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明細書 :音響式フェイズシフタを備えた消音装置の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2020-134548 (P2020-134548A)
公開日 令和2年8月31日(2020.8.31)
発明の名称または考案の名称 音響式フェイズシフタを備えた消音装置の製造方法
国際特許分類 G10K  11/16        (2006.01)
FI G10K 11/16 100
請求項の数または発明の数 3
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2019-023193 (P2019-023193)
出願日 平成31年2月13日(2019.2.13)
発明者または考案者 【氏名】坂本 秀一
出願人 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100140394、【弁理士】、【氏名又は名称】松浦 康次
審査請求 未請求
テーマコード 5D061
Fターム 5D061EE21
5D061FF02
要約 【課題】低コストで、電源も不要で、故障も少なく、その保守も容易なフェイズシフタを備えた消音装置を提供する。
【解決手段】主管と枝管とを有した消音装置の製造方法は、隙間厚さbで互いに離間した複数の板材で仕切られた中空筒体を有した音響式フェイズシフタを枝管に利用する工程S1と、板材間の隙間における音速Vの関係式を導出する工程S2と、主管の音速に対して逆位相となる音速V’の関係式を導出する工程S3と、音速Vと音速V’とが一致するように主管の寸法とフェイズシフタの寸法を決定する工程S4と、を含むことを特徴とする。工程S4では、例えば、隙間厚さb、主管とフェイズシフタそれぞれの管長L,Lが決定されることが好ましい。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
主管と枝管とを有した消音装置の製造方法であって、
前記主管に空の管を利用し、前記枝管に、隙間厚さbで離間した複数の板材で仕切られた中空筒体を有した音響式フェイズシフタを利用する工程S1と、
前記板材間の隙間における音速Vの関係式を導出する工程S2と、
前記主管の音速に対して逆位相となる音速V’の関係式を導出する工程S3と、
前記音速Vと前記音速V’とが一致するように前記主管の寸法と前記フェイズシフタの寸法を決定する工程S4と、
を含み、かつ、
前記工程S2では、以下の数式1で表される伝搬定数γを用い、
【数1】
JP2020134548A_000024t.gif
ここで、xは、前記フェイズシフタの長手方向の位置、yおよびzは隙間断面内の座標、cは空気中の音速、κは空気の比熱比、σはプラントル数、ρは空気の密度、μは空気の粘度、ωは角周波数であり、
前記伝搬定数γを以下の数式2により実部αと虚部βとに分けたうえで、
【数2】
JP2020134548A_000025t.gif
以下の数式3により前記音速Vの関係式が前記隙間厚さbの変数のみで表されるようにし、
【数3】
JP2020134548A_000026t.gif
前記工程S3では、以下の数式4を用いて、音速V’の関係式が、前記主管と前記フェイズシフタの管長L,Lの変数のみで表されるようにし、
【数4】
JP2020134548A_000027t.gif
前記工程S4で決定される前記主管の寸法と前記フェイズシフタの寸法とは、前記隙間厚さb、前記管長L,Lであること、
を特徴とする消音装置の製造方法。
【請求項2】
前記工程S4では、前記主管の各周波数における位相変化量θと、前記フェイズシフタ位相変化量θと、の差(θ-θ)を求め、
前記差(θ-θ)が180°から±15°以内であることを、前記音速Vと前記音速V’とが一致するかどうかの判断基準とすること
を特徴とする請求項1に記載の消音装置の製造方法。
【請求項3】
前記消音装置に、マイクと、フィルタと、増幅器と、スピーカと、を用意する工程を、
さらに含み、
前記マイクは、前記フェイズシフタ通過後の音波を測定し、
前記増幅器は、前記フェイズシフタ内で減衰した分だけ前記音波を増幅し、
前記スピーカは、前記増幅器で増幅した前記音波を、前記フェイズシフタと前記主管との合流部に向けて出力することで、前記主管中を伝搬する音波を消音すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の消音装置の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電源不要な純音響式のフェイズシフタを備えた消音装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(従来の干渉型消音器)
干渉型消音器(いわゆる、パッシブ型消音器)は、主管と枝管とからなる消音器である。これらの消音器の原理は、主管に入射した音波を枝管に分岐させ、主管へ再び合流させる際に、その枝管に分岐した音波を主管の音波に対して逆位相の音波とすることで、重ね合わせの原理を利用し音波を打ち消すことで消音するものである。
【0003】
(従来の干渉型消音器の問題点)
しかしながら、上述した干渉型消音器では、特定の周波数においてのみ、有意義な消音性能を得ることができるが,それ以外の周波数ではあまり効果的とはいえない場合が多い。
【0004】
(従来のアクティブノイズコントロール)
一方、より広い周波数域での消音を目指したものがアクティブノイズコントロールである。この手法は、通常、電子制御回路を用いてマイクで測定した音波を逆位相にしてスピーカから出力し合流させることで、より広帯域での消音を可能にするものである。
【0005】
(従来のアクティブノイズコントロールの問題点1)
しかしながら、アクティブノイズコントロールは、(1)コストが掛かり、(2)電源も必須で、(3)装置の故障も多くて、その保守も大変なことから、今後も、消音器の主流になるとは考えにくい。
【0006】
(従来のアクティブノイズコントロールの問題点2)
また、アクティブノイズコントロールのもう一つの問題点は、制御時に膨大な計算量が必要となることである。ターゲットとなる周波数域を定め、その帯域を細かく分割し、各々の周波数に対して、振幅と位相とを検出する必要がある。アダプティブ音源用の信号は、アダプティブ音源の位置を想定して、各々の周波数成分について(1)逆位相で、(2)振幅が等しい信号を生成し、それらを合成して得られる。さらに誤差を修正するための制御も必要である。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開平02-041953号公報
【特許文献2】特開昭62-110400号公報
【0008】

【非特許文献1】Stinson, M. R. and Champou, Y., Propagation of sound and the assignment of shape factors in model porous materials having simple pore geometries, Journal of the Acoustical Society of America. Vol 91, No. 2 (1992), pp. 685-695.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(本発明の目的)
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、低コストで、電源も不要で、故障も少なく、その保守も容易なフェイズシフタを備えた消音装置を提供することである。
【0010】
(音響式フェイズシフタ)
ここで、本発明におけるフェイズシフタは、従来のアナログ或いはデジタル式のフェイズシフタ(例えば、特許文献1,2)とは異なり、純音響式のフェイズシフタである。
【0011】
本発明者は、アクティブノイズコントロールで必須の処理のうち、上記(1)の逆位相の信号の生成プロセスを、電源が不要でかつ計算や制御回路も用いることの無い純音響式フェイズシフタ(つまり、可動部がない音響構造)により自動的に行うことを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、例えば、以下の構成・特徴を備えるものである。
(態様1)
主管と枝管とを有した消音装置の製造方法であって、
前記主管に空の管を利用し、前記枝管に、隙間厚さbで離間した複数の板材で仕切られた中空筒体を有した音響式フェイズシフタを利用する工程S1と、
前記板材間の隙間における音速Vの関係式を導出する工程S2と、
前記主管の音速に対して逆位相となる音速V’の関係式を導出する工程S3と、
前記音速Vと前記音速V’とが一致するように前記主管の寸法と前記フェイズシフタの寸法を決定する工程S4と、
を含み、かつ、
前記工程S2では、以下の数式1で表される伝搬定数γを用い、
【数1】
JP2020134548A_000003t.gif
ここで、xは、前記フェイズシフタの長手方向の位置、yおよびzは隙間断面内の座標、cは空気中の音速、κは空気の比熱比、σはプラントル数、ρは空気の密度、μは空気の粘度、ωは角周波数であり、
前記伝搬定数γを以下の数式2により実部αと虚部βとに分けたうえで、
【数2】
JP2020134548A_000004t.gif
以下の数式3により前記音速Vの関係式が前記隙間厚さbの変数のみで表されるようにし、
【数3】
JP2020134548A_000005t.gif
前記工程S3では、以下の数式4を用いて、音速V’の関係式が、前記主管と前記フェイズシフタの管長L,Lの変数のみで表されるようにし、
【数4】
JP2020134548A_000006t.gif
前記工程S4で決定される前記主管の寸法と前記フェイズシフタの寸法とは、前記隙間厚さb、前記管長L,Lであること、
を特徴とする消音装置の製造方法。
(態様2)
前記工程S4では、前記主管の各周波数における位相変化量θと、前記フェイズシフタ位相変化量θと、の差(θ-θ)を求め、
前記差(θ-θ)が180°から±15°以内であることを、前記音速Vと前記音速V’とが一致するかどうかの判断基準とすること
を特徴とする態様1に記載の消音装置の製造方法。
(態様3)
前記消音装置に、マイクと、フィルタと、増幅器と、スピーカと、を用意する工程を、
さらに含み、
前記マイクは、前記フェイズシフタ通過後の音波を測定し、
前記増幅器は、前記フェイズシフタ内で減衰した分だけ前記音波を増幅し、
前記スピーカは、前記増幅器で増幅した前記音波を、前記フェイズシフタと前記主管との合流部に向けて出力することで、前記主管中を伝搬する音波を消音すること
を特徴とする態様1又は2に記載の消音装置の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の音響式フェイズシフタは、電源や可動部も全く不要な音響構造のみを使って、広い周波数域で主管の音波と逆位相の信号を自動的かつ受動的に生成することができる。したがって、アクティブノイズコントロールで必須であった「逆位相を生成するデジタル信号処理」が全く不要になる。また、本発明の音響式フェイズシフタでは位相の制御が不要になるため、アダプティブ信号は、ゲインの周波数特性を線形フィルタにより調整するのみで生成できる。
【0014】
本発明によれば、非常にシンプルな構造を有し、低コストで、電源が不要で、故障が無く保守が不要な消音装置が提供されることになる。つまり、本発明の消音装置は、通常のアクティブノイズコントロールでは達成されにくかった騒音制御の簡素化、消費電力低減、及び信頼性向上に貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の音響式フェイズシフタを設計するためのフローチャートを示す。
【図2】本発明の消音装置の概略図、板材間(二平面間)の隙間を直交座標系で示した図、及び管内に入射する音波を正弦波で示した図である。
【図3】音速Vと音速V’とを比較した具体例を示した図である。
【図4】隙間厚さを一定(b=0.1mm)にして各管長L,Lを変化させた際の、フェイズシフタの音波と主管の音波の位相差(理論値)を比較した図である。
【図5】実際に試作したフェイズシフタの画像及びフェイズシフタの概略図を示す。
【図6】音響性能(位相変化量)測定装置の概略図及び写真を示す。
【図7】フェイズシフタにおける位相変化量θの理論値と実験値とを比較した図、及び、主管における位相変化量θの理論値と実験値とを比較した図を示す。
【図8】フェイズシフタと主管の位相差を算出した結果を示した図、及び、消音装置の各地点(入射部、合流部)における正弦波を示した図である。
【図9】フェイズシフタと主管の位相差を算出した結果(再掲)と、音波の重ね合わせによる透過損失(主管の合流部での音波の透過損失)の推定値と、を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照しながら下記の具体的な実施形態に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施形態に何等限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
(音響式フェイズシフタの設計方法の概要)
図1に本発明の音響式フェイズシフタを設計するためのフローチャートを示す。本発明も、従来のサイドブランチ型消音器同様に、主管と枝管とを備えた干渉型消音構造の採用を前提とするが、本発明では、この枝管に後述する音響式フェイズシフタを利用すること(工程S1)に留意されたい。
【実施例1】
【0018】
(音響式フェイズシフタの構造)
本実施例では、図1に示すように、空の管を主管2に利用し、音響式フェイズシフタ1(以下、単に「フェイズシフタ」とも呼ぶ。)を枝管に利用する(工程S1)。これは、図5(b)に示すように、矩形断面を有した中空筒体内に隙間を持たせて板材(薄板)を重ねたアナログ制御装置である。この音響式フェイズシフタ1では、中空管からなる枝管の場合と異なり、板材間の隙間に入射した音波の音速が境界層の働きにより周波数に依存して変化し、これを利用して位相も変化させることができる可能性があることを本発明者は見出したのである。
【実施例1】
【0019】
(音響式フェイズシフタと通常の枝管との違い)
もし、枝管に通常の中空管(図示せず)が使用された場合、これに入射した音波の音速は一定であり、これを主管2に再合流させても、ある特定の周波数域でしか有意義な消音性能を得ることができない。
【実施例1】
【0020】
(音響式フェイズシフタを備えた消音装置)
図2(a)に、フェイズシフタ1を含んだ消音装置10の概略を示す。この消音装置10では、騒音源3から発生した音波が、主管2である中空管と、枝管であるフェイズシフタ1とを通過する。音波がフェイズシフタ1を通過すると、主管2を通過した音波と逆位相の音波が得られる。なお、フェイズシフタ1内の音波は減衰するため、通過後の音波をマイク5で測定し、フィルタ6(イコライザ)を通過した後、減衰した分だけ該音波を増幅器7で増幅する。その後、この増幅した音波をスピーカ8から主管2中の合流部4へ出力することで、主管2中を伝搬する音波に向けて、逆位相かつ同一振幅の音波が合流することとなり、音波の重ね合わせの原理により音波を打ち消し、消音する。
【実施例1】
【0021】
フェイズシフタ1を通過した音波はゲインの周波数特性を持つため、その周波数特性を打ち消して平坦な周波数特性に戻す必要がある。このため、フィルタ6にて上記周波数特性と逆の周波数特性を音波に与える処理を行う。なお、フィルタ6として、例えば、技術的に容易な線形フィルタを使用することができる。
【実施例1】
【0022】
(決定すべき消音装置のパラメータ)
ただし、主管2とフェイズシフタ1とは、上記消音メカニズムが上手く発揮される幾何学的関係が成立している必要があり、各要素の寸法を決定する必要がある。本実施例では、板材間(二平面間)の隙間における音速Vと、主管2の音速に対して逆位相となる音速V’と、をそれぞれ算出し(工程S2,S3)、これらのVとV’とを比較することで、消音効果のキーファクターとなる、フェイズシフタ1の管長L及び隙間bと、主管2の管長Lとを決定する。
【実施例1】
【0023】
(板材間(二平面間)の隙間における音速Vの導出)
管内における空気の粘性を考慮した伝搬定数や特性インピーダンスの導出については、様々な報告がある。本実施例は、Stinsonの方法(非特許文献1参照)を応用し、板材間(二平面間)の隙間における音速Vの算出を試みた。具体的には、直交座標系を図2(b)のようにとり、Navier-Stokes方程式、連続の式、気体の状態方程式、エネルギー方程式、熱伝達を表す散逸関数を用いた三次元解析により、各周波数における伝搬定数γ及び板材間の隙間における音速Vを導出することとした(工程S2)。
【実施例1】
【0024】
(伝搬定数γ)
減衰を考慮した二平面内における伝搬定数γは、以下の数式(1)のように示される。ここで、xは直交座標系の長手方向の位置、yおよびzは隙間断面内の座標、cは空気中の音速(343.7m/s)、κは空気の比熱比、σはプラントル数、ρは空気の密度、μは空気の粘度、ωは角周波数、bは隙間の厚さである。
【実施例1】
【0025】
【数1】
JP2020134548A_000007t.gif
【実施例1】
【0026】
また、伝搬定数γの実部を減衰定数α、虚部を位相定数βとすれば、数式(1)は、次の形(数式(2))に置き換えることができる。
【実施例1】
【0027】
【数2】
JP2020134548A_000008t.gif
【実施例1】
【0028】
各周波数における二平面間の隙間の厚さbにおける音速Vは、伝搬定数の虚部(位相定数)βを用いて、次の数式(3)のように求めることができる。
【実施例1】
【0029】
【数3】
JP2020134548A_000009t.gif
【実施例1】
【0030】
上述の数式(1)及び(2)より、数式(3)において変数となるのは、隙間の厚さbのみなので,各周波数fにおける二平面間の隙間における音速Vは、隙間の厚さbを決定することで求めることが可能である(すなわち、V=V(b))。
【実施例1】
【0031】
(主管の音速に対して逆位相となる音速V’の導出)
管内に入射する音波の入射部Xでの正弦波yと、終端部Xでの正弦波yとは、それぞれ、次の数式(4)と、数式(5)とで表される(図2(c)も参照)。
【実施例1】
【0032】
【数4】
JP2020134548A_000010t.gif
【実施例1】
【0033】
【数5】
JP2020134548A_000011t.gif
【実施例1】
【0034】
このときの管内での各周波数における位相変化量θは次の数式(6)より求められる。ここで、fは周波数、Lは管長、νは管内の音速である。
【実施例1】
【0035】
【数6】
JP2020134548A_000012t.gif
【実施例1】
【0036】
この数式(6)を利用することで、主管2(中空の管)と枝管1(フェイズシフタ)それぞれの各周波数における位相変化量θ,θは、次のように求めることができる。ここで、Lは主管の管長、Lはフェイズシフタ1の管長、cは空気中の音速(343.7m/s)、V’はフェイズシフタ1側の音速である。
【実施例1】
【0037】
【数7】
JP2020134548A_000013t.gif
【実施例1】
【0038】
【数8】
JP2020134548A_000014t.gif
【実施例1】
【0039】
主管2の合流部4において、逆位相の音波をフェイズシフタ1から合流させるためには、この主管2とフェイズシフタ1それぞれの各周波数における上記位相変化量θ,θの差が、180°(πラジアン)でなければならない。すなわち、次の数式(9)を満たす必要がある。
【実施例1】
【0040】
【数9】
JP2020134548A_000015t.gif
【実施例1】
【0041】
つまり、各周波数における逆位相となるためのフェイズシフタ1側の音速V’の条件は、数式(7)、数式(8)、及び数式(9)を用いて、次の数式(10)のように求めることができる。
【実施例1】
【0042】
【数10】
JP2020134548A_000016t.gif
【実施例1】
【0043】
数式(10)において変数となるのは、主管2とフェイズシフタ1の管長L,Lである。つまり、各周波数における逆位相となるためのフェイズシフタ1側の音速V’は、それぞれの管長L,Lを決定することで求めることが可能である(V’=V’(L,L))。
【実施例1】
【0044】
(音速V,V’の比較による消音装置の寸法の決定)
上述の工程S2、S3の実行により、板材間の隙間における音速Vと逆位相となるためのフェイズシフタ1側の音速V’の条件を求めることが可能となる。具体的には、これらを比較し、上記音速Vの条件と上記音速V’の条件とが一致するような隙間の厚さbと管長L,Lを求める(工程S4)。
【実施例1】
【0045】
(工程S5:音速V,V’の比較に有効な判断手法)
なお、図1に示すように、上述の工程S4では、主管2の各周波数における位相変化量θと、フェイズシフタ1の位相変化量θと、の差(θ-θ)を求め、この差(θ-θ)が180°から±15°以内であるかいなかを、音速Vと音速V’とが一致するかどうかの判断基準とすることが好ましい(工程S5)。
【実施例1】
【0046】
(工程S6: フェイズシフタ内の音波の減衰に対する対策)
なお、上述の工程S4(好ましくは工程S5)まで終了すると、フェイズシフタ1の所望の寸法等の決定は終了する。しかしながら、実際に消音装置として使用する際にはフェイズシフタ1内で音波の減衰が生ずるため、以下の工程S6も追加することが好ましい。すなわち、図1に示すように、消音装置10に、マイク5と、フィルタ6と、増幅器7と、スピーカ8と、を用意する(工程S6)。
【実施例1】
【0047】
ここで、マイク5は、フェイズシフタ1通過後の音波を測定する。フィルタ6では、フェイズシフタ1によって透過損失が負の値になる周波数域の音波を増幅しないように処理を行う。増幅器7は、フェイズシフタ1内で減衰した分だけ音波を増幅する。スピーカ8は、増幅器7で増幅した音波を、フェイズシフタ1と主管2との合流部4に向けて出力することで、主管2中を伝搬する音波を消音することができる。
【実施例1】
【0048】
(ある隙間厚さbでの音速V,V’の対比)
以下に、工程S4の具体例を示す。図3(a)に、フェイズシフタ1の隙間の厚さbを0.1mmとした場合の音速Vを実線で示す。また、図3(a)には、L及びLの値を適宜入力して得た3種類の音速V’の曲線も描画している。
【実施例1】
【0049】
この図3(a)から、隙間の厚さbを0.1mmとしたとき、主管2の管長Lを290mm,フェイズシフタ1の管長Lを270mmとすると(すなわち、図3(a)中の破線の場合)、二つの音速V,V’の差が最も小さくなることが判った。
【実施例1】
【0050】
(フェイズシフタの音波と主管の音波の位相差の検討)
各管長L,Lを決めるにあたり、フェイズシフタ1の音波と主管2の音波の位相差についても検討し、比較してみた。具体的には、決定された隙間の厚さb=0.1mmを数式(1)に代入し、数式(2)及び(3)より音速Vを求めた。このVの値を数式(8)の音速V’に代入した。その後、数式(7)及び数式(8)より各管長L,Lを変化させた際の各位相変化量の理論値を算出し、フェイズシフタ1と主管2における音波の位相差の理論値を比較した。その結果を図4に示す。
【実施例1】
【0051】
透過損失は、位相差が180°から±15°以内のときに10dB以上の値を取ることができるため、この範囲内に位相差が収まる条件の管長L,Lを採用することが好ましい(工程S5)。この点も踏まえて、上述のように、隙間の厚さbを0.1mmとしたとき、フェイズシフタ1の管長L=270mm、主管の管長L=290mmが最も適切であると判断した。
【実施例1】
【0052】
(別の隙間厚さbでの音速V,V’の対比)
一方、図3(b)に、フェイズシフタ1の隙間の厚さbを0.2mmとした場合の音速Vを実線で示す。また、図3(b)にも、L及びLの値を適宜入力して得た3種類の音速V’の曲線も描画している。
【実施例1】
【0053】
隙間の厚さbを0.2mmとしたときは、主管2の管長Lを1080mm,フェイズシフタ1の管長Lを1000mmとすると(すなわち、図3(b)中の一点鎖線の場合)、二つの音速V,V’の差が最も小さくなることが判った。しかしながら、この場合、音速V,V’の差を小さくしようとすると各管長L,Lが1.0mを超えてしまう。また、板材間の隙間の厚さbをさらに大きくすると、これに伴い管長L及びLも増大する。
【実施例2】
【0054】
(消音装置製作の検討)
次に、本発明のフェイズシフタ1を試作し、その音響性能の評価を行った。上述の工程S4により、音速V,V’の条件を比較することにより、消音装置10の重要な寸法(板材間の隙間の厚さb、各管長L,L)を幾つか決定することができた。このうち、消音装置10として現実的に検討できるのは、隙間の厚さbが0.1mmの場合での上記最適な条件と判断した。
【実施例2】
【0055】
(フェイズシフタの試作)
図5(a)に実際に試作したフェイズシフタ1の画像を、図5(b)にフェイズシフタ1の概略図を、その諸元を以下の表1にそれぞれ示す。
【実施例2】
【0056】
【表1】
JP2020134548A_000017t.gif
【実施例2】
【0057】
本実施例のフェイズシフタ1は、矩形管内(外径は縦25.6mm×横25.6mm,内径は縦24.6mm×横24.6mm)に隙間を作るための治具(厚さb=0.1mm)と板材(幅24.6mm,厚さ0.1mm)を交互に積み重ね、これらの板材を固定した後、治具を抜くことで製作した。図5(a)は、製作したフェイズシフタ1の後ろに「A」と書かれた紙を置き、隙間が出来ていることを示したものである。フェイズシフタ1の隙間厚さbと管長Lは、上述した設計工程により得られたb=0.1mm及びL=270mmを採用している。また、主管2についても管長L=290mmとして作成した。
【実施例2】
【0058】
また、後述の音響性能試験を行う際には、フェイズシフタ1を測定装置内に安定して設置するために、このフェイズシフタ1を、厚さ10mmのアルミ合金板(図示せず)で囲んで固定・保持するようにした。
【実施例2】
【0059】
(フェイズシフタの変形例)
なお、本実施例のフェイズシフタ1(1A)では、矩形断面を有した中空筒体を想定したが、必ずしもこれに限定されない。例えば、円形断面や四角形以外の多角形(例えば、図5(c)の左側に示す六角形)断面を有した中空筒体1Bであってもよい。なお、本発明の板材(隙間厚さbを仕切る物体)は、上記実施例の平板に限られず、曲面を有した板材、シート状の薄板、又はフィルム状の膜体であってもよい。例えば、図5(c)の右側に示すように、円形断面の中空筒体の内部を、隙間厚さbで離間するように直径が徐々に小さくなる複数の同心円状の筒体で仕切った構造のフェイズシフタ1Cを採用してもよい。
【実施例2】
【0060】
(位相変化量の測定装置)
位相変化量の測定には、4マイクロホンインピーダンス管とFFTアナライザを用いた。測定装置の概略図を図6(a)、測定装置の写真を図6(b)に示す。測定試料(主管2又はフェイズシフタ1)は所定の位置に設置し、マイクロホンは測定試料の前後に1本ずつ取り付けられる。
【実施例2】
【0061】
(位相変化量の測定方法)
音源より基準信号(リニアマルチサイン波)による音波を発生させて、測定試料の入射側及び透過側の音波をマイクロホンで検出し、マイクロホン用の信号増幅器を介してFFTアナライザで解析することで、位相変化量の算出を行った。本実施例では、本発明の消音装置10の性能評価の前段階の評価として、フェイズシフタ1の位相変化量と主管の位相変化量とを別々に測定し、これらの測定結果を用いて消音装置の音響性能を予測・検証した。
【実施例2】
【0062】
(フェイズシフタの位相変化量の測定結果)
図7(a)に、フェイズシフタ1における位相変化量θの理論値と実験値の比較を示す。ここで、理論値と実験値を比較すると、周波数1600Hz以下において実験値が理論値より位相の変化が小さい値となっている。また周波数4500Hz~6000Hzにおいては実験値が理論値より大きい値を示している。
【実施例2】
【0063】
(主管の位相変化量の測定結果)
一方、図7(b)に、主管2における位相変化量θの理論値と実験値の比較を示す。こちらの実験値は全体を通して、おおよそ理論値と一致している。しかし、周波数2000Hz以下では、実験値に多少の乱れが見られる。
【実施例2】
【0064】
(フェイズシフタ内の音波と主管内の音波との位相差)
上述の各位相変化量の結果を利用して、フェイズシフタ1と主管2の位相差を算出した結果を図8(a)に示す。図中一点鎖線で示す理論値では、周波数1500Hzより大きくなると位相差が180°に漸近していき、周波数5000Hzになると180°に一致する。それ以上の周波数では位相差が180°より徐々に大きくなることが分かる。
【実施例2】
【0065】
一方、実験値では、周波数1600Hz以下では理論値と大きく乖離しており、あまり位相を反転させることができていないことが判る。周波数1600Hz~4500Hzにおいては180°に近い位相差を得ることができているが、周波数4500Hz~6000Hzでは位相差が理論値よりずれてしまっている。このような理論値とのズレが発生している原因は、試作したフェイズシフタ1の寸法精度の誤差などに起因したフェイズシフタ1側の位相変化が理想的ではないためであると考えられる。
【実施例2】
【0066】
(透過損失の算出)
次に、位相変化量のデータを利用し、音波を正弦波で表し、その振幅データより音波を合流させた際の透過損失TLを算出した。その算出方法を、以下に示す。先ず、フェイズシフタ1と主管2の入射部Xにおける正弦波yは次の数式11で表される。なお、図8(b)は、消音装置10の各地点(入射部、合流部)における正弦波を示した図である。
【実施例2】
【0067】
【数11】
JP2020134548A_000018t.gif
【実施例2】
【0068】
このとき、主管2及びフェイズシフタ1の終端部XCA,XCFでの正弦波y,yは、それぞれ以下の数式12,13で表すことができる。
【実施例2】
【0069】
【数12】
JP2020134548A_000019t.gif
【実施例2】
【0070】
【数13】
JP2020134548A_000020t.gif
【実施例2】
【0071】
また、フェイズシフタ1側の音波を合流させる際に、フェイズシフタ1内で減衰した分を増幅器7を用いて増幅し元の主管2の音波の振幅と同等にするため、実際に合流する際のフェイズシフタ1側の音波の正弦波は、次のように表される。
【実施例2】
【0072】
【数14】
JP2020134548A_000021t.gif
【実施例2】
【0073】
これより、音波が合流した際の合成波の正弦波yは、音波の重ね合わせの原理により次の数式15のように表される。
【実施例2】
【0074】
【数15】
JP2020134548A_000022t.gif
【実施例2】
【0075】
ここで求められた合成波の振幅Cと元々の音波の振幅Aから、以下の数式16を用いて透過損失を算出できる。
【実施例2】
【0076】
【数16】
JP2020134548A_000023t.gif
【実施例2】
【0077】
(音波の重ねあわせによる透過損失の評価)
上述の位相変化量の結果を利用して、フェイズシフタ1の音波を主管2の音波に合流させた際の透過損失TLを算出した結果を図9(b)に示す。また、参考としてフェイズシフタ1と主管2との位相差を算出した結果を図9(a)に再掲する。図9(a)は、図8(a)の位相差の結果に、位相差±15°の範囲内を示す破線と、位相差±60°の範囲内を示す実線と、を更に追加したものである。
【実施例2】
【0078】
図9(a)と図9(b)とを比較すると、フェイズシフタ1と主管2との位相差が180°から±15°の範囲内にある周波数域では、安定して10dB以上の透過損失TLを得ることができていることが判る。また、図9(b)にて透過損失TLが負の値になっている周波数域があるが、これは位相差が180°から±60°以上になると音波が増幅され、合成波の振幅が合成前よりも大きくなるためである。実際にフェイズシフタ1を使用する際には、この透過損失TLが負の値になる周波数域において音波を増幅しないようなフィルタ6を掛けることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、非常にシンプルな構造を有し、低コストで、電源が不要で、故障が無く保守が不要な消音装置10が提供されることになる。従って、本発明は、産業上の利用可能性及び利用価値は非常に高い。
【符号の説明】
【0080】
1 音響式フェイズシフタ
2 主管
3 騒音源
4 合流部
5 マイク
6 フィルタ
7 増幅器
8 スピーカ
10 消音装置
b 板材間の隙間の厚さ
,L 主管の管長,フェイズシフタの管長
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8