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明細書 :波面歪み量測定装置、波面補償装置、光学測定装置、および方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6379031号 (P6379031)
公開番号 特開2016-125895 (P2016-125895A)
登録日 平成30年8月3日(2018.8.3)
発行日 平成30年8月22日(2018.8.22)
公開日 平成28年7月11日(2016.7.11)
発明の名称または考案の名称 波面歪み量測定装置、波面補償装置、光学測定装置、および方法
国際特許分類 G01M  11/02        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
G01J   9/02        (2006.01)
G02F   1/39        (2006.01)
FI G01M 11/02 B
G01N 21/64 Z
G01J 9/02
G02F 1/39
請求項の数または発明の数 28
全頁数 29
出願番号 特願2014-266374 (P2014-266374)
出願日 平成26年12月26日(2014.12.26)
審査請求日 平成29年11月28日(2017.11.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】磯部 圭佑
【氏名】緑川 克美
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100106622、【弁理士】、【氏名又は名称】和久田 純一
審査官 【審査官】藤田 都志行
参考文献・文献 特開2011-87830(JP,A)
特開2011-232243(JP,A)
特開平11-230833(JP,A)
米国特許第7423766(US,B1)
谷田貝 豊彦,「光干渉計測法の最近の進歩」,精密機械,社団法人精機学会,1985年 4月 5日,Vol.51, No.4,pp.695-702,ISSN 0374-3543
調査した分野 G01M 11/02
G01N 21/64
G01J 9/02
G02F 1/39
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
レンズの瞳面もしくは当該瞳面と共役な位置に配置された波面変調器と、
前記波面変調器および前記レンズを介して入射する光の強度分布を検出する光検出器と、
前記波面変調器の位相変調量を制御する制御手段と、
前記波面変調器の局所領域に与える位相変調量を変化させた際に前記光検出器から得られる強度分布に基づいて、前記局所領域を通過する光と前記局所領域以外を通過する光の干渉成分を取得する干渉成分取得手段と、
前記干渉成分をフーリエ変換し、フーリエ変換された干渉成分の位相成分を波面歪み量として算出する波面歪み量算出手段と、
を備える、波面歪み量測定装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記局所領域に少なくとも3つの異なる変調量を与えるように前記波面変調器を制御し、
前記干渉成分取得手段は演算装置であり、前記少なくとも3つの異なる変調量を前記波面変調器に与えた際に前記光検出器からそれぞれ得られる少なくとも3つの強度分布に基づいて、演算により前記干渉成分を算出する、
請求項1に記載の波面歪み量測定装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記波面変調器の前記局所領域に与える位相変調量を、周期的に変化させ、
前記干渉成分取得手段は、前記光検出器から出力される信号を入力とするロックイン検出器である、
請求項1に記載の波面歪み量測定装置。
【請求項4】
前記光検出器は、前記レンズの焦点面に配置され、光源から前記波面変調器を介して前記レンズに入射した光を検出する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の波面歪み量測定装置。
【請求項5】
前記光検出器は、前記レンズを介して測定対象物から生じる光が結像される位置に配置される、
請求項1~3のいずれか1項に記載の波面歪み量測定装置。
【請求項6】
前記波面歪み量算出手段は、前記波面変調器の第1から第3の局所領域のそれぞれに位相変調を与えて得られる3つの前記干渉成分の位相成分から、前記測定対象物の位相情報を除去した波面歪み量を算出する、
請求項5に記載の波面歪み量測定装置。
【請求項7】
前記第2の局所領域は、前記第1の局所領域から第1の方向に変位した位置であり、
前記第3の局所領域は、前記第1の局所領域から前記第1の方向と直交する第2の方向に変位した位置である、
請求項6に記載の波面歪み量測定装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の波面歪み量測定装置を含む波面補償装置であって、
前記制御手段は、前記波面歪み量算出手段によって取得される前記波面歪み量を打ち消す位相変調を前記波面変調器に与える、
波面補償装置。
【請求項9】
前記波面歪み量算出手段によって取得される前記波面歪み量を打ち消す位相変調を前記波面変調器に与えた状態で、前記波面変調器の局所領域に与える位相変調量を変化させて波面歪み量の算出し、当該波面歪み量に基づいて、前記波面変調器に与える位相変調量を更新する、
請求項8に記載の波面補償装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の波面補償装置と、
前記波面歪み量を打ち消す位相変調を前記波面変調器に与えた状態で、前記光検出器によって測定を行い、測定結果を出力する出力手段と、
を備える、光学測定装置。
【請求項11】
前記光学測定装置は、レーザー走査型光学測定装置であり、
レーザー光を発生させる光源と、
前記レーザー光を前記レンズの焦点面に配置された測定対象物に導く光学系と、
前記レーザー光を測定対象物上で走査するための走査手段と、
をさらに備え、
前記波面変調器は、前記光源と前記測定対象物を結ぶ光路上に配置される、
請求項10に記載の光学測定装置。
【請求項12】
前記光学測定装置は、広視野光学測定装置であり、
前記光検出器は、測定対象物から生じる光が結像される位置に配置された2次元光検出器であり、
前記波面変調器は、前記測定対象物と前記2次元光検出器とを結ぶ光路上に配置される、
請求項10に記載の光学測定装置。
【請求項13】
前記光学測定装置は、非線形光学測定装置であり、
第1の励起光を発生させる第1の光源と、
第2の励起光を発生させる第2の光源と、
前記第1の励起光と前記第2の励起光を前記レンズの焦点面に配置された測定対象物に導く光学系と、
前記第1の励起光を前記第2の励起光に対して測定対象物上で走査するための走査手段と、
前記第1の励起光と前記第2の励起光により測定対象物内において非線形光学過程を誘起し、信号光を発生させる手段と、
をさらに備え、
前記波面変調器は、前記第1の光源と前記測定対象物を結ぶ光路上に第1の波面変調器と、前記第2の光源と前記測定対象物を結ぶ光路上に第2の波面変調器を含み、
第1の励起光の波面歪み量および第2の励起光の波面歪み量をそれぞれ求め、それぞれの波面歪み量を打ち消す位相変調を前記第1の波面変調器および前記第2の波面変調器に与えた状態で、前記測定対象物の測定を行う、
請求項10に記載の光学測定装置。
【請求項14】
レンズの瞳面もしくは当該瞳面と共役な位置に配置された波面変調器の局所領域に与える位相変調量を変化させる位相変調ステップと、
前記波面変調器および前記レンズを介して入射する光の強度を光検出器によって検出する検出ステップと、
前記光検出器から得られる信号から、前記局所領域を通過する光と前記局所領域以外を通過する光の干渉成分を取得する干渉成分取得ステップと、
前記干渉成分をフーリエ変換し、フーリエ変換された干渉成分の位相成分を波面歪み量として算出する波面歪み量算出ステップと、
含む、波面歪み量測定方法。
【請求項15】
前記位相変調ステップでは、前記局所領域に少なくとも3つの異なる変調量を与え、
前記干渉成分取得ステップでは、前記少なくとも3つの異なる変調量を前記波面変調器に与えた際にそれぞれ得られる少なくとも3つの強度分布に基づいて、演算により前記干渉成分を算出する、
請求項14に記載の波面歪み量測定方法。
【請求項16】
前記位相変調ステップでは、前記波面変調器の前記局所領域に与える位相変調量を周期的に変化させ、
前記干渉成分取得ステップでは、前記光検出器から出力される信号を入力とするロックイン検出器を用いて、前記干渉成分を取得する、
請求項14に記載の波面歪み量測定方法。
【請求項17】
前記光検出器は、前記レンズの焦点面に配置され、光源から前記波面変調器を介して前記レンズに入射した光の空間強度分布を検出する、
請求項14~16のいずれか1項に記載の波面歪み量測定方法。
【請求項18】
前記光検出器は、前記レンズを介して測定対象物から生じる光が結像される位置に配置され、測定対象物から生じる光の空間強度分布を検出する、
請求項14~16のいずれか1項に記載の波面歪み量測定方法。
【請求項19】
前記検出ステップは、
前記レンズを介してレーザー光を測定対象物上に集光し、前記測定対象物から生じる光を前記光検出器により検出する信号光検出ステップと
レーザー光を測定対象物上で走査し、信号強度分布を取得する信号強度分布取得ステップ
を含む、請求項14~16のいずれか1項に記載の波面歪み量測定方法。
【請求項20】
前記検出ステップは、
前記レンズを介して第1および第2のレーザー光を測定対象物上に集光し、測定対象物内において非線形光学過程を誘起し、発生させた信号光を検出する非線形信号光検出ステ
ップと、
前記第1のレーザー光を前記第2のレーザー光に対して測定対象物上で走査し、信号強度分布を取得する非線形信号強度分布取得ステップと、
を含む、請求項14~16のいずれか1項に記載の波面歪み量測定方法。
【請求項21】
前記波面変調器の第1から第3の局所領域のそれぞれを対象として、前記位相変調ステップ、前記検出ステップ、および前記干渉成分取得ステップを実行して、第1から第3の干渉成分をそれぞれ取得し、
前記波面歪み量算出ステップでは、前記第1から第3の干渉成分の位相成分から、前記測定対象物の位相情報を除去した波面歪み量を算出する、
請求項18または19に記載の波面歪み量測定方法。
【請求項22】
前記波面変調器の第1から第3の局所領域のそれぞれを対象として、前記位相変調ステップ、前記検出ステップ、および前記干渉成分取得ステップを実行して、第1から第3の干渉成分をそれぞれ取得し、
前記波面歪み量算出ステップでは、前記第1から第3の干渉成分の位相成分から、前記第2のレーザー光が関連する位相情報を除去した波面歪み量を算出する、
請求項20に記載の波面歪み量測定方法。
【請求項23】
前記第2の局所領域は、前記第1の局所領域から第1の方向に変位した位置であり、
前記第3の局所領域は、前記第1の局所領域から前記第1の方向と直交する第2の方向に変位した位置である、
請求項21または22に記載の波面歪み量測定方法。
【請求項24】
請求項14~23のいずれか1項に記載の波面歪み量測定方法の各ステップと、
前記波面歪み量算出ステップにおいて取得される波面歪み量を打ち消す位相変調を前記波面変調器に与える波面補償ステップと、
を含む、波面補償方法。
【請求項25】
前記波面歪み量算出ステップにおいて取得される前記波面歪み量を前記波面変調器に与えた状態で、前記位相変調ステップ、前記検出ステップ、前記干渉成分取得ステップ、および前記波面歪み量算出ステップを行って波面歪み量を算出し、当該波面歪み量に基づいて、前記波面補償ステップにおいて前記波面変調器に与える位相変調量を更新する、
請求項24に記載の波面補償方法。
【請求項26】
請求項24または25に記載の波面補償方法の各ステップと、
前記波面歪み量を打ち消す位相変調を前記波面変調器に与えた状態で、前記光検出器を用いて測定を行う測定ステップと、
を含む、光学測定方法。
【請求項27】
コンピュータに、請求項14から26のいずれか1項に記載の方法を実行させるための、コンピュータプログラム。
【請求項28】
レンズの瞳面もしくは当該瞳面と共役な位置に配置された波面変調器と、
前記波面変調器の位相変調量を制御する制御手段と、
前記波面変調器の局所領域に与える位相変調量を変化させた際に前記波面変調器および前記レンズを介して入射する光の強度分布を検出する光検出器から得られる強度分布に基づいて、前記局所領域を通過する光と前記局所領域以外を通過する光の干渉成分を取得する干渉成分取得手段と、
前記干渉成分をフーリエ変換し、フーリエ変換された干渉成分の位相成分を波面歪み量
として算出する波面歪み量算出手段と、
を備える、波面歪み量測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、波面歪み量の測定および波面歪みの補償に関する。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡などの光を用いたイメージングにおいて、試料内部や光学系にて生じる波面歪みによって、空間分解能が劣化する。劣化の度合いが大きいと、試料の観察が不可能となる。波面歪みを補償するには、空間位相変調器などの波面補償器を用いて、試料内部で生じる波面歪みと逆の波面歪みを与えればよい。
【0003】
従来の波面補償技術は以下の2つの手法に大別される。第1の手法は、波面測定光学系を用いて波面歪みを測定し、その歪み量をもとに補償する手法である。第1の手法の例として、シャックハルトマン波面センサーを用いる技術(非特許文献1)や干渉計を用いる技術(非特許文献2)が知られている。第2の手法は、波面歪みを測定することなく、仮定した波面を与えて信号が改善されるかどうか試行錯誤を繰返し行い、最適波面を探索する手法(非特許文献3)である。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】J. W. Cha, J. Ballesta, and P. T. So “Shack-Hartmann wavefront-sensor-based adaptive optics system for multiphoton microscopy,” Journal of Biomedical Optics 15, 046022 (2010).
【非特許文献2】T. Shirai, T. H. Barnes, and T. G. Haskell, “Adaptive wave-front correction by means of all-optical feedback interferometry,” Opt. Lett. 25, 773-775 (2000).
【非特許文献3】A. Facomprez, E. Beaurepaire, and D. D´ebarre, “Accuracy of correction in modal sensorless adaptive optics,” Optics express 20, 2598-2612 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第1の手法では、顕微鏡とは別の経路を通る光を用いて波面歪み量を測定しているので、波面測定光学系において波面歪みが生じる場合や、波面測定光学系と共有していない顕微鏡部分において波面歪みが生じる場合には正しい波面歪み量の測定ができない。また、波面歪みを測定するために2次元検出器を用いているため、試料内部で光が散乱すると背景光となり正しい波面歪み量が測定できない。また、シャックハルトマン波面センサーでは、試料内部の非常に明るく光っている点光源からの光を用いて波面を測定する。したがって、試料内部に明るい点が存在しなければ使用できない。
【0006】
第2の手法では、波面測定光学系は必要ないが、次のような問題がある。第1に、信号は改善されるが、真に補償されているかどうかわからない。第2に、試行錯誤の繰返し回数が多いと、時間がかかる。第3に、試行錯誤の繰返し回数が多いと、蛍光顕微鏡では蛍光分子が褪色する。
【0007】
このような問題を鑑みて、本発明は、波面歪み量の測定および補償を正確かつ高速に行える技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る波面歪み量測定方法は、レンズの瞳面もしくは当該瞳面と共役な位置に配置された波面変調器の局所領域に与える位相変調量を変化させる位相変調ステップと、前記波面変調器および前記レンズを介して入射する光の強度を光検出器によって検出する検出ステップと、前記光検出器から得られる信号から、前記局所領域を通過する光と前記局所領域以外を通過する光の干渉成分を取得する干渉成分取得ステップと、前記干渉成分をフーリエ変換し、フーリエ変換された干渉成分の位相成分を波面歪み量として算出する波面歪み量算出ステップと、を含む。
【0009】
波面変調器はレンズの瞳面もしくはその共役な位置に配置されているので、レンズの焦点面と波面変調器の設置面は、フーリエ変換の関係になり、レンズの焦点面を実空間とすると、波面変調器の設置面は空間周波数空間となる。したがって、波面変調器の局所領域に対して位相変調を与えるということは、狭い空間周波数帯域のみにデルタ関数的な位相変調を与えることになる。光検出器が検出する光の強度分布は、位相変調されていない光と位相変調された光が干渉した干渉成分を含む。波面変調器の局所領域に与える位相変調量を変化させて強度分布を取得することで、干渉成分を抽出することが可能である。そして、抽出された干渉成分のフーリエ変換の位相成分として波面歪み量を求めることができる。
【0010】
本発明において、干渉成分の取得は演算により行うことができる。すなわち、本発明の前記位相変調ステップにおいて、前記局所領域に少なくとも3つの異なる変調量を与え、前記干渉成分取得ステップにおいて、前記少なくとも3つの異なる変調量を前記波面変調器に与えた際にそれぞれ得られる少なくとも3つの強度分布に基づいて、演算により前記干渉成分を算出する、ことができる。この際、少なくとも3つの異なる変調量の1つとして、変調量ゼロが含まれても構わない。
【0011】
このように位相変調量を離散的に変化させて得られる少なくとも3つの強度分布から、演算によって干渉成分が求められる。なお、位相変調量をφm=2π×m/M(Mは3以上の整数、mは0≦m<Mを満たす整数)とすると、簡易な演算により干渉成分を算出できるた
め好ましい。
【0012】
また、本発明において、干渉成分の取得をロックイン検出により行うことができる。すなわち、本発明の前記位相変調ステップにおいて、前記波面変調器の前記局所領域に与える位相変調量を周期的に変化させ、前記干渉成分取得ステップにおいて、前記光検出器から出力される信号を入力とするロックイン検出器を用いて、前記干渉成分を取得する、ことができる。
【0013】
位相変調量を時間的に変調させることで、干渉成分も同じ周波数で変調される。したがって、ロックイン検出によって干渉成分を求めることができる。
【0014】
本発明において、前記光検出器を前記レンズの焦点面に配置して、光源から前記波面変調器を介して前記レンズに入射した光の空間強度分布を検出する、ことができる。このようにすれば、光源から発せられた光の光検出器面での波面歪み量を測定することができる。
【0015】
また、本発明において、前記光検出器を、前記レンズを介して測定対象物から生じる光が結像される位置に配置して、測定対象物から生じる光の空間強度分布を検出する、ことができる。このようにすれば、測定対象物から発せられる光の光検出器面での波面歪み量を測定することができる。このような測定は、例えば、広視野顕微鏡や望遠鏡などに好適に適用可能である。なお、この場合の光検出器は、CCDカメラやCMOSカメラなどの2次元光検出器とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明において、前記検出ステップを、前記レンズを介してレーザー光を測定対象物上に集光し、前記測定対象物から生じる光を前記光検出器により検出する信号光検出ステップと、レーザー光を測定対象物上で走査し、信号強度分布を取得する信号強度分布取得ステップとから構成することもできる。このようにすれば、測定対象物上でのレーザー光の波面歪み量を測定できる。このような測定は、レーザー走査型顕微鏡に好適に適用可能である。なお、この場合の光検出器は、光電子増倍管やフォトダイオードなどの点型光検出器とすることが好ましい。
【0017】
上記のように測定対象物から生じる光を光検出器で取得して波面歪み量を測定する場合、測定結果には測定対象物の位相情報も含まれる。そこで、次のようにして測定対象物の位相情報を除外して、波面の歪み量を測定することができる。すなわち、前記波面変調器の第1から第3の局所領域のそれぞれを対象として、前記位相変調ステップ、前記検出ステップ、および前記干渉成分取得ステップを実行して、第1から第3の干渉成分をそれぞれ取得し、前記波面歪み量取得ステップでは、前記第1から第3の干渉成分の位相成分から、前記測定対象物の位相情報を除去した波面歪み量を算出する、ことができる。
【0018】
ここで、第1から第3の局所領域の位置は次のようにすると良い。すなわち、前記第2の局所領域は、前記第1の局所領域から第1の方向に変位した位置であり、前記第3の局所領域は、前記第1の局所領域から前記第1の方向と異なる第2の方向に変位した位置とすればよい。特に、第1の方向と第2の方向を互いに直交する方向とするとよい。また、第1および第2の局所領域の間の距離と第2および第3の局所領域の間の距離は、同じ微少量とすることが好ましい。
【0019】
第1および第3の干渉成分から、測定対象物の位相情報を除去して、波面歪み量の第1の方向への差分が得られる。同様に、第1および第3の干渉成分から、測定対象物の位相情報を除去して、波面歪み量の第2の方向への差分が得られる。これらの差分から、測定対象物の位相情報を除去した波面歪みに関する位相情報を再構成することができる。
【0020】
なお、位相変調ステップにおいて局所領域に離散的に異なる位相変調を与える場合は、各局所領域について少なくとも3回の強度分布の取得が必要となり、合計9回の強度分布の取得が必要になるように思える。しかしながら、与える位相変調量がゼロの場合には局所領域の位置の依らず強度分布が同一となるので、各局所領域に与える位相変調量に変調量ゼロを含めることで、強度分布の取得を7回とすることができる。
【0021】
本発明はまた、上記の波面歪み量測定方法の各ステップと、前記波面歪み量取得ステップにおいて取得される波面歪み量を打ち消す位相変調を前記波面変調器に与える波面補償ステップと、を含む波面補償方法と捉えることもできる。
【0022】
本発明において、前記波面変調器によって取得される前記波面歪み量を前記波面変調器に与えた状態で、前記位相変調ステップ、前記検出ステップ、前記干渉成分取得ステップ、および前記波面歪み量算出ステップを行って波面歪み量を算出し、当該波面歪み量に基づいて、前記波面補償ステップにおいて前記波面変調器に与える位相変調量を更新する、ことも好ましい。
【0023】
一回の波面歪み量の測定には誤差が含まれることも考えられる。そこで、このように波面歪み量の測定と補償を繰り返し実行することで、より精度の良い波面補償が可能となる。
【0024】
本発明はまた、上記の波面補償方法の各ステップと、前記波面歪み量を打ち消す位相変
調を前記波面変調器に与えた状態で、前記光検出器を用いて測定を行う測定ステップと、を含む光学測定方法と捉えることもできる。本発明によれば、波面歪み量測定のための光検出器と、対象物測定のための光検出器と、を共通化できる。これにより、単に部品点数を削減できるだけでなく、波面歪み量の測定と対象物の測定において同一の経路を光が通るので、精度の良い波面歪み量の測定が可能となる。
【0025】
本発明は、上記の波面歪み測定方法を実施するための波面歪み量測定装置、上記の波面補償方法を実施するための補償光学装置、上記の光学測定方法を実施するための光学測定装置として捉えることもできる。また、本発明は、コンピュータに上記波面歪み量測定方法、波面補償方法、または光学測定方法の各ステップを実行させるためのコンピュータプログラム、あるいは当該コンピュータプログラムを非一時的に格納したコンピュータ可読記憶媒体として捉えることもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、新規な手法により波面歪み量の測定を高速かつ精度良く行うことができる。この波面歪み量の測定方法は、光学測定装置に適用した場合に、波面歪み量測定のために新たな光学系を追加する必要がない。また、波面歪み量の測定時と対象物の測定時において光が同一の経路を通るため、測定時に生じる波面歪みを正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1(A)は波面変調器による位相変調光学系を示す図、図1(B)(C)は波面変調器に与えるデルタ関数的な位相変調を説明する図である。
【図2】図2は、局所空間周波数を位相変調したときの光の集光(左図)が、試験光(右上図)と参照光(右下図)とを重ね合わせたものであることを説明する図である。
【図3】図3(A)(B)は、本発明に係る波面歪み測定処理を行う補償光学装置の構成を示す図である。
【図4】図4は、図3(A)(B)の補償光学装置による波面歪み測定および補償処理の流れを説明するフローチャートである。
【図5】図5(A)は、ロックイン検出器を用いて干渉成分を取得する場合の補償光学装置の構成を示す図であり、図5(B)は、本装置による波面歪み測定および補償処理の流れを説明するフローチャートである。
【図6】図6(A)~(D)は、本発明に係る波面歪み測定および波面補償方法を、レーザー走査型顕微鏡、広視野顕微鏡、望遠鏡、眼底検査装置にそれぞれに適用した場合の構成を示す図である。
【図7】図7は、図6(A)~(D)に示す装置による波面歪み測定および補償処理の流れを説明するフローチャートである。
【図8】図8は、波面歪み量の測定と補償処理を繰り返し実行する場合のフローチャートである。
【図9】図9は、非線形光学過程の例を説明する図である。
【図10】図10は、本発明に係る波面歪み測定を非線形光学顕微鏡に適用した場合の構成を示す図である。
【図11】図11は、図10に示す非線形光学顕微鏡による波面歪み測定および補償処理の流れを説明する図である。
【図12】図12(A)は、本発明に係る波面歪み測定の原理を確認するために行った実験に用いた装置構成を示す図である。図12(B)は、空間位相変調器によって局所空間周波数を位相変調した際に光検出器によって得られるレーザー光の強度分布を示す図である。図12(C)は、図12(B)に示す強度分布から算出された波面歪み量を示す図である。図12(D)は、波面歪みの測定結果と実験の際に与えた波面歪みの比較結果である。
【図13】図13は、発明に係る波面歪み測定を非線形光学顕微鏡に適用した場合の装置構成を示す図である。
【図14】図14(A)は、第1の波面変調器によって局所空間周波数を位相変調した際に光検出器によって得られる非線形信号の強度分布を示す図である。図14(B)は、波面歪みの測定結果と実験の際に与えた波面歪みの比較結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<1.基本原理>
まず、本発明にかかる波面歪み量測定方法の基本原理について説明する。

【0029】
図1(A)は波面変調素子による位相変調光学系を示す図である。図1において、x-y平面に空間位相変調器が配置され、x-y平面がレンズCの焦点面である。図に示すように、空間位相変調器や形状可変ミラーなどの波面変調素子面を、瞳投影レンズAおよび結像レンズBを介して、レンズCの射出瞳位置(x-y平面)に結像すると、波面補償素子面と焦点面はフーリエ変換の関係になる。焦点面を実空間とすると、波面補償素子面は空間周波数空間となる。図1(B)(C)に示すように、波面補償素子によって、位置(xcpr,ycpr)のみにデルタ関数とみなせるような位相変調を与えることは、位置(xcpr,ycpr)に対応する中心空間周波数(kprx,kpry)の狭い空間周波数帯域のみに位相変調を与えることに相当する。このとき、位相変調関数は
【数1】
JP0006379031B2_000002t.gif
と表される。

【0030】
ここで、図2に示すように、結像レンズによって集光される集光ビームは、位相変調されていないビーム(右上図に示す穴のあいたビーム、試験光)と位相変調されたビーム(右下図に示す参照光)の二つに分けて考えることができる。
【数2】
JP0006379031B2_000003t.gif
(x,y)は試験光の電場成分、Epr(x,y)は参照光の電場成分である。~は空間周波数空間における関数を意味する。また、δはデルタ関数である。

【0031】
焦点面における強度分布は
【数3】
JP0006379031B2_000004t.gif
となる。ここで、*は複素共役である。式(3)の第3項と第4項が試験光と参照光の干渉成分である。

【0032】
式(3)の焦点面における強度分布をフーリエ変換すると次のようになる。
【数4】
JP0006379031B2_000005t.gif
式(4)の第3項と第4項も試験光と参照光の干渉成分である。

【0033】
式(3)、(4)はともに、
【数5】
JP0006379031B2_000006t.gif
という3つの項から構成される方程式となっている。したがって、少なくとも3つの異なる量の位相変調を与えて干渉信号を測定し、得られる3つの連立方程式から干渉成分を抽出できる。例えば、位相変調量として、
【数6】
JP0006379031B2_000007t.gif
を与えて、集光点の強度分布をそれぞれ測定し、下記のように計算すると、干渉成分を抽出できる。
【数7】
JP0006379031B2_000008t.gif
【数8】
JP0006379031B2_000009t.gif

【0034】
式(7)と式(8)はフーリエ変換の関係にあるので、焦点面において、干渉成分を抽出し、フーリエ変換すれば、空間周波数空間における干渉成分を取得できる。式(8)の位相は
【数9】
JP0006379031B2_000010t.gif
となっており、右辺の第1項が試験光の波面歪み、第2項はオフセット位相となっている。したがって、式(9)から波面歪みが測定できる。

【0035】
以上のように、波面変調器の位置(xcpr,ycpr)に与えるデルタ関数的な位相変調の変調量φを離散的に変化させて、焦点面での強度分布を少なくとも3つ取得し、これらの強度分布I(x,y,φ)から試験光と参照光の干渉成分E(x,y)Epr(x,y)を取得できる。波面変調器に与える位相変調量φは、必ずしも式(6)のようにする必要はなく、異なっていればよい。また、干渉成分としてE(x,y)Epr(x,y)ではなくE(x,y)Epr(x,y)を求めるようにしてもよい。上述したように少なくとも3つの異なる位相変調量を与えたときの強度分布I(x,y,φ)から、干渉成分を求めることができる。なお、干渉成分を求めるための具体的な計算式は、波面変調器に与える位相変調量によって変わる。波面歪み量は、干渉成分のフーリエ変換後の位相成分として求めることができる。

【0036】
[構成例1]
上記の原理に基づいて波面歪みの測定および波面補償を行う補償光学装置について図3(A)(B)、図4を参照して簡単に説明する。図3(A)に示す補償光学装置1100は、波面変調器2、瞳投影レンズ3、結像レンズ4、レンズ5、2次元光検出器6、制御コンピュータ7から構成される。制御コンピュータ7は、波面変調器2に与える位相変調量の制御および、2次元光検出器6から得られる強度分布に基づく波面歪み量の算出を行う。補償光学装置1100は、光源1から発せられる光を、波面変調器2、瞳投影レンズ3、結像レンズ4、およびレンズ5を介して、2次元光検出器6で検出する。2次元光検出器6で検出された光強度分布は制御コンピュータ7に送られ、制御コンピュータ7は波面歪み量を算出する。波面変調器2は、レンズ5の瞳面と共役な位置に配置される。なお、図3(B)に示すように、瞳投影レンズ3および結像レンズ4を省略して、波面変調器2をレンズ5の瞳面付近に配置しても構わない。

【0037】
図4は、波面歪み量測定の処理の流れを示すフローチャートである。制御コンピュータ7は、波面変調器の位置(xcpr,ycpr)のみに位相変調φを与える(S101)。これは、空間周波数(kprx,kpry)のみに位相変調を与えることに相当する。なお、位相変調は位置(xcpr,ycpr)にデルタ関数的に与えることが理想的であるが、現実には位置(xcpr,ycpr)を中心とした局所領域に位相変調を与えることになる。この状態で、2次元光検出器6によって光強度分布Iを取得する(S102)。波面変調器2に与える位相変調量を変化させて、2次元光検出器6による強度分布の取得をM回繰り返す(ループL1)。繰り返し回数Mは3回以上であればよい。また、与える位相変調量は任意であってよいが、例えば式(6)のようにするとその後の計算が簡易化される。制御コンピュータ7は、取得される複数の強度分布から、試験光と参照光の干渉成分を、例えば式(7)にしたがって算出する(S103)。制御コンピュータ7は、算出した干渉成分をフーリエ変換し(S104)、その位相を波面歪み量として算出する(S105)。この波面歪み量を打ち消す位相変調を波面変調器2にあたえることで、光源1から発生する光の波面歪みを補償することができる(S106)。なお、ステッ
プS106の補償処理を行わずに、波面歪み量の測定まで行って処理を終了するようにしても構わない。補償処理を行わない場合には、補償光学装置1100は波面歪み量測定装置と捉えることができる。図4のフローチャートでは、ステップS106が省略可能であることを表すために、ステップS106を点線で描いている。

【0038】
[構成例2]
上記では、波面変調器に与える位相変調量を離散的に変化させて得られる複数の強度分布から演算によって試験光と参照光の干渉成分を求めている。しかしながら、位相φを周波数fで変調し、周波数fで変調された信号光のみをロックイン検出することによっても、干渉成分E(x,y)Epr(x,y)またはE(x,y)Epr(x,y)を抽出できる。φをある周波数fで変調すると、式(3)は
【数10】
JP0006379031B2_000011t.gif
となる。2位相のロックイン検出信号はそれぞれ、
【数11】
JP0006379031B2_000012t.gif
【数12】
JP0006379031B2_000013t.gif
となる。式(11)、(12)から干渉成分E(x,y)Epr(x,y)またはE(x,y)Epr(x,y)を抽出できる。2位相のロックイン検出信号は同時に測定可能なので、信号計測は1回でよい。干渉成分を取得した後の処理は上記と同様である。

【0039】
本変形例に係る補償光学装置1200の構成例を図5(A)に示す。図3(A)に示す補償光学装置1100と比較して、2位相式のロックイン検出器8が追加されており、2次元光検出器6の検出信号がロックイン検出器8に入力され、ロックイン検出信号が制御コンピュータ7に入力される点が異なっている。なお、図4(A)は図3(A)を基にした構成であるが、図3(B)のように瞳投影レンズ3および結像レンズ4を省略して波面変調器2をレンズ5の瞳面付近に配置しても良い。

【0040】
図5(B)は、補償光学装置1200を用いた波面歪み量測定の処理の流れを示すフローチャートである。制御コンピュータ7は、波面変調器2の局所領域に与える位相変調量φを、所定の周波数fで連続的かつ周期的に変化させる(S201)。例えば、位相変調量はφ=φm0×sin(2πft)とすればよいが、周期的な変化であれば正弦波以外に三角波や矩形的に変化させても良い。位相変調量φを変化させている間に2次元光検出器6によって取得される検出信号はロックイン検出器8に入力され、2位相のロックイン検出信号が制御コンピュータ7によって取得される(S202)。制御コンピュータは、2位相のロックイン検出信号から試験光と参照光の干渉成分を算出し(S203)、干渉成分をフーリエ変換し(S204)、その位相を波面歪み量として算出する(
S205)。この波面歪み量を打ち消す位相変調を波面変調器2にあたえることで、光源1から発生する光の波面歪みを補償することができる(S206)。なお、ステップS2
06の補償処理を行わずに、波面歪み量の測定まで行って処理を終了するようにしても構わない。補償処理を行わない場合には、補償光学装置1200は波面歪み量測定装置と捉えることができる。図5(B)のフローチャートでは、ステップS206が省略可能であることを表すために、ステップS206を点線で描いている。

【0041】
<2.線形光学装置における波面歪み測定への応用>
中心空間周波数(kprx,kpry)の狭い空間周波数帯域のみ変調する手法の、インコヒーレント光を用いた線形光学装置への応用を考える。ここでは、線型光学装置として、線型光学顕微鏡を例にして説明する。線型光学顕微鏡によって検出される像は
【数13】
JP0006379031B2_000014t.gif
となる。ここで、S(x,y)は試料の空間分布である。

【0042】
上記の手法と同様に、3つの異なる位相変調φを波面変調素子に与えて取得される顕微鏡像を用いて、干渉成分を抽出すると次のようになる。例えば、式(6)に示す位相変調φを与えた場合には、干渉成分は下記のように計算される。
【数14】
JP0006379031B2_000015t.gif

【0043】
式(14)をフーリエ変換すると、
【数15】
JP0006379031B2_000016t.gif
となる。式(15)の位相は次のようになる。
【数16】
JP0006379031B2_000017t.gif

【0044】
式(16)には試料の位相情報が含まれるので、試料の位相情報を除いた波面歪み量を取得するために、次のようにする。変調する中心空間周波数(kprx,kpry)を(kprx+δk,kpry)と(kprx,kpry+δk)へわずかにシフトさせ、同様にして位相を取得する。このとき、位相変調関数は
【数17】
JP0006379031B2_000018t.gif
【数18】
JP0006379031B2_000019t.gif
となる。

【0045】
変調する中心空間周波数をシフトさせて得られる位相は、それぞれ、
【数19】
JP0006379031B2_000020t.gif
【数20】
JP0006379031B2_000021t.gif
となる。

【0046】
式(16)と式(19)、式(16)と式(20)からそれぞれ、波面歪みの差分位相
【数21】
JP0006379031B2_000022t.gif
【数22】
JP0006379031B2_000023t.gif
が得られる。したがって、差分位相から下記のように波面歪みを再構築することができる。
【数23】
JP0006379031B2_000024t.gif

【0047】
3つの中心空間周波数において、3つの異なる位相を与えた画像(強度分布)を用いるため、3×3=9枚の画像が必要となる。しかし、φ=0のときは、3つの中心空間周波数における位相変調関数は等しくなる。したがって、与える位相変調の一つを変調量ゼロ(φ=0)とすれば、少なくとも9-2=7枚の画像を測定すれば波面歪み量が取得できる。

【0048】
[構成例3]
レーザー走査型光学装置では、照射するレーザー光の波面を揃えてビーム径を小さくす
ることが好ましい。例えば、レーザー走査型顕微鏡では、ビーム径を小さくすることにより分解能の良い測定が可能となる。そこで、レーザー走査型光学装置に上記の手法を適用して、レーザー光の波面歪みを補償するとよい。以下、レーザー走査型光学装置としてレーザー走査型顕微鏡(レーザー走査型光学測定装置)を例に挙げて説明する。図6(A)は、上記の波面歪み測定および補償技術を適用したレーザー走査型顕微鏡1300の構成を示す図である。

【0049】
レーザー走査型顕微鏡1300は、光源13、波面変調器14、瞳投影レンズ15、結像レンズ16、ダイクロイックミラー17、スキャナー18、瞳投影レンズ19、結像レンズ20、対物レンズ21、光電子増倍管やフォトダイオードなどの点型光検出器23、制御コンピュータ24から構成される。光源13から発せられるレーザー光は、波面変調器14によって位相変調が施され、試料(測定対象物)22に照射される。波面変調器14は、光源13から試料に至る光路上であって、対物レンズ21の瞳面と共役な位置に配置されている。試料22からの反射光はダイクロイックミラー17を介して点型光検出器23によって検出される。スキャナー18によって試料22上でのレーザー光の集光位置を走査することで、試料22全体の像が得られる。制御コンピュータ24は、測定により得られた試料22の像の画像データを、表示装置(不図示)に表示したり、記憶装置(不図示)に記憶したり、他のコンピュータなどに送信したりする。なお、上記構成は一例に過ぎず、種々の変形が可能である。例えば、ダイクロイックミラー17の代わりにハーフミラーを用いたりすることができる。また、レーザー光の集光位置を変えることで走査を行っているが、レーザー光の集光位置を固定したまま、試料22を移動させても良い。この場合、スキャナー18、瞳投影レンズ19、結像レンズ20が不要となり、代わりに3軸ピエゾステージのような試料移動手段が必要となる。このような変形は以下で述べる構成例についても同様に可能である。

【0050】
図7は、上記のレーザー走査型顕微鏡を用いた測定処理の流れを示すフローチャートである。波面変調器14において位相変調を与える局所領域を第1から第3の局所領域を対象として、ステップS301からS305の処理が繰り返される(ループL2)。第1から第3の局所領域は、それぞれ(xcpr,ycpr)、(xcpr+δr,ycpr)、(xcpr,ycpr+δr)であり、空間周波数(kprx,kpry)、(kprx+δk,kpry)、(kprx,kpry+δk)に対応する。

【0051】
ステップS301からS305の処理は、図4のフローチャートにおけるステップS101からS105の処理と同様である。ただし、ステップS102における強度分布取得は、スキャナー18によって試料22上でのレーザー光の集光位置を走査することによって行われる。また、ステップS305において得られる試験光と参照光の干渉成分の位相情報には、式(16)に示すように、レーザー光の波面歪み量だけでなく試料の位相情報も含まれる。

【0052】
ステップS301からS305の処理を第1から第3の局所領域についてそれぞれ実施することで、3つの位相情報が得られる。制御コンピュータ24は、これら3つの位相情報から差分位相(式(21)(22))を算出し(S306)、差分位相から式(23)を用いてレーザー光の試料22面上での波面歪み量を算出する(S307)。制御コンピュータ24は、算出された波面歪み量を打ち消すような位相変調を波面変調器14に与えてレーザ光の波面歪みを補償する(S308)。その後、制御コンピュータ24は、波面補償されたレーザー光を用いて試料の測定を実行する(S309)。

【0053】
上記のレーザー走査型顕微鏡1300によれば、試料22内部の焦点面におけるレーザー光の波面歪み量を測定および補償することで、集光ビーム径を小さくでき分解能良く測定を行うことができる。また、試料の測定と波面歪み量の測定を同一の光検出器を用いて
行うことが可能であり、波面歪み量の測定用に新たな光学系を追加する必要がない。さらに、試料の測定と波面歪み量の測定において同一の経路を光が通るので、試料22上でのレーザー光の波面歪み量を精度良く測定することができる。また、波面歪み量の測定を高速に行うことができるという利点や、試料上に明るい光源が不要であるという利点も有する。

【0054】
なお、波面変調器14においてデルタ関数的な位相変調を与えることが好ましいが、現実的にはある程度拡がりのある局所領域に対して位相変調を与えることになる。したがって、上記の測定によって得られる波面歪み量はある程度誤差を含むことが想定される。そこで、波面補償の精度を向上するために、波面歪み量の測定と補償を繰り返し実行することが好ましい。図8を参照して説明する。まず、波面変調器14に与える位相変調量φ(k,k)を決定し(S351)、さらに、局所領域にデルタ関数的な位相変調を加えて波面歪み量の測定を行う(S352)。波面変調器14に与える位相変調量の初期値は、全空間周波数についてゼロ(φ(k,k)=0)とする。ステップS352の処理は、図7のフローチャートにおけるS301からS307までの処理である。制御コンピュータ24は、波面補償のために波面変調器14に与える位相変調を更新する。具体的には、ステップS352の波面歪み量測定の際に与えていた位相変調量φ(k,k)に、測定された波面歪み量を打ち消す位相変調-φ(k,k)を足し合わせた位相変調量φ(k,k)-φ(k,k)を波面補償用の位相変調量として決定する。制御コンピュータ24は、ステップS354で波面歪み量の測定処理を繰り返すか判定し、繰り返す場合には、ステップS352に戻る。ステップS354の判定処理においては、例えば、ステップS352において測定される波面歪み量が所定の閾値よりも大きい場合に繰り返すと判定してもよいし、また、定期的に繰り返し処理を行うようにしても良い。

【0055】
この繰り返し処理における最初の波面歪み量測定処理(S352)は、上記で図7を参照して説明した処理と同じである。2回目以降については、直前の処理において更新された位相変調をφ(k,k)としたときに、ステップS301において波面変調器14に与える位相変調量を次のようになる点を除けば、その他は同一である。
【数24】
JP0006379031B2_000025t.gif

【0056】
このように波面歪み量の測定と補償処理を繰り返し実行することで、一回の処理では補償しきれなかった歪み量を測定でき、したがって、より精度の良い波面補償が実現できる。

【0057】
[構成例4]
上記の波面歪み測定および波面補償技術は、レーザー走査型光学装置以外に広視野光学装置にも適用可能である。図6(B)は、上記の波面歪み測定および補償技術を適用した広視野光学装置の一例として広視野顕微鏡1400の構成を示す図である。広視野顕微鏡1400は、光源25、ダイクロイックミラー26、瞳投影レンズ27、結像レンズ28、対物レンズ29、波面変調器30、結像レンズ31、2次元光検出器32、制御コンピュータ33から構成される。広視野顕微鏡1400では、CCDカメラやCMOSカメラを用いた2次元光検出器32により試料22の像を測定する。制御コンピュータ33は、測定により得られた試料22の像の画像データを、表示装置(不図示)に表示したり、記憶装置(不図示)に記憶したり、他のコンピュータなどに送信したりする。また、試料22内部の焦点面を結像している2次元光検出器32上における波面歪みを測定するために
、波面変調器30は試料22から2次元光検出器32に至る光路上であって、対物レンズ29の瞳面と共役な位置に配置されている。

【0058】
広視野顕微鏡1400における測定処理の流れは、レーザー走査型顕微鏡1300の場合(図7のフローチャート)とほぼ同様であるため、詳しい説明は省略する。

【0059】
本構成によれば、試料22から生じ2次元光検出器32に入射する光の波面歪みを測定することができ、これを打ち消す位相変調を波面変調器30に与えて測定を行うことで精度の高い測定が行える。また、上記のレーザー走査型顕微鏡において説明したその他の効果を同様に奏することができる。

【0060】
また、図6(C)は、上記の波面歪み測定および補償技術を適用した広視野光学装置の別の例として望遠鏡(天体望遠鏡)1500の構成を示す図である。望遠鏡1500は、波面変調器130、ビーム径縮小光学系129、結像レンズ131、2次元光検出器132、制御コンピュータ133から構成される。望遠鏡1500では、CCDカメラやCMOSカメラを用いた2次元光検出器132により、天体122などの測定対象物の像を測定する。天体122からの光は平行光とみなせるため波面変調器130は、天体122から2次元光検出器132に至る光路上であって、結像レンズ131より天体122側であればどこに配置されても良い。なお、波面変調器130と結像レンズ131が十分大きければ、ビーム径縮小光学系129は省略可能である。

【0061】
また、図6(D)は、上記の波面歪み測定および補償技術を適用した広視野光学装置の別の例として眼底検査装置1600の構成を示す図である。眼底検査装置1600は、光源225、ダイクロイックミラー226、対物レンズ229、波面変調器230、結像レンズ231、2次元光検出器232、制御コンピュータ233から構成される。眼底検査装置1600では、CCDカメラやCMOSカメラを用いた2次元光検出器232により測定対象物(人の目)222の像を測定する。また、測定対象物222内部の焦点面を結像している2次元光検出器232上における波面歪みを測定するために、波面変調器230は測定対象物222から2次元光検出器232に至る光路上であって、対物レンズ229の瞳面と共役な位置に配置されている。

【0062】
望遠鏡1500および眼底検査装置1600における測定処理の流れは、レーザー走査型顕微鏡1300および広視野顕微鏡1400の場合(図7のフローチャート)とほぼ同様であるため、詳しい説明は省略する。望遠鏡1500や眼底検査装置1600においても広視野顕微鏡1400と同様の効果が得られる。

【0063】
なお、ここでは広視野光学測定装置の例として、広視野顕微鏡、望遠鏡、眼底検査装置を例に挙げて説明したが、その他の広視野光学測定装置に対しても同様に、本発明の波面歪み量測定方法および波面補償方法を適用することは、当業者であれば明らかであろう。

【0064】
[構成例5]
上記の構成例3、4では波面変調器に与える位相変調量を離散的に変化させて得られる複数の強度分布から演算によって試験光と参照光の干渉成分を求めているが、構成例2と同様にロックイン検出によって試験光と干渉光の干渉成分を求めることもできる。

【0065】
すなわち、波面変調器に与える位相φを周波数fで周期的に変調し、周波数fで変調された信号光のみをロックイン検出することによっても、式(14)に示す試験光と参照光の干渉成分H(x,y)を取得できる。位相φを周波数fで変調すると、式(13)は
【数25】
JP0006379031B2_000026t.gif
となる。2位相のロックイン検出信号
【数26】
JP0006379031B2_000027t.gif
【数27】
JP0006379031B2_000028t.gif
を取得すれば、H(x,y)が取得できる。よって、3つの中心空間周波数において、2位相のロックイン検出信号を測定すれば、式(23)によって、波面歪みを測定できる。2位相のロックイン検出信号は同時に測定可能なので、計測は3つの中心空間周波数の3回でよい。

【0066】
<3.非線形光学装置における波面歪み測定への応用>
中心空間周波数(kprx,kpry)の狭い空間周波数帯域のみ変調する本発明手法の、非線形光学装置への応用を考える。ここでは非線形光学装置として、和周波発生(SFG: Sum Frequency Generation)の非線形光学過程を用いる非線形光学顕微鏡(非線
形光学測定装置)を例にとって説明する。和周波発生には2つの励起光が用いられ、一方の励起光のみ試料上を走査し、他方の励起光は試料上に固定される。ここでは、2つの励起光のうち集光位置を走査する励起光の方のみに位相変調を与えるものとする。

【0067】
このとき、2つの励起光の空間的な相互相関信号が検出され、その像は次のように表せる。
【数28】
JP0006379031B2_000029t.gif

【0068】
空間周波数(kprx,kpry)に対応する位置(xcpr,ycpr)に与える位相変調量を異ならせて少なくとも3つの信号を取得する。これら少なくとも3つの信号から、試験光と参照光の干渉成分を抽出できる。例えば、式(6)に示す位相変調φを与えた場合には、干渉成分は下記のように計算される。
【数29】
JP0006379031B2_000030t.gif

【0069】
式(29)をフーリエ変換すると、
【数30】
JP0006379031B2_000031t.gif
となる。式(28)の位相は次のようになる。
【数31】
JP0006379031B2_000032t.gif

【0070】
変調する中心空間周波数(kprx,kpry)を(kprx+δk,kpry)と(kprx,kpry+δk)へわずかにシフトさせ、同様にして干渉成分の位相を取得する。
【数32】
JP0006379031B2_000033t.gif
【数33】
JP0006379031B2_000034t.gif
となる。

【0071】
式(31)と式(32)、式(31)と式(33)からそれぞれ、波面歪みの差分位相
【数34】
JP0006379031B2_000035t.gif
【数35】
JP0006379031B2_000036t.gif
が得られる。したがって、線型光学顕微鏡の場合と同様に、式(23)にしたがって差分位相から波面歪みを再構築することができる。また、線形光学顕微鏡のときと同様に、必ずしも9枚の画像は必要ではなく少なくとも7枚の画像があれば充分である。

【0072】
なお上記の説明では、一方の励起レーザー光の波面補償のみを行っているが、他方の励起レーザー光の波面補償も同様にして行える。また、和周波発生顕微鏡を例に挙げて説明したが、2波長以上の励起光によって非線形光学過程を利用する顕微鏡にも適用できる。利用できる非線形光学過程には、図9に示すように、2光子励起蛍光(図9(A))、和周波発生(図9(B))、4光波混合(図9(C)(D)(E))、2光子吸収(図9(F))、相互位相変調(図9(G))、誘導ラマン散乱(図9(H))など様々な過程を挙げられる。特に、4光波混合や相互位相変調は全ての媒質で発生可能なため、試料内部のどの位置においても波面歪みを測定可能であり、蛍光分子を必要としない。

【0073】
[構成例6]
上記手法による波面補償可能な非線形光学顕微鏡1700の構成例を図10に示す。非線形光学顕微鏡1700では、第1の光源34と第2の光源53から発せられるレーザー光を重ね合わせて試料47に照射し、焦点面で発生した非線形信号を光電子増倍管やフォトダイオードなどの点型光検出器48で検出する。第1の光源34から発せられる第1の励起レーザー光は、第1の波面変調器35、瞳投影レンズ36、結像レンズ37、スキャナー38、瞳投影レンズ39、結像レンズ40を介して、ダイクロイックミラー41に入射される。なお、第1の波面変調器35は、第1の光源34から試料47に至る光路上であって、対物レンズ46の瞳面と共役な位置に配置されている。また、第2の光源53から発せられる第2の励起レーザー光は、第2の波面変調器52、瞳投影レンズ51、結像レンズ50を介して、ダイクロイックミラー41に入射される。なお、第2の波面変調器52は、第2の光源53から試料47に至る光路上であって、対物レンズ46の瞳面と共役な位置に配置されている。ダイクロイックミラー41により重ね合わされた第1および第2の励起レーザー光は、スキャナー42、瞳投影レンズ43、結像レンズ44、ダイクロイックミラー45、対物レンズ46を介して、試料47内部の焦点面に照射される。焦点面において発生した非線形信号は、対物レンズ46およびダイクロイックミラー45を介して、点型光検出器48によって検出される。点型光検出器48によって検出される非線形信号は制御コンピュータ49に送られる。制御コンピュータ49は、第1の波面変調器35および第2の波面変調器52の位相変調量を制御する。制御コンピュータ49は、また、第1の励起レーザー光および第2の励起レーザー光の試料内部の焦点面における波面歪み量を計算して、この波面歪みを打ち消す位相変調を第1の波面変調器35および第2の波面変調器52に与える。

【0074】
図11は、非線形光学顕微鏡1700を用いた測定処理の流れを示すフローチャートである。まず、第2の波面変調器52には位相変調を与えずに、第1の波面変調器35に位相変調を与えて、第1の励起レーザー光の波面歪み量を測定する(S401)。ここでの波面歪み量の測定は、図7のフローチャートにおけるステップS307までの処理と同様であるため詳しい説明は省略する。ただし、ステップS302の信号光(空間相互相関信号)の強度分布取得処理は、第2の励起レーザー光の集光位置を固定した状態で、第1の励起レーザー光の集光位置を変位させることにより行われる。ステップS401の処理により、第1の励起レーザー光の波面歪み量が得られるので、制御コンピュータ49は、第1の波面変調器35に対して、この波面歪み量を打ち消す位相変調を与える(S402)。これにより、第1の励起レーザーの波面歪みが補償される。

【0075】
次に、第1の波面変調器35に対して上記の位相変調を与えた状態で、第2の波面変調器52に位相変調を与えて、第2の励起レーザー光の波面歪み量を測定する(S403)。この処理は、ステップS401と同様なので詳しい省略を説明する。ステップS403の処理により、第2の励起レーザー光の波面歪み量が得られるので、制御コンピュータ49は、第2の波面変調器52に対して、この波面歪み量を打ち消す位相変調を与える(S404)。これにより、第2の励起レーザーの波面歪みが補償される。

【0076】
最後に、第1の波面変調器35および第2の波面変調器52に対して波面歪みを打ち消す位相変調を与えた状態で、試料の測定を行う(S405)。試料の測定方法は、本発明においては特に限定されない。例えば、第1の励起レーザー光と第2の励起レーザー光を同一の集光位置に固定して非線形信号の測定を行っても良いし、第1の励起レーザー光と第2の励起レーザー光の集光位置を相対的に変調させて、検出される非線形信号から変調周波数に応じた周波数成分を抽出することで測定を行っても良い。後者の測定方法の詳細は、本発明者らによる出願である国際公開第2012/127907号に記載されている。

【0077】
上記の非線形光学顕微鏡1700によれば、試料47内部の焦点面における第1および第2の励起レーザー光の波面歪み量を測定および補償することで集光ビーム径を小さくでき、分解能良く測定を行うことができる。また、また、試料の測定と波面歪み量の測定を同一の光検出器を用いて行うことが可能であり、波面歪み量の測定用に新たな光学系を追加する必要がない。さらに、試料の測定と波面歪み量の測定において同一の経路を光が通るので、試料22上でのレーザー光の波面歪み量を精度良く測定することができる。また、波面歪み量の測定を高速に行うことができるという利点や、試料上に明るい光源が不要であるという利点も有する。また、非線形信号の発生領域が励起レーザー光の集光点近傍に局所化されるので、焦点面以外で発生する背景光を抑制でき、散乱の影響が抑制される。したがって、試料深部における波面歪み量の測定が可能となる。

【0078】
なお、上記の説明では第1の励起レーザーの波面歪みの測定および補償を先に行っているが、第2の励起レーザーの波面歪みの測定および補償を先に行っても良い。また、ステップS402およびS404における位相変調を与えた状態で、ステップS401からS404の処理を繰り返し行って、波面補償の精度を更に向上させることも好ましい。

【0079】
本構成例では、波面変調器に与える位相変調量を離散的に変化させて得られる複数の相互相関信号から演算によって試験光と参照光の干渉成分を求めている。しかしながら、構成例2,5と同様にロックイン検出によっても、式(29)に示す試験光と干渉光の干渉成分H(x,y)を求めることもできる。この場合、第1の波面変調器35や第2の波面変調器52に与える位相変調量を周波数fで周期的に変調し、点型光検出器48から得られる相互相関信号を2相式のロックイン検出器に入力する。2位相のロックイン検出信号から、干渉成分H(x,y)が得られる。3つの中心空間周波数において2位相のロックイン検出信号を測定すれば、式(34)、(35)および式(23)にしたがって、波面歪みを測定できる。

【0080】
<実験例>
[1.基本原理の確認]
空間光変調器を用いて局所領域(局所空間周波数)のみに位相変調を施し、位相変調された光と位相変調されていない光の干渉成分を測定することで、波面歪み量が測定できることを、実験により確認した。図12(A)に実験に用いた構成1800を示す。光源としてチタンサファイアレーザー発振器54を用いてレーザー光を発振する。レーザー光を、半波長板55、偏光ビームスプリッター56を介して光パラメトリック発振器57に入射させて波長変換する。光パラメトリック発振器57から出力された光は、プリズム対58、空間光変調器59、レンズ60を介して、レンズ60の焦点位置(焦点距離300mm)に配置されたCCDカメラ61に入射する。CCDカメラ61は集光点の強度分布を測定する。

【0081】
ここで、光パラメトリック発振器57から出力されるレーザー光の波面は揃っているが、空間光変調器59により既知の波面歪みを与えた。この状態で、空間光変調器59を用いて局所空間周波数成分の位相変調(局所領域のみの位相変調)を与える。空間光変調器59には既知の波面歪みと局所空間周波数成分の位相変調の両方が加えられる。これは、上記波面歪みを有する光に対して、局所空間周波数成分のみに位相変調を加えることと同じである。局所空間周波数成分に与える位相変調量を3つ異ならせて、CCDカメラ61で強度分布を測定した。ここでは、位相変調量はφ=0,2π/3,4π/3とした。それぞれに位相変調量に対応して得られる強度分布を、図12(B)に示す。得られる3つの強度分布から、上記で説明した手法に基づいて制御コンピュータ62によって波面歪み量を算出した。

【0082】
算出された波面歪み量を図12(C)に示す。図12(D)に、空間光変調器で与えた
既知の波面歪み(点線)と測定により得られた波面歪み(黒点)を示す。図から分かるように、空間光変調器で与えた波面歪みを精度良く測定できている。

【0083】
[2.非線形光学顕微鏡における波面歪み測定への応用]
図13に示す光学系1900を用いて、非線形光学顕微鏡における波面歪み測定実験を行った。ここでは、試料中で発生させる非線形光学過程として4光波混合過程を用い、発生した4光波混合信号を光電子増倍管によって検出した。

【0084】
図13にしたがって、非線形光学顕微鏡の構成を説明する。光源としてチタンサファイア発振器63を用いてレーザー光を発振する。半波長板64を介して、偏光ビームスプリッター65によりこのレーザー光を分割し、一方を光パラメトリック発振器66により波長変換して第1の励起光として用い、他方は波長変換せずにそのまま第2の励起光として用いた。第1の励起光は、光パラメトリック発振器66、プリズム対67、第1の空間光変調器68、瞳投影レンズ69、結像レンズ70、ガルバノスキャナー71、瞳投影レンズ72、結像レンズ73、ガルバノスキャナー74、瞳投影レンズ75、結像レンズ76を介して、ダイクロイックミラー77に入射されて第2の励起光と重ね合わされる。第2の励起光は、プリズム対97、時間遅延光学系、第2の空間光変調器98、瞳投影レンズ99、結像レンズ100、を介して、ダイクロイックミラー77に入射されて第1の励起光と重ね合わされる。重ね合わされた第1および第2の励起光は、ガルバノスキャナー78、瞳投影レンズ79、結像レンズ80、ガルバノスキャナー81、瞳投影レンズ82、結像レンズ83、ダイクロイックミラー84、対物レンズ85を介して、試料86内部に集光される。試料86を透過した信号光は、対物レンズ87、レンズ88、89、励起光カットフィルター(バンドパスフィルター)90を介して、光電子増倍管91に入射される。また、試料86から反射された信号光も、対物レンズ85、ダイクロイックミラー84、レンズ92、93、励起光カットフィルター94を介して、光電子増倍管95に入射される。

【0085】
ここで、第1の空間光変調器68を用いて、第1の励起光に対して既知の波面歪みを与えた上で、上記の手法に従って波面歪み量の測定を行った。具体的には、第1の空間光変調器68に対して、第1の空間周波数成分(kprx,kpry)=(0,0)に位相変調量φ=0,2π/3,4π/3のそれぞれを与えて、光電子増倍管91、95から検出される信号に基づいて、試料86内部の焦点面における第1および第2の励起光パルスの空間的な相互相関信号を制御コンピュータ96で算出した。図14(A)の上段が、得られた相互相関信号の強度分布である。同様に第1の空間光変調器68に対して第2の空間周波数成分(kprx,kpry)=(1.2rad/μm,0)、および第3の空間周波数成分(kprx,kpry)=(0,1.2rad/μm)にそれぞれφ=2π/3,4π/3を与えて、相互相関信号の強度分布を求めた。ここで、第2および第3の空間周波数成分に対して位相変調量φ=0を与えた測定を行わないのは、第1の空間周波数成分に位相変調量φ=0を与えた場合と同様のため省略できるからである。図14(A)の中段および下段に、それぞれ得られる相互相関信号の強度分布を示す。制御コンピュータ96は、各局所空間周波数成分に位相変調を与えて得られる3つの相互相関信号の強度分布から、干渉成分の位相を算出する。それぞれの局所空間周波数成分について得られる3つの位相から、波面歪みの差分位相を求めて、波面歪みが再構成できる。

【0086】
図14(B)の上段に第1の空間光変調器68に与えた既知の波面歪みを示し、図14(B)の下段に測定により得られた波面歪みを示す。両者を比較すると、空間光変調器で与えた波面歪みを精度良く測定できていることが分かる。

【0087】
<その他>
上記の説明では、主に顕微鏡を例にして説明を行ったが、本発明に係る波面歪みの測定
および補償技術が適用可能な光学測定装置は顕微鏡に限定されず、望遠鏡、非破壊検査装置などにも適用可能である。非破壊検査装の一例として、眼底検査装置、病理検査装置、食品異物混入検査装置、半導体検査装置、光干渉断層計などが含まれ、原理的に図6(B)(D)と同様の構成をとる。また、顕微鏡に関しても、共焦点顕微鏡(CLSM)に限らず、PALM(Photoactivated Localization Microscopy)、STED(Stimulated Emission Depletion)、SIM(Structured Illumination Microscopy)などにも適用可
能である。また、本発明にかかる波面歪みの測定および補償技術は、光学測定装置に限定されず、レーザー加工装置のようなレーザー照射装置にも適用可能である。

【0088】
波面歪み量の測定と補償処理の繰り返し実行(図8)は、上記の説明においては、レーザー走査型顕微鏡1300に関連してのみ説明している。しかしながら、この繰り返し処理は、任意の光学装置に適用可能である。この際、ステップS352における波面歪み量の測定処理は、具体的な光学装置に応じて適宜変更される。いずれの場合でも、補償しきれなかった波面歪みを繰り返しの測定により求めることで、波面補償の精度を向上できる。

【0089】
本発明の原理の説明から分かるように、本発明においては測定対象の光(電磁波)の波長は特に限定されない。赤外光、可視光、紫外光を含む任意の波長域の光を対象として波面歪みの測定が可能である。

【0090】
また、上記で説明した装置の構成は例示にすぎず、種々の変形が可能である。例えば、上記の構成と同様の効果を果たすことができる光学系であれば、例示したものとは異なる構成の光学系を採用することができる。上記の例では、光を分割するためにダイクロイックミラーを主に用いているが、ダイクロイックプリズム、ハーフミラー、ビームスプリッターなど任意の光分割手段を用いることができる。

【0091】
上記で説明した制御コンピュータは、演算装置、記憶装置、入出力装置などを備え、記憶装置に記憶されたコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、上記の処理が実行される。上記の説明では制御コンピュータは1台であるが、複数のコンピュータが協働して上記の処理を実現しても構わない。また、上記の処理の一部または全部は、専用のロジック回路を用いて実装しても構わない。本発明は、制御コンピュータが実行するコンピュータプログラム、あるいは当該コンピュータプログラムを非一時的に記憶したコンピュータ可読媒体として捉えることもできる。

【0092】
また、本発明は、上記で説明した波面歪み量測定装置、波面補償装置、あるいは光学測定装置と、表示装置、記憶装置、入出力装置、測定データ解析装置などの周辺機器(いずれも不図示)を少なくとも一つを含む光学システムとして実装することもできる。
【符号の説明】
【0093】
1:光源,2:波面変調器,3:瞳投影レンズ,4:結像レンズ,5:レンズ,6:2次元光検出器,7:制御コンピュータ,8:ロックイン検出器,13:光源,14:波面変調器,15:瞳投影レンズ,16:結像レンズ,17:ダイクロイックミラー,18:スキャナー,19:瞳投影レンズ,20:結像レンズ,21:対物レンズ,22:試料,23:点型光検出器,24:制御コンピュータ,25:光源,26:ダイクロイックミラー,27:瞳投影レンズ,28:結像レンズ,29:対物レンズ,30:波面変調器,31:結像レンズ,32:2次元光検出器,33:制御コンピュータ,34:光源,35:波面変調器,36:瞳投影レンズ,37:結像レンズ,38:スキャナー,39:瞳投影レンズ,40:結像レンズ,41:ダイクロイックミラー,42:スキャナー,43:瞳投影レンズ,44:結像レンズ,45:ダイクロイックミラー,46:対物レンズ,47:試料,48:点型光検出器,49:制御コンピュータ,50:結像レンズ,51:瞳投影
レンズ,52:波面変調器,53:光源,54:光源,55:半波長板,56:偏光ビームスプリッター,57:光パラメトリック発振器,58:プリズム対,59:空間光変調器,60:レンズ,61:CCDカメラ,62:制御コンピュータ,63:光源,64:半波長板,65:偏光ビームスプリッター,66:光パラメトリック発振器,67:プリズム対,68:空間光変調器,69:瞳投影レンズ,70:結像レンズ,71:ガルバノスキャナー,72:瞳投影レンズ,73:結像レンズ,74:ガルバノスキャナー,75:瞳投影レンズ,76:結像レンズ,77:ダイクロイックミラー,78:ガルバノスキャナー,79:瞳投影レンズ,80:結像レンズ,81:ガルバノスキャナー,82:瞳投影レンズ,83:結像レンズ,84:ダイクロイックミラー,85:対物レンズ,86:試料,87:対物レンズ,88:レンズ,89:レンズ,90:励起光カットフィルター,91:光電子増倍管,92:レンズ,93:レンズ,94:励起光カットフィルター,95:光電子増倍管,96:制御コンピュータ,97:プリズム対,98:空間光変調器,99:瞳投影レンズ,100:結像レンズ,129:ビーム径縮小光学系,130:波面変調器,131:結像レンズ,132:2次元光検出器,133:制御コンピュータ,225:光源,226:ダイクロイックミラー,229:対物レンズ,230:波面変調器,231:結像レンズ,232:2次元光検出器,233:制御コンピュータ
1100:補償光学装置,1200:補償光学装置,1300:レーザー走査型顕微鏡,1400:広視野顕微鏡,1500:望遠鏡,1600:眼底検査装置,1700:非線形光学顕微鏡
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13