/f.u.)を示し、横軸は磁場強度を示す。本例の磁場強度は、-80kOeから+80kOeまで変化する。曲線はそれぞれ、c結晶軸に平行な磁化及びc結晶軸に垂直な磁化を示す。c結晶軸方向の磁場に対してはc結晶軸に平行な磁気モーメント成分はさらに顕著となり大きな磁気モーメントを有する。300Kにおいてもコーン角を有するらせん磁性体であることが分かる。

【0031】
図5にY型フェライトBaSrCoFe11AlO22の磁化の400Kにおける磁場依存性を示す。縦軸及び横軸は、図4の場合と同じである。温度400Kでは、磁化の振る舞いは300Kの低磁場での小さな構造がなくなったこと以外は、c結晶軸成分の磁気モーメントは300Kと同じ程度の大きな値をもつ。以上から、Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22のらせん磁気特性は、常温を越える125℃以上まで変化していない。本例の磁場依存性のグラフより、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22が常温を超える温度でらせん磁性体であることを確認できたが、エレクトロマグノンを励起できる材料としては十分条件を満たしただけである。らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22が常温を超える温度でエレクトロマグノンを励起できる材料であることの確認は、光照射によりエレクトロマグノンの励起を実証することが必要である。以下、テラヘルツ波で、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22のエレクトロマグノンを励起できることを詳述する。

【0032】
図6A、図6B、図6Cにらせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22単結晶の結晶方位と光の空間的配置(a)、(b)(c)をそれぞれ示す。Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22結晶方位と光の空間的配置とは、Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22に光が入射する場合の、Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の結晶方位と光の入射方向k、電場成分Eω及び光の磁場成分Hωとの相互の配置関係を示す。光の空間的配置をY型フェライトBaSrCoFe11AlO22の結晶方位に対していずれの配置とするかによって、エレクトロマグノンを励起できるか否かが変わる。

【0033】
配置(a)は、光の進行方向kがc結晶軸に垂直で、光の電場成分Eωがc結晶軸に平行で、かつ、光の磁場成分Hωがc結晶軸に垂直な場合である。また、配置(b)は、光の進行方向kがc結晶軸に垂直で、光の電場成分Eωがc結晶軸に垂直で、かつ、光の磁場成分Hωがc結晶軸に平行な場合である。配置(c)は、光の進行方向kがc結晶軸に平行で、光の電場成分Eω及び光の磁場成分Hωが、いずれもc結晶軸に垂直な場合である。

【0034】
図7にらせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22単結晶の屈折率の虚部κの周波数依存性を示す。屈折率の虚部κは、光の吸収の大きさを示す。縦軸は屈折率の虚部κを示し、横軸は光の周波数(THz)を示す。つまり、図7の曲線は光の吸収スペクトルに対応する。図中の配置(a)~(c)は、図6A~図6Cで示した空間的配置の配置(a)~(c)に対応する。配置(a)の場合は、配置(b)及び(c)の場合と比較して、屈折率虚部κが大きくなる。ここで、配置(a)は、光の電場成分Eωがc結晶軸に対して平行な場合であり、配置(b)及び(c)は、光の電場成分Eωがc結晶軸に対して垂直な場合である。つまり、屈折率虚部κは、光の電場成分Eωがc結晶軸に対して平行な場合に大きくなる。よって、光の電場成分Eωがc結晶軸(以下同様)に平行である配置(a)の場合に、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22は、0.3THzから1.6THzまでの広い領域の光を吸収する。光の電場成分Eωがc結晶軸に対して平行な場合の配置のみの強い吸収特性は、エレクトロマグノンとテラヘルツ波との相互作用による(非特許文献2)。この吸収特性は400K以上の高温まで観察できる。図7に示した吸収特性は、結晶方位依存性を調べるために、後述する方法で作製した単結晶を用いている。結晶軸と光学偏光成分の関係を調べることがエレクトロマグノンを誘起したかどうかの判定条件となるからである。

【0035】
図8にらせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の粉末の吸収率の周波数依存性を示す。縦軸は粉末の光の吸収率(%)を示し、横軸は光の周波数(THz)を示す。粉末結晶方位はランダムであるから、粉末試料の吸収率は図7に示した(a),(b),(c)の3成分の和である。らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22は、0.3THzから1.35THzの周波数領域で60%以上の大きな吸収率を有する。また、0.6THz以上の高い周波数では、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の吸収率が特に高く、この領域では完全な吸収材として機能する。

【0036】
らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の粉末形状でテラヘルツ波の強い吸収材となるので、適当な塗料にらせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の粉末を拡散して使用できる。例えば、塗料をパネルに塗布することにより、テラヘルツ波の散乱波を吸収するパネルを容易に製造できる。らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22を用いたテラヘルツ波の吸収材は、空港の探知装置用及びETC用に使用できる。このように、本例のテラヘルツ波の吸収材は応用できる範囲が広い。

【0037】
以上の通り、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22は、200Kから高温までの広い温度範囲で強い吸収特性を示す。つまり、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22は、200Kから400Kまでの広い温度範囲において、0.3THz以上のテラヘルツ波を吸収する。これにより、テラヘルツ帯の吸収材としてらせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22を実用化できる。

【0038】
(実施例2)
図9にらせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の偏光度の周波数依存性を示す。縦軸は偏光度(%)を示し、横軸は光の周波数(THz)を示す。本例の偏光度は、1mmの厚みを有するらせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22を用いて測定した。本例の偏光度は、光の強度(E)の透過率を用いて計算する。また、計算に用いた偏光は、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22結晶のac面におけるa偏光とc偏光である。0.4テラヘルツ以上のテラヘルツ波で90%以上の高い偏光度を示す。

【0039】
以上の通り、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22は、テラヘルツ波の偏光子として利用できる。らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22を偏光子として利用する場合も、基本的な原理は吸収材として利用する場合と同様である。即ち、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22と光の空間的配置が配置(a)の場合に、テラヘルツ波がエレクトロマグノンを励起し、配置(b)及び(c)の場合にエレクトロマグノンを励起しないことに基づく。

【0040】
以上の通り、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22を用いれば、テラヘルツ帯を1つの素子で偏光できる。一方、従来のテラヘルツ波の偏光子は、テラヘルツ波の偏光周波数に応じて、金属細線の間隔を変更する必要がある。例えば、10μm程度の径の金属細線を25から80μmの間隔で配置する。そのため、従来のテラヘルツ波の偏光子は、偏光周波数ごとに金属細線の間隔を変更したグリッド偏光子が必要なので、使い勝手が悪く、かつ、製造コストが高い。

【0041】
(実施例3)
図10にらせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の吸収スペクトルの磁場依存性を示す。縦軸は誘電率虚部(εμ)を示し、横軸は周波数(THz)を示す。本例では、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22に印加する磁場を0Tから7Tまで1Tずつ変更している。印加磁場により、らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22のらせん磁気構造のコーン角θを制御できる。これにより、印加磁場に応じて、Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の吸収帯の吸収強度を制御する。

【0042】
図11にY型フェライトBaSrCoFe11AlO22のスペクトル強度の磁場依存性を示す。縦軸はスペクトル強度(a.u.)を示し、横軸は磁場強度(T)を示す。本例では、図10と同様に、印加磁場を0Tから7Tまで1Tずつ変更した場合のスペクトル強度を比較する。スペクトル強度は、試料に光が入射した後の出射光が有するスペクトルの強度を指す。つまり、スペクトル強度が大きい程、光の吸収率が高いことを示す。0Tから7Tの印加磁場の範囲では、印加磁場が大きい程スペクトル強度が小さくなる。即ち、0Tから7Tの印加磁場の範囲では、印加磁場が大きい程、光の吸収率が低く透明になる。これは、コーン角が小さくなり磁気モーメントがc結晶軸方向に向くと、エレクトロマグノンは消滅し、吸収強度は小さくなることに対応している。Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22に磁場を印加することにより、光の吸収率を変化させることができる。

【0043】
(実施例4)
図12にY型フェライトBaSrCoFe11AlO22の吸収スペクトルの温度依存性を示す。縦軸は誘電率虚部(εμ)を示し、横軸は周波数(THz)を示す。本例では、BaSrCoFe11AlO22の温度を100Kから300Kまで50Kずつ変更している。Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の温度上昇に伴い、吸収帯の周波数中心は低周波領域にシフトする。例えば、温度を100Kから300Kまで変化させると、中心周波数は、0.8THzから1.5THzの広い範囲シフトする。らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の温度制御は、ペルチェ素子を使えば簡単に制御できる。

【0044】
図13に中心周波数の温度依存性を示す。縦軸は周波数(THz)を示し、横軸は温度(K)を示す。図13は、図12に示したスペクトルから温度毎の中心周波数をプロットしたものである。らせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22の温度上昇に伴い、ほぼ線形的に中心周波数が低下していることが分かる。

【0045】
中心周波数とは、誘電率虚部が最大となる周波数である。本例では、1kOeの印加磁場で、120GHzの広い範囲で中心周波数をシフトできる。中心周波数のシフトは、テラヘルツ波を通信に用いる場合に重要な機能である。中心周波数のシフトにより、通信バンドを各利用者別に分配できる。従来の磁気共鳴法を用いる方法では、1kOeの印加磁場で2.8GHz程度しか中心周波数をシフトできない。

【0046】
(実施例5)
図14にらせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の磁化の300Kにおける磁場依存性を示す。例えば、らせん磁性体Y型フェライトAFe12-yAl22は、(Ba1-xSrCuFe12-yAl22、0≦x≦1、0≦y≦1で表される。ここで、x=0.75、y=1のとき、らせん磁性体Y型フェライトAFe12-yAl22は、Ba0.5Sr1.5CuFe11AlO22となる。また、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は、実施例1~4で示したらせん磁性体Y型フェライトBaSrCoFe11AlO22のBa濃度をSrにさらに置き換え、Coの代わりにCuを用いた材料である。c結晶軸に平行な成分は印加磁化に非線形のとびがあるものの有限の値を有しコーン角を有するらせん磁性を示すことが分かる。

【0047】
図15にY型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の磁化の400Kにおける磁場依存性を示す。Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は、c結晶軸に平行な磁気モーメントの成分を有し、コーン角θを有するらせん磁性を示す。

【0048】
図16にらせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の屈折率の虚部κの偏光依存性を示す。本例では、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の温度を300Kに設定する。光の電場成分Eωがc結晶軸に平行である配置の場合に、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は、0.4THzから1.4THzまでの広い領域の光を吸収することがわかる。この強い吸収の偏光特性は、エレクトロマグノンとテラヘルツ波との相互作用に由来するのは上の述べてきたことと同様である。

【0049】
図17にらせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の粉末の吸収率の周波数依存性を示す。本例では、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の温度を300Kに設定する。縦軸は粉末の光の吸収率(%)を示し、横軸は光の周波数(THz)を示す。粉末結晶方位はランダムであるから、粉末試料の吸収率は空間配置(a),(b),(c)の3成分の和である。らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は、0.4THzから1.4THzの周波数領域で90%以上の大きな吸収率を有する。また、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は、0.5THzから1.4THzの周波数領域で100%に近い特に大きな吸収率を有する。即ち、テラヘルツ領域では完全な吸収材として機能する。

【0050】
以上の通り、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は、200Kから高温までの広い温度範囲で強い吸収特性を示す。つまり、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は、200Kから400Kまでの広い温度範囲において、0.4THz以上のテラヘルツ波を吸収する。これにより、テラヘルツ帯の吸収材としてらせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22を実用化できる。

【0051】
(実施例6)
図18にらせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の偏光度の周波数依存性を示す。本例では、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の温度を300Kに設定する。縦軸は偏光度(%)を示し、横軸は光の周波数(THz)を示す。本例の偏光度は、1mmの厚みを有するらせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22を用いて測定した。偏光度は、光の強度(E)の透過率を用いて計算する。また、計算に用いた偏光は、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22結晶のac面におけるa偏光とc偏光である。らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は、テラヘルツ波の偏光子として利用できる。らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22を偏光子として利用する場合も、基本的な原理は吸収材として利用する場合と同様である。即ち、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22と光の空間的配置が配置(a)の場合に、テラヘルツ波がエレクトロマグノンを励起し、配置(b)及び(c)の場合にエレクトロマグノンを励起しないことに基づく。0.4THzから1.2Hz領域のテラヘルツ帯では、80%から100%の高い偏光度を示す。らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は、テラヘルツ帯の良好な偏光子として利用できることが分かる。

【0052】
(実施例7)
図19A、図19B、図19Cにらせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の誘電率の虚部の磁場依存性を示す。本例では、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の温度を300Kに設定する。縦軸は誘電率虚部Im(εμ〕を示し、横軸はエネルギー(meV)を示す。図19Aは、磁場強度を0T、1T、2T、2.1T、2.3Tにそれぞれ設定した場合の磁場依存性を示す。図19Bは、磁場強度を2.3T、2.5T、3T、4Tにそれぞれ設定した場合の磁場依存性を示す。図19Cは、磁場強度を4T、5T、7Tにそれぞれ設定した場合の磁場依存性を示す。

【0053】
磁場強度20KOe=2T(テスラ)付近で誘電率の虚部の急激な増大があることが分かる。誘電率の虚部の急激な増大は、S層の磁気モーメントL2に関し、ab面内方向の成分が変化したことによる。つまり、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は、磁場強度に応じて誘電率の虚部が大きく変化するので、磁場制御テラヘルツ波スイッチ素子として利用できる。

【0054】
図20にらせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の誘電率虚部の磁場依存性を示す。縦軸は誘電率虚部ε(H)-ε(0T)を示し、横軸は磁場(T)を示す。磁場強度は、0Tから7Tまで変化させる。グラフの右側は、磁場強度2~2.25Tの拡大図である。らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の誘電率虚部は、磁場強度2Tで増加する。特に、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22の誘電率虚部は2.1Tから急激に増加し、その値は1.5の巨大吸収を発生する。このことから、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22に磁場を印加することにより、c結晶軸方向の偏光の吸収強度を増加させることができる。したがって、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22を、磁場制御テラヘルツ波スイッチ素子として利用できる。

【0055】
(実施例8)
図21にレーザ光を用いた浮遊溶融帯方式により作成したらせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22単結晶写真を示す。結晶棒の右端部は、c結晶軸方向に垂直のab面に対応する。c結晶軸方向に垂直のab面は、鏡面を有し、光沢があることが分かる。

【0056】
浮遊溶融帯方式は、鉛直に保持した試料棒の一部を加熱して溶融部をつくり、その液相部を表面張力によって支えながら上あるいは下方に移動させることによって結晶成長させる方式である。浮遊溶融帯方式を用いることにより高品質な単結晶を得ることができる。

【0057】
らせん磁性体Y型フェライト単結晶は、溶融温度でY型組成から異なる組成に変化する分解溶融材料なので、ハロゲンランプを用いた浮遊溶融帯方式では単結晶を得ることができない。しかし、レーザを用いた浮遊溶融帯方式では、試料棒の溶融帯と成長する結晶領域の温度を峻別することが可能であることにより、良質で大型ならせん磁性体Y型フェライト単結晶の作製に成功した。レーザを用いた浮遊溶融帯方式により、らせん磁性体Y型フェライト単結晶を作製するためには、溶融帯温度を精度よく制御する必要がある。また、らせん磁性体Y型フェライト単結晶成長時の酸素雰囲気を5気圧に保持する。

【0058】
以上、実施例1、3、5に示した通り、本明細書に開示した吸収材は、テラヘルツ波を吸収できる。さらに室温から高温領域まで機能する。また、本明細書に開示した吸収材は粉末にしてパネル面に塗布できるので実用性の高い吸収材として重要である。また、実施例2、6に示した通り、本明細書に開示した偏光子は、テラヘルツ帯を広くカバーできる偏光子として実用に供することができる。

【0059】
さらに、本明細書に開示したらせん磁性体Y型フェライトは、らせん磁性体Y型フェライトの温度に応じテラヘルツ波の吸収波長のピークを制御できる。らせん磁性体Y型フェライトは、温度により中心周波数を制御して、テラヘルツ波を各バンドに分岐できる。また本明細書に開示したらせん磁性体Y型フェライトは、印加した磁場に応じて吸収強度を制御できる。特に、らせん磁性体Y型フェライトBa0.5Sr1.5CuFe11AlO22は磁場印加により、テラヘルツ波の吸収強度をオン-オフするテラヘルツ波のスイッチ素子として応用できる。

【0060】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6A】
6
【図6B】
7
【図6C】
8
【図7】
9
【図8】
10
【図9】
11
【図10】
12
【図11】
13
【図12】
14
【図13】
15
【図14】
16
【図15】
17
【図16】
18
【図17】
19
【図18】
20
【図19A】
21
【図19B】
22
【図19C】
23
【図20】
24
【図21】
25