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明細書 :ホウ素原子層シートおよび積層シートとその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6656563号 (P6656563)
公開番号 特開2019-137570 (P2019-137570A)
登録日 令和2年2月7日(2020.2.7)
発行日 令和2年3月4日(2020.3.4)
公開日 令和元年8月22日(2019.8.22)
発明の名称または考案の名称 ホウ素原子層シートおよび積層シートとその製造方法
国際特許分類 C01B  35/16        (2006.01)
C30B  29/16        (2006.01)
B82Y  30/00        (2011.01)
B82Y  40/00        (2011.01)
FI C01B 35/16
C30B 29/16
B82Y 30/00
B82Y 40/00
請求項の数または発明の数 20
全頁数 17
出願番号 特願2018-020443 (P2018-020443)
出願日 平成30年2月7日(2018.2.7)
審査請求日 令和元年6月26日(2019.6.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
発明者または考案者 【氏名】神戸 徹也
【氏名】今岡 笙太郎
【氏名】渡邉 藍子
【氏名】山元 公寿
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110003063、【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
【識別番号】100174702、【弁理士】、【氏名又は名称】安藤 拓
審査官 【審査官】小野 久子
参考文献・文献 特開2002-274841(JP,A)
ZHANG, Ruiqi, et al,Two-Dimensional Stoichiometric Boron Oxides as a Versatile Platform for Electronic Structure Engineering,Journal of Physical Chemistry Letters,2017年,Vol.8, No.18,pp.4347-4353,特にAbstract, p.4348, Figure 1
LUO, W. W., et al.,The adsorption and dissociation of oxygen on Ag(111) supported χ3 borophene,Physica B: Condensed Matter,2018年 1月31日,Vol.537,pp.1-6,特にAbstract, p.4, Figure 3
調査した分野 C01B35/10
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B35/16
C30B29/16
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素-ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化された、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満であり、ホウ素と酸素からなる原子層がアニオン性である原子層シート。
【請求項2】
更にアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含む請求項1に記載の原子層シート。
【請求項3】
更にアルカリ金属イオンを含み、アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である請求項1に記載の原子層シート。
【請求項4】
骨格組成がB53である請求項1~3のいずれか一項に記載の原子層シート。
【請求項5】
前記骨格がホウ素-ホウ素結合を有する3回対称性を有する請求項4に記載の原子層シート。
【請求項6】
前記骨格部位である構成要素Xと、それ以外の構成要素Yとを含み、前記構成要素Yが、末端部位および/または欠損部位である請求項4または5に記載の原子層シート。
【請求項7】
前記構成要素Yが、B-OHを含むホウ素酸化物部位である請求項6に記載の原子層シート。
【請求項8】
X線光電子分光測定において、190.5~193.0eVと、192.5~194.0eVに各々B-1s準位に由来するピークを有する請求項6または7に記載の原子層シート。
【請求項9】
前記X線光電子分光測定において、190.5~193.0eVのピークが前記構成要素Xに対応している請求項8に記載の原子層シート。
【請求項10】
IR測定において、B-O伸縮に由来する2種類のピークを1300~1500cm-1付近に有し、かつBO-H伸縮に由来するピークを3100cm-1付近に有する請求項6~9のいずれか一項に記載の原子層シート。
【請求項11】
前記IR測定において、B-O伸縮に由来する2種類のピークのうち低波数側のピークが前記構成要素Xに対応している請求項10に記載の原子層シート。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の複数の原子層シートと、前記原子層シート間の金属イオンとを含み、前記金属イオンがアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンである積層シート。
【請求項13】
前記金属イオンがアルカリ金属イオンであり、アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である請求項12に記載の積層シート。
【請求項14】
請求項12または13に記載の積層シートを含む結晶。
【請求項15】
有機溶媒を含む溶媒中に、不活性ガス雰囲気下でMBH4(Mはアルカリ金属イオンを示す。)を添加し溶液を調製する工程と、
前記溶液を、酸素を含む雰囲気に曝す工程とを含む、ホウ素と酸素を含む原子層シートおよび/または積層シートの製造方法。
【請求項16】
前記原子層シートが、骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素-ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化された、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満である原子層シートであり、前記積層シートが、複数の前記原子層シートと、前記原子層シート間の前記アルカリ金属イオンとを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項12または13に記載の積層シートと、クラウンエーテルおよびクリプタンドから選ばれる少なくとも1種とを、有機溶媒を含む溶媒中に添加し、前記積層シートを剥離する工程を含む、積層シートの剥離物の製造方法。
【請求項19】
請求項12または13に記載の積層シートを、非プロトン性高極性溶媒中に添加し、前記積層シートを剥離する工程を含む、積層シートの剥離物の製造方法。
【請求項20】
前記剥離物は、単層の原子層シートを含む、請求項18または19に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素原子層シートおよび積層シートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1次元のナノチューブやナノワイヤ、2次元の層状物質やナノシート、3次元の多孔物質やデンドリマー等の構造を精密に制御したナノ構造体は、空間と形状を利用することで多彩な機能と物性が発現する。
【0003】
これらのうち炭素の原子層物質であるグラフェンは、機械強度、熱伝導性、電気伝導性等の物性に優れ、スコッチテープにグラファイトを貼り付けて剥がすことで得られることが2004年に発見されてから、その応用研究が進み、例えば、グラフェン類縁体は、グラフェンの修飾や構成元素の変更の観点から検討されてきた。
【0004】
構成元素の変更の観点では、窒化ホウ素(BN)、シリセン(Si)、ゲルマネン(Ge)、ボロフェン(B)等が知られている。ボロフェンは、ホウ素単層ナノシートであり、Wangらは、気相真空系により36原子からなるB36クラスターの合成を行ない、光電子スペクトルと理論計算によるシミュレーションの比較から構造を同定することで、ボロフェン類似クラスターの合成を報告した(非特許文献1)。その後、単位構造ではなく2次元に広がるシートとしてのボロフェンは、Guisingerら(非特許文献2)、Wuら(非特許文献3)によtって、超高真空下でのAg(111)面上へのホウ素の真空蒸着による合成が報告されている。このボロフェンは、大気下では存在し得ない物質である。一方ボロファンは、末端を水素で保護したホウ素単層ナノシートで、ディラック粒子の速度や機械強度がグラフェンを超えると見込まれ、理論計算では大気中で存在可能と予測されていたが、最近になってその合成が報告された(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Nat Commun 2014, 5, 3113.
【非特許文献2】Science 350, 1513-1516 (2015).
【非特許文献3】Nat. Chem., 8, 563-568 (2016).
【非特許文献4】https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2017/09/press20170926-02.html
【発明の概要】
【0006】
以上の背景において、これまでにない新規なホウ素原子層シートおよび積層シートが得られた知見に基づき、以下の発明を提供する。
[1]骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素-ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化された、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満である原子層シート。
[2]更にアルカリ金属イオンを含み、アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である[1]の原子層シート。
[3]MBH(Mはアルカリ金属イオンを示す。)の酸化生成物である[1]または[2]の原子層シート。
[4]骨格組成がBである[1]~[3]のいずれかの原子層シート。
[5]前記骨格がホウ素-ホウ素結合を有する3回対称性を有する[4]の原子層シート。
[6]前記骨格部位である構成要素Xと、それ以外の構成要素Yとを含む[4]または[5]の原子層シート。
[7]前記構成要素Yが、末端部位および/または欠損部位である[6]の原子層シート。
[8]前記構成要素Yが、B-OHを含むホウ素酸化物部位である[6]または[7]の原子層シート。
[9]X線光電子分光測定において、190.5~193.0eVと、192.5~194.0eVに各々B-1s準位に由来するピークを有する[6]~[8]のいずれかの原子層シート。
[10]前記X線光電子分光測定において、190.5~193.0eVのピークが前記構成要素Xに対応している[9]の原子層シート。
[11]IR測定において、B-O伸縮に由来する2種類のピークを1300~1500cm-1付近に有し、かつBO-H伸縮に由来するピークを3100cm-1付近に有する[6]~[10]のいずれかの原子層シート。
[12]前記IR測定において、B-O伸縮に由来する2種類のピークのうち低波数側のピークが前記構成要素Xに対応している[11]の原子層シート。
[13] [1]~[12]のいずれかの複数の原子層シートと、前記原子層シート間の金属イオンとを含む積層シート。
[14]前記金属イオンがアルカリ金属イオンである[13]の積層シート。
[15]アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である[14]の積層シート。
[16] [13]~[15]のいずれかの積層シートを含む結晶。
[17]有機溶媒を含む溶媒中に、不活性ガス雰囲気下でMBH(Mはアルカリ金属イオンを示す。)を添加し溶液を調製する工程と、前記溶液を、酸素を含む雰囲気に曝す工程とを含む、ホウ素と酸素を含む原子層シートおよび/または積層シートの製造方法。
[18]前記原子層シートが、骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素-ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化された、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満である原子層シートであり、前記積層シートが、複数の前記原子層シートと、前記原子層シート間の金属イオンとを含む[17]の方法。
[19]前記金属イオンがアルカリ金属イオンであり、アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である[18]の方法。
[20] [13]~[15]のいずれかの積層シートと、クラウンエーテルおよびクリプタンドから選ばれる少なくとも1種とを、有機溶媒を含む溶媒中に添加し、前記積層シートを剥離する工程を含む、積層シートの剥離物の製造方法。
[21] [13]~[15]のいずれかの積層シートを、非プロトン性高極性溶媒中に添加し、前記積層シートを剥離する工程を含む、積層シートの剥離物の製造方法。
[22]前記剥離物は、単層の原子層シートを含む、[20]または[21]の方法。
【0007】
本発明のホウ素原子層シートおよび積層シートは、以下に開示する構造的特徴から、各種産業への応用が期待できる。ホウ素の原子層物質のボトムアップ合成や大気圧中での液相合成、また大気中で安定であることは、従来技術と対比して特徴的な知見であり、このホウ素層状単結晶は物理的および化学的溶解法により単層化することができる。物理的な力を結晶に加えることで、基板上に単層に相当する厚さのシート物質を得ることができる。また、この層状単結晶は非プロトン性の一般的な有機溶媒には溶けないが、層間の金属イオンを捕捉するクリプタンドやクラウンエーテルの添加によって溶解する。金属イオンが溶け出した状態では、ホウ素シートも単層として溶液中に分散していると推測される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例において合成した針状結晶の写真である。
【図2】X線構造解析によるホウ素層状結晶の構造を示した図であり、(a)は層状断面、(b)と(c)は平面の結晶構造を示す。
【図3】X線構造解析によるホウ素層状結晶の構造を示した図であり、(a)はホウ素原子層の単位格子の推定構造、(b)は末端・欠損部位の単位格子の推定構造、(c)はB-B結合とB-O結合の距離を示している。
【図4】ホウ素層状結晶(上)とB(OH)(下)のIRスペクトルである。
【図5】(a)ホウ素層状結晶と(b)BおよびKBHのXPSスペクトルである。
【図6】(a)はX線単結晶構造解析における面指数分析、(b)はキャピラリー中のホウ素層状結晶のXRDパターンを示す。
【図7】ホウ素層状結晶、B(OH)およびBの(a)紫外-可視吸収スペクトル、(b)近赤外吸収スペクトルである。
【図8】(a)はホウ素層状結晶のSEM像、(b)はホウ素層状結晶から機械的圧力によって剥離したナノシートのSEM像である。
【図9】ホウ素層状結晶から剥離したナノシートのAFM像である。
【図10】ホウ素層状結晶から剥離したナノシートのAFM像と高さプロファイルである。
【図11】ホウ素層状結晶をクラウンエーテルにより溶解しHOPG基板にキャストしたナノシートのAFM像である。
【図12】ホウ素層状結晶から剥離したナノシートの(a)STEM像と(b)高分解TEM像である。
【図13】ホウ素層状結晶から剥離したナノシートの格子パターンの高分解TEM像である。
【図14】(a)は50℃から120℃まで加熱する間におけるホウ素層状結晶の結晶から液晶への相転移過程、(b)は120℃から35℃まで冷却する間におけるホウ素層状結晶の形状変化の偏光顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。

【0010】
本発明において、「原子層シート」は、ホウ素および酸素を主構成原子とする単原子層のシートであり、独立した単層シートの他、積層シート中の部分的な構成要素として存在する単層シート、独立した単層シートに電荷のバランスを保つ金属イオンが結合した金属イオン含有単層シート等も含む。本明細書では、ホウ素原子層シート、ナノシート等とも表記している。「積層シート」は、この原子層シートと、当該原子層シート間の金属イオンとを含む層状物質であり、本明細書では、ホウ素層状結晶等とも表記している。

【0011】
ボロフェンはホウ素単体からなるシート状物質であるが、ホウ素が作る三角形の格子と、spホウ素からなる六角形の空孔の比率によってその構造と安定性が議論される。三角形格子が存在するのは、一般的にホウ素の単体およびクラスターが、多中心結合による三角格子を単位ユニットとして安定な構造を形成するためであるとされている。本発明において「ホウ素-ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化された」とは、ボロフェン等のホウ素含有原子層シートにおける従来の結合様式の議論に沿う形で、二次元の結合態様を表現したものである。
(原子層シート)
本発明の原子層シートは、骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素-ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化され、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満である。ある態様では、更にアルカリ金属イオンを含み、アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である。これらの特定は、原子層シートがMBH(Mはアルカリ金属イオンを示す。)の酸化生成物である場合に基づいて、また従来のホウ酸はホウ素-酸素結合のみで、高分子化(重合)した場合は三次元的になり原子層シ-トにならないことを考慮している。酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)は、1.2以下、1.0以下、0.8以下であってよい。また0.1以上、0.3以上であってよい。アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)は、0.8以下、0.6以下、0.4以下であってよい。また0.01以上、0.05以上、0.1以上であってよい。

【0012】
以上のような本発明の原子層シートのうち、その一つの例として、骨格組成がBである原子層シートについて説明する。
<組成がBである原子層シート>
上記において、原子層シートの「骨格」とは、組成がBである図2(b)と(c)、図3(a)と(c)に示すような規則的な構造を持つ部位であり、主に末端部位や欠損部位以外のシート部分を占める。

【0013】
この原子層シートは骨格組成がBである。図2(b)と(c)、図3(a)と(c)に示すように、ホウ素と酸素から成る原子層であり、酸素と結合したホウ素同士が歪んだ六角形を作るように結合しながら、二次元状に広がった平面を形成している。

【0014】
ホウ素原子は、結晶の単位構造において六角形の頂点を占めるものと、六角形の各辺を占めるものとに分類される。六角形の各辺を占めるものは、交互に辺の内側、外側に位置している。従って骨格は、ホウ素-ホウ素結合の3回対称性を有する。

【0015】
酸素原子は、ホウ素原子による六角形の各辺で、3つのホウ素原子の隣接する2つのホウ素原子による2箇所のうち、1箇所を占有している(図2(b)と(c)、図3(a)と(c)において、便宜のために2箇所共に酸素原子を示しているが、図2(c)に示すようにその占有率は0.5である。)。

【0016】
ホウ素-ホウ素の結合距離は、1.6Åから1.9Åの間にあり、X線構造解析による値は1.784Åである。この結合距離はボロフェンに存在する2種類のホウ素-ホウ素結合の距離の平均値に近い値であり、単結合として報告されている値と酸素架橋として報告されている値の中間の値である。

【0017】
ホウ素-酸素の結合距離は、X線構造解析による値は六角形の辺に位置するホウ素で1.339Å、六角形の頂点に位置するホウ素で1.420Åである。

【0018】
この原子層シートは、骨格部位である構成要素Xと、それ以外の構成要素Yとを含む。典型的な態様において、構成要素Yは、末端部位および/または欠損部位である。

【0019】
典型的な態様において、構成要素Yは、B-OHを含むホウ素酸化物部位である。構成要素Yは、その構造が3価のBやB(OH)に類似する部位であり(図3(b))、骨格部位とはB-Oの結合状態が異なる。この原子層シートを含むホウ素層状結晶の測定による同定によれば、次のとおりである。

【0020】
IR測定(赤外吸収スペクトル)において、B-O伸縮に由来する2種類のピークを1300~1500cm-1付近に有し、かつBO-H伸縮に由来するピークを3100cm-1付近に有する。B-O伸縮に由来する2種類のピークのうち低波数側のピークが構成要素Xに対応している。具体的には、B-O領域のピークのうち、低波数側(1350cm—1付近)のピークが構成要素Xのホウ素シートに対応し、B(OH)で見られるB-O伸縮ピークと位置が類似する高波数側(1420cm—1付近)のピークが構成要素Yに対応する。3100cm—1付近におけるBO-H伸縮由来のピークも構成要素Yに対応する。

【0021】
X線光電子分光測定において、190.5~193.0eVと、192.5~194.0eVに各々B-1s準位に由来するピークを有する。190.5~193.0eVのピークが構成要素Xに対応している。具体的には、構成要素Xに対応するピークはホウ素が3価の状態であるB(193.3eV)と比較すると、やや低エネルギー側であることから、3価までの完全な酸化は進行していない。構成要素Xに対応するピークは2成分に分離可能であり、それぞれ構成要素Xのホウ素シート中の2種類のホウ素、すなわち結晶の単位構造において六角形の頂点を占めるものと、六角形の各辺を占めるものに対応している。最も酸化側の192.5~194.0eVのピークは、3価のホウ素を持つBと一致し、構成要素Yに対応している。

【0022】
紫外-可視吸収スペクトルにおいて、250nm以下の紫外領域に吸収を持ち、近赤外吸収スペクトルにおいて、1000~2500nmの近赤外領域にB-OやBO-Hの振動構造に由来するバンドを含む吸収を持つ。

【0023】
以上のように、この原子層シートは、骨格部位である構成要素Xは組成がBであり、B-OHを含むホウ素酸化物部位である構成要素Yはその構造が3価のBやB(OH)に類似する。この原子層シートにおいて、これらの構成要素X、Yを含むシート全体における酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)は、1.5未満であり、1.2以下、1.0以下であってよい。また0.6以上であり、0.7以上であってよい。
(積層シート)
本発明の積層シートは、以上に説明したような複数の原子層シートと、当該原子層シート間の金属イオンとを含む。原子層シートは、以上に説明したとおりのものであり、骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素-ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化され、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満である。また本発明の結晶は、この積層シートを含む。

【0024】
本発明の積層シートにおいて、原子層シート間の金属イオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。アルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン等が挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、例えば、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属イオン、特にカリウムイオンは好ましい態様である。アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)は、1未満である。

【0025】
組成がBである原子層シートの場合、図2(a)は積層シートの一例として参照される。この積層シートは、ホウ素と酸素を主原子とする原子層シートと、金属イオンが交互に積層する層状構造をなす。典型的な態様において、金属イオンは、積層面内において、原子層シートの単位構造におけるホウ素原子の六角形の内部に位置する。その結晶は、後述の製造方法では、ロッド状の単結晶として得られる。この針状の単結晶を含む典型的な態様では、結晶の伸長方向と積層方向であるc軸方向が一致し、伸長方向に沿って原子層シートが積層している。この積層シート(および結晶)は、積層シートの層間結合が脆弱で、機械的に圧力をかけることで、c軸方向(伸長方向)と垂直な方向に対し容易にへき開できる。例えば、結晶に対してHOPG基板を上から押し付けることで結晶をへき開し、表面に付着した結晶片のナノシートが積み重なる様子を観測することができる。
(積層シートの剥離物の製造方法)
本発明の積層シート(および結晶)は、この積層シートと、クラウンエーテルおよびクリプタンドから選ばれる少なくとも1種とを、有機溶媒を含む溶媒中に添加し、積層シートを剥離することができる。本発明の積層シートは、ファンデルワールス力で積層するグラファイトなどと異なり、アニオン性のホウ素シートとカチオン性の金属イオンのイオン性相互作用により積層しているため、クラウンエーテルおよびクリプタンドから選ばれる少なくとも1種で層間の金属イオン捕捉することで、金属イオンを有機溶媒中に溶出させ、シート構造を保持したまま積層シートを剥離することができる。

【0026】
剥離物は、単層の原子層シートを含む。例えば、上記方法によって得られた溶液をHOPG基板上に接触させ、溶媒を除去することによって、HOPG表面に付着した結晶片を単層シートもしくはそれに近いナノシートとして観察することができる。

【0027】
上記方法において、有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、非プロトン性中極性溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム(トリクロロメタン)、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、2-ブタノン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、デカン酸メチル、ラウリル酸メチル、アジピン酸ジイソブチル等のエステル類等)を含むことが好ましい。

【0028】
また、これらの非プロトン性中極性溶媒と共に、それらと相溶する、非プロトン性高極性溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1-メチル-2-ピロリジノン等)、非プロトン性低極性溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類等)、プロトン性溶媒(メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,1-ジメチル-1-エタノール、ヘキサノール、デカノール等のアルコール類、ギ酸、酢酸等のカルボン酸類、ニトロメタン等)を混合した溶媒であってもよい。また、有機溶媒を含む溶媒としては、水を含むものであってもよい。

【0029】
上記方法において、クラウンエーテルは、(-CH-CH-O-)で表される大環状のエーテルであり、例えば、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジアザ-18-クラウン-6等が挙げられる。クリプタンドは、2つ以上の環からなるかご状の多座配位子であり、例えば、[2.2.2]クリプタンド等が挙げられる。

【0030】
クラウンエーテルおよびクリプタンドから選ばれる少なくとも1種の添加量は、特に限定されないが、積層シートに対して過剰となる量が好ましい。

【0031】
本発明の積層シート(および結晶)は、非プロトン性高極性溶媒に溶解することによっても、積層シートを剥離することができる。得られた溶液をHOPG基板上に接触させ、溶媒を除去することによって、HOPG表面に付着した結晶片を単層シートもしくはそれに近いナノシートとして観察することができる。非プロトン性高極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1-メチル-2-ピロリジノン等が挙げられる。
(原子層シート、積層シートの製造方法)
本発明の原子層シートや積層シートのような、ホウ素と酸素を含む原子層シートおよび/または積層シートは、例えば、有機溶媒を含む溶媒中に、不活性ガス雰囲気下でMBH(Mはアルカリ金属イオンを示す。)を添加し溶液を調製し、この溶液を、酸素を含む雰囲気に曝すことによって製造することができる。酸素を含む雰囲気に曝す工程では、原子層シートや積層シートの結晶を成長させることができる。

【0032】
MBHのアルカリ金属イオンMとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。これらの中でも、カリウムイオンは好ましい態様である。

【0033】
MBHの濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.5~10mM、より好ましくは1~2mMである。

【0034】
不活性ガスとしては、MBHとの反応性を有しないものであれば特に限定されないが、例えば、アルゴン等の希ガス、窒素等が挙げられる。例えば、グローブボックスのような大気中の酸素を遮断し得る環境下で、MBHとの反応性を有しない不活性ガスに置換して、有機溶媒を含む溶媒中にMBHを添加し溶液を調製する。

【0035】
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、非プロトン性中極性溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム(トリクロロメタン)、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、2-ブタノン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、デカン酸メチル、ラウリル酸メチル、アジピン酸ジイソブチル等のエステル類等)を含むことが好ましい。また、これらの非プロトン性中極性溶媒と共に、それらと相溶する、非プロトン性高極性溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1-メチル-2-ピロリジノン等)、非プロトン性低極性溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類等)、プロトン性溶媒(メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,1-ジメチル-1-エタノール、ヘキサノール、デカノール等のアルコール類、ギ酸、酢酸等のカルボン酸類、ニトロメタン等)を混合した溶媒であってもよい。また、有機溶媒を含む溶媒としては、水を含むものであってもよい。

【0036】
酸素を含む雰囲気としては、特に限定されないが、大気下に解放することは好ましい態様である。

【0037】
酸素を含む雰囲気に曝した後、一旦加熱してもよい。加熱温度としては、特に限定されないが、30~40℃が好ましい。加熱時間は、30分~2時間が好ましい。

【0038】
酸素を含む雰囲気に曝した後、当該雰囲気において静置することが好ましい。酸素を含む雰囲気に曝す温度と時間は、特に限定されないが、結晶を十分に成長させる点等から、上記加熱した場合はその後、温度は室温(15~25℃)が好ましく、時間は3日間~1ケ月が好ましい。

【0039】
本発明の原子層シートおよび積層シートは、加熱生成物であるサーモトロピック液晶や、その他にも様々な産業への利用が期待できる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.ホウ素層状単結晶
1-1.結晶の合成
アルゴンガス雰囲気のグローブボックス中において、CHCl:MeCN=1:1の溶媒中に、KBHのMeOH溶液(5.0mg/mL)を添加した。KBHの濃度は1.4mMとした。
【実施例】
【0041】
得られた溶液を大気下に解放した後、40℃で1時間加熱した。その後、室温で2週間静置した。
【実施例】
【0042】
静置後、最長で約2cmの針状結晶の生成を確認した(図1)。
1-2.単結晶X線構造解析
得られた針状結晶の単結晶X線構造解析を行った。
【実施例】
【0043】
単結晶XRD測定を行ない構造を解析した結果、ホウ素と酸素から成る原子層と、カリウムイオンが交互に積層する層状構造が得られた(図2(a))。ホウ素と酸素の層では、酸素と結合したホウ素同士が歪んだ六角形を作るように結合しながら、二次元状に広がった原子層シートを形成していることがわかった(図2(b)、(c))。また、このホウ素原子層は歪のない完全平面であることがわかった。
【実施例】
【0044】
占有率はKが1、六角形の頂点部のBが1、六角形の辺上のBが0.635、Oが0.5となっている。OはBが作る六角形の各辺で2箇所のうち1箇所を占有していると考えられる(図2(c))。組成はホウ素シートに末端部位が必ず存在することを考慮して決定した(後述 図3(a)、(b))。
【実施例】
【0045】
ホウ素-ホウ素の結合距離1.784Åはボロフェンに存在する2種類のホウ素-ホウ素結合の距離(1.876Å、1.614Å)の平均値に近い値となった。また結晶内B-Bは、単結合の1.61Å(Z. Anorg. Allg. Chem. 2017, 643, 517)と酸素架橋の1.824Å(Inorg. Chem. 2015, 54, 2910)の中間の値となった(図3(c))。
【実施例】
【0046】
ホウ素シートとその末端・欠損部位では、B-Oの結合状態が異なることが予想されるため、IR測定によるホウ素層状結晶中での結合状態の評価を試みた(図4)。その結果、B-O伸縮が見られる1300~1500cm-1付近に2種類のピークが得られた(図4)。このB-O領域のピークのうち、高波数側(1420cm-1)のブロードなピークが、B(OH)で見られるB-O伸縮ピークと位置が類似しているため、B-O領域の2種類のピークのうち高エネルギー側のピークが末端・欠損部位に由来し、低波数側(1350cm-1)のシャープなピークが骨格に由来すると考えられる。また、3100cm-1付近にBO-H伸縮由来のピークが観測されたことから、末端部位にB-OH結合が存在することがわかった。以上より、ホウ素層状結晶中に、ホウ素原子層シートとその末端・欠損としてB(OH)類似部位の存在が示唆された。
1-3.XPS測定による酸化状態の評価と末端部位の定量
XPS測定を行ない、ホウ素の酸化状態を評価した(図5)。測定の結果、原料のKBHではB 1s由来のピークが185.6eVに出現するのに対し、ホウ素層状結晶ではピークトップが約6eV高エネルギー側にシフトしており、結晶の生成に伴うホウ素の酸化が示唆された(図5(a)、(b))。一方、Bが3価の状態であるB(193.3eV)と比較すると、やや低エネルギー側であることから、3価までの完全な酸化は進行していなことがわかった(図5(a)、(b))。
【実施例】
【0047】
さらに、得られたホウ素層状結晶のブロードなピークは3成分に分離可能であることがわかった(図5(a))。ピーク分離の結果、最も酸化側のピーク3が3価のホウ素を持つBと一致し、ピーク1と2がそれよりも還元側に位置していることがわかった。よって、ピーク3がB(OH)類似末端部位に対応し、ピーク1と2がそれぞれホウ素シート中の2種類のホウ素に対応していると考えられる。これらのピークの面積比から、ホウ素シートと末端部位の存在比を算出した結果、単位格子の比で3.1:1.0となることがわかった。
【実施例】
【0048】
単結晶X線構造解析から、ホウ素層状結晶の面指数付けを行なった結果、結晶の伸長方向と積層方向であるc軸方向が一致していることがわかり、伸長方向に沿ってホウ素原子層が積層していることがわかった(図6(a))。
【実施例】
【0049】
結晶の伸長方向は粉末XRD測定からも確認することができる。キャピラリー中でのホウ素層状結晶の粉末XRD測定を行ない、得られた回折パターンと結晶構造から計算される回折パターンのシミュレーションとの比較を行なった(図6(b))。ホウ素層状結晶はロッド状の形状であるため、キャピラリー中では管に対して結晶の伸長方向が平行になるように配向する。そしてX線は回転するキャピラリーに対して垂直方向から入射するため、結晶の伸長方向の回折線はほとんど観測されないことが予想された。測定の結果、(100)や(110)、(200)といったa、b軸成分のみを含む面の回折ピークが、シミュレーションと一致する回折角で観測された一方で、c軸成分を含むピークはほとんど出現せず、層間隔である(001)の非常に弱い回折ピークが観測されたのみであった。このことから、積層方向が結晶の伸長方向に一致することが確認され、ロッド状の結晶がホウ素原子層の積層によって形成されていることが判明した。
1-4.ホウ素層状結晶の吸収スペクトル
ホウ素層状結晶の吸収スペクトルの測定を行なった(図7)。固体拡散反射用セルを用いることで、結晶状態で拡散反射スペクトルの測定を行ない、Kubelka-Munk変換を行なうことで吸収スペクトルを得た。測定の結果、250nm以下の紫外領域に吸収を観測した(図7(a))。この吸収端からバンドギャップを算出した結果、ホウ素層状結晶が約5.4eVのバンドギャップを持つ半導体であることがわかった。
【実施例】
【0050】
また、長波長領域でのスペクトル測定の結果、ホウ素層状結晶が1000~2500nm(4000~10000cm-1)の近赤外領域において吸収を持つことがわかった(図7(b))。近赤外領域においては、BやB(OH)でもホウ素層状結晶と異なる波長で吸収が見られることから、これらはB-OやO-Hの振動構造に由来する吸収であると考えられる。
1-5.SEMによる形状観察とホウ素層状結晶の力学特性
ホウ素層状単結晶の形状をより詳細に調べるためにFE-SEM観察を行なった結果、結晶が六角柱のロッド形状であることが確認された(図8(a))。ロッドの側面の部分を拡大すると、結晶の伸長方向に沿って層状構造が発達している様子が観察でき、単結晶の縞模様が層状構造に由来するものであることがわかった。
【実施例】
【0051】
このホウ素層状結晶にスパーテル等で機械的に圧力をかけることで、伸長方向と垂直な方向に対し容易にへき開できることがわかった。へき開した結晶をSEMで観察した結果、層構造の崩壊によるナノシートの部分的な生成が確認された(図8(b))。また、一部ではミクロンオーダーの非常に平滑なナノシート表面が見られた。こうした機械的剥離の容易性から、ホウ素層状結晶の層間結合が非常に弱いことが示唆された。
1-6.AFMによるナノシート観察
ホウ素層状結晶の機械的剥離により容易にナノシートが生成することが判明したため、AFMによるナノシートの表面観察を行なった(図9、図10)。ホウ素層状結晶に対してHOPG基板を上から押し付けることで結晶をへき開し、表面に付着した結晶片をAFMで直接観察した(図9(a))。ナノシートが歪んだ部分や、完全に水平でない部分が多いが、一部でほぼ水平なナノシートが積み重なる様子を観測した(図9(b))。シート部分と下地のHOPG部分で位相が明確に異なることから、ホウ素シートであると判断した。形状像の最も厚さの小さいシートで高さを実測した結果、シートが平面な完全な平坦ではないためばらつきが出てはいるが、平均約2.0nm程度の厚さであることがわかった(図10)。以上から、これらのシートが単層から数層程度の非常に薄いシートであると考えられる。このようにAFM観察の結果、複数枚積層したシートが確認され、最も薄い箇所で高さ約0.9nmの単層シートの観察に成功した。シートの高さが最も薄い箇所で高さが約0.9nmであり、AFM測定による単層グラフェンの高さが0.8nm(Science, 2004, 306, 666.)であることと相関している。
【実施例】
【0052】
次に、クラウンエーテルおよびクリプタンドによるホウ素層状結晶の溶解、単層化を試みた。CHCl:MeCN=1:1の溶媒中に、結晶を分散し、18-クラウン-6エーテルまたはクリプタンドを過剰としてホウ素層状単結晶を溶解した。この溶液をHOPG基板にキャストし、クロロホルムで洗浄し、過剰の18-クラウン-66エーテルまたはクリプタンドを除去した。単層シートの観察を試みた。AFMでは、表面に付着した結晶片をAFMで観察、HOPG基板上に単層シートと思われる高さ約0.9nmのナノシートが観察され(図11 18-クラウン-66エーテルを使用)、STMでも同様に高さ約0.7nm程度シートの観察に成功した。これらの結果から、クラウンエーテル等によるホウ素層状結晶の単層化の達成が示唆された。
1-7.TEMによるナノシート観察
TEM観察によりナノシートの形状・表面観察も行なった。AFMサンプルの調製方法と同様であり、ホウ素層状結晶の上からマイクロメッシュ付きのTEMグリッドを押し付けることで結晶をへき開し、グリッド表面に付着したシートをTEMで観察した(図12(a):STEM像、図12(b)および図13:高分解TEM像)。その結果、STEMではシートの積層構造とナノシートが直接観察され(図12(a))、高分解TEMではグリッドのメッシュよりコントラストの弱い非常に薄いシートの観測に成功した(図12(b))。観察箇所の中の最も薄いシートで約15層程度であることが確認された。
【実施例】
【0053】
さらに、これらのシートの高倍率観察により、格子を観測することにも成功した(図13)。一部のシート表面からは六角状の回折点が得られ、ホウ素シートと同じ六方対称性が観測された。また、一部では間隔が0.343nmの格子も観測された。これはホウ素層状結晶の層間隔の0.347nmと一致していることから、原子層の積層を実測していることがわかった。これらのことから、機械剥離により非常に薄いナノシートへ剥離可能であると実証され、ホウ素層状結晶の層間相互作用が弱いことが示された。
2.ホウ素層状結晶の熱による液晶化
液晶への変化は偏光顕微鏡観察により確認することができる。液体のような流動性を持ちつつも、偏光顕微鏡下で結晶のような干渉色を呈する状態が液晶である。酸素や水の影響を遮断するために、結晶をキャピラリー中に真空封管し、加熱ステージ付き偏光顕微鏡を用いて、昇温過程における形態と干渉色の変化を観察した。
【実施例】
【0054】
50℃から120℃まで5℃/min以下の昇温速度でゆっくり加熱した結果、ロッド状のホウ素層状結晶が105℃付近から融けはじめ、形状が液状に変化し始める様子が観測された(図14(a))。形状は液状であるが、その周縁部には干渉色が見られることから、ホウ素結晶が液体ではなく液晶へ変化していることがわかった。
【実施例】
【0055】
さらに、120℃まで加熱した後に35℃まで5℃/minで冷却する過程を観察した結果、液晶が徐々に円状へと形状を変える様子が見られた(図14(b))。周縁部に常に干渉色を呈しているにも関わらず、流動的に形状が変化したことから、冷却過程でも液晶状態であることがわかる。このことから、結晶を一度昇温して液晶に変化した後は、35℃まで冷却しても再び結晶へ転移することはなく、液晶状態を保持することがわかった。この液晶の配向性はホウ素シートの2次元の強い異方性から生み出され、流動性は層間結合の弱さによって発現していると考えられる。周縁部に十字の暗色部が見えるのは、直交した偏光板の方向に沿って液晶ドメインの光軸が配向し、偏光を干渉せずにそのまま透過してしまうためである。よって、液晶中でホウ素シートが同心円状に配向していると考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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