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明細書 :遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-184500 (P2019-184500A)
公開日 令和元年10月24日(2019.10.24)
発明の名称または考案の名称 遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法
国際特許分類 G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  15/00        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12N  15/31        (2006.01)
A61K  31/502       (2006.01)
C07D 237/32        (2006.01)
FI G01N 33/50 Z
G01N 33/15 ZNAZ
A61K 45/00
A61P 35/00
A61P 15/00
C12Q 1/02
C12N 15/31
A61K 31/502
C07D 237/32
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2018-077857 (P2018-077857)
出願日 平成30年4月13日(2018.4.13)
発明者または考案者 【氏名】岩▲崎▼ 博史
【氏名】坪内 英生
【氏名】伊藤 武彦
【氏名】梶谷 嶺
【氏名】パリハッティ マルダン
【氏名】韓 龍雲
出願人 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100161207、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 和純
【識別番号】100181722、【弁理士】、【氏名又は名称】春田 洋孝
【識別番号】100163496、【弁理士】、【氏名又は名称】荒 則彦
【識別番号】100154852、【弁理士】、【氏名又は名称】酒井 太一
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
4C084
4C086
Fターム 2G045AA40
2G045CB21
2G045DA13
2G045DA36
2G045GC30
4B063QA01
4B063QA06
4B063QQ91
4B063QR76
4C084AA17
4C084AA19
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA81
4C084ZB26
4C086AA01
4C086BC50
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB26
要約 【課題】遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬をスクリーニングする技術を提供する。
【解決手段】遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下で、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を培養することと、前記BRH2遺伝子欠損株の生存率を測定することと、を含み、前記被験物質の存在下における前記BRH2遺伝子欠損株の生存率が、前記被験物質の非存在下における前記BRH2遺伝子欠損株の生存率と比較して低いことが、前記被験物質が遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬であることを示す、スクリーニング方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法であって、
被験物質の存在下及び非存在下で、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株及び野生型株をそれぞれ培養することと、
前記被験物質の存在下における前記BRH2遺伝子欠損株及び野生型株の生存率をそれぞれ測定することと、を含み、
前記BRH2遺伝子欠損株の生存率が、前記野生型株の生存率と比較して低いことが、前記被験物質が遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬であることを示す、スクリーニング方法。
【請求項2】
遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法であって、
被験物質の存在下で、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする遺伝子にコードされるタンパク質の活性を測定することを含み、
前記被験物質の存在下における前記タンパク質の活性が、前記被験物質の非存在下における前記タンパク質の活性と比較して低いことが、前記被験物質が遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬であることを示す、スクリーニング方法。
【請求項3】
クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする前記遺伝子が、DNA2、EXO1、FAN1、FANCM、MRE11、MUS81、RAD50、RAD51、RAD51C、RAD52、RAD54、RAD54B、BLM、SRS2、XRCC3、XRCC6、FEN1、RFC1、RFC2、RFC3、RFC4、RFC5、PCNA、ATM、ATR、CHK1、CHK2、APEX1、PARP、XPF、XPG、PNK、NTHL1、MLH1、MSH2、MSH3、MSH6、PMS1、ERCC1、RTEL1、SMARCAD1-1、SMARCAD1-2、DSS1、TOP1、TOP2-alpha、TOP3-alpha及びSFR1からなる群より選択される遺伝子である、請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
乳癌細胞又は卵巣癌細胞のポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤に対する耐性解除剤のスクリーニング方法であって、
クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株をPARP阻害剤耐性にする変異遺伝子を特定することと、
被験物質の存在下で、前記変異遺伝子にコードされるタンパク質の活性を測定することと、を含み、
前記被験物質の存在下における前記タンパク質の活性が、前記被験物質の非存在下における前記タンパク質の活性と比較して低いことが、前記被験物質が乳癌細胞又は卵巣癌細胞のPARP阻害剤に対する耐性解除剤であることを示す、スクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法に関する。より詳細には、本発明は、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法、及び、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ阻害剤に対する耐性解除剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌や卵巣癌の5~10%は、遺伝的な要因が強く関与して発症していると考えられている。遺伝的な要因としては、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer、HBOC)が最も多い。
【0003】
遺伝性乳癌卵巣癌症候群は、BRCA1遺伝子又はBRCA2遺伝子の変異が原因で乳癌や卵巣癌を高いリスクで発症する遺伝性腫瘍の1つである。また、癌を発症する場合には、乳癌及び卵巣癌の両方を発症する場合が多い。
【0004】
例えば非特許文献1には、BRCA1遺伝子又はBRCA2遺伝子の変異を有するヒトのうち、55~65%が70歳までに乳癌を発生すると報告されている。卵巣癌も同程度の割合である。乳癌又は卵巣癌の予防のためにタモキシフェンを投与する場合もあるが、タモキシフェン投与は子宮癌の発生リスクを上昇させてしまう。また、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の癌患者に通常の抗癌剤を安易に投与すると、白血球や好中球が減少する場合がある。
【0005】
ところで、RAD51タンパク質は、DNA二重鎖切断の相同組換え修復機構における重要な酵素である。そして、BRCA1タンパク質及びBRCA2タンパク質は、RAD51タンパク質の補助因子として機能していると考えられている。BRCA1タンパク質又はBRCA2タンパク質の欠損だけでは致死とはならないが、相同組換え修復機構の機能が低下することにより、ゲノム不安定化がおこり、その結果として癌が発症すると考えられている。
【0006】
DNA代謝の細胞内分子機構は、生物種間で保存されている。例えば、ヒトRAD51タンパク質と酵母Rad51タンパク質は87%の配列同一性を有しており、酵母における研究がヒトの分子機構の解明に直接貢献している。
【0007】
しかしながら、基礎研究に用いられる出芽酵母(サッカロミセス・セレビシエ)や分裂酵母(シゾサッカロミセス・ポンベ)は、BRCA1遺伝子及びBRCA2遺伝子を有していない。このため、従来、酵母を用いて、BRCA1遺伝子又はBRCA2遺伝子の機能解析を行うことや、BRCA1遺伝子又はBRCA2遺伝子の変異株の薬剤応答試験等を行うことができなかった。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】A. Antoniou, et al., Average Risks of Breast and Ovarian Cancer Associated with BRCA1 or BRCA2 Mutations Detected in Case Series Unselected for Family History: A Combined Analysis of 22 Studies., Am. J. Hum. Genet. 72, 1117-1130, 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況のもと、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬が求められている。最近開発された遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬としてオラパリブ(CAS番号:763113-22-0)が知られている。オラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(以下、「PARP」という場合がある。)阻害薬である。
【0010】
しかしながら、オラパリブを使用すると、オラパリブに対する耐性を有する癌細胞が出現することが知られている。したがって、癌細胞がオラパリブに対する耐性を獲得する機構を解明することが必要である。また、オラパリブに代わる治療薬又はオラパリブと併用することにより、オラパリブに対する耐性を解除する薬剤の開発が必要である。
【0011】
ところで、トウモロコシ黒穂病の原因菌であるウスチラゴ・メイディス(Ustilago maydis)は、ヒトBRCA2タンパク質のホモログを持つことが知られている。しかしながら、ウスチラゴ・メイディスがヒトPARPタンパク質のホモログを有しているか否かは報告されていない。このため、ウスチラゴ・メイディスを用いてオラパリブに代わる治療薬又はオラパリブに対する耐性を解除する薬剤の開発を行うことができるか否かは不明である。
【0012】
本発明は、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬をスクリーニングする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、クリプトコッカス属菌が、BRCA2遺伝子のホモログ(以下、「BRH2」という。)を持つことを見出した。発明者らはまた、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株が、BRCA2-/-ヒト細胞と同様にDNA損傷に感受性を示すことを明らかにした。発明者らはまた、クリプトコッカス属菌が、ヒトPARP遺伝子のホモログを持つことを見出した。
【0014】
本発明は以下の態様を含む。
[1]遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下及び非存在下で、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株及び野生型株をそれぞれ培養することと、前記被験物質の存在下における前記BRH2遺伝子欠損株及び野生型株の生存率をそれぞれ測定することと、を含み、前記BRH2遺伝子欠損株の生存率が、前記野生型株の生存率と比較して低いことが、前記被験物質が遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬であることを示す、スクリーニング方法。
[2]遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下で、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする遺伝子にコードされるタンパク質の活性を測定することを含み、前記被験物質の存在下における前記タンパク質の活性が、前記被験物質の非存在下における前記タンパク質の活性と比較して低いことが、前記被験物質が遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬であることを示す、スクリーニング方法。
[3]クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする前記遺伝子が、DNA2、EXO1、FAN1、FANCM、MRE11、MUS81、RAD50、RAD51、RAD51C、RAD52、RAD54、RAD54B、BLM、SRS2、XRCC3、XRCC6、FEN1、RFC1、RFC2、RFC3、RFC4、RFC5、PCNA、ATM、ATR、CHK1、CHK2、APEX1、PARP、XPF、XPG、PNK、NTHL1、MLH1、MSH2、MSH3、MSH6、PMS1、ERCC1、RTEL1、SMARCAD1-1、SMARCAD1-2、DSS1、TOP1、TOP2-alpha、TOP3-alpha及びSFR1からなる群より選択される遺伝子である、[2]に記載のスクリーニング方法。
[4]乳癌細胞又は卵巣癌細胞のPARP阻害剤に対する耐性解除剤のスクリーニング方法であって、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株をPARP阻害剤耐性にする変異遺伝子を特定することと、被験物質の存在下で、前記変異遺伝子にコードされるタンパク質の活性を測定することと、を含み、前記被験物質の存在下における前記タンパク質の活性が、前記被験物質の非存在下における前記タンパク質の活性と比較して低いことが、前記被験物質が乳癌細胞又は卵巣癌細胞のPARP阻害剤に対する耐性解除剤であることを示す、スクリーニング方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬をスクリーニングする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は、実験例2における、ヒトBRCA2タンパク質、ウスチラゴ・メイディスBrh2タンパク質及びクリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質の構造を示す模式図である。(b)は、実験例2において、ヒトBRCA2タンパク質のBRCリピートと、クリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質のBRCリピートのアミノ酸配列を、それぞれアライメントした図である。(c)は、実験例2において、ヒトBRCA2タンパク質のCCR、ウスチラゴ・メイディスBrh2タンパク質のCCR及びクリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質のCCRのアミノ酸配列を、それぞれアライメントした図である。
【図2】(a)は、実験例3における、ヒトPARP1タンパク質及びクリプトコッカス・リクエファシエンスParpタンパク質の構造を示す模式図である。(b)は、クリプトコッカス・リクエファシエンスParpタンパク質のアミノ酸配列である。
【図3】(a)は、実験例6において、スプリットマーカー法によりクリプトコッカス・リクエファシエンスのBRH2遺伝子を破壊した手順を説明する模式図である。(b)は、実験例7において、スプリットマーカー法によりクリプトコッカス・リクエファシエンスのPARP遺伝子を破壊した手順を説明する模式図である。(c)は、実験例8において、スプリットマーカー法によりクリプトコッカス・リクエファシエンスのRAD51遺伝子を破壊した手順を説明する模式図である。
【図4】(a)は、実験例9及び10における、対照のクリプトコッカス・リクエファシエンスのスポットの写真である。(b)は、実験例9において、紫外線照射を行ったクリプトコッカス・リクエファシエンスのスポットの写真である。(c)は、実験例10において、ブレオマイシンに暴露したクリプトコッカス・リクエファシエンスのスポットの写真である。(d)は、実験例10において、フィレオマイシンに暴露したクリプトコッカス・リクエファシエンスのスポットの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[遺伝子名及びタンパク質名の表記]
本明細書において、ヒト遺伝子及びヒトタンパク質は、大文字のアルファベットで表すものとする。また、酵母(クリプトコッカス属菌、ウスチラゴ属菌を含む)の遺伝子は大文字のアルファベットで表し、タンパク質は先頭文字を大文字のアルファベットで、それ以降を小文字のアルファベットで表すものとする。

【0018】
[遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法]
1実施形態において、本発明は、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法を提供する。

【0019】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法は、被験物質の存在下及び非存在下で、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株及び野生型株をそれぞれ培養することと、前記被験物質の存在下における前記BRH2遺伝子欠損株及び野生型株の生存率をそれぞれ測定することと、を含み、前記BRH2遺伝子欠損株の生存率が、前記野生型株の生存率と比較して低いことが、前記被験物質が遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬であることを示す、スクリーニング方法である。

【0020】
第1実施形態のスクリーニング方法において、被験物質としては特に制限されず、例えば、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、代謝物ライブラリ等が挙げられる。

【0021】
クリプトコッカス属菌としては、ヒトBRCA2遺伝子のホモログを有する菌であれば特に限定されず、例えば、クリプトコッカス・リクエファシエンス(Cryptococcus liquefaciens)、クリプトコッカス・アルビダス(Cryptococcus albidus)、クリプトコッカス・ネオフォーマンス(Cryptococcus neoformans)、クリプトコッカス・ガッティ(Cryptococcus gatti)等が挙げられる。

【0022】
BRH2遺伝子とは、発明者らが見出した、クリプトコッカス属菌におけるヒトBRCA2遺伝子のホモログである。クリプトコッカス・リクエファシエンスのBRH2遺伝子の塩基配列を配列番号61に示し、Brh2タンパク質のアミノ酸配列を配列番号62に示す。

【0023】
第1実施形態のスクリーニング方法において、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株としては、例えば、実施例において後述するような、クリプトコッカス・リクエファシエンスのBRH2遺伝子破壊株を用いることができる。あるいは、siRNA、shRNA等の阻害性RNAを導入することにより、BRH2遺伝子の発現を低下させたクリプトコッカス属菌を用いてもよい。

【0024】
被験物質の存在下におけるBRH2遺伝子欠損株の生存率の測定方法は、特に制限されず、酵母の実験で通常用いられる方法を用いて測定することができる。例えば、次のような方法が挙げられる。まず、被験物質の存在下及び非存在下でBRH2遺伝子欠損株を培養し、それぞれ生菌数を測定する。続いて、下記式(1)により、生存率を算出する。
生存率=被験物質の存在下における生菌数/被験物質の非存在下における生菌数 (1)

【0025】
また、被験物質の存在下における野生型株の生存率も上記と同様にして求めることができる。具体的には、まず、被験物質の存在下及び非存在下で野生型株を培養し、それぞれ生菌数を測定する。続いて、上記式(1)により、生存率を算出する。

【0026】
その結果、被験物質の存在下における、BRH2遺伝子欠損株の生存率が、野生型株の生存率と比較して低かった場合、被験物質は、BRH2遺伝子欠損株を特異的に死滅させる活性が高く、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬の候補であると判断することができる。

【0027】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬のスクリーニング方法は、被験物質の存在下で、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする遺伝子にコードされるタンパク質の活性を測定することを含み、前記被験物質の存在下における前記タンパク質の活性が、前記被験物質の非存在下における前記タンパク質の活性と比較して低いことが、前記被験物質が遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬であることを示す、スクリーニング方法である。

【0028】
第2実施形態のスクリーニング方法において、被験物質、クリプトコッカス属菌、及び、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株は、第1実施形態のスクリーニング方法におけるものと同様である。

【0029】
クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を合成致死にする遺伝子とは、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株が、更に欠損することにより致死となる遺伝子を意味する。また、BRH2遺伝子欠損株を合成感受性にする遺伝子は、DNA損傷修復機構の機能低下により、DNA損傷に対する感受性を上昇させる遺伝子であってもよい。ここで、DNA損傷は、例えば紫外線照射によるものであってもよいし、例えば抗癌剤の投与によるものであってもよい。

【0030】
クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする遺伝子は、1つの遺伝子であってもよく、2つ以上の遺伝子の組み合わせであってもよい。

【0031】
BRH2遺伝子欠損株を合成致死にする遺伝子は、例えば、BRH2遺伝子欠損株の温度感受性を上昇させるような変異株を取得し、その原因となる遺伝子(仮に、「遺伝子X」とする。)を特定すること等により、同定することができる。

【0032】
この場合、変異した遺伝子Xにコードされるタンパク質は、低温では通常の機能を有し、高温では機能不全となるものである。そして、高温時に、変異した遺伝子Xにコードされるタンパク質のみが機能不全となっても菌は生存可能であるが、変異した遺伝子Xを有するBRH2遺伝子欠損株が高温で死滅する場合、遺伝子XはBRH2遺伝子欠損株を合成致死にする遺伝子であるということができる。

【0033】
また、BRH2遺伝子欠損株を合成感受性にする遺伝子は、例えば、BRH2遺伝子欠損株のDNA損傷に対する感受性を上昇させる変異株を取得し、その原因となる遺伝子を特定すること等により同定することができる。

【0034】
第2実施形態のスクリーニング方法では、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする遺伝子にコードされるタンパク質の阻害剤を、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬であると判断する。すなわち、このような阻害剤をBRH2遺伝子欠損株に投与すると、BRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする遺伝子が欠損した状態と同様の状態になり、BRH2遺伝子欠損株を特異的に死滅させるか、あるいはDNA損傷に対する感受性を上昇させることができる。

【0035】
BRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする遺伝子にコードされるタンパク質の活性は、当業者であれば、遺伝子に応じて予測し、測定することができる。

【0036】
被験物質の存在下で、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする遺伝子にコードされるタンパク質の活性を測定した結果、被験物質の存在下における上記タンパク質の活性が、被験物質の非存在下における上記タンパク質の活性と比較して低かった場合、当該被験物質は、上記タンパク質の阻害剤であるということができる。このような被験物質は、BRH2遺伝子欠損株を特異的に死滅させる活性が高く、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬候補であると判断することができる。

【0037】
クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株を合成致死又は合成感受性にする遺伝子としては、例えば、DNA2、EXO1、FAN1、FANCM、MRE11、MUS81、RAD50、RAD51、RAD51C、RAD52、RAD54、RAD54B、BLM、SRS2、XRCC3、XRCC6、FEN1、RFC1、RFC2、RFC3、RFC4、RFC5、PCNA、ATM、ATR、CHK1、CHK2、APEX1、PARP、XPF、XPG、PNK、NTHL1、MLH1、MSH2、MSH3、MSH6、PMS1、ERCC1、RTEL1、SMARCAD1-1、SMARCAD1-2、DSS1、TOP1、TOP2-alpha、TOP3-alpha、SFR1等が挙げられる。ここで、上記の各遺伝子は、それぞれ、クリプトコッカス属菌におけるヒト遺伝子のホモログ又はオルソログを意味する。

【0038】
下記表1及び2に上記各遺伝子の塩基配列の対応を示す。例えば、クリプトコッカス属菌におけるヒトAPEX1遺伝子のホモログの塩基配列は、配列番号13に記載の塩基配列の第642092番目~第644676番目に対応し、以下同様である。

【0039】
【表1】
JP2019184500A_000002t.gif

【0040】
【表2】
JP2019184500A_000003t.gif

【0041】
[乳癌細胞又は卵巣癌細胞のPARP阻害剤に対する耐性解除剤のスクリーニング方法]
1実施形態において、本発明は、乳癌細胞又は卵巣癌細胞のPARP阻害剤に対する耐性解除剤のスクリーニング方法であって、クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株をPARP阻害剤耐性にする変異遺伝子を特定することと、被験物質の存在下で、前記変異遺伝子にコードされるタンパク質の活性を測定することとを含み、前記被験物質の存在下における前記タンパク質の活性が、前記被験物質の非存在下における前記タンパク質の活性と比較して低いことが、前記被験物質が乳癌細胞又は卵巣癌細胞のPARP阻害剤に対する耐性解除剤であることを示す、スクリーニング方法を提供する。

【0042】
本実施形態のスクリーニング方法において、被験物質、クリプトコッカス属菌は、上述したものと同様である。また、PARP阻害剤としては、オラパリブ、イニパリブ(BSI201)、ABT-888(ベリパリブ)、AG014699、CEP9722、MK4827、LT-673、3-アミノベンズアミド、A-966492、AZD2461等が挙げられる。

【0043】
上述したように、癌の治療にオラパリブ等のPARP阻害剤を使用した場合、PARP阻害剤に対する耐性を有する癌細胞が出現することが知られている。本実施形態のスクリーニング方法によれば、乳癌細胞又は卵巣癌細胞の、PARP阻害剤に対する耐性解除剤をスクリーニングすることができる。

【0044】
クリプトコッカス属菌のBRH2遺伝子欠損株をPARP阻害剤耐性にする変異遺伝子は、例えば、次のようにして特定することができる。まず、BRH2遺伝子欠損株から、PARP阻害剤に対する耐性菌を単離する。これは、BRH2遺伝子欠損株に変異原処理を行い、PARP阻害剤に耐性となった菌(以下、「PARP阻害剤耐性株」という場合がある。)を分離することによって行うことができる。

【0045】
あるいは、BRH2遺伝子及びPARP遺伝子の二重欠損株のDNA損傷剤に対する高感受性が低感受性となった変異株(三重変異株、以下、「PARP阻害剤耐性株」という場合がある。)を分離することによって行うことができる。ここで、DNA損傷剤としては、例えば、オパラリブ、シスプラチン等が挙げられる。

【0046】
続いて、PARP阻害剤耐性株で変異した遺伝子を特定する。これにより特定された変異遺伝子は、PARP阻害剤に対する耐性獲得に関与していると考えられる。

【0047】
そこで、この変異遺伝子にコードされるタンパク質の阻害剤を、PARP阻害剤に対する耐性解除剤であると判断する。すなわち、このような阻害剤をPARP阻害剤耐性株に投与すると、PARP阻害剤に対する耐性獲得に関与するタンパク質の活性が阻害されてPARP阻害剤に対する耐性が解除され、DNA損傷に対する感受性を再び上昇させることができる。

【0048】
上記変異遺伝子にコードされるタンパク質の活性は、当業者であれば、遺伝子に応じて予測し、測定することができる。被験物質の存在下で、上記変異遺伝子にコードされるタンパク質の活性を測定した結果、被験物質の存在下における上記タンパク質の活性が、被験物質の非存在下における上記タンパク質の活性と比較して低かった場合、当該被験物質は、上記タンパク質の阻害剤であるということができる。このような被験物質は、乳癌細胞又は卵巣癌細胞のPARP阻害剤に対する耐性を解除することができ、PARP阻害剤に対する耐性解除剤の候補であると判断することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
[実験例1]
(クリプトコッカス・リクエファシエンスの全ゲノムDNAの塩基配列の決定)
クリプトコッカス・リクエファシエンスN6株をYPD培地で培養した。続いて、クリプトコッカス・リクエファシエンスN6株からゲノムDNAを抽出し、シーケンス用ライブラリを調製した。ライブラリの調製には、市販のキット(型式「illumina TruSeq DNA PCR-Free Sample Prep Kit」、イルミナ社、及び、型式「Nextera Mate Pair Library Prep Kit」、イルミナ社)を用いた。
【実施例】
【0051】
続いて、調製したライブラリを次世代シーケンサー(型式「Miseq」、イルミナ社)に供し、300塩基ずつのペアエンドシーケンスを行った。
【実施例】
【0052】
続いて、得られたシーケンスデータを、ゲノムアセンブリ用プログラム(名称「Platanus」、http://platanus.bio.titech.ac.jp/)を用いてアセンブルすることにより、全ゲノムDNAの塩基配列を決定した。
【実施例】
【0053】
下記表3に、決定したスキャホールドの塩基配列の配列番号を示す。また、配列番号59は、ミトコンドリアゲノムの塩基配列である。
【実施例】
【0054】
【表3】
JP2019184500A_000004t.gif
【実施例】
【0055】
また、クリプトコッカス・リクエファシエンスN6株のmRNA-seqも行った。具体的には、培養したクリプトコッカス・リクエファシエンスN6株からmRNAを抽出し、シーケンス用ライブラリを調製した。ライブラリの調製には、市販のキット(型式「KAPA Stranded mRNA-Seq Kit」、KAPABIOSYSTEMS社)を用いた。
【実施例】
【0056】
続いて、調製したライブラリを次世代シーケンサー(型式「Miseq」、イルミナ社)に供し、300塩基ずつのペアエンドシーケンスを行った。
【実施例】
【0057】
[実験例2]
(クリプトコッカス・リクエファシエンスにおけるBRCA2ホモログの同定)
実験例1で決定した、クリプトコッカス・リクエファシエンスのゲノムDNAの塩基配列から予想されるタンパク質のアミノ酸配列に対して、相同性検索を行い、ヒトBRCA2タンパク質のホモログを探索した。その結果、ヒトBRCA2タンパク質に相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子を見出し、BRH2遺伝子と命名した。
【実施例】
【0058】
ヒトBRCA2タンパク質のアミノ酸配列を配列番号60に示す。また、クリプトコッカス・リクエファシエンスのBRH2遺伝子の塩基配列を配列番号61に示し、Brh2タンパク質のアミノ酸配列を配列番号62に示す。また、ウスチラゴ・メイディスのBRCA2ホモログ(以下、「BRH2遺伝子」又は「Brh2タンパク質」という。)の塩基配列を配列番号63に示し、アミノ酸配列を配列番号64に示す。
【実施例】
【0059】
図1(a)は、ヒトBRCA2タンパク質、ウスチラゴ・メイディスBrh2タンパク質及びクリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質の構造を示す模式図である。ヒトBRCA2タンパク質はBRCリピートと呼ばれるモチーフとCCRと呼ばれるモチーフを有することが知られている。図1(a)において、黒いボックスで各タンパク質におけるBRCリピートを示し、灰色のボックスでCCRを示す。
【実施例】
【0060】
また、図1(a)中、「Hs BRCA2」はヒトBRCA2タンパク質を示し、「Um Brh2」はウスチラゴ・メイディスBrh2タンパク質を示し、「Cl Brh2」はクリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質を示す。
【実施例】
【0061】
また、図1(b)は、ヒトBRCA2タンパク質の第4番目のBRCリピートとクリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質の第1番目のBRCリピート、及び、ヒトBRCA2タンパク質の第7番目のBRCリピートとクリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質の第2番目のBRCリピートのアミノ酸配列を、それぞれアライメントした図である。
【実施例】
【0062】
図1(b)中、「Hs BRC4」はヒトBRCA2タンパク質の第4番目のBRCリピートを示し、「Hs BRC7」はヒトBRCA2タンパク質の第7番目のBRCリピートを示し、「Cl BRC1」はクリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質の第1番目のBRCリピートを示し、「Cl BRC2」はクリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質の第2番目のBRCリピートを示す。また、図1(b)中、黒いボックスは一致したアミノ酸を示し、灰色のボックスは性質の類似したアミノ酸を示す。
【実施例】
【0063】
また、図1(c)は、ヒトBRCA2タンパク質のCCR、ウスチラゴ・メイディスBrh2タンパク質のCCR及びクリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質のCCRのアミノ酸配列を、それぞれアライメントした図である。
【実施例】
【0064】
図1(c)中、「Hs CCR」はヒトBRCA2タンパク質のCCRを示し、「Um CCR」はウスチラゴ・メイディスBrh2タンパク質のCCRを示し、「Cl CCR」はクリプトコッカス・リクエファシエンスBrh2タンパク質のCCRを示す。また、図1(c)中、黒いボックスは一致したアミノ酸を示し、灰色のボックスは性質の類似したアミノ酸を示す。
【実施例】
【0065】
[実験例3]
(クリプトコッカス・リクエファシエンスにおけるPARPホモログの同定)
実験例1で決定した、クリプトコッカス・リクエファシエンスのゲノムDNAの塩基配列から予想されるタンパク質のアミノ酸配列に対して、相同性検索を行い、ヒトPARPタンパク質のホモログを探索した。その結果、ヒトPARPタンパク質に相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子を見出した。
【実施例】
【0066】
ヒトPARP1タンパク質のアミノ酸配列を配列番号65に示す。また、クリプトコッカス・リクエファシエンスのPARP遺伝子の塩基配列を配列番号66に示し、Parpタンパク質のアミノ酸配列を配列番号67に示す。
【実施例】
【0067】
図2(a)は、ヒトPARP1タンパク質及びクリプトコッカス・リクエファシエンスParpタンパク質の構造を示す模式図である。ヒトPARP1タンパク質はZincフィンガーモチーフとポリメラーゼの活性中心領域(HYE配列)を有することが知られている。図2(a)中、「Hs PARP1」はヒトPARP1タンパク質を示し、「Cl Parp」はクリプトコッカス・リクエファシエンスParpタンパク質を示す。また、黒いボックスで各タンパク質におけるZincフィンガーモチーフを示し、灰色のボックスでHYE配列を示す。
【実施例】
【0068】
図2(b)は、クリプトコッカス・リクエファシエンスParpタンパク質のアミノ酸配列である。図2(b)において、黒いボックスはZincフィンガーモチーフに存在するアミノ酸残基を示し、灰色のボックスはHYE配列中の特徴的なアミノ酸残基を示す。具体的には、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の結合に重要なアミノ酸残基であるヒスチジン(H)及びチロシン(Y)、並びにポリメラーゼ活性に重要なアミノ酸残基であるグルタミン酸(E)を示す。また、四角で囲んだアミノ酸配列は、推測される核移行シグナルである。
【実施例】
【0069】
[実験例4]
(クリプトコッカス・リクエファシエンスにおけるRAD51ホモログの同定)
実験例1で決定した、クリプトコッカス・リクエファシエンスのゲノムDNAの塩基配列から予想されるタンパク質のアミノ酸配列に対して、相同性検索を行い、ヒトRAD51タンパク質のホモログを探索した。その結果、ヒトRAD51タンパク質に相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子を見出した。
【実施例】
【0070】
ヒトRAD51タンパク質のアミノ酸配列を配列番号68に示す。また、クリプトコッカス・リクエファシエンスのRAD51遺伝子の塩基配列を配列番号69に示し、Rad51タンパク質のアミノ酸配列を配列番号70に示す。
【実施例】
【0071】
[実験例5]
(クリプトコッカス・リクエファシエンスの形質転換技術の確立)
まず、酵母の遺伝学で広く使用されている薬剤である、ノーセオスリシン(Nourseothricin、NAT)、ネオマイシン(Neomycin、Neo)及びハイグロマイシン(hygromycin、Hyg)を、クリプトコッカス・リクエファシエンスにおける選択マーカーとして使用するため、各薬剤に対する耐性遺伝子の発現プラスミドを作製した。
【実施例】
【0072】
具体的には、各薬剤に対して耐性となるタンパク質をコードする遺伝子である、NAT耐性遺伝子、Neo耐性遺伝子及びHyg耐性遺伝子のコーディング領域に、クリプトコッカス・リクエファシエンスのTEF1プロモーター及びURA5ターミネーターをそれぞれ連結した発現プラスミドを作製した。以下、NAT耐性遺伝子の発現プラスミドを「pBS-NAT」といい、Neo耐性遺伝子の発現プラスミドを「pBS-Neo」といい、Hyg耐性遺伝子の発現プラスミドを「pBS-Hyg」という。
【実施例】
【0073】
クリプトコッカス・リクエファシエンスのTEF1プロモーターは、クリプトコッカス・リクエファシエンスのゲノムDNAを鋳型に用いたPCRにより調製した。pBS-NAT用のTEF1プロモーターは、プライマーPmp1(配列番号71)及びプライマーPmp2(配列番号72)を用いたPCRにより調製した。また、pBS-Neo用のTEF1プロモーターは、プライマーPmp1(配列番号71)及びプライマーPmp7(配列番号77)を用いたPCRにより調製した。また、pBS-Hyg用のTEF1プロモーターは、プライマーPmp1(配列番号71)及びプライマーPmp11(配列番号81)を用いたPCRにより調製した。
【実施例】
【0074】
また、クリプトコッカス・リクエファシエンスのURA5ターミネーターも、クリプトコッカス・リクエファシエンスのゲノムDNAを鋳型に用いたPCRにより調製した。pBS-NAT用のURA5ターミネーターは、プライマーPmp5(配列番号75)及びプライマーPmp6(配列番号76)を用いたPCRにより調製した。また、pBS-Neo用のURA5ターミネーターは、プライマーPmp6(配列番号76)及びプライマーPmp8(配列番号78)を用いたPCRにより調製した。pBS-Hyg用のURA5ターミネーターは、プライマーPmp6(配列番号76)及びプライマーPmp12(配列番号82)を用いたPCRにより調製した。
【実施例】
【0075】
また、NAT耐性遺伝子は、プラスミドpFA6a-NAT(英国サセックス大学のAntony M. Carr博士より分与して頂いた。)を鋳型として、プライマーPmp3(配列番号73)及びプライマーPmp4(配列番号74)を用いたPCRにより調製した。また、Neo耐性遺伝子は、プラスミドpcDNA3(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を鋳型として、プライマーPmp9(配列番号79)及びプライマーPmp10(配列番号80)を用いたPCRにより調製した。また、Hyg耐性遺伝子は、プラスミドpFA6a-hphMX6(英国サセックス大学のAntony M. Carr博士より分与して頂いた。)を鋳型として、プライマーPmp13(配列番号83)及びプライマーPmp14(配列番号84)を用いたPCRにより調製した。
【実施例】
【0076】
下記表5に、pBS-NAT、pBS-Neo及びpBS-Hygの作製に用いたプライマーの塩基配列を示す。
【実施例】
【0077】
【表4】
JP2019184500A_000005t.gif
【実施例】
【0078】
続いて、TEF1プロモーター、各薬剤耐性遺伝子、URA5ターミネーターを、それぞれフュージョンPCRで連結し、pBluescriptII SK(+)(アジレント・テクノロジー社)のXbaI、BamHIサイトにクローニングし、pBS-NAT、pBS-Neo、pBS-Hygの各発現プラスミドを作製した。
【実施例】
【0079】
また、条件検討を行った結果、クリプトコッカス・リクエファシエンスへの遺伝子導入は電気穿孔法で行い、遺伝子導入条件は次の通りとした。まず、クリプトコッカス・リクエファシエンスを指数増殖期まで培養し、3,500×gで5分間遠心して集菌した。続いて、菌体をEBバッファー(10mM Tris-HCl、pH7.5、1mM MgCl、270mMスクロース)で2回洗浄し、4mMジチオトレイトール(DTT)を含むEBバッファーで懸濁した。続いて、菌体を氷上で15分静置後、EBバッファーで更に一回洗浄し、EBバッファーに再度懸濁した。
【実施例】
【0080】
1回の形質転換あたり、1.5×10個の細胞に3μgのDNAを加え、0.2cmのキュベットにセットし、エレクトロポレーションシステム(型式「ジーンパルサー」、バイオラッド社)を用いて、0.6kV、125μF、1000Ωの条件でパルス処理を行った。続いて、パルス処理した細胞を2mLの完全培地に懸濁し、30℃で2~3時間培養した後、適切な選択培地上に播種し、30℃で形質転換体が現れるまで3日間ほど培養した。
【実施例】
【0081】
また、条件検討を行った結果、クリプトコッカス・リクエファシエンスの完全培地での薬剤耐性菌は以下の条件で選択した。すなわち、ノーセオスリシン耐性菌は100μg/mLのノーセオスリシンの存在下で選択した。また、ネオマイシン耐性菌は50μg/mLのG418の存在下で選択した。また、ハイグロマイシン耐性菌は40μg/mLのハイグロマイシンの存在下で選択した。
【実施例】
【0082】
[実験例6]
(クリプトコッカス・リクエファシエンスのBRH2遺伝子破壊株の作製)
スプリットマーカー法を用いて、クリプトコッカス・リクエファシエンスのBRH2遺伝子破壊株を作製した。
【実施例】
【0083】
まず、実験例1で決定した、クリプトコッカス・リクエファシエンスのゲノムDNAの塩基配列に基づいて、クリプトコッカス・リクエファシエンスのBRH2遺伝子座の上流50bp(以下、「left配列」という場合がある。)及び下流50bp(以下、「right配列」という場合がある。)のゲノムDNAの塩基配列を特定した。
【実施例】
【0084】
続いて、実験例5で作製したpBS-NATの、TEF1プロモーター-NAT耐性遺伝子-URA5ターミネーターを含む領域を増幅できる塩基配列のペア(TATCTGGCTCGATCGCAGCG(配列番号85)、CCCCATCCCCAATCTTTCTT(配列番号86))のそれぞれの5’末端に、上記のleft配列、right配列を付加した塩基配列を有するオリゴDNAを合成した。
【実施例】
【0085】
続いて、pBS-NATを鋳型とし、合成したオリゴDNAのペアをプライマーに用いたPCRにより、left配列-TEF1プロモーター-NAT耐性遺伝子-URA5ターミネーター-right配列の塩基配列を有するDNA断片を調製した。
【実施例】
【0086】
続いて、スプリットマーカー法に用いる2種類のDNA断片を調製した。図3(a)は、スプリットマーカー法によりクリプトコッカス・リクエファシエンスのBRH2遺伝子を破壊した手順を説明する模式図である。図3(a)中、「left」はleft配列を示し、「right」はright配列を示し、「TEF1」はTEF1プロモーターを示し、「NAT」はNAT耐性遺伝子を示し、「BRH2」はBRH2遺伝子を示す。図3(a)において、URA5ターミネーターは図示されていない。
【実施例】
【0087】
スプリットマーカー法では、2種類のDNA断片をクリプトコッカス・リクエファシエンスに導入し形質転換する。1方のDNA断片は、left配列-TEF1プロモーター-NAT耐性遺伝子の5’側の塩基配列を有しており、NAT耐性遺伝子の3’側は欠失していた。他方のDNA断片は、上記1方のDNA断片のNAT耐性遺伝子と約400bp重複した、NAT耐性遺伝子の3’側-Ura5ターミネーター-right配列の塩基配列を有しており、NAT耐性遺伝子の5’側は欠失していた。
【実施例】
【0088】
これらの2種類のDNA断片をクリプトコッカス・リクエファシエンスに導入して形質転換し、NAT耐性株を取得することにより、BRH2遺伝子破壊株を得た。
【実施例】
【0089】
[実験例7]
(クリプトコッカス・リクエファシエンスのPARP遺伝子破壊株の作製)
left配列及びright配列として、クリプトコッカス・リクエファシエンスのPARP遺伝子座の上流50bp及び下流50bpのゲノムDNAの塩基配列をそれぞれ用いた点以外は、実験例6と同様にして、クリプトコッカス・リクエファシエンスのPARP遺伝子破壊株を作製した。
【実施例】
【0090】
図3(b)は、スプリットマーカー法によりクリプトコッカス・リクエファシエンスのPARP遺伝子を破壊した手順を説明する模式図である。図3(b)中、「left」はleft配列を示し、「right」はright配列を示し、「TEF1」はTEF1プロモーターを示し、「NAT」はNAT耐性遺伝子を示し、「PARP」はPARP遺伝子を示す。図3(b)において、URA5ターミネーターは図示されていない。
【実施例】
【0091】
[実験例8]
(クリプトコッカス・リクエファシエンスのRAD51遺伝子破壊株の作製)
left配列及びright配列として、クリプトコッカス・リクエファシエンスのRAD51遺伝子座の上流50bp及び下流50bpのゲノムDNAの塩基配列をそれぞれ用いた点以外は、実験例6と同様にして、クリプトコッカス・リクエファシエンスのRAD51遺伝子破壊株を作製した。
【実施例】
【0092】
図3(c)は、スプリットマーカー法によりクリプトコッカス・リクエファシエンスのRAD51遺伝子を破壊した手順を説明する模式図である。図3(c)中、「left」はleft配列を示し、「right」はright配列を示し、「TEF1」はTEF1プロモーターを示し、「NAT」はNAT耐性遺伝子を示し、「RAD51」はRAD51遺伝子を示す。図3(c)において、URA5ターミネーターは図示されていない。
【実施例】
【0093】
[実験例9]
(紫外線感受性の検討)
実験例6、7、8でそれぞれ作製した、クリプトコッカス・リクエファシエンスのBRH2遺伝子破壊株、PARP遺伝子破壊株及びRAD51遺伝子破壊株の紫外線感受性を検討した。
【実施例】
【0094】
まず、各遺伝子破壊株を液体完全培地で一晩培養し、10倍毎の希釈系列を作製した。続いて、寒天培地上に、各遺伝子破壊株の希釈系列をスポットした。続いて、紫外線ランプ(型式「GL15」、東芝ライフテック社)を用いて300J/mの紫外線を照射した。続いて、30℃で3日間培養し、スポットを観察した。また、比較のために、野生型のクリプトコッカス・リクエファシエンスについても同様の実験を行った。
【実施例】
【0095】
図4(a)は、対照として、紫外線照射を行わなかった点以外は、同様の操作を行ったクリプトコッカス・リクエファシエンスのスポットの写真である。図4(b)は、紫外線照射を行ったクリプトコッカス・リクエファシエンスのスポットの写真である。
【実施例】
【0096】
図4(a)及び(b)中、「WT」は野生型のクリプトコッカス・リクエファシエンスを示し、「RAD51Δ」はRAD51遺伝子破壊株を示し、「BRH2Δ」はBRH2遺伝子破壊株を示し、「PARPΔ」はPARP遺伝子破壊株を示す。
【実施例】
【0097】
その結果、BRH2遺伝子、PARP遺伝子、RAD51遺伝子のいずれの破壊株も紫外線照射によるDNA傷害に感受性を示すことが明らかとなった。この結果は、クリプトコッカス・リクエファシエンスを、ヒトBRCA2遺伝子、ヒトPARP遺伝子、ヒトRAD51遺伝子の機能解析を行うモデル生物として使用することができることを示す。
[実験例10]
(抗癌剤感受性の検討)
実験例6、7、8でそれぞれ作製した、クリプトコッカス・リクエファシエンスのBRH2遺伝子破壊株、PARP遺伝子破壊株及びRAD51遺伝子破壊株の抗癌剤に対する感受性を検討した。抗癌剤としては、ブレオマイシン及びフィレオマイシンを使用した。
【実施例】
【0098】
まず、各遺伝子破壊株を液体完全培地で一晩培養し、10倍毎の希釈系列を作製した。続いて、各希釈系列に終濃度0.5μU/mLのブレオマイシン又は終濃度1.5μg/mLのフィレオマイシンをそれぞれ添加し、寒天培地上にスポットした。続いて、30℃で3日間培養し、スポットを観察した。また、比較のために、野生型のクリプトコッカス・リクエファシエンスについても同様の実験を行った。
【実施例】
【0099】
図4(a)は、対照として、抗癌剤に暴露しなかった点以外は、同様の操作を行ったクリプトコッカス・リクエファシエンスのスポットの写真である。図4(c)は、ブレオマイシンに暴露したクリプトコッカス・リクエファシエンスのスポットの写真である。図4(d)は、フィレオマイシンに暴露したクリプトコッカス・リクエファシエンスのスポットの写真である。
【実施例】
【0100】
図4(a)、(c)及び(d)中、「WT」は野生型のクリプトコッカス・リクエファシエンスを示し、「Rad51Δ」はRAD51遺伝子破壊株を示し、「Brh2Δ」はBRH2遺伝子破壊株を示し、「ParpΔ」はPARP遺伝子破壊株を示す。
【実施例】
【0101】
その結果、BRH2遺伝子、PARP遺伝子、RAD51遺伝子のいずれの破壊株もブレオマイシン及びフィレオマイシンに感受性を示すことが明らかとなった。この結果は、クリプトコッカス・リクエファシエンスを、ヒトBRCA2遺伝子、ヒトPARP遺伝子、ヒトRAD51遺伝子の機能解析を行うモデル生物として使用することができることを更に支持するものである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の治療薬をスクリーニングする技術を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3