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明細書 :カルスからの植物器官の形成効率を向上させる方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2021-007321 (P2021-007321A)
公開日 令和3年1月28日(2021.1.28)
発明の名称または考案の名称 カルスからの植物器官の形成効率を向上させる方法
国際特許分類 A01H   1/06        (2006.01)
FI A01H 1/06
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 7
出願番号 特願2019-121921 (P2019-121921)
出願日 令和元年6月28日(2019.6.28)
発明者または考案者 【氏名】松永 幸大
【氏名】坂本 勇貴
出願人 【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106002、【弁理士】、【氏名又は名称】正林 真之
【識別番号】100136939、【弁理士】、【氏名又は名称】岸武 弘樹
審査請求 未請求
テーマコード 2B030
Fターム 2B030AA02
2B030AB03
2B030AD20
2B030CA08
2B030CB02
2B030CD17
要約 【課題】カルスからの植物器官の形成効率を向上させる新規な方法を提供する。
【解決手段】カルスからの植物器官の形成効率を向上させる方法は、植物体又は植物組織片に放射線を照射する照射工程と、前記照射工程後の植物体又は植物組織片からカルスを誘導するカルス誘導工程と、前記カルスを培養して再分化させる再分化工程と、を含む。照射工程における放射線の照射線量は、例えば、20Gy~140Gyであってもよい。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
カルスからの植物器官の形成効率を向上させる方法であって、
植物体又は植物組織片に放射線を照射する照射工程と、
前記照射工程後の植物体又は植物組織片からカルスを誘導するカルス誘導工程と、
前記カルスを培養して再分化させる再分化工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記放射線がγ線又はX線である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記照射工程における前記放射線の照射線量が20Gy~140Gyである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記カルスが、植物の根、葉、茎、芽、花、又は枝から誘導される請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、カルスからの植物器官の形成効率を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クローン技術を用いてある植物体から別の植物体を生産する方法として、植物組織片からまずカルス(細胞塊)を作製し、そこから新たに植物器官を形成する技術が知られている。しかし、植物の種類によってはカルスからの植物器官の形成が困難であるためにこの方法を適用できない場合がある。したがって、植物器官の形成を促す要因を見出すことは、クローン技術を用いた植物体の生産効率の向上に有用であると考えられる。
【0003】
本発明者らは先の研究により、ヒストン修飾酵素(ヒストン脱メチル化酵素、ヒストンメチル化酵素等)として作用するタンパク質をコードする核酸を植物体に導入することで、カルスからの植物器官の形成効率が向上することを見出した(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2019-24373号公報
【特許文献2】特開2019-24374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2に記載の方法はいずれも核酸の導入を必要とするものであり、簡便な方法とは言い難かった。
【0006】
本発明は、カルスからの植物器官の形成効率を向上させる新規な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> カルスからの植物器官の形成効率を向上させる方法であって、
植物体又は植物組織片に放射線を照射する照射工程と、
前記照射工程後の植物体又は植物組織片からカルスを誘導するカルス誘導工程と、
前記カルスを培養して再分化させる再分化工程と、を含む方法。
【0008】
<2> 前記放射線がγ線又はX線である<1>に記載の方法。
【0009】
<3> 前記照射工程における前記放射線の照射線量が20Gy~140Gyである<1>又は<2>に記載の方法。
【0010】
<4> 前記カルスが、植物の根、葉、茎、芽、花、又は枝から誘導される<1>~<3>のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カルスからの植物器官の形成効率を向上させる新規な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】シロイヌナズナの苗に40Gy又は80Gyのγ線を照射した後、根端部をカルス誘導培地で6日間培養し、誘導されたカルスをシュート誘導培地で21日間培養した場合における、カルスからのシュート形成の状態を示す図である。
【図1B】図1Aにおけるカルス1個あたりのシュート数を示す図である。
【図2】シロイヌナズナの苗に20Gy~100Gyのγ線を照射した後、根端部をカルス誘導培地で6日間培養し、誘導されたカルスをシュート誘導培地で14日間培養した場合における、カルス1個あたりのシュート数を示す図である。
【図3】シロイヌナズナの苗に80Gyのγ線を照射した後、根端部をカルス誘導培地で3日間~8日間培養し、誘導されたカルスをシュート誘導培地で14日間培養した場合における、カルス1個あたりのシュート数を示す図である。
【図4】野生型のシロイヌナズナ(Col-0)の苗、及びDNA損傷修復に関係する遺伝子(atr遺伝子、atm遺伝子、又はsog1-1遺伝子)をノックアウトしたシロイヌナズナの苗に40Gyのγ線を照射した後、根端部をカルス誘導培地で6日間培養し、誘導されたカルスをシュート誘導培地で14日間培養した場合における、カルス1個あたりのシュート数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。

【0014】
本実施形態に係るカルスからの植物器官の形成効率を向上させる方法(以下、「植物器官形成効率向上方法」ともいう。)は、植物体又は植物組織片に放射線を照射する照射工程と、照射工程後の植物体又は植物組織片からカルスを誘導するカルス誘導工程と、カルスを培養して再分化させる再分化工程と、を含む。

【0015】
本発明者らの検討により、放射線照射後の植物体又は植物組織片からカルスを誘導し、そのカルスを培養して再分化させると、カルスからの植物器官の形成効率が向上することが見出された。このような知見は、これまで報告されていないものである。

【0016】
ここで、カルスからの植物器官の形成とは、カルスから、幼芽、不定芽、不定根、茎、葉等の植物器官を形成させることを意味する。植物器官には、一般的にシュートと称される、茎頂分裂組織に由来する茎及びそれに付随する葉、不定芽等を含んだ構造も含まれる。また、植物器官の形成効率の向上とは、放射線を照射しない場合と比較して、植物器官形成過程の一時点において、植物器官の形成割合が向上していることを意味する。

【0017】
以下、本実施形態に係る植物器官形成効率向上方法の各工程について説明する。

【0018】
まず、照射工程では、植物体又は植物組織片に放射線を照射する。放射線としては、α線、β線、γ線、中性子線、X線、イオンビーム等が挙げられる。これらの中でも、γ線、X線等の電磁放射線が好ましい。放射線源としては、所望の放射線を放射するものを用いることができる。例えば、γ線であれば、コバルト60等を用いることができる。

【0019】
放射線の照射線量は、放射線の種類や植物の種類等の諸条件に応じて適宜設定することができる。放射線の照射線量は、例えば、20Gy~140Gyであってもよく、30Gy~130Gyであってもよく、40Gy~120Gyであってもよく、40Gy~110Gyであってもよく、40Gy~100Gyであってもよく、50Gy~100Gyであってもよく、60Gy~100Gyであってもよい。

【0020】
植物体に放射線を照射する場合、放射線は、植物体の全体に照射してもよく、一部の部位にのみ照射してもよい。植物体の一部の部位にのみ放射線を照射する場合、放射線を照射する部位としては、後段のカルス誘導工程においてカルスを誘導する部位(根、葉、茎、芽、花、枝等)であることが好ましい。また、植物組織片に放射線を照射する場合、植物組織片としては、後段のカルス誘導工程においてカルスを誘導する部位(根、葉、茎、芽、花、枝等)であることが好ましい。

【0021】
放射線の照射対象となる植物の種類は特に制限されない。放射線の照射対象となる植物は、被子植物及び裸子植物のいずれであってもよく、被子植物の場合、単子葉植物及び双子葉植物のいずれであってもよい。
裸子植物としては、ソテツ等のソテツ科植物;イチョウ等のイチョウ科植物;アカマツ、クロマツ、モミ、トウヒ等のマツ科植物;スギ等のスギ科植物;イチイ等のイチイ科植物;などが挙げられる。
単子葉植物としては、イネ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、シコクビエ、モロコシ、タケ、ヨシ、ススキ、アマランサス、ミスカンサス、スイッチグラス、ソルガム等のイネ科植物;サトイモ等のサトイモ科植物;ヤシ、ナツメヤシ等のヤシ科植物;バナナ等のバショウ科植物;などが挙げられる。
双子葉植物としては、シロイヌナズナ、ナタネ、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー等のアブラナ科植物;ナス、トマト、ジャガイモ、タバコ等のナス科植物;メロン、カボチャ等のウリ科植物;ダイズ等のマメ科植物;ワタ等のアオイ科植物;キク等のキク科植物;ポプラ等のヤナギ科植物;ブドウ等のブドウ科植物;バラ、リンゴ等のバラ科植物;ラン等のラン科植物;ユリ、チューリップ等のユリ科植物;などが挙げられる。

【0022】
なお、放射線の照射後、カルスを誘導する前に、植物体の栽培又は植物組織片の培養を所定期間継続することが好ましい。放射線の照射からカルスの誘導までの期間は、例えば、3日間~10日間であってもよく、4日間~6日間であってもよい。

【0023】
次いで、カルス誘導工程では、照射工程後の植物体又は植物組織片からカルスを誘導する。カルスは、植物の根、葉、茎、芽、花、枝等から公知の方法によって誘導することができる。カルス誘導工程では、必要に応じて、公知のカルス誘導培地(CIM)を用いてもよい。

【0024】
カルス誘導工程の期間は、植物の種類、カルスを誘導する部位等の諸条件に応じて適宜設定することができる。

【0025】
次いで、再分化工程では、カルスを培養して再分化させ、植物器官を形成させる。再分化工程における培養条件は特に制限されず、従来より採用されている培養条件と同様であってもよい。再分化工程では、必要に応じて、公知のシュート誘導培地(SIM)や根誘導培地(RIM)を用いてもよい。

【0026】
本実施形態に係る植物器官形成効率向上方法では、カルス誘導前の植物体又は植物組織片に放射線を照射しているため、カルスから植物器官を効率的に形成させることができる。カルスから形成した植物器官は、必要に応じて所定の条件下でさらに培養して植物個体の状態としてもよい。

【0027】
なお、以上の実施形態では、カルス誘導工程及び再分化工程を互いに独立した工程として説明したが、両者は明確に区別できないものであってもよい。例えば、培地中の植物ホルモンを適切に設定することにより、カルス誘導と再分化とを1段階の培養で実現することも可能である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0029】
<試験例1>
シロイヌナズナ(Col-0)の種子を、1/2MS培地(1/2MS、1w/v% スクロース、1w/v% ゲランガム)を添加したプレートに播種し、4℃で1日間静置して春化処理を行った。その後、長日条件下(16時間明期及び8時間暗期のサイクル)、22℃で7日間培養することにより、シロイヌナズナを生育させた。7日間の生育後、プレートをガンマ線照射装置に入れ、シロイヌナズナの苗に40Gy又は80Gyのγ線を照射した。γ線の照射後、長日条件下、22℃で6日間培養することにより、シロイヌナズナの苗をさらに生育させた。比較のため、γ線を照射しない対照群も同様にして準備した。
【実施例】
【0030】
次いで、根端から上部約1cmをハサミで切り取り、根端部をカルス誘導培地(CIM)に移し、長日条件下、25℃で6日間培養することにより、カルスを誘導した。カルス誘導培地としては、3.3g/L ガンボーグB5培地用混合塩類(Wako)、20g/L グルコース、0.1v/v% ガンボーグビタミン溶液(Sigma)、0.5g/L 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸、8g/L ゲランガム、500μg/L 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、50μg/L カイネチンを含有するガンボーグB5培地を用い、KOHでpH5.7に調節した。
【実施例】
【0031】
次いで、誘導したカルスをシュート誘導培地(SIM)に移し、長日条件下、25℃で21日間培養して再分化させることにより、シュートを形成させた。シュート誘導培地としては、3.3g/L ガンボーグB5培地用混合塩類(Wako)、10g/L グルコース、0.1v/v% ガンボーグビタミン溶液(Sigma)、0.5g/L 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸、8g/L ゲランガム、2mg/L ゼアチン、1mg/L D-ビオチン、400μg/L インドール-3-酢酸を含有するガンボーグB5培地を用い、KOHでpH5.7に調節した。
【実施例】
【0032】
カルスからのシュート形成の状態を図1Aに示す。また、カルス1個あたりのシュート数を図1Bに示す。有意差検定としてはWelchのt検定を行った。図1Bに示すとおり、γ線の照射線量を80Gyとした場合、カルス1個あたりのシュート数が有意に増加した(p<0.05)。
【実施例】
【0033】
<試験例2>
γ線の照射線量を20Gy~100Gyの範囲とし、かつ、シュート誘導培地(SIM)での培養期間を14日間としたほかは試験例1と同様にして、カルスからシュートを形成させた。カルス1個あたりのシュート数を図2に示す。図2中、異なるアルファベットが付されている場合、有意差があることを示す。有意差検定としてはTukey-Kramer検定を行い、p<0.05となる場合を有意とした。図2に示すとおり、γ線の照射線量が増加するに従ってカルス1個あたりのシュート数が増加し、照射線量を80Gyとした場合にシュート数が最大となった。
【実施例】
【0034】
<試験例3>
γ線の照射線量を80Gyとし、かつ、カルス誘導培地(CIM)での培養期間を3日間~8日間としたほかは試験例2と同様にして、カルスからシュートを形成させた。カルス1個あたりのシュート数を図3に示す。図3に示すとおり、カルス誘導培地(CIM)での培養期間を4日間~8日間とした場合、カルス1個あたりのシュート数が有意に増加した(p<0.05;**p<0.01)。なお、カルス誘導培地(CIM)での培養期間を3日間とした場合には、カルス1個あたりのシュート数に有意差が認められなかったが、これは脱分化が不十分であったためと推測される。
【実施例】
【0035】
<試験例4>
野生型のシロイヌナズナ(Col-0)以外に、DNA損傷修復に関係する遺伝子(atr遺伝子、atm遺伝子、又はsog1-1遺伝子)をノックアウトしたシロイヌナズナを用い、かつ、γ線の照射線量を40Gyとしたほかは試験例2と同様にして、カルスからシュートを形成させた。カルス1個あたりのシュート数を図4に示す。図4に示すとおり、DNA損傷修復に関係する遺伝子をノックアウトしたシロイヌナズナを用いた場合であっても、γ線の照射により、カルス1個あたりのシュート数が増加した。この結果から、DNA損傷修復は、γ線照射によるシュート形成効率向上に影響しないと推測される。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4