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明細書 :ブリ類の性識別方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-140953 (P2019-140953A)
公開日 令和元年8月29日(2019.8.29)
発明の名称または考案の名称 ブリ類の性識別方法
国際特許分類 C12N  15/11        (2006.01)
C12Q   1/6879      (2018.01)
FI C12N 15/11 ZNAZ
C12Q 1/6879 Z
請求項の数または発明の数 15
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2018-027260 (P2018-027260)
出願日 平成30年2月19日(2018.2.19)
発明者または考案者 【氏名】坂 本 崇
【氏名】中 本 正 俊
【氏名】菊 池 潔
【氏名】小 山 喬
出願人 【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091982、【弁理士】、【氏名又は名称】永井 浩之
【識別番号】100091487、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 行孝
【識別番号】100082991、【弁理士】、【氏名又は名称】佐藤 泰和
【識別番号】100105153、【弁理士】、【氏名又は名称】朝倉 悟
【識別番号】100120617、【弁理士】、【氏名又は名称】浅野 真理
【識別番号】100126099、【弁理士】、【氏名又は名称】反町 洋
【識別番号】100104617、【弁理士】、【氏名又は名称】池田 伸美
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA12
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ43
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
要約 【課題】ブリ類の遺伝的な性を正確に識別し得る方法の提供。
【解決手段】ブリ類のHSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基であるかグリシン残基であるかを同定する工程を含んでなる、ブリ類の性を識別する方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
ブリ類のHSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基であるかグリシン残基であるかを同定する工程を含んでなる、ブリ類の性を識別する方法。
【請求項2】
前記同定工程が、前記HSD17B1遺伝子において、前記ポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基に対応するコドンがグルタミン酸残基に対応するかグリシン残基に対応するかを同定することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、配列番号2、5または8で表されるアミノ酸配列を含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基のみである場合、ブリ類の性を雄と判定し、
前記ポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基がグリシン残基のみである場合、あるいはグリシン残基またはグルタミン残基である場合、ブリ類の性を雌と判定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記同定工程が、前記HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基であるかグアニン(G)残基であるかを同定する工程である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基のみである場合、ブリ類の性を雄と判定し、
前記HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がグアニン(G)残基のみである場合、あるいはグアニン(G)残基またはアデニン(A)残基である場合、ブリ類の性を雌と判定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記同定工程が、前記HSD17B1遺伝子ゲノム配列の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドを核酸増幅法により増幅することを含んでなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリヌクレオチドが、HSD17B1遺伝子のエクソン3の第169番目に位置するヌクレオチド残基に対応する残基を含む領域を含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリヌクレオチドが、以下のいずれかの塩基配列またはその一部を含んでなる、請求項7または8に記載の方法:
(i)配列番号1、4または7で表される塩基配列;
(ii)配列番号3、6または9で表される塩基配列。
【請求項10】
前記性の識別が遺伝的な性の識別である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ブリ類が、ブリ、カンパチまたはヒラマサからなるものである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法に用いるための核酸分子であって、
HSD17B1遺伝子ゲノム配列の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドにハイブリダイズするヌクレオチド断片を含み、かつ
前記ポリヌクレオチドが、HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目に位置するヌクレオチド残基に対応する残基を含む領域を含んでなる、核酸分子。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法に用いるためのプライマーペアであって、
HSD17B1遺伝子ゲノム配列の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドの、HSD17B1遺伝子のエクソン3の第169番目に位置するヌクレオチド残基に対応する残基を含むヌクレオチド領域を核酸増幅法において増幅しうる、プライマーペア。
【請求項14】
以下のいずれかの試薬を含んでなる、ブリ類の性の識別用キット:
ブリ類のHSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基であるかグリシン残基であるかを同定しうる試薬;
ブリ類のHSD17B1遺伝子において、該遺伝子のコードするポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基に対応するコドンがグルタミン酸残基に対応するかグリシン残基に対応するかを同定しうる試薬;
ブリ類のHSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の第428番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基であるかグアニン(G)残基であるかを同定しうる試薬;
ブリ類のHSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基であるかグアニン(G)残基であるかを同定しうる試薬。
【請求項15】
請求項12に記載の核酸分子および/または請求項13に記載のプライマーペアを含んでなる、請求項16に記載のブリ類の性の識別用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリ類の性を識別する方法に関する。より詳細には、性決定遺伝子に存在する一塩基多型(SNP)を利用してブリ類の性を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブリ類は日本における海面養殖生産量の過半を占める重要養殖対象種である。現状のブリ養殖は天然種苗を採捕し出荷サイズまで畜養する天然資源に依存した養殖である。より安定した養殖生産のために、天然種苗に依存しない人工種苗の早期導入と、人工種苗への優良形質の付与に関する技術開発が行われている。
【0003】
ブリ類の種苗生産では外部形態から雌雄を判別することができない成熟前の成長段階初期から雌雄判別の需要がある。雄は成熟期に常に排精することが多く、精子の採取が比較的容易であり、また凍結保存技術も確立されている。一方で、雌は1個体から良質な卵を採取できる期間が短く、また抱卵確認の際のハンドリングにより排卵しなくなることが多く、採卵のタイミングが難しいなどの理由から、目的の交配を行うために、ある特定の雌親魚から良質な卵を採取することは難しい。また、養殖ブリの出荷においては、雌は春先の産卵期になると体重が目減りするため商品として向かないとされている。そのため、雌雄の識別が可能となれば、養成する親魚の雌雄の尾数の調整や、雌雄によって出荷時期を調整できる等の利点がある。
【0004】
ブリの性を識別する方法としては、ブリの性決定遺伝子座が、連鎖群LG12上のマイクロサテライトDNAマーカー座Sequ17とSequ21との間にあると特定し、このマイクロサテライトDNAマーカー座Sequ21の特定の配列の増幅産物のサイズの差により性別を判定する方法が報告されている(特許文献1、非特許文献1)。しかし、このマイクロサテライトDNAマーカー座と遺伝的な性を決定するゲノム領域との間にはまだ相当の物理的な距離が存在し、集団内の遺伝的差異やゲノムの組換えによって性を判別できなくなるリスクが残っていた。
【0005】
また、連鎖群12のSequ17とSequ21の間の領域をさらに詳細に調べ、この領域に存在する二ヶ所のSNPマーカーの少なくとも一方の一塩基多型の遺伝型を調べることで雌雄を判別できることが報告されている(特許文献2、非特許文献2)。しかし、この二ヶ所のSNPマーカーも、依然として遺伝的な性を決定する領域との間には物理的な距離が存在し、かつ、具体的な検証はブリの野生個体にとどまっている。
したがって、ブリ類の雌雄の正確な識別を可能とする手法が依然として求められているといえる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2010-226974号公報
【特許文献2】特開2014-180233号公報
【0007】

【非特許文献1】Aquaculture Vol. 308, Supplement 1, pp.S51-S55 (2010)
【非特許文献2】Marine Biotechnology Vol. 17, pp.502-514 (2015)
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、ブリの連鎖群LG12の性決定領域の塩基配列を決定し、その塩基配列をもとに近縁種であるカンパチ、ヒラマサの同領域を同定した。さらに、これらの塩基配列を比較したところ、性決定遺伝子HSD17B1のエクソン3の塩基配列の169番目の一塩基多型(Squ101Chr12 666032)が雄ではA/A、雌ではA/GまたはG/Gであることを見出し、かかる一塩基多型の遺伝型またはそれに対応するアミノ酸残基またはそのコドンを指標として、ブリ、カンパチおよびヒラマサの遺伝的な性を正確に識別できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0009】
従って、本発明は、ブリ類の性を正確に識別し得る方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)ブリ類のHSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基であるかグリシン残基であるかを同定する工程を含んでなる、ブリ類の性を識別する方法。
(2)前記同定工程が、前記HSD17B1遺伝子において、前記ポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基に対応するコドンがグルタミン酸残基に対応するかグリシン残基に対応するかを同定することを含んでなる、(1)に記載の方法。
(3)前記ポリペプチドが、配列番号2、5または8で表されるアミノ酸配列を含んでなる、(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記ポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基のみである場合、ブリ類の性を雄と判定し、前記ポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基がグリシン残基のみである場合、あるいはグリシン残基またはグルタミン残基である場合、ブリ類の性を雌と判定する、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記同定工程が、前記HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基であるかグアニン(G)残基であるかを同定する工程である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基のみである場合、ブリ類の性を雄と判定し、前記HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がグアニン(G)残基のみである場合、あるいはグアニン(G)残基またはアデニン(A)残基である場合、ブリ類の性を雌と判定する、(5)に記載の方法。
(7)前記同定工程が、前記HSD17B1遺伝子ゲノム配列の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドを核酸増幅法により増幅することを含んでなる、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記ポリヌクレオチドが、HSD17B1遺伝子のエクソン3の第169番目に位置するヌクレオチド残基に対応する残基を含む領域を含んでなる、(7)に記載の方法。
(9)前記ポリヌクレオチドが、以下のいずれかの塩基配列またはその一部を含んでなる、(7)または(8)に記載の方法:
(i)配列番号1、4または7で表される塩基配列;
(ii)配列番号3、6または9で表される塩基配列。
(10)前記性の識別が遺伝的な性の識別である、(1)~(9)のいずれかに記載の方法。
(11)前記ブリ類が、ブリ、カンパチまたはヒラマサからなるものである、(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)(1)~(11)のいずれかに記載の方法に用いるための核酸分子であって、HSD17B1遺伝子ゲノム配列の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドにハイブリダイズするヌクレオチド断片を含み、かつ前記ポリヌクレオチドが、HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目に位置するヌクレオチド残基に対応する残基を含む領域を含んでなる、核酸分子。
(13)(1)~(11)のいずれかに記載の方法に用いるためのプライマーペアであって、HSD17B1遺伝子ゲノム配列の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドの、HSD17B1遺伝子のエクソン3の第169番目に位置するヌクレオチド残基に対応する残基を含むヌクレオチド領域を核酸増幅法において増幅しうる、プライマーペア。
(14)以下のいずれかの試薬を含んでなる、ブリ類の性の識別用キット:
ブリ類のHSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基であるかグリシン残基であるかを同定しうる試薬;
ブリ類のHSD17B1遺伝子において、該遺伝子のコードするポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基に対応するコドンがグルタミン酸残基に対応するかグリシン残基に対応するかを同定しうる試薬;
ブリ類のHSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の第428番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基であるかグアニン(G)残基であるかを同定しうる試薬;
ブリ類のHSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基であるかグアニン(G)残基であるかを同定しうる試薬。
(15)(12)に記載の核酸分子および/または(13)に記載のプライマーペアを含んでなる、(14)に記載のブリ類の性の識別用キット。
【0011】
本発明によれば、集団内の遺伝的差異やゲノムの組換えによる影響を受けること無く、正確にブリ類の性を識別することができる。また、本発明によれば、性成熟前に生きたままでブリ類の性を識別できる。さらに、本発明によれば、一塩基多型の遺伝型またはそれに対応するアミノ酸残基またはそのコドンを指標としてブリ類の性別を簡易迅速に判別できる。かかる本発明は、雌雄を早期に確定しうることから、養成する親魚の雌雄の尾数の調整や雌雄による出荷時期の調整において特に有利に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ブリ、カンパチ、ヒラマサの野生個体それぞれ10尾について、開腹後の生殖腺の外部形態の観察による性別判定結果とHSD17B1遺伝子のエクソン3の塩基配列の169番目の一塩基多型の遺伝型が相関している結果を示した図である。ここで、塩基配列RはAまたはGを表し、塩基配列SはCまたはGを表す。参照配列では各個体由来の塩基配列を比較した際の一塩基多型の存在箇所を示す。下向き黒三角は、当該169番目のヌクレオチド残基の部位を指し示している。
【発明の具体的説明】
【0013】
ブリ類の性を識別する方法
同定工程
本発明のブリ類の性を識別する方法は、ブリ類のHSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基であるかグリシン残基であるかを同定する工程(以下、単に「同定工程」ともいう)を含んでなることを特徴とする。HSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける第143番目のアミノ酸残基に対応するコドンのうちの1個のヌクレオチド残基は、ブリ類の雌雄判別の指標として見出されたエクソン3の塩基配列の169番目のヌクレオチド残基に対応する残基である。したがって、HSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける第143番目のアミノ酸残基またはそのコドンは、エクソン3の塩基配列の169番のヌクレオチド残基の一塩基多型に対応して、ブリ類正確な雌雄判別の指標となると考えられる。
【0014】
本発明のブリ類とは、Seriola 属の魚類であり、和名では、ブリ(学名:Seriola quinqueradiata)、ヒラマサ(学名:Seriola lalandi)、カンパチ(学名:Seriola dumerili)、ヒレナガカンパチ(学名:Seriola rivoliana)、アオブリ、ガンド、ガンドブリ、モジャコ、モジャッコ、イナダ、イナラ、ワラサ、コゾクラ、コズクラ、ツバイソ、フクラギ、フクラゲ、ワカナ、ショウジンゴ、ツバス、ヤズ、ハマチ、メジ、メジロ、ハナジロ、マルゴ、ワカナゴ、オオイナ、スズイナ、オオイオ、ワカシ、マサギ、ヒラサ、ヒラス、ヒラソ、テンコツ、セントク、アガユ、マヤ、外国名では、(Japanese、great、greater、southern) Amberjack、(Five-ray) Yellowtail、 kingfish、Almaco jackと称される魚を含む。本発明の好ましい実施態様としては、ブリ類は、ブリ、カンパチおよびヒラマサからなるものである。
【0015】
本発明のブリ類のHSD17B1遺伝子は連鎖群LG21上に存在しており、上述の通り、それに含まれる一塩基多型の遺伝型またはそれに対応するアミノ酸残基またはそのコドンはブリ類正確な雌雄判別の指標として利用しうる。このような本発明のブリ類の雌雄判別に用いられる、HSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の具体的な塩基配列としては配列番号1、4または7が挙げられる。配列番号1、4または7で表される塩基配列において第428番目のヌクレオチド残基は、ブリの雌雄の性の判定の指標となるHSD17B1遺伝子のエクソン3の169番目のヌクレオチド残基に対応している。本発明のブリ類がブリである場合、HSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の塩基配列は好ましくは配列番号1である。また、本発明のブリ類がカンパチである場合、HSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の塩基配列は好ましくは配列番号4である。また、本発明のブリ類がヒラマサである場合、HSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の塩基配列は好ましくは配列番号7である。
【0016】
また、本発明のHSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドのアミノ酸配列としては、配列番号2、5または8が挙げられる。本発明のブリ類がブリである場合、HSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドのアミノ酸配列は好ましくは配列番号2である。また、本発明のブリ類がカンパチである場合、HSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドのアミノ酸配列は好ましくは配列番号5である。また、本発明のブリ類がヒラマサである場合、HSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドのアミノ酸配列は好ましくは配列番号8である。
【0017】
また、本発明のHSD17B1遺伝子のエクソン3は、上述の通り雌雄判別の指標となる一塩基多型を含んでおり、その塩基配列としては配列番号3、6または9が挙げられる。本発明のブリ類がブリである場合、HSD17B1遺伝子のエクソン3の塩基配列は好ましくは配列番号3である。また、本発明のブリ類がカンパチである場合、HSD17B1遺伝子のエクソン3の塩基配列は好ましくは配列番号6である。また、本発明のブリ類がヒラマサである場合、HSD17B1遺伝子のエクソン3の塩基配列は好ましくは配列番号9である。
【0018】
本発明の同定工程においては、上述の通り、ブリ類の性の識別の指標として、HSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける143番目のアミノ酸残基を用いてよいが、その対応コドンを指標としてもよい。したがって、一つの態様によれば、本発明の方法において、上記同定工程は、上記ポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基に対応するコドンがグルタミン酸残基に対応するかグリシン残基に対応するかを同定することを含んでなる。
【0019】
また、ブリ類の性のより正確な識別の観点からは、上記第143番目のアミノ酸残基に対応するコドンに含まれるHSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目の一塩基多型の遺伝型(ヌクレオチド残基)を指標とすることがより好ましい。したがって、本発明のより好ましい態様によれば、上記同定工程は、HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基であるかグアニン(G)残基であるかを同定する工程とされる。
【0020】
また、HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目の一塩基多型は、HSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の第428番目の一塩基多型に相当することから、当該第428番目の一塩基多型の遺伝型をブリ類の性の識別の指標として用いることができる。したがって、本発明のより好ましい別の態様によれば、上記同定工程は、HSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の第428番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基であるかグアニン(G)残基であるかを同定する工程とされる。
【0021】
本発明では、例えば、被験体であるブリ類の個体の一部、例えば鰭(尾鰭、背鰭、胸鰭、腹鰭、尻鰭)、血液、腎臓筋肉などの核が存在する組織から試料を採取し、得られた試料からゲノムDNAやmRNA等の核酸試料を抽出し、必要であればmRNAから逆転写酵素によりcDNAを作製して得られた核酸試料を用いることができる。また、得られた核酸試料を鋳型として、例えば、後述するプライマーペアを用いて核酸増幅法を実施し、得られた核酸試料を用いることができる。核酸増幅法としては、例えば、ゲノムDNAまたはcDNAを鋳型とする場合には通常のPCR法等を用いることができ、mRNAを鋳型とする場合には、RT-PCR法、NASBA法等を用いることができる。
【0022】
本発明の方法の好ましい一つの態様として、ブリ類のHSD17B1遺伝子のゲノム配列の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドを核酸増幅法により増幅することを含んでなる方法が提供される。かかる実施態様においては、当業者に広く知られた技術常識に従い、核酸増幅法に用いるプライマーおよび核酸増幅の反応条件を適宜選択することができる。ここで、該ポリヌクレオチドは、以下のいずれかの塩基配列またはその一部を含んでなるものであることが好ましい:
(i)配列番号1、4または7で表される塩基配列;
(ii)配列番号3、6または9で表される塩基配列。
【0023】
本発明の方法の好ましい一つの態様において、核酸増幅法は、ブリ類のHSD17B1遺伝子のエクソン3の第169番目に位置するヌクレオチド残基に対応する残基を含む領域を増幅対象とするプライマーのペアを用いて実施することができる。このようなプライマーペアを構成する2本のプライマーは、増幅の対象となる領域の塩基配列に基づいて当業者が適宜設計することができる。例えば、プライマーペアの一方のプライマーを、増幅対象領域の塩基配列中における5’末端部分の塩基配列を有するものとし、他方のプライマーを、増幅対象領域の相補鎖の塩基配列中における5’末端部分の塩基配列を有するものとすることができる。
【0024】
本発明の方法において、核酸増幅法を用いる場合、プライマーの鎖長は15~100ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも17ヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも18ヌクレオチド、さらに好ましくは18~50ヌクレオチド、さらに特に好ましくは18~40ヌクレオチドとされる。このような鎖長を有するプライマーは、特に夾雑物を含む核酸試料を用いて核酸増幅法を実施する上で好ましいものである。
【0025】
核酸増幅法により得られた増幅産物の塩基配列の解析は、例えば、シークエンス用プライマーを用いるダイレクトシークエンス法等により容易に行なうことができる。このような方法は当技術分野において周知であり、例えば、市販のキットを用いて実施することができる。
【0026】
上記の核酸増幅法とダイレクトシークエンス法とにより上記同定工程を実施する場合には、例えば、以下の配列を有するプライマー:
フォワード:5'-ATGCCACAATGAGGAACCTG-3'(配列番号10);
リバース:5'-ACTCAGGGTGCAAGATGCAG-3'(配列番号11)、
を用いて核酸増幅を行ない、これらのプライマーをシークエンスプライマーとしてダイレクトシークエンス法を行なうことができる。あるいは、シークエンスプライマーとして別のプライマーを用いてもよい。
【0027】
本発明の方法において、核酸増幅法を用いる場合、アレル特異的PCR法を実施できるようにプライマーを設計することもできる。具体的には、プライマーの一方をブリ類のHSD17B1遺伝子のエクソン3の塩基配列の第169番目のヌクレオチド残基における一塩基多型(グアニン(G)残基またはアデニン(A)残基のいずれか)に対合できるように設計し、他方を前記第169番目のヌクレオチド残基における一塩基多型を含まない領域に対合できるように設計することができる。このように設計されたプライマーペアを用いて核酸増幅法を実施すると、核酸試料中に該一塩基多型が存在する場合には増幅産物が得られ、該一塩基多型が存在しない場合には増幅産物が得られない。従って、この場合には、増幅産物の有無を検出することにより一塩基多型の有無を判定することができる。
【0028】
本発明の方法の別の好ましい一つの態様において、上述の一塩基多型により特定の制限酵素による認識配列が失われるかまたは生成する場合には、制限断片長多型(RFLP)を利用する方法、例えば、PCR-RFLP法を用いることができる。このような方法は、例えば、上述の核酸増幅法において前記制限酵素認識配列を包含する領域を増幅するようなプライマーペアを用い、得られた増幅断片をこの制限酵素で消化した後、得られる断片の数およびそれらの鎖長を調べることにより実施することができる。このような方法は当技術分野において周知であり、当業者であれば、適切な制限酵素、プライマー、増幅反応条件、制限酵素反応条件等を適宜設定することができる。
【0029】
上述のPCR-RFLP法により上記同定工程を実施する場合には、例えば、以下の配列を有するプライマー:
フォワード:5'-TACCAGAGATGAAGGCTCAG-3'(配列番号12);
リバース:5'-CATTTGCTTGTCTCACCGTG-3'(配列番号13)、
を用いて核酸増幅を行ない、この増幅により得られる82bpのDNA断片を、ブリ類のHSD17B1遺伝子のエクソン3における塩基配列中の第169番目のアデニン(A)残基がグアニン(G)残基に置換された塩基配列を特異的に認識して切断する制限酵素BsaWIを用いて切断し、得られるDNA断片数をカウントすることにより行なうことができる。
【0030】
また、本発明の方法の別の好ましい一つの態様において、プローブを用いたハイブリダイゼーション法等により、上記同定工程を実施することができる。このようなプローブは、当該領域の塩基配列に基づいて当業者が適宜設計することができる。従って、本発明によれば、当該プローブと被検体であるブリ類の個体由来の核酸試料とのハイブリダイゼーションを行ない、次いでハイブリダイゼーション複合体の存在を検出する工程を含んでなる、ブリ類の性を識別する方法が提供される。ハイブリダイゼーション複合体の存在は、ブリ類の性決定遺伝子HSD17B1における該一塩基多型の存在を示す。このハイブリダイゼーション法を用いる方法は、上述の核酸増幅法を用いる方法により得られる増幅産物である核酸試料に対して適用することもできる。
【0031】
ハイブリダイゼーション法に用いられる場合の、プローブの鎖長は15~100ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも17ヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも18ヌクレオチド、さらに好ましくは18~50ヌクレオチド、さらに特に好ましくは18~40ヌクレオチドとされる。このような鎖長を有するプローブは、特に夾雑物を含む核酸試料を用いてハイブリダイゼーション法を実施する上で好ましいものである。
【0032】
ハイブリダイゼーション法によるブリ類の遺伝的な性の識別に当たっては、ストリンジェントな条件下において、核酸試料と上述のプローブとのハイブリダイゼーションの有無を検出することにより、前記第169番目のヌクレオチド残基における一塩基多型を検出することができる。本発明の方法において、「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーションのための条件として、「5×SSPE、5×Denhardt’s液、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate、SDS)、50%ホルムアミド、200μg/mL鮭精子DNA、42℃オーバーナイト」、洗浄のための条件として、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」の条件である。「よりストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーションのための条件として、「5×SSPE、5×Denhardt’s液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、200μg/mL鮭精子DNA、42℃オーバーナイト」、洗浄のための条件として、「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件である。
【0033】
核酸試料は必要であれば制限酵素処理等を施し、ハイブリダイゼーションに適切な長さとすることもできる。ハイブリダイゼーション法とこれによる一塩基多型の検出法としては、当技術分野において公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、サザンハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション等の技術を用いることができ、これらの方法の詳細については、例えば、J. Sambrook, E. F. Frisch, T. Maniatis; Molecular Cloning 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)を参照することができる。
【0034】
本発明の方法において、ハイブリダイゼーション法により一塩基多型を検出する場合、上述のプローブを基板上に固定したDNAチップを作製し、このDNAチップと被験体であるブリ類の個体由来の核酸試料とをハイブリダイゼーション条件下で接触させ、ハイブリダイゼーションの有無を検出してもよい。従って、本発明によれば、上述のプローブを基板上に固定してなる、前記第169番目のヌクレオチド残基における一塩基多型を検出しうるDNAチップ、さらには、このDNAチップを用いて該一塩基多型を検出する工程を含んでなる、ブリ類の遺伝的な性を識別する方法が提供される。本発明において基板に結合させるプローブの鎖長は特に制限されないが、好ましくは15~100ヌクレオチド、より好ましくは15~50ヌクレオチド、さらに好ましくは17~25ヌクレオチドとされる。このようなDNAチップを用いて一塩基多型を検出する技術は当技術分野において周知であり(ポストシークエンスのゲノム科学、第1巻「SNP遺伝子多型の戦略」、松原謙一・榊佳之、中山書店、p128-135、2000年)、当業者であれば、上述のプローブを用いて適切なDNAチップを作製し、このDNAチップを用いて該一塩基多型を検出することができる。
【0035】
また、本発明の方法の別の一つの態様として、SNaPshotTM法またはPyrosequencing法などのプライマーエクステンション法、あるいはTaqManPCR法などの遺伝子型決定法(タイピング法)を用いて前記第169番目のヌクレオチド残基における一塩基多型を検出することもできる。これらの手法は当業者に公知であり、その操作手順および使用するプライマーおよび/またはプローブの具体的な塩基配列は、当業者であれば容易に決定することができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、遺伝子の一塩基多型を検出しうる方法であれば、いかなる方法を用いることもできる。
【0036】
判定工程
本発明においては、後述する実施例にも示されるように、HSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける143番目のアミノ酸残基またはその対応コドン、あるいはHSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目の一塩基多型の遺伝型またはこれに相当するHSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の第428番目の一塩基多型の遺伝型のいずれかを指標とし、上述のような核酸解析によりブリ類の性を判定することができる。
【0037】
本発明の一つの態様によれば、HSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける143番目のアミノ酸残基をブリの性の識別の指標とし、HSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基のみである場合、ブリ類の性を雄と判定することができる。また、上記ポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基がグリシン残基のみである場合、あるいはグリシン残基またはグルタミン残基である場合、ブリ類の性を雌と判定することができる。
【0038】
また、別の好ましい態様によれば、HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目の一塩基多型の遺伝型をブリの性の識別の指標とし、HSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基のみである場合、ブリ類の性を雄と判定することができる。また、上記エクソン3における第169番目の(またはこれに相当する上記ポリペプチドコード領域の第428番目の)ヌクレオチド残基がグアニン(G)残基のみである場合、あるいはグアニン(G)残基またはアデニン(A)残基である場合、ブリ類の性を雌と判定することができる。
【0039】
さらに別の好ましい態様によれば、HSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の第428番目の一塩基多型の遺伝型をブリの性の識別の指標とし、HSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の第428番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基のみである場合、ブリ類の性を雄と判定することができる。また、上記ポリペプチドコード領域の第428番目のヌクレオチド残基がグアニン(G)残基のみである場合、あるいはグアニン(G)残基またはアデニン(A)残基である場合、ブリ類の性を雌と判定することができる。
【0040】
核酸分子/プライマーペア
本発明の別の態様として、本発明の方法に用いるための核酸分子が提供される。本発明の好ましい核酸分子は、ブリ類のHSD17B1遺伝子ゲノム配列の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドにハイブリダイズするヌクレオチド断片を含み、かつ前記ポリヌクレオチドが、ブリ類のHSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目に位置するヌクレオチド残基に対応する残基を含む領域を含んでなるものである。本発明の好ましい一つの態様において、本発明の核酸分子はハイブリダイゼーション法におけるプローブとして使用することができる。このようなプローブとして用いられる核酸分子は、当該領域の塩基配列に基づいて当業者が適宜設計することができる。ハイブリダイゼーション法におけるプローブとして用いられる場合の、核酸分子の鎖長は15~100ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも17ヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも18ヌクレオチド、さらに好ましくは18~50ヌクレオチド、さらに特に好ましくは18~40ヌクレオチドとされる。このような鎖長を有するプローブとしての核酸分子は、特に夾雑物を含む核酸試料を用いてハイブリダイゼーション法を実施する上で好ましいものである。
【0041】
本発明の別の態様として、本発明の方法に用いるためのプライマーペアが提供される。本発明の好ましいプライマーペアは、ブリ類のHSD17B1遺伝子ゲノム配列の少なくとも一部をコードするポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドの、ブリ類のHSD17B1遺伝子のエクソン3の第169番目に位置するヌクレオチド残基に対応する残基を含むヌクレオチド領域を核酸増幅法において増幅しうるものである。このような核酸増幅法に用いるためのプライマーペアは、当該領域の塩基配列に基づいて当業者が適宜設計することができる。核酸増幅法を用いる場合の、プライマーの鎖長は15~100ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも17ヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも18ヌクレオチド、さらに好ましくは18~50ヌクレオチド、さらに特に好ましくは18~40ヌクレオチドとされる。このような鎖長を有するプライマーは、特に夾雑物を含む核酸試料を用いて核酸増幅法を実施する上で好ましいものである。
【0042】
試薬/キット
本発明において、ブリ類のHSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける第143番目のアミノ酸残基またはその対応コドン、あるいはHSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目の一塩基多型の遺伝型またはこれに相当するHSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の第428番目の一塩基多型の遺伝型を指標としたブリ類の性の識別法を実施するために必要な試薬をまとめてキットとすることができる。したがって、一つの態様によれば、本発明のキットは、
ブリ類のHSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドにおける第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基であるかグリシン残基であるかを同定しうる試薬;
ブリ類のHSD17B1遺伝子において、該遺伝子のコードするポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基に対応するコドンがグルタミン酸残基に対応するかグリシン残基に対応するかを同定しうる試薬;
ブリ類のHSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の第428番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基であるかグアニン(G)残基であるかを同定しうる試薬;
ブリ類のHSD17B1遺伝子のエクソン3における第169番目のヌクレオチド残基がアデニン(A)残基であるかグアニン(G)残基であるかを同定しうる試薬、のいずれかを含んでなるものである。
【0043】
本発明のキットは、上述の本発明による核酸分子および/または本発明によるプライマーペアを試薬として含んでなるものであってもよい。
【0044】
また、本発明のキットは、ブリ類のHSD17B1遺伝子が発現するタンパク質において、HSD17B1遺伝子のコードするポリペプチドの第143番目のアミノ酸残基の指標(グルタミン酸残基であるかグリシン残基であるか)を識別し得る抗体を試薬として包含していてもよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【0045】
ブリ類の性の識別用マーカー/マーカーとしての使用
また、本発明においては、上述の一塩基多型またはそれに対応するアミノ酸変異を包含する限りにおいて、ブリ類のHSD17B1遺伝子由来のヌクレオチド、ポリペプチドまたはそれらの断片をブリの性の識別マーカーとして利用することができる。
【0046】
したがって、本発明の別の態様によれば、配列番号2、5または8で表されるアミノ酸配列で表されるポリペプチドまたはそのペプチド断片からなる、ブリ類の性の識別用マーカーが提供される。さらに別の態様によれば、ブリ類の性の識別用マーカーとしての、配列番号2、5または8で表されるアミノ酸配列で表されるポリペプチドまたはそのペプチド断片の使用が提供される。上記いずれかの態様において、上記ペプチド断片は、配列番号2、5または8で表されるアミノ酸配列における第143番目のアミノ酸残基に対応する残基を好ましくは含んでなる。
【0047】
また、別の態様によれば、以下の(i)または(ii)のいずれかの塩基配列で表されるポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド断片からなる、ブリ類の性の識別用マーカーが提供される:(i)配列番号1、4または7で表される塩基配列;(ii)配列番号3、6または9で表される塩基配列。さらに別の態様によれば、ブリ類の性の識別用マーカーとしての、(i)または(ii)のいずれかの塩基配列で表されるポリヌクレオチドまたはそのヌクレオチド断片の使用が提供される。上記いずれかの態様において、上記ヌクレオチド断片は、配列番号1、4または7で表される塩基配列における第428番目のヌクレオチド残基に対応する残基を好ましくは含んでなる。また、上記いずれかの態様において、上記ヌクレオチド断片は、配列番号3、6または9で表される塩基配列における第169番目のヌクレオチド残基に対応する残基を好ましくは含んでなる。
【0048】
上記核酸分子、プライペア、キット、ブリ類の性の識別用マーカーおよびマーカーとしての使用については、本発明のブリの識別方法に準じて当業者は好適に実施することができる。
【実施例】
【0049】
以下の実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1:ブリ類3種に共通する性決定遺伝子および該性決定遺伝子における性決定を支配する一塩基多型の同定
ブリの連鎖群LG12の性決定領域のゲノム配列を保持するBAC(細菌人工染色体)クローンをスクリーニングし、そのクローンの高精度な塩基配列を決定した。次に、ブリの性決定領域の塩基配列をもとに近縁種であるカンパチおよびヒラマサの性決定領域のゲノムDNAを、ロッシュ社のエクソーム濃縮キット「SeqCapEZ(ver.3)」を用いて取得し、カンパチおよびヒラマサの性決定領域の塩基配列を決定した。決定した性決定領域の塩基配列を参照配列として用いて性決定領域内の一塩基多型と性との相関解析を行い、3種に共通する性決定遺伝子HSD17B1を同定した。ここで、ブリのHSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の塩基配列を配列番号1に、ブリのHSD17B1遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号2に示す。また、カンパチのHSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の塩基配列を配列番号4に、カンパチのHSD17B1遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号5に示す。また、ヒラマサのHSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の塩基配列を配列番号7に、ヒラマサのHSD17B1遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号8に示す。また、ブリ、カンパチおよびヒラマサの表現型としての性別判定は、開腹後の生殖腺の外部形態の観察により行った。
【0051】
3種の性決定遺伝子HSD17B1の塩基配列を比較したところ、新規の一塩基多型(SNP)であるエクソン3の塩基配列の169番目のヌクレオチド残基の遺伝型が雌ではA/GまたはG/G、雄ではA/Aであることが判明した。かかる一塩基多型は、Squ101Chr12 666032とも表記される。ここで、ブリのHSD17B1遺伝子のエクソン3の塩基配列を配列番号3に示す。また、カンパチのHSD17B1遺伝子のエクソン3の塩基配列を配列番号6に示す。また、ヒラマサのHSD17B1遺伝子のエクソン3の塩基配列を配列番号9に示す。HSD17B1遺伝子はステロイド代謝酵素である17β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(17β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素、17β-Hydroxysteroid dehydrogenase)サブタイプ1をコードしている。エクソン3の塩基配列の169番目のヌクレオチド残基の遺伝型がAである場合とGである場合のカンパチのHSD17B1遺伝子がコードするポリペプチドを、それぞれ大腸菌内において発現させて、組換えタンパク質を調製した。次に、Ferdinand H., et al. J. Mol. Biol. vol.399 pp.255-267 (2010)に記載の酵素測定法に従い、それぞれのタンパク質の酵素反応産物を得た。この酵素反応産物を、LC/MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)で定量することにより、それぞれのタンパク質のステロイド代謝活性(17β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ活性(エストロン-エストラジオール変換活性およびアンドロステンジオン-テストステロン変換活性))を測定した。その結果、遺伝型がGである場合のタンパク質の方が、遺伝型がAである場合のタンパク質と比べて当該酵素活性が高く、少なくとも一方の遺伝型がGであるタンパク質が産生されることで個体が雌に分化することが明らかとなった。
【0052】
ブリ類はZZ/ZW型の性決定様式でありW染色体をもつと雌に分化する。Z染色体上に位置する性決定遺伝子Z型はエクソン3の塩基配列の169番目のヌクレオチド残基の遺伝型はAとなり、この領域をコードするアミノ酸はグルタミン酸となる。一方、W染色体上に位置する性決定遺伝子W型はエクソン3の塩基配列の169番目のヌクレオチド残基の遺伝型はGとなり、コードするアミノ酸はグリシンとなる。
【0053】
上述の知見に基づくと、ブリ類のHSD17B1遺伝子のエクソン3の塩基配列の169番目のヌクレオチド残基(ブリ類のHSD17B1遺伝子のポリペプチドコード領域の塩基配列の428番目のヌクレオチド残基に相当する)の遺伝型がA/Aの場合(対応する第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸/グルタミン酸の場合)には雄(ZZ型)と、A/GまたはG/Gの場合(対応する第143番目のアミノ酸残基がグルタミン酸/グリシンまたはグリシン/グリシンの場合)には雌(ZW型またはWW型)と判定することができる。
【0054】
実施例2:核酸増幅法とダイレクトシークエンス法によるブリ類の遺伝的な性の識別
ブリ、カンパチおよびヒラマサの野生個体それぞれ10尾について、開腹して生殖腺の外部形態を観察することにより表現型としての性別を判定した。これらのブリ類から尾鰭を採取し、DNAを抽出した。次にPCR法により前記一塩基多型を含む周辺の領域を増幅した。PCRプライマーとしては、塩基配列ATGCCACAATGAGGAACCTG(配列番号10)とACTCAGGGTGCAAGATGCAG(配列番号11)のポリヌクレオチドを用いた。PCR反応液は、プライマー1pmol、0.2mM各dNTPs、1xExTaqBuffer、0.25UExtaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)、サンプルDNA50ngを含む10μLの溶液量に調製したものを使用した。PCR反応は、95℃3分、(95℃30秒、53℃30秒、72℃1分)×30サイクル、72℃5分の条件で行った。次にillustra ExoStarキット(GEヘルスケア社製)を用いてPCR増幅産物の精製(酵素反応による余剰のプライマーの除去)を行った。その後、PCR産物の塩基配列をサンガー法により決定し、当該SNPの遺伝子型を同定した。sequencing primerには塩基配列ATGCCACAATGAGGAACCTG(配列番号10)のポリヌクレオチドを用いた。
【0055】
結果を図1に示す。雌は、15検体中14検体において該一塩基多型のヌクレオチド残基の遺伝型がG/Aのヘテロ体、1検体においてG/Gのホモ体となっていた。一方、雄は、15検体中全てでA/Aのホモ体となっていた。
【0056】
実施例3:PCR-RFLP法によるブリ類の遺伝的な性の識別
ブリ類から尾鰭を採取し、DNAを抽出した。次にPCR法により該SNPを含む周辺の領域を増幅した。PCRプライマーとしては、塩基配列TACCAGAGATGAAGGCTCAG(配列番号12)とCATTTGCTTGTCTCACCGTG(配列番号13)のポリヌクレオチドを用いた。PCR反応液は、プライマー1pmol、0.2mM各dNTPs、1xExTaqBuffer、0.25UExtaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)、サンプルDNA10ngを含む10μLの溶液量に調製したものを使用した。PCR反応は、95℃3分、(95℃30秒、53℃30秒、72℃30秒)×30サイクル、72℃1分の条件で行った。次にPCR産物をW型の一塩基多型(性決定遺伝子HSD17B1エクソン3の塩基配列の169番目のヌクレオチド残基がGであるもの)を特異的に認識して切断する制限酵素BsaWI(New England Biolabs社製)を用いて処理した。反応条件は60℃で30分間であった。反応液は、1U制限酵素、1xCutSmartBuffer、PCR産物3μLを含む10μLの溶液量に調製したものを使用した。その後、DNA-500キットを用いてMultiNA電気泳動(島津社製)を行い、切断DNA断片の移動度を可視化した。PCRにより82bpのDNA断片が増幅された。制限酵素BsaWIはW型SNPを特異的に認識して切断するため、ZZ(雄)の場合は1本、ZW(雌)の場合は3本、WW(雌)の場合は2本のDNAバンドが観察された。
図面
【図1】
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